以下、本発明の加熱装置を採用した加熱調理器の実施の形態について、添付図面に従って説明する。以下の各実施の形態では、主としてIHクッキングヒータの加熱庫に好適な加熱調理器の形態を説明するが、オーブンレンジやオーブントースタ等の他の形態を有する加熱調理器にも同様に採用できるほか、例えば工業用の焼成炉や乾燥炉等、工業用の加熱装置にも同様に採用できる。
なお、以下の説明では、方向や位置を表す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」等)を便宜上用いるが、これらは発明の理解を容易にするためであり、それらの用語によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されるべきではない。また、以下の説明では、複数の実施の形態に含まれる同一又は類似の構成には同一の符号を付す。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る加熱調理器1の正面断面図である。また、図2は図1におけるI−I方向から見た加熱調理器1の横断面図である。実施の形態1に係る加熱調理器1は、鉄板やステンレス板或いは銅やアルミなどの金属板で形成された箱形の筐体(調理器本体)2を有する。筐体2の左側には加熱庫(オーブン加熱部)3が配置され、筐体2の右側には電源回路4が配置されている。
なお、IHクッキングヒータの場合は図1で示す加熱調理器1の上部に鍋加熱のためのコイルや鍋を載置するトッププレートなどを有するが、本実施の形態では省略する。すなわち図1で示す加熱調理器1の上にコイルやトッププレートなどを配置した形態とすればIHクッキングヒータとして利用でき、図1に示すような加熱調理器1をIHクッキングヒータの加熱庫として利用できる。
加熱庫3は、筐体2の前面に開口した箱型形状を有し、鉄板(亜鉛めっき鋼板、炭素鋼板などの鋼板を含む)、磁性又は非磁性のステンレスなどの鋼板、銅やアルミ或いはそれらの合金などの非磁性金属板などで形成された上壁5a、下壁5b、側壁5c,5d(これらを総称して加熱庫3の「壁部」5という)を備えている。
図1及び図2に示すように、壁部5は2枚の金属板で構成され、2枚の金属板の間に空間を設けて空間内の空気を断熱層として機能させてある。なお、壁部5の外側は、セラミックウール等の熱伝導率の低い断熱材(図示せず)で外装し、加熱庫3の内部の熱が外部に放熱されるのを抑制してもよい。なお、内側と外側の2枚の金属板との間に断熱材を充填してもよい。また、壁部5を1枚の金属板で形成し、その外側に熱伝導率の低い断熱材で外装して加熱庫3の内部の熱が外部に放熱されるのを抑制してもよい。
加熱庫3の前面には、耐熱ガラスや金属などの耐熱性の材料からなる前壁(扉)6が設けられており、前壁6は開閉自在で加熱庫3への食材60の出し入れができるようになっている。具体的に説明すると、通常のオーブン加熱部と同様に、加熱庫3内の側壁5c,5dに設けられた一対の引き出しレール11と前壁6とが連結され、焼き網12と脂受け皿13を前壁6の開閉と連動させて出し入れできるようにしてある。なお、前壁6を開閉自在にするための機構は本発明とは直接関係なく、公知のIHクッキングヒータやオーブンレンジなど他の加熱調理器と同様の構造とすることができる。
加熱庫3の後部にはコイルユニット7を備えており、コイルユニット7はセラミックスなどの非磁性の絶縁物からなる耐熱性の耐熱基材8を有し、耐熱基材8が加熱庫3の後壁を形成している。すなわち、上壁5a、下壁5b、側壁5c,5d、前壁6(扉)と耐熱基材8(後壁)により加熱庫3は概略直方体の箱型を形成している。
コイルユニット7について具体的に説明する。耐熱基材8は、上部と下部の中央部をコ字状に外側へ折り曲げて、加熱庫3内の水平方向に伸びる上部溝部15、下部溝部16を形成している。耐熱基材8の上部溝部15、下部溝部16を囲うように、断面略コ字状の上部断熱材18と下部断熱材19が配置され、上部断熱材18と下部断熱材19の外側にはそれぞれ、導線を平面状に巻いて形成したコイル20が配置されている。コイル20は、一部のコイル束分が上部断熱材18の背後に配置され、別のコイル束分が下部断熱材19の背後に配置されている。さらに、上部断熱材18と下部断熱材19の背後に位置するコイル束分と、上部溝部15と下部溝部16を囲うように、断面コ字状の上部磁性体21と下部磁性体22がそれぞれ配置されている。
耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16を囲う上部断熱材18と下部断熱材19は、加熱庫3内の熱がコイル20に伝わり、コイル20が高温になるのを防止する目的で設けられる。上部断熱材18と下部断熱材19の材質は、例えばセラミックウール材やガラスウール等で形成されている。また、上部断熱材18と下部断熱材19に代えて、これらの断熱材18,19が設けられる空隙を空気断熱層として構成してもよいし、その空隙に空気を流通させて断熱効果を高める構造としてもよい。更に、上部断熱材18、下部断熱材19とコイル20との間に空隙を設け、その空隙に空気を流通させることもできる。
コイル20は、例えば直径0.2mmの銅線を樹脂等で被覆したものを複数本(例えば、90本)撚り線にした所謂リッツ線を長円状又は矩形状に(例えば、17回巻回)して形成される。コイル20の導線の端部は、電源回路4に接続され、該電源回路4からコイル20に例えば20kHz〜100kHzの高周波電力が供給されるようにしてある。なお、電源回路4は、一般的なIHクッキングヒータ等で採用されている公知のIGBTやMOSFETなどの半導体スイッチング素子を用いたフルブリッジ回路やハーフブリッジ回路或いは一石共振型回路を用いることができるので、詳細な説明は省略する。
なお、上部磁性体21と下部磁性体22の材質は、一般的なIHクッキングヒータのトッププレートの下に配置された加熱コイルに用いられるフェライトコアと同じ材料を用いることができる。
図3及び図4に示すように、上部磁性体21と下部磁性体22はそれぞれ、加熱庫3の幅方向に所定の間隔をもって2個ずつ配置されている。このように上部磁性体21と下部磁性体22を配置すると、上部磁性体21及び下部磁性体22に覆われていない中央部の上下のコイル束分に、後述する空冷ファン24からの冷却風を直接当てることができ、コイルユニット7を効果的に冷却できる。本実施の形態では、上部磁性体21と下部磁性体22を加熱庫3の幅方向に2個ずつ配置しているが、その個数は何ら制限されるものではない。例えば上部磁性体21と下部磁性体22を2個以上ずつ配置してもよいし、上部磁性体21と下部磁性体22を1個ずつ配置してもよい。
コイルユニット7の背後には、コイルユニット7全体を囲うように、断面略コ字状の防磁カバー23が配置されている。防磁カバー23の背面には、通風口(図示せず)を介して空冷ファン24が取り付けられている。空冷ファン24は防磁カバー23内のコイル20を冷却するものであり、通電時にコイル20の温度が180℃以下(導線の被服材料の耐熱温度以下)に保持できるように設計されている。
防磁カバー23は、例えば銅やアルミニウム等の非磁性で、且つ高導電率の板部材で形成され、コイルユニット7からの漏洩磁束で筐体2を誘導加熱することによる無駄な電力消費を抑制する目的で設けられる。具体的に、コイルユニット7からの漏洩磁束が防磁カバー23に到達すると、電磁誘導によって防磁カバー23には漏洩磁束を打ち消す方向に誘導電流が流れ、防磁カバー23から外側に漏れる磁束を相殺できる。防磁カバー23は高導電率の金属で形成されているので、漏洩磁束により発生する誘導電流がジュール熱として消費する電力は小さく、漏洩磁束が筐体2に到達して筐体2を誘導加熱するときの消費電力に比べ無駄な消費電力を抑制できる。なお、防磁カバー23は、コイルユニット7を冷却するための風洞としても機能する。
加熱庫3の内側には、導電体からなる無端状の上部ヒータ(熱源)25と下部ヒータ(熱源)26が配置されており、該上部ヒータ25、下部ヒータ26の一部は耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16に収容されている。また、図2に示すように、上部ヒータ25、下部ヒータ26のその他の一部は側壁5c,5dの内側で、且つ側壁5c,5dの上段位置と下段位置に形成された棚部14により支持されている。
