JP2014084938A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】外輪3、内輪5、前記各玉6、6を、Cを0.8〜1.2質量%、Siを0.1〜0.7質量%、Mnを0.2〜1.2質量%、Crを0.9〜1.8質量%含む合金鋼製とする。前記各玉6、6に、浸炭窒化処理により、表面硬さがHRC63〜67、極表面硬さがHv950以上の硬化層を形成する。又、各玉6、6の表面から、これら各玉6、6の直径の1%分の深さ位置に関して、Nの含有量を0.05質量%以上、残留オーステナイト量を20〜40容量%、圧縮残留応力を500〜900MPaとする。
【選択図】図1
Description
更に、特許文献5には、各転動体に浸炭窒化処理を施して、これら各転動体の表面層中の残留オーステナイトを増加させ、これら各転動体の転動面部分に、振動を緩和するダンパ効果を持たせ、これら各転動体の転動面から軌道面に加わる振動を緩和して、この軌道面の剥離を抑える転がり軸受に就いて記載されている。
特に、本発明の転がり軸受に於いては、前記第一、第二両軌道輪と前記各転動体との総ての部品が、Cを0.8〜1.2質量%、Siを0.1〜0.7質量%、Mnを0.2〜1.2質量%、Crを0.9〜1.8質量%含む合金鋼製である。
又、前記第一軌道輪と前記第二軌道輪と前記各転動体との総ての部品を構成する合金鋼中のMoの含有量を0.25質量%以下に、Niの含有量を0.2質量%以下に、Cuの含有量を0.2質量%以下に、Sの含有量を0.02質量%以下に、Pの含有量を0.02質量%以下に、Oの含有量を10質量ppm以下に、それぞれ抑え、残部をFeと不可避的不純物としている。
又、前記各転動体に、浸炭窒化処理による表面硬化層を形成していて、表面層の硬さをHRC(ロックウェル硬度Cスケール)63〜67、極表面層の硬さをHv(ビッカース硬度)950以上としている。尚、表面層とは、表面から転動体直径の1%深さまでの層を言い、極表面層とは、表面から5μmまでの深さの層を言う。又、表面層の硬度をHRCで規定しているのに対して、極表面層の硬度をHvで規定している理由は、測定荷重との関係である。即ち、表面層に関しては、或る程度厚さを有するので、HRCの測定荷重{(1.47kN(150kg)}により、精度の良い測定を行える。これに対して、極表面層に関しては、厚さが薄いので、HRCの様に大きな測定荷重では、この極表面層自体に、弾性変形等、硬度測定の面から有害な変形を生じてしまい、信頼できる測定値を得られない。そこで、小さい測定荷重{マイクロビッカース硬度計で0.49N(50gf)以下}で測定し、圧痕深さが1μm以下となる時の測定値を、極表面層のHv硬度とした。
又、前記グリース組成物中に、酸化防止剤として、フェノール系化合物とアミン系化合物とのうちの少なくとも一方を添加する。
更に、前記グリース組成物中に、極圧添加剤として、有機金属塩であるジアルキルジチオカルバミン酸(DTC)系化合物とジアルキルジチオリン酸(DTP)系化合物とのうちの少なくとも一方を添加する。
更に、前記転動体の直径の1%の長さをXとするとき、前記表面硬化層を形成した軌道輪の表面からの深さXの位置に関して、Nの含有量を0.05質量%以上とし、残留オーステナイト量を20〜40容量%とし、圧縮残留応力を100〜500MPaとする。
先ず、潤滑剤の分解によって原子状態の水素(H)が発生し、この水素が転がり軸受を構成する軸受部品を構成する合金鋼中に侵入すると、この水素はこの軸受部品の表面(転動体の転動面、軌道輪の軌道面)から、この軸受部品の内部に向かって拡散する。この様に軸受部品の内部に侵入した水素は、応力が高い位置に集積し易い特性がある。一方、転がり軸受の運転時に、この転がり軸受を構成する各軸受部品には、表面層部分に剪断応力が、繰り返し加わる。そして、この剪断応力が最大になる位置は、何れの軸受部品でも、表面からの距離(深さ)が、転動体の直径のほぼ1%の位置(以下「1%位置」とする)になる。この為、前記軸受部品の内部に侵入した水素は、この1%位置部分に集積する。そして、この軸受部品の内部に、部分的に集積した水素は、局所的な塑性変形を加速させ、当該箇所に組織変化を引き起こす。この様な組織変化が発生すると、組織変化部と正常組織部との界面から疲労亀裂が発生し、更にこの疲労亀裂が進展して、軸受部品の表面が部分的に剥がれ、剥離に至る。
