JP2014004771A - 積層多孔性フィルム - Google Patents

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Abstract

【課題】孔径のバラつきを小さくすることによって、製造段階での破断を少なくし、なおかつ電池性能に寄与する優れた透気性能を有しながら、高い機械的強度、さらに安全性の確保の点で重要なシャットダウン特性を具備した積層多孔性フィルムを提供する。
【解決手段】ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を有する積層多孔性フィルムであり、ピン刺し強度が1.6N以上、25℃での透気度が10〜1000秒/100ml、かつ、140℃で1分間加熱後の透気度が50000秒/100ml以上であることを特徴とする積層多孔性フィルムである。
【選択図】なし

Description

本発明は積層多孔性フィルムに関し、電池用セパレータとして利用でき、特に非水電解液電池用セパレータとして好適に利用できるものである。
二次電池はOA、FA、家庭用電器または通信機器等のポータブル機器用電源として幅広く使用されている。特に機器に装備した場合に容積効率がよく機器の小型化および軽量化につながることからリチウムイオン二次電池を使用したポータブル機器が増加している。一方、大型の二次電池はロードレベリング、UPS、電気自動車をはじめ、エネルギー/環境問題に関連する多くの分野において研究開発が進められ、大容量、高出力、高電圧および長期保存性に優れている点より非水電解液二次電池の一種であるリチウムイオン二次電池の用途が広がっている。
リチウムイオン二次電池の使用電圧は通常4.1から4.2Vを上限として設計されている。このような高電圧では水溶液は電気分解を起こすので電解液として使うことができない。そのため、高電圧でも耐えられる電解液として有機溶媒を使用したいわゆる非水電解液が用いられている。
非水電解液用の溶媒としては、より多くのリチウムイオンを存在させることができる高誘電率有機溶媒が用いられ、該高誘電率有機溶媒としてポリプロピレンカーボネートやエチレンカーボネート等の有機炭酸エステルが主に使用されている。溶媒中でリチウムイオン源となる支持電解質として、6フッ化リン酸リチウム等の反応性の高い電解質を溶媒中に溶かして使用している。
リチウムイオン二次電池には内部短絡の防止の点からセパレータが正極と負極の間に介在されている。当該セパレータにはその役割から当然絶縁性が要求される。また、リチウムイオンの通路となる透気性と電解液の拡散・保持機能を付与するために微細孔構造である必要がある。これらの要求を満たすためセパレータとしては多孔性フィルムが使用されている。
最近の電池の高容量化に伴い、電池の安全性に対する重要度が増してきている。
電池用セパレータの安全に寄与する特性として、シャットダウン特性(以後、「SD特性」と称す)がある。このSD特性は、100〜140℃程度の高温状態になると微細孔が閉塞され、その結果電池内部のイオン伝導が遮断されるため、その後の電池内部の温度上昇を防止できるという機能である。電池用セパレータとして使用する場合は、このSD特性を具備していることが必要である。
安全に寄与するもう一つの特性としてブレイクダウン特性(以後、「BD特性」と称す)がある。このBD特性は、SD特性の発現によっても発熱が収まらず、160℃以上のより高温の状態となった場合でも、フィルムが破膜せず、正極と負極を隔て続けるという機能である。BD特性を有すれば高温になっても絶縁を保ち、電極間の広範囲な短絡を防止することができるため、電池の異常発熱による発火等の事故を防止できる。そのため、電池用セパレータとして使用する場合はこのBD特性も具備していることが好ましく、ブレイクダウン温度はより高い温度であることが好ましい。
このような要望に対して、特許2883726号公報(特許文献1)ではポリエチレンとポリプロピレンの積層フィルムを1軸方向に温度を変えて2段階で延伸することにより多孔質化せしめることを特徴とする電池用セパレータの製造方法が提案されていた。
また、従来のβ晶を含むポリプロピレンシートを延伸して多孔性フィルムを得る方法が種々提案されている。前記多孔性フィルムの製造方法の特徴は、β晶を利用することによって多孔構造を得ることができ、延伸前のシートに含まれているβ晶が多いほど、延伸による多孔構造を得るには好ましい。前記方法は一般的な二軸延伸による多孔化方法であり、多孔性フィルムを得る方法としては生産性が非常に良い特徴があった。
例えば、特公平6−84450号公報(特許文献2)では、ポリプロピレンにフィラーとβ晶核剤を所定量含有させた樹脂組成物をシート化し、特定の延伸条件で延伸することにより多孔性フィルムを得る製造方法が提案されていた。特許2509030号公報(特許文献3)では、β晶含有率が高い(K>0.5)オリジナルポリプロピレンフィルムより二軸延伸して得られる超透過性ポリプロピレンのミクロポーラスフィルムが提案されていた。特許3443934号公報(特許文献4)では、ポリプロピレンに特定のアミド系化合物を含有させて、特定条件で結晶化してβ晶を含む固化物を得、これを延伸することによってポリプロピレン製多孔性フィルムを製造する方法が提案されていた。
また、特開2000−30683号公報(特許文献5)には、β核含有プリカーサーから製造されるポリプロピレン微多孔膜を含む電池セパレータが提案されており、更に、他の層として、遮断機能等の安全性を向上させる機能を付与することが記載されていた。
特許2883726号公報 特公平6−84450号公報 特許2509030号公報 特許3443934号公報 特開2000−30683号公報
しかしながら、特許文献1では、厳密な製造条件の制御を必要とし、かつ生産性が良いとは言い難い。例えば、多孔質化する前の積層フィルムの作成時に高いドラフト比で高次構造を制御しながら製膜を行っているが、このような高いドラフト比で安定的な製膜を行うことは非常に困難であった。また、多孔構造の発現を行うためには、低温度領域と高温度領域の2段階でかつ小さい延伸速度で多段延伸を行う必要があり、延伸速度が大きく制限され、生産性が非常に悪い。
さらに、特許文献1の製造方法によって製造されたセパレータは、延伸方向と垂直方向における引裂きに弱く、延伸方向に裂け目が生じやすい問題点も有している。
また、特許文献2〜4に記載のポリプロピレン多孔性フィルムは、ポリプロピレンの結晶融解温度が高いことから、BD特性においてはポリエチレン多孔性フィルムよりも優れている。しかしながら、SD特性については全く発揮し得ない為、前記ポリプロピレン多孔性フィルムを電池用セパレータとして使用するには電池の安全性を確保するという点で問題がある。
また、特許文献5では、遮断機能等の安全性を向上させる機能を付与することを許容する記載がある。しかし、遮断機能を付与した実施例の記載がなく、ポリエチレン層を積層しただけでは、電池の安全性を向上させる機能を付与させるには不十分である。
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、積層多孔性フィルムの孔径のバラつきを小さくすることによって、製造段階での破断を少なくし、なおかつ電池性能に寄与する優れた透気性能を有しながら、高い機械的強度、さらに安全性の確保の点で重要なシャットダウン特性を具備した積層多孔性フィルムを提供することを課題としている。
前記課題を解決するため、本発明は、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を有する積層多孔性フィルムであり、以下の条件(1)〜(3)を全て満たすことを特徴とする積層多孔性フィルムである。
(1)ピン刺し強度が1.6N以上
(2)25℃での透気度が10〜1000秒/100ml
(3)140℃で1分間加熱後の透気度が、50000秒/100ml以上
また本発明は、前記積層多孔性フィルムの流れ方向(MD)における破断伸度が60%以上であり、かつ、前記積層多孔性フィルムの流れ方向に対して垂直方向(TD)における破断伸度が150%以上であることが好ましい。
また本発明は、25℃での電気抵抗が1.0Ω以下であることが好ましい。
また本発明の前記II層について、前記スチレン系エラストマーのスチレン成分含有量が10〜70質量%であることが好ましい。
また本発明の前記II層について、前記スチレン系エラストマーの添加量が0.1〜10質量%であることが好ましい。
また本発明は、β晶活性を有することが好ましい。
また本発明の前記I層について、β晶核剤が含まれていることが好ましい。
