図1は特許文献1に開示された引き戸用手摺を備えた引き戸装置の構成を示す図である。図1に示すように、本引き戸装置は、引き戸1と、ヒンジ機構5と、手摺棒4と、回転ローラ7とを備えている。引き戸1が閉じた状態(図1の実線で示すように引き戸1の左側辺1bが柱2の側面に当接した状態)では、手摺棒4は引き戸1の正面に対向した位置で略水平状態でヒンジ機構5と回転ローラ7を介して引き戸1と案内レール8に支持され、通常の手摺として利用できるようになっている。この状態で引き戸1に開く方向(矢印A方向)に移動させると、回転ローラ7が案内レール8に沿って回転移動し、手摺棒4はヒンジ機構5を中心に回動する。回転ローラ7を取り付けている手摺棒4の他端が上方に押上げられ、引き戸1が全開状態になると手摺棒4は所定角度で傾斜した状態又は垂直状態となり、この状態でヒンジ機構5と回転ローラ7を介して引き戸1と案内レール8に支持される。なお、13は引き戸1を吊るして移動させるためのハンガーレールであり、引き戸1は該ハンガーレール13上を走行する走行車輪に吊り金具等の吊り下げ部材を介して吊り下げ支持されている。
上記構成の引き戸用手摺を備えた引き戸装置において、引き戸1を全閉状態から開く際、手摺棒4の他端に取り付けた回転ローラ7が回転し手摺棒4の他端が案内レール8に沿ってスムーズに上昇する必要がある。そのため、手摺棒4の他端に取り付けたブラケット6にロープ16の一端を係止し、該ロープ16の他端を例えばバネ駆動の巻上下ローラ等で構成されるバランス用巻上下機構17に取り付けることにより、手摺棒4の他端を押上げる荷重を軽減させ、回転ローラ7がスムーズに押上げられるようにしている。また、バランス用巻上下機構としてはロープ16を滑車を経由して下降させ、その下端に手摺棒4の重量とバランスする錘を吊り下げることにより、手摺棒4の他端の押上げ荷重を軽減させるような構成のものも採用することができる。しかしながら、このようなバランス用巻上下機構を採用することは、引き戸装置の構造が複雑となり、故障の原因となると共に、バランス用巻上下機構の取付け調整に手間が掛かるという問題もある。
また、引き戸1を図1(a)の2点鎖線で示すように右側に移動させ全開状態にした場合、引き手3と手摺棒4との間の間隔112が小さくなることから、手摺棒4の一端をヒンジ機構5に連結する部分をL字状に屈曲させ、この屈曲部のヒンジ機構5の中心からの距離寸法113を大きくする必要があった。ところがこの距離寸法113を大きくすると、引き戸1を開き手摺棒4を回動させ回転ローラ7を上昇させる力が小さくなるという問題があった。また、引き戸1が図1(a)の実線で示すように、全閉状態にあり、手摺棒4の他端に取り付けた回転ローラ7が案内レール8の下端部に位置する状態において手摺棒4を利用する人が手摺棒4を握った場合、手摺棒4に上向きの力や前後方向の力が作用することがある。これにより手摺棒4が浮き上ったり、前後に揺れ(移動し)て、利用者に不安感を与えるという問題があった。また、引き戸1を全閉状態として利用者が手摺棒4にもたれ掛かった時の反力を引き戸1が受けると、引き戸1が転倒したり、ヒンジ機構5に回転モーメントが作用して引き戸1を破壊する恐れがあるという問題もあった。
本発明は上述の点に鑑みてなされたもので、バランス用巻上下機構等が必要なく構造が簡単で、装置設置に際して複雑な調整作業が少なくて済み、引き戸が全閉状態にある場合に手摺棒が浮き上がったり、前後に揺れたりすることもなく安定した手摺として利用でき、更に手摺棒にもたれ掛かっても引き戸が転倒することのない引き戸用手摺及び該引き戸用手摺を取り付けた引き戸装置を提供することを目的とする。
上記の課題を解決するために本発明は、引き戸に一端又は該一端の近傍がヒンジ機構で回動自在に支持された手摺棒と、前記引き戸とは別体の固定体に取り付けられた案内レールと、前記手摺棒に前記ヒンジ機構から他端側に所定の間隔を設けて回転自在に取り付けられ前記案内レールの転走面を回転移動する回転ローラとを備え、前記引き戸が閉じた状態では、前記手摺棒は前記引き戸正面に対向した位置で前記ヒンジ機構と前記回転ローラを介して前記引き戸と前記案内レールに支持され手摺として作用し、前記引き戸に開く方向の力が作用すると前記回転ローラが前記案内レールの転走面を回転移動し前記手摺棒の他端を上方に押上げ、前記引き戸が全開状態では前記手摺棒は所定角度で傾斜した状態又は垂直状態で前記ヒンジ機構と前記回転ローラを介して前記引き戸と前記案内レールに支持される構成の引き戸用手摺であって、前記手摺棒は前記引き戸が全開状態で該手摺棒と前記案内レールの間に前記ヒンジ機構支持端から所定高さまで所定の間隙が形成されるように前記ヒンジ機構支持端を基点として所定方向に滑らかに所定量屈曲していることを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸用手摺において、前記引き戸には前記手摺棒取り付け側面の所定位置に上下方向に配置された引き手が設けられており、前記手摺棒の屈曲量は前記引き戸が全開状態で前記手摺棒と前記引き手の間にも所定の間隙が形成される屈曲量であることを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸用手摺において、前記引き戸が全閉状態で前記回転ローラが前記案内レールの転走面から離間して前記手摺棒が浮き上がるのを防止する手摺棒浮上防止機