JP2014039953A - 二相ステンレス鋼用溶接材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】耐孔食性および強度に優れ、σ相析出を抑制することができる二相ステンレス鋼の溶接に好適な溶接材料を提供する。
【解決手段】質量%で、C:0.06%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜3.0%、P:0.040%以下、S:0.005%以下、Cu:0.4〜4.0%、Ni:6.0〜12.0%、Cr:25.5〜30.0%、Mo:2.0〜4.0%、W:2.8〜5.0%、N:0.24〜0.40%およびAl:0.04%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、強度指数SEW[14Cr+5Mn+10Mo+60Cu+50(C+N)+20W]が485以上であり、かつ、耐孔食性指数PREW[Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N]が42以上である二相ステンレス鋼用溶接材料。
ただし、式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
【選択図】 なし

Description

本発明は、フェライト相とオーステナイト相とからなる二相ステンレス鋼を溶接する際に使用される溶接材料に関する。
二相ステンレス鋼は、耐食性および溶接性に優れており、フェライト系ステンレス鋼またはオーステナイト系ステンレス鋼に比べて、特に、耐海水腐食性および強度に優れている。したがって、材料の薄肉化を容易に行うことができ、経済性を有する工業材料として古くから広範囲に使用されている。
特に、高Cr−高Mo二相ステンレス鋼は、優れた耐食性および強度を有するため、ラインパイプ、熱交換器用部品、石油・化学工業用のプロセス鋼管・配管、油井管等、様々な分野に適用されている。近年、油井用のアンビリカルチューブ等では、油井の深海化および材料の薄肉化に伴いさらなる高強度材料が要求される。しかしながら、二相ステンレス鋼中のCrおよびMoの含有量が高いほど、800〜1000℃程度の温度域において硬くて脆い金属間化合物(σ相、χ相)が析出しやすくなる。これは、下記の理由による。
二相ステンレス鋼の中実ビレットは、鋼塊を熱間鍛造または熱間圧延して得た長尺の鋼片を放冷した後、この鋼片に切断、切削等の機械加工が施されて製造される。高Cr−高Mo二相ステンレス鋼は、特に放冷時にσ相が析出し、素材が著しく硬化されるため、割れが発生しやすく、各種の加工時で切断および切削が困難となる。したがって、極力σ相の析出を抑制することが製造上望ましく、従来、CrおよびMoの含有量の低減、熱処理条件の変更、冷却条件の変更等の様々な提案がなされている。
例えば、特許文献1では、組織安定指数PSI(=3Si+Cr+3.3Mo)を40以下とした二相ステンレス鋼が提案されている。特許文献1では、二相ステンレス鋼の通常の熱間加工時の加熱条件、熱処理条件および溶接条件でσ相等が生成しないとしている。
特許文献2では、二相ステンレス鋼を1110℃以上に加熱したのち、熱間加工を施して継目無鋼管を製造する方法において、最終圧延終了後に800+5Cr+25Mo+15W≦T(℃)≦1150を満足する温度範囲まで再加熱した後、急冷処理する二相ステンレス鋼の製造方法が提案されている。特許文献2では、σ相の析出なく、優れた耐食性を有し、かつ高強度二相ステンレス鋼管を製造できるとしている。
特許文献3では、フェライト量およびPRE値を所定範囲とした二相ステンレス鋼が提案されている。特許文献3では、これにより、耐海水性に優れた二相ステンレス鋼が得られるとされている。特許文献4では、Mo含有量を低減させてσ相の生成を抑制し、フェライト量およびPREWを所定範囲とした二相ステンレス鋼が提案されている。特許文献4では、これにより、温間加工性、耐すきま腐食性および組織安定性に優れる二相ステンレス鋼が得られるとされている。
特許文献5および6では、フェライト量およびオーステナイト相とフェライト相それぞれのPREW値および比を所定範囲とした二相ステンレス鋼が提案されている。特許文献5および6ではいずれも、これにより、耐食性および組織安定性が良好な二相ステンレス鋼が得られるとされている。
