以下、本発明の実施の形態に係る誘導加熱装置を用いた誘導加熱調理器について、添付図面に従って説明する。なお、以下の説明では、方向や位置を表す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」等)を便宜上用いるが、これらは発明の理解を容易にするためであり、それらの用語によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されるべきではない。また、以下の説明では、複数の実施の形態に含まれる同一又は類似の構成には同一の符号を付す。
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱装置を示す斜視図である。また、図2は図1とは異なる方向から見た誘導加熱装置を示す斜視図である。実施の形態1に係る誘導加熱装置1は、アルミや銅など電気抵抗が小さい金属などの導電材料で形成された環状導電体(導電体)2と、被覆銅線を複数回巻いて形成したコイル3と、コイル3に高周波電流を流した時に発生する高周波磁束が環状導電体2と鎖交する磁気回路を構成するように配置された磁性体4と、コイル3に高周波電流を流すための高周波電源5によって構成される。
環状導電体2は、例えばアルミ板や銅板などを切削加工やプレス加工などにより電気的に閉じた閉回路を形成する環状に加工した後、該環状導電体2を長さ方向の途中で直角方向に折り曲げてL字型に形成してある。具体的に、環状導電体2は、絶縁材を介在させて被加熱物(共に図示せず)が載置される上面を有する水平部20aと該水平部20aの一端から上方に伸びる垂直部20bとを有する。後述するように環状導電体2には、コイル3に供給される高周波電流と同じ周波数(駆動周波数)の誘導電流が流れるので、表皮効果を考慮して駆動周波数での表皮深さの2倍以上の厚みの板材で形成すると、環状導電体2の駆動周波数での電気抵抗を小さくできるので好適である。例えば、20kHzでの表皮深さは、アルミでは約0.57mm、銅では約0.47mmであり、50kHzでの表皮深さは、アルミでは約0.36mm、銅では約0.30mmであるから、環状導電体2の板厚をアルミの場合1.14mm以上、銅の場合0.74mm以上とすれば、20〜100kHzの駆動周波数において環状導電体2の電気抵抗を最も小さくできるので、環状導電体2の板厚を駆動周波数によらず決定できる。なお、上記板厚より薄い板厚で環状導電体2を形成しても環状導電体2での消費電力が増加するだけで、本発明の効果を妨げるものではない。
同様に、環状導電体2をアルミや銅以外の金属などの導電材料で形成しても、環状導電体2での消費電力が変化するだけで本発明の効果を妨げるものではない。図1や図2に示す環状導電体2はアルミ板や銅板を環状に加工した後、L字型に折り曲げたものであるが、これに限らず外形は任意の形であってよい。これについては以下の実施の形態において応用例を交えていくつかの形状を示す。なお、環状導電体2は板状部材を加工して形成したものに限らず、棒状部材を加工して形成したものや鋳造により形成したものであってもよい。
環状導電体2の垂直部20bの背後には導線を平板状に巻いて形成したコイル3が配置されている。図示するように、コイル3の一部のコイル束分(直線部分)が環状導電体2の一方の垂直部20bの背後に配置され、コイル3の別のコイル束分(直線部分)が環状導電体2の他方の垂直部20bの背後に配置されている。コイル3は、例えば直径φ0.3mm程度の銅線を樹脂で被覆した被覆銅線を36本撚り線にした所謂リッツ線を12回平板状に巻いて形成することができる。なお、コイル3に用いるリッツ線の銅線(素線)の直径や撚り数はこれに限るものではなく、例えばリッツ線に代えて単なる被覆銅線であってもよい。当然ながら銅線でなくアルミ線であってもよい。また、コイルの巻き数もこれに限るものではなく、誘導加熱装置1の設計に合わせて任意の巻き数とすることができる。さらにはコイル3の形状も平板状に限らず、コイル3により発生した高周波磁束が環状導電体2と鎖交するものであればどのような形状であってもよい。
図示するように、環状導電体2の一方の垂直部20bとコイル3の一部のコイル束分(直線部分)の外側と、環状導電体2の他方の垂直部20bとコイル3の別のコイル束分(直線部分)の外側とをそれぞれ囲うように、角型の筒状に形成された磁性体4が配置されている。本実施の形態では、環状導電体2の垂直部20bのうち磁性体4により取り囲まれている部分、つまり、コイル3が発生する高周波磁束の影響下におかれる部分を「給電部24」と称する。磁性体4はコイル3と鎖交し、環状導電体2とも鎖交するように配置してもよい。磁性体4は、例えばIHクッキングヒータなどの誘導加熱装置で用いられているフェライトコアと同様のフェライトコアを用いることができる。あるいは厚さ0.1mm程度のケイ素鋼板などを積層して形成した鉄心コアや、アモルファス薄膜で形成したアモルファスコア、さらには鉄などの磁性体粉末を主成分として圧粉や樹脂固着などにより形成したダストコアなど他の磁性体であってもよい。磁性体4には、例えば厚さ5mmのフェライトコアが用いられる。磁性体4とコイル3及び環状導電体2との間には図示しない絶縁層が配置され電気的に絶縁される。絶縁層はガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を兼ねた絶縁物であってもよく、コイル3及び環状導電体2との間の空隙を空気層による絶縁構造としてもよいし、その空隙に空気を流通させて空気流による絶縁構造であってもよい。また、環状導電体2の表面に絶縁物を形成したものであってもよく、例えばアルミや銅の表面に酸化物を形成したものであってもよい。特に環状導電体2をアルミで形成する場合は陽極酸化処理(アルマイト処理)により簡単に強固なアルミナ層をアルミ表面に形成できるのでこれを絶縁層としてもよい。
コイル3の導線の端部は、高周波電源5に接続され、該高周波電源5からコイル3に例えば20kHz〜100kHzの高周波電力が供給されるようにしてある。なお、高周波電源5は、IHクッキングヒータなど一般的な誘導加熱装置で用いられているものと同様のものを使用できる。すなわち、IGBTやMOSFETなどの半導体スイッチング素子を用いたフルブリッジ回路やハーフブリッジ回路あるいは一石共振型回路を用いることができる(回路の詳細な説明は省略。)。
図3は図1に示す誘導加熱装置1の動作説明図である。図4は図1の面Aでの断面図である。図3では磁性体4を省略しているが、図1や図2に示すように磁性体4は配置されている。また、図3では環状導電体2に流れる誘導電流によって発生する高周波磁束で誘導加熱される矩形の皿状の被加熱物6を合わせて示した。環状導電体2のうち被加熱物6が水平部20aの近傍に配置される部分を「加熱部25」と称する。なお、被加熱物6は誘導加熱装置1の使用者が選択して使用するものであり本発明の必須要件ではないが、本発明の使用目的は被加熱物6を誘導加熱することである。
被加熱物6はIHクッキングヒータなどの一般的な誘導加熱装置で適するとされている鉄や磁性ステンレスなどの強磁性体の金属材料で形成されたものが望ましいが、非磁性ステンレスなどの体積抵抗率が大きい非磁性金属材料や炭素材料などの導電材料であってもよく、アルミや銅などの体積抵抗率が小さい金属材料であっても駆動周波数を概ね60kHz以上に高くすることによって誘導加熱できるのでアルミや銅などの体積抵抗率が小さい金属材料であってもよい。すなわち、従来知られている一般的な誘導加熱装置で誘導加熱される材料であれば何でもよい。
