JP4375038B2 - スラスト針状ころ軸受 - Google Patents
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Description
また、特許文献3に記載の技術は、表面粗さ等が考慮されておらず、転がり軸受の長寿命化に改良の余地があった。
そこで、本発明は前述のような従来技術が有する問題点を解決し、冷媒を含有する冷凍機油で潤滑されるという厳しい潤滑条件下において使用されても、摩耗や剥離が生じにくく長寿命なスラスト針状ころ軸受を提供することを課題とする。
図1のスラスト針状ころ軸受は、図示しない軸に固定される内輪1と、図示しないハウジングに固定される外輪2と、これら両輪1,2の間に転動自在に配された複数の転動体3と、複数の転動体3を両輪1,2の間に保持する保持器4と、を備えており、両輪1,2の間に形成され転動体3が内設された空隙部内に供給される冷凍機油5によって潤滑されている。なお、この冷凍機油5は、エアコンディショナ,冷凍機,給湯器等の圧縮機に使用される冷媒を含有している。
〔炭素の含有量について〕
炭素(C)は、転がり軸受として要求される硬さを得るために必要である。硬さのみを考えれば、Cの含有量は0.6質量%以上でも十分であるが、寿命を考えると0.8質量%以上とする必要がある。一方、炭素の含有量が1.2質量%を超えると、製鋼時に粗大な炭化物が析出し、寿命の低下を引き起こす場合がある。
軌道輪を構成する合金鋼中のCの含有量と軌道輪の摩耗量との関係を、図2のグラフに示す。このグラフから分かるように、Cの含有量が0.8質量%未満であると軌道輪の摩耗量が多い。1.2質量%超過であると摩耗量は少ないが、巨大な炭化物を起点とした剥離が発生しやすい。
ケイ素(Si)は、合金鋼の焼戻し軟化抵抗性や焼入性を高め、転がり寿命を向上させる効果を有する。このような効果を十分に得るためには、Siの含有量は0.15質量%以上とする必要がある。ただし、Siの含有量が多くなると、冷間加工性の低下,粒界酸化層の増加,及び脱炭量の増加等が生じるため、Siの含有量の上限は0.5質量%とする必要がある。
マンガン(Mn)は、合金鋼の焼入れ性を向上させる元素であり、転がり寿命を向上させる効果を有する。このような効果を十分に得るためには、Mnの含有量は0.15質量%以上とする必要がある。ただし、Mnの含有量が多くなると、冷間加工性や熱間加工性が低下する傾向があるため、Mnの含有量の上限は0.5質量%とする必要がある。
クロム(Cr)は、合金鋼の焼戻し軟化抵抗性や焼入性を高め、転がり寿命を向上させる効果を有する。ただし、Crの含有量が多すぎると、製鋼時に粗大な炭化物が析出し、寿命の低下を引き起こす場合がある。このような理由から、合金鋼中のCrの含有量は、1質量%以上2質量%以下とする必要がある。
軌道輪を構成する合金鋼中のCrの含有量と軌道輪の摩耗量との関係を、図3のグラフに示す。このグラフから分かるように、Crの含有量が1質量%未満であると軌道輪の摩耗量が多い。2質量%超過であると摩耗量は少ないが、巨大な炭化物を起点とした剥離が発生しやすい。
窒素濃度は合金鋼の摩耗に大きく影響し、窒素濃度を高めれば耐摩耗性が向上する。ただし、窒素濃度が高くなるにしたがって加工性が低下する傾向がある。
軌道面の窒素濃度(軌道輪の軌道面をなす表層部の窒素濃度)と軌道輪の摩耗量との関係を、図4のグラフに示す。このグラフから、窒素濃度が0.1質量%以上であると摩耗量が少なく、0.13質量%以上であると摩耗量がより少なく、0.3質量%以上であると摩耗量が極めて少ないことが分かる。ただし、窒素濃度を高めることによる耐摩耗性の向上効果は飽和していることに加えて、窒素濃度が高くなると加工性が低下し、表面粗さが悪化する傾向があることから、軌道面の窒素濃度は0.5質量%以下とすることが好ましい。
窒素濃度は合金鋼の摩耗に大きく影響するが、窒素濃度を制御しただけでは耐摩耗性が十分に向上しない場合がある。
軌道面の炭素濃度と窒素濃度との和(軌道輪の軌道面をなす表層部の炭素濃度と窒素濃度との和)と、軌道輪の摩耗量と、の関係を、図5のグラフに示す。なお、軌道面の窒素濃度は0.1質量%に統一してある。このグラフから、窒素濃度が十分であっても、炭素濃度と窒素濃度との和が1.1質量%未満であると、摩耗の抑制に有効な炭窒化物の析出が不十分となり、摩耗量が多くなる場合があることが分かる。よって、軌道面の炭素濃度と窒素濃度との和は、1.1質量%以上とする必要がある。より優れた耐摩耗性を得るためには、1.2質量%以上とすることが好ましい。
軌道面の表面粗さRaは、転動体の摩耗に大きな影響を及ぼす傾向がある。すなわち、軌道面が粗いと、軌道面の微小な凹凸部が転動体の滑らかな転動面と接触して、転動体の転動面にピーリング損傷と呼ばれる摩耗や微小剥離を生じさせる。
