JP2014005487A - ガス放出キャンロール及びその製造方法並びに該キャンロールを備えたロールツーロール表面処理装置 - Google Patents

ガス放出キャンロール及びその製造方法並びに該キャンロールを備えたロールツーロール表面処理装置 Download PDF

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Abstract

【課題】 フィルムのシワ発生を防止することが可能なキャンロールを提供する。
【解決手段】 長尺樹脂フィルムが巻き付けられる外周面11sを備えた円筒部11に、その中心軸Oに平行な複数のガス導入路15が全周に亘って等間隔に穿設されており、各ガス導入路15は、外周面11sの幅に対して50%以上の長さで延在し、且つこの延在する方向に沿って等間隔で一列に並んで外周面11s側に開口する2列以上のガス放出孔群16a、16bが連通しており、これら2列以上のいずれの列のガス放出孔群においても、それらを構成する各ガス放出孔は中心軸Oに直交する面上に延在しており、且つ当該面上においてガス放出孔が延在する方向に平行な線L1と、それが連通するガス導入路15の直近における外周面の法線L2とのなす角が60°以下である。
【選択図】 図3

Description

本発明は、外周面からガスを放出することにより当該外周面に巻き付けられるフィルムを効率よく冷却できるキャンロール及びその製造方法に関し、特に、中心軸に対して略平行に延在する複数のガス導入路と、これら複数のガス導入路の各々から延在して外周面側で開口する複数のガス放出孔とが設けられたガス放出キャンロール及びその製造方法に関する。
液晶パネル、ノートパソコン、デジタルカメラ、携帯電話等には、耐熱性樹脂フィルム上に配線パターンが形成されたフレキシブル配線基板が用いられている。このフレキシブル配線基板は、耐熱性樹脂フィルムの片面若しくは両面に金属膜を成膜した金属膜付耐熱性樹脂フィルムにパターニング処理を施すことによって作製されるが、近年は配線パターンがますます繊細化、高密度化する傾向にあり、これに伴って金属膜付耐熱性樹脂フィルムにはシワ等のない平滑なものが求められている。
この種の金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造方法として、従来から、金属箔を接着剤により耐熱性樹脂フィルムに貼り付けて製造する方法(3層基板の製造方法)、金属箔に耐熱性樹脂溶液をコーティングした後、乾燥させて製造する方法(キャスティング法)、耐熱性樹脂フィルムに真空成膜法単独で、又は真空成膜法と湿式めっき法との併用で金属膜を成膜して製造する方法(メタライジング法)等が知られている。また、メタライジング法に用いる真空成膜法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、イオンビームスパッタリング法等がある。
メタライジング法について、特許文献1には、ポリイミド絶縁層上にクロム層をスパッタリングした後、銅をスパッタリングして導体層を形成する方法が記載されている。また、特許文献2には、銅ニッケル合金をターゲットとするスパッタリングによる第一の金属薄膜と、銅をターゲットとするスパッタリングによる第二の金属薄膜とがポリイミドフィルム上に成膜されたフレキシブル回路基板用材料が開示されている。これらスパッタリング法による成膜は、一般に密着力に優れる反面、真空蒸着法に比べて基材としての耐熱性樹脂フィルムに与える熱負荷が大きいといわれている。そして、成膜の際に耐熱性樹脂フィルムに大きな熱負荷がかかると、フィルムにシワが発生し易くなることも知られている。
そこで、上記ポリイミドフィルムなどの耐熱性樹脂フィルムに対して真空成膜法により成膜を行って金属膜付耐熱性樹脂フィルムを作製する工程では、キャンロールを備えたスパッタリングウェブコータが一般的に使用されている。この装置は、内部に冷媒を循環させたキャンロールにロールツーロールで搬送される長尺の耐熱性樹脂フィルムを巻き付けながらスパッタリングを行うものであり、表面側の成膜により耐熱性樹脂フィルムに生じる熱を裏面側から直ぐに冷却することができるため、成膜の際の熱負荷の悪影響を抑えることができ、よってシワの発生を効果的に防ぐことができる。
例えば特許文献3には、スパッタリングウェブコータの一例である巻出巻取式(ロールツーロール方式)の真空スパッタリング装置が開示されている。この巻出巻取式の真空スパッタリング装置には、キャンロールの役割を担うクーリングロールが具備されている。更に、クーリングロールの少なくともフィルム送入れ側若しくは送出し側にサブロールが設けられており、これにより耐熱性樹脂フィルムをクーリングロールに密着する制御が行われている。
ところで、非特許文献1に記載されているように、キャンロールの外周面はミクロ的に見て平坦ではないため、キャンロールの外周面と、そこに接触して搬送される耐熱性樹脂フィルムとの間には真空空間を介して離間する隙間(ギャップ部)が存在している。このため、成膜の際に生じる耐熱性樹脂フィルムの熱はキャンロールに効率よく伝熱されているとはいえず、これがフィルムのシワ発生の原因になることがあった。
この問題を解決するため、キャンロールの外周面と耐熱性樹脂フィルムとの間のギャップ部にキャンロール側からガスを導入する技術が提案されている。例えば特許文献4には、キャンロールの外周面に多数の微細な孔を設けてガスを放出させ、これによりギャップ部の熱伝導率を真空に比べて高くして成膜中の耐熱性樹脂フィルムの熱負荷を低減させ、よってシワの発生を効果的に抑制する技術が開示されている。なお、非特許文献2によれば、導入ガスがアルゴンガスで導入ガス圧力が500Paの場合、キャンロールの外周面と耐熱性樹脂フィルムとのギャップ部の距離が約40μm以下の分子流領域では、ギャップ部の熱伝導率(熱コンダクタンス)は250(W/m・K)になる。
特開平2−98994号公報 特許第3447070号公報 特開昭62−247073号公報 国際公開第2005/001157号パンフレット
"Vacuum Heat Transfer Models for Web Substrates: Review of Theory and Experimental Heat Transfer Data," 2000 Society of Vacuum Coaters, 43rd. Annual Technical Conference Proceeding, Denver, April 15‐20, 2000, p.335 "Improvement of Web Condition by the Deposition Drum Design," 2000 Society of Vacuum Coaters, 50th. Annual Technical Conference Proceeding(2007), p.749
