JP2013143358A - リチウム二次電池 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】本発明のリチウム二次電池は、殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造の正極活物質を備える。その正極活物質は、層状の結晶構造を有し、Ni,CoおよびMnのうち少なくとも一種の金属元素MTを含有するリチウム遷移金属酸化物を含む。上記正極活物質は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)面のにより得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下であり、かつLiとCO3とを含む化合物の含有量が0.2質量%以下である。
【選択図】図9
Description
一般に、層状構造のリチウム遷移金属酸化物(例えばLiNiO2)は、リチウム層、酸素層、遷移金属層、酸素層が繰り返し重なった積層構造を有しており、その層が重ねられる方向(c軸)に直交する方向からLiイオンが吸蔵および放出される。c軸に直交する方向の結晶の厚さが厚すぎると、Liイオンの拡散距離が長くなるため、結晶内部へのイオン拡散が遅くなる。このことは電池の出力性能にとって不利である。特に、低SOC域では、活物質内のLiイオン濃度が高く、放電時に活物質内部へのイオン拡散が律速となるため、イオン拡散が遅いと出力特性が低下しがちである。
使用開始後の電池のSOCは、例えば以下の方法(SOC−OCV測定)を通じて把握することができる。
[ステップ1:残容量の放電]25℃において、1CでCCV放電を2時間行い、3Vでカットする。
[ステップ2:CC充電]ステップ1終了後の電池に対し、0.1Cで30分間充電する操作と、20分間休止する操作とを2〜3回繰り返し、4.1Vでカットする。
[ステップ3:CCCV充電]ステップ2終了後の電池に対し、0.4Cで1時間CCV充電し、20分間休止する。
[ステップ4:CC放電]ステップ3終了後の電池に対し、0.1Cで30分間放電させる操作と、20分間休止する操作とを2〜3回繰り返し、3.0Vでカットする。
(a1)アルカリ性条件下において、前記MTを含む水溶液から前記水酸化物を析出させる核生成段階と、
(a2)前記水溶液を前記核生成段階よりもpHの低いアルカリ性に維持しつつ、前記析出した水酸化物を成長させる粒子成長段階と、
を含む水酸化物生成工程を備える。かかる工程(a)により得られた前駆体水酸化物によると、中空構造を有する正極活物質をより的確に製造することができる。
ここに開示される技術における正極活物質は、殻部とその内部に形成された中空部とを備えた中空構造を有する。該正極活物質は、層状の結晶構造(典型的には、六方晶系に属する層状岩塩型構造)を有するリチウム遷移金属酸化物を含む。上記リチウム遷移金属酸化物は、金属元素MTを含む。このMTは、Ni,CoおよびMnのうちの少なくとも一種である。上記正極活物質におけるNi,CoおよびMnの合計含有量(すなわち、MTの含有量)は、該正極活物質に含まれるリチウム以外の全金属元素Mallの総量をモル百分率で100モル%としたとき、そのうち例えば85モル%以上(好ましくは90モル%以上、典型的には95モル%以上)であり得る。上記MTが少なくともNiを含む組成の正極活物質が好ましい。例えば、正極活物質に含まれるリチウム以外の金属元素の総量を100モル%として、Niを10モル%以上(より好ましくは20モル%以上)含有する正極活物質が好ましい。かかる組成の正極活物質は、後述する製造方法を適用して中空構造の正極活物質粒子を製造するのに適しているので、所望する構造の正極活物質粒子を容易に得ることができる。
Li1+xNiyCozMn(1−y−z)MAαMBβO2 (I)
上記式(I)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.4を満たす実数であり得る。MAは、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。MBは、Zr,Mg,Ca,Na,Fe,Zn,Si,Sn,Al,BおよびFからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、MBを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。
なお、本明細書中において層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示しているが、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
