JP2013173767A - 解毒療法に使用するためのヒトアルブミンを高効率で得る方法 - Google Patents

解毒療法に使用するためのヒトアルブミンを高効率で得る方法 Download PDF

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Abstract

【課題】解毒療法又は細胞培養における使用のための、分子を輸送する高い能力を有するヒトアルブミンを得る方法の提供。
【解決手段】a)コーン法による血漿の分画の第1の透析(ダイアフィルトレーション)を行う工程、b)脂肪酸の添加を伴わない、NaCl及びN−アセチルトリプトファンによる前記透析した分画を安定化する工程、c)前記安定化させた分画を低温殺菌する工程、及び、d)前記低温殺菌された分画の第2の透析(ダイアフィルトレーション)を行う工程、からなる方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、用途の中でも特に、例えば解毒療法又は細胞培養における使用のための、分子を輸送する高い能力を有するヒトアルブミンを得る方法に関する。本発明は、分子を輸送する高い結合能力をするヒトアルブミンを精製するために、及びそれにより血中の毒素を排除することによる、好ましくはアルブミン注入方法、血漿交換療法及び体外システムによりアルブミンを置換することによる解毒療法の効率を増大させるために実施された実験に基づく。本発明によれば、上記方法は、安定剤を伴わないか、或いは高い結合能力を維持させるための特定の安定剤を伴う、ウイルスの不活化された治療的使用のための、かつ、高い結合能力を有するアルブミン溶液を得る方法を含む。
本発明の本質的な性質は、請求項1に規定される。
従属請求項2ないし22は、本発明の他の優先的態様を規定する。
アルブミンは、量的に、ヒト血漿中で最も重要なタンパク質であり、血液のコロイド浸透圧の維持において基本的な役割を果たす。アルブミンはまた、その抗酸化活性及び抗フリーラジカル活性、また各種内因性物質及び外因性物質(例えば、リガンドの中でも特に、脂質、脂肪酸、胆汁酸塩、薬物及び有毒物質)との結合に対する親和性のような他の特性を有する。
アルブミンの治療的使用は、数名の著者等によれば、重症アルブミン欠損症、血液量減少性症候群又はショック(重症の火傷、外傷又は出血)、慢性腎疾患に起因する低タンパク質血症及び肝硬変を伴う患者における、また心肺バイパス、急性呼吸窮迫症候群、血液透析及び高ビリルビン血症の場合における置換療法として適応されている。アルブミンはまた、腹水、急性ネフローゼ、急性ネフローゼ症候群、膵炎、腹腔内感染及び急性肝機能不全の治療においても使用される。
血中の主要な輸送用分子として、血清アルブミンは、脂肪酸、ビリルビン等のような親油性物質に特異的な結合部位を有する。アルブミンリガンドの大部分は、2つの結合部位I又はIIのうちの1つに結合する。遊離脂肪酸、金属イオン(例えば、銅)及びビリルビンは、特異的な結合ドメインに選択的に結合する。
一般に、これらの物質はアルブミンにより肝臓へ輸送され、そこでこれらの物質は分解される。肝不全の場合、これらの有毒物質は、アルブミンに結合された状態のままで留まり、その結合能力を飽和させ、血中の毒素のレベルの増加をもたらし、それは組織中に蓄積して、全身多臓器不全を引き起こし、患者の死を引き起こし得る。これらの場合、治療は、市販治療用アルブミンの結合能力から利益を得る体外肝臓サポートシステムにより実施され得る。より高い結合能力を有するアルブミンを有することは、このタイプの治療においてより有効であり得る。
アルブミンの、多種多様な物質(例えば、代謝産物、金属、毒素、脂肪酸、ホルモン等)を捕捉及び輸送する能力が、このタンパク質を非常に重要なものにしている。
ヒト血漿からアルブミンを得る方法は通常、コーン法(非特許文献1)によれば、血漿のアルコール分画の画分V(FrV)に始まる。あまり頻繁ではないが、このコーン分画の上清(S/N)(例えば、画分IVのS/N又は画分II+IIIのS/N)のような他の出発材料もまた使用することができる(例えば、イオン交換クロマトグラフィのような精製のさらなる段階を含む)。
90%〜95%を超えるアルブミン精製レベルを伴うこれらのコーン分画中間体に始まる精製方法は通常、溶液中に存在するエタノールの効果により不溶化されるポリマー、凝集材料及び他の化合物(例えば、リポタンパク質)の分離に基づく。これらの化合物の最適な分離に関して、アルブミンの濾過助剤(珪藻土)及び/又は不溶性無機ケイ酸塩(ベントナイト)又はコロイドシリカを懸濁液へ添加することが望ましい。任意に、出発材料のタンパク質混入物質のタイプに応じて、イオン交換体を添加して、アルブミンの吸着を防止する条件を維持することが望ましい場合がある。
