JP2013130712A - 定着装置及び定着装置で用いるフィルム - Google Patents

定着装置及び定着装置で用いるフィルム Download PDF

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Abstract

【課題】 定着装置で剥離オフセット及び全面オフセットの抑制を両立することが困難であった。
【解決手段】 フィルムの厚み方向の抵抗値が、フィルムの表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲では5×1011(Ω・cm)以上であり、1000V以上の範囲では5×10(Ω・cm)以下であるフィルムを用いる。
【選択図】 図2

Description

本発明は、電子写真プリンタ、複写機などの画像形成装置に用いられる定
着装置、及び、定着装置に用いるフィルムに関する。
電子写真方式の画像形成装置に用いる定着装置としてフィルム加熱方式の定着装置がある。
フィルム加熱方式の定着装置は、高耐熱性の筒状のフィルムと、フィルムの内面と接触するセラミックヒータ(以下、ヒータと記す)と、フィルムを介してヒータと共にニップ部を形成する加圧ローラを有する。そして、ニップ部でトナー像を担持した記録材を搬送しながら加熱しトナー像を記録材に定着する。フィルム加熱方式の定着装置で用いるヒータ及びフィルムは低熱容量なので、省電力化及びウェイトタイム短縮化(クイックスタート)が可能になるという長所がある。
上記の定着装置において、加圧ローラの表面に紙粉やトナーが付着するのを抑制するために、加圧ローラの表層として高抵抗のフッ素樹脂層を用いると、記録材との摺擦で加圧ローラがトナーと同極性の電荷で帯電する場合がある。その結果、ニップ部で記録材が担持していた未定着トナーが静電的な力で引き剥がされフィルムに付着し、次の周回で画像として現れるオフセット(以下、全面オフセットと記す)が発生するという課題があった。
全面オフセット対策として、特許文献1には、フィルムにトナーと同極性のバイアスを印加してトナーが紙に吸着される方向の電界を形成する手法が開示されている。
また、前述した全面オフセットの他に、剥離オフセットという課題もある。剥離オフセットは、記録材の後端がニップ部を抜ける際の剥離帯電によってフィルム表面が局所的にトナーと逆極性の電荷で強く帯電し、それによってその帯電領域が記録材に対向した時にオフセット電界が形成されて発生するものである。
この剥離オフセットの対策として、特許文献2に定着部材(フィルム)の抵抗値を下げて帯電を小さくする手法が開示されている。
特開平9−80946号公報 特許3397548号
特許文献1の全面オフセット対策を行うためには、フィルム表面にトナーと同極性のバイアスを印加した際に、加圧ローラ側に電流がリークせずフィルムの表面電位を維持できるようにフィルムの厚み方向の抵抗値を上げる必要がある。しかしながら、フィルムの厚み方向の抵抗値を上げると、全面オフセットは抑制できるものの、記録材が剥離する際に形成されたフィルムの剥離電荷が十分に減衰しないため、剥離オフセットは悪化する。
一方、特許文献2の剥離オフセットの対策のためには、フィルムの表面に帯電した電荷が素早く減衰するようにフィルムの厚み方向の抵抗値を下げる必要がある。しかしながら、フィルムの厚み方向の抵抗値を下げると、剥離オフセットは抑制できるものの、フィルム表面に印加したバイアスによる電流が加圧ローラ側にリークして全面オフセットが悪化する。
以上述べたように、全面オフセットと剥離オフセットの対策を両立することが困難であった。
そこで、本発明の目的は、全面オフセットと剥離オフセットを両立することができる定着装置及び定着装置で用いるフィルムを提供することである。
上記目的を達成するために本願発明の定着装置は、ヒータと、ヒータにより加熱される筒状のフィルムと、前記フィルムに接触してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部でトナー像を担持した記録材を搬送しながら加熱しトナー像を記録材に定着する定着装置において、前記フィルムの厚み方向の抵抗値は、前記フィルムの表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲では5×1011(Ω・cm)以上であり、1000V以上の範囲では5×10(Ω・cm)以下であることを特徴とするものである。
