以下、図面を参照して発明を実施するための形態について説明する。各図面において、同一構成部分には同一符号を付し、重複した説明を省略する場合がある。
〈第1の実施の形態〉
[薄膜]
まず、第1の実施の形態に係る薄膜製造装置及び薄膜製造方法で製造される薄膜の一例として、電気機械変換素子を構成する電気機械変換膜について説明する。なお、第1の実施の形態に係る薄膜製造装置及び薄膜製造方法で製造可能な薄膜が電気機械変換膜に限定されないことは言うまでもない。
電気機械変換素子は、例えば、インクジェット記録装置において使用する液体吐出ヘッドの構成部品として用いられる。図1は、電気機械変換素子を用いた液体吐出ヘッドを例示する断面図である。
図1を参照するに、液滴吐出ヘッド1は、ノズル板10と、圧力室基板20と、振動板30と、電気機械変換素子40とを有する。ノズル板10には、インク滴を吐出するノズル11が形成されている。ノズル板10、圧力室基板20、及び振動板30により、ノズル11に連通する圧力室21(インク流路、加圧液室、加圧室、吐出室、液室等と称される場合もある)が形成されている。振動板30は、インク流路の壁面の一部を形成している。
電気機械変換素子40は、密着層41と、下部電極42と、電気機械変換膜43と、上部電極44とを含んで構成され、圧力室21内のインクを加圧する機能を有する。密着層41は、例えばTi、TiO2、TiN、Ta、Ta2O5、Ta3N5等からなる層であり、下部電極42と振動板30との密着性を向上する機能を有する。但し、密着層41は、電気機械変換素子40の必須の構成要素ではない。
電気機械変換素子40において、下部電極42と上部電極44との間に電圧が印加されると、電気機械変換膜43が機械的に変位する。電気機械変換膜43の機械的変位にともなって、振動板30が例えば横方向(d31方向)に変形変位し、圧力室21内のインクを加圧する。これにより、ノズル11からインク滴を吐出させることができる。
なお、図2に示すように、液滴吐出ヘッド1を複数個並設し、液滴吐出ヘッド2を構成することもできる。
電気機械変換膜43の材料としては、例えば、PZTを用いることができる。PZTとはジルコン酸鉛(PbZrO3)とチタン酸鉛(PbTiO3)の固溶体である。例えば、PbZrO3とPbTiO3の比率が53:47の割合で、化学式で示すとPb(Zr0.53、Ti0.47)O3、一般にはPZT(53/47)と示されるPZT等を使用することができる。PbZrO3とPbTiO3の比率によって、PZTの特性が異なる。
電気機械変換膜43としてPZTを使用する場合、出発材料に酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物を使用し、共通溶媒としてメトキシエタノールに溶解させ、PZT前駆体溶液を作製する。酢酸鉛、ジルコニウムアルコキシド化合物、チタンアルコキシド化合物の混合量は、所望のPZTの組成(PbZrO3とPbTiO3の比率)に応じて、当業者が適宜選択できるものである。
なお、金属アルコキシド化合物は、大気中の水分により容易に分解する。そのため、PZT前駆体溶液に、安定剤としてアセチルアセトン、酢酸、ジエタノールアミン等の安定剤を添加してもよい。
電気機械変換膜43の材料として、例えば、チタン酸バリウム等を用いても構わない。この場合は、バリウムアルコキシド、チタンアルコキシド化合物を出発材料にし、共通溶媒に溶解させることでチタン酸バリウム前駆体溶液を作製することが可能である。
これら材料は一般式ABO3で記述され、A=Pb、Ba、Sr B=Ti、Zr、Sn、Ni、Zn、Mg、Nbを主成分とする複合酸化物が該当する。その具体的な記述として(Pb1−x、Ba)(Zr、Ti)O3、(Pb1−x、Sr)(Zr、Ti)O3、と表され、これはAサイトのPbを一部BaやSrで置換した場合である。このような置換は2価の元素であれば可能であり、その効果は熱処理中の鉛の蒸発による特性劣化を低減させる作用を示す。
下部電極42の材料としては、高い耐熱性を有し、下記に示すアルカンチオールとの反応により、SAM膜を形成する金属等を用いることができる。具体的には、低い反応性を有するルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、プラチナ(Pt)等の白金族金属や、これら白金族金属を含む合金材料等を用いることができる。
又、これらの金属層を作製した後に、導電性酸化物層を積層して使用することも可能である。導電性酸化物としては、具体的には、化学式ABO3で記述され、A=Sr、Ba、Ca、La、 B=Ru、Co、Ni、を主成分とする複合酸化物があり、SrRuO3やCaRuO3、これらの固溶体である(Sr1−x Cax)O3のほか、LaNiO3やSrCoO3、更にはこれらの固溶体である(La, Sr)(Ni1−y Coy)O3 (y=1でも良い)が挙げられる。それ以外の酸化物材料として、IrO2、RuO2も挙げられる。
下部電極42は、例えば、スパッタ法や真空蒸着等の真空成膜法等の方法により作製することができる。下部電極42は、電気機械変換素子40に信号入力する際の共通電極として電気的接続をするので、その下部にある振動板30は絶縁体又は表面が絶縁処理された導体を用いることができる。
振動板30の具体的な材料としては、例えば、シリコンを用いることができる。又、振動板30の表面を絶縁処理する具体的な材料としては、例えば、厚さ約数百nm〜数μm程度のシリコン酸化膜、窒化シリコン膜、酸化窒化シリコン膜又はこれらの膜を積層した膜等を用いることができる。又、熱膨張差を考慮し、酸化アルミニウム膜、ジルコニア膜等のセラミック膜を用いてもよい。振動板30の表面を絶縁処理するシリコン系絶縁膜は、CVD法やシリコンの熱酸化処理等により形成できる。又、振動板30の表面を絶縁処理する酸化アルミニウム膜等の金属酸化膜は、スパッタリング法等により形成できる。
[薄膜製造装置]
次に、第1の実施の形態に係る薄膜製造装置の構造について説明する。図3は、第1の実施の形態に係る薄膜製造装置を例示する斜視図である。図3を参照するに、薄膜製造装置3において、架台60上にはY軸駆動手段61が設置されている。Y軸駆動手段61上には、基板5を搭載するステージ62が、Y軸方向に駆動可能なように設置されている。
なお、ステージ62には通常、真空又は静電気等を利用した図示しない吸着手段が付随されており、これにより基板5を固定することができる。又、ステージ62にZ軸を中心に回転する図示しない駆動手段を搭載し、後述するインクジェットヘッド67、連続照射レーザ装置71、及びパルス照射レーザ装置72と、基板5との相対的な傾きを補正できる構成としても良い。
又、架台60上には、X軸駆動手段63を支持するためのX軸支持部材64が設置されている。X軸駆動手段63には、Z軸駆動手段65が設置され、Z軸駆動手段65上にはヘッドベース66が取り付けられ、X軸及びZ軸方向に移動できるようにされている。
Z軸駆動手段65は、後述するインクジェットヘッド67と基板5との距離を制御することができる。ヘッドベース66の上には、機能性インク(例えば、PZT前駆体溶液)を吐出させるインクジェットヘッド67が搭載されている。インクジェットヘッド67には、各インクタンク68から図示しないインク供給用パイプを介して機能性インクが供給される。
X軸駆動手段63には、他のZ軸駆動手段69が取り付けられ、Z軸駆動手段69にはレーザ支持部材70が取り付けられている。レーザ支持部材70には、連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72が取り付けられている。Z軸駆動手段69は、連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72と、基板5との距離を制御することができる。