上部ヒータ25と下部ヒータ26は、後述するコイル20から生じる一の高周波磁束と1回鎖交する電気的に閉じた閉ループ(閉回路)を構成したものである。具体的に、上部ヒータ25と下部ヒータ26は例えば、ステンレス鋼、高ニッケル合金(例えば、JIS規格でNCF600やNCF800など)の棒やパイプをループ状に形成して閉回路を構成するものであってよい。また、鉄、銅合金、アルミ合金など他の金属材料やグラファイトなどの炭素材料、或いは2種類以上の導電材料を組み合わせて作製してもよい。
なお、上部ヒータ25と下部ヒータ26は、棒のみ又はパイプのみで形成してもよいし、例えば棒とパイプとを溶接やロウ付けで接合したものであってもよい。また、上部ヒータ25と下部ヒータ26とは棒やパイプに代えて、例えば金属板を打ち抜き加工して無端状にしてもよいし、また例えば、金属板に複数の切り込み加工を施すことにより該金属板を無端状に形成することもできる。上部ヒータ25、下部ヒータ26の材質についても、ステンレス鋼、高ニッケル合金に代えて、鉄、銅合金、アルミニウム合金等の金属材料やグラファイト等の炭素材料、或いは2種類以上の導電体を組み合わせたものであってもよい。
上部ヒータ25、下部ヒータ26は、動作時における耐食性が優れていることが必要である。つまり、加熱調理器1での調理時、調理に用いている油分、醤油や塩分等が上部ヒータ25又は下部ヒータ26の表面に接触することがある。この時、ヒータ表面は約800℃以上の高温であるため耐食性が劣る材料の場合、塩分等によってヒータ表面に溶融塩が生成し、ヒータの腐食が激しく進行してヒータ機能を喪失する虞がある。このため、耐食性が劣る材料をヒータに使用するときは、セラミックスやガラス等の耐熱・耐食材料で上部ヒータ25と下部ヒータ26の表面に保護コーティングを施すことや、酸化皮膜を形成するとよい。
棚部14は、例えば側壁5c,5dを製作する際、板金加工や溶接により側壁5c,5dと一体的に形成してもよいし、棚部14を金属やセラミックス等別の部材で形成した後、側壁5c,5dに取り付けることもできる。
なお、上部ヒータ25、下部ヒータ26の表面には絶縁コーティングが施されておらず、各棚部14と側壁5c,5dが電気的に接続されている場合、上部ヒータ25、下部ヒータ26を流れる誘導電流が各棚部14から側壁5c,5dを伝わって流れる虞があるため、少なくとも上部ヒータ25、下部ヒータ26と、各棚部14のいずれか一方に絶縁物をコーティングする必要がある。このような絶縁コーティング材は、加熱調理器1での調理時に上部ヒータ25と下部ヒータ26を油煙から保護する防汚コーティングを兼ねたものであってもよい。
なお、上部ヒータ25、下部ヒータ26の支持方法は上述した形態に限らず他の方法であってもよい。本実施の形態の加熱調理器1は、上部ヒータ25、下部ヒータ26の一部は耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16に収容され、該上部ヒータ25、下部ヒータ26のその他の一部は側壁5c,5dの内側に形成された棚部14により支持されている。また、上部ヒータ25、下部ヒータ26の表面又は棚部14の少なくとも一方をセラミックス等の絶縁材でコーティングしている。このように、上部ヒータ25、下部ヒータ26は何ら電気的接点を有さず加熱庫3から着脱自在となるため、使用者は調理後に上部ヒータ25、下部ヒータ26を取り外して加熱庫3内部を容易に清掃できる。
図1に示すように、実施の形態1の加熱調理器1は加熱庫3の内部の有効スペースを大きくするため、上部ヒータ25と下部ヒータ26の側面から見た断面形状がそれぞれ異なっている。図示するように上部ヒータ25は側面から見た断面形状において、上部溝部15近傍から斜め上方に折り曲げられ、そこから更に上壁5aと平行となるように折り曲げられている。一方、下部ヒータ26は、側面から見た断面形状において折り曲がった部分を有しない。
具体的に、上部ヒータ25と上壁5aとの最接近距離が約10mm以下に設定され、下部ヒータ26と下壁5bとの距離が約30mm以下に設定されている。このように、上部ヒータ25と下部ヒータ26の形状を異なるものとすることで、使用者が上部ヒータ25、下部ヒータ26を加熱庫3の内部に取り付ける際、取り付け場所の誤認を防止できる。