軌道面の表面粗さRaと転動体の摩耗量との関係を、図6のグラフに示す。このグラフから、軌道面の表面粗さRaが0.2μm超過であると、転動体の摩耗量が多いことが分かる。よって、軌道面の表面粗さRaは、0.2μm以下とする必要がある。転動体の摩耗量をより少なくするためには、軌道面の表面粗さRaを0.1μm以下とすることが好ましい。
軌道面の表面粗さRaは転動体の摩耗に大きく影響するが、軌道面の表面粗さRaを制御しただけでは転動体の摩耗を十分に抑制できない場合がある。
転動体の転動面の表面粗さRaと転動体の摩耗量との関係を、図7のグラフに示す。なお、軌道面の表面粗さRaは0.2μmに統一してある。このグラフから、軌道面の表面粗さRaが十分に小さくても、転動体の転動面の表面粗さRaが0.1μm超過であると、軌道面と転動面それぞれの凸部同士が接触するなどして、潤滑油による油膜形成が不十分となり、転動体の摩耗量が多くなる場合があることが分かる。よって、転動体の転動面の表面粗さRaは、0.1μm以下とする必要がある。転動体の摩耗量をより少なくするためには、転動体の転動面の表面粗さRaを0.05μm以下とすることが好ましい。
以下に、実施例を示して、本発明をさらに具体的に説明する。図1のスラスト針状ころ軸受とほぼ同様の構成の日本精工株式会社製の転がり軸受(内径40mm,外径60mm,軌道面の幅5mm)において、後述する諸条件(軌道面の窒素濃度や軌道面の表面粗さRa等)を種々変更したものを用意して、その耐摩耗性を評価した。
830〜850℃で2〜4時間浸炭窒化処理を行い、さらにダイレクトに焼入れを行った。浸炭窒化処理の雰囲気は、RXガスの流量を15〜20m3 /h、カーボンポテンシャルを0.9〜1.3%、NH3 の流量を0.1〜0.3m3 /hの範囲内でそれぞれ制御することにより調整した。また、焼入れ時の油温は60〜120℃である。さらに、焼戻し条件は、180〜220℃で1.5〜3時間である。
(回転試験条件)
・回転速度 :1250min-1
・アキシアル荷重:8000N
・試験時間 :計算寿命(100時間)
・潤滑油 :ポリアルキレングリコールに白灯油を混合したもの(白灯油の 割合は60〜90質量%)
このような回転試験を行った後に、軌道面の剥離の有無を確認するとともに、内輪,外輪,及び転動体の摩耗量を下記のようにして測定した。
まず、内輪及び外輪の摩耗量の測定方法について説明する。株式会社東京精密製のサーフコム200B(商品名)を用いて、転動体の走行により摩耗した転動体の走行部(軌道面)と非走行部との段差の大きさ、すなわち摩耗により生じた凹部の深さを測定した。転動体の走行方向に垂直な平面で軌道面を破断した場合に生じる断面において最も摩耗した部分の深さを、その断面における摩耗深さとし、円周上の10カ所の断面の摩耗深さの平均値を、その軌道輪の平均摩耗量とした。回転試験は1種の軸受につき5個ずつ行い、得られた全ての平均摩耗量の中の最大値を、その軸受の軌道面の摩耗量として表1〜3に示した。
また、表面粗さRaに着目すると、比較例1,2,4,5のスラスト針状ころ軸受は、軌道面の表面粗さRaが0.2μm超過と悪いため、転動体の転動面の摩耗量が多かった。特に、比較例5のスラスト針状ころ軸受は、軌道面の窒素濃度及び炭素濃度と窒素濃度との和は前記所定値以上であるものの、軌道面の表面粗さRaが0.2μm超過と悪いため、転動体の転動面の摩耗量が多かった。さらに、比較例7,8のスラスト針状ころ軸受は、軌道面の表面粗さRaは良好であるものの、転動体の転動面の表面粗さRaが0.1μm超過と悪いため、転動体の転動面の摩耗量が多かった。
1a 軌道面
2 外輪
2a 軌道面
3 転動体
3a 転動面
5 冷凍機油
Claims (1)
- 内輪と、外輪と、前記内輪及び前記外輪の間に転動自在に配された複数の転動体と、を備え、冷媒を含有する冷凍機油で潤滑されるスラスト針状ころ軸受において、
前記内輪,前記外輪,及び前記転動体は、炭素を0.8質量%以上1.2質量%以下、ケイ素を0.15質量%以上0.5質量%以下、マンガンを0.15質量%以上0.5質量%以下、クロムを1質量%以上2質量%以下含有し、残部が鉄及び不可避の不純物からなる合金鋼で構成され、
前記内輪及び前記外輪の軌道面は、浸炭窒化処理により、窒素濃度が0.1質量%以上、炭素濃度と窒素濃度との和が1.1質量%以上とされており、
さらに、前記両軌道面の表面粗さRaが0.2μm以下、前記転動体の転動面の表面粗さRaが0.1μm以下であることを特徴とするスラスト針状ころ軸受。
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