JP2013227705A - 溶解パルプの製造方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】リグノセルロース物質から溶解パルプを製造する方法において、漂白工程後の最後に一段の処理で、所望のパルプ粘度および灰分含量に調整する。
【解決手段】
リグノセルロース物質を原料として、前加水分解-アルカリ蒸解法により製造される溶解パルプであって、該前加水分解-アルカリ蒸解後のパルプを漂白した後、酸性下で過酸化物を添加して処理され、好ましくは、85〜92%ISOまで漂白した後、酸性下で過酸化水素を添加して処理する溶解パルプの製造方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、リグノセルロース物質から溶解パルプを製造する方法に関する。さらに詳しく述べれば、幅広いパルプ粘度を有する多品種の溶解パルプを効率よく製造する方法に関する。
リグノセルロース物質から溶解パルプを製造するには、リグノセルロース物質中のヘミセルロースとリグニンを選択的に除去し、セルロース純度を高める必要がある。セルロース純度を表す指標としては、一般にα−セルロース含量が用いられ、値が大きいほど、高品質の溶解パルプであるとされている。溶解パルプの製造方法としては、古くから酸性サルファイト蒸解法および前加水分解−クラフト蒸解法の二法が知られており、酸性サルファイト蒸解法ではリグノセルロース物質中の多くのヘミセルロースとリグニンを蒸解工程で一度に除去するのに対し、前加水分解−クラフト蒸解法は前加水分解工程では大部分のヘミセルロースを酸加水分解して除去し、続くクラフト蒸解で少量のヘミセルロースと大部分のリグニンを除去する。前加水分解工程では、リグノセルロース物質に水を加えて加熱するだけで、ヘミセルロース中のアセチル基が脱離して酢酸を生成し、自動的に酸性状態となり、酸加水分解が進むため、一般には酸を外から添加することなく行なわれる。酸性サルファイト蒸解法と前加水分解−クラフト蒸解法を比較すると、溶解パルプを製造することだけに焦点をあてた場合、酸性サルファイト蒸解の方が一工程でヘミセルロースとリグニンを除去できるため効率的と言えるが、廃棄物のヘミセルロース、リグニンをそれぞれ分離して有効利用することにも焦点をあてた場合には、前加水分解−クラフト蒸解法の方が有利ということになる。近年、バイオマス原料であるリグノセルロース物質中のセルロース、ヘミセルロース、リグニンを分離して、それぞれから価値の高い物質を製造することはバイオリファイナリーと呼ばれ、注目度が高まってきており、前加水分解−クラフト蒸解法の重要性が再認識されてきている。
溶解パルプは、用途により要求されるパルプ粘度や灰分が異なる。これは、溶解パルプは通常、化学的に加工されて利用されるが、その加工条件および加工後の製品の要求品質が用途により異なるためである。これらの要求を満たすためには、比較的高めのパルプ粘度、灰分を有する溶解パルプを製造しておき、要求に応じてパルプ粘度を下げ、灰分を低下させるという二つの処理を行うのが合理的である。パルプ粘度を低下させる方法としては、パルプをアルカリ性下で次亜塩素酸塩処理する方法が良く用いられ、現在も主流となっている。しかしながら、アルカリ性下で次亜塩素酸塩処理を行うとクロロホルムが副生し、環境に悪影響を与えるという問題点がある。一方、溶解パルプ中の灰分を低下させる方法としては、硫酸、硝酸、塩酸などの無機酸で処理し、灰分を遊離させ、除去する方法が一般的である。このように、パルプ粘度を低下させる処理と、灰分を低下させる処理は、pHが大きく異なり、両者の処理を移行する間で無駄な中和反応を経る必要があり、効率的な処理であるとは言えなかった。
前記問題を解決するには、酸を用いて灰分を低下させながら、パルプ粘度を同時に低下させる方法が考えられる。酸を用いてパルプ粘度が低下する事例としては、製紙用のヘミセルロースを含有する未晒パルプを対象とし、ヘミセルロース主鎖あるいは側鎖を分解する目的で、無機酸を用いてpH1.0〜1.6、80℃以上で処理する際に粘度が低下する事例(特許文献1)や、無機、有機酸を用いてpH2〜5、85〜150℃で処理する際に粘度が低下する事例(特許文献2)、等が知られている。しかしながら、いずれも製紙用のヘミセルロースを含有する未晒パルプを対象とした処理であり、ヘミセルロース含有量の少ない、しかも漂白後のパルプに対しての効果については不明であった。
一方、酸性下で過酸化物を添加してパルプを処理する事例としては、製紙用のヘミセルロースを含有する未晒パルプを対象とし、ヘミセルロース中のヘキセンウロン酸を分解する方法(特許文献3)や漂白パルプを対象とし、ヘミセルロース中のヘキセンウロン酸を分解する方法(特許文献4)等が知られている。しかしながら、いずれも製紙用のヘミセルロースを含有するパルプを対象とした処理であり、ヘミセルロース含有量の少ない溶解パルプに対して、しかもパルプ粘度に対する影響については不明であった。
