JP6231856B2 - ポリアミド樹脂組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、ポリアミド樹脂組成物およびそれからなる成形品に関する。
従来からポリアミド6(以下、PA6と略称する)、ポリアミド66(以下、PA66と略称する)などに代表されるポリアミドは、その優れた特性と溶融成形の容易さから、衣料用や産業資材用の繊維、または汎用のエンジニアリングプラスチックとして広く用いられている。一方、上記ポリアミドは耐熱性不足、吸水に伴う寸法安定性不良などの問題点が指摘されている。特に近年の表面実装技術(SMT)の進歩に伴うリフローハンダ耐熱性を必要とする電気・電子分野や、年々耐熱性への要求が高まる自動車のエンジンルーム部品などにおいては、従来のポリアミドの使用が困難となってきており、耐熱性、低吸水性、機械的特性、物理化学的特性に優れるポリアミドの開発が望まれてきた。さらに、ロングライフクーラントの用いられるラジエータータンク、リザーバータンクまたはヒータコアのような冷却系部品用途においては、ポリアミドの耐熱老化性をさらに向上させることが望まれてきた。
PA6およびPA66などの従来のポリアミドの前記課題を解決するために、剛直な環構造を主鎖に有する高融点ポリアミドの開発が進められてきた。例えば芳香環構造を有するポリアミドとして、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンからなるポリアミド(以下、PA6Tと略称する)を主成分とする半芳香族ポリアミドが種々提案されている。PA6Tは、融点が370℃付近にあって分解温度を超えるので、溶融重合、溶融成形が困難であるため、アジピン酸、イソフタル酸などのジカルボン酸成分、またはPA6などの脂肪族ポリアミドを共重合することにより、280〜320℃程度の実使用可能な温度領域にまで低融点化した組成で用いられる。このように第3成分を共重合することはポリマーの低融点化には有効だが、結晶化速度、到達結晶化度の低下を伴い、その結果、高温下での剛性、耐薬品性、加熱に伴う寸法安定性などの諸物性が低下するほか、成形サイクルの延長に伴う生産性の低下という問題がある。また、吸水に伴う寸法安定性などの諸物性に関して、芳香族基の導入により従来のPA6やPA66に比べ改善されてはいるが、実用レベルには依然として達していない。
特許文献1には、テレフタル酸単位を60〜100モル%含む芳香族ジカルボン酸単位と炭素数6〜18の直鎖脂肪族アルキレンジアミン単位からなる半芳香族ポリアミドに、該ポリアミド100質量部に対して0.5〜200質量部の充填剤を含有してなるポリアミド組成物が、耐熱特性、機械的特性、化学的物理的特性および成形特性のいずれにも優れた性能を兼ね備えていることが記載されている。
一方で、脂環構造を有するポリアミドとして、特許文献2には、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と1,9−ノナンジアミンからなるポリアミド成分と、テレフタル酸と1,6−ヘキサンジアミンからなるポリアミド成分を重量比として25/75〜85/15となるように共重合して得られた共重合ポリアミドが開示されているが、融点が低く、耐熱性の面での改善効果は不十分である。特許文献3に記載されている1,4−シクロヘキサンジカルボン酸と炭素数6〜18の脂肪族ジアミンからなるポリアミドは、耐熱性、耐光性、靭性、低吸水性に優れるが、流動性の点でなお改善の余地がある。
さらに、高融点ポリアミドの分野において、成形性と高融点ポリアミドの結晶性との関連性についての知見は十分ではなかった。
特公昭64−11073号公報 特公昭47−42397号公報 特開平9−12868号公報
しかして、本発明の目的は、耐熱性、低吸水性、高温下での剛性、引張物性、耐熱老化性、流動性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行し、かつ製造時の金型汚染の少ないポリアミド樹脂組成物を提供することにある。
本発明によれば、上記の目的は、
(1)数平均分子量2000以上のポリアミド(a−1)を95〜99.95質量%、数平均分子量500以上2000未満のポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜5質量%の範囲で含有し、前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する全モノマー単位のうち25モル%以上が下記一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマーに由来する構造単位であり、前記脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位の含有率が50〜85モル%であるポリアミド樹脂(A)、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)を含有する、ポリアミド樹脂組成物
Figure 0006231856
(式中、Xはカルボキシル基またはアミノ基を表し、Zは炭素数3以上の脂環構造を表す。)
Figure 0006231856
(式中、XおよびZは前記定義の通りであり、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1以上のアルキレン基を表す。);
(2)前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して銅化合物(B1)を0.01〜1質量部、金属ハロゲン化物(B2)を0.05〜20質量部を含有する、上記(1)のポリアミド樹脂組成物;
(3)前記銅化合物(B1)がヨウ化銅および/または酢酸銅であり、前記金属ハロゲン化物(B2)がヨウ化カリウムである、上記(1)または(2)のポリアミド樹脂組成物;
(4)前記ポリアミド樹脂(A)を構成する前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端基の総量の10%以上が末端封止剤によって封止されている、上記(1)〜(3)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(5)前記脂環式モノマーが、前記一般式(I)または一般式(II)におけるXがカルボキシル基である環状脂肪族ジカルボン酸である、上記(1)〜(4)いずれかのポリアミド樹脂組成物;
(6)前記環状脂肪族ジカルボン酸が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である、上記(5)のポリアミド樹脂組成物;
(7)前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)が、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位を含有する、上記(1)〜(6)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(8)前記脂肪族ジアミンが1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(7)のポリアミド樹脂組成物;
(9)1,4−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構造単位を25モル%以上含有し、かつ脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを25モル%以上含有する、上記(8)のポリアミド樹脂組成物;
(10)さらに、ラクタムおよび/またはアミノカルボン酸に由来する構造単位を含有する、上記(1)〜(9)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(11)ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してルイス塩基として作用する化合物(C)を0.1〜10質量部含有する、上記(1)〜(10)のいずれかのポリアミド樹脂組成物;
(12)前記ルイス塩基として作用する化合物(C)がアルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、酸化亜鉛および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(11)のポリアミド樹脂組成物;
(13)前記ルイス塩基として作用する化合物(C)が酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、上記(12)のポリアミド樹脂組成物;および
(14)上記(1)〜(13)のいずれかのポリアミド樹脂組成物からなる成形品;
を提供することにより達成される。
本発明によれば、耐熱性、低吸水性、高温下での剛性、引張物性、耐熱老化性、流動性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行し、かつ製造時の金型汚染の少ないポリアミド樹脂組成物を提供できる。
