本発明は、歩数を計測する歩数計であって、歩行速度、歩行距離、消費カロリー、脂肪燃焼量などの歩行関連情報を提供することのできる歩数計に関するものである。
振り子式のもの、加速度センサ式のも、基本の歩数計測のみ、或いは歩数と併せて歩行関連情報も提供する、さまざまな種類の歩数計が市販されている。
歩数計の計測歩数に関しては、JIS(日本工業規格JIS S 7200)で誤差が規定(±3%)されていることから、精度のよい歩数値を得ることが出来る。
歩数計の提供する歩行関連情報、なかでも、消費カロリーや脂肪燃焼量は、歩数計を健康管理に活用している利用者には有益な情報である。しかし、この歩行関連情報に関しては、歩数のように規格が定められているわけではなく、歩数計製造者の独自の演算方式が採用され、製造者の独自の基準で評価が行われているのが現状である。
筆者にあっては運動不足の影響か、体重がBMI(ボディ・マス・インデックス)基準値22を、腹囲がメタボリックシンドローム(内蔵脂肪症候群)の男性基準値85cmを上回ることがあり、市が開催した健康づくり説明会に参加し、保健師の指導のもとに立案した、健全値に戻すための改善計画を実施することにした。
この改善計画には食事計画もあるが、運動計画が中心であり、これは容易に行え、かつ、効果の高いウォーキング(以下では歩行を同意語として使う)を日課とするものである。上記説明会では、どのような速度の歩行をどれくらいの時間行えば、どれくらいのカロリーが消費され、どれくらいの脂肪が燃焼されるかなどの、指針や計算式が説明された。この計算式により数値目標が設定出来るため、より具体性・実効性のある改善計画の立案が可能となった。
上記説明会で目標設定のために説明のあった、運動強度(メッツ)、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量の諸量間の関係、そして、歩行速度と運動強度の関係は、今回の発明に深く関わるものであるため、ここで詳述しておく。
厚生労働省の運動施策の一環として報告された「健康づくりのための運動指針2006<エクササイズガイド2006>」では、体力の維持・向上を目的として行われる「運動」以外に、日常生活で行われる「生活活動」も身体活動とされ、身体活動の強さ、即ち運動強度を、安静時の何倍に相当するかで表す単位がメッツである。安静時が1メッツで、例えば、普通歩行は3メッツとされる。
エクササイズ(Ex)は身体活動の量を表す単位であり、その身体活動の運動強度(メッツ)に身体活動の実施時間(時)を乗じたものである。3メッツの身体活動を30分実施すれば、1.5Exである。
消費カロリー計算についてであるが、その身体活動量に相当するエネルギー消費量は、上記厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」に記載されており、身体活動を行っている者の体重によって異なり、安静時の分を含めて(1)式で計算される。
エネルギー消費量の単位がkcalであり、以降は、消費カロリーと表現する。
脂肪燃焼量であるが、脂肪1gの燃焼に必要な消費カロリーは7.2kcalであり(概略7kcalとされることもある)、消費カロリーから脂肪燃焼量を計算出来る。
次に、歩行速度と運動強度の関係について説明する。歩行速度と運動強度の関係は、今回の発明の重要な要素の一つである。
一般に、人の歩く速さは4km/時程度と言われているが、運動としての歩行の速度と運動強度に関して、厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」(以下では、「厚労省運動指針2006」と省略する)には、その歩行速度と運動強度が段階にわけて示されており、例えば、次のような関係となる。
普通歩行 :67m/分(4.0km/時) 3メッツ
速歩 :95〜100m/分(6km/時程度) 4メッツ
かなり速歩:107m/分(6.4km/時) 5メッツ
改善計画に戻るが、歩行運動を日課とする運動計画の数値目標をどのようにして設定したかを説明する。「厚労省運動指針2006」に記載の運動強度4メッツ相当の速歩(95〜100m/分、時速6km程度)を1時間程度実施することを目標とし、消費カロリー計算をすると、当時の体重は約70kgであり、(1)式を適用して次の値となる。尚、身体活動による消費カロリー計算は、安静時の1メッツ相当分は差し引いて、身体活動による分だけを計算することに注意を払う必要がある。
消費カロリー(kcal)
=3(メッツ)×1(時間)×70(kg)×1.05≒220
食事計画と併せて1日に300kcalとすると、1ヶ月に9000kcal、上述の脂肪燃焼量との関係から、7.2kcalで除して脂肪燃焼量は1250g、日課の歩行が天候や体調で実施出来ないことを勘案すると、1ヶ月に1000g程度の脂肪が燃焼、つまり体重が減少、それに応じて腹囲も減少、何ヶ月か後には目標達成できるというステップで計画を立案するのである。
筆者は、計画の実施に当って、予め歩行コースを何通りか定めて距離を割り出しておき、歩行を実施すれば、コース距離と歩行時間を記録することにした。平坦な舗装道をほぼ一定ペースで歩行し、歩行記録データから計算される歩行速度(平均速度)と歩行時間から(1)式による消費カロリー計算も試みた。「厚労省運動指針2006」には、数段階の歩行速度に対する運動強度しか示されていないが、その間の歩行速度に対しては線形補間することで試算した。
歩行記録をより充実するために歩数計を携帯することにし、歩数以外に歩行距離、消費カロリー、脂肪燃焼量といった歩行関連情報が提供(表示)される歩数計を選択した。そして、歩行実施時には、従前のコース距離、歩行時間(この2量を以下では原始データと呼ぶ)とともに、歩数計の表示データを併せて記録することとした。
蓄積された歩行記録データをパソコンで分析することは、便利なソフトウェアツールが提供されているため、比較的容易なことである。筆者もこれを活用して、原始データに基づき(1)式で計算される消費カロリー(これを以下では想定値と呼ぶ)と、歩数計の消費カロリー表示値とを比較する、グラフ化するなどの分析を行った。分析の結果、想定値と歩数計表示値の間に大きな差があること(1.5倍程度、またはそれ以上)に気付き、何故なのかと疑問を持つに至った。
上記消費カロリーに関する疑問点について製造者に問合せてみたが、歩数計内部の独自演算方式に関することにつき開示は出来ないとの回答であった。このため、筆者は、関連情報などの調査を鋭意行った。
調査を進める中で、消費カロリーなどの計算の基礎となる歩行速度をいかに求めるかが重要な技術であることが分かった。歩数計は歩数を精度よく計測することが主機能であり、直接に歩行速度を検出しているわけではない。単位時間での歩数計測値が多くなれば歩行速度が速い、少なくなれば遅いことになるが、歩数計測値から歩行速度がいくらかを精度よく求めることは、容易な技術ではないことも分かった。
上記の観点にも注意を払い、特許文献調査を実施した。以下に示す特許文献1〜特許文献3に開示された技術では、いくつかの問題があることが分かった。
尚、本発明は、歩数計の歩数計測値と、歩数計に設定されている利用者の身体データである身長及び体重により、消費カロリーなどの歩行関連情報を算出し歩数と併せて提供する歩数計に係わるものであるため、生体インピーダンスや脈拍数を利用するものの調査は、消費カロリーなどの演算方式の調査のみに留めた。
特許文献1には、歩行中の歩幅を、設定された身長と歩行ピッチ(単位時間の歩数計測値)で計算し、歩幅の変化にも応じた歩行速度演算を行う技術が開示されている。
また、消費カロリー演算は物理学で公知の運動エネルギー式に基づくもので、速度の項に歩幅×歩行ピッチを適用する技術が開示されている。
しかし、歩幅計算は、研究により見出されたとされる回帰分析に基づく回帰式(直線)、を使うもので、後述する歩行ピッチ変化に対して歩幅変化が少なくなるピッチ範囲のことが全く考慮されておらず、歩行ピッチが上がれば上がるだけ歩幅が広く、下れば下るだけ歩幅が狭く計算され、歩行関連情報の誤差が拡大するといった問題がある。
また、消費カロリー計算に関しても、「厚労省運動指針2006」に記載の計算式の値とは大きな差があるといった問題がある。このことを示す数値計算例を以下に示す。
歩幅:0.8m、歩行ピッチ:125歩/分、体重:65kg、歩行時間:1時間として、1時間の消費カロリーを計算してみる。歩行速度=0.8×125×60=6km/時、100m/分、1.67m/秒 である。尚、歩行速度6km/時の運動強度は4メッツであり、安静時の1メッツ分は差し引いて計算する。
特許文献1での計算結果
消費カロリー(kcal)
=1/2×65×1.67×1.67×3600/4.2/1000
=77.7
「厚労省運動指針2006」に記載の計算式での計算結果
消費カロリー(kcal)
=(4−1)×1×65×1.05
=205
特許文献2は、歩行ピッチと身長から歩行スピードを演算する方法(同文献の(3)式)、この歩行スピードと体重から運動負荷量を演算する方法(同文献の(4)式)が開示されている。
しかし、前者の歩行スピード演算方法は、特許文献1に関しても述べたが、後述する歩行ピッチ変化に対して歩幅変化が少なくなるピッチ範囲のことが全く考慮されておらず、従って、正確な歩行スピードが求められないといった問題がある。
