JP2013143358A - リチウム二次電池 - Google Patents

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Abstract

【課題】低SOC域における出力が改善されたリチウム二次電池を提供する。
【解決手段】本発明のリチウム二次電池は、殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造の正極活物質を備える。その正極活物質は、層状の結晶構造を有し、Ni,CoおよびMnのうち少なくとも一種の金属元素Mを含有するリチウム遷移金属酸化物を含む。上記正極活物質は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)面のにより得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下であり、かつLiとCOとを含む化合物の含有量が0.2質量%以下である。
【選択図】図9

Description

本発明は、正極活物質および該正極活物質を備えたリチウム二次電池に関する。
リチウム二次電池は、車両搭載用電源あるいはパソコンや携帯端末等の電源として利用されている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用の高出力電源(例えば、車両の駆動輪に連結されたモータを駆動する電源)として、その重要性がますます高まっている。
リチウム二次電池は、リチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る材料(活物質)を正負の電極に備えており、それら正負の電極の間をリチウムイオンが行き来することによって充電および放電が行われる。正極に用いられる活物質(正極活物質)の代表例として、リチウム(Li)と少なくとも一種の遷移金属元素とを含む複合酸化物(以下、リチウム遷移金属酸化物ともいう。)が挙げられる。例えば特許文献1には、一次粒子の粒子形状と二次粒子の粒径とが所定の関係を満たすリチウム遷移金属酸化物を正極活物質に用いた非水電解液二次電池が記載されている。この特許文献1には、また、上記酸化物の粉末X線回折パターンにおける(104)面での回折ピークの半価幅FWHM(104)に対する(003)面での回折ピークの半価幅FWHM(003)の比(FWHM(003)/FWHM(104))は0.7以上0.9以下が好ましいと記載されている。
特開2000−243394号公報
リチウム二次電池をより広いSOC(充電状態;State of charge)幅で使用すれば、該電池の単位体積または単位質量から取り出して有効に利用し得るエネルギー量はより多くなり得る。このことは、例えば、高出力および高エネルギー密度が求められる車両搭載用電池(例えば車両駆動電源用電池)において特に有意義である。しかし、一般にリチウム二次電池は、SOCが低くなると(例えば30%程度)、出力(特に、0℃以下(例えば−30℃程度)の低温における出力;以下「低温低SOC出力」ともいう。)が小さくなる傾向にある。特許文献1に記載の非水電解液二次電池もまた、低SOC域における出力の向上に関して、なお改良の余地のあるものであった。
低SOC域においても所要の出力を発揮し得るリチウム二次電池が提供されれば、ハイブリッド車、電気自動車等の車両の走行性能を向上させることができる。また、低SOC域においても所要の出力を発揮できれば、必要なエネルギー量を確保するための電池の数を減らすことができる。このことは、リチウム二次電池を備えた製品(例えば車両)のコストダウン、軽量化、電池搭載スペースの小型化、等の観点から有利である。本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、低SOC域における出力が改善されたリチウム二次電池の提供を一つの目的とする。関連する他の目的は、かかるリチウム二次電池の正極材料その他の用途に好適な正極活物質およびその製造方法を提供することである。
本発明によると、正極および負極を備えたリチウム二次電池が提供される。前記正極は、殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造の正極活物質を備える。その正極活物質は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、該リチウム遷移金属酸化物は、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)およびマンガン(Mn)のうち少なくとも一種の金属元素Mを含有する。前記正極活物質は、該正極活物質の粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下(例えば、0.4以上0.7以下)である。また、前記正極活物質は、LiとCOとを含む化合物(以下、「Li−CO化合物」と表記することもある。)の含有量が0質量%以上0.2質量%以下である。
上記半値幅比(A/B)が0.7以下である層状構造のリチウム遷移金属酸化物は、より大きな半値幅比(A/B)を示すリチウム遷移金属酸化物に比べて、Liイオンの吸蔵および放出を効率よく行うことができる。その理由は、例えば以下のように考えられる。
一般に、層状構造のリチウム遷移金属酸化物(例えばLiNiO)は、リチウム層、酸素層、遷移金属層、酸素層が繰り返し重なった積層構造を有しており、その層が重ねられる方向(c軸)に直交する方向からLiイオンが吸蔵および放出される。c軸に直交する方向の結晶の厚さが厚すぎると、Liイオンの拡散距離が長くなるため、結晶内部へのイオン拡散が遅くなる。このことは電池の出力性能にとって不利である。特に、低SOC域では、活物質内のLiイオン濃度が高く、放電時に活物質内部へのイオン拡散が律速となるため、イオン拡散が遅いと出力特性が低下しがちである。
上記半値幅比(A/B)が0.7以下である層状構造のリチウム遷移金属酸化物は、より半値幅比(A/B)の大きなリチウム遷移金属酸化物に比べて、結晶のc軸に直交する方向の厚さが薄い。このため、Liイオンが結晶内部により速く拡散し得る。このことは、上記リチウム遷移金属酸化物を正極活物質として備えるリチウム二次電池の低SOC域における出力向上に効果的に寄与し得る。また、上記正極活物質は中空構造を有するので、中実構造の正極活物質に比べて、非水電解液との間での物質交換(例えば、Liイオンの移動)をより効率よく行うことができる。さらに、上記正極活物質は、Li−CO化合物の含有量が0.2質量%以下に抑えられているので、このLi−CO化合物(典型的には炭酸リチウム(LiCO))に起因する出力性能の低下(例えば、該化合物によって、上記リチウム遷移金属酸化物へのLiイオンの出入りが妨げられたり、上記中空部と外部との間での電解液の流通が妨げられたりする事象)を防止または緩和することができる。これらの効果が相俟って、上記正極活物質を正極に有するリチウム二次電池は、出力特性(特に、低SOC域における出力)が改善され、より広いSOC範囲において所要の出力を発揮する電池となり得る。
なお、本明細書において「リチウム二次電池」とは、電解質イオンとしてリチウムイオンを利用し、正負極間におけるリチウムイオンに伴う電荷の移動により充放電が実現される二次電池をいう。一般にリチウムイオン二次電池と称される電池は、本明細書におけるリチウム二次電池に包含される典型例である。また、本明細書において「活物質」とは、二次電池において電荷担体となる化学種(リチウム二次電池では主としてリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および脱離)可能な物質をいう。また、本明細書において「SOC」とは、特記しない場合、電池が通常使用される電圧範囲を基準とする、該電池の充電状態をいうものとする。例えば、端子間電圧(開回路電圧(OCV))が4.1V(上限電圧)〜3.0V(下限電圧)の条件で測定される定格容量(典型的には、後述する評価試験用電池の定格容量測定と同様の条件で特定される定格容量)を基準とする充電状態をいうものとする。また、本明細書において「中空構造の正極活物質」とは、前記正極活物質をランダムな位置で切断した断面の平均において、該活物質の見かけの断面積のうち前記中空部が占める割合(後述する粒子空孔率)が5%以上である正極活物質を指すものとする。
使用開始後の電池のSOCは、例えば以下の方法(SOC−OCV測定)を通じて把握することができる。
[ステップ1:残容量の放電]25℃において、1CでCCV放電を2時間行い、3Vでカットする。
[ステップ2:CC充電]ステップ1終了後の電池に対し、0.1Cで30分間充電する操作と、20分間休止する操作とを2〜3回繰り返し、4.1Vでカットする。
[ステップ3:CCCV充電]ステップ2終了後の電池に対し、0.4Cで1時間CCV充電し、20分間休止する。
[ステップ4:CC放電]ステップ3終了後の電池に対し、0.1Cで30分間放電させる操作と、20分間休止する操作とを2〜3回繰り返し、3.0Vでカットする。
ここに開示される技術は、前記正極活物質に含まれるNi,Co,およびMnの合計モル数mMTに対する、前記正極活物質に含まれるリチウムのモル数mLiの比(mLi/mMT)が1.00よりも大きい(すなわち、1.00<(mLi/mMT)である)態様で好ましく実施され得る。このようにMに対してLiを過剰に含む組成によると、(mLi/mMT)が1.00以下の場合に比べて、ここに開示される適切な半値幅比(A/B)を有する正極活物質(例えば、より半値幅比(A/B)の小さい正極活物質)が得られやすい。また、Mに対してLiを過剰に含み、かつLi−CO化合物の含有量が少ない正極活物質によると、より高性能な(例えば、出力性能の良い)リチウム二次電池が実現され得る。好ましい一態様では、(mLi/mMT)が1.10以上である(すなわち、1.10≦(mLi/mMT))。かかる組成の正極活物質および該活物質を備えたリチウム二次電池によると、上述の効果がよりよく発揮され得る。
ここに開示される技術は、前記正極活物質がタングステン(W)、クロム(Cr)およびモリブデン(Mo)から選択される少なくとも一種の金属元素Mをさらに含む態様で好ましく実施され得る。かかる組成によると、ここに開示される適切な半値幅比(A/B)を有する正極活物質(例えば、Mを含まない場合に比べて、より半値幅比(A/B)の小さい正極活物質)が得られやすい。前記Mの含有量mMAは、前記正極活物質に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTをモル百分率で100モル%として、0.05モル%〜1モル%の範囲にあることが好ましい。Mの含有量が少なすぎると、Mを含有させることの効果が小さくなることがあり得る。Mの含有量が多すぎると、電池の内部抵抗が上昇傾向となることがあり得る。
ここに開示される技術における正極活物質の一好適例として、前記リチウム遷移金属酸化物が前記MとしてNi,CoおよびMnを含む正極活物質が挙げられる。かかるリチウム遷移金属酸化物は、Mに対して過剰量のLiを含む組成(例えば、1.10≦(mLi/mMT)である組成)を実現しやすいという利点を有するので好ましい。
前記正極活物質は、前記殻部を貫通する貫通孔を有することが好ましい。かかる正極活物質は、上記中空部に非水電解液を含浸させやすいため、該正極活物質を用いた電池の生産性を高めやすいので好ましい。また、上記貫通孔を有する構造の正極活物質では、Li−CO化合物の含有量をここに開示される好ましい範囲に抑えることが特に有意義である。これにより、例えば、上記貫通孔がLi−CO化合物によって塞がれたり狭められたりする事象を回避して、該貫通孔を有することの効果をよりよく発揮させることができる。
本発明によると、殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造を備えた正極活物質を製造する方法が提供される。その正極活物質は、層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、該リチウム遷移金属酸化物はNi,CoおよびMnのうち少なくとも一種の金属元素Mを含有し、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bに対する(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aの比(A/B)が0.7以下であり、かつLi−CO化合物の含有量が0.2質量%以下であり得る。上記正極活物質製造方法は、典型的には、(a)上記Mを含む前駆体水酸化物を準備する前駆体水酸化物準備工程を含む。該製造方法は、(b)上記前駆体水酸化物とリチウム化合物(例えば炭酸リチウム)とを混合して未焼成の混合物を調製する混合工程を含み得る。また、上記製造方法は、(c)前記混合物を焼成して前記正極活物質を得る焼成工程を含み得る。ここで、前記焼成工程(c)は、(c1)前記混合物を、最高焼成温度850℃〜950℃の条件で、該最高焼成温度に1時間〜12時間保持する第一焼成段階と、(c2)前記第一焼成段階の結果物を、最高焼成温度650℃〜800℃の条件で、該最高焼成温度に1時間〜12時間保持する第二焼成段階と、を含む。かかる方法は、ここに開示されるいずれかの正極活物質(ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池に具備される正極活物質であり得る。)を製造する方法として好ましく採用され得る。
ここに開示される方法の好ましい一態様では、前記混合工程(b)において、Ni,CoおよびMnの合計モル数mMTに対するリチウムのモル数mLiの比(mLi/mMT)が1.00よりも大きい前記未焼成混合物(すなわち、1.00<(mLi/mMT)である混合物)を調製する。かかる態様によると、ここに開示される適切な半値幅比(A/B)を有する正極活物質が得られやすい。例えば、(mLi/mMT)≦1.00の場合に比べて、より半値幅比(A/B)の小さい正極活物質が製造され得る。通常は、上記混合工程において、1.10≦(mLi/mMT)である未焼成混合物を調製することがより好ましい。かかる態様によると、上述の効果がよりよく発揮され得る。