前述したようなガスを放出することが可能なキャンロール(以降、ガス放出キャンロールとも称する)は、例えば図1に示すような2重筒構造のジャケットロール構造によって内部に冷媒が循環するようになっている。具体的には、フィルムを巻き付けて冷却を行う円筒形状の外筒部1と、この外筒部1の内側に設けられた内筒部2と、外筒部1の両端部に設けられた側面部3a、3bとからなる。これら外筒部1と内筒部2の間が冷媒が循環する冷媒循環路4になっている。
外筒部1には、その中心軸に対して略平行に延在する複数のガス導入路5と、これら複数のガス導入路5の各々から延在して外周面側で開口する複数のガス放出孔6とが設けられている。また、一方の側面部3aには、上記複数のガス導入路1aに連通するガスロータリージョイント7が設けられており、これによりガス供給ライン8から送られてきたガスが各ガス導入路5に分配される。
上記したガス放出キャンロールのうち、複数のガス導入路5及び複数のガス放出孔6を有する外筒部1は、例えば図2(a)〜(c)の方法で作製することができる。すなわち、先ず図2(a)の部分拡大斜視図に示すような、突き合わせ溶接もしくは摩擦攪拌接合により接合したパイプ、シームレスパイプ、又は鋳造パイプからなるロール材100を用意する。その肉厚部に一端部若しくは両端部からガンドリルを用いて穿孔し、図2(b)に示すようなロール材100の中心軸に対して平行に延在する複数のガス導入路5を、ロール材100の全周に亘って略等間隔に設ける。
次に、マイクロドリル加工あるいはレーザー加工により、複数のガス導入路5の各々に対して、その延在方向に沿って所定の間隔おきに外周面側から貫通孔を穿孔し、これにより図2(c)に示すような外周面側で開口する複数のガス放出孔6を各々のガス導入路5に設ける。その際、ガス放出孔6を穿孔する時間を短くするため、ロール材100の外周面を円筒研削して薄くすることがあるが、前述したガンドリルによるガス導入路5の加工の際に直進性が悪く仕上がっていると、かかる円筒研削の際にガス導入路5が露出してしまうおそれがある。
ロール材100にガス導入路5及びガス放出孔6を形成した後は、外周面を研磨加工し、更に必要に応じてめっき処理を行う。これにより外筒部1が得られる。この外筒部1の内側に内筒部2を取り付け、更に両端部に側面部3a、3bを設けることによって、外筒部1の内周面と内筒部2の外周面とで画定される冷媒循環路4を備えた2重筒構造のジャケットロール構造体が得られる。この一端部にガスロータリージョイント7を取り付け、冷媒や放出ガスなどが流れる各種配管を接続することにより図1に示すようなガス放出キャンロールが得られる。
ところで、上記ガス導入路5を加工する際に使用したガンドリルは、その直径の約100倍までの深さ(穴開け加工長さ)が実質的に穿孔可能な限界となっており、それ以上深い細穴を開けるのは難しかった。例えば、前述した金属膜付耐熱性樹脂フィルムの製造工程では、生産性を考慮して幅700mmを超えるキャンロールが使用されるが、仮にガス導入路の長さ(深さ)を700mmとしたとき、ガンドリルには直径7mm程度のものを使用することになる。そのため、ガス導入路の穴径が太くなって、隣接するガス導入路の間隔が狭くなり過ぎるという問題を生じることがあった。
また、ガンドリルは、肉厚の薄い方に傾きながら進んでいく傾向があるため、外筒部1の肉厚部において、外周面近くに当該外周面に平行にガス導入路5を穿孔しようとすると、外周面側に徐々に寄ってしまうことがあった。この問題を避けるため、外周面近傍ではなく厚み方向の略中央部分にガス導入路の穴あけ加工をすることが考えられるが、この場合は冷媒循環路4が外筒部1の外周面から離れることになるため、キャンロールの冷却機能が損なわれるおそれがあった。また、微細な内径を有するガス放出孔6を深くまで穿孔する必要が生じ、孔開け加工が困難になることがあった。このように、良好な冷却機能を有するガス放出キャンロールの製作には時間と手間がかかり、膨大な費用を費やしていた。
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルム基板を外周面に巻き付けながら成膜などの熱負荷の掛かる処理を施すキャンロールにおいて、冷却機能を損なうことなく外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルム基板との間のギャップ部にガスを導入してギャップ部の熱コンダクタンスを高め、よってフィルムのシワ発生を防止することが可能なキャンロール及びその製造方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明者は、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルム基板との間のギャップ部にガスを導入すべく、キャンロールの外筒部分の肉厚部にガス導入路及びガス放出孔を設けるに際して、ガス導入路の直近に位置する外周面の法線に対して斜め方向から穿孔してガス放出孔を形成することにより長尺樹脂フィルム基板を極めて効率的に冷却できるキャンロールが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明が提供するキャンロールは、長尺樹脂フィルムが巻き付けられる外周面を備えた円筒部と、その中心軸上に設けられた回転軸部とを備えたキャンロールであって、前記円筒部には、前記中心軸に平行な複数のガス導入路が全周に亘って等間隔に穿設されており、各ガス導入路は、前記外周面の幅に対して50%以上の長さで延在し、且つこの延在する方向に沿って等間隔で一列に並んで外周面側に開口するガス放出孔群の列が2列以上連通しており、これら2列以上のいずれの列のガス放出孔群においても、それらを構成する各ガス放出孔は前記中心軸に直交する面上に延在しており、且つ当該面上においてガス放出孔が延在する方向に平行な線と、それが連通するガス導入路の直近における外周面の法線とのなす角が60°以下であることを特徴としている。
また、本発明が提供するキャンロールの製造方法は、上記したキャンロールの円筒部に形成するガス放出孔をレーザー加工で穿孔することを特徴としている。更に、本発明が提供するロールツーロール表面処理装置は、真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムを上記したキャンロールの外周面に巻き付けながら熱負荷のかかる表面処理を施すロールツーロール表面処理装置であって、前記真空チャンバーの外部から供給されるガスを前記ガス導入路及び前記ガス放出孔を介してキャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムの間のギャップ部に導入することを特徴としている。
