JP5058611B2 - スラスト軸受 - Google Patents

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Description

この発明は、スラスト滑り軸受や、複数の転動体と複数の転動体を保持する保持器と複数の転動体を保持器の厚み方向から挟持する軌道輪とを有するスラスト転がり軸受の軌道輪や中間輪等に関するものである。
スラスト転がり軸受やスラストすべり軸受の軌道輪、およびスラスト受け機構の軌道輪および中間輪等(以下、これらを総称して「スラスト軸受構成部品」という)には、高い機械的性質と高い加工精度が要求される。したがって、スラスト軸受構成部品の製造に際しては、出発材料の選定および材料に応じた最適な加工方法の選択が必要不可欠となる。
例えば、スラスト軸受構成部品と構造が類似するシンクロナイザリングの製造方法が、特開平11−223225号公報(特許文献1)に記載されている。図7を参照して、同公報に記載されているシンクロナイザリングの製造方法を説明する。
まず、同公報に記載されているシンクロナイザリングは、0.6wt%〜1.2wt%の炭素(C)と、0.1wt%〜0.9wt%のマンガン(Mn)と、0.3wt%〜1.0wt%のクロム(Cr)と、0.01wt%〜0.15wt%のシリコン(Si)とを含む炭素鋼を熱間圧延して得られる鋼板を出発材料として使用する。
そして、シンクロナイザリングは、上記の出発材料をプレス加工して所定の形状に加工する工程と、旋削加工等の機械加工によって所定の寸法を得る工程と、焼入および焼戻を含む熱処理によって所定の硬度を得る工程と、および研削加工によって表面を平滑に仕上げる工程とを経て製造されると記載されている。
また、自動車や一般産業機械等に使用されている従来のスラストころ軸受は、例えば、特開2005−195148号公報(特許文献2)に記載されている。同公報に記載されているスラストころ軸受は、複数のころと、複数のころを保持する保持器と、複数のころを保持器の厚み方向から挟持する軌道盤とを有する。
上記構成のスラストころ軸受に採用される軌道盤は、例えば、図7に示す製造方法によって所定の形状に成形された後、熱処理として浸炭窒化処理および230℃での焼戻処理が行われる。これにより、軌道盤表層部に窒素富化層が形成される。また、表面の窒素富化層における残留オーステナイト量は5体積%以上25体積%以下、窒素含有量は0.1wt%〜0.7wt%となる。
軌道盤を上記組成とすることにより、表面起点型剥離等の表面損傷による早期破損を防止し、荷重依存型の転動疲れにも効果がある長寿命なスラストころ軸受を得ることができると記載されている。
特開平11−223225号公報 特開2005−195148号公報
近年、自動車や一般産業機械は、省エネ、低トルク化のためにオイル量が削減されると共に低粘度オイルが使用されている。このような希薄潤滑下で使用されるスラストころ軸受においては、表面起点型剥離や摩耗などの表面損傷による早期破損が問題となる。さらに、機械装置自体の小型化や高出力化に伴って、通常の荷重依存型の転動疲れによる内部起点型剥離も発生する。
また、熱間圧延によって得られる鋼板を出発材料として軌道盤を製造する場合、表面粗さ、酸化層、および脱炭層等の表面性状の問題から、図7に示すように熱処理後の研削加工を省略することができない。この研削加工は、熱処理によって得られた表面の窒素富化層を研削加工によって除去してしまうので、長寿命効果や耐摩耗性効果が低下するという問題が生じる。
そこで、この発明の目的は、製造工程を簡素化すると共に、機械的性質をさらに向上することによって、低コストで長寿命のスラスト軸受を提供することである。
この発明に係るスラスト軸受は、0.9wt%〜1.2wt%の炭素と、1.2wt%〜1.7wt%のクロムと、0.1wt%〜0.5wt%のマンガンと、0.15wt%〜0.35wt%のシリコンとを含有する高炭素鋼を冷間圧延して得られる表面粗さがRmax≦2μmのみがき帯鋼に熱処理を施し、表面の窒素富化層における残留オーステナイト量を10%以下とした軌道盤を備える。
