断面積の大きなセグメントコイルを採用することにより、大きな電流を流すことが可能になり、電動機等において大きな出力を得ることが可能になる。一方、コイルの断面積が大きくなり、また流れる電流も大きく設定されることから、上記セグメントコイルには、渦電流や磁束漏れが生じやすい。
特に、回転子に対向して配置される半径方向最内側に配置される巻線には、回転子からの磁力が直接作用するとともに、回転子に設けた永久磁石に対向する面積が大きいため、渦電流や磁束漏れが生じやすい。渦電流や磁束漏れが生じると、電動機の損失が増大して、効率が低下することになる。
従来の巻線を用いたコイルでは、巻線を複数の素線から構成して巻回すことにより、上記問題を緩和する手法が採用されていた。
一方、複数の素線からセグメントコイルを形成する場合、各素線に形成された絶縁被覆層や各素線を接着するための接着剤層を設ける必要が生じる。このため、セグメントコイルを分割線から構成すると、スロット内のコイル断面積が減少して、占積率が低下してしまうことになる。
また、曲げ加工された複数の素線を組み付けて一つのセグメントコイルを形成するには、各素線の曲げ加工に極めて高い加工精度が要求される。しかも、各素線を組み付けてセグメントコイルを形成するための工程等が増加して、製造コストの大幅な増加につながることにもなる。
上記セグメントコイルには、隣接するセグメントコイルとの間や、コアとの間の絶縁を行うための絶縁被覆層が設けられている。上記絶縁被覆層は、上記各部材間において部分放電が生じないように構成する必要がある。上記部分放電は、電圧差が大きくなる部分において生じやすい。たとえば、3相交流電動機のステータにセグメントコイルを採用した場合、異なる相に属するセグメントコイル間における電圧差が最も大きくなる。したがって、異なる相に属するセグメントコイルが近接あるいは接触する部分において部分放電が生じやすい。
従来のセグメントコイルにおいては、異なる相に属するセグメントコイル間の電圧差に対応できる絶縁被覆層を、セグメントコイルの全域に設けることにより、部分放電を防止するように構成されていた。
ところが、同じ相に属するセグメントコイルが対接する部位や、コアとセグメントコイルとが対接する部位における電圧差は小さく、大きな電圧差に対応できる厚みの大きな絶縁被覆層を設ける必要はない。従来のセグメントコイルにおいては、異なる相に属するコイル間の電圧差に対応できる絶縁被覆層がコイルの全域に設けられているため、スロット内の占積率が低下して、電動機の大型化や発熱量の増加につながるといった問題があった。
占積率を高めるため、比誘電率が低く絶縁性能が高い高価な絶縁材料を用いて、セグメントコイルの全体に、厚みの小さい絶縁被覆層を形成することも考えられるが、製造コストの増加につながることになる。
ステータを構成するには、複数種類の形態を備えるセグメントコイルが準備され、これらセグメントコイルを所定のスロットに所定の順序で装着して組み付けた後、これらセグメントコイルが一体的なコイルを構成するように、各セグメントコイルの接続部を接続しなければならない。
ところが、上記セグメントコイルの装着作業及び接続作業は面倒である。しかも、多数のセグメントコイルを密集した状態で組み付ける必要があるため、各セグメントコイル及び接続すべき接続部を識別するのが困難である。このため、組み付け間違いや、接続間違いが生じやすい。
しかも、各セグメントコイルは、密集して設けられているため、組み付け後や接続後に、組み付け間違いや、接続間違いを検査するのも困難であり、非常に手間がかかる。
このようなセグメントコイルを用いてなるステータは、複数のセグメントコイルをステータのスロット内に整列配置させた後に、隣接するセグメントコイルの端部同士を、アーク溶接等を用いて接合させることで形成されるものが一般的である。
ところが、相互に接合させるセグメントコイルの端部を1組毎に接合していく構成であることから、作業性が悪いという問題があった。また、相互に接合させるセグメントコイルの端部を環状コアの半径方向に加圧しながら接合させる構成であることから、加圧方向のスペースが狭く、治具の位置決め精度が厳しいと共に、作業性が悪いという問題があった。
本願発明は、磁束漏れや渦電流の発生を効果的に防止することができ、電動機等の効率を高めることができるセグメントコイルを提供することを課題とする。
また、本願発明は、コイルの断面積を大きく設定して大電流を流せるとともに部分放電を防止することができ、また占積率を高めて、電動機の性能を向上させることができるセグメントコイルを提供することを課題とする。
また、本願発明は、多数のセグメントコイルを容易に識別して各セグメントコイルが装着されるべき所定のスロットに装着できるとともに、接続すべき接続部を容易に識別して接続を行うことができるセグメントコイル等を提供することを課題とする。
また、本願発明は、環状コアのスロットに整列配置されるセグメントコイルにおいて、隣接するセグメントコイルの効率的な接合を実現可能とすると共に、特にコイルエンド部において絶縁被膜に劣化が生じることを効果的に防止することができるセグメントコイル等を提供することを課題とする。
本願発明は、環状のコアと複数層の平角線コイルを備えて構成される回転電機のステータにおいて、上記環状コアの内周部に形成されたスロットの半径方向最内周側に装着されて回転子に対向させられるセグメントコイルであって、上記環状コアの周方向に分割された複数の分割線から構成されているとともに、上記複数の分割線が、上記スロットから延出するコイルエンド部において一体的に接合されているセグメントコイルに係るものである。
コイルに生じる渦電流や磁束漏れは、回転子の永久磁石の影響を直接受ける半径方向最内側のセグメントコイルに生じやすい。本願発明では、各スロット内において環状コアの半径方向最内側に装着されて回転子に対向させられるセグメントコイルを複数の分割線から構成するため、上記渦電流や磁束漏れを効果的に防止できる。
一方、上記半径方向最内側に配置されるセグメントコイル以外のセグメントコイルは、分割線から構成されていないため、コイルの断面積が減少することがなく、大電流を流すことができる。これにより、渦電流や磁束漏れを効果的に低減させることができるとともに、大電流を流すことのできるコイルを構成できる。
また、上記分割線は、上記スロットから延出するコイルエンド部において一体的に接合されている。この構成によって、スロット内において、上記分割線を接合するための接着剤層を設ける必要がなくなる。このため、スロット内における各分割線の断面積を大きく設定することが可能となり、また占積率も大きくなる。
しかも、半径方向最内側に配置されるセグメントコイルのみ分割線から構成すればよいため、ステータの製造コストや製造工程が大きく増加することもない。
また、渦電流は、回転子に対向する面積が大きいほど生じやすい。このため、上記各分割線を、上記回転子に対向する辺が短辺となる矩形断面を備えるように形成することにより、渦電流の発生を効果的に防止することができる。
上記セグメントコイルが巻き回されるティース部に対して、ステータの半径方向中心側から見たとき、少なくとも最内周側に配置される分割線を含む内周側分割線が、外周側に配置される分割線の抵抗率より大きな抵抗率を備える材料から上記セグメントコイルを形成するのが好ましい。
渦電流や磁束漏れは、コアのティース部の外周側に配置される巻線において生じやすい。一方、抵抗率の高い材料ほど、渦電流や磁束漏れの発生が少ない。このため、抵抗率の高い材料から形成された分割線を、渦電流や磁束漏れが発生しやすいティース部に対接する最内周側に配置することにより、渦電流や磁束漏れを効果的に低減させることができる。一方、本願発明では、分割線から構成されたセグメントコイルは環状コアの半径方向最内側に装着されて、回転子に対向させられる。各分割線の外面は回転子の回転する空間に面しているため、半径方向中間部に配置されるセグメントコイルに比べて温度上昇が小さい。したがって、内周側の分割線を抵抗率の高い材料を用いて形成して、これら分割線から構成されるセグメントコイルの抵抗が若干大きくなっても問題となることはほとんどない。
抵抗率の高い材料から形成された分割線は、少なくとも最内周側に配置される分割線を含む内周側分割線に採用することができる。たとえば、セグメントコイルを2本の分割線から構成する場合、ティース部に隣接して配置される内周側の分割線を、外周側に配置される分割線を形成する材料より抵抗率が大きな材料から形成することができる。また、セグメントコイルを3本の分割線から構成する場合、ティース部側に配置される内周側2本の分割線を外周側に配置される分割線を形成する材料より抵抗率が大きな材料から形成することができる。これにより、分割線から構成されるセグメントコイルにおける渦電流や磁束漏れの発生をより効果的に防止することができる。
各分割線をコイルエンド部において接合する手法は、特に限定されることはなく、種々の絶縁性樹脂材料を介して接合することができる。たとえば、上記絶縁性樹脂材料として、絶縁性接着剤、絶縁性樹脂テープ材又は絶縁性樹脂チューブ材を採用できる。また、粘着剤層を備えるテープ材や熱収縮性チューブ材を採用できる。