前記前駆体水酸化物としては、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素Mをさらに含むものを好ましく採用し得る。かかる前駆体水酸化物を採用することにより、ここに開示される適切な半値幅比を有する正極活物質が得られやすくなる。例えば、Mを含まない前駆体水酸化物を用いる場合に比べて、より半値幅比(A/B)の小さい正極活物質が製造され得る。前記Mの含有量mMAは、前記前駆体水酸化物に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTをモル百分率で100モル%として、0.05モル%〜1モル%の範囲にあることが好ましい。Mの含有量が少なすぎると、Mを含有させることの効果が小さくなることがあり得る。Mの含有量が多すぎると、電池の内部抵抗が上昇傾向となることがあり得る。
ここに開示される方法の好ましい一態様では、前記前駆体水酸化物準備工程(a)が、
(a1)アルカリ性条件下において、前記Mを含む水溶液から前記水酸化物を析出させる核生成段階と、
(a2)前記水溶液を前記核生成段階よりもpHの低いアルカリ性に維持しつつ、前記析出した水酸化物を成長させる粒子成長段階と、
を含む水酸化物生成工程を備える。かかる工程(a)により得られた前駆体水酸化物によると、中空構造を有する正極活物質をより的確に製造することができる。
本発明の他の側面として、ここに開示されるいずれかの方法により製造された正極活物質が提供される。また、かかる正極活物質を備える正極、および、該正極を用いて構築された非水二次電池が提供される。ここで「非水二次電池」とは、非水電解質(典型的には、常温(例えば25℃)において液状を呈する電解質、すなわち電解液)を備えた二次電池を指す。かかる非水二次電池の一代表例として、リチウム二次電池(例えばリチウムイオン二次電池)が挙げられる。
ここに開示されるリチウム二次電池は、低SOC域においても良好な出力特性を示すものであり得る。したがって、かかる特徴を活かして、プラグインハイブリッド自動車(PHV)や電気自動車(EV)等のような車両の駆動電源として好適に利用され得る。この明細書により開示される事項には、ここに開示されるいずれかのリチウム二次電池(複数の電池が接続された組電池の形態であり得る。)を搭載した車両が提供される。かかる車両の好適例として、上記リチウム二次電池を動力源として備える車両(例えば、家庭用電源により充電できるPHV、EV等)が挙げられる。
一実施形態に用いられる正極活物質粒子を模式的に示す断面図である。 層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物の粉末X線回折パターンの一例を示す図である。 一実施形態に係る正極活物質製造方法の概略を示すフロー図である。 リチウム二次電池の一構成例を模式的に示す斜視図である。 図4のV−V線断面図である。 焼成パターンIの温度プロファイルである。 焼成パターンIIの温度プロファイルである。 焼成パターンIIIの温度プロファイルである。 半値幅比(A/B)と低SOC出力との関係を示すグラフである。 リチウム二次電池を搭載した車両を模式的に示す側面図である。
以下、本発明の好適な実施形態を図面に基づいて説明する。各図面は、模式的に描いており、必ずしも実物を反映しない。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付して説明し、重複する説明は省略または簡略化することがある。
≪正極活物質の基本組成≫
ここに開示される技術における正極活物質は、殻部とその内部に形成された中空部とを備えた中空構造を有する。該正極活物質は、層状の結晶構造(典型的には、六方晶系に属する層状岩塩型構造)を有するリチウム遷移金属酸化物を含む。上記リチウム遷移金属酸化物は、金属元素Mを含む。このMは、Ni,CoおよびMnのうちの少なくとも一種である。上記正極活物質におけるNi,CoおよびMnの合計含有量(すなわち、Mの含有量)は、該正極活物質に含まれるリチウム以外の全金属元素Mallの総量をモル百分率で100モル%としたとき、そのうち例えば85モル%以上(好ましくは90モル%以上、典型的には95モル%以上)であり得る。上記Mが少なくともNiを含む組成の正極活物質が好ましい。例えば、正極活物質に含まれるリチウム以外の金属元素の総量を100モル%として、Niを10モル%以上(より好ましくは20モル%以上)含有する正極活物質が好ましい。かかる組成の正極活物質は、後述する製造方法を適用して中空構造の正極活物質粒子を製造するのに適しているので、所望する構造の正極活物質粒子を容易に得ることができる。
上記リチウム遷移金属酸化物の一好適例として、上記MがNi,CoおよびMnの全てを含むリチウム遷移金属酸化物(以下「LNCM酸化物」と表記することもある。)が挙げられる。例えば、原子数基準で、Ni,CoおよびMnの合計量(すなわちMの量(mMT))を1として、Ni,CoおよびMnの量がいずれも0を超えて0.7以下(例えば、0.1を超えて0.6以下、典型的には0.3を超えて0.5以下)であるLNCM酸化物を好ましく採用し得る。かかる三元系のリチウム遷移金属酸化物(LNCM酸化物)は、Mに対してLiを過剰に含む組成のもの(すなわち、1.00<(mLi/mMT)を満たすLNCM酸化物)を合成しやすいので好ましい。これは、上記LNCM酸化物は、上述した積層構造における遷移金属層に過剰量のLiを取り込みやすい性質を有するためと考えられる。好ましい一態様では、Mの量(原子数基準)を1として、Niの量とMnの量が概ね同程度(例えば、Niの量とMnの量との差が0.1以下)である。例えば、Ni,CoおよびMnの量が概ね同程度である組成を好ましく採用し得る。かかる組成のLNCM酸化物は、正極活物質として優れた熱安定性を示すので好ましい。
ここに開示される技術における正極活物質は、M(すなわち、Ni,CoおよびMnの少なくとも一種)の他に、付加的な構成元素(添加元素)として他の1種または2種以上の元素を含有し得る。かかる付加的な元素としては、周期表の1族(ナトリウム等のアルカリ金属)、2族(マグネシウム、カルシウム等のアルカリ土類金属)、4族(チタン、ジルコニウム等の遷移金属)、6族(クロム、タングステン等の遷移金属)、8族(鉄等の遷移金属)、13族(半金属元素であるホウ素、もしくはアルミニウムのような金属)および17族(フッ素のようなハロゲン)に属するいずれかの元素を含むことができる。典型例として、W,Cr,Mo,Zr,Mg,Ca,Na,Fe,Zn,Si,Sn,Al,BおよびFが例示される。これら付加的な構成元素の合計含有量は、Mの20モル%以下とすることが適当であり、10モル%以下の割合とすることが好ましい。
好ましい一態様に係る正極活物質は、上記添加元素として、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素Mを含む。かかる金属元素Mを含有する組成は、上述した半値幅比(A/B)がここに開示される好ましい範囲にある正極活物質を調製しやすい。例えば、M,MおよびLiを含む混合物を焼成して正極活物質を調製する(リチウム遷移金属酸化物を生成させる)場合、上記焼成の際に、リチウム遷移金属酸化物の結晶のc軸に直交する方向の成長が適切に抑制され、半値幅比(A/B)を好ましい範囲に調整することができる。特に、Mとして少なくともWを含む組成の正極活物質が好ましい。Wを含有させることにより、正極活物質の半値幅比(A/B)を好ましい範囲に制御しやすくする効果に加えて、該正極活物質を用いた電池の反応抵抗を低減させる効果が発揮され得る。このこともまた、当該電池の出力向上に寄与し得る。
上記金属元素(添加元素)Mを含む正極活物質は、例えば、Mを含む前駆体水酸化物と、Mを含む化合物と、リチウム化合物と、の混合物を焼成することにより(乾式混合法)調製することができる。あるいは、MおよびMを含む組成の前駆体水酸化物と、リチウム化合物と、の混合物を焼成することにより調製してもよい。ここに開示される技術においては、MおよびMを含む前駆体水酸化物とリチウム化合物との混合物を焼成する方法を好ましく採用し得る。上記MおよびMを含む前駆体水酸化物は、例えば、これらを含む反応液から該前駆体水酸化物を生成させる方法(湿式法(共沈法))により好ましく調製することができる。かかる態様によると、該正極活物質中のMの分布において、局所的な凝集が防止された正極活物質を得ることができる。例えば、上記乾式混合法により得られた正極活物質に比べて、正極活物質全体または該活物質の一次粒子の表面において、より均一にM元素を存在させた正極活物質を得ることができる。
正極活物質におけるM(例えばW)の含有量mは、該正極活物質に含まれるMの合計モル数mMTをモル百分率で100モル%として、例えば0.001〜5モル%とすることができ、通常は0.01〜3モル%とすることが適当であり、0.05〜1モル%(より好ましくは0.1〜1モル%、例えば0.2〜1モル%)とすることが好ましい。また、正極活物質におけるM(例えばW)の含有量mは、正極活物質に含まれるLi以外の全ての金属元素Mallの合計モル数mMallをモル百分率で100モル%として、0.001〜5モル%とすることができ、通常は0.01〜3モル%とすることが適当であり、0.05〜1モル%(より好ましくは0.1〜1モル%、例えば0.2〜1モル%)とすることが好ましい。mまたはmMallが小さすぎると、c軸方向の結晶成長を抑制する効果が小さくなる傾向にある。mまたはmMallが大きすぎると、Mを含まない正極活物質に比べて、該正極活物質を用いた電池の反応抵抗が却って増大し得る。
好ましい一態様において、上記正極活物質は、下記一般式(I)で表される組成(平均組成)を有し得る。
Li1+xNiCoMn(1−y−z)AαBβ2 (I)
上記式(I)において、xは、0≦x≦0.2を満たす実数であり得る。yは、0.1<y<0.6を満たす実数であり得る。zは、0.1<z<0.4を満たす実数であり得る。Mは、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素であり、αは0<α≦0.01(典型的には0.0005≦α≦0.01、例えば0.001≦α≦0.01)を満たす実数である。Mは、Zr,Mg,Ca,Na,Fe,Zn,Si,Sn,Al,BおよびFからなる群から選択される一種または二種以上の元素であり、βは0≦β≦0.01を満たす実数であり得る。βが実質的に0(すなわち、Mを実質的に含有しない酸化物)であってもよい。
なお、本明細書中において層状構造のリチウム遷移金属酸化物を示す化学式では、便宜上、O(酸素)の組成比を2として示しているが、この数値は厳密に解釈されるべきではなく、多少の組成の変動(典型的には1.95以上2.05以下の範囲に包含される)を許容し得るものである。
≪半値幅比(A/B)≫
本実施形態に係るリチウム二次電池に用いられる正極活物質は、CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bに対する、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aの比(A/B)が0.7以下(典型的には0.7未満)である。かかる半値幅比(A/B)を示すリチウム遷移金属酸化物は、より大きな半値幅比(A/B)を示すリチウム遷移金属酸化物に比べて、結晶のc軸方向の厚さがより厚く、かつc軸に直交する方向の厚さがより薄いものであり得る。c軸方向の厚さが厚くなると、Liイオンが挿入可能な面が増大する。また、c軸に直交する方向(例えばa軸方向)の厚さが薄くなると、結晶内のイオン拡散距離が短くなる。したがって、かかる構成の正極活物質によると、Liイオンの吸蔵および放出を効率よく行うことができる。具体的には、結晶内部へのLiイオンの拡散が速いため、充電時には結晶の内部からLiイオンが放出されやすく、放電時にはLiイオンが結晶の内部まで吸収されやすい。したがって、上記半値幅比(A/B)を示す正極活物質を採用することにより、リチウム二次電池の出力特性(特に低SOC域における出力特性)を効果的に向上させることができる。
ここで、CuKα線を用いた粉末X線回折(XRD:X-ray diffraction)測定は、X線発生源から照射されるX線(CuKα線)を試料の試料面に入射することにより行うとよい。上記試料面は、正極活物質(典型的には粉末状)からなる面であってもよく、例えば、粉末状の正極活物質をバインダで結着させて実際に正極を形成した面(正極活物質層の表面)であってもよい。この際、試料を所定の走査軸で回転走査しながら試料に対する入射角度をステップ的または連続的に変化させてX線を照射し、試料によって回析されたX線を検査器でとらえるとよい。そして、X線の回析方向と入射方向の角度差(回折角2θ)と、回析X線強度を測定する。かかるX線回折測定は、種々の測定装置メーカーから市販されているX線回折測定装置を用いて行うことができる。例えば、株式会社リガク製のX線回折測定装置、製品名「MultiFlex」を用いることができる。
一例として、LiNi1/3Co1/3Mn1/32で表される組成を有する層状構造のリチウム遷移金属酸化物のX線回折パターンを図2に示す。LiNi1/3Co1/3Mn1/32の回折パターンでは、回折角18℃付近に(003)面に由来する回折ピークが生じる。また、回折角45℃付近に(104)面に由来する回折ピークが生じる。このようにして得られた回折パターンから、(003)面に由来する回折ピークの半値幅Aと、(104)面に由来する回折ピークの半値幅Bとを算出するとよい。かかる半値幅A,Bの算出は、種々の測定装置メーカーから市販されているX線回折測定装置付属の解析ソフトを用いて行うことができる。例えば、株式会社リガク製X線回折測定装置付属の解析ソフトである「JADE」を用いることができる。
ここに開示される技術において、上記半値幅比(A/B)は、0.65以下であることが好ましく、より好ましくは0.60以下(典型的には0.60未満、例えば0.58以下)である。かかる半値幅比(A/B)を示す正極活物質によると、より高い出力特性を示すリチウム二次電池が実現され得る。半値幅比(A/B)の下限は特に限定されないが、通常は、半値幅比(A/B)が0.35以上(例えば0.40以上)である正極活物質が好ましい。上記半値幅比(A/B)が小さすぎる正極活物質は、生成(合成)が難しくなることに加え、結晶成長(特に、c軸に直交する方向への成長)が不十分となり得る。このような正極活物質を備える電池は、高温保存時等に上記正極活物質中の金属元素が電解液中に溶出しやすくなる懸念がある。かかる金属元素の溶出は、電池の容量劣化を引き起こす原因となり得る。高温保存時の容量維持性の観点からは、正極活物質の半値幅比(A/B)は0.40以上(例えば、0.40<(A/B))が適当であり、0.50以上(例えば0.50<(A/B))が好ましい。出力特性と容量維持性とをバランスよく両立させるという観点から、例えば、0.40≦(A/B)<0.70を満たす正極活物質を好ましく採用することができる。0.40<(A/B)≦0.65(さらには0.40<(A/B)<0.60、例えば0.50≦(A/B)<0.60)を満たす正極活物質によると、より良好な結果が実現され得る。