これに対して本発明の場合には、各転動体の表面に所定硬さの表面硬化層を形成すると共に、前記1%位置のNの含有量、残留オーステナイト量、残留圧縮応力を適正に規制しているので、前記各転動体の転動面の白色組織剥離抑制も、十分に図れる。
即ち、転がり軸受の運転時には何れかの軌道面と何れかの転動体の転動面とが金属接触し、当該部分で金属表面の酸化膜等の保護被膜が剥がれて新生面が露出する場合がある。この様な新生面は化学的に活性であり、潤滑剤がこの新生面に触れると、この潤滑剤中の炭化水素や、潤滑剤中に混入した水が分解して水素が発生し、この水素が前記白色組織生成を引き起こす場合がある。特に、転がり接触部の面圧が高くなる程、又、温度が高くなる程、前記水素の発生が促進される。
即ち、前記請求項3に記載したグリース組成物は、防錆剤、酸化防止剤、極圧添加剤として適切なものを使用している。この為、転がり軸受の運転に伴って、前記各転がり接触部の面圧及び温度が高くなり、これら各転がり接触部で化学反応が促進される傾向になっても、前記両軌道輪の軌道面及び前記各転動体の転動面のそれぞれに、化学的に安定な保護被膜を形成する。又、仮に油膜が破断し(油膜切れが発生し)、金属接触によって新生面が形成された場合にも、前記各添加剤(特に極圧添加剤)が新生面に素早く吸着して、化学的に安定な保護被膜を形成し、潤滑剤の分解による水素の発生を生じ難くする。
次に、本発明の転がり軸受を構成する軸受部品を構成する合金鋼中に添加する元素及びその含有量、前記1%位置部分のNの含有量、同じく残留オーステナイト量、並びにグリースの組成を規制した理由に就いて、以下に説明する。
Cは焼き入れによって基地中に固溶し、硬さを向上させる元素である。合金成分中のCの含有量が0.8質量%未満の場合には、焼き入れ後の硬さが不足して、耐摩耗性や転がり疲れ寿命が低下する。そこで、Cを0.8質量%以上、含有させる。これら耐摩耗性や転がり疲れ寿命をより安定的に向上させる為に、好ましくは、Cの含有量を0.9質量%以上とする。一方、Cの含有量が1.2質量%を超えると、得られた軸受部品が硬くなり過ぎて、研削性の低下や破壊靭性値の低下を生じる。そこで、Cの含有量を1.2質量%以下に抑える。前記研削性をより安定させる為に、好ましくは、Cの含有量を1.1質量%以下とする。
Siは、Mnとの共存によってSi・Mn系窒化物の析出に必要な元素であり、Mnの存在によって、Nと効果的に反応して顕著に析出する。又、基地に固溶して焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させる効果がある為、軸受部品に必要な硬さを確保する為に添加する。且つ、Siは、基地組織中のマルテンサイトを安定させて、本発明の重要な目的である、水素による組織変化を遅延させ、白色組織剥離の発生を抑える効果がある。これらの効果は、Siの含有量が0.1%未満であると、十分には得られない。一方、Siの含有量が0.7質量%を超えると、球状化焼鈍後の硬さが上昇する為、旋削性や冷間加工性が低下する。この為、Siの含有量を0.1〜0.7質量%とするが、Si・Mn系窒化物の析出効果を十分に得る為には、Siの含有量を0.4質量%以上とする事が好ましい。