続いて、溶液からのエタノールの排除は、限外濾過機器におけるダイアフィルトレーションにより達成され、これはまた、金属イオン及び有機カルボン酸陰イオン(例えば、クエン酸塩)の排除も可能にする(特許文献1)。この限外濾過はまた、アルブミン溶液を所要の濃度へ至らせることが可能である。
さらに、最終製品を不安定化し得るアルブミン溶液中に残存する任意の熱不安定性化合物を変性及び不溶化するために、溶液の加熱処理(好ましくは、56℃〜63℃の熱ショック)を実施する可能性も存在する。この熱処理はまた、アルブミンの通常の混入物質の1つであるプレカリクレイン活性化因子(PKA)の活性を低減させるのに有用である。
段階の順序付け又はさらなる精製段階を付加することに関して、上述するものに対する変形形態を表すアルブミン精製の種々の方法が記載されている。
他の方法は、画分V又はFrIVの上清に始まるイオン交換クロマトグラフィによるアルブミン精製を包含する(例えば、特許文献2又は特許文献3)。特許文献4は、ゲル中での先の濾過段階を伴う、同様にイオン交換クロマトグラフィによるFr II+IIIの上清から始まる方法を示唆する。
現在既知の方法により血漿から得られる治療的使用のためのヒトアルブミン溶液は、概して総タンパク質15%〜25%を有する濃縮溶液(これは、高浸透圧であり、血管外区画から血管内区画への流体の移動を引き起こす)の形態で、或いは総タンパク質3.5%〜5%の等張溶液(これは、血漿と等浸透圧性である)の形態で見られる。これらの溶液の配合物は、総タンパク質95%を超える精製レベルを有するアルブミン、及び安定剤を含有する。
他の生物学的製剤と同様にヒト血漿プールからアルブミン溶液を得る場合、ウイルス又は他の病原因子からの伝染の危険性を排除することはできない。これにもかかわらず、現在の治療用アルブミンは、この危険性にもかかわらず安全な血液製剤とみなされる。これは、アルブミン溶液が低温殺菌(一般的に最終バイアル中で60℃〜63℃で少なくとも10時間の熱処理)されるという事実に特に起因する。
ヒト血漿を分画することから初めてアルブミン溶液が調製された(非特許文献2)日付である1941年から、アルブミン溶液を安定化するための研究が始まり、1945年には、N−アセチルトリプトファンによる、カプリル酸ナトリウムによる又は2つの混合物によるアルブミン溶液の安定化が達成された(非特許文献3)。アルブミン溶液の安定化は、研究の対象であり続けた(非特許文献4、非特許文献5)が、今日まで有意な変形形態は存在しておらず、この安定化の形態が、各種国家の規制当局により受け入れられてきた(例えば、ヨーロッパ薬局方;ヒトアルブミン溶液モノグラフ0255)。したがって、目下、アルブミンの市販製剤は概して、低温殺菌の方法中での重合を回避するために、及びその有効期限まで製品の保管中の安定性を保証するために、安定剤としてカプリル酸塩及び/又はN−アセチルトリプトファンを含有する。
高ビリルビン血症の治療で見られるように、アルブミンの治療効果が、その排除に先立つメカニズムとして、有毒化合物を捕捉する場合に生じる場合、治療の効率は、空いた結合部位を有するアルブミンに依存する。
新生児における高ビリルビン血症のモデルによる研究では、非特許文献6は、N−アセチルトリプトファンがビリルビンを強力に押しのけ、そのためカプリル酸塩単独で安定化されたアルブミンと対比して、N−アセチルトリプトファン及びカプリル酸塩で安定化されたアルブミンは効率が低減することを明らかにしている。2つの製剤のいずれもビリルビンにより引き起こされる脳障害に対する防御に有効であるにもかかわらず、データは、N−アセチルトリプトファンによる安定化が高ビリルビン血症の治療に適さないことを示しているようであり、カプリル酸塩によるアルブミンの安定化の有利性を実証している。
同様にアルブミンの、トリプトファン及びカプリル酸塩を含む様々な化合物に結合する親和性及び能力についての他の研究では、アルブミン結合部位に対して各種化合物間で競合が存在することが明らかにされており(非特許文献7)、トリプトファンが特異的な部位でアルブミン分子に結合するのに対して、カプリル酸塩(オクタン酸塩)は、様々な部位でアルブミン分子に結合し、アルブミンの、他の化合物に結合する能力の低減を引き起こすことが認められている。
これらの安定剤が少なくともアルブミン結合部位IIに結合して、低温殺菌されたアルブミンの輸送機能を妨害し、このアルブミンの静脈内注入後の内因性リガンド(毒素等)の結合を少なくとも部分的に阻害し得ることは、目下何の疑いの余地もない。