一方、溶接構造物としての二相ステンレス鋼の使用を考えた場合、溶接金属にも母材と同等の性能が求められる。そのため、高機能化した母材にマッチングした溶接材料が必要となる。二相ステンレス鋼の溶接に用いられる溶接材料についても、これまで様々な提案がなされている。
特許文献7では、高い耐粒界腐食性を示すフェライト−オーステナイト二相ステンレス鋼溶接材料が提案されている。また、特許文献8では、フェライト量と水素量とを規定した遅れ割れの発生しないオーステナイト・フェライト系二相ステンレス鋼溶接材料が提案されている。
特許文献9では、フェライト容量指数Phを適正範囲に管理された高耐食高靱性二相ステンレス鋼溶接用溶接材料が提案されている。さらに、特許文献10および11では、優れた耐食性を有する尿素製造プラント用二相ステンレス鋼に好適な溶接材料が提案されている。
特開平5−132741号公報 特開平9−241746号公報 特表2002−529599号公報 特表2003−503596号公報 特表2005−501969号公報 特表2005−501970号公報 特開昭59−150692号公報 特開2001−9589号公報 特開平8−260101号公報 特開2003−301241号公報 特開2007−146202号公報
上述のように、耐食性向上元素であるCrおよびMoの含有量を低減させると、二相ステンレス鋼としての耐食性および強度を損なう。一方、CrおよびMo含有量を高めた鋼では、熱間鍛造または熱間圧延の後の冷却時、溶接時、熱間曲げ加工時などに、σ相が析出しやすい。その傾向は、特にビレット等の大型鋼材において顕著となる。そのため、特許文献1〜6のような鋼の化学組成、組織状態、さらには熱処理条件等を管理するだけではσ相の析出を抑制することができない。
さらに、アンビリカルチューブをはじめとして、ラインパイプ、熱交換器用部品等として適用する場合には、高強度化による薄肉化のニーズが経済性の点から求められているが、いずれの発明も高強度化については述べられておらず、特に耐食性向上元素としてのMo、CrおよびWが強度に及ぼす影響については必ずしも明確ではなかった。
また、高機能化した二相ステンレス鋼を溶接構造物として使用する場合、溶接金属にも母材と同等以上の性能が求められる。しかしながら、母材と同一組成の溶接材料を用いて溶接した場合、冷却速度によってフェライト/オーステナイトの相バランスが母材に対して変化し、組織が変わるため、溶接金属の性能が母材と比較して劣化する。また、母材と異なる組成の溶接材料を用いた場合、溶接条件によって希釈が変化し溶接金属の組成が母材と異なるため、性能が変化してしまう。そのため、高機能化した母材にマッチングした母材と同等の性能を有する溶接材料が必要となるが、特許文献7〜11に記載の溶接材料は、優れた耐食性および強度を有するとともに、σ相の析出を抑制することが可能な母材にマッチングしたものとはいえない。
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、耐孔食性および強度に優れ、σ相析出を抑制することができる二相ステンレス鋼の溶接に好適な溶接材料を提供することを目的とする。
発明者らは高い耐孔食性を確保しつつσ相析出を抑制し、かつ高強度化を図った高濃度のMoおよびWを含有する二相ステンレス鋼を溶接する際に用いる溶接材料について検討した。
少なくとも高濃度のMoおよびWを含有する二相ステンレス鋼を溶接する際に用いる溶接材料としては、母材との混ざり合いで得られる溶接金属が母材と同等以上の耐孔食性および強度を有する必要がある。そこで発明者らは、母材とマッチングする溶接材料を検討するに際し、強度向上に有効なCr、C、Mn、Mo、WおよびNに加えて、特にCuに着目して、各元素の強度に及ぼす影響を鋭意調査した。その結果、下式を満たすように成分を規定した溶接材料を用いることで、高濃度のMoおよびWを含有する高強度二相ステンレス鋼と同等以上の耐孔食性および強度を有する溶接金属を得ることができることを見出した。
14Cr+5Mn+10Mo+60Cu+50(C+N)+20W≧485
ただし、式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