Mnは、上述の様に、Siとの共存によってSi・Mn系窒化物の析出を促進させる作用がある。又、Mnは、基地中に固溶して焼き入れ性を向上させる効果がある為、軸受部品に必要な硬さを確保する為に添加する。更に、Mnは、オーステナイトを安定化する効果があり、熱処理後の残留オーステナイトを生成し易くする。前述した様に、残留オーステナイトは、金属組織中の水素の拡散、集積を遅延させる効果を有する為、Mnを添加する事により、水素による局所的な組織変化を遅延させて寿命を延長する事ができる。この様な効果は、Mnの添加量を0.2質量%以上にしなければ、十分には得られない。一方、Mnの含有量が1.2質量%を超えると、熱間鍛造時の変形抵抗が上昇して、熱間鍛造性を低下させ、量産性が低下する。又、軸受部品を構成する合金鋼中の残留オーステナイトは、転がり軸受の使用に伴って少しずつ分解し、分解に伴って、僅かとは言え体積が膨張する。この為、Mnの含有量を多くする事で残留オーステナイトの量が過剰になると、前記軸受部品の形状及び寸法の安定性が低下するだけでなく、冷間加工性と熱間加工性も低下する。そこで、この軸受部品を構成する鋼中のMnの量を、0.2〜1.2質量%の範囲とする。但し、Si・Mn系窒化物の析出効果を十分に得る為には、Mnの含有量を0.6質量%以上とする事が好ましい。
Crは、基地中に固溶して、焼き入れ性を向上させる効果がある。又、Cと結合して炭化物を形成し、耐摩耗性を向上させる効果がある。更に、炭化物と基地組織中のマルテンサイトを安定化させる為、水素による組織変化を遅延させて、白色組織の生成を遅らせ、軸受部品の寿命を延長する効果がある。Crの含有量が0.9質量%未満の場合には、この様な効果を十分には得られない。一方、Crの含有量が1.8質量%を超えると、球状化焼鈍後の硬さが上昇する為、旋削性及び冷間加工性が低下する。そこで、前記軸受部品を構成する鋼中のCrの量を、0.9〜1.8質量%の範囲とする。尚、旋削性及び冷間加工性をより安定させる為に、好ましくは、Crの含有量を1.7質量%以下とする。但し、上記効果を十分に得る為に、好ましくは、Crの含有量の下限値を1.0質量%とする。
Moは、基地中に固溶して、焼き入れ性及び焼き戻し軟化抵抗性を向上させ、軸受部品表面の硬さを確保する効果がある。即ち、Moは、炭窒化物形成元素として機能し、この軸受部品表面の耐摩耗性及び転がり疲労寿命を向上させる。更に、Moは、基地組織中のマルテンサイトを安定化させる為、本発明で重要な、水素による組織変化(白色組織生成)を遅延させる効果がある。但し、Moの含有量が0.25質量%を超えると、Moの一部が硬い炭化物を形成し、研削性を低下させる。又、非常に高価な元素である為、前記軸受部品を含む転がり軸受の製造コストを高くする原因となる。そこで、Moは選択的に利用する元素とし、その含有量を0.25質量%以下とした。好ましくは、Moの含有量を0.15質量%以下とする。尚、Moの含有量の下限値は、製造コストの面から規制し、必ずしも添加する必要はないが、0.01質量%以上とする事が好ましい。
Niは、原材料となるスクラップから混入する元素であるが、焼き入れ性を向上させる効果と残留オーステナイトを安定化させる効果とがある。但し、多量に混入すると、残留オーステナイトの量が過剰になり、前記軸受部品の形状及び寸法の安定性が低下する。そこで、Niに関しては、積極的には添加せず、Niの含有量を0.2質量%以下とする。好ましくは、Niの含有量を0.18質量%以下とする。
Cuは、スクラップから混入する元素であるが、焼き入れ性を向上させる効果と、粒界強度を向上させる効果とがある。但し、Cuの含有量が多くなると熱間鍛造性が低下する。そこで、Cuに関しては、積極的には添加せず、その含有量を0.2質量%以下とした。
Sは、MnSを形成し、介在物として作用する為、鋼中に含まれるSの含有量は少ない程良い。但し、Sは自然界に多く存在する元素であり、Sの含有量を極端に少なく抑えようとすると、鋼材の生産性が低下し、鋼材の製造コストが上昇する為、工業上広く利用する事が難しくなる。一方、Sを0.02質量%程度含んでも、他の元素の含有量及び熱処理方法を適切にする事で、軸受部品に必要とされる耐久性を確保できる。そこで、Sの含有量の上限値を0.02質量%とした。