特表平6−280177号公報 特表平10−508346号公報 特開2003−105684号公報 特開2007−169831号公報
リグノセルロース物質から溶解パルプを製造する方法において、パルプを蒸解、漂白後に、最後の一段の処理で、所望のパルプ粘度および灰分含量に調整することができる溶解パルプの製造方法である。
本発明者らは、リグノセルロース物質を原料として、前加水分解−アルカリ蒸解法により、幅広い品質の溶解パルプを効率よく製造する方法について種々検討を重ねた結果、前加水分解では所望のセルロース純度に制御するために条件に強弱をつける一方で、その後のアルカリ条件、漂白条件はできるだけ一定に保つようにして溶解パルプを製造し、最後に酸性条件下で過酸化物を添加処理すれば、パルプのセルロース純度、パルプ粘度、灰分を所望の値に制御できることを見出し、本発明に至った。さらに、詳しく説明すると、たとえば広葉樹材を原料とした場合、前加水分解はPファクターとして200〜1000で行ない、次いでアルカリ蒸解は蒸解後のカッパー価が6〜13になるように行えば、セルロース純度が高く、かつパルプ粘度の高い溶解パルプが得られ、さらに、該溶解パルプを85〜92%ISOまで漂白した後、酸性下で過酸化水素処理すれば、灰分含有量を低減しつつ、所望のパルプ粘度まで下げられることを見出し、本発明に至った。
本願発明は以下の発明を包含する。
(1)リグノセルロース物質を原料として、前加水分解−アルカリ蒸解法により溶解パルプを製造する方法であって、該前加水分解−アルカリ蒸解後のパルプを漂白した後、酸性下で過酸化物を添加して処理する溶解パルプの製造方法。
(2)前記前加水分解−アルカリ蒸解後のパルプを85〜92%ISOまで漂白した後、酸性下で過酸化物を添加して処理する(1)記載の溶解パルプの製造方法。
(3)前記過酸化物が、過酸化水素である(1)又は(2)記載の溶解パルプの製造方法。
(4)前記アルカリ蒸解法がクラフト蒸解法である(1)〜(3)のいずれか1項記載の溶解パルプの製造方法。
(5)前記リグノセルロース物質が広葉樹材であり、前加水分解時のPファクターが200〜1000であり、さらにアルカリ蒸解後のパルプのカッパー価が6〜13である(1)〜(4)のいずれか1項記載の溶解パルプの製造方法。
本発明者によれば、リグノセルロース物質を原料として、前加水分解−アルカリ蒸解法により、溶解パルプを製造する方法において、予めパルプの白色度を85〜92%ISOまで漂白しておき、最後に酸性下で過酸化物を添加して処理することにより、多品種の溶解パルプを製造することが可能となった。
本発明で使用できるリグノセルロース物質は、木材、非木材のいずれでもよいが、生産効率を考慮すると、容積重が高い木材が好適に用いられる。木材の中では、一般に針葉樹よりも広葉樹材の方が容積重が高く、好適であり、さらに広葉樹の中でも容積重が高い一部のユーカリやアカシアが好適に用いられる。該当する広葉樹としては、ユーカリ・グロブラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ユーログランディス、ユーカリ・ペリータ、ユーカリ・ブラシアーナ、アカシア・メランシ等を挙げることができ、特に容積重の高いユーカリ・ペリータがよいが、特に限定されるものではない。容積重の値で表現すると、450〜700kg/mのものがよく、さらに好ましくは500〜650kg/mのものである。容積重が450kg/mよりも低い材は、前記のようにパルプの生産効率の面からは不利である。一方、容積重が700kg/mよりも高い材は、前加水分解やアルカリ蒸解時の薬液浸透が不十分と成りやすく、結果としてパルプ品質が低下する可能性があるため、不利である。言うまでもなく、広葉樹、針葉樹、非木材をそれぞれ単独で使用することもできるし、組み合わせて使用することもできるし、その組み合わせは限定されるものではない。
本発明では、まずリグノセルロース物質を水の存在下で、加温して前加水分解処理を行う。ここで、リグノセルロース物質に対する水の量(液比)は、1.0〜10、好ましくは1.5〜5.0である。液比が1.0より少ない場合には、水が不足して加水分解が十分に進まない上に反応が不均一となるので適さない。10より高い場合には、所望の温度まで加熱するのに要する熱量が多くなり、経済的ではないので適さない。水の添加方法としては、特に限定されるものではなく、外部から水を添加しても良いし、リグノセルロース物質に元々含まれる水を利用しても良いし、加熱時に蒸気を使用する場合には蒸気に含まれる水を利用しても良い。また、水と共にアルカリ、酸、キレート剤等、多糖の加水分解を直接的、間接的に補助する薬品を添加することもできる。本発明の前加水分解の強度はPファクターとして200〜1000であり、温度は140〜200℃、好ましくは160〜170℃で、処理時間は処理温度に対応して決定される。なお、Pファクターは前加水分解時の温度と時間の積であり、化学式1として表される。