構を設けたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸用手摺において、前記引き戸が全閉状態で前記回転ローラが前記案内レールの転走面を前後に転走し前記手摺棒が前後に揺れるのを防止する手摺棒揺動防止機構を設けたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸用手摺において、前記ヒンジ機構に前記手摺棒の前記回転ローラ取付け端側を前記ヒンジ機構を中心に回動させ上方に押上げる力を加える手摺棒回動付勢機構を設けたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸用手摺において、前記回転ローラが前記案内レールの転走面に接する点を回転ローラ・案内レール接触点とし、前記ヒンジ機構の回動中心と前記回転ローラ・案内レール接触点を結ぶ直線と前記回転ローラの回転中心と前記回転ローラ・案内レール接触点を結ぶ直線の成す角度を回転ローラ接触角Aと定義し、A≧4°としたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸用手摺において、前記手摺棒の表面に断熱塗料を塗布又は該手摺棒の表面を断熱材被覆で覆ったことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸用手摺において、前記回転ローラが転走する案内レールの転走面の両側に設けた側板の反転走面側端部に手摺棒の移動に支障とならない可撓性部材を取り付け該可撓性部材で該両側板端部が形成する間隙を覆ったことを特徴とする。
また、本発明は、1個又は複数個の引き戸を備えた引き戸装置であって、前記各引き戸に上記のいずれかの引き戸用手摺を設けたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸装置において、前記ヒンジ機構を前記引き戸に取り付ける引き戸側のヒンジ機構受部材に、前記引き戸が全閉状態で前記引き戸とは別個の柱又は固定部材に係合して前記引き戸の転倒を防止する引き戸転倒防止機構を設けたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸装置において、前記引き戸用手摺の案内レールの前記引き戸の正面側を覆う案内レールカバーを設けたことを特徴する。
また、本発明は、上記引き戸装置において、開き状態にある前記引き戸を自動的に閉方向に移動させる引き戸閉装置を設けたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸装置において、前記引き戸閉装置は開き状態にある前記引き戸を所定タイミングで自動的に所定速度で閉方向に移動させ、所定量移動したら該引き戸の閉速度を減速させる機能を備えたことを特徴とする。
また、本発明は、上記引き戸装置において、前記引き戸が全閉状態で該引き戸の開動作をロックするロック機構を設けたことを特徴とする。
本発明によれば、手摺棒は引き戸が全開状態で該手摺棒と案内レールの間にヒンジ機構支持端から所定高さまで所定の間隙が形成されるようにヒンジ機構支持端を基点として所定方向に滑らかに所定量屈曲しているので、引き戸が全開状態に近づいたとき又は全開状態になった時、手摺棒と案内レールの間に指や手或いは身体の一部が挟みこまれて利用者が負傷する等の問題がなくなる。
また、本願発明によれば、手摺棒の屈曲量は引き戸が全開状態で手摺棒と引き手の間にも所定の間隙が形成される屈曲量であるので、手摺棒と引き手の干渉を防止でき、例えば手摺棒を握った手が手摺棒と引き手の間に挟まれるということがない。また、例えば目の不自由な人が手摺棒を握って該手摺棒に沿って歩行する場合、歩行者は手摺棒の屈曲状態から自分の歩行方向を知ることができ、特に目の不自由な歩行者に好適な手摺となる。
また、本願発明によれば、引き戸が全閉状態で回転ローラが案内レールの転走面から離間して手摺棒が浮き上がるのを防止する手摺棒浮上防止機構を設けたので、歩行者が引き戸の全閉状態で手摺棒を握った場合、手摺棒が浮き上がることがなく、安定しているので、手摺棒を利用する歩行者に不安感を与えることがない。
また、本願発明によれば、引き戸が全閉状態で回転ローラが案内レールの転走面を前後に転走し手摺棒が前後に揺れるのを防止する手摺棒揺動防止機構を設けたので、歩行者が引き戸の全閉状態で手摺棒を握った場合、手摺棒が前後に揺れることなく、安定しているので、手摺棒を利用する歩行者に不安感を与えることがない。
また、本願発明によれば、ヒンジ機構に手摺棒の回転ローラ取り付け側をヒンジ機構を中心に回動させ上方に押上げる力を加える手摺棒回動付勢機構を設けたので、引き戸を開く場合、手摺棒がスムーズに回動し、引き戸を開く動作がより滑らかとなる。
また、本願発明によれば、ヒンジ機構の回動中心と回転ローラ・案内レール接触点を結ぶ直線と回転ローラの回転中心と回転ローラ・案内レール接触点を結ぶ直線の成す角度を回転ローラ接触角Aと定義し、A≧4°としたので、手摺棒の他端の押上げる力を付加するバランス用巻上下機構を取り付けない場合でも、手摺棒がヒンジ機構を中心にスムーズに回動できるから、簡単な構成で取付けに際して複雑な調整作業を必要としない引き戸用手摺を提供できる。