Pは、結晶粒界に偏析して、粒界強度や破壊靱性値を低下させるので、少ない程良い。但し、Pも自然界に多く存在する元素であり、Pの含有量を極端に少なく抑えようとすると、鋼材の製造コストが上昇する。一方、Pを0.02質量%程度含んでも、他の元素の含有量及び熱処理方法を適切にする事で、軸受部品に必要とされる耐久性を確保できる。そこで、Pの含有量の上限値を0.02質量%とした。
Oは、合金鋼中でAl2O3等の酸化物系の非金属介在物を形成する。酸化物系の非金属介在物は、剥離の起点となり、転がり疲れ寿命に悪影響を及ぼすので、Oの含有量は少ない程良い。但し、Oに関しても、含有量を極端に少なくすると鋼材コストが上昇するのに対して、Oを10質量ppm程度含んでも、他の元素の含有量及び熱処理方法を適切にする事で、軸受部品に必要とされる耐久性を確保できる。そこで、Oの含有量の上限値を10質量ppmとした。
前述した様に前記各転動体の表面硬化層は、これら各転動体の表面層部分で白色組織変化が発生するのを防止すべく、これら各転動体の表面層部分が局所的に塑性変形するのを抑える為に設ける。この様な塑性変形を抑える事による白色組織変化の抑制効果は、前記表面層部分が硬い程(硬度が高い程)高くなるもので、前記表面硬化層の硬さがHRC63未満の場合には、十分には得られない。前記局所的な塑性変形を十分に抑え、白色組織の形成を遅延させる効果をより安定的に得る為に、より好ましくは、前記各転動体の表面硬化層の硬さを、HRC64.5以上とする。一方、この表面硬化層の硬さがHRC67を超えると、前記各転動体の靭性が低下する。そこで、これら各転動体の表面硬化層の硬さをHRC63〜67、より好ましくはHRC64.5〜67とする。
又、前記各転動体の表面硬化層の硬さは、ロックウェル硬さCスケール(HRC)を用い、玉の表面に圧子を押し付けて測定する。その際、JIS Z 2245の附属書Dに記載される球形試験面の硬さ補正方法に従って補正値を求め、この補正値を測定値に加えたものを、本発明を規定する各転動体の表面硬化層の硬さとする。
各転動体の表面層中に水素が侵入するメカニズムは、転動面と軌道面との金属接触により、この転動面に金属新生面が発生し、活性な新生面で潤滑剤が分解する事によって発生した水素原子が前記表面層中に侵入すると言うものである。従って、前記各転動体の極表面層の硬さを高くし、耐摩耗性を向上させて、金属新生面の発生を抑制する事が、水素原子の発生を抑え、白色組織の形成を抑えて白色組織剥離を抑える面から有効である。極表面層の硬さがHv950より低いと上記効果を充分に得られない。又、この効果を十分に得るべく、前記転動面の耐摩耗性をより安定して、しかも十分に得る為、より好ましくは、前記極表面層の硬さをHv1050以上とする。但し、硬さを高くし過ぎると、研削性の低下により加工コストの増大を招く可能性がある為、Hv1200以下に抑える事が好ましい。
金属組織中の残留オーステナイトは、基地組織であるマルテンサイトと結晶構造が異なる為、水素のトラップサイトとして機能し、水素の拡散速度を低下させる効果がある。一方、転動体内部では、前記1%位置で、剪断応力が最大となる為、この1%位置に水素が集積し易い。そこで本発明の場合には、この1%位置の残留オーステナイト量を多くする事で、水素の局所的な集積を遅延させ、水素による白色組織の発生を遅延させる様にしている。
尚、前記1%位置の残留オーステナイト量は、転動体の表面層部分を、直径の1%(例えば85〜90μm)分、電解研磨により除去した後、X線回折装置を使用して測定する。