また本発明の製造方法として、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を共押出によって積層させ、二軸延伸によって多孔化させることが好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を有しているので、従来のポリプロピレン系樹脂製の多孔性フィルムが有するブレイクダウン特性を維持したまま、適切な温度範囲で孔が閉塞するシャットダウン特性を備えている。
さらに本発明の積層多孔性フィルムは、スチレン系エラストマーを含有することを大きな特徴としている。スチレン系エラストマーは、樹脂と混練した際に決定されるモルフォロジーが、その後の製造工程の種類によらずほとんど変形されないので、ポリエチレン系樹脂を海部、スチレン系エラストマーを島部とする、均一性の高い海島構造を得ることができる。そのため、厳密な製造条件の制御を必要とせずに均一性の高い孔構造を得ることができるので、部分的な性能欠如を防ぎ、高いシャットダウン機能を具備した、バランスに優れた積層多孔性フィルムを得ることができる。また上記のような特性は、構造維持や耐衝撃性の観点からも電池用セパレータに有用である。
本発明の積層多孔性フィルムを電池用セパレータとして収容している電池の一部破断斜視図である。 140℃で1分間加熱後の透気度、広角X線回折測定における積層多孔性フィルムの固定方法を説明する図である。
以下、本発明の積層多孔性フィルムの実施形態について詳細に説明する。
なお、本発明において、「主成分」と表現した場合には、特に記載しない限り、当該主成分の機能を妨げない範囲で他の成分を含有することを許容する意を包含し、特に当該主成分の含有割合を特定するものではないが、主成分は組成物中の50質量%以上、好ましくは70質量%以上、特に好ましくは90質量%以上(100質量%も含む)を占める意を包含するものである。
また、「X〜Y」(X,Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」を意図し、「Xより大きくYよりも小さいことが好ましい」旨の意図も包含する。
本実施形態の積層多孔性フィルムは、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を有する積層多孔性フィルムである。
また、本発明の積層多孔性フィルムは、β晶活性を有することが好ましい。
β晶活性は、延伸前の膜状物においてポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していたことを示す一指標と捉えることができる。延伸前の膜状物中のポリプロピレン系樹脂がβ晶を生成していれば、その後延伸を施すことで微細孔が形成されるため、透気特性を有するセパレータを得ることができる。
前記積層多孔性フィルムのβ晶活性の有無は、示差走査型熱量計を用いて、積層多孔性フィルムの示差熱分析を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度が検出されるか否かで判断している。
具体的には、示差走査型熱量計で積層多孔性フィルムを25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃から25℃まで冷却速度10℃/分で降温後1分間保持し、更に25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に、再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)が検出された場合、β晶活性を有すると判断している。
また、前記積層多孔性フィルムのβ晶活性度は、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算している。
β晶活性度(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
例えば、ホモポリプロピレンの場合は、主に145℃以上160℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に160℃以上175℃以下に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。また、例えばエチレンが1〜4モル%共重合されているランダムポリプロピレンの場合は、主に120℃以上140℃未満の範囲で検出されるβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)と、主に140℃以上165℃以下の範囲に検出されるα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)から計算することができる。
積層多孔性フィルムのβ晶活性度は大きい方が好ましく、β晶活性度は20%以上であることが好ましい。40%以上であることがより好ましく、60%以上であることが更に好ましい。積層多孔性フィルムが20%以上のβ晶活性度を有すれば、延伸前の膜状物中においてもポリプロピレン系樹脂のβ晶が多く生成することができることを示し、延伸により微細かつ均一な孔が多く形成され、結果として、透気性能に優れた積層多孔性フィルムとすることができる。
β晶活性度の上限値は特に限定されないが、β晶活性度が高いほど前記効果がより有効に得られるので100%に近いほど好ましい。
前記β晶活性の有無は、特定の熱処理を施した積層多孔性フィルムのX線回折測定により得られる回折プロファイルでも判断することができる。
詳細には、ポリプロピレン系樹脂の結晶融解ピーク温度を超える温度である170〜190℃の熱処理を施し、徐冷してβ晶を生成・成長させた積層多孔性フィルムについてX線回折測定を行い、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来する回折ピークが2θ=16.0°〜16.5°の範囲に検出された場合、β晶活性が有ると判断している。ポリプロピレン系樹脂のβ晶構造とX線回折測定に関する詳細は、Macromol.Chem.187,643−652(1986)、Prog.Polym.Sci.Vol.16,361−404(1991)、Macromol.Symp.89,499−511(1995)、Macromol.Chem.75,134(1964)、及びこれらの文献中に挙げられた参考文献を参照することができる。
前述した積層多孔性フィルムのβ晶活性を得る方法としては、前記I層の樹脂組成物のポリプロピレン系樹脂のα晶の生成を促進させる物質を添加しない方法や、特許3739481号公報に記載されているように過酸化ラジカルを発生させる処理を施したポリプロピレンを添加する方法、及び前記I層の樹脂組成物にβ晶核剤を添加する方法などが挙げられる。
中でも、前記I層の樹脂組成物にβ晶核剤を添加してβ晶活性を得ることが特に好ましい。β晶核剤を添加することで、より均質に効率的にポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成を促進させることができ、β晶活性を有する多孔質層を備えた電池用積層多孔性フィルムを得ることができる。
以下に、本発明の積層多孔性フィルムを構成する各層の成分の詳細について説明する。
[I層]
まず、I層について以下に説明する。
(ポリプロピレン系樹脂)
I層に含まれるポリプロピレン系樹脂としては、ホモプロピレン(プロピレン単独重合体)、またはプロピレンとエチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−へキセン、1−へプテン、1−オクテン、1−ノネンもしくは1−デセンなどα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体などが挙げられる。この中でも、積層多孔性フィルムの機械的強度の観点からはホモポリプロピレンがより好適に使用される。
また、ポリプロピレン系樹脂としては、立体規則性を示すアイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)が80〜99%であることが好ましい。より好ましくは83〜98%、更に好ましくは85〜97%であるものを使用する。アイソタクチックペンタッド分率が低すぎるとフィルムの機械的強度が低下するおそれがある。一方、アイソタクチックペンタッド分率の上限については現時点において工業的に得られる上限値で規定しているが、将来的に工業レベルで更に規則性の高い樹脂が開発された場合についてはこの限りではない。
アイソタクチックペンタッド分率(mmmm分率)とは、任意の連続する5つのプロピレン単位で構成される炭素−炭素結合による主鎖に対して側鎖である5つのメチル基がいずれも同方向に位置する立体構造あるいはその割合を意味する。メチル基領域のシグナルの帰属は、A.Zambelli et al(Macromolecules 8,687,(1975))に準拠している。