上記の化学成分の炭素鋼を使用することにより、軌道盤の機械的性質が向上する。具体的には、焼入性の改善、転動疲労寿命や耐荷重性の向上、摩擦や摩耗の低減、硬さの向上、およびプレス加工等による軌道盤の破損を防止することができる。特に、表面の窒素富化層における残留オーステナイト量を10%以下とすることにより、残留オーステナイトがマルテンサイトと炭化物とに分解され、微細な炭化物が形成され、高荷重下での転動疲労寿命や耐荷重性が向上すると共に、摩擦や摩耗を低減することができる。
また、冷間圧延工程を経て製造された鋼板は、所望の寸法、表面の平滑性、および硬さを得ることができるので、軌道盤の製造工程中で寸法を調整する旋削工程や表面を平滑にする研削工程等を省略することができる。これにより、軌道盤の製造工程が簡素化されるので、スラスト軸受の製造コストを低減することができる。さらに、熱処理によって得られた表面の窒素富化層が除去されることがない。
好ましくは、熱処理の焼戻し温度を230℃〜280℃とする。残留オーステナイトを10%以下とするためには焼戻温度を230℃以上とする必要がある。一方、焼戻温度が280℃以上になると、硬さHRC60以下となって軌道盤に必要な硬さを維持できないおそれがある。そこで、230℃〜280℃の範囲内で高温焼戻を行うのが望ましい。
この発明によれば、所定の化学成分の炭素鋼を冷間圧延して得られた鋼板を出発材料として軌道盤を製造することにより、低コストで機械的性質に優れたスラスト軸受を得ることができる。
図1〜図3を参照して、この発明の一実施形態に係るスラスト針状ころ軸受11およびスラスト針状ころ軸受11の軌道盤12,13の製造方法を説明する。なお、図1はスラスト針状ころ軸受11を示す図、図2は軌道盤12,13の出発材料となるみがき鋼板の主な製造工程を示すフロー図、図3は軌道盤12,13の主な製造工程を示すフロー図である。
まず、図1を参照して、スラスト針状ころ軸受11は、複数の針状ころ14と、複数の針状ころ14を保持する保持器15と、複数の針状ころ14を保持器15の厚み方向から挟持する一対の軌道盤12,13とを備える。
上記構成のスラスト針状ころ軸受11は、単純な形式で負荷容量や剛性を大きくすることができる等の種々の利点を有する一方で、軌道盤12,13と針状ころ14との間に差動すべりが生じる。針状ころ14は、その長さ方向中央部で純転がりとなり、両端に近づくにつれて相対すべりが直線的に増加する。特に、針状ころ軸受14はころ長さが長いので、針状ころ14の両端部における周速の差が大きくなり、他の軸受に比べてすべり量が大きくなる。
このため、大きな差動すべりを生じる部分で軌道盤12,13の摩耗量が大きくなり、転走跡エッジ部で表面起点型の剥離が生じる。特に、スラスト針状ころ軸受11は、ころ本数が多く、内部空間が狭いため、潤滑油が軌道面に行き渡りにくい。その結果、他の軸受に比べて表面起点型の剥離が発生しやすい。
また、上記構成のスラスト針状ころ軸受11に採用される軌道盤12,13には大きなスラスト荷重が負荷される。さらに、針状ころ14が転動する軌道面には、所定の硬さや表面平滑性が求められる。
そこで、図2を参照して、このような環境で使用される軌道盤12,13の出発材料となる鋼板の製造方法を説明する。まず素材として、0.9wt%〜1.2wt%の炭素(C)と、1.2wt%〜1.7wt%のクロム(Cr)と、0.1wt%〜0.5wt%のマンガン(Mn)と、0.15wt%〜0.35wt%のシリコン(Si)と、その他の不可避不純物および鉄(Fe)とを含む鋼片を用いる(S11)。また、鋼中の酸素濃度は0.0010%以下とする。
炭素(C)は、軌道盤12,13に必要な強度を確保するのに必要不可欠の元素である。なお、軌道盤12,13の表面および芯部の硬さをHRC58以上とするためには0.9wt%以上の炭素が必要となる。一方、炭素含有量が1.2wt%を超えると、軌道盤12,13の表面に大型の炭化物が生成して転動疲労寿命および耐荷重性が低下すると共に、摩擦や摩耗が増大する。そこで、炭素含有量は0.9wt%〜1.2wt%の範囲内とするのが望ましい。なお、「HRC」は、ロックウェル硬さを示す。
