図1は、本発明が適用された車両10に備えられた自動変速機12の構成を説明する骨子図である。図2は自動変速機12の複数のギヤ段GS(変速段GS)を成立させる際の摩擦係合装置の作動状態を説明する作動表である。この自動変速機12は、車両10の左右方向(横置き)に搭載するFF車両に好適に用いられるものであって、車体に取り付けられる非回転部材としてのトランスアクスルケース14(以下、ケース14)内において、シングルピニオン型の第1遊星歯車装置16を主体として構成されている第1変速部18と、ダブルピニオン型の第2遊星歯車装置20及びシングルピニオン型の第3遊星歯車装置22を主体としてラビニヨ型に構成されている第2変速部24とを共通の軸心C上に有し、入力軸26の回転を変速して出力歯車28から出力する。入力軸26は、自動変速機12の入力回転部材に相当するものであり、本実施例では走行用の駆動力源であるエンジン30によって回転駆動される流体伝動装置としてのトルクコンバータ32のタービン軸と一体的に構成されている。また、出力歯車28は、自動変速機12の出力回転部材に相当するものであり、本実施例では例えば図3に示す差動歯車装置34に動力を伝達するために、デフリングギヤ35と噛み合うことでファイナルギヤ対を構成するデフドライブピニオンと同軸上に配置されたカウンタドリブンギヤと噛み合ってカウンタギヤ対を構成するカウンタドライブギヤとして機能している。そして、このように構成された自動変速機12等において、エンジン30の出力は、トルクコンバータ32、自動変速機12、差動歯車装置34、及び一対の車軸36等を含む車両用動力伝達装置11を順次介して左右の駆動輪38へ伝達されるようになっている(図3参照)。尚、自動変速機12やトルクコンバータ32は中心線(軸心)Cに対して略対称的に構成されており、図1の骨子図においてはその軸心Cの下半分が省略されている。
トルクコンバータ32は、エンジン30のクランク軸31に連結されたポンプ翼車32p、トルクコンバータ32のタービン軸(入力軸26に相当)を介して自動変速機12に連結されたタービン翼車32t、及び一方向クラッチによって一方向の回転が阻止されているステータ翼車32sとを備えており、ポンプ翼車32pとタービン翼車32tとの間で流体を介して動力伝達を行うようになっている。すなわち、本実施例のトルクコンバータ32においては、ポンプ翼車32pが入力回転部材に、タービン翼車32tが出力回転部材にそれぞれ対応し、流体を介してエンジン30の動力が自動変速機12側へ伝達される。また、ポンプ翼車32p及びタービン翼車32tの間には、それらの間すなわちトルクコンバータ32の入出力部材間を直結可能なロックアップクラッチ33が設けられている。また、ポンプ翼車32pには、自動変速機12を変速制御したり、ロックアップクラッチ33の作動を制御したり、或いは各部に潤滑油を供給したりする為の元圧となる作動油圧をエンジン30によって回転駆動されることにより発生する機械式のオイルポンプ40が連結されている。
ロックアップクラッチ33は、良く知られているように、油圧制御回路110によって係合側油室32on内の油圧PONと解放側油室32off内の油圧POFFとの差圧ΔP(=PON−POFF)が制御されることによりフロントカバー32cに摩擦係合させられる油圧式摩擦クラッチである(図5参照)。トルクコンバータ32の運転状態としては、例えば差圧ΔPが負とされてロックアップクラッチ33が解放される所謂ロックアップ解放(ロックアップオフ)、差圧ΔPが零以上とされてロックアップクラッチ33が滑りを伴って半係合される所謂ロックアップスリップ状態(スリップ状態)、及び差圧ΔPが最大値とされてロックアップクラッチ33が完全係合される所謂ロックアップ状態(係合状態、ロックアップオン)の3状態に大別される。例えば、ロックアップクラッチ33が完全係合(ロックアップオン)させられることにより、ポンプ翼車32p及びタービン翼車32tが一体回転させられてエンジン30の動力が自動変速機12側へ直接的に伝達される。また、所定のスリップ状態で係合するように差圧ΔPが制御されることにより、例えば入出力回転速度差(すなわちスリップ回転速度(スリップ量)=エンジン回転速度NE−タービン回転速度NT)NSがフィードバック制御されることにより、車両10の駆動(パワーオン)時には所定のスリップ量でタービン軸をクランク軸31に対して追従回転させる一方、車両の非駆動(パワーオフ)時には所定のスリップ量でクランク軸31をタービン軸に対して追従回転させられる。尚、ロックアップクラッチ33のスリップ状態においては、差圧ΔPが零とされることによりそのロックアップクラッチ33のトルク分担がなくなって、トルクコンバータ32は、ロックアップオフと同等の運転条件とされる。
自動変速機12は、第1変速部18及び第2変速部24の各回転要素(サンギヤS1〜S3、キャリアCA1〜CA3、リングギヤR1〜R3)のうちのいずれかの連結状態の組み合わせに応じて第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の6つの前進ギヤ段(前進変速段)が成立させられるとともに、後進ギヤ段「R」の後進ギヤ段(後進変速段)が成立させられる。図2に示すように、例えば前進ギヤ段では、クラッチC1とブレーキB2との係合により第1速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB1との係合により第2速ギヤ段が、クラッチC1とブレーキB3との係合により第3速ギヤ段が、クラッチC1とクラッチC2との係合により第4速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB3との係合により第5速ギヤ段が、クラッチC2とブレーキB1との係合により第6速ギヤ段が、それぞれ成立させられるようになっている。また、ブレーキB2とブレーキB3との係合により後進ギヤ段が成立させられ、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の何れもが解放されることによりニュートラル状態となるように構成されている。
図2の作動表は、上記各ギヤ段GSとクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の作動状態との関係をまとめたものであり、「○」は係合、「◎」はエンジンブレーキ時のみ係合を表している。尚、第1ギヤ段「1st」を成立させるブレーキB2には並列に一方向クラッチF1が設けられているため、発進時(加速時)には必ずしもブレーキB2を係合させる必要は無い。つまり、発進時にはクラッチC1のみを係合させれば良く、例えば後述するニュートラル制御からの復帰時にはこのクラッチC1が係合させられる。このように、このクラッチC1は発進クラッチとして機能する。また、各ギヤ段GSの変速比γGS(=入力軸26の回転速度NIN/出力歯車28の回転速度NOUT)は、第1遊星歯車装置16、第2遊星歯車装置20、及び第3遊星歯車装置22の各ギヤ比(=サンギヤの歯数/リングギヤの歯数)ρ1、ρ2、ρ3によって適宜定められる。
上記クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3(以下、特に区別しない場合は単にクラッチC、ブレーキBという)は、例えば多板式のクラッチやブレーキなど油圧アクチュエータによって係合制御され、係合によりエンジン30の動力を駆動輪38側へ伝達する油圧式摩擦係合装置である。そして、油圧制御回路110内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5(図3,4参照)の励磁、非励磁や電流制御により、各クラッチC及びブレーキBの係合、解放状態が切り換えられると共に、係合、解放時の過渡係合油圧などが制御される。
図3は、エンジン30や自動変速機12などを制御する為に車両10に設けられた電気的な制御系統の要部を説明するブロック線図である。図3において、車両10には、例えば車両発進に際してロックアップクラッチ33をスリップ係合させる発進時ロックアップスリップ制御や車両停止に際してクラッチC1をスリップ状態乃至解放状態としてエンジン30から駆動輪38までの間の動力伝達経路を動力伝達抑制状態とするニュートラル制御などに関連する発進制御装置を含む電子制御装置50が備えられている。この電子制御装置50は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。例えば、電子制御装置50は、エンジン30の出力制御や自動変速機12の変速制御やロックアップクラッチ33のトルク容量制御等を実行するようになっており、必要に応じてエンジン制御用のエンジン制御装置や自動変速機12の変速制御用の油圧制御装置やロックアップクラッチ33の油圧制御用の油圧制御装置等に分けて構成される。
電子制御装置50には、例えば作動油温センサ52により検出された油圧制御回路110内の作動油(例えば公知のATF)の温度である作動油温TOIL表す信号、アクセル開度センサ54により検出された運転者による車両10に対する要求量(ドライバ要求量)としてのアクセルペダル56の操作量であるアクセル開度Accを表す信号、エンジン回転速度センサ58により検出されたエンジン30の回転速度であるエンジン回転速度NEを表す信号、冷却水温センサ60により検出されたエンジン30の冷却水温TWを表す信号、吸入空気量センサ62により検出されたエンジン30の吸入空気量Qを表す信号、スロットル弁開度センサ64により検出された電子スロットル弁の開度であるスロットル弁開度θTHを表す信号、車速センサ66により検出された車速Vに対応する出力歯車28の回転速度である出力回転速度NOUTを表す信号、ブレーキスイッチ68により検出された常用ブレーキであるフットブレーキの作動中(踏込操作中)を示すフットブレーキペダル70の操作(ブレーキオン)BONを表す信号、レバーポジションセンサ72により検出されたシフトレバー74のレバーポジション(操作位置、シフトポジション)PSHを表す信号、タービン回転速度センサ76により検出されたトルクコンバータ32のタービン軸の回転速度であるタービン回転速度NT(すなわち入力軸26の回転速度である入力回転速度NIN)を表す信号などがそれぞれ供給される。
また、電子制御装置50からは、例えばエンジン30の出力制御の為のエンジン出力制御指令信号SEとして、アクセル開度Accに応じて電子スロットル弁の開閉を制御する為のスロットルアクチュエータへの駆動信号や燃料噴射装置から噴射される燃料噴射量を制御する為の噴射信号やイグナイタによるエンジン30の点火時期を制御する為の点火時期信号などが出力される。また、例えば自動変速機12の変速制御の為の油圧制御指令信号SPとして、自動変速機12のギヤ段GSを切り換える為に油圧制御回路110内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5の励磁、非励磁などを制御する為のバルブ指令信号(油圧指令信号、油圧指令値、駆動信号)や第1ライン油圧PL1などを調圧制御する為のリニアソレノイドバルブSLTへの油圧指令信号などが出力される。また、例えばロックアップクラッチ33の係合、解放、スリップ量NS(=NE−NT)を制御する為のロックアップ制御指令信号SLとして、油圧制御回路110内に備えられたソレノイド弁SL及びリニアソレノイド弁SLU(図5参照)を駆動する為の油圧指令信号などが油圧制御回路110へ出力される。