参考例1で得られたポリアミド樹脂(A)のGPC溶出曲線(縦軸:シグナル強度、横軸:溶出時間)である。 金型汚染性を評価する際に射出成形に用いた金型の正面図である。 金型汚染性を評価する際に射出成形に用いた金型の断面図である。
以下、本発明について詳細に説明する。
〔ポリアミド樹脂(A)〕
ポリアミド樹脂(A)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと略称する)を用いて、後述する実施例での測定条件において得られる各試料の溶出曲線から、ベースラインと溶出曲線によって囲まれる数平均分子量2000以上から主ピークの検出が終了する分子量以下の領域の面積より算出できる、標準ポリメチルメタクリレート(標準PMMA)換算で求められる数平均分子量が2000以上のポリアミド(a−1)を95〜99.95質量%含有する。また、ポリアミド樹脂(A)は、前記ポリアミド(a−1)と同様の条件でのGPC測定によって求められる数平均分子量が500以上2000未満のポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜5質量%含有する。
ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)が上述の範囲であると、ポリアミド樹脂組成物の流動性が向上し、かつ80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行する。また、ポリアミドオリゴマー(a−2)に由来する金型汚染を防止できる。
かかる効果が得られる理由は明確ではないが、例えば以下のように推定される。すなわち、溶融状態でのポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の運動性が高いために結晶化に有利に働くものと考えている。
なお、本発明の効果をより一層奏することができる観点からは、ポリアミド(a−1)を97〜99.95質量%含有することが好ましく、98〜99.95質量%含有することがより好ましい。それに応じて、ポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜3質量%含有することが好ましく、0.05〜2質量%含有することがより好ましい。
ポリアミド樹脂(A)は、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する全モノマー単位のうち25モル%以上が、下記一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマーに由来する構造単位であり、該脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位の含有率が50〜85モル%である。
Figure 0006231856
Figure 0006231856
(式中、X、Z、RおよびRは前記定義の通りである。)
Zが表す炭素数3以上の脂環構造としては、例えばシクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基、シクロオクチレン基、シクロノニレン基、シクロデシレン基、シクロウンデシレン基、シクロドデシレン基、ジシクロペンチレン基、ジシクロヘキシレン基、トリシクロデカレン基、ノルボルニレン基、アダマンチレン基などの単環式または多環式のシクロアルキレン基などが挙げられる。
およびRがそれぞれ表す炭素数1以上のアルキレン基としては、例えばメチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、ヘプチレン基、オクチレン基などの飽和脂肪族アルキレン基が挙げられる。これらは置換基を有していてもよい。かかる置換基としてはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、ヒドロキシル基、ハロゲン基などが挙げられる。
脂環式モノマーとしては、Xがカルボキシル基である環状脂肪族ジカルボン酸、Xがアミノ基である環状脂肪族ジアミンを単独で用いてもよいし、または併用してもよい。
環状脂肪族ジカルボン酸としては、例えば炭素数が3〜10である環状脂肪族ジカルボン酸、好ましくは炭素数が5〜10である環状脂肪族ジカルボン酸が挙げられ、より具体的には1,4−シクロへキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、および1,3−シクロペンタンジカルボン酸が挙げられる。
環状脂肪族ジカルボン酸は、脂環骨格上にカルボキシル基以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基およびtert−ブチル基などの好ましくは炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。
環状脂肪族ジカルボン酸としては、耐熱性、流動性、高温下での剛性などの観点から、1,4−シクロへキサンジカルボン酸がより好ましい。なお、環状脂肪族ジカルボン酸は1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
環状脂肪族ジカルボン酸にはトランス体とシス体の幾何異性体が存在し、一般式(I)の場合は環構造に対し二つのカルボキシル基が異なる側にある場合はトランス体、環構造に対し二つのカルボキシル基が同じ側にある場合はシス体となる。なお、一般式(II)の場合は二組のXとZのトランス異性体構造単位の割合の平均値を採った。
例えば、環状脂肪族ジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いる場合は、現代有機化学(第4版)上巻(K.P.C.Vollhardt,N.E.Schore,(株)化学同人,2004年4月1日発行,174頁)に記載されている通り、二つの置換基の両方がアキシアル位もしくはエクアトリアル位を占める場合にはトランス体、それぞれアキシアル位、エクアトリアル位を占める場合にはシス体となる。
環状脂肪族ジカルボン酸は、トランス体とシス体のどちらか一方を用いてもよく、トランス体とシス体の任意の比率の混合物を用いてもよい。
環状脂肪族ジカルボン酸として1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いる場合には、高温で異性化しトランス体とシス体の比率が収斂することや、シス体の方がトランス体に比べてジアミンとの当量塩の水溶性が高いという観点から、重合に用いる際にトランス体/シス体比が、50/50〜0/100(モル比)であることが好ましく、40/60〜10/90であることがより好ましく、35/65〜15/85であることがさらに好ましい。なお、環状脂肪族ジカルボン酸のトランス体/シス体比(モル比)は、H−NMRにより求めることができる(後述する実施例参照)。
環状脂肪族ジアミンとしては、例えば炭素数が3〜10、好ましくは炭素数5〜10である環状脂肪族ジアミンが挙げられ、具体的には1,4−シクロへキサンジアミン、1,3−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1−アミノ−3−アミノメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキサン、ビス(4−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(3−メチル−4−アミノシクロヘキシル)メタン、2,2−ビス(4−アミノシクロヘキシル)プロパン、ビス(アミノプロピル)ピペラジン、アミノエチルピペラジン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン、ノルボルナンジアミン、トリシクロデカンジアミンなどが挙げられる。
環状脂肪族ジアミンは、脂環骨格上にアミノ基以外の置換基を有していてもよい。置換基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基などの好ましくは炭素数1〜4のアルキル基などが挙げられる。なお、環状脂肪族ジアミンは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
環状脂肪族ジアミンには、環状脂肪族ジカルボン酸と同様にトランス体とシス体の幾何異性体が存在し、一般式(I)の場合は環構造に対し二つのアミノ基が異なる側にある場合はトランス体、環構造に対し二つのアミノ基が同じ側にある場合はシス体となる。なお、一般式(II)の場合は二組のXとZのトランス異性体構造単位の割合の平均値を採った。
例えば、環状脂肪族ジアミンとして1,4−シクロヘキサンジアミンを用いる場合は、現代有機化学(第4版)上巻(K.P.C.Vollhardt,N.E.Schore,(株)化学同人,2004年4月1日発行,174頁)に記載されている通り、二つの置換基の両方がアキシアル位もしくはエクアトリアル位を占める場合にはトランス体、それぞれアキシアル位、エクアトリアル位を占める場合にはシス体となる。
環状脂肪族ジアミンは、トランス体とシス体のどちらか一方を用いてもよく、トランス体とシス体の任意の比率の混合物を用いてもよい。