更に、本願発明のフィルムは、記録材の上に担持されたトナー像を記録材に定着する定着装置に用いられる筒状のフィルムにおいて、
前記フィルムの厚み方向の抵抗値は、前記フィルムの表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲では5×1011(Ω・cm)以上であり、1000V以上の範囲では5×10(Ω・cm)以下であることを特徴とするものである。
本発明によれば、全面オフセットと剥離オフセットの抑制を両立できる定着装置及び定着装置で用いるフィルムを提供することができる。
実施例1に係る定着装置の断面図 実施例1に係る、フィルムの印加電圧と単位面積当たりの厚み方向の抵抗値の関係を表したグラフ 実施例1に係るフィルムの厚み方向の抵抗値を測定した試験片の一例を表した模式図 実施例1に係るフィルムの厚み方向の抵抗値の測定方法を表した模式図 実施例1に係るフィルムの断面図 実施例1に係る、剥離帯電が発生した定着装置の断面のイメージ図 比較例1及び2に係る、フィルムの印加電圧と単位面積当たりの厚み方向の抵抗値の関係を表したグラフ 実施例2に係る、フィルムの印加電圧と単位面積当たりの厚み方向の抵抗値の関係を表したグラフ
以下に図面を参照して、この発明を実施するための最良の形態を、実施の形態に基づいて例示的に詳しく説明する。
図1は実施例1に係る定着装置の断面図である。実施例1の定着装置は、高耐熱性の筒状のフィルム25と、前記フィルムの内面と接触するヒータとしてのセラミックヒータ20と、フィルム25を介して前記ヒータ20と共にニップ部Nを形成する加圧ローラ26を有する。そして、ニップ部でトナー像Tを担持した記録材Pを搬送しながら加熱しトナー像Tを記録材Pに定着するものである。
また、実施例1の定着装置は、フィルム25にバイアスを印加してフィルム25の表面を所定の電位するためのバイアス印加手段50を有している。
ここで、実施例1の定着装置を構成する各部材について説明を行う。セラミックヒータ20は、窒化アルミニウム、アルミナ等からなる細長い耐熱性のヒータ基板21を有している。そしてこのヒータ基板21の表面に通電により発熱する通電発熱抵抗層としての抵抗体パターン22が長手方向に沿って形成されている。更に、抵抗体パターン22の表面は、保護層としてのガラス層23で被覆されている。また、ヒータ基板21の裏面(ニップ部Nと反対側の面)には、ヒータ20の温度を検知する温度検知部材としてのサーミスタ24が配設されている。ヒータホルダ29の材料として、液晶ポリマー,ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の耐熱性樹脂が用いられている。このヒータホルダ29は、ヒータ20を支持する支持部材としての機能だけでなく、フィルム25の回転をガイドするガイド部材としての機能を有している。
加圧部材としての加圧ローラ26は、芯軸部261の外周に弾性層262を有し、弾性層262の外周に表層263を有している。加圧ローラ26の外径は約30mmである。芯軸部261にはアルミニウム又は鉄などの金属材料や、高強度で且つ低熱容量である断熱効果の高いセラミックス多孔質体を用いてもよい。実施例1の芯軸部261は、中実のアルミニウム芯金を用いている。弾性層262は、耐熱性のシリコーンゴムからなる厚さ3mmの層であり、カーボン等の導電性添加剤を添加することで導電性としている。表層263は、PFA、PTFE、FEP等のフッ素樹脂からなる厚さ10〜50μmの離型層チューブである。ここで、PFAはテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、PTFEはポリテトラフルオロエチレン、FEPはテトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体の略称である。
実施例1では、加圧ローラ26の表層263の材料はピュアのフッ素樹脂(厚さ30μmのピュアのPFAチューブ)とする。従って、実施例1の加圧ローラ26の表面抵抗値は1×1014Ω/cm以上と高抵抗である。その理由は、表層263に抵抗を下げるカーボン等を添加すると、表面の平滑性が低下しトナーや紙粉で汚れる現象(以下、コンタミと記す)が発生する場合があるからである。
従って、加圧ローラ26の表面は、記録材との摺擦によってマイナス(トナーと同極性)に帯電して、記録材の未定着トナーの保持力を弱める電界を形成してしまう。