また、後者の、運動エネルギーに基づくとされる運動負荷量は、内容から、消費カロリーに相当する量と考えられるが、上記の正確さを欠く歩行スピードから演算される量であるため、運動負荷量もやはり、正確さを欠くといった問題がある。
特許文献3には、既存の技術とされる運動強度を求める二例の手法が記載されている。
歩行について当該二例の技術を検証してみる。歩幅:85cm、歩行ピッチ:125歩/分とすると、歩行速度は6.4km/時であり、「厚労省運動指針2006」に記載の運動強度は5メッツ、安静時の1メッツを差し引いて4メッツである。
一例目での計算結果:−7.065+0.105×125=6.06
二例目での計算結果:0.015×125×0.85+1.599=3.19
計算手法により計算結果のメッツ値が異なり、かつ、「厚労省運動指針2006」の内容と合わないといった既存の技術にも問題がある。
特許第3734429号公報(請求項1、請求項2)
特開2004−89317号公報((3)式、(4)式)
特開2009−279239号公報(段落0023、0024)
「新しい運動基準・運動指針「身体活動のメッツ(METs)表」 (独・国立健康・栄養研究所 健康増進プログラム エネルギー代謝プロジェクト)
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、振り子式や加速度センサ式などの歩数計測手段にかかわらず、計測された歩数と、設定されている利用者の身体データである身長及び体重によって、歩数以外の歩行距離、歩行速度、運動強度、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量の歩行関連情報を算出し歩数と併せて提供する、構造が単純で、従って安価な、かつ、歩数と併せて提供される歩行関連情報が正確さをもった、歩数計に関する技術を提供することにある。
計測される歩数から歩行速度をいかに正確に求めるか、求められた歩行速度からいかにして「厚労省運動指針2006」他で示される公知の数値内容に合った運動強度を求めるか、これらが本発明の重要な要素となる。まず、後者から詳述する。
「厚労省運動指針2006」には、107m/分のかなり速歩以上の歩行に関しては示されていないが、非特許文献1には、さまざまな身体活動に対する運動強度が示されており、歩行運動に関しても、次のデータが示されている(安静時の1メッツ分含む)。
67m/分(4.0km/時)硬く安定した平地 3.0メッツ
80m/分(4.8km/時)平地 適度な速度 3.3メッツ
93m/分(5.6km/時)平地 運動として子気味よい速度 3.8メッツ
107m/分(6.4km/時)平地 子気味よい速度 5.0メッツ
120m/分(7.2km/時)平地 とてもきびきびした速度 6.3メッツ
133m/分(8.0km/時) 8.0メッツ
このデータは、「厚労省運動指針2006」の記載内容とも、またインターネット上の多くの関連情報の内容ともよく合うもので、このデータを今回の発明の根拠とする。
図2は、上記データを、横軸:歩行速度(km/時)、縦軸:運動強度(メッツ)としてグラフ化したものである。運動強度と歩行速度の関係は、一次ではなく二次の関係のようではあるが、この凹特性曲線の関数を決定し、この関数から運動強度を求めることは複雑となる。そこで、凹特性を利用して、グラフ上の隣接点で決定される5つの一次関数に、求められた歩行速度V(km/時)を代入して計算される値の最大値を選べば、精度よく運動強度M(メッツ)を求めることができる。この方式では、歩行速度がいずれの速度区間にあるかの判定が不要であるという利点がある。(2)式が計算式である。尚、身体活動分を対象とする時は、安静時の1メッツ分を差し引く。
上記(2)式の、Ai、Biの一例を示す。i=1に対しては、(時速,メッツ)の組として、(4.0,3.0)と(4.8,3.3)の2点から決定される一次関数であり、A1=3/8、B1=3/2である。
歩行速度を求めることが出来れば、上記(2)式から運動強度が計算出来る。さらに、これに計測された歩行時間を乗じてエクササイズが、これに1.05×体重を乗じて消費カロリーが、これを7.2で除して脂肪燃焼量が、と連なるように歩行関連情報が計算できる。従って、歩行速度が全ての歩行関連情報の基礎となるため、歩行速度をいかに精度よく求めるかが鍵となることが理解されよう。以下に歩行速度を求める方法を詳述する。
先に結論を示すと、(3)式が歩行速度の計算式となる。Nが単位時間(例えば1分)に計測される歩数、ピッチと呼ばれるものである。Lが身長設定値であり、ウォーキング歩幅として周知の身長の0.45倍を用いる。0.45L×Nは、単位時間の歩行距離、即ち歩行速度である。しかし、歩幅0.45Lは常に一定であるわけではなく、ピッチが上がると広くもなり、下ると狭くもなる。これを何らかの方法で補正しなければ、正確に歩行速度を計算出来ず、結果、歩行関連情報も正確さを欠く。そこで、ピッチNに基づく歩幅の補正を、補正関数f(N)を乗ずることにより行う。
尚、上記(3)式は、単位を揃えず、歩行速度計算式の形についてのみ示したもので、後述の実際の計算式とは、係数の有無などに違いがあることを付け加えておく。
上記(3)式の歩行速度計算式の形自体は単純なものであるが、補正関数f(N)の導出は、それほど簡単ではなく、筆者が特許文献を含め関連情報の調査や、繰り返し行った歩行実験結果から導き出したものである。
健康増進・改善のために意識的に速度を上げて行う運動としての歩行、買い物や散歩に出かけるといった生活活動の一環としての歩行もある。両者のピッチと歩幅は、当然異なるものであり、前者は後者に比べ、いずれも大きくなることは容易に分かる。
そこで、ピッチと歩幅の関係がどのように捉えられるかについて、まず説明する。
時速6km前後である速歩に関しては、ピッチは120〜130歩/分、歩幅は公知のウォーキング歩幅0.45L(Lは身長)に相当する。一方、上記に例示した生活活動の中での歩行も含めた、時速4km前後の普通歩行に関しては、ピッチは90〜100歩/分、歩幅は0.40L程度とされる。
次に、ピッチに対する歩幅の変化がどのようになるのかについて説明する。ピッチが90〜130歩/分の範囲にあっては、ピッチと歩幅の変化は直線的であると考えられる。この点で特許文献1での回帰直線を用いる方法は妥当であり、筆者の行った歩行実験からもほぼ直線的変化が確認された。尚、この歩行実験に関しては後述する。
しかし、問題はピッチが90歩/分以下の、130歩/分以上の範囲での歩幅変化である。この範囲にまで当該直線を延長して考えればよいわけではない。延長すれば、次の点から、歩幅計算に大きな誤差が生じ、結果、正確な速度計算が出来なくなる。
90〜130歩/分の範囲では、ピッチを上げると同時に歩幅も広くなり、歩行速度はピッチにも歩幅にも比例して増加することになる。130歩/分以上の範囲ではピッチを上げても、歩幅変化は少なく増加はわずかと考えられ、歩行速度はピッチに比例した増加に留まる。歩幅をより広げた一歩行の所要時間と、速いピッチとのバランスを維持して歩行を継続することは容易ではないためである。身長の50%歩幅で歩く人がいないとは言えないが、それはむしろ不自然な歩き方か、それとも余程下半身の筋群のトレーニングを積んだ例外的な人ではとの専門家の意見もある(http://ww2.wainet.ne.jp/〜tukasa/U_6.html)。
さらにピッチを上げると歩幅は逆に狭くなり、歩行としては不自然な、いわゆる小走りに転じ、やがて、回復した歩幅での走行へと移る。従って、運動としての自然な歩行を対象とする限り、歩数計の応動範囲としてピッチの上限(例えば150〜160歩/分の範囲の値)を設定する必要があろう。
一方、ピッチが90歩/分以下の範囲であるが、一歩行の時間に余裕があるため、歩幅を広くも、狭くもすることは可能である。しかし、上げた片足を着地させるまでは、身体を他方の足で支えておく必要があるため、ピッチと身体バランス維持の点からも、歩幅を広くすることには限界があり、かつ、不自然な歩行となる。逆に、歩幅を狭くすることは、身体バランスの問題はないが、狭くしすぎることは不自然な歩行となる。
以上の点から、ピッチが90歩/分以下の範囲では、自然な歩行での歩幅変化は少なく、減少はわずかと考えられる。筆者の歩行実験でもこのことを確認している(後述)。
尚、ピッチが下り過ぎると、生活活動を含めた運動としての自然な歩行とは言い難くなるため、上記と同様に、歩数計の応動範囲としてピッチの下限(例えば70〜80歩/分の範囲の値)も設定することが必要であろう。
以上に定量的・定性的に、ピッチと歩幅との関係を詳述してきたが、この関係を検証するために筆者は歩行実験を行った。この実験は、一定区間(距離550m)を、歩行ピッチを維持するために携帯した電子メトロノームの発信音に合わせて歩行し、歩行時間と携帯している歩数計の歩数を記録し、データを分析するものである。図3がこの歩行実験結果を表すもので、計算された歩行ピッチと歩幅の関係をグラフ化している。ピッチ125歩/分あたり以上から歩幅増加の少ない範囲が現れ、ピッチ95歩/分あたり以下から歩幅減少の少ない範囲が現れている。実験結果と上述の内容はよく一致するものである。尚、筆者の身長172cmから、計算上、ウォーキング歩幅=172×0.45=77.4cm、普通歩行歩幅=172×0.40=68.8となり、実験結果ともよく合う。