≪中空構造≫
ここに開示される技術における正極活物質は、典型的には、殻部とその内部に形成された中空部(空洞部)とを有する中空構造の粒子形態をなす。かかる粒子状の正極活物質(正極活物質粒子)の粒子形状は、典型的には、概ね球形、やや歪んだ球形等であり得る。好ましい一態様において、上記殻部は、上記中空部と粒子外部とを連通させる貫通孔を有する(以下、殻部に上記貫通孔を有する中空構造を「孔空き中空構造」ということがある。)。なお、このような中空構造(特記しない限り、孔空き中空構造を包含する意味である。)の粒子と対比されるものとして、一般的な多孔質構造の粒子が挙げられる。ここで多孔質構造とは、実体のある部分と空隙部分とが粒子全体にわたって混在している構造(スポンジ状構造)を指す。多孔質構造を有する活物質粒子の代表例として、いわゆる噴霧焼成法(スプレードライ製法と称されることもある。)により得られた活物質粒子が挙げられる。ここに開示される中空構造の活物質粒子は、実体のある部分が殻部に偏っており、上記中空部にまとまった空間が確保されているという点で、上記多孔質構造の活物質粒子とは、構造上、明らかに区別されるものである。
好ましい一態様に係る正極活物質は、上記リチウム遷移金属酸化物の一次粒子が集まった二次粒子の形態をなす。ここで「一次粒子」とは、外見上の幾何学的形態から判断して単位粒子(ultimate particle)と考えられる粒子を指す。ここに開示される正極活物質において、上記一次粒子は、典型的にはリチウム遷移金属酸化物の結晶子の集合物である。正極活物質の形状観察は、例えば、日立ハイテクノロジーズ社の「日立ハイテク日立超高分解能電解放出形走査顕微鏡 S5500」により行うことができる。
かかる正極活物質粒子の代表的な構造を、図1に模式的に示す。この正極活物質粒子110は、殻部115と中空部116とを有する中空構造の粒子である。殻部115は、一次粒子112が球殻状に集合した形態を有する。好ましい一態様では、殻部115は、その断面SEM(Scanning Electron Microscope)像において、一次粒子112が環状(数珠状)に連なった形態を有する。殻部115の全体に亘って一次粒子112が単独(単層)で連なった形態であってもよく、一次粒子112が2つ以上積み重なって(多層で)連なった部分を有する形態であってもよい。上記連なった部分における一次粒子112の積層数は、凡そ5個以下(例えば2〜5個)であることが好ましく、凡そ3個以下(例えば2〜3個)であることがより好ましい。好ましい一態様に係る正極活物質粒子110は、殻部115の全体に亘って、一次粒子112が実質的に単層で連なった形態に構成されている。
かかる構成の活物質粒子(二次粒子)110は、内部に空洞のない緻密構造の活物質粒子に比べて、一次粒子112の凝集が少ない。そのため、該粒子内の粒界が少なく(ひいてはLiイオンの拡散距離がより短く)、粒子内部へのLiイオンの拡散が速い。このような粒界の少ない活物質粒子110によると、上述した半値幅比(A/B)の規定により結晶内部へのLiイオンの拡散が速いことと相俟って、該粒子110を有するリチウム二次電池の出力特性を効果的に向上させることができる。例えば、活物質内部へのイオン拡散が律速となる低SOC域(例えば、SOCが30%以下のとき)においても良好な出力を示すリチウム二次電池が構築され得る。
≪貫通孔≫
正極活物質粒子110は、殻部115を貫通して中空部116と外部(粒子110の外部)とを空間的に連続させる貫通孔118を有することが好ましい。かかる貫通孔118を有することにより、中空部116と外部とで電解液が行き来し易くなり、中空部116内の電解液が適当に入れ替わる。このため、中空部116内で電解液が不足する液枯れが生じ難く、中空部116に面する一次粒子112がより活発に充放電に活用され得る。かかる構成によると、上述した半値幅比(A/B)を有することにより結晶内部へのLiイオンの拡散が速いことと、一次粒子112に電解液を効率よく接触させ得ることとが相俟って、リチウム二次電池の出力特性(特に低SOC域における出力特性)をさらに向上させることができる。
正極活物質粒子110の有する貫通孔118の数は、該活物質粒子110の一粒子当たりの平均として、凡そ1〜10個程度(例えば1〜5個)であることが好ましい。上記平均貫通孔数が多すぎると、中空形状を維持し難くなることがある。ここに開示される好ましい平均貫通孔数の活物質粒子110によると、活物質粒子110の強度を確保しつつ、孔開き中空構造を有することによる電池性能向上効果(例えば、出力を向上させる効果)を、良好に、かつ安定して発揮することができる。
貫通孔118の開口幅hは、複数の活物質粒子の平均値として、概ね0.01μm以上であるとよい。ここで、貫通孔118の開口幅hとは、該貫通孔118が活物質粒子110の外部から中空部116に至る経路で最も狭い部分における差渡し長さを指す。貫通孔118の開口幅が平均0.01μm以上であると、電解液の流通路として貫通孔118をより有効に機能させ得る。これにより、リチウム二次電池の電池性能を向上させる効果をより適切に発揮することができる。
なお、一つの活物質粒子110が複数の貫通孔118を有する場合、それら複数の貫通孔118のうち最も大きい開口幅を有する貫通孔の開口幅を、当該活物質粒子110の開口幅として採用するとよい。また、貫通孔118の開口幅hは平均2.0μm以下、より好ましくは平均1.0μm以下、さらに好ましくは平均0.5μm以下であってもよい。
なお、上記平均貫通孔数、平均開口サイズ等の特性値は、例えば、活物質粒子の断面をSEMで観察することにより把握することができる。例えば、活物質粒子または該活物質粒子を含む材料を適当な樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)で固めたサンプルを、適当な断面で切断し、その切断面を少しづつ削りながらSEM観察を行うとよい。あるいは、通常は上記サンプル中において活物質粒子の向き(姿勢)は概ねランダムであると仮定できることから、単一の断面または2〜10箇所程度の比較的少数の断面におけるSEM観察結果を統計的に処理することによっても上記特性値を算出し得る。
好ましい一態様では、図1に模式的に示すように、殻部115は、貫通孔118以外の部分では緻密に(典型的には、少なくとも一般的な非水電池用電解液を通過させない程度に緻密に)焼結している。かかる構造の活物質粒子110によると、該粒子110の外部と中空部116との間で電解液が流通し得る箇所が、貫通孔118のある箇所に制限される。これにより、例えば捲回電極体を備えた電池の正極に用いられる活物質粒子において、特に有利な効果が発揮され得る。すなわち、捲回電極体を備える電池において、該電池の充放電を繰り返すと、充放電に伴う活物質の膨張収縮によって電極体(特に正極活物質層)から電解液が絞り出され、これにより電極体の一部で電解液が不足して電池性能(例えば出力性能)が低下することがあり得る。上記構成の活物質粒子110によると、貫通孔118以外の部分では中空部116内の電解液の流出が阻止されるので、正極活物質層における電解液の不足(液枯れ)を効果的に防止または軽減することができる。また、かかる活物質粒子は、形状維持性が高い(崩れにくいこと;例えば平均硬度が高いこと、圧縮強度が高いこと等に反映され得る。)ものとなり得るので、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。
≪Li−CO化合物量≫
ここに開示される正極活物質は、Li−CO化合物(典型的には炭酸リチウム(LiCO))の含有量が0.2質量%以下である。すなわち、該正極活物質は、Li−CO化合物を含有しないか、あるいは正極活物質の0.2質量%を超えない量のLi−CO化合物を含有する。このLi−CO化合物は、当該正極活物質の調製工程において使用したリチウム化合物(LiCO,LiOH等)に由来するものであり得る。例えば、正極活物質の前駆体としての遷移金属水酸化物と上記リチウム化合物との混合物を加熱(焼成)してリチウム遷移金属酸化物を生成させる場合において、該リチウム化合物の余剰分(M量またはMallに対して過剰に使用した分)、未反応分、副反応生成物、もしくはこれらが雰囲気中(例えば空気中)のCO等と反応して生じたLi−CO化合物であり得る。
かかるLi−CO化合物は、リチウム遷移金属酸化物の組成に含まれず、主として該酸化物の表面(典型的には一次粒子の表面または粒界)に存在し得る。したがって、正極活物質のLi−CO化合物含有量が多すぎると、該正極活物質に含まれるリチウム遷移金属酸化物結晶の表面(特に、そのLiイオンが出入り可能な面)上に存在するLi−CO化合物によって、上記結晶へのLiイオンの出入りが妨げられ得る。正極活物質のLi−CO化合物含有量を低く抑えることにより、該正極活物質がここに開示される好ましい半値幅比(A/B)を有することの効果がよりよく発揮され得る。ここに開示されるリチウム二次電池は、例えば、上記正極活物質の半値幅比(A/B)が0.70未満(典型的には0.40以上0.70未満)であってかつLi−CO化合物含有量が0.2質量%以下(典型的には0.05質量%以上0.20質量%以下)である態様で好ましく実施され得る。
一般に、正極活物質の調製工程において使用するリチウム化合物の量(例えば、上記前駆体遷移金属水酸化物に含まれるM量またはMall量に対する、上記リチウム化合物に含まれるLiの量)がより多くなると、得られた正極活物質のLi−CO化合物含有量は、より多くなる傾向にある。このため、上記前駆体遷移金属水酸化物と上記リチウム化合物との混合物を焼成して上述のようにLiを過剰に含む組成のリチウム遷移金属酸化物を調製する場合、Li−CO化合物の含有量を少なくする意図なく上記焼成を行うと、得られた正極活物質は、Li−CO化合物を多く含むものとなりがちである。特に、上記中空構造を有する正極活物質の製造においては、該正極活物質の中空部にLi−CO化合物(あるいは、雰囲気中の空気中のCO等と反応してLi−CO化合物となり得る化学種)が溜まりやすいため、得られた正極活物質のLi−CO化合物含有量が多くなりがちである。また、殻部に貫通孔を有する中空構造(孔空き中空構造)の正極活物質では、上記Li−CO化合物が上記貫通孔を塞い開口幅を狭めたりすると該貫通孔を通じての電解液の流通(例えば、粒子外部から中空部への液拡散)が妨げられ得る。このことは、該正極活物質を備えたリチウム二次電池の出力を低下させる要因となり得る。したがって、かかる構造の正極活物質では、Li−CO化合物量を低く抑えることが特に有意義である。
上記Li−CO化合物の含有量は、該化合物に起因する出力低下を防ぐ観点からは少ないほどよい。好ましい一態様に係る正極活物質では、上記Li−CO化合物含有量が0.18質量%以下であり、例えば0.15質量%以下である。一方、Li−CO化合物含有量の少ない正極活物質を調製しようとすると、該正極活物質に含まれるリチウム遷移金属酸化物の半値幅比(A/B)が大きくなりやすい。特に、上記リチウム遷移金属酸化物がLiを過剰に含む組成である場合には、Li−CO化合物含有量を極端に少なくしようとすると、半値幅比(A/B)が大きくなりすぎることがあり得る。したがって、Li−CO化合物含有量の下限を例えば0.01質量%(好ましくは0.05質量%、例えば0.10質量%)とすることが適当である。ここに開示される技術は、正極活物質のLi−CO化合物含有量が0.01〜0.18質量%(より好ましくは0.05〜0.18質量%、例えば0.10質量%以上0.15質量%未満)である態様で好ましく実施され得る。
上記Li−CO化合物含有量の定量にあたっては、以下の方法を好ましく用いることができる。すなわち、ここに開示される正極活物質は、水酸化リチウム(LiOH)、酸化リチウム(LiO)等のアルカリ塩(水に溶解してアルカリ性を示すリチウム化合物)を含み得る。かかるアルカリ塩が共存する場合にも正極活物質のLi−CO化合物含有量を的確に測定するために、正極活物質に水と塩化バリウムを加えて該正極活物質に含まれる炭酸系イオンを炭酸バリウム(BaCO)として沈殿させた後、リチウムのアルカリ塩を塩酸で第一中和点(pH9程度)まで滴定し、引き続き塩酸で第二中和点(pH4程度)まで滴定するとよい。炭酸バリウムは、第一中和点までの滴定では反応しないが、第二中和点までの滴定によりHClと中和反応してBaClを生じる。したがって、第二中和点と第一中和点との滴定量の差からLi−CO化合物量を算出することができる。より具体的には、例えば、後述する実施例に記載のLi−CO化合物定量方法を好ましく採用することができる。
ここに開示される正極活物質に含まれるLi−CO化合物は、その大部分(典型的には70〜100質量%、例えば85〜100質量%、さらには95〜100質量%)がLiCOであり得る。上記正極活物質に含まれるLi−CO化合物の実質的に全部(例えば98〜100質量%、さらには99.5〜100質量%)がLiCOであってもよい。
ここに開示される正極活物質は、また、リチウムの水溶性アルカリ塩もしくは水と接触して水溶性アルカリ塩を生じ得る化合物(水酸化リチウム、酸化リチウム等;以下、「水溶性リチウムアルカリ塩またはその前駆体」ともいう。)を含み得る。好ましい一態様では、上記正極活物質が、上記水溶性リチウムアルカリ塩またはその前駆体を実質的に含有しない(例えば、含有量が0〜0.01質量%である。)。
ここに開示される技術における正極活物質は、少なくともMを含む前駆体水酸化物を準備(例えば、Mを含む反応液から上記前駆体水酸化物を生成させる湿式法により調製)し、該前駆体水酸化物を適当なリチウム化合物(リチウム源となり得る化合物;例えば、LiCO,LiOH等のリチウム塩)と混合し、その未焼成の混合物を適切な条件で焼成することにより得ることができる。この焼成工程は、酸化性雰囲気(例えば、大気中または大気よりも酸素がリッチな雰囲気)中で行うことが望ましい。好ましい一態様では、上記焼成工程を、最高焼成温度T1で焼成する第一焼成段階(c1)と、上記最高焼成温度T1よりも低い最高焼成温度T2(すなわち、T1>T2)で焼成する第二焼成段階(c2)と、を含む態様で行う。このような多段階の焼成スケジュールによって混合物を焼成することにより、ここに開示される好ましい半値幅比(A/B)とLi−CO化合物含有量とを両立させた(典型的には、半価幅比(A/B)が所定値以下であり、かつLi−CO化合物含有量が所定値以下に抑えられた)中空構造の正極活物質を効率よく形成することができる。