本発明によれば、ガス導入路の本数を減らすことができるので、キャンロールの加工時間を大幅に短縮することができる。また、外筒部の肉厚部の厚みを薄くできるので、成膜中の長尺樹脂フィルム基板を効率よく冷却することができる。よって、シワの少ない高品質な金属膜付耐熱性樹脂フィルムを高い歩留まりで作製することが可能となる。
ガスロータリージョイントを備えたガス放出キャンロールを示す断面図である。 図1のキャンロールが有する外筒部の作製方法を示す部分拡大斜視図である。 本発明に係るキャンロールを模式的に示す斜視図である。 図3のキャンロールの外筒部の部分断面拡大正面図である。 本発明に係るキャンロールが有する外筒部の作製方法の一具体例を示す部分拡大斜視図である。 本発明に係るキャンロールが有する外筒部の他の具体例を示す部分拡大斜視図である。 本発明に係るキャンロールが有する外筒部の作製方法の他の具体例を示す部分拡大斜視図である。 本発明に係るキャンロールを備えたロールツーロール方式による長尺樹脂フィルム基板の表面処理装置の一具体例を示す模式図である。 本発明に係るキャンロールが具備するガスロータリージョイントの一具体例を示す正面図及び斜視図である。
以下、本発明に係るキャンロールの一具体例について図3を参照しながら説明する。この一具体例のキャンロールは、長尺樹脂フィルムが巻き付けられる外周面11sを備えた円筒状の外筒部11と、外筒部11の内側に設けられた円筒状の内筒部12とからなる2重筒構造になっている。この2重筒構造体の両端部には、外径が外筒部11の内径とほぼ同等の円盤状の側面部13a、13bが取り付けられており、これにより外筒部11と内筒部12の間を冷媒循環路14とするジャケットロール構造が形成される。なお、ジャケット構造にする代わりに、外筒部の内周面に冷媒が循環する螺旋状のパイプを取り付けた構造にしてもよい。この場合は、内筒部12が不要となる。
外筒部11には、中心軸Oに平行な複数のガス導入路15が全周に亘って等間隔に穿設されており、それらの各々に後述する複数列のガス放出孔群16a、16bが連通している。このキャンロールは、その中心軸O上に回転軸部19を備えており、この部分で回転可能に支持されている。また、一方の側面部13aには、ガス導入路15に連結配管25を経て連通するガスロータリージョイント20が設けられており、これによりガス供給ライン(図示せず)から送られてきたガスが各ガス導入路15に分配される。
各ガス導入路15は、外周面11sの幅に対して50%以上の長さで延在している。ガス導入路15の長さ(深さ)が外筒部11の外周面の幅の50%未満では、外周面11sとそこに巻き付けられる耐熱性樹脂フィルムの間に満遍なくガスを行き渡らすことが困難になるからである。なお、図3では、ガス導入路15はその末端が突き抜けない程度に外筒部11のほぼ端から端まで、すなわち、外周面11sの幅に対してほぼ100%の長さで延在している様子が示されている。
各ガス導入路15には、当該ガス導入路15が延在する方向に沿って等間隔で一列に並んで外周面側に開口するガス放出孔群16a及びガス放出孔群16bが連通している。そして、これら2列のガス放出孔群16a、16bのいずれにおいても、図4に示すように、外筒部11の中心軸方向から見たとき、ガス放出孔群16a、16bを構成する各ガス放出孔が延在する方向に平行な線L1と、このガス放出孔が連通するガス導入路15の直近における外筒部11の外周面の法線L2とのなす角αが60°以下になっている。なお、上記の例では、各ガス導入路に2列のガス放出孔群が連通する場合について説明したが、連通させるガス放出孔群の列の数はこれに限定されるものではなく、3列以上のガス放出孔群を連通させてもよい。
各ガス導入路15に連通させる複数列のガス放出孔群は、これらを中心軸O方向から見たとき、図4に示すように、ガス導入路15の直近における外周面の法線L2に関して線対称になっているのが好ましい。例えば、本具体例のように2列のガス放出孔群の場合は、これら2列のガス放出孔群16a、16bを中心軸O方向から見たとき、略V字状になっているのが好ましい。また、複数列が3列の場合は、中心軸O方向から見たとき、3列のうちの中央に位置するガス放出孔群は、連通するガス導入路15の直近における外周面の法線L2上に延在しているのが好ましい。この場合、3列のうちの両端に位置するガス放出孔群は、前述した2列のガス放出孔群16a、16bの場合のように、略V字状に設けられているのが好ましい。
なお、各列のガス放出孔群を構成するガス放出孔が外周面11s上で開口する位置は、外周面上において長尺樹脂フィルムが巻き付けられる領域内にあるのが望ましい。この領域を外れた外周面の端部にガス放出孔が存在すると、その端部のガス放出孔から放出されるガスは外周面と長尺樹脂フィルムの間のギャップ部内に導入されずにそのまま真空チャンバー内に放出されるため、フィルム基板を冷却する効果が低下するからである。
上記したように、1つのガス導入路に対してガス放出孔群の列を複数列連通させることによって、キャンロールの外周面上のガス放出孔の密度、すなわち、キャンロールの外周面の単位面積当たりに開口するガス放出孔の数を従来のガス放出キャンロールと同程度にしながら、ガス導入路の本数を減らすことができる。よって、ガンドリルによるキャンロールの加工時間を短縮できる。
更に、隣接するガス導入路の間に十分な間隔をとることができるため、肉厚部の伝熱効率を高めることができる上、1ランク径の太いガンドリルを採用することができるので、ガンドリル加工の際のガンドリルの直進性を向上させることができる。直進性が向上することにより、ガス導入路を外周面近くに形成できるため、ガス放出孔の深さを浅くすることができ、レーザーもしくはマイクロドリルによるガス放出孔の加工時間も短縮することができる。
また、ガス導入路を外周面近くに形成することにより外筒部の肉厚部の厚みを薄くできるので、前述した隣接するガス導入路の間隔が広がることによる伝熱効率の向上と相まって当該肉厚部における伝熱性能を著しく高めることが可能となる。その結果、外周面と長尺樹脂フィルム基板との間のギャップ部に外筒部の肉厚部を加えた総括的な熱コンダクタンスを大きく向上させることができ、前処理や成膜等の熱負荷の掛かる処理によって生じる長尺樹脂フィルムの熱を極めて効率よく除去することができる。よって、長尺樹脂フィルム基板のシワの発生を確実に抑えることができ、シワのない高品質の金属膜付耐熱性樹脂フィルムを高い歩留まりで作製することが可能となる。
次に、上記したガス導入路及びガス放出孔を備えた外筒部の作製方法を図5(a)〜5(c)を参照しながら説明する。先ず、図5(a)に示すように、伝熱性と加工性に優れた好適にはアルミ、銅、又はステンレスからなる外筒部用の所定の外径と幅と肉厚を有するロール材200を用意する。