さらには、被加熱物6の形状も当業者が一般的な誘導加熱装置で実施している任意の形状とすることができる。図示しないが、環状導電体2と被加熱物6の間には絶縁物が介在しており、環状導電体2と被加熱物6とが電気的に絶縁される。絶縁物は環状導電体2と被加熱物6の間に配置されたガラス板やセラミック板であってもよく、被加熱物6を加熱する温度が低い場合にはプラスチックなどの樹脂製の板などであってもよい。また、環状導電体2及び被加熱物6の一方、あるいは両方の表面に形成した絶縁膜であってもよい。絶縁膜は絶縁物を塗装したり、環状導電体2や被加熱物6の表面に酸化膜を形成したりすることによって設けてもよい。環状導電体2は一周の導電体で形成されているため、一般的な誘導加熱装置のコイルのように複数周の導線で形成したものと異なり、環状導電体2に誘導電流が流れたときに発生する電圧は低い(数10V以下)。したがって、塗装や酸化膜のような薄い絶縁物であっても十分に絶縁を確保できる。
次に、動作について説明する。高周波電源5からコイル3に高周波電流(コイル電流)が供給されると、コイル3の周囲には高周波磁束φ1が発生する。高周波磁束φ1は主として磁気抵抗が小さい磁性体4を通る。磁性体4からなる磁気回路は環状導電体2と鎖交するように配置されているので、高周波磁束φ1は環状導電体2と鎖交する。その結果、環状導電体2には電磁誘導により誘導電流が流れる。すなわち、図1及び図2に示す誘導加熱装置1は、変圧器と同じ動作原理であり、コイル3を巻数Nの1次巻線とすると環状導電体2は巻数1の2次巻線になり、N:1の変圧器と考えることができる。したがって、環状導電体2にはコイル電流よりも大きな大電流が、コイル電流と同じ周波数で流れる。環状導電体2に高周波の誘導電流が流れると、図3に示すように環状導電体2の周囲に高周波磁束φ2が発生する。この高周波磁束φ2は環状導電体2の近傍に配置された被加熱物6を通過するので、被加熱物6には渦電流が発生し、この渦電流のジュール熱によって被加熱物6は誘導加熱される。
また、環状導電体2と被加熱物6は酸化膜などの極めて薄い絶縁物により絶縁されていてもよい。この場合、環状導電体2と被加熱物6の距離を極めて小さくできるので、環状導電体2の周囲に発生した高周波磁束φ2が被加熱物6に効率よく達し、誘導加熱の効率を高くできる。さらに、環状導電体2に誘導電流が流れることにより自身の電気抵抗で発生するジュール熱も被加熱物6の加熱に利用できる。
なお、誘導加熱される被加熱物6の方が環状導電体2より高温になる場合であっても、環状導電体2がジュール熱により発熱することで、被加熱物6と環状導電体2の温度差が小さくなる。つまり、被加熱物6から環状導電体2を伝わって放熱される熱量は、仮に環状導電体2が発熱しない場合に被加熱物6から環状導電体2を伝わって放熱される熱量より小さくなるため、被加熱物6の方が環状導電体2より高温の場合であっても環状導電体2の発熱を被加熱物6の加熱に利用していると言える。
このように、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱装置1は、従来の一般的な誘導加熱装置のように被覆銅線を複数回巻いて作製したコイルによって被加熱物を誘導加熱する磁束を発生させるものではないので、環状導電体2を冷却する必要がない。従来の被覆銅線を複数回巻いて作製したコイルでは銅線を被覆している被覆材料の耐熱温度以下(180〜200℃以下)にコイルの温度を保つ必要があるので、強制空冷などの方法により積極的に冷却がなされていた。しかし、環状導電体2では、例えば環状導電体2をアルミで作製した場合には、耐熱温度はアルミの融点となり700℃程度までは問題なく使用できる。
環状導電体2をさらに融点の高い銅で作製した場合には、より高い温度まで使用できる。したがって、本発明の実施の形態1に係る誘導加熱装置1では環状導電体2の冷却手段を実質的に不要にすることや、あるいは従来の被覆銅線を複数回巻いて作製したコイルを有する誘導加熱装置よりも冷却手段を簡便にできる。
なお、環状導電体2に流れる誘導電流が非常に大きいために自己発熱が大きくなり、環状導電体2の温度が例えば500℃という極めて高温になることが想定される。このような場合、図4で示す磁性体4で囲われた部分(給電部24)の温度も高温になり、この熱がコイル3に伝わってコイル3を形成する銅線の被覆材料の耐熱温度が問題となる。これを回避するには、図5に示すように環状導電体2とコイル3との間隔を大きくして磁性体4で囲われた部分の断熱能力を高めるとよい。また、磁性体4で囲われた部分の温度が高くならないように、この部分の環状導電体2の断面積や表面積を大きくして、この部分の電気抵抗を小さくしてもよい。なお、コイル3は被覆銅線により形成されているので、コイル3の温度は被覆材料の耐熱温度以下にする必要があり、図示しない空冷ファンからの送風によりコイル3が冷却されるのが望ましい。
なお、図示しないが、図3の環状導電体2の加熱部25における被加熱物6が配置される側とは反対側にフェライトコアなどの磁性体を配置すると、高周波磁束φ2の磁気回路の磁気抵抗が小さくなり、被加熱物6を誘導加熱する効率がさらに向上する。これは被覆銅線を複数回巻いて形成したコイルを用いた従来の誘導加熱装置でも用いられる手法であり、このような周知の手法を用いることも可能である。
磁性体4は、図4や図5に示すように必ずしも環状導電体2とコイル3を完全に閉じて囲う形態でなくてもよい。図6は他の形態の磁性体を用いた場合の断面図であり、図4や図5の断面図に相当する。図6では磁性体4の断面形状はコ字状になっており、磁気回路の一部が磁性体でなく空間(空気や断熱材など非磁性の絶縁物)で形成されている。このような場合、コイル3に高周波電流を流すと、図6に示すように環状導電体2と鎖交する高周波磁束φ1aと環状導電体2と鎖交しない高周波磁束φ1bが発生するが、環状導電体2と鎖交する高周波磁束φ1aによって環状導電体2に高周波の誘導電流が流れるので、上述したように環状導電体2の近傍に配置された被加熱物6を誘導加熱できる。環状導電体2と鎖交しない高周波磁束φ1bは、コイル3のインダクタンスに磁気エネルギーとして蓄積されるだけなのでエネルギー損失にはならない。図6のような断面形状の場合、環状導電体2を磁性体4が構成する磁気回路から自由に着脱できるので、用途や製造方法によっては自由に着脱できることがメリットになり得る。
図7は、さらに他の磁性体を用いた場合の断面図である。図7に示すように断面形状がE字状の磁性体4aと断面形状がI字状の磁性体4bを用いた場合であっても上述と同様である。この場合、図7に示すようにE字状の磁性体4aとI字状の磁性体4bの間に空間を設けてもよいし、空間を設けずにE字状の磁性体4aとI字状の磁性体4bを密着させてもどちらでもよい。このように、磁性体の形態は本実施形態に述べるものに限らず、コイル3に高周波電流を流した時に発生する高周波磁束が環状導電体2に鎖交するように磁気回路を構成した形態であればよい。
図8は他のコイル形態による誘導加熱装置1を示す斜視図である。また、図9は図8の面Bでの断面図である。図8及び図9に示すように、コイル3は磁性体4の一部に被覆銅線を螺旋状に巻いて形成したものである。図示しないがコイル3と磁性体4、あるいはコイル3と環状導電体2との間には、適宜断熱層や絶縁材が設けられていることは上述した図1に示す誘導加熱装置1と同様である。また、図8の環状導電体2は図1の環状導電体2と異なり、L字状に折り曲げていないが、図1と同様にL字状に折り曲げてもよく、任意の形状とすることができることは図1の誘導加熱装置1と同様である。