また、ポリプロピレン系樹脂は、分子量分布を示すパラメータであるMw/Mnが2.0〜10.0であることが好ましい。より好ましくは2.0〜8.0、更に好ましくは2.0〜6.0であるものが使用される。Mw/Mnが小さいほど分子量分布が狭いことを意味するが、Mw/Mnが2.0未満であると押出成形性が低下する等の問題が生じるほか、工業的に生産することも困難である。一方、Mw/Mnが10.0を超えた場合は低分子量成分が多くなり、積層多孔性フィルムの機械的強度が低下しやすい。Mw/MnはGPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)法によって得られる。
また、ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常、MFRは0.1〜15g/10分であることが好ましく、0.5〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが0.1g/10分未満では、成形加工時の樹脂の溶融粘度が高く生産性が低下する。一方、15g/10分を超えると、多孔性フィルムの機械的強度が不足するため実用上問題が生じやすい。MFRはJIS K7210に従い、温度230℃、荷重2.16kgの条件で測定している。
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、商品名「ノバテックPP」「WINTEC」(日本ポリプロ社製)、「ノティオ」「タフマーXR」(三井化学社製)、「ゼラス」「サーモラン」(三菱化学社製)、「住友ノーブレン」「タフセレン」(住友化学社製)、「プライム TPO」(プライムポリマー社製)、「Adflex」「Adsyl」、「HMS−PP(PF814)」(サンアロマー社製)、「バーシファイ」「インスパイア」(ダウ・ケミカル社製)など市販されている商品を使用できる。
なお、ポリプロピレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知の重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
(β晶核剤)
本発明では微細な多孔質構造を得るために、前記β晶活性を有することが好ましく、中でもβ晶核剤を用いることが好ましい。本発明で用いるβ晶核剤としては以下に示すものが挙げられるが、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の生成・成長を増加させるものであれば特に限定される訳ではなく、また2種類以上を混合して用いても良い。
β晶核剤としては、例えば、アミド化合物;テトラオキサスピロ化合物;キナクリドン類;ナノスケールのサイズを有する酸化鉄;1,2−ヒドロキシステアリン酸カリウム、安息香酸マグネシウムもしくはコハク酸マグネシウム、フタル酸マグネシウムなどに代表されるカルボン酸のアルカリもしくはアルカリ土類金属塩;ベンゼンスルホン酸ナトリウムもしくはナフタレンスルホン酸ナトリウムなどに代表される芳香族スルホン酸化合物;二もしくは三塩基カルボン酸のジもしくはトリエステル類;フタロシアニンブルーなどに代表されるフタロシアニン系顔料;有機二塩基酸である成分Aと周期律表第IIA族金属の酸化物、水酸化物もしくは塩である成分Bとからなる二成分系化合物;環状リン化合物とマグネシウム化合物からなる組成物などが挙げられる。
市販されているβ晶核剤の具体例としては、新日本理化社製β晶核剤「エヌジェスターNU−100」、β晶核剤の添加されたポリプロピレン系樹脂の具体例としては、Aristech社製ポリプロピレン「Bepol B−022SP」、Borealis社製ポリプロピレン「Beta(β)−PP BE60−7032」、mayzo社製ポリプロピレン「BNX BETAPP−LN」などが挙げられる。
前記ポリプロピレン系樹脂に添加するβ晶核剤の割合は、β晶核剤の種類またはポリプロピレン系樹脂の組成などにより適宜調整することが必要であるが、ポリプロピレン系樹脂100質量部に対しβ晶核剤0.0001〜5.0質量部が好ましい。0.001〜3.0質量部がより好ましく、0.01〜1.0質量部が更に好ましい。0.0001質量部以上であれば、製造時において十分にポリプロピレン系樹脂のβ晶を生成成長させ、十分なβ晶活性が確保でき、積層多孔性フィルムとした際にも十分なβ晶活性が確保でき、所望の透気性能が得られる。一方、5.0質量部以下の添加であれば、経済的にも有利になるほか、フィルム表面へのβ晶核剤のブリードなどがなく好ましい。
(他の成分)
I層には、前述のような本発明の目的やI層の特性を損なわない程度の範囲で、一般に樹脂組成物に配合される添加剤または他の成分を含んでいてもよい。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および積層多孔性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤または着色剤などの添加剤が挙げられる。具体的には、酸化防止剤として、ハロゲン化銅、芳香族アミン等のアミン系酸化防止剤、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]等のフェノール系酸化防止剤等が挙げられる。市販されているものとしては、「イルガノックスB225」(チバスペシャル社製)が挙げられる。
[II層]
次に、II層について以下に説明する。
(ポリエチレン系樹脂)
ポリエチレン系樹脂としては、超低密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、または超高密度ポリエチレンなどのポリエチレンが具体的に挙げられ、エチレン−プロピレン共重合体等の共重合体成分を用いてもよく、これらを2種以上混合して用いてもよい。中でも結晶性の高い高密度ポリエチレン樹脂単独が好ましい。
また、ポリエチレン系樹脂は、その熱的特性が重要である。すなわち、II層を構成する樹脂組成物の結晶融解ピーク温度がI層を構成する樹脂組成物の結晶融解ピーク温度よりも低くなるようにポリエチレン系樹脂を選択する必要がある。具体的には、ポリエチレン系樹脂の結晶融解ピーク温度は100℃以上150℃以下が好ましい。
前記ポリエチレン系樹脂の密度は、0.910〜0.970g/cmであることが好ましく、0.930〜0.970g/cmであることがより好ましく、0.940〜0.970g/cmであることが更に好ましい。前記ポリエチレン系樹脂の密度が規定された範囲であることで、電池用セパレータとして使用時において、十分なシャットダウン特性を有するII層を形成することができる。また、前記ポリエチレン系樹脂の密度が0.970g/cm以下であれば、延伸性が維持される点で好ましい。密度の測定は密度勾配管法を用いてJIS K7112に準じて測定することができる。
前記ポリエチレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は特に制限されるものではないが、通常MFRは0.03〜15g/10分であることが好ましく、0.3〜10g/10分であることがより好ましい。MFRが上記範囲であれば成形加工時に押出機の背圧が高くなりすぎることが無く生産性に優れる。尚本発明におけるMFRはJIS K7210に準拠し、温度190℃、荷重2.16kgの条件下での測定値をさす。
なお、ポリエチレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
(スチレン系エラストマー)
前記II層について、ポリエチレン系樹脂にスチレン系エラストマーを添加することが重要である。前記スチレン系エラストマーを添加することによって、より効率的に微細な多孔構造を得ることができ、空孔の形状や孔径を制御しやすくなる。
また、電池用セパレータとして使用時において、好適な機械的強度、シャットダウン特性を具備した積層多孔性フィルムを得ることができる。
本発明で用いるスチレン系エラストマーは、スチレン成分を基材とした熱可塑性エラストマーの1種で、軟質成分(例えばブタジエン成分)と硬質成分(例えばスチレン成分)との連続体からなる共重合体である。
また、共重合体の種類について、ランダム共重合体、ブロック共重合体、グラフト共重合体が挙げられる。一般にブロック共重合体としては、線状ブロック構造や放射状枝分れブロック構造等種々のものが知られている。本発明においてはいずれの構造のものを用いてもよい。