環状脂肪族ジアミンとして1,4−シクロヘキサンジアミンを用いる場合には、高温で異性化しトランス体とシス体の比率が収斂することや、シス体の方がトランス体に比べてジカルボン酸との当量塩の水溶性が高いという観点から、重合に用いる際にトランス体/シス体比が50/50〜0/100(モル比)であることが好ましく、40/60〜10/90であることがより好ましく、35/65〜15/85であることがさらに好ましい。なお、環状脂肪族ジアミンのトランス体/シス体比(モル比)はH−NMRにより求めることができる。
ポリアミド樹脂(A)において、脂環式モノマーに由来する構造単位はトランス異性体構造単位およびシス異性体構造単位として存在する。かかるトランス異性体構造単位の含有率は、ポリアミド樹脂(A)を構成する脂環式モノマーに由来する構造単位の50〜85モル%であり、60〜85モル%が好ましく、70〜85モル%がより好ましく、80〜85モル%がさらに好ましい。トランス異性体構造単位の含有率が上記範囲内にあると、ポリアミド樹脂(A)の高温下での剛性、流動性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行する。これらは、脂環式モノマーとして1,4−シクロヘキサンジカルボン酸を用いたポリアミド樹脂(A)の場合に、特に顕著である。
なお、本明細書中で、一般式(I)の場合はポリアミド樹脂(A)の脂環式モノマーに由来する「トランス異性体構造単位」とは、アミド結合が脂環構造に対し異なる側に存在する構造単位を意味し、一般式(II)の場合はアミド結合とZが脂環構造に対し異なる側に存在する構造単位を意味する。
ポリアミド樹脂(A)は、一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマーに由来する構造単位のほか、アミド結合を形成しうる他のモノマーに由来する構造単位を含有していてもよい。かかる他のモノマーとしては、例えば脂肪族ジカルボン酸および芳香族ジカルボン酸などのジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸、脂肪族ジアミンおよび芳香族ジアミンなどのジアミン、3価以上の多価アミン、ラクタム、アミノカルボン酸が挙げられ、これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
脂肪族ジカルボン酸としては、例えばシュウ酸、マロン酸、ジメチルマロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、2−メチルアジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタル酸、スペリン酸、3,3−ジエチルコハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、トリデカン二酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、ヘキサデカン二酸、ヘプタデカン二酸、オクタデカン二酸、ノナデカン二酸、エイコサン二酸、ダイマー酸などの炭素数3〜20の直鎖または分岐状飽和脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,4−フェニレンジオキシジ酢酸、1,3−フェニレンジオキシジ酢酸、ジフェン酸、4,4’−オキシジ安息香酸、ジフェニルメタン−4,4’−ジカルボン酸、ジフェニルスルホン−4,4’−ジカルボン酸、4,4’−ビフェニルジカルボン酸などが挙げられる。3価以上の多価カルボン酸としては、例えばトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸などが挙げられる。
脂肪族ジアミンとしては、例えばエチレンジアミン、1,3−プロパンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミン、1,13−トリデカンジアミン、1,14−テトラデカンジアミン、1,15−ペンタデカンジアミン、1,16−ヘキサデカンジアミン、1,17−ヘプタデカンジアミン、1,18−オクタデカンジアミン、1,19−ノナデカンジアミン、1,20−エイコサデカンジアミンなどの直鎖状飽和脂肪族ジアミン;1,2−プロパンジアミン、1−ブチル−1,2−エタンジアミン、1,1−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1−エチル−1,4−ブタンジアミン、1,2−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、1,4−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2,3−ジメチル−1,4−ブタンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、3−メチル−1,5−ペンタンジアミン、2,5−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、3,3−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,4−ジエチル−1,6−ヘキサンジアミン、2,2−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,3−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,4−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2,5−ジメチル−1,7−ヘプタンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、3−メチル−1,8−オクタンジアミン、4−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、1,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,5−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、2,2−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、3,3−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、4,4−ジメチル−1,8−オクタンジアミン、5−メチル−1,9−ノナンジアミン、3,7−ジメチル−1,10−デカンジアミン、7,8−ジメチル−1,10−デカンジアミンなどの分岐状飽和脂肪族ジアミンが挙げられる。
芳香族ジアミンとしては、例えばメタキシリレンジアミン、パラキシリレンジアミンなどが挙げられる。3価以上の多価アミンとしては、例えばビスヘキサメチレントリアミンなどが挙げられる。
ラクタムとしては、例えばε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタム、ブチロラクタム、ピバロラクタム、カプリロラクタム、エナントラクタム、ウンデカノラクタム、ラウロラクタム(ドデカノラクタム)などが挙げられ、中でもε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムが好ましい。また、アミノカルボン酸としては、α,ω−アミノカルボン酸などが挙げられ、例えば6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸などのω位がアミノ基で置換された炭素数4〜14の飽和脂肪族アミノカルボン酸、パラアミノメチル安息香酸などが挙げられる。ラクタムおよび/またはアミノカルボン酸単位を有している場合、ポリアミド樹脂(A)を含有するポリアミド樹脂組成物の靭性を向上させる作用がある。
ポリアミド樹脂(A)は、耐熱性、低吸水性、流動性の観点から、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)を構成するモノマー単位として、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位を含有することが好ましい。炭素数が4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位としては、1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミン、1,12−ドデカンジアミンのいずれか1種以上であることが好ましく、1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンに由来する構造単位を含有することがより好ましく、ポリアミド樹脂(A)を構成する脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンに由来する構造単位を25モル%以上含有することがさらに好ましい。1,9−ノナンジアミンと2−メチル−1,8−オクタンジアミンを併用する場合には、1,9−ノナンジアミン:2−メチル−1,8−オクタンジアミン=99:1〜1:99(モル比)であることが好ましく、95:5〜50:50であることがより好ましい。