図8に示す誘導加熱装置1であっても高周波電源5からコイル3に20〜100kHzの高周波電流を供給すると、図9に示すようにコイル3によって高周波磁束φ1が発生し、高周波磁束φ1は磁性体4からなる磁気回路を通って環状導電体2に鎖交する。その結果、電磁誘導により環状導電体2には高周波の誘導電流が流れる。したがって、上述した図1の誘導加熱装置1と同様に環状導電体2の加熱部25の近傍に被加熱物(図示せず)を配置すると、環状導電体2を流れる高周波の誘導電流によって発生する高周波磁束で被加熱物は誘導加熱される。このように、図1や図8に示すコイル形態に限らず、他の形態であってもコイルによって発生する高周波磁束が環状導電体2と鎖交するようにコイル及び磁性体の形態を構成すれば環状導電体2の加熱部25の近傍に配置された被加熱物を誘導加熱できる。
図10は環状導電体の形態が異なる誘導加熱装置の斜視図である。上述した図1あるいは図8に示した誘導加熱装置1では、環状導電体2が一重のリング状に形成されていた。このため、誘導電流は経路の短い(つまり、電気抵抗の小さい)リングの内側に多く流れることになる。この結果、誘導電流によって発生する高周波磁束が環状導電体2のリングの内側で強くなり、環状導電体2の加熱部25近傍に配置された被加熱物の温度分布が均一にならない場合がある。
そこで、図10に示した誘導加熱装置1では、環状導電体2の加熱部25に切込み7を設け、誘導電流が流れる2つの経路I1、I2を形成した。経路I1は環状導電体2の内側であり、経路I2は環状導電体2の外側である。また、環状導電体2には経路I1と経路I2を連結するために切込みを設けずに形成した連結部20cが存在する。連結部20cはなくてもよいが、連結部20cを形成することで切込み7を設けた環状導電体2の強度を増すことができる。
また、図10では経路I1を流れる誘導電流をIa、経路I2を流れる誘導電流をIbで示した。経路I1の幅は経路I2の幅より狭くなっている。すなわち、単位長当たりの電気抵抗は経路I1より経路I2の方が小さい。その結果、誘導電流が環状導電体2の内側であり経路の短い経路I1に集中して流れるのを抑制し、経路I2にも誘導電流が分流して流れるようになる。経路I1に流れる誘導電流Iaと経路I2に流れる誘導電流Ibの大きさの比率は必ずしも等しくする必要はなく、切込み7の形状や経路I1、I2の幅を任意に変えることにより誘導電流Iaの方を大きくしたり誘導電流Ibの方を大きくしたりしてもよい。
また、誘導電流が流れる経路の数も2つに限定されるものではなく、3つ以上であってもよい。すなわち、用途目的に応じて任意の切込み7を形成し、任意の経路を形成できる。それによって所望の温度分布が得られるかどうかは、条件を複数変えたものを作製して温度分布を測定すれば容易に最適な環状導電体2を得ることができる。
実施の形態2.
本実施の形態では、実施の形態1で述べた誘導加熱装置を用いた誘導加熱調理器について説明する。本実施の形態で述べる誘導加熱装置の形態は一例であり、実施の形態1で述べた全ての誘導加熱装置をここで述べる形態に代えて適宜用いることができる。
本実施の形態で説明する誘導加熱調理器は、電子レンジあるいはオーブンレンジに実施の形態1で述べた誘導加熱装置を用いたものである。図11は実施の形態2の誘導加熱調理器を遠近法的に示した正面図であり、図12は図11の誘導加熱調理器を正面から見た断面図である。図11では図12に示した構成品のうち一部を省略して示した。誘導加熱調理器8は、鉄、ステンレス、アルミなどの金属製あるいはセラミックスや耐熱樹脂などの絶縁部材で形成された筐体9の内部に加熱庫10を有する。加熱庫10は筐体9の前面に開口した箱型形状を有し、鉄、ステンレス、アルミなどの金属で形成された右側壁11、左側壁12、後壁13、天井壁14、及び耐熱ガラスやセラミックスなどの耐熱性の非磁性絶縁物で形成された底壁15を備えている。そして、加熱庫10の前面に開閉自在の図示しない扉が配置されている。扉は従来から知られている電子レンジの扉と同一の構造で、金属製の枠体にマイクロ波が漏洩しないように金属メッシュが形成されたガラス窓を有する。
図示するように、誘導加熱装置1は誘導加熱調理器8の内部に配置されている。底壁15の下側(加熱庫10の外側)には、底壁15に近接して誘導加熱装置1の環状導電体2の加熱部25(被加熱物6を誘導加熱するための部分)が配置され、誘導加熱装置1のコイル3と磁性体4及び、環状導電体2の給電部24が加熱庫10の右側壁11の外側に配置されるように誘導加熱装置1は誘導加熱調理器8の内部に配置されている。なお、誘導加熱装置1のコイル3と磁性体4及び環状導電体2の給電部24は、加熱庫10の右側壁11の外側に配置されることに限らず、左側壁12や後壁13、あるいは天井壁14の外側に配置されるものであってもよい。すなわち、加熱庫10の金属製の壁の外側に配置されるものであればよい。
加熱庫10の右側壁11には、環状導電体2と電気的に絶縁を確保するための孔16が設けられている。孔16は一枚の金属板(右側壁11)に切込みなどにより形成したものであってもよいが、2枚の金属板を突き合わせて孔16を形成したものであってもよい。環状導電体2と右側壁11は孔16によって絶縁されているが、その絶縁距離は極めて小さいものでよく(例えば1mm以下)、マイクロ波が加熱庫10から漏洩するのを抑制できる。
さらに、誘導加熱調理器8の内部には高周波電源5が配置され、誘導加熱装置1のコイル3の両端が高周波電源5に接続されている。そして、環状導電体2の1箇所と右側壁11と高周波電源5のGND電位(基準電位)が電気的に接続されている。環状導電体2と右側壁11は導線による配線で接続してもよいが、環状導電体2の一部と右側壁11が近接するように誘導加熱装置1を誘導加熱調理器8の内部に配置し、ねじ止めなどの機械的手段により接続してもよい。加熱庫10の右側壁11は左側壁12、後壁13、天井壁14との一体成型や、各壁を別個に作製した後にねじ止めなどの機械的手段により接合することで電気的に接続される。
このように、環状導電体2と加熱庫10の右側壁11と高周波電源5を電気的に接続することで、環状導電体2にマイクロ波が照射されても、加熱庫10の壁やコイル3との間でスパーク放電が発生するのを防ぐことができる。また、環状導電体2は高導電率金属からなる1ターンの閉回路であり、従来の誘導加熱装置のコイルのように被覆銅線を複数回巻いて形成したものではないから、マイクロ波が照射されたときにコイルの線間に高電圧が発生してスパーク放電により銅線の被覆が破損することが起こらない。したがって、従来の誘導加熱コイルを有する電子レンジのように誘導加熱コイルをマイクロ波から保護する特別な手段を必要としない。
さらに、誘導加熱調理器8の内部にはマイクロ波を発生するためのマグネトロン17aが設けられ、加熱庫10の右側壁11の一部にはマイクロ波を放出するためのマイクロ放出孔17bが設けられている。そして、マグネトロン17aとマイクロ波放出孔17bは導波管17cを介して接続されている。マイクロ波放出孔17bは図示しない絶縁物により塞いでもよい。
底壁15の上面には、鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属で形成されたオーブン皿6(被加熱物)が配置され、オーブン皿6上にハンバーグなどの食材60が載せられる。また、環状導電体2の加熱部25の裏側(加熱部25とは反対側の面)には環状導電体2と所定の間隔を設けて銅やアルミなどの高導電率金属からなる防磁板18が設けられている。