なお、図3は、ステージ62がY方向の1軸の自由度を有し、インクジェットヘッド67、連続照射レーザ装置71、及びパルス照射レーザ装置72がX方向の1軸の自由度を有する構成を示しているが、この形態には限定されない。例えば、ステージ62がX及びY方向の2軸の自由度を有し、インクジェットヘッド67、連続照射レーザ装置71、及びパルス照射レーザ装置72を固定する構成であっても良い。又、ステージ62がY方向の1軸の自由度を有し、インクジェットヘッド67、連続照射レーザ装置71、及びパルス照射レーザ装置72をY軸方向に一列に並べる構成であっても良い。
又、基板5を固定し、インクジェットヘッド67、連続照射レーザ装置71、及びパルス照射レーザ装置72がX及びY方向の2軸の自由度を有する構成であっても良い。又、X軸及びY軸は、X軸及びY軸ベクトルにより、1平面を表現できれば直交する必要はなく、例えば、X軸ベクトルとY軸ベクトルは30度、45度、60度の角度を有しても良い。
薄膜製造装置3は、図示しない装置制御部を有し、インクジェットヘッド67の機能性インクの吐出条件及び連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72のレーザ照射条件等を制御することができる。
装置制御部は、例えばCPU、ROM、RAM、不揮発性メモリ、メインメモリ等を含み、装置制御部の各種機能は、ROM等に記録された制御プログラムがメインメモリに読み出されてCPUにより実行されることによって実現される。但し、装置制御部の一部又は全部は、ハードウェアのみにより実現されてもよい。
又、装置制御部は、物理的に複数の装置により構成されてもよい。RAMや不揮発性メモリ等の記録部には、機能性インクの結晶状態やレーザの最適な照射条件等を記録することができる。例えば、本発明に係る固形分濃度及び照射時間記憶手段、並びにレーザパワー記憶手段は、各々装置制御部により実現可能である。
[薄膜製造方法]
次に、第1の実施の形態に係る薄膜製造方法について説明する。ここでは、薄膜として図1に示す電気機械変換膜43を製造する例を示す。
〔SAM膜のパターニング〕
まず、図4に示すように、下部電極42の表面に所定パターンのSAM(Self Assembled Monolayer)膜50を形成する。具体的には、図4(a)に示す工程では、例えば、下部電極42となる基板を準備する。下部電極42としては、例えば、白金(Pt)を用いることができる。
次に、図4(b)に示す工程では、下部電極42をアルカンチオール等からなるSAM材料で浸漬処理する。これにより、下部電極42の表面には、SAM材料が反応しSAM膜50が付着し、下部電極42表面を撥水化することができる。アルカンチオールは、分子鎖長により反応性や疎水(撥水)性が異なるが、通常、炭素数6〜18の分子を、アルコール、アセトン又はトルエン等の有機溶媒に溶解させて作製する。通常、アルカンチオールの濃度は数モル/リットル程度である。所定時間後に下部電極42を取り出し、余剰な分子を溶媒で置換洗浄し、乾燥する。
次に、図4(c)に示す工程では、公知のフォトリソグラフィ法により、下部電極42の表面に形成されたSAM膜50上に、開口部51xを有するフォトレジスト51を形成する。次に、図4(d)に示す工程では、ドライエッチング等により開口部51x内に露出するSAM膜50を除去し、更にフォトレジスト51を除去する。これにより、下部電極42の表面に所定パターンのSAM膜50が形成される。
下部電極42の表面のSAM膜50が形成されている領域は、疎水性となる。一方、SAM膜50が除去されて下部電極42の表面が露出している領域は、親水性となる。この表面エネルギーのコントラストを利用して、下記で詳述するPZT前駆体溶液の塗り分けが可能となる。
なお、図4(a)に示す工程の後、図5(a)に示す工程のように下部電極42の表面にフォトレジスト53を形成し、図5(b)に示す工程のようにSAM処理を行い、図5(c)に示す工程のようにフォトレジスト53を除去してもよい。これにより、図4(d)に示す工程と同様に、下部電極42の表面に所定パターンのSAM膜50が形成される。
又、図4(b)に示す工程の後、図6(a)に示す工程のように開口部54xを有するフォトマスク54を介して紫外線や酸素プラズマ等を下部電極42表面に照射し、図6(b)に示す工程のように露光部(開口部54x内)のSAM膜50を除去してもよい。これにより、図4(d)に示す工程と同様に、下部電極42の表面に所定パターンのSAM膜50が形成される。
〔電気機械変換膜の形成〕
次に、図7に示すように、下部電極42の表面に電気機械変換膜43を形成する。具体的には、図7(a)に示す工程では、薄膜製造装置3のステージ62上に、表面に所定パターンのSAM膜50が形成された下部電極42(図3の基板5に相当)を載置する。そして、周知のアライメント装置(CCDカメラやCMOSカメラ等)等を用いて、下部電極42の位置や傾き等をアライメントする。
そして、インクジェットヘッド67をX軸に駆動させ、下部電極42が載置されたステージ62をY軸に駆動させて、ステージ62上にインクジェットヘッド67を配置する。そして、インクジェットヘッド67から下部電極42の表面のSAM膜50が存在しない領域(親水性の領域)に機能性インク43aを吐出させる。この際、表面エネルギーのコントラストにより、機能性インク43aはSAM膜50が存在しない領域(親水性の領域)のみに濡れ広がる。
このように、表面エネルギーのコントラストを利用して機能性インク43aをSAM膜50が存在しない領域(親水性の領域)のみに形成することにより、塗布する溶液の使用量をスピンコート法等のプロセスよりも減らすことができると共に、工程を簡略化することが可能となる。なお、機能性インク43aとしては、例えば、PZT前駆体溶液を用いることができる。
次に、図7(b)に示す工程では、連続照射レーザ装置71をX軸に駆動させ、必要な場合には下部電極42が載置されたステージ62をY軸に駆動させて、ステージ62上に連続照射レーザ装置71を配置する。そして、連続照射レーザ装置71にて、図7(a)に示す工程で濡れ広がった機能性インク43aにレーザ光71xを照射して加熱する。レーザ光71xが照射された機能性インク43aは、溶媒が蒸発し、熱分解され、熱分解された機能性インク43bとなる。連続照射レーザ装置71としては、例えば、半導体レーザ装置やYAGレーザ装置等を用いることができる。
レーザ光71xの波長は、下部電極42を含めた基板の光吸収率が比較的高い領域である400nm以上(例えば400nm〜10000nm程度)とすると好適である。より詳しく説明すると、機能性インク43aは波長400nm以上のレーザ光71xをほとんど透過し、ほとんど吸収しない。そのため、機能性インク43aは直接加熱されず、機能性インク43aを搭載している下部電極42(白金等)を含む基板が加熱され、それにともなって間接的に機能性インク43aが加熱される。従って、レーザ光71xの波長を下部電極42の光吸収率が比較的高い領域である400nm以上とすると好適である。
なお、直接加熱の手法を用いると、レーザ光のビームプロファイルのムラにより照射部に温度ムラが生じるおそれがあるが、間接加熱の手法を採用することにより、照射面内において均一に機能性インク43aを加熱することが可能となる。