第一焼成段階(c1)は、主として、上記未焼成混合物を加熱して上記前駆体水酸化物と上記リチウム化合物とを反応させる段階として把握され得る。この第一焼成段階における最高焼成温度T1は、目的とするリチウム遷移金属酸化物の焼結反応が進行し得る温度域であって、かつ該リチウム遷移金属酸化物の融点以下の温度域とすることができ、例えば800℃〜1000℃の範囲内に決定することができる。最高焼成温度T1が1000℃を上回るようになると、一次粒子の成長(肥大化)が著しく進行し、これにより中空度の低下(ひいては電池性能の低下)等が生じることがあり得る。通常は、上記最高焼成温度T1を850℃〜950℃(例えば900℃〜950℃)の範囲内とすることが適当である。かかる焼成条件とすることにより、焼結時にc軸に直交する方向の結晶成長が抑制され、上述した好ましい半値幅比(A/B)を有する正極活物質を的確に製造することができる。上記最高焼成温度T1が高すぎると、焼結時に結晶が成長しすぎて、半値幅比(A/B)が上述した好ましい値よりも大きくなりすぎる場合がある。上記最高焼成温度T1が低すぎると、結晶成長が不十分となりやすく、あるいは焼成工程に要する時間が長くなって正極活物質の生産性が低下しやすくなる。
上記最高焼成温度T1に保持する時間t1は、例えば0.5時間〜12時間とすることができ、通常は1時間〜12時間(例えば2時間〜10時間)とすることが好ましい。上記保持時間t1が短すぎると、結晶成長が不十分となったり、未反応のリチウム化合物が多く残留したりしやすくなる。上記保持時間t1が長すぎると、焼結時に結晶が成長しすぎて、半値幅比(A/B)が上述した好ましい値よりも大きくなりすぎる場合がある。また、焼成工程に要する時間が長くなって、正極活物質の生産性が低下しやすくなる。正極活物質の生産性の観点からは、保持時間t1を8時間以下(より好ましくは7時間以下、例えば6時間以下)とすることが好ましい。
第二焼成段階(c2)は、主として、第一焼成段階により得られた結果物の更なる結晶成長を抑えつつ、上記結果物中に存在し得るLi−CO化合物またはCOと反応してLi−CO化合物を生じ得る化学種(典型的には、リチウム遷移金属酸化物の組成内に含まれないリチウム化合物、すなわち組成外リチウム化合物)の量を減少させる段階として把握され得る。上記組成外リチウム化合物量の減少は、該化合物に含まれるLiがリチウム遷移金属酸化物(例えば、遷移金属層、リチウム層等の層内)に取り込まれる(吸収される)ことにより実現され得る。この第二焼成段階における最高焼成温度T2は、例えば600℃〜850℃(ただし、T1>T2)の範囲内に決定することができ、通常は650℃〜800℃(例えば700℃〜800℃)の範囲内とすることが適当である。上記最高焼成温度T2が高すぎると、Li−CO化合物量が十分に低下する前に結晶の成長が進行しすぎて、半値幅比(A/B)が上述した好ましい値よりも大きくなりすぎることがあり得る。上記最高焼成温度T2が低すぎると、Li−CO化合物量を十分に低下させるために要する時間が長くなり、正極活物質の生産性が低下しやすくなる。好ましい一態様では、最高焼成温度T2を700℃〜770℃(より好ましくは700℃〜750℃、例えば720℃〜740℃)とする。かかる最高焼成温度T2によると、Li−CO化合物量を効率よく低下させ、かつ過度の結晶成長(半値幅比(A/B)が大きくなりすぎる事象)を効果的に抑制することができる。
上記最高焼成温度T2に保持する時間(保持時間)t2は、例えば0.5時間〜12時間とすることができ、通常は1時間〜12時間(例えば2時間〜10時間)とすることが適当である。上記保持時間t2が短すぎると、得られた正極活物質におけるLi−CO化合物含有量が上述した好ましい範囲よりも多くなりやすくなる。上記保持時間t2が長すぎると、焼成工程に要する時間が長くなって、正極活物質の生産性が低下しやすくなる。また、結晶成長が進行しすぎて、半値幅比(A/B)が上述した好ましい値よりも大きくなりすぎる場合があり得る。正極活物質の生産性の観点からは、保持時間t2を8時間以下(より好ましくは6時間以下、例えば5時間以下)とすることが好ましい。
好ましい一態様において、上記焼成工程は、t1とt2との合計時間(t1+t2)が20時間未満(より好ましくは15時間以下、例えば13時間以下)となる条件で実施することができる。かかる態様によると、ここに開示される好ましい半値幅比(A/B)およびLi−CO化合物含有量を満たす正極活物質を、より生産性よく製造することができる。(t1+t2)の下限は、所望の特性を満たす正極活物質が得られる限り特に制限されないが、通常は(t1+t2)が2時間以上(例えば4時間以上)である。
第一焼成段階の結果物(第一焼成段階の終了時における焼成物)は、ここに開示される好ましい半値幅比(A/B)(例えば0.4〜0.7)を満たすことが好ましい。第一焼成段階の終了時の半値幅比(A/B)が大きすぎると、これを第二焼成段階によって大幅に低下させることは困難なためである。また、第一焼成段階の終了時における焼成物は、その0.2質量%を超える量(好ましくは0.2質量%より多く1.0質量%以下、例えば0.2質量%より多く0.5質量%以下)のLi−CO化合物量を含むことが好ましい。例えば、上記未焼成混合物を、(mLi/mMT)または(mLi/mMall)が1.00よりも大(例えば1.10以上)となるように調製すると、第一焼成段階の終了時における焼成物が、このようにLi−CO化合物含有量の多いものとなりやすい。かかる焼成物に第二焼成段階を適用してLi−CO化合物含有量を0.2質量%以下に低下させる態様によると、ここに開示される製造方法を採用する意義が特に大きい。
第一焼成段階と第二焼成段階とは、連続して(例えば、上記未焼成混合物を第一焼成段階の最高焼成温度T1に保持した後、引き続き第二焼成段階の最高焼成温度T2まで昇温して該温度T2に保持して)行ってもよく、あるいは、第一焼成段階の最高焼成温度T1に保持した後、いったん冷却(例えば、常温まで冷却)し、必要に応じて解砕と篩い分けを行ってから第二焼成段階に供してもよい。第一焼成段階の最高焼成温度T1と第二焼成段階の最高焼成温度T2との間には、50℃以上(典型的には100℃以上、例えば150℃以上)の温度差を設けることが適当である。かかる態様によると、第一、第二それぞれの焼成段階が、互いにその役割をより的確に果たすことができる。
なお、上記焼成工程は、必要に応じて第一焼成段階および第二焼成段階以外の焼成段階を含み得るが、第一焼成段階の終了後には、最高焼成温度T1またはそれ以上の温度に0.5時間以上連続して保持される段階を有しないことが好ましい。かかる段階により、結晶の成長が進行して半値幅比(A/B)が大きくなりすぎる可能性があるためである。
ここに開示される方法は、Mに加えてM(例えばW)を含む組成の正極活物質の製造に好ましく適用されて、上述した好ましい半値幅比(A/B)およびLi−CO化合物含有量を満たす正極活物質を与え得る。この場合において、上記焼成工程に供される混合物(未焼成混合物)としては、MおよびMを含む組成の前駆体水酸化物と、リチウム化合物との混合物を好ましく採用し得る。あるいは、Mを含む前駆体水酸化物と、Mを含む化合物と、リチウム化合物との混合物を用いてもよい。
好ましい一態様では、上記混合物を、該混合物に含まれるMのモル数mMTに対するLiのモル数mLiの比(mLi/mMT)が1.00よりも大きくなるように調製する(すなわち、1.00<(mLi/mMT)である混合物を調製する。)。かかる混合物を焼成することにより、典型的には、(mLi/mMT)が上記混合物と概ね同じ値である正極活物質が形成され得る。このようにMに対してLiを過剰に含む組成の混合物によると、(mLi/mMT)が1.00以下の場合に比べて、ここに開示される適切な半値幅比(A/B)を有する正極活物質(例えば、より半値幅比(A/B)の小さい正極活物質)が得られやすい。これは、かかる組成の混合物によると、上記焼成時においてc軸に直交する方向の結晶成長が抑制され得るためと考えられる。また、Mに対してLiを過剰に含み、かつLi−CO化合物含有量が少ない正極活物質によると、より高性能な(例えば、出力性能の良い)リチウム二次電池が実現され得る。好ましい一態様では、上記混合物または上記正極活物質の(mLi/mMT)が1.05以上であり(すなわち、1.05≦(mLi/mMT))、より好ましくは1.10以上である。かかる組成の正極活物質および該活物質を備えたリチウム二次電池によると、上述の効果がよりよく発揮され得る。
上記のようにLiを過剰に含む混合物は、上記のような観点(半値幅比(A/B)、電池性能等の観点)から好ましい一方、従来の通常の焼成態様(典型的には一段階の焼成工程)によると、Li−CO化合物含有量が多すぎる正極活物質となりがちである。殊に、殻部と中空部とを有する中空構造の正極活物質では、上記中空部にLi−CO化合物(あるいは、雰囲気中の空気中のCO等と反応してLi−CO化合物となり得る化学種)が溜まりやすいため、Li−CO化合物含有量が多くなりやすい。したがって、このような組成の混合物を焼成して正極活物質を得る態様では、ここに開示される焼成工程(上述のような第一焼成段階および第二焼成段階を含む焼成工程)を適用することが特に有意義である。かかる焼成工程によると、上記Liを過剰に含む混合物を焼成して中空構造の正極活物質粒子を製造する場合であっても、Li−CO化合物含有量を効率よく低下させて、好ましい半値幅比(A/B)およびLi−CO化合物含有量を同時に満足する正極活物質を製造することができる。
なお、(mLi/mMT)の上限は特に限定されないが、(mLi/mMT)が大きすぎると、Li−CO化合物含有量がここに開示される好ましい範囲にある正極活物質が得られ難くなったり、かかる正極活物質を得るために要する時間(例えば、第二焼成段階におけるピーク保持時間)が長くなったりする傾向にある。したがって、通常は、(mLi/mMT)を1.30以下(すなわち(mLi/mMT)≦1.30)とすることが適当であり、1.20以下とすることが好ましい。
好ましい他の一態様では、前記正極活物質が、該正極活物質に含まれるLi以外の全ての金属元素の合計量mMallに対して過剰量のLiを含む組成を有する(すなわち、1.00<(mLi/mMall))。このようにMallに対してLiを過剰に含む組成によると、(mLi/mMall)が1.00以下の場合に比べて、ここに開示される適切な半値幅比(A/B)を有する正極活物質(例えば、より半値幅比(A/B)の小さい正極活物質)が得られやすい。また、Mallに対してLiを過剰に含み、かつLi−CO化合物含有量が少ない正極活物質によると、より高性能な(例えば、出力性能の良い)リチウム二次電池が実現され得る。好ましい一態様では(mLi/mMall)が1.05以上であり、より好ましくは1.10以上である(すなわち、1.10≦(mLi/mMall))。かかる組成の正極活物質および該活物質を備えたリチウム二次電池によると、上述の効果がよりよく発揮され得る。
ここに開示される技術において、半値幅比(A/B)の調節は、種々の手法により行うことができる。例えば、半値幅比(A/B)をより小さくする手法として、(1)MまたはMallに対するLiの含有量をより多くする(例えば、後述する混合工程において、前駆体水酸化酸化物に対してより多くの量のLiを配合する。);(2)上記第一焼成段階における最高焼成温度T1をより低くする;(3)第一焼成段階において最高焼成温度T1に保持する時間t1をより短くする;添加元素としてのM(例えばW)を使用する;等の手法を例示することができる。これらの手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて採用することができる。
≪正極活物質の製造≫
以下、リチウム遷移金属酸化物がLNCM酸化物であり、金属元素MとしてWを含む組成の正極活物質の製造を主な例として、ここに開示される正極活物質製造方法の好ましい一態様を説明するが、本発明をかかる具体的態様に限定する意図ではない。
≪水溶液aq
図3に示すように、本実施態様に係る正極活物質製造方法は、M(ここではNi,CoおよびMn)を含む水溶液(典型的には酸性、すなわちpH7未満の水溶液)aqを準備することを含む(ステップS110)。好ましい一態様において、上記水溶液aqは、Wを実質的に含有しない組成物である。上記水溶液aqに含まれる各金属元素の量比は、目的物たる正極活物質の組成に応じて適宜設定することができる。例えば、Ni,CoおよびMnのモル比を、上記正極活物質におけるこれらの元素のモル比と概ね同程度とすることができる。なお、水溶液aqは、全てのMを含む一種類の水溶液であってもよく、組成の異なる二種類以上の水溶液であってもよい。例えば、MとしてNiのみを含む水溶液aqA1と、MとしてCoおよびMnのみを含む水溶液aqA2との二種類を、上記aqとして使用してもよい。好ましい一態様として、全てのMを含む一種類の水溶液を用いる態様が例示される。かかる態様は、製造装置の複雑化を避ける、製造条件の制御が容易である、等の観点から好ましく採用され得る。
上記水溶液aqは、例えば、適当なNi化合物、Co化合物およびMn化合物のそれぞれ所定量を水性溶媒に溶解させて調製することができる。これらの金属化合物としては、各金属の塩(すなわち、Ni塩、Co塩およびMn塩)を好ましく使用することができる。これらの金属塩を水性溶媒に添加する順序は特に制限されない。また、一部のまたは全部の金属を水溶液の形態で混合することにより水溶液aqを調製してもよい。例えば、Ni塩およびCo塩を含む水溶液に、Mn塩を含む水溶液を混合してもよい。これらの金属塩におけるアニオンは、それぞれ、該塩が所望の水溶性となるように選択すればよい。例えば、硫酸イオン、硝酸イオン、塩化物イオン、炭酸イオン、水酸化物イオン等であり得る。これら金属塩のアニオンは、全てまたは一部が同じであってもよく、互いに異なってもよい。図3には、各金属の硫酸塩を用いる例を示している。水溶液aqの濃度は、例えば、M(ここではNi,Co,Mn)の合計が1.0〜2.2mol/L程度となる濃度とすることができる。
≪水溶液aq
