JP2013134819A - 正極材およびリチウムイオン二次電池 - Google Patents

正極材およびリチウムイオン二次電池 Download PDF

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Abstract

【課題】プラグインハイブリッド自動車用電池に要求される高容量かつ高安全のリチウムイオン二次電池を達成できる正極材と、高容量かつ高安全のリチウムイオン二次電池を提供する。
【解決手段】組成式Li1.1+x1Nia1M1b1M2c1(M1はMoまたはWを表し、M2はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x1≦0.1、0.7≦a1≦0.98、0.02≦b1≦0.06、0≦c1≦0.28)で表される第1の正極活物質と、組成式Li1.1+x2Nia2M3b2M4c2(M3はMoまたはWを表し、M4はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x2≦0.1、0.6≦a2≦0.7、0.02≦b2≦0.06、0.24≦c2≦0.38、a2<a1)で表される第2の正極活物質とを少なくとも含む正極材。
【選択図】図1

Description

本発明は、リチウムイオン二次電池用の正極材およびリチウムイオン二次電池に関する。
リチウムイオン二次電池には、特にプラグインハイブリッド自動車用電池に採用する場合に、発熱反応による電池の発火や破裂を起こさないという高い安全性を維持しながら、低コスト化、低体積化、軽量化、および高出力化が必要とされている。このため、リチウムイオン二次電池には、高容量かつ高安全であることが要求され、このような要求を満たすための正極材が必要である。
特許文献1に記載のリチウムイオン二次電池では、異種元素が正極活物質の表面のみに存在しており、内部短絡時に高度な安全性を確保している。
特許文献2に記載の非水電解質二次電池では、Li−Ni−Mn−Co系の正極活物質に異種元素を加え、充放電サイクルにおける抵抗の上昇を抑制している。
特許文献3に記載の非水電解質二次では、組成の異なる二種類の正極活物質を混合し、充填率を向上させている。
特開2006−302880号公報 特開2011−71103号公報 特開2009−230914号公報
従来のリチウムイオン二次電池の正極材では、プラグインハイブリッド自動車用の電池に要求される特性、すなわち高容量かつ高安全を達成できていない。
例えば、特許文献1に記載のリチウムイオン二次電池では、異種元素が正極活物質の表面のみに存在しているため、昇温した際に起こる結晶格子中からの酸素放出を低減させることができない。このため、放出された酸素と電解液とが反応して発熱反応が起こる可能性があり、充電状態の安全性の確保に課題がある。
特許文献2に記載の非水電解質二次電池では、異種元素にMo、Wなどの充電状態を安定化させる元素が含まれていないため、電池温度が上昇した際に、正極で起こる結晶格子中からの酸素放出を低減させることができず、充電状態の安全性の確保に課題がある。
特許文献3に記載の非水電解質二次電池では、正極に含まれるNi含有量が低いため(遷移金属のうちNiの含有量は40〜50%)、プラグインハイブリッド自動車に求められるような高容量を得ることができない。
本発明は、プラグインハイブリッド自動車用電池に要求される高容量かつ高安全のリチウムイオン二次電池を達成できる正極材と、高容量かつ高安全のリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
本発明による正極材は、次のような特徴を有する。組成式Li1.1+x1Nia1M1b1M2c1(M1はMoまたはWを表し、M2はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x1≦0.1、0.7≦a1≦0.98、0.02≦b1≦0.06、0≦c1≦0.28)で表される第1の正極活物質と、組成式Li1.1+x2Nia2M3b2M4c2(M3はMoまたはWを表し、M4はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x2≦0.1、0.6≦a2≦0.7、0.02≦b2≦0.06、0.24≦c2≦0.38、a2<a1)で表される第2の正極活物質とを少なくとも含むことを特徴とする。
本発明によると、プラグインハイブリッド自動車用電池に要求される高容量かつ高安全のリチウムイオン二次電池を達成できる正極材と、高容量かつ高安全のリチウムイオン二次電池を提供することができる。
実施例1および比較例1における試作電池の示差走査熱量測定の結果を示すグラフ。 リチウムイオン二次電池の断面図。