中でも、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構造単位を25モル%以上含有し、かつ脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンに由来する構造単位を25モル%以上含有するポリアミド樹脂(A)を含有するポリアミド樹脂組成物は、耐熱性、低吸水性、流動性に特に優れる。
脂環式モノマーとして1,4−シクロヘキサンジカルボン酸や1,4−シクロヘキサンジアミンを用いる場合には、トランス異性体構造単位の含有率が高い方が得られるポリアミド樹脂(A)の融点が成形するにあたり好ましくなることから、トランス異性体構造単位の含有率としては50〜100モル%が好ましく、50〜90モル%がより好ましく、50〜85モル%であることがより好ましく、60〜85モル%がさらに好ましく、70〜85モル%が特に好ましく、80〜85モル%が最も好ましい。
ポリアミド樹脂(A)において、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する脂環式モノマーに由来する構造単位は、同一であっても異なっていてもよいが、ポリアミド樹脂組成物の80℃の金型における成形性の観点から、同一であることが好ましい。
ポリアミド樹脂(A)は、構成成分であるポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端基の総量の10%以上が末端封止剤により封止されていると、溶融成形性などの物性がより優れたものとなる。
ここで、末端封止率は、ポリアミド樹脂(A)の構成成分であるポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端のカルボキシル基、末端のアミノ基および末端封止剤によって封止された末端基の数を、例えばH−NMRにより、各末端基に対応する特性シグナルの積分値に基づいてそれぞれ測定し、算出できる(後述する実施例参照)。
末端封止剤としては、アミノ基またはカルボキシル基との反応性を有する単官能性の化合物であれば特に制限はなく、モノカルボン酸、モノアミン、酸無水物、モノイソシアネート、モノ酸ハロゲン化物、モノエステル類、モノアルコール類などが挙げられる。中でも反応性および封止末端の安定性などの点から、モノカルボン酸またはモノアミンが好ましく、取扱いの容易さなどの点から、モノカルボン酸がより好ましい。
前記モノカルボン酸としては、例えば酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ピバリン酸、イソ酪酸などの脂肪族モノカルボン酸;シクロヘキサンカルボン酸などの脂環式モノカルボン酸;安息香酸、トルイル酸、α−ナフタレンカルボン酸、β−ナフタレンカルボン酸、メチルナフタレンカルボン酸、フェニル酢酸などの芳香族モノカルボン酸;これらの任意の混合物などが挙げられる。中でも、反応性、封止末端の安定性、価格などの点から、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、シクロへキサンカルボン酸、安息香酸が好ましい。
末端封止剤は、重合時に予め末端封止剤を添加しておく方法、重合中に添加する方法、溶融混練や成形工程において添加する方法などのいずれで添加してもよく、どの方法においても末端封止剤としての機能を果たす。
ポリアミド樹脂(A)は、濃硫酸中の試料濃度0.2g/dL、30℃で測定したηinhが0.4〜3.0dL/gの範囲内であることが好ましく、0.5〜2.0dL/gの範囲内であることがより好ましく、0.6〜1.8dL/gの範囲内であることがさらに好ましい。ηinhが上記の範囲内のポリアミド樹脂(A)を用いると、得られるポリアミド樹脂組成物の耐熱性、高温下での剛性などがより優れる。
ポリアミド樹脂(A)の製造方法としては、数平均分子量および分子量分布の異なるポリアミドを製造した後に混合し、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)が本発明の規定する範囲になるよう、適宜調整する方法が挙げられる。前記ポリアミドは、公知の方法、例えばジカルボン酸とジアミンを原料とする溶融重合法、固相重合法、溶融押出重合法などの方法により製造できる。
混合方法としては、例えば前記した数平均分子量および分子量分布の異なるポリアミドをドライブレンドし、溶融混練装置へ同時にまたは別々に投入する方法が挙げられる。
ポリアミド樹脂(A)の別の製造方法として、ポリアミド樹脂(A)を製造する際に適当な重合条件を選択することによって、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)が本発明の規定する範囲になるように重合する方法が挙げられる。適当な重合条件としては、例えばまずポリアミド樹脂(A)を構成するジカルボン酸成分、ジアミン成分、必要に応じて触媒および末端封止剤を一括して添加してナイロン塩を製造した後、200〜260℃の温度において加熱することで、好ましくは含水率10〜40%のプレポリマーを含有する溶液を得、その溶液をさらに100〜150℃の雰囲気下へ噴霧することで、濃硫酸中の試料濃度0.2g/dL、30℃におけるηinhが0.1〜0.6dL/gの粉末状のプレポリマーを得る。そして、さらに固相重合するか、あるいは押出機を用いて溶融重合する方法が挙げられる。
触媒としては、例えばリン酸、亜リン酸、次亜リン酸、それらの塩またはエステルが挙げられ、具体的には、リン酸、亜リン酸または次亜リン酸とカリウム、ナトリウム、マグネシウム、バナジウム、カルシウム、亜鉛、コバルト、マンガン、錫、タングステン、ゲルマニウム、チタン、アンチモンなどの金属との塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のアンモニウム塩;リン酸、亜リン酸または次亜リン酸のエチルエステル、イソプロピルエステル、ブチルエステル、ヘキシルエステル、イソデシルエステル、オクタデシルエステル、デシルエステル、ステアリルエステル、フェニルエステルなどが挙げられる。ここで、プレポリマーのηinhが0.1〜0.6dL/gの範囲内であると、後の重合の段階においてカルボキシル基とアミノ基のモルバランスのずれや重合速度の低下が少なく、各種物性に優れたポリアミド樹脂(A)が得られる。
なお、プレポリマーを得た後の重合を固相重合で行う場合、不活性ガス雰囲気下または不活性ガス流通下もしくは減圧下で行うことが好ましく、重合温度が200℃以上〜ポリアミドの融点よりも20℃低い温度の範囲内であり、重合時間が1〜8時間であれば、重合速度が大きく、生産性に優れ、着色やゲル化を有効に抑制することができると共に、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)を本発明の規定する範囲に調整することが容易となる。一方、プレポリマーを得た後の重合を溶融押出機を用いて行う場合、重合温度としては370℃以下であり、重合時間が5〜60分であることが好ましい。かかる条件で重合すると、ポリアミドの分解がほとんどなく、劣化の無いポリアミド樹脂(A)が得られると共に、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)を本発明の規定する範囲に調整することが容易となる。
ポリアミド樹脂(A)を構成するポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量はGPCを用いて、後述する実施例での測定条件における溶出曲線より求める。GPC測定の際にポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂組成物中に、例えばポリアミド樹脂(A)を溶解させる溶媒に可溶である他の成分が含有される場合は、ポリアミド樹脂(A)は不溶だが該他の成分は可溶な溶媒を用いて、該他の成分を抽出して除去した後、GPC測定を行えばよい。また、例えばポリアミド樹脂(A)を溶解させる溶媒に不溶である銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)やルイス塩基として作用する化合物(C)などは、ポリアミド樹脂組成物をポリアミド樹脂(A)を溶解させる溶媒に溶解させ、次いでろ過して不溶物を除去した後、GPC測定を行えばよい。
〔銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)を含有することにより、耐熱性、低吸水性、高温下での剛性、引張物性、流動性などに優れるポリアミド樹脂(A)の性質を損なうことなく、さらに耐熱老化性に優れるポリアミド樹脂組成物とすることができる。以下、各々について説明する。
<銅化合物(B1)>