また、本願発明によれば、引き戸側のヒンジ機構受部材に、引き戸が全閉状態で引き戸とは別個の柱又は固定部材に係合して引き戸の転倒を防止する引き戸転倒防止機構を設けたので、引き戸が全閉状態で利用者が手摺棒にもたれ掛かった場合、荷重モーメントを引き戸転倒防止機構が受けるから、ヒンジ機構に加わる荷重モーメントにより引き戸が破損することを防止できる。
また、本願発明によれば、引き戸用手摺の案内レールの引き戸の正面側を覆う案内レールカバーを設けたので、案内レールが引き戸の正面側にむき出し状態となることなく、利用者等に安全であると共に、外観上も好ましいものとなる。
また、本願発明によれば、開き状態にある引き戸を自動的に閉方向に移動させる引き戸閉装置を設けたので、引き戸の開閉時以外は手摺棒を手摺として利用できると共に、引き戸が開放状態で長時間放置されるということがないから、出入口に引き戸を取付けた部屋の生活環境の静謐が保持できると共に、冷暖房効果を低減させない。
また、本願発明によれば、上記引き戸閉装置は、開き状態にある引き戸を所定タイミングで閉方向に移動させ、所定量移動したら閉速度を減速させる機能を有するので、引き戸を閉じるタイミングや速度、所定量移動した後の閉速度を適切に設定することにより、特に引き戸を取付けた部屋の出入口を通る人に引き戸が接触したり、挟まれたりすることがなく、安全性が維持される。
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明する。図2は本発明に係る引き戸用手摺を用いた引き戸装置の要部構成を示す正面図である。図2において図1と同一符号を付した部分は同一又は相当部分を示す。また、他の図面においても同様とする。引き戸1の上端部は図示は省略するが、図1と同様、鴨居11に取付けたハンガーレール13に吊下部材及び走行車輪を介して吊り下げられており、下端部はブレ止め部材15を介して敷居12に形成された凹状溝14に係合している。図2の実線は引き戸1の一側辺1bが柱2の側面2aに当接した状態、即ち引き戸1が全閉した状態を示す。3は引き戸1の正面の片側近傍(図では右側近傍)に上下方向に、且つ正面から所定量突出して取り付けた引き手であり、該引き手3を把持し、引き戸1を矢印A方向に移動させ、全開状態になると2点鎖線に示す位置(図の左側の位置)となる。なお、本実施形態例では、説明及び作図の都合上、引き戸1の開き方向を正面からみて右方向とした場合と左方向とした場合を混在させて説明するが、本発明に係る引き戸装置は、引き戸を左右いずれの方向に開く場合も当然含まれる。また、図2において、22は鎌錠であり、該鎌錠22を施錠することにより、引き戸1の開き動作はロックされる。
手摺棒4の一端部はヒンジ機構(ボールベアリング付)5を介して引き戸1の正面側に回動自在に取り付けられている。手摺棒4の他端にはブラケット6を介して回転ローラ7が回転自在に取り付けられている。8は前記回転ローラ7が回転して移動する案内レールであり、該案内レール8は後に詳述する回転ローラ7が転走する転走面を有し、断面溝状に構成されている。案内レール8は取付柱10に取り付けられている。なお、案内レール8を取り付ける部材は取付柱10に限定されるものではなく、例えば引き戸1とは別体の壁等の固定体に所定部材を介して固定してもよい。また、案内レール8自体を自立スタンドタイプとしてもよいし、図11に示すように案内レール8の上下端部を鴨居11と床面27に固定してもよい。回転ローラ7の径は商品としては、小さい方がよいが製造上の容易性、スムーズな回転性の維持等を考慮して、ここでは直径30mmとしている。また、手摺棒4にはステンレス鋼材を用いその重量を1.2kg〜1.3kgとしている。
図3は本発明に係る引き戸用手摺の手摺棒4の他端部に取り付けた回転ローラ7が案内レール8の一端部(下端底部)から転走する状態を示す図である。手摺棒4は引き戸1が図2の実線で示す全閉状態では、引き戸1の正面に該正面から所定間隔だけ離れた位置(図1(b)の間隙G参照)に略水平状態に維持され、手摺として作用するように、ヒンジ機構5と回転ローラ7を介して引き戸1と案内レール8に支持されている。この全閉状態から、引き手3を把持して引き戸1を矢印A方向に移動させると、手摺棒4に矢印A方向の力が作用する。この矢印A方向の力が手摺棒4に作用すると回転ローラ7は矢印B方向に回転し、案内レール8の転走面8aを転走しながら一点鎖線で示すように上昇し(押上げられ)、引き戸1が全開した状態では手摺棒4は図2及び図3の点線で示す位置、即ち略垂直状態となる。なお、案内レール8には、図4(b)に示すように、回転ローラ7が脱落することなく安定して転走できるように、転走面8aの両側に側板8b、8cが設けられ、断面凹状の案内溝に形成されている。
図4は案内レールの下端部での案内レール8と回転ローラ7の係合状態の一例を示す図であり、図4(a)は正面断面図、図4(b)は側面断面図である。図示するように、回転ローラ7は手摺棒4の他端部(ヒンジ機構の反対側端部)に取り付けたブラケット6に固定された軸7cの両端部にベアリング7a、7aを介して回転自在に取付けた構成である。即ち、ベアリング7a、7aは図示しない内環と外環を具備し、内環は軸7cの両端部に固定され、該内環の外周を複数のボール又はローラを介して外環が回転するように構成されている。そして外環の外周には樹脂又はゴム層7bが形成されており、該樹脂又はゴム層7bが案内レール8の転走面8aを転走するようになっている。なお、手摺棒4の他端部には、一対の長孔4a、4aが形成されており、該長孔4a、4aにボルト・ナット24、24を介してブラケット6が固定されるようになっている。ボルト・ナット24、24を弛めブラケット6の手摺棒4の長手方向の取り付け位置を調整した後、ボルト・ナット24、24を再び締め付けることにより、ブラケット6の長手方向位置を調整できる。