また、図4に示すように、上部ヒータ25と下部ヒータ26は加熱庫3の奥行き方向及び幅方向に複数回折り曲げられて1ターンの閉回路状に形成している。このようにヒータを加熱庫3の奥行き方向及び幅方向に複数回折り曲げることで加熱庫3内における所望の温度分布が得られる。上部ヒータ25と下部ヒータ26の折り曲げ回数や折り曲げ後の形状は加熱調理する食材によっても適宜に変更可能であり、その形状は図4で示した形状に限らず、1ターンの閉回路状に形成するものであれば任意の形状でよい。
加熱庫3の内部には、上部ヒータ25と下部ヒータ26の間に焼き網12が配置され、下部ヒータ26の下に脂受け皿13が配置される。
また、図示しないが、加熱庫3の後方には、加熱庫3内で加熱調理する際、食材60から発生した煙や蒸気或いは臭い等を外部に排出するための図示しない排気口が設けられている。
次に、実施の形態1の加熱調理器1の動作原理について説明する。図4は加熱調理器1の主要部を示す斜視図である。図4ではコイル20と、上部磁性体21及び下部磁性体22と、上部ヒータ25及び下部ヒータ26と、電源回路4のみを示したが、他の部材が図1や図2に示すように構成されて加熱調理器1が実現される。また、図5はコイルユニット7と、耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16に収容された上部ヒータ25及び下部ヒータ26の断面と、コイル20に高周波電流が流れたときに発生する磁束φ1、φ2、φ3の様子を示した図である。
図4に示すように、コイル20に電源回路4から20kHz〜100kHzの高周波電力が供給されると、コイル20の導線には高周波電流が流れる。この高周波電流によってコイル20の周囲に正逆反転する高周波の磁束(φ1、φ2、φ3)が発生するが、発生した磁束の大部分(φ1、φ2)は磁気抵抗が小さい上部磁性体21と下部磁性体22を通って上部ヒータ25と下部ヒータ26と鎖交する。上部ヒータ25と下部ヒータ26には電磁誘導により誘導電流が流れ、誘導電流の大きさの2乗と上部ヒータ25と下部ヒータ26の電気抵抗に比例したジュール熱が発生し、これにより上部ヒータ25と下部ヒータ26は発熱する。
電磁誘導によって上部ヒータ25と下部ヒータ26に誘導電流が流れる原理は変圧器と同じ原理であり、コイルの巻数をNの1次巻線とすると、ヒータは巻数1(1ターン)の2次巻線と考えることができ、N:1の変圧器と同様に考えることができる。つまり、巻線比がN:1の変圧器と同じ原理である。このため、コイル20側の電圧をV1、電流をI1としたとき、上部ヒータ25と下部ヒータ26側に発生する電圧V2と電流I2はそれぞれ、V2=V1/N、I2=I1・Nとなる。したがって、2次巻線に相当する上部ヒータ25と下部ヒータ26に低電圧・大電流の電力を印加できる。なお、厳密にはコイル20と上部ヒータ25と下部ヒータ26との結合係数を考慮する必要があるが、説明を簡単にするため、ここでは理想変圧器として説明した。
ここで例えば、上部ヒータ25、下部ヒータ26をそれぞれ外形φ5mm、肉厚0.8mmの非磁性ステンレスのSUS316のパイプで作製したとすると、20kHz〜100kHzでの表皮深さは肉厚の0.8mmより大きいので表皮効果を考慮しなくてもよいため、各ヒータ25,26の電気抵抗は1mあたり約70mΩである。仮にパイプの肉厚を0.4mmとしても上部ヒータ25、下部ヒータ26の電気抵抗は1mあたり約120mΩである。各ヒータ25,26の全長が2mとすると、ヒータ全長の電気抵抗は、肉厚0.8mmのパイプを用いた場合は約140mΩ、肉厚0.4mmのパイプを用いた場合は約240mΩとなる。上部ヒータ25、下部ヒータ26に2kWの電力を印加する場合、各ヒータ25,26の消費電力はそれぞれ約1kWであるから、各ヒータ25,26の電気抵抗と消費電力からそれらに流れる誘導電流の大きさを計算すると、肉厚0.8mmのパイプの場合で約85A、肉厚0.4mmのパイプの場合で約65Aの高周波の大電流が上部ヒータ25、下部ヒータ26に流れていることになる。当然のことながら上部ヒータ25と下部ヒータ26に用いるパイプの肉厚をさらに薄くすればヒータの電気抵抗が大きくなり、ヒータに流れる誘導電流は小さくなるが、ヒータの強度が低下して形状を保持できなくなるので実用的ではない。