本発明は、上記の知見を基礎としてなされたものであり、その要旨は下記の二相ステンレス鋼用溶接材料にある。
(1)質量%で、C:0.06%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜3.0%、P:0.040%以下、S:0.005%以下、Cu:0.4〜4.0%、Ni:6.0〜12.0%、Cr:25.5〜30.0%、Mo:2.0〜4.0%、W:2.8〜5.0%、N:0.24〜0.40%およびAl:0.04%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、下記(i)式で表わされる強度指数SEWが485以上であり、かつ、下記(ii)式で表わされる耐孔食性指数PREWが42以上であることを特徴とする二相ステンレス鋼用溶接材料。
SEW=14Cr+5Mn+10Mo+60Cu+50(C+N)+20W・・・(i)
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N・・・(ii)
ただし、(i)式および(ii)式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
(2)Feの一部に代えて、質量%で、さらにCa:0.02%以下、Mg:0.02%以下およびB:0.02%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする上記(1)に記載の二相ステンレス鋼用溶接材料。
本発明によれば、高い耐孔食性を確保しつつ、高強度化した溶接材料を用いて二相ステンレス鋼の溶接を行うことで、優れた耐孔食性およびσ相の析出抑制効果を有し、高濃度のMoおよびWを含有する高強度二相ステンレス鋼溶接継手を得ることができる。
1.溶接材料の化学組成
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.06%以下
Cは、オーステナイト相を安定化させるのに有効な元素である。また、Cを含有させることによって、固溶強化により鋼の強度を向上させることができる。しかし、その含有量が過剰な場合、炭化物が析出して、耐食性が劣化する。したがって、Cの含有量は0.06%以下とする。C含有量は0.05%以下であるのが好ましい。下限は特に設けないが、相安定性を重視する場合、C含有量は0.01%以上とするのが好ましい。
Si:1.0%以下
Siは、鋼の脱酸に有効な元素である。しかし、その含有量が過剰な場合、σ相の生成が促進される。そのため、Siの含有量は1.0%以下とする。Si含有量は0.7%以下であるのが好ましい。上記の効果は微量でも発揮されるが、特に、Siを脱酸剤として用いる場合には0.01%以上含有させることが好ましい。
Mn:0.5〜3.0%
Mnは、溶製時の脱硫および脱酸に有効な元素であるとともに、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。また、Mnの添加は、鋼の高強度化にも有効である。さらに、MnにはNの溶解度を大きくする作用があり、N量の増加による高強度化にも寄与する。これらの効果を得るためにはMnの含有量は0.5%以上とする。しかし、その含有量が過剰な場合、耐食性を劣化させる。したがって、Mnの含有量は3.0%以下とする。Mn含有量は0.6%以上であるのが好ましく、2.5%以下であるのが好ましい。
P:0.040%以下
Pは、鋼中に不可避的に混入する不純物元素である。その含有量が過剰な場合、耐食性および靭性を劣化させ、溶接割れ感受性を増大させる。したがって、Pの含有量は0.040%以下とする。P含有量は0.030%以下であるのが好ましい。
S:0.005%以下
Sは、Pと同様、鋼中に不可避的に混入する不純物元素であり、鋼の熱間加工性を劣化させる。また、硫化物は孔食の発生起点となり耐孔食性を劣化させる。さらには溶接割れ感受性を増大させる。そのため、Sの含有量は少ない方が良く、0.005%以下であれば実用上特に問題とはならない。S含有量は0.003%以下であるのが好ましい。
Cu:0.4〜4.0%