Figure 2013227705
T:絶対温度(℃+273.5)
KH(T)/K100℃:グリコシド結合の酸加水分解の相対速度
Pファクターが200より低い場合には、ヘミセルロースの酸加水分解が十分でなく、その後のアルカリ蒸解を行っても、パルプのセルロース純度を十分に高められないので適さない。Pファクターが1000より高い場合には、セルロースの酸加水分解が進んでしまい、パルプのセルロース純度を十分に高められない上に、パルプ粘度が低くなり、さらにはパルプ収率も低くなるので適さない。前加水分解温度が140℃よりも低い場合には反応時間を10時間以上にする必要があり、巨大な反応容器を準備する必要があることから経済的ではないので適さない。逆に200℃よりも高くすると、場合によっては反応時間を0.1時間以下にする必要があり、反応の制御が困難となる上にそのような熱条件に耐え得る装置の材質は高価になるため、経済的にも適さない。
前加水分解工程で用いる装置は、リグノセルロース物質を含水状態の加圧状態にて所望の時間の間、保持できるものであればよく、特に限定されるものではないが、好適には汎用の連続蒸解釜、バッチ釜、等が用いられる。本発明の前加水分解工程では、反応終了後、脱水あるいは希釈洗浄、脱水して、次のアルカリ蒸解工程に送られる。なお、前加水分解後の排水は、フラッシュタンクに送り、ガス層と液層に分け、ガス層に多く含まれるフルルラール類を抽出して利用し、液層に多く含まれるヘミセルロースの分解物を抽出して利用することが可能である。
本発明のアルカリ蒸解に用いられる装置は、特に限定されるものではないが、好適には汎用の連続蒸解釜、バッチ釜、等が用いられる。アルカリ蒸解法としては、クラフト蒸解、ポリサルファイド蒸解、ソーダ蒸解、アルカリサルファイト蒸解等の公知の蒸解法を用いることができるが、パルプ品質、エネルギー効率等を考慮すると、クラフト蒸解法が好適に用いられる。例えば、木材をクラフト蒸解する場合、クラフト蒸解液の硫化度は5〜75%、好ましくは20〜35%、有効アルカリ添加率は絶乾木材質量当たり5〜30質量%、好ましくは10〜25質量%、蒸解温度は140〜170℃で、蒸解白液を分割で添加する蒸解法でもよく、その方式は特に問わない。
蒸解に際して、使用する蒸解液に蒸解助剤として、公知の環状ケト化合物、例えばベンゾキノン、ナフトキノン、アントラキノン、アントロン、フェナントロキノンおよび前記キノン系化合物のアルキル、アミノ等の核置換体、或いは前記キノン系化合物の還元型であるアントラヒドロキノンのようなヒドロキノン系化合物、さらにはディールスアルダー法によるアントラキノン合成法の中間体として得られる安定な化合物である9,10−ジケトヒドロアントラセン化合物等から選ばれた1種或いは2種以上が添加されてもよく、その添加率は木材チップの絶乾質量当たり0.001〜1.0質量%である。
蒸解後のカッパー価は特に限定されるものではないが、パルプ品質やその後の漂白性等を考慮すると、例えば広葉樹を原料とした場合にはカッパー価は6〜13が好ましく、針葉樹を原料とした場合にはカッパー価は20〜35が好ましい。
本発明では、公知のアルカリ蒸解法により得られた未漂パルプは洗浄、粗選および精選工程を経て、公知の漂白法で漂白処理される。好適には、まず酸素脱リグニン法により脱リグニンされる。本発明に使用される酸素脱リグニン法は、中濃度法あるいは高濃度法がそのまま適用できるが、パルプ濃度が8〜15%で行われる中濃度法が特殊な脱水装置を必要とせず、操業性がよいため好ましい。酸素脱リグニン法に用いるアルカリとしては苛性ソーダあるいは酸化されたクラフト白液を使用することができ、酸素ガスとしては、深冷分離法からの酸素、PSA(Pressure Swing Adsorption)からの酸素、VSA(Vacuum Swing Adsorption)からの酸素等が使用できる。前記酸素ガスとアルカリは中濃度ミキサーにおいて中濃度のパルプスラリーに添加され混合が十分に行われた後、加圧下でパルプ、酸素およびアルカリの混合物を一定時間保持できる反応塔へ送られ、脱リグニンされる。酸素ガスの添加率は、絶乾パルプ質量当たり0.5〜3質量%、アルカリ添加率は0.5〜4質量%、反応温度は80〜120℃、反応時間は15〜100分、パルプ濃度は8〜15質量%であり、この他の条件は公知のものが適用できる。本発明では、酸素脱リグニン工程において、上記酸素脱リグニンを連続して複数回行い、できる限り脱リグニンを進めるのが好ましい実施形態である。酸素脱リグニンを施されたパルプは洗浄段へ送られる。
