JP2012237338A - 転がり軸受 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】玉3の表層部のSi・Mn窒化物の存在率を、面積比で1.0〜10.0%以下とし、窒素含有率を0.20〜1.5質量%以上とする。内輪の軌道面11および外輪2の軌道面21のの表層部のビッカース硬さ(Hv11)と、玉3の表層部のビッカース硬さ(Hv21)が(1) 式を満たし、内輪1の軌道面11および外輪2の軌道面21の芯部のビッカース硬さ(Hv12)と、玉3の芯部のビッカース硬さ(Hv22)が(2) 式を満たすように構成する。
Hv11+50<Hv21<Hv11+250‥‥(1)
Hv12−100<Hv22<Hv12+100‥‥(2)
【選択図】図1
Description
このような異物混入潤滑下における早期剥離は、軌道輪と転動体との間に異物が噛み込むことで、転がり面(軌道輪の軌道面および転動体の転動面)に形成された圧痕のエッジ部(以下、「圧痕縁」と記す。)に、応力集中が生じることが原因であると言われている。
転動体の転動面の表層部において、Si及びMnを含む窒化物(「Si−Mn系窒化物」)の存在率と窒素含有率を特定することで、優れた応力集中抑制作用と耐圧痕性及び耐摩耗性を付与するとともに、軌道輪の軌道面(転がり接触する相手部材)との間に作用する接線力を小さくする。
ただし、特許文献2には、転がり軸受の軌道輪の軌道面と転動体の転動面に関し、両者の硬さの関係が、表層部および芯部のいずれについても記載されていない。また、転がり軸受の高機能化に伴い、転がり軸受には、長寿命であることに加えて、良好な音響特性と低トルク性を有することが求められている。
(a) 内輪および外輪は、炭素の含有率が0.80質量%以上1.20質量%以下で、炭素以外の元素の含有率はJIS G4805で規定されている高炭素クロム軸受鋼と同じである軸受鋼を所定形状に加工した後に、ずぶ焼き入れおよび焼戻しからなる熱処理、または窒化処理もしくは浸炭窒化処理と焼き入れおよび焼戻しからなる熱処理が施されて得られ、軌道面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)の硬さがビッカース硬さ(Hv)で700以上である。
(d) 転動体の転動面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上10%以下の範囲で存在している。
(e) 内輪および外輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)のビッカース硬さ(Hv11)、転動体の転動面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)のビッカース硬さ(Hv21)が下記の(1) 式を満たす。
Hv11+50<Hv21<Hv11+250‥‥(1)
(f) 内輪および外輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の芯部(表面からの深さが150μm以上の範囲)のビッカース硬さ(Hv12)、転動体の転動面の芯部(表面からの深さが150μm以上の範囲)のビッカース硬さ(Hv22)が下記の(2) 式を満たす。
Hv12−100<Hv22<Hv12+100‥‥(2)
この発明の転がり軸受は、下記の構成(g) を有することにより、転がり寿命をより長くすることができる。
(g) 内輪および外輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)の残留オーステナイト量(γR1:体積%)と、転動体の転動面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)の残留オーステナイト量(γR2:体積%)が下記の(3) 式を満たす。
0<γR1−25<γR2<γR1+5‥‥(3)
Cは、鋼に必要な強度と寿命を付与するために必要な元素である。素材をなす鋼のC含有率が少なすぎると、転動部材に必要な強度を付与できないだけでなく、窒化又は浸炭窒化を行う際に転がり面に必要な硬化層深さを得るための熱処理時間が長くなり、熱処理コストが増大する。よって、素材をなす鋼のC含有率は0.8質量%以上とする。好ましくは0.9質量%以上とする。
C含有率が多過ぎると、製鋼時に巨大な炭化物が生成されて、その後の焼入れ特性や転がり疲れ寿命に悪影響を与えるだけでなく、ヘッダー加工性が低下してコストの上昇を招く。よって、C含有率は1.2質量%以下とする。