リチウムイオン二次電池は、プラグインハイブリッド自動車用の電池に採用するためには、高容量かつ高安全という特性を持つことが要求される。リチウムイオン二次電池において、この特性は、正極材の性質と密接な関係がある。組成式LiMO(Mは遷移金属)で表される層状系の正極活物質において、高容量を得るためには、遷移金属層中のNi含有量を増やす必要がある。
しかし、Ni含有量が多い正極材は、充電状態での構造安定性が低い。従って、内部短絡などにより電池の温度が上昇した際に、正極活物質中から放出された酸素と電解液とが比較的低温で反応し、大きな発熱反応が起こる。この発熱反応により、電池が発火したり破裂したりすることが懸念される。
本発明によるリチウムイオン二次電池用の正極材は、このような課題を解決するものであり、組成式Li1.1+x1Nia1M1b1M2c1(M1はMoまたはWを表し、M2はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x1≦0.1、0.7≦a1≦0.98、0.02≦b1≦0.06、0≦c1≦0.28)で表される第1の正極活物質と、組成式Li1.1+x2Nia2M3b2M4c2(M3はMoまたはWを表し、M4はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x2≦0.1、0.6≦a2≦0.7、0.02≦b2≦0.06、0.24≦c2≦0.38、a2<a1)で表される第2の正極活物質とを少なくとも含むことを特徴とする。第1の正極活物質は、第2の正極活物質よりNi含有量が多い(a1>a2)。
本発明によるリチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵放出可能な正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極と、セパレータとを備え、正極には本発明による正極材を用いる。
Ni含有量が多い正極活物質は、高容量が得られるが、充電状態での熱安定性が低いという欠点がある。そこで、Ni含有量が多い正極活物質に、MoまたはWを添加して、充電状態での熱安定性を改善した。さらに、正極活物質はNi含有量が違うと加熱による発熱温度が異なるという特徴を活かし、Ni含有量が異なる二種類以上の正極活物質を混合して正極材に使用することで、ある1つの特定温度での正極材の急激な発熱を抑制した。すなわち、Ni含有量が異なる二種類以上の正極活物質を正極材に使用することで、温度上昇に伴う正極材の発熱を緩やかにし、かつ、発熱のピーク値(最大発熱値)を小さくして発熱量を大幅に低減することができるため、充電状態での安全性の確保が可能である。
なお、上記の組成式において、a1−a2≧0.1であるのが好ましい。すなわち、Ni含有量を遷移金属中のNiの割合(%)で表したとき、第1の正極活物質のNi含有量と第2の正極活物質のNi含有量の差は、10%以上であるのが好ましい。a1−a2<0.1であると、すなわち、第1の正極活物質と第2の正極活物質のNi含有量(%)の差が10%未満であると、この差が小さいため、第1の正極活物質と第2の正極活物質の間で加熱による発熱温度に違いが表れず、発熱温度が異なる二種類以上の正極活物質を混合して使用することで、ある1つの特定温度での正極材の急激な発熱を抑制するという本発明の効果が十分に得られない。
第1の正極活物質と第2の正極活物質の混合比(質量比)は、1対1とするのが好ましい。第1の正極活物質と第2の正極活物質の量に差があると、量の少ないほうの正極活物質の効果が弱くなり、発熱温度が異なる二種類以上の正極活物質を混合して使用することで、ある1つの特定温度での正極材の急激な発熱を抑制するという本発明の効果が十分に得られない。
本発明による正極材は、第1の正極活物質と第2の正極活物質の両方を少なくとも含んでいればよいので、第1の正極活物質と第2の正極活物質以外の正極活物質をさらに含んでもよい。第1の正極活物質と第2の正極活物質以外の正極活物質は、1種類でもよく、複数種でもよい。ただし、本発明による正極材に含まれる複数の正極活物質のNi含有量は、それぞれが互いに異なるものとする。
本発明による正極材は、一種類の正極活物質を使用した正極材と比較すると、電解液と共に加熱した際の発熱量が大幅に低減するため、電池温度が上昇した際に発火および破裂に至る可能性を低減し、安全性を向上することができる。
本発明による正極材を用いることにより、電池温度が上昇した際に発火や破裂に至る可能性を低減させ安全性を向上したリチウムイオン二次電池を提供することができる。
ここで、第1の正極活物質について説明する。