精製方法中及び最終組成物中の両方で、N−アセチルトリプトファン及び/又はカプリル酸ナトリウムの使用を回避するアルブミン生産方法を開発する試みがこの方向で成されてきた。
特許文献5は、N−アセチルトリプトファン及びカプリル酸塩群の安定剤の包含を回避するアルブミン調製方法に関する。これに関して、本発明者等は、低温殺菌を置き換えるために溶媒−洗剤(SD)による処理によるウイルス不活化段階を選択している。SDによる処理は、脂質エンベロープを有するウイルス不活化において大きな効率を示しているが、エンベロープを有さないウイルスの排除に対して有意な効果を有さない。この方法の別の不利点は、SD不活化試薬を排除する必要性であり、これは、方法を複雑にし、方法を引き延ばし、かつ、方法をより高価にさせる抽出段階の包含を含む。最終的に、周知のように、アルブミン溶液中のPKAの存在は加熱により部分的に低減される。この特許は加熱処理を包含しないため、この排除のための特異的な段階を含まなくてはならず、この方法をより一層複雑にしている。
特許文献6もまた、低温殺菌を回避する方法を開発すること、それによりN−アセチルトリプトファン及びカプリル酸塩群の安定剤を添加することにより、より大きな結合能力を有するアルブミンを得る試みに関する。この方法は、ヨウ素化合物の殺生物能力を利用する。ヨウ素に対するアルブミン分子の親和性、したがってアルブミンの、その殺生物効果を中和する能力に起因して、この方法は、上記特許によれば、アルブミンの結合能力を飽和させるのに十分量でのヨウ素化合物の添加を要し、また十分な遊離ヨウ素を、殺生物効果を伴って溶液中に残存させるのを可能にする。この点において、方法の再現性は、達成するのが容易であるとは思われず、この態様は、病原体の排除の段階にとって基礎を成す。さらに、この方法は、不活化試薬の排除を必要とし、これもまた、方法を複雑にし、方法を引き延ばし、かつ、方法をより高価にさせる抽出段階の包含を含む。上記特許で言及されていない考慮されるべき別の態様は、アルブミン溶液中のPKAの存在である。先の場合と同様に、熱処理が実施されない場合、方法を複雑にするPKAの排除のための特異的な段階が包含されなくてはならない。
スペイン国特許第P 2,107,390号 米国特許第5,346,992号 欧州特許第0367220号 米国特許第4,288,154号 国際公開第2004071524号 米国特許第5.919.907号 Cohn et al., J Am Chem Soc, 1946, 68, 459-475 Cohn et al. Chem. Rev., 1941, 28, 395 Scatchard G, et al, J. Clin. Invest. 24:671-676, 1945 Finlayson J.S. et al, Vox Sang. 47:7-18, 1984 Finlayson J.S. et al, Vox Sang. 47:28-40, 1984 Ebbesen. F. (Acta Pediatr. Scand. 71:85-90, 1982) Kragh-Hansen U. Biochem. J., (1991) 273, 641-644
実施された研究により、本発明者等は、カプリル酸ナトリウムとアルブミン分子との間の結合は逆戻りすることは困難であり、これがカプリル酸塩で安定化されたアルブミンによる毒素の結合に関してより小さな能力をもたらすことを明らかにしてきた。さらに、本研究者等は、N−アセチルトリプトファンとアルブミン(治療的用途のため、コーン法及びその変更形態に従って調製される)との間の結合はより容易に可逆的であることを明らかにしてきた。N−アセチルトリプトファンを用い、かつ、カプリル酸塩を用いない安定化の可能性により、低温殺菌によるウイルス不活化の段階を包含する方法を、アルブミンを得るために実施することが可能となり、その結果アルブミンは、少なくとも1つのアミノ酸及び塩化ナトリウムの存在下で(しかし、脂肪酸の添加は伴わない)安定化される。驚くべきことに、包括的な透析(ダイアフィルトレーション)方法を包含するこの低温殺菌されたアルブミンに関する精製方法の実行は、低温殺菌されたアルブミンに関してより大きな結合能力をもたらす。
安定剤及びその濃度の関数としてアルブミン結合能力の比較を示すグラフである。 各種アルブミンの結合能力の比較を示すグラフである。 20%アルブミン結合能力の安定性を示すグラフである。 0.15M 塩化ナトリウムで安定化された本発明のアルブミンの結合能力を示すグラフである。
本発明の方法によれば、方法の中間相として低温殺菌によるウイルス不活化の段階を実施することが可能である。このようにして、本発明者等は、病原体の伝染の考え得る危険性に関して今日まで既知である治療用アルブミンにより実証される優れた安全性レベルを維持することができ、PKAの低減を達成することができる。