このロール材200に、図5(b)に示すように、周方向のピッチを従来のガス放出キャンロールの2倍にしてガンドリルを用いてガス導入路15を形成する。これにより、従来、例えば1°毎のピッチでは合計360本のガス導入路の加工が必要であったところ、2°毎のピッチとなって半分の180本ですむことになる。なお、このガンドリル加工の際、ロール材200の片端だけからガス導入路15を加工するのが困難な場合は、両端から加工してもよい。
ガス導入路15を加工した後はロール材200の外周面を円筒切削するのが好ましい。これにより、ガス放出孔を穿孔する深さが浅くなるのでその加工時間を短縮できる上、より細いガス放出孔を形成することが可能になる。なお、前述したように、ガンドリルによる穴あけ加工は、肉厚の薄い方向に曲がっていく特性があるので、ロール材200の外周面付近にガス導入路15を開けた場合は、ロール材200の外周面を円筒切削する前にロール材200の幅方向中央部にガス放出孔を開けてガス導入路15の深さを確認するのが望ましい。
次に、図5(c)に示すように、ガス導入路15の延在方向に沿って一定の間隔ごとにロール材200の外周面側からガス導入路15に向けてレーザー加工を行う。その際、ガス導入路15が延在する方向に直交する方向からレーザーを照射する。更に、中心軸O方向から見たときに、ガス導入路15の直近における外周面の法線に関して右斜め方向と左斜め方向から好適にはこれらが当該法線に関して線対称となるようにレーザー加工を行う。
これにより、ガス導入路15の延在方向に沿って等間隔で一列に並ぶガス放出孔群16aと、同様にガス導入路15の延在方向に沿って等間隔で一列に並ぶガス放出孔群16bとをガス導入路15に連通させることができ、且つそれらを構成する各ガス放出孔の延在方向をガス導入路15の延在方向に直交させると共に外周面に対して斜めに開けることができる。なお、上記法線に対して傾斜させるレーザーの角度を適宜調整することによって、外筒部11の円周方向におけるガス放出孔群のピッチを、従来のものと同等にすることもできる。
上記したようにガス放出孔を斜めに開けるにはレーザー加工が望ましい。マイクロドリルでは、刃先が斜め方向に入り込みにくく、穴あけ加工が非常に難しくなるのに対して、レーザーであれば容易に斜め方向にガス放出孔を開けることができるからである。しかし、ガス導入路15の延在方向に直交する面上において、上記したガス放出孔が延在する方向の線L1と、外周面の法線L2とのなす角αが60°を超えると、外周面におけるガス放出孔の開口部の形状が極端に横に広がった楕円に成るばかりか、当該開口部の周縁部のうち、外周面とガス放出孔とが鋭角に交差する部分がレーザーで溶けてしまって開口部の径が大きく広がってしまうので好ましくない。開口部の径が大きく広がると、その部分では、キャンロールの外筒部と耐熱性樹脂フィルムとの離間する距離が他の場所に比べて大きくなるので、伝熱効率が局所的に低下するおそれがあるからである。
上記した図5(c)の例では、ガス導入路15の延在方向におけるガス放出孔の位置は、ガス放出孔群同士で互いに等しく配設されていたが、これ以外に例えば図6に示すように、ガス導入路15の延在方向に沿ってガス放出孔群16aのガス放出孔とガス放出孔群16bのガス放出孔とを交互にガス導入路15に連通させることにより、2列のガス放出孔群の開口部を千鳥状に配設してもよい。
あるいは、図7(a)及び(b)に示すように、周方向において従来のガス放出キャンロールの3倍のピッチでガンドリルを用いてガス導入路15を形成した後、各ガス導入路15に対してその延在方向に沿って一定の間隔ごとに図4のように法線L2に関して右斜め方向と左斜め方向からレーザー加工を行い、更に法線L2方向からもレーザー加工を行って、ガス導入路15の延在方向に沿って等間隔で一列に並ぶガス放出孔群を3列連通させてもよい。この場合は、3列のうち両端の列のガス放出孔群16a、16cの各ガス放出孔が外周面に対して斜めに開けられ、中央の列のガス放出孔群16bのガス放出孔は外周面に垂直に開けられることになる。また、各々のガス放出孔の延在方向はガス導入路15の延在方向に直交することになる。
図7(a)の例では、従来、例えば1°毎のピッチでは合計360本のガス導入路の加工が必要であったところ、3°毎のピッチとなって3分の1の120本ですむことになる。この場合においても、法線に対して傾斜させる角度を適宜調整することにより、ガス放出孔の円周方向のピッチを従来のものと略同等にすることができる。但し、前述したように傾斜させる角度が60°を超えると、開口部の形状が極端に横に広がった楕円に成る上、当該開口部の周縁部の鋭角な部分がレーザーで溶けて開口部の径がさらに大きく広がってしまうので好ましくない。
レーザー加工した時は、外筒部11の外周面11sにレーザー照射により発生した溶けた金属が付着していたり、外周面11sが局所的に平坦では無くなっていたりすることがあるので、レーザー加工後は円筒切削あるいは円筒研磨を行うのが好ましい。更に、外筒部11の外周面11sの傷付き防止のため、ニッケルめっき、ダイヤモンドライクカーボンコーティング、タングステンカーバイトコーティング、窒化チタンコーティング等の表面処理を必要に応じて行うことが望ましい。
得られた外筒部11に対して図3に示すように内筒部12を組み込み、両端部に側面部13a、13bを取り付ける。これにより冷媒が流れる冷媒循環路14を備えた2重管構造のジャケットロールが得られる。その一端部にガスロータリージョイント20を取り付け、各種配管を接続してガス放出キャンロールが完成する。このガス放出キャンロールを、長尺樹脂フィルム基板をロールツーロール方式で連続的に搬送しながらその表面にスパッタリングによる真空成膜を行うスパッタリングウェブコータに採用することで、長尺樹脂フィルム基板に対する熱的ダメージが抑えられたスパッタリング成膜処理が可能となる。
次に、このスパッタリングによる真空成膜装置について、図8を参照しながら具体的に説明する。この成膜装置(スパッタリングウェブコータ)50は、真空チャンバー51内で巻出ロール52から巻き出された長尺樹脂フィルムFを、前記したガス放出キャンロール56に巻き付けて冷却しながら所定の成膜処理を施した後、巻取ロール64で巻き取るようになっている。
真空チャンバー51内は、図示しないドライポンプ、ターボ分子ポンプ、クライオコイル等の種々の装置が具備されており、これら装置により到達圧力10−4Pa程度まで減圧された後、スパッタリングガスを導入して0.1〜10Pa程度に圧力調整される。このスパッタリングガスにはアルゴンなど公知のガスが使用され、目的に応じて更に酸素などのガスが添加される。真空チャンバー51の形状や材質については、減圧状態に耐え得るものであれば特に限定はなく、種々のものを使用することができる。