Cuは、還元性の低いとされる低pH環境、例えば、HSOまたはHS環境での耐食性向上に特に有効な元素である。さらに本発明では、安価な強化元素として注目しており、これらの効果を得るためには、Cuを0.4%以上含有させる必要がある。しかし、過剰に含有させた場合、熱間加工性を劣化させるだけでなく、σ相の生成を促進する。そのため、Cuの含有量は4.0%以下とする。Cu含有量は0.5%以上であるのが好ましい。また、Cu含有量は3.5%以下であるのが好ましく、3.0%以下であるのがより好ましい。
Ni:6.0〜12.0%
Niは、オーステナイトを安定化させるために必須の元素である。Ni含有量が低いとフェライト量が多くなり過ぎて、二相ステンレス鋼としての特長が失われる。また、フェライト中へのNの固溶度は小さいため、フェライト量が多くなると窒化物が析出しやすくなり耐食性が劣化する。さらに、溶接金属では冷却速度が速くフェライトが多量に残りやすくなるため、相バランスおよび耐食性の観点から、母材と比べて高いNi含有量が必要となる。そのため、Niは6.0%以上含有させる。一方、Ni含有量が過剰な場合、σ相の析出が容易になり靱性が劣化する。したがって、Ni含有量は、12.0%以下とする。相安定性および耐食性の観点からは、Niは8.0%を超えて含有させるのが好ましい。一方、靱性の観点からは、Ni含有量は11.0%以下であるのが好ましい。
Cr:25.5〜30.0%
Crは、耐食性および強度を確保するために必須の元素である。Cr含有量が低いと、いわゆるスーパー二相ステンレス鋼といえるだけの耐食性が得られない。また、高強度化にも有効な元素であるため、Crは25.5%以上含有させる。一方、Crの含有量が過剰な場合、σ相の析出が顕著になり、耐食性の低下とともに、熱間加工性の低下および溶接性の劣化を招く。したがって、Cr含有量は30.0%以下とする。Crは26.0%を超えて含有させるのが好ましい。また、Cr含有量は28.5%以下であるのが好ましい。
Mo:2.0〜4.0%
Moは、Crと同様、耐食性の向上、特に耐孔食性および耐隙間腐食性の向上に有効な元素である。また、鋼の高強度化にも有効な元素であり、母材と同等の強度および耐食性を確保するためには、Moを2.0%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が過剰な場合、σ相が析出しやすくなるため、Mo含有量は4.0%以下とする。Mo含有量は2.3%以上であるのが好ましく、3.5%以下であるのが好ましい。
W:2.8〜5.0%
Wは、Moと比べて、σ相などの金属間化合物の生成が少なく、耐食性、特に耐孔食性および耐隙間腐食性を向上させる元素である。また、鋼の高強度化にも非常に有効な元素であり、Wを適量含有させれば、CrおよびMoさらにはNの含有量を増やさずに高い耐食性を確保することができる。母材と同等の強度および耐食性を確保するためには、Wを2.8%以上含有させる必要がある。しかし、Wを過剰に含有させても耐食性の向上効果は飽和し、原料コストが増加するため、Wの含有量は5.0%以下とする。W含有量は3.0%以上であるのが好ましく、4.5%以下であるのが好ましい。
N:0.24〜0.40%
Nは、強力なオーステナイト生成元素であり、二相ステンレス鋼の熱的安定性および耐食性の向上ならびに高強度化に有効な元素である。フェライト相とオーステナイト相とのバランスを適正なものにするために、フェライト生成元素であるCrおよびMoの含有量との関係でNを適量含有させる必要がある。Nは、Cr、MoおよびWと同様に合金の耐食性を向上させる効果も有する。そのため、Nを0.24%以上含有させる必要がある。一方、その含有量が過剰になると、ブローホールの発生による欠陥、溶接時の熱影響による窒化物生成等により鋼の靱性および耐食性を劣化させる。したがって、Nの含有量は0.40%以下とする。Nは0.30%を超えて含有させるのが好ましく、0.32%を超えて含有させるのがより好ましい。
Al:0.04%以下
Alは、強脱酸元素であり、鋼の高強度化にも寄与する。しかし、その含有量が過剰な場合、脆化相の析出を誘発し、延性および靭性を低下させる。そのため、Alの含有量は0.04%以下とする。上記の効果を得たい場合には、Alを0.001%以上含有させるのが好ましい。
SEW:485以上