そこで、実施例1では、フィルム25の表面をトナーと同極性の電位(マイナス)にするために、バイアス印加手段50により、フィルム25にマイナス極性のバイアスを印加する。フィルム25に印加するバイアスは、バイアス電源53から導電ブラシなどの給電手段51を介して、フィルム25表面に一部露出させているフィルム25の後述するステンレス(SUS)の基層に印加する。そして、このバイアスは、バイアス制御手段54により印加電圧の大きさ及び印加タイミングの制御を行っている。実施例1では、装置がノーマルな環境(気温23℃、湿度50%)に置かれた際に、バイアスとしてフィルム25の表面が−400Vの電位になるようにバイアスを印加している。また、加圧ローラ26は、抵抗を介して芯軸部261をアースしており、バイアスは印加していない。
また、実施例1では、低温低湿環境(気温10℃、湿度15%)のように加圧ローラ26が記録材との摺擦でマイナス帯電しやすい環境においては、フィルム25の表面のマイナス電位を絶対値の上限として500Vまで印加することが可能である。
尚、フィルム25の表面に印加するマイナス電位の絶対値の上限が500V未満の装置であっても良い。
実施例1の特徴的な構成であるフィルム25について説明する。フィルム25は、可撓性を有する直径30mmの筒状のもので、半円弧状のフィルムガイド部材29に対してルーズに外嵌されている。
実施例1のフィルム25が全面オフセット及び剥離オフセットの抑制を両立させるために有している特性について説明する。フィルム25は、フィルム25の単位面積当たりの厚み方向の電気抵抗値(Ω・cm)は、図2に示すように、フィルム25の厚み方向の抵抗値がフィルムの電位が550〜700Vの範囲で急激に下がる特性を有している。
尚、図2は、フィルム25が定着可能な温度(140℃)である場合の特性である。この厚み方向の抵抗値が急激に下がる電位となる印加電圧を降伏電圧と称す。
実施例1のフィルム25は、フィルム25の厚み方向の抵抗値が、フィルム25の表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲で5×1011(Ω・cm)以上で、1000V以上の範囲で5×10(Ω・cm)以下であるという特徴を有する。
尚、上記の500Vは、全面オフセット対策のためにフィルム25に印加するバイアスの最大値である。また、上記の1000Vは、記録材の後端がフィルムから剥離する際にフィルムに形成される剥離帯電電位のうち、実用上画像不良として認識されるオフセットを引き起こす最小の電位である。
また、実施例1の抵抗値測定で用いた測定器の抵抗値下限の測定限界は1×10Ω・cmであるため、図2において1×10Ω・cmと記載している抵抗値は測定限界を下回っており、実際にはさらに低い抵抗値になっていると考えられる。
次に、上記のフィルム25の特性で全面オフセットを抑制できる理由を説明する。前述したように、実施例1では、加圧ローラ26の表層263は、ピュアのフッ素樹脂を用いているため、記録材との摺擦で加圧ローラ26の表層263はトナーと同極性の電荷で帯電してしまう。そこで、実施例1では全面オフセット対策としてフィルム25の表面の電位が−400Vになるようにバイアスを印加している。これによりフィルム25の表面と加圧ローラ26の表面の間に電界を形成し、記録材P上の未定着トナーTを記録材Pに静電的に抑えつけ、全面オフセットの発生を抑制する。
しかしながら、フィルム25の厚み方向の抵抗値が小さい場合、全面オフセットの抑制効果が小さくなったり、逆に悪化したりする。なぜならフィルム25の厚み方向の抵抗値が低い場合、バイアスを印加した時にフィルム25を介して電流がリークするためである。このリークした電流は、通紙中もしくは紙間において、記録材を介して又は直接、バイアスの電荷が加圧ローラに注入され、加圧ローラ26が更にマイナス(トナーと同極性)に帯電してしまう。また、電流がリークすることでフィルム25表面電位の絶対値が小さくなる。その結果、ニップ部Nにおいて、未定着トナーTを記録材Pに抑えつける電界の力が弱まる、または、未定着トナーTを記録材Pから引き剥がす方向の電界の力が発生し、全面オフセットが発生する。
そこで、フィルム25の表面が−500V以下の範囲の電位になるようにバイアスを印加した際に、フィルム25の単位面積当たりの厚み方向の抵抗値が5×1011(Ω・cm)以上であると、電流のリークは少なく全面オフセットは発生しない。なぜなら、フィルム25の表面電位は維持され、加圧ローラ26が更にマイナスに帯電することが無く、ニップ部Nにおいて電界の力によって未定着トナーTを記録材Pに抑えつけることができるからである。