本発明で開発された方法により、その結合能力の低減並びにそれにより例えば細胞培養及び解毒療法における物質の捕捉物質及び輸送物質としてのより低い効率を引き起こすその自然状態で、アルブミンに密接に関連される化合物(本質的に、脂質及び脂肪酸)の低減を可能にするため、血漿中に存在する正常アルブミンの結合能力を含む優れた結合能力を有するアルブミンを得ることも可能である。上記方法はまた、低温殺菌が方法の中間相で実施される場合に、添加される安定剤の低減を可能にする。そのようにして調製されるアルブミンは、分子及び同類の化合物を結合並びに輸送する非常に高い能力を有する。
この高い結合能力アルブミンの調製に関して、例えばペーストでの(沈殿物として)部分的に精製されたアルブミン濃縮物を用いて開始することができる。このアルブミンに関する出発材料は、コーン法(又はその変形)によるアルコール分画により、或いは同等純度(通常、アルブミン95%)のアルブミンが得られるのを可能にする他の分画方法により得られる画分V又は画分VR(再沈殿物)であり得る。
アルブミンの他の供給源は、このコーン分画のアルコール上清(S/N)、例えば画分IVのS/Nから、又は画分IV(1)+IV(4)のS/Nから、又は画分IV(4)から、又は他の上清(画分IV(1)のS/N又は画分II+IIIのS/N)から得ることができ、それに対して、所要の精製の度合い(アルブミン95%)に到達するために、精製のさらなる段階、例えばクロマトグラフィが包含されている。
このようにして精製されたアルブミンは、水性媒質中で1%を上回る濃度に、通常8±2%(p/p)に可溶化され、得られたpHは通常、4.7±0.5であり、したがってアルブミン自体の等電点に近い。
アルブミンが画分V又はコーン分画の上清に由来する場合、残留エタノール含有量は通常6%である。さもなければ、エタノールは、指示される最少濃度6%に至るまで添加される。エタノールの添加中、又は出発材料の可溶化において、懸濁液は−3℃〜10℃の温度に冷却され、この温度範囲内で維持されて、含水アルコール媒質の変性効果を防止する。
これらの条件下で、不溶化された化合物は沈殿したままで残され、濾過助剤(珪藻土)及び/又は不溶性無機ケイ酸塩(ベントナイト)又はコロイドシリカがアルブミン懸濁液に添加される。任意に、出発材料のタンパク質混入物質のタイプに応じて、パーライトタイプの無機イオン交換体、或いはさらにはアミノ/アンモニウム(DEAE、QAE)官能基を有する合成物、例えばDEAE−セファデックスを添加することが望ましく、アルブミン自体の吸着を防止するためにpHは4.2〜5.2にとどまる。続いて、イオン交換体の非存在下では、懸濁液のpHは、4.2〜7.5に至らせることができ、好ましくはpH6.8〜7.2に調節され得る。
0.2μm以上の大きさの粒子の保持を可能にするメッシュを有するフィルタを使用する深層濾過による懸濁液は以下で説明される。濾液は、エタノールにより不溶化される変性されたタンパク質及び他の化合物(基本的にはリポタンパク質)の不溶性残留物を本質的に含まないアルブミン溶液である。
得られた製品は、ポリエーテルスルホン膜又は等価体によるダイアフィルトレーションに付され、その公称分子カットオフは、1〜50kDa、好ましくは10〜30kDaである。注射用の水、又は好ましくは0.15M濃度のNaClの生理食塩水溶液を用いたダイアフィルトレーションは、先の段階に由来する濾液で見出されるpH4.2〜7.5の同じ条件下で達成することができるが、好ましくは、脂質の存在に応じて、pH4.2〜5.2へ調節するための選択が成される。さらに、生理食塩水濃度はまた、アルミニウム又は鉄のような金属イオン、及びクエン酸塩のようなより強力に結合される有機カルボン酸の陰イオンの解離を促進する。
限外濾過の従来の技法によれば、第1の相の濃度へと進み、タンパク質およそ8〜15%に到達し、次に一定容量で溶媒を添加することによりダイアフィルトレーションが実施される。ダイアフィルトレーション溶液の量は、3容量以上、好ましくは7容量を上回らなくてはならない。
中性に近いpHへ調節されたアルブミン溶液は、濃度0.15MへのNaCl及び好ましくはN−アセチルトリプトファン 0.096mmol/アルブミン 1gの量を使用して少なくとも1つのアミノ酸を添加することにより安定化させることができる。この安定化された溶液は、0.2μm孔径に通す絶対濾過により滅菌することができ、中間材料としてバルクで収集し、この相におけるその低温殺菌を推進する。
低温殺菌によるウイルスの不活化は、ウイルスが脂質コーティングを有するか、又は有さないかどうかとは無関係に有効であるという利点を有し、このことは、例えばSDによる化学処理に対して明らかな利点である。