本実施形態に係るリチウム二次電池に用いられる正極活物質は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bに対する、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aの比(A/B)が0.7以下(典型的には0.7未満)である。かかる半値幅比(A/B)を示すリチウム遷移金属酸化物は、より大きな半値幅比(A/B)を示すリチウム遷移金属酸化物に比べて、結晶のc軸方向の厚さがより厚く、かつc軸に直交する方向の厚さがより薄いものであり得る。c軸方向の厚さが厚くなると、Liイオンが挿入可能な面が増大する。また、c軸に直交する方向(例えばa軸方向)の厚さが薄くなると、結晶内のイオン拡散距離が短くなる。したがって、かかる構成の正極活物質によると、Liイオンの吸蔵および放出を効率よく行うことができる。具体的には、結晶内部へのLiイオンの拡散が速いため、充電時には結晶の内部からLiイオンが放出されやすく、放電時にはLiイオンが結晶の内部まで吸収されやすい。したがって、上記半値幅比(A/B)を示す正極活物質を採用することにより、リチウム二次電池の出力特性(特に低SOC域における出力特性)を効果的に向上させることができる。
ここに開示される技術における正極活物質は、典型的には、殻部とその内部に形成された中空部(空洞部)とを有する中空構造の粒子形態をなす。かかる粒子状の正極活物質(正極活物質粒子)の粒子形状は、典型的には、概ね球形、やや歪んだ球形等であり得る。好ましい一態様において、上記殻部は、上記中空部と粒子外部とを連通させる貫通孔を有する(以下、殻部に上記貫通孔を有する中空構造を「孔空き中空構造」ということがある。)。なお、このような中空構造(特記しない限り、孔空き中空構造を包含する意味である。)の粒子と対比されるものとして、一般的な多孔質構造の粒子が挙げられる。ここで多孔質構造とは、実体のある部分と空隙部分とが粒子全体にわたって混在している構造(スポンジ状構造)を指す。多孔質構造を有する活物質粒子の代表例として、いわゆる噴霧焼成法(スプレードライ製法と称されることもある。)により得られた活物質粒子が挙げられる。ここに開示される中空構造の活物質粒子は、実体のある部分が殻部に偏っており、上記中空部にまとまった空間が確保されているという点で、上記多孔質構造の活物質粒子とは、構造上、明らかに区別されるものである。
正極活物質粒子110は、殻部115を貫通して中空部116と外部(粒子110の外部)とを空間的に連続させる貫通孔118を有することが好ましい。かかる貫通孔118を有することにより、中空部116と外部とで電解液が行き来し易くなり、中空部116内の電解液が適当に入れ替わる。このため、中空部116内で電解液が不足する液枯れが生じ難く、中空部116に面する一次粒子112がより活発に充放電に活用され得る。かかる構成によると、上述した半値幅比(A/B)を有することにより結晶内部へのLiイオンの拡散が速いことと、一次粒子112に電解液を効率よく接触させ得ることとが相俟って、リチウム二次電池の出力特性(特に低SOC域における出力特性)をさらに向上させることができる。
なお、一つの活物質粒子110が複数の貫通孔118を有する場合、それら複数の貫通孔118のうち最も大きい開口幅を有する貫通孔の開口幅を、当該活物質粒子110の開口幅として採用するとよい。また、貫通孔118の開口幅hは平均2.0μm以下、より好ましくは平均1.0μm以下、さらに好ましくは平均0.5μm以下であってもよい。
ここに開示される正極活物質は、Li−CO3化合物(典型的には炭酸リチウム(Li2CO3))の含有量が0.2質量%以下である。すなわち、該正極活物質は、Li−CO3化合物を含有しないか、あるいは正極活物質の0.2質量%を超えない量のLi−CO3化合物を含有する。このLi−CO3化合物は、当該正極活物質の調製工程において使用したリチウム化合物(Li2CO3,LiOH等)に由来するものであり得る。例えば、正極活物質の前駆体としての遷移金属水酸化物と上記リチウム化合物との混合物を加熱(焼成)してリチウム遷移金属酸化物を生成させる場合において、該リチウム化合物の余剰分(MT量またはMallに対して過剰に使用した分)、未反応分、副反応生成物、もしくはこれらが雰囲気中(例えば空気中)のCO2等と反応して生じたLi−CO3化合物であり得る。
ここに開示される正極活物質は、また、リチウムの水溶性アルカリ塩もしくは水と接触して水溶性アルカリ塩を生じ得る化合物(水酸化リチウム、酸化リチウム等;以下、「水溶性リチウムアルカリ塩またはその前駆体」ともいう。)を含み得る。好ましい一態様では、上記正極活物質が、上記水溶性リチウムアルカリ塩またはその前駆体を実質的に含有しない(例えば、含有量が0〜0.01質量%である。)。