また、クロム(Cr)は、軌道盤12,13の焼入性や転動疲労寿命を改善し、炭化物による硬さを確保し、摩擦や摩耗を低減し、かつ耐荷重性を向上するのに必要不可欠な元素である。なお、所定の炭化物を得るためには1.2wt%以上のクロムが必要となる。一方、1.7wt%を超える量を添加しても著しい添加効果は認めらない。さらに、5.0wt%を超えると大型の炭化物を生成して転動疲労寿命や耐荷重性が低下すると共に、摩擦や摩耗が増大する。そこで、クロム含有量は1.2wt%〜1.7wt%の範囲内とするのが望ましい。
また、マンガン(Mn)は、鋼を製造する際の脱酸に用いられる元素であって、軌道盤12,13の出発材料としては必要不可欠の元素である。なお、鋼中の酸素を十分に除去するためには0.1wt%以上のマンガンが必要となる。一方、0.5wt%を超えると材料が脆くなり、プレス加工時に軌道盤12,13が破損する恐れがある。そこで、マンガンの含有量は0.1wt%〜0.5wt%の範囲内とするのが望ましい。
また、シリコン(Si)は、鉄鋼材料に不可避の元素であり、含有量の下限値を0.15%としている。一方、0.35wt%を超えるとプレス加工時に軌道盤12,13が破損する恐れがある。そこで、シリコンの含有量は0.15wt%〜0.35wt%の範囲内とするのが望ましい。
さらに、酸素は、鋼中で酸化物を形成して非金属介在物として疲労破壊の起点となるので、転動疲労寿命や耐荷重性が低下すると共に、摩擦や摩耗が増大する。そこで、鋼中の酸素濃度は0.0010%以下とするのが望ましい。
次に、熱間圧延加工によって上記の素材から鋼板を得る(S12)。加熱状態で圧延することにより、巨大な鋳造組織が微細かつ良質な圧延組織となる。また、再結晶温度以上の温度領域で圧延することにより材料の加工硬化を防止することができるので、厚みを一気に薄くすることができる。
なお、熱間圧延工程の後に圧延加工された鋼板を焼鈍しする工程をさらに追加してもよい。焼鈍しによって結晶粒を微細化されると共に、結晶の方向性が調整されるので、表面の精度および加工性が向上する。
次に、防錆や鋼板の表面に付着した酸化被膜(スケール)の除去を目的として酸洗を行う(S13)。酸化被膜は、機械加工における工具の寿命を短くして生産効率を低下させると共に、鋼板の表面に物理的および化学的変化を生じさせて表面処理の効果を低下させる。そこで、酸洗によって酸化被膜を除去しておくことにより、以降の工程における生産効率および製品品質を向上することができる。なお、酸洗液には、塩酸、硫酸、硝酸等があり、5%〜15%の希塩酸水を40℃〜50℃程度で使用することが多い。
次に、冷間圧延加工によって、所定の寸法の鋼板を得ると共に、軌道盤12,13に必要な硬さや表面平滑性等の機械的性質を得る(S14)。常温で圧延を行うことにより、正確に所定の板厚を得ることができると共に、高い平滑性が得られる。また、再結晶温度未満の温度領域で圧延を行うことにより鋼板が加工硬化するので、鋼板の硬度が向上する。
なお、軌道盤12,13の軌道面となる壁面は、針状ころ14の円滑な転動の観点からRmax≦1.6μmの表面粗さが要求される。後述するように、軌道盤12,13の形状加工後は、面粗さの山が取れる程度のバレル加工しかできないため、冷間圧延工程後の表面粗さはRmax≦2μmとするのが望ましい。さらに、プレス成形時の破損を防止する観点から、冷間圧延工程後の硬さはHv220以下とするのが望ましい。ここで、「Rmax」は最大高さを、「Hv」はビッカース硬さを示す。
ここで、冷間圧延工程によって得られる鋼板の表面粗さ、硬さ、および板厚は、圧延ロールの表面粗さ、圧延ロールの撓み、圧延率(圧延前後の板厚の比)、圧延ロール間の隙間(ギャップ)および回転速度等の影響を受ける。したがって、所望の表面粗さ、硬さ、および板厚を得るためには、これらの要素を適切に設定する必要がある。
また、上記の熱間圧延工程および冷間圧延工程は、それぞれ1回の圧延工程で所定の厚みを得ることとしてもよいが、粗圧延、中間圧延、および仕上圧延等、複数回に分けて所定の厚みを得ることとしてもよい。