ここで、手摺棒4の他端部に取り付けた回転ローラ7は図1に示すように、バランス用巻上下機構17を設けることなく、回転ローラ7が案内レール8の転走面8aをスムーズに転走する必要がある。図5は手摺棒4に取り付けた回転ローラ7が案内レール8の転走面8aをバランス用巻上下機構17等の支援なしに転走する条件を説明するための図である。ここでRは案内レール8の転走面8aの曲率半径を、102は回転ローラ7が転走面8aに接する回転ローラ・案内レール接触点(回転ローラが転走面8aに接する軸7cの軸芯方向線)をそれぞれ示す。ここでヒンジ機構5の回動中心101と回転ローラ・案内レール接触点102を結ぶ直線103と回転ローラ7の回転中心104と回転ローラ・案内レール接触点102を結ぶ直線105の成す角度を回転ローラ接触角度Aと定義し、転走面8aの曲率半径がR=150mm乃至800mmである場合、回転ローラ接触角度AがA≧4°となり、回転ローラ7はバランス用巻上下機構17(図1参照)等の上昇力支援する機構を設けることなく、回転ローラ7は案内レール8の転走面8aをスムーズに転走して上昇することを実験的に確認した。
図5において、手摺棒4がスムーズに上昇するための条件(手摺棒4の他端に取り付けられている回転ローラ7が案内レール8の転走面8aをスムーズに転走して上昇する条件)を考える。手摺棒4の自重をWとし、回転ローラ7に係る手摺棒4の自重Wの分力である垂直下方の力をW101、回転ローラ7を転走面8aに沿って上昇させようとする力をF107、回転ローラを転走面8aに沿って下降させようとする力をW103で示すとF107>W103のとき、手摺棒4がスムーズに上昇する。
図6は引き戸装置の引き戸1が全閉している場合の手摺棒4の正面状態を示す図である。図6(a)に示す手摺棒4は、2つの曲線と直線により手摺棒4をヒンジ機構5の回動中心101を通る水平方向の直線109に対して上方に所定量屈曲させている。また、図6(b)に示す手摺棒4は、1つの曲線と直線により手摺棒4をヒンジ機構5の回動中心101を通る水平方向の直線109に対して上下方向に所定量屈曲している。このように手摺棒4をヒンジ機構5の支持端を基点として他端側(回転ローラ7の取付け側)に滑らかに上方向又は上下方向に所定量屈曲させることにより、図2の二点鎖線で示すように引き戸1を全開にした際に手摺棒4と引き手3の間及び手摺棒4と案内レール8の間に所定寸法の間隙112、113ができるようにしている。これにより手摺棒4と引き手3の干渉を防ぐことが可能となると共に、手摺棒4と案内レール8の間に指や手等の身体の一部が挟みこまれ怪我をする等の問題を防止できる。
なお、引き手が引き戸1の表面に突出していない、指を引っ掛ける凹み状引き手の場合は、手摺棒4と凹み状引き手の間に上記のような干渉は発生しないが、凹み状引き手に係合(挿入)している指と手摺棒4の干渉により、指の怪我等の問題があるので、この場合でも間隙の大きさは別として所定寸法の間隙112は必要となる。また、手摺棒4と案内レール8との間の所定寸法の間隙113は、手摺棒4と案内レール8の間の全体に設ける必要がなく、利用者が指や手等の身体の一部が手摺棒4と案内レール8の間に挟み込まれる恐れがある範囲、例えばヒンジ機構5の支持端から所定高さ114(図2参照)の範囲であればよい。
また、図6(a)、(b)に示すように、ヒンジ機構5の回動中心101を通る水平方向の直線109と回転ローラ7の回転中心を通る水平方向の直線110の間の間隔をA、直線110とブラケット6の頂部に接する水平方向の直線111の間の間隔をBとした場合、間隔Aが小さいと引き戸1を開くとき手摺棒4の他端に取り付けた回転ローラ7を回転上昇させる力が小さくて済むので間隔Aは小さいほうがよい。また、間隔Bは人間が手摺棒4を伝って歩行する際、通常の手摺の間に違和感を感じないよう小さいほうがよい。また、手摺棒4を回動中心101を通る水平方向の直線109に対して上方に所定量を屈曲させることにより、手摺棒4をヒンジ機構5側から回転ローラ7側、又は回転ローラ7からヒンジ機構5側に歩行する際、手摺棒4の高さ差から歩行方向を認識でき、特に目の不自由な歩行者にとって有利となる。
図2の実線で示すように、引き戸1が全閉状態で手摺棒4の他端の回転ローラ7が案内レール8の下端部に位置している状態で、歩行者が手摺棒4を手摺として使用する場合、歩行者が手摺棒4を握ることにより回転ローラ7が案内レール8の下端部の転走面8aから上方に浮き上がる力が加わることがある。手摺棒4にこのような力が加わるとヒンジ機構5を中心に回動して安定せず利用者に不安感を与えるという問題がある。そこでここでは、回転ローラ7が案内レール8の下端部の転走面8aから浮き上がるのを防止する手摺棒浮上防止機構を設けている。