本発明では、酸素脱リグニン後の洗浄段に限らず、漂白段毎に洗浄段を設けるのが好ましく、洗浄段で使用される洗浄機としては、プレッシャーディフューザー、ディフュージョンウオッシャー、加圧型ドラムウオッシャー、水平長網型ウオッシャー、プレス洗浄機等を挙げることができ、特に限定されるものではない。各洗浄段では、一機の洗浄機でまかなうこともできるし、複数の洗浄機を使用することもできる。本発明においては、各洗浄段の洗浄水にアルカリ、酸、キレート剤、界面活性剤等の洗浄助剤を添加することもできる。また、洗浄排水を前段の洗浄段の洗浄水として再利用する向流洗浄を行なうこともできる。
本発明では、未晒パルプは、好ましくは酸素脱リグニン工程を経て、多段漂白工程へ送られる。本発明の多段漂白工程では、二酸化塩素(D)、アルカリ(E)、酸素(O)、過酸化水素(P)、オゾン(Z)といった公知のECF漂白段を組合せて使用でき、各漂白段後には前述の洗浄段を設けることができる。また、多段漂白工程中に、高温酸処理段(A)や酸洗浄段、高温二酸化塩素漂白段、エチレンジアミンテトラ酢酸(EDTA)やジエチレントリアミンペンタ酢酸(DTPA)等によるキレート剤処理段等を導入することもできる。本発明の多段漂白工程では、パルプの白色度が85〜92%ISOになるように、漂白されるのが好ましい。白色度が85%ISO未満の場合には、その後の酸性下での過酸化物添加処理を行っても白色度が90%ISOより低くなる。白色度が92%ISOよりも高い場合には、多段漂白工程で使用する漂白薬品量が多くなりすぎて経済的ではない上に、場合によっては溶解パルプに余計な官能基が導入され、溶解パルプの品質が低下するので適さない。
本発明では、必ず多段漂白工程後、酸性下での過酸化物添加処理が行われる。本発明の酸性下での過酸化物添加処理は、パルプ濃度は1〜40重量%、好ましくは8〜15重量%の範囲で、pHは1〜5、好ましくは2〜4、温度は30〜95℃、好ましくは50〜90℃で行われる。パルプ濃度が1重量%未満の場合には、pH調整用に添加する酸が多くなりすぎて経済的ではないため適さず、40重量%より高い場合には、パルプと薬品の混合が不十分となり、反応が不均一になるので適さない。pHは、1より低い場合には反応容器が腐食しやすくなり、5より高い場合には灰分除去効果が不十分になるため適さない。反応温度は、30℃より低い場合にはパルプの粘度の低下効果が不十分となり、95℃より高い場合には昇温に多大なエネルギーが必要となり、経済的ではないので適さない。
本発明の、酸性下での過酸化物添加処理では、酸性状態にするために酸を添加することができる。酸としては、蟻酸、蓚酸、酢酸等の有機酸、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸のいずれでもよく、特に限定されるものではないが、好適には比較的安価な硫酸、塩酸等が使用される。本発明の酸性下での過酸化物添加処理で使用される過酸化物としては、有機過酸、無機過酸のいずれでもよく、特に限定されるものではないが、好適には比較的安価で、分解後も環境負荷のない過酸化水素が使用される。例えば、過酸化水素の場合、添加率は対パルプ絶乾重量あたり0.01〜2%、好ましくは0.1〜1.0%である。添加率が0.01%未満の場合には添加効果がほとんど見られず、2%以上になると反応しきらなくなるので適さない。処理時間は、10分以上、好ましくは30分〜180分であるが、時間については特に限定されない。なお、過酸化物添加によるパルプ粘度の低減効果は、処理対象のセルロース純度が高いために過酸化物とセルロースの反応頻度が高くなり、解重合され易いためであり、灰分低減効果は、例えば鉄のような元素が酸化され、水に溶解し、除去され易くなるためであると考えられる。
以下に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、もちろん本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。特に示さない限り、チップの容積重、パルプのカッパー価、白色度、粘度、α−セルロースの測定は以下の方法で行なった。また、前加水分解後のろ液中のピッチ数は目視で評価した。なお、実施例及び比較例における薬品の添加率は絶乾パルプ質量当たりの質量%示す。
1.パルプのカッパー価測定
JIS P 8211に準じて測定した。
2.パルプの白色度測定
漂白パルプを離解後、パルプスラリーに硫酸バンドを対パルプ3.0%加え、Tappi試験法T205os−71(JIS P 8209)に従って作成した坪量60g/mのシートを用い、JIS P 8123に従ってパルプの白色度を測定した。
3.パルプの粘度測定
J TAPPI No.44に準じて測定した。
4.パルプのα−セルロース含量測定
JIS P 8101に準じて測定した。