本態様の正極活物質製造方法は、また、Wを含む水溶液aqを準備することを含む(ステップS120)。この水溶液aqは、典型的には、Mを実質的に含有しない(これらの金属元素を少なくとも意図的には含有させないことをいい、不可避的不純物等として混入することは許容され得る。)組成物である。例えば、金属元素として実質的にWのみを含む水溶液aqを好ましく使用し得る。水溶液aqは、上述した水溶液aqと同様に、所定量のW化合物を水性溶媒に溶解させて調製することができる。W化合物としては各種のW塩を用いることができる。好ましい一態様では、タングステン酸(Wを中心元素とするオキソ酸)の塩を使用する。上記W塩は、水和物等の溶媒和物であってもよい。該W塩におけるカチオンは、該塩が水溶性となるように選択することができ、例えばアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等であり得る。好ましく使用し得るW塩の一例として、パラタングステン酸アンモニウム(5(NHO・12WO)が挙げられる。水溶液aqにおけるWの濃度は、例えば、W元素基準で0.01〜1mol/L程度とすることができる。
上記水溶液aq,aqの調製に用いる水性溶媒は、典型的には水であり、水を主成分とする混合溶媒であってもよい。この混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール等)が好適である。好ましい一態様では、上記水性溶媒として水を用いる。使用する各塩金属化合物の溶解性によっては、溶解性を向上させる試薬(酸、塩基等)を含む水性溶媒を用いてもよい。
≪アルカリ性水溶液≫
ここに開示される正極活物質製造方法では、Mを含む水溶液aqと、Wを含む水溶液aqとを、別々の水溶液として準備し、かつ、aqとaqとをアルカリ性条件下(すなわち、pHが7を超える条件下)で混合する。そして、この混合溶液からMおよびWを含む水酸化物(以下、「遷移金属水酸化物」または「前駆体水酸化物」ということがある。)を析出させる(水酸化物生成工程)。
かかるアルカリ性条件を実現するために、本態様に係る方法は、アルカリ性水溶液aqを準備することを含み得る。このアルカリ性水溶液aqは、典型的には、水性溶媒にアルカリ剤(液性をアルカリ側に傾ける作用のある化合物)が溶解した水溶液である。上記アルカリ剤としては、強塩基(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物)および弱塩基(アンモニア、アミン等)のいずれも使用可能である。少なくともアンモニアを含むアルカリ性水溶液aqの使用が好ましい。好ましい一態様では、弱塩基および強塩基の両方を含むアルカリ性水溶液aqを使用する。例えば、アンモニアと水酸化ナトリウムとを含むアルカリ性水溶液aqを好ましく使用し得る。組成の異なる複数のアルカリ性水溶液(例えば、アンモニア水と、水酸化ナトリウム水溶液との二種類)を、あらかじめ混合して(ステップS125)、あるいはそれぞれ独立した溶液として使用(典型的には、反応容器に供給)することができる。
≪核生成段階≫
好ましい一態様では、上記水酸化物生成工程が、上記aqおよびaqを含む混合溶液から上記遷移金属水酸化物の核を析出させる段階(核生成段階)と、その核を成長させる段階(粒子成長段階)とを含む。好ましい一態様において、上記核生成段階および上記粒子成長段階は、いずれもアンモニアの存在下で行われる。少なくとも上記粒子成長段階は、上記溶液中のアンモニア濃度を制御しつつ(例えば、所定値以下に制御しつつ)行うことが特に好ましい。また、上記粒子成長段階は、上記核生成段階におけるpHより低pHであって、かつアルカリ性の条件下で実施することが好ましい。
上記核生成段階(ステップS130)は、例えば、初期pHが11〜14(典型的には11.5〜12.5、例えば12.0前後)程度のアルカリ性水溶液を反応槽内に用意し、この初期pHを維持しつつ、該反応槽に水溶液aqおよび水溶液aqを適切な速度で供給して撹拌混合する態様で好ましく実施することができる。このとき、上記初期pHを維持するために、必要に応じて上記反応槽にアルカリ性水溶液を追加供給するとよい。
バラツキの少ない(例えば、粒径や粒子構造等が平均から大きく外れた粒子の個数割合が少ない)中空活物質粒子が得られやすいという観点から、上記核生成段階では、上記混合溶液から短時間のうちに(例えば、ほぼ同時に)多数の核を析出させることが好ましい。例えば、上記遷移金属水酸化物が過飽和の状態にある溶液から(例えば、該溶液を臨界過飽和度に到達させることにより)上記核を析出させるとよい。かかる析出態様を好適に実現するためには、上記核生成段階をpH12.0以上(典型的にはpH12.0以上14.0以下、例えばpH12.2以上13.0以下)の条件で行うことが有利である。
核生成段階でアンモニアを含むアルカリ性水溶液を用いる態様において、反応液中のアンモニア濃度は特に限定されないが、通常は凡そ25g/L以下とすることが適当であり、例えば3〜25g/L(好ましくは10〜25g/L)程度とするとよい。上記pHおよびアンモニア濃度は、上記アンモニア水の使用量と、他のアルカリ剤の使用量とを、適切にバランスさせることにより調整することができる。上記使用量は、例えば、反応系への供給レートとしても把握し得る。上記「他のアルカリ剤」としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の強塩基を、典型的には水溶液の形態で用いることができる。好ましい一態様では、上記他のアルカリ剤として水酸化ナトリウムを使用する。
なお、本明細書中において、pHの値は、液温25℃を基準とするpH値をいうものとする。また、反応液のアンモニア濃度は、例えば、イオンクロマト法、イオン電極法等により等により測定することができる。測定には、市販のイオンクロマトグラフ装置、電極式アンモニア計等を用いることができる。
≪粒子成長段階≫
上記粒子成長段階(ステップS140)では、核生成段階で析出した遷移金属水酸化物の核(典型的には粒子状)を、好ましくは該核生成段階よりも低pH域のアルカリ性条件下で成長させる。例えば、pH12.0未満(典型的にはpH10.0以上12.0未満、好ましくはpH10.0以上11.8以下、例えばpH11.0以上11.8以下)で粒子成長させるとよい。この粒子成長段階を経て得られる遷移金属水酸化物粒子(前駆体水酸化物粒子)は、典型的には、該粒子の外表面部の密度に比べて、該粒子の内部の密度が低い構造を有する。アンモニアを含むアルカリ性水溶液を用いる態様において、かかる構造の遷移金属水酸化物粒子を安定して得るためには、該粒子成長段階における液中アンモニア濃度を高くしすぎない(低く抑える)ことが肝要である。このことによって、上記遷移金属水酸化物の析出速度が速くなり、中空構造(好ましくは孔空き中空構造)の活物質粒子の形成に適した前駆体水酸化物を効果的に生成させ得る。なお、遷移金属水酸化物の析出速度は、例えば、反応液に供給される金属イオン(例えば、MおよびWのイオン)の合計モル数に対して、反応液の液相中に含まれる該金属イオンの合計モル数(合計イオン濃度)の推移を調べることにより把握され得る。
粒子成長段階におけるアンモニア濃度は、例えば25g/L以下とすることができ、通常は20g/L以下とすることが適当であり、好ましくは15g/L以下、より好ましくは10g/L以下(例えば8g/L以下)である。液中アンモニア濃度の下限は特に限定されないが、製造条件の管理しやすさ、品質安定性、生産性、得られる活物質粒子の機械的強度(例えば硬度)等の観点から、通常は、アンモニア濃度を概ね1g/L以上(好ましくは3g/L以上)とすることが適当である。粒子成長段階におけるpHおよびアンモニア濃度は、核生成段階と同様にして調整することができる。粒子成長段階における液中アンモニア濃度は、核生成段階におけるアンモニア濃度と概ね同程度としてもよく、核生成段階におけるアンモニア濃度より低くしてもよい。好ましい一態様では、粒子成長段階における液中アンモニア濃度を、核生成段階におけるアンモニア濃度よりも低く(典型的には75%以下、例えば50%以下の濃度に)制御する。
ここに開示される技術を実施するにあたり、上記のように粒子成長段階におけるアンモニア濃度を低く抑えることによって中空構造(好ましくは孔空き中空構造)の活物質の形成に適した前駆体水酸化物が得られる理由を明らかにする必要はないが、例えば以下のことが考えられる。すなわち、上記混合溶液(反応液)中では、例えば以下の平衡反応が生じている。下記式1,2におけるMは遷移金属(例えばNi)である。
Figure 2013143358
ここで、反応液中のアンモニア濃度を低くすると、式1の平衡が左に移動してM 2+の濃度が上がるため、式2の平衡が右に移動し、M(OH)の生成が促進される。換言すれば、M(OH)が析出しやすくなる。このようにM(OH)が析出しやすい状況では、M(OH)の析出は、主に、既に析出している遷移金属水酸化物(上記核生成段階で生じた核、または粒子成長段階の途上にある遷移金属水酸化物粒子)の外表面近傍において起こり、上記析出物の内部において析出するM(OH)は少なくなる。その結果、外表面部の密度に比べて内部の密度が低い構造の前駆体水酸化物粒子(中空構造の活物質粒子の形成に適した遷移金属水酸化物粒子であって、該活物質粒子の前駆体粒子としても把握され得る。)が形成されるものと推察される。
かかる構造の前駆体水酸化物粒子は、リチウム化合物と混合して焼成する際に、該粒子のうち密度が小さい内部が、密度が高く機械強度が強い外表面近傍部に取り込まれるように焼結する。このため、図1に示すように、正極活物質粒子110の殻部115が形成されるとともに、大きな中空部116が形成される。さらに、焼結時に結晶が成長する際に、殻部115の一部に該殻部115を貫通した貫通孔118が形成される。これにより、殻部115と、中空部116と、貫通孔118とを有する正極活物質粒子110が形成されるものと考えられる。一方、粒子成長段階におけるアンモニア濃度が高すぎると、M(OH)の析出速度が小さくなるため、外表面近傍における析出量と内部における析出量との差が小さくなり、上記構造の前駆体水酸化物粒子が形成されにくくなる傾向となるものと推察される。
また、このように、Mを含む水溶液aqと、Wを含む水溶液aqとを、別個の水溶液として準備し、これらをアルカリ性条件下で混合して生成させた前駆体水酸化物粒子は、リチウム化合物と混合して焼成することにより、一次粒子の表面に偏ってWが存在する正極活物質を効果的に形成し得る。これは、Mを含む水溶液aqが中和された後にWと混合されることにより、まずMを含む水酸化物が析出し始め、その析出物に接触することでWが析出しやすくなるためと考えられる。かかる前駆体水酸化物粒子は、焼成の際に、c軸方向の結晶成長を効果的に抑制し、半値幅比(A/B)を上述した好ましい範囲に調整するのに適している。
核生成段階および粒子成長段階のそれぞれにおいて、反応液の温度は、凡そ20℃〜60℃(例えば30℃〜50℃)の範囲のほぼ一定温度(例えば、所定の温度±1℃)に制御することが好ましい。核生成段階と粒子成長段階とで反応液の温度を同程度としてもよい。反応液および反応槽内の雰囲気は、核生成段階および粒子成長段階を通じて非酸化性雰囲気(例えば、酸素濃度が概ね20%以下、好ましくは10%以下の非酸化性雰囲気)に維持することが好ましい。単位容積の反応液に含まれるMイオン,EイオンおよびEイオンの合計モル数(合計イオン濃度)は、核生成段階および粒子成長段階を通じて、例えば凡そ0.5〜2.5モル/Lとすることができ、通常は凡そ1.0〜2.2モル/Lとすることが好ましい。かかる濃度が維持されるように、遷移金属水酸化物の析出速度に合わせて水溶液aq,aqを補充(典型的には連続供給)するとよい。
反応液に含まれるWイオンのモル数(イオン濃度)は、核生成段階および粒子成長段階を通じて、例えば凡そ0.01〜1.0モル/Lとすることができる。かかるイオン濃度が維持されるように、遷移金属水酸化物の析出速度に合わせて遷移金属溶液を補充(典型的には連続供給)するとよい。反応液に含まれるNiイオン,Coイオン、MnイオンおよびWイオンの量は、目的物たる活物質粒子の組成(すなわち、該活物質粒子に含まれるNi,Co,Mn,Wのモル比)に概ね対応する量比とすることが好ましい。
上記前駆体水酸化物の析出反応を継続する時間は、目的とする正極活物質の粒子径(典型的には平均粒子径)に応じて適宜設定することができる。傾向としては、より粒子径の大きな正極活物質を得るためには、より反応時間を長くするとよい。このようにして生成した遷移金属水酸化物粒子(ここでは、Ni,Co,MnおよびWを含む複合水酸化物粒子)は、晶析終了後、反応液から分離し、洗浄(典型的には水洗)して乾燥させ、所望の粒径を有する粒子状に調製するとよい(ステップS150)。
≪混合工程≫
本態様に係る正極活物質製造方法は、上記前駆体水酸化物とリチウム化合物(リチウム源)とを混合する混合工程を含み得る(ステップS160)。上記リチウム化合物としては、リチウムを含む酸化物を用いてもよく、加熱により酸化物となり得る化合物(リチウムの炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、シュウ酸塩、水酸化物、アンモニウム塩、ナトリウム塩等)を用いてもよい。好ましいリチウム化合物として、炭酸リチウム、水酸化リチウムを例示することができる。上記リチウム化合物は、一種のみを単独で、あるいは二種以上を組み合わせて用いることができる。好ましい一態様に係る正極活物質製造方法では、上記リチウム化合物として炭酸リチウムを(例えば単独で)使用する。かかる態様においては、ここに開示される製造方法を適用して正極活物質のLi−CO化合物含有量を調整する(所定値以下に低減する)ことが特に有意義である。前駆体水酸化物とリチウム化合物との混合比は、目的とする正極活物質において所望のモル比が実現されるように決定することができる。例えば、リチウムと他の金属元素とのモル比が上記正極活物質におけるモル比と同程度となるように、上記前駆体水酸化物とリチウム化合物とを混合するとよい。
≪焼成工程≫
そして、上記混合物を焼成してリチウム遷移金属酸化物を生成させる(ステップS170)。この焼成工程は、上述した第一焼成段階(ステップS172)と、第二焼成段階(S174)とを包含する。好ましくは、かかる焼成工程後に焼成物を解砕し、必要に応じて篩分けを行なって正極活物質の粒径を調整する。