本発明において用いられる銅化合物(B1)としては、例えばハロゲン化銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、安息香酸銅、アジピン酸銅、テレフタル酸銅、イソフタル酸銅、サリチル酸銅、ニコチン酸銅およびステアリン酸銅、並びにエチレンジアミンおよびエチレンジアミン四酢酸などのキレート剤に配位した銅錯塩などが挙げられる。
中でも、耐熱老化性に優れ、押出時のスクリューやシリンダー部の金属腐食を抑制することができる観点から、ヨウ化銅、臭化第一銅、臭化第二銅、塩化第一銅および酢酸銅であることが好ましく、ヨウ化銅および/または酢酸銅であることがより好ましい。銅化合物(B1)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
本発明のポリアミド樹脂組成物中の銅化合物(B1)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.01〜1質量部が好ましく、0.02〜0.5質量部がより好ましい。銅化合物(B1)の配合量を上記範囲内にすることにより、得られるポリアミド樹脂組成物の引張物性の低下を抑制しつつ、耐熱老化性を向上し、さらに成形時の銅析出や金属腐食も抑制できる。
<金属ハロゲン化物(B2)>
本発明において用いられる金属ハロゲン化物(B2)としては、ハロゲン化銅を除く、
元素周期律表の1族または2族金属元素とハロゲンとの塩であることが好ましく、例えばヨウ化カリウム、臭化カリウム、塩化カリウム、ヨウ化ナトリウム、塩化ナトリウムなどが挙げられ、ヨウ化カリウムおよび臭化カリウムであることが好ましい。金属ハロゲン化物(B2)は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。上記の中でも、得られるポリアミド樹脂組成物が耐熱老化性に優れ、金属腐食を抑制することができる観点から、ヨウ化カリウムがさらに好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物中の金属ハロゲン化物(B2)の配合量は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して0.05〜20質量部が好ましく、0.2〜10質量部がより好ましい。金属ハロゲン化物(B2)の配合量を上記範囲内にすることにより、得られるポリアミド樹脂組成物の引張物性の低下を抑制しつつ、耐熱老化性を向上し、さらに成形時の銅析出や金属腐食も抑制できる。
ポリアミド樹脂組成物中の銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)の割合は、ハロゲンの総量と銅のモル比(ハロゲン/銅)が2/1〜50/1であるように、ポリアミド樹脂組成物に銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)を含有することが好ましい。ハロゲン/銅は、より好ましくは2/1〜40/1であり、さらに好ましくは5/1〜30/1である。ハロゲン/銅が2/1以上である場合には、成形時の銅析出および金属腐食の抑制をすることができるため好ましい。また、ハロゲン/銅が50/1以下である場合には、得られるポリアミド樹脂組成物の引張物性などの機械物性を損なうことなく、成形機のスクリューなどの腐食を抑制することができる。
銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)は、それぞれ単独で配合してもよいが、得られるポリアミド樹脂組成物の耐熱老化性に優れる観点からは併用することが好ましい。
本発明のポリアミド樹脂組成物には、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)をポリアミド樹脂(A)中に分散させるために、本発明の効果を損なわない程度に他の成分を含有させてもよい。他の成分としては、例えばラウリル酸などの高級脂肪酸、高級脂肪酸およびアルミニウムなどの金属からなる高級脂肪酸金属塩、エチレンビスステアリルアミドなどの高級脂肪酸アミド、ポリエチレンワックスなどのワックス類、少なくとも1つのアミド基を有する有機化合物などが挙げられる。
〔ルイス塩基として作用する化合物(C)〕
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してルイス塩基として作用する化合物(C)を0.1〜10質量部含有していてもよく、0.1〜5質量部含有していることがより好ましい。ルイス塩基として作用する化合物(C)の量を前記範囲内にすることで、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する、一般式(I)または一般式(II)で表される脂環式モノマー由来のトランス異性体構造単位の含有率を高めることができ、高融点すなわち耐熱性や高温下での剛性に優れるポリアミド樹脂組成物が得られる。さらに、トランス異性体構造単位の含有率が高くなることで、得られるポリアミド樹脂組成物の結晶構造がより強固なものとなり、耐薬品性も向上する。
ルイス塩基として作用する化合物(C)としては、アルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、酸化亜鉛および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。
アルカリ金属酸化物およびアルカリ土類金属酸化物としては、例えば酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等が挙げられ、アルカリ金属水酸化物およびアルカリ土類金属水酸化物としては、例えば水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。これらは1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
〔その他の成分〕
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で、上記ポリアミド樹脂(A)、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)およびルイス塩基として作用する化合物(C)以外の他の成分を含んでいてもよい。
他の成分としては、例えばポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)以外の熱可塑性樹脂、相溶化剤、充填材、シランカップリング剤、結晶核剤、銅系熱安定剤、酸化防止剤(ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオ系酸化防止剤等)、染料、顔料、帯電防止剤、可塑剤、難燃剤、難燃助剤、加工助剤、潤滑剤、蛍光漂白剤、ゴムおよび強化剤などが挙げられる。
〔ポリアミド樹脂組成物の製造方法〕
本発明のポリアミド樹脂組成物の製造方法としては、ポリアミド樹脂(A)に銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)を含有させる方法などが挙げられる。
銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)をポリアミド樹脂(A)に含有させる方法としては、ポリアミド樹脂(A)の重合工程中に銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)をそれぞれ単独でまたは混合物で添加する方法(以下、「製法1」と略称する場合がある)や、溶融混練を用いてポリアミド樹脂(A)に銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)をそれぞれ単独でまたは混合物で添加する方法(以下、「製法2」と略称する場合がある)などが挙げられる。
銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)を添加する場合、固体のまま添加しても良く、水溶液の状態で添加してもよい。
製法1におけるポリアミド樹脂(A)の重合工程中とは、原料モノマーからポリアミド樹脂(A)の重合完了までのいずれかの工程であって、どの段階でもよい。製法2の溶融混練を行う装置としては、特に限定されるものではなく、公知の装置、例えば単軸または二軸押出機、バンバリーミキサーおよびミキシングロールなどの溶融混練機などを用いることができ、中でも二軸押出機が好ましい。溶融混練条件は特に限定されないが、例えば、ポリアミド樹脂(A)の融点よりも20〜50℃高い温度範囲で1〜30分間溶融混練することにより、本発明のポリアミド樹脂組成物が得られる。
〔他成分の含有方法〕
ルイス塩基として作用する化合物(C)は、あらかじめポリアミド樹脂(A)に含有させておくことができる。また、ルイス塩基として作用する化合物(C)および上記他の成分を含有させる方法としては、ポリアミド樹脂(A)、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)、ルイス塩基として作用する化合物(C)および必要に応じて他の成分を均一に混合させ得る方法であればよく、通常、単軸押出機、二軸押出機、ニーダー、バンバリーミキサーなどを使用して溶融混練する方法が採用される。溶融混練条件は特に限定されないが、例えば、融点よりも30〜50℃高い温度範囲で1〜30分間溶融混練する方法が挙げられる。
