JP2014033652A - 新規複合発酵乳及びその製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 複合発酵乳の有する独特の不快臭(発酵臭)及び不快味(強い酸味)を低減する方法、及び該方法により味質と風味に優れた複合発酵乳を提供すること。
【解決手段】 複合発酵乳の原料中に希少糖含有シロップを固形分で1〜30質量%含有させることにより、複合発酵乳にみられる独特の不快臭(発酵臭)や不快味(強い酸味)が低減されだけでなく、コク味や自然な甘味が付与された、風味と味質のトータルバランスに優れた複合発酵乳を提供することができる。
【選択図】なし

Description

本発明は、乳原料にケフィア粒を加えて発酵させたときに生じる独特の風味及び味質が改善された複合発酵乳及びその製造方法に関し、より具体的には、特定量の希少糖含有シロップを含有させることにより、複合発酵に起因する独特の風味及び味質が改善されたことを特徴とする新規複合発酵乳及びその製造方法に関する。
昨今、消費者の健康に対する関心の高まりに伴い、発酵食品が注目されている。そのなかでも特に、乳原料にケフィア粒(乳酸菌と酵母を主体とする混合菌及びそれらが産生する粘質多糖類からなる混合菌塊。日本ではヨーグルトきのことも呼ばれる。)を加えて発酵させたケフィア(複合発酵乳)は、中央アジア・コーカサス地方に源を発し、広くヨーロッパに普及する伝統的な発酵食品であるが、最近では日本においても広く知れわたり、健康食品として多くの人々に認知されるところとなっている。
このケフィアの生理活性については、例えば、抗アレルギー作用や抗血栓作用などが報告されており、興味深い食品であると消費者に認識されながらも、消費量が伸びない要因として、独特の風味(発酵臭)と味質(強い酸味)を有する点が挙げられる。
ケフィアが独特の風味や味質を持つ理由は、乳原料の発酵を担うケフィア粒が、複数種の酵母、乳酸菌、ときには酢酸菌が複雑に共生し合った菌叢であって、アルコール発酵、乳酸発酵、ときには酢酸発酵が並行して進むために、得られるケフィアの風味及び味質が、それぞれの菌の発酵程度やそのバランスに大きく左右されることにあると推定される。
このケフィア自体の独特の風味や味質を改善する方法を示した文献は、これまでに見当たらず、例えば、特許文献1(特開2008−283948号公報)に開示されるコラーゲン又はその分解物を含有する乳発酵物は、コラーゲン由来の特有の臭いが解消された乳発酵物を提供するものであって、ケフィア自体の独特の風味や味質を改善するものではない。その他、複数菌種が共生するケフィア粒から免疫賦活作用を有する菌株を単離して利用する方法(特許文献2、特開2003−47462号公報)、バクテリオシンを増やすための複合発酵乳の製造方法(特許文献3、特開2006−034267号公報)、製品の流通段階における二次的なアルコール発酵を回避するために、特定の乳酸菌と特定の酵母で乳清原料を発酵させるケフィア様乳製品の製造方法(特許文献4、特開平10−056961号公報)などが開示されているが、いずれも特定の菌株を選択することにより、有用物質を増加させる、あるいは、製品化後の容器中で起こる二次的な発酵を解消する方法であって、得られるケフィア(複合発酵乳)自体の風味や味質の改善を目的とするものではない。
特開2008−283948号公報 特開2003−47462号公報 特開2006−34267号公報 特開平10−056961号公報 特開2002−17392号公報 国際公開第2010/113785号
本発明の課題は、乳酸発酵、アルコール発酵、及び酢酸発酵が複合的に進行した場合に発生する独特の風味(発酵臭)と味質(強い酸味)が改善されたケフィア(複合発酵乳)及びその製造方法を提供することにある。
以上の現状を鑑み、本発明者が鋭意検討した結果、ケフィア(複合発酵乳)の有する不快な臭い(複合的な発酵臭)及び味質(強い酸味)が、意外にも、特定量の希少糖含有シロップを含有させることにより改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、具体的には、本発明は以下からなる。