なお、かかる正極活物質製造方法は、特に、遷移金属溶液がNiを含む場合に好ましく適用され得る。遷移金属溶液がNiを含む場合、該溶液から遷移金属水酸化物が析出する際に、微小な一次粒子が複数集合した二次粒子の形態で、遷移金属水酸化物の粒子が生成される。また、焼成時の温度範囲において、かかる遷移金属水酸化物の一次粒子の形状を概ね維持しつつ結晶が成長する。
≪粒子空孔率≫
ここに開示される技術における正極活物質は、粒子空孔率が5%以上の中空構造(典型的には、孔空き中空構造)を有する。粒子空孔率が10%以上である正極活物質が好ましく、より好ましくは15%以上である。粒子空孔率が小さすぎると、中空構造であることの利点が十分に発揮されにくくなる場合があり得る。粒子空孔率が20%以上(典型的には23%以上、好ましくは30%以上)であってもよい。粒子空孔率の上限は特に限定されないが、活物質粒子の耐久性(例えば、電池の製造時や使用時に加わり得る圧縮応力等に耐えて中空形状を維持する性能)や製造容易性等の点から、通常は95%以下(典型的には90%以下、例えば80%以下)とすることが適当である。ここに開示されるいずれかの正極活物質製造方法において、上記粒子空孔率の調節は、例えば、粒子成長工程を継続する時間、粒子成長工程における遷移金属水酸化物の析出速度(例えば、アンモニア濃度)等を通じて行うことができる。
ここで、「粒子空孔率」とは、正極活物質をランダムな位置で切断した断面の平均において、該活物質の見かけの断面積のうち中空部が占める割合をいう。この割合は、例えば、正極活物質粒子または該活物質粒子を含む材料の適当な断面における走査型電子顕微鏡(SEM)画像を通じて把握することができる。かかる断面SEM画像は、例えば、正極活物質粒子または該活物質粒子を含む材料を適当な樹脂(好ましくは熱硬化性樹脂)で固めたサンプルを切断し、その断面をSEM観察することにより得ることができる。該断面SEM画像では、色調あるいは濃淡の違いによって、活物質粒子の殻部と、中空部と、貫通孔とを区別することができる。上記サンプルの任意の断面SEM画像に表れた複数の活物質粒子について、それらの活物質粒子の中空部が占める面積Cと、それらの活物質粒子が見かけの上で占める断面積Cとの比(C/C)を得る。ここで、活物質粒子が見かけの上で占める断面積Cとは、活物質粒子の殻部、中空部および貫通孔が占める断面積を指す。かかる比(C/C)によって、活物質粒子の見かけの体積のうち中空部が占める割合(すなわち粒子空孔率)が概ね求められる。
好ましくは、上記サンプルの任意の複数の断面SEM画像について、上記比(C/C)の値を算術平均する。このようにして比(C/C)を求める断面SEM画像の数が多くなるほど、また比(C/C)を算出する基礎とする活物質粒子の数が多くなるほど、上記比(C/C)の算術平均値は収束する。通常は、少なくとも10個(例えば20個以上)の活物質粒子に基づいて粒子空孔率を求めることが好ましい。また、少なくともサンプルの任意の3箇所(例えば5箇所以上)の断面におけるSEM画像に基づいて粒子空孔率を求めることが好ましい。
≪殻部の厚さ≫
かかる中空構造の正極活物質(正極活物質粒子)において、殻部(一次粒子が球殻状に集合した部分)の厚さは、通常、3.0μm以下であることが好ましく、好ましくは2.5μm以下(例えば2.2μm以下)、さらに好ましくは2.0μm以下(例えば1.5μm以下)である。殻部の厚さが小さいほど、充電時には殻部の内部(厚みの中央部)からもリチウムイオンが放出されやすく、放電時にはリチウムイオンが殻部の内部まで吸収されやすくなる。したがって、所定の条件において単位質量の活物質粒子が吸蔵および放出し得るリチウムイオンの量を多くできるとともに、活物質粒子がリチウムイオンを吸蔵したり放出したりする際の抵抗を軽減し得る。かかる活物質粒子を用いてなるリチウム二次電池は、半値幅比(A/B)がここに開示される好ましい範囲にあることの効果と相まって、低SOC域における出力に優れたものとなり得る。
殻部の厚さの下限値は特に限定されないが、通常は、概ね0.1μm以上であることが好ましい。殻部の厚さを0.1μm以上とすることにより、電池の製造時または使用時に加わり得る応力や、充放電に伴う正極活物質の膨張収縮等に対して、より高い耐久性を確保することができる。これによりリチウム二次電池の性能が安定し得る。内部抵抗低減効果と耐久性とを両立させる観点からは、殻部の厚さが凡そ0.1μm〜2.2μmであることが好ましく、より好ましくは0.2μm〜1.5μmであり、特に好ましくは0.5μm〜1μmである。
ここで、殻部115の厚さとは(図1参照)、正極活物質または該活物質粒子を含む材料の断面SEM画像において、殻部115の内側面115a(ただし、貫通孔118に相当する部分は内側面115aに含めない。)の任意の位置kから殻部115の外側面115bへの最短距離T(k)の平均値を指す。より具体的には、殻部115の内側面115aの複数の位置について上記最短距離T(k)を求め、それらの算術平均値を算出するとよい。この場合、上記最短距離T(k)を求めるポイントの数を多くするほど、殻部115の厚さTが平均値に収束し、殻部115の厚みを適切に評価することができる。通常は、少なくとも10個(例えば20個以上)の活物質粒子110に基づいて殻部115の厚さを求めることが好ましい。また、少なくともサンプルの(例えば正極活物質素の)任意の3箇所(例えば5箇所以上)の断面におけるSEM画像に基づいて殻部115の厚さを求めることが好ましい。
≪二次粒子の形状≫
活物質粒子の平均粒径(二次粒径)は、例えば、凡そ2μm〜25μmであることが好ましい。かかる構成の正極活物質によると、良好な電池性能をより安定して発揮することができる。平均粒径が小さすぎると、中空部の容積が小さいため、電池性能を向上させる効果が低下傾向になり得る。平均粒径が凡そ3μm以上であることがより好ましい。また、正極活物質の生産性等の観点からは、平均粒径が凡そ25μm以下であることが好ましく、凡そ15μm以下(例えば凡そ10μm以下)であることがより好ましい。好ましい一態様では、正極活物質の平均粒径が凡そ3μm〜10μm(例えば3μm〜8μm)である。
上記活物質粒子の平均粒径は、当該分野で公知の方法、例えばレーザ回折散乱法に基づく測定による体積基準のメジアン径(D50)として求めることができる。また、上記平均粒径の調節は、例えば、核生成段階におけるpH、粒子成長工程を継続する時間、粒子成長工程における遷移金属水酸化物の析出速度等を通じて行うことができる。遷移金属水酸化物の析出速度は、例えば、上記式1または式2に関係する一または二以上の化学種の濃度、pH、反応系の温度等を通じて調節することができる。あるいは、一般的な篩い分けにより粒子を選別して平均粒子径を調節してもよい。このような平均粒径調節手法は、単独で、あるいは適宜組み合わせて実施することができる。
≪一次粒子の形状≫
活物質粒子110を構成する一次粒子112は、その長径L1が例えば凡そ0.1μm〜1.0μmであり得る。本発明者の知見によれば、一次粒子112の長径L1は、(003)面の法線方向(c軸)に直交する方向における結晶サイズに凡そ相関し得る。L1が小さすぎると、電池の容量維持性が低下傾向となることがあり得る。かかる観点から、L1が0.2μm以上である正極活物質が好ましく、より好ましくは0.3μm以上、さらに好ましくは0.4μm以上である。一方、L1が大きすぎると、結晶の表面から内部(L1の中央部)までの距離(Liイオンの拡散距離)が長くなるため、結晶内部へのイオン拡散が遅くなり、出力特性(特に、低SOC域における出力特性)が低くなりがちである。かかる観点から、L1は0.8μm以下(例えば0.75μm以下)であることが好ましい。好ましい一態様では、一次粒子の長径L1が0.2μm〜0.8μm(例えば0.3μm〜0.75μm)である。
一次粒子112の長径L1は、例えば、正極活物質粒子(二次粒子)110の粒子表面のSEM画像に基づいて測定することができる。リチウム二次電池の正極活物質層に含まれる正極活物質粒子について上記一次粒径を測定する場合には、該活物質層を割った断面に現れている正極活物質粒子について、その表面のSEM観察を行うとよい。例えば、かかるSEM画像において、長径L1を特定するのに適当な一次粒子112を特定する。すなわち、正極活物質粒子(二次粒子)110の粒子表面のSEM画像には複数の一次粒子112が写っているので、これらの一次粒子112を、上記SEM画像における表示面積が大きい順に複数個抽出する。これにより、当該粒子表面のSEM画像において、概ね最も長い長径L1に沿った外形が写った一次粒子112を抽出することができる。そして、当該抽出された一次粒子112において最も長い長軸の長さを長径L1とするとよい。
≪比表面積≫
ここに開示される正極活物質のBET比表面積は、凡そ0.3m/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.5m/g以上、さらに好ましくは0.8m/g以上である。また、活物質粒子110のBET比表面積は、例えば、凡そ3.0m/g以下(例えば2.0m/g以下)とすることができ、1.7m/g以下であってもよく、さらに1.5m/g以下であってもよい。好ましい一態様に係る正極活物質は、BET比表面積が概ね0.5〜2.0m/gの範囲にある。
≪正極活物質の硬度≫
ここに開示される技術の好ましい一態様によると、平均硬度が概ね0.5MPa以上(典型的には1.0MPa以上、例えば2.0〜10MPa)である正極活物質粒子が製造され得る。ここで「平均硬度」とは、直径50μmの平面ダイヤモンド圧子を使用して、負荷速度0.5mN/秒〜3mN/秒の条件で行われるダイナミック微小硬度測定により得られる値をいう。かかるダイナミック微小硬度測定には、例えば、株式会社島津製作所製の微小硬度計、型式「MCT−W500」を用いることができる。より多くの活物質粒子について上記硬度測定を行うほど、それらの活物質の硬度の算術平均値は収束する。上記平均硬度としては、少なくとも3個(好ましくは5個以上)の活物質粒子に基づく算術平均値を採用することが好ましい。核生成段階と粒子成長段階とを包含する上述した孔空き活物質粒子製造方法は、かかる平均硬度を有する孔空き活物質粒子の製造方法として好適である。この方法により得られた孔空き中空構造の活物質粒子は、例えば噴霧焼成製法(スプレードライ製法とも称される。)等により得られた一般的な多孔質構造の正極活物質粒子に比べて、より硬く(平均硬度が高く)、形態安定性に優れたものとなり得る。このように、中空構造であってかつ平均硬度の高い(換言すれば、形状維持性の高い)活物質粒子は、より高い性能を安定して発揮する電池を与えるものであり得る。
本発明によると、ここに開示されるいずれかの正極活物質を有する正極が提供される。また、上記正極を備えたリチウム二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)が提供される。以下、かかるリチウム二次電池の一実施形態について、捲回型の電極体と非水電解液とを扁平な角型形状の電池ケースに収容した構成のリチウムイオン二次電池を例にして詳細に説明するが、ここに開示される技術の実施形態を限定する意図ではない。
≪リチウムイオン二次電池≫
ここに開示される技術の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、例えば図4および図5に示されるように、捲回電極体20が、非水電解液90とともに、該電極体20の形状に対応した扁平な箱状の電池ケース10に収容された構成を有する。ケース10の開口部12は蓋体14により塞がれている。蓋体14には、外部接続用の正極端子38および負極端子48が、それら端子の一部が蓋体14から電池の外方に突出するように設けられている。かかる構成のリチウムイオン二次電池100は、例えば、ケース10の開口部12から電極体20を内部に収容し、該ケース10の開口部12に蓋体14を取り付けた後、蓋体14に設けられた電解液注入孔(図示せず)から電解液90を注入し、次いで上記注入孔を塞ぐことによって構築することができる。
電極体20は、正極活物質を含む正極活物質層34が長尺シート状の正極集電体32に保持された正極シート30と、負極活物質を含む負極活物質層44が長尺シート状の負極集電体42に保持された負極シート40とを重ね合わせて捲回し、得られた捲回体を側面方向から押圧して拉げさせることによって扁平形状に成形されている。典型的には、正極活物質層34と負極活物質層44との間は、両者の直接接触を防ぐ絶縁層が配置されている。好ましい一態様では、上記絶縁層として2枚の長尺シート状のセパレータ50を使用する。例えば、これらのセパレータ50を正極シート30および負極シート40とともに捲回して電極体20が構成される。上記絶縁層は、また、正極活物質層34および負極活物質層44の一方または両方の表面にコートされていてもよい。
≪正極シート≫
正極シート30は、その長手方向に沿う一方の端部において、正極活物質層34が設けられておらず正極集電体32が露出するように形成されている。同様に、負極シート40は、その長手方向に沿う一方の端部において、負極活物質層44が設けられておらず負極集電体42が露出するように形成されている。そして、正極集電体32の上記露出端部に正極端子38が、負極集電体42の上記露出端部には負極端子48がそれぞれ接合されている。正負極端子38、48と正負極集電体32、42との接合は、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等により行うことができる。
正極シート30は、ここに開示されるいずれかの正極活物質を、必要に応じて用いられる導電材、バインダ(結着剤)等とともに適当な溶媒に分散させたペースト状またはスラリー状の組成物(正極活物質層形成用の分散液)を正極集電体32に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。上記溶媒としては、水性溶媒および有機溶媒のいずれも使用可能である。正極活物質に含まれるWが上記溶媒に溶出する事態をより高度に防止するという観点からは、上記溶媒として有機溶媒(例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP))を用いることが好ましい。
導電材としては、カーボン粉末やカーボンファイバー等の導電性粉末材料が好ましく用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック、グラファイト粉末等が好ましい。導電材は、一種のみを単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。
