JP2013164132A - 自動調心ころ軸受及びその製造方法 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】複列軌道の内輪と複列一体の球面軌道をもつ外輪との間に複列の球面ころと保持器とを有し、上記内輪の軌道径が両端部より中央部が大きく、上記保持器の幅方向両端面が上記内輪の軌道面の両端部とのすき間を介して対向する自動調心ころ軸受において、上記球面ころが、C:0.3〜1.2質量%、Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%、Cr:0.5〜2.0質量%を含有する鋼からなり、上記球面ころの転動面の表面の窒素含有量が0.2〜2.0質量%であり、上記球面ころの転動面の表面のSi−Mn系窒化物の面積率が1〜20%であり、上記球面ころの転動面の表面の残留オーステナイト量が15体積%以下である。
【選択図】図8
Description
そのため、自動調心ころ軸受は、製紙機械用の各種ロールネック軸受、車両用軸受や各種産業用軸受として広く利用されている。
しかし、自動調心ころ軸受は使用条件によっては、上記の軸受と異なり、クリーンな環境下で内輪の軌道面の表面に微小な塑性流動が形成され、そこからピーリングクラックが発生・進展してはく離に至る表面起点型の破損を生じる場合がある。そのため、材料の清浄度を上げることは自動調心ころ軸受の長寿命化に顕著な効果を示さない。
特許文献1には、外輪の軌道面の表面粗さを粗くし、スキューを制御して長寿命化をはかる技術が開示されている。寿命が延びる理由は、外輪より内輪の粗さを粗くすると、転動体が軸受の外側に傾く正のスキューが生じてアキシャル荷重を緩和するためであると示されている。
そこで、本発明は上記の問題点に着目してなされたものであり、その目的は、軌道輪のはく離寿命を長くすると共に、転動体のはく離寿命も長くすることができる自動調心ころ軸受及びその製造方法を提供することにある。
しかし、すべり速度や面圧は、軸受形式や客先使用条件によって決定されるものであり、変更することは困難である。
そこで、転動体と軌道輪間に作用する接線力を小さくするためには、転動体の表面粗さ(初期表面粗さ、表面性状安定性)を向上させることが有効である。
そして、球面ころの初期表面粗さを向上させる仕上げ研磨方法として、ラップ加工もしくは超仕上げ加工が従来より行われている。
しかし、この研磨方法は、被研磨物同士が衝突しても打痕などが発生しない小型の被研削物には適用できても、被研削物が大きい場合は打痕が発生するため適用できないか、あるいは1個ごとの処理となるため加工コストが高くなってしまうという問題点がある。
さらに、仕上げ研磨工程において、転動体の表面に大きな圧縮残留応力を付与できれば、表面硬さも高くなり、転動体自身を強化できる。
また、一方で、転動体と内輪との間に作用する接線力を小さくするためには、表面性状安定性(耐傷性、耐圧痕性、耐摩耗性)を向上させ、軸受稼働中に転動体に生じる線傷、摩耗、圧痕などによる表面性状の悪化を抑制することも有効である。
すなわち、本発明者らは、転動体と内輪との間に作用する接線力を抑制する手段として、転動体に浸炭窒化処理もしくは窒化処理を施し、Si−Mn系窒化物を析出させて、表面硬さを高くし、さらに表面残留オーステナイト量を最適に規定することで、表面性状安定性を向上させ、軸受稼働中の表面性状の悪化を抑制した。
したがって、上記の知見より、自動調心ころ軸受のころに鏡面ショットピーニングを施すことよって、砥粒の突き刺さりや打痕なしに初期表面粗さを向上させつつ高い圧縮残留応力を付与させることに加え、転動体に浸炭窒化処理もしくは窒化処理を施し、Si−Mn系窒化物を析出させ、さらに残留オーステナイト量を最適に規定し表面性状安定性を向上させて、軸受稼働中も表面性状を良好なまま保ち、転動体と内輪との間に作用する接線力を小さくすることで、軸受全体としてのはく離寿命を延長させることができると考えられる。