〔ポリアミド樹脂組成物からなる成形品〕
本発明のポリアミド樹脂組成物を、目的とする成形品の種類、用途、形状などに応じて、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、流延成形など、熱可塑性重合体組成物に対して一般に用いられる成形方法を適用することにより、各種の成形品を製造できる。また上記の成形方法を組み合わせた成形方法を採用してもよい。さらに、本発明のポリアミド樹脂組成物を、各種熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、紙、金属、木材、セラミックスなどの各種材料と接着、溶着、接合した複合成形体とすることもできる。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、上述したような成形プロセスを経て、電気電子部品、自動車部品、産業部品、繊維、フィルム、シート、家庭用品、その他の任意の形状および用途の各種成形品の製造に有効に使用することができる。
電気電子部品としては、例えばFPCコネクタ、BtoBコネクタ、カードコネクタ、同軸コネクタ等のSMTコネクタ;SMTスイッチ、SMTリレー、SMTボビン、メモリーカードコネクタ、CPUソケット、LEDリフレクタ、カメラモジュールのベース・バレル・ホルダ、ケーブル電線被覆、光ファイバー部品、AV・OA機器の消音ギア、自動点滅機器部品、携帯電話部品、複写機用耐熱ギア、エンドキャップ、コミュテーター、業務用コンセント、コマンドスイッチ、ノイズフィルター、マグネットスイッチ、太陽電池基板、液晶板、LED実装基板、フレキシブルプリント配線板、フレキシブルフラットケーブルなどが挙げられる。
自動車部品としては、例えばサーモスタットハウジング、ラジエータータンク、ラジエーターホース、ウォーターアウトレット、ウォーターポンプハウジング、リアジョイントなどの冷却部品;インタークーラータンク、インタークーラーケース、ターボダクトパイプ、EGRクーラーケース、レゾネーター、スロットルボディ、インテークマニホールド、テールパイプなどの吸排気系部品;燃料デリバリーパイプ、ガソリンタンク、クイックコネクタ、キャニスター、ポンプモジュール、燃料配管、オイルストレーナー、ロックナット、シール材などの燃料系部品;マウントブラケット、トルクロッド、シリンダヘッドカバーなどの構造部品;ベアリングリテイナー、ギアテンショナー、ヘッドランプアクチュエータギア、スライドドアローラー、クラッチ周辺部品などの駆動系部品;エアブレーキチューブなどのブレーキ系統部品;エンジンルーム内のワイヤーハーネスコネクタ、モーター部品、センサー、ABSボビン、コンビネーションスイッチ、車載スイッチなどの車載電装部品;スライドドアダンパー、ドラミラーステイ、ドアミラーブラケット、インナーミラーステイ、ルーフレール、エンジンマウントブラケット、エアクリーナーのインレートパイプ、ドアチェッカー、プラチェーン、エンブレム、クリップ、ブレーカーカバー、カップホルダー、エアバック、フェンダー、スポイラー、ラジエーターサポート、ラジエーターグリル、ルーバー、エアスクープ、フードバルジ、バックドア、フューエルセンダーモジュールなどの内外装部品等が挙げられる。
産業部品としては、例えばガスパイプ、油田採掘用パイプ、ホース、防蟻ケーブル(通信ケーブル、パスケーブルなど)、粉体塗装品の塗料部(水道管の内側コーティング)、海底油田パイプ、耐圧ホース、油圧チューブ、ペイント用チューブ、燃料ポンプ、セパレーター、スーパーチャージ用ダクト、バタフライバルブ、搬送機ローラー軸受、鉄道の枕木バネ受け、船外機エンジンカバー、発電機用エンジンカバー、灌漑用バルブ、大型開閉器(スイッチ)、漁網などのモノフィラメント(押出糸)などが挙げられる。
繊維としては、例えばエアバック基布、耐熱フィルター、補強繊維、ブラシ用ブリッスル、釣糸、タイヤコード、人工芝、絨毯、座席シート用繊維などが挙げられる。
フィルムやシートとしては、例えば耐熱マスキング用テープ、工業用テープなどの耐熱粘着テープ;カセットテープ、デジタルデータストレージ向けデータ保存用磁気テープ、ビデオテープなどの磁気テープ用材料;レトルト食品のパウチ、菓子の個包装、食肉加工品の包装などの食品包装材料;半導体パッケージ用の包装などの電子部品包装材料などが挙げられる。
その他、本発明のポリアミド樹脂組成物は、プラスチックマグネット、シューソール、テニスラケット、スキー板、ボンド磁石、メガネフレーム、結束バンド、タグピン、サッシ用クレセント、電動工具モーター用ファン、モーター固定子用絶縁ブロック、芝刈機用エンジンカバー、芝刈機の燃料タンク、超小型スライドスイッチ、DIPスイッチ、スイッチのハウジング、ランプソケット、コネクタのシェル、ICソケット、ボビンカバー、リレーボックス、コンデンサーケース、小型モーターケース、ギヤ、カム、ダンシングプーリー、スペーサー、インシュレーター、ファスナー、キャスター、ワイヤークリップ、自転車用ホイール、端子台、スターターの絶縁部分、ヒューズボックス、エアクリーナーケース、エアコンファン、ターミナルのハウジング、ホイールカバー、ベアリングテーナー、ウォーターパイプインペラ、クラッチレリーズベアリングハブ、耐熱容器、電子レンジ部品、炊飯器部品、プリンターリボンガイドなどにも好適に使用することができる。
以下、実施例、参考例および比較例(以下、実施例等と略称する)により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されない。なお、以下の実施例等において、融点、溶液粘度、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)、末端封止率、脂環式モノマーに由来するトランス異性体構造単位含有率、吸水率、荷重たわみ温度、引張強さ・引張破壊ひずみ、耐熱老化性、溶融粘度、相対結晶化度、金型汚染性は以下の方法で測定または評価した。
<融点>
各実施例等で用いたポリアミド(後述するポリアミド9C−1〜4。以下同様。)の融点は、メトラー・トレド(株)製の示差走査熱量分析装置(DSC822)を使用して、窒素雰囲気下で、30℃から360℃へ10℃/minの速度で昇温した時に現れる融解ピークのピーク温度を融点(℃)とすることで求めた。なお、融解ピークが複数ある場合は最も高温側の融解ピークのピーク温度を融点とした。
<溶液粘度>
各実施例等で用いたポリアミドの溶液粘度ηinhは、ポリアミド50mgをメスフラスコ中で98%濃硫酸25mLに溶解させ、ウベローデ型粘度計にて、得られた溶液の30℃での落下時間(t)を計り、濃硫酸の落下時間(t)から下記数式(1)より算出した。
ηinh(dL/g)={ln(t/t)}/0.2 (1)
<ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量>
各実施例等で用いるポリアミド樹脂(A)におけるポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量(質量%)は、GPCを用いて得られる各試料の溶出曲線(縦軸:検出器から得られるシグナル強度、横軸:溶出時間)から、ベースラインと溶出曲線によって囲まれる数平均分子量500以上2000未満の領域の面積、およびベースラインと溶出曲線によって囲まれる数平均分子量2000以上から主ピークの検出が終了する数平均分子量以下の領域の面積より算出した。測定は下記の条件で行った。
・検出器:UV検出器(波長:210nm)
・ カラム:昭和電工株式会社製 HFIP−806M(内径8mm×長さ300mm)
・ 溶媒:トリフルオロ酢酸ナトリウムを0.01モル/Lの濃度で含有するヘキサフルオロイソプロパノール
・ 温度:40℃
・ 流速:1mL/min
・ 注入量:90μL
・ 濃度:0.5mg/mL
・ 試料調製:トリフルオロ酢酸ナトリウムを0.01モル/L含有するヘキサフルオロイソプロパノールに、各実施例等で得られたポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂組成物を、ポリアミド樹脂(A)換算で0.5mg/mLになるように秤量して室温で1時間攪拌して溶解させ、得られた溶液をメンブレンフィルター(孔径0.45μm)でろ過して試料を調製した。
・ PMMA標準試料:昭和電工株式会社製 STANDARD M−75(数平均分子量範囲:1,800〜950,000)を用いて標準溶出曲線(校正曲線)を作成した。
後述する参考例1で得られたポリアミド樹脂組成物(実際にはポリアミド樹脂(A)単独に相当する)を上記の条件で測定した際の溶出曲線を、ポリアミド(a−1)およびポリアミドオリゴマー(a−2)の領域とともに図1に示す。
<末端封止率>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度:80℃)を行い、長さ100mm、幅40mm、厚み1mmの試験片を作製し、得られた試験片から20〜30mgを削りとって、トリフルオロ酢酸−d(CFCOOD)1mLに溶解し、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置JNM−ECX400(400MHz)を用いて、室温、積算回数256回の条件でH−NMRを測定した。そして、カルボキシル基末端(a)、アミノ基末端(b)および末端封止剤によって封止された末端(c)を各末端基の特性シグナルの積分値よりそれぞれ求め、数式(2)から末端封止率(%)を求めた。