珪素含有率およびマンガン含有率は、Si−Mn系窒化物を効率よく析出させて構成(d) を得るために、ともに0.3質量%以上2.2質量%以下としている。なお、JIS G4805で規定されているSUJ2の珪素含有率は0.15〜0.35質量%であり、マンガン含有率は0.50質量%以下であるため、SUJ2からなる素材を用いたのでは、浸炭窒化等により表層部に窒素を過剰に導入しても、Si・Mn系窒化物を面積比で1.0%以上存在させることは難しい。
なお、素材をなす鋼には、上述した元素に加えて、Crと同様の作用を有するMoやV等の炭化物形成促進元素を、素材費の上昇や加工性の低下によるコスト上昇を招かない範囲で(例えば、2.0質量%以下)含有してもよい。また、素材をなす鋼の残部はFeおよび不可避不純物(S、P、Al、Ti、O等)であるが、実質的にFeからなる。
この組成の鋼からなる素材を転動体の所定形状に加工した後に、窒化処理または浸炭窒化処理と焼き入れおよび焼戻しからなる熱処理を施すが、構成(c) および(d) を満たす転動体を得るために、窒化処理または浸炭窒化処理を、アンモニア流量を通常の方法の3倍以上に増やして行う。
転動面の表層部のビッカース硬さ(Hv21)は780以上であることが好ましい。転動面の芯部(Hv22)のビッカース硬さは700以上であることが好ましい。
[構成(c) について]
転がり面(軌道面および転動面)をなす表層部に存在する窒素は、マルテンサイトの固溶強化や残留オーステナイトの安定確保に作用するだけでなく、窒化物や炭窒化物を形成して、耐摩耗性及び耐圧痕性を向上させ、転がり面に作用する接線力を小さくする作用を有する。これらの作用を得るために、転動体の転動面の表層部の窒素含有率を0.20質量%以上としている。好ましくは0.35質量%以上とする。
一方、前記表層部の窒素含有率が多すぎると靱性や静的強度が低下する。転がり軸受の転動体として必要な靱性および強度を得るために、表層部の窒素含有率を1.50質量%以下とする。好ましくは1.00質量%以下とする。
表層部に窒素を導入した場合、一部は窒素のまま材料に固溶して存在し、一部は珪素およびマンガンと結合しSi・Mn窒化物となって析出物として存在する。表層部の窒素含有率が同じでも、SiおよびMnの含有率が高い鋼を用いて窒化処理を行うと、Si・Mn窒化物が多く存在するようになる。Si・Mn系窒化物の単位面積当たりの存在率が高いほど、析出強化が高くなるため転動面の耐摩耗性及び耐圧痕性が向上する。
具体的には、転動体の転動面にSi・Mn系窒化物が1.0面積%以上存在すると、耐摩耗性及び耐圧痕性向上効果が実質的に得られる。転動体の転動面のSi・Mn系窒化物含有率は、2.0面積%以上であることが好ましい。
なお、析出強化の理論上、析出物粒子間の距離が小さい方が強化能が高くなるため、転動体の転動面に存在するSi・Mn系窒化物の面積率が同じでも、存在するSi・Mn系窒化物の粒径が小さい方が高い析出強化作用が得られる。粒径が1.0μmを超えるSi・Mn系窒化物は材料の強化にあまり寄与しない。
圧痕起点型剥離に代表される表面起点型剥離は、接触する二つの物体のうち周速の速い駆動側より、周速の遅い従動側で生じやすいことが知られている。玉軸受や自動調心ころ軸受の場合、転動体と軌道輪との間に生じる差動滑りの影響により転動体が駆動側、軌道輪が従動側となる。円錐ころ軸受や円筒ころ軸受の場合も、ころのクラウニングの影響やつばの駆動力の影響によって、転動体が駆動側、軌道輪が従動側となる。そのため、転がり軸受では、種類に関わらず、軌道輪で剥離が生じ易い。
転動体と軌道輪との間に異物が噛み込んで圧痕が形成される場合、表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)の硬さが相対的に硬い方には圧痕が形成され難く、相対的に柔らかい方に圧痕が形成され易い。また、前述のように、転動面に異物による圧痕が形成されと、転動面の形状崩れが起こり易くなって表面粗さが大きくなるため、剥離寿命が短くなる。よって、軌道輪よりも転動体に対する圧痕形成を抑制した方が、効果的に軸受寿命を向上できる。
そのために、この発明では、軌道輪の軌道面と転動体の転動面に関する表層部での硬さの関係を(1) 式を満たすものとしている。すなわち、転動面の表層部の硬さを軌道面の表層部の硬さよりも、ビッカース硬さで50〜250だけ硬くしている。