又、上記説明では、下部電極42上に機能性インク43aを形成しているが、シリコンからなる振動板30上にチタン等からなる密着層41及び白金等からなる下部電極42が積層され、積層された下部電極42上に機能性インク43aを形成する場合がある。このような場合でも、レーザ光71xの波長を、シリコン、チタン、及び白金の光吸収率が比較的高い領域である400nm以上とすると好適である。
なお、シリコンは、厚さ、結晶特性、熱特性の面内ムラが低いため信頼性が高く、本実施の形態で使用する基板(振動板30)として好適である。
下部電極42の移動速度は10mm/s〜1000mm/s程度、レーザ光71xのパワーは数W〜数十W程度とすることができる。又、レーザ光71xのビーム径は数10μm〜数100μm程度、ビームプロファイルは一般的なガウシアンプロファイルとすることができる。
なお、レーザ光71xはSAM膜50にも照射され、SAM膜50も加熱される。SAM膜50は、500℃以上の温度になると消失する虞があるが、レーザ光71xを上記設定条件とした場合には、下部電極42の温度が500℃以下にとどまるので、SAM膜50は消失しない。
次に、図7(c)に示す工程では、パルス照射レーザ装置72をX軸に駆動させ、必要な場合には下部電極42が載置されたステージ62をY軸に駆動させて、ステージ62上にパルス照射レーザ装置72を配置する。そして、パルス照射レーザ装置72にて、図7(b)に示す工程で熱分解された機能性インク43bのみにレーザ光72xを照射して加熱する。つまり、SAM膜50にレーザ光72xを照射すると、下部電極42の温度が500℃以上となってSAM膜50が消失する虞があるため、SAM膜50にはレーザ光72xを照射しない。
レーザ光72xを照射された機能性インク43bは、結晶化して機能性インク43c(例えば、PZT薄膜)となり、SAM膜50は消失せずに残存する。パルス照射レーザ装置72としては、例えば、半導体ファイバーカプリングレーザ装置や半導体レーザスタック装置等を用いることができる。
レーザ光72xのパワーは数W〜数10W程度、レーザ光72xの照射時間は数μ秒〜数100μ秒程度とすることができる。レーザ光72xの発光周波数は機能性インク43bのパターンとステージ62の移動速度により調整することが好ましく、例えば、パターン間隔が100μmで、ステージ62の移動速度が100mm/sの場合、レーザ光72xの発光周波数は1kHzとすることができる。
なお、レーザ光72xが発光中にステージ62が移動する場合には、レーザ光72xを照射する範囲が広がる。例えば、照射時間が100μ秒でステージ62の移動速度が100mm/sの場合、レーザ光72xが発光中にステージ62が移動することにより、レーザ光72xを照射する範囲が10um程度広がる。
そのため、レーザ光72xを機能性インク43bのみに照射し、SAM膜50に照射しないためには、レーザ光72xの照射範囲を考慮して機能性インク43bのパターン形状に合った照射タイミングでレーザ光72xを発光させる必要がある。
図7(c)に示す工程で結晶化した機能性インク43c(例えば、PZT薄膜)の膜厚は、数10nm程度である。この膜厚では不十分であるため、図7(c)に示す工程の後、更に図7(a)〜図7(c)に示す工程を必要数繰り返す。これにより、機能性インク43cが積層され、下部電極42上に任意のパターンと厚さ(例えば、数μm程度)の結晶化した機能性インク膜、すなわち電気機械変換膜43が作製される。
このように、第1の実施の形態では、SAM膜50が消失しない程度の温度で、連続照射レーザ装置71にて機能性インク43aにレーザ光71xを照射して加熱し、機能性インク43aの溶媒を蒸発させ熱分解し、機能性インク43bを作製する。そして、機能性インク43bにレーザ光72x(パルス)を照射して加熱し、結晶化させて機能性インク43cを作製する。この際、パルス照射レーザ装置72では、SAM膜50にレーザ光72xを照射しないため、SAM膜50が消失せずに残存する。
これにより、図4〜図6の工程を繰り返す必要はなく、図7(a)〜図7(c)に示す工程のみを必要数繰り返すことにより、機能性インク43cを積層することができる。つまり、簡易な工程により電気機械変換膜等の薄膜を製造可能となる。
以上、図7(c)に示す工程においてレーザ光をパルス照射すると好適であることを説明したが、図7(c)に示す工程においてレーザ光を連続的に照射して機能性インク43bを結晶化させ、機能性インク43cを作製することも可能である。但し、レーザ光の連続照射によりSAM膜50が消失した場合には、機能性インク43cを積層する際に、図4〜図7(c)に示す工程を繰り返す必要がある。
ところで、図7(a)及び図7(b)に示す工程を経て図7(c)に示す工程で機能性インク43bを完全に結晶化して機能性インク43cを形成するためには、事前に検討すべき項目(以下、事前検討項目とする)がある。第1の事前検討項目は、図7(a)に示す工程において塗布する機能性インク43aの膜厚と、図7(c)に示す工程で照射されるレーザ光(パルス照射又は連続照射)の照射時間との関係である。ここで、機能性インク43aの膜厚は塗布する機能性インク(例えば、PZT)の固形分濃度で決定されるため、塗布する機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間との関係を事前に検討することになる。
例えば、塗布する機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間の関係が適切でないと図8に示すような機能性インク43cが形成される。図8は、図7(c)に示す工程後の機能性インク43cの断面を模式的に示す図であり、塗布する機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間の関係が適切でない場合の例を示している。
図8において、機能性インク43cは、結晶領域43c1と、非晶質領域43c2とを有する。機能性インク43cは波長400nm以上のレーザ光をほとんど透過し、ほとんど吸収しない。そのため、レーザ光の波長が例えば980nmであるとすれば、レーザ光は機能性インク43cを透過して下部電極42(白金等)を含む基板を加熱する。そして、それにともなって間接的に機能性インク43cが加熱される。これにより、機能性インク43cは下部電極42側から結晶化される。
塗布する機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間の関係が適切でない場合は、図8に示すように、機能性インク43cの下部電極42側は結晶化されて結晶領域43c1が形成されるが、下部電極42とは反対側の一部の領域は結晶化されず非晶質領域43c2が形成される。
図8に示すような、非晶質領域43c2が形成された機能性インク43cは、結晶領域43c1のみからなる場合と比較して、電気機械変換素子40の特性(例えば、P−Eヒステリシス曲線等)が劣化する。そこで、塗布する機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間の関係を適切に設定する必要がある。具体的な設定手順については、図10を参照しながら後述する。
第2の事前検討項目は、レーザ光(パルス照射又は連続照射)のパワーと機能性インク43cが積層された回数との関係である。すなわち、機能性インク43cが積層されると膜厚が厚くなるため、機能性インク43cの光吸収率が変化する。光吸収率が変化すると同じパワーのレーザ光を照射しても、加熱される温度が異なる。従って、図7(b)及び図7(c)に示す工程において、機能性インク43cを一定温度に加熱するためには、機能性インク43cに照射するレーザ光のパワーを機能性インク43cが積層された回数に対応して設定することが好ましい(すなわち、機能性インク43cの膜厚に対応して設定することが好ましい)。