1.希少糖含有シロップを発酵原料中に固形分で1〜30質量%含有させることを特徴とする、複合発酵乳の製造方法。
2.希少糖含有シロップが、D−プシコースを0.5〜17質量%及びD−アロースを0.2〜10質量%含むシロップである、上記1に記載の複合発酵乳の製造方法。
3.希少糖含有シロップが、D−グルコース及び/若しくはD−フラクトースを原料とし、D−グルコース及び/若しくはD−フラクトース含量が99〜55質量%になるまでアルカリ異性化したシロップである、上記1又は2のいずれかひとつに記載の複合発酵乳の製造方法。
4.上記1〜3のいずれかひとつに記載の方法により製造された複合発酵乳。
本発明によれば、複合発酵に起因する独特の発酵臭及び強い酸味が低減された、嗜好性の高い複合発酵乳を提供することができる。また、本発明によれば、独特の発酵臭や強い酸味が低減されるだけでなく、好ましいコク味や自然な甘味が付与され、風味及び味質のトータルバランスに優れた複合発酵乳を提供することができる。
本発明の発酵乳の原料として用いられる牛乳を得るための搾乳対象となる乳牛はどのような品種でもよく、特に限定されないが、例えば、ホルスタイン種、ジャージー種、ガーンジー種、エアシャー種、ショートホーン種、デボン種、シンメンタール種、ブラウン・スイス種などが挙げられ、これら混合種から搾乳、あるいは、搾乳してから混合したものであっても構わない。また、得られる生乳を原料とし、均質化(ホモジナイズ)や加熱殺菌、濃縮、乾燥、加糖、加熱、分離などの物理的処理を適宜施して得られる乳製品であっても用いることができる。
本発明の乳原料の発酵に用いる混合菌塊であるケフィア粒は、主に乳発酵が進行するために、少なくとも1種の乳酸菌及び1種の酵母を必須として含む混合菌塊であれば、特に限定されるものではなく、乳酸菌としては、ストレプトコッカス属、ラクトバチルス属、ラクトコッカス属、ビフィドバクテリウム属、ロイコノストック属などに属する菌種が挙げられ、酵母としては、キャンディダ属やサッカロマイセス属などに属する菌種が挙げられ、場合によっては、アセトバクター属に代表される酢酸菌を含んでいても良い。
本発明における希少糖とは、糖の基本単位である単糖のうち、自然界に大量に存在するD−グルコース(ブドウ糖)に代表される「天然型単糖」に対して、自然界に微量にしか存在しない単糖と定義付けられている。そのなかでも、現在、大量生産が可能な希少糖は、D−プシコースとD−アロースである。D−プシコースは、ケトヘキソースに分類されるプシコースのD体であり、六炭糖である。また、D−アロースは、アルドースに分類されるアロースのD体であり、同じく六炭糖である。D−プシコースは、自然界から抽出されたもの、化学的又は生物学的な方法により合成されたもの等を含め、どのような手段により入手してもよく、D−アロースは、D−プシコースを含有する溶液にD−キシロースイソメラーゼを作用させて、D−プシコースからD−アロースを生成させる(特許文献5、特開2002−17392号公報)などして入手できるが、この方法に限定せず、どのような手段により入手してもよい。
本発明における希少糖含有シロップは、上述の希少糖(例えば、D−ソルボース、D−タガトース、L−ソルボース、D−プシコース、D−アロース、D−アルトロース)を適宜選択し、一般的なシロップ(液糖)に適宜混合することでも得られるが、市販品「レアシュガースウィート」(発売元:(株)レアスウィート、販売者:松谷化学工業(株))として、容易に入手することができる。
「レアシュガースウィート」は、異性化糖を原料とし、特許文献6(国際公開第2010/113785号)に開示される手法により得られる希少糖を含有するシロップであり、希少糖として主にD−プシコース及びD−アロースが含まれるように製造されたものである。該手法により得られる希少糖含有シロップに含まれる希少糖は、D−プシコース0.5〜17質量%、D−アロース0.2〜10質量%であるが、未同定の希少糖も含まれる。