図7は上記手摺棒浮上防止機構の構成例を示す図であり、図7(a)は手摺棒浮上防止機構の正面断面図、図7(b)は側面断面図である。手摺棒浮上防止機構30は案内レール8の下端部の転走面8aに位置する回転ローラ7が浮き上がるのを防止するために一対の浮上防止板31、31を具備している。該浮上防止板31はその下端部が水平方向に略L字状に屈曲しており、この屈曲部の下面31aが回転ローラ7の樹脂又はゴム層7bの外周から若干離間して位置している。このように屈曲部の下面31aが樹脂又はゴム層7bの外周から若干離間していることにより、回転ローラ7が回転しても屈曲部の下面31aとの間に摩擦がなく、摩耗も生じない。回転ローラ7に浮き上がり方向(上方)の力F1が作用し、回転ローラ7の樹脂又はゴム層7bが転走面8aから上方に離間した場合、樹脂又はゴム層7bが屈曲部の下面31aに当接し、回転ローラ7のそれ以上の上昇を阻止する。一対の浮上防止板31、31はそれぞれ案内レール8を構成する側板8b、8cの内側面に固定されている。
図8は手摺棒浮上防止機構の他の構成例を示す図であり、図8(a)は手摺棒浮上防止機構の正面断面図、図8(b)は側面断面図である。本手摺棒浮上防止機構30が図7に示す手摺棒浮上防止機構30と異なる点は、浮上防止板31の下面31aが回転ローラ7の軸7cの外周部上部との間に所定の隙間を設けて配置され、回転ローラ7に浮き上がり方向(上方)の力F1が作用し、回転ローラ7の樹脂又はゴム層7bがこの隙間を寸法を越えて転走面8aから離間するのを阻止している点である。また、一対の浮上防止板31、31がそれぞれ案内レール8を構成する側板8b、8cの内側面に固定されている点は図7に示す手摺棒浮上防止機構30と同じである。
また、引き戸1が全閉状態で手摺棒4の他端の回転ローラ7が案内レール8の下端部に位置している状態で、歩行者が手摺棒4を手摺として使用する場合、歩行者が手摺棒4を握ることにより図9(a)に示すように、該手摺棒4に下方に向く力(押圧力)F2が作用し、更に前後方向に向く力F3が作用する場合がある。このとき回転ローラ7が案内レール8の転走面8aを前後に回転することにより、手摺棒4が前後に揺動し(前後に揺れ)、手摺として安定せず利用者に不安感を与えるという問題がある。そこでここでは、回転ローラ7が案内レール8の下端の転走面8aで前後に回転して手摺棒4が前後に揺動するのを防止する手摺棒揺動防止機構を設けている。
図9は上記手摺棒揺動防止機構の構成を示す図であり、図9(a)は案内レール8の下端部を、図9(b)は手摺棒揺動防止機構を、図9(c)は手摺棒揺動防止機構の動作原理を、図9(d)は手摺棒揺動防止機構の他の構成例を示す。図9(b)に示す手摺棒揺動防止機構35は、案内レール8の下端部の転走面8aに回転ローラ7の外周部が係合する円弧状の係合溝部8fを設け(係合溝部8fの円弧の半径を回転ローラ7の半径と略同じにする)、該係合溝部8fに回転ローラ7の外周部を係合させることにより、手摺棒4の前後方向の揺動を防止している。なお、ここで引き戸1が全閉状態で回転ローラ7が係合溝部8fにぴったり嵌合しない場合は、図4(a)のボルト・ナット24、24を弛め、ブラケット6の手摺棒4の長手方向の位置を調整し、回転ローラ7が係合溝部8fにぴったり嵌合した状態でボルト・ナット24、24を締め付けることにより、回転ローラ7を係合溝部8fにぴったり嵌合させることができる。また、図9(d)に示すように、前後に揺れても気にならない程度の微小(例えば2mm程度)な水平部8hを設けることもある。また、引き戸1に鎌錠22(図2参照)を設け、該鎌錠22を施錠することで引き戸1を柱2に固定し、引き戸1ごと手摺棒4の水平方向の移動、特に開方向の移動をロックすることもある。
ここで図9(b)に示すように、回転ローラ7の半径をR、係合溝部8fの深さをH、係合溝部8fの中央から係合溝部8fの肩部Xまでの距離をS、回転ローラ7の回転中心から係合溝部8fの肩部Xまでの距離をL、手摺棒4に加わる下方向の力(垂直力)をF2、手摺棒4に加わる前後方向(水平方向)の力をF3とした場合、手摺棒4の前後揺動防止(前後振れ防止)の条件は下記のようになる。係合溝部8fの肩部Xへの乗り上げの発生しない条件は、
F3×L<F2×S
一般的に水平力F3=WHは、垂直力F2の2割とするため、
F3=0.2F2
とすると、0.2F2×L<F2×Sとなり、
S/L>0.2
となる。即ち、F3WH=0.2F2とした場合の乗り上げが起こらない条件は、
S>0.2L
である。係合溝部8fの深さHを大きく取ることで、引き戸1の前後揺れ防止能力を増大させることが可能となる。なお、係合溝部8fの形状は円弧状の係合溝部に限定されるものではなく、図9(c)に示すように、逆山形の係合溝部8gでもよい。
また、引き戸1が全閉状態で利用者が、手摺棒4にもたれた場合、その反力を引き戸1が受けることになり、この反力により引き戸1が倒れる恐れや、ヒンジ機構5に掛かる回転モーメントにより引き戸1が破損する恐れがある。そこでここでは、引き戸の転倒や引き戸が破損するのを防止する引き戸転倒・破損防止機構を備えている。本引き戸転倒・破損防止機構40は、図10(a)に示すように、ヒンジ機構5を引き戸1に取り付ける引き戸側のヒンジ機構受部材41の側部に、一対の突起部41a、41aを設けると共に、柱2(又は縦枠23(図2参照))に引き戸1が全閉状態でこのヒンジ機構受部材41の突起部41a、41aが挿入される溝状の係合部43、43を設ける。このようにヒンジ機構受部材41に設けた突起部41a、41aと柱2(又は縦枠23)に設けた溝状の係合部43、43とで構成される引き戸転倒・破損防止機構40を設けることにより、引き戸1が全閉状態で利用者が、手摺棒4にもたれ掛かった場合でも手摺棒4の一端はヒンジ機構受部材41を介して柱2(又は縦枠23)に支持されることになり、引き戸1の転倒やヒンジ機構5に掛かる回転モーメントにより引き戸1が破損することを防止することができる。