ポリエチレン系樹脂にスチレン系エラストマーを添加する際、前記スチレン系エラストマーには、少なくともポリエチレン系樹脂と相溶しないスチレン成分が存在するため、前記スチレン系エラストマーのスチレン成分含有率が、モルフォロジー変化に与える影響は非常に大きい。II層の孔径を効率的に制御する場合、前記スチレン系エラストマーのスチレン成分含有率は10〜70質量%が好ましく、20〜60質量%がより好ましい。前記スチレン成分含有率を10質量%以上とすることで、スチレン成分によるモルフォロジー変化を効果的に与えることができる。一方でスチレン成分含有率が70%質量以下とすることで、海島構造において極端に大きな島部の発生を抑制し、より均一な孔構造を得ることができる。
前記II層について、前記スチレン系エラストマーの添加量は0.1〜10質量%が好ましい。より好ましくは1〜8質量%、更に好ましくは1〜5質量%である。
前記スチレン系エラストマーの添加量が0.1質量%以上であることによって、多孔構造をより微細化させることができ、十分な機械的強度を確保することができる。一方、10質量%以下であることにより、前記スチレン系エラストマーの凝集を抑え、さらに微細な空孔を形成する上で優位性を持つことができる。
前記スチレン系エラストマーの具体的な種類について特に限定しないが、スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SBR)、水素添加スチレン−ブタジエンブロック共重合体(SEB)、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン−ブタジエン−ブチレン−スチレンブロック共重合体(SBBS)、スチレン−エチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体(SEBS)、スチレン−イソプレンブロック共重合体(SIR)、スチレン−エチレン−プロピレンブロック共重合体(SEP)、スチレン−イソプレン−スチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEPS)、スチレン−エチレン−エチレン−プロピレン−スチレンブロック共重合体(SEEPS)などが挙げられる。また、効率的にポリエチレン系樹脂中に分散させるためには、前記スチレン系エラストマーの中でもエチレン成分が含有されているものがより好ましく、中でもSEP、SPES、SEBS、SEEPSが更に好ましい。エチレン成分が含有されているスチレン系エラストマーを用いることで、ポリエチレン系樹脂との相溶性が高くなるため、当該スチレン系エラストマーの分散性が高くなる。よって、均一で微細な空孔を有する多孔性フィルムを得ることができ、電池用セパレータとして使用時において、十分なシャットダウン特性を有することができる。
(他の成分)
II層において、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマー以外に、一般に樹脂組成物に配合される添加剤または他の成分を含んでいてもよい。前記添加剤としては、成形加工性、生産性および積層多孔性フィルムの諸物性を改良・調整する目的で添加される、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂やシリカ、タルク、カオリン、炭酸カルシウム等の無機粒子、酸化チタン、カーボンブラック等の顔料、難燃剤、耐候性安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、溶融粘度改良剤、架橋剤、滑剤、核剤、可塑剤、老化防止剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、スリップ剤または着色剤などの添加剤が挙げられる。
中でも、核剤はポリエチレン系樹脂の結晶構造を制御し、延伸開孔時の多孔構造を細かくするという効果があるため好ましい。市販されているものとして、「ゲルオールD」(新日本理化社製)、「アデカ スタブ」(旭電化工業社製)、「Hyperform」(ミリケンケミカル社製)、または「IRGACLEAR D」(チバ スペシャルケミカルズ社製)等が挙げられる。また、核剤の添加されたポリエチレン系樹脂の具体例としては、「リケマスター」(理研ビタミン社製)等が商業的に入手できる。
なお、ポリエチレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒やメタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
[積層構造]
本発明の積層多孔性フィルムの積層構成について説明する。
基本的な構成となるI層とII層が少なくとも存在すれば特に限定されるものではない。最も単純な構成がI層とII層の2層構造、次に単純な構造が両外層と中層の2種3層構造であり、これらは好ましい構成である。2種3層の形態の場合、I層/II層/I層であってもII層/I層/II層であっても構わない。また、必要に応じて他の機能を持つ層(III層)と組み合わせて3種3層の様な形態も可能である。更に層数としては4層、5層、6層、7層と必要に応じて増やしても良い。中でも、高温で樹脂が流動し始めると負極の多孔構造内に吸い込まれることがあるため、ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層を外層に選択する事が好ましい。
また、本発明の積層多孔性フィルムの機能を妨げない範囲で、前記I層、II層とは異なる他の層(III層)を積層することもできる。具体的には、強度保持層、耐熱層が挙げられる。
I層とII層との総厚み比については、I層/II層の値が0.05〜20であることが好ましく、0.1〜15であることがより好ましく、0.5〜12であることが更に好ましい。I層/II層の値が0.05以上とすることで、I層のブレイクダウン特性及び強度を十分に発揮することができる。また20以下とすることで、例えば電池に適用した時にSD特性が十分に発揮することができ、安全性を確保することができる。また、II層およびI層以外の他の層が存在する場合、他の層の厚みの合計は全体の厚み1に対して0.05〜0.5が好ましく、0.1〜0.3がより好ましい。
[積層多孔性フィルムの形状および物性]
積層多孔性フィルムの形態としては平面状、チューブ状の何れであってもよいが、幅方向に製品として数丁取りが可能であることから生産性がよく、さらに内面にコートなどの処理が可能できること等の観点から、平面状がより好ましい。
(厚み)
本発明の積層多孔性フィルムの厚みは、50μm以下が好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下が更に好ましい。一方で下限として、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましく、15μm以上が更に好ましい。電池用セパレータとして使用する場合、厚みが50μm以下であれば、積層多孔性フィルムの電気抵抗が小さくできるので電池の性能を十分に確保することができる。また、厚みが5μm以上あれば、実質的に必要な電気絶縁性を得ることができ、例えば大きな電圧がかかった場合にも短絡しにくく安全性に優れる。
(25℃での透気度)
本発明の積層多孔性フィルムは、25℃での透気度が10〜1000秒/100mlの範囲であることが重要であり、好ましくは15〜800秒/100ml以下、より好ましくは20〜500秒/100ml以下である。電池用セパレータとして使用時において、25℃での透気度が1000秒/100ml以下とすることによって、十分な電気抵抗を有することができ、室温で優れた電池性能を有することができる。一方で、25℃での透気度が10秒/100ml以上であれば、内部短絡等のトラブルを回避することができる。
透気度は多孔性フィルムの厚み方向の空気の通り抜け難さを表し、具体的には100mlの空気が当該フィルムを通過するのに必要な秒数で表現されている。そのため、数値が小さい方が通り抜け易く、数値が大きい方が通り抜け難いことを意味する。すなわち、その数値が小さい方が多孔性フィルムの厚み方向の連通性が良いことを意味し、その数値が大きい方が当該フィルムの厚み方向の連通性が悪いことを意味する。連通性とは多孔性フィルムの厚み方向の孔のつながり度合いである。
(空孔率)
空孔率は多孔構造を規定する為の重要なファクターであって、多孔性フィルム中の空間部分の割合を示す数値である。本発明の積層多孔性フィルムにおいては、空孔率が5%以上であることが好ましく、より好ましくは20%以上、更に好ましくは30%以上、特に好ましくは40%以上である。一方で、上限については80%以下が好ましく、70%以下がより好ましく、65%以下が更に好ましい。空孔率が5%以上であれば、連通性を十分に確保し透気特性に優れた積層多孔性フィルムとすることができる。また、空孔率が80%以下であれば、積層多孔性フィルムの機械的強度を十分に保持することができ、ハンドリングの観点からも好ましい。