巻出ロール52からキャンロール56までの搬送経路には、長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール53と、長尺樹脂フィルムFの張力の測定を行う張力センサロール54が配置されている。また、張力センサロール54から送り出されてキャンロール56に向かう長尺樹脂フィルムFは、キャンロール56の近傍に設けられたモータ駆動のフィードロール55によって、モータで回転駆動されるキャンロール56の周速度に対する調整が行われ、これによりキャンロール56の外周面に長尺樹脂フィルムFを密着させて搬送することができる。
キャンロール56から巻取ロール64までの搬送経路にも、上記と同様に、キャンロール56の周速度に対する調整を行うモータ駆動のフィードロール61、長尺樹脂フィルムFの張力測定を行う張力センサロール62、及び長尺樹脂フィルムFを案内するフリーロール63がこの順に配置されている。
上記巻出ロール52及び巻取ロール64では、パウダークラッチ等によるトルク制御によって、長尺樹脂フィルムFの張力バランスが保たれている。また、キャンロール56の回転と、これに連動して回転するモータ駆動のフィードロール55、61により、巻出ロール52から長尺樹脂フィルムFが巻き出されて巻取ロール64に巻き取られるようになっている。
キャンロール56の外周面に対向する位置には、長尺樹脂フィルムFの搬送経路に沿って板状のマグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60が設けられており、これにより長尺樹脂フィルムFの表面上に金属膜のスパッタリング成膜が施される。なお、板状ターゲットを用いた場合、ターゲット上にノジュール(異物の成長)が発生することがあるので、これが問題になる場合には、ノジュールの発生がなく、ターゲットの使用効率も高い円筒形のロータリーターゲットを使用してもよい。また、成膜装置50で施される熱負荷のかかる処理がスパッタリング処理以外の例えばCVD(化学蒸着)や真空蒸着などの真空成膜処理である場合は、マグネトロンスパッタリングカソード57、58、59、60に代えて他の真空成膜手段が設けられる。
上記キャンロール56に図3に示すガス放出キャンロールが用いられている。キャンロールの冷媒循環路14には、真空チャンバー51の外部に設けられた冷媒冷却装置(図示せず)との間で冷媒の循環が行われ、これによりキャンロールの外筒部11が温度調節される。また、真空チャンバー51の外部からガス供給ライン(図示せず)を介して導入されるガスは、ガスロータリージョイント20で各ガス導入路15に分配された後、ガス導入路15に連通するガス放出孔群16a、16bから外筒部11の外周面と長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部に放出される。
なお、キャンロールの外周面と長尺樹脂フィルム基板とのギャップ部が40μm程度であれば、当該ギャップ部に導入するガスは前述した真空成膜装置が備えるドライポンプなどの真空ポンプで排気可能である。一般的には、ギャップ部に導入するガスをスパッタリング雰囲気のガスと同じにすることによって、スパッタリング雰囲気の汚染を防ぐことができ、この場合、熱伝導も比較的良いアルゴンが特に望ましい。
これらガス導入路15の本数や、各ガス放出孔群を構成するガス放出孔の孔数は、図8に示すように、長尺樹脂フィルムFがキャンロール56の外周面に巻き付けられる角度範囲A(以降、この角度を抱き角Aと称することもある)、長尺樹脂フィルムFの張力、ガス放出孔からのガスの放出量等に応じて適宜定められる。各ガス放出孔の内径は、キャンロール56の外周面と長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ部内に良好にガスを導入できる大きさであれば特に限定されない。しかし、ガス放出孔の内径が1000μmを超えるとその箇所において冷却効率が局所的に低下する原因となるため、一般的には内径30〜1000μm程度が好ましい。
上記のような小さな内径を有するガス放出孔を狭ピッチにして多数配置することが外筒部11の外周面全面に亘って熱伝導性を均一化できるという点において好ましいが、小さな内径のガス放出孔を狭ピッチで多数設ける加工技術は困難を伴うので、現実的には内径100〜500μm程度のガス放出孔を5〜10mmのピッチで配置することが好ましい。
キャンロールの回転により、外筒部11に設けられた複数のガス導入路15の一部が前述した抱き角Aの範囲外に位置したときは、その一部のガス導入路15にはガスを供給しないのが望ましい。従って、ガスロータリージョイント20には、抱き角Aの範囲内に位置しているガス導入路15には真空チャンバー51の外部から供給されるガスを供給し、抱き角Aの範囲外に位置しているガス導入路15には真空チャンバー51の外部から供給されるガスを供給しないようなガス供給制御手段が備わっていることが好ましい。
これにより、供給ラインから供給されるガスのほとんどをキャンロール56の外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムFとの間に形成されるギャップ部に導入することができ、長尺樹脂フィルムFが巻き付いていない領域から無駄にガスを放出することがなくなる。よって、当該ギャップ部の間隔をほぼ一定に維持するためのガス流量制御が容易になる上、キャンロール56の外周面と長尺樹脂フィルムFとの間のギャップ部の熱コンダクタンスを抱き角Aの範囲内の全領域に亘って均一にすることが可能となる。
かかるガス供給制御手段としては、例えばガスロータリージョイント20から各ガス導入路15に接続する連結配管に開閉自在な弁を設け、ガス導入路15が抱き角Aの範囲内に存在しているか否かに応じて対応する弁の開閉を電気的又は電磁気的に作動すればよい。あるいは、各ガス導入路15へのガス供給を機械的に制御してもよい。図9(a)及び(b)には、かかる機械的なガス供給制御手段の一例が示されている。
具体的に説明すると、このロータリージョイント20は、1対の回転リングユニット21と固定リングユニット22とから構成されている。回転リングユニット21は、キャンロール56を構成する側面部13aにボルトなどで固定されており、キャンロール56と共に回転するようになっている。一方、固定リングユニット22は、真空チャンバー51の外部から供給されるガスの供給ライン26に接続されており、且つ支持部材等で動かないように支持されている。
これら回転リングユニット21及び固定リングユニット22は、互いに対向する部分にそれぞれ摺接面21a、22aを有しており、回転リングユニット21がキャンロール56と共に回転する際、これら摺接面21a、22a同士は中心軸Oを中心として摺接(摺動)するようになっている。