この希少糖含有シロップを得る方法は、上記手法に限られるものではなく、単糖(D−グルコースやD−フラクトース)にアルカリを作用させ、19世紀後半に発見された反応、ロブリー・ドブリュイン−ファン エッケンシュタイン転位反応やレトロアルドール反応とそれに続くアルドール反応を起こさせ(以上の反応をアルカリ異性化反応と呼ぶ)、生じた各種単糖(希少糖含む)を含むシロップを広く「希少糖含有シロップ」と呼ぶことができ、D−グルコース及び/若しくはD−フラクトースを原料として、D−グルコース及び/若しくはD−フラクトース含量が55〜99質量%になるまでアルカリ異性化したシロップであればよい。
希少糖の測定方法は種々存在するが、高速液体クロマトグラフィーにより分離測定する方法が一般的であり、測定条件の一例として、特許文献6に記載の測定条件が挙げられる(検出器;RI、カラム;三菱化成(株)MCI GEL CK 08EC、カラム温度;80℃、移動相;精製水、移動相流量;0.4mL/min、試料注入量;10μL)。
前記希少糖含有シロップの製造に使用される原料としては、でん粉、砂糖、異性化糖などが挙げられる。異性化糖とは、特定組成比のD−グルコースとD−フラクトースを主組成分とする混合糖として広く捉えられ、一般的には、でん粉をアミラーゼ等の酵素又は酸により加水分解して得られた、主にブドウ糖からなる糖液を、グルコースイソメラーゼまたはアルカリにより異性化したブドウ糖及び果糖を主成分とする液状の糖のことを指す。JAS規格においては、果糖含有率(糖のうちの果糖の割合)が50%未満のものを「ブドウ糖果糖液糖」、50%以上90%未満のものを「果糖ブドウ糖液糖」、90%以上のものを「高果糖液糖」、及びブドウ糖果糖液糖にブドウ糖果糖液糖を超えない量の砂糖加えたものを「砂糖混合果糖ブドウ糖液糖」とよぶが、本発明の希少糖含有シロップの原料としては、何れの異性化糖を用いても構わない。
本発明における複合発酵乳の発酵源は、前述の乳原料に希少糖含有シロップが添加されている限り特に限定されるものではないが、その他、各種調味料、果汁、野菜汁等が添加されたものでもよい。
本発明における複合発酵乳を製造する際には、希少糖含有シロップが含まれるよう設定することが必須であり、ケフィアを除いた発酵原料中に、固形分として1〜30質量%含有させることが好ましい。希少糖含有シロップが1質量%より少ないと、本発明の発酵臭及び強い酸味を緩和する効果が十分に得られず、逆に、30質量%を超えて添加しても、量依存的に風味改善効果が増強されることはなく、かえって全体的な風味や味質のバランスを損なう恐れがあるために好ましくない。
本発明における複合発酵乳は、上記発酵源に希少糖含有シロップを含有させ、前述の乳酸菌を添加して発酵させるものであるが、その発酵温度、発酵時間、初発pH、嫌気などの発酵条件は特に限定されるものでなく、少なくとも乳酸発酵が進行する条件(例えば、発酵温度;25℃、発酵時間;48時間、初発pH;6.5〜6.8、半嫌気・静置培養)であれば、何れの条件であっても構わない。
本発明における複合発酵乳の発酵源は、前述の牛乳に希少糖含有シロップが添加されている限りにおいて特に限定されるものではなく、さらに必要に応じて各種食品素材、例えば、果汁、野菜汁、フレーバー、増粘剤、乳化剤、各種ビタミン剤等の任意成分を添加することができ、勿論、発酵源としてではなく、得られた複合発酵乳にこれら食品素材を後から添加する方法を採用することもできる。
こうして得られる本発明の複合発酵乳は、そのままのプレーンタイプのほか、上記に例として挙げられるような食品素材を利用して、フレーバードタイプ、フルーツタイプ、甘味タイプとすることができ、また、好みに応じて、ソフトタイプ、ドリンクタイプ、固形(ハード)タイプ、フローズンタイプなどのいずれの形態の製品とすることもできる。
さらに、これら複合発酵乳は、調味、ゲル化、乾燥などの種々の処理を加えることによって、飲料、調味料、サプリメント等の飲食物として利用することもできる。
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
無菌状態で、牛乳(商品名「おいしい牛乳」、(株)明治)、希少糖含有シロップ(商品名「レアシュガースウィート」、発売元;(株)レアスウィート、販売者;松谷化学工業(株)、固形分70%)又はブドウ糖果糖液糖(商品名「フジフラクトF−100」、日本食品化工(株)製、固形分70%)を表1の配合に従って混合、均質化した。この発酵原料の均質化液に対してケフィア種菌(商品名「ナチュラル エステリア ケフィア」、(株)天好社、乾燥品)を添加し、室温(約25℃)で3日間培養した。