(ピン刺し強度)
本発明の積層多孔性フィルムのピン刺し強度について、その値としては、厚みにかかわらず、1.6N以上であることが重要であって、好ましくは1.8N以上であり、より好ましくは2.0N以上である。ピン刺し強度の測定方法については後述するが、ピン刺し強度が1.6N以上とすることで、積層多孔性フィルムの面方向に対して十分な機械的強度を有することができる。例えば、電池用セパレータとして使用時に、電池作製時の異物等でのセパレータの破れによる短絡を抑えることができる。
一方、上限に関しては特に限定しないが、通常10N以下のものが使用される。
(破断伸度)
本発明の積層多孔性フィルムの流れ方向(MD)における破断伸度は60%以上であることが好ましい。より好ましくは65%以上、更に好ましくは70%以上である。一方、上限に関しては特に限定しないが、200%以下が好ましい。
また、積層多孔性フィルムの流れ方向に対して垂直方向(TD)における破断伸度が150%以上であることが好ましい。より好ましくは180%以上、更に好ましくは200%以上である。一方、上限に関しては特に限定しないが、1000%以下が好ましい。
積層多孔性フィルムの破断伸度が前述で規定された範囲内であることによって、柔軟性が高いことを示唆しており、加工時及び使用時における破断を十分に抑制することができる。また、電池用セパレータとして使用時に、電池製造時にかかるテンションによって、積層多孔性フィルムの変形による物性の変化を十分に抑制させる効果がある。前記破断伸度が規定された範囲内にするためには、添加するスチレン系エラストマーの添加量を調整することや、異なる種類のものを用いること、またはそれらを併用することで、達成することができる。なお、破断伸度の測定方法は後述する。
(25℃での電気抵抗)
本発明の積層多孔性フィルムは、25℃での電気抵抗は1.0Ω以下であることが好ましく、0.9Ω以下がより好ましく、0.8Ω以下が更に好ましい。1.0Ω以下であることで、電池用セパレータとして使用する場合、室温使用時に十分に優れた電池性能を有することができる。
また、積層多孔性フィルムの25℃での電気抵抗が低いということは、電池用セパレータとして使用時に電荷の移動が容易であることを意味し、電池性能に優れるため好ましい。
一方、下限については特に限定しないが、0.1Ω以上が好ましく、0.3Ω以上がより好ましく、0.5Ω以上が更に好ましい。25℃での電気抵抗は0.1Ω以上であれば、電池用セパレータとして使用時に内部短絡等のトラブルを回避することができる。
(140℃で1分間加熱後の透気度)
本発明の積層多孔性フィルムを電池用セパレータとして電池に搭載した場合、電池が熱暴走を起こした際の安全機構として、電池用セパレータにシャットダウン機能を有することが重要である。
シャットダウン機能の有無の評価方法については後述するが、シャットダウン機能を有するものは、140℃で1分間加熱後の透気度が50000秒/100ml以上であり、75000秒/100ml以上が好ましい。140℃で1分間加熱後の透気度が50000秒/100ml以上とすることで、電池が熱暴走を起こした場合に空孔が速やかに閉塞するため、電池の破裂等のトラブルを回避することができる。
140℃で1分間加熱後の透気度が50000秒/100ml以上とするためには、孔径や空孔率に左右される。前記II層について、ポリエチレン系樹脂にスチレン系エラストマーを加え、当該スチレン系エラストマーの種類や配合量を調整することによって、140℃で1分間加熱後の透気度を制御することができる。
[製造方法]
次に本発明の積層多孔性フィルムの製造方法について説明するが、本発明はかかる製造方法により製造される積層多孔性フィルムのみに限定されるものではない。
本発明の積層多孔性フィルムの製造方法は、多孔化と積層の順序によって次の3つに大別される。
(a)ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層の多孔性フィルム(以後、「多孔性フィルムPP」と称する)と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層の多孔性フィルム(以後、「多孔性フィルムPE」と称する)を作製し、ついで少なくとも多孔性フィルムPPと多孔性フィルムPEを積層する方法。
(b)ポリプロピレン系樹脂を主成分とする膜状物(以後、「無孔膜状物PP」と称する)とポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とする膜状物(以後、「無孔膜状物PE」と称する)の少なくとも2層からなる積層無孔膜状物を作製し、ついで該無孔膜状物を多孔化する方法。
(c)ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層とポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層の2層のうちいずれか1層を多孔化したのち、もう1層の無孔膜状物と積層し、多孔化する方法。
前記(a)の方法としては、多孔性フィルムPPと多孔性フィルムPEをラミネートする方法や接着剤等で積層化する方法が挙げられる。
前記(b)の方法としては、無孔膜状物PPと無孔膜状物PEをそれぞれ作製し、無孔膜状物PPと無孔膜状物PEをラミネートや接着剤等で積層した後に多孔化する方法、または、共押出で積層無孔膜状物を作製した後、多孔化する方法などが挙げられる。
前記(c)の方法としては、多孔性フィルムPPと無孔膜状物PE、または無孔膜状物PPと多孔性フィルムPEをラミネートする方法や接着剤等で積層化する方法が挙げられる。
本発明においては、その工程の簡略さ、生産性の観点から(b)の方法が好ましく、共押出を用いる方法がより好ましい。
本発明の積層多孔性フィルムの製造方法は、前記分類とは別にII層の多孔化方法により分類することもできる。
すなわち、I層はβ晶活性を有する場合、延伸することにより微細孔を容易に形成することができる。一方、II層を多孔化する方法としては、例えば延伸法、相分離法、抽出法、化学処理法、照射エッチング法、発泡法、またはこれらの技術の組み合わせなど公知の方法を用いることができる。なかでも本発明においては延伸法を用いることが好ましい。
前記延伸法とは、樹脂に化合物を混合した組成物を用いて無孔層または無孔膜状物を形成し、延伸することにより樹脂と化合物の界面を剥離させて微細孔を形成する方法である。
前記相分離法は、転換法またはミクロ相分離法とも呼ばれる技術で、高分子溶液の相分離現象に基づき細孔を形成する方法である。具体的には、(i)高分子の相分離により微細孔を形成する方法、(ii)重合時に微細孔を形成させながら多孔化する方法に大別される。前者の方法としては溶媒を用いる溶媒ゲル化法と熱溶融急冷凝固法があり、いずれを用いてもよい。
前記抽出法では、後工程で除去可能な添加剤を、II層を構成する樹脂組成物に混合し、無孔層または無孔膜状物を形成したのち前記添加剤を薬品などで抽出して微細孔を形成する方法である。添加剤としては高分子添加剤、有機物添加剤、無機物添加剤などが挙げられる。
高分子添加剤を用いた例としては、有機溶媒に対する溶解性が異なる2種のポリマーを用いて無孔層または無孔膜状物を形成し、前記2種のポリマーのうち一方のポリマーのみが溶解する有機溶媒に浸漬して該一のポリマーを抽出する方法が挙げられる。より具体的にはポリビニルアルコールとポリ酢酸ビニルからなる無孔層または無孔膜状物を形成し、アセトンおよびn−ヘキサンを用いてポリ酢酸ビニルを抽出する方法、または、ブロックあるいはグラフト共重合体に親水性重合体を含有させて無孔層または無孔膜状物を形成し、水を用いて親水性重合体を除去する方法などが挙げられる。
有機物添加剤を用いた例としては、II層を構成する熱可塑性樹脂が不溶である有機溶媒に可溶な物質を配合して無孔層または無孔膜状物を形成し、前記有機溶媒に浸漬して前記物質を抽出除去する方法が挙げられる。
前記物質としては、例えばステアリルアルコールもしくはセリルアルコールなどの高級脂肪族アルコール、n−デカンもしくはn−ドデカンなどのn−アルカン類、パラフィンワックス、流動パラフィンまたは灯油等が挙げられ、これらはイソプロパノール、エタノール、ヘキサンなどの有機溶媒で抽出できる。また、前記物質としてショ糖や砂糖などの水可溶性物質も挙げられ、これらは水で抽出できるため環境への負担が少ないという利点がある。
前記化学処理法は、高分子基体の結合を化学的に切断したり、逆に結合反応を行ったりすることにより、微細孔を形成する方法である。より具体的には、酸化還元剤処理、アルカリ処理、酸処理などの薬品処理により微細孔を形成する方法が挙げられる。
