本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、質量%で、SiO2 3〜21%、B2O3 8〜23%、ZnO 6〜40%、ZrO2 2〜10%、La2O3 20〜46%、Gd2O3 0〜16%、Ta2O5 7〜25%、Nb2O5 1〜10%を含有し、鉛成分、砒素成分、F成分を実質的に含有しないことを特徴とする。
上記成分のうち、ZnO、ZrO2、La2O3、Gd2O3、Ta2O5、Nb2O5はガラスの屈折率を高める効果がある。これらの成分のうち、ZnO、ZrO2、La2O3、Gd2O3は基本的にアッベ数を大きく低下させないものであり、特にZnO、ZrO2、La2O3はアッベ数をほとんど低下させないという特徴がある。
SiO2およびB2O3はアッベ数を高める効果があり、特にB2O3はアッベ数を高める効果が大きい。
なお、ZnO、Ta2O5、Nb2O3は、アッベ数の低下に対する屈折率の上昇率が大きく、今回の高屈折率、低分散を達成するために最も有効な成分である。
以下に、各成分の含有量を上記のように特定した理由を詳述する。なお、特に断りがない場合、以下の「%」は「質量%」を意味する。
SiO2は、ガラスの骨格を構成する成分であり、失透を抑制するとともに耐候性を向上させる効果がある。またアッベ数を高める効果がある。SiO2の含有量は3〜21%、好ましくは3〜20%、より好ましくは3.5〜16%、さらに好ましくは3.5〜10%である。なおSiO2が多くなると屈折率が低下したり、軟化点が高くなったりする傾向がある。一方、SiO2が少なくなるとガラスが不安定になって耐失透性が悪化したり、分相するとともに耐酸性や耐水性等の耐候性が悪化したりする傾向がある。なお、特にLa2O3が少ない場合(例えばガラス組成C)は、耐失透性を向上させるために5%以上、さらには6%以上とすることが好ましい。
B2O3は、ガラスの骨格を構成する成分であり、アッベ数を最も高める成分でもある。その含有量は8〜23%、好ましくは8.5〜20%、さらに好ましくは9〜15%である。なお、B2O3が多くなるとガラス成形時にB2O3とLa2O3で形成される失透物が生成しやすくなり、さらに屈折率が低下するとともに耐候性が悪化する。一方、B2O3が少ないと、高いアッベ数を得にくい傾向がある。また、屈折率を高める成分と置換することで高屈折率化が達成できるとともにガラス成形時にB2O3とLa2O3で形成される失透物を抑制することができる。
ZnOは屈折率を高める成分であり、またガラス粘度を低下させる成分であることから、ガラス転移温度を低下でき、さらに金型と融着しにくいガラスを得ることができる。また多量に添加することで高屈折率および低分散が達成できる成分である。さらに耐候性を向上させる効果もある。また、アルカリ土類金属成分(MgO、CaO、SrO、BaO)に比べ失透傾向が強くないため、多量に含有させても均質なガラスを得ることができる。その含有量は6〜40%、好ましくは6.5〜40%、より好ましくは8.5〜30%、さらに好ましくは10〜25%、最も好ましくは15〜21%である。ZnOの含有量が多くなりすぎると逆に耐候性が悪くなる。一方、少なすぎるとガラス転移温度の低いガラスを得ることが困難になる。また金型と融着しやすくなる。
ZrO2は屈折率を高める成分であるとともにアッベ数を低下させない成分である。また、中間酸化物としてガラスの骨格を形成するため、耐失透性(B2O3およびLa2O3で形成される失透物の抑制)を改善したり、化学的耐久性を向上させたりする効果もある。ただしZrO2の含有量が多くなるとガラス転移温度が上昇し、プレス成形性が悪化すると同時にZrO2を主成分とする失透物が析出する。ZrO2の含有量は2〜10%、好ましくは3〜8%、さらに好ましくは4〜8%である。なお、La2O3が少ない場合(例えばガラス組成C)は、屈折率を向上させるために、ZrO2は4%以上とすることが好ましい。
La2O3は、アッベ数を低下させることなく屈折率を高める効果がある。その含有量は20〜46%である。20%よりも少ないと充分に高い屈折率を得にくい傾向があり、46%よりも多いと、ガラス成形時にB2O3とLa2O3で形成される失透物が生成しやすくなり、耐失透性が悪化する傾向がある。La2O3の含有量は25〜45%であることが好ましく、30〜45%であることがより好ましく、31〜42%であることがさらに好ましく、32〜40%であることが特に好ましく、32〜37%であることが最も好ましい。