次に、図3を参照して、この発明の一実施形態に係る軌道盤12,13を製造する方法を説明する。なお、図3は軌道盤12,13の主な製造工程を示すフロー図である。まず、図2を参照して説明した鋼板(みがき鋼板)を出発材料として採用する(S21)。
次に、プレス加工によって鋼板を軌道盤12,13の形状に成形する(S22)。上記の出発材料は、冷間圧延工程によって板厚や表面粗さ等が既に所望の状態になっているので、旋削加工等の工程を省略することが可能となる。その結果、製造工程を簡素化することができるので、スラスト針状ころ軸受11の製造コストを低減することが可能となる。なお、このプレス加工工程は、1度のプレス加工によって所望の形状としてもよいが、プレス加工を複数回行って所望の形状を得ることとしてもよい。また、プレス加工後にバリ取り加工を行ってもよい。
次に、軌道盤12,13に必要な機械的性質を得るために、浸炭窒化処理と焼戻温度を230℃〜280℃とする高温焼戻とを含む熱処理を施す(S23)。浸炭窒化処理を行うことにより、軌道盤12,13の表面層に窒素富化層が形成される。この表面の窒素富化層は、転動疲労寿命や耐荷重性の向上、および摩擦や摩耗の低減に有効である。なお、「表面層」とは、軌道盤12,13の表面から厚さ50μmの層を指すものとする。
ここで、この表面の窒素富化層における窒素濃度は、0.1wt%〜0.9wt%の範囲内であることが望ましい。窒素濃度が0.1wt%未満となると上記の効果が低く、特に表面損傷寿命が低下する。一方、窒素濃度が0.9wt%を超えると、材料中にボイドと呼ばれる空孔を生じたり、残留オーステナイト量が多くなりすぎて硬度が低下し、短寿命となる。なお、表面の窒素富化層は、浸炭窒化処理に代えて、窒化処理や浸窒処理等によっても得られる。また、窒素濃度は、例えば、EPMA(波長分散型X線マイクロアナライザ)で測定することができる。
また、高温焼戻を行うことにより、耐高温特性が向上するばかりでなく、残留オーステナイトが焼戻マルテンサイトと結晶粒の微細な炭化物(粒径5μm以下)とに分解される。これにより、特に高荷重条件での転動疲労寿命や耐荷重性の向上、および摩擦や摩耗の低減に有効である。
なお、残留オーステナイトを10%以下とするためには焼戻温度を230℃以上とする必要がある。一方、焼戻温度が280℃以上になると、硬さHRC60以下となって軌道盤12,13に必要な硬さを維持できないおそれがある。そこで、230℃〜280℃の範囲内で高温焼戻を行うのが望ましい。なお、残留オーステナイト量は、X線回折によるマルテンサイトα(211)と、残留オーステナイトγ(220)の回折強度の比較で測定することができる。
最後に、熱処理によって軌道盤12,13の表面に生じた酸化被膜(スケール)を除去する(S24)。スケール除去加工としては、バレル処理やブラストクリーニング等の機械的方法と、前述した酸洗等の化学的方法がある。
ここで、「バレル処理」とは、容器(バレル)に軌道盤12,13、コンパウンド、およびメディアを入れた状態で、容器を回転若しくは振動させる処理である。この方法によれば、スケールを除去することができると共に、軌道盤12,13のバリ取りや表面粗さの改善効果も期待できる。前述の通り軌道盤12,13の出発材料の表面粗さは、冷間圧延工程後の段階で既にRmax≦2μmとなっているので、独立した研削工程を設けなくとも軌道盤12,13に必要な表面粗さRmax≦1.6μmを得ることができる。
この発明によれば、上記の化学成分の炭素鋼を用いることにより、軌道盤12,13の様々な機械的性質が向上する。その結果、転動疲労寿命な耐荷重性が向上し、摩擦や摩耗が低減された軌道盤12,13を得ることができる。
また、出発材料の製造工程(図2に示す工程)に冷間圧延工程を含めることによって、軌道盤12,13に必要な板厚、硬さ、および表面粗さ等を得ることができる。そうすると、軌道盤12,13の製造工程(図3に示す工程)において、旋削加工や研削加工の工程を省略することが可能となる。その結果、軌道盤12,13の製造工程が簡素化され、軌道盤12,13の製造コストを低減することができる。