このように、上部ヒータ25及び下部ヒータ26に高周波の大電流が流れると、上部ヒータ25及び下部ヒータ26と壁部5との間に相互誘導が生じ、壁部5の内壁が誘導加熱される。このため、コイル20側から見た負荷抵抗が増大し、コイル20の抵抗の割合が低減するので、コイルの電力損失を小さくできる。なお、コイルの電力損失の低減効果の詳細な説明については後述する。
高周波電力が印加された上部ヒータ25と下部ヒータ26は約800℃以上になり、ヒータからの輻射熱によって食材60は輻射加熱される。また、上部ヒータ25と下部ヒータ26に流れる高周波の大電流によって壁部5の内壁が誘導加熱されて発生した熱は加熱庫3内の空気(雰囲気)を加熱する。そして、加熱庫3内部の加熱された高温の空気(雰囲気)は対流伝熱によって食材60を間接的に加熱する。なお、加熱庫3内の熱は、壁部5が2枚の金属板の間に空間を設けた空気断熱層を有するので、外側に放散せず、加熱調理器1の加熱効率は低下しない。
このように、加熱庫3に収容された食材60は、上部ヒータ25及び下部ヒータ26からの輻射熱及び加熱庫3内の高温空気により加熱されて調理される。加熱により食材60から生じる脂は、脂受け皿13で受けられる。
ここで、本実施の形態の加熱調理器1と特許文献1に記載された加熱調理器を比較する。特許文献1の加熱調理器はオーブン皿の脚部に埋め込まれた被誘導コイルとリボン状或いは線状のヒータが接続されている。被誘導コイルは導線を複数回巻いたものであるため大型化している。また、2次側である被誘導コイルの巻数が大きいので2次側に発生する電圧は大きくなり、リボン状や線状の電気抵抗が大きいヒータであっても電流を流すことができる。したがって、リボン状や線状のヒータの両端に印加される電圧は高いが、ヒータに流れる電流は小さくなる。しかし、本実施の形態の加熱調理器1では、原理的には同じ電磁誘導を利用したものであるが、上部ヒータ25、下部ヒータ26には特許文献1のような被誘導コイルは存在せず、極めて簡単な構造により着脱自在なヒータを実現している。
さらに、図5を参照して動作原理を詳しく説明する。コイル20に高周波電流を流すと、磁気抵抗が小さい上部磁性体21と下部磁性体22を通ってコイル20の周囲に高周波で正逆反転する磁束φ1、φ2、φ3が発生する。コ字状断面の上部磁性体21、下部磁性体22の凹部の幅はほぼ一定であるため、この凹部内の磁束密度はほぼ一定となる。
図示するように、磁束φ1は、耐熱基材8の上部溝部15に収容されている上部ヒータ25の断面と、下部溝部16に収容されている下部ヒータ26との断面を横切らずに上部ヒータ25、下部ヒータ26と鎖交する磁束である。この磁束φ1が上部ヒータ25と下部ヒータ26全体に誘導電流を流すのに最も有効に作用する。
磁束φ2は上部ヒータ25、下部ヒータ26の断面を横切って上部ヒータ25、下部ヒータ26と鎖交する磁束であって、上部ヒータ25、下部ヒータ26に誘導電流を流すのに有効に作用するが、磁束φ2が横切った上部ヒータ25、下部ヒータ26の断面に渦電流を生じ、この部分を誘導加熱する。
このため、上部ヒータ25、下部ヒータ26の中で耐熱基材8の上部溝部15、下部溝部16に収容された部分は、ヒータ全体を流れる誘導電流と磁束φ2によって発生する渦電流により加熱されるので、他の部分よりも高温になり易い。したがって、例えば上部ヒータ25、下部ヒータ26のうち、上部溝部15と下部溝部16に収容される部分を中実材で形成し、その他の部分をパイプで形成して、それらを溶接又はロウ付け等により接合して上部ヒータ25と下部ヒータ26を製作することが好ましい。このようにすれば、給電部(中実材)の電気抵抗をヒータ部(パイプ)の電気抵抗よりも小さくでき、給電部の温度上昇を抑制してヒータ部でより多くの熱を発生できる。
磁束φ3は、上部ヒータ25、下部ヒータ26と鎖交しない磁束である。この磁束φ3は単にコイル20のインダクタンスに磁気エネルギーとして蓄える磁束であり、上部ヒータ25と下部ヒータ26全体には誘導電流を流すのに何ら作用しない。