回転リングユニット21には、ガス導入路15の本数と同じ本数のガス供給路23が周方向に均等な間隔をあけて全周に亘って形成されている。これら複数のガス供給路23の各々は、回転リングユニット21の内部で放射状に及び/又は回転リングユニット21の中心軸方向に平行に形成されており、その一端部が当該ガス供給路23と略同じ角度位置にあるガス導入路15に連結配管25を介して連通している。そして、このガス導入路15と接続する一端部とは反対側の他端部は、回転リングユニット21の摺接面21aで開口している。
つまり、各ガス供給路23が回転リングユニット21の摺接面21aで開口している開口部(以降、この開口部を回転開口部23aと称する)の角度位置は、当該ガス供給路23が連通しているガス導入路15の角度位置と略同じ位置関係にある。なお、連結配管25を介さずにガス供給路23とガス導入路15とを直接連通させてもよい。
一方、固定リングユニット22には1つのガス分配路24が形成されており、このガス分配路24は真空チャンバー51外部から供給されるガスの供給ライン26に一端部が連通している。この供給ライン26と接続する一端部とは反対側の他端部は、固定リングユニット22の摺接面22aで開口している。このガス分配路24が固定リングユニット22の摺接面22aで開口している開口部(以降、この開口部を固定開口部24aと称する)は、長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付ける抱き角Aの範囲内に位置しているガス導入路15に連通するガス供給路23の回転開口部23aには対向し、この抱き角Aの範囲内に位置していないガス導入路15に連通するガス供給路23の回転開口部23aには対向しないように形成されている。
つまり、固定開口部24aは、回転開口部23aが対向しうる固定リングユニット22の摺接面22a上の領域のうち、長尺耐熱性樹脂フィルムFを巻き付ける角度範囲内(すなわち、図8の角度Aの範囲内)で開口している。よって、このガス分配路24の固定開口部24aの形状は、摺接面22aに垂直な方向から見たとき、ドーナツ状ではなく略C字状になっている。
なお、上記した本発明の一具体例のキャンロール56が具備するロータリージョイント20は、回転リングユニット21及び固定リングユニット22の形状が中心軸方向から見てほぼ同一であり、それらの摺接面21a、22aは中心軸に対して垂直に形成されていたが、長尺耐熱性樹脂フィルムFが巻き付いていない領域からのガスの放出を抑えて効果的にギャップ部にガスを導入し得るものであればかかる形状に限定されるものではない。
上記したガス放出キャンロールを備えた成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて金属膜をスパッタリング成膜することによって、シワのない金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムが得られる。例えば、耐熱性樹脂フィルムの表面にNi系合金等からなる膜とCu膜とが積層された金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムを作製することができる。さらに、ガス導入路の本数が減少するので伝熱効率を向上させることができ、フィルム基板のスパッタリング処理の際に熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力を高めることが可能となる。これは、ロールツーロール成膜処理において、所定の膜厚まで成膜させるために必要なフィルムの搬送速度を速くすることができることを意味しており、生産性の向上とコストダウンに寄与することになる。
ここでNi合金等からなる膜はシード層と呼ばれ、Ni−Cr合金又はインコネル、コンスタンタンやモネル等の各種公知の合金を用いることができるが、その組成は金属膜付耐熱性樹脂フィルムの電気絶縁性や耐マイグレーション性等の所望の特性に応じて選択される。スパッタリング成膜で得られる金属膜を更に厚くしたい場合は、湿式めっき法を用いて金属膜を更に積層することができる。なお、湿式めっき法を用いるときは、電気めっき処理のみで金属膜を形成する場合と、一次めっきとしての無電解めっき処理及び二次めっきとしての電解めっき処理等のように湿式めっき法を組み合わせて行う場合とがある。かかる湿式めっき処理には、一般的な湿式めっき法の諸条件を採用することができる。
このようにして得られた金属膜付長尺耐熱性樹脂フィルムに対して、サブトラクティブ法等を用いてパターンニングすることによって、フレキシブル配線基板が得られる。ここで、サブトラクティブ法とは、レジストで覆われていない金属膜(例えば、上記Cu膜)をエッチングにより除去してフレキシブル配線基板を製造する方法である。
以上、ロールツーロールの表面処理装置を用いて長尺耐熱性樹脂フィルムにNi-Cr合金やCu等の金属膜を積層する場合について説明したが、本発明のキャンロールはかかる金属膜付耐熱性樹脂フィルムの作製の用途に限定されるものでなく、金属膜以外に酸化物膜、窒化物膜、炭化物膜等の成膜にも、本発明のガス放出キャンロール及びそれを備えた成膜装置を好適に用いることができる。
また、本発明のキャンロールは、上述した成膜処理のほか、プラズマ処理やイオンビーム処理にも好適に使用することができる。これらプラズマ処理やイオンビーム処理は、長尺樹脂フィルム基板の表面改質を目的として、真空チャンバー内の減圧雰囲気下で長尺樹脂フィルム基板に熱負荷をかける処理であるため、成膜処理と同様にシワの発生が問題となる。従って、これらの処理装置においても本発明のガス放出キャンロールを使用することにより、キャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムとの間のギャップ部の間隔をほぼ一定に維持すると共に、その熱コンダクタンスを容易に均一にすることができるので、シワの発生を抑えることが可能となる。
なお、プラズマ処理とは、例えばアルゴンと酸素の混合ガス又はアルゴンと窒素の混合ガスからなる減圧雰囲気下において放電を行うことにより、酸素プラズマ又は窒素プラズマを発生させて長尺樹脂フィルム基板の表面を処理する方法である。また、イオンビーム処理とは、公知のイオンビーム源を用い、強い磁場を印加した磁場ギャップでプラズマ放電を発生させ、プラズマ中の陽イオンを陽極による電解でイオンビームとして照射することにより、長尺樹脂フィルム基板の表面を処理する方法である。
上記した本発明のキャンロールを用いた表面処理が対象とする長尺樹脂フィルム基板としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような樹脂フィルムや、ポリイミドフィルムのような耐熱性樹脂フィルムが挙げられる。特に、金属膜付耐熱性樹脂フィルムに用いる耐熱性樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルム等が挙げられる。これらの耐熱性樹脂フィルムは、金属膜付フレキシブル基板としての柔軟性、実用上必要な強度、配線材料として好適な電気絶縁性を有する点から好ましい。