図9は、光吸収率と膜厚に関しての説明図である。下部電極42上に機能性インク43aを塗布し、レーザ光71xを照射した場合、レーザ光71xの一部は機能性インク43aの膜表面で反射し(A)、一部は機能性インク43aを透過して下部電極42表面で反射し(B)、一部は下部電極42で吸収される(C)。一部は下部電極42を透過する場合もある。機能性インク43aの光吸収率は、機能性インク43aの膜厚Hにより変化する。機能性インク43bについても同様である。そこで、機能性インク43aの光吸収率と膜厚との関係を計測する必要がある。
ここで、前述の第1及び第2の事前検討項目の具体的な手順について、図10を参照しながら説明する。図10は、第1及び第2の事前検討項目の具体的な手順を示すフローチャートの一例であり、ステップS101〜S106が第1の事前検討項目に関するものであり、ステップS111〜S117が第2の事前検討項目に関するものである。なお、図10ではレーザ光を連続照射して機能性インクを結晶化する場合を例にして説明する。
図10を参照するに、まず、ステップS101では、塗布する機能性インクの仮固形分濃度及び機能性インクを結晶化するために連続照射するレーザ光の仮照射時間を決定する。ここでは、一例として、機能性インクとしてPZTを用い、機能性インク(PZT)の仮固形分濃度を5mol/l、連続照射するレーザ光の仮照射時間を3.5msに決定するとして以下の説明を行う。
次に、ステップS102では、ステップS101で決定した仮固形分濃度の機能性インクを用いて、成膜対象物となる基板上に機能性インク膜を形成する。機能性インク膜は、例えばインクジェット法やスピンコート法で均一に塗布し形成できる。
なお、ここでは、所定の固形分濃度の機能性インクを結晶化するためには、連続照射するレーザ光の照射時間がどの程度必要かを検討することが目的である。そこで、ステップS101で決定した仮照射時間でレーザ光を連続照射した際に、全ての領域が結晶領域とならず、一部に非晶質領域が形成される程度の膜厚となるようにステップS102で機能性インク膜を形成する。
次に、ステップS103では、ステップS102で成膜した機能性インク膜を加熱する。具体的には、まずレーザ光を連続照射して機能性インク膜を乾燥及び熱分解し、その後、結晶化可能な温度で(結晶化可能なパワーで)更にレーザ光を連続照射して機能性インク膜を結晶化する(但し、一部の領域は非晶質となる場合がある)。なお、連続照射するレーザ光のパワーは例えば40W〜90W程度の範囲内で適宜決定する。
次に、ステップS104では、例えばSEMを用いて、ステップS102で加熱した機能性インク膜の断面観察を行う。機能性インク膜の断面観察を行うことにより、ステップS102で加熱した機能性インク膜の結晶領域と非晶質領域の各々の膜厚を測定できる。
なお、前述のように、ステップS102で一部に非晶質領域が形成される程度の膜厚に機能性インク膜を形成しているはずであるが、もしもステップS104で全ての領域が結晶領域であった場合には、機能性インク膜の膜厚を厚くして(機能性インクの仮固形分濃度を高くして)ステップS101〜S104をやり直す。
次に、ステップS105では、結晶成長に必要な時間を算出する。例えば、ステップS104で図8に模式的に示したような断面が観察され、例えば結晶領域43c1が52nm、非晶質領域43c2が15nmと測定された場合を考える。仮照射時間は3.5msであるから、この場合には、52nm÷3.5ms≒15nm/msが結晶成長に必要な時間となる。なお、機能性インク膜の総膜厚は、52nm+15nm=67nmである。
次に、ステップS106では、固形分濃度及び照射時間を最適化し、最適化した値をRAMや不揮発性メモリ等の記録部に記録する。ステップS105において、結晶成長に必要な時間が15nm/msであることが確認された。又、ステップS101〜S105において、仮固形分濃度を5mol/lの機能性インクを加熱すると、総膜厚が67nmの機能性インク膜が形成されることが確認された。
これより、例えば、固形分濃度を5mol/lとして全領域が結晶化された機能性インク膜を形成したい場合には(総膜厚が67nmで全領域が結晶化された機能性インク膜を形成したい場合には)、照射時間を67nm÷15nm/ms≒4.5msにすればよいことがわかる。
なお、加熱時間は4.5msよりも長ければ如何なる値でも良いように思われるが、そうではない。加熱時間が長すぎると結晶化された機能性インク膜にクラックが入る場合があるため、あまり長くすることは好ましくない。一方、マージンを考えると、実際の加熱時間は4.5msよりも若干大きく設定することが好ましい。つまり、実際の加熱時間は4.5msから機能性インク膜にクラックが入る加熱時間との間の所定範囲に設定すればよい。なお、機能性インク膜にクラックが入る加熱時間は実験により知ることができる。
又、全領域が結晶化された機能性インク膜を形成するために、固形分濃度を変更してもよい。ステップS101〜S105において、所定パワーのレーザ光(連続照射)の仮照射時間を3.5msとして機能性インクを加熱すると、52nmの機能性インク膜が結晶化することが確認された。
これにより、照射時間が3.5msの所定パワーのレーザ光(連続照射)で総膜厚が52nmで全領域が結晶化された機能性インク膜を形成したい場合には、固形分濃度を5mol/l×(52nm÷67nm)≒3.9mol/lにすればよいことがわかる。
もちろん、仮固形分濃度(5mol/l)及び仮照射時間(3.5ms)の両方を変えて固形分濃度及び照射時間を最適化してもよい。例えば、固形分濃度を6mol/lとすると、67nm×(6mol/l÷5mol/l)≒80nmの膜厚の機能性インク膜を形成できる。この場合は照射時間を80nm÷15nm/ms≒5.3msにすれば、80nmの膜厚の全領域を結晶化できる。
なお、機能性インク膜の膜厚は、生産性を考慮して決定することができる。例えば、総厚が2μmの機能性インク膜を形成したい場合、一度には形成できないので、例えば、膜厚が50nmの機能性インク膜を40回積層して形成することが必要となる。ここで、膜厚を50nmよりも厚くすれば積層回数は減るが、レーザ光の総照射時間は増える。一方、膜厚を50nmよりも薄くすれば積層回数は増えるが、レーザ光の総照射時間は減る。そこで、積層回数の増減とレーザ光の総照射時間の増減とを考慮し、一度に形成する機能性インク膜の膜厚を適切な値に設定すればよい。
このようにして、図7(a)に示す工程で塗布すべき機能性インク43aの固形分濃度、及び結晶化するために連続照射すべきレーザ光の照射時間を最適化できる。なお、ステップS101〜S105を複数回繰り返してデータを蓄積し、平均化したデータを用いてステップS106で固形分濃度及び照射時間の最適値を求め、求めた最適値を記憶部に記憶させてもよい。
又、レーザ光(連続照射)のパワーは40W〜90W程度の範囲内の所定値としたが、レーザ光(連続照射)のパワーは後述のような最適値を有する。そこで、実際には、レーザ光(連続照射)のパワーを最適値とした場合の、固形分濃度及び照射時間の最適値を求める必要がある。そこで、ステップS101〜S106では、レーザ光(連続照射)のパワーを例えば40W〜90Wの範囲内で段階的に変えて、各レーザ光(連続照射)のパワーにおける固形分濃度及び照射時間の最適値を求め、求めた各最適値を記憶部に記憶させておくことが好ましい。