Cr、C、Mn、Mo、W、NおよびCuは高強度化に有効な元素であり、下記(i)式で表される強度指数SEWが485以上となる溶接材料を用いることで、耐食性に優れた高強度の溶接金属を得ることができる。より高強度の溶接金属を得るためには、SEWは520以上であるのが好ましい。SEWの上限は特に設けないが、高強度化による熱間加工性または伸線性の低下を抑制するため、SEWは720以下であるのが好ましい。
SEW=14Cr+5Mn+10Mo+60Cu+50(C+N)+20W・・・(i)
ただし、(i)式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
PREW:42以上
上記の高強度化に有効な元素のうち、Cr、Mo、WおよびNの各元素については、本発明の二相ステンレス鋼用溶接材料は、耐食性、特に耐海水腐食性を改善するため、下記(ii)式で表される耐孔食性指数PREWが42以上である必要がある。PREWの上限は特に設けないが、高強度化による熱間加工性または伸線性の低下を抑制するため、PREWは52以下であるのが好ましい。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N・・・(ii)
ただし、(ii)式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
本発明に係る二相ステンレス鋼用溶接材料は、上記の各元素を含有し、残部がFeおよび不純物からなるものである。なお、「不純物」とは、二相ステンレス鋼用溶接材料を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本発明に係る二相ステンレス鋼用溶接材料は、Feの一部に代えて、質量%で、さらに以下に示す量のCa、MgおよびBから選択される1種以上を含有させても良い。
Ca:0.02%以下
Mg:0.02%以下
B:0.02%以下
Ca、MgおよびBはいずれも、不純物のSが結晶粒界に偏析するのを抑制して、熱間加工性を向上させる元素であるので、本発明に係る二相ステンレス鋼用溶接材料に含有させても良い。しかし、これらの含有量が過剰な場合、鋼中に孔食の起点となる硫化物、酸化物、炭化物および窒化物が多く生成し、耐食性が劣化する。したがって、これらの元素から選択される一種以上を含有させる場合には、Ca、MgおよびBを0.02%以下の範囲で含有させることが好ましい。上記の熱間加工性向上の効果を得るためには、Ca、MgおよびBをそれぞれ0.0003%以上含有させるのが好ましい。上記のCa、MgおよびBは、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有することができる。これらの元素の2種以上を含有させる場合には、その合計含有量は0.04%以下とすることが好ましい。
2.母材の化学組成
本発明に係る溶接材料は二相ステンレス鋼の溶接に用いられるものである。母材については二相ステンレス鋼であれば特に制限はないが、優れた耐食性およびσ相析出抑制効果を有する高強度の溶接金属を得るためには、例えば、質量%で、C:0.03%以下、Si:0.3%以下、Mn:3.0%以下、P:0.040%以下、S:0.008%以下、Cu:0.2〜2.0%、Ni:5.0〜6.5%、Cr:23.0〜27.0%、Mo:2.5〜3.5%、W:1.5〜4.0%、N:0.24〜0.40%およびAl:0.04%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、下記(ii)式で表わされる耐孔食性指数PREWが40以上である化学組成を有する二相ステンレス鋼母材を用いるのが好ましい。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N・・・(ii)
ただし、(ii)式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
なお、「不純物」とは、二相ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
各元素の限定理由は下記のとおりである。なお、以下の説明において含有量についての「%」は、「質量%」を意味する。
C:0.03%以下