転がり軸受には、静的な過大荷重によって軌道輪の軌道面および転動体の転動面にブリネル圧痕が生じる。ブリネル圧痕は音響特性の悪化とトルク増大を引き起こす。大きなブリネル圧痕の形成が転動体と軌道輪のどちらか一方だけであっても、音響特性の悪化とトルク増大が生じる。そのため、転動体と軌道輪とで均等にブリネル圧痕が形成されるようにすることが好ましい。
この発明では、軌道輪と転動体とで芯部での硬さを近いものとすることで、軌道輪の軌道面と転動体の転動面に均等にブリネル圧痕が形成されるようにする。そのために、軌道輪の軌道面と転動体の転動面に関する芯部での硬さの関係を(2) 式を満たすものとしている。すなわち、転動面と軌道面とで芯部の硬さの差を、ビッカース硬さで±100となるようにしている。
なお、軌道面の中間部(表面からの深さが50μmより深く150μmより浅い範囲)の硬さ(Hv13)と、転動体の転動面の中間部の硬さ(Hv23)との関係は、下記の(3) 式を満たすことが好ましい。
Hv13<Hv23<Hv13+150‥‥(3)
通常の転動体の製造方法では、熱処理後に研削し、次いでボールピーニングやバレルピーニング等の表面硬化工程を行っているが、転動面の硬さを前記構成(e) を満たすようにする(通常品より硬くする)ためには、表面硬化工程の加工時間を長くしたり加工条件を変更する必要がある。
また、表面硬化工程を行った後で研削工程を行い、表面硬化工程で生じた表面付近の圧縮残留応力の低い部分(例えば、表面からの深さが50μm〜70μmまでの部分)を除去することで、高い圧縮残応力を転動体の表面に存在させて転動面を硬くする方法もあり、この方法を採用することが好ましい。
この実施形態の転がり軸受は、図1に示すように、内輪1、外輪2、玉(転動体)3、および鉄鋼製で波形の保持器4で構成されている。内輪1と外輪2は、JIS G4805で規定された高炭素クロム軸受鋼SUJ2からなる素材を、内輪1および外輪2の形状に加工した後、下記の熱処理AまたはBがなされたものである。
熱処理B:840〜860℃で3時間、Rxガス+エンリッチガス+アンモニアガス雰囲気(アンモニア流量0.3m3 /h)に保持した後、油冷却する「浸炭窒化および焼入れ」を行った後に、160〜220℃で2時間、不活性ガス雰囲気に保持する「焼戻し」を行う。
玉3のボールピーニングは、ドラム式ピーニング機を用い、回転速度60min-1、処理時間60minの条件で行った。ボールピーニング後の玉3の表層部を研削により除去した。
さらに、残留オーステナイト量(体積%)は、内輪1の軌道面11および外輪2の軌道面21の表層部の残留オーステナイト量(γR1)が10〜32(10、18、32)であり、玉3の表層部の残留オーステナイト量(γR2)が6〜40の範囲にある。
Hv11+50<Hv21<Hv11+250‥‥(1)
Hv12−100<Hv22<Hv12+100‥‥(2)
0<γR1−25<γR2<γR1+5‥‥(3)
これにより、この実施形態の転がり軸受は、異物混入潤滑下での寿命が長いことに加え、良好な音響特性と低トルク性も有する。
実施形態で説明した方法により作製した内輪1、外輪2、および玉3を下記の表1に示すNo.1〜20、22の組み合わせとし、同じ保持器4を用いて図1に示す転がり軸受(呼び番号6006の深溝玉軸受)を組み立てた。
また、No.21と23では、実施形態で使用した内輪1、外輪2、および保持器4と、以下の方法で作製した玉3を用いて、図1に示す転がり軸受を組み立てた。No.21と23の玉3は、実施形態の玉3と同じSUJ3からなる素材を玉3の形状に加工した後、前記熱処理Bを行い、次いで研削を行い、さらにボールピーニングを実施形態と同じ方法で行って得た。
熱処理D:940℃で4時間、Rxガス+エンリッチガス+アンモニアガス雰囲気に保持する「浸炭窒化」を行った後、830℃で0.5時間、Rxガス雰囲気に保持した後に油冷却する「焼入れ」を行い、次で、160〜220℃で2時間、不活性ガス雰囲気に保持する「焼戻し」を行う。
なお、これらの硬さ、残留オーステナイト量、窒素含有率、Si・Mn系窒化物が存在する面積率は、同じサンプルの各10個について測定し、平均値を算出した。表1には、この平均値を記載した。
そして、No.1〜24の転がり軸受について、異物混入潤滑下での転がり寿命を調べる試験を行った。試験条件は、ラジアル荷重:4.0kN、回転速度:3000min -1、異物混入潤滑:潤滑油VG68に異物(硬さ:Hv519、サイズ:74〜147μm)を0.05g混入とした。寿命試験はNo.1〜24の転がり軸受を各12体用意して行い、L10寿命を調べた。得られた各寿命値から、最も寿命が短かったサンプルNo. 21を「1」とした寿命比を算出した。その結果も表1に示す。