以上により、第1の事前検討項目に関するステップの説明は終了する。なお、以上の説明は、レーザ光を連続照射して機能性インクを結晶化する場合を例にしたが、レーザ光をパルス照射して機能性インクを結晶化する場合にも、上記と同様な手順により、レーザ光(パルス照射)のパワーにおける固形分濃度及び照射時間の最適値を求め、求めた各最適値を記憶部に記憶させておくことができる。
次に、第2の事前検討項目に関するステップについて説明する。まず、ステップS111では、成膜対象物となる基板上に、例えばインクジェット法やスピンコート法で機能性インクを均一に塗布し、機能性インク膜を形成する。
次に、ステップS112では、ステップS111で成膜した機能性インク膜の膜厚を計測する。機能性インク膜の膜厚は、例えば、光等を用いた非接触形状計測器等を用いて計測できる。より具体的には、例えば、Zygo社の干渉計NewViewシリーズや、Keyence社の形状測定レーザ顕微鏡VKシリーズ等を用いることができる。
次に、ステップS113では、ステップS111で成膜した機能性インク膜の光吸収率を計測する。機能性インク膜の光吸収率は、例えば、FTIRやUV-VIS-NIR Spectrometry等を用いて計測できる。より具体的には、例えば、島津製作所のIRシリーズ、UVシリーズや、PerkinElmer社のLambdaシリーズ等を用いることができる。
次に、ステップS114では、ステップS111で成膜した機能性インク膜を加熱する。機能性インク膜を加熱するには、例えば、オーブンやRTA等を用いることができる。又、レーザ装置を用いても良い。
次に、ステップS115で膜厚に変化がないか否か判定しながら、ステップS112〜S114を繰り返し、加熱する温度条件やレーザパワーを数段階に調整し、機能性インク膜の相状態を変える。ステップS115で膜厚に変化がないと判定した場合(YESの場合)には、ステップS116で、機能性インク膜の光吸収率と膜厚、状態(加熱温度、レーザパワー)の情報を記録する。
次に、ステップS117で目標の膜厚に到達したか否か判定しながら、ステップS111〜S116を繰り返して目標の膜厚に到達するまで機能性インクを重ね塗りし、機能性インク膜の光吸収率と膜厚、状態(加熱温度、レーザパワー)の情報を記録し続ける。これにより、機能性インク膜(機能性インク43aや43b)の光吸収率と膜厚との関係が得られる。
図11は、図10のステップS112で得られる情報の一例を示す図であり、機能性インク膜の加熱温度と膜厚との関係を示している。図11において、601はホットプレートで1分間120℃で加熱したときの機能性インク膜の膜厚であり(約170nm)、602はオーブンで数分間300℃で加熱したときの機能性インク膜の膜厚であり(約115nm)、603はオーブンで数分間500℃で加熱したときの機能性インク膜の膜厚であり(約90nm)、604はオーブンで数分間700℃で加熱したときの機能性インク膜の膜厚であり(約75nm)である。なお,本実施の形態では示していないが、室温(約25℃)時の機能性インク膜の膜厚を測定可能なことは言うまでもない。
図12は、図10のステップS103で得られる情報の一例を示す図であり、機能性インク膜の膜厚と光吸収率との関係を示している。図12では、波長約1000nmの光を照射した場合の光吸収率をプロットしている。図12において、実線はホットプレートで数分間120℃で焼成したときの機能性インク膜の膜厚0〜1000μmまでの光吸収率であり、粗い点線はオーブンで数分間500℃で加熱したときの機能性インク膜の膜厚0〜1000μmまでの光吸収率であり、細かい点線はオーブンで数分間700℃で加熱したときの機能性インク膜の膜厚0〜1000μmまでの光吸収率である。
実際のデータは膜厚を数十μmピッチで計測しており、図12はカーブフィッティングした結果を示している。なお、スピンピンコートの成膜条件や、インクジェットの吐出条件を変えることで、膜厚を数十μmピッチで変えることが可能である。本実施の形態で計測した温度は120℃、500℃、700℃の3点であるが、25℃までのデータや、更に細かく温度を刻んでデータを取得すると、より精度の高い情報が得られるのは言うまでもない。
次に、事前に計測した図11や図12の結果から、最適なレーザパワーを算出する方法について説明する。図13は、図12に図11で得た膜厚情報(図11で得た120℃から700℃まで加熱した時の膜厚情報)をプロットした図である。
図11において120℃では膜厚みが約170nmであるから、これを図13の120℃で加熱したときの光吸収率曲線(実線)上にプロットすると701が示す点となる。上記と同様に、500℃及び700℃加熱時の膜厚情報を各曲線上にプロットすると703及び704が示す点となる。
図13は、波長約1000nmの光を照射して機能性インク膜を120℃から700℃まで加熱する場合、光吸収率が約52%→約58%→約46%と非線形的に変化することを意味している。2層目を同じように機能性インクを重ねて塗布し(1層目の最終的な膜厚みは75nmだったので、2層目の120℃加熱後の厚みは75nm+170nm=245nmとなる)、光吸収率と膜厚を計測して図13にプロットすると801が示す点となる。
上記と同様に、500℃及び700℃加熱時の膜厚情報(500℃で約165μm、700℃で約150μm)を各曲線上にプロットすると803及び804が示す点となる。2層目の光吸収率の変化は1層目と異なり、約62%→約42%→約38%と非線形的に変化する。このように、膜厚により光吸収率の変化する特性が大きく異なる。
波長約1000nmのレーザ光を照射するレーザ装置の各層毎の最適なレーザパワーの決定方法はいくつか考えられるが、一つの例として光吸収率変化レンジの中心値を使用することが可能である。上記結果より、1層目の光吸収率の中心値は52%で、2層目の光吸収率の中心値は50%である。2層目は光吸収率が1層目に比べて若干低いので、強めのレーザパワーで照射する必要がある。
本実施の形態では、各層の膜厚みは一定としているので、各層の最適なレーザパワーを算出する場合、1層目のレーザパワーに対して比例して考えることができる。例えば、1層目の最適レーザパワーが100Wの場合(基準となる最適レーザパワーは事前に評価する必要がある)、2層目は100Wの52%/50%で104Wが最適レーザパワーとなる。同様にして、2層目以降の層に関しても最適レーザパワーを容易に算出できる。
上記では、120℃から700℃まで単一プロセスで加熱する場合において説明したが、蒸発(120℃)、熱分解(500℃)、結晶化(700℃)と3段階に分けた加熱プロセスを行う場合、それぞれの状態の光吸収率の中心値を使用する必要はない。例えば、レーザ装置において蒸発工程だけを行いたい場合、図13に示すように1層目の120℃での光吸収率は52%で、2層目の120℃での光吸収率は62%なので、例えば、1層目の最適レーザパワーが100Wの場合(同じように基準となる最適レーザパワーは事前に評価する必要がある)、2層目は100Wの52%/62%で約84Wが最適レーザパワーとなる。この手法と同じように熱分解(500℃)や結晶化(700℃)のプロセスも行うことができる。
基準となる最適レーザパワーの事前評価を行う必要がある。本実施の形態では、レーザ照射エリア1000μm×50μm、レーザ波長980nm、レーザビームプロファイルはトップハット(フラット)、基板スキャン速度100mm/sとした場合に、20から40W付近に最適レーザパワーが認められた。上記条件にて製作した機能性インク膜はクラックが無く、結晶化は良好(XRD計測機などで確認)であり、計測した圧電素子特性も良好であった。