[実施例1]
図8に示すような成膜装置(スパッタリングウェブコータ)を用いて、基板としての長尺樹脂フィルムFの表面にシード層であるNi−Cr膜を成膜し、その上にCu膜を成膜した。なお、長尺樹脂フィルムFには、幅500mm、長さ800m、厚さ25μmの宇部興産株式会社製の耐熱性ポリイミドフィルム「ユーピレックス(登録商標)」を使用した。
キャンロール56には、図3に示すようなガス放出キャンロールを使用した。このガス放出キャンロール56は、完成したときの外筒部の寸法が外径800mm、幅750mmとなるように、外径806mm、厚さ15mmのステンレスのシームレスパイプを用いた。当該シームレスパイプの厚み方向の中央部に、角度2°毎に180本の内径5mmのガス導入路をガンドリルにより両端部から形成した。
次に外周面を深さ3mmだけ円筒切削して、外径800mmに仕上げた。ガンドリルは肉厚の薄い方向に向かって曲がっていく特性があるため、ガンドリルを用いてガス導入路を外周面付近に開けることは難しい。そのため、厚み方向の中央部にガンドリルでガス導入路を形成した後、外周面を円筒切削することによって外周面付近にガス導入路を延在させた。
各ガス導入路に対して、波長1.06μm、出力100WのパルスYAGレーザーを用いて、図4に示すように、中心軸方向から見てガス導入路15の直近における外周面の法線L2に対して右斜め方向と左斜め方向にそれぞれ傾く2列のガス放出孔群16a、16bを形成した。具体的には、上記法線L2とガス放出孔が延在する方向に平行な線L1とのなす角度αが31°となるようにレーザーヘッドをセットし、ガス導入路15の中心部に向かってレーザーを照射して内径200μmのガス放出孔を穿孔した。これにより、円周方向のガス放出孔のピッチは7mmとなった。
各列のガス放出孔群において、ガス導入路15の延在方向のピッチも7mmで一列に並ぶようにした。ただし、外周面の両端部からそれぞれ20mmの領域にはガス放出孔を形成しなかった。そして、外周面に鏡面研磨を施した後、ハードクロムめっき処理を行って外筒部を作製した。この外筒部に内筒部等を組み込んで2重筒構造のジャケットロール構造のガス放出キャンロールを完成させた。
このガス放出キャンロールを図8の成膜装置50に取り付けた。この成膜装置50では、ロールツーロールで搬送させる長尺樹脂フィルムFをキャンロール56に巻き付けたときに長尺樹脂フィルムが接触しない角度(抱き角A以外の角度)は約30°であり、この角度範囲に存在するガス導入路15は15本であった。ガスロータリージョイント20には、図9(a)及び(b)に示すような機械的なガス供給制御手段で内部の流路を閉鎖できるものを採用し、上記約30°の角度範囲にはガスが放出されないようにした。
長尺樹脂フィルムFにシード層であるNi−Cr膜を成膜してからCu膜を積層して成膜するため、マグネトロンスパッタターゲット57にはNi−Crターゲットを使用し、マグネトロンスパッタターゲット58〜60にはCuターゲットを使用した。アルゴンガスを300sccm導入し、各カソードへの印加電力は5kWとした。更に、巻出ロール52と巻取ロール64の張力は80Nとし、ガス放出キャンロール56は冷媒に水を用い20℃に温度制御した。
そして、巻出ロール52に上記耐熱性ポリイミドフィルムをセットし、その先端部をキャンロール56を経由して巻取ロール64に取り付けた。真空チャンバー51内を複数台のドライポンプで5Paまで排気した後、更に複数台のターボ分子ポンプとクライオコイルを用いて3×10−3Paまで排気した。次に、耐熱性ポリイミドフィルムの搬送速度を4m/分にした後、各マグネトロンスパッタカソードにアルゴンガスを導入して電力を印加し、キャンロール56にはガス放出のためアルゴンガスを1000sccm導入して、Ni−Cr膜及びその上のCu膜の成膜を開始した。
この成膜の際、マグネトロンスパッタカソードの間に設置したレーザー変位計により、耐熱性ポリイミドフィルムの表面形状を測定したところ、耐熱性ポリイミドフィルムは約40μmガス放出キャンロール56の外周面から離れていることが確認された。なお、耐熱性ポリイミドフィルムの離れるギャップ量は、耐熱性ポリイミドフィルムの種類や厚さ、フィルム搬送張力、ガス導入量等により異なる。
そして、成膜中におけるキャンロール56上のポリイミドフィルム表面の観察が可能な観察窓から観察しながら、各カソードへの印加電力を徐々に増加していき、スパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を調べた結果、80kWであった。次に、キャンロール56から放出させるアルゴンガスの供給を停止して、同様にしてスパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を調べた結果、40kWであった。
[実施例2]
シームレスパイプの厚み方向の中央部に、角度3°毎に120本の内径5mmのガス導入路15をガンドリルにより両端部から形成し、中心軸方向から見てガス導入路15の直近における外周面の法線L2とガス放出孔が延在する方向に平行な線L1とのなす角度αが57°となる2列のガス放出孔群16a、16bと、上記法線L2上に延在する1列のガス放出孔群16cとを設けた以外は上記実施例1と同様にしてガス放出キャンロールを作製した。なお、このキャンロールにおいても、円周方向のガス放出孔のピッチは7mmであった。
このガス放出キャンロールを実施例1と同様に図8の成膜装置50に取り付けた後、実施例1と同様にして長尺樹脂フィルムFにシード層であるNi−Cr膜とCu膜を積層した。なお、この実施例2では、キャンロール56に長尺樹脂フィルムが接触しない角度範囲(抱き角A以外の角度)である約30°の角度範囲に存在するガス導入路15は10本であった。ガスロータリージョイント20には、ガス導入路15が上記約30°の角度範囲内にきたときはガスが放出されないようにした。
成膜の際、マグネトロンスパッタカソードの間に設置したレーザー変位計により耐熱性ポリイミドフィルムの表面形状を測定したところ、耐熱性ポリイミドフィルムは約40μmガス放出キャンロールから離れていることが確認された。また、成膜中におけるキャンロール上のポリイミドフィルム表面の観察が可能な観察窓から観察しながら、各カソードへの印加電力を徐々に増加していきスパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を調べた結果、80kWであった。次に、キャンロール56から放出させるアルゴンガスの供給を停止して、同様にしてスパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を調べた結果、40kWであった。