ここで、転動体の表面性状の向上によって、自身(ころ)の寿命だけではなく、内輪の寿命が延長できる理由について述べる。
一般に、はく離現象は、周速の早い駆動側に比べて、周速が遅い従動側で生じやすいことが知られている。すなわち、自動調心ころ軸受において、はく離が生じる荷重負荷圏のHertz面圧が高い接触域中央部において、内輪が従動側であるため、内輪にはく離が生じやすいことになる。
したがって、転動体の初期表面粗さを良好にし、さらに表面性状安定性を向上させて、表面粗さを良好なまま保つことで、転動体と内輪との間に作用する接線力を小さくし、内輪のはく離寿命を延長させることができると考えられる。
まず、上記知見に基づいた内輪のはく離寿命延長方法として、砥粒のささりや打痕をつけずに、転動体の初期表面粗さを向上させ、転動体と内輪との間に作用する接線力を低減させることを検討した。
その結果、下記を満足する仕上げ研磨(以降、鏡面ショットと記載)を行い、初期表面粗さRaを0.05μm以下、表面の圧縮残留応力を500〜1000MPaとすることが重要であることが明らかになった。
その結果、転動体の素材の組成をC:0.3〜1.2質量%、Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%、Cr:0.5〜2.0質量%と規定し、浸炭窒化処理もしくは窒化処理を施して表面窒素含有量を0.2〜2.0質量%、Si−Mn系窒化物の面積率を1〜20体積%、表面残留オーステナイト量を15体積%以下とすることで内輪のはく離寿命を延長させた自動調心ころ軸受を提供することが可能であることを明らかにした。
上記球面ころが、C:0.3〜1.2質量%、Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%、Cr:0.5〜2.0質量%を含有する鋼からなり、
上記球面ころの転動面の表面の窒素含有量が0.2〜2.0質量%であり、
上記球面ころの転動面の表面のSi−Mn系窒化物の面積率が1〜20%であり、
上記球面ころの転動面の表面の残留オーステナイト量が15体積%以下であることを特徴としている。
また、上記球面ころの転動面の表面の圧縮残留応力は、500〜1000MPaであることが好ましい。
複列軌道の内輪と、複列一体の球面軌道をもつ外輪と、上記内輪及び上記外輪の間に複列の上記球面ころと保持器と組み込むステップとを含み、
上記球面ころを研磨するステップが、下記A〜Eの条件を満足することを特徴としている。
A:上記弾性体が、ゴム又は熱可塑性エラストマである。
B:上記砥粒がアルミナ(Al203)、ダイヤモンド、又は炭化ケイ素(SiC)からなる。
C:上記研磨粒子を上記球面ころに衝突させる方式がエアーブラスト方式である。
D:仕上げ研磨後の上記球面ころの転動面の表面の初期表面粗さRaが、0.05μm以下である。
E:仕上げ研磨後の上記球面ころの転動面の表面の圧縮残留応力が、500〜1000MPaである。
(自動調心ころ軸受)
本実施形態の自動調心ころ軸受は、転動体(球面ころ)がC:0.3〜1.2質量%、Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%、Cr:0.5〜2.0質量%を含有する鋼からなり、熱処理によって表面窒素含有量0.2〜2.0質量%とし、面積率1〜20体積%のSi−Mn系窒化物を析出させ、表面残留オーステナイト量を15体積%以下とすることで、軸受稼働中に生じる転動体表面性状の悪化を抑制し、転動体と軌道輪間に作用する接線力を小さくして軌道輪のはく離寿命を延長させる効果をもたらすものである。
また、自動調心ころ軸受の製造方法にあっては、弾性体からなり、且つ砥粒を含有する研磨粒子を球面ころに衝突させて仕上げ研磨を行うことによって上記球面ころを研磨するステップと、複列軌道の内輪と、複列一体の球面軌道をもつ外輪と、上記内輪及び上記外輪の間に複列の上記球面ころと保持器と組み込むステップとを含む。