上記バインダの例としては、カルボキシメチルセルロース(CMC;典型的にはナトリウム塩)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等が挙げられる。このようなバインダは、一種を単独で、または二種以上を適宜組み合わせて用いることができる。かかるバインダは、正極活物質組成物の増粘剤としても機能し得る。
正極活物質層全体に占める正極活物質の割合は、凡そ50質量%以上(典型的には50〜95質量%)とすることが適当であり、通常は凡そ70〜95質量%であることが好ましい。導電材を使用する場合、正極活物質層全体に占める導電材の割合は、例えば凡そ2〜20質量%とすることができ、通常は凡そ2〜15質量%とすることが好ましい。バインダを使用する場合には、正極活物質層全体に占めるバインダの割合を例えば凡そ0.5〜10質量%とすることができ、通常は凡そ1〜5質量%とすることが適当である。
正極集電体32としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、アルミニウムまたはアルミニウムを主成分とする合金を用いることができる。正極集電体32の形状は、リチウムイオン二次電池の形状等に応じて異なり得るため、特に制限はなく、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態であり得る。本実施形態のように捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100では、厚み10μm〜30μm程度のアルミニウムシート(アルミニウム箔)を正極集電体32として好ましく使用し得る。
正極集電体32に付与した分散液の乾燥は、必要に応じて加熱下で行うことができる。乾燥後、必要に応じて全体をプレスしてもよい。正極集電体32の単位面積当たりに設けられる正極活物質層34の質量(正極集電体32の両面に正極活物質層34を有する構成では両面の合計質量)は、例えば5〜40mg/cm(典型的には5〜20mg/cm)程度とすることが適当である。正極活物質層34の密度は、例えば1.0〜3.0g/cm(典型的には1.5〜3.0g/cm)程度とすることができる。
≪負極シート≫
負極シート40は、例えば、負極活物質を、必要に応じて用いられるバインダ等とともに適当な溶媒に分散させたペーストまたはスラリー状の組成物(負極活物質層形成用の分散液)を負極集電体42に付与し、該組成物を乾燥させることにより好ましく作製することができる。
負極活物質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる材料の一種または二種以上を特に限定なく使用することができる。好適な負極活物質として炭素材料が挙げられる。少なくとも一部にグラファイト構造(層状構造)を有する粒子状の炭素材料(カーボン粒子)が好ましい。いわゆる黒鉛質のもの(グラファイト)、難黒鉛化炭素質のもの(ハードカーボン)、易黒鉛化炭素質のもの(ソフトカーボン)、これらを組み合わせた構造を有するもののいずれの炭素材料も好適に使用され得る。なかでも特に、天然黒鉛等のグラファイト粒子を好ましく使用することができる。グラファイトの表面に非晶質(アモルファス)カーボンが付与されたカーボン粒子等であってもよい。かかるカーボン粒子は、より急速充放電(例えば高出力放電)に適した負極活物質となり得る。負極活物質層全体に占める負極活物質の割合は特に限定されないが、通常は凡そ50質量%以上とすることが適当であり、好ましくは凡そ90〜99質量%(例えば凡そ95〜99質量%)である。
バインダとしては、上述した正極と同様のものを、単独で、または二種以上を組み合わせて用いることができる。バインダの添加量は、負極活物質の種類や量に応じて適宜選択すればよく、例えば、負極活物質層全体の1〜5質量%程度とすることができる。
負極集電体42としては、導電性の良好な金属からなる導電性部材が好ましく用いられる。例えば、銅または銅を主成分とする合金を用いることができる。また、負極集電体42の形状は、正極集電体32と同様に、種々の形態であり得る。本実施形態のように捲回電極体20を備えるリチウムイオン二次電池100では、厚み5μm〜30μm程度の銅製シート(銅箔)を、負極集電体42として好ましく使用し得る。
負極集電体42に付与した分散液の乾燥は、必要に応じて加熱下で行うことができる。乾燥後、必要に応じて全体をプレスしてもよい。負極集電体42の単位面積当たりに設けられる負極活物質層44の質量(両面の合計質量)は、例えば3〜30mg/cm(典型的には3〜15mg/cm)程度とすることが適当である。負極活物質層44の密度は、例えば0.8〜2.0g/cm(典型的には1.0〜2.0g/cm)程度とすることができる。
≪正極と負極との容量比≫
特に限定するものではないが、正極の初期容量(C)に対する負極の初期容量(C)の比(C/C)は、通常、例えば1.0〜2.0とすることが適当であり、1.2〜1.9とすることが好ましい。C/Cが小さすぎると、電池の使用条件によっては(例えば、急速充電時等に)、金属リチウムが析出しやすくなる等の不都合が生じ得る。C/Cが大きすぎると、電池のエネルギー密度が低下しやすくなることがある。
≪セパレータ≫
正極シート30と負極シート40との間に介在されるセパレータ50としては、当該分野において一般的なセパレータと同様のものを特に限定なく用いることができる。例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル、セルロース、ポリアミド等の樹脂からなる多孔質シート、不織布等を用いることができる。好適例として、一種または二種以上のポリオレフィン樹脂を主体に構成された単層または多層構造の多孔性シート(微多孔質樹脂シート)が挙げられる。例えば、PEシート、PPシート、PE層の両側にPP層が積層された三層構造(PP/PE/PP構造)のシート等を好適に使用し得る。セパレータの厚みは、例えば、凡そ10μm〜40μmの範囲内で設定することが好ましい。ここに開示される技術におけるセパレータは、上記多孔質シート、不織布等の片面または両面(典型的には片面)に、多孔質の耐熱層を備える構成のものであってもよい。かかる多孔質耐熱層は、例えば、無機材料(アルミナ粒子等の無機フィラー類を好ましく採用し得る。)とバインダとを含む層であり得る。
≪電解液≫
非水電解液90としては、非水溶媒(有機溶媒)中に電解質(支持塩)を含むものが用いられる。上記非水溶媒としては、一般的なリチウムイオン二次電池の電解液に用いられる有機溶媒の一種または二種以上を適宜選択して使用することができる。特に好ましい非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。例えば、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒を好ましく用いることができる。
上記電解質としては、一般的なリチウムイオン二次電池において電解質として用いられるリチウム塩の一種または二種以上を、適宜選択して使用することができる。かかるリチウム塩として、LiPF,LiBF,LiClO,LiEBF,Li(CFSON,LiCFSO等が例示される。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。非水電解液90は、例えば、電解質濃度が0.7〜1.3mol/L(典型的には1.0〜1.2mol/L)の範囲内となるように調製することが好ましい。
非水電解液90は、本発明の目的を大きく損なわない限度で、必要に応じて任意の添加剤を含んでもよい。かかる添加剤は、例えば、電池100の出力性能の向上、保存性の向上(保存中における容量低下の抑制等)、サイクル特性の向上、初期充放電効率の向上、等の一または二以上の目的で使用され得る。好ましい添加剤の例として、フルオロリン酸塩(好ましくはジフルオロリン酸塩。例えば、LiPOで表されるジフルオロリン酸リチウム)、リチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)等が挙げられる。非水電解液90における各添加剤の濃度は、通常、0.20mol/L以下(典型的には0.005〜0.20mol/L)とすることが適当であり、例えば0.10mol/L以下(典型的には0.01〜0.10mol/L)とすることができる。好ましい一態様として、LiPOおよびLiBOBの両方を、それぞれ0.01〜0.05mol/L(例えば、それぞれ0.025mol/L)の濃度で含む非水電解液90が挙げられる。
捲回電極体20を電池ケース10に収容し、そのケース10内に適当な非水電解液90を配置(注液)し、捲回電極体20に染み込ませる。そして、ケース10の開口部12を蓋体14との溶接等により封止することにより、本実施形態に係るリチウム二次電池100の構築(組み立て)が完成する。なお、電池ケース10の封止プロセスや電解液90の配置(注液)プロセスは、従来のリチウム二次電池の製造で行われている手法と同様にして行うことができる。その後、該電池のコンディショニング(初期充放電)を行う。必要に応じてガス抜きや品質検査等の工程を行ってもよい。
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明をかかる具体例に示すものに限定することを意図したものではない。
≪中空構造を有する活物質粒子の製造≫
(サンプルP1)
硫酸ニッケル(NiSO)、硫酸コバルト(CoSO)および硫酸マンガン(MnSO)を水に溶解させて、Ni:Co:Mnのモル比が1:1:1であり、かつNi,CoおよびMnの合計濃度が1.8mol/Lである水溶液aqを調製した。また、パラタングステン酸アンモニウム(5(NHO・12WO)を水に溶解させて、W濃度が0.05mol/Lの水溶液aq(W水溶液)を調製した。
攪拌装置および窒素導入管を備えた反応槽に、その容量の半分程度の水を入れ、攪拌しながら40℃に加熱した。該反応槽を窒素置換した後、窒素気流下、反応槽内の空間を酸素濃度2.0%の非酸化性雰囲気に維持しつつ、25%(質量基準)水酸化ナトリウム水溶液と25%(質量基準)アンモニア水とをそれぞれ適量加えて、液温25℃を基準とするpHが12.0であり、液相のアンモニア濃度が20g/Lであるアルカリ性水溶液(NH・NaOH水溶液)を調製した。
上記反応槽中のアルカリ性水溶液に、上記でそれぞれ調製した水溶液aqと、水溶液aqと、25%水酸化ナトリウム水溶液と、25%アンモニア水とを、一定速度で供給することにより、反応液をpH12.0以上(具体的にはpH12.0〜14.0)、かつアンモニア濃度20g/Lに維持しつつ、該反応液から水酸化物を晶析させた(核生成段階)。
次いで、上記反応槽への各液の供給速度を調節して反応液のpH12.0未満(具体的には、pH10.5〜11.9に調整し、液相のアンモニア濃度を1〜10g/Lの範囲の所定濃度に制御しつつ、上記で生成した核の粒子成長反応を行った(粒子成長段階)。生成物を反応槽から取り出し、水洗し、乾燥させて、(Ni+Co+Mn):Wのモル比が100:0.5である複合水酸化物(前駆体水酸化物)を得た。この前駆体水酸化物に、大気雰囲気中、150℃で12時間の熱処理を施した。
その後、上記前駆体水酸化物とLiCO(リチウム源)とを、(Ni+Co+Mn):Liのモル比(すなわちm:mLi)が1.16:1となるように混合した(混合工程)。この未焼成混合物を、大気雰囲気中、最高焼成温度900℃(T1)に3時間(t1)保持する第一焼成段階に供し、次いで最高焼成温度730℃(T2)に8時間(t2)保持する第二焼成段階に供した。その後、焼成物を冷却し、解砕し、篩分けを行った。このようにして、Li1.16Ni1/3Co1/3Mn1/30.005で表される平均組成を有し、表1に示す粒子形状を有する正極活物質サンプルP1を得た。
(サンプルP2〜P4)
第一焼成段階における最高焼成温度(T1)および保持時間(t1)、第二焼成段階における最高焼成温度(T2)および保持時間(t2)、ならびに混合工程におけるm:mLiを表1に示すように設定した他はサンプルP1の製造と同様にして、正極活物質サンプルP2〜P4を得た。
サンプルP1〜P4の製造に係る焼成工程の温度プロファイル(焼成パターンI)を図6に示す。
(サンプルP5〜P8)
第二焼成段階を行わない点を除いてはサンプルP1〜P4の製造と同様にして、これらP1〜P4のそれぞれに対応する正極活物質サンプルP5〜P8を得た。
サンプルP5〜P8の製造に係る焼成工程の温度プロファイル(焼成パターンII)を図7に示す。
(サンプルP9〜P11)
混合工程におけるm:mLi、最高焼成温度(T1)および保持時間(t1)を表1に示すように設定した点、ならびに第二焼成段階を行わない点を除いてはサンプルP1の製造と同様にして、正極活物質サンプルP9〜P11を得た。
サンプルP9〜P11の製造に係る焼成工程の温度プロファイル(焼成パターンIII)を図8に示す。
なお、正極活物質サンプルP1〜P11は、いずれも、平均粒径(メジアン径D50)が凡そ3〜8μmとなるように調製した。これらの正極活物質サンプルP1〜P11の断面SEM観察を行ったところ、いずれも一次粒子が集まった二次粒子の形態であって、明確な殻部と中空部とを備えていた。該殻部には、いくつかの(一粒子当たり平均1つ以上の)貫通孔が形成され、その貫通孔以外の部分では殻部が緻密に焼結していることが確認された。また、サンプルP1〜P11の平均硬度を上述した方法により測定したところ、いずれも0.5MPa〜10MPaの範囲にあることが確認された。また、サンプルP1〜P11のBET比表面積は、いずれも0.5〜2.0m/gの範囲にあった。
(粒子形状)
上述した方法により、正極活物質サンプルP1〜P11の外殻の厚み(殻厚)および空孔率(断面積比)を求めた。
(半値幅比(A/B))
サンプルP1〜P11の粉末X線回折パターンを上記方法により測定し、ミラー指数(003)の回折面により得られるピークの半値幅Aと、ミラー指数(104)の回折面により得られるピークの半値幅Bとの比(A/B)を算出した。
(Li−CO化合物含有量)
正極活物質サンプルP1〜P11につき、以下の手順に従い、自動滴定装置(平沼産業株式会社製の型式「COM−1600」)を用いてLi−CO化合物の中和滴定を実施した。
(1)攪拌子を入れた200mLビーカーに、正極活物質サンプルS(g)(典型的には2.01g〜2.04g程度)を0.0001gの桁まで秤量する。
(2)上記ビーカーに容積が100mLとなるまでイオン交換水を加える。