第1の正極活物質のLi含有量、すなわちLiの遷移金属に対する割合(上記の組成式中の1.1+x1)は、1.03以上1.2以下(−0.07≦x1≦0.1)である。1.03未満(x1<−0.07)では、反応に関与するLi量が少なく、容量が低下する。1.2より大きいと(x1>0.1)、複合酸化物における遷移金属の量が減少し、容量が低下する。
第1の正極活物質のNi含有量は、上記の組成式中のa1で表され、0.7≦a1≦0.98である。a1<0.7では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。a1>0.98では、他の元素(特にM2)の含有量が減少し、熱安定性が低下する。
第1の正極活物質のM1の含有量は、上記の組成式中のb1で表され、0.02≦b1≦0.06である。b1<0.02では、充電状態での熱安定性を改善することができない。b1>0.06では、結晶構造が不安定になり、容量が低下する。
第1の正極活物質のM2の含有量は、上記の組成式中のc1で表され、0≦c1≦0.28である。c1>0.28では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。
次に、第2の正極活物質について説明する。
第2の正極活物質のLi含有量、すなわちLiの遷移金属に対する割合(上記の組成式中の1.1+x2)は、1.03以上1.2以下(−0.07≦x2≦0.1)である。1.03未満(x2<−0.07)では、反応に関与するLi量が少なく、容量が低下する。1.2より大きいと(x2>0.1)、複合酸化物における遷移金属の量が減少し、容量が低下する。
第2の正極活物質のNi含有量は、上記の組成式中のa2で表され、0.6≦a2≦0.7である。a2<0.6では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。a2>0.7では、他の元素の含有量が減少し、熱安定性が低下する。
第2の正極活物質のM3の含有量は、上記の組成式中のb2で表され、0.02≦b2≦0.06である。b2<0.02では、充電状態での熱安定性を改善することができない。b2>0.06では、結晶構造が不安定になり、容量が低下する。
第2の正極活物質のM4の含有量は、上記の組成式中のc2で表され、0.24≦c2≦0.38である。c2>0.38では、充放電反応に主に寄与するNiの含有量が減少し、容量が低下する。c2<0.24では、M3の含有量が0.06より大きくなり(b2>0.06となり)、結晶構造が不安定になって容量が低下する。
以下の実施例および比較例の説明では、説明の都合上、第1の正極活物質と第2の正極活物質とを区別せず、「正極活物質」と総称することもある。また、第1の正極活物質のM1と第2の正極活物質のM3を総称して「M1」で表し、第1の正極活物質のM2と第2の正極活物質のM4を総称して「M2」で表すものとする。
(正極活物質の作製)
後述する実施例および比較例で用いた正極活物質(第1の正極活物質と第2の正極活物質)の作製方法を説明する。正極活物質は、全て同様の方法で作製した。実施例および比較例では、後で示す表1に記載したように18種類の正極活物質を作製し、この中から2種類の正極活物質を選び、第1の正極活物質と第2の正極活物質として使用した。
正極活物質の原料として、酸化ニッケルを使用した。さらに、表1に記載した組成に合わせて、二酸化マンガン、酸化コバルト、酸化モリブテン、および酸化タングステンの中から、1つまたは複数を選んで使用した。これらの酸化物を所定の原子比となるように秤量し、純水を加えてスラリーとした。
このスラリーを、平均粒径が0.2μmとなるまでジルコニアのビーズミルで粉砕した。このスラリーにポリビニルアルコール(PVA)溶液を固形分比に換算して1wt.%添加し、さらに1時間混合した後、スプレードライヤ−により造粒および乾燥させた。
この造粒粒子に対し、Liと遷移金属との比が表1に示す比となるように水酸化リチウムおよび炭酸リチウムを加えて粉末を得た。すなわち、遷移金属を1とすると、Liは1.00〜1.25である。
次に、この粉末を800℃で10時間焼成することにより、層状構造の結晶を形成した。その後、この結晶を解砕して正極材を得た。分級により粒径30μm以上の粗大粒子を除去した後、この正極材を用いて正極を作製した。
本発明による正極材の作製方法は、上記の方法に限定されず、共沈法など、他の方法を用いてもよい。
表1に、実施例および比較例で合成した正極活物質の金属の組成比を示す。表1に示すように、18種類の正極活物質(正極1〜正極18)を合成した。表1では、それぞれの正極活物質について、遷移金属の含有量の合計を100としたときの、Liの含有量と各種の遷移金属の含有量を示している。