また、シフトレバー74は、例えば運転席の近傍に配設され、図3に示すように、5つのレバーポジション「P」、「R」、「N」、「D」、または「S」へ手動操作されるようになっている。
「P」ポジション(レンジ)は自動変速機12内の動力伝達経路を解放しすなわち自動変速機12内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態(中立状態)とし且つメカニカルパーキング機構によって機械的に出力歯車28の回転を阻止(ロック)する為の駐車ポジション(位置)である。また、「R」ポジションは自動変速機12の出力歯車28の回転方向を逆回転とする為の後進走行ポジション(位置)である。また、「N」ポジションは自動変速機12内の動力伝達が遮断されるニュートラル状態とする為の中立ポジション(位置)である。また、「D」ポジションは自動変速機12の変速を許容する変速範囲(Dレンジ)で第1ギヤ段「1st」〜第6ギヤ段「6th」の総ての前進ギヤ段を用いて自動変速制御を実行させる前進走行ポジション(位置)である。また、「S」ポジションはギヤ段の変化範囲を制限する複数種類の変速レンジすなわち高車速側のギヤ段が異なる複数種類の変速レンジを切り換えることにより手動変速が可能な前進走行ポジション(位置)である。
上記「D」ポジションは自動変速機12の変速可能な例えば図2に示すような第1速ギヤ段乃至第6速ギヤ段の範囲で自動変速制御が実行される制御様式である自動変速モードを選択するレバーポジションでもあり、「S」ポジションは自動変速機12の各変速レンジの最高速側ギヤ段を超えない範囲で自動変速制御が実行されると共にシフトレバー74の手動操作により変更された変速レンジ(すなわち最高速側ギヤ段)に基づいて手動変速制御が実行される制御様式である手動変速モードを選択するレバーポジションでもある。
尚、上記実施例では、シフトレバー74が「S」ポジションに操作されることにより、最高速側の変速レンジが設定される(シフトレンジ固定)ものであったが、シフトレバー74の操作に基づいて変速段(ギヤ段)が指定される(ギヤ段固定)ものであっても構わない。この場合、自動変速機12ではマニュアルシフト操作される度にその操作に対応する所望のギヤ段となるように変速制御が実行される。
図4は、油圧制御回路110のうちクラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の各油圧アクチュエータ(油圧シリンダ)ACT1〜ACT5の作動を制御するリニアソレノイドバルブSL1〜SL5に関する油圧制御回路の要部を示す図である。また、図5は、油圧制御回路110のうちロックアップクラッチ33の作動制御等に関する油圧制御回路の要部を示す図である。
図4において、油圧供給装置112は、エンジン30によって回転駆動される機械式のオイルポンプ40(図1参照)から発生する油圧を元圧として第1ライン油圧PL1を調圧する例えばリリーフ型のプライマリレギュレータバルブ(第1調圧弁)114と、そのプライマリレギュレータバルブ114から排出される油圧を元圧として第2ライン油圧PL2を調圧するセカンダリレギュレータバルブ(第2調圧弁)116と、スロットル弁開度θTHや吸入空気量Q等で表されるエンジン負荷等に応じた第1ライン油圧PL1及び第2ライン油圧PL2が調圧される為にプライマリレギュレータバルブ114及びセカンダリレギュレータバルブ116へ信号圧PSLTを供給するリニアソレノイドバルブSLTと、第1ライン油圧PL1を元圧としてモジュレータ油圧PMを一定値に調圧するモジュレータバルブ118とを備えている。また、油圧供給装置112は、シフトレバー74の操作に基づいて機械的或いは電気的に油路が切り換えられるマニュアルバルブ120を備えている。このマニュアルバルブ120は、例えばシフトレバー74が「D」ポジション或いは「S」ポジションへ操作されたときには、入力された第1ライン油圧PL1をドライブ油圧PDとして出力し、シフトレバー74が「R」ポジションへ操作されたときには、入力された第1ライン油圧PL1をリバース油圧PRとして出力し、シフトレバー74が「P」ポジション或いは「N」ポジションへ操作されたときには、油圧の出力を遮断する(ドライブ油圧PD及びリバース油圧PRを排出側へ導く)。このように、油圧供給装置112は、第1ライン油圧PL1、第2ライン油圧PL2、モジュレータ油圧PM、ドライブ油圧PD、及びリバース油圧PRを出力するようになっている。
また、油圧制御回路110には、各油圧アクチュエータACT1〜ACT5に対応して、リニアソレノイドバルブSL1〜SL5(以下特に区別しない場合はリニアソレノイドバルブSLと記載する)がそれぞれ設けられている。油圧アクチュエータACT1、ACT2、ACT3、ACT5には、それぞれ対応するリニアソレノイドバルブSL1、SL2、SL3、SL5により、油圧供給装置112からそれぞれ供給されたドライブ油圧PDが電子制御装置50からの各指令信号に応じた各係合油圧PC1、PC2、PB1、PB3に調圧されてそれぞれ直接的に供給される。また、各油圧アクチュエータACT4には、対応するリニアソレノイドバルブSL4により、油圧供給装置112から供給された第1ライン油圧PL1が電子制御装置50からの指令信号に応じた係合油圧PB2に調圧されて直接的に供給される。尚、ブレーキB3の油圧アクチュエータACT5には、リニアソレノイドバルブSL5により調圧された係合油圧PB3またはリバース油圧PRのどちらかがシャトル弁122を介して供給されるようになっている。
リニアソレノイドバルブSL1〜SL5は、基本的には何れも同じ構成であり、電子制御装置50によりそれぞれ独立に励磁、非励磁や電流制御がなされて各油圧アクチュエータACT1〜ACT5へ供給される油圧を独立に調圧制御し、クラッチC1、C2、及びブレーキB1〜B3の係合油圧(クラッチ圧)PC1、PC2、及び係合油圧(ブレーキ圧)PB1、PB2、PB3をそれぞれ制御するものである。例えば、クラッチC1を例にすれば、電子制御装置50から供給される指令値に対応する駆動電流ISL1に応じたC1クラッチ圧PC1がリニアソレノイドバルブSL1から出力される。そして、自動変速機12は、例えば図2の係合作動表に示すように予め定められた係合装置が係合されることによって各ギヤ段GSが成立させられる。また、自動変速機12の変速制御においては、例えば変速に関与するクラッチCやブレーキBの解放側摩擦係合装置と係合側摩擦係合装置との掴み替えによる所謂クラッチツゥクラッチ変速が実行される。このクラッチツゥクラッチ変速の際には、変速ショックを抑制しつつ可及的に速やかに変速が実行されるように解放側摩擦係合装置の解放過渡係合油圧と係合側摩擦係合装置の係合過渡係合油圧とが適切に制御される。例えば、図2の係合作動表に示すように3速→4速のアップシフトでは、ブレーキB3が解放されると共にクラッチC2が係合され、変速ショックを抑制するようにブレーキB3の解放過渡油圧とクラッチC2の係合過渡油圧とが適切に制御される。
図5において、油圧制御回路110は、電子制御装置50によってオンオフ作動させられて切換用信号圧PSLを発生させる切換用ソレノイド弁SLと、ロックアップクラッチ33の解放状態と係合或いはスリップ状態とを切り換える為のロックアップリレーバルブ124と、電子制御装置50から供給される駆動電流ISLUに対応した信号圧PSLUを出力するスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUと、ロックアップリレーバルブ124によりロックアップクラッチ33が係合或いはスリップ状態とされているときに信号圧PSLUに従ってロックアップクラッチ33のスリップ量NSを制御したりロックアップクラッチ33を係合させる為の(すなわちロックアップクラッチ33の作動状態をスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換える為の)ロックアップコントロールバルブ126と、作動油を冷却する為のオイルクーラ128とを、備えている。
ロックアップリレーバルブ124は、接続状態を切り換える為のスプール弁子130を備え、切換用信号圧PSLに応じてロックアップクラッチ33を解放状態とする解放側位置(オフ側位置)とロックアップクラッチ33を係合或いはスリップ状態とする係合側位置(オン側位置)とに切り換えられる。図5においては、中心線より左側がロックアップクラッチ33の解放状態であるオフ側位置(OFF)にスプール弁子130が位置された状態を示しており、中心線より右側が係合或いはスリップ状態であるオン側位置(ON)にスプール弁子130が位置された状態を示している。具体的には、ロックアップリレーバルブ124は、解放側油室32offと連通する解放側ポート132と、係合側油室32onと連通する係合側ポート134と、第2ライン油圧PL2が供給される入力ポート136と、ロックアップクラッチ33の解放時に係合側油室32on内の作動油が排出されると共にそのロックアップクラッチ33の係合時にセカンダリレギュレータバルブ116から流出させられた作動油(PREL)が排出される排出ポート138と、ロックアップクラッチ33の係合時に解放側油室32off内の作動油が排出される迂回ポート140と、セカンダリレギュレータバルブ116から流出させられた作動油(PREL)が供給されるリリーフポート142と、スプール弁子130をオフ側位置に向かって付勢する為のスプリング144と、及びスプール弁子130の端面に切換用ソレノイド弁SLからの切換用信号圧PSLを受け入れる油室146とを備えている。
ロックアップコントロールバルブ126は、スプール弁子148と、そのスプール弁子148をスリップ(SLIP)側位置に向かって付勢する為のスプリング150と、スプール弁子148をスリップ側に位置向かって付勢する為にトルクコンバータ32の係合側油室32on内の油圧PONを受け入れる油室152と、スプール弁子148を完全係合(ON)側位置に向かって付勢する為にトルクコンバータ32の解放側油室32off内の油圧POFFを受け入れる油室154と、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUから出力される信号圧PSLUが供給される油室156と、第2ライン油圧PL2が供給される入力ポート158と、ロックアップリレーバルブ124の迂回ポート140から出力される油圧が供給される制御ポート160とを備えている。尚、図5においては、中心線より左側がスリップ(SLIP)側位置にスプール弁子148が位置された状態を示しており、中心線より右側が完全係合(ON)側位置にスプール弁子148が位置された状態を示している。
スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUは、電子制御装置50からの指令に従って、ロックアップクラッチ33の係合乃至スリップ係合時におけるその係合圧を制御する信号圧PSLUを出力するものである。例えば、モジュレータ油圧PMを元圧とし、そのモジュレータ油圧PMを減圧して信号圧PSLUを出力する電磁制御弁であって、電子制御装置50から供給される指令値に対応する駆動電流(励磁電流)ISLUに比例した信号圧PSLUを発生させる。また、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUのドレーンポート162は、チェックボール164に連通されているため、そのチェックボール164によって常時塞がれており、そのチェックボール164に所定以上の圧力がかかると開弁させられて作動油が排出されるように構成されている。