このように、第1の実施の形態では、所定の固形分濃度の塗膜にレーザ光を所定の照射時間照射した際に塗膜が結晶化する領域の膜厚から結晶成長に必要な時間を算出する。そして、算出した結晶成長に必要な時間に基づいて、塗膜の全領域を結晶化できる固形分濃度と照射時間とを事前に算出し記憶する。又、塗膜の膜厚と光吸収率との関係から、塗膜の膜厚に対応するレーザパワーを事前に算出し記憶する。
そして、事前に記憶した固形分濃度の液体を吐出して塗膜を形成し、その後、事前に記憶した塗膜の膜厚に対応するレーザパワーにより塗膜にレーザ光を連続的に照射し、塗膜を乾燥及び熱分解する。更に、事前に記憶した塗膜の膜厚に対応するレーザパワーにより、塗膜に事前に記憶した照射時間だけレーザ光を照射し(パルス照射又は連続照射)、塗膜を結晶化する。
これにより、全領域が結晶化された機能インク膜を得ることができるため、電気機械変換素子の特性(例えば、P−Eヒステリシス曲線等)の劣化を防止できる。
なお、第1の実施の形態では1層の機能性インク膜についてのみ論じたが、多層化しても同様の考えが適用できる。なぜならば、1層毎に機能性インク膜を結晶化し、その後に次層の機能性インク膜となる機能性インクを塗布して結晶化させる工程を繰り返すからである。又、照射するレーザ光は既に結晶化された下層の機能性インク膜を透過するため、結晶化すべき機能性インク膜(最上層)は下層の影響を受け難いためである。
又、塗膜の成膜工程が繰り返されて塗膜の膜厚が変化した場合にも、塗膜に最適なレーザパワーのレーザ光を照射できる。すなわち、塗膜の膜厚が変化した場合にも、塗膜を所望の温度に加熱できる。なお、塗膜の膜厚は、液体の吐出量等により知ることができるため、レーザ光を照射する前に塗膜の膜厚を測定する必要はない。
〈第2の実施の形態〉
第1の実施形態では、連続照射レーザ装置71とパルス照射レーザ装置72を別々の装置として使用した。第2の実施形態では、連続照射レーザ装置71とパルス照射レーザ装置72とを1台のレーザ装置とする例を示す。具体的には、例えば、半導体ファイバーカプリングレーザ装置又は半導体レーザスタック装置等のパルス照射レーザ装置を使用して、1台のレーザ装置にパルスレーザ装置と連続照射レーザ装置の両方の機能を持たせることができる。
これにより、1台のレーザ装置で機能性インクの溶媒蒸発、熱分解、結晶化までのプロセスと行うことができる。又、例えば、ステージ62がY方向の1軸の自由度を有し、インクジェットヘッド67、連続照射レーザ装置71、及びパルス照射レーザ装置72をY軸方向に一列に並べる構成の場合には、連続照射レーザ装置71とパルス照射レーザ装置72とを1台のレーザ装置とすることにより、ステージ駆動手段のY軸方向の長さを短くすることができる。そのため、Y軸方向の移動精度が向上するだけでなく、装置がコンパクトとなるため、装置の低コスト化が可能となる。
〈第3の実施の形態〉
通常、レーザ加熱によるレーザ照射エリアの形状は円形であり、ビームプロファイルはGaussianである。そのため、円形のレーザ照射エリアで機能性インクを照射する場合、円中央領域と円端部分では実照射時間が異なる。すなわち、円中央の方が長い時間照射され、円端の方は短い時間照射される。そのため、レーザ照射エリアを機能性インクのパターンと同じ形状若しくはそれよりも大きい形状にすると好適である。これにより、所定の形状にパターニングされた機能性インクを、均一に加熱することができる。
更に、例えば、連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72によるレーザ照射のビームプロファイルを、照射エリア内でフラット形状又はトップハット形状にすることで、機能性インクをより均一に加熱することが可能となる。なお、照射エリアの形状とビームプロファイルの調整は、連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72の何れの装置にも搭載することが可能である。
例えば、機能性インクの平面形状が長方形である場合、連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72の何れの場合でも、ステージ62が同時に移動できる方向が1方向である場合、照射エリアは長方形であることが好ましい。そして、長方形の傾きとステージ62の移動方向の傾きがそろっていることが好ましい。つまり、平面形状が長方形の機能性インクの長辺又は短辺がステージ62の移動方向に平行であることが好ましい。
このような構成にすることで、ステージ62の移動方向の照射時間が、ステージ62の移動方向と直角の方向で同一となる。すなわち、均一なレーザ加熱が可能となり、信頼性の高い機能性インク膜を形成することができる。
〈第4の実施の形態〉
第4の実施の形態では、機能性インクを結晶化のためにレーザ加熱する前に、エキシマレーザを用いてレーザ照射を行う。金属成分を含む有機化合物は、含まれる金属成分によって金属有機化合物が異なる温度で分解されるため、材料によって結晶粒の形成方法が異なる。そのため、エキシマレーザを用いてレーザ照射することで、それぞれの金属有機化合物の化学結合を切断し、結晶粒の形成方法を統一させる。
それにより、機能性インクから圧電素子を作製する場合には、緻密で粒径が揃った結晶膜を形成することができ、得られた結晶膜の圧電素子特性が向上する。エキシマレーザによって切断された化学結合については、赤外吸収スペクトル等を用いて確認することができる。具体的には、連続照射レーザ装置71にて溶媒を蒸発させた後,例えば波長が300nm以下のエキシマレーザ等を照射する。
より具体的には、例えば、連続照射型KrFエキシマレーザ装置を用いて、波長230〜280nm、100mJ/cm2以上の照射条件でエキシマレーザを照射することで、得られる機能性インク膜の特性を向上させることができる。なお、連続照射型KrFエキシマレーザ装置に代えて、UVランプを用いて紫外線を照射しても同様の効果を奏する。
〈第5の実施の形態〉
第5の実施の形態では、薄膜製造装置3で製造した液体吐出ヘッド2(図2参照)を搭載したインクジェット記録装置の例を示す。図14は、インクジェット記録装置を例示する斜視図である。図15は、インクジェット記録装置の機構部を例示する側面図である。
図14及び図15を参照するに、インクジェット記録装置4は、記録装置本体81の内部に主走査方向に移動可能なキャリッジ93、キャリッジ93に搭載した液体吐出ヘッド2の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94、インクジェット記録ヘッド94へインクを供給するインクカートリッジ95等で構成される印字機構部82等を収納する。
記録装置本体81の下方部には、多数枚の用紙83を積載可能な給紙カセット84(或いは給紙トレイでもよい)を抜き差し自在に装着することができる。又、用紙83を手差しで給紙するための手差しトレイ85を開倒することができる。給紙カセット84或いは手差しトレイ85から給送される用紙83を取り込み、印字機構部82によって所要の画像を記録した後、後面側に装着された排紙トレイ86に排紙する。
印字機構部82は、図示しない左右の側板に横架したガイド部材である主ガイドロッド91と従ガイドロッド92とでキャリッジ93を主走査方向に摺動自在に保持する。キャリッジ93にはイエロー(Y)、シアン(C)、マゼンタ(M)、ブラック(Bk)の各色のインク滴を吐出するインクジェット記録ヘッド94を、複数のインク吐出口(ノズル)を主走査方向と交差する方向に配列し、インク滴吐出方向を下方に向けて装着している。又、キャリッジ93は、インクジェット記録ヘッド94に各色のインクを供給するための各インクカートリッジ95を交換可能に装着している。