なお、上記焼成工程は、必要に応じて第一焼成段階および第二焼成段階以外の焼成段階を含み得るが、第一焼成段階の終了後には、最高焼成温度T1またはそれ以上の温度に0.5時間以上連続して保持される段階を有しないことが好ましい。かかる段階により、結晶の成長が進行して半値幅比(A/B)が大きくなりすぎる可能性があるためである。
以下、リチウム遷移金属酸化物がLNCM酸化物であり、金属元素MAとしてWを含む組成の正極活物質の製造を主な例として、ここに開示される正極活物質製造方法の好ましい一態様を説明するが、本発明をかかる具体的態様に限定する意図ではない。
図3に示すように、本実施態様に係る正極活物質製造方法は、MT(ここではNi,CoおよびMn)を含む水溶液(典型的には酸性、すなわちpH7未満の水溶液)aqAを準備することを含む(ステップS110)。好ましい一態様において、上記水溶液aqAは、Wを実質的に含有しない組成物である。上記水溶液aqAに含まれる各金属元素の量比は、目的物たる正極活物質の組成に応じて適宜設定することができる。例えば、Ni,CoおよびMnのモル比を、上記正極活物質におけるこれらの元素のモル比と概ね同程度とすることができる。なお、水溶液aqAは、全てのMTを含む一種類の水溶液であってもよく、組成の異なる二種類以上の水溶液であってもよい。例えば、MTとしてNiのみを含む水溶液aqA1と、MTとしてCoおよびMnのみを含む水溶液aqA2との二種類を、上記aqAとして使用してもよい。好ましい一態様として、全てのMTを含む一種類の水溶液を用いる態様が例示される。かかる態様は、製造装置の複雑化を避ける、製造条件の制御が容易である、等の観点から好ましく採用され得る。
本態様の正極活物質製造方法は、また、Wを含む水溶液aqBを準備することを含む(ステップS120)。この水溶液aqBは、典型的には、MTを実質的に含有しない(これらの金属元素を少なくとも意図的には含有させないことをいい、不可避的不純物等として混入することは許容され得る。)組成物である。例えば、金属元素として実質的にWのみを含む水溶液aqBを好ましく使用し得る。水溶液aqBは、上述した水溶液aqAと同様に、所定量のW化合物を水性溶媒に溶解させて調製することができる。W化合物としては各種のW塩を用いることができる。好ましい一態様では、タングステン酸(Wを中心元素とするオキソ酸)の塩を使用する。上記W塩は、水和物等の溶媒和物であってもよい。該W塩におけるカチオンは、該塩が水溶性となるように選択することができ、例えばアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等であり得る。好ましく使用し得るW塩の一例として、パラタングステン酸アンモニウム(5(NH4)2O・12WO3)が挙げられる。水溶液aqBにおけるWの濃度は、例えば、W元素基準で0.01〜1mol/L程度とすることができる。
ここに開示される正極活物質製造方法では、MTを含む水溶液aqAと、Wを含む水溶液aqBとを、別々の水溶液として準備し、かつ、aqAとaqBとをアルカリ性条件下(すなわち、pHが7を超える条件下)で混合する。そして、この混合溶液からMTおよびWを含む水酸化物(以下、「遷移金属水酸化物」または「前駆体水酸化物」ということがある。)を析出させる(水酸化物生成工程)。
好ましい一態様では、上記水酸化物生成工程が、上記aqAおよびaqBを含む混合溶液から上記遷移金属水酸化物の核を析出させる段階(核生成段階)と、その核を成長させる段階(粒子成長段階)とを含む。好ましい一態様において、上記核生成段階および上記粒子成長段階は、いずれもアンモニアの存在下で行われる。少なくとも上記粒子成長段階は、上記溶液中のアンモニア濃度を制御しつつ(例えば、所定値以下に制御しつつ)行うことが特に好ましい。また、上記粒子成長段階は、上記核生成段階におけるpHより低pHであって、かつアルカリ性の条件下で実施することが好ましい。
なお、本明細書中において、pHの値は、液温25℃を基準とするpH値をいうものとする。また、反応液のアンモニア濃度は、例えば、イオンクロマト法、イオン電極法等により等により測定することができる。測定には、市販のイオンクロマトグラフ装置、電極式アンモニア計等を用いることができる。
上記粒子成長段階(ステップS140)では、核生成段階で析出した遷移金属水酸化物の核(典型的には粒子状)を、好ましくは該核生成段階よりも低pH域のアルカリ性条件下で成長させる。例えば、pH12.0未満(典型的にはpH10.0以上12.0未満、好ましくはpH10.0以上11.8以下、例えばpH11.0以上11.8以下)で粒子成長させるとよい。この粒子成長段階を経て得られる遷移金属水酸化物粒子(前駆体水酸化物粒子)は、典型的には、該粒子の外表面部の密度に比べて、該粒子の内部の密度が低い構造を有する。アンモニアを含むアルカリ性水溶液を用いる態様において、かかる構造の遷移金属水酸化物粒子を安定して得るためには、該粒子成長段階における液中アンモニア濃度を高くしすぎない(低く抑える)ことが肝要である。このことによって、上記遷移金属水酸化物の析出速度が速くなり、中空構造(好ましくは孔空き中空構造)の活物質粒子の形成に適した前駆体水酸化物を効果的に生成させ得る。なお、遷移金属水酸化物の析出速度は、例えば、反応液に供給される金属イオン(例えば、MTおよびWのイオン)の合計モル数に対して、反応液の液相中に含まれる該金属イオンの合計モル数(合計イオン濃度)の推移を調べることにより把握され得る。