課題の歩幅の補正関数f(N)について説明する。記号の意味は以下の通りである。
N1:下限ピッチ (歩/分) 歩数計の応動範囲の下限ピッチ
N2:普通歩行ピッチ(歩/分) 90≦N2≦100
N3:速歩ピッチ (歩/分) 120≦N3≦130
N4:上限ピッチ (歩/分) 歩数計の応動範囲の上限ピッチ
L:身長(cm)、0.40L:普通歩行歩幅、0.45L:速歩歩幅
単位時間に計測された歩数をN(歩/分)として、三つの歩行ピッチ区間に応じた歩幅補正関数f(N)は、次の(4)式、(5)式、(6)式で与えられる。
普通歩行ピッチN2〜速歩ピッチN3(以下では“中間ピッチ区間”と呼ぶ)
下限ピッチN1〜普通歩行ピッチN2(以下では“下方ピッチ区間”と呼ぶ)
α、α´は、傾きを与える係数で、例えば、α=0.02L/(N2−N1)とすれば、α´=2/45(N2−N1)となる。
速歩ピッチN3〜上限ピッチN4(以下では、“上方ピッチ区間”と呼ぶ)
β、β´は、傾きを与える係数で、例えば、β=0.02L/(N4−N3)とすれば、β´=2/45(N4−N3)となる。
歩行ピッチNに関する(4)式、(5)式、(6)式のいずれかの補正関数を用いて計算された歩幅補正値f(N)を(3)式に適用することで正確に歩行速度を求めることが出来、この歩行速度を(2)式に適用して正確に運動強度を求めることが出来る。
以上に課題を解決するための手段について詳細に説明した。この手段を講ずることにより、単位時間に計測される歩数、即ち歩行ピッチと歩数計利用者の身長のみを用いて、中間ピッチ区間は勿論のこと、歩幅変化の少ない下方ピッチ区間、上方ピッチ区間においても、正確に歩行速度を求めることが出来る。
そして、求められた正確な歩行速度から「厚労省運動指針2006」他で示される公知の数値内容に合った運動強度を算出することが出来るため、構造が単純で、従って安価な、かつ、歩数と併せて提供される歩行関連情報が正確さをもった、歩数計を提供出来ることになる。
本発明に係わる実施例での歩数計の構成を表すブロック図である。
歩行速度と運動強度の関係を表すデータとグラフである。
歩行ピッチと歩幅の関係を確認するために行った歩行実験結果を表すデータとグラフである。
以下に本発明の実施例について詳細に説明する。図1が本発明に係わる歩数計の構成を示すブロック図である。
最初に、歩行ピッチを演算する単位時間と、各種演算を一巡する演算周期について説明しておく。ピッチの単位は通常、歩/分であるため、実施例においても単位時間を1分とする。これ以外の時間でも全く問題はない。
昨今、電子回路を内蔵する民生製品の多くにMPU(マイクロプロセサ)が搭載されているが、MPUにとって1分の時間はあり余る時間である。1分の単位時間の歩数計測値からピッチを求め、各種の歩行関連情報の演算を行ったとしても、所要時間は100ms、200msといったものであろう。そこで、次の歩数計測値が得られる1分の単位時間を待つのではなく、例えば、1/6の10秒を演算周期とし、演算周期毎の歩数値を、最古を捨て最新を残す形で一定量メモリーするようにすれば、メモリー内の最新歩数値から単位時間前の歩数値を減算して、当該演算周期での単位時間の歩数値と出来る。このような移動演算方法を採れば、MPUを効率よく活用出来るだけでなく、積分効果で演算値の急激な変動を抑えることも出来る。
MPU及びその周辺機能は、本発明に係わる歩数計の技術とは直接関係しないため、図1の実施例では省略しているが、演算周期、メモリー、移動演算方法などMPUベースを念頭に説明を進める。尚、説明上演算周期を10秒としておく。1秒でも可能であろうが、歩数変化が少ない割にメモリー量が多くなる欠点がある。ただし、表示部(歩数計利用者とのマンマシンインターフェイス)は10秒周期では、応答性が悪く、例えば、10秒の最初の1秒は演算、残り9秒はマンマシン処理などとなろう。
図1の1〜12の数字の符号を付したブロックについて説明する。特に、歩幅補正値演算部5および運動強度演算部8は、本発明に係わる重要な技術であり、数値を用いて具体的に説明する。
設定値記憶部1は、歩幅補正と消費カロリー演算に必要となる歩数計利用者の身体データである、身長設定値(Lcm)、体重設定値(Wkg)の記憶部である。必要に応じ、これら以外の設定値を設定できるようにしても何ら問題はない。例えば、歩幅補正関数の特性を、利用者の歩行特性により近づけるためのパラメタ設定が出来るようにしてもよい。このことは後述する。
また、安静時の1メッツ×1時間の消費カロリーは、1.05Wを乗じて計算されるが、この1.05Wは基礎代謝量に相当し、1メッツ・時=1Exに乗ずべき基礎代謝量を、身長L、体重W以外に、性別、年齢も加味してより正確に計算する方法も公知である。詳細な計算式は省略するが、この目的のため、性別、年齢も設定できるようにしてもよい。
歩数計測部2は、歩数計の基本機能である歩行運動による歩数の計測部である。振り子式、加速度センサ式などの歩数計測手段は問わない。既存の技術で精度の高い計測部を構成することが可能である。
タイマ3は、10秒の演算周期毎に起動信号を発し、歩行ピッチ演算部4に与えられ、当該演算周期が開始する。以下に示す各種演算処理は、当該演算周期でのものである。
歩行ピッチ演算部4は、上記起動信号に基づき、歩数計測部2の最新の歩数計測値を取り込み、上述の最古を捨て最新を残す形でメモリーされている歩数値データを更新する。そして、最新データから、6データ前(単位時間前)のデータを減算して、当該演算周期での単位時間歩数値、即ち歩行ピッチN(歩/分)を得る。
歩行ピッチ演算部4の出力である上記歩行ピッチNは、歩幅補正値演算部5、歩行速度演算部7および演算部と表示部12に入力される。まず、歩幅補正値演算部5について説明する。先述のピッチと歩幅に関する定量的・定性的説明及び図3に示した歩行実験結果も勘案し、実施例では、(4)式、(5)式、(6)式の補正関数f(N)を以下の通りとする。尚、歩幅変化の少ない範囲での補正関数の傾きである、(5)式のα´、(6)式のβ´を0とする。
歩数計の応動の下限ピッチN1= 70(歩/分)
普通歩行ピッチ N2= 95(歩/分)
速歩ピッチ N3=125(歩/分)
歩数計の応動の上限ピッチN4=160(歩/分)
下方ピッチ区間:下限ピッチ70(歩/分)〜普通歩行ピッチ95(歩/分)
中間ピッチ区間:普通歩行ピッチ95(歩/分)〜速歩ピッチ125(歩/分)
上方ピッチ区間:速歩ピッチ125(歩/分)〜上限ピッチ160(歩/分)
また、補正関数の特性を、歩数計利用者の歩行特性により近づけるために、次のようなパラメタを設定出来るようにしてもよい。
下限ピッチ設定値 :N1(歩/分) 下限歩幅係数設定値:S1
普通歩行ピッチ設定値 :N2(歩/分) 普通歩幅係数設定値:S2
速歩ピッチ設定値 :N3(歩/分) 速歩歩幅係数設定値:S3
上限ピッチ設定値 :N4(歩/分) 上限歩幅係数設定値:S4
上記設定値について説明すると、N1〜N4は、上の70、95、125、160に替わる利用者の歩行特性に応じた値が設定される。S1〜S4は、身長に対する倍率として、S2は、0.40に、S3は0.45に替わる利用者の歩行特性に応じた値が設定される。S1、S2は、例えば、0.38、0.47などの値が設定される。
これらの設定値は設定値記憶部1にメモリーされることになる。
このパラメタ設定を可能にしたときは、(7)式〜(9)式に替わる補正関数は以下のようになる。尚、従前の0.45Lは、S3×Lに替わるため、以下に示す(10)式のみが同様に替わるが、他の内容に何ら影響を与えるものではない。
(7)式に替わる補正関数式
f(N)=(S2/S3−S1/S3)/(N2−N1)×(N−N2)
+(S2/S3)
(8)式に替わる補正関数式
f(N)=(1−S2/S3)/(N3−N2)×(N−N3)+1
(9)式に替わる補正関数式
f(N)=(S4/S3−1)/(N4−N3)×(N−N3)+1
歩幅補正値演算部5に入力された歩行ピッチNは、まず、上記3つのいずれのピッチ区間に入るかが判定され、(7)式、(8)式、(9)式のいずれかの補正関数が適用されて歩幅補正値f(N)が演算決定される。そして、歩幅補正演算部6入力される。
尚、歩行ピッチNが上下限を外れた場合は、デフォルト値としf(N)=0とすれば、後続する諸演算結果は0となり、後述する累計値などの演算に影響を与えないように出来る。或いは、歩行ピッチ演算部4の出力である歩行ピッチNは、演算部と表示部12にも入力されており、同部12で、歩行ピッチが上下限を外れたことを判定し、これを演算制御信号とし、当該演算周期での累計演算等を禁止するようにしてもよい。
歩幅補正値演算部5から出力される歩幅補正値f(N)及び設定値記憶部1にメモリーされている歩数計利用者の身長設定値Lが、歩幅補正演算部6に入力され、歩行ピッチの変化により生じた歩幅、即ち補正歩幅Sを、(10)式の演算により求める。