浸炭窒化処理によって転動体の表面から侵入した窒素は、この転動体の内部に拡散し、一部は、Fe、Si、Mn、Cr、Mo等の合金元素と結合して炭窒化物を造る。又、残りの一部は、基地組織中に侵入型元素として固溶する。このうちの炭窒化物には、水素を強くトラップする効果がある。この為、前記1%位置のNの含有量を確保すれば、水素がこの1%位置の一部に局所的に集積するのを遅延させて、白色組織発生を遅延させる効果を得られる。更に、基地組織中に固溶した窒素は、残留オーステナイトを安定化させる効果がある為、前記1%位置に存在する残留オーステナイトを安定化させ、この残留オーステナイトによる、上述した様な組織変化遅延の効果を高める事ができる。この様な効果は、前記1%位置のNの含有量が0.05質量%未満の場合には十分には得られない。上記の効果を安定的に得る為に、より好ましくは、前記1%位置のNの含有量を、0.1質量%以上とする。但し、Nの含有量が0.5質量%を超えると、炭窒化物が過剰に生成されて靭性が低下する可能性があるので、好ましくは、上記1%位置のNの含有量を、0.5質量%以下に抑える。
尚、前記1%位置のNの含有量は、浸炭窒化処理時の雰囲気ガス中の窒素ポテンシャルと保持時間とを変える事によって調節する。
又、前記1%位置のNの含有量の測定は、転動体の表面層部分を、直径の1%(例えば85〜90μm)分、電解研磨により除去した後、電子線マイクロアナライザ(EPMA)により測定する。
この部分の圧縮残留応力は、仮に亀裂が発生する傾向になった場合でも、この亀裂が成長する事を抑える役目を果たす。本発明の場合には、先に述べた様に、各軸受部品を構成する合金鋼の組成、表面硬化層の硬さを規制する事により、転動体の転動面に於ける白色組織発生の遅延を図れる。但し、転がり軸受を長期間に亙り使用し続ければ、何れは転動体の表層部分に白色組織が発生し、この白色組織と正常組織との界面から微小亀裂が発生する事は避けられない。これに対して圧縮残留応力は、この微小亀裂を抑え込む方向に作用するので、この微小亀裂が進展するのを抑制し、剥離に至るまでの時間を著しく延長する効果がある。
前記1%位置の残留応力は、前記転動体表面層部分を、直径の1%(例えば85〜90μm)分、電解研磨により除去した後、X線回折装置を使用して測定する。
この軌道面の1%位置の圧縮残留応力に関しては、前記両軌道輪の寿命と前記各転動体の寿命とをバランスさせて、転がり軸受全体としての寿命延長を効果的に図る為に規制する。即ち、本発明により、前記各転動体の寿命を長くできる結果、これら各転動体の寿命が前記両軌道輪の寿命に比べて極端に長くなると、転がり軸受全体としての寿命確保の面から無駄が生じる。この様な無駄をなくす為に、請求項5に記載した発明の場合には、前記両軌道輪に関しても、前記1%位置の圧縮残留応力を或る程度確保して、これら両軌道輪の寿命と前記各転動体の寿命との間に、大きな差が生じない様にする。
この圧縮残留応力の測定方法に関しては、前記各転動体の場合と同様である。
この条件は、前述した様に、前記各転動体の転動面の寿命が前記両軌道輪の軌道面の寿命よりも無駄に長くなるのを防止する為に規定する。即ち、これら両軌道輪の軌道面に或る程度の硬さを有する表面硬化層を形成する事によりこれら両軌道輪の軌道面の寿命が、前記各転動体の転動面の寿命よりも明らかに短くならない様にして、転がり軸受を構成する複数の軸受部品である、前記各転動体と前記両軌道輪との間で、寿命のバランスを図っている。表面硬化層を設けて白色組織変化を抑え、軌道面の寿命延長を図るメカニズムは、前記転動面の場合と同様である。但し、軌道輪の場合には、適切なグリースを使用する事により、水素の侵入を抑えられるので、白色組織変化抑制の面から軌道面の表面硬化層の硬さは、転動面の表面硬化層の硬さ程高くする必要はない。
優れた白色組織変化抑制効果を得る為には、振動や滑りがある使用条件下でも、各転がり接触部に安定して油膜を形成する様に、40℃に於けるグリース組成物の動粘度を、40〜150mm2/secの範囲に収める事が好ましい。この範囲の動粘度を安定して得る為には、基油としてエーテル系合成油を使用する事が好ましく、他の種類の基油と混合する場合には、基油全量基準で、エーテル系合成油を50質量%以上(50〜100質量%)含む事が好ましい。前記転がり接触部に油膜を、より安定して形成する為には、エーテル系合成油の中でも、ジアルキルジフェニルエーテルを使用する事が、より好ましい。