次に、剥離オフセットを抑制するために必要なフィルム25の特性について説明する。
図6は、剥離オフセットが発生した場合の剥離帯電の様子を模式的に表したイメージ図である。記録材Pがニップ部Nを通過して記録材Pの後端がフィルム25の表層253から剥離する際の記録材Pとフィルム25の間の電位差がパッシェン曲線により与えられた放電閾値を超えると放電する。その放電によってフィルム25の表面に剥離帯電領域Rが形成される。その剥離帯電領域Rはフィルムの長手方向に帯状に形成されその幅は0.1〜2mmである。
また、剥離帯電領域Rは、未定着トナー像Tを記録材に引き付けておくために記録材Pに与えた電荷と同じ極性になるため、必ずトナーと逆極性になる。ここで、放電が起こる電位差は、周辺環境の空気中に含まれる水蒸気量や記録材後端の電荷、記録材の抵抗値によって変わるため、さまざまな電圧で放電が発生する可能性がある。しかし、実際に実用上問題があるレベルの剥離オフセットは、フィルム25に形成される剥帯帯電領域Rの電位が1000V以上となった場合に発生しやすい。
剥離オフセットのレベルは、剥離帯電電荷の減衰率によって変わる。そして、この減衰率は、フィルム25の厚み方向の抵抗値が小さい程大きくなる。
実施例1において、フィルム25が1回転する間に剥離帯電電荷をフィルム25の厚み方向に通過させて除去するためには、フィルム25の厚み方向の抵抗値が5×10(Ω・cm)以下である必要がある。その理由を、厚み方向の抵抗値が5×10(Ω・cm)であるフィルム25に1000Vの剥離帯電電位が印加されたケースで計算を行い、説明する。
フィルム25の単位面積当たりの静電容量Cは、ゴムフィラーの種類にもよるが、およそ6×10−11(F/cm)である。従って、1000Vの剥離帯電電位が印加された場合の剥離電荷Qは、Q=6×10−8(Q/cm)である。一方、単位時間あたりにフィルム25からリークする電流Iは次のように計算できる。
I=1000(V)/5×10(Ω/cm)=2×10−7(A)
また、実施例1のフィルム25はΦ30mmであるため、フィルム一周にかかる時間は0.27(sec)である。従って、フィルム25が一回転する間にフィルム25からリークする電荷ΔQは次のように計算できる。
ΔQ=2×10−7(A)×0.27(sec)=5.4×10−8(Q)
よって、剥離電荷Qがフィルム25一周のうちに減衰する割合は、次のようになる。
ΔQ/Q=5.4×10−8/6×10−8=0.9(=90%)
以上から、剥離帯電電荷はフィルムが一周する間に大部分(90%)が減衰する。
フィルム25上の剥離帯電電荷が90%減衰すると、フィルム25の表面の剥離帯電の電位が100Vになるため、実用上問題にならないレベルになる。
従って、フィルム25の表面の剥離帯電の電位が1000V以上の範囲で、フィルムの厚み方向の抵抗値が5×10(Ω・cm)以下であれば、剥離オフセットを抑制することができる。
ここまで述べたことをまとめると、全面オフセット及び剥離オフセットの抑制を両立させるためには、フィルム25は次のような特性を有していれば良い。
即ち、フィルム25の厚み方向の抵抗値が、フィルム25の表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲で5×1011(Ω・cm)以上であり、1000V以上の範囲で5×10(Ω・cm)以下となる特性である。
次に、前述したフィルム25の電気抵抗値を測定する方法の一例を説明する。実施例1では、体積抵抗を測定する際に一般的に用いられる二重リング法で抵抗値の測定を行った。前準備として、抵抗値を測定するフィルム25は、60mm角の板状に切り出し、表層253側に図3に示す形状(すなわち図中のaおよびbの箇所)の金属蒸着を施し試験片を作成した。この金属蒸着を行った目的は、高抵抗な材料であっても安定して接触面積を確保することにある。なお、実施例1では、基層251としてステンレス(SUS)を用いているため、基層251側には金属蒸着を行っていない。
次に、具体的な体積抵抗値の測定方法を説明する。図4に実施例1で用いたフィルム25の厚み方向抵抗測定方法を示す。電流測定器としては、KEITHLEY社製 高抵抗測定器「MODEL 6517A」を用いた。また、本測定はフィルムの試験片をフィルム25が定着動作を行う際の温度(140℃)に加熱して行った。抵抗測定前に、主電極a、ガード電極b、対向電極cとアースをつないで電荷の除去を行った。そして、印加電圧を100〜1000Vの間で振り、それぞれ測定値が安定している電圧印加から2分後の電流値を読み、各電圧での単位面積当たりの厚み方向の抵抗値R(Ω・cm)を、以下の(式1)に従って算出した。