そして、上記球面ころを研磨するステップは、転動体の表面に対して、鏡面ショットによる仕上げ研磨をし、その表面の初期粗さRaを0.05μm以下として転動体と軌道輪との間に作用する接線力を小さくすることで軌道輪のはく離寿命を延長させる。さらに、上記鏡面ショットにて転動体の表面の圧縮残留応力を500〜1000MPaとすることで、転動体自身のはく離寿命を延長させることができる。
上記熱処理について以下に説明する。まず、素材を、鍛造又は切削により、球面ころの形状に加工した後、混合ガス(RXガス+エンリッチガス+アンモニアガス)を導入した炉内で、数時間加熱保持することで浸炭窒化処理を行う。ここで、アンモニアガスは処理温度が高くなる程分解し易くなる。アンモニアガスが分解し易くなると、混合ガス中の残留アンモニアガスの濃度が小さくなり、ころの転がり面をなす表層部に十分な窒素含有率が得られなくなる。よって、浸炭窒化処理は、雰囲気温度820〜850℃程度で行うことが好ましい。
この浸炭窒化処理は、焼入れ後の表層部に十分な残留オーステナイト量を付与できるように、窒素と炭素を基地組織に固溶させるとともに、焼入れ後の表層部に摩耗・摩擦低滅効果の高い窒化物や炭窒化物を析出分散させることを目的として行われる。
次に、焼入れ処理を行った後、焼戻し処理を行う。焼戻し処理は、マルテンサイト組織の安定化のために、200〜260℃程度で行うことが好ましい。
以下に素材の材料組成及びそれによる作用について説明する。
C(炭素)は鋼に必要な強度と寿命を得るために重要な元素である。炭素含有量が少なすぎると、十分な強度が得られないだけでなく、浸炭窒化の際に必要な硬化層深さを得るための熱処理時間が長くなり、生産コストの増大につながる。
そのため、炭素含有量は0.3質量%以上、好ましくは0.6質量%以上とする。
一方、炭素含有量が多すぎると、製鋼時に巨大な炭化物が生成され、その後の焼入れ特性や転動疲労寿命に悪影響を与えるだけでなく、ヘッダー加工性が低下してコストの上昇を招くおそれがあるため上限を12質量%とした。
Si(ケイ素)は製鋼時に脱酸剤としての作用を有するだけでなく、基地マルテンサイトを強化するとともに、焼戻し軟化抵抗性を高め、転動疲労寿命を延長するのに極めて有効な元素である。また、浸炭窒化を行う際に、転がり面をなす表層部にSi−Mn系窒化物と残留オーステナイト量をバランス良く確保するためにはなくてはならない元素である。その効果を十分に発揮させるためには、少なくともSi含有量は0.5質量%以上、好ましくは0.8質量%以上が必要である。
しかしながら、Siは含有量が多すぎると、ヘッダー加工性、被削性等を低下させるだけでなく、浸炭窒化処理特性が低下して、必要な硬化層深さを確保できなくなる場合があり、転がり面をなす表層部の窒素含有量、C含有量及び残留オーステナイト量を本発明の範囲内にできなくなる。
よって、Si含有量の上限を2.0質量%以下、好ましくは1.5質量%以下とした。
Mn(マンガン)は、Siと同様に、脱酸剤としての作用を有する他、焼入性を向上させる作用や、転動疲労に有効な残留オーステナイトの生成を促進させる作用を有する。また、浸炭窒化を行う際に、転がり面をなす表層部にSi−Mn系窒化物と残留オーステナイト量をバランス良く確保するためにはなくてはならない元素である。これらの作用を得るために、Mn含有量は0.2質量%以上必要である。一方、Mn含有量が多すぎると被削性、ヘッダー加工性を低下させるだけでなく、熱処理後に多量の残留オーステナイトが残存して、良好な寿命が得られなくなる場合もある。
よって、Mn含有量の上限を2.0質量%以下、好ましくは0.7質量%以下とした。
Cr(クロム)は、基地に固溶して焼入性、焼戻軟化抵抗性などを高めるとともに、高硬度の微細な炭化物、又は炭窒化物を形成して、軸受材料の硬さや熱処理時の結晶粒粗大化を抑制し、軸受寿命を向上させる作用を有する。その作用を得るために、少なくとも0.5質量%以上、好ましくは1.3質量%以上必要である。