本発明の転がり軸受は、エンジンルーム内に設置される、自動車用補機の回転支持部等に組み込まれる事を考慮しているので、軸受内部空間に封入するグリース組成物に十分な耐熱性を持たせる必要がある。そこで、このグリース組成物中の増ちょう剤として、優れた耐熱性を有するジウレア化合物を使用する。増ちょう剤としてジウレア化合物を使用すれば、使用条件が厳しく、温度が上昇した場合にも、安定して油膜を形成する事が可能である。増ちょう剤の配合割合は、グリース組成物全量基準で5〜25質量%とする事が好ましい。増ちょう剤の配合割合が25質量%を超えると、グリース組成物が過剰に硬くなって十分な潤滑性能を得る事ができなくなる。これに対して、増ちょう剤の配合割合が5質量%未満の場合には、グリース組成物を十分にグリース状にする事ができなくなる(粘度が低過ぎて、前記軸受空間内に保持し難くなる)。
転がり軸受を構成する前記両軌道輪及び前記各転動体、即ち、軸受部品は、何れも錆び易い合金鋼製であるから、前記軸受内部空間に封入するグリース組成物に防錆機能を持たせる事が好ましい。請求項3に記載した発明でグリース組成物中に添加する、ナフテン酸塩、コハク酸、これらの誘導体は、前記軸受部品を構成する合金鋼の表面に吸着して保護被膜を形成し、防錆作用を発揮すると同時に、この合金鋼の表面に於ける水素の発生と侵入とを抑制する効果を有する。前記各防錆剤は、1種を単独で使用しても、或いは2種以上を組み合わせて使用しても良い。前記各軸受部品の表面の防錆効果を安定して得る為には、前記防錆剤の添加量は、単独で使用する場合も、組み合わせて使用する場合も、グリース組成物全量基準で0.25〜10質量%とする事が好ましい。
この酸化防止剤は、基油(エーテル系合成油)の酸化を防止し、グリース組成物の潤滑性能を長期間に亙り維持する為に添加する。この様な酸化防止剤として、フェノール系化合物とアミン系化合物とを、単独で、或いは組み合わせて使用すれば、前記基油の酸化を防止して、前記グリース組成物の潤滑性能を長期間に亙り維持できる。又、上述の様な酸化防止剤は、前記軸受部品を構成する合金鋼の表面に吸着して、この表面部分に保護被膜を形成し、この表面部分での水素の発生を抑制する機能と、発生した水素が前記軸受部品の内部に侵入する事を抑制する機能とを有する。これらの効果を安定して得る為には、前記酸化防止剤の添加量は、単独で使用する場合も、組み合わせて使用する場合も、グリース組成物全量基準で2〜10質量%とする事が好ましい。
この極圧添加剤は、前記両軌道輪の軌道面と前記各転動体の転動面とが金属接触した際に、金属表面と化学反応して保護被膜を形成し、この金属接触部分で水素が発生するのを抑制する機能と、発生した水素が軸受部品内部に侵入するのを抑制する機能とを有する。又、前記軌道面及び前記転動面の耐摩耗性及び耐焼付き性も向上させる機能も有する。DTC系化合物とDTP系化合物とは1種を単独で使用しても、或いはこれら2種以上を組み合わせて使用しても良い。上述した機能を十分に発揮させて、水素の発生及び侵入の抑制と耐摩耗性及び耐焼き付き性向上なる効果を安定的に得る為には、前記極圧添加剤の含有量は、合計で、グリース組成物全量基準で0.5〜10質量%とする事が好ましい。
グリース組成物中への導電性物質の添加は、前述した様に、前記両軌道輪同士の間の電位差を解消し、前記両軌道面及び前記各転動面に白色組織剥離が発生する事を抑える為に行う。例えば、本発明の転がり軸受を、ゴムベルトを掛け渡す為のプーリの回転支持部に組み込んだ場合、これらプーリとゴムベルトとの間の摩擦により発生した静電気によって、転がり軸受の内部に微量の電流が流れる場合がある。又、発電機や電気モータの回転軸を支持する為の転がり軸受の場合には、漏電によって、内部に微量の電流が流れる場合がある。通常、転がり軸受の運転時には、軌道輪と転動体との間に油膜が存在する為、1対の軌道輪同士の間は絶縁状態になっている。この様な状態で、これら両軌道輪同士の間に電位差が発生し、振動や滑りによって瞬間的に油膜が切れて金属接触が生じると、放電が生じ、潤滑剤や水の分解が加速されて水素の発生が加速する。そこで、上述の様に、グリース中に導電性物質であるカーボンブラックを添加すれば、前記両軌道輪同士の間の電位差が殆ど無い状態になり、放電が生じ難くなって、水素の発生を抑制する事ができる。