5.パルプの灰分測定
JIS P 8251に準じて測定した。
実施例1
ユーカリ・ペリータ材チップを絶乾質量で300g採取し、水道水10リットルに一晩浸漬した。その後、チップを取り出して400メッシュの篩に空け、濾別した後、この脱水後のチップを2.5リットル容量のオートクレーブに入れ、液比が3になるように水道水を加えた後、170℃で60分間、前加水分解処理した。この時のPファクターは597であった。前加水分解後、オートクレーブの脱気コックから廃ガスを抜き出し、オートクレーブ内の圧力が0になったことを確認した後、処理後のチップを400メッシュの篩に空け、濾別した。濾別後のチップを絶乾質量で200g採取し、再度2.5リットル容量のオートクレーブに入れ、液比5、絶乾チップ質量当たり活性アルカリ20%、蒸解液の硫化度28%、蒸解温度165℃、蒸解時間50分の条件下でクラフト蒸解を行なった。蒸解後、黒液とパルプを分離し、パルプを8カットのスクリーンプレートを備えたフラットスクリーンで精選して、カッパー価10.8の未晒パルプを絶乾84.0gを得た。
前記未漂白クラフトパルプの絶乾質量で70.0gを採取し、絶乾パルプ質量当たり苛性ソーダを2.0%添加し、次いでイオン交換水で希釈してパルプ濃度を10%に調整し、間接加熱式オートクレーブに入れ、99.9%の市販の圧縮酸素ガスを注入してゲージ圧力を0.5MPaとし、100℃で60分間、酸素脱リグニンを行った。酸素漂白終了後、ゲージ圧力が0.05MPa以下になるまで減圧し、パルプをオートクレーブから取り出し、イオン交換水7リットルを用いて洗浄、脱水した。
前記アルカリ酸素脱リグニン後のクラフトパルプを絶乾質量で60g採取し、プラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度を10%に調整した後、絶乾パルプ質量当たり1.0%の二酸化塩素を添加し、温度が70℃の恒温水槽に60分間浸漬してD0段処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で3%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄した。前記D0段後のパルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を加えてパルプ濃度を10%に調整した後、絶乾パルプ質量当たり苛性ソーダを1.0%、過酸化水素0.2%を添加してよく混合した後、温度が70℃の恒温水槽に90分間浸漬してE/P段処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で3%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄した。
前記E/P段後のパルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度10%に調整した後、絶乾パルプ質量当たり二酸化塩素を0.3%添加し、温度が70℃の恒温水槽に60分間浸漬し、D1段の漂白を行った。得られたパルプをイオン交換水で3%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄した。白色度90.5%、粘度14.4cP、α−セルロース97.6%、灰分0.22%のパルプを得た。
前記D1段後のパルプをプラスチック袋に入れ、イオン交換水を用いてパルプ濃度10%に調整した後、絶乾パルプ質量当たり硫酸を0.5%、過酸化水素を0.3%添加し、温度が90℃の恒温水槽に60分間浸漬し、処理pHを2.5で酸性過酸化物処理を行った。得られたパルプをイオン交換水で3%に希釈した後、ブフナーロートで脱水、洗浄した。白色度91.5%ISO、粘度8.0cP、α−セルロース97.7%、灰分0.08%の完成パルプを得た。以上の結果を表1、2に示す。
実施例2
実施例1において、前加水分解時の温度を157℃、60分(Pファクターは214)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。酸性過酸化物処理pHは2.5で行った。
実施例3
実施例1において、前加水分解時の温度を165℃、60分(Pファクターは406)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処はpH2.5で行った。
実施例4
実施例1において、前加水分解時の温度を170℃、100分(Pファクターは995)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理はpH2.5で行った。
実施例5
実施例1において、前加水分解時の温度を170℃、40分(Pファクターは398)に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理はpH2.5で行った。