なお、高屈折率及び低分散の特性よりも耐失透性を優先する場合は、La2O3の範囲は30%以下とすることが好ましく、28%以下とすることがより好ましい。
Gd2O3は屈折率を高める成分である。また耐失透性(B2O3およびLa2O3で形成される失透物の抑制)を向上させる効果があり、作業温度範囲を拡大することができる成分である。その一方で、多量に含有するとガラスの分相傾向が強くなり、均質なガラスを得にくくなる。またB2O3とLa2O3を含む組成系ではLa2O3、Ta2O5およびB2O3で形成される失透物が表面に析出(表面失透)しやすくなり、液相温度が上昇する。またアッベ数が低下する。ただしGd2O3は、他のアッベ数を低下させる成分(例えば、Ta2O5、WO3、TiO2等)に比べると、アッベ数の低下割合は低いと言える。Gd2O3の含有量は0〜16%、好ましくは4〜16%、より好ましくは5〜12%である。なお、La2O3が少ない場合(例えばガラス組成C)は、屈折率を向上させるために、Gd2O3は4%以上とすることが好ましい。
Ta2O5は、屈折率、化学的耐久性と耐失透性(B2O3およびLa2O3で形成される失透物の抑制)を高める効果がある。また、アッベ数の低下に対して屈折率の上昇の大きい成分であり、高屈折、低分散を得るのに有効な成分である。その含有量は7〜25%であり、7〜22.5%であることが好ましく、7〜18%であることがより好ましく、10〜18%であることがさらに好ましい。Ta2O5が多くなりすぎるとアッベ数が低下してしまい、所望の光学特性を得ることが困難となる。また、La2O3、Gd2O3、Ta2O5およびB2O3で形成される失透物が析出し、液相温度が上昇しやすくなる。さらにコストも高くなるため、経済的観点からも好ましくない。一方で、7%以上含有させれば1.85以上の屈折率(nd)を容易に得ることが可能になる。なお、また低分散であることよりも高屈折率にすることを優先する場合、Ta2O5を18〜25%含有させることが好ましい(例えば、ガラス組成B)。この場合は、アッベ数の低下を極力低減するために、その他の成分の含有量を調整することが好ましい。例えば、ZnOを10%以上添加すると、アッベ数の低下を低減する効果が大きい。
Nb2O5はガラスの屈折率を高める効果が大きい成分である。またTa2O5を多量に含むガラスにおいては、耐失透性(La2O3、Ta2O5およびB2O3で形成される失透物の抑制)を改善する働きがある。また、アッベ数の低下に対して屈折率の上昇の大きい成分であり、高屈折率および低分散を得るのに有効な成分である。Nb2O5の含有量は1〜10%であり、2〜5%であることが好ましい。Nb2O5が多くなりすぎるとNb2O5を主成分とする失透物が表面に析出(表面失透)しやすくなる。一方で、1%以上含有させれば1.85以上の屈折率(nd)を容易に得られやすくなる。
鉛成分(PbO)、砒素成分(As2O3)およびF成分(F2)は、環境上の理由から、実質的なガラスへの導入は避けるべきである。それゆえ本発明ではこれらの成分は実質的に含有しない。
また本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、上記成分に加えて、さらにWO3およびTiO2を含有することができる。これらの成分は、ガラスの屈折率を高める効果があるが、ZnO、Ta2O5、Nb2O5に比べるとアッベ数の低下に対する屈折率の上昇が小さく、多量に添加する場合、高屈折率、低分散の維持が難しくなり、他の成分とのバランスを充分に考慮して使用する必要がある。またLi2Oを含有することができる。Li2Oのようなアルカリ金属酸化物(R’2O)は軟化点を低下させるための成分である。