防磁板18は、環状導電体2に誘導電流が流れたときに発生する高周波磁束によって加熱庫10の底壁15が誘導加熱されるのを防止するものである。環状導電体2に誘導電流が流れ、高周波磁束φ2が発生し、高周波磁束φ2が防磁板18に到達すると、防磁板18には高周波磁束φ2を妨げる向きの高周波磁束φ3を発生させるように誘導電流が流れる。そして、高周波磁束φ2とφ3が打ち消すことにより、防磁板18の外側の筐体9の下面が誘導加熱されるのを防ぐ。しかし、高周波磁束φ3は、被加熱物であるオーブン皿6の誘導加熱においても高周波磁束φ2を打ち消す働きをする。
したがって、環状導電体2と防磁板18の距離が近いと、被加熱物を誘導加熱する効率も低下する。実験によれば、環状導電体2と防磁板18との間隔は10mm以上あることが望ましく、20mm以上あれば十分である。ただし、10mm以下であっても(1mmまで近接していても)誘導加熱の効率は低下するが、誘導加熱装置として使用できる。誘導加熱の効率が低下すると環状導電体2での消費電力が増加し、環状導電体2の温度が上昇するが、実施の形態1で述べたように環状導電体2の発熱も被加熱物の加熱に役立つ。なお、環状導電体2と防磁板18の間にフェライトコアなどの磁性体を配置すれば環状導電体2と防磁板18の間隔をさらに狭くできる。
図13は、環状導電体2と防磁板18との間にフェライトコアなどの磁性体を設ける場合の断面図を示したもので、図12のI−I断面に相当する部分を示した。フェライトコアなどの磁性体19はマイクロ波を吸収するので、マイクロ波が照射されると高温になり、破損したり飽和磁束密度や透磁率が低下したりする問題がある。そこで、図13に示すように環状導電体2の幅より磁性体19の幅を狭くし、すなわち、マイクロ波から磁性体19を環状導電体2によって隠すことにより環状導電体2と防磁板18との間に磁性体19を配置し、環状導電体2と防磁板18との間隔を狭くできる。
図11及び図12に戻り、図示しないマグネトロン17aの駆動回路や誘導加熱調理器8の制御回路など一般的な電子レンジやオーブンレンジが有する部品が設けられ、全体を鉄やステンレスなどの金属で形成された筐体9で囲って誘導加熱調理器8が構成される。さらには、周知のオーブンレンジのように、加熱庫10の天井壁14の裏側にフラットヒータを設けたり、加熱庫10内部の上方にラジエントヒータやシーズヒータなどの電気抵抗式ヒータを設けたりすることもできる。
次に、動作について説明する。例えば、使用者がオーブン皿6(被加熱物)の上に未調理のハンバーグなどの食材60を載せて誘導加熱調理器8の内部に設置した後、図示しない誘導加熱調理器8の前面に設けられた調理選択メニューからハンバーグ調理を選択すると、高周波電源5からコイル3に高周波電流が供給される。そして、環状導電体2に高周波の大電流が誘導されてオーブン皿6が誘導加熱される。すると、オーブン皿6の温度が上昇し、食材60の表面が焼かれる。また、加熱庫10の上方に電気抵抗式ヒータが設置されている場合には電気抵抗式ヒータにも給電して食材60を上方からも加熱してもよい。
そして、所定時間が経過し、食材60の表面に焼き色が付いたらマグネトロン17aが作動し、マイクロ波放出孔17bから食材60にマイクロ波が照射される。これにより食材60は誘導加熱のみ、あるいは誘導加熱と電気抵抗式ヒータの併用によって表面が加熱され、マイクロ波によって内部が加熱されるので短時間に調理を完了できる。なお、誘導加熱とマイクロ波加熱は同時に行ってもよいし時分割で行ってもよい。
このように、食材60の表面加熱に最適な誘導加熱と、食材60の内部加熱に最適なマイクロ波加熱を組み合わせて調理できるので、調理時間を短縮でき、さらに使用者が複数の調理器を使い分ける煩雑さもないといったメリットが得られる。なお、本実施の形態の誘導加熱調理器8の使用方法はこれに限るものではなく、誘導加熱とマイクロ波加熱を別々に使用しても同時に使用してもよく、その使用方法は任意である。なお、本実施の形態では、底壁15の全部を耐熱ガラスやセラミックスなどの耐熱性の非磁性絶縁物で形成したが、これに限らず、底壁15の一部が耐熱性の非磁性絶縁物で形成されていればよい。
実施の形態3.
本実施の形態では、実施の形態2と同様に、実施の形態1で述べた誘導加熱装置を用いた誘導加熱調理器について説明する。本実施の形態で述べる誘導加熱装置の形態は一例であり、実施の形態1で述べた全ての誘導加熱装置をここで述べる形態に代えて適宜用いることができる。
図14は本実施の形態の誘導加熱調理器を示す遠近法的に示した正面図であり、図15は正面から見た断面図である。図14では図15に示す構成品の一部を省略して示した。誘導加熱調理器8は鉄、ステンレス、アルミなどの金属製の筐体9の内部に加熱庫10を有する。なお、筐体9は必ずしも金属製でなくセラミックスや使用温度によっては耐熱性樹脂などの絶縁物であってもよいが、コストや強度などの観点から金属製の方がよい。
加熱庫10は右側壁11、左側壁12、後壁13、天井壁14、底壁15及び図示しない開閉自在の扉によって概略直方体に形成されている。右側壁11、左側壁12、後壁13は鉄、ステンレス、アルミなどの金属製の板によって形成され、図15に示すように金属製の板を2枚、所定の空間を設けて重ね合わせることによって形成される。2枚の金属板の間の空間は断熱層の役割をしており、加熱庫10の内部の熱が加熱庫10の外部に流出するのを抑制している。なお、2枚の金属板の間にガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を設けて断熱性をさらに高めてもよく、金属板1枚で右側壁11、左側壁12、後壁13を形成して、その外側(加熱庫10の外側)に断熱材を設けてもよい。また、右側壁11、左側壁12、後壁13は耐熱ガラスやセラミックスなどの耐熱性の絶縁物で形成してもよい。また、図示しない扉も金属や耐熱性の絶縁物で形成してよく、内部が観察できるように耐熱ガラスで形成した窓を有していてもよい。天井壁14、底壁15は鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属板、あるいは非磁性ステンレスや炭素板などの体積抵抗率が大きい導電材料で形成されている。
そして、図14及び15に示すように、加熱庫10の外側であって、筐体9の内側には誘導加熱装置1が配置されている。天井壁14の上側(加熱庫10の外側)、底壁15の下側(加熱庫10の外側)には、誘導加熱装置1の環状導電体2の加熱部25が配置されている。誘導加熱装置1のコイル3及び磁性体4を有する部分(給電部24)は右側壁11の右側(加熱庫10の外側)に配置されている。
なお、誘導加熱装置1のコイル3及び磁性体4を有する部分(給電部24)は、天井壁14の一部、底壁15の一部に配置されていてもよいし、左側壁12の左側や後壁13のさらに後方に配置されてもよい。また、高周波電源5も筐体9の内側に配置される。なお、図14及び図15では誘導加熱装置1の環状導電体2の加熱部25が天井壁14と底壁15の両方に面する(すなわち天井壁14と底壁15の両方を誘導加熱する)ように配置しているが、天井壁14又は底壁15のいずれか一方のみに面して、いずれか一方のみを誘導加熱するものであってもよい。また、右側壁11、左側壁12、後壁13のいずれかの構造を天井壁14あるいは底壁15の構造にして、その壁面に面するように環状導電体2の加熱部25を配置し、右側壁11、左側壁12、後壁13のいずれかの壁を誘導加熱してもよい。
また、天井壁14と底壁15の両方を誘導加熱する場合であっても、天井壁14のみを誘導加熱するべく配置した誘導加熱装置1と、底壁15のみを誘導加熱するべく配置した誘導加熱装置1の2個の誘導加熱装置を筐体9の内側に配置し、天井壁14と底壁15をそれぞれ個別に誘導加熱してもよい。さらには例えば、天井壁14と後壁13というように互いに直交する2つの壁を誘導加熱するように、2つの壁に面する形状に環状導電体2の加熱部25を形成し、2つの壁を同時に誘導加熱してもよい。