切換用ソレノイド弁SLは、電子制御装置50からの指令に従って所定の切換用信号圧PSLを出力するものである。例えば、非励磁状態(オフ状態)では切換用信号圧PSLをドレン圧とするが、励磁状態(オン状態)では切換用信号圧PSLをモジュレータ油圧PMとして油室146に作用させることで、ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130を係合状態であるオン側位置(ON)に移動させるように構成されている。
以上のように構成された油圧制御回路110により係合側油室32on及び解放側油室32offへの作動油圧の供給状態が切り換えられ、ロックアップクラッチ33の作動状態が切り換えらる。先ず、ロックアップクラッチ33がスリップ状態乃至ロックアップオンとされた場合を説明する。ロックアップリレーバルブ124において、切換用ソレノイド弁SLによって切換用信号圧PSLが油室146へ供給されてスプール弁子130がオン側位置へ付勢されると、入力ポート136に供給された第2ライン油圧PL2が係合側ポート134から係合側油室32onへ供給される。この係合側油室32onへ供給される第2ライン油圧PL2が油圧PONとなる。同時に解放側油室32offは、解放側ポート132から迂回ポート140を経てロックアップコントロールバルブ126の制御ポート160に連通させられる。そして、解放側油室32off内の油圧POFFがロックアップコントロールバルブ126により調整されて(すなわちロックアップコントロールバルブ126により差圧ΔP(=PON−POFF)すなわち係合圧が調整されて)、そのロックアップクラッチ33の作動状態がスリップ状態乃至ロックアップオンの範囲で切り換えられる。
具体的には、ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130が係合(ON)側位置へ付勢されているときにすなわちロックアップクラッチ33が係合乃至スリップ状態に切り換えられているときに、ロックアップコントロールバルブ126においてスプール弁子148が完全係合(ON)側位置へ付勢される為の信号圧PSLUが油室156へ供給されず、スプリング150の推力によってスプール弁子148がスリップ(SLIP)側位置とされると、入力ポート158に供給された第2ライン油圧PL2が制御ポート160から迂回ポート140を経て解放側ポート132から解放側油室32offへ供給される。この制御ポート160から出力される作動油の流量は、油室156へ供給される信号圧PSLUによって制御される。すなわち、スプール弁子148がスリップ(SLIP)側位置とされた状態においては、差圧ΔPがスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御されてロックアップクラッチ33のスリップ状態が制御される。
また、ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130がON側位置へ付勢されているときに、ロックアップコントロールバルブ126においてスプール弁子148が完全係合(ON)側位置へ付勢される為の信号圧PSLUが油室156に供給されると、入力ポート158から解放側油室32offへは第2ライン油圧PL2が供給されず、その解放側油室32offからの作動油がドレーンポートEXから排出される。これにより、差圧ΔPが最大とされてロックアップクラッチ33が完全係合状態となる。また、ロックアップクラッチ33がスリップ状態もしくは完全係合状態において、ロックアップリレーバルブ124はオン側位置に位置させられるため、リリーフポート142と排出ポート138とが連通させられる。これにより、セカンダリレギュレータバルブ116から流出させられた作動油(PREL)が排出ポート138からオイルクーラ128に供給される。
一方、ロックアップリレーバルブ124において、切換用信号圧PSLが油室146に供給されず、スプリング144の付勢力によってスプール弁子130がオフ側位置へ位置させられると、入力ポート136に供給された第2ライン油圧PL2が解放側ポート132から解放側油室32offへ供給される。そして、係合側油室32onを経て係合側ポート134に排出された作動油が排出ポート138からオイルクーラ128に供給されて冷却される。すなわち、ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130がオフ側位置へ位置させられている状態においては、ロックアップクラッチ33は解放状態とされ、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLU乃至ロックアップコントロールバルブ126を介してのスリップ乃至係合制御は行われない。換言すれば、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUから出力される信号圧PSLUが変化させられた場合であっても、ロックアップリレーバルブ124のスプール弁子130がオフ側位置へ位置させられている限りにおいてその変化はロックアップクラッチ33の係合状態(差圧ΔP)に反映されない。尚、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUによって制御される差圧ΔPは、ロックアップクラッチ33の係合乃至解放状態を表す油圧値であり、本実施例ではロックアップクラッチ圧PLUとする。また、このロックアップクラッチ圧PLUは、スリップ量NSやロックアップクラッチ33のトルク容量TCに対応する油圧値でもある。また、スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUの信号圧PSLUは、ロックアップクラッチ圧PLUの油圧指令値である。
図6は、電子制御装置50による制御機能の要部を説明する機能ブロック線図である。図6において、エンジン出力制御部すなわちエンジン出力制御手段80は、例えばスロットル制御の為にスロットルアクチュエータにより電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射量制御の為に燃料噴射装置による燃料噴射量を制御し、点火時期制御の為にイグナイタ等の点火装置を制御するエンジン出力制御指令信号SEを出力する。例えば、エンジン出力制御手段80は、図7に示すようなスロットル弁開度θTHをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEの推定値(以下推定エンジントルク)TE’との予め実験的に求められて記憶された関係(エンジントルクマップ)から実際のエンジン回転速度NEに基づいて目標エンジントルクTE *が得られるスロットル弁開度θTHとなるように電子スロットル弁を開閉制御する他、燃料噴射装置による燃料噴射量を制御し、イグナイタ等の点火装置を制御する。上記目標エンジントルクTE *は、例えばドライバ要求量に対応するアクセル開度Accに基づいてそのアクセル開度Accが大きい程大きくされるように電子制御装置50により求められるものであり、ドライバー要求エンジントルクに相当する。
変速制御部すなわち変速制御手段82は、例えば図8に示すような車速V及びアクセル開度Accを変数として予め記憶された関係(変速マップ、変速線図)から実際の車速V及びアクセル開度Accで示される車両状態に基づいて変速判断を行い、自動変速機12の変速を実行すべきか否かを判断する。そして、変速制御手段82は、自動変速機12の変速すべきギヤ段を判断し、その判断したギヤ段が得られるように自動変速機12の自動変速制御を実行する変速指令を出力する。例えば、変速制御手段82は、図2に示す係合表に従ってギヤ段が達成されるように、自動変速機12の変速に関与する油圧式摩擦係合装置を係合及び/又は解放させる油圧制御指令信号(変速出力指令値)SPを油圧制御回路110へ出力する。
図8の変速マップにおいて、実線はアップシフトが判断されるための変速線(アップシフト線)であり、破線はダウンシフトが判断されるための変速線(ダウンシフト線)である。この図8の変速マップにおける変速線は、例えば実際のアクセル開度Acc(%)を示す横線上において実際の車速Vが線を横切ったか否かすなわち変速線上の変速を実行すべき値(変速点車速)VSを越えたか否かを判断するためのものであり、この値VSすなわち変速点車速の連なりとして予め記憶されていることにもなる。
前記油圧制御指令信号SPは、クラッチCやブレーキBのクラッチ圧に対応するトルク伝達容量(クラッチトルク)を制御する為のトルク指令値、すなわち必要なトルク伝達容量が得られる係合油圧を発生する為の油圧指令値であって、例えば解放側摩擦係合装置のトルク指令値として解放側摩擦係合装置を解放する為の必要なトルク伝達容量が得られるように作動油が排出される油圧指令値が出力されると共に、係合側摩擦係合装置のトルク指令値として係合側摩擦係合装置を係合する為の必要なトルク伝達容量が得られるように作動油が供給される油圧指令値が出力される。また、自動変速機12の何れかのギヤ段GSを維持する非変速時には、変速機入力トルクTINに耐えうる摩擦力を保持できる(すなわちトルク伝達容量を確保できる)係合油圧を発生するための油圧指令値が出力される。油圧制御回路110は、変速制御手段82による油圧制御指令信号SPに従って、自動変速機12の変速が実行されるように、或いは自動変速機12の現在のギヤ段GSが維持されるように、油圧制御回路110内のリニアソレノイドバルブSL1〜SL5を作動させて、そのギヤ段GS成立(形成)に関与する油圧式摩擦係合装置の各油圧アクチュエータACT1〜ACT5を作動させる。
ロックアップクラッチ制御部すなわちロックアップクラッチ制御手段84は、例えば図9に示すような車速V及びスロットル弁開度θTHを変数としてロックアップ解放(ロックアップオフ)領域、スリップ制御領域(ロックアップスリップ制御作動領域)、ロックアップ制御作動領域(ロックアップオン)領域を有する予め記憶された関係(マップ、ロックアップ領域線図)から、実際の車速V及びスロットル弁開度θTHで示される車両状態に基づいてロックアップクラッチ33の作動状態の切換えを制御する。例えば、ロックアップクラッチ制御手段84は、上記ロックアップ領域線図から実際の車両状態に基づいてロックアップクラッチ33のロックアップ解放領域、ロックアップスリップ制御作動領域、ロックアップ制御作動領域の何れかであるかを判断し、ロックアップクラッチ33のロックアップ解放への切換え或いはロックアップスリップ制御作動乃至ロックアップ制御作動への切換えの為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路110へ出力する。また、ロックアップクラッチ制御手段84は、ロックアップスリップ制御作動領域であると判断すると、ロックアップクラッチ33の実際のスリップ量NS(=NE−NT)を逐次算出し、その実際のスリップ量NSが目標スリップ量NS *となるように差圧ΔPを制御する為のロックアップ制御指令信号SLを油圧制御回路110へ出力する。例えば、比較的高車速領域においては、ロックアップクラッチ33をロックアップ(完全係合)してポンプ翼車32pとタービン翼車32tとを直結することで、トルクコンバータ32の滑り損失(内部損失)を無くして燃費を向上させている。また、比較的低中速領域においては、ポンプ翼車32pとタービン翼車32tとの間に所定の微少な滑りを与えて係合させるスリップ制御(ロックアップスリップ制御)を実施することで、ロックアップ作動領域を拡大し、トルクコンバータ32の伝達効率を向上して燃費を向上させている。