ここで、(式1)で用いた記号は、ρ(Ωcm):体積抵抗率、t(cm):フィルム厚さ、I(A):測定電流値、V(V):印加電圧値、r(cm):主電極の直径(=2.5cm)である。ここで、実施例1においては、単位面積当たりの厚み方向の抵抗値R(Ω・cm)は、(式1)にも示す通り、体積抵抗率ρとフィルム厚さtの積として定義した。
次に、実施例1における、前述のような抵抗特性を有するフィルム25の層構成の一例を示す。フィルム25の層構造は、図5に示すように、内側から基層251、弾性層252、表層253が設けられた複層からなる。
基層251の材料として、熱伝導性及び導電性及び耐久性を高めるためにステンレス(SUS)、ニッケル(Ni)等の薄肉金属材料を用いている。基層251は熱容量を小さくしてクイックスタート性を満足させると同時に機械的強度も満足させる必要があるため、厚みは15μm以上50μm以下とすることが望ましい。実施例1の基層251は、厚み35μmの円筒形のステンレス(SUS)素管とした。弾性層252は、シリコーンゴムを材料として形成している。この弾性層252を設けることで、トナー画像Tを包み込み、均一に熱を与えることができるようになるため、光沢度が高くでムラの無い良質な定着画像を得ることが可能になる。また、弾性層252は、シリコーンゴム単体では熱伝導性が低いため、熱伝導性フィラーを添加する。弾性層252の熱伝導率としては1.2W/mk程度を確保すると良い。
上記の熱伝導率の条件のみで熱伝導フィラーの候補を挙げると、アルミナ、金属ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛が考えられる。しかしながら、図3のようにフィルム25の厚み方向の抵抗値がフィルム25の電位が550〜700Vの範囲で急激に下がる特性を満たすためには、金属ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛のうち少なくとも一つを選択する必要がある。
アルミナはバンドキャップの値が大きく高絶縁となりやすく、ゴムに少量入れただけで降伏電圧が1000V以上になってしまうので、図3のような抵抗特性を持たせることは難しい。
前述した理由から実施例1においては、弾性層252にゴム剤であるジメチルポリシロキサン100重量部に対して、熱伝導性フィラーである金属ケイ素を400重量部含有し、その熱伝導率を1.2W/mkとしている。また、弾性層252の厚さは240μmとしている。
表層253は離型層として、高い耐摩耗性、及び、トナーに対する高い離型性が要求される。材料としては、パーフルオロアルコキシ樹脂(PFA)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン樹脂(FEP)等のフッ素樹脂が用いられる。そして、このフッ素樹脂に有機リン化合物、五酸化アンチモン、酸化チタン、リチウム塩等のイオン導電剤やカーボンブラック、カーボンナノファイバー等の電子導電剤を添加して抵抗値を調整する。また、厚さは10μmから50μm程度であることが好ましく、チューブを被覆させたものでも、表面を塗料でコートしたものであってもよい。実施例1の表層253は、フッ素樹脂としてPFAを用いている。そのPFAに(CP・BRで表される有機リン系化合物であるヒシコーリンPX−2B(日本化学工業(株)製)を7重量%混合する。PFAは、厚さが15μmのコート層とした。
プライマ層254は表層253と弾性層252を接着させるための接着層であり、低融点のフッ素樹脂やフッ素化シリコーンなどのフッ素樹脂プライマからなる。このプライマ層254には、接着性能を上げるためにシランカップリング剤等の接着成分を含有することもできる。また、カーボンブラック等の電子導電剤やイオン導電剤、帯電防止剤を添加することもできる。実施例1では導電剤及び帯電防止剤は添加せず、絶縁のフッ素樹脂層とし、その厚みを3μmとした。
実施例1の定着装置の作用効果を説明するために、比較例の定着装置との比較実験を行った結果を示す。実施例1のフィルム25は、図2に示すような電圧−抵抗特性を示す。