さらに、熱処理後の研削加工を省略したことにより、軌道盤12,13の表面層に形成された表面の窒素富化層を除去してしまうことがない。その結果、転動疲労寿命や耐荷重性が向上すると共に、摩擦や摩耗を低減した軌道盤12,13を得ることができる。
なお、上記の実施形態においては、スラスト針状ころ軸受11の軌道盤12,13を製造する方法を説明したが、これに限ることなく、この発明は他のスラスト軸受の製造にも適用することができる。例えば、転動体が円筒ころや玉であるスラスト転がり軸受であってもよいし、転動体を有さないスラストすべり軸受であってもよい。図4および図5を参照して、この発明の他の実施形態に係るスラスト軸受を説明する。なお、両図とも上段が斜視図、下段が側断面図を示す。
まず、図4を参照して、この発明の他の実施形態に係るスラストすべり軸受21は、2枚の軌道盤22,23を備える。この軌道盤22,23は、それぞれ中央部に穴22a,23aを有する円盤形状の部材であって、互いの軌道面22b,23bを当接させるように重ね合わせる。
このスラストすべり軸受21は、例えば、軌道盤22を回転軸(図示省略)に固定し、軌道盤23をハウジング(図示省略)に固定する。軌道盤22は軌道盤23上をすべりながら回転運動するので、回転軸を回転自在に支持することができる。なお、上記の回転軸は一定方向に回転するものだけでなく、揺動運動するものも含むものとする。また、軌道盤23は回転軸と相対回転する他の回転軸に固定されている場合も含むものとする。
次に、図5を参照して、この発明のさらに他の実施形態に係るスラストすべり軸受31は、2枚の軌道盤32,33を備える。この軌道盤32,33は、矩形形状の部材であって、互いの軌道面32a,33aを当接させるように重ね合わせる。
このスラストすべり軸受31は、例えば、軌道盤32を往復部材(図示省略)に固定し、軌道盤33をハウジング(図示省略)に固定する。軌道盤32は、軌道盤33上ですべりながら往復運動(図5中の矢印)するので、一定範囲内を直線運動する往復部材を支持することができる。なお、軌道盤33は往復部材と相対運動する他の往復部材に固定されている場合も含むものとする。
スラストすべり軸受21,31を構成する軌道盤22,23,32,33にも大きなスラスト荷重が負荷されると共に、軌道面22b,23b,32a,33aには所定の硬さや表面平滑性が求められる。そこで、スラストすべり軸受21の軌道盤22,23のうちの少なくとも一方、およびスラストすべり軸受31の軌道盤32,33のうちの少なくとも一方を図2および図3に示す製造方法で製造することにより、この発明の効果を得ることができる。
なお、本明細書中における「軌道盤」は、スラスト軸受の軌道輪、中間輪、および矩形形状の軌道盤等を含むものとして広く解釈されるべきである。具体的には、図1および図4に示したような円盤形状の軌道輪12,13,22,23、図5に示したような矩形形状の軌道盤32,33、およびスラスト受け機構(図示省略)の軌道輪や中間輪等が該当する。
次に、図6および表1を参照して、この発明の効果を確認するための試験について説明する。なお、図6は効果確認試験の試験装置41の正面図(左側)および側面図(右側)、表1は試験片44の組成および試験結果を示す。
Figure 0005058611
まず、図6を参照して、試験装置41は、片持ち梁42にエアスライダ43を介して取り付けられている試験片44と、試験片44の下面に当接し、回転軸45の回転に伴って回転する回転部材46と、試験片44に荷重を負荷するウエイト47と、荷重を測定するロードセル48とを備える。なお、試験片44と回転部材46との当接部分には、50N(最大接触面圧0.49GPa)の荷重が負荷されている。
試験片44は、図2および図3の工程を経て製造される。具体的には、図3の熱処理工程で、浸炭窒化処理と280℃での焼戻処理とを施した実施例1、浸炭窒化処理と230℃での焼戻処理とを施した実施例2、浸炭窒化処理と180℃での焼戻処理とを施した比較例1、および普通熱処理と180℃での焼戻処理とを施した比較例2の4種類を各10個ずつ用意する。なお、各材料中の残留オーステナイト量(%)、窒素濃度(wt%)、および表面硬さ(HRC)は、表1に示す。