中間熱処理バルク溶液は、濾過により浄化されて、先の段階中に添加される安定剤を低減させるために包括的なダイアフィルトレーションを受ける。
第2のダイアフィルトレーション段階は、熱処理前の初期相で見られるのと同じ適用の条件下で実施されて、最終アルブミン溶液が等張状態(isotonia)(およそ0.15M NaCl)に達することを可能にし、タンパク質濃度は、およそ3.5%〜25%の所望の値に調節される。
安定剤として使用されるN−アセチルトリプトファンがダイアフィルトレーションにより示される形態で広範囲に排除されることを考慮して、ダイアフィルトレーション溶液の適用用量の数は、残存する安定剤の量の関数として明らかにされている。
任意に、ナノフィルトレーションによるウイルス排除の段階を方法に付加することが可能である。ナノフィルトレーションによるウイルス排除もまた、低温殺菌と同様に、コーティングされたウイルスが関連しているか、又はそうでないかとは無関係に有効である。ナノフィルトレーションの効率は、濾過されるべき溶液に応じて、使用されるナノフィルタの孔径の関数である。アルブミン溶液の場合、ナノフィルトレーションは、15nmの孔径を用いて可能であり、それにより最少であるとみなされるウイルスの有意な低減が保証され得る。低温殺菌の補充としての非常に小さなサイズの孔を用いたナノフィルトレーション段階の組込みは、得られたアルブミンの結合能力がそれにより影響を及ぼされない場合には安定剤の存在を要さない。さらに、低温殺菌及びナノフィルトレーションの組合せは、より高いレベルが適切である場合には製品の安全性レベルを増大させる。
血液により伝染可能であるウイルス(最も微小のものを含む)に関して、アルブミンを実際に有効であるものにさせるようにアルブミンのナノフィルトレーションを達成するためには、化合物の内容物が高分子量であるか、又は製品中に存在する凝集体が非常に分離していることが必要とされ、したがって熱処理前の時点でこの段階を実行することが望ましい。
現時点では、種々の濾過孔径の市販ナノフィルタの使用が記載されており、ウイルスに関する保持効率は、選択される孔径に応じて様々である。アルブミンの適用に関しては、50nm、35nm、20nm及び15nmのフィルタを使用することができ、これらはまた、2つ以上で連結させて、孔径の減少勾配を形成することができる。また、同じ孔径を有する二重ナノフィルトレーションを達成することも可能であり、これは考え得る病原体の保持を増大させる。
タンパク質の濃度に関する条件は、ナノフィルタ孔径に応じて様々である。したがって、15nm及び20nmよりも小さいサイズに関しては、アルブミンを5%未満、好ましくは0.5〜2%の濃度に完全に希釈することが望ましい。しかしながら、孔径が35nm〜50nm又はそれ以上である場合、アルブミン5%の濃度での直接的なナノフィルトレーションが実行可能である。外気温度(18〜25℃)及びほぼ中性のpH条件が、濾過を促進するのに最も適切である。
いかなる場合でも、ナノフィルトレーション後の限外濾過による濃度は、所望の最終配合物に調節する必要があり得る。
本発明の高効率アルブミンの許容可能な保存は凍結乾燥であり、このために安定剤の使用は必要とされない。
溶液中でのアルブミンの保存に関して、その安定化が必要である場合があり、これは、0.15M 塩化ナトリウムで達成することができる。この形態で安定化されたアルブミンは、それが冷蔵される場合には(2〜8℃)、正確なレベルの安定性を有する。
安定化の別の形態は、0.15Mの塩化ナトリウム及び0.096mmol/アルブミン 1グラム以上、好ましくは0.16mmol/アルブミン 1グラムの濃度でのN−アセチルトリプトファナートを用いて実施される。この配合物で安定化される溶液は、30℃未満又は最大30℃の温度で液体中で少なくとも30ヵ月間、或いはより短期間(但し、より高温で)保たれることに関して正確なレベルの安定性を有する。いかなる場合でも、脂肪酸の組込みは回避されなくてはならない。
アルブミン結合能力(ABiC)を測定するために、ダンシルサルコシルのような特異的な蛍光分析マーカーを、アルブミンの結合II部位へ結合する際に生じる蛍光の変化に基づく方法が使用される。各種アルブミンサンプルを同濃度へ希釈して、それらをマーカーとともにインキュベートした後、結合されていないマーカー分子は、蛍光分析検出(λ励起=355nm及びλ発光=460nm)により遊離のダンシルサルコシンの量を評価することにより、濾過により分離される。結合能力は、下記の通りに定量化される。
%ABiC=(対照アルブミンRFU−対照白色アルブミンRFU)/(サンプルRFU−サンプルの白色RFU)×100