歩幅補正演算部6の出力である補正歩幅S(cm)と、歩行ピッチ演算部4の出力である歩行ピッチN(歩/分)が、歩行速度演算部7に入力される。そして、単位系を揃えた、(11)式で、歩行速度Vが演算される。
歩行速度演算部7の出力である歩行速度V(km/時)は、運動強度演算部8に入力される。ここでの演算は、歩行による運動強度が、「厚労省運動指針2006」の記載内容とも、またインターネット上の多くの関連情報の内容とも合うように、図2のグラフで示される特性を精度よく実現する必要があるが、同時に、出来る限り簡単な演算で実現出来るように考慮することも、演算負担軽減の観点から大事である。
先述は、5つの直線による特性近似であったが、実施例では、図2の4.0〜6.0km/時での3点と、6.0km/時〜8.0km/時での3点による、二つの回帰直線による特性近時として演算負担軽減を実現する。(12)式で運動強度M(メッツ)が演算される。尚、身体活動分を対象とするため、1メッツ分を差し引いている。
運動強度演算部7の出力である運動強度M(メッツ)は、エクササイズ演算部9に入力され、同部で演算周期時間10秒でのエクササイズ量Eが、(13)式で演算される。
エクササイズ演算部9の出力であるエクササイズE(Ex)は、設定値記憶部1にメモリーされている歩数計利用者の体重設定値Wとともに、消費カロリー演算部10に入力され、演算周期時間10秒での消費カロリーKが、(14)式で演算される。
消費カロリー演算部10の出力の消費カロリーK(kcal)は、脂肪燃焼量演算部11に入力され、演算周期時間10秒での脂肪燃焼量Gが、(15)式で演算される。
当該演算周期での演算結果である、歩行速度演算部7での歩行速度V、運動強度演算部8での運動強度M、エクササイズ演算部9でのエクササイズE、消費カロリー演算部10での消費カロリーK、脂肪燃焼量演算部11での脂肪燃焼量Gは、演算部と表示部12に入力される。尚、上記歩行速度V/360が当該周期での歩行距離である。
演算部と表示部12の演算部では、これらの歩行距離、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量などの累計対象データおよび歩行速度と運動強度の非累計対象データに対して、同部12の表示部で表示する内容に変換するため、以下の演算が施される。
累計対象データは、1演算周期前の累計値に加算され、一方、歩行速度と運動強度の非累計対象データは、1演算周期前の当該データとの間で平均値や最大値最小値演算が行われ、表示データとして更新される。歩数や歩行関連情報を履歴データとして表示するために、一定期間分を蓄積するようにしてもよい。
これらの表示データは、歩行関連情報として、歩数とともに、演算部と表示部12の表示部より利用者が確認することができる。設定値記憶部1の設定値は、同部12にも入力されており、同部12の表示部で設定値確認・変更がなされる。同表示部には、既存の液晶技術を利用して省電力化でき、歩数や歩行関連情報の現在値の数値表示だけでなく、履歴データのグラフ表示などにより、より付加価値の高い歩数計と出来る。
本発明の実施例ついて詳述した。本発明によれば、振り子式や加速度センサ式などの既存の歩数計測手段を問わず、計測された歩数と、設定されている利用者の身体データである身長によって、単位時間に計測される歩数、即ち歩行ピッチに基づき、中間ピッチ区間は勿論のこと、歩幅変化の少ない下方・上方ピッチ区間においても正確に歩行速度を求めることが出来、この歩行速度から「厚労省運動指針2006」他で示される公知の数値内容に基づく運動強度を正確に求めることが出来るため、この結果、歩行速度、運動強度以外の歩行距離とエクササイズを、設定されている利用者の身体データである体重を使って消費カロリーと脂肪燃焼量を、歩行関連情報として正確に計算できることになり、構造が単純で、従って安価な、かつ、歩数と併せて提供される歩行関連情報が正確さをもった歩数計を提供でき、産業上の利用可能性は大きい。
また、実施例でも説明したが、追加のパラメタ設定をすることで、歩幅補正関数の特性を歩数計利用者の歩行特性により近づけることができ、歩行関連情報の正確さを増すことが出来る。さらに、性別、年齢を設定して、1.05Wに替わる基礎代謝量により消費カロリーや脂肪燃焼量がより正確に計算できることになる。歩行関連情報の正確さを増すために、上記のような追加があったとしても、実施例に示した構成を採っているため、歩数計のブロック構成を変えることなく、一部の演算式の変更(例えば、歩幅補正値演算部5の三つのピッチ区間での補正関数の係数の変更)のみで柔軟に対応することが出来ることからも、これら追加設定の産業上の利用可能性は大きい。
身長や体重、性別や年齢などの基本データの設定は、利用者を煩わすことはないと考えられる。実施例で説明したが、本発明に係わる歩幅補正の特性を歩数計利用者の歩行特性により近づけるためには、パラメタを追加設定する必要がある。このパラメタは日常的に扱うデータではなく、設定するとなると煩わしさがある。そこで、パラメタの基準と出来る値は概ね決まっていることから(ピッチ:下限70、普通95、速歩125、上限160、歩幅係数:下限0.38、普通0.40、速歩0.45、上限0.47など)、これを歩数計初期値として予め設定しておけば、利用者は、必要がなければ初期値をそのまま使えばよく、また、必要に応じて初期値を変更すればよいので、設定の煩わしさを大幅に軽減できることになる。利用者サイドに立ったこのような工夫もすれば、このパラメタ設定追加の産業上の利用可能性は大きいと言える。
1 設定値記憶部
2 歩数計測部
3 タイマ
4 歩行ピッチ演算部
5 歩幅補正値演算部
6 歩幅補正演算部
7 歩行速度演算部
8 運動強度演算部
9 エクササイズ演算部
10 消費カロリー演算部
11 脂肪燃焼量演算部
12 演算部と表示部
本発明は、歩数を計測する歩数計であって、歩行速度、歩行距離、消費カロリー、脂肪燃焼量などの歩行関連情報を提供することのできる歩数計に関するものである。
振り子式のもの、加速度センサ式のも、基本の歩数計測のみ、或いは歩数と併せて歩行関連情報も提供する、さまざまな種類の歩数計が市販されている。
歩数計の計測歩数に関しては、JIS(日本工業規格JIS S 7200)で誤差が規定(±3%)されていることから、精度のよい歩数値を得ることが出来る。
歩数計の提供する歩行関連情報、なかでも、消費カロリーや脂肪燃焼量は、歩数計を健康管理に活用している利用者には有益な情報である。しかし、この歩行関連情報に関しては、歩数のように規格が定められているわけではなく、歩数計製造者の独自の演算方式が採用され、製造者の独自の基準で評価が行われているのが現状である。
筆者にあっては運動不足の影響か、体重がBMI(ボディ・マス・インデックス)基準値22を、腹囲がメタボリックシンドローム(内蔵脂肪症候群)の男性基準値85cmを上回ることがあり、市が開催した健康づくり説明会に参加し、保健師の指導のもとに立案した、健全値に戻すための改善計画を実施することにした。
この改善計画には食事計画もあるが、運動計画が中心であり、これは容易に行え、かつ、効果の高いウォーキング(以下では歩行を同意語として使う)を日課とするものである。上記説明会では、どのような速度の歩行をどれくらいの時間行えば、どれくらいのカロリーが消費され、どれくらいの脂肪が燃焼されるかなどの、指針や計算式が説明された。この計算式により数値目標が設定出来るため、より具体性・実効性のある改善計画の立案が可能となった。
上記説明会で目標設定のために説明のあった、運動強度(メッツ)、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量の諸量間の関係、そして、歩行速度と運動強度の関係は、今回の発明に深く関わるものであるため、ここで詳述しておく。
厚生労働省の運動施策の一環として報告された「健康づくりのための運動指針2006<エクササイズガイド2006>」では、体力の維持・向上を目的として行われる「運動」以外に、日常生活で行われる「生活活動」も身体活動とされ、身体活動の強さ、即ち運動強度を、安静時の何倍に相当するかで表す単位がメッツである。安静時が1メッツで、例えば、普通歩行は3メッツとされる。
エクササイズ(Ex)は身体活動の量を表す単位であり、その身体活動の運動強度(メッツ)に身体活動の実施時間(時)を乗じたものである。3メッツの身体活動を30分実施すれば、1.5Exである。
消費カロリー計算についてであるが、その身体活動量に相当するエネルギー消費量は、上記厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」に記載されており、身体活動を行っている者の体重によって異なり、安静時の分を含めて(1)式で計算される。
エネルギー消費量の単位がkcalであり、以降は、消費カロリーと表現する。
脂肪燃焼量であるが、脂肪1gの燃焼に必要な消費カロリーは7.2kcalであり(概略7kcalとされることもある)、消費カロリーから脂肪燃焼量を計算出来る。
次に、歩行速度と運動強度の関係について説明する。歩行速度と運動強度の関係は、今回の発明の重要な要素の一つである。