油圧制御回路110は、ロックアップクラッチ制御手段84からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ33の解放とスリップ状態乃至係合とが切り換えられるように切換用ソレノイド弁SLを作動させてロックアップリレーバルブ124の弁位置を解放側(OFF)位置と係合側(ON)位置とで切り換える。また、油圧制御回路110は、ロックアップクラッチ制御手段84からのロックアップ制御指令信号SLに従ってロックアップクラッチ33のスリップ状態乃至係合におけるトルク容量TCがロックアップコントロールバルブ126を介して増減されるようにスリップ制御用リニアソレノイド弁SLUを作動させてロックアップクラッチ33を係合したりロックアップクラッチ33のスリップ量NSを制御する。
ここで、本実施例の車両10では、例えば車両停車中におけるエンジン30のアイドリング負荷を低減する為にニュートラル制御を実行する。このニュートラル制御は、例えば予め設定された所定のニュートラル制御条件が満たされた場合に、発進クラッチであるクラッチC1を所定のスリップ状態乃至解放状態として自動変速機12内の動力伝達経路を動力伝達抑制状態(すなわち動力伝達遮断状態と略同等の状態乃至動力伝達遮断状態)とする制御である。尚、クラッチC1の所定のスリップ状態とは、若干の滑りを有するが係合荷重の殆ど生じていないすなわちトルク伝達容量を殆ど持たない解放状態と同等の状態である。
具体的には、ニュートラル制御条件判定部すなわちニュートラル制御条件判定手段86は、例えばシフトレバー74の走行ポジションにおいて所定のニュートラル制御条件が成立するか否かを判定する。すなわち、ニュートラル制御条件判定手段86は、所定のニュートラル制御条件が成立するか否かを判定することにより、ニュートラル制御の実行を開始するか否かを逐次判定するニュートラル制御実行判定手段である。この所定のニュートラル制御条件は、例えば車両10が停止中であってアクセルペダル56が踏み込まれておらず、フットブレーキペダル70が踏まれていることなどである。ニュートラル制御条件判定手段86は、例えばレバーポジションPSHが「D」ポジションであるときに、車速Vが車両停止を判定する為の所定の車速零判定値であり、アクセル開度Accがアクセルオフを判定する為の所定の開度零判定値であり、且つブレーキスイッチ68から操作(オン)BONを表す信号が出力されている場合に、ニュートラル制御条件が成立したと判定する。
また、ニュートラル制御条件判定手段86は、後述するニュートラル制御手段88によるニュートラル制御中に前記所定のニュートラル制御条件が成立するか否かを判定することにより、そのニュートラル制御を解除(終了)するか否かを逐次判定する、すなわちニュートラル制御からの復帰を開始するか否かを逐次判定するニュートラル制御解除判定手段でもある。例えば、ニュートラル制御条件判定手段86は、ニュートラル制御手段88によるニュートラル制御中に、例えばレバーポジションPSHが「D」ポジションから操作されたか、アクセルペダル56が踏込み操作されたと判定されるような所定のアクセル開度判定値以上となったか、或いはブレーキスイッチ68から操作(オン)BONを表す信号が出力されなくなったブレーキオフの場合に、ニュートラル制御の解除開始を判定する。
ニュートラル制御部すなわちニュートラル制御手段88は、例えばニュートラル制御条件判定手段86によりシフトレバー74の「D」ポジションにおいて前記所定のニュートラル制御条件が成立したと判定された場合には、第1速ギヤ段を達成する為の係合装置であるクラッチC1を所定のスリップ状態乃至解放状態とするニュートラル制御実行指令を変速制御手段82に出力して、自動変速機12を含む動力伝達経路を動力伝達抑制状態乃至動力伝達遮断状態とするニュートラル制御を実行する。変速制御手段82は、そのニュートラル制御実行指令に従って、クラッチC1を所定のスリップ状態乃至解放状態とするように予め設定された通常N制御時の設定圧としての所定の解放パターンすなわちクラッチC1の油圧指令値に従ってクラッチC1の係合圧を低下させるクラッチ解放指令を油圧制御回路110に出力する。自動変速機12内の動力伝達が抑制乃至遮断(解放)されることにより、トルクコンバータ32の後段側(下流側)の負荷が抑制され、トルクコンバータ32が略一体回転するようになってエンジン30のアイドリング負荷が抑制され、燃費やNVH(騒音・振動・乗り心地)性能が向上する。このように、ニュートラル制御では、クラッチC1が例えば解放状態(或いはわずかにスリップ係合するような係合直前状態)とさせられることにより、自動変速機12内の動力伝達経路が実質的に解放状態とされつつ、クラッチC1の半係合から係合への切換によって直ちに発進可能な発進待機状態とされる。
ニュートラル解除時制御部すなわちニュートラル解除時制御手段90は、例えばニュートラル制御手段88によるニュートラル制御中にニュートラル制御条件判定手段86によりニュートラル制御の解除開始が判定された場合には、自動変速機12を含む動力伝達経路を動力伝達可能状態とするように、第1速ギヤ段の係合側係合装置であるクラッチC1のトルク伝達容量を増加させて係合させるニュートラル制御解除指令を変速制御手段82に出力して、ニュートラル制御を解除(終了)するすなわちニュートラル制御から復帰させる。変速制御手段82は、そのニュートラル制御解除指令に従って、クラッチC1を係合状態とするように予め設定された通常解除時の設定圧としての所定の係合パターンすなわちクラッチC1の油圧指令値に従ってクラッチC1の係合油圧(C1クラッチ圧)PC1を上昇させるクラッチ係合指令を油圧制御回路110に出力する。
上記通常解除時の所定の係合パターンは、例えばブレーキオフによりニュートラル制御が解除されるが未だアクセルオフのままであるとき、或いはアクセルオンであっても発進時ロックアップスリップ制御が実行されない車両発進であるときすなわち発進時ロックアップスリップ制御を伴わずにニュートラル制御を解除するとき等に用いられる。つまり、ニュートラル制御の解除を単独で実行する通常時に用いられる係合パターンである。通常解除時の所定の係合パターンとしては、例えば図10に示すように、タービン回転速度NTをクラッチC1の出力側の回転速度としての車速Vに拘束されるサンギヤS3の回転速度NS3に向けて所定の傾きで低下させるように、すなわちクラッチC1の入出力間の差回転速度ΔNC1(=NT−NS3)が所定の傾きで零に向かうように、クラッチC1のトルク伝達容量(係合油圧PC1)を増加させて係合させる油圧指令値とする。つまり、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時のサンギヤS3の回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾きとするように、C1クラッチ圧PC1を設定する。上記所定の傾きすなわち予め設定された傾きは、例えばクラッチC1の係合ショックやタービン回転速度NTの低下に伴って発生するイナーシャトルクによるショック等を抑制しつつ、発進応答性を向上する為にニュートラル制御をできるだけ早く解除する為の予め実験的に求められて設定されたタービン回転速度NTの所定の傾き(所定の変化速度(dNT/dt)’)である。つまり、上記通常解除時の所定の係合パターンは、ニュートラル制御解除時の実行時間を常に安定した時間すなわち一定の時間とする為の係合パターンである。
尚、サンギヤS3の回転速度NS3は、タービン回転速度NTと同意の入力回転速度NINとは異なるが、クラッチC1の係合により入力回転速度NINと同回転速度となることから、自動変速機12の入力回転速度と見ることもできる。従って、本実施例では、入力軸26の回転速度を入力回転速度NINとし、サンギヤS3の回転速度NS3を変速機入力側回転速度NS3とする。また、変速機入力側回転速度NS3はタービン回転速度NT等と同様に、直接的に回転センサを用いて検出しても良いが、電子制御装置50により出力回転速度NOUTと自動変速機12の現在のギヤ段GSにおける変速比γGSに基づいて変速機入力側回転速度NS3(=γGS×NOUT)が算出されても良い。
図10において、上記通常解除時の所定の係合パターンにおけるクラッチC1の油圧指令値として、先ず、ファーストフィル(急速充填)の為の油圧指令値が出力開始され(t1時点)、次いで、低圧にて待機する為の低圧待機圧PWLに維持される(t2時点乃至t3時点)。その後、係合ショックを抑制しつつ差回転速度ΔNC1が零とされるようにすなわちクラッチC1が係合されるようにクラッチC1のトルク伝達容量を増加させる為の所定の勾配にて低圧待機圧PWLから漸増する油圧指令値が出力される(t3時点以降)。そして、低圧待機圧PWLから漸増させているときにクラッチC1がトルク伝達容量を持ち始めてタービン回転速度NTが低下し始め(t4時点)、差回転速度ΔNC1が零とされると(t5時点)、例えば所定期間を待って最終的な係合油圧PC1を得る為の油圧指令値とされ、ニュートラル制御が終了させられる(t6時点以降)。
上記低圧待機圧PWLや上記所定の勾配は、タービン回転速度NTを変速機入力側回転速度NS3に向けて所定の傾きで低下させるようにすなわちクラッチC1の係合により変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾きとするように、例えばアクセル開度Accやスロットル弁開度θTH等に応じて設定される。つまり、アクセル開度Accが大きい程すなわちスロットル弁開度θTHが大きい程、エンジントルクTEが大きくなるすなわちクラッチC1に伝達される伝達トルクTIN(すなわち変速機入力トルクTINに相当するトルク)が大きくなる。その為、上記低圧待機圧PWLや上記所定の勾配を設定するにあたって、例えばクラッチC1に伝達される伝達トルクTINが想定したトルクよりも大きいとタービン回転速度NTの傾きが緩やかになり、ニュートラル制御解除時の実行時間が長くなって発進応答性が低下する。反対に、例えばクラッチC1に伝達される伝達トルクTINが想定したトルクよりも小さいとタービン回転速度NTの傾きが急になり、ニュートラル制御解除時の実行時間が短くなってクラッチC1係合時のショックが増大する可能性がある。従って、タービン回転速度NTを変速機入力側回転速度NS3に向けて所定の傾きで低下させるにはすなわちニュートラル制御解除時の実行時間を常に安定した時間とするには、例えばアクセル開度Accが大きい程すなわちクラッチC1の入力側へ伝達される伝達トルクTINが大きい程、上記所定の勾配を大きくしたり、低圧待機圧PWLを大きくするように、上記通常解除時の所定の係合パターンを設定する。尚、最終的な係合油圧PC1もアクセル開度Accが大きい程大きくされることはもちろんのこと、アクセル開度Accに替えて、スロットル弁開度θTH、吸入空気量Q、燃料噴射量、スロットル弁開度θTH或いは吸入空気量Qなどから算出した推定エンジントルクTE’などを用いるなど種々の態様が可能であることは言うまでもない。