Figure 2013134819
(正極材の作製)
実施例および比較例で用いた正極材の作製方法を説明する。実施例1〜11と比較例1〜7では、上述のように作製した18種類の正極活物質を表2に示す組み合わせと混合比(質量比)で混合して、それぞれ正極材を作製した。表2には、実施例1〜11と比較例1〜7で作製した正極材のそれぞれについて、使用した正極活物質の組み合わせと混合比(質量比)を記載した。表2の「混合比」の列では、「正極活物質」の列に記載した順序に従って正極活物質の混合比を記載している。
Figure 2013134819
まず、表2に記載した組み合わせと混合比(質量比)となるように、正極活物質を秤量した。
混合した正極活物質と炭素系導電剤とを、質量比で85:10.7になるように秤量し、乳鉢を用いて混合した。正極活物質と導電剤との混合材料とN−メチル−2−ピロリドン(NMP)に溶解した結着剤を、混合材料と結着剤の質量比が95.7:4.3になるように混合してスラリーとした。このスラリーが正極材である。
(試作電池の作製)
実施例1〜11と比較例1〜7では、上述のように作製した18種類の正極材を用いて正極を作製し、18種類の試作電池を作製した。
正極の作製方法を説明する。均一に混合したスラリー(正極材)を、厚み20μmのアルミ集電体箔上に塗布した後、120℃で乾燥し、プレスにて電極密度が2.7g/cmになるように圧縮成形して電極板を得た。その後、電極板を直径15mmの円盤状に打ち抜き、正極を作製した。
負極は、金属リチウムを用いて作製した。非水電解液は、体積比で1:2のEC(エチレンカーボネート)とDMC(ジメチルカーボネート)の混合溶媒に、1.0モル/リットルのLiPFを溶解させたものを用いた。
実施例1〜11と比較例1〜7では、以上のように作製した18種類の試作電池(正極活物質の組み合わせと混合比は表2に示している)に対して、充放電試験と示差走査熱量測定を行った。
(充放電試験)
試作電池に対し、0.1Cで、上限電圧を4.3V、下限電圧を2.7Vとした充放電を3回繰り返して初期化した。さらに、0.1Cで、上限電圧4.3V、下限電圧2.7Vの充放電を行い、放電容量を測定した。
(示差走査熱量測定)
試作電池を4.3Vまで定電流/定電圧で充電した後、取り出した正極をDMCで洗浄した。この後、正極を直径3.5mmの円盤状に打ち抜き、サンプルパンに入れ、電解液を1μl(リットル)加え、密封して試料とした。
この試料を室温から400℃まで5℃/minで昇温させたときの、発熱挙動を調べた。
表3〜5には、実施例1〜11と比較例1〜7における充放電試験と示差走査熱量測定の結果として、容量比と最大発熱値比を示す。また、用いた正極活物質の組み合わせと混合比も示す。充放電試験の結果では、得られた放電容量を比較例1の放電容量で除した値を容量比として、表3〜5に示す。示差走査熱量測定の結果では、得られた発熱の最大値(最大発熱値)を比較例1の最大発熱値で除した値を最大発熱値比として、表3〜5に示す。
Figure 2013134819
Figure 2013134819
Figure 2013134819
表3について説明する。表3は、実施例1〜7と比較例1〜3を比べた表であり、主にNiの含有量と正極活物質の組成式のM1(MoまたはW)の有無に着目して、実施例1〜7と比較例1〜3を比べた。
実施例1では、正極1と正極3を用いて正極材を作製した。正極1は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。正極3は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoとMnを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Mnの含有量は6%、Coの含有量は20%、Moの含有量は4%である。正極1と正極3の混合比は、50:50である。
実施例2では、正極2と正極3を用いて正極材を作製した。正極2は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoとMnを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Mnの含有量は6%、Coの含有量は10%、Moの含有量は4%である。正極2と正極3の混合比は、50:50である。
実施例3では、正極3と正極4を用いて正極材を作製した。正極4は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoとMnを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は60%、Mnの含有量は16%、Coの含有量は20%、Moの含有量は4%である。正極3と正極4の混合比は、50:50である。