一般に、人の歩く速さは4km/時程度と言われているが、運動としての歩行の速度と運動強度に関して、厚生労働省の「健康づくりのための運動指針2006」(以下では、「厚労省運動指針2006」と省略する)には、その歩行速度と運動強度が段階にわけて示されており、例えば、次のような関係となる。
普通歩行 :67m/分(4.0km/時) 3メッツ
速歩 :95〜100m/分(6km/時程度) 4メッツ
かなり速歩:107m/分(6.4km/時) 5メッツ
改善計画に戻るが、歩行運動を日課とする運動計画の数値目標をどのようにして設定したかを説明する。「厚労省運動指針2006」に記載の運動強度4メッツ相当の速歩(95〜100m/分、時速6km程度)を1時間程度実施することを目標とし、消費カロリー計算をすると、当時の体重は約70kgであり、(1)式を適用して次の値となる。尚、身体活動による消費カロリー計算は、安静時の1メッツ相当分は差し引いて、身体活動による分だけを計算することに注意を払う必要がある。
消費カロリー(kcal)
=3(メッツ)×1(時間)×70(kg)×1.05≒220
食事計画と併せて1日に300kcalとすると、1ヶ月に9000kcal、上述の脂肪燃焼量との関係から、7.2kcalで除して脂肪燃焼量は1250g、日課の歩行が天候や体調で実施出来ないことを勘案すると、1ヶ月に1000g程度の脂肪が燃焼、つまり体重が減少、それに応じて腹囲も減少、何ヶ月か後には目標達成できるというステップで計画を立案するのである。
筆者は、計画の実施に当って、予め歩行コースを何通りか定めて距離を割り出しておき、歩行を実施すれば、コース距離と歩行時間を記録することにした。平坦な舗装道をほぼ一定ペースで歩行し、歩行記録データから計算される歩行速度(平均速度)と歩行時間から(1)式による消費カロリー計算も試みた。「厚労省運動指針2006」には、数段階の歩行速度に対する運動強度しか示されていないが、その間の歩行速度に対しては線形補間することで試算した。
歩行記録をより充実するために歩数計を携帯することにし、歩数以外に歩行距離、消費カロリー、脂肪燃焼量といった歩行関連情報が提供(表示)される歩数計を選択した。そして、歩行実施時には、従前のコース距離、歩行時間(この2量を以下では原始データと呼ぶ)とともに、歩数計の表示データを併せて記録することとした。
蓄積された歩行記録データをパソコンで分析することは、便利なソフトウェアツールが提供されているため、比較的容易なことである。筆者もこれを活用して、原始データに基づき(1)式で計算される消費カロリー(これを以下では想定値と呼ぶ)と、歩数計の消費カロリー表示値とを比較する、グラフ化するなどの分析を行った。分析の結果、想定値と歩数計表示値の間に大きな差があること(1.5倍程度、またはそれ以上)に気付き、何故なのかと疑問を持つに至った。
上記消費カロリーに関する疑問点について製造者に問合せてみたが、歩数計内部の独自演算方式に関することにつき開示は出来ないとの回答であった。このため、筆者は、関連情報などの調査を鋭意行った。
調査を進める中で、消費カロリーなどの計算の基礎となる歩行速度をいかに求めるかが重要な技術であることが分かった。歩数計は歩数を精度よく計測することが主機能であり、直接に歩行速度を検出しているわけではない。単位時間での歩数計測値が多くなれば歩行速度が速い、少なくなれば遅いことになるが、歩数計測値から歩行速度がいくらかを精度よく求めることは、容易な技術ではないことも分かった。
上記の観点にも注意を払い、特許文献調査を実施した。以下に示す特許文献1〜特許文献3に開示された技術では、いくつかの問題があることが分かった。
尚、本発明は、歩数計の歩数計測値と、歩数計に設定されている利用者の身体データである身長及び体重により、消費カロリーなどの歩行関連情報を算出し歩数と併せて提供する歩数計に係わるものであるため、生体インピーダンスや脈拍数を利用するものの調査は、消費カロリーなどの演算方式の調査のみに留めた。
特許文献1には、歩行中の歩幅を、設定された身長と歩行ピッチ(単位時間の歩数計測値)で計算し、歩幅の変化にも応じた歩行速度演算を行う技術が開示されている。
また、消費カロリー演算は物理学で公知の運動エネルギー式に基づくもので、速度の項に歩幅×歩行ピッチを適用する技術が開示されている。
しかし、歩幅計算は、研究により見出されたとされる回帰分析に基づく回帰式(直線)、を使うもので、後述する歩行ピッチ変化に対して歩幅変化が少なくなるピッチ範囲のことが全く考慮されておらず、歩行ピッチが上がれば上がるだけ歩幅が広く、下れば下るだけ歩幅が狭く計算され、歩行関連情報の誤差が拡大するといった問題がある。
また、消費カロリー計算に関しても、「厚労省運動指針2006」に記載の計算式の値とは大きな差があるといった問題がある。このことを示す数値計算例を以下に示す。
歩幅:0.8m、歩行ピッチ:125歩/分、体重:65kg、歩行時間:1時間として、1時間の消費カロリーを計算してみる。歩行速度=0.8×125×60=6km/時、100m/分、1.67m/秒 である。尚、歩行速度6km/時の運動強度は4メッツであり、安静時の1メッツ分は差し引いて計算する。
特許文献1での計算結果
消費カロリー(kcal)
=1/2×65×1.67×1.67×3600/4.2/1000
=77.7
「厚労省運動指針2006」に記載の計算式での計算結果
消費カロリー(kcal)
=(4−1)×1×65×1.05
=205
特許文献2は、歩行ピッチと身長から歩行スピードを演算する方法(同文献の(3)式)、この歩行スピードと体重から運動負荷量を演算する方法(同文献の(4)式)が開示されている。
しかし、前者の歩行スピード演算方法は、特許文献1に関しても述べたが、後述する歩行ピッチ変化に対して歩幅変化が少なくなるピッチ範囲のことが全く考慮されておらず、従って、正確な歩行スピードが求められないといった問題がある。
また、後者の、運動エネルギーに基づくとされる運動負荷量は、内容から、消費カロリーに相当する量と考えられるが、上記の正確さを欠く歩行スピードから演算される量であるため、運動負荷量もやはり、正確さを欠くといった問題がある。
特許文献3には、既存の技術とされる運動強度を求める二例の手法が記載されている。
歩行について当該二例の技術を検証してみる。歩幅:85cm、歩行ピッチ:125歩/分とすると、歩行速度は6.4km/時であり、「厚労省運動指針2006」に記載の運動強度は5メッツ、安静時の1メッツを差し引いて4メッツである。
一例目での計算結果:−7.065+0.105×125=6.06
二例目での計算結果:0.015×125×0.85+1.599=3.19
計算手法により計算結果のメッツ値が異なり、かつ、「厚労省運動指針2006」の内容と合わないといった既存の技術にも問題がある。
特許第3734429号公報(請求項1、請求項2)
特許第3916228号公報((3)式、(4)式)
特開2009−279239号公報(段落0023、0024)
「新しい運動基準・運動指針「身体活動のメッツ(METs)表」(独・国立健康・栄養研究所 健康増進プログラム エネルギー代謝プロジェクト)
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、振り子式や加速度センサ式などの歩数計測手段にかかわらず、計測された歩数と、設定されている利用者の身体データである身長及び体重によって、歩数以外の歩行距離、歩行速度、運動強度、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量の歩行関連情報を算出し歩数と併せて提供する、構造が単純で、従って安価な、かつ、歩数と併せて提供される歩行関連情報が正確さをもった、歩数計に関する技術を提供することにある。
上記目的を達成するために、本発明に係わる歩数計は、歩行速度と運動強度の算出に以下の特徴的な構成を採用し、算出された歩行速度と運動強度に基づいて歩行距離、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量などを算出して歩数と併せて表示提供する構成とする。
歩行速度の算出の構成に関しては、歩数計利用者の身長を設定する設定手段と、歩数計利用者の歩行時の歩数を計測する歩数計測手段と、前記歩数計測手段で計測される単位時間当たりの歩数を歩行ピッチとして算出し、前記歩行ピッチを歩行ピッチに関する歩幅補正関数に代入して得られる歩幅補正値と前記設定手段に設定された身長とに基づいて補正歩幅を算出し、前記補正歩幅に前記歩行ピッチを乗じて歩行速度を算出する演算手段とを備える構成であって、前記歩幅補正関数を、歩行ピッチに対する歩幅の身長に対する割合の変化を、前記変化に応じて複数に区分したピッチ区間ごとに歩行ピッチに関する一次関数で表した区分線形関数とすることを特徴とする。