一方、Cr含有量が多すぎると、製鋼過程で巨大炭化物が生成して、その後の焼入れ特性や転動疲労寿命に悪影響を与えるだけでなく、ヘッダー加工性や被削性が低下し生産コストの上昇を招く。よって、Cr含有量は、2.0質量%以下、好ましくは1.6質量%以下とした。
また上述した必須成分(C、Si−Mn、Cr)及び選択的に含有させるMoやV以外は、実質的にFe(鉄)となるが、不可避不純物として、S(硫黄)、P(リン)、Al(アルミニウム)、Ti(チタン)、O(酸素)などを含有しても良い。これらの元素は、表面起点型はく離には特に際立った影響はないとされているが、鋼の品質が著しく悪い場合には、これらが起点となって内部起点型はく離が生じる。このため、コストアップを招くような厳しい不純物規制は行わないが、不可避不純物元素の含有量は通常軸受材料として使用できる清浄度規制(JIS G4805)を満足する品質レベルとする。
[球面ころの表面の窒素含有率]
N(窒素)は、基地に固溶して、転がり面をなす表層部に必要な強度を付与するとともに、表層部に必要な量の残留オーステナイトを残存させる作用を有する。また、Nは、摩耗・摩擦特性を向上させる窒化物や炭窒化物を形成して、接線力を小さくする作用を有する。これらの作用を得るために、ころの転がり面をなす表層部のN含有率は0.20質量%以上、好ましくは0.50質量%以上とする。
[球面ころの表面の残留オーステナイト量]
球面ころの表層部(表面から50μmの深さまでの部分)の残留オーステナイト量が多過ぎると、硬さが低下して耐疲労性が得られなくなるとともに、摩耗特性が低下して、上述したころの低摩擦化による寿命延長効果が得られなくなる。よって、球面ころの表層部をなす表層部の残留オーステナイト量は15体積%以下とする。
次に、本実施形態における球面ころの研磨方法について、図1〜図4を参照して説明する。図1において、符号1は自動調心ころ軸受の転動体(球面ころ)を示しており、この転動体1の周面部(転動面)1aには、図示しない砥石で周面部1aを研削加工した後、図1に示す方法、すなわち研磨粒子2をショットブラスト用ノズル3から転動体1の周面部1aに投射して研磨する方法で仕上げ研磨が施されている。
次に、本実施形態の球面ころの研磨方法における「弾性体」、「研磨粒子に含まれる砥粒の材料」、及び「研磨粒子を被研磨物に衝突させる方法」、並びに当該研磨方法によって規定される「球面ころの初期表面粗さ」、及び[球面ころの表面の圧縮残留応力]について説明する。
砥粒を含有する研磨粒子を被研磨物(球面ころ)に衝突させることにより、仕上げ研磨を行う場合において、研磨粒子が被研磨面に衝突した際には、衝突エネルギーにより発熱するため、研磨粒子の素材が熱硬化性樹脂である場合は好ましくない。被研磨面に対して、入射角をもって被研磨面に衝突した研磨粒子は、弾性変形すると同時に発熱し、被研磨面形状にならいながら、被研磨面を滑走し、この滑走中に被研磨物表面を研磨するものと考えられる。この滑走時に研磨粒子と被研磨物表面で発生している現象としては、研磨粒子に含まれる砥粒が研磨粒子表面に露出した部分では、研磨及び元々被研磨物表面に突き刺さって残留している砥粒の引き剥がしが行われ、研磨粒子に含まれる砥粒が研磨粒子表面に露出していない部分、すなわち、弾性体表面では、研磨カスや引き剥がされた砥粒を被研磨物表面から押し出して、もしくは弾性体内に取り込んで除去しているものと思われる。
本発明に用いられる球面ころは、浸炭窒化処理によってSi−Mn系窒化物を析出させて、表面硬さを向上させているので、初期表面粗さを向上させるためには、硬い研磨粒子を使用することが求められる。
したがって、研磨粒子に含まれる砥粒の材料は、高硬度で知られているアルミナ(Al2O3)、ダイヤモンド、又は炭化ケイ素(SiC)であることが好ましい。