比較例1及び比較例2と、実施例1との相違点は、定着装置に配されるフィルム25の構成のみである。その他の構成は実施例1と同一であるので説明を省略する。図7は、比較例1及び比較例2の定着装置で用いたフィルムの表面と裏面の間に印加した電圧と単位面積当たりの厚み方向の抵抗値との関係を表したグラフである。図7によると、比較例1のフィルムのフィルム厚み方向の抵抗値は、印加電圧が100〜1000Vの範囲において5×1011(Ω・cm)以上になっている。一方、比較例2のフィルムのフィルム厚み方向の抵抗値は、印加電圧が100V以下の範囲では、5×1011(Ω・cm)以上であるものの、印加電圧が200V以上の範囲では5×10(Ω・cm)以下に低下している。尚、単位面積当たりの厚み方向の抵抗値の測定方法は、実施例1で示した方法と同じであるので省略する。
次に、比較例1及び比較例2のフィルム25の層構成の一例を説明する。表1に実施例1および比較例1及び2のフィルムの層構成についてまとめた表を示す。
比較例1及び2の基層251は、実施例1と同じステンレス(SUS)である。基層251、弾性層252、表層253の厚みおよび熱伝導率は実施例1と同じである。
比較例1については、弾性層252とプライマ層254は実施例1と同一である。比較例1のフィルムは、実施例1と表層253のみが異なる。比較例1の表層253は、導電剤を添加していないピュアPFAを用いたコーティング層としている。
比較例2の弾性層252は、シリコーンゴムの熱伝導フィラーとしては実施例1と同じく金属ケイ素を含有するが、更に導電剤としてカーボンブラックを10wt%含有している。また、比較例2の表層253は、PFAに導電剤としてカーボンブラックを5wt%含有している。比較例2のプライマ層も、導電剤としてカーボンブラックを5wt%含有している。
本検証を行った条件を述べる。本検証で用いた定着装置は、フィルムの加圧ローラへの加圧力は186.2N(19kgf)、ニップ部の幅は9mmである。試験を行った環境は、剥離オフセット及び全面オフセットが発生しやすい低温低湿環境(気温10℃、湿度15%)とした。評価紙はNeenah Bond(高抵抗紙、レターサイズ、坪量60g/m)とした。この条件で、実施例1、比較例1及び2の定着装置に連続100枚通紙し、1、10、50、100枚目の剥離オフセットと全面オフセットのレベルを評価した。また同時に、通紙中の加圧ローラ26の表面電位を、TREK社製 表面電位計 「MODEL370」を用いて測定した。
表2に、実施例1と比較例1及び2の定着装置における通紙枚数ごとの剥離オフセット及び全面オフセットのレベルと加圧ローラの表面電位を示す。表2における剥離オフセット及び全面オフセットのレベルを表す記号について説明する。表中の○は剥離、全面オフセットが発生せず良好であることを示している。また、表中の△は剥離、全面オフセットが発生するものの、許容レベルであり実用上問題がないことを示している。また、表中の×は剥離、全面オフセットが悪いレベルで発生しており実用上問題があることを示している。

表2の結果によれは、実施例1のフィルムを用いた定着装置では、連続100枚の通紙を通して、剥離オフセットと全面オフセットが共に発生せず、レベルは良好であった。また、このときの加圧ローラ26の表面電位も100枚通紙後においても−100Vであり、顕著な帯電は見られなかった。
その理由は、実施例1のフィルム25が図2に示すような抵抗特性を有するからである。すなわち、実施例1のフィルム25は、フィルム25の表面と裏面の間に、剥離オフセットとして実用上問題となる1000V以上の電圧を印加した際に、単位面積当たりの厚み方向の抵抗値が5×10(Ω・cm)以下になる。その結果、フィルム25が一周するうちに剥離帯電電荷が実用上問題のないレベルまで減衰するため、剥離オフセットは発生しない。また、実施例1のフィルム25は、フィルム25の表面と裏面の間にバ500V以下の電圧を印加した場合の単位面積当たりの厚み方向の抵抗値が5×1011(Ω・cm)以上になる。その結果、バイアスを印加した際の電流のリークが起こらず、加圧ローラ26の表面電位が維持され、且つ、加圧ローラ26の方に電流が流れて加圧ローラ26の表面のマイナス帯電が悪化することもないので、全面オフセットが発生しない。
これに対して、比較例1及び2の定着装置を用いた場合、剥離オフセットもしくは全面オフセットが発生し実用上問題のあるレベルとなった。