天井壁14及び底壁15と環状導電体2の加熱部25は、互いに近接して配置される。実施の形態1で述べたように、被加熱物である天井壁14及び底壁15と環状導電体2は電気的に絶縁されている必要があるので、天井壁14及び底壁15と環状導電体2の間に耐熱性の絶縁シートを配置して絶縁したり、天井壁14及び底壁15と環状導電体2の両方あるいはいずれか一方の表面に絶縁塗装や酸化被膜形成などにより絶縁膜を形成して絶縁したりしている。
環状導電体2は実施の形態1で述べたように冷却する必要がないが、天井壁14及び底壁15の熱が環状導電体2を伝わって外部に流出するのを抑制するため、天井壁14及び底壁15と環状導電体2の加熱部25との間にガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を配置してもよい。
天井壁14の上側で天井壁14に面して配置された環状導電体2の加熱部25の上側(加熱部25とは反対側)、及び底壁15の下側で底壁15に面して配置された環状導電体2の加熱部25の下側(加熱部25とは反対側)のそれぞれに、環状導電体2の加熱部25と所定の間隔を設けて銅やアルミなどの高導電率の金属板からなる防磁板18が配置される。防磁板18を配置する理由は実施の形態2で述べたとおりであり、防磁板18は実施の形態2述べたとおりの作用をする。
環状導電体2と防磁板18の間に設けた空間は断熱層としての働きも兼ねており、加熱庫10の熱が誘導加熱調理器8の筐体9の外側に流出するのを抑制している。したがって、環状導電体2と防磁板18との間は空気(単なる空間)であってもよいが、ガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を介在させてもよい。
また、環状導電体2の加熱部25の天井壁14及び底壁15に面した側と反対側(環状導電体2の加熱部25と防磁板18の間)にフェライトコアなどの磁性体を配置し、天井壁14及び底壁15を誘導加熱する磁束密度を大きくして誘導加熱の効率を向上させてもよい。これも実施の形態2で述べたとおりであるが、本実施の形態では磁性体にマイクロ波は照射されないから、実施の形態2で述べたように環状導電体2で磁性体を隠すような配置でなくてもよい。すなわち、磁性体の配置方法は任意である。フェライトコアなどの磁性体は温度が高くなると飽和磁束密度が低下し、キュリー点以上の温度になると透磁率が急激に小さくなるから、使用温度によっては環状導電体2の加熱部25と磁性体との間にガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を介在させるとよい。鉄心コアやダストコアなどは200℃程度の高温の環境下でもフェライトコアよりも十分大きい飽和磁束密度が得られてキュリー点も十分高いので、フェライトコアに代えて鉄心コアやダストコアを使用してもよい。この場合、フェライトコアを用いた場合よりも高い温度であってもよいので環状導電体2と磁性体との間の断熱構造を簡略化できる。
次に、動作について説明する。図15に示すように誘導加熱調理器8の内部には食材60などの被加熱物が図示しない扉から入れられる。被加熱物は底壁15の上に直接置かれてもよいが、図15に示すように焼き網51の上に置かれてもよい。誘導加熱調理器8の加熱庫10の内部に被加熱物(食材60)が置かれ、図示しない扉を閉じた後、高周波電源5からコイル3に高周波電流が供給されると、実施の形態1で述べたように環状導電体2に高周波の大電流が誘導される。環状導電体2に高周波の大電流が流れると、実施の形態1で述べたように環状導電体2の周囲に高周波磁束が発生し、環状導電体2の加熱部25に面して配置された加熱庫10の天井壁14及び底壁15は誘導加熱され発熱する。天井壁14及び底壁15が発熱すると加熱庫10内の空気が対流伝熱によって高温に加熱され、加熱庫10の内部に設置された食材60などの被加熱物は高温の空気からの対流伝熱によって加熱される。すなわち、誘導加熱調理器8はオーブンとして動作する。
誘導加熱調理器8はオーブンとして動作するため、加熱庫10の内部の空気温度は200〜300℃に達する。その場合、天井壁14及び底壁15は加熱庫10の内部の空気温度より高温になるが、本発明の誘導加熱装置1では実施の形態1で述べたように誘導加熱するための環状導電体2を冷却する必要がなく、天井壁14及び底壁15が200〜300℃以上の高温になっていても、天井壁14や底壁15に近接して環状導電体2の加熱部25を配置できるので誘導加熱の効率を高くでき、しかも何ら冷却手段を必要としない。なお、誘導加熱装置1のコイル3及び磁性体4を配置した部分(給電部24)はコイル銅線の被覆材料の耐熱温度以下にする必要があるので、この部分は送風冷却手段などにより冷却される。さらに環状導電体2の加熱部25が自己の電気抵抗とこの部分を流れる誘導電流によるジュール熱で発熱しても、この熱は実施の形態1で述べたように加熱庫10の加熱に利用されるから誘導加熱調理器8の加熱効率を高めることができる。
なお、図14及び図15の誘導加熱調理器8に、実施の形態2で述べたようにマグネトロンを配置してマイクロ波加熱を併用した誘導加熱調理器を得ることも可能である。この場合、環状導電体2や環状導電体2の加熱部25に配置された磁性体は、天井壁14及び底壁15によりマイクロ波照射から遮断されるので、実施の形態2で述べたような環状導電体2と加熱庫10の壁面を電気的に接続する処置は必要ない。
図16は、図15に示した誘導加熱調理器8の天井壁14と底壁15の材質が異なる他の誘導加熱調理器を正面から見た断面図である。図16に示す誘導加熱調理器8は、天井壁14及び底壁15が耐熱ガラスやセラミックスなど耐熱性の非磁性絶縁物で形成されている。すなわち、実施の形態2で示した誘導加熱調理器からマグネトロンなどのマイクロ波照射に用いる構成品を削除したものである。なお、天井壁14及び底壁15の一部が耐熱ガラスやセラミックスなど耐熱性の非磁性絶縁物で形成されていてもよい。図16の誘導加熱調理器8は、加熱庫10の内部に設置された被加熱物を上下から誘導加熱できる。被加熱物であるオーブン容器26は鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属で形成された箱の形態をしており、内部に食材60(被加熱物)を収容する容器部26aと容器部26に対して取り外し可能な蓋部26bとからなる。容器部26aに食材60などを入れ、蓋部26bにより蓋をしたオーブン容器26を加熱庫10の内部に設置し、誘導加熱装置1のコイル3に高周波電源5から高周波電流を供給すると、上述したように容器部26a及び蓋部26bが誘導加熱される。その結果、オーブン容器26は高温になり内部の食材60は加熱調理される。なお、被加熱物はここで述べたオーブン容器26のように該オーブン容器26内部で加熱処理するものに限らず、例えば、オーブン容器26の内部を上下方向に仕切る取り外し可能な中蓋を設け、オーブン容器26内の上部空間と下部空間で別個の被加熱物を誘導加熱することも可能であり、使用方法は任意である。
このように、天井壁14及び底壁15を磁性金属材料で形成するか、絶縁物で形成するかによって誘導加熱調理器の用途を容易に変更できる。例えば製品のラインナップに本実施の形態で述べた2種類の誘導加熱調理器8を用意する場合、天井壁14と底壁15の材質のみを2種類用意しておくことで簡単に2種類の製品を実現できる。また、天井壁14及び底壁15を着脱可能にして磁性金属板と絶縁物板の交換を可能にする構造とすれば、使用者が用途に応じて2種類の誘導加熱調理器を使い分けることもできる。
実施の形態4.