実施例6
実施例1において、酸性過酸化物処理時の過酸化水素添加率を0.1%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理はpH2.7で行なった。
実施例7
実施例1において、酸性過酸化物処理時の過酸化水素添加率を1.0%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理はpH2.2で行なった。
実施例8
実施例1において、酸性過酸化物処理時の硫酸添加率を0.2%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理はpH3.9で行なった。
実施例9
実施例1において、酸性過酸化物処理時の硫酸添加率を0.8%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理pHは1.9で行なった。
実施例10
実施例1において、クラフト蒸解時の活性アルカリ添加率を18%に変更し、酸性過酸化物処理時の過酸化水素添加率を1.0%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、クラフト蒸解後のカッパー価は、12.8、酸性過酸化物処理はpH2.2で行なった。
実施例11
実施例1において、D0段での二酸化塩素添加率を0.6%に変更し、酸性過酸化物処理時の過酸化水素添加率を1.0%に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理pHは2.2で行なった。
実施例12
実施例1において、酸性過酸化物処理時の過酸化水素を過酢酸に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理pHは2.4で行なった。
実施例13
実施例1において、酸性過酸化物処理時の過酸化水素を過硫酸に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理pHは2.2で行なった。
実施例14
実施例1において、ユーカリ・ペリータ材チップをユーカリ・グロブラス材チップに変えた以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、未晒パルプのカッパー価は6.1、酸性過酸化物処理pHは2.5で行なった。
比較例1
実施例9において、酸性過酸化物処理を行わなかった以外は、実施例9と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。
比較例2
実施例9において、酸性過酸化物処理時に過酸化水素を添加しなかった以外は、実施例9と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理pHは3.0で行なった。
比較例3
実施例1において、酸性過酸化物処理を酸素脱リグニン直後に変更した以外は、実施例1と同様の操作を行なった。表1、2に結果を示す。なお、酸性過酸化物処理pHは4.1で行なった。
Figure 2013227705
Figure 2013227705
表1、2の実施例1〜14と比較例1〜3を比較すると明らかなように、リグノセルロース物質を原料として前加水分解−アルカリ蒸解を行なって未晒パルプを調製した後、漂白し、さらに酸性下で過酸化物を添加して処理することにより、高α−セルロース含量、高白色度、低灰分でかつ所望のパルプ粘度を有する溶解パルプを製造できることがわかる。

Claims (5)

  1. リグノセルロース物質を原料として、前加水分解-アルカリ蒸解法により溶解パルプを製造する方法であって、該前加水分解-アルカリ蒸解後のパルプを漂白した後、酸性下で過酸化物を添加して処理することを特徴とする溶解パルプの製造方法。
  2. 前記前加水分解-アルカリ蒸解後のパルプを85〜92%ISOまで漂白した後、酸性下で過酸化物を添加して処理することを特徴とする請求項1記載の溶解パルプの製造方法。
  3. 前記過酸化物が、過酸化水素であることを特徴とする請求項1又は2に記載の溶解パルプの製造方法。
  4. 前記アルカリ蒸解法がクラフト蒸解法であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項記載の溶解パルプの製造方法。
  5. 前記リグノセルロース物質が広葉樹材であり、前加水分解時のPファクターが200〜1000であり、さらにアルカリ蒸解後のパルプのカッパー価が6〜13であることを特徴とする、請求項1〜4記載の溶解パルプの製造方法。
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