WO3は屈折率を高める効果を有する。また、中間酸化物としてガラスの骨格を形成するため、耐失透性(B2O3およびLa2O3で形成される失透物の抑制)を向上する効果もある。WO3の含有量は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、3%以下であることがさらに好ましく、2.5%以下であることが特に好ましく、1.5%以下であることが最も好ましい。WO3が多すぎるとアッベ数が低下してしまい、所望の光学特性を得ることが困難となる。また、透過率における吸収端を長波長側にシフトさせ、短波長領域の透過率を低下させる虞がある。なお、前記効果を充分に得るためには、0.1%以上含有することが好ましい。なお、特にLa2O3が少ない場合(例えばガラス組成C)は、アッベ数低下を抑制しつつ屈折率を向上させるために、WO3は0〜3%とすることが好ましい。
TiO2はガラスの屈折率を高める成分である。また耐失透性(B2O3およびLa2O3で形成される失透物の抑制)を向上する効果もある。TiO2は20%まで添加することができるが、多すぎるとアッベ数を低下させてしまう。さらに、紫外域での吸収が大きく、また吸収端を長波長側にシフトさせ短波長領域の透過率を低下させるため、390〜440nmでの透過率が減少し、短波長用レンズとしての使用に支障をきたす可能性がある。それゆえTiO2の含有量は5%以下であることが好ましく、2.5%以下であることがより好ましい。なお、前記効果を充分得るためには、0.1%以上含有することが好ましい。
特に、短波長領域の透過率の低下を抑制するという観点では、これらの合量WO3+TiO2を10%以下、さらには5%以下とすることが好ましい。
Li2Oは、R’2Oのなかでも最も軟化点を低下させる効果が大きい。しかし、Li2Oは分相性が強いため、添加量が多すぎるとB2O3とLa2O3を主成分とする失透物が析出し、液相温度が高くなって作業性を悪化させる虞がある。またLi2Oが多いと、プレス成形の際に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなったりして、プレス成形が困難になる。それゆえその含有量は5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1.5%以下であることがさらに好ましい。なお、前記効果を充分得るためには、0.1%以上含有することが好ましい。
上記組成を有する本発明のモールドプレス成形用光学ガラスにおいて、高屈折率かつ低分散のガラスを得るには、SiO2とB2O3の含有量の合量を適切に調整することが好ましい。具体的にはこれらの合量SiO2+B2O3が12〜33%であることが好ましく、12〜25%であることがより好ましく、14〜22%であることがさらに好ましい。これらの成分の合量が少なすぎると低分散を維持することが難しくなり、一方、多くなりすぎると高屈折率のガラスになりにくい。
上記組成を有する本発明のモールドプレス成形用光学ガラスにおいて、低分散(アッベ数が高い)のガラスを得るためには、アッベ数を低下させる成分であるGd2O3、Ta2O5、WO3、TiO2およびNb2O5の合量を制限すればよい。具体的には、Gd2O3+Ta2O5+WO3+TiO2+Nb2O5を34%以下に調整することが好ましく、10〜30%に調整することがより好ましい。これらの成分の合量が多くなりすぎると、低分散のガラスを得ることが困難となる。一方、これらの成分の合量が少なすぎると、高屈折率のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。
同様に低分散のガラス、特にアッベ数(νd)が41以上のガラスを得るためには、アッベ数を高める、あるいはアッベ数を大きく低下させない成分であるSiO2、B2O3、ZnO、La2O3の含有量の合量を一定値以上にすればよい。具体的には、SiO2+B2O3+ZnO+La2O3が60%以上であることが好ましく、60〜90%であることがより好ましく、70〜90%であることがさらに好ましい。これらの成分の合量が少なすぎると、低分散のガラスを得ることが困難になる可能性が高い。なおこれらの成分の合量が多すぎる場合、高屈折率のガラスを得ることが難しくなる可能性がある。
同様に低分散のガラスを得るためには、アッベ数を高める、あるいはアッベ数を大きく低下させない成分(La2O3、SiO2、B2O3、ZnO)と、アッベ数を低下させる成分(Gd2O3、Ta2O5、WO3、TiO2、Nb2O5)のバランスをとることが重要になる。具体的には(SiO2+B2O3+ZnO+La2O3)/(Gd2O3+Ta2O5+WO3+TiO2+Nb2O5)の比を一定範囲、具体的には質量基準で2.0以上に調整することが好ましく、2.3〜4.0に調整することがより好ましく、2.4〜3.5に調整することがさらに好ましい。この値が小さすぎるとアッベ数が低下しやすくなる。一方、逆に大きすぎると高屈折率のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。