前記照射エッチング法は中性子線またはレーザーなどを照射して微小な穴を形成させる方法である。
前記融着法は、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンまたはポリプロピレン等のポリマー微細パウダーを用い、成形後に前記ポリマー微細パウダーを焼結する方法である。
前記発泡法としては機械的発泡法、物理的発泡法、または化学的発泡法等があり、本発明においてはいずれも用いることができる。
本発明の積層多孔性フィルムの製造方法の好ましい態様として、β晶活性を有するポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を有する積層無孔膜状物を作製し、前記積層無孔膜状物を延伸することによって、厚み方向に連通性を有する微細孔を多数形成させた製造方法が挙げられる。
積層無孔膜状物の作製方法は特に限定されず公知の方法を用いてよいが、例えば押出機を用いて樹脂組成物を溶融し、Tダイから共押出し、キャストロールで冷却固化するという方法が挙げられる。また、チューブラー法により製造したフィルムを切り開いて平面状とする方法も適用できる。
積層無孔膜状物の延伸方法については、ロール延伸法、圧延法、テンター延伸法、同時二軸延伸法や逐次二軸延伸法などの手法があり、これらを単独あるいは2つ以上組み合わせて二軸延伸を行う。中でも、多孔構造制御の観点から二軸延伸が好ましい。
より好ましい態様として、β晶活性を有するポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を共押出によって積層させ、二軸延伸によって多孔化させる積層多孔性フィルムの製造方法を以下に説明する。
I層を構成する樹脂組成物は、ポリプロピレン系樹脂およびβ晶核剤を含有することが好ましい。これらの原材料を、好ましくはヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて、または袋の中に全成分を入れてハンドブレンドにて混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダー等、好ましくは二軸押出機で溶融混練後、ペレット化する。
II層を構成する樹脂組成物を作製する場合、ポリエチレン系樹脂およびII層の説明で述べたスチレン系エラストマー、さらに所望によりその他添加物等の原材料を、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、タンブラー型ミキサー等を用いて混合した後、一軸あるいは二軸押出機、ニーダー等、好ましくは二軸押出機で溶融混練後、ペレット化する。
次に得られた樹脂組成物のペレットは、別々の押出機に投入し、Tダイ共押出用口金から押出を行う。Tダイの種類としては、2種3層用マルチマニホールドタイプでも構わないし、2種3層用フィードブロックタイプでも構わない。
使用するTダイのギャップは、最終的に必要な積層多孔性フィルムの厚み、延伸条件、ドラフト率、各種条件等から決定されるが、一般的には0.1〜3.0mm程度が好ましく、より好ましくは0.5〜1.0mmである。Tダイのギャップを0.1mm以上とすることで、より十分な生産速度を確保することができる。一方、3.0mm以下とすることでより十分な生産安定性を確保することができる。
押出成形において、押出加工温度は樹脂組成物の流動特性や成形性等によって適宜調整されるが、概ね150〜300℃が好ましく、180〜280℃の範囲であることがより好ましい。150℃以上にすることで、溶融樹脂の粘度が十分に低く成形性に優れて好ましい。一方、300℃以下とすることにより、樹脂組成物の劣化を抑制できる。
キャストロールによる冷却固化温度は、本発明において重要であり、延伸前の膜状物中のβ晶を生成・成長させ、膜状物中のβ晶比率を調整することができる。キャストロールの冷却固化温度は好ましくは80〜150℃、より好ましくは90〜140℃、更に好ましくは100〜130℃である。冷却固化温度を80℃以上とすることで冷却固化させた膜状物中のβ晶比率を十分に増加させることができるため好ましい。また、150℃以下とすることで押出された溶融樹脂がキャストロールへ粘着し巻き付いてしまうなどのトラブルが起こりにくく、効率よく膜状物化することが可能であるため好ましい。
前記冷却固化温度範囲にキャストロールを設定することで、得られる延伸前のI層のβ晶比率は30〜100%に調整することが好ましい。40〜100%がより好ましく、50〜100%が更に好ましく、60〜100%が特に好ましい。延伸前のI層のβ晶比率を30%以上とすることで、その後の延伸操作により多孔化が行われやすく、透気特性が優れた積層多孔性フィルムを得ることができる。
延伸前のI層のβ晶比率は、示差走査型熱量計を用いて、当該I層を25℃から240℃まで加熱速度10℃/分で昇温させた際に、検出されるポリプロピレン系樹脂のα晶由来の結晶融解熱量(ΔHmα)とβ晶由来の結晶融解熱量(ΔHmβ)を用いて下記式で計算される。
β晶比率(%)=〔ΔHmβ/(ΔHmβ+ΔHmα)〕×100
ついで、得られた積層無孔膜状物を一軸延伸あるいは二軸延伸を行う。一軸延伸は縦一軸延伸であってもよいし、横一軸延伸であってもよい。二軸延伸は同時二軸延伸であってもよいし、逐次二軸延伸であってもよい。本発明の目的であるSD特性に優れた積層多孔性フィルムを作製する場合には、各延伸工程で延伸条件を選択でき、多孔構造を制御し易い逐次二軸延伸がより好ましい。なお、膜状物の流れ方向(MD)への延伸を「縦延伸」といい、流れ方向に対して垂直方向(TD)への延伸を「横延伸」という。
逐次二軸延伸を用いる場合、延伸温度は用いる樹脂組成物の組成、結晶融解ピーク温度、結晶化度等によって適時選択する必要があるが、多孔構造の制御が比較的容易であり、機械強度や収縮率など他の諸物性とのバランスがとりやすい。
縦延伸での延伸温度は概ね20〜130℃、好ましくは40〜120℃、更に好ましくは60〜110℃の範囲で制御される。また、縦延伸倍率は好ましくは2〜10倍、より好ましくは3〜8倍、更に好ましくは4〜7倍である。前記範囲内で縦延伸を行うことで、延伸時の破断を抑制しつつ、適度な空孔起点を発現させることができる。
一方、横延伸での延伸温度は概ね100〜160℃、好ましくは110〜150℃、更に好ましくは120〜140℃である。また、横延伸倍率は好ましくは2〜10倍、より好ましくは3〜8倍、更に好ましくは4〜7倍である。前記範囲内で横延伸することで、縦延伸により形成された空孔起点を適度に拡大させ、微細な多孔構造を発現させることができる。
また、前記延伸工程の延伸速度としては、500〜12000%/分が好ましく、1500〜10000%/分がより好ましく、2500〜8000%/分であることが更に好ましい。
このようにして得られた積層多孔性フィルムは、寸法安定性の改良等を目的として好ましくは100〜150℃程度、さらに好ましくは110〜140℃程度の温度で熱処理を行う。熱処理工程中には、必要に応じて1〜30%の弛緩処理を施しても良い。この熱処理後均一に冷却して巻き取ることにより、本発明の積層多孔性フィルムが得られる。
[電池用セパレータ]
次に、本発明の前記積層多孔性フィルムを電池用セパレータとして収容している非水電解液電池について、図1に参照して説明する。
正極板21、負極板22の両極は電池用セパレータ10を介して互いに重なるようにして渦巻き状に捲回し、巻き止めテープで外側を止めて捲回体としている。この渦巻き状に巻回する際、電池用セパレータ10は厚みが5〜40μmであることがなかでも好ましく、5〜30μmであることが特に好ましい。厚みを5μm以上にすることにより電池用セパレータが破れにくくなり、40μm以下にすることにより所定の電池缶に捲回して収納する際電池面積を大きくとることができ、ひいては電池容量を大きくすることができる。
前記正極板21、電池用セパレータ10および負極板22を一体的に巻き付けた捲回体を有底円筒状の電池ケース内に収容し、正極および負極のリード体24、25と溶接する。ついで、前記電解質を電池缶内に注入し、電池用セパレータ10などに十分に電解質が浸透した後、電池缶の開口周縁にガスケット26を介して正極蓋27を封口し、予備充電、エージングを行い、筒型の非水電解液電池を作製している。
電解液としては、リチウム塩を電解液とし、これを有機溶媒に溶解した電解液が用いられる。有機溶媒としては特に限定されるものではないが、例えばプロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメチルカーボネート、プロピオン酸メチルもしくは酢酸ブチルなどのエステル類、アセトニトリル等のニトリル類、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジメトキシメタン、ジメトキシプロパン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフランもしくは4−メチル−1,3−ジオキソランなどのエーテル類、またはスルホランなどが挙げられ、これらを単独でまたは二種類以上を混合して用いることができる。