次の表1に記載した組成を有する合金鋼製の線材を使用して、直径8.731mmの玉を、次の工程により製作した。尚、表1中の鋼種Fは、SUJ2に相当する。
線材を切断 → ヘッダ加工 → 粗研削 → 浸炭窒化焼き入れ、又は、通常焼き入れ → 焼き戻し → ボールピーニング → 仕上研削
焼き入れの処理方法の種類、浸炭窒化焼き入れ処理を採用した場合に於ける、浸炭窒化焼き入れ時の保持温度(800〜860℃)とアンモニア流量(0.1〜0.5m3/h、焼き戻し温度(160〜240℃)、及びボールピーニングの加工時間(10〜180min)と仕上研削での取り代(10〜100μm)を変える事により、各玉の表面硬さ、極表面硬さ、1%位置のNの含有量、残留オーステナイト量、圧縮残留応力を調整した。
棒材を切断 → 施削 → 浸炭窒化焼き入れ、又は、通常焼き入れ → 焼き戻し → 仕上研削
焼き入れの処理方法の種類、浸炭窒化焼き入れ処理を採用した場合に於ける、浸炭窒化焼き入れ時の保持温度(800〜860℃)とアンモニア流量(0.1〜0.5m3/h)、及び焼き戻し温度(160〜240℃)を変えて、1%位置の硬さ、Nの含有量、残留オーステナイト量、圧縮残留応力を調整した。
この様にして造った内輪及び外輪と、前述の様にして造った玉と、ポリアミド樹脂製の冠型保持器と、軸受内部空間の軸方向両端開口を塞ぐ為の1対のシールリングとを組み合わせて、本発明の技術的範囲に属する9種類の試料(実施例1〜9)と、本発明の技術的範囲からは外れる5種類の試料(比較例1〜5)との、合計14種類の試料を作成した。又、これら各試料の軸受内部空間に、次の表2に記載した、3種類のグリースのうちの何れかを封入した。
試験条件は、下記の通りである。
ラジアル荷重 : 1910N
回転速度 : 10500min−1
潤滑方法 : グリース潤滑
試験時間 : 700時間
更に、実施例6〜9は、潤滑剤として、請求項2、3に記載した発明に対応するグリースを使用している為、外輪の剥離も生じ難くなり、転がり軸受の寿命が更に長くなっている。
特に、実施例8、9は、外輪に、好適な条件で潰炭窒化焼き入れを施しているので、この外輪に関する1%位置のN量、残留オーステナイト量、圧縮残留応力が好適な範囲にあり、外輪にも剥離が生じなかった。又、寿命試験後の玉及び外輪に就いて、それぞれの断面の金属組織を観察したが、何れにも白色組織は生じていなかった。従って、実施例8、9は、実施例7よりも、白色組織が生じにくく、寿命が長いと推測される。
又、比較例2は、焼き戻し温度が高温であった為、各玉の表面層硬さ及び残留オーステナイト量が本発明の範囲外であり、寿命が短かった。
又、比較例3は、浸炭窒化焼き入れの温度が低かった為、各玉の表面層硬さ及び圧縮残留応力が本発明の範囲外であり、寿命が短かった。
又、比較例4は、アンモニア流量が少なかった為、各玉の残留オーステナイト量及び窒素量が本発明の範囲外であり、寿命が短かった。
更に、比較例5は、各玉に浸炭窒化処理を施しておらず、各玉の極表面層の硬さ、残留オーステナイト量、圧縮残留応力が、何れも本発明の範囲外であり、寿命が短かった。
水素の発生し易さは、潤滑剤の種類により異なる。トラクション係数を上げたり、摩耗を防止したりする為、添加剤を多く含む潤滑剤には、水素を発生し易いものがある。例えば自動車や産業機械の変速機に使用される潤滑油には、添加剤を多く含み、水素が発生し易いものがあるので、本発明の転がり軸受が好適に使用できる。