また、研磨粒子の大きさ(平均粒径)は0.02〜3mmであることが好ましい。研磨粒子の大きさが0.02mmを下回ると、研磨粒子1個あたりの質量が軽くなり、衝突エネルギーが小さく、効率的な研磨が困難となる。一方、研磨粒子の大きさが3mmを超えると衝突エネルギーが謀題となり、被研磨面に好ましくない損傷を与える場合があるので好ましくない。研磨粒子の大きさは、より好ましくは0.2〜0.8mmである。
研磨粒子を被研磨物に衝突させる方法としては、所定の衝突エネルギーを持って被研磨物に衝突させるものであれば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択できるが、例えば、遠心力を利用した回転羽方式、水や研削液と共に研磨粒子を吐出する液体方式、気体と共に研磨粒子を吐出するエアー式ブラスト方式等が好ましい。これらの中でも、エアー式ブラスト方式は、加工時の研磨力ス等もエアーの流れに乗せてフイルター等で簡便に回収でき、被研磨物に付着して残る研削液等も無いため、加工全体が効率の良いものとなり、特に好適である。回転羽方式では、研磨力ス等が被研磨面に残りやすく、液体方式では被研磨面に付着した液体の除去作業、使用後の研削液の処理作業等の負担が発生する。エアーは、いわゆる空気に限らず、窒素、アルゴン等の不活性ガス等も使用できる。
前述したように、表面粗さが大きくなると、接線力が増大し、内輪のはく離寿命は短くなる。したがって、軸受使用時の表面性状の悪化を抑制することも重要であるが、使用前に表面粗さを良好に仕上げておくことも寿命の延長には効果的である。
ここで、本発明者らは、球面ころ及び内輪の表面粗さをそれぞれ小さくすると、内輪の表面粗さを小さくした場合と比較して、球面ころの表面粗さを小さくした場合(初期表面粗さ・表面形状の悪化を抑制した場合)に、効果的に内輪の表面起点型はく離を抑制できることを明らかにした。
すなわち、内輪よりむしろ、球面ころの初期表面粗さや表面形状の悪化を抑制することで、効果的に自動調心ころ軸受全体の寿命を延長させることができると考えられる。
試験体S1(駆動側)の回転速度:500min−1
試験体S2(従動側)の回転速度:450min−1
ギヤ比:(試験体S1)/(試験体S2)=10/9
試験体S1と試験体S2とのすべり率:10%
最大面圧:3.2GPa
潤滑油:Ro68
表1、図6は、2円筒試験によって内輪を模擬した従動側試験片の表面粗さRaFをRaF=0.1μmで一定にし、球面ころを模擬した駆動側試験片の初期表面粗さを変えた場合に2円筒間に働く接線力の大きさの違いを調査した結果を示している。
したがって、内輪ところに作用する接線力を抑えるには、転動体の平均粗さRaをRa≦0.05μmとすることが効果的であるが、球面ころの平均粗さRaをRa≦0.01μmとすることが好ましい。
[球面ころの表面の圧縮残留応力]
一般に、極表層部の圧縮残留応力が低いと、変形抵抗が小さくなるため、降伏応力は小さくなり、軸受稼働中に表面性状が悪化しやすくなることが知られている。そこで、自動調心ころ軸受における転動体の圧縮残留応力が表面性状安定性に及ぼす影響を考察した。
内輪及び外輪には、高炭素クロム軸受鋼(SUJ2)を用い、焼入れ温度:830〜850℃で0.5時間、焼戻し温度:180℃〜240℃で2時間の処理を施して作製した。
試験は、仕上げ研削後に鏡面ショットを施したころ(I)、仕上げ研削後にバレル仕上げしたころ(II)を使用して行った。
なお、鏡面ショットは表4に示す条件で行い、(I)鏡面ショットころの初期表面粗さRaは0.03μm、圧縮残留応力は800MPa、(II)バレル研磨ころ(鏡面ショット無)の初期表面粗さRaは0.13μm、圧縮残留応力は400MPaであった。
また、Si−Mn系窒化物面積率の測定は、電界放射型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)を用いて、加速電圧10kVで転動面の観察を行い、倍率5000倍で最低3視野以上を撮影した後、写真を二値化してから画像解析装置を用いて面積率を計算した。