[比較例]
実施例1及び2との比較のため、シームレスパイプの厚み方向の中央部に、角度1°毎に360本の内径5mmのガス導入路をガンドリルにより両端部から形成したが、隣接するガス導入路の間隔が2mmとなる上、ガンドリルの直進性が悪くなった場合は、隣接するガス導入路同士が連通してしまうことがあった。そこで、ガス導入路の内径を4mmに変更して、ガンドリルを用いて新たなシームレスパイプに360本のガス導入路を両端部から形成した。その際、内径が5mmから4mmに細くなったため、1本のガス導入路の加工時間は約2倍かかった。
外周面を3mm円筒切削して、直径800mmに仕上げた後、各ガス導入路に対して、実施例1及び2と同様のYAGレーザーを用いて内径200μmのガス放出孔を、その延在方向がガス導入路の延在方向に垂直となるように、ガス導入路に沿って7mmピッチで複数穿孔した。ただし、各ガス放出孔は、図2に示すように、中心軸から見たときにガス導入路15の直近における外周面の法線上にガス放出孔が延在するようにした。このとき、ガス導入路のピッチが7mmであったため、円周方向のガス放出孔ピッチも7mmになった。なお、実施例1及び2と同様に、外周面の両端部からそれぞれ20mmの領域にはガス放出孔を形成しなかった。
以降は、実施例1及び2と同様にして外周面に鏡面研磨処理、及びハードクロムめっき処理を施した後、成膜装置50に取り付けて長尺樹脂フィルムFにシード層であるNi−Cr膜とCu膜を積層した。なお、この比較例では、キャンロール56に長尺樹脂フィルムが接触しない角度範囲(抱き角A以外の角度)である約30°の角度範囲に存在するガス導入路15は30本であった。ガスロータリージョイント20には、ガス導入路15が上記約30°の角度範囲内にきたときはガスが放出されないようにした。
成膜の際、マグネトロンスパッタカソードの間に設置したレーザー変位計により耐熱性ポリイミドフィルムの表面形状を測定したところ、耐熱性ポリイミドフィルムは約40μmガス放出キャンロールから離れていることが確認された。また、成膜中におけるキャンロール上のポリイミドフィルム表面の観察が可能な観察窓から観察しながら、各カソードへの印加電力を徐々に増加していきスパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を調べた結果、80kWであった。次に、キャンロール56から放出させるアルゴンガスの供給を停止して、同様にしてスパッタリングの熱負荷によるシワが発生しない最大スパッタリング電力(4台の合計)を調べた結果、40kWであった。
外筒部に設けたガス導入路の本数が、実施例1では180本、実施例2では120本、比較例では360本と異なるものの、周方向におけるガス放出孔のピッチは全て同等の7mmであったため、ガス放出を行う場合及び停止した場合におけるシワが発生しない最大スパッタリング電力という点においては3つともほぼ同等の結果が得られた。しかし、これらガス放出キャンロールの製作時間は、ガンドリル加工が必要なガス導入路の本数が少ない実施例1と実施例2が比較例に比べて短かった。また、実施例1及び実施例2では、比較例のようにガス導入路の内径を細くする必要がないので、ガンドリル加工の際の直進性が損なわれる問題を回避できるので、結果的に製作コストを抑えることができた。
11 外筒部
12 内筒部
13 側面部
14 冷媒循環部
15 ガス導入路
16a、16b、16c ガス放出孔群
20 ガスロータリージョイント
26 ガス供給ライン
50 成膜装置
51 真空チャンバー
52 巻出ロール
53、63 フリーロール
54、62 張力センサロール
55、61 フィードロール
56 キャンロール
57、58、59、60 マグネトロンスパッタリングカソード
64 巻取ロール
O 中心軸
F 長尺樹脂フィルム
A 抱き角

Claims (8)

  1. 長尺樹脂フィルムが巻き付けられる外周面を備えた円筒部と、その中心軸上に設けられた回転軸部とを備えたキャンロールであって、
    前記円筒部には、前記中心軸に平行な複数のガス導入路が全周に亘って等間隔に穿設されており、各ガス導入路は、前記外周面の幅に対して50%以上の長さで延在し、且つこの延在する方向に沿って等間隔で一列に並んで外周面側に開口するガス放出孔群の列が2列以上連通しており、これら2列以上のいずれの列のガス放出孔群においても、それらを構成する各ガス放出孔は前記中心軸に直交する面上に延在しており、且つ当該面上においてガス放出孔が延在する方向に平行な線と、それが連通するガス導入路の直近における外周面の法線とのなす角が60°以下であることを特徴とするキャンロール。
  2. 前記各ガス導入路に連通する2列以上のガス放出孔群を前記中心軸方向から見たとき、当該ガス導入路の直近における外周面の法線に関して線対称となるように設けられていることを特徴とする、請求項1に記載のキャンロール。
  3. 前記ガス放出孔群の列の数が2列であり、これら2列のガス放出孔群を前記中心軸方向から見たとき、略V字状に設けられていることを特徴とする、請求項2に記載のキャンロール。
  4. 前記ガス放出孔群の列の数が3列であり、その中央のガス放出孔群を前記中心軸方向から見たとき、これに連通するガス導入路の直近における外周面の法線上に延在していることを特徴とする、請求項1又は2に記載のキャンロール。
  5. 前記長尺樹脂フィルムの巻き付けが行われない領域に位置するガス導入路には、ガスの供給を遮断する機構を備えていることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載のキャンロール。
  6. 真空チャンバー内においてロールツーロールで搬送される長尺樹脂フィルムの一方の面をキャンロールの外周面に巻き付けながら他方の面に熱負荷のかかる表面処理を行うロールツーロール表面処理装置であって、
    前記キャンロールに請求項1〜5のいずれかに記載のキャンロールが使用されており、前記真空チャンバーの外部から供給されるガスを前記ガス導入路及び前記ガス放出孔を介してキャンロールの外周面とそこに巻き付けられる長尺樹脂フィルムの間のギャップ部に導入することを特徴とするロールツーロール表面処理装置。
  7. 請求項6に記載の熱負荷のかかる表面処理がスパッタリングであることを特徴とする成膜装置。
  8. 請求項1〜5のいずれかに記載のキャンロールの円筒部に形成するガス放出孔をレーザー加工で穿孔することを特徴とするキャンロールの製造方法。
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