インクカートリッジ95は、上方に大気と連通する図示しない大気口、下方にはインクジェット記録ヘッド94へインクを供給する図示しない供給口を、内部にはインクが充填された図示しない多孔質体を有している。多孔質体の毛管力によりインクジェット記録ヘッド94へ供給されるインクをわずかな負圧に維持している。又、インクジェット記録ヘッド94としてここでは各色のヘッドを用いているが、各色のインク滴を吐出するノズルを有する1個のヘッドを用いてもよい。
キャリッジ93は、用紙搬送方向下流側を主ガイドロッド91に摺動自在に嵌装し、用紙搬送方向上流側を従ガイドロッド92に摺動自在に載置している。そして、このキャリッジ93を主走査方向に移動走査するため、主走査モータ97で回転駆動される駆動プーリ98と従動プーリ99との間にタイミングベルト100を張装し、主走査モータ97の正逆回転によりキャリッジ93が往復駆動される。タイミングベルト100は、キャリッジ93に固定されている。
又、インクジェット記録装置4は、給紙カセット84から用紙83を分離給装する給紙ローラ101、フリクションパッド102、用紙83を案内するガイド部材103、給紙された用紙83を反転させて搬送する搬送ローラ104、この搬送ローラ104の周面に押し付けられる搬送コロ105、搬送ローラ104からの用紙83の送り出し角度を規定する先端コロ106、を設けている。これにより、給紙カセット84にセットした用紙83を、インクジェット記録ヘッド94の下方側に搬送される。搬送ローラ104は副走査モータ107によってギヤ列を介して回転駆動される。
用紙ガイド部材である印写受け部材109は、キャリッジ93の主走査方向の移動範囲に対応して搬送ローラ104から送り出された用紙83をインクジェット記録ヘッド94の下方側で案内する。この印写受け部材109の用紙搬送方向下流側には、用紙83を排紙方向へ送り出すために回転駆動される搬送コロ111、拍車112を設けている。更に、用紙83を排紙トレイ86に送り出す排紙ローラ113及び拍車114と、排紙経路を形成するガイド部材115、116とを配設している。
画像記録時には、キャリッジ93を移動させながら画像信号に応じてインクジェット記録ヘッド94を駆動することにより、停止している用紙83にインクを吐出して1行分を記録し、用紙83を所定量搬送後次の行の記録を行う。記録終了信号又は用紙83の後端が記録領域に到達した信号を受けることにより、記録動作を終了させ用紙83を排紙する。
キャリッジ93の移動方向右端側の記録領域を外れた位置には、インクジェット記録ヘッド94の吐出不良を回復するための回復装置117を有する。回復装置117はキャップ手段と吸引手段とクリーニング手段を有する。キャリッジ93は、印字待機中に回復装置117側に移動されてキャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94をキャッピングされ、吐出口部を湿潤状態に保つことによりインク乾燥による吐出不良を防止する。又、記録途中等に、記録と関係しないインクを吐出することにより、全ての吐出口のインク粘度を一定にし、安定した吐出性能を維持する。
吐出不良が発生した場合等には、キャッピング手段でインクジェット記録ヘッド94の吐出口を密封し、チューブを通して吸引手段で吐出口からインクとともに気泡等を吸い出す。又、吐出口面に付着したインクやゴミ等はクリーニング手段により除去され吐出不良が回復される。更に、吸引されたインクは、本体下部に設置された図示しない廃インク溜に排出され、廃インク溜内部のインク吸収体に吸収保持される。
このように、インクジェット記録装置4においては、薄膜製造装置3で製造した液体吐出ヘッド2の一実施形態であるインクジェット記録ヘッド94を搭載しているので、振動板駆動不良によるインク滴吐出不良がなく、安定したインク滴吐出特性が得られるため、画像品質を向上できる。
[実施例1]
実施例1では、塗布する機能性インクの固形分濃度とレーザ光(連続照射)の照射時間の関係が最適化されていない場合の機能性インク膜について検討した。図16は、機能性インクの断面を示すSEM(走査型電子顕微鏡)写真であり、図8に模式的に示した機能性インクの断面に対応するものである。
本実施例では、白金膜からなる下部電極42上に、薄膜製造装置3を用いて固形分濃度が5mol/lのPZT(機能性インク)を塗布し、オーブンを用いて加熱して乾燥及び熱分解させた。その後、乾燥及び熱分解させたPZTに、40W〜90Wの範囲の所定パワーの波長980nmのレーザ光を照射時間3.5ms(走査速度100mm/s)連続照射し、図16に示す機能性インク43c(PZT膜)を得た。この時の推定加熱温度は、約700℃である。なお、レーザ光の照射エリアは350μm×350μmとした。
図16に示すように、形成された機能性インク43c(PZT膜)の総膜厚は約66.5nmであり、そのうちの約77%に当たる約51.6nmが結晶化され結晶領域43c1となり、残りの約23%に当たる約14.9nmは非晶質のままであった(非晶質領域43c2)。
なお、図16において、機能性インク43cの下側から結晶化が進行する理由は、機能性インク43cは波長400nm以上のレーザ光をほとんど透過し、ほとんど吸収しないためである。つまり、本実施例では980nmのレーザ光を照射したため、レーザ光は機能性インク43cを透過して下部電極42(白金膜)を加熱し、それにともなって間接的に機能性インク43cが加熱される。これにより、機能性インク43cは下部電極42側から結晶化され、下部電極42に近い側から結晶領域43c1が形成されたと考えられる。
このように、塗布する機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間の関係が最適化されていないと、全領域が結晶化された機能性インク膜が得られないことがわかった。つまり、図10を参照しながら説明したように、機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間を事前に最適化する必要があることがわかった。なお、機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間との関係は、機能性インクとして用いる材料及び照射するレーザ光のパワーにより変わるため、機能性インクとして用いる材料や照射するレーザ光のパワー毎に機能性インクの固形分濃度とレーザ光の照射時間を事前に最適化する必要がある。
[実施例2]
実施例2では、結晶領域及び非晶質領域を含む機能性インク膜と、結晶領域のみからなる機能性インク膜との電気特性の比較を行った。
まず、白金膜からなる下部電極42上に、薄膜製造装置3を用いて固形分濃度が3mol/lのPZT(機能性インク)を塗布し、オーブンを用いて加熱して乾燥及び熱分解させた。その後、乾燥及び熱分解させたPZTに、40W〜90Wの範囲の所定パワーの波長980nmのレーザ光を照射時間3.5ms(走査速度100mm/s)連続照射し、機能性インク膜(PZT膜)を得た。この時の推定加熱温度は、約700℃である。なお、レーザ光の照射エリアは350μm×350μmとした。