引き戸転倒・破損防止機構40としては、図10(a)に示す構成のものに限定されるものではなく、図10(b)に示す構成のものでもよい。図10(a)に示す引き戸転倒・破損防止機構40は、引き戸1の一側辺1b(引き戸1を全閉状態とした場合の柱2(又は縦枠23)の側面2aに当接する面)に突出する突出ピン(例えば丸ピン)45、45を埋め込むと共に、この引き戸1の一側辺1bが当接する柱2(又は縦枠23)の側面に該突出ピン45、45が挿入される突出ピン挿入穴46、46を設ける。引き戸1が全閉した状態で突出ピン45、45が突出ピン挿入穴46、46に挿入することにより、引き戸1が柱2(又は縦枠23)に係合され、引き戸1の転倒破壊を防止できる。
なお、上記構成の引き戸転倒・破損防止機構40は一例であり、引き戸転倒・破損防止機構40はこれに限定されるものではなく、手摺棒4の回転ローラ7の取り付け側の反対側端部が引き戸1が全閉状態で柱2又は縦枠23に直接又は間接的に固定支持され、利用者又は歩行者が手摺棒4にもたれ掛かった場合にその端部に係る荷重を柱2又は縦枠23が受けると共に、引き戸1が開方向に移動することにより、上記固定支持が解除される構成であればどのような構成であってもよい。
また、図10に示すように、ヒンジ機構受部材41のヒンジ機構5の外周部に手摺棒4の自重による回転モーメントを負担する捻りコイルバネ44を設ける。この捻りコイルバネ44の一端はヒンジ機構5に固定、反対側の一端は手摺棒4に固定する。引き戸1が全開の時、手摺棒4はヒンジ機構5を基点として略垂直状態にあり(図2参照)、この時捻りコイルバネ44は略自由長さの状態となり、捻りコイルバネ44の反力は略「0」である。この状態から、引き戸1を閉じる方向に移動させていくと、引き戸1に引きずられてヒンジ機構5を中心に手摺棒4が回動し、回転ローラ7の取り付け端が次第に下降し、引き戸1が全閉状態となると略水平状態となる。捻りコイルバネ44はこの手摺棒4の回動に従い、徐々に捻られ、手摺棒4が水平状態になると捻り反力は最大となり、捻り反力により手摺棒4の自重による回転モーメントを負担することになる。
図5において、引き戸1を開く方向に移動させる時、捻りコイルバネ44の捻り反力が手摺棒4の自重による回転モーメントを負担するため、回転ローラ7に係る手摺棒4の自重は小さくなる。つまり、図5の回転ローラ7を案内レール8の転走面8aに沿って上昇させようとする力F107が手動棒4の自重を相殺するため、手摺棒4の自重の分力W103が小さくなり、回転ローラ7が案内レール8に沿ってよりスムーズに上昇し、引き戸1はよりスムーズに開くことになる。但し、捻りコイルバネ44は引き戸1の開閉操作時、回転ローラ7と手摺棒4が案内レール8内を干渉することなく、下降させなければならない。手摺棒4の回転中心101を回動中心とする手摺棒4の自重の分力W103の回転モーメントM1とし、捻りコイルバネ44のバネ反力による回転モーメント(手摺棒4の自重の分力W103と反対方向の回転モーメント)M2とすると、
M1>M2
としなければならない。
図11及び図12は本発明に係る引き戸装置の正面外観構成例を示す図であり、図11は引き戸を全閉とした状態、図12は引き戸を全開とした状態をそれぞれ示す。図示するように、床面27に一対の縦枠23、23が立設しており、該縦枠23、23の上端に天井枠29が取付けられている。該縦枠23、23と天井枠29で引き戸装置の枠体が構成されている。縦枠23、23は建物の柱2の側面に取付けられ(図2参照)、該縦枠23、23の上部所定位置に鴨居11が取付けられ、該鴨居11にハンガーレール13が取付けられている。このハンガーレール13上を走行車輪25が走行できるようになっており、該走行車輪25と吊り金具26を介して引き戸1が吊り下げられている。
図11及び図12において、8’は案内レールであり、該案内レール8’が図2に示す案内レール8と異なる点は、内部に配置された転走面8aの下端部に相当する部分が引き戸1側に山形に突出しており、該山形状突出部8iの下方は上方と同じ形状になっている。このように案内レール8’をその転走面8aの下端部を引き戸1側に突出した山形状突出部8iとし、その上方と下方を滑らかな曲線で結ぶことにより、図2に示す案内レール8のように転走面8aの下端部が突然切断されたような違和感を与えることなく、案内レール8’全体を床面27と鴨居11の間に立設した柱又は縦枠等の幅の狭い支持部材に安定して取付けられ、且つ外観もよくなる。また、案内レール8’の正面側(引き戸1の正面側)を例えば化粧カバープレート38(後に詳述する)で覆うことにより、美観上さらに好適なものとなる。
上記構成の引き戸装置において、引き戸1が図12の実線で示すように、右側の縦枠23に接近して全開状態にあると手摺棒4は略垂直状態にあり、この手摺棒4や回転ローラ7等の全荷重はヒンジ機構5が受けることになるから、手摺棒4にヒンジ機構5を回転中心とする回転モーメントが作用しない。このため引き戸1の全開状態では、回転ローラ7は案内レール8に沿って下降することがない。この全開状態で引き戸1に閉方向(矢印B方向)の力が作用しないまま放置されると、引き戸1は開放状態のままとなる。また、引き戸1に閉方向の力が作用し、引き戸1が閉じる方向に移動すると手摺棒4はヒンジ機構5を回転中心として回動し、回転ローラ7は案内レール8に沿って下降する。そして、手摺棒4の傾斜角度が所定の角度(例えば45°)になると、手摺棒4にその自重により大きな回転モーメントが作用し、回転ローラ7が高速で案内レール8に沿って下降するため、引き戸1は高速で閉じることになる。