また、試験片44の表面は、表面粗さRaが0.10μm〜0.15μmの平坦面である。一方、回転部材46の表面は、曲率半径が60mmの曲面であって、表面粗さRaが0.05μmに設定されている。そして、試験片44の回転部材46との接触部分の形状は、長径0.63mm、短径0.31mmの楕円形状(「接触楕円」という)である。
さらに、回転部材46の下部は潤滑油に浸かっており、試験片44と回転部材46との当接部分を潤滑する。潤滑油としては、多目的油(VG68)を使用する。また、油膜パラメータΛは、約0.3に設定する。
上記の試験条件の下、直径が40mmの回転軸45を0.05m/sの速度(回転速度:24r/min)で60分間回転させたときの摩耗体積比を算出した。結果を表1に示す。なお、表1中の各値は10個の試験片の平均値を示す。また、摩耗体積比は比較例2を基準とした値を示す。
表1を参照して、試験片44中の残留オーステナイト量は、焼戻温度が高くなる程少なくなることが確認された。なお、比較例2の残留オーステナイト量が少ないのは、普通熱処理によるオーステナイト析出量が浸炭窒化処理と比較して少ないことに起因する。一方、表面硬さは、焼戻温度が高くなる程低くなった。これにより、焼戻は、230℃〜280℃の範囲内で、残留オーステナイト量を減少させる観点からは高温で、表面硬さを向上させる観点からは低温で焼戻処理を行うのが望ましい。
また、窒素濃度は、浸炭窒化処理を施した各材料(実施例1,2、比較例1)が0.3wt%〜0.4wt%であったのに対し、普通熱処理を施した比較例2が0wt%であった。
さらに、摩耗体積比は、浸炭窒化処理を施した各材料(実施例1,2、比較例1)が、普通熱処理を施した比較例2に対して低くなり、焼戻温度が高くなる程低くなった。これにより、浸炭窒化処理およびより高い温度での焼戻処理によって耐摩耗性が向上することが確認された。
以上、図面を参照してこの発明の実施形態を説明したが、この発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示した実施形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
この発明は、スラスト転がり軸受やスラストすべり軸受の軌道盤等の製造に有利に利用される。
この発明の一実施形態に係るスラスト針状ころ軸受を示す図である。 軌道盤を製造する主な工程を示すフロー図である。 鋼板から軌道盤を製造する主な工程を示すフロー図である。 この発明の他の実施形態に係るスラストすべり軸受を示す図である。 この発明のさらに他の実施形態に係るスラストすべり軸受を示す図である。 この発明の効果を確認するための試験装置を示す図である。 シンクロナイザリングを製造する主な工程を示すフロー図である。
符号の説明
11 スラスト針状ころ軸受、12,13,22,23,32,33 軌道盤、14 針状ころ、15 保持器、21,31 スラストすべり軸受、22a,23a 穴、22b,23b,32a,33a 軌道面、41 試験装置、42 片持ち梁、43 エアスライダ、44 試験片、45 回転軸、46 回転部材、47 ウェイト、48 ロードセル。

Claims (1)

  1. 0.9wt%〜1.2wt%の炭素と、1.2wt%〜1.7wt%のクロムと、0.1wt%〜0.5wt%のマンガンと、0.15wt%〜0.35wt%のシリコンとを含有し、残りを鉄および不可避不純物とする高炭素鋼を冷間圧延して得られる表面粗さがRmax≦2μmのみがき帯鋼に熱処理を施し、表面の窒素富化層における残留オーステナイト量を10%以下とした軌道盤を備え
    前記軌道盤の軌道面となる壁面の表面粗さRmaxは、Rmax≦1.6μmの関係を有し、
    前記熱処理の焼戻し温度を、230℃〜280℃とした、スラスト軸受。
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