(RFU:相対蛍光単位)
この方法により結合能力を測定し、かつ、天然ヒト血漿アルブミン(100%)の結合能力を対照として捉えて、本発明者等は、高い結合能力が天然ヒト血漿アルブミンの結合能力の少なくとも80%以内であると考えている。
本発明の目的で、高いアルブミン結合能力は、カプリル酸ナトリウムで又はカプリル酸ナトリウム及びN−アセチルトリプトファンの混合物で安定化された市販アルブミンの結合能力よりも高い%のABiC値として定義される。
具体的には、本発明は、下記段階を含む高い分子結合能力を有する低温殺菌されたアルブミン溶液を得る方法で構成される。
a)第1の透析(ダイアフィルトレーション)
b)NaCl及び少なくとも1つのアミノ酸での上記溶液の安定化
c)上記溶液の加熱
d)第2の透析(ダイアフィルトレーション)。
この方法は、その起源(ヒト血漿に由来するか、或いは組換え方法又は形質転換方法により得られる)に関係なく任意のアルブミン溶液に適用可能である。
分子に関して高い結合能力を有するアルブミン溶液を得る方法は、ウイルスを不活化させて、PKA含有量を低減させるために、アルブミン溶液を加熱すること(低温殺菌)を包含する。この加熱プロセスは、61±2℃の温度で10.5±0.5時間実施される。
アルブミン溶液が加熱されるのを可能にするためには、アルブミン溶液は、0.15M又はそれ以上の濃度の塩化ナトリウム(NaCl)及び少なくとも1つのアミノ酸の添加により安定化される。このアミノ酸は好ましくは、N−アセチルトリプトファン 0.096mmol/アルブミン 1g又はそれ以上の量のN−アセチルトリプトファンである。
この方法は、具体的にアルブミン溶液に脂肪酸を添加しないことを特徴とする。
分子に関して高い結合能力を有するアルブミン溶液を得る上述の方法は、結合能力を低減させるアルブミンに連結される物質のダイアフィルトレーションによる排除を包含する。アルブミンに連結されるこれらの物質は、その精製前にアルブミンにすでに結合されている天然リガンド又は精製方法中に添加される物質(安定剤)であり得る。
アルブミンに連結される物質のダイアフィルトレーションによる排除は、2段階で実施される。ダイアフィルトレーションの第1の段階は、溶液を加熱するための安定化前に実施される。ダイアフィルトレーションの第2の段階は、溶液を加熱した(低温殺菌)後に実施される。ダイアフィルトレーションの第2の段階では、安定剤として添加されるアミノ酸が排除される。
分子に関して高い結合能力を有するアルブミン溶液を得る上述の方法では、ダイアフィルトレーションの段階は、3容量以上、好ましくは7容量のNaCl溶液で実施される。NaClの溶液のダイアフィルトレーションに続いて、それは、溶液の塩の濃度を所望の値へ調節するように水中でダイアフィルトレートされる。
本発明は以下の実施例を参照してより詳細に記載されるが、本発明は以下の実施例に限定されない。
[実施例1]
N−アセチルトリプトファン及びカプリル酸ナトリウム安定剤によるアルブミン結合能力(ABiC)に対する影響の比較
高い結合能力を有するアルブミンを達成するために、市販製剤を安定化するのに通常使用されるカプリル酸ナトリウム及びN−アセチルトリプトファン安定剤が、安定化を伴わないアルブミン結合能力にどの程度影響を及ぼすかを評価することにした。
これに関して、ABiCを確立された方法に従って測定した(但し、安定剤を伴わないアルブミンを対照と捉えた)。各賦形剤(N−アセチルトリプトファン及びカプリル酸塩)の別個の溶液を増加濃度で調製した。各溶液1mlを、安定剤を伴わないアルブミン1mlとともにインキュベートした(最終アルブミン濃度1%)。次に、ダンシルサルコシン1mlを各混合物へ添加して、アルブミン結合能力定量化方法を使用して、通常の方法を行った。
得られた結果(図1)は、同濃度の賦形剤に関して、アルブミン結合能力は、N−アセチルトリプトファンが添加される場合よりも、カプリル酸塩が添加される場合に低いことを示す。これらの結果は、N−アセチルトリプトファンの親和性よりも高いカプリル酸塩のアルブミンに対する親和性を支持する。
[実施例2]
各種市販アルブミン濃縮液及び本発明で記載される方法に従って調製されるアルブミン(安定剤を伴わない、及び0.16mmol/gでのN−アセチルトリプトファンにより安定化)を用いた血漿アルブミン結合能力(ABiC)の比較(図2)