また、引き戸1が開状態で放置されると手摺棒4が略垂直状態にあり、手摺としての役割を果たさないことになる。また、出入口に引き戸装置を取付けられている部屋が引き戸1が全開放状態で放置される、例えば冷暖房を使用している場合は冷暖房効率が低下するという問題もある。そこで本引き戸装置には、引き戸1が全開状態で放置された場合でも、引き戸1を所定のタイミングで自動的に閉じる必要がある。また、引き戸1が閉じる方向に移動し、手摺棒4の傾斜角度が所定角度(例えば45°)以下となった場合は、手摺棒4に大きな回転モーメントが作用し、回転ローラ7が案内レール8に沿って高速で下降し、
引き戸1が高速で閉じることになる。このように引き戸1が高速で閉じると、特に引き戸1が設置されている部屋の出入口を通る歩行者にとって危険となる。そこで引き戸1は開放状態で放置された場合、手摺棒4が所定の傾斜角度になるまで引き戸1を自動的に閉じる方向に移動させ、手摺棒4が所定の傾斜角度以下となったら引き戸1の閉じる速度を遅くする引き戸自動閉装置が必要となる。ここでは引き戸1の所定位置にこのような引き戸自動閉装置50を設置している。
上記引き戸自動閉装置50としては、平歯車式、ワイヤー式、ベルト式等があり、市販のものを利用することができる。図示する引き戸自動閉装置50は、平歯車式のもので、引き戸自動閉装置本体51とラック52とを備えている。引き戸自動閉装置本体51を引き戸1の所定位置に取り付け、ラック52を引き戸自動閉装置本体51の平歯車が係合するように鴨居11の所定位置に取り付けている。これにより引き戸1が全開状態で放置された場合、所定のタイミングで引き戸1を自動的に閉方向に移動させ、この移動に伴って手摺棒4が回動し、その傾斜角度が所定角度以下(例えば、45°以下)となると、手摺棒4の大きい回転モーメントにより、引き戸1が高速で全閉となるまで移動しようとする。この高速で閉じる引き戸1に人が接触したり、引き戸1と縦枠23の間に挟み込まれると負傷する等の危険が発生する。そこで引き戸自動閉装置50には、これらの危険な事態に対応する機能が必要となる。
引き戸自動閉装置50には市販のものを使用できるが、市販の引き戸自動閉装置50の装置本体51には通常油圧やバネ力等を調整することで、引き戸1の閉じる速度を所定速度以下に調整する速度調整機構が設けられており、引き戸1の閉じる速度が所定速度以上となった場合、所定速度以下の一定速度に抑えるようになっている。このように速度調整機構を備えた引き戸自動閉装置を用いることにより、歩行者、特に引き戸1を設置した出入口を通る歩行者が、閉じる引き戸1に衝突して負傷する等の事故を回避できる。また、引き戸自動閉装置50には、引き戸1の閉動作開始前に予め引き戸1の閉動作を予告したり、引き戸1が歩行者に異常接近した場合、引き戸1を自動停止させる機能を設けてもよい。
なお、上記引き戸装置では、1個の引き戸1を備えた例を示したが、引き戸1の数は1個に限定されるものではなく、複数の引き戸1を備えた引き戸装置の各引き戸1に本発明に係る引き戸用手摺を設けてもよいことは当然である。
また、引き戸装置において、手摺棒4には人が寄りかかったりするので、所定の強度及び剛性を有する材料で構成されることが望まれ、一般的にはステンレスのような金属材料が多く使用される。手摺棒4に金属材料を使用する場合、周囲温度により手摺棒4が非常に低温になったり、非常に高温になったりする。例えば冬季の寒冷地では冬の気温が氷点下にもなり、手摺棒4の温度もそれに応じて低下し、手摺棒4を握る利用者に冷たい感触を与えるという問題がある。また、夏季に例えば直射日光が照射する場所に設置された手摺棒は高温となり、手摺棒4を握る利用者に高温の感触を与えるという問題がある。そこでここではこの問題を回避するため、金属製の手摺棒4の表面に断熱塗料を塗布している。このように表面に断熱塗料を塗布することにより、利用者が金属の手摺棒4を握っても手のひら等に強い冷感や強い熱感を感じることなく、手摺棒4を手摺として利用できる。なお、上記例では金属製の手摺棒4の表面に断熱塗料を塗布する例を説明したが、これに限定されるものではなく、金属製の手摺棒4の表面を樹脂材等の断熱性を有する被覆材で覆ってもよい。
また、上記引き戸装置において、引き戸1を開閉する毎に、手摺棒4がヒンジ機構5を中心に回動し、回転ローラ7は案内レール8に沿って上下動する。この時回転ローラ7が案内運内レール8の側板8b、8cが形成する溝から飛び出すのを防止する必要がある。そこでここでは、側板8b、8cの転走面8aの反対側端部に互いに対向する方向(側板8b、8cに直角)に回転ローラ7が飛び出すのを防止する飛出防止フレーム板8d、8eを取付けている。飛出防止フレーム板8d、8eの取付け方法としては、飛出防止フレーム板8d、8eを側板8b、8cの端部に溶接等で溶着又はビス等で固定する。このように側板8b、8cの端部に飛出防止フレーム板8d、8eを取付けると、該飛出防止フレーム板8dの側端部と飛出防止フレーム板8eの側端部の間の開口部36に指を挟んだりして、怪我をする等の問題が発生する恐れがある。また、前記案内溝に埃や塵が堆積し、回転ローラ7の転走や上下動の支障になるという問題が発生する恐れがある。そこでここでは、図13に示すように、案内レール8の飛出防止フレーム板8d、8e上に開口部36を覆うように板状ブラシ34、34を取付けている。即ち、板状ブラシ34、34のブラシ材33、33が互いに対向するように取付け、飛出防止フレーム板8d、8eの開口部36をブラシ材33、33が開口部36を覆うようにしている。板状ブラシ34は板材32の側面にブラシ材33が飛び出すように設けた構成である。