運動強度の算出の構成に関しては、歩数計利用者の身長を設定する設定手段と、歩数計利用者の歩行時の歩数を計測する歩数計測手段と、前記歩数計測手段で計測される単位時間当たりの歩数を歩行ピッチとして算出し、前記歩行ピッチを歩行ピッチに関する歩幅補正関数に代入して得られる歩幅補正値と前記設定手段に設定された身長とに基づいて補正歩幅を算出し、前記補正歩幅に前記歩行ピッチを乗じて歩行速度を算出し、前記歩行速度を歩行速度に関する一つまたは複数の回帰式に代入して得られる結果の最大値を運動強度として算出する演算手段とを備える構成であって、前記歩幅補正関数を、歩行ピッチに対する歩幅の身長に対する割合の変化を、前記変化に応じて複数に区分したピッチ区間ごとに歩行ピッチに関する一次関数で表した区分線形関数とし、かつ、歩行速度に関する前記一つまたは複数の回帰式を、歩行速度に対する運動強度の関係を区分線形関数で表し、一つまたは複数に分割した歩行速度区間ごとに回帰分析を行って得られる一つまたは複数の回帰直線の回帰式とすることを特徴とする。
算出された歩行速度と運動強度に基づいて歩行距離、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量などを算出して歩数と併せて表示提供する構成に関しては、歩数計利用者の少なくとも身長を設定する設定手段と、歩数計利用者の歩行時の歩数を計測する歩数計測手段と、前記歩数計測手段で計測される単位時間当たりの歩数を歩行ピッチとして算出し、前記歩行ピッチを歩行ピッチに関する歩幅補正関数に代入して得られる歩幅補正値と前記設定手段に設定された身長とに基づいて補正歩幅を算出し、前記補正歩幅に前記歩行ピッチを乗じて歩行速度を算出し、前記歩行速度を歩行速度に関する一つまたは複数の回帰式に代入して得られる結果の最大値を運動強度として算出し、前記歩行速度と前記運動強度とに歩行時間を乗じて歩行距離とエクササイズとを算出し、前記エクササイズに基礎代謝量を乗じて消費カロリーを算出し、前記消費カロリーから脂肪燃焼量を算出する演算手段と、前記歩数計測手段で計測された歩数と併せて前記演算手段で算出された歩行速度または歩行距離または運動強度またはエクササイズまたは消費カロリーまたは脂肪燃焼量の少なくとも一つを表示する表示手段とを備える構成であって、前記歩幅補正関数を、歩行ピッチに対する歩幅の身長に対する割合の変化を、前記変化に応じて複数に区分したピッチ区間ごとに歩行ピッチに関する一次関数で表した区分線形関数とし、かつ、歩行速度に関する前記一つまたは複数の回帰式を、歩行速度に対する運動強度の関係を区分線形関数で表し、一つまたは複数に分割した歩行速度区間ごとに回帰分析を行って得られる一つまたは複数の回帰直線の回帰式とし、かつ、前記基礎代謝量を、前記設定手段に設定された身長に加えて設定された歩数計利用者の体重に係数1.05を乗じた値、または前記設定手段にさ
らに加えて設定された歩数計利用者の性別と年齢と前記身長と前記体重とから計算される値のいずれかとすることを特徴とする。
また、前記設定手段は、前記歩幅補正関数である歩行ピッチに関する区分線形関数の複数に区分したピッチ区間およびピッチ区間ごとの歩行ピッチに関する一次関数を定めるパラメタを歩数計利用者が設定する構造であることを特徴とする。
以上に課題を解決するための手段について詳細に説明した。この手段を講ずることにより、単位時間に計測される歩数、即ち歩行ピッチと歩数計利用者の身長のみを用いて、後述する中間ピッチ区間は勿論のこと、歩幅変化の少ない下方ピッチ区間、上方ピッチ区間においても、正確に歩行速度を求めることが出来る。さらに、歩数計利用者の歩行特性により近づけるために、ピッチ区間(区分)およびピッチ区間での歩幅変化(一次関数)を定めるパラメタを設定する構造とすることで、より正確に歩行速度を算出することが出来る。
そして、求められた正確な歩行速度から「厚労省運動指針2006」他で示される公知の数値内容に合った運動強度を算出することが出来るため、構造が単純で、従って安価な、かつ、歩数と併せて提供される歩行関連情報が正確さをもった、歩数計を提供出来ることになる。
本発明に係わる実施例での歩数計の構成を表すブロック図である。
歩行速度と運動強度の関係を表すデータとグラフである。
歩行ピッチと歩幅の関係を確認するために行った歩行実験結果を表すデータとグラフである。
計測される歩数から歩行速度をいかに正確に求めるか、求められた歩行速度からいかにして「厚労省運動指針2006」他で示される公知の数値内容に合った運動強度を求めるか、これらが本発明の重要な要素となる。まず、後者から詳述する。
「厚労省運動指針2006」には、107m/分のかなり速歩以上の歩行に関しては示されていないが、非特許文献1には、さまざまな身体活動に対する運動強度が示されており、歩行運動に関しても、次のデータが示されている(安静時の1メッツ分含む)。
67m/分(4.0km/時)硬く安定した平地 3.0メッツ
80m/分(4.8km/時)平地 適度な速度 3.3メッツ
93m/分(5.6km/時)平地 運動として小気味よい速度 3.8メッツ
107m/分(6.4km/時)平地 小気味よい速度 5.0メッツ
120m/分(7.2km/時)平地 とてもきびきびした速度 6.3メッツ
133m/分(8.0km/時) 8.0メッツ
このデータは、「厚労省運動指針2006」の記載内容とも、またインターネット上の多くの関連情報の内容ともよく合うもので、このデータを今回の発明の根拠とする。
図2は、上記データを、横軸:歩行速度(km/時)、縦軸:運動強度(メッツ)としてグラフ化したものである。運動強度と歩行速度の関係は、一次ではなく二次の関係のようではあるが、この凹特性曲線の関数を決定し、この関数から運動強度を求めることは複雑となる。そこで、凹特性を利用して、グラフ上の隣接点で決定される
区分線形関数の5つの
区分ごとの一次関数に、求められた歩行速度V(km/時)を代入して計算される値の最大値を選べば、精度よく運動強度M(メッツ)を求めることができる。この方式では、歩行速度がいずれの速度区間にあるかの判定が不要であるという利点がある。(2)式が計算式である。尚、身体活動分を対象とする時は、安静時の1メッツ分を差し引く。
上記(2)式の、Ai、Biの一例を示す。i=1に対しては、(時速,メッツ)の組として、(4.0,3.0)と(4.8,3.3)の2点から決定される一次関数であり、A1=3/8、B1=3/2である。
歩行速度を求めることが出来れば、上記(2)式から運動強度が計算出来る。さらに、これに計測された歩行時間を乗じてエクササイズが、これに1.05×体重を乗じて消費カロリーが、これを7.2で除して脂肪燃焼量が、と連なるように歩行関連情報が計算できる。従って、歩行速度が全ての歩行関連情報の基礎となるため、歩行速度をいかに精度よく求めるかが鍵となることが理解されよう。以下に歩行速度を求める方法を詳述する。
先に結論を示すと、(3)式が歩行速度の計算式となる。Nが単位時間(例えば1分)に計測される歩数、ピッチと呼ばれるものである。Lが身長設定値であり、ウォーキング歩幅として周知の身長の0.45倍を用いる。0.45L×Nは、単位時間の歩行距離、即ち歩行速度である。しかし、歩幅0.45Lは常に一定であるわけではなく、ピッチが上がると広くもなり、下ると狭くもなる。これを何らかの方法で補正しなければ、正確に歩行速度を計算出来ず、結果、歩行関連情報も正確さを欠く。そこで、ピッチNに基づく歩幅の補正を、補正関数f(N)を乗ずることにより行う。
この歩幅補正関数f(N)は、後に詳述するが、区分ごとに直線で表される、所謂、区分線形関数として与えられる。尚、上記(3)式は、単位を揃えず、歩行速度計算式の形についてのみ示したもので、後述の実際の計算式とは、係数の有無などに違いがあることを付け加えておく。
上記(3)式の歩行速度計算式の形自体は単純なものであるが、補正関数f(N)の導出は、それほど簡単ではなく、筆者が特許文献を含め関連情報の調査や、繰り返し行った歩行実験結果から導き出したものである。
健康増進・改善のために意識的に速度を上げて行う運動としての歩行、買い物や散歩に出かけるといった生活活動の一環としての歩行もある。両者のピッチと歩幅は、当然異なるものであり、前者は後者に比べ、いずれも大きくなることは容易に分かる。
そこで、ピッチと歩幅の関係がどのように捉えられるかについて、まず説明する。
時速6km前後である速歩に関しては、ピッチは120〜130歩/分、歩幅は公知のウォーキング歩幅0.45L(Lは身長)に相当する。一方、上記に例示した生活活動の中での歩行も含めた、時速4km前後の普通歩行に関しては、ピッチは90〜100歩/分、歩幅は0.40L程度とされる。
次に、ピッチに対する歩幅の変化がどのようになるのかについて説明する。ピッチが90〜130歩/分の範囲にあっては、ピッチと歩幅の変化は直線的であると考えられる。この点で特許文献1での回帰直線を用いる方法は妥当であり、筆者の行った歩行実験からもほぼ直線的変化が確認された。尚、この歩行実験に関しては後述する。
しかし、問題はピッチが90歩/分以下の、130歩/分以上の範囲での歩幅変化である。この範囲にまで当該直線を延長して考えればよいわけではない。延長すれば、次の点から、歩幅計算に大きな誤差が生じ、結果、正確な速度計算が出来なくなる。