天然血漿アルブミン(100%)により示される結合能力(A欄)を対照アルブミンと捉えて、本発明者等は、アルブミンの種々の市販濃縮液において、0.064mmol/アルブミン 1g〜0.096mmol/アルブミン 1gの安定剤、即ちN−アセチルトリプトファン及びカプリル酸ナトリウムの濃度を用いる場合、結合能力は、全てにおいて同規模であり(48%〜57%)(B欄〜G欄)、カプリル酸ナトリウム(0.099mmol/アルブミン 1g)のみで安定化される市販アルブミンの結合能力(52%)(H欄)と同規模であることを観察している。この結合能力は、血漿アルブミンの結合能力よりも低い。
また、本発明により得られるアルブミンのより高い結合能力(安定剤を伴わない場合(127%)(I欄)又は0.16mmol/gでのN−アセチルトリプトファンで安定化されたもの(80%)(J欄))は、それをアルブミンの市販濃縮液と比較する際に観察される。
これらの結果は、一方では、優れた結合能力を有するアルブミンを得る上述の精製方法の利点を、他方では、分析された安定剤、即ちカプリル酸ナトリウム及びN−アセチルトリプトファンにより引き起こされる結合アルブミン能力に対するかなりの妨害を示す。
[実施例3]
アルブミン溶液の安定性
本発明の方法により得られる濃度20%でのアルブミン溶液を、0.15M 塩化ナトリウム及び0.16mmol/アルブミン 1グラムの濃度のN−アセチルトリプトファナートで安定化し、国際的に調和されたレベルであるQ5C「生物工学的/生物学的製剤の安定性試験(Stability testing of Biotechnological/Biological products)」及びQ1A(R2)「新規薬物、物質及び製品の安定性試験(Stability testing of new drugs, substances and products)」の現行の規制に従ってその安定性の試験を行った。
表示されるアルブミンの3つのバッチのリアルタイムにおける安定性データにより、製品が安定な状態を保ち続けることが示される。具体的には、結合能力は、研究の開始、5℃±3℃で少なくとも30ヵ月の保管後、及び30℃±2℃で少なくとも30ヵ月の保管後に関して、あまり変動を示さない(図3)。実際に、長期にわたる結合能力結果で観察される変動は、5℃及び30℃で並行して見られ、したがってこの結合能力の真の変動というより、異なる日に実施された試験の実変動性に起因し得るものである。
[実施例4]
本発明の方法により得られ、かつ、0.15M 塩化ナトリウムで安定化されたアルブミン溶液の安定性
5℃、30℃及び40℃の保管温度での表示されるアルブミンのリアルタイムの安定性データにより、製品が5℃の温度で安定な状態を保ち続けることが示される。この温度で、結合能力(図4)は、研究の開始に関して大きな変動を示さず、またN−アセチルトリプトファンで安定化されたアルブミンとは匹敵するものではなかった。分子分布及び濁度データ(表1)もまた、このアルブミン溶液の安定性を支持する。
0.15M 塩化ナトリウムで安定化された本発明のアルブミンの安定性
本発明の方法を以下の略図で示す。
アルブミン溶液

第1のダイアフィルトレーション及び濃縮

安定化(NaCl及びN−アセチルトリプトファン)

低温殺菌

第2のダイアフィルトレーション及び濃度の調節
上述から理解され得るように、本発明者等は、アルブミンの安定化及びそれに関連する安定剤の排除並びにアルブミンの結合に関する能力に対するそれらの影響に関して実施される研究によって、解毒療法のための高い結合能力を有するヒトアルブミンの使用の多大なる利点を実証してきた。
解毒療法で使用されるヒトアルブミンは、その最終配合物が全体的に安定剤を欠いているというよりも、高い結合能力をもたらす安定剤を包含するという事実によって特徴づけられる。
解毒療法は、患者へのアルブミンの注入により、患者における血漿交換療法及びアルブミンの置換により実施され得るか、或いはまた体外システムで実施され得る。
本発明は、実施例に従って説明してきたが、実施例は、本発明の範囲を限定するものではない。したがって添付の特許請求の範囲に包含されるバリエーション全てが本発明の範囲内であるとみなされるべきである。

Claims (32)

  1. 分子を結合する高い能力を有するヒトアルブミン溶液を得る方法であって、
    a)コーン法による血漿の分画の第1の透析(ダイアフィルトレーション)を行う工程
    b)脂肪酸の添加を伴わない、NaCl及びN−アセチルトリプトファンによる、前記透析した分画を安定化する工程
    c)前記安定化させた分画を低温殺菌する工程、及び
    d)前記低温殺菌された分画の第2の透析(ダイアフィルトレーション)を行う工程
    からなることを特徴とする方法。
  2. 前記分画がヒト血漿に由来する、請求項1に記載の方法。
  3. 記低温殺菌、ウイルスを不活化して、PKA含有量を低減するように行われる、請求項1に記載の方法。