又、前述した様に、転がり軸受の内部に微量の電流が流れると、潤滑油の分解が促進され、水素が発生し易くなる。この為、前述の様なメカニズムにより、静電気に基づく電流が流れる可能性のある自動車のオルタネータ等の電装補機用、或いは漏電に基づき電流が流れる可能性のある電気モータ用軸受等に、本発明の転がり軸受を好ましく使用できる。
更に、本発明の対象となる転がり軸受には、ラジアル玉軸受に限らず、ラジアルころ軸受、ラジアル円すいころ軸受、自動調心ころ軸受、スラスト玉軸受、スラストころ軸受、スラスト円すいころ軸受等も含まれる。更には、これらの一般的な転がり軸受に限らず、直動軸受(リニアガイド)やボールねじ等の特殊な転がり軸受も、本発明の対象となる。特に、転動体として玉を使用する軸受で有効な事は、前述の通りである。
2、2a 外輪軌道
3、3a 外輪
4、4a 内輪軌道
5、5a 内輪
6 玉
7、7a 保持器
8 ラジアル円すいころ軸受
9 円すいころ
10 大径側鍔部
11 小径側鍔部
Claims (5)
- 何れかの面に第一軌道面を有する第一軌道輪と、この第一軌道面と対向する面に第二軌道面を有する第二軌道輪と、これら第一、第二両軌道面同士の間に転動自在に設けられた複数個の転動体とを備えた転がり軸受に於いて、
前記第一軌道輪と前記第二軌道輪と前記各転動体との総ての部品が、
Cを0.8〜1.2質量%、Siを0.1〜0.7質量%、Mnを0.2〜1.2質量%、Crを0.9〜1.8質量%、それぞれ含み、Moの含有量を0.25質量%以下に、Niの含有量を0.2質量%以下に、Cuの含有量を0.2質量%以下に、Sの含有量を0.02質量%以下に、Pの含有量を0.02質量以下に、Oの含有量を10質量ppm以下に、それぞれ抑え、残部をFeと不可避的不純物とから成る合金鋼製であり、
前記各転動体が、浸炭窒化処理による表面硬化層が形成されていて、表面層の硬さがHRC63〜67、極表面層の硬さがHv950以上であり、
前記各転動体の直径の1%の長さをXとした場合に、これら各転動体の表面からの深さがXである位置に関して、Nの含有量が0.05質量%以上であり、残留オーステナイト量が20〜40容量%であり、圧縮残留応力が500〜900MPaである
事を特徴とする転がり軸受。 - 基油をエーテル系合成油とし、増ちょう剤をジウレア化合物とし、防錆剤を含む複数種類の添加剤を含むグリース組成物を、前記第一、第二両軌道輪同士の間の軸受内部空間に、潤滑剤として封入した、
請求項1に記載した転がり軸受。 - 前記グリース組成物中の防錆剤が、ナフテン酸塩とコハク酸とこれらナフテン酸塩又はコハク酸の誘導体とのうちから選択される1種又は2種以上であり、
前記グリース組成物中に、酸化防止剤として、フェノール系化合物とアミン系化合物とのうちの少なくとも一方を添加すると共に、
前記グリース組成物中に、極圧添加剤として、有機金属塩であるジアルキルジチオカルバミン酸(DTC)系化合物とジアルキルジチオリン酸(DTP)系化合物とのうちの少なくとも一方を添加した、
請求項2に記載した転がり軸受。 - 導電性物質であり、平均粒径が10〜300nmのカーボンブラックを0.5〜5質量%含有するグリース組成物を、前記第一、第二両軌道輪同士の間の軸受内部空間に、潤滑剤として封入した、
請求項1〜3のうちの何れか1項に記載した転がり軸受。 - 前記第一、第二両軌道輪のうちの少なくとも一方の軌道輪の表面に、浸炭窒化処理による表面硬化層が形成されていて、
この表面硬化層の硬さがHRC61〜64であり、
前記各転動体の直径の1%の長さをXとした場合に、
前記表面硬化層を形成した軌道輪の表面から深さXの位置に関して、Nの含有量が0.05質量%以上であり、残留オーステナイト量が20〜40容量%であり、圧縮残留応力が100〜500MPaである、
請求項1〜4のうちの何れか1項に記載した転がり軸受。
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