Cは、オーステナイト相を安定化させるのに有効な元素である。しかし、その含有量が過剰な場合、炭化物が析出しやすくなり、耐食性が劣化する場合がある。したがって、Cの含有量は0.03%以下であるのが好ましい。C含有量は0.02%以下であるのがより好ましい。
Si:0.3%以下
Siは、鋼の脱酸に有効な元素である。しかし、その含有量が過剰な場合、σ相の生成が促進されるおそれがある。そのため、Siの含有量は0.3%以下であるのが好ましい。Si含有量は0.25%以下であるのがより好ましい。上記の効果は微量でも発揮されるが、特に、Siを脱酸剤として用いる場合には0.01%以上含有させることが好ましい。
Mn:3.0%以下
Mnは、溶製時の脱硫および脱酸に有効な元素であるとともに、オーステナイト相の安定化に有効な元素である。Mnは、さらに熱間加工性の向上に寄与する。また、MnにはNの溶解度を大きくする作用がある。しかし、その含有量が過剰な場合、耐食性を劣化させる場合がある。したがって、Mnの含有量は3.0%以下であるのが好ましい。Mn含有量は2.5%以下であるのがより好ましい。上記の効果は微量でも発揮されるが、特に、Mnを脱硫または脱酸のために含有させる場合には、0.01%以上含有させることが好ましい。
P:0.040%以下
Pは、鋼中に不可避的に混入する不純物元素である。その含有量が過剰な場合、耐食性および靱性の劣化が著しくなるおそれがある。したがって、Pの含有量は0.040%以下であるのが好ましい。P含有量は0.030%以下であるのがより好ましい。
S:0.008%以下
Sは、Pと同様、鋼中に不可避的に混入する不純物元素であり、鋼の熱間加工性を劣化させるおそれがある。また、硫化物は孔食の発生起点となり耐孔食性を劣化させる場合がある。そのため、そのため、Sの含有量は少ない方が良く、0.008%以下であるのが好ましい。S含有量は0.005%以下であるのが好ましい。
Cu:0.2〜2.0%
Cuは、還元性の低いとされる低pH環境、例えば、HSOまたはHS環境での耐食性向上に特に有効な元素である。これらの効果を得るためには、Cuを0.2%以上含有させるのが好ましい。しかし、その含有量が過剰な場合、熱間加工性を劣化させるだけでなく、σ相の生成を促進するおそれがある。そのため、Cu含有量は2.0%以下であるのが好ましい。Cu含有量は0.3%以上であるのがより好ましく、0.4%以上であるのがさらに好ましい。また、Cu含有量は1.5%以下であるのがより好ましく、0.8%以下であるのがさらに好ましい。
Ni:5.0〜6.5%
Niは、オーステナイトを安定化させるために有効な元素である。Ni含有量が低いとフェライト量が多くなり過ぎて、二相ステンレス鋼としての特長が失われる。また、フェライト中へのNの固溶度は小さいため、フェライト量が多くなると窒化物が析出しやすくなり耐食性が劣化する場合がある。そのため、Niは、5.0%以上含有させるのが好ましい。一方、Ni含有量が過剰な場合、σ相の析出が容易になり靱性が劣化するおそれがある。したがって、Ni含有量は、6.5%以下であるのが好ましい。Ni含有量は5.3%以上であるのがより好ましく、6.0%以下であるのがより好ましい。
Cr:23.0〜27.0%
Crは、耐食性および強度を確保するために有効な元素である。Cr含有量が低いと、いわゆるスーパー二相ステンレス鋼といえるだけの耐食性が得られない。したがって、Crは23.0%以上含有させるのが好ましい。一方、Crの含有量が過剰な場合、σ相の析出が顕著になり、耐食性の低下とともに、熱間加工性の低下および溶接性の劣化を招くおそれがある。したがって、Cr含有量は27.0%以下であるのが好ましい。Cr含有量は25.0%以上であるのがより好ましく、26.0%以下であるのがより好ましい。
Mo:2.5〜3.5%
Moは、Crと同様、耐食性の向上、特に耐孔食性および耐隙間腐食性の向上に有効な元素である。また、鋼の高強度化にも有効な元素である。そのため、Moを2.5%以上含有させるのが好ましい。一方、その含有量が過剰な場合、σ相が析出しやすくなる。そのため、Mo含有量は3.5%以下であるのが好ましい。Mo含有量は、2.7%以上であるのがより好ましい。また、Mo含有量は3.2%以下であるのがより好ましく、3.0%未満であるのがさらに好ましい。
W:1.5〜4.0%