本実施の形態では、実施の形態2及び実施の形態3と同様に、実施の形態1で述べた誘導加熱装置を用いた誘導加熱調理器について説明する。本実施の形態で述べる誘導加熱装置の形態は一例であり、実施の形態1で述べた全ての誘導加熱装置をここで述べる形態に代えて適宜用いることができる。
図17は本実施の形態4の誘導加熱調理器を示す一部分解斜視図であり、図18は誘導加熱調理器の断面図である。本実施の形態で述べる誘導加熱調理器8は、所謂IHクッキングヒータとして周知の誘導加熱調理器の誘導加熱用のコイルに代えて本発明に係る誘導加熱装置を用いたものである。したがって、本実施の形態3で述べた形態に限らず、他の形態のIHクッキングヒータであっても誘導加熱用のコイルに代えて本発明に係る誘導加熱装置を用いることができる。
図17及び図18において誘導加熱調理器8は、箱形の筐体(誘導加熱調理器本体)31を有する。筐体31の上面は、鍋やフライパンなどの被加熱物を載置するトッププレート32で覆われている。トッププレート32は耐熱ガラス、セラミックス、耐熱樹脂などの耐熱性絶縁物で形成される。なお、図17では、筐体31とトッププレート32を分離して示したが、実際には図18に示すように筐体31の上にトッププレート32が配置され一体に固定されて使用される。筐体31は鉄、ステンレス、アルミなどの金属材料であっても、セラミックス、樹脂などの絶縁物材料であってもどちらでもよく、使用目的に合わせて選択すればよい。
図示するように、筐体31の内側に本発明に係る誘導加熱装置が配置される。本実施の形態では本発明に係る誘導加熱装置を2個配置した場合について述べるが、1個であってもよく、3個以上であってもよい。また、従来の被覆銅線を複数回巻いて形成した誘導加熱コイルと併用してもよい。誘導加熱装置1a,1bはそれぞれの環状導電体2a,2bの加熱部25a,25bが誘導加熱調理器8の左右に配置され、トッププレート32の裏側に近接あるいは密着するように配置される。
環状導電体2a,2bの加熱部25a,25bの裏側にはフェライトコアなどの磁性体34a,34bを配置してもよい。環状導電体2a,2bに誘導電流が流れた時に発生する高周波磁束は図3に示したように誘導電流の流れる経路に対して直交する方向であるから、棒状の磁性体を配置するときは環状導電体2a,2bの誘導電流の経路と垂直に棒状磁性体の長手方向を合わせて配置するとよい。なお、磁性体34a,34bは必ずしも必要ではなく、磁性体34a,34bを環状導電体2a,2bの裏側に配置することで被加熱物である鍋36aやフライパン36bを誘導加熱する効率が良くなる。さらに、図示していないが実施の形態2や実施の形態3で示したように環状導電体2a,2bの裏側(磁性体があるときは磁性体よりさらに下側)に銅やアルミなどの高導電率の金属板からなる防磁板を配置してもよい。
図17では誘導加熱装置1a,1bのコイル3a,3b、磁性体4a,4b(給電部24a,24b)は誘導加熱調理器8の中央部に配置したが、特にこれに限るものではなく任意である。また、誘導加熱装置1aのコイル3aは高周波電源5aに接続されている。一方、誘導加熱装置1bのコイル3bは高周波電源5bに接続されており、該高周波電源5a,5bから各コイル3a,3bに高周波電流が供給されるようにしてある。また、図示していないが誘導加熱調理器8の内部には空冷ファンが設けられ、コイル3a,3bと高周波電源5a,5bに送風してこれらを冷却する。
次に、動作について説明する。高周波電源5a及び5bから誘導加熱装置1a,1bのコイル3a,3bに20〜100kHzの高周波電流が供給されると、実施の形態1で説明したように環状導電体2a,2bに誘導電流が流れ、トッププレート32の上に載置された被加熱物である鍋36aやフライパン36bが誘導加熱される。環状導電体2a,2bに誘導電流が流れることによって環状導電体2a,2b自身もジュール熱によって発熱するが、実施の形態1で述べたように環状導電体2a,2bの加熱部25a,25bを冷却する必要がないから、環状導電体2a,2bの発熱も被加熱物である鍋33aやフライパン33bを加熱するのに役立ち、効率良く被加熱物を誘導加熱できる。さらに、環状導電体2a,2bの加熱部25a,25bの下側に、これらを冷却するための部材を必要としないので環状導電体2a,2bの下側に回路を配置するなど有効にスペースを使うことができ誘導加熱調理器8を小型にできる。
さらには、環状導電体2a,2bの上方に空気流を流すための隙間を必要としないので、環状導電体2a,2bをトッププレート32に近接させて被加熱物との距離を短くして誘導加熱の効率を高くできる。なお、上記実施の形態1に記した誘導加熱装置を用いた誘導加熱調理器は上記実施の形態2〜4の誘導加熱調理器に何ら限定されない。従来の導線を複数回巻いて形成したコイルを用いたほとんど全ての誘導加熱装置のコイルの代わりに本発明の誘導加熱装置を用いることができる。
実施の形態5.