先ず、各軸受を回転試験機に取り付け、予圧98Nにて、速度1800min-1で回転させた状態で、アンデロンメータを用いて音響特性を示す量(アンデロン値)の初期値を測定した。アンデロン値の測定範囲はM.B.の周波数範囲とした。
次に、各軸受を回転試験機から外して、各軸受に軸とハウジングを取り付けてアムスラー試験機にセットし、軸の両端をVブロックで支持した状態で押出機構によりハウジングを押すことで、各軸受にブリネル圧痕を形成した。
この結果も下記の表1に併せて示す。表1では、この発明の範囲から外れる構成に下線を施した。
アンデロン値の上昇値は、No.1〜20の転がり軸受でNo.24の0.21〜0.49倍となり、No. 21〜23の転がり軸受でNo.24の0.50〜0.80倍となっている。すなわち、(2) 式を満たすように構成された転がり軸受は、ブリネル圧痕の形成度合が玉と軌道輪とで均等になり、音響特性の悪化とトルク増大が抑制されている。
以上のことから、この発明の転がり軸受は、軌道輪および転動体の硬さの関係が(1) 式および(2) 式を満たすことで、異物混入潤滑下での寿命が長いことに加え、良好な音響特性と低トルク性を有するものであることと、軌道輪および転動体の表層部の残留オーステナイト量の関係が(3) 式を満たすことで寿命をさらに長くできることが分かる。
なお、この発明は、玉軸受以外の転がり軸受(自動調心ころ軸受、円錐ころ軸受、円筒ころ軸受等)にも当然に適用できる。
11 軌道面
2 外輪
21 軌道面
3 玉(転動体)
4 保持器
Claims (2)
- 内輪、外輪、および転動体を有する転がり軸受であって、
内輪および外輪は、炭素の含有率が0.80質量%以上1.20質量%以下で、炭素以外の元素の含有率はJIS G4805で規定されている高炭素クロム軸受鋼と同じである軸受鋼を所定形状に加工した後に、ずぶ焼き入れおよび焼戻しからなる熱処理、または窒化処理もしくは浸炭窒化処理と焼き入れおよび焼戻しからなる熱処理が施されて得られ、軌道面の表層部の硬さがビッカース硬さ(Hv)で700以上であり、
転動体は、炭素(C)の含有率が0.8質量%以上1.2質量%以下、クロム(Cr)の含有率が0.5質量%以上1.6質量%以下、珪素(Si)の含有率が0.3質量%以上2.0質量%以下、マンガン(Mn)の含有率が0.3質量%以上2.0質量%以下、残部鉄および不可避的不純物である鉄鋼製の素材を、所定形状に加工した後、窒化処理または浸炭窒化処理と焼き入れおよび焼戻しからなる熱処理が施されて得られ、転動面の表層部の硬さがビッカース硬さ(Hv)で750以上であり、
転動体の転動面の表層部の窒素含有率が0.20質量%以上1.50質量%以下であり、
転動体の転動面に、珪素(Si)の窒化物およびマンガン(Mn)の窒化物からなるSi・Mn系窒化物が、面積比で1.0%以上10%以下の範囲で存在し、
内輪および外輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)のビッカース硬さ(Hv11)と、転動体の転動面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)のビッカース硬さ(Hv21)が下記の(1) 式を満し、
内輪および外輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の芯部(表面からの深さが150μm以上の範囲)のビッカース硬さ(Hv12)と、転動体の転動面の芯部(表面からの深さが150μm以上の範囲)のビッカース硬さ(Hv22)が下記の(2) 式を満たすことを特徴とする転がり軸受。
Hv11+50<Hv21<Hv11+250‥‥(1)
Hv12−100<Hv22<Hv12+100‥‥(2) - 内輪および外輪のうちの少なくとも内輪の軌道面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)の残留オーステナイト量(γR1:体積%)と、転動体の転動面の表層部(表面から深さ50μmまでの範囲)の残留オーステナイト量(γR2:体積%)が下記の(3) 式を満たすことを特徴とする請求項1記載の転がり軸受。
0<γR1−25<γR2<γR1+5‥‥(3)
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