Wは、Moと比べて、σ相などの金属間化合物の生成が少なく、耐食性、特に耐孔食性および耐隙間腐食性を向上させる元素である。また、鋼の高強度化にも非常に有効な元素であり、Wを適量含有させれば、CrおよびMoさらにはNの含有量を増やさずに高い耐食性を確保することができる。母材と同等の強度および耐食性を確保するためには、Wを1.5%以上含有させるのが好ましい。しかし、Wを過剰に含有させても耐食性の向上効果は飽和する。したがって、Wの含有量は4.0%以下であるのが好ましい。W含有量は1.8%以上であるのがより好ましく、2.0%以上であるのがさらに好ましい。また、W含有量は3.8%以下であるのがより好ましい。
N:0.24〜0.40%
Nは、強力なオーステナイト生成元素であり、二相ステンレス鋼の熱的安定性および耐食性の向上ならびに高強度化に有効な元素である。フェライト相とオーステナイト相とのバランスを適正なものにするために、フェライト生成元素であるCrおよびMoの含有量との関係でNを適量含有させるのが好ましい。Nは、Cr、MoおよびWと同様に合金の耐食性を向上させる効果も有する。そのため、Nを0.24%以上含有させるのが好ましい。一方、その含有量が過剰になると、ブローホールの発生による欠陥、溶接時の熱影響による窒化物生成等により鋼の靱性および耐食性を劣化させるおそれがある。したがって、Nの含有量は0.40%以下であるのが好ましい。Nは0.30%を超えて含有させるのがより好ましく、0.32%を超えて含有させるのがさらに好ましい。
Al:0.04%以下
Alは、強脱酸元素であり、鋼の高強度化にも寄与する。しかし、その含有量が過剰な場合、脆化相の析出を誘発し、延性および靭性を低下させる場合がある。そのため、Alの含有量は0.04%以下であるのが好ましい。
PREW:40以上
Cr、Mo、WおよびNの各元素は、下記(ii)式で表される耐孔食性指数PREWが40以上であることが好ましい。これにより、著しく優れた耐食性を得ることができる。
PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N・・・(ii)
ただし、(ii)式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
本発明に係る溶接材料を用いる二相ステンレス鋼母材は、Feの一部に代えて、質量%で、さらにCa:0.02%以下、Mg:0.02%以下、B:0.02%以下および希土類元素:0.2%以下から選択される1種以上を含有させても良い。
Ca:0.02%以下
Mg:0.02%以下
B:0.02%以下
希土類元素:0.2%以下
Ca、Mg、Bおよび希土類元素はいずれも、不純物のSが結晶粒界に偏析するのを抑制して、熱間加工性を向上させる元素であるので、本発明に係る溶接材料を用いる二相ステンレス鋼母材に含有させても良い。しかし、これらの含有量が過剰な場合、鋼中に孔食の起点となる硫化物、酸化物、炭化物および窒化物が多く生成し、耐食性が劣化するおそれがある。したがって、これらの元素から選択される一種以上を含有させる場合には、Ca、MgおよびBについては0.02%以下、希土類元素については0.2%以下の範囲で含有させることが好ましい。上記の熱間加工性向上の効果を得るためには、Ca、MgおよびBについてはそれぞれ0.0003%以上、希土類元素については0.01%以上含有させるのが好ましい。上記のCa、Mg、Bおよび希土類元素は、そのうちのいずれか1種のみ、または2種以上の複合で含有することができる。これらの元素の2種以上を含有させる場合には、その合計含有量は0.25%以下とすることが好ましい。
なお、希土類元素は、Sc、Yおよびランタノイドの合計17元素の総称であり、これらの元素から選択される一種以上を含有させることができる。希土類元素の含有量は上記元素の合計量を意味する。
以下、実施例によって本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
表1に示す化学組成を有する二相ステンレス鋼をVIM溶解炉にて30kg溶製し、熱間鍛造および熱間圧延後、1100℃で30minの固溶化熱処理を実施し、水冷した。その後、厚さ8mm、幅100mm、長さ250mmの試験片を採取した。また同じ溶製材を通常の方法で熱間鍛造した後、途中で固溶化熱処理を繰返しながら冷間加工して、直径が0.8mmのソリッドワイヤ(巻き線)からなる溶接材料を作製した。