本態様に係る正極活物質製造方法は、上記前駆体水酸化物とリチウム化合物(リチウム源)とを混合する混合工程を含み得る(ステップS160)。上記リチウム化合物としては、リチウムを含む酸化物を用いてもよく、加熱により酸化物となり得る化合物(リチウムの炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ナトリウム塩等)を用いてもよい。好ましいリチウム化合物として、炭酸リチウム、水酸化リチウムを例示することができる。上記リチウム化合物は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい一態様に係る正極活物質製造方法では、上記リチウム化合物として炭酸リチウムを(例えば単独で)使用する。かかる態様においては、ここに開示される製造方法を適用して正極活物質のLi−CO3化合物含有量を調整する(所定値以下に低減する)ことが特に有意義である。前駆体水酸化物とリチウム化合物との混合比は、目的とする正極活物質において所望のモル比が実現されるように決定することができる。例えば、リチウムと他の金属元素とのモル比が上記正極活物質におけるモル比と同程度となるように、上記前駆体水酸化物とリチウム化合物とを混合するとよい。
そして、上記混合物を焼成してリチウム遷移金属酸化物を生成させる(ステップS170)。この焼成工程は、上述した第一焼成段階(ステップS172)と、第二焼成段階(S174)とを包含する。好ましくは、かかる焼成工程後に焼成物を解砕し、必要に応じて篩分けを行なって正極活物質の粒径を調整する。
ここに開示される技術における正極活物質は、粒子空孔率が5%以上の中空構造(典型的には、孔空き中空構造)を有する。粒子空孔率が10%以上である正極活物質が好ましく、より好ましくは15%以上である。粒子空孔率が小さすぎると、中空構造であることの利点が十分に発揮されにくくなる場合があり得る。粒子空孔率が20%以上(典型的には23%以上、好ましくは30%以上)であってもよい。粒子空孔率の上限は特に限定されないが、活物質粒子の耐久性(例えば、電池の製造時や使用時に加わり得る圧縮応力等に耐えて中空形状を維持する性能)や製造容易性等の点から、通常は95%以下(典型的には90%以下、例えば80%以下)とすることが適当である。ここに開示されるいずれかの正極活物質製造方法において、上記粒子空孔率の調節は、例えば、粒子成長工程を継続する時間、粒子成長工程における遷移金属水酸化物の析出速度(例えば、アンモニア濃度)等を通じて行うことができる。
かかる中空構造の正極活物質(正極活物質粒子)において、殻部(一次粒子が球殻状に集合した部分)の厚さは、通常、3.0μm以下であることが好ましく、好ましくは2.5μm以下(例えば2.2μm以下)、さらに好ましくは2.0μm以下(例えば1.5μm以下)である。殻部の厚さが小さいほど、充電時には殻部の内部(厚みの中央部)からもリチウムイオンが放出されやすく、放電時にはリチウムイオンが殻部の内部まで吸収されやすくなる。したがって、所定の条件において単位質量の活物質粒子が吸蔵および放出し得るリチウムイオンの量を多くできるとともに、活物質粒子がリチウムイオンを吸蔵したり放出したりする際の抵抗を軽減し得る。かかる活物質粒子を用いてなるリチウム二次電池は、半値幅比(A/B)がここに開示される好ましい範囲にあることの効果と相まって、低SOC域における出力に優れたものとなり得る。
活物質粒子の平均粒径(二次粒径)は、例えば、凡そ2μm〜25μmであることが好ましい。かかる構成の正極活物質によると、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。平均粒径が小さすぎると、中空部の容積が小さいため、電池性能を向上させる効果が低下傾向になり得る。平均粒径が凡そ3μm以上であることがより好ましい。また、正極活物質の生産性等の観点からは、平均粒径が凡そ25μm以下であることが好ましく、凡そ15μm以下(例えば凡そ10μm以下)であることがより好ましい。好ましい一態様では、正極活物質の平均粒径が凡そ3μm〜10μm(例えば3μm〜8μm)である。