比較例1の定着装置では先行紙の無い1枚目こそ剥離オフセットは発生しなかったが、10枚目以降では剥離オフセットが発生し実用上問題のあるレベルであった。これは、比較例1のフィルムが、実用上問題となる剥離帯電の電位である1000Vを印加した場合においても、その単位面積当たりの厚み方向の抵抗値が5×1011(Ω・cm)以上と高いためである。その結果、フィルムが一周しても剥離帯電電荷がほとんど減衰せず、フィルムの次周において剥離帯電領域Rがトナーを吸着してしまい剥離オフセットを引き起こしてしまった。
一方、比較例2の定着装置では1枚目は加圧ローラがマイナスの電荷で帯電していないため全面オフセットの発生が無かったが、通紙枚数が増えるにつれて加圧ローラがマイナス(トナーと同極性)の電荷で帯電した。そして、10枚目で軽微な全面オフセットが発生し、50枚通紙した時点で実用上問題のあるレベルの全面オフセットが発生した。これは、比較例2のフィルムが、バイアス印加電位の絶対値である400Vを印加した場合において、その単位面積当たりの厚み方向の抵抗値が5×10(Ω・cm)以下と低いためである。その結果、バイアスが通紙中および紙間でフィルム25を介して加圧ローラ26に電流がリークすることで、加圧ローラがマイナスの電荷で帯電し、未定着トナーを記録材に抑えつける力が弱まり全面オフセットが発生した。
以上のように、実施例1のフィルムを用いれば、全面オフセットと剥離オフセットの双方の抑制を両立できるという比較例1及び2にはない作用効果があることがわかる。
尚、フィルム25の降伏電圧は、実施例1と同じである必要はない。フィルム25の厚み方向の抵抗値が、フィルム25の表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲で5×1011(Ω・cm)以上であり、1000V以上の範囲で5×10(Ω・cm)以下となるような降伏電圧であれば良い。そのためには、フィルム25の表層253に添加するイオン導電剤の添加量を増減させることや、弾性層に添加する金属ケイ素フィラーの入れ目量を増減させることが効果的である。また、弾性層の厚みを増減させることで、降伏電圧を変えることも可能である。
また、実施例1は、プライマ層を有しないフィルムにおいても、表層253にイオン導電剤や電子導電剤を含有して抵抗値を調整すれば良いので、適用できる。
また、実施例1では、フィルム25の弾性層252に含有する熱伝導フィラーとして金属ケイ素を単独で用いた。しかしながら、炭化ケイ素、酸化亜鉛のいずれかのもの、又は、金属ケイ素、炭化ケイ素、酸化亜鉛を混合したものを弾性層252に含有する熱伝導フィラーとして用いても良い。
実施例2の構成について説明する。実施例2と実施例1の定着装置の違いはフィルム25の構成のみであり、その他の実施例1と同一の構成については説明を省略する。
実施例2のフィルムで実施例1と異なる点は、表層253を高抵抗のピュアPFAとしている点と、表層253と弾性層252の間のプライマ層254にイオン導電剤を添加している点である。表3に、実施例2のフィルムの層の構成を示す。
表3に示すように、実施例2のフィルムの基層251及び弾性層252は、実施例1と同じである。表層253は、厚さを15μmのピュアのPFAを用いた。プライマ層254は、厚さ3μmのフッ素樹脂層にして、イオン導電剤を含有し抵抗値を調整した。イオン導電剤としてはカーボン、リチウム塩、有機リン化合物、ホウ素化合物塩などを用いることができる。そのうちリチウム塩としてはLiBF、LiClO、LiPF、LiAsF、LiSbF、LiSOCF、LiN(SOCF、LiSO、LiC(SOCF、LiB(Cなどを用いた。なお、実施例2ではリチウム塩のLiC(SOCFを用いる。
次に、実施例2のフィルム25の電気特性について説明する。実施例2のフィルム25の定着温度(140℃)における、フィルム25の表面と裏面の間に印加した電圧と単位面積当たりの厚み方向の抵抗値(Ω・cm)の関係を表すグラフを図8示す。
図8に示すように、実施例2のフィルム25の厚み方向の抵抗値は、600〜800Vに降伏電圧がある。その結果、フィルム25の厚み方向の抵抗値は、500V以下では5×1011Ω・cm以上になり、1000V以上では5×10Ω・cm以下になる。
このような電気特性を有するフィルム25を用いた場合、実施例1と同等の作用効果を得ることができる。すなわち、剥離オフセットと全面オフセットの抑制を両立することができる。
実施例2では、フィルム25のプライマ層が含有するイオン導電剤をリチウム塩としたが、カーボンなどの電子導電剤や、有機リン化合物などその他のイオン導電剤を用いることも可能である。また、実施例1と同様に、プライマ層254に入れる添加剤の入れ目量を増減させて降伏電圧を変えることも可能である。