図13(a)は案内レールの一部を示す断面図、図13(b)は矢印C方向から見た側面図、図13(c)は案内レールの横断面図である。図示するように、案内レール8の転走面8aの両側に設けた側板8b、8cの転走面8aの反対側端面に板状ブラシ34、34をブラシ材33、33が互いに対向するように取付け、飛出防止フレーム板8d、8eの開口部36をブラシ材33、33で覆い、ブラシ材33とブラシ材33の間に回転ローラ7を装着した手摺棒4のブラケット6が位置するようにしている。このように飛出防止フレーム板8d、8eの開口部36をブラシ材33、33で覆うことにより、飛出防止フレーム板8d、8eの開口部36に指が挟まれたり、埃や塵が侵入して堆積するという問題が発生し難くなる。なお、上記例では飛出防止フレーム板8d、8eの開口部36をブラシ材33、33で覆う例を示したが、開口部36を覆う部材はブラシ材33、33に限定されるものではなく、開口部36に指が挟まれたり、埃や塵が侵入するのを防止でき、且つ案内レール8に沿って上下方向に移動する手摺棒4の移動の支障にならない柔軟性(可撓性)のある部材であればよく、例えば軟質のゴム板材、又は樹脂板材であってもよい。
図14及び図15は、手摺棒4の端部に取り付けた回転ローラ7が手摺棒回動付勢機構の支援力なしにヒンジ機構5を回動中心として回動するための案内レール8の転走面8aの曲率半径Rと回転ローラ接触角A(図5のA参照)である。図14(a)に示すように、転走面8aの曲率半径RがR=100mmでは回転ローラ接触角AはA=3.472°(A<4°)となり、回転ローラ7は上昇不能となる。これに対して図14(b)、(c)ではR=150mm、A=5.11°(A≧4°)、R=200mm、A=6.528°(A≧4°)となり、回転ローラ7は上昇可能となる。更に、図15(a)、(b)ではR=478.4mm、A=12.12°(A≧4°)、R=800mm、A=18.916°(A≧4°)となり、回転ローラ7は上昇可能となる。
図16(a)は案内レール8’の引き戸1の正面側を覆う化粧カバープレート38の外観形状を示す図で、図16(b)は案内レール8’の引き戸1の裏面側を覆う化粧カバープレート39の外観形状を示す図である。図示するように、案内レール8’の引き戸1の正面側を覆う化粧カバープレート38は、案内レール8’の山形突出部8iを覆うように山形突出部38’が形成された化粧カバープレート38であり、例えば木目美観を生かした木製化粧板、或いは木目模様を施した金属製板又は樹脂製板を用いる。また、引き戸1の裏面側を覆う化粧カバープレート39は、案内レール8’の裏面側全体を覆うように長方形状に形成され、化粧カバープレート38と同じように、木目美観を生かした木製化粧板、或いは木目模様を施した金属製板又は樹脂製板を用いる。
図12に示すように、引き戸1が全開状態の場合、手摺棒4は略垂直状態にあり、この手摺棒4の自重は鉛直方向の荷重としてヒンジ機構5に掛かるため、引き戸1には閉方向の力が作用しない。即ち、引き戸1に閉じ方向の力を作用させることなく放置すると、引き戸1は開けっ放しの状態となる。引き戸1が開けっ放しの状態では、手摺棒4は手摺としての役割を果たさない。そこで手摺棒回動付勢機構42の引き戸1に開く方向の力に抗して引き戸1に閉方向の力を与え、引き戸1を閉じることが必要となる。ここで引き戸自動閉装置50の役割が重要となる。
引き戸1を全開状態から閉じる際には、歩行者が閉じる引き戸1に接触し負傷等が発生することを防ぐ必要がある。閉作開始タイミング、閉速度、歩行者の接触回避のための減速及び停止等の安全上の対策が必要となる。例えば、引き戸1の閉動作開始に際しては、全開状態から所定時間が経過したことを確認し、周囲に予め閉動作開始を予告し、安全が確保できる所定のタイミングで所定の速度で閉動作を開始し、引き戸1を所定位置まで閉じ、該所定位置で人が引き戸1に挟み込まれないように減速し、万一人に接触した場合又は人を挟み込んだ場合、閉じ動作を停止し、且つ所定距離開放方向に移動させる等の安全上の配慮が必要となる。このような安全上の対策は引き戸自動閉装置50とは別個に設けてもよい。
以上、本発明の実施形態例を説明したが、本発明は上記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲、及び明細書と図面に記載された技術的思想の範囲内において種々の変形が可能である。なお、直接明細書及び図面に記載がない何れの形状や構造であっても、本願発明の作用効果を奏する以上、本願発明の技術範囲である。例えば、上記実施形態例では吊り下げ式引き戸を例に説明したが、例えば上下の鴨居敷居の凹み状溝に引き戸の上下端面に凸状突起が係合して摺動する構成の引き戸を有する引き戸装置にも本発明に係る引き戸用手摺は使用できる。