実施例4では、正極3と正極6を用いて正極材を作製した。正極6は、組成式のM1としてMoを用い、M2を用いず、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は96%、Moの含有量は4%である。正極3と正極6の混合比は、50:50である。
実施例5では、正極1、正極3および正極4を用いて正極材を作製した。すなわち、実施例5の正極材は、正極1、正極3および正極4という3種類の正極活物質を用いて正極材を作製した。正極1、正極3および正極4の混合比は、33:33:33である。
実施例6では、正極12と正極13を用いて正極材を作製した。正極12は、組成式のM1としてWを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Wの含有量は4%である。正極13は、組成式のM1としてWを、M2としてCoとMnを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は70%、Mnの含有量は6%、Coの含有量は20%、Wの含有量は4%である。正極12と正極13の混合比は、50:50である。
実施例7では、正極3と正極12を用いて正極材を作製した。正極3と正極12の混合比は、50:50である。
比較例1では、正極14のみを用いて正極材を作製した。正極14は、組成式のM1を用いず、M2としてMnとCoを用い、Liの含有量が103%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は60%、Mnの含有量は20%、Coの含有量は20%である。
比較例2では、正極1と正極5を用いて正極材を作製した。正極5は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoとMnを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は50%、Mnの含有量は26%、Coの含有量は20%、Moの含有量は4%である。正極1と正極5の混合比は、50:50である。
比較例3では、正極7と正極3を用いて正極材を作製した。正極7は、組成式のM1とM2を用いず、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は100%である。正極7と正極3の混合比は、50:50である。
表3より、実施例1〜7は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が40%以下という結果が得られた。放電容量が大きい値を示したのは、実施例1〜7で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が60%以上と多いためだと考えられる。また、最大発熱値が比較例1の40%以下と大幅に低減できたのは、正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(MoまたはW)が遷移金属層中に4%存在しており、さらに、Ni含有量が異なり発熱温度範囲の異なる二種類以上の正極活物質が正極材中に存在しているためだと考えられる。
また実施例2より、組成式のM2として、二種類の正極活物質の両方にCoとMnを用いても、一種類の正極活物質だけにCoを用いた場合である実施例1と同様に、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立できることがわかった。
一方、比較例1では、MoまたはWを含有していないために最大発熱値を低減できず、Niの含有量が60%と少ないために放電容量が低い。また、比較例2、3では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の40%以下に低減することを両立できなかった。比較例2では、Ni含有量が50%の正極活物質(正極5)を含んでいるため、放電容量が低くなった。比較例3では、正極7がMo、Wを含んでいないため、最大発熱値を減少させることができなかった。
表4について説明する。表4は、実施例8、9と比較例4、5を比べた表であり、主に正極活物質の組成式のM1(MoまたはW)の含有量に着目して、実施例8、9と比較例4、5を比べた。
実施例8では、正極3と正極9を用いて正極材を作製した。正極9は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は18%、Moの含有量は2%である。正極3と正極9の混合比は、50:50である。