末端封止率(%)=c/(a+b+c)×100 (2)
<トランス異性体構造単位含有率>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度:80℃)を行い、長さ100mm、幅40mm、厚み1mmの試験片を作製し、得られた試験片から20〜30mgを削りとって、トリフルオロ酢酸−d(CFCOOD)1mLに溶解させ、グラスフィルターでろ過して不溶物を除去して測定試料を調製し、日本電子株式会社製核磁気共鳴装置JNM−ECX400(400MHz)を用いて、室温、積算回数256回の条件でH−NMRを測定した。1,4−シクロヘキサンジカルボン酸構造単位のシス異性体のβ水素に由来する2.10ppmのピーク面積と、トランス異性体構造単位のβ水素に由来する2.20ppmのピーク面積の比率から、トランス異性体構造単位含有率を求めた。
<吸水率>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度80℃)を行い、ISO 62に準じて長さ60mm、幅60mm、厚み2mmの試験片を作製した。得られた試験片を、23℃の水中に1日間浸漬したときの質量増加分を測定し、浸漬前質量に対する増加割合(%)を算出し、低吸水性の指標とした。値が小さいほど低吸水性である。
<荷重たわみ温度>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度80℃)を行い、ISO多目的試験片A型(長さ80mm、幅10mm、厚み4mm)を作製した。得られた試験片を用いて、ISO 75−2/Afに従って1.8MPaの負荷を与えたときの荷重たわみ温度(℃)を測定し、高温下での剛性の指標とした。
<引張強さ・引張破壊ひずみ>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度80℃)を行い、ISO多目的試験片A型(長さ80mm、幅10mm、厚み4mm)を作製した。得られた試験片を用いて、ISO 527に従って23℃における引張強さ(MPa)および引張破壊ひずみ(%)を測定し、剛性の指標とした。引張強さの値が大きく、かつ引張破壊ひずみの値が小さいほど剛性に優れる。
<耐熱老化性>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、各々の融点よりも約20℃高いシリンダー温度で射出成形(金型温度80℃)を行い、ISO多目的試験片A型を作製した。得られた試験片を120℃の乾燥機内に1000時間静置した後の引張強さをISO 527に従って測定し、乾燥機に静置する前の試験片の引張強さに対する割合(%)を算出することで、耐熱老化性の指標とした。
<溶融粘度>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物について、キャピログラフ(株式会社東洋精機製作所製)を用いて、バレル温度340℃、せん断速度121.6sec−1(キャピラリー:内径1.0mm×長さ10mm、押出速度10mm/min)の条件下で溶融粘度(Pa・s)を測定し、流動性の指標とした。
<相対結晶化度>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用い、下記条件にて射出成形を行い、長さ100mm、幅40mm、厚み1mmの試験片を作製した。得られた試験片から約10mgを削りとり、DSC822を用いて窒素雰囲気下で、30℃から360℃へ10℃/minの速度で昇温した。ポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミド樹脂(A)に非晶領域が存在すれば、この昇温過程のうち80〜150℃の温度領域において該非晶領域の結晶化が進むことに起因する結晶化ピークが観測される。本明細書では、かかる結晶化ピークから算出される熱量を「結晶化熱量ΔHc」と称する。上述の、30℃から360℃へ10℃/minの速度での昇温過程において、前記した結晶化ピークが検出される後か結晶化ピークが検出されずに、結晶融解ピークが観測される。本明細書では、かかる結晶融解ピークから算出される熱量を「結晶融解熱量ΔHm」と称する。かかるΔHcとΔHmを用いて、相対結晶化度(%)を下記数式(3)にて算出し、80℃の金型での成形性の指標とした。
・射出成形時のポリアミド樹脂(A)またはポリアミド樹脂組成物温度:340℃
・金型温度:80℃
・ 射出速度:60mm/sec
・ 射出時間:2sec
・ 冷却時間:5sec
相対結晶化度(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm×100 (3)
<金型汚染性>
各実施例等で得られたポリアミド樹脂組成物を用いて、図2および3に示す形状の金型(図2:正面図、図3:k軸を切断面とする断面図)で下記条件にて射出成形を行った。ポリアミド樹脂組成物は、図中の突出末端mから浸入し、図2の円nの外周部から流動末端Оに向かって流れる。金型の流動末端部Оの汚れ(変色度)を500ショット連続射出後に目視で確認し、金型に曇りが付着物や曇りが認められなかった場合を○、金型に曇りが認められた場合を△、金型に付着物の認められた場合を×で評価することで、金型汚染性の指標とした。
・ 射出成形時のポリアミド樹脂組成物温度:340℃
・金型温度:80℃
・ 射出速度:60mm/sec
・ 射出時間:2sec
・ 冷却時間:5sec
各実施例等で使用したポリアミド樹脂(A)、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)およびルイス塩基として作用する化合物(C)を以下に示す。
<ポリアミド樹脂(A)>
以下のポリアミドを表1に示す割合で配合してポリアミド樹脂(A)とした。
ポリアミド9C−1:
トランス体/シス体比=30/70(モル比)の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5111.2g(29.7モル)、1,9−ノナンジアミン4117.6g(26.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン726.6g(4.59モル)、末端封止剤としての酢酸110.4g(1.84モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物10g、および蒸留水2.5Lを、内容積40Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。2時間かけて内部温度を200℃に昇温した。この時、オートクレーブは2MPaまで昇圧した。その後2時間、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次いで、30分かけて圧力を1.2MPaまで下げ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを粉砕し、120℃、減圧下で12時間乾燥した。これを230℃、13.3Paの条件で10時間固相重合し、溶液粘度ηinhが0.87dL/gであるポリアミド9C−1を得た。
ポリアミド9C−2:
トランス体/シス体比=30/70(モル比)の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5111.2g(29.7モル)、1,9−ノナンジアミン4117.6g(26.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン726.6g(4.59モル)、末端封止剤としての酢酸110.4g(1.84モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物10g、および蒸留水2.5Lを、内容積40Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。2時間かけて内部温度を200℃に昇温した。この時、オートクレーブは2MPaまで昇圧した。その後2時間、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次いで、30分かけて圧力を1.2MPaまで下げ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを粉砕し、120℃、減圧下で12時間乾燥し、溶液粘度ηinhが0.23dL/gであるポリアミド9C−2を得た。
ポリアミド9C−3:
ポリアミドPA9C−1を80℃の熱水中で8時間、抽出処理を行った。その後、120℃、減圧下で12時間乾燥し、溶液粘度がηinh0.89dL/gであるポリアミド9C−3を得た。
ポリアミド9C−4:
トランス体/シス体比=30/70(モル比)の1,4−シクロヘキサンジカルボン酸5111.2g(29.7モル)、1,9−ノナンジアミン4117.6g(26.0モル)、2−メチル−1,8−オクタンジアミン726.6g(4.59モル)、末端封止剤としての酢酸110.4g(1.84モル)、触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物10g、および蒸留水2.5Lを、内容積40Lのオートクレーブに入れ、窒素置換した。2時間かけて内部温度を200℃に昇温した。この時、オートクレーブは2MPaまで昇圧した。その後2時間、水蒸気を徐々に抜いて圧力を2MPaに保ちながら反応させた。次いで、30分かけて圧力を1.2MPaまで下げ、プレポリマーを得た。このプレポリマーを粉砕し、120℃、減圧下で12時間乾燥した。これを温度350℃、減圧下、押出重合装置にて滞留時間が30分になるように重合することで、溶液粘度ηinhが0.78dL/gであるポリアミド9C−4を得た。
<銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)>
(1)ヨウ化第一銅 和光純薬工業株式会社製
(2)ヨウ化カリウム 和光純薬工業株式会社製
<ルイス塩基として作用する化合物(C)>
(1)酸化マグネシウム:
協和化学工業株式会社製、「MF−150」(平均粒子径:0.71μm)
(2)酸化カルシウム:
関東化学株式会社製、「酸化カルシウム」(平均粒子径:15μm)
(3)酸化亜鉛:
和光純薬工業株式会社製、「酸化亜鉛」(平均粒子径:5.0μm以下)
〔実施例1〜12、参考例1および比較例1〕
ポリアミド9C−1、ポリアミド9C−2、ポリアミド9C−3、ポリアミド9C−4を表1で示す量で配合した混合物を減圧下、120℃で24時間乾燥した後、表1に示す量の銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)、ルイス塩基として作用する化合物(C)をドライブレンドし、得られた混合物を2軸押出機(スクリュー径:30mm、L/D=28、シリンダー温度350℃、回転数150rpm)のホッパーからフィードして溶融混練し、ストランド状に押出した後、ペレタイザにより切断してペレット状のポリアミド樹脂組成物を得た。得られたポリアミド樹脂組成物を使用し、前記した方法に従って所定形状の試験片を作製し、各種物性を評価した。結果を表1に示す。
Figure 0006231856
実施例1〜9は、ポリアミド(a−1)とポリアミドオリゴマー(a−2)の含有量、トランス異性体構造単位含有率、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)の含有量が特定範囲にあるため、耐熱性、低吸水性、高温下での剛性、引張物性、耐熱老化性、流動性、成形性に優れ、かつ金型汚染が起こらない。中でも、実施例6〜9は、ルイス塩基として作用する化合物(C)を含有するため、トランス異性体構造単位含有率が高く、それに伴い高温下での剛性や耐熱老化性がより優れている。実施例10は耐熱性、低吸水性、高温下での剛性、引張物性、耐熱老化性、流動性、成形性に優れるが、金型汚染性には僅かな差異が見られる。実施例11および12は耐熱性、低吸水性、高温下での剛性、耐熱老化性、流動性、成形性に優れ、かつ金型汚染が起こらないが、引張物性に差異が見られる。参考例1は、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)を含まないため耐熱老化性に劣る。比較例1はポリアミドオリゴマー(a−2)が少ないため、低吸水性、流動性、成形性に劣る。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、耐熱性、低吸水性、高温下での剛性、引張物性、耐熱老化性、流動性に優れ、80℃の金型で成形しても十分に結晶化が進行し、かつ製造時の金型汚染が少なく、例えば、電気電子部品、自動車部品、産業資材部品、日用品および家庭用品用などの各種部品材料として幅広く利用できる。

Claims (14)

  1. 数平均分子量2000以上のポリアミド(a−1)を95〜99.95質量%、数平均分子量500以上2000未満のポリアミドオリゴマー(a−2)を0.05〜5質量%の範囲で含有し、前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する全モノマー単位のうち25モル%以上が下記一般式(I)または一般式(II)で表される環状脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位であり、前記環状脂肪族ジカルボン酸に由来するトランス異性体構造単位の含有率が50〜85モル%であるポリアミド樹脂(A)、銅化合物(B1)および金属ハロゲン化物(B2)を含有し、
    前記ポリアミド樹脂(A)において、前記ポリアミド(a−1)と前記ポリアミドオリゴマー(a−2)を構成する前記環状脂肪族ジカルボン酸に由来する構造単位が同一である、ポリアミド樹脂組成物。
    Figure 0006231856

    (式中、Xはカルボキシル基を表し、Zは炭素数3以上の脂環構造を表す。)
    Figure 0006231856

    (式中、XおよびZは前記定義の通りであり、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1以上のアルキレン基を表す。)
  2. 前記ポリアミド樹脂(A)100質量部に対して銅化合物(B1)を0.01〜1質量部、金属ハロゲン化物(B2)を0.05〜20質量部を含有する、請求項1に記載のポリアミド樹脂組成物。
  3. 前記銅化合物(B1)がヨウ化銅および/または酢酸銅であり、前記金属ハロゲン化物(B2)がヨウ化カリウムである、請求項1または2に記載のポリアミド樹脂組成物。
  4. 前記ポリアミド樹脂(A)を構成する前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)の分子鎖の末端基の総量の10%以上が末端封止剤によって封止されている、請求項1〜3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  5. 前記環状脂肪族ジカルボン酸の炭素数が5〜10である、請求項1〜4のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  6. 前記環状脂肪族ジカルボン酸が1,4−シクロヘキサンジカルボン酸である、請求項1〜のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  7. 前記ポリアミド(a−1)および前記ポリアミドオリゴマー(a−2)が、炭素数4〜12の脂肪族ジアミンに由来する構造単位を含有する、請求項1〜6のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  8. 前記脂肪族ジアミンが1,4−ブタンジアミン、1,5−ペンタンジアミン、1,6−ヘキサンジアミン、2−メチル−1,5−ペンタンジアミン、1,8−オクタンジアミン、1,9−ノナンジアミン、2−メチル−1,8−オクタンジアミン、1,10−デカンジアミン、1,11−ウンデカンジアミンおよび1,12−ドデカンジアミンからなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載のポリアミド樹脂組成物。
  9. 1,4−シクロヘキサンジカルボン酸に由来する構造単位を25モル%以上含有し、かつ脂肪族ジアミンに由来する構造単位として1,9−ノナンジアミンおよび/または2−メチル−1,8−オクタンジアミンを25モル%以上含有する、請求項8に記載のポリアミド樹脂組成物。
  10. さらに、ラクタムおよび/またはアミノカルボン酸に由来する構造単位を含有する、請求項1〜9のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  11. ポリアミド樹脂(A)100質量部に対してルイス塩基として作用する化合物(C)を0.1〜10質量部含有する、請求項1〜10のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
  12. 前記ルイス塩基として作用する化合物(C)がアルカリ金属酸化物、アルカリ金属水酸化物、アルカリ土類金属酸化物、アルカリ土類金属水酸化物、酸化亜鉛および水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項11に記載のポリアミド樹脂組成物。
  13. 前記ルイス塩基として作用する化合物(C)が酸化カリウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも1種である、請求項12に記載のポリアミド樹脂組成物。
  14. 請求項1〜13のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物からなる成形品。
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