上記組成を有する本発明のモールドプレス成形用光学ガラスにおいて、高屈折率のガラス、特に屈折率(nd)が1.86以上のガラスでかつ低分散のガラス、特にアッベ数が37以上のガラスを得るためには、屈折率を高め、アッベ数の低下の少ない成分であるZnO+Ta2O5+Nb2O5含有量の合量を一定値以上にすることが好ましい。具体的には、これらの合量を30%以上とすることが好ましく、30〜40%とすることがより好ましく、31〜35%とすることがさらに好ましい。これらの成分の合量が少なすぎると、高屈折率のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。一方、これらの成分の合量が多すぎる場合、低分散のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。
また、同様に高屈折のガラスを得るためには、(SiO2+B2O3)/Ta2O5を一定値以上にすることが好ましい。具体的には、これらの成分比を1.0以下とすることが好ましい。これらの成分比が多すぎると、高屈折率のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。一方、これらの成分比が少なすぎる場合、低分散のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。
さらに、同様に高屈折のガラスを得るためには、(La2O3+Gd2O3)/Ta2O5を一定値以上にすることが好ましい。具体的には、これらの成分比を2.5以下とすることが好ましい。これらの成分比が多すぎると、La2O3、Gd2O3、Ta2O5およびB2O3で形成される失透物が析出し、液相温度が上昇しやすくなる。一方、これらの成分比が少なすぎる場合、高屈折率のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。
また、同様に高屈折のガラスを得るためには、Li2O/Ta2O5を一定値以上にすることが好ましい。具体的には、これらの成分比を0.05以下とすることが好ましい。これらの成分比が多すぎると、La2O3、Gd2O3、Ta2O5およびB2O3で形成される失透物が析出し、液相温度が上昇しやすくなる。一方、これらの成分比が少なすぎる場合、軟化点が低いガラスを得ることが難しくなる傾向がある。
また上記組成を有する本発明のモールドプレス成形用光学ガラスにおいて、高屈折率のガラス、特に屈折率(nd)が1.85以上のガラスを得るためには、屈折率を高める成分であるZnO、ZrO2、La2O3、Gd2O3、Ta2O5、WO3、TiO2、Nb2O5含有量の合量を一定値以上にすることが好ましい。具体的には、これらの合量を55%以上とすることが好ましく、55〜89%とすることがより好ましく、60〜87%とすることがさらに好ましい。これらの成分の合量が少なすぎると、高屈折率のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。なお、これらの成分の合量が多すぎる場合、低分散のガラスを得ることが難しくなる傾向がある。特に、アッベ数の低下に対する屈折率の上昇率が大きい成分であるZnO、Ta2O5およびNb2O5の合量を30%以上とすることが好ましい。
また上記組成を有する本発明のモールドプレス成形用光学ガラスにおいて、低いガラス転移温度、具体的には650℃以下のガラス転移温度を達成するためには、軟化点を低下させる効果のあるZnOとLi2Oの含有量の合量を一定値以上にすることが好ましい。具体的には、ZnO+Li2Oが8%以上であることが好ましく、8〜40%であることがより好ましく、10〜30%であることがさらに好ましい。これらの合量が少なすぎると、ガラス転移温度(Tg)が上昇し、低温でモールドプレス成形することが困難となる傾向がある。一方、これらの合量が多すぎる場合には、プリフォームガラスの溶融、成形工程中にB2O3,La2O3を主成分とする失透物が析出しやすくなり、液相温度が上がって作業範囲が狭くなり量産化しにくくなる傾向がある。