本実施の形態では、実施の形態2、実施の形態3及び実施の形態4と同様に、実施の形態1で述べた誘導加熱装置を用いた誘導加熱調理器について説明する。本実施の形態で述べる誘導加熱装置の形態は一例であり、実施の形態1で述べた全ての誘導加熱装置をここで述べる形態に代えて適宜用いることができる。
図19は本実施の形態5の誘導加熱調理器を示す正面図であり、遠近法的に示した。また、図20は誘導加熱調理器8を正面から見た断面図、図21は誘導加熱調理器8を側面から見た断面図である。誘導加熱調理器8は鉄、ステンレス、アルミなどの金属製あるいはセラミックスや耐熱樹脂などの絶縁部で形成された筐体9の内部に加熱庫10を有する。加熱庫10は筐体9の前面に開口した箱型形状を有し、右側壁11、左側壁12、後壁13、天井壁14、底壁15を備えている。
加熱庫10の右側壁11、左側壁12及び底壁15は、鉄やステンレスなどの金属製あるいはセラミックスや耐熱ガラスなどの絶縁物で形成されている。右側壁11、左側壁12、底壁15は断熱構造を有しており、加熱庫10内の熱が加熱庫10の外部に放出されるのを抑制している。具体的には、例えばこれらの壁を2枚の金属板で形成し、2枚の金属板の間に空間を形成してこれを断熱層としてもよいし、この空間にガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を入れて断熱層としてもよい。また、1枚の金属板で形成する場合であってもその外側にガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を設けて断熱構造としてもよい。これらの壁をガラスやセラミックスなどの絶縁物で形成する場合であっても同様である。
加熱庫10の後壁13は、セラミックスや耐熱ガラスなどの非磁性絶縁物で形成されている。図21に示すように、後壁13は、加熱庫10の下部の中央部を外側に折り曲げて、加熱庫10内の水平方向に伸びるコ字状断面の溝部42を形成している。溝部42には、電気的な閉回路を形成する導電体からなるヒータ45の一部が挿入される。
ヒータ45は、ステンレスや高ニッケル合金などの金属棒や金属パイプを所定の形状に曲げて、両端を互いに溶接やロウ付けなどによって接合して1ターンの無端状に形成したものである。そして、加熱庫10の右側壁11、左側壁12には棚部46a,46bが形成されており、ヒータ45は溝部42と、右左両側壁11,12の下段位置に形成された棚部46a,46bによって支持され、加熱庫10の内部に設置される。したがって、ヒータ45は溝部42と棚部46a,46bに支持されているだけであり、何ら電気接点を持たないので加熱庫10から着脱自在である。そのため、使用者は調理後にヒータ45を取り外して加熱庫10内部を容易に清掃できる。また調理の目的に応じて異なる形状のヒータに交換することもできる。
加熱庫10の天井壁14は、鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属、あるいは非磁性ステンレスやグラファイト板などの炭素素材からなる板によって形成されている。天井壁14を炭素素材からなる板で形成したときには、誘導加熱により炭素素材を発熱させて、炭素素材からの輻射により食材を調理することができるので炭火焼きの効果が得られる。なお、天井壁14の一部を鉄や磁性ステンレスなどの磁性金属、あるいは非磁性ステンレスやグラファイト板などの炭素素材からなる板によって形成してもよい。
天井壁14の上側には、本発明の誘導加熱装置の環状導電体2の加熱部25が配置される。環状導電体2と天井壁14は実施の形態1で述べたように、絶縁物や絶縁膜により電気的に絶縁されている。例えばマイカは耐熱温度が高く、薄くても丈夫なものが得られるので、マイカ板やマイカシートを環状導電体2と天井壁14との間の絶縁物として用いてもよい。また、天井壁14を誘導加熱により高温(例えば600℃以上)にするときは環状導電体2と天井壁14との間にセラミックウールなどの断熱材を設けて天井壁14の熱が環状導電体2を伝わって外部に流出しないようにしてもよい。天井壁14を例えば700℃以上に加熱するときは、環状導電体2がアルミの場合は軟化するので環状導電体2は銅で形成される。環状導電体2を銅で形成する場合、予め高温加熱や陽極酸化などの化学的手法により環状導電体2の表面に酸化膜(酸化銅)を形成したり、環状導電体2の表面をニッケルメッキ処理したりして、環状導電体2が高温環境に曝されても銅の表面に錆(酸化銅)が生じないようにしておくとよい。
環状導電体2の上側には所定の空間を隔てて銅やアルミなどの高導電率金属からなる防磁板18が設けられている。環状導電体2と防磁板18の間の空間は断熱層として機能し、この空間は空気であってもよいが、ガラスウールやセラミックウールなどの断熱材を設けてもよい。また、環状導電体2の加熱部25の上側にフェライトコアなどの磁性体を配置するときには環状導電体2と磁性体との間にセラミックウールなどの断熱材を設けるとよい。また、環状導電体2と防磁板18の間に耐熱性の絶縁物からなる耐熱板を設け、環状導電体2と耐熱板の間の空気と、耐熱板と防磁板18の空気を遮断してもよい。この場合、フェライトコアなどの磁性体を配置するときには、耐熱板と防磁板18との間に磁性体を配置するとよい。さらに耐熱板と防磁板18との間に空気流を流して、耐熱板と防磁板18との間の空気が高温となるのを抑制してもよい。フェライトコアなどの磁性体は、高温環境に配置されると飽和磁束密度が低下するなどにより十分に機能を発揮しない場合がある。しかし、耐熱板と防磁板18の間に空気流を流すことで磁性体が配置される環境の温度を低下できるので、環状導電体2により天井壁14を効率よく誘導加熱できる。このような耐熱板としてはセラミック板やマイカ板などを用いることができる。
そして、環状導電体2の給電部24は加熱庫10の後壁13の裏側に設けられた誘導加熱装置1の磁性体4aと鎖交する。図21では環状導電体2の給電部24の断面を丸で示してあるが、これは環状導電体2の加熱部25が金属板で形成され、給電部24が丸棒で形成され両者が溶接やロウ付けにより接合されていることを意味している。このように、環状導電体2の給電部24を丸棒で形成することにより電気抵抗を小さくして給電部24が環状導電体2を流れる誘導電流によるジュール熱で発熱して高温になるのを防いでいる。なお、丸棒の代わりに丸パイプであってもよく、銅で形成した場合、肉厚0.74mm以上の丸パイプであれば表皮効果により20〜100kHzで丸棒より電気抵抗を小さくできる。当然のことながら丸棒や丸パイプではなく、角棒や角パイプなど他の断面形状であってもよい。また、実施の形態1で示したように一枚の金属板を加工して環状導電体2の加熱部25と給電部24を一体形成したものであってもよい。
図22は、誘導加熱装置1のコイル3と磁性体4a及び磁性体4bの構造を示す斜視図である。磁性体4bはヒータ45の加熱に用いられる。コイル3は直径φ0.3mm程度の被覆銅線を複数本(例えば38本)撚り線にした所謂リッツ線を平面状に複数回(例えば15回)巻いて作製したものである。そして、コイル3の同一方向の線束(一部のコイル束分と別のコイル束分)を囲うように磁性体4a,4bが設けられる。なお、図22では磁性体4aはロ字状(角型の筒状)で示したが、磁性体4bのようにコ字状であってもよい。磁性体4aがコ字状であってもよいということは実施の形態1の図6で示したとおりである。図21に示すように、磁性体4aと環状導電体2の給電部24との間には断熱材52aが設けられる。
一方、後壁13の溝部42を形成したコ字状断面の外側にはガラスウールやセラミックウールなどの断熱材52bが設けられ、さらにその外側にはコ字状断面のフェライトコアなどからなる磁性体4bが設けられる。そして、磁性体44bと断熱材52bとの間にはコイル3が設けられる。なお、断熱材52a,52bは必ずしも必要ではなく、断熱材52a,52bの代わりに空気層や空気流により環状導電体2の給電部24とコイル3の断熱を確保してもよい。