活物質粒子110を構成する一次粒子112は、その長径L1が例えば凡そ0.1μm〜1.0μmであり得る。本発明者の知見によれば、一次粒子112の長径L1は、(003)面の法線方向(c軸)に直交する方向における結晶サイズに凡そ相関し得る。L1が小さすぎると、電池の容量維持性が低下傾向となることがあり得る。かかる観点から、L1が0.2μm以上である正極活物質が好ましく、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.4μm以上である。一方、L1が大きすぎると、結晶の表面から内部(L1の中央部)までの距離(Liイオンの拡散距離)が長くなるため、結晶内部へのイオン拡散が遅くなり、出力特性(特に、低SOC域における出力特性)が低くなりがちである。かかる観点から、L1は0.8μm以下(例えば0.75μm以下)であることが好ましい。好ましい一態様では、一次粒子の長径L1が0.2μm〜0.8μm(例えば0.3μm〜0.75μm)である。
ここに開示される正極活物質のBET比表面積は、凡そ0.3m2/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.5m2/g以上、さらに好ましくは0.8m2/g以上である。また、活物質粒子110のBET比表面積は、例えば、凡そ3.0m2/g以下(例えば2.0m2/g以下)とすることができ、1.7m2/g以下であってもよく、さらに1.5m2/g以下であってもよい。好ましい一態様に係る正極活物質は、BET比表面積が概ね0.5〜2.0m2/gの範囲にある。
ここに開示される技術の好ましい一態様によると、平均硬度が概ね0.5MPa以上(典型的には1.0MPa以上、例えば2.0〜10MPa)である正極活物質粒子が製造され得る。ここで「平均硬度」とは、直径50μmの平面ダイヤモンド圧子を使用して、負荷速度0.5mN/秒〜3mN/秒の条件で行われるダイナミック微小硬度測定により得られる値をいう。かかるダイナミック微小硬度測定には、例えば、株式会社島津製作所製の微小硬度計、型式「MCT−W500」を用いることができる。より多くの活物質粒子について上記硬度測定を行うほど、それらの活物質の硬度の算術平均値は収束する。上記平均硬度としては、少なくとも3個(好ましくは5個以上)の活物質粒子に基づく算術平均値を採用することが好ましい。核生成段階と粒子成長段階とを包含する上述した孔空き活物質粒子製造方法は、かかる平均硬度を有する孔空き活物質粒子の製造方法として好適である。この方法により得られた孔空き中空構造の活物質粒子は、例えば噴霧焼成製法(スプレードライ製法とも称される。)等により得られた一般的な多孔質構造の正極活物質粒子に比べて、より硬く(平均硬度が高く)、形態安定性に優れたものとなり得る。このように、中空構造であってかつ平均硬度の高い(換言すれば、形状維持性の高い)活物質粒子は、より高い性能を安定して発揮する電池を与えるものであり得る。
ここに開示される技術の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば図4および図5に示されるように、捲回電極体20が、非水電解液90とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10に収容された構成を有する。ケース10の開口部12は蓋体14により塞がれている。蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14から電池の外方に突出するように設けられている。かかる構成のリチウムイオン二次電池100は、例えば、ケース10の開口部12から電極体20を内部に収容し、該ケース10の開口部12に蓋体14を取り付けた後、蓋体14に設けられた電解液注入孔(図示せず)から電解液90を注入し、次いで上記注入孔を塞ぐことによって構築することができる。
正極シート30は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極活物質層34が設けられておらず正極集電体32が露出するように形成されている。同様に、負極シート40は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極活物質層44が設けられておらず負極集電体42が露出するように形成されている。そして、正極集電体32の上記露出端部に正極端子38が、負極集電体42の上記露出端部には負極端子48がそれぞれ接合されている。正負極端子38、48と正負極集電体32、42との接合は、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等により行うことができる。
負極シート40は、例えば、負極活物質を、必要に応じて用いられるバインダ等とともに適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物(負極活物質層形成用の分散液)を負極集電体42に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。