また、上記所定期間(図10におけるt5時点乃至t6時点)は、必ずしも設ける必要はなく、例えば差回転速度ΔNC1の零判定時すなわちタービン回転速度NTの変速機入力側回転速度NS3に対する同期判定時に、最終的な係合油圧PC1を得る為の油圧指令値としてニュートラル制御を終了するようにしても良い。
図6に戻り、ニュートラル解除進行度判定部すなわちニュートラル解除進行度判定手段92は、例えばニュートラル解除時制御手段90及び変速制御手段82によるニュートラル制御の解除過程において、クラッチC1の係合が完了したか否かを、すなわちタービン回転速度NTが変速機入力側回転速度NS3と同期したか否かを判定する。例えば、ニュートラル解除進行度判定手段92は、クラッチC1の入出力間の差回転速度ΔNC1(=NT−NS3)がクラッチC1の係合完了を判定する為の所定の差回転零判定値となったか否かに基づいて、クラッチC1の係合が完了したか否かを判定する。すなわち、ニュートラル解除進行度判定手段92は、タービン回転速度NTと変速機入力側回転速度NS3との差回転速度ΔNC1がタービン回転速度NTの同期を判定する為の所定の差回転零判定値となったか否かに基づいて、タービン回転速度NTが変速機入力側回転速度NS3と同期したか否かを判定する。変速制御手段82は、ニュートラル解除進行度判定手段92によりクラッチC1の係合が完了したと判定された場合には、上記所定の係合パターンに従ったクラッチ係合指令において所定期間を経て速やかに最終的な係合油圧PC1とするように(或いは速やかに最終的な係合油圧PC1とするように)ニュートラル制御を終了に向けて制御するクラッチ係合指令を油圧制御回路110に出力する。
このように、本実施例の車両10では例えば車両停車中にニュートラル制御を実行する。一方で、本実施例の車両10では、例えばアクセルオン(アクセルペダル56の踏込み操作)に伴う車両発進に際して、エンジン回転速度NEの吹け上がりを抑制して燃料消費を抑制する為に発進時ロックアップスリップ制御を実行する。この発進時ロックアップスリップ制御は、例えば予め設定された所定の発進時ロックアップスリップ制御条件が満たされた場合に、ロックアップクラッチ33を係合側に向けてスリップ係合させてエンジントルクTEの一部をロックアップクラッチ33を介して自動変速機12へ入力させることにより、トルクコンバータ32とロックアップクラッチ33を介して発進時の動力を伝達させる車両発進制御である。この発進時ロックアップスリップ制御では、例えばアクセル開度Accに応じて燃費や動力性能を両立させる為の予め設定された目標エンジン回転速度NE *以上にエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制して燃料消費を抑制する。このような発進時ロックアップスリップ制御を実行する車両状態において、ロックアップクラッチ33が解放されている状態でのアクセルオン直後(例えば車両発進直後)では、エンジン回転速度NEが立ち上がる過渡期である為にスリップ量NS(=NE−NT)を制御し難い。その為、この発進時ロックアップスリップ制御では、車両発進の当初はオープンループ制御(オープン制御、フィードフォワード制御)にてエンジン回転速度NEの吹け上がりを抑制する。そして、エンジン回転速度NEが目標エンジン回転速度NE *に収束されてスリップ量NSがある程度小さくなってから、クローズドループによるフィードバック制御に切り替えてスリップ量NSを制御する(すなわちロックアップクラッチ33のトルク容量TCを制御する)加速時ロックアップスリップ制御を実行する。尚、この加速時ロックアップスリップ制御については、発進時ロックアップスリップ制御と特に区別することなく、発進時ロックアップスリップ制御における一連の制御の一つとしてもよい。本実施例では、オープン制御にて実行される発進時ロックアップスリップ制御について主に取り扱う。
具体的には、図6において、発進時スリップ制御条件判定部すなわち発進時スリップ制御条件判定手段94は、例えば所定の発進時ロックアップスリップ制御条件が成立するか否かを判定する。すなわち、発進時スリップ制御条件判定手段94は、所定の発進時ロックアップスリップ制御条件が成立するか否かを判定することにより、発進時ロックアップスリップ制御の実行を開始するか否かを逐次判定する発進時ロックアップスリップ制御実行判定手段である。この所定の発進時ロックアップスリップ制御条件は、例えばアクセル開度Accが所定値以上(アクセルオン)となり、車速Vが所定値以上であることすなわち車輪(例えば駆動輪38)が転がり始めたことである。発進時スリップ制御条件判定手段94は、例えばレバーポジションPSHが「D」ポジションであるときに、アクセルペダル56の踏込操作が為されてアクセルオンとされすなわちアクセル開度Accがアクセルオフを判定する為の所定の開度零判定値を超え、且つ車速Vが車両停止を判定する為の所定の車速零判定値を超えた場合に、発進時ロックアップスリップ制御条件が成立したと判定する。
発進時ロックアップスリップ制御部すなわち発進時ロックアップスリップ制御手段96は、例えば発進時スリップ制御条件判定手段94により所定の発進時ロックアップスリップ制御条件が成立したと判定された場合には、ロックアップクラッチ33をスリップ係合させながら係合側に向けて制御する発進時ロックアップスリップ制御実行指令をロックアップクラッチ制御手段84に出力して、アクセルオンに伴う車両発進に際してエンジン回転速度NEを抑制する発進時ロックアップスリップ制御を実行する。ロックアップクラッチ制御手段84は、その発進時ロックアップスリップ制御実行指令に従って、例えばアクセル開度Accに応じて燃費や動力性能を両立させる為の目標エンジン回転速度NE *を設定する。そして、ロックアップクラッチ制御手段84は、ロックアップクラッチ33をスリップ係合させながら係合側に向けて制御するように予め設定された通常発進時の設定圧としての所定のスリップ係合パターンすなわちロックアップクラッチ33の油圧指令値に従ってロックアップクラッチ33のロックアップクラッチ圧PLUを上昇させるスリップ係合指令を油圧制御回路110に出力する。車両発進時にロックアップクラッチ33がスリップ係合させられることにより、目標エンジン回転速度NE *以上にエンジン回転速度NEが吹け上がるのが抑制されると共に目標エンジン回転速度NE *にエンジン回転速度NEが維持(収束)され、燃費が向上する。このように、発進時ロックアップスリップ制御では、目標エンジン回転速度NE *と、車速Vと共に変化するタービン回転速度NTとのスリップ量NSを制御して、エンジン回転速度NEの吹け上がりを抑制すると共に目標エンジン回転速度NE *に維持する。但し、ロックアップクラッチ制御手段84は、車両発進当初は、オープン制御にて所定の発進時ロックアップスリップ制御を行ってロックアップクラッチ33のトルク容量TCを制御する。
上記通常発進時の所定のスリップ係合パターンは、例えばニュートラル制御が実行されていない車両停止時からの車両発進であるとき、或いはニュートラル制御が終了した以後に発進時ロックアップスリップ制御を実行するとき等に用いられる。つまり、発進時ロックアップスリップ制御を単独で実行する通常時に用いられるスリップ係合パターンである。通常発進時の所定のスリップ係合パターンとしては、例えば図11に示すように、目標エンジン回転速度NE *以上にエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制すると共に目標エンジン回転速度NE *にエンジン回転速度NEを維持(収束)するように、ロックアップクラッチ33トルク容量TC(ロックアップクラッチ圧PLU)を増加させてスリップ係合させる油圧指令値とする。
図11において、上記通常発進時の所定のスリップ係合パターンにおけるロックアップクラッチ33の油圧指令値(スリップ制御用リニアソレノイド弁SLUへの指令値である駆動電流ISLUに比例した信号圧PSLUに相当)として、先ず、ファーストフィル(急速充填)の為の油圧指令値が出力開始され(t1時点)、次いで、低圧にて待機する為の低圧待機圧PWLUに維持される(t2時点乃至t3時点)。その後、ロックアップクラッチ33が係合側に向けてスリップ係合されるようにロックアップクラッチ33トルク容量TC(ロックアップクラッチ圧PLU)を増加させる為の所定の勾配にて低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧指令値が出力される(t3時点乃至t4時点)。そして、エンジン回転速度NEが目標エンジン回転速度NE *に維持(収束)されるように目標油圧PLU *に維持される(t4時点以降)。尚、例えばエンジン回転速度NEが目標エンジン回転速度NE *に収束されてスリップ量NSがある程度小さくなると、それまでのオープン制御からフィードバック制御に切り替えられてスリップ量NSが制御される(t5時点以降)。
上記低圧待機圧PWLU、上記所定の勾配、及び上記目標油圧PLU *は、目標エンジン回転速度NE *以上にエンジン回転速度NEが吹け上がるのを抑制すると共に目標エンジン回転速度NE *にエンジン回転速度NEを維持(収束)するように、例えばアクセル開度Accやスロットル弁開度θTH等に応じて設定される。つまり、アクセル開度Accが大きい程すなわちスロットル弁開度θTHが大きい程、エンジントルクTEが大きく、又エンジン30の吹け上がりも急となる。その為、アクセル開度Accが大きい程より早くトルク容量TCを増大させてエンジン回転速度NEを抑制するという観点から、例えばアクセル開度Accが大きい程、上記所定の勾配を大きくしたり、目標油圧PLU *を大きくしたり、低圧待機圧PWLを大きくするように、上記通常発進時の所定のスリップ係合パターンを設定する。尚、アクセル開度Accに替えて、スロットル弁開度θTH、吸入空気量Q、燃料噴射量、スロットル弁開度θTH或いは吸入空気量Qなどから算出した推定エンジントルクTE’などを用いるなど種々の態様が可能であることは言うまでもない。
ところで、ニュートラル制御の解除においてはクラッチC1を係合させる制御であり、発進時ロックアップスリップ制御においてはロックアップクラッチ33を係合側に向けてスリップ係合させる制御である。その為、車両発進に際して、ニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とが重なって実行されると、クラッチC1の係合とロックアップクラッチ33のスリップ係合とが相互に影響を及ぼし合い、それぞれの制御を安定して実行することができない可能性がある。これに対して、ニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とをそれぞれ安定して実行する為に、それぞれの制御を順に実行することが考えられる。しかしながら、発進時ロックアップスリップ制御による燃費向上効果が低下したり、ニュートラル制御の解除開始が遅れることにより発進応答性が低下したり、ニュートラル制御の解除時の実行時間を短くするが為に発進クラッチの係合に伴うショックが増大する可能性がある。