なかでも、エチレンカーボネート1質量部に対してメチルエチルカーボネートを2質量部混合した溶媒中に六フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1.4mol/Lの割合で溶解した電解質が好ましい。
負極としてはアルカリ金属またはアルカリ金属を含む化合物をステンレス鋼製網などの集電材料と一体化させたものが用いられる。前記アルカリ金属としては、例えばリチウム、ナトリウムまたはカリウムなどが挙げられる。前記アルカリ金属を含む化合物としては、例えばアルカリ金属とアルミニウム、鉛、インジウム、カリウム、カドミウム、スズもしくはマグネシウムなどとの合金、さらにはアルカリ金属と炭素材料との化合物、低電位のアルカリ金属と金属酸化物もしくは硫化物との化合物などが挙げられる。
負極に炭素材料を用いる場合、炭素材料としてはリチウムイオンをドープ、脱ドープできるものであればよく、例えば黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物の焼成体、メソカーボンマイクロビーズ、炭素繊維、活性炭などを用いることができる。
本実施形態では、負極として、フッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液に平均粒径10μmの炭素材料を混合してスラリーとし、この負極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み18μmの帯状の銅箔からなる負極集電体の両面に均一に塗布して乾燥させ、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の負極板としたものを用いている。
正極としては、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケル酸化物、リチウムマンガン酸化物、二酸化マンガン、五酸化バナジウムもしくはクロム酸化物などの金属酸化物、二硫化モリブデンなどの金属硫化物などが活物質として用いられ、これらの正極活物質に導電助剤やポリテトラフルオロエチレンなどの結着剤などを適宜添加した合剤を、ステンレス鋼製網などの集電材料を芯材として成形体に仕上げたものが用いられる。
本実施形態では、正極としては、下記のようにして作製される帯状の正極板を用いている。すなわち、リチウムコバルト酸化物(LiCoO)に導電助剤としてリン状黒鉛を(リチウムコバルト酸化物:リン状黒鉛)の質量比90:5で加えて混合し、この混合物と、ポリフッ化ビニリデンをN−メチルピロリドンに溶解させた溶液とを混合してスラリーにする。この正極合剤スラリーを70メッシュの網を通過させて大きな粒子を取り除いた後、厚み20μmのアルミニウム箔からなる正極集電体の両面に均一に塗布して乾燥し、その後、ロールプレス機により圧縮成形した後、切断し、帯状の正極板としている。
次に実施例および比較例を示し、本発明の積層多孔性フィルムについて更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
ポリプロピレン系樹脂(日本ポリプロ社製、ノバテックPP、FY6HA、MFR:2.4g/10分、融点:135℃)を100質量%に対し、β晶核剤として、3,9−ビス[4−(N−シクロヘキシルカルバモイル)フェニル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカンを0.1質量%、酸化防止剤(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ社製、IRGANOX−B225)を0.1質量%加え、同方向二軸押出機(東芝機械社製、口径:φ40mm、スクリュ有効長:L/D=32)を用いて270℃にて溶融混練した後、ストランドダイより水槽へ押出し、ストランドを引き取りながらカッティングしてペレット化することで、樹脂組成物A1を得た。
また、高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製、Hi−ZEX 3600F、MFR:1.0g/10分、結晶融解ピーク温度:133℃)95質量%に対し、スチレン系エラストマーとしてSEP(クラレ社製、SEP 1001、スチレン成分含有率:35質量%)5質量%を加え、同型の同方向二軸押出機を用いて200℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物B1を得た。
前記樹脂組成物A1、B1を別々の押出機にてそれぞれ185℃、230℃で押出し、2種3層のフィードブロックを通じて多層成型用のTダイを用いて共押出し、延伸後の厚み比率がA1/B1/A1=1/1/1となるように積層させた後、123℃のキャストロールで冷却固化させて、厚み80μmの積層無孔膜状物を作製した。
前記積層無孔膜状物を115℃でMDに4.0倍、次いで101℃でTDに2.0倍に逐次二軸延伸した後、133℃で10秒間熱固定し、横方向に135℃で5%熱弛緩させることで、積層多孔性フィルムを得た。
得られた積層多孔性フィルムの諸特性の測定および評価を行い、その結果を表1にまとめた。
(実施例2)
高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製、Hi−ZEX 3600F、MFR:1.0g/10分、結晶融解ピーク温度:133℃)97質量%に対し、スチレン系エラストマーとしてSEEPS(クラレ社製、SEEPS 4033、スチレン成分含有率:35質量%)3質量%を加え、同型の同方向二軸押出機を用いて200℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物B2を得た。前記樹脂組成物B1の代替として、樹脂組成物B2を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた積層多孔性フィルムの諸特性の測定および評価を行い、その結果を表1にまとめた。
(実施例3)
高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製、Hi−ZEX 3600F、MFR:1.0g/10分、結晶融解ピーク温度:133℃)95質量%に対し、スチレン系エラストマーとしてSEEPS(クラレ社製、SEEPS 4033、スチレン成分含有率:30質量%)5質量%を加え、同型の同方向二軸押出機を用いて200℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物B3を得た。前記樹脂組成物B1の代替として、樹脂組成物B3を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた積層多孔性フィルムの諸特性の測定および評価を行い、その結果を表1にまとめた。
(実施例4)
高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製、Hi−ZEX 3600F、MFR:1.0g/10分、結晶融解ピーク温度:133℃)97質量%に対し、スチレン系エラストマーとしてSEBS(クラレ社製、SEBS 8004、スチレン成分含有率:31質量%)3質量%を加え、同型の同方向二軸押出機を用いて200℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物B4を得た。前記樹脂組成物B1の代替として、樹脂組成物B4を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた積層多孔性フィルムの諸特性の測定および評価を行い、その結果を表1にまとめた。
(実施例5)
高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製、Hi−ZEX 3600F、MFR:1.0g/10分、結晶融解ピーク温度:133℃)95質量%に対し、スチレン系エラストマーとしてSEBS(クラレ社製、SEBS 8004、スチレン成分含有率:31質量%)5質量%を加え、同型の同方向二軸押出機を用いて200℃にて溶融混練してペレット状に加工した樹脂組成物B5を得た。前記樹脂組成物B1の代替として、樹脂組成物B5を用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた積層多孔性フィルムの諸特性の測定および評価を行い、その結果を表1にまとめた。