特に限定するものではないが、正極の初期容量(CP)に対する負極の初期容量(CN)の比(CN/CP)は、通常、例えば1.0〜2.0とすることが適当であり、1.2〜1.9とすることが好ましい。CN/CPが小さすぎると、電池の使用条件によっては(例えば、急速充電時等に)、金属リチウムが析出しやすくなる等の不都合が生じ得る。CN/CPが大きすぎると、電池のエネルギー密度が低下しやすくなることがある。
正極シート30と負極シート40との間に介在されるセパレータ50としては、当該分野において一般的なセパレータと同様のものを特に限定なく用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性シート(微多孔質樹脂シート)が挙げられる。例えば、PEシート、PPシート、PE層の両側にPP層が積層された三層構造(PP/PE/PP構造)のシート等を好適に使用し得る。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。ここに開示される技術におけるセパレータは、上記多孔質シート、不織布等の片面または両面(典型的には片面)に、多孔質の耐熱層を備える構成のものであってもよい。かかる多孔質耐熱層は、例えば、無機材料(アルミナ粒子等の無機フィラー類を好ましく採用し得る。)とバインダとを含む層であり得る。
非水電解液90としては、非水溶媒(有機溶媒)中に電解質(支持塩)を含むものが用いられる。上記非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒の一種または二種以上を適宜選択して使用することができる。特に好ましい非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。例えば、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒を好ましく用いることができる。
(サンプルP1)
硫酸ニッケル(NiSO4)、硫酸コバルト(CoSO4)および硫酸マンガン(MnSO4)を水に溶解させて、Ni:Co:Mnのモル比が1:1:1であり、かつNi,CoおよびMnの合計濃度が1.8mol/Lである水溶液aqAを調製した。また、パラタングステン酸アンモニウム(5(NH4)2O・12WO3)を水に溶解させて、W濃度が0.05mol/Lの水溶液aqB(W水溶液)を調製した。
第一焼成段階における最高焼成温度(T1)および保持時間(t1)、第二焼成段階における最高焼成温度(T2)および保持時間(t2)、ならびに混合工程におけるmT:mLiを表1に示すように設定した他はサンプルP1の製造と同様にして、正極活物質サンプルP2〜P4を得た。
サンプルP1〜P4の製造に係る焼成工程の温度プロファイル(焼成パターンI)を図6に示す。
第二焼成段階を行わない点を除いてはサンプルP1〜P4の製造と同様にして、これらP1〜P4のそれぞれに対応する正極活物質サンプルP5〜P8を得た。
サンプルP5〜P8の製造に係る焼成工程の温度プロファイル(焼成パターンII)を図7に示す。
混合工程におけるmT:mLi、最高焼成温度(T1)および保持時間(t1)を表1に示すように設定した点、ならびに第二焼成段階を行わない点を除いてはサンプルP1の製造と同様にして、正極活物質サンプルP9〜P11を得た。
サンプルP9〜P11の製造に係る焼成工程の温度プロファイル(焼成パターンIII)を図8に示す。
上述した方法により、正極活物質サンプルP1〜P11の外殻の厚み(殻厚)および空孔率(断面積比)を求めた。
(半値幅比(A/B))
サンプルP1〜P11の粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出した。
正極活物質サンプルP1〜P11につき、以下の手順に従い、自動滴定装置(平沼産業株式会社製の型式「COM−1600」)を用いてLi−CO3化合物の中和滴定を実施した。
(1)攪拌子を入れた200mLビーカーに、正極活物質サンプルS(g)(典型的には2.01g〜2.04g程度)を0.0001gの桁まで秤量する。
(2)上記ビーカーに容積が100mLとなるまでイオン交換水を加える。
(3)10%塩化バリウム溶液2mLをさらに加える。
(4)スターラーにより1分間程度攪拌する。
(5)自動滴定装置を用い、pH9近傍の変曲点を第一中和点として塩酸溶液で中和滴定を行い、第一中和点までの塩酸滴定量D1(L)を求める。
(6)さらに滴定を続け、pH4近傍の変曲点を第二中和点として塩酸溶液で中和滴定を行い、第二中和点までの塩酸滴定量D2(L)を求める。