各分割線の接合強度を確保するには、曲げ加工が施されていない部分又は大きな曲率半径で曲げ加工された部分の所定領域において上記分割線を接合するのが好ましい。たとえば、上記コイルエンド部を山形状に形成し、上記複数の分割線を、上記山形の頂部近傍と両裾部近傍とを除く斜辺部において、又は/及び上記スロットから延出するストレート部において接合するのが好ましい。たとえば、コイルエンド部を山形に形成した場合、山形の頂部近傍や、山形斜辺から上記スロットに収容されるストレート部に移行する山形の裾部近傍では、各分割線の矩形断面における長辺の0.5〜3倍の曲率半径の曲げ加工が施される。一方、上記山形の頂部近傍と両裾部近傍とを除く斜辺部は、各分割線の矩形断面における長辺の20〜60倍の曲率半径の曲げ加工が施される。また、スロットから延出したところのストレート部には、曲げ加工が施されていない。したがって、上記山形の頂部近傍と両裾部近傍とを除く斜辺部、及び/又は上記ストレートにおいて接合するのが好ましい。なお、上記斜辺部に、ステータの周方向に沿う所定の曲げ加工を施すことができる。上記周方向に沿う曲げ加工として、たとえば、斜辺部が1又は2以上の個所で屈曲されて略折れ線状となる曲げ加工や、曲率半径の中心や曲率が変化する曲げ加工を施すことができる。
上記構成を採用することにより、上記絶縁性樹脂テープ材又は絶縁性樹脂チューブ材によって接合した状態で曲げ加工を行い、上記絶縁性樹脂テープ材又は絶縁性樹脂チューブ材を接合材料として、そのままセグメントコイルとして組み付けることができる。このため、製造工程を削減できるとともに、製造コストを低減させることができる。また、樹脂射出成形を利用して分割線を接合することもできる。
上記セグメントコイルを、コイルのほぼ全域に形成される第1の絶縁被覆層と、上記第1の絶縁被覆層の所定部位に積層形成される第2の絶縁被覆層とを備えて構成するとともに、異なる相に属するセグメントコイルが対接する部分に、上記第2の絶縁被覆層を設けるのが好ましい。
たとえば、3相交流電動機においては、異なる相に属するセグメントコイル間の電圧差が最も大きくなる。一方、コアとセグメントコイル間の電圧差は、異なる相に属するセグメントコイル間の電圧差より小さくなり、さらに、同じ相に属するセグメントコイル間の電圧差は、上記コアとセグメントコイル間の電圧差よりさらに小さくなる。
本願発明では、異なる相に属するセグメントコイルが対接する部分に、上記第2の絶縁被覆層を設けることにより、隣接するコイルあるいはコアとの間の電圧差に応じて、絶縁被覆層の厚みを異ならせることができる。これにより、信頼性を低下させることなく部分放電を効率的に防止することができる。しかも、絶縁被覆層の平均的な厚みを減少させることができるため、軽量化を図ることもできる。また、製造コストを低減させることもできる。上記第2の絶縁被覆層を、各セグメントコイルのステータの半径方向内方面及び/又は外方面に形成することができる。すなわち、隣接するセグメントコイルが対接する対接面にのみ設けることもできる。この構成を採用することにより、第2の絶縁被覆層を設ける領域をさらに削減することが可能となる。
上記第2の絶縁被覆層の厚みは、対接させられるセグメントコイル間の電圧差や位置関係に基づいて、部分放電を防止できる厚みに形成されていればよく、特に限定されることはない。
上記第1の絶縁被覆層及び第2の絶縁被覆層を形成する手法も特に限定されることはない。たとえば、粉体塗装や電着塗装の手法で各絶縁被覆層を形成することができる。
上記第1の絶縁被覆層として、曲げ加工を行うことができる絶縁被覆層を設けるのが好ましい。これにより、第1の絶縁被覆層を備えた状態で曲げ加工を行い、その後、隣接するセグメントコイル等との電圧差が大きくなる部分に、第2の絶縁被覆層を設けることができる。この手法により、厚みの異なる絶縁被覆層を容易に形成することができる。
上記分割線を互いに接合する絶縁性樹脂材料を用いて上記第2の絶縁被覆層を構成することができる。すなわち、上記絶縁性樹脂材料として採用される、上記絶縁性接着剤、上記絶縁性樹脂テープ材及び上記絶縁性樹脂チューブ材によって、上記第2の絶縁被覆層を構成できる。上記第2の絶縁被覆層を、接合された上記複数の分割線の周囲を取り囲むように構成することもできる。この構成により、各分割線の接合強度を上記第2の絶縁被覆層を利用して高めることができる。なお、上記絶縁性接着剤を用いる場合は、ステータの半径方向内方面及び外方面を含む領域に上記第2の絶縁被覆層を設けることもできる。
同一のスロットには、同じ相に属するセグメントコイルが装着されるため、異なる相に属するセグメントコイルが対接させられるのはコイルエンド部である。したがって、コイルエンド部において部分放電が生じやすくなる。上記コイルエンド部を、中央部を頂点とする略山形状に形成し、上記セグメントコイルの上記略山形状の一方の斜辺部に、上記セグメントコイルに隣接して配置されるセグメントコイルの他方の斜辺部が対接させられる第2の絶縁被覆層を形成するのが好ましい。
ステータに組み付けられるセグメントコイルは、コイルエンド部において、半径方向において隣接するセグメントコイルと対接させられることになる。そして、セグメントコイルの各コイルエンド部形状を、中央を頂点とする略山状に設定すると、一のセグメントコイルにおける山形状の一方の斜辺部に対して、この一のセグメントコイルに隣接するセグメントコイルにおける山形状の他方の斜辺部を交差するように対接させることができる。すなわち、一のセグメントコイルの一方の斜辺部に対して、隣接するセグメントコイルの他方の斜辺部を対接させることができる。
上記構成を採用すると、各セグメントコイルの山形状をしたコイルエンド部の一方の斜辺部に第2の絶縁被覆層を設けておけば、対接するセグメントコイル間に第2の絶縁被覆層を形成できる。これにより、コイルエンド部において互いに対接するセグメントコイル間に、部分放電を効果的に防止できる第2の絶縁被覆層を設けることが可能となる。
しかも、本願発明では、対接する一方の側のセグメントコイルにのみ第2の絶縁被覆層を設けることができる。このため、ステータを構成するコイル全体として、第2の絶縁被覆層を設ける領域を小さく設定することが可能となる。また、効率よく部分放電を防止できるとともに、第2の絶縁被覆層を設けるために必要な材料を削減して製造コストを低減させ、さらに、電動機の重量を削減することもできる。
上記セグメントコイルを、所定領域の表面に着色識別部を設けて構成するのが好ましい。
上記着色識別部は、ステータの組み立て工程において用いられる識別標識であり、セグメントコイルを識別して行われる所要の組み立て作業に利用することができるように構成される。
たとえば、互いに接続されるセグメントコイルの接続部を識別できる第1の着色識別部を、上記接続部又はその近傍に設けることができる。
上記第1の着色識別部は、環状コアの所定のスロットに装着された各セグメントコイルの接続部を接続する工程において、互いに接続される接続部を識別して接続間違いを防止するために設けられるものである。
上記第1の着色識別部の構成や形態は特に限定されることはない。たとえば、互いに接続されるセグメントコイルの接続部又はその近傍に同一色で着色された着色識別部を設けることができる。また、着色識別部を設ける部位も特に限定されることはなく、接続作業の際に接続部を識別できるように、接続部又はその近傍に設けることができる。
また、組み立て終了後に外部から識別できる部位に形成しておくことにより、上記第1の着色識別部を画像認識して、接続間違いの有無を検査することが可能となる。
接続部に第1の着色識別部を設ける場合、接続面以外の部位に形成するのが望ましい。たとえば、上記第1の着色識別部を、上記接続部のコイル端面に形成することができる。
上記コイル端面は、ステータの外方から確実に目視等できる部位であり、第1の着色識別部をコイル端面に設けることにより、互いに接続すべきセグメントコイルの接続部を確実に識別して、接続作業を行うことができる。また、組み立て終了後に、CCDカメラ等を用いて接続部を拡大して検査することも可能となる。さらに、画像認識によって自動で検査を行うこともできる。
上記着色識別部を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、上記第1の着色識別部を、着色塗料を塗着し、又は着色テープ材を貼着することにより形成することができる。
着色塗料は種々の樹脂塗料を用いることができる。また、着色テープ材として種々の材料から形成されたものを採用することができる。さらに、粘着剤層あるいは接着剤層を有する着色テープ材を採用するのが好ましい。なお、コイル端面に第1の着色識別部を設ける場合、各コイルの端面を平坦に加工しておくのが好ましい。
また、上記第1の着色識別部を、上記コイルエンド部に、着色キャップを設けて構成することができる。接続部は、絶縁被覆層を除去することにより導体が露出させられているため、上記着色キャップを設けることにより、露出された導体表面を保護する機能を発揮させることもできる。
上記着色キャップは、接続部の全体を覆うように形成して接続前に取り外すように構成することもできるし、接続面以外の部位を覆うように形成して、着色キャップを装着したまま接続作業を行えるように構成することもできる。
上記着色キャップを形成する材料は特に限定されることはなく、着色した種々の樹脂材料から成形したものや、金属材料から形成されたものに着色を施したものを採用することができる。
上記着色識別部として、各セグメントコイルが装着されるスロット又は/及びスロット内の配列位置を識別できるように形成された第2の着色識別部を設けることができる。上記第2の着色識別部は、上記第1の着色識別部とは別に、セグメントコイルの上記接続部以外の表面に設けられる。
上記第2の着色識別部は、複数種類のセグメントコイルをコアに装着する工程において、所定のセグメントコイルを所定のスロットに装着し、また、各スロットに装着されるセグメントコイルの配列位置を識別するために用いることができる。