Figure 2014039953
表2に示す化学組成を有する二相ステンレス鋼チューブ(外径15.3mm、肉厚1.7mm)に対して、表1に示す化学組成を有する直径0.8mmのソリッドワイヤを用いてTIGにて突き合わせ周溶接を実施し、管状引張り試験を実施した。この際、始終端を除く全周にて表裏波ビード高さが2mm以下となるよう溶接条件を制御した。本発明の評価としては母材破断となる場合を良好、溶接金属破断となる場合を不良とした。また、溶接継手より孔食試験片を採取し溶接金属の臨界孔食発生温度CPTを測定した。孔食試験は、ASTM G48に規定されている塩化第二鉄による孔食試験方法に準拠した。本発明ではCPTが50℃を超えていれば良好な結果であると判断した。これらの結果を表3に示す。
また、溶接金属の強度を、以下の方法により評価した。表1に示す化学組成を有する前記の厚さ8mm、幅100mm、長さ250mmの試験片の表裏面に60°V開先加工を施した後、その試験片の表裏面それぞれにプラズマ溶接にてメルトラン溶接を実施し、得られた溶接金属の中心部より引張り試験片を溶接線方向から採取した。その後、室温にて引張り試験を実施した。その結果を表3に併せて示す。本発明における評価基準としては0.2%耐力にて600MPa以上であれば◎、570MPa以上600MPa未満であれば○、570MPa未満であれば×とした。
Figure 2014039953
Figure 2014039953
本発明の規定を満足する溶接材料A〜Hでは、母材との組み合わせにて得られた溶接継手の管状引張り試験において、いずれも母材破断となり、母材と同等以上の強度を有することが分かった。また、耐孔食性指数PREWの値が42以上であるため、CPTが50℃を超えて良好な耐孔食性を有する。さらに、溶接材料A〜Hを用いて得られた溶接金属の強度は、いずれも0.2%耐力で570MPa以上と高い結果となった。
一方、耐孔食性指数PREWは本発明の規定を満足するものの、強度指数SEWが規定から外れる比較例Iでは、CPTが50℃を超えて耐孔食性には優れるものの、管状引張り試験において溶接金属にて破断し、溶接金属の0.2%耐力が570MPa未満と低い結果となった。
また、強度指数SEWは本発明の規定を満足するものの、耐孔食性指数PREWが規定から外れる比較例Jでは、管状引張り試験において母材にて破断し、溶接金属の0.2%耐力も570MPa以上であるものの、CPTは50℃と低くなり、耐孔食性に劣る結果となった。
本発明によれば、高い耐孔食性を確保しつつ、高強度化した溶接材料を用いて二相ステンレス鋼の溶接を行うことで、優れた耐孔食性およびσ相の析出抑制効果を有し、高濃度のMoおよびWを含有する高強度二相ステンレス鋼溶接継手を得ることができる。

Claims (2)

  1. 質量%で、C:0.06%以下、Si:1.0%以下、Mn:0.5〜3.0%、P:0.040%以下、S:0.005%以下、Cu:0.4〜4.0%、Ni:6.0〜12.0%、Cr:25.5〜30.0%、Mo:2.0〜4.0%、W:2.8〜5.0%、N:0.24〜0.40%およびAl:0.04%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、下記(i)式で表わされる強度指数SEWが485以上であり、かつ、下記(ii)式で表わされる耐孔食性指数PREWが42以上であることを特徴とする二相ステンレス鋼用溶接材料。
    SEW=14Cr+5Mn+10Mo+60Cu+50(C+N)+20W・・・(i)
    PREW=Cr+3.3(Mo+0.5W)+16N・・・(ii)
    ただし、(i)式および(ii)式中の各元素記号は、各元素の含有量(質量%)を意味する。
  2. Feの一部に代えて、質量%で、さらにCa:0.02%以下、Mg:0.02%以下およびB:0.02%以下から選択される1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の二相ステンレス鋼用溶接材料。
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