(7)D1とD2との差からLi−CO3化合物量を算出する。
他の滴定条件は次のとおりとした。
滴定速度: 400μL/秒
最大滴下量: 50μL
最小滴下量: 2μL
滴下待ち時間: 1秒
安定待ち係数: 10mpH
安定待ち時間: 1秒
正極活物質サンプルP1〜P11を用いて試験用電池(リチウムイオン二次電池)を構築し、その性能評価を行った。
上記で得られた活物質粒子サンプルと、AB(導電材)と、PVDF(結着材)とを、これらの材料の質量比が90:8:2となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極活物質層形成用のスラリー状組成物を調製した。この組成物を、厚さ15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗付して乾燥させることにより、正極集電体の両面に正極活物質層を有する正極シートを作製した。正極活物質層用組成物の塗付量は、両面の塗付量が略同等であり両面の合計塗付量が約11.8mg/cm2(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、圧延プレス機によりプレスして、正極活物質層の密度を約2.3g/cm3に調整した。
上記のように構築した試験用電池に対し、次の手順1〜3に従ってコンディショニングを施した。
[手順1]1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧にて2時間放電し、10秒間休止する。
[手順2]1Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電にて2.5時間充電し、10秒間休止する。
[手順3]0.5Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、10秒間停止する。
上記手順3における、定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を、定格容量とする。
上記コンディショニング後の試験用電池について、温度25℃、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で、次の手順1〜3に従って定格容量を測定した。
[手順1]1Cの定電流で3.0Vまで放電し、続いて定電圧で2時間放電し、10秒間休止する。
[手順2]1Cの定電流で4.1Vまで充電し、続いて定電圧で2.5時間充電し、10秒間休止する。
[手順3]0.5Cの定電流で3.0Vまで放電し、続いて定電圧で2時間放電し、10秒間停止する。
そして、手順3における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を定格容量(初期容量)とした。この試験用電池では、定格容量が凡そ4Ahとなった。
以下の手順1〜5により、低SOC(ここでは27%)に調整された試験用電池の−30℃における出力を測定した。その結果を表1および表2に示す。
[手順1]上記コンディショニング工程および定格容量測定後の電池を、常温(ここでは25℃)の温度環境にて、1Cの定電流で3VからSOC27%まで充電(CC充電)し、次いで同電圧で2.5時間充電(CV充電)する。
[手順2]手順1後の電池を、−30℃の恒温槽内に6時間保持する。
[手順3]手順2後の電池を、−30℃の温度環境において定ワット(W)にて放電し、放電開始から電圧が2.0V(放電カット電圧)になるまでの秒数を測定する。
[手順4]手順3の定ワット放電における放電出力(定ワット放電の放電電力量)を80W〜200Wの間で異ならせて(より具体的には、手順3の定ワット放電における放電出力を、1回目80W、2回目90W、3回目100W・・・と10Wづつ200Wまで上げながら)、上記手順1〜3を繰り返す。
[手順5]手順4の各定ワット放電において測定された電圧2.0Vまでの秒数を横軸にとり、そのときの定ワット放電出力を縦軸にとったプロットの近似曲線から、電圧2.0Vまでの秒数が2秒となるときの出力値(低温低SOC出力)を求める。
10 電池ケース
12 開口部
14 蓋体
20 捲回電極体
30 正極シート(正極)
32 正極集電体
34 正極活物質層
38 正極端子
40 負極シート(負極)
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 負極端子
50 セパレータ
90 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池(リチウム二次電池)
110 正極活物質粒子(正極活物質)
112 一次粒子
115 殻部
115a 殻部の内側面
115b 殻部の外側面
116 中空部
118 貫通孔
Claims (11)
- 正極および負極を備えたリチウム二次電池であって、