実施例3の構成について説明する。実施例3と実施例1の定着装置の違いはフィルム25の構成のみであり、その他の実施例1と同一の構成については説明を省略する。
実施例3のフィルムと実施例2のフィルムの相違点は、弾性層252に含有する熱伝導フィラーを炭化ケイ素としている点と、表層253のPFAとプライマ層254のフッ素樹脂の両方が導電性添加剤を含有している点である。表4に、実施例3のフィルムの層構成を示す。
表4によれば、実施例3のフィルムの基層251は実施例1と同じく、厚み35μmのステンレス(SUS)とした。弾性層252は、シリコーンゴム100重量部に対して、熱伝導フィラーとして炭化ケイ素を300重量部含有し、熱伝導率を1.5W/mk、その厚さを240μmとした。そして、表層253およびプライマ層254は、イオン導電剤としてリチウム塩のLiC(SOCFを含有した。
表4に示すような層構成のフィルム25を用いることで、実施例1及び2と同等の作用効果を得ることができる。すなわち、剥離オフセットと全面オフセットの抑制を両立することができる。
実施例3においては、フィルム25の弾性層252が含有する熱伝導フィラーは、炭化ケイ素であったが、これに限らない。フィルム25の弾性層252が含有する熱伝導フィラーとして、金属ケイ素、及び、酸化亜鉛を単独で用いても良いし、又は、金属ケイ素、炭化ケイ素、及び、酸化亜鉛を混合させて用いても良い。また、実施例1及び2と同様に、弾性層252に入れる熱伝導フィラーの種類や混合する割合を変えることで、降伏電圧をシフトさせることも可能である。
C 定着装置
20 ヒータ
25 フィルム
26 加圧ローラ
29 フィルムガイド
50 バイアス印加手段

Claims (7)

  1. ヒータと、ヒータにより加熱される筒状のフィルムと、前記フィルムに接触してニップ部を形成する加圧部材と、を有し、前記ニップ部でトナー像を担持した記録材を搬送しながら加熱しトナー像を記録材に定着する定着装置において、
    前記フィルムの厚み方向の抵抗値は、前記フィルムの表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲では5×1011(Ω・cm)以上であり、1000V以上の範囲では5×10(Ω・cm)以下であることを特徴とする定着装置。
  2. 前記フィルムは、金属で形成した基層と、金属ケイ素、炭化ケイ素、及び、酸化亜鉛のうち少なくとも一つを含有したゴムで形成した弾性層と、導電性添加剤を含有したフッ素樹脂で形成した離型層と、を有することを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
  3. 前記フィルムは、金属で形成した基層と、金属ケイ素、炭化ケイ素、及び、酸化亜鉛のうち少なくとも一つを含有したゴムで形成された弾性層と、フッ素樹脂で形成した離型層と、接着成分を含有したフッ素樹脂で形成し前記離型層と前記弾性層を接着するための接着層と、を有し、前記離型層と前記接着層の少なくとも一方に導電性添加剤を含有したことを特徴とする請求項1に記載の定着装置。
  4. 前記ヒータは前記フィルムの内面と接触し、前記加圧部材は前記フィルムを介して前記ヒータと共に前記ニップ部を形成する請求項1〜3のいずれかに記載の定着装置。
  5. 記録材に担持したトナー像を記録材に定着する定着装置に用いられる筒状のフィルムにおいて、
    前記フィルムの厚み方向の抵抗値は、前記フィルムの表面と裏面の間に印加する電圧が500V以下の範囲では5×1011(Ω・cm)以上であり、1000V以上の範囲では5×10(Ω・cm)以下であることを特徴とするフィルム。
  6. 前記フィルムは、金属で形成した基層と、金属ケイ素、炭化ケイ素、及び、酸化亜鉛のうち少なくとも一つを含有したゴムで形成した弾性層と、導電性添加剤を含有したフッ素樹脂で形成した離型層と、を有することを特徴とする請求項5に記載のフィルム。
  7. 前記フィルムは、金属で形成した基層と、金属ケイ素、炭化ケイ素、及び、酸化亜鉛のうち少なくとも一つを含有したゴムで形成された弾性層と、フッ素樹脂で形成した離型層と、接着成分を含有したフッ素樹脂で形成し前記離型層と前記弾性層を接着するための接着層と、を有し、前記離型層と前記接着層の少なくとも一方に導電性添加剤を含有したことを特徴とする請求項5に記載のフィルム。
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