本発明の加熱装置を採用した加熱調理器の原理的な等価回路は相互誘導回路で表すことができる。図6は図4に示すコイル20と、上部磁性体21及び下部磁性体22と、上部ヒータ25、下部ヒータ26と電源回路4からなる加熱調理器1を示す等価回路である。なお、図6の等価回路では説明を簡単にするため上部ヒータ25、下部ヒータ26を一体とし、上部磁性体21、下部磁性体22も一体として示し、加熱庫3の壁部5など他の部材は無いものとして示した。図6において、Rcはコイルの抵抗、Lcはコイルのインダクタンス、Rhはヒータの抵抗、Lhはヒータのインダクタンス、Icはコイル電流、Ihはヒータ電流、Mは相互インダクタンス、Eは電源電圧、ωは電源の角周波数である。この等価回路から、ヒータに流れる電流の実効値|Ih|、電源から見たインピーダンスZ、この回路の消費電力Pを求めると以下のようになる。
ここで、Ra,Laを[数2]のようにおくと、[数1]の式(1)及び式(3)は以下のように式(2´)及び式(3´)になる。
コイルの消費電力は|Ic|
2Rcであるから、コイルの損失Lossは、全消費電力Pのうちのコイルの消費電力の割合であるので、コイルの損失Lossは[数3]のようになる。[数3]の式(4)は、Raが大きいとコイル損失Lossが小さくなることを示している。コイルの損失を小さくできると、加熱調理に利用されない無駄な電力が削減されるだけでなく、コイルを冷却する空冷ファンの能力を小さく(つまり、空冷ファンの小型化)できることや、電源回路やトッププレート用コイルの空冷ファンと共用できるという効果がある。
図7は、壁部5を非磁性の絶縁性セラミックスで形成して、耐熱基材8の上部溝部15、下部溝部16に上部ヒータ25及び下部ヒータ26を収容した状態でコイル20の両端をインピーダンスアナライザに接続し、周波数を40Hz〜100kHzまで変化させたときの壁部5の抵抗Ra(Ω)とコイル損失(%)の関係を示したグラフである。
被測定物の等価回路は図6で示したものと同じである。実験では、コイル20と、上部磁性体21及び下部磁性体22と、上部ヒータ25及び下部ヒータ26以外に電磁気的作用をするものは存在しない状態で実施した。
インピーダンスは式(2´)、コイル損失は式(4)で表される。先ず、上部ヒータ25及び下部ヒータ26が無い状態でインピーダンスを測定すると、コイルの抵抗Rcが得られる。次いで、耐熱基材8の上部溝部15、下部溝部16に上部ヒータ25及び下部ヒータ26を収容してインピーダンスを測定すると、Rc+Ra(コイルの抵抗とRaの合計)が得られる。これら2つの値から、Raとコイル損失Lossを計算することができる。なお、図中のコイル損失Lossは百分率で示した。最もコイル損失が小さい周波数20kHz〜30kHzでのコイル損失は約7.5%であった。
図8は、壁部5を磁性材料の鉄板で形成して、耐熱基材8の上部溝部15、下部溝部16に上部ヒータ25及び下部ヒータ26を収容した状態でコイル20の両端をインピーダンスアナライザに接続し、周波数を40Hz〜100kHzまで変化させたときの壁部5の抵抗Ra(Ω)とコイル損失(%)の関係を示したグラフである。
図示するように、コイルの抵抗Rcは、コイル20と、上部磁性体21及び下部磁性体22と、上部ヒータ25及び下部ヒータ26以外に電磁気的作用をするものは存在しないときの抵抗であるから、図7で示したコイルの抵抗Rcと同一である。一方、Raは図7と比較して大きくなっていることが解る。これは、上部ヒータ25及び下部ヒータ26と壁部5(上壁5a、下壁5b及び側壁5c,5d)との相互誘導により、Raが増加したためである。Raが増加したため、最もコイル損失が小さい25kHz〜35kHzでのコイル損失は約6%になっている。また、20kHz〜100kHzの任意の周波数で図7と図8を比較しても、図8の場合の方がコイル損失は小さいことが解る。