そこで、本実施例では、ニュートラル解除時制御手段90によるニュートラル制御の解除時に発進時ロックアップスリップ制御手段96による発進時ロックアップスリップ制御を重ねて実行する際には、ニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とをそれぞれ安定して実行する為に、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きをC1クラッチ圧PC1により制御する。
具体的には、前述したように、ニュートラル制御の解除中におけるクラッチC1の係合過渡状態では、例えばアクセル開度やエンジン30側からクラッチC1へ伝達される伝達トルクTINなどに基づいてC1クラッチ圧PC1が設定される(図10参照)。このとき、発進時ロックアップスリップ制御が重ねて実行されると、ロックアップクラッチ33が係合側に制御されることから、クラッチC1に伝達される伝達トルクTINが変化する。このため、図10に示すような、ニュートラル制御の解除を単独で実行するときの通常解除時の所定の係合パターンにおけるクラッチC1の元々の設定圧では、クラッチC1に伝達される伝達トルクTINが増加した場合に、ニュートラル制御の解除完了までの時間が遅延したり、クラッチC1の係合ショックが増大する可能性がある。或いは、クラッチC1に伝達される伝達トルクTINが減少した場合に、タービン回転速度NTの傾きが急となってイナーシャショックが増大する可能性がある。そこで、本実施例では、例えばエンジントルクTEとロックアップクラッチ圧PLUとに基づいてクラッチC1へ伝達される伝達トルクTINの変動分を算出し、そのトルクの変動分に応じてC1クラッチ圧PC1を設定する。具体的には、発進時ロックアップスリップ制御を伴わずにニュートラル制御を解除する際に予め設定されている図10に示すような通常解除時の所定の係合パターンにおけるC1クラッチ圧PC1の設定圧を、上記算出したクラッチC1へ伝達される伝達トルクTINの変動分に応じて補正する。
より具体的には、図6に戻り、油圧設定部すなわち油圧設定手段98は、例えば吸入空気量Qをパラメータとしてエンジン回転速度NEとエンジントルクTEとの予め実験的に求められて記憶された図12に示すような関係(マップ、エンジントルク特性図)から実際のエンジン回転速度NE及び吸入空気量Qに基づいて推定エンジントルクTEesを算出する。また、油圧設定手段98は、発進時ロックアップスリップ制御時にトルクコンバータ32を介して自動変速機12へ入力されるトルクすなわちクラッチC1の入力側へ伝達される伝達トルクTINT/Cを、例えば推定エンジントルクTEesにトルクコンバータ32のトルク比t(=タービントルクTT)/ポンプトルクTP)を乗じたトルク(=TEes×t)として算出する。また、油圧設定手段98は、例えば速度比e(=タービン回転速度NT/ポンプ回転速度NP(エンジン回転速度NE))とトルク比t、効率η、及び容量係数Cとのそれぞれの予め実験的に求められて記憶された図13に示すような関係(マップ、トルクコンバータ32の所定の作動特性図)から実際の速度比eに基づいてトルクコンバータ32のトルク比tを算出する。また、油圧設定手段98は、発進時ロックアップスリップ制御時にロックアップクラッチ33を介してクラッチC1の入力側へ伝達される伝達トルクTINL/Uを、例えば図11に示すような発進時ロックアップスリップ制御時のロックアップクラッチ33の油圧指令値(ロックアップクラッチ33のトルク容量TC)と推定エンジントルクTEesとに基づいて算出する。そして、油圧設定手段98は、上記伝達トルクTINT/Cと伝達トルクTINL/Uとを加算して、発進時ロックアップスリップ制御時にクラッチC1に伝達されるスリップ制御時伝達トルクTIN(T/C+L/U)(=TINT/C+TINL/U)を算出する。
また、前述したように、例えば図10に示すような通常解除時の所定の係合パターンにおけるC1クラッチ圧PC1の設定圧は、ニュートラル制御解除時の実行時間を常に安定した時間とする為に、例えばアクセル開度Accが大きい程すなわちクラッチC1の入力側へ伝達される伝達トルクTINに応じて設定されている。従って、発進時ロックアップスリップ制御とニュートラル制御の解除とが重ねて実行されるときには、上記通常解除時のC1クラッチ圧PC1の設定圧から逆にニュートラル制御の解除が単独で実行されるときの伝達トルクTINとして想定されているトルクを算出することができる。そこで、油圧設定手段98は、例えば通常解除時の所定の係合パターンにおけるクラッチC1の元々の設定圧に基づいて、発進時ロックアップスリップ制御を伴わないニュートラル制御の解除時にクラッチC1に伝達される解除単独時伝達トルクTINNを算出する。また、油圧設定手段98は、例えばスリップ制御時伝達トルクTIN(T/C+L/U)と解除単独時伝達トルクTINNとの差分トルクを伝達トルクTINの変動分(伝達トルク変動分)ΔTIN(=TIN(T/C+L/U)−TINN)として算出する。
そして、油圧設定手段98は、例えば発進時ロックアップスリップ制御とニュートラル制御の解除とが重ねて実行される際には、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾き(dNT/dt)’とするように、伝達トルク変動分ΔTINに応じてC1クラッチ圧PC1を設定する。このように、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを、C1クラッチ圧PC1により制御するのである。例えば、油圧設定手段98は、図10に示すような通常解除時の所定の係合パターンにおけるクラッチC1の設定圧を伝達トルク変動分ΔTINに応じて補正する。具体的には、油圧設定手段98は、伝達トルク変動分ΔTINが正の数値であれば、伝達トルク変動分ΔTINが大きい程、通常解除時の所定の係合パターンにおけるクラッチC1の設定圧をより大きくするように補正する。例えば、伝達トルク変動分ΔTINが大きい程、通常解除時の所定の係合パターンにおける低圧待機圧PWLをより大きくしたり、通常解除時の所定の係合パターンにおける所定の勾配をより大きくする(より急にする)。一方、油圧設定手段98は、伝達トルク変動分ΔTINが負の数値であれば、伝達トルク変動分ΔTINの絶対値が大きい程、通常解除時の所定の係合パターンにおけるクラッチC1の設定圧をより小さくするように補正する。例えば、伝達トルク変動分ΔTINの絶対値が大きい程、通常解除時の所定の係合パターンにおける低圧待機圧PWLをより小さくしたり、通常解除時の所定の係合パターンにおける所定の勾配をより小さくする(より緩やかにする)。
ここで、ニュートラル制御の解除を単独で実行するときのC1クラッチ圧PC1は、例えばクラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾きとするように、オープン制御により設定した値でも良いし、フィードバック制御により逐次設定しても良い。しかしながら、発進時ロックアップスリップ制御を伴ってニュートラル制御の解除を実行するときのC1クラッチ圧PC1を、上記フィードバック制御により設定すると発進時ロックアップスリップ制御と相俟ってそのフィードバック制御が適切に実行されない可能性がある。その為、発進時ロックアップスリップ制御を伴ってニュートラル制御の解除を実行するときのC1クラッチ圧PC1は、油圧設定手段98により補正されたオープン制御による設定値とする。そうすると、油圧設定手段98により補正された補正後のクラッチC1の設定圧に対して実際のC1クラッチ圧PC1の挙動がずれる場合、ニュートラル制御が進行するに従って、タービン回転速度NTの傾きが予め設定された傾きよりも急な傾きとなる可能性がある。そこで、本実施例では、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾きで制限(ガード)するように、C1クラッチ圧PC1を設定する。
具体的には、変化速度ガード部すなわち変化速度ガード手段100は、例えばタービン回転速度NTの変化速度(dNT/dt)が予め設定された傾きに対応する所定の変化速度(dNT/dt)’を超える場合(すなわち変化速度(dNT/dt)の絶対値が変化速度(dNT/dt)’の絶対値よりも大きくなる場合)には、大きくするように補正したクラッチC1の設定圧を所定値小さくするように、或いは小さくするように補正したクラッチC1の設定圧を更に所定値小さくするように、補正する指令を油圧設定手段98へ出力する。上記所定値は、例えば変化速度(dNT/dt)と変化速度(dNT/dt)’との速度差に応じて予め設定されたその速度差が大きい程大きくされる値であっても良いし、或いは予め設定された一定値であっても良い。
図14は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわちニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とを重ねて実行する際にそれぞれの制御を安定して実行する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図14のフローチャートのスタート時は、ニュートラル制御手段88によるニュートラル制御が実行中であることを前提としている。また、図15は、図14の制御作動に対応するタイムチャートである。
図14において、先ず、ニュートラル制御条件判定手段86に対応するS10において、例えば前記所定のニュートラル制御条件が成立するか否かが判定されることにより、ニュートラル制御を解除するか否かが逐次判定されるすなわちニュートラル制御からの復帰制御を開始するか否かが逐次判定される。このS10の判断が否定される場合は本ルーチンが終了させられるが肯定される場合はニュートラル解除時制御手段90及び変速制御手段82に対応するS20において、例えばクラッチC1を係合させるニュートラル制御解除指令が出力され、ニュートラル制御の解除が開始されるすなわちニュートラル制御からの復帰が開始される(図15のt1時点)。この時点では、未だ発進時ロックアップスリップ制御の実行が判定されていないので、そのニュートラル制御解除指令に従ってクラッチC1を係合状態とするように予め定められた例えば図10に示すような通常解除時の所定の係合パターンに従ってクラッチC1の係合油圧PC1を上昇させるクラッチ係合指令が油圧制御回路110に出力される。次いで、ニュートラル解除進行度判定手段92に対応するS30において、例えばクラッチC1の入出力間の差回転速度ΔNC1(=NT−NS3)がクラッチC1の係合完了を判定する為の所定の差回転零判定値となったか否かに基づいて、クラッチC1の係合が完了したか否かがすなわちタービン回転速度NTが変速機入力側回転速度NS3と同期したか否かが判定される。このS30の判断が肯定される場合は変速制御手段82に対応するS40において、例えば上記S20にて開始された所定の係合パターンに従ったクラッチ係合指令において所定期間を経て速やかに最終的な係合油圧PC1とするように(或いは速やかに最終的な係合油圧PC1とするように)ニュートラル制御を終了に向けて制御するクラッチ係合指令が油圧制御回路110に出力される。一方で、上記S30の判断が否定される場合は発進時スリップ制御条件判定手段94に対応するS50において、例えば所定の発進時ロックアップスリップ制御条件が成立するか否かが判定されることにより、発進時ロックアップスリップ制御の実行を開始するか否かが逐次判定される。このS50の判断が否定される場合は上記S30に戻るが肯定される場合は発進時ロックアップスリップ制御手段96及びロックアップクラッチ制御手段84に対応するS60において、例えばロックアップクラッチ33をスリップ係合させながら係合側に向けて制御する発進時ロックアップスリップ制御実行指令が出力され、発進時ロックアップスリップ制御が開始される(図15のt2時点)。ここでは、例えばその発進時ロックアップスリップ制御実行指令に従って、目標エンジン回転速度NE *が設定されると共に、ロックアップクラッチ33をスリップ係合させながら係合側に向けて制御するように予め設定された例えば図11に示すような通常発進時の所定のスリップ係合パターンに従ってロックアップクラッチ33のロックアップクラッチ圧PLUを上昇させるスリップ係合指令が油圧制御回路110に出力される。