得られた機能性インク膜(PZT膜)の断面をSEMで観察したところ、総厚が約44nmで全領域が結晶化されていることが確認された。なお、図10を参照しながら説明した場合と同一のレーザパワーを用いて照射時間を3.5msとすれば、固形分濃度が3.9mol/lのPZT(機能性インク)を塗布して総厚が約52nmの結晶領域のみからなる機能性インク膜(PZT膜)が得られる。実施例2で、固形分濃度が3mol/lのPZT(機能性インク)を塗布して総厚が約44nmの結晶領域のみからなる機能性インク膜(PZT膜)を形成したのは、マージンを考慮したためである。
次に、実施例2で成膜した機能性インク膜と、実施例1で成膜した機能性インク膜の各々について、X線回折(XRD)の計測とP−Eヒステリシス曲線の計測を行った。図17は、実施例2で計測したX線回折の結果を示すグラフであり、(a)は実施例2で成膜した機能性インク膜の計測結果、(b)は実施例1で成膜した機能性インク膜の計測結果を示している。
図17は、X線を機能性インク膜の水平方向に対してθの角度で入射させ、機能性インク膜から反射して出てくるX線のうち、入射したX線に対して2θの角度のX線を検出し、その強度変化を計測した結果である。図17からわかるように、実施例2で成膜した機能性インク膜では、21.9°や31.0°に実施例1で成膜した機能性インク膜よりも鋭いピークが現れており、結晶性が高いことが確認できた。
図18は、実施例2で計測したP−Eヒステリシス曲線を示すグラフであり、(a)は実施例2で成膜した機能性インク膜の計測結果、(b)は実施例1で成膜した機能性インク膜の計測結果を示している。図18からわかるように、(a)の実施例2で成膜した機能性インク膜では正常なヒステリシス曲線が現れているが、(b)の実施例1で成膜した機能性インク膜には正常なヒステリシス曲線が現れてないことが確認できた。つまり、結晶領域のみからなる機能性インク膜の方が、結晶領域及び非晶質領域を含む機能性インク膜よりも電気特性が高いことが確認できた。
[実施例3]
次に、薄膜製造装置3を用いて薄膜を形成する例を説明する。実施例3では、シリコンウェハに熱酸化膜(膜厚1μm)を形成し、密着層としてチタン膜(膜厚50nm)をスパッタ成膜した。引続き下部電極として白金膜(膜厚200nm)をスパッタ成膜した。
次いで、アルカンチオールにCH3(CH2)6−SHを用い、濃度0.01モル/l(溶媒:イソプロピルアルコール)溶液に浸漬させ、SAM処理を行った。その後、イソプロピルアルコールで洗浄・乾燥後、パターニングの工程に移る。
SAM膜処理後、SAM膜形成部位(SAM膜上)において水の接触角を測定したところ、SAM膜上での水の接触角は92.2°であった(図19参照)。一方、SAM処理前の白金スパッタ膜上において水の接触角を測定したところ、白金スパッタ膜上での水の接触角は5°以下(完全濡れ)であった。この結果から、SAM膜処理が適切になされたことがわかる。
次に、東京応化社製フォトレジスト(TSMR8800)をスピンコート法で成膜し、通常のフォトリソグラフィ法でレジストパターンを形成した後、酸素プラズマ処理を行い露出部のSAM膜を除去した。処理後の残渣レジストはアセトンにて溶解除去し、同様の接触角評価を行ったところ、SAM膜除去部位において水の接触角は5°以下(完全濡れ)であり(図20参照)、レジストでカバーされていた部位のそれは92.4°の値を示した。この結果から、SAM膜のパターン化が適切になされたことが確認できる。
他方式のパターニングとして、同様のレジストワークにより予めレジストパターンを形成し、同様のSAM膜処理を実施後、アセトンにてレジストを除去し、接触角を測定した。レジストカバーされた白金膜上の接触角は5°以下(完全濡れ)、他の部位のそれは92.0°となり、SAM膜のパターン化が適切になされたことを確認した。
もう1つの他方式として、シャドウマスクを用いた紫外線照射を行った。具体的には、エキシマランプによる波長176nmの真空紫外光を用いて10分間照射した。照射部の接触角は5°以下(完全濡れ)、未照射部のそれは92.2°でありSAM膜のパターン化が適切になされたことを確認した。
次に、電気機械変換膜としてPZT(53/47)を成膜した。前駆体塗布液の合成は、出発材料に酢酸鉛三水和物、イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムを用いた。酢酸鉛の結晶水はメトキシエタノールに溶解後、脱水した。化学両論組成に対し鉛量を10モル%過剰にしてある。これは熱処理中の所謂鉛抜けによる結晶性低下を防ぐためである。
イソプロポキシドチタン、イソプロポキシドジルコニウムをメトキシエタノールに溶解し、アルコール交換反応、エステル化反応を進め、先記の酢酸鉛を溶解したメトキシエタノール溶液と混合することでPZT前駆体溶液を合成した。このPZT濃度は0.1モル/lにした。
一度のゾルゲル成膜で得られる膜厚は100nmが好ましく、前駆体濃度は成膜面積と前駆体塗布量の関係から適正化される(従って0.1モル/lに限定されるものではない)。
この前駆体溶液を先のパターン化SAM膜上にインクジェット法で塗布した(図7(a)参照)。インクジェット法によりSAM膜上には液滴を吐出せず親水部のみ吐出することで接触角のコントラストにより親水部上にのみ塗膜ができた。
この塗膜に連続照射レーザ装置71にてレーザ光を照射して加熱し、溶媒を蒸発させ、熱分解された塗膜を得た(図7(b)参照)。続いて、パルス照射レーザ装置72にて、熱分解された塗膜のみにレーザ光を照射して加熱し、熱分解された塗膜結晶化した(図7(c)参照)。
この際、パターン化SAM膜上にインクジェット法で塗布した塗膜の膜厚は塗布量からわかるため、予め記録されている塗膜の膜厚に対応するレーザパワーのデータを読み出し、読み出したレーザパワーで連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72を動作させた(順次レーザ光を照射した)。
インクジェット法により同じ場所に液滴を吐出し、連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72によりレーザ光の照射を行う工程を15回繰り返して重ね塗りをし、500nmの電気機械変換膜を得た。このとき作製された電気機械変換膜にはクラック等の不良は生じなかった。
インクジェット法により同じ場所に液滴を吐出し、連続照射レーザ装置71及びパルス照射レーザ装置72によりレーザ光の照射を行う工程を更に15回繰り返したが(計30回)、電気機械変換膜にクラック等の不良は生じなかった。電気機械変換膜の膜厚は1000nmに達した。
このパターン化された電気機械変換膜に上部電極(白金)を成膜して電気機械変換素子を作製し、電気特性、電気−機械変換能(圧電定数)の評価を行った。図21は、実施例3で作製した電気機械変換素子のP−Eヒステリシス曲線を示すグラフである。電気機械変換膜の比誘電率は1220、誘電損失は0.02、残留分極は19.3uC/cm2、抗電界は36.5kV/cmであり、通常のセラミック焼結体と同等の特性を持つことがわかった。
電気機械変換素子の電気−機械変換能は、電界印加による変形量をレーザドップラー振動計で計測し、シミュレーションによる合わせ込みから算出した。その圧電定数d31は、−120pm/Vとなり、こちらもセラミック焼結体と同等の値であった。これは液滴吐出ヘッドとして十分設計できうる特性値である。
なお、白金やSrRuO3やLaNiO3な等の酸化物を溶媒に溶かし、インクジェット法で塗布、レーザ照射することで電気機械変換膜と同様に電極膜も形成することができる。
以上、好ましい実施の形態及び実施例について詳説したが、上述した実施の形態及び実施例に制限されることはなく、特許請求の範囲に記載された範囲を逸脱することなく、上述した実施の形態及び実施例に種々の変形及び置換を加えることができる。