(3)10%塩化バリウム溶液2mLをさらに加える。
(4)スターラーにより1分間程度攪拌する。
(5)自動滴定装置を用い、pH9近傍の変曲点を第一中和点として塩酸溶液で中和滴定を行い、第一中和点までの塩酸滴定量D1(L)を求める。
(6)さらに滴定を続け、pH4近傍の変曲点を第二中和点として塩酸溶液で中和滴定を行い、第二中和点までの塩酸滴定量D2(L)を求める。
(7)D1とD2との差からLi−CO化合物量を算出する。
なお、使用した塩酸溶液の濃度は1モル/Lとした。
他の滴定条件は次のとおりとした。
滴定速度: 400μL/秒
最大滴下量: 50μL
最小滴下量: 2μL
滴下待ち時間: 1秒
安定待ち係数: 10mpH
安定待ち時間: 1秒
≪性能評価≫
正極活物質サンプルP1〜P11を用いて試験用電池(リチウムイオン二次電池)を構築し、その性能評価を行った。
(リチウムイオン二次電池の構築)
上記で得られた活物質粒子サンプルと、AB(導電材)と、PVDF(結着材)とを、これらの材料の質量比が90:8:2となるようにN−メチルピロリドン(NMP)と混合して、正極活物質層形成用のスラリー状組成物を調製した。この組成物を、厚さ15μmの長尺状のアルミニウム箔(正極集電体)の両面に帯状に塗付して乾燥させることにより、正極集電体の両面に正極活物質層を有する正極シートを作製した。正極活物質層用組成物の塗付量は、両面の塗付量が略同等であり両面の合計塗付量が約11.8mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、圧延プレス機によりプレスして、正極活物質層の密度を約2.3g/cmに調整した。
負極活物質としては、グラファイト粒子の表面にアモルファスカーボンがコートされた構造のカーボン粒子を使用した。より具体的には、天然黒鉛粉末とピッチとを混合して該黒鉛粉末の表面にピッチを付着させ(天然黒鉛粉末:ピッチの質量比は96:4とした。)、不活性雰囲気下において1000℃〜1300℃で10時間焼成した後、篩いにかけて、平均粒子径(D50)8〜11μm、比表面積3.5〜5.5m/gの負極活物質を得た。この負極活物質とSBRとCMCとを、これらの材料の質量比が98.6:0.7:0.7となるようにイオン交換水と混合して、負極活物質層形成用のスラリー状組成物を調製した。この組成物を、厚さ10μmの長尺状の銅箔(負極集電体)の両面に塗付して乾燥することにより、負極集電体の両面に負極活物質層を有する負極シートを作製した。負極活物質層用組成物の塗付量は、両面の塗付量が略同等であり両面の合計塗付量が約7.5mg/cm(固形分基準)となるように調節した。乾燥後、圧延プレス機によりプレスして、負極活物質層の密度を約1.0g/cm〜1.4g/cmに調整したた。
正極シートおよび負極シートを2枚のセパレータ(多孔質ポリエチレン製の単層構造のものを使用した。)を介して積層して捲回し、その捲回体を側面方向から押圧して拉げさせることにより扁平形状の捲回電極体を作製した。この捲回電極体を非水電解液とともに箱型の電池容器に収容し、電池容器の開口部を気密に封口した。非水電解液としては、ECとEMCとDMCとを3:3:4の体積比で含む混合溶媒に、支持塩としてのLiPFを約1モル/Lの濃度で含有させたものを使用した。なお、任意にジフルオロリン酸塩(LiPO)とリチウムビスオキサレートボレート(LiBOB)を、それぞれ単体または混合体を凡そ0.05mol/Lの割合にて溶解させた電解液を使用することもできる。このようにして試験用電池を組み立てた。この試験用電池では、上述した初期容量比(C/C)が1.5〜1.9に調整されている。
(コンディショニング)
上記のように構築した試験用電池に対し、次の手順1〜3に従ってコンディショニングを施した。
[手順1]1Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧にて2時間放電し、10秒間休止する。
[手順2]1Cの定電流充電によって4.1Vに到達後、定電圧充電にて2.5時間充電し、10秒間休止する。
[手順3]0.5Cの定電流放電によって3.0Vに到達後、定電圧放電にて2時間放電し、10秒間停止する。
上記手順3における、定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を、定格容量とする。
(定格容量(初期容量)の測定)
上記コンディショニング後の試験用電池について、温度25℃、3.0Vから4.1Vの電圧範囲で、次の手順1〜3に従って定格容量を測定した。
[手順1]1Cの定電流で3.0Vまで放電し、続いて定電圧で2時間放電し、10秒間休止する。
[手順2]1Cの定電流で4.1Vまで充電し、続いて定電圧で2.5時間充電し、10秒間休止する。
[手順3]0.5Cの定電流で3.0Vまで放電し、続いて定電圧で2時間放電し、10秒間停止する。
そして、手順3における定電流放電から定電圧放電に至る放電における放電容量(CCCV放電容量)を定格容量(初期容量)とした。この試験用電池では、定格容量が凡そ4Ahとなった。
(低温低SOC出力の測定)
以下の手順1〜5により、低SOC(ここでは27%)に調整された試験用電池の−30℃における出力を測定した。その結果を表1および表2に示す。
[手順1]上記コンディショニング工程および定格容量測定後の電池を、常温(ここでは25℃)の温度環境にて、1Cの定電流で3VからSOC27%まで充電(CC充電)し、次いで同電圧で2.5時間充電(CV充電)する。
[手順2]手順1後の電池を、−30℃の恒温槽内に6時間保持する。
[手順3]手順2後の電池を、−30℃の温度環境において定ワット(W)にて放電し、放電開始から電圧が2.0V(放電カット電圧)になるまでの秒数を測定する。
[手順4]手順3の定ワット放電における放電出力(定ワット放電の放電電力量)を80W〜200Wの間で異ならせて(より具体的には、手順3の定ワット放電における放電出力を、1回目80W、2回目90W、3回目100W・・・と10Wづつ200Wまで上げながら)、上記手順1〜3を繰り返す。
[手順5]手順4の各定ワット放電において測定された電圧2.0Vまでの秒数を横軸にとり、そのときの定ワット放電出力を縦軸にとったプロットの近似曲線から、電圧2.0Vまでの秒数が2秒となるときの出力値(低温低SOC出力)を求める。
上記低温低SOC出力の測定結果を、表2および図9に示す。図9中、I群のプロットは、図6に示す焼成パターン(焼成パターンI)により製造された正極活物質サンプルP1〜P4を用いた試験用電池についての測定結果である。II群のプロットは、図7に示す焼成パターン(焼成パターンII)により製造された正極活物質サンプルP5〜P8を用いた試験用電池についての測定結果である。III群のプロットは、図8に示す焼成パターン(焼成パターンIII)により製造された正極活物質サンプルP9〜P11を用いた試験用電池についての測定結果である。なお、表2には、表1に示した半値幅比(A/B)およびLi−CO化合物量を再度掲載している。
Figure 2013143358
Figure 2013143358
これらの図表に示されるように、第一焼成段階および第二焼成段階を有する焼成パターンI(図6)を適用した正極活物質サンプルP1〜P4は、いずれも、(003)面/(104)面の半値幅比が(A/B)0.4〜0.7(より詳しくは、0.4以上0.7未満)であり、かつLi−CO化合物含有量0.2質量%以下を満たすものであった。これらの正極活物質サンプルP1〜P4を用いた試験用電池によると、上記評価条件において100W以上という優れた低温低SOC出力が実現された。
これに対して、第二焼成段階を有しない焼成パターンを適用した正極活物質サンプルP5〜P11のうち、半値幅比(A/B)が0.4〜0.7を満たすように焼成時間を設定したサンプルP5〜P8は、Li−CO化合物の含有量が0.2質量%を大きく上回るものであった。また、Li−CO化合物の含有量が0.2質量%以下となるように焼成時間を設定したサンプルP8〜P11は、半値幅比(A/B)が0.7を大きく上回るものであった。そして、これらのサンプルP5〜P11を用いた評価用電池の低温低SOC出力は、いずれも、サンプルP1〜P4を用いた評価用電池よりも明らかに低かった。
以上、本発明を詳細に説明したが、上記実施形態は例示にすぎず、ここで開示される発明には上述の具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
ここに開示される技術により提供されるリチウム二次電池は、上記のように優れた性能を示すことから、各種用途向けのリチウム二次電池として利用可能である。例えば、自動車等の車両に搭載されるモータ(電動機)用電源として好適である。かかるリチウム二次電池は、それらの複数個を直列および/または並列に接続してなる組電池の形態で使用されてもよい。したがって、ここに開示される技術によると、図10に模式的に示すように、かかるリチウム二次電池(組電池の形態であり得る。)100を電源として備える車両(典型的には自動車、特にハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車のような電動機を備える自動車)1が提供され得る。
1 車両
10 電池ケース
12 開口部
14 蓋体
20 捲回電極体
30 正極シート(正極)
32 正極集電体
34 正極活物質層
38 正極端子
40 負極シート(負極)
42 負極集電体
44 負極活物質層
48 負極端子
50 セパレータ
90 非水電解液
100 リチウムイオン二次電池(リチウム二次電池)
110 正極活物質粒子(正極活物質)
112 一次粒子
115 殻部
115a 殻部の内側面
115b 殻部の外側面
116 中空部
118 貫通孔

Claims (11)

  1. 正極および負極を備えたリチウム二次電池であって、
    前記正極は、殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造の正極活物質を備え、
    前記正極活物質は、以下の条件:
    層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、該リチウム遷移金属酸化物はNi,CoおよびMnのうち少なくとも一種の金属元素Mを含有する;
    CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下である;および、
    LiとCOとを含む化合物の含有量が0.2質量%以下である;
    を満たす、リチウム二次電池。
  2. 前記正極活物質に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTに対する、前記正極活物質に含まれるリチウムのモル数mLiの比(mLi/mMT)が1.10以上である、請求項1に記載のリチウム二次電池。
  3. 前記正極活物質は、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素Mをさらに含み、
    前記正極活物質に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTをモル百分率で100モル%としたとき、前記Mの含有量mMAが0.05モル%〜1モル%である、請求項1または2に記載のリチウム二次電池。
  4. 前記リチウム遷移金属酸化物は、前記MとしてNi,CoおよびMnを含む、請求項1から3のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
  5. 前記正極活物質は、前記殻部を貫通する貫通孔を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
  6. 車両の駆動用電源として用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載のリチウム二次電池。
  7. 正極活物質を製造する方法であって、
    該正極活物質は、以下の条件:
    殻部とその内部に形成された中空部とを有する中空構造を備える;
    層状の結晶構造を有するリチウム遷移金属酸化物を含み、該リチウム遷移金属酸化物はNi,CoおよびMnのうち少なくとも一種の金属元素Mを含有する;
    CuKα線を用いた粉末X線回折パターンにおいて、(003)面により得られる回折ピークの半値幅Aと、(104)面により得られる回折ピークの半値幅Bとの比(A/B)が0.7以下である;および、
    LiとCOとを含む化合物の含有量が0.2質量%以下である;
    を満たし、
    その正極活物質製造方法は:
    (a)前記Mを含む前駆体水酸化物を準備する前駆体水酸化物準備工程;
    (b)前記前駆体水酸化物とリチウム化合物とを混合して未焼成の混合物を調製する混合工程;および、
    (c)前記混合物を焼成して前記正極活物質を得る焼成工程;
    を包含し、
    前記焼成工程(c)は:
    (c1)前記混合物を、最高焼成温度850℃〜950℃の条件で、該最高焼成温度に1時間〜12時間保持する第一焼成段階;および、
    (c2)前記第一焼成段階の結果物を、最高焼成温度650℃〜800℃の条件で、該最高焼成温度に1時間〜12時間保持する第二焼成段階;
    を含む、正極活物質製造方法。
  8. 前記混合工程(b)では、Ni,CoおよびMnの合計モル数mMTに対するリチウムのモル数mLiの比(mLi/mMT)が1.10以上の前記未焼成混合物を調製する、請求項7に記載の方法。
  9. 前記前駆体水酸化物は、W,CrおよびMoから選択される少なくとも一種の金属元素Mをさらに含み、該水酸化物に含まれるNi,CoおよびMnの合計モル数mMTをモル百分率で100モル%としたとき、前記Mの含有量mMAが0.05モル%〜1モル%である、請求項7または8に記載の方法。
  10. 前記前駆体水酸化物準備工程(a)は、
    (a1)アルカリ性条件下において、前記Mを含む水溶液から前記水酸化物を析出させる核生成段階と、
    (a2)前記水溶液を前記核生成段階よりもpHの低いアルカリ性に維持しつつ、前記析出した水酸化物を成長させる粒子成長段階と、
    を含む水酸化物生成工程を備える、請求項7から9のいずれか一項に記載の方法。
  11. 請求項7から10のいずれか一項に記載の方法により製造された正極活物質。
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