試験は、試験軸受:日本精工株式会社製、呼び番号:22211、ラジアル荷重:45.22kN、回転数:1500mm−1、潤滑油:VG68のクリーンな環境で行った。表5に、球面ころの品質と合わせて寿命試験結果を示す。寿命試験は、各試験体につき10回ずつ試験を行い、そのL10寿命を読み取り、最も短寿命となったものとの寿命比をそれぞれ算出した。
また、窒素含有量が0.2質量%より少ない場合は、十分な表面硬さが得られず、また一方で2.0質量%より多い場合は、残留オーステナイト量の増加により、表面性状安定性が悪くなり、軸受稼働中に球面ころの転動面に線傷や圧痕などが形成されてしまい、球面ころと内輪との間に大きな接線力を作用させてしまったため、短寿命となったと考えられる。
また、表5の比較例4,10のように、窒素含有量、残留オーステナイト量が、本発明で規定した範囲内でも、Si−Mn系窒化物の面積率が1〜20体積%より少ない場合、非常に短寿命となっていることより、窒素は基地に固溶するよりも、Si,Mnと窒化物を形成するほうが寿命には効果的であることが考えられる。
さらに、球面ころの表面の窒素含有量、Si−Mn系窒化物の面積率は同じでも、球面ころに鏡面ショットを施さない場合(II)に比べ、鏡面ショットを施した場合(I)は飛躍的に長寿命となることが確認できた。これは、鏡面ショットによって、球面ころの初期表面粗さの飛躍的な向上と圧縮残留応力の増加、さらに、球面ころの表面への砥粒ささりの軽減がもたらされ、内輪の寿命、及びころの寿命ともに延長したため、軸受全体の寿命が延長したと考えられる。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更が可能である。
Claims (4)
- 複列軌道の内輪と複列一体の球面軌道をもつ外輪との間に複列の球面ころと保持器とを有し、前記内輪の軌道径が両端部より中央部が大きく、前記保持器の幅方向両端面が前記内輪の軌道面の両端部とのすき間を介して対向する自動調心ころ軸受において、
前記球面ころが、C:0.3〜1.2質量%、Si:0.3〜2.2質量%、Mn:0.2〜2.0質量%、Cr:0.5〜2.0質量%を含有する鋼からなり、
前記球面ころの転動面の表面の窒素含有量が0.2〜2.0質量%であり、
前記球面ころの転動面の表面のSi−Mn系窒化物の面積率が1〜20%であり、
前記球面ころの転動面の表面の残留オーステナイト量が15体積%以下であることを特徴とする自動調心ころ軸受。 - 前記球面ころの転動面の表面の初期表面粗さRaが、0.05μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
- 前記球面ころの転動面の表面の圧縮残留応力が、500〜1000MPaであることを特徴とする請求項1に記載の自動調心ころ軸受。
- 弾性体からなり、且つ砥粒を含有する研磨粒子を球面ころに衝突させて仕上げ研磨を行うことによって前記球面ころを研磨するステップと、
複列軌道の内輪と、複列一体の球面軌道をもつ外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に複列の前記球面ころと保持器と組み込むステップとを含み、
前記球面ころを研磨するステップが、下記A〜Eの条件を満足することを特徴とする自動調心ころ軸受の製造方法。
A:前記弾性体が、ゴム又は熱可塑性エラストマである。
B:前記砥粒がアルミナ(Al203)、ダイヤモンド、又は炭化ケイ素(SiC)からなる。
C:前記研磨粒子を前記球面ころに衝突させる方式がエアーブラスト方式である。
D:仕上げ研磨後の前記球面ころの転動面の表面の初期表面粗さRaが、0.05μm以下である。
E:仕上げ研磨後の前記球面ころの転動面の表面の圧縮残留応力が、500〜1000MPaである。
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