実施例9では、正極3と正極10を用いて正極材を作製した。正極10は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は14%、Moの含有量は6%である。正極3と正極10の混合比は、50:50である。
比較例4では、正極8と正極3を用いて正極材を作製した。正極8は、組成式のM1を用いず、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は20%である。正極8と正極3の混合比は、50:50である。
比較例5では、正極11と正極3を用いて正極材を作製した。正極11は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が110%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は12%、Moの含有量は8%である。正極11と正極3の混合比は、50:50である。
表4より、実施例8、9は、比較例1と比べ、放電容量が大きく、最大発熱値が40%以下という結果が得られた。放電容量が大きい値を示したのは、実施例8、9で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が70〜80%と多いためだと考えられる。また、最大発熱値が比較例1の40%以下と大幅に低減できたのは、正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(Mo)が遷移金属層中に2〜6%存在しており、さらに、Ni含有量が異なり発熱温度範囲の異なる二種類の正極活物質が正極材中に存在しているためだと考えられる。
一方、比較例4、5では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の40%以下に低減することを両立できなかった。比較例4では、正極8にMo、Wなど発熱を抑制できる元素が含まれていないため、最大発熱値が大きくなったと考えられる。比較例5では、正極11にMoが8%と多く含まれているため、結晶構造が不安定になって容量が低下したと考えられる。
表5について説明する。表5は、実施例10、11と比較例6、7を比べた表であり、主にLiの含有量に着目して、実施例10、11と比較例6、7を比べた。
実施例10では、正極16と正極3を用いて正極材を作製した。正極16は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が103%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。正極16と正極3の混合比は、50:50である。
実施例11では、正極17と正極3を用いて正極材を作製した。正極17は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が120%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。正極17と正極3の混合比は、50:50である。
比較例6では、正極15と正極3を用いて正極材を作製した。正極15は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が100%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。正極15と正極3の混合比は、50:50である。
比較例7では、正極18と正極3を用いて正極材を作製した。正極18は、組成式のM1としてMoを、M2としてCoを用い、Liの含有量が125%であり、遷移金属のうち、Niの含有量は80%、Coの含有量は16%、Moの含有量は4%である。正極18と正極3の混合比は、50:50である。
表5より、実施例10、11は、比較例1と比べ、放電容量が大きいか等しく、最大発熱値が40%以下という結果が得られた。放電容量が大きいか等しい値を示したのは、実施例10、11で用いた正極材は、遷移金属層中に存在するNiの含有量が70〜80%と多いためだと考えられる。また、最大発熱値が比較例1の40%以下と大幅に低減できたのは、正極活物質に充電状態の熱安定性を向上できる元素(Mo)が遷移金属層中に4%存在しており、さらに、Ni含有量が異なり発熱温度範囲の異なる二種類の正極活物質が正極材中に存在しているためだと考えられる。
一方、比較例6、7では、放電容量を向上することと最大発熱値を比較例1の40%以下に低減することを両立できなかった。比較例6では、正極15に含まれるLiの量が100%と少なく、反応に関与するLi量が少なくなって容量が低下したと考えられる。比較例7では、正極18に含まれるLiの量が125%と多く、複合酸化物における遷移金属の量が相対的に減少して容量が低下したと考えられる。