  4. 記低温殺菌が61±2℃の温度で実施される、請求項3に記載の方法。
  5. 前記低温殺菌が10.5±0.5時間実施される、請求項4に記載の方法。
  6. 前記分画が、0.15Mの濃度のNaCl及びN−アセチルトリプトファンで安定化される、請求項1に記載の方法。
  7. 前記N−アセチルトリプトファンの量が、N−アセチルトリプトファン0.096mmol/アルブミン1gである、請求項に記載の方法。
  8. 結合能力を低減させる、アルブミンに結合した物質のダイアフィルトレーションによる排除を包含する、請求項1に記載の方法。
  9. 結合能力を低減させるアルブミンに結合した物質の排除のための2段階のダイアフィルトレーションを包含する、請求項に記載の方法。
  10. 前記アルブミンに結合した前記物質は、その精製前に前記アルブミンにすでに結合されている天然リガンド又は該精製方法中に添加される物質(安定剤)であり得る、請求項に記載の方法。
  11. 前記ダイアフィルトレーションの第1の段階は、前記分画の安定化前に実施される、請求項に記載の方法。
  12. 前記ダイアフィルトレーションの第2の段階は、前記分画の低温殺菌後に実施される、請求項に記載の方法。
  13. 安定剤として添加される前記N−アセチルトリプトファンの排除は、前記第2のダイアフィルトレーション段階で実施される、請求項12に記載の方法。
  14. 前記ダイアフィルトレーションがNaCl溶液で実施される、請求項に記載の方法。
  15. 前記ダイアフィルトレーションが、3容量以上の前記NaCl溶液で実施される、請求項14に記載の方法。
  16. 前記NaCl溶液でのダイアフィルトレーション後に、ダイアフィルトレーションを、前記溶液の塩の濃度を所望の値に調節するように水で実施する、請求項14に記載の方法。
  17. 分子を結合する高い能力を有するヒトアルブミン溶液を得る方法であって、
    a)コーン法による血漿の分画の第1の透析(ダイアフィルトレーション)を行う工程、
    b)脂肪酸の添加を伴わない、NaCl及びN−アセチルトリプトファンによる、前記透析した分画を安定化する工程、
    c)前記安定化させた分画を低温殺菌する工程、
    d)前記低温殺菌された分画の第2の透析(ダイアフィルトレーション)を行う工程、及び
    e)前記工程d)の後に、NaCl及びN−アセチルトリプトファナートを添加する工程、
    からなることを特徴とする方法。
  18. 前記分画がヒト血漿に由来する、請求項17に記載の方法。
  19. 前記低温殺菌が、ウイルスを不活化して、PKA含有量を低減するように行われる、請求項17に記載の方法。
  20. 前記低温殺菌が61±2℃の温度で実施される、請求項19に記載の方法。
  21. 前記低温殺菌が10.5±0.5時間実施される、請求項20に記載の方法。
  22. 前記分画が、0.15Mの濃度のNaCl及びN−アセチルトリプトファンで安定化される、請求項17に記載の方法。
  23. 前記N−アセチルトリプトファンの量が、N−アセチルトリプトファン0.096mmol/アルブミン1gである、請求項17に記載の方法。
  24. 結合能力を低減させる、アルブミンに結合した物質のダイアフィルトレーションによる排除を包含する、請求項17に記載の方法。
  25. 結合能力を低減させるアルブミンに結合した物質の排除のための2段階のダイアフィルトレーションを包含する、請求項24に記載の方法。
  26. 前記アルブミンに結合した前記物質は、その精製前に前記アルブミンにすでに結合されている天然リガンド又は該精製方法中に添加される物質(安定剤)であり得る、請求項24に記載の方法。
  27. 前記ダイアフィルトレーションの第1の段階は、前記分画の安定化前に実施される、請求項25に記載の方法。
  28. 前記ダイアフィルトレーションの第2の段階は、前記分画の低温殺菌後に実施される、請求項25に記載の方法。
  29. 安定剤として添加される前記N−アセチルトリプトファンの排除は、前記第2のダイアフィルトレーション段階で実施される、請求項28に記載の方法。
  30. 前記ダイアフィルトレーションがNaCl溶液で実施される、請求項24に記載の方法。
  31. 前記ダイアフィルトレーションが、3容量以上の前記NaCl溶液で実施される、請求項30に記載の方法。
  32. 前記NaCl溶液でのダイアフィルトレーション後に、ダイアフィルトレーションを、前記溶液の塩の濃度を所望の値に調節するように水で実施する、請求項30に記載の方法。
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