また本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、上記成分以外にも種々の成分を本発明のガラスの特性を損なわない範囲で添加することが可能である。このような成分としては、例えばAl2O3、CaO、BaO、SrO、Na2O、K2O、Y2O3、Yb2O3、清澄剤などが挙げられる。
Al2O3は、SiO2やB2O3と共にガラスの骨格を構成することが可能な成分である。また耐候性を向上させる効果があり、特にガラス中の成分が水へ選択的に溶出することを抑制する効果が顕著である。その含有量は10%以下、特に5%以下であることが好ましい。なお、Al2O3が多いとガラスが失透しやすくなる。また溶融性が悪化して脈理や泡がガラス中に残り、レンズ用ガラスとしての要求品位を満たさなくなる可能性がある。
CaO、BaO、SrOといったアルカリ土類金属酸化物(RO)は融剤として作用するとともに、アッベ数を低下させずに屈折率を高める効果がある。ROが多くなりすぎると、プリフォームガラスの溶融、成形工程中にB2O3およびLa2O3を主成分とする失透物が析出しやすくなり、液相温度が上がって作業範囲が狭くなりやすい。その結果、量産化しにくくなる傾向がある。さらにRO成分が多すぎると逆に耐候性が悪化しやすくなり、ガラス成分の研磨洗浄水や各種洗浄溶液中への溶出が増大したり、高温多湿状態でのガラス表面の変質が顕著になったりする。よって、CaO、BaOおよびSrOは、合量で20%以下であることが好ましい。
CaOはガラスのアッベ数を低下させることなく屈折率を高める成分である。また、高温多湿状態においてアルカリ金属成分やアルカリ土類金属成分がガラス表面に析出することを防止する効果が高くなることから、耐候性向上のための有効成分である。CaOの含有量は0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましい。
BaOはガラスの屈折率を高める成分である。またCaOに比べると高温多湿状態でのガラス表面からの析出量が少ない。BaOの含有量は20%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
SrOはガラスの屈折率を高める成分である。またCaOに比べると高温多湿状態でのガラス表面からの析出量が少ない。従ってSrOを積極的に使用することにより、耐候性に優れた製品を得ることができる。その含有量は20%以下であることが好ましく、10%以下であることがより好ましく、5%以下であることがさらに好ましい。
なお、CaO、BaOおよびSrO以外にも、屈折率を高めるためにRO成分としてMgOを添加してもよい。MgOを添加する場合、その含有量は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。MgOが多くなりすぎると失透しやすくなる傾向がある。
Na2Oは、Li2O同様に軟化点を低下させる効果を有する。しかしながら、その含有量が多いと、溶融時にB2O3とNa2Oで形成される揮発物が多くなり、脈理の生成を助長してしまう。また、B2O3とLa2O3を主成分とする失透物が析出し、液相温度が高くなりやすい。さらに、プレス成形の際に発生する揮発物が増加したり、金型と融着しやすくなったりして、プレス成形が困難となる傾向がある。Na2Oの含有量は10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましい。
K2OもLi2O同様に軟化点を低下させる効果を有する。K2Oを添加する場合、その含有量は0〜10%であることが好ましく、0〜5%であることがより好ましい。K2Oが多くなりすぎると耐候性が悪化する傾向がある。また、B2O3とLa2O3を主成分とする失透物が析出し、液相温度が高くなりやすい。さらに、プレス成形の際に発生する揮発物が増加したり、金型の融着しやすくなったりして、プレス成形が困難となる傾向がある。