前記正極は、殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造の正極活物質を備え、
前記正極活物質は、以下の条件:
層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、該リチウム遷移金属酸化物はNi,CoおよびMnのうち少なくとも一種の金属元素MTを含有する;
CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下である;および、
LiとCO3とを含む化合物の含有量が0.2質量%以下である;
を満たす、リチウム二次電池。 - 前記正極活物質に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTに対する、前記正極活物質に含まれるリチウムのモル数mLiの比(mLi/mMT)が1.10以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
- 前記正極活物質は、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素MAをさらに含み、
前記正極活物質に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTをモル百分率で100モル%としたとき、前記MAの含有量mMAが0.05モル%〜1モル%である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。 - 前記リチウム遷移金属酸化物は、前記MTとしてNi,CoおよびMnを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
- 前記正極活物質は、前記殻部を貫通する貫通孔を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
- 車両の駆動用電源として用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
- 正極活物質を製造する方法であって、
該正極活物質は、以下の条件:
殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造を備える;
層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、該リチウム遷移金属酸化物はNi,CoおよびMnのうち少なくとも一種の金属元素MTを含有する;
CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下である;および、
LiとCO3とを含む化合物の含有量が0.2質量%以下である;
を満たし、
その正極活物質製造方法は:
(a)前記MTを含む前駆体水酸化物を準備する前駆体水酸化物準備工程;
(b)前記前駆体水酸化物とリチウム化合物とを混合して未焼成の混合物を調製する混合工程;および、
(c)前記混合物を焼成して前記正極活物質を得る焼成工程;
を包含し、
前記焼成工程(c)は:
(c1)前記混合物を、最高焼成温度850℃〜950℃の条件で、該最高焼成温度に1時間〜12時間保持する第一焼成段階;および、
(c2)前記第一焼成段階の結果物を、最高焼成温度650℃〜800℃の条件で、該最高焼成温度に1時間〜12時間保持する第二焼成段階;
を含む、正極活物質製造方法。 - 前記混合工程(b)では、Ni,CoおよびMnの合計モル数mMTに対するリチウムのモル数mLiの比(mLi/mMT)が1.10以上の前記未焼成混合物を調製する、請求項7に記載の方法。
- 前記前駆体水酸化物は、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素MAをさらに含み、該水酸化物に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTをモル百分率で100モル%としたとき、前記MAの含有量mMAが0.05モル%〜1モル%である、請求項7または8に記載の方法。
- 前記前駆体水酸化物準備工程(a)は、
(a1)アルカリ性条件下において、前記MTを含む水溶液から前記水酸化物を析出させる核生成段階と、
(a2)前記水溶液を前記核生成段階よりもpHの低いアルカリ性に維持しつつ、前記析出した水酸化物を成長させる粒子成長段階と、
を含む水酸化物生成工程を備える、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。 - 請求項7から10のいずれか一項に記載の方法により製造された正極活物質。
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