表3〜5に示した結果から、放電容量の向上と最大発熱値の大幅な低減を両立するためには、次のような二種類の正極活物質を少なくとも含むことがよいことがわかった。
第1の正極活物質は、組成式Li1.1+x1Nia1M1b1M2c1で表され、Li含有量を103%以上120%以下とし、遷移金属層中のNiの含有量を70%以上98%以下とし、組成式のM1としてMoまたはWを用い、遷移金属層中のM1の含有量を2%以上6%以下とし、組成式のM2としてCoを用いるか、またはMnとCoを用い、遷移金属層中のM2の含有量を28%以下とする。
第2の正極活物質は、組成式Li1.1+x2Nia2M3b2M4c2で表され、Li含有量を103%以上120%以下とし、遷移金属層中のNiの含有量を60%以上70%以下とし、組成式のM3としてMoまたはWを用い、遷移金属層中のM3の含有量を2%以上6%以下とし、組成式のM4としてCoを用いるか、またはMnとCoを用い、遷移金属層中のM4の含有量を24%以上38%以下とする。
図1は、実施例1および比較例1における試作電池の示差走査熱量測定の結果を示すグラフである。横軸は温度で、縦軸は熱流であり、実施例1の結果を符号1で、比較例1の結果を符号2で示している。図1からわかるように、比較例1による試作電池は、ある1つの特定温度での発熱量が大きい。一方、実施例1による試作電池は、比較例1による試作電池と比べて、最大発熱値が小さく、温度上昇に伴う発熱が全体的に緩やかであり、発熱量も全体的に小さい。このことから、実施例1で用いた正極材は、比較例1で用いた正極材よりも、発熱反応による最大発熱値が小さく、高い安全性を示すことがわかる。
図2は、本発明の実施例によるリチウムイオン二次電池の断面図である。図2に示すリチウムイオン二次電池12は、集電体の両面に正極材を塗布した正極板3と、集電体の両面に負極材を塗布した負極板4と、セパレータ5とを有する電極群を備える。本実施例では、正極板3と負極板4は、セパレータ5を介して捲回され、捲回体の電極群を形成している。この捲回体は、電池缶9に挿入される。
負極板4は、負極リード片7を介して、電池缶9に電気的に接続される。電池缶9には、パッキン10を介して、密閉蓋部8が取り付けられる。正極板3は、正極リード片6を介して、密閉蓋部8に電気的に接続される。捲回体は、絶縁板11によって絶縁される。
なお、電極群は、図2に示したような捲回体でなくてもよく、セパレータ5を介して正極板3と負極板4を積層した積層体でもよい。
リチウムイオン二次電池12の正極板3として、本実施例で示した正極材を塗布して作製した正極を用いることにより、高容量かつ高安全のリチウムイオン二次電池を得ることができる。従って、本発明によれば、プラグインハイブリッド自動車用の電池に要求される高容量、高出力かつ高安全を達成できる正極材、およびリチウムイオン二次電池を提供することができる。
本発明は、リチウムイオン二次電池の正極材およびリチウムイオン二次電池に利用でき、特に、プラグインハイブリッド自動車用のリチウムイオン二次電池に利用可能である。
1…実施例1による試作電池の示差走査熱量測定の結果、2…比較例1による試作電池の示差走査熱量測定の結果、3…正極板、4…負極板、5…セパレータ、6…正極リード片、7…負極リード片、8…密閉蓋部、9…電池缶、10…パッキン、11…絶縁板、12…リチウムイオン二次電池。

Claims (3)

  1. 組成式Li1.1+x1Nia1M1b1M2c1(M1はMoまたはWを表し、M2はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x1≦0.1、0.7≦a1≦0.98、0.02≦b1≦0.06、0≦c1≦0.28)で表される第1の正極活物質と、
    組成式Li1.1+x2Nia2M3b2M4c2(M3はMoまたはWを表し、M4はCoを表すか、またはCoとMnを表し、−0.07≦x2≦0.1、0.6≦a2≦0.7、0.02≦b2≦0.06、0.24≦c2≦0.38、a2<a1)で表される第2の正極活物質とを少なくとも含むことを特徴とする正極材。
  2. 請求項1記載の正極材において、a1−a2≧0.1である正極材。
  3. リチウムを吸蔵放出可能な正極と、リチウムを吸蔵放出可能な負極と、セパレータとを備えるリチウムイオン二次電池において、
    前記正極は、請求項1記載の正極材を用いることを特徴とするリチウムイオン二次電池。
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