Y2O3およびYb2O3は、アッベ数を低下することなく屈折率を高める成分である。このためLa2O3との置換により耐失透性を改善することができる。また、適量添加することによって、B2O3−ZnO−La2O3系ガラスに起こりやすい分相を抑制する効果がある。Y2O3およびYb2O3の含有量は各々15%以下であることが好ましく、各々8%以下であることがより好ましい。Y2O3またはYb2O3の含有量が多すぎると失透しやすくなり、作業温度範囲が狭くなる傾向がある。またガラス中に脈理が発生しやすくなる。
清澄剤として、例えばSb2O3を添加することができる。ただし、ガラスに対する過度の着色を避けるため、清澄剤の含有量は1%以下とすることが望ましい。
上記の組成範囲にあって、好ましい組成範囲の具体例として、記述のガラス組成A〜Cが挙げられる。
ガラス組成Aは、質量%で、SiO2 3〜21%、B2O3 8〜23%、ZnO 6〜40%、ZrO2 2〜10%、La2O3 30〜46%、Gd2O3 0〜16%、Ta2O5 7〜18% Nb2O5 1〜10%を組成として含有し、かつ鉛成分、砒素成分およびF成分を実質的に含有しないことを特徴とする。当該組成によると、高屈折率かつ低分散有するモールドプレス成形用光学ガラスが得られやすい。
また、ガラス組成Aの好ましい組成範囲としては、質量%で、SiO2 3.5〜21.0%、B2O3 9〜15%、ZnO 15〜21%、Li2O 0.1〜2.0%、TiO2 0〜2.5%、ZrO2 3〜8% La2O3 32〜40% Gd2O3 5〜12%、Ta2O5 10〜15% Nb2O5 1〜5% WO3 0〜3%含有し、かつ鉛成分、砒素成分およびF成分を実質的に含有しないものが挙げられる。
ガラス組成Bは、質量%で、SiO2 3〜21%、B2O3 8〜23%、ZnO 10〜40%、ZrO2 2〜10%、La2O3 30〜46%、Gd2O3 0〜16%、Ta2O5 18〜25%、Nb2O5 1〜10%を含有し、かつ鉛成分、砒素成分およびF成分を実質的に含有しないことを特徴とする。当該組成によると、特に高屈折率のモールドプレス成形用光学ガラスを得ることが可能となる。
ガラス組成Cは、質量%で、SiO2 3〜21%、B2O3 8〜23%、ZnO 6〜40%、ZrO2 4〜10%、La2O3 20〜30%、Gd2O3 4〜16%、Ta2O5 7〜25%、Nb2O5 1〜10%の組成を含有し、かつ鉛成分、砒素成分、およびF成分を実質的に含まないことを特徴とする。当該組成によると、屈折率またはアッベ数のいずれかが若干低いものの、耐失透性に優れたモールドプレス成形用光学ガラスを得ることが可能となる。
ガラス組成Cのより好ましい範囲としては、質量%で、SiO2 3〜21%、B2O3 8〜23%、ZnO 6〜40%、ZrO2 4〜10%、La2O3 20〜30%、Gd2O3 4〜16%、Ta2O5 7〜25%、Nb2O5 1〜10%、WO3 0〜3%、TiO2 0〜20%を含有し、鉛成分、砒素成分、及びF成分を含まないものが挙げられる。
なお、ガラス組成Cにおいて、質量%で、La2O3+Gd2O3を45%以下、好ましくは42%以下に限定すれば、より耐失透性に優れたガラスを得ることが可能となる。
また、ガラス組成Cにおいて、(SiO2+La2O3+Gd2O3)/(ZnO+Li2O)の比を、質量基準で2.9以下、好ましくは2.6以下、より好ましくは2.5以下とすることにより、ガラス転移温度の低いガラスが得られやすくなる。
本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、1.82以上の屈折率(nd)、35以上のアッベ数(νd)を有するガラスを得ることができる。特に1.86以上の屈折率(nd)、38以上のアッベ数(νd)を有するガラス、さらには1.87〜1.95の屈折率(nd)、38〜42のアッベ数(νd)を有するガラスを得ることができ、色分散が少なく、高機能で小型の光学素子用の光学レンズとして使用することができる。また、本発明のモールドプレス成形用光学ガラスは、ガラス転移温度が650℃以下、特に640℃以下、さらには630℃以下とすることが可能である。ガラスの軟化点が低くなると、低温でのプレス成形が可能となり、金型の酸化、ガラス成分の揮発による金型の汚染やガラスと金型との融着を抑えることができる。
次に、本発明のガラスを用いて光ピックアップレンズや撮影用レンズ等を製造する方法を述べる。