ここで例えば、コイル20の入力端子から2kWの電力を印加して加熱調理器1を加熱する場合について考える。加熱庫3の壁部5が非磁性の絶縁物で構成されている場合、コイル損失が最も小さい周波数でのコイル損失は約7.5%であるから、約150Wの電力がコイル20で消費されることになる。一方、加熱庫3の壁部5が鉄板で構成されている場合、コイル損失が最も小さい周波数でのコイル損失は約6%であるから、約120Wの電力がコイルで消費されることになり、その差は30Wである。これは、コイルの冷却を考えた場合、120Wや150Wに対して30Wであるから消費電力として無視できない値である。
コイル損失により発生した熱はコイル20の温度上昇を招くため、通常、空冷ファンにより送風冷却が行われる。上述したように、空冷ファンは、コイル温度を銅線の被服材料の耐熱温度以下で動作させなければならず、例えば180℃以下に保たれるようにファンの容量が設計されている。コイル損失を30W小さくできれば、空冷ファン24の能力又は回転数を下げることや、空冷ファン24から発生する駆動音を軽減することが可能となり、空冷ファン24の消費電力の低減及び空冷ファン24の長寿命化を実現できる。
また、コイル20に直接送風する専用の空冷ファン24を設けずに、電源回路4や例えばトッププレート用のコイルを冷却するための空冷ファンから分流した風によってコイル20を冷却する場合であっても、コイル20の冷却のために分流する風量を少なくすることができるので、より多くの風量を電源回路4やトッププレート用のコイルを冷却するために用いることができる。
すなわち、本実施の形態の加熱調理器1では、コイル20の冷却が容易で、しかも、コイル20を冷却するための冷却手段を簡素化できる。なお、コイル20の冷却手段はここで述べたもの以外であっても冷却手段を簡素化できる効果が得られることは言うまでもない。
図9は、上壁5aのみを非磁性の絶縁物で形成し、下壁5b及び側壁5c,5dを磁性材料の鉄板で形成した場合の、Raとコイル損失Lossとの関係を示したグラフ(図中のC)である。本図には、比較のため図7と図8で得られたRaとコイル損失Lossとの関係を示すデータを載せている。図中のAは、壁部5が非磁性の絶縁性セラミックスで形成した場合のRaとコイル損失Lossとの関係を示したデータ(図7)である。図中のBは、壁部5が磁性材料の鉄板で形成した場合のRaとコイル損失Lossとの関係をしたデータ(図8)である。
図において、AとCとを比較すれば明らかなように、上壁5a以外の下壁5b及び側壁5c,5dが磁性材料の鉄板で形成した場合であっても、コイル損失Lossを小さくできることが解る。一方、図においてBとCを比較すると、上壁5aのみが磁性材料の鉄板から非磁性の絶縁物に代えることで、コイル損失Lossの増加は25kHz〜30kHzで約1ポイント大きくなっており、これはAとCとの差と同等である。すなわち、上壁5aのみを磁性材料の鉄板としただけでもコイル損失Lossを大幅に低減できることを示唆している。
上壁5aのみを磁性材料の鉄板としただけでもコイル損失Lossを大幅に低減できる理由について検討すると、実験に使用した加熱調理器1は、構成の説明で述べたように上部ヒータ25と上壁5aとの距離が約10mm以下に設定され、下部ヒータ26と下壁5bとの距離が約30mm以下に設定されている。このため、上部ヒータ25と上壁5aとの間で生じる相互誘導が下部ヒータ26と下壁5bとの間で生じる相互誘導よりも大きくなると考えられる。また、上部ヒータ25及び下部ヒータ26と側壁5c,5dとの間の最接近距離は5mm以下であるが、ヒータ25,26は図4に示した構造であるため、極一部しか側壁5c,5dと近くなく、ヒータ25,26と側壁5c,5dとの相互誘導はあまり大きくないものと考えられる。なお、本実験では、脂受け皿13(通常、鉄板等の金属で形成される)は加熱庫3内に設置していない。鉄板などの金属製の脂受け皿13を用いる場合には下側ヒータ26と脂受け皿13との相互誘導が発生し、下側ヒータ26と下壁5bとの相互誘導と同様の効果を奏する。
本実験では、加熱庫3の壁部5が誘導加熱されやすい磁性材料の鉄板で形成した場合について述べたが、壁部5を磁性ステンレスで形成した場合についても同様に、コイル損失を低減する効果が顕著であることは言うまでもない。また、壁部5を非磁性ステンレスで形成した場合であっても、非磁性ステンレスで形成された鍋がIHクッキングヒータで誘導加熱されることから明らかなようにコイル損