(比較例1)
樹脂組成物B6として、高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製、Hi−ZEX 3600F、MFR:1.0g/10分,結晶融解ピーク温度:133℃)のみを前記樹脂組成物B1の代替として用いた以外は、実施例1と同様に行った。
得られた積層多孔性フィルムの諸特性の測定および評価を行い、その結果を表1にまとめた。
得られた積層多孔性フィルムについて、次のようにして各種特性の測定および評価を行い、その結果を表1にまとめた。
(1)厚み
1/1000mmのダイアルゲージにて、面内の厚みを不特定に30箇所測定しその平均を厚みとした。
(2)25℃での透気度
25℃の空気雰囲気下にて、JIS P8117に準拠して透気度を測定した。測定にはデジタル型王研式透気度専用機(旭精工社製)を用いた。
(3)空孔率
積層多孔性フィルムの実質量W1を測定し、樹脂組成物の密度と厚みから空孔率0%の場合の質量W0を計算し、それらの値から下記式に基づき算出した。
空孔率(%)={(W0−W1)/W0}×100
(4)ピン刺し強度
ホルダーで固定した積層多孔性フィルム(測定部:直径10mmの円形)に、直径1mm、先端曲率半径0.5mmの金属(SUS440C)製針を厚み方向に300mm/minの速さで突き刺して、穴が開口する最大荷重を測定する。
(5)破断伸度
JIS K7127 に準拠して測定した。具体的には、MD、TD共に幅15mm、長さ80mm、チャック間距離40mm、クロスヘッドスピード200mm/分で測定し、破断点におけるTDでの引張伸度を記録した。
(6)25℃での電気抵抗
25℃の空気雰囲気下にて積層多孔性フィルムを3.5cm×3.5cm角に切ってガラスシャーレに入れ、1Mの過塩素酸リチウムを含むプロピレンカーボネート:エチルメチルカーボネート=1:1(v/v)溶液(キシダ化学社製)を多孔性フィルムが浸る程度入れ、溶液を染込ませた。多孔性フィルムを取り出し、余分な電解液を拭い、φ60mmのステンレス製シャーレの中央に置いた。底面がφ30mmの100gステンレス製分銅をゆっくり乗せ、シャーレと分銅に端子を接続し、HIOKI LCR HiTESTER(日置電機社製、型番3522−50)を用いて電気抵抗を測定した。
(7)140℃で1分間加熱後の透気度(シャットダウン機能)
積層多孔性フィルムを縦60mm×横60mm角に切り出し、図2(A)に示すように中央部にφ40mmの円状の穴を空けたアルミ板(材質=JIS A5052、サイズ=縦60mm、横60mm、厚み1mm)2枚の間にはさみ、図2(B)に示すように周囲をクリップ(コクヨ社製、ダブルクリップ「クリ−J35」)で固定した。次に、グリセリン(ナカライテスク社製、1級)を底面から100mmとなるまで満たした、140℃のオイルバス(アズワン社製、OB−200A)の中央部に、アルミ板2枚で固定された状態のフィルムを浸漬し、1分間加熱した。加熱後直ちに、別途用意した25℃のグリセリンを満たした冷却槽に浸漬して5分間冷却した後、2−プロパノール(ナカライテスク社製、特級)、アセトン(ナカライテスク社製、特級)で洗浄し、25℃の空気雰囲気下にて15分間乾燥した。この乾燥後のフィルムを前記(2)の方法に従って、140℃で1分間加熱後の透気度を測定した。前記測定結果より、シャットダウン機能の有無を以下の基準にて評価して、140℃で1分間加熱後の透気度が50000秒/100ml以上となった場合、シャットダウン機能を有するとした。
○:50000秒/100ml以上(シャットダウン機能を有する)
×:50000秒/100ml未満(シャットダウン機能を有さない)
(8)示差走査型熱量測定(DSC)
得られた積層多孔性フィルムをパーキンエルマー社製の示差走査型熱量計(DSC−7)を用いて、25℃から240℃まで走査速度10℃/分で昇温後1分間保持し、次に240℃〜25℃まで走査速度10℃/分で降温後1分間保持し、次に25℃から240℃まで走査速度10℃/分で再昇温させた。この再昇温時にポリプロピレン系樹脂のβ晶に由来する結晶融解ピーク温度(Tmβ)である145〜160℃にピークが検出されるか否かによりβ晶活性の有無を以下の基準にて評価した。
○:Tmβが145℃〜160℃の範囲内に検出された場合(β晶活性あり)
×:Tmβが145℃〜160℃の範囲内に検出されなかった場合(β晶活性なし)
なお、β晶活性の測定は、試料量10mgで、窒素雰囲気下にて行った。
(9)広角X線回折測定(XRD)
積層多孔性フィルムを縦60mm×横60mm角に切り出し、図2(A)(B)に示すように固定した。
積層多孔性フィルムをアルミ板2枚に拘束した状態のサンプルを設定温度180℃、表示温度180℃である送風定温恒温器(ヤマト科学株式会社製、型式:DKN602)に入れ3分間保持した後、設定温度を100℃に変更し、10分以上の時間をかけて100℃まで徐冷を行った。表示温度が100℃になった時点でサンプルを取り出し、アルミ板2枚に拘束した状態のまま25℃の雰囲気下で5分間冷却して得られたフィルムについて、以下の測定条件で、中央部の40mmφの円状の部分について広角X線回折測定を行った。
・広角X線回折測定装置:マックサイエンス社製、型番:XMP18A
・X線源:CuKα線、出力:40kV、200mA
・走査方法:2θ/θスキャン、2θ範囲:5°〜25°、走査間隔:0.05°、走査速度:5°/min
得られた回折プロファイルについて、ポリプロピレン系樹脂のβ晶の(300)面に由来するピークより、β晶活性の有無を以下のように評価した。
○:ピークが2θ=16.0〜16.5°の範囲に検出された場合(β晶活性あり)
×:ピークが2θ=16.0〜16.5°の範囲に検出されなかった場合(β晶活性なし)
なお、積層多孔性フィルム片が60mm×60mm角に切り出せない場合は、中央部に40mmφの円状の穴に積層多孔性フィルムが設置されるように調整し、サンプルを作成しても構わない。
Figure 2014004771
表1に、各実施例及び比較例において得られた物性値を示す。本発明で規定した積層多孔性フィルムは、本発明で規定する以外の範囲で構成された比較例のフィルムと比較して、シャットダウン機能を有しながら、透気度、ピン刺し強度、破断伸度のバランスに優れた積層多孔性フィルムであることがわかった。中でも実施例2は、それぞれの値が最も優れた特に好ましい形態であった。
一方、比較例1のようにスチレン系エラストマーを用いなかった場合、シャットダウン機能を有していないという重大な欠陥が生じた。また、本発明で規定する積層多孔性フィルムと比較して、ピン刺し強度、破断伸度、および電気抵抗のそれぞれの面で性能が損なわれていた。

Claims (10)

  1. ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を有する積層多孔性フィルムであり、以下の条件(1)〜(3)を全て満たすことを特徴とする積層多孔性フィルム。
    (1)ピン刺し強度が1.6N以上
    (2)25℃での透気度が10〜1000秒/100ml
    (3)140℃で1分間加熱後の透気度が、50000秒/100ml以上
  2. 前記積層多孔性フィルムの流れ方向(MD)における破断伸度が60%以上であり、かつ、前記積層多孔性フィルムの流れ方向に対して垂直方向(TD)における破断伸度が150%以上である請求項1に記載の積層多孔性フィルム。
  3. 25℃での電気抵抗が1.0Ω以下であることを特徴とする請求項1または請求項2の積層多孔性フィルム。
  4. 前記II層について、前記スチレン系エラストマーのスチレン成分含有率が10〜70質量%である請求項1〜3に記載の積層多孔性フィルム。
  5. 前記II層について、前記スチレン系エラストマーの添加量が0.1〜10質量%である請求項1〜4のいずれか1項に記載の積層多孔性フィルム。
  6. β晶活性を有する請求項1〜5のいずれか1項に記載の積層多孔性フィルム。
  7. 前記I層について、β晶核剤が含まれている請求項1〜6のいずれか1項に記載の積層多孔性フィルム。
  8. ポリプロピレン系樹脂を主成分とするI層と、ポリエチレン系樹脂、スチレン系エラストマーを含有する樹脂組成物を主成分とするII層との少なくとも2層を共押出によって積層させ、二軸延伸によって多孔化させる請求項1〜7のいずれか1項に記載の積層多孔性フィルムの製造方法。
  9. 請求項1〜7のうちいずれか1項に記載の積層多孔性フィルムからなる電池用セパレータ。
  10. 請求項9に記載の電池用セパレータを有する電池。
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