得られた複合発酵乳の評価は、パネラー6名により、対応する比較例(ブドウ糖果糖液糖)と比較したときの香り(不快な発酵臭)、味(強い酸味)、及び全体的な味質バランス(甘味、コク味を含む)について行った。評価点は、各評価項目について、コントロールと比較したときに、非常に改善されている(2点)、改善されている(1点)、あまり改善されていない(0点)、やや悪化している(−1点)の4段階とし、パネラー6名による評価点の合計点を表2に示す。また、その各々の合計点をさらに合計し、36〜25点は非常に良い(◎)、24〜13点は良い(○)、12〜1点は大差なし(△)、0〜−18点は悪い(×)とし、その総合的な評価結果を表2に示す(ただし、比較例1〜3は、実施例1〜3の各々を評価するために、発酵原料中の糖質含量を同等とした対照区なので、評価点はない)。
(複合発酵乳の配合表)
Figure 2014033652
(複合発酵乳の評価結果)
Figure 2014033652
希少糖含有シロップを含有させた複合発酵乳を評価したところ、希少糖含有シロップが発酵原料に対して1〜30重量%含まれるとき、最も異臭(不快な発酵臭)と異味(強い酸味)が低減され、全体的な風味や味質のバランスの良い複合発酵乳を得られることが分かった。
以上の結果から、本発明の複合発酵乳に見られる味質改善効果は、乳酸菌、酵母、及び酢酸菌といったケフィアグレインに含まれる微生物によって、ブドウ糖や乳糖が資化される一方、D−プシコースをはじめとする希少糖は資化されず、複合発酵乳に残存したことが挙げられる。また、希少糖が、ケフィア中の微生物の代謝調節に寄与したことも考えられ、これらの単独、あるいは相乗効果によって得られたものと推測できる。
一方、実施例3は、実施例1、2に比べて、異臭及び異味の改善は見られたものの、風味及び味質の全体的なバランスが悪いとの結果であった。これは、希少糖含有シロップの添加量が過多で、甘味だけが際立ち、風味及び味質の全体的なバランスを崩したためであると考えられた。
また、発酵時間についても検討したところ、発酵時間を長くするにつれて(最大120時間)、不快臭(発酵臭)や異味(強い酸味)が改善される傾向、及び、ブドウ糖が資化される事実が確認されたことから、微生物発酵の時間を延長することにより、本発明の効果がより期待できるといえる。
さらに、上記実施例に示した市販の希少糖含有シロップに限らず、希少糖含有シロップの製造条件(アルカリ異性化の反応条件)を変え、D−グルコース及びD−フラクトースの総含量が55質量%程度になるまで反応を進めて得た希少糖含有シロップを用いて乳酸発酵を行ったところ、上記実施例と同様に、乳臭さが減る傾向が認められた。
本発明によれば、ケフィアの複合発酵に由来する不快臭(発酵臭)や異味(強い酸味)が抑制されるだけでなく、好ましいコク味や自然な甘味が付与されるために、風味や味質のトータルバランスに優れた複合発酵乳を提供することができる。また、該複合発酵乳は、飲料、ヨーグルト様食品、調味料、サプリメント等の飲食物として利用することができ、消費者の健康に資する飲食物を提供できるだけでなく、味質に優れた嗜好性の高い飲食物として提供することができる。

Claims (4)

  1. 希少糖含有シロップを発酵原料中に固形分で1〜30質量%含有させることを特徴とする、複合発酵乳の製造方法。
  2. 希少糖含有シロップが、D−プシコースを0.5〜17質量%及びD−アロースを0.2〜10質量%含むシロップである、請求項1に記載の複合発酵乳の製造方法。
  3. 希少糖含有シロップが、D−グルコース及び/若しくはD−フラクトースを原料とし、D−グルコース及び/若しくはD−フラクトース含量が99〜55質量%になるまでアルカリ異性化したシロップである、請求項1又は2のいずれか一項に記載の複合発酵乳の製造方法。
  4. 請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法により製造された複合発酵乳。
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