上記第2の着色識別部を設けることにより、所定のセグメントコイルを所定のスロットに容易に装着することができる。また、各スロット内における配列順序を容易に確認することができる。なお、所定のセグメントコイルを所定のスロットに装着するために設けられる第2の着色識別部と、上記各スロット内における配列順序を識別する第2の着色識別部とを、兼用するように形成することもできるし、別途の部位に独立した着色識別部として設けることもできる。
所定のセグメントコイルを所定のスロットに装着するために設けられる第2の着色識別部は、たとえば、収容されるスロットごとに同一の色彩を有するように形成することができる。また、各スロットに装着されるセグメントコイルの配列位置を認識するには、たとえば、同じ色彩で、配列順に濃度が変化する着色を施した第2の着色識別部を設けることができる。
上記第2の着色識別部の構成及び形態も特に限定されることはない。上記第2の着色識別部を、セグメントコイルの所定領域に、着色塗料を塗着し、着色テープ材を貼着し、又は着色チューブ材を装着して構成することができる。上記第2の着色識別部は、コイルエンド部の全領域に着色を施すことにより設けることもできるし、一部の領域に着色を施すことにより設けることもできる。また、上記第2の着色識別部は、少なくともコイルエンド部に設けられていればよい。さらに、各セグメントコイルの絶縁被覆層の全体に着色を施して、上記第2の着色識別部とすることもできる。
上記第2の着色識別部を、隣接して配置されるセグメントコイルとの部分放電を防止する上記第2の絶縁被覆層として設けることができる。
コイルエンド部においては、異なる相に属するセグメントコイルが近接し、あるいは接触して配列されるため、これらコイル間で部分放電が生じやすい。部分放電が生じると、絶縁被覆層が傷み、コイル間で短絡が生じる危険性がある。上記第2の着色識別部を、上記部分放電を防止できる上記第2の絶縁被覆層を兼用するように構成することにより、ステータの組み立て作業が容易になるばかりでなく、ステータの信頼性を向上させることもできる。
部分放電を防止するための第2の着色識別部の構成や形態は特に限定されることはない。部分放電を効果的に防止するには、たとえば、絶縁性の樹脂からなる塗料を20〜200μmの厚みで塗着することにより、所要の部分放電電圧を確保することが可能となる。厚みが20μm以下の場合、近接するコイル間において部分放電が生じる恐れがあるとともに、所要の被膜強度を確保できない。一方、厚みが200μm以上になると、コイルの装着スペースを確保するのが困難になる。
また、絶縁性樹脂テープ材や絶縁性樹脂チューブ材を用いて、第2の絶縁被覆層を兼ねる第2の着色識別部を形成することができる。部分放電防止効果を有する上記着色テープ材として、パーマセル社製の絶縁性樹脂テープ材(商標名カプトンテープ)等を採用できる。また、着色チューブ材として、住友電気工業製の絶縁性樹脂チューブ材(商標名スミチューブ)を採用することができる。
セグメントコイルの先端部に、他のセグメントコイルとの接続を行う接合面を設けた接続部を備えて上記セグメントコイルを構成し、上記接続部を、上記接合面がステータの半径方向に対して平行となるように構成するのが好ましい。上記接合面を備えていれば、上記接合部の形態及び形成手法は限定されることはない。たとえば、コイル先端部を鍛造、ねじり等の塑性加工を施すことにより上記接合面を形成することができる。
上記接合面が前記環状コアの半径方向に対して平行となるように構成してあることから、複数のセグメントコイルを環状コアに整列配置させた際に、接合用面の加圧方向を環状コアの周方向にとることができる。このため、隣接するスロット間に形成される空間(隙間)を有効に利用して接合部の接合を行うことができる。従って、接合面の加圧方向に十分なスペースを確保することができ、接合部の接合工程の作業性を向上させることができる。また、隣接するセグメントコイルの効率的な接合を実現することができる。さらに、上記接合面を環状コアの半径方向に対して平行となるように構成することで、複数のセグメントコイルを環状コアに整列配置させた際に、隣接するスロット間に形成される空間(隙間)を効果的に増大させることができ、放熱性の良いステータを形成することができる。
上記セグメントコイルを、上記接合部が、上記環状コアのスロットにセグメントコイルを整列配置させた際に、隣接する接合部が上記環状コアの半径方向の内径側と外径側とにズレを持って配置されるように構成することができる。
上記構成の接合部を設けることにより、複数のセグメントコイルを環状コアに整列配置させるだけで、同一スロット内に配置される複数のセグメントコイルにおいて、相互に接合される接合面を対向させた状態で配置することができる。また、上記接合面は環状コアの半径方向に対して平行であることから、相互に接合される複数組の接合部の接合面を環状コアの半径方向に一列に配置することができる。このため、複数組の接合部の接合を同時に行うことができる。したがって、複数組の接合部の多点同時接合が可能となる。これにより、接合工程の作業性を向上させることができ、隣接するセグメントコイルの効率的な接合を可能とすることができる。
本願発明に係るセグメントコイルは、上記分割線を構成する複数の素線を、コイルエンド部形成部位においてテープ材又はチューブ材によって接合する結束工程と、上記接合した部位以外の部位において、上記一体化された複数の素線を一体的に曲げ加工する曲げ加工工程とを含んで製造することができる。
複数の分割線を別個に曲げ加工すると、工程が大幅に増加する。また、各分割線は、一体的に接合されるため、各分割線を別途曲げ加工する場合、非常に高い寸法精度が要求される。
あらかじめテープ材で結束した複数の素線に対して、一体的に曲げ加工を施すことにより、分割線からなるセグメントコイルの工程を大幅に削減することができる。
テープ材あるいはチューブ材を設けた部位で曲げ加工を行うと、テープ材が破損したり、結束力が低下する恐れがある。このため、上記結束した部位以外の部位において、上記一体化された複数の素線を一体的に曲げ加工するのが好ましい。
上記テープ材は、結束した素線に曲げ加工を施すことができれば、特に限定されることはない。たとえば、上記結束工程において、絶縁性樹脂から形成された上記テープ材又は上記チューブ材によって、上記分割線から構成されるセグメントコイルを結束して曲げ加工を行った後、そのまま環状コアに組み付けることもできる。これにより、上記テープ材又は上記チューブ材によって分割線を結束接合した状態で、セグメントコイルを構成することができる。
一方、曲げ加工を行うためのテープ材を採用した場合、曲げ加工工程の後に、上記分割線をコイルエンド部において接着剤により接合する接合工程を含むように構成することができる。この場合、上記テープ材を除去する工程を行うこともできる。
本願発明に係るセグメントコイルは、上記複数の分割線が、絶縁性樹脂材料によって、コイルエンド部となる部分において、一体的に接合されているセグメントコイル用線材から形成することができる。
絶縁性樹脂材料として、絶縁性接着剤、絶縁性樹脂テープ材又は絶縁性樹脂チューブ材を採用できる。
また、上記線材として、両端部に設けた接続部を除く外周に絶縁被覆層を備えるとともに、上記接続部の線材端面及び/又は上記絶縁被覆層の所定領域の表面に、着色識別部が設けられているものを採用することができる。
本願発明に係るセグメントコイルは、種々の形態のステータに適用することができる。
上記ステータを、隣接するセグメントコイルの上記接合部を固相接合して構成することができる。
隣接するセグメントコイルの接合部を固相接合することにより、製造効率が良いステータとすることができる。また、固相接合では発熱量が少ないため、熱的影響も少ない。このため、耐熱性の低い安価な導体や絶縁被覆材料を使用することが可能になる。
たとえば、上記固相接合として、超音波接合を採用することにより、さらに製造効率の良いステータとすることができる。
渦電流や磁束漏れの発生を効果的に防止できるステータを構成できる。
以下、本願発明の実施形態を図に基づいて具体的に説明する。
図1は、本願発明に係るセグメントコイル4,5をステータの環状コア2に装着した状態を示す要部斜視図である。また、図2は、本願発明に係るセグメントコイル4,5の一形態を示す部分斜視図である。
上記環状コア2は磁性材料から形成された厚肉環状構造を備えており、内周部に軸方向に貫通するとともに内周面に開口するスロット3が所定間隔で形成されている。なお、本実施形態では、理解を容易にするため、スロット3の一部にセグメントコイル4,5を装着した状態を示している。
上記スロット3は、セグメントコイル4,5の幅にほぼ対応して形成されており、セグメントコイル4,5のストレート部Cを上記スロット3に収容することにより、セグメントコイル4,5が環状コア2に組み付けられる。
上記環状コア2を構成する材料は特に限定されることはない。たとえば、磁性粉体を圧粉成形して形成されたコアや、磁性鋼板を積層して形成されるコアを採用することができる。
たとえば、3相誘導電動機においては、U相、V相及びW相にグループ分けされたそれぞれ複数のセグメントコイルが、上記スロットに所定間隔で組み付けられる。
図2に示すように、上記セグメントコイル4,5は、上記スロット3に収容される一対のストレート部Cと、上記スロット3の軸方向両端部から延出させられるとともに山形形状を備える一対のコイルエンド部E1とを備えて構成される。なお、図示しない下方のコイルエンド部は、図示しない所要のパターンに応じて曲折されるとともに、隣接するセグメントコイルとの接続を行う接続部が設けられている。