まず、所望の組成になるようにガラス原料を調合した後、ガラス溶融炉中で溶融する。次に、溶融ガラスをノズルの先端から滴下して液滴状ガラスを作製し、プリフォームガラスを得る。または溶融ガラスを急冷鋳造して一旦ガラスブロックを作製し、研削、研磨、洗浄してプリフォームガラスを得る。続いて、精密加工を施した金型中にプリフォームガラスに入れて軟化状態となるまで加熱しながら加圧成形し、金型の表面形状をガラスに転写させる。この成形方法はモールドプレス成形法と呼ばれ、広く用いられている。このようにして光ピックアップレンズや撮影用レンズを得ることができる。
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1〜9は本発明の実施例(試料No.1〜5、8、11、12、15〜19、21、23、25、26、28、30、31、33〜39、42、44〜47、50、52、55〜57、59)および参考例(試料No.6、7、9、10、13、14、20、22、24、27、29、32、40、41、43、48、49、51、53、54、58)を、表10は比較例(試料No.60〜65)をそれぞれ示している。なお、試料No.1〜5、7〜9、11、12、42〜47、50、52、55〜57、59はガラス組成Aを、試料No.6、10、13、14、48、49、53、54、58はガラス組成Bを、試料No.15〜41、51はガラス組成Cをそれぞれ示している。
各試料は次のようにして調製した。
まず、表に示す各組成になるようにガラス原料を調合し、白金ルツボを用いて1300〜1450℃で3時間溶融した。溶融後、融液をカーボン板上に流し出し、さらにアニール後、各測定に適した試料を作製した。
得られた試料について、屈折率(nd)、アッベ数(νd)、ガラス転移温度(Tg)、液相温度および表面失透温度を測定した。また、金型融着性を評価した。それらの結果を表1〜10に示す。
表から明らかなように、本発明の実施例または参考例であるNo.1〜59の各試料は、屈折率(nd)が1.8178以上、アッベ数(νd)が37.0以上、ガラス転移温度が633℃以下であった。また耐失透性に優れており、プリフォームの成形時に失透することがないと考えられる。また実施例または参考例であるNo.1〜6、15、16、50の各試料については金型に融着しないことが確認された。
なお、屈折率(nd)は、ヘリウムランプのd線(587.6nm)に対する測定値で示した。
アッベ数(νd)は上記したd線の屈折率と水素ランプのF線(486.1nm)、同じく水素ランプのC線(656.3nm)の屈折率の値を用い、アッベ数(νd)=[(nd−1)/(nF−nC)]式から算出した。
ガラス転移温度(Tg)は、熱膨張測定装置(dilato meter)にて測定される値によって評価した。
耐失透性は、液相温度および表面失透温度から判断した。液相温度は、電気炉で1350℃−18時間の条件でガラスを再溶融後、温度勾配を有する電気炉で5分間保持した後、電気炉から取り出して空気中で放冷し、光学顕微鏡で失透物の析出位置を求めることで測定した。表面失透温度は、電気炉で1350℃−30分の条件でガラスを再溶融後、温度勾配を有する電気炉で5分間保持した後、電気炉から取り出して空気中で放冷し、光学顕微鏡で失透物の析出位置を求めることで測定した。上記液相温度および表面失透温度の評価において、液相温度は、溶融されたガラスが成形されるまでの間、長期に炉内に滞在することにより失透の発現程度を評価することに対し、表面失透温度は、成形後のガラス表面に表面失透が発現する程度を評価したものである。なお液相温度が1200℃以下であれば、100.5dPa・s以上の液相粘度を達成しやすく、液滴成形を行っても失透が生じるおそれがなくなる。また表面失透温度が1270℃以下であれば、耐失透性が良好であると判断できる。
金型との融着性は次のようにして評価した。まずガラス原料を調合し、白金坩堝を用いて1300〜1500℃で3〜5時間溶融した後、ガラス融液をカーボン台上に流し出してアニールし、直径5mm、高さ5mmの円柱状の試料に加工した。次に、WC金型上に試料を静置し、N2雰囲気中で800℃まで加熱し、15分間保持した。加熱後に試料を除去し、試料が接触していた金型表面の直径5mmの円内を観察し、融着の有無を評価した。