90〜130歩/分の範囲では、ピッチを上げると同時に歩幅も広くなり、歩行速度はピッチにも歩幅にも概ね比例して増加することになる。130歩/分以上の範囲ではピッチを上げても、歩幅変化は少なく増加はわずかと考えられ、歩行速度はピッチに比例した増加が主となる。歩幅をより広げた一歩行の所要時間と、速いピッチとのバランスを維持して歩行を継続することは容易ではないためである。身長の50%歩幅で歩く人がいないとは言えないが、それはむしろ不自然な歩き方か、それとも余程下半身の筋群のトレーニングを積んだ例外的な人ではとの専門家の意見もある(http://ww2.wainet.ne.jp/〜tukasa/U_6.html)。
さらにピッチを上げると歩幅は逆に狭くなり、歩行としては不自然な、いわゆる小走りに転じ、やがて、回復した歩幅での走行へと移る。従って、運動としての自然な歩行を対象とする限り、歩数計の応動範囲としてピッチの上限(例えば150〜160歩/分の範囲の値)を設定する必要があろう。
一方、ピッチが90歩/分以下の範囲であるが、一歩行の時間に余裕があるため、歩幅を広くも、狭くもすることは可能である。しかし、上げた片足を着地させるまでは、身体を他方の足で支えておく必要があるため、ピッチと身体バランス維持の点からも、歩幅を広くすることには限界があり、かつ、不自然な歩行となる。逆に、歩幅を狭くすることは、身体バランスの問題はないが、狭くしすぎることは不自然な歩行となる。
以上の点から、ピッチが90歩/分以下の範囲では、自然な歩行での歩幅変化は少なく、減少はわずかと考えられる。筆者の歩行実験でもこのことを確認している(後述)。
尚、ピッチが下り過ぎると、生活活動を含めた運動としての自然な歩行とは言い難くなるため、上記と同様に、歩数計の応動範囲としてピッチの下限(例えば70〜80歩/分の範囲の値)も設定することが必要であろう。
以上に定量的・定性的に、ピッチと歩幅との関係を詳述してきたが、この関係を検証するために筆者は歩行実験を行った。この実験は、一定区間(距離550m)を、歩行ピッチを維持するために携帯した電子メトロノームの発信音に合わせて歩行し、歩行時間と携帯している歩数計の歩数を記録し、データを分析するものである。図3がこの歩行実験結果を表すもので、計算された歩行ピッチと歩幅の関係をグラフ化している。ピッチ125歩/分あたり以上から歩幅増加の少ない範囲が現れ、ピッチ95歩/分あたり以下から歩幅減少の少ない範囲が現れている。実験結果と上述の内容はよく一致するものである。尚、筆者の身長172cmから、計算上、ウォーキング歩幅=172×0.45=77.4cm、普通歩行歩幅=172×0.40=68.8となり、実験結果ともよく合う。
課題の歩幅の補正関数f(N)について説明する。記号の意味は以下の通りである。
N1:下限ピッチ (歩/分) 歩数計の応動範囲の下限ピッチ
N2:晋通歩行ピッチ(歩/分) 90≦N2≦100
N3:速歩ピッチ (歩/分) 120≦N3≦130
N4:上限ピッチ (歩/分) 歩数計の応動範囲の上限ピッチ
L:身長(cm)、0.40L:普通歩行歩幅、0.45L:速歩歩幅
単位時間に計測された歩数をN(歩/分)として、三つの歩行ピッチ区間に応じた歩幅補正関数f(N)は、次の(4)式、(5)式、(6)式で与えられる。
普通歩行ピッチN2〜速歩ピッチN3(以下では“中間ピッチ区間”と呼ぶ)
下限ピッチN1〜普通歩行ピッチN2(以下では“下方ピッチ区間”と呼ぶ)
α、α´は、傾きを与える係数で、例えば、α=0.02L/(N2−N1)とすれば、α´=2/45(N2−N1)となる。
速歩ピッチN3〜上限ピッチN4(以下では、“上方ピッチ区間”と呼ぶ)
β、β´は、傾きを与える係数で、例えば、β=0.02L/(N4−N3)とすれば、β´=2/45(N4−N3)となる。
歩行ピッチNに関する(4)式、(5)式、(6)式のいずれかの補正関数を用いて計算された歩幅補正値f(N)を(3)式に適用することで正確に歩行速度を求めることが出来、この歩行速度を(2)式に適用して正確に運動強度を求めることが出来る。
以下に本発明の実施例について詳細に説明する。図1が本発明に係わる歩数計の構成を示すブロック図である。
最初に、歩行ピッチを演算する単位時間と、各種演算を一巡する演算周期について説明しておく。ピッチの単位は通常、歩/分であるため、実施例においても単位時間を1分とする。これ以外の時間でも全く問題はない。
昨今、電子回路を内蔵する民生製品の多くにMPU(マイクロプロセサ)が搭載されているが、MPUにとって1分の時間はあり余る時間である。1分の単位時間の歩数計測値からピッチを求め、各種の歩行関連情報の演算を行ったとしても、所要時間は100ms、200msといったものであろう。そこで、次の歩数計測値が得られる1分の単位時間を待つのではなく、例えば、1/6の10秒を演算周期とし、演算周期毎の歩数値を、最古を捨て最新を残す形で一定量メモリーするようにすれば、メモリー内の最新歩数値から単位時間前の歩数値を減算して、当該演算周期での単位時間の歩数値と出来る。このような移動演算方法を採れば、MPUを効率よく活用出来るだけでなく、積分効果で演算値の急激な変動を抑えることも出来る。
MPU及びその周辺機能は、本発明に係わる歩数計の技術とは直接関係しないため、図1の実施例では省略しているが、演算周期、メモリー、移動演算方法などMPUベースを念頭に説明を進める。尚、説明上演算周期を10秒としておく。1秒でも可能であろうが、歩数変化が少ない割にメモリー量が多くなる欠点がある。ただし、表示部(歩数計利用者とのマンマシンインターフェイス)は10秒周期では、応答性が悪く、例えば、10秒の最初の1秒は演算、残り9秒はマンマシン処理などとなろう。
図1の1〜12の数字の符号を付したブロックについて説明する。特に、歩幅補正値演算部5および運動強度演算部8は、本発明に係わる重要な技術であり、数値を用いて具体的に説明する。
設定値記憶部1は、歩幅補正と消費カロリー演算に必要となる歩数計利用者の身体データである、身長設定値(Lcm)、体重設定値(Wkg)の記憶部である。必要に応じ、これら以外の設定値を設定できるようにしても何ら問題はない。例えば、歩幅補正関数の特性を、利用者の歩行特性により近づけるためのパラメタ設定が出来るようにしてもよい。このことは後述する。
また、安静時の1メッツ×1時間の消費カロリーは、1.05Wを乗じて計算されるが、この1.05Wは基礎代謝量に相当し、1メッツ・時=1Exに乗ずべき基礎代謝量を、身長L、体重W以外に、性別、年齢も加味してより正確に計算する方法も公知である。詳細な計算式は省略するが、この目的のため、性別、年齢も設定できるようにしてもよい。
歩数計測部2は、歩数計の基本機能である歩行運動による歩数の計測部である。振り子式、加速度センサ式などの歩数計測手段は問わない。既存の技術で精度の高い計測部を構成することが可能である。
タイマ3は、10秒の演算周期毎に起動信号を発し、歩行ピッチ演算部4に与えられ、当該演算周期が開始する。以下に示す各種演算処理は、当該演算周期でのものである。
歩行ピッチ演算部4は、上記起動信号に基づき、歩数計測部2の最新の歩数計測値を取り込み、上述の最古を捨て最新を残す形でメモリーされている歩数値データを更新する。そして、最新データから、6データ前(単位時間前)のデータを減算して、当該演算周期での単位時間歩数値、即ち歩行ピッチN(歩/分)を得る。
歩行ピッチ演算部4の出力である上記歩行ピッチNは、歩幅補正値演算部5、歩行速度演算部7および演算部と表示部12に入力される。まず、歩幅補正値演算部5について説明する。先述のピッチと歩幅に関する定量的・定性的説明及び図3に示した歩行実験結果も勘案し、実施例では、(4)式、(5)式、(6)式の補正関数f(N)を以下の通りとする。尚、歩幅変化の少ない範囲での補正関数の傾きである、(5)式のα´、(6)式のβ´を0とする。
歩数計の応動の下限ピッチN1= 70(歩/分)
普通歩行ピッチ N2= 95(歩/分)
速歩ピッチ N3=125(歩/分)
歩数計の応動の上限ピッチN4=160(歩/分)
下方ピッチ区間:下限ピッチ70(歩/分)〜普通歩行ピッチ95(歩/分)
中間ピッチ区間:普通歩行ピッチ95(歩/分)〜速歩ピッチ125(歩/分)
上方ピッチ区間:速歩ピッチ125(歩/分)〜上限ピッチ160(歩/分)
また、補正関数の特性を、歩数計利用者の歩行特性により近づけるために、次のようなパラメタを設定出来るようにしてもよい。
下限ピッチ設定値 :N1(歩/分) 下限歩幅係数設定値:S1
普通歩行ピッチ設定値 :N2(歩/分) 普通歩幅係数設定値:S2
速歩ピッチ設定値 :N3(歩/分) 速歩歩幅係数設定値:S3
上限ピッチ設定値 :N4(歩/分) 上限歩幅係数設定値:S4
上記設定値について説明すると、N1〜N4は、上の70、95、125、160に替わる利用者の歩行特性に応じた値が設定される。S1〜S4は、身長に対する倍率として、S2は、0.40に、S3は0.45に替わる利用者の歩行特性に応じた値が設定される。S1、S4は、例えば、0.38、0.47などの値が設定される。
これらの設定値は設定値記憶部1にメモリーされることになる。
このパラメタ設定を可能にしたときは、(7)式〜(9)式に替わる補正関数は以下のようになる。尚、従前の0.45Lは、S3×Lに替わるため、以下に示す(10)式のみが同様に替わるが、他の内容に何ら影響を与えるものではない。
(7)式に替わる補正関数式
f(N)=(S2/S3−S1/S3)/(N2−N1)×(N−N2)
+(S2/S3)