次いで、油圧設定手段98に対応するS70において、例えば推定エンジントルクTEesやロックアップクラッチ33の油圧指令値(ロックアップクラッチ圧PLU、ロックアップクラッチ33のトルク容量TC)などに基づいて、クラッチC1に伝達される伝達トルクTINの変動分(伝達トルク変動分)ΔTIN(=TIN(T/C+L/U)−TINN)が算出される。次いで、油圧設定手段98及び変化速度ガード手段100に対応するS80において、例えばクラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾きとするように、上記S20にて設定された図10に示すような通常解除時の所定の係合パターンにおけるクラッチC1の設定圧が伝達トルク変動分ΔTINに応じて補正される。このとき、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾きでガードするように、C1クラッチ圧PC1が設定される。次いで、ニュートラル解除進行度判定手段92に対応するS90において、例えばクラッチC1の入出力間の差回転速度ΔNC1がクラッチC1の係合完了を判定する為の所定の差回転零判定値となったか否かに基づいて、クラッチC1の係合が完了したか否かがすなわちタービン回転速度NTが変速機入力側回転速度NS3と同期したか否かが判定される。このS90の判断が否定される場合は上記S70に戻るが肯定される場合は変速制御手段82に対応するS100において、例えば所定期間を経て速やかに最終的な係合油圧PC1とするように(或いは速やかに最終的な係合油圧PC1とするように)ニュートラル制御を終了に向けて制御するクラッチ係合指令が油圧制御回路110に出力される(図15のt3時点)。
図15において、伝達トルク変動分ΔTINに応じてクラッチC1の設定圧を増加補正しない場合の従来例(破線)では、伝達トルクTINの増加によりタービン回転速度NTの傾きが緩やかになり、ニュートラル制御の終了(図15のt4時点)が遅れてニュートラル制御を解除するときの実行時間が長くされる。これに対して、本実施例(実線)では、二点鎖線で示す通常解除時の所定の係合パターンにてニュートラル制御を解除したときと同様に、タービン回転速度NTの傾きが略所定の傾き(dNT/dt)’となり、ニュートラル制御を解除するときの実行時間が通常解除時と同等とされる。
上述のように、本実施例によれば、ニュートラル制御の解除時に発進時ロックアップスリップ制御を重ねて実行する際には、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きが、ニュートラル制御の解除時にクラッチC1を係合する為に上昇させるC1クラッチ圧PC1により制御されるので、例えば常に安定した時間でニュートラル制御を終了させたり、クラッチC1の係合時に発生するショックを抑制することができる。よって、ニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とを重ねて実行する際に、それぞれの制御を安定して実行することができる。
また、本実施例によれば、推定エンジントルクTEesとロックアップクラッチ圧PLUとに基づいてクラッチC1へ伝達される伝達トルクTINの変動分(伝達トルク変動分)ΔTINを算出し、その伝達トルク変動分ΔTINに応じてC1クラッチ圧PC1を設定するので、例えば発進時ロックアップスリップ制御を実行したか否かに拘わらず、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを同じように変化させられる。すなわち、常に安定した時間でニュートラル制御を終了させることができる。例えばアクセル開度Accの大きさに拘わらず、ニュートラル制御の解除時の実行時間を略一定とすることができる。また、ロックアップクラッチ33の係合状態に合わせてC1クラッチ圧PC1を制御できる為、クラッチC1の係合時に発生するショックすなわちニュートラル制御解除時のショックを低減する効果も得られる。
また、本実施例によれば、発進時ロックアップスリップ制御を伴わずにニュートラル制御を解除する際に予め設定されているC1クラッチ圧PC1の設定圧を、伝達トルク変動分ΔTINに応じて補正するので、例えば常に安定した時間でニュートラル制御を確実に終了させることができる。
また、本実施例によれば、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾き(dNT/dt)’でガードするように、C1クラッチ圧PC1を設定するので、例えばC1クラッチ圧PC1の設定圧と実際の各係合圧とにずれが生じた場合に、タービン回転速度NTの傾きが予め設定された傾き(dNT/dt)’よりも急になってショックが増大する可能性があることに対して、そのタービン回転速度NTの傾きが予め設定された傾き(dNT/dt)’よりも急になることが防止されてショックの増大が回避される。
また、本実施例によれば、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾き(dNT/dt)’とするように、C1クラッチ圧PC1を設定するので、例えば常に安定した一定の時間でニュートラル制御を適切に終了させることができる。
次に、本発明の他の実施例を説明する。尚、以下の説明において実施例相互に共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。
前述の実施例では、ニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とが重ねて実行される際には、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きをC1クラッチ圧PC1により制御した。本実施例では、前述の実施例に替えて、或いは前述の実施例に加えて、ニュートラル解除時制御手段90によるニュートラル制御の解除時に発進時ロックアップスリップ制御手段96による発進時ロックアップスリップ制御を重ねて実行する際には、ニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とをそれぞれ安定して実行する為に、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きをロックアップクラッチ圧PLUにより制御する。
具体的には、ニュートラル制御の解除が単独で実行されるときには、例えばトルクコンバータ32の滑りを利用して、クラッチC1の係合に伴うショック(例えば係合ショックやイナーシャショック)やアクセルオン直後の過渡状態における安定しないエンジントルクTEの変動(揺れ)などが抑制(吸収)される。一方、発進時ロックアップスリップ制御では、例えばロックアップクラッチ33のスリップ係合によりエンジン30の動力を自動変速機12へ伝達するトルクコンバータ32におけるルーズさ(滑り、解放状態)が抑制される。従って、ニュートラル制御の解除時にこの発進時ロックアップスリップ制御を重ねて実行すると、クラッチC1の係合時に発生するショック(トルク変動)や過渡状態でのエンジントルクTEの変動などが車輪(例えば駆動輪38)側に伝達され易くなり(すなわちユーザに伝わり易くなり)ドライバビリティが低下する可能性がある。そこで、本実施例では、例えばニュートラル制御の解除の実行時間に合わせてロックアップクラッチ圧PLUを漸増させ、ニュートラル制御の解除完了時点でそのロックアップクラッチ圧PLUを発進時ロックアップスリップ制御における目標油圧PLU *とするようにロックアップクラッチ圧PLUを設定する。或いはまた、ニュートラル制御の解除の実行時間に合わせて設定するロックアップクラッチ圧PLUと、アクセルオン時からのエンジン30の過渡的作動に関連する予め定められた所定不安定時間tonに応じてすなわちアクセルオン時の過渡状態においてエンジントルクTEが安定しない期間として予め実験的に求められて設定されたアクセルオンからの所定不安定時間tonに応じて、目標油圧PLU *に向かってロックアップクラッチ圧PLUを漸増させるように設定するロックアップクラッチ圧PLUとのうちで、小さい方の油圧をロックアップクラッチ圧PLUの設定圧とする。
より具体的には、図6に戻り、油圧設定手段98は、例えばニュートラル制御の解除時におけるタービン回転速度NTの予め設定された傾きに対応する所定の変化速度(dNT/dt)’とクラッチC1の係合完了時における変速機入力側回転速度NS3とに基づいて、ニュートラル制御の解除の実行時間に対応するニュートラル制御の解除完了時点を算出する。そして、油圧設定手段98は、例えば図11に示すような通常発進時の所定のスリップ係合パターンにおける低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増するロックアップクラッチ33の油圧指令値を、上記算出したニュートラル制御の解除完了時点で目標油圧PLU *とするように補正する。つまり、油圧設定手段98は、例えば上記算出したニュートラル制御の解除完了時点で目標油圧PLU *とするように低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧(A)を算出し、この油圧(A)を所定のスリップ係合パターンにおける低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増するロックアップクラッチ33の油圧指令値として設定する。