そして、誘導加熱装置1の外側には誘導加熱装置1のコイル3を囲うようにアルミや銅などの高導電率の金属板からなる防磁カバー55が設けられる。防磁カバー55はコイル3からの漏れ磁束が誘導加熱調理器8の筐体9を誘導加熱することによる無駄な電力消費を抑制する目的で設けられる。具体的に、コイル3からの漏洩磁束が防磁カバー55に到達すると、電磁誘導によって防磁カバー55には漏洩磁束を打ち消す方向に誘導電流が流れ、防磁カバー55から外側に漏れる磁束を相殺できる。防磁カバー55は高導電率の金属で形成されているので、漏洩磁束により発生する誘導電流がジュール熱として消費する電力は小さく、漏洩磁束が筐体9に到達して筐体9を誘導加熱するときの消費電力に比べ無駄な消費電力を抑制できる。また、防磁カバー55はコイル3を冷却するための風洞を兼ねており、防磁カバー55に設けられた空冷ファン56からの送風によってコイル3は冷却される。
誘導加熱調理器8の加熱庫10の前面には耐熱ガラスや金属などの耐熱性材料からなる開閉自在な扉53が設けられている。扉53は加熱庫10の内部あるいは外部に設けられたスライドレール54に固定されており、スライドレール54に導かれて開閉することにより加熱庫10への食材60の出し入れができるようになっている。また、扉53の開閉とともに前後に移動する脂受け皿50と焼き網51が加熱庫10の内部に配置される。
次に、動作について説明する。高周波電源5からコイル3に20〜100kHzの高周波電流が供給されると、実施の形態1で説明したように環状導電体2には高周波電流が流れ、環状導電体2の加熱部25に面して配置された天井壁14を誘導加熱する。同様にヒータ45にもコイル3が発生する高周波磁束が磁性体4bを通り、ヒータ45と鎖交するので、ヒータ45にも高周波の誘導電流が流れる。ヒータ45はステンレスや高ニッケル合金で形成されているため、環状導電体2よりも電気抵抗が大きく、ヒータ45に流れる誘導電流とヒータ45の電気抵抗によって発生するジュール熱によりヒータ45は高温になる。その結果、加熱庫10の内部に配置された食材60は天井壁14とヒータ45からの輻射伝熱と、天井壁14とヒータ45によって高温に加熱された加熱庫10の内部の空気による対流伝熱によって加熱調理される。
次に、実施の形態5に係る他の誘導加熱調理器について、図23〜図25を参照して説明する。図23は、実施の形態5に係る他の誘導加熱調理器8を後方から見た主要部の斜視図である。図24は、誘導加熱調理器8の側面断面図である。図23及び図24に示すように、誘導加熱調理器8は、磁性体4aの一部に誘導加熱装置1のコイル3aが螺旋状に巻かれ、磁性体4bの一部にヒータ45のコイル3bが螺旋状に巻かれており、それぞれのコイルが高周波電源5に接続されている。高周波電源5からは各コイル3a,3bのそれぞれに独立して高周波電力が供給されてもよいし、一体的に高周波電力が供給されてもよい。また、コイル3aとコイル3bを直列あるいは並列に接続して高周波電源5に接続してもよい。なお、図23及び図24に示すコイル3a、コイル3bに代えて、図21に示したコイルを用いることも可能である。さらに、図19、図20、図21に示した誘導加熱調理器に図23、図24で示すコイル3a、コイル3bを適用も可能である。
図23に示すように、環状導電体2は、実施の形態1で説明した環状導電体2と同様に、水平部20aと、垂直部20bを有する。さらに、垂直部20bの一端が上側に折り返された折り返し部20cを有する。図示するように、垂直部20bの一部と折り返し部20cが磁性体4aにより取り囲まれ、給電部24を形成している。
図23、図24に示すように、誘導加熱調理器8は、環状導電体2の加熱部25に面して配置された天井壁14がパンチングメタルで形成されている。天井壁14のパンチングメタルとしては、例えば板厚0.3〜0.5mmで、円形の孔が千鳥状に配置された磁性ステンレスや非磁性ステンレスを用いることができる。天井壁14と、環状導電体2の加熱部25との間は、環状導電体2の表面に形成した酸化膜で電気的に絶縁される。しかし、パンチングメタル(天井壁14)の孔を介して食材60から出た油煙などが加熱部25に付着し、当該加熱部25が腐食する虞があるので、天井壁14と加熱部25との間にセラミックや耐熱ガラスあるいはマイカ板などの非磁性絶縁物で形成した絶縁板44を設けることが好ましい。
図25は環状導電体2の展開図である。図示するように、環状導電体2は銅板を切削して作製される。環状導電体2の加熱部25は単純なループ形状ではなく複数回折り曲げられた形状をしている。図示するように、環状導電体2の磁性体4aにより取り囲まれる部分、すなわち、破線II―IIの両側の部材(垂直部20bの一部と折り返し部20c)の幅W1,W2は、略等しい長さ(例えば、W1,W2をそれぞれ1.0倍)に形成されている。そして、図25の破線II―IIで180°折り曲げて(谷折り)(W1+W2)/2とし、破線III−IIIで90°折り曲げて(山折り)L字状に形成して、図23のように誘導加熱調理器8に配置される。上述のように環状導電体2を作製することにより、環状導電体2の給電部24の奥行き方向の長さを大きくすることなく簡単に給電部24の電気抵抗を小さくして加熱時の発熱を抑制できる。
なお、幅W1,W2の長さを上述の長さの1.5倍又は2.0倍とし、当該部材を例えば、2回又は3回折り曲げてもよいし、幅W1,W2の長さを0.5倍に形成して給電部24を更に小型にしてもよい。なお、環状導電体2の加熱部の形状も図25に示したものに限らず任意の形状であってよい。
次に、誘導加熱調理器8の動作について説明する。高周波電源5からコイル3a、コイル3bに高周波電力が供給されると、磁性体4a、磁性体4bを磁路とする高周波磁束φa、φbが発生し、高周波磁束φaは環状導電体2と鎖交し、高周波磁束φbはヒータ45と鎖交して、電磁誘導により環状導電体2、ヒータ45それぞれに誘導電流が流れる。
ヒータ45は、誘導電流と自身の電気抵抗によるジュール熱で発熱する。環状導電体2は他の実施の形態で述べたように、環状導電体2の加熱部25に近接して配置された天井壁14を誘導加熱する。加熱部25で発生する高周波磁束は、加熱部25の銅板近傍が最も強いので、天井壁14は環状導電体2の加熱部25の形状に沿って渦電流が発生し誘導加熱される。
天井壁14がパンチングメタルであるため、孔の部分では電力は消費されず、残りの金属部分で電力が消費される。したがって、孔の無い無垢の金属板に比べて金属部分の電力密度は大きくなり、コイル3aに入力される電力が同一の場合、パンチングメタルの金属部分の温度は高温になる。また、誘導加熱によって発熱した熱は熱伝導により、天井壁14の周辺部に広がっていくが、パンチングメタルの天井壁14は熱伝導に寄与する金属部分が少なく、熱伝導率が小さい。これにより、天井壁14の周囲に熱が広がるのを抑制する。
このような作用により、パンチングメタルで形成した天井壁14は、入力電力が少ない場合であっても局所的に高温になり、局所的に高温になった部分から多くの赤外線を放射するので、加熱庫10内の食材60は赤外線による輻射加熱で効率よく調理される。
赤外線を多く放射するためには、天井壁14の温度が700℃以上であることが望ましいが、このような高温では磁性ステンレスであってもキュリー点を超えて磁性がなくなるため、非磁性ステンレスの天井壁14であってもよいし、ステンレス以外の他の金属材料の天井壁14であってもよい。また、天井壁14からの赤外線の放射率を高くするため、天井壁14の表面に黒色塗料を塗布することや、酸化膜を形成することも可能である。なお、実施の形態3の図14や図15示した誘導加熱調理器であっても、天井壁14や底壁15をパンチングメタルで形成してもよい。
なお、本実施の形態では天井壁14を誘導加熱したが、これに限らず、右側壁11、左側壁12又は底壁15のいずれかを誘導加熱してもよい。また、天井壁14を絶縁物で形成し、図16のように天井壁14の近傍に配置された金属からなる被加熱物を誘導加熱してもよい。
今回、開示した実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は、上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲での全ての変更を含む。