上記セグメントコイル4,5には、上記接続部を除く外周の全域に第1の絶縁被覆層が形成されており、隣接するセグメントコイルやコアとの間の絶縁性を確保できるように構成されている。
図2及び図3に示すように、本実施形態ではセグメントコイルを、環状コア2の内周部に形成されたスロット3内で半径方向に複数層配列して構成されており、上記スロット3の半径方向最内側に装着されて回転子に対向させられるセグメントコイル4a,5aを上記スロット3の周方向に分割された3本の分割線11,12,13を備えて構成している。なお、図3には、スロットの全域にセグメントコイル4a〜4f,5a〜5fを装着した状態を示している。
渦電流や磁束漏れは、回転子に用いられている永久磁石の影響を直接受ける環状コア2の半径方向最内側のセグメントコイルに生じやすい。本願発明では、スロット3の半径方向最内側に装着されて回転子に対向させられるセグメントコイル4a,5aを複数の分割線11,12,13から構成しているため、上記渦電流や磁束漏れを効果的に防止できる。
一方、上記半径方向最内側に配置されるセグメントコイル4a,5a以外のセグメントコイル4b,4c,5b,5cは、分割線から構成されていないため、コイルの断面積が減少することがなく、大電流を流すことができる。これにより、渦電流や磁束漏れを効果的に低減させることができるとともに、大電流を流すことのできるコイルを構成できる。
本実施形態では、上記分割線11,12,13は、上記スロット3から延出するコイルエンド部E1において、絶縁性樹脂テープ材又は絶縁性樹脂チューブ材6によって一体的に結束接合されている。この構成によって、スロット3内においては、上記分割線11,12,13を接合するための接着剤層を設ける必要がなくなる。このため、スロット3内における各分割線11,12,13の断面積を大きく設定することが可能となり、また占積率も大きくなる。
上記絶縁性樹脂テープ材又は絶縁性樹脂チューブ材6として種々の材料を採用することができる。たとえば、住友電気工業製の絶縁性樹脂チューブ材(商標名スミチューブ)等の熱収縮性チューブや、パーマセル社製の絶縁性樹脂テープ材(商標名カプトンテープ)を採用することができる。
なお、上記絶縁性樹脂テープ材又は絶縁性樹脂チューブ材6を用いないで、接着剤によって分割線を接合することもできる。上記接着剤として、エポキシ樹脂等の絶縁性樹脂接着剤を採用することができる。また、樹脂射出成形を用いて分割線を接合することもできる。
また、本実施形態では、上記絶縁性樹脂テープ材又は上記絶縁性樹脂チューブ材6は、上記ステータの半径方向外側に配置されるセグメントコイル4b,5bに対する第2の絶縁被覆層を構成している。すなわち、上記絶縁性樹脂テープ材又は上記絶縁性樹脂チューブ材6を、コイルエンド部E1において隣接あるいは近接するコイル間の距離を大きく設定できるように配置することにより、これらコイル間の部分放電を防止する第2の絶縁被覆層として機能させることができる。部分放電を防止する上記第2の絶縁被覆層として機能させる材料として、電気絶縁性の樹脂材料のみならず、半導電性の材料から形成された接着剤、テープ材及びチューブ材を採用することができる。
本実施形態では、半径方向最内側に配置されるセグメントコイル4a,5aのみ分割線から構成しているため、製造コストや製造工程が大きく増加することもない。
上記セグメントコイル4a,5aを構成する分割線の分割形態も特に限定されることはない。たとえば、図4(a)に示す矩形断面を有するセグメトコイルを、図4(b)に示すように2分割し、図4(c)に示すように3分割し、あるいは図4(d)に示すように、4分割した形態を採用することができる。
セグメントコイルにおける渦電流は、回転子に対向する面積が大きいほど生じやすい。このため、図4(c)あるいは図4(d)に示すように、上記各分割線11,12,13,12b,12bを、上記回転子に対向する辺が短辺となる矩形断面を備えるように形成するのが好ましい。
また、渦電流や磁束漏れは、各セグメントコイル4a,5aが巻き回される各ティース部2aの壁面3aに対向する部分でも生じやすい。本願発明では、図3や図4(b)〜(d)に示す2以上の分割線から上記セグメントコイル4a,5aを構成しているため、これらセグメントコイル4a,5aが巻き回される各ティース部2aに対して、ステータの半径方向中心側から見て、最内周側の分割線11に渦電流や磁束漏れが生じやすくなる。
上記不都合を回避するため、上記複数の分割線から構成されるセグメントコイルにおいて、これら分割線が巻き回されるティース部2aに対して、ステータの半径方向中心側から見て、少なくとも最内周側に配置される分割線11を含む内周側分割線を、外周側に配置される分割線13の抵抗率より大きな抵抗率を備える材料から形成することができる。例えば、図3に示す実施形態において、各ティース部2a,2bに対して最内周側に配置される分割線11を、外周側に配置される分割線12,13を形成する材料の抵抗率より大きな抵抗率を備える材料から形成することができる。
抵抗率の高い材料ほど、渦電流や磁束漏れの発生が少ない。このため、抵抗率の高い材料から形成された分割線を、渦電流や磁束漏れが発生しやすいティース部2aに隣接する最内周側に配置することにより、渦電流や磁束漏れを効果的に低減させることができる。一方、本願発明では、分割線から構成されたセグメントコイルは環状コアの半径方向最内側に装着されて、回転子に対向させられる。各分割線の外面は回転子の回転する空間に面しているため、半径方向中間部に配置されるセグメントコイルに比べて温度上昇が小さい。したがって、内周側の分割線を抵抗率の高い材料を用いて形成して、これら分割線から構成されるセグメントコイルの抵抗が若干大きくなっても問題となることはほとんどない。
抵抗率の高い材料から形成された分割線は、少なくとも最内周側に配置される分割線11を含む内周側分割線に採用することができる。たとえば、図4(b)に示すように、セグメントコイルを2本の分割線11,13から構成する場合、ティース部2aに隣接して配置される内周側の分割線11を、外周側に配置される分割線13を形成する材料より抵抗率が大きな材料から形成することができる。また、図4(c)に示すように、セグメントコイルを3本の分割線11,12,13から構成する場合、ティース部側に配置される内周側2本の分割線11,12を外周側に配置される分割線13を形成する材料より抵抗率が大きな材料から形成することができる。これにより、分割線から構成されるセグメントコイルにおける渦電流や磁束漏れの発生をより効果的に防止することができる。
上記セグメントコイル4a,5aは、種々の手法によって製造することができる。たとえば、別個に曲げ加工した分割線を組み合わせて、上述した絶縁性樹脂テープ材6や接着剤によって一体的に接合することにより、セグメントコイル4a,5aを製造することができる。しかしながら、各分割線11,12,13を別個に曲げ加工するには、非常に高い加工精度が要求されるとともに、組み付け工程が増加する。
上記不都合を回避するため、各分割線を構成する素線11a,12a,13aを組み付けた後に、曲げ加工を施すのが好ましい。
図5(a)〜(d)に、セグメントコイルの製造方法の一実施形態を示す。
図5(a)に示すように、各分割線11,12,13に対応する所定の長さに切断された素線11a,12a,13aを絶縁性樹脂テープ材6によって結束する。上記結束は、曲げ加工が施されない部分あるいは大きな曲率半径で曲げ加工される領域において行われる。たとえば、上記複数の素線11a,12a,13aを、上記山形の頂部近傍と両裾部近傍とを除く斜辺部となる領域において、又は/及び上記スロットから延出するストレート部Cとなる領域において接合することができる。コイルエンド部E1を山形に形成した場合、山形の頂部近傍や、山形斜辺から上記スロット3に収容されるストレート部Cに移行する山形の裾部近傍では、各分割線の矩形断面における長辺の0.5〜3倍の曲率半径の曲げ加工が施される。一方、上記山形の頂部近傍と両裾部近傍とを除く斜辺部は、各分割線の矩形断面における長辺の20〜60倍の曲率半径の曲げ加工が施される。また、スロットから延出したところのストレート部Cには、曲げ加工が施されていない。したがって、上記山形の頂部近傍と両裾部近傍とを除く斜辺部、及び/又は上記ストレート部Cとなる領域において結束するのが好ましい。なお、図示はしないが、上記斜辺部に、ステータの周方向に沿う所定の曲げ加工が施される。上記ステータの周方向に沿う所定の曲げ加工の形態は特に限定されることはない。たとえば、斜辺部が1又は2以上の個所で屈曲されて略折れ線状となる曲げ加工や、曲率半径の中心や曲率が変化する曲げ加工を施すことができる。
次に、図5(b)に示すように、曲げ加工用治具21,22を結束された素線に適用して、素線中央部における曲げ加工が行われる。
また、図5(c)に示すように、曲げ加工用治具32,33によって、素線中間部の曲げ加工が行われ、さらに、図5(d)に示すように、曲げ加工用治具42,43によって、素線端部の曲げ加工が行われる。
上記各素線11a,12a,13aは、絶縁性樹脂テープ材6によって結束されているため、互いの対接面において摺動可能であり、これら3本の素線11a,12a,13aを一体的に曲げ加工することができる。
また、上記絶縁性樹脂テープ材6は、曲げ加工が施されない部位あるいは曲げ加工の曲率半径が大きい部位において各素線11a,12a,13aを結束しているため、絶縁性樹脂テープ材6が傷むことがない。