或いはまた、油圧設定手段98は、例えばアクセルオンから(すなわち発進時ロックアップスリップ制御の開始から)エンジントルクTEが安定しない期間としての所定不安定時間ton経過後に目標油圧PLU *とするように低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧(B)を算出する。そして、油圧設定手段98は、例えばアクセルオン直後のエンジントルクTEの外乱による制御への影響をできるだけ回避したいという観点から、上記算出した油圧(A)と油圧(B)との小さい方の油圧(MIN)を選択し、その選択した油圧(MIN)を所定のスリップ係合パターンにおける低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増するロックアップクラッチ33の油圧指令値として設定する。つまり、油圧設定手段98は、例えば図11に示すような通常発進時の所定のスリップ係合パターンにおける低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増するロックアップクラッチ33の油圧指令値を、上記算出した油圧(A)と油圧(B)との小さい方の油圧(MIN)とするように補正する。上記所定不安定時間tonは、例えばアクセルオン直後のエンジントルクTEが不安定な期間として予め実験的に求められて設定された一定の所定時間であっても良いし、予め実験的に求められて設定された関係からそのときのエンジン回転速度NEやエンジントルクTE等に基づいて適宜設定される所定時間などであっても良い。
尚、前記実施例と同様に、油圧(A)と油圧(B)との何れであっても、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾き(dNT/dt)’とするように油圧が設定される。また、前記実施例と同様に、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾きでガードするように油圧が設定される。
図16は、電子制御装置50の制御作動の要部すなわちニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とを重ねて実行する際にそれぞれの制御を安定して実行する為の制御作動を説明するフローチャートであり、例えば数msec乃至数十msec程度の極めて短いサイクルタイムで繰り返し実行される。この図16のフローチャートは、図14のフローチャートに対応する別の実施例であり、図14と同様に、ニュートラル制御手段88によるニュートラル制御が実行中であることを前提としている。また、図17は、図16の制御作動に対応するタイムチャートである。尚、図16のフローチャートにおいて図14のフローチャートと同一のステップについては、その説明を省略する。
図16において、油圧設定手段98に対応するS70’において、例えばニュートラル制御の解除の実行時間に合わせて低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ漸近させる油圧(A)が算出される。また、例えばアクセルオンの過渡状態でエンジントルクTEが不安定になる所定不安定時間tonに合わせて低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ漸近させる油圧(B)が算出される。次いで、同じく油圧設定手段98に対応するS80’において、例えば上記S70’にて算出された油圧(A)と油圧(B)との小さい方の油圧(MIN)が選択され、その選択された油圧(MIN)が所定のスリップ係合パターンにおける低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増するロックアップクラッチ33の油圧指令値として設定される。つまり、例えば図11に示すような通常発進時の所定のスリップ係合パターンにおける低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増するロックアップクラッチ33の油圧指令値が、上記算出された油圧(A)と油圧(B)との小さい方の油圧(MIN)とするように補正される。
図17において、ニュートラル制御の解除初期では、クラッチC1の係合トルクの変化の影響を弱める為に,ロックアップクラッチ33の油圧指令値が低圧待機圧PWLUとされる。そして、ニュートラル制御の解除の実行時間に合わせてニュートラル制御の解除完了時点で目標油圧PLU *とするように低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧(A)が設定される。或いはまた、アクセルオンから所定不安定時間ton経過後に目標油圧PLU *とするように低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧(B)が算出され、油圧(A)と油圧(B)との小さい方の油圧(MIN)が低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧として選択、設定される。具体的には、所定不安定時間tonが所定不安定時間tonBである場合には、破線に示す如く油圧(B)が算出され、油圧(A)と油圧(B)とのうちで小さい方の油圧(A)が低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧として選択、設定される。一方、所定不安定時間tonが所定不安定時間tonB’である場合には、二点鎖線に示す如く油圧(B’)が算出され、油圧(A)と油圧(B’)とのうちで小さい方の油圧(B’)が低圧待機圧PWLUから目標油圧PLU *へ向けて漸増する油圧として選択、設定される。
上述のように、本実施例によれば、ニュートラル制御の解除時に発進時ロックアップスリップ制御を重ねて実行する際には、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きが、発進時ロックアップスリップ制御時にロックアップクラッチ33をスリップ係合する為に上昇させるロックアップクラッチ圧PLUにより制御されるので、例えばクラッチC1の係合時に発生するショックや過渡状態でのエンジントルクTEの変動などが出力側(駆動輪38側)に伝達され難くすることができる。よって、ニュートラル制御の解除と発進時ロックアップスリップ制御とを重ねて実行する際に、それぞれの制御を安定して実行することができる。
また、本実施例によれば、ニュートラル制御の解除の実行時間に合わせてロックアップクラッチ圧PLUを漸増させ、ニュートラル制御の解除完了時点でそのロックアップクラッチ圧PLUを発進時ロックアップスリップ制御における目標油圧PLU *とするようにそのロックアップクラッチ圧PLUを設定するので、例えばニュートラル制御解除時にはロックアップクラッチ33が適切なスリップ状態に制御され、クラッチC1の係合時に発生するショックなどの出力側(駆動輪38側)への伝達が緩和(抑制)される。
また、本実施例によれば、ニュートラル制御の解除の実行時間に合わせて設定するロックアップクラッチ圧PLUと、アクセルオン時の過渡状態においてエンジントルクTEが安定しない期間として予め定められたアクセルオンからの所定不安定時間tonに応じて発進時ロックアップスリップ制御における目標油圧PLU *に向かってロックアップクラッチ圧PLUを漸増させるように設定するロックアップクラッチ圧PLUとのうちで、小さい方の油圧をそのロックアップクラッチ圧PLUの設定圧とするので、例えばニュートラル制御解除時にはロックアップクラッチ33が適切なスリップ状態に制御され、クラッチC1の係合時に発生するショックやアクセルオン直後の過渡状態でのエンジントルクTEの変動などの出力側(駆動輪38側)への伝達が緩和(抑制)される。また、クラッチC1の係合時に発生するショックやアクセルオン直後の過渡状態でのエンジントルクTEの変動などが発進時ロックアップスリップ制御にとって外乱となりロックアップクラッチ33の係合制御が安定的に実行されない可能性が適切に回避される。
また、本実施例によれば、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾き(dNT/dt)’でガードするように、ロックアップクラッチ圧PLUを設定するので、例えばロックアップクラッチ圧PLUの設定圧と実際の各係合圧とにずれが生じた場合に、タービン回転速度NTの傾きが予め設定された傾き(dNT/dt)’よりも急になってショックが増大する可能性があることに対して、そのタービン回転速度NTの傾きが予め設定された傾き(dNT/dt)’よりも急になることが防止されてショックの増大が回避される。
また、本実施例によれば、クラッチC1の係合によりそのクラッチC1の係合完了時の変速機入力側回転速度NS3に向かって変化させられるタービン回転速度NTの傾きを予め設定された傾き(dNT/dt)’とするように、ロックアップクラッチ圧PLUを設定するので、例えば常に安定した一定の時間でニュートラル制御を適切に終了させることができる。
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
例えば、前述の実施例1と実施例2とは、それぞれ単独で実施されても良いし、組み合わせて実施されても良い。例えば、実施例1の実施を前提として、実施例2を実施するようにしても良い。
また、前述の実施例において、クラッチC1の入力側へ伝達される伝達トルクTINの算出にあたり、更にエンジン30側からトルクコンバータ32のポンプ翼車32pへ入力されるイナーシャトルクTI(=IE×(dNE/dt);IEはエンジン回転部慣性モーメント(エンジンイナーシャ))などを含めて算出するなど種々の態様が可能である。
また、前述の実施例において、ニュートラル制御手段88は、ニュートラル制御をシフトレバー74の「D」ポジションにおいて実行したが、シフトレバー74の「R」ポジションにおいて実行しても良い。この場合には、後進ギヤ段を達成するための係合装置であるブレーキB2及びブレーキB3の少なくとも何れかをスリップ状態乃至解放状態とする。このような「R」ポジションにおいてニュートラル制御を実行する場合でも、本発明は適用され得る。
また、ニュートラル制御条件判定手段86は、クラッチC1の温度がクラッチC1の耐久性を損なう所定温度以上に達した場合や所定温度以上の状態が所定時間以上継続した場合等にニュートラル制御の解除開始を判定しても良い。このようにニュートラル制御の解除開始を判定する為に他の種々の条件を設定することができる。尚、クラッチC1の温度は温度センサにより直接的に検出されても良いし、スリップ状態におけるクラッチC1の相対回転速度差やスリップ継続時間等から推定しても良い。
また、前述の実施例では、自動変速機12が前進6速、後進1速の変速が可能な自動変速機であったが、自動変速機の変速段数や内部構造は特に前述した自動変速機12に限定されるものではない。すなわち、ニュートラル制御が実施可能であり、且つ、ニュートラル制御が解除される際に、所定の係合装置を係合させる構成であれば、本発明を適用することができる。また、ベルト式無段変速機などの無段変速機であっても本発明を適用することができる。尚、ベルト式無段変速機などの場合には、例えばエンジンとベルト式無段変速機との間の動力伝達経路を断接することが可能な係合装置や良く知られた前後進切換装置に設けられたを係合装置などにおいて、本発明が適用される。
また、前述の実施例では、流体伝動装置としてロックアップクラッチ33が備えられているトルクコンバータ32が用いられていたが、トルク増幅作用のないフルードカップリングが用いられても良い。
また、前述した複数の実施例はそれぞれ、例えば優先順位を設けるなどして、相互に組み合わせて実施することができる。
尚、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。