(8)式に替わる補正関数式
f(N)=(1−S2/S3)/(N3−N2)×(N−N3)+1
(9)式に替わる補正関数式
f(N)=(S4/S3−1)/(N4−N3)×(N−N3)+1
歩幅補正値演算部5に入力された歩行ピッチNは、まず、上記3つのいずれのピッチ区間に入るかが判定され、(7)式、(8)式、(9)式のいずれかの補正関数が適用されて歩幅補正値f(N)が演算決定される。そして、歩幅補正演算部6入力される。
尚、歩行ピッチNが上下限を外れた場合は、デフォルト値としf(N)=0とすれば、後続する諸演算結果は0となり、後述する累計値などの演算に影響を与えないように出来る。或いは、歩行ピッチ演算部4の出力である歩行ピッチNは、演算部と表示部12にも入力されており、同部12で、歩行ピッチが上下限を外れたことを判定し、これを演算制御信号とし、当該演算周期での累計演算等を禁止するようにしてもよい。
歩幅補正値演算部5から出力される歩幅補正値f(N)及び設定値記憶部1にメモリーされている歩数計利用者の身長設定値Lが、歩幅補正演算部6に入力され、歩行ピッチの変化により生じた歩幅、即ち補正歩幅Sを、(10)式の演算により求める。
歩幅補正演算部6の出力である補正歩幅S(cm)と、歩行ピッチ演算部4の出力である歩行ピッチN(歩/分)が、歩行速度演算部7に入力される。そして、単位系を揃えた、(11)式で、歩行速度Vが演算される。
歩行速度演算部7の出力である歩行速度V(km/時)は、運動強度演算部8に入力される。ここでの演算は、歩行による運動強度が、「厚労省運動指針2006」の記載内容とも、またインターネット上の多くの関連情報の内容とも合うように、図2のグラフで示される特性を精度よく実現する必要があるが、同時に、出来る限り簡単な演算で実現出来るように考慮することも、演算負担軽減の観点から大事である。
先述は、5つの直線
からなる区分線形関数による特性近似であったが、実施例では、図2の4.0〜6.0km/時での3点と、6.0km/時〜8.0km/時での3点による、二つの回帰直線による特性近時として演算負担軽減を実現する。(12)式で運動強度M(メッツ)が演算される。尚、身体活動分を対象とするため、1メッツ分を差し引いている。
運動強度演算部7の出力である運動強度M(メッツ)は、エクササイズ演算部9に入力され、同部で演算周期時間10秒でのエクササイズ量Eが、(13)式で演算される。
エクササイズ演算部9の出力であるエクササイズE(Ex)は、設定値記憶部1にメモリーされている歩数計利用者の体重設定値Wとともに、消費カロリー演算部10に入力され、演算周期時間10秒での消費カロリーKが、(14)式で演算される。
消費カロリー演算部10の出力の消費カロリーK(kcal)は、脂肪燃焼量演算部11に入力され、演算周期時間10秒での脂肪燃焼量Gが、(15)式で演算される。
当該演算周期での演算結果である、歩行速度演算部7での歩行速度V、運動強度演算部8での運動強度M、エクササイズ演算部9でのエクササイズE、消費カロリー演算部10での消費カロリーK、脂肪燃焼量演算部11での脂肪燃焼量Gは、演算部と表示部12に入力される。尚、上記歩行速度V/360が当該周期での歩行距離である。
演算部と表示部12の演算部では、これらの歩行距離、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量などの累計対象データおよび歩行速度と運動強度の非累計対象データに対して、同部12の表示部で表示する内容に変換するため、以下の演算が施される。
累計対象データは、1演算周期前の累計値に加算され、一方、歩行速度と運動強度の非累計対象データは、1演算周期前の当該データとの間で平均値や最大値最小値演算が行われ、表示データとして更新される。歩数や歩行関連情報を履歴データとして表示するために、一定期間分を蓄積するようにしてもよい。
これらの表示データは、歩行関連情報として、歩数とともに、演算部と表示部12の表示部より利用者が確認することができる。設定値記憶部1の設定値は、同部12にも入力されており、同部12の表示部で設定値確認・変更がなされる。同表示部には、既存の液晶技術を利用して省電力化でき、歩数や歩行関連情報の現在値の数値表示だけでなく、履歴データのグラフ表示などにより、より付加価値の高い歩数計と出来る。
本発明の実施例ついて詳述した。本発明によれば、振り子式や加速度センサ式などの既存の歩数計測手段を問わず、計測された歩数と、設定されている利用者の身体データである身長によって、単位時間に計測される歩数、即ち歩行ピッチに基づき、中間ピッチ区間は勿論のこと、歩幅変化の少ない下方・上方ピッチ区間においても正確に歩行速度を求めることが出来、この歩行速度から「厚労省運動指針2006」他で示される公知の数値内容に基づく運動強度を正確に求めることが出来るため、この結果、歩行速度、運動強度以外の歩行距離とエクササイズを、設定されている利用者の身体データである体重を使って消費カロリーと脂肪燃焼量を、歩行関連情報として正確に計算できることになり、構造が単純で、従って安価な、かつ、歩数と併せて提供される歩行関連情報が正確さをもった歩数計を提供でき、産業上の利用可能性は大きい。
また、実施例でも説明したが、追加のパラメタ設定をすることで、歩幅補正関数の特性を歩数計利用者の歩行特性により近づけることができ、歩行関連情報の正確さを増すことが出来る。さらに、性別、年齢を設定して、1.05Wに替わる基礎代謝量により消費カロリーや脂肪燃焼量がより正確に計算できることになる。歩行関連情報の正確さを増すために、上記のような追加があったとしても、実施例に示した構成を採っているため、歩数計のブロック構成を変えることなく、一部の演算式の変更(例えば、歩幅補正値演算部5の三つのピッチ区間での補正関数の係数の変更)のみで柔軟に対応することが出来ることからも、これら追加設定の産業上の利用可能性は大きい。
身長や体重、性別や年齢などの基本データの設定は、利用者を煩わすことはないと考えられる。実施例で説明したが、本発明に係わる歩幅補正の特性を歩数計利用者の歩行特性により近づけるためには、パラメタを追加設定する必要がある。このパラメタは日常的に扱うデータではなく、設定するとなると煩わしさがある。そこで、パラメタの基準と出来る値は概ね決まっていることから(ピッチ:下限70、普通95、速歩125、上限160、歩幅係数:下限0.38、普通0.40、速歩0.45、上限0.47など)、これを歩数計初期値として予め設定しておけば、利用者は、必要がなければ初期値をそのまま使えばよく、また、必要に応じて初期値を変更すればよいので、設定の煩わしさを大幅に軽減できることになる。利用者サイドに立ったこのような工夫もすれば、このパラメタ設定追加の産業上の利用可能性は大きいと言える。
1 設定値記憶部
2 歩数計測部
3 タイマ
4 歩行ピッチ演算部
5 歩幅補正値演算部
6 歩幅補正演算部
7 歩行速度演算部
8 運動強度演算部
9 エクササイズ演算部
10 消費カロリー演算部
11 脂肪燃焼量演算部
12 演算部と表示部
運動強度の算出の構成に関しては、前記演算手段で算出された前記歩行速度を歩行速度に関する一つまたは複数の回帰式に代入して得られる結果の最大値を運動強度として前記演算手段でさらに算出する構成であって、歩行速度に関する前記一つまたは複数の回帰式を、歩行速度に対する運動強度の関係を区分線形関数で表し、一つまたは複数に分割した歩行速度区間ごとに回帰分析を行って得られる一つまたは複数の回帰直線の回帰式とすることを特徴とする。
算出された歩行速度と運動強度に基づいて歩行距離、エクササイズ、消費カロリー、脂肪燃焼量などを算出して歩数と併せて表示提供する構成に関しては、前記演算手段でさらに、前記演算手段で算出された前記歩行速度と前記運動強度とに歩行時間を乗じて歩行距離とエクササイズとを算出し、前記エクササイズに基礎代謝量を乗じて消費カロリーを算出し、前記消費カロリーから脂肪燃焼量とを算出し、前記歩数計測手段で計測された歩数と併せて前記演算手段で算出された歩行速度または歩行距離または運動強度またはエクササイズまたは消費カロリーまたは脂肪燃焼量の少なくとも一つを表示する表示手段とを備える構成であって、前記基礎代謝量を、前記設定手段に設定された身長に加えて設定された歩数計利用者の体重に係数1.05を乗じた値、または前記設定手段にさらに加えて設定された歩数計利用者の性別と年齢と前記身長と前記体重とから計算される値のいずれかとすることを特徴とする。
先述は、5つの直線からなる区分線形関数による特性近似であったが、実施例では、図2の4.0〜6.0km/時での3点と、6.0km/時〜8.0km/時での3点による、二つの回帰直線による特性近
似として演算負担軽減を実現する。(12)式で運動強度M(メッツ)が演算される。尚、身体活動分を対象とするため、1メッツ分を差し引いている。
運動強度演算部
8の出力である運動強度M(メッツ)は、エクササイズ演算部9に入力され、同部で演算周期時間10秒でのエクササイズ量Eが、数式13で演算される。
運動強度演算部8の出力である運動強度M(メッツ)は、エクササイズ演算部9に入力され、同部で演算周期時間10秒でのエクササイズ量Eが、
(13)式で演算される。