結束された3本の素線11a,12a,13aに対して一体的に曲げ加工を行うことにより、上記絶縁性樹脂テープ材6によって結束接合されたセグメントコイルを形成することができる。
なお、上記絶縁性樹脂テープ材6に変えて、曲げ加工用のテープ材を採用し、曲げ加工後に、コイルエンド部E1において、各分割線を、接着剤を用いて接合することもできる。この場合、加工用のテープ材は、必要に応じて除去することもできるし、そのまま付属させておくこともできる。
上記製造手法を採用することにより、分割線からなるセグメントコイルの工程を大幅に削減することができる。
図6〜図10に、本願発明の第2の実施形態を示す。なお、本実施形態に係るセグメントコイル201は、図示はしないが、第1の実施形態と同様に、3本の分割線から構成されている。
図1に示すようなステータ1の各スロット3に装着される代表的な形態のセグメントコイル201は、図6に示すように、上記スロット3に収容される一対のストレート部Cと、上記スロット3の軸方向両端部から延出させられるとともに山形状を備える一対のコイルエンド部E1,E2とを備える略6角形状に形成されている。コイルエンド部E2において同一のスロット3に装着された隣接するセグメントコイルが接続されるとともに、他のスロットに装着されたセグメントコイルとの接続が行われる。他のスロットに装着されたセグメントコイルとの接続を行うため、ステータの半径方向最内側及び最外側に装着されるセグメントコイルにおいては、接続パターンに応じて複数の形態を備えるコイルエンド部が設けられている。以下の説明は、理解を容易にするため、図6に示す形態のセグメントコイル201について行う。
一方のコイルエンド部E1は、所定のスロット3に収容された一対のストレート部Cを掛け渡し状に接続する山形状に形成されている。一方、他方のコイルエンド部E2には、スロットに3に隣接して収容されたセグメントコイルとの接続を行うための接続部205a,205bが設けられており、接続されたセグメントコイルのコイルエンド部と共働して山形形状が構成される。
図7及び図9に示すように、セグメントコイル201A〜201Eは、矩形断面を備える導電性の平角コイル材料206の上記接続部205a,205bを除く外周の全域に第1の絶縁被覆層207が形成されている。上記第1の絶縁被覆層207は、ポリイミド等の曲げ加工に耐える材料を用いて、5〜25μmの厚みで、コイル材料206の外周全域に均等な厚みで形成されている。
図6に示すように、本実施形態に係るセグメントコイル201における山形状に形成されたコイルエンド部E1,E2の一方の斜辺部210a,211aには、第2の絶縁被覆層212a,212b,212c,212d,214a,214b,214c,214dが形成されている。なお、上記第2の絶縁被覆層を設ける斜辺部は、反対側の斜辺部210b,
211bであってもよい。また、上下のコイルエンド部E1,E2において、異なる斜辺部に上記第2の絶縁被覆層を設けることができる。なお、一のコイルエンド部においては、各セグメントコイルの同一側の斜辺部に上記第2の絶縁被覆層が設けられる。上記第2の絶縁被覆層は、曲げ加工が施されていない部分又は大きな曲率半径で曲げ加工された部分の所定領域に形成するのが好ましい。たとえば、上記山形の頂部近傍と両裾部近傍とを除く斜辺部に形成するのが好ましい。
本実施形態に係る上記第2の絶縁被覆層212a,212b,212c,212d,214a,214b,214c,214dは、図9に示すように、上記第1の絶縁被覆層207の上に、絶縁性を有するポリアミドイミド樹脂塗着材を、所定厚みで所定幅の全周に積層塗着して形成されている。上記第2の絶縁被覆層212a,212b,212c,212d,214a,214b,214c,214dの厚みは特に限定されることはないが、たとえば、対接させられるセグメントコイル間の電圧差等に応じて50〜200μmの厚みで形成することができる。
本実施形態では、3相交流電動機の各相を構成するコイルのうち、図1に示すステータ1の半径方向最内周側と半径方向最外周側に配置されるセグメントコイルを含む各セグメントコイル201A〜201Dのコイルエンド部E1,E2における山形状の一方の斜辺部210a,211aに、4つのコイルが当接あるいは近接した状態で配列される。
図7は、一のセグメントコイル201Aと、このセグメントコイル201Aの一方の斜辺部210aに対接させられるセグメントコイル201B,201C,201D,201Eを注出して模式的に表した正面図である。
この図に示すように、一のセグメントコイル201Aの図面の左側斜辺部210aには、隣接する4つのセグメントコイル201B,201C,201D,201Eの各右側斜辺部210bが所定の間隔で交差するように対接させられる。
本実施形態では、上記一のセグメントコイル201Aの左側斜辺部210aにおいて、他のセグメントコイル201B,201C,201D,201Eが対接させられる部分に上記第2の絶縁被覆層212a〜212dが形成されている。
図8は、図7におけるVIII−VIII線に沿う断面図である。図8に示すように、本実施形態では、各セグメントコイルの山形状をしたコイルエンド部E1,E2の左側斜辺部210aに第2の絶縁被覆層212a,212b,212c,212dが設けられている。上記第2の絶縁被覆層212a,212b,212c,212dによって、対接するセグメントコイル201B,201C,201D,201Eとの間の隙間が拡大させられて、コイルエンド部E1において互いに対接するセグメントコイル間の部分放電を防止できる。
しかも、対接する一方の側のセグメントコイル201Aにのみ第2の絶縁被覆層212a〜212dが設けられている。このため、ステータを構成するコイル全体として、第2の絶縁被覆層212a〜212dを設ける領域を小さく設定することが可能となる。また、効率よく部分放電を防止できるとともに、第2の絶縁被覆層212a〜212dを設けるために必要な材料を削減して製造コストを低減させ、さらに、電動機の重量を削減することもできる。
スロット3に収容される部分には、第2の絶縁被覆層が形成されることがないため、スロット3内の導体の断面積を大きく設定することが可能となる。このため、上記スロット3内の占積率を高めることが可能となり、電動機の効率を高めることができる。
一方、ステータの半径方向最外側及び半径方向最内側に配置されるセグメントコイルは、上記半径方向の一方の側にのみ隣接するセグメントコイルが配置されるとともに、他のスロットに装着された同相のセグメントコイルと連結されるため、設計によって隣接するセグメントコイルに対接させられる部分が異なる。このため、ステータ1におけるセグメントコイルの構成等に応じて、他のセグメントコイルと対接する部分に第2の絶縁被覆層を設ければよい。
また、本実施形態では、上記第2の絶縁被覆層を、コイルエンド部E1,E2において対接するすべてのセグメントコイル間に設けたが、電圧差が大きい異なる相に属するセグメントコイルが対接する部分にのみ上記第2の絶縁被覆層を設けることもできる。これにより、第2の絶縁被覆層を設ける領域をさらに削減することができる。また、部分放電が生じやすい異なる相に属するセグメントコイル間に第2の絶縁被覆層が設けられるため、部分放電をより効果的に防止できる。
また、図9に示す実施形態では、第2の絶縁被覆層212a〜212dを、一のセグメントコイル201Aの周囲を、所定幅で囲むように設けたが、他のセグメントコイル201B〜201Eが対接させられる面にのみに設けることができる。たとえば、図10に示すように、一のセグメントコイル201Aにおいて、他のセグメントコイル201B〜201Eが対接させられるステータの半径方向内方面及び外方面にのみ、第2の絶縁被覆層222aを形成することができる。この構成を採用することにより、第2の絶縁被覆層を設ける領域をさらに削減することが可能となる。
また、本実施形態では、第2の絶縁被覆層212a〜212dを、絶縁性を有する樹脂塗着材によって形成したが、これに限定されることはない。たとえば、上記第2の絶縁被覆層212a〜212dを、絶縁性樹脂チューブ材から形成することができる。上記絶縁性樹脂チューブ材として、たとえば、住友電気工業製の絶縁性樹脂チューブ材(商標名スミチューブ)等の熱収縮性のあるチューブ材を採用することができる。
また、上記第2の絶縁被覆層212a〜212dを、絶縁性樹脂テープ材から形成することができる。たとえば、パーマセル社製の絶縁性樹脂テープ材(商標名カプトンテープ)を採用することができる。
上記第2の絶縁被覆層を設ける範囲も特に限定されることはない。本実施形態では、上記第2の絶縁被覆層212a〜212dを、一のセグメントコイル201Aの一方の斜辺部210aにおいて、他のセグメントコイル201B〜201Dが対接させられる部分にのみ形成したが、上記一方の斜辺部210aの全域に形成することもできる。
上記各セグメントコイル201A〜201Eは、断面積が大きな導体をあらかじめ曲げ加工して形成される。曲げ加工を行う前に上記曲げ加工を行う部位に第2の絶縁被覆層を設けると、第2の絶縁被覆層に亀裂や剥離が生じて絶縁性が低下する恐れがある。また、曲げ加工を行った後であっても、曲げ加工を行った部位に上記第2の絶縁被覆層を設けるのが困難な場合がある。たとえば、上記テープ材やチューブ材を用いて曲げ加工を施した部分に第2の絶縁被覆層を形成するのは困難である。このため、フィルム材やチューブ材によって第2の絶縁被覆層を形成する場合は、曲げ加工を行なわない部分に第2の絶縁被覆層を設けるように構成するのが好ましい。
図11から図15に本願発明の第3の実施形態を示す。なお、本実施形態においても、スロットの半径方向最内周側に装着されて回転子に対向させられるセグメントコイルは、上記環状コアの周方向に分割された複数の分割線から構成されている。
図11に示すように、一連に接続されるセグメントコイルA10〜A50の各接続部505a,505bを識別できる第1の着色識別部451b,452a,452b,453a,453b,454a,454b,455aが設けられている。基本的に、中間部に位置するセグメントコイルA20〜A40は、図13に示すストレート部Cが同一のスロットに装着される。一方、ステータの半径方向最内側に配置されるセグメントコイルA10とステータの半径方向最外側に配置されるセグメントコイルA50の少なくとも一方は、他のスロットに装着されたストレート部から延出するコイルエンド部に接続されている。
本実施形態に係る上記第1の着色識別部451b,452a,452b,453a,453b,454a,454b,455aは、各セグメントコイルA10〜A50の各接続部505a,505bのコイル端面を平坦に形成するとともに、この平坦面に着色塗料を塗着して形成されている。
上記第1の着色識別部451b,452a,452b,453a,453b,454a,454b,455aは、互いに接続される接続部に同じ色彩の塗料を塗着して構成されている。なお、実施形態では、同じ模様が同じ色彩を備えているものとして描いている。すなわち、図11に示すように、セグメントコイルA20に形成された着色識別部452bと、セグメントコイルA30に形成された着色識別部453aとに同じ色彩を備えて構成されている。同様に、図11に示すように、着色識別部451b及び着色識別部452a、着色識別部453b及び着色識別部454a、着色識別部454b及び着色識別部455aとに、それぞれ異なる色彩を設けて構成されている。したがって、同じ色彩を施した着色識別部が形成された接続部を溶接や超音波によって接続することにより、同じ相に属する複数のセグメントコイルA10〜A50が接続されて、一連のコイルが構成される。
各セグメントコイルの接続部505a,505bの端面は、ステータの外方から確実に目視できる部位であり、上記第1の着色識別部をコイル端面に設けることにより、互いに接続すべきセグメントコイルの接続部505a,505bを確実に識別して、接続作業を行うことができる。
しかも、互いに接続されるセグメントコイルの着色識別部は、同じ着色が施されているため、接続後に画像認識装置で上記接続部の端面を観察することによって、同じ着色が施されたセグメントコイルが接続されているか否かを、自動的に判断することも可能となる。このため、ステータの組立作業のみならず検査作業を極めて効率的に行うことが可能となる。
上記着色識別部を形成する手法は特に限定されることはない。たとえば、着色塗料を塗着することにより上記第1の着色識別部451b,452a,452b,453a,453b,454a,454b,455aを形成することができる。
また、本実施形態では、各スロット3に組み付けられるセグメントコイルを識別するための第2の着色識別部465A1,465B1,465C1,465D1が、各セグメントコイルA10〜A50のコイルエンド部E2の一方の斜辺部に設けられている。上記第2の着色識別部465A1,465B1,465C1,465D1は、同じスロットに収容されるセグメントコイルA10〜A40に、同じ色彩の着色を有する着色層を設けて構成されている。
上記第2の着色識別部465A1,465B1,465C1,465D1を設けることにより、所定のセグメントコイルを所定のスロットに容易に装着することができる。
さらに、本実施形態では、図13に示すように、同一のスロットに収容されるセグメントコイルの配列順序を識別することができる配列識別用の第2の着色識別部570を設けている。
上記配列識別用の第2の着色識別部570は、上記スロット識別用の第2の着色識別部465A1,465B1,465C1,465D1を設けたコイルエンド部E2と反対側のコイルエンド部E1に独立して設けられている。上記配列識別用の第2の着色識別部570は、たとえば、同一の色彩を有するとともに配列順序に応じた濃淡の差を有する着色を施すことにより形成することができる。また、組み付け後に、異なる着色を有する着色識別部が、同一のスロットに装着したセグメントコイルに交互に現れるように構成することができる。
上記配列識別用の第2の着色識別部570を設けることにより、各スロットに組み付けられるセグメントコイルの組み付け順序(配列)を容易に識別して組み付け作業を行うことが可能となる。
上記第2の着色識別部465A1,465B1,465C1,465D1の構成及び形態は特に限定されることはない。たとえば、図15に示すように、上記第1の実施形態と同様に、対応する色彩を有する塗料を、導体407に設けられた絶縁被覆408上の所定領域に塗着することにより、上記第2の着色識別部465A1を形成することができる。
また、上記第2の着色識別部を、セグメントコイルの所定領域に、着色テープ材を貼着し、又は着色チューブ材を装着して構成することができる。上記着色テープ材として、たとえば、パーマセル社製の絶縁性樹脂テープ材(商標名カプトンテープ)等を採用することができる。また、上記着色チューブ材として、住友電気工業製の絶縁性樹脂チューブ(商標名スミチューブ)等の熱収縮のチューブ材を採用することができる。絶縁性を有する上記塗料や、上記テープ材、上記チューブ材を採用することにより、上記第2の着色識別部を、第2の絶縁被覆層として機能させることができる。これにより、セグメントコイルの組み付け作業や接続作業を容易に行うことができるばかりでなく、隣接するセグメントコイル間の部分放電を効果的に防止することができる。
図13に、第1の着色識別部に係る第2の変形例を示す。第2の変形例では、上記第1の着色識別部562a,562bを、上記接続部505a,505bに着色キャップを設けて構成している。
上記接続部505a,505bは、絶縁被覆層を除去して形成されているため、ハンドリングの際や保存の際に、導体表面が酸化したり油脂等が付着したりすることが多い。上記着色キャップを設けることにより、露出された導体表面を保護することが可能となる。
本実施形態に係る着色キャップは、図14に示すように、接続面506cを除く表面を覆う形態の樹脂成形品から形成されている。上記構成を採用することにより、着色キャップ562a,562bを付属したまま接続を行うことが可能となる。
上記着色キャップを形成する材料は特に限定されることはなく、着色した樹脂材料から成形したものや、金属材料から形成されたものに着色を施したものを採用することができる。
図16〜図19に本願発明の第4の実施形態を示す。なお、コイルエンド部の接合部以外は、上述した実施形態の構成と同様であるので説明は省略する。
セグメントコイル612は図16(b)に示すように、主としてスロット611c内に収容される直線状の1対のストレート部Cと、スロット611cの外部に突出される1対のコイルエンド部E1,E2とを備える。1対のコイルエンド部E1,E2の一方E2(本実施形態においては図面の下側)の先端には、同一相内の隣接するセグメントコイル612同士を接合するための接合面S1を有する接合部Sが設けられている。より具体的には、図16(b)、図17に示すように、コイルエンド部E2の端部を環状コア611の半径方向の外径側へ捻じる(屈曲させる)ことで、その接合面S1が環状コア611の半径方向に対して平行である接合部Sをコイルエンド部E2の先端に1対備えて構成されている。
また、図17に示すように、環状コア611の半径方向における内径側コイル面Nと外径側コイル面Gとを備えるセグメントコイ612において、内径側コイル面Nが1対の接合部Sにおいて、共に環状コア611の周方向内側に配置されるように(外径側コイル面Gが1対の接合部Sにおいて、共に環状コア611の周方向外側に配置されるように)、コイルエンド部E2の1対の端部を環状コア611の半径方向の外径側へ90度捻じる(屈曲させる)ことで、環状コア611の半径方向の外径側へ突設する1対の接合部が形成されている。すなわち、コイルエンド部E2の一対の端部を同一方向(環状コア611の半径方向外報)へ90度捻じる(屈曲させる)ことで1対の接合部Sを形成してある。なお、本実施形態においては、図17(a)に示すように、1対の接合部Sにおいて、共に内径側コイル面Nを他のセグメントコイルと接合するための接合面S1を備えて構成されている。
また、本実施形態においては、図16、図17に示すように、環状コア611のスロット611cにセグメントコイル612を整列配置させた際に、隣接する接合部S(同じセグメントコイル612に備える1対の接合部S)が環状コア611の半径方向の内径側と外径側とにズレを持って配置されるように構成してある。この1対の接合部Sにおけるズレは、図17(a)に示す中心線(1点鎖線)の何れか片側において、コイルの接合部Sを除く端部近傍を環状コア611の半径方向の内径側若しくは外径側に屈曲させることで、コイル端部に環状コア611の半径方向で段差を形成してズレを生じさせる構成を備える。
また、本実施形態においては図16(b)に示すように、セグメントコイル612において、ストレート部Cから延出して接合部Sに至るまでの延出部Hを、環状コア611の周方向内向きに1乃至複数箇所で屈曲させる構成を備える。より具体的には、図18に示すように、環状コア611の半径方向内径側に配置される内径側コイル612−1の周方向内向きに延出部Hを屈曲させる構成を備える。外径側コイル612−2においては、第1屈曲領域K1の1ヶ所で環状コア611の周方向内向きに延出部Hを屈曲させる構成を備える。
また、内径側コイル612−1における第1屈曲領域K1と、外径側コイル612−2における第1屈曲領域K1とのコイルの屈曲角度を同一角度である角度Θ1としてある。さらに、内径側コイル612−1においては、第2屈曲領域K2のコイルの屈曲角度である角度Θ2を第1屈曲領域K1のコイルの屈曲角度である角度Θ1よりも大きい角度とする構成を備える。なお、角度Θ1は、95度〜150度程度、より好ましくは105度〜125度程度とすることが望ましい。95度未満であるとコイルエンド部E1,E2でコイル同士の干渉が起こり配列ができないからであり、150度を超えるとコア端面とコイル間にデッドスペースが大きくなり、電動機軸長方向の寸法が増大してしまうからである。また角度Θ2は、100度〜160度程度、より好ましくは110度〜130度程度とすることが望ましい。100度未満であると同一コイルの他端部分と干渉しやすくなるからであり、160度を超えるとコイル先端の接合長さが短くなるからである。
なお、接合部Sの接合方法としては、抵抗溶接等の溶接や、超音波接合、冷間圧接等の固相接合等を用いることができる。本実施形態においては、相互に接合すべき接合部Sを固相接合たる超音波接合で接合する構成を備える。
接合部Sの構成を、コイルエンド部E2の端部を捻じることで、その接合面S1が環状コア611の半径方向に対して平行となるような構成とすることで、図19に示すように、複数のセグメントコイル612を環状コア611に整列配置させた際に、接合部Sの加圧方向を環状コア611の周方向(図19において白抜き矢印で示す方向)にとることができる。これにより、隣接するスロット611c間に形成される空間L(隙間)を有効に利用して接合部Sの接合を行うことができる。従って、接合部Sの加圧方向に十分なスペースを確保することができ、接合部Sの接合工程の作業性を向上させることができる。より具体的には、隣接するスロット611c間に形成される空間Lへの接合用治具630(本実施形態においては超音波治具)の出し入れの容易化や、相互に接合する接合部Sの把持精度の向上等を実現することができる。従って、隣接するセグメントコイル612の効率的な接合を実現可能とすることができる。
また、接合部Sの接合面S1を環状コア611の半径方向に対して平行となるように構成することで、複数のセグメントコイル612を環状コア611に整列配置させた際に、隣接するスロット611c間に形成される空間L(隙間)を効果的に増大させることができる。したがって、放熱性の良いステータ、電動機とすることができる。
また、環状コア611のスロット611cにセグメントコイル612を整列配置させた際に、隣接する接合部S(同じセグメントコイ612に備える1対の接合部S)が環状コア611の半径方向の内径側と外径側とにズレを持って配置されるように構成している。これにより、図19に示すように、複数のセグメントコイル612を環状コア611に整列配置させるだけで、同一スロット611c内に配置される複数のセグメントコイル612において、相互に接合される接合部Sの接合面S1を対向させた状態で配置することができる。
さらに、接合面S1を環状コア611の半径方向に対して平行とすることで、図19に示すように、相互に接合される複数組の接合部Sの接合面S1を環状コア611の半径方向に一列に配置することができる。加えて、既述したように、隣接するスロット611c間に形成される空間L(隙間)を有効に利用して接合部Sの接合を行うことができることから、相互に接合すべき複数組の接合部Sを接合用治具630で同時に(一括させて)挟み込むことができ、複数組の接合部Sの接合を同時に行うことができる。つまり複数組の接合部Sの多点同時接合を実現可能とすることができる。これにより、接合部Sの接合工程の作業性を一段と向上させることができる。また、製造効率の良いステータや、電動機を構成できる。
また、内径側コイル612−1において、第1屈曲領域K1と第2屈曲領域K2との2ヶ所で環状コア611の周方向内向きに延出部Hを屈曲させると共に、外径側コイル612−2においては、第1屈曲領域K1の1ヶ所で環状コア611の周方向内向きに延出部Hを屈曲させる構成としている。さらに、内径側コイル612−1における第1屈曲領域K1のコイルの屈曲角度と、外径側コイル612−2における第1屈曲領域K1のコイルの屈曲角度とを共に角度Θ1とし、且つ内径側コイル612−1においては、角度Θ2を角度Θ1よりも大きい角度とする構成としている。これにより、図18に示すように、内径側コイル612−1の接合部Sと、外径側コイル612−2の接合部Sとに、環状コア611の軸方向でズレを形成することができる。
すなわち、内径側コイル612−1と、外径側コイル612−2の周方向内側に屈曲させる構成であることから、本来的には図18に仮想線(1点鎖線)で示すように、内径側コイル612−1の接合部Sと、外径側コイル612−2の接合部Sとは、環状コア611の軸方向でズレが生じることがないところ、内径側コイル612−1を、角度Θ2でさらに屈曲させることで、内径側コイル612−1の接合部Sを、外径側コイル612−2の接合部よりも環状コア611の軸方向において下方に配置させることができる。このため、複数のセグメントコイル612を環状コア611に整列配置させた際、図20(a)に示すように、まず、同じセグメントコイル612における1対の接合部S間(図20(a)に破線の円で示す部分)に空間P(隙間)を形成することができる。よって、1対の接合部S同士が接触することを防止することができる。
加えて、隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイル612間(図20(a)に破線の四角で示す部分612同士が接触することを防止することができる。より具体的には、第1のセグメントコイル640と、第2のセグメントコイ650と、第3のセグメントコイル660(内径側コイル612−1は図示しない)とが配置された状態において、第1のセグメントコイル640の内径側コイル612−1と、第3のセグメントコイル660の外径側コイル612−2とが接触することを効果的に防止することができる。
なお、図20においては、第2のセグメントコイル650と第3のセグメントコイル660とが同一のスロット(図示しない)に配置されていると共に、第2のセグメントコイル650の内径側コイル612−1と、第3のセグメントコイル660の外径側コイル612−2とが相互に超音波接合されるものであることを示すものとする。また第1のセグメントコイ640は、第2のセグメントコイル650及び第3のセグメントコイル660が配置されるスロット611cの隣のスロット611cに配置されるセグメントコイル612を示すものとする。
図20(b)に示す比較例1のように、内径側コイ612−1において、角度Θ1(図18に示す)の角度を本実施形態におけるものよりも小さい角度とした場合、隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイル612間(図20(b)に破線の四角で示す部分)に空間Qを形成することができるものの、同じセグメントコイル612における1対の接合部S間(図20(b)に破線の円で示す部分)に空間Pを形成することができない。このため、1対の接合部S同士が接触することになる。
また、図20(c)に示す比較例2のように、内径側コイル612−1において、角度Θ1(図18に示す)の角度を本実施形態におけるものよりも大きい角度とした場合、同じセグメントコイル612における1対の接合部S間(図20(c)に破線の円で示す部分)に空間Pを形成することができるものの、隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイル612間(図20(c)に破線の四角で示す部分)に空間Qを形成することができない。よって、隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイル612同士が接触することになる。
本実施形態の構成とすることで、同じセグメントコイル612における1対の接合部S間においては空間Pを、隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイル612間においては空間Qを同時に形成することができる。すなわち、角度Θ1によって隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイル612間におけるコイルの接触を回避できると共に、角度Θ2によって同じセグメントコイル612における1対の接合部S間におけるコイルの接触を回避できる。
従って、複数のセグメントコイル612を環状コア611に整列配置させた際に、隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイル612間と、同じセグメントコイル612における1対の接合部S間との両方においてコイルが接触することを防止することができる。さらに、接合部Sと反対側のコイルエンド部E1に、クランク部を形成する構成とすることで、接合部Sと反対側のコイルエンド部E1においても隣接するスロット611cに収容されるセグメントコイル612同士の接触を回避することができる。これにより、電気的な接続信頼性の高いステータや電動機を構成できる。
また、相互に接合すべき接合部Sを固相接合たる超音波接合で接合させる構成とすることで、接合工程の作業時間を短縮化させることができ、一段と製造効率の良いステータや電動機とすることができる。また、固相接合とすることで、熱的影響が少ないことから耐熱性の低い安価な導体、皮膜材料を使用することが可能になる。
また、接合部Sを固相接合たる超音波接合で接合させる構成とすることで、接合工程の作業時間を短縮化させることができ、製造効率の良いステータや電動機の製造方法とすることができる。また、セグメントコイル612を構成する素線Rとしてタフピッチ銅を用いる構成とすることで、電気伝導性、熱伝導性に優れると共に、加工性の良いセグメントコイル612とすることができる。よって、電気的な接続信頼性が高いステータや電動機を製造することができると共に、製造工程の効率化を図ることができる。
なお、本実施形態においては、接合部Sを除く部分におけるコイルを環状コア611の半径方向の内径側若しくは外径側に屈曲させることで、図17(a)に示す中心線(1点鎖線)の左右においてコイル端部に段差を形成し、これによって1対の接合部Sに環状コア611の半径方向においてズレを生じさせる構成としたが、1対の接合部Sに環状コア611の半径方向においてズレを生じさせる方法は必ずしもこのような構成に限るものではない。例えば、図17(a)に示す中心線(1点鎖線)の左右において、環状コア611の半径方向でコイル端部に段差を形成することなく、1対の接合部Sの捻じり方向(屈曲方向)をそれぞれ異ならせることで、1対の接合部Sに環状コア611の径方向においてズレを生じさせる構成としてもよい。
また、複数のセグメントコイル612を環状コア611に整列配置させた際に、同じセグメントコイル612における1対の接合部S間と、隣接するスロット611cに配置されるセグメントコイ612のコイルエンド部E2間との両方においてコイルが接触することを防止することができる構成であれば、内径側コイル612−1と外径側コイル612−2における、環状コア611の周方向内向きへの屈曲回数、屈曲位置、屈曲角度も本実施形態のものに限るものではなく、適宜変更可能である。
また、本実施形態においては、相互に接合させる接合部Sを固相接合たる超音波接合を用いて接合させる構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではない。例えば、冷間圧接等の他の固相接合や、抵抗溶接等の溶接を用いて相互に接合させる構成としてもよい。またU相、V相、W相を構成するセグメントコイル612の数、セグメントコイル612の形状、環状コア611の形状、電動機の構成等も本実施形態のものに限るものではなく、適宜変更可能である。
また、本発明の実施形態においては、コイル体形成工程を行った後に絶縁被覆層形成工程を行う構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではない。例えば、素線Rを準備し、まず、第1の絶縁被覆層形成工程を行い、その後コイル体形成工程を行い、さらに、その後に第2の絶縁被覆層形成工程を行うことができる。このような構成とすることで、絶縁性能とコストのバランスがとれた絶縁材料の選択が可能になる。
図21に、本願の第5の実施形態を示す。本実施形態においては、図21(a)に示すように、1対のコイルエンド部E2のうち、後述する厚肉領域Aを除く領域に、環状コア711の半径方向外側に向けて傾斜させてなる傾斜領域Kを設けている。なお、図21においては、白抜き矢印で示す方向が半径方向外方を示している。
具体的には、ステータの同一スロット内に隣接して配置されるセグメントコイルを、上記スロットから出て上記コイルエンド部の頂部へ向かって周方向に曲折されるまでの傾斜領域Kにおいて、半径方向に傾斜させることにより、これらセグメントコイルのコイルエンド部に設けた第2の絶縁被覆層Z2をステータの半径方向に接触させている。また、上記接触箇所におけるステータの半径方向におけるコイル間距離が、上記スロット内のコイル間距離よりも大きくなるように上記第2の絶縁被覆層が形成されている。なお、ここで「コイル間距離」とは、隣接するセグメントコイル間における、環状コアの半径方向でのコイルの中心間の距離を意味する。
上記傾斜領域Kは、図21(b)に示すように、コイルエンド部E1,E2のうち、環状コア711の端面711dから環状コア711の軸方向に500μm〜5mm程度の範囲内に設定される。上記傾斜角度は、図21(b)に示すように、傾斜領域Kを構成するセグメントコイル712と環状コア711の端面711dとで形成される角度Hを意味する。
また、本実施形態においては、セグメントコイル712の絶縁被覆層の厚みを、ストレート部Cと、コイルエンド部E1,E2とで異ならせている。より具体的には、ストレート部Cにおいては、素線Rの表面に第1の絶縁被覆層Z1だけを被覆することで絶縁被覆層を形成する構成を備える。これに対して、コイルエンド部E1,E2における傾斜領域Kを除く領域のうち、所定領域においては、素線Rの表面に第1の絶縁被覆層Z1を被覆すると共に、上記第1の絶縁被覆層Z1の表面にさらに第2の絶縁被覆層Z2を被覆することにより、上記厚肉領域Aを形成する構成を備える。なお、ここで「所定領域」とは、「コイルエンド部Eにおいて、隣接するセグメントコイル612の絶縁被覆層が接触させられる部位を含む領域を意味している。また、図21(b)は説明の便宜上、厚肉領域Aを誇張して図示している。
また、素線Rは、銅等、コイルを形成する素線として通常用いられるものであれば、如何なるものを用いてもよい。
第1の絶縁被覆層Z1の材質としては、ポリアミドイミド、ポリイミド等を用いることができる。また、第1の絶縁被覆層Z1の厚みはコイルターン間の設計電圧に対応した厚みがあればよい。例えば、設計電圧が500Vの場合は、15μm〜30μm程度とすることが望ましく、より好適には15μm〜25μm程度とすることが望ましい。15μm未満では部分放電の発生による皮膜劣化や製造時のピンホール発生確率が増加し、25μmを超えるとスロット611c内の占積率の低下による発熱増加や外径増大による組み付け性の低下が生じるからである。また、その形成方法は、ダイス引き、電着等を用いることができる。なお、ストレート部C及びコイルエンド部E1,E2の第1の絶縁被覆層Z1は、同一工程で一体的に形成することができる。
第2の絶縁被覆層Z2の材質としては、ポリアミドイミドやポリイミドを代表とするスーパーエンジニアリングプラスチック材料、或いはエンジニアリングプラスチックに無機フィラーを混合した材料等を用いることができる。また、その形成方法としては、ダイス引き、電着、粉体塗装、テープ材の貼り付け、ディップ、スプレー塗装、インサート式射出成形、押し出し成形等を用いることができる。
電動機相間の電圧は、インバータサージ等の影響により、入力電圧の約2倍のピーク電圧が印加されることから、第2の絶縁被覆層Z2の厚みは、例えば設計電圧が1000Vの場合は、40μm〜200μm程度とすることが望ましく、より好ましくは80μm〜120μm程度とすることが望ましい。40μm未満では部分放電による皮膜劣化が発生し、200μmを超えるとコイルエンドの線間距離増加による寸法増大を招くからである。
上記構成を採用することにより、同一スロット内に隣接して配置されるセグメントコイル712を、ストレート部C間及びコイルエンド部E1,E2間において効果的に近接して接触させることができる。特に、本実施形態では、同一スロット内に配置される隣接するセグメントコイル712において、ストレート部Cの第1の絶縁被覆層Z1及びコイルエンド部E1,E2の厚肉領域Aを構成する第2の絶縁被覆層Z2を隙間なく密着させている。これにより、スロット内における高占積率を実現することができると共に、スロット内におけるコイルのターン数を増やすことができる。
また、コイル間のコロナ放電は、隣接するセグメントコイルの隙間が近接する領域において発生し易い。本実施形態では、特に同一相内における隣接するセグメントコイル712間でのコロナ放電の発生を効果的に防止することができる。これにより、同一相内における隣接するセグメントコイル712間において、コロナ放電に伴い絶縁被覆層Z1,Z2に劣化が生じることを効果的に防止することができ、良好な絶縁性を維持することができるステータとすることができる。
セグメントコイル712の傾斜角度H、セグメントコイル712の長さをそれぞれ異なるものとしてもよい。但し、ステータを形成した場合に、同一スロット711c内に配置される隣接するセグメントコイル712において、上記領域Kにおけるコイルの傾斜角度Hが、環状コア711の内周側に配置されるセグメントコイル712の傾斜角度よりも環状コア711の外周側に配置されるセグメントコイル712の傾斜角度が大きく、且つ領域Kの長さが、環状コア711の内周側に配置されるセグメントコイル712の長さよりも環状コア711の外周側に配置されるセグメントコイル712の長さが長くなる構成となることが必要である。
また、本変形例においては、同一スロット内における全ての隣接するセグメントコイル712が、ストレート部C及びコイルエンド部E1,E2の厚肉領域Aにおいて、環状コアの半径方向に接触するような構成としたが、必ずしもこのような構成に限るものではなく、同一スロット内に配置される少なくとも1組の隣接するセグメントコイル712が、ストレート部C及びコイルエンド部E1,E2の厚肉領域Aにおいて、環状コアの半径方向に接触するような構成であれば、適宜変更可能である。
本願発明の範囲は、上述の実施形態に限定されることはない。今回開示された実施形態は、すべての点で例示であって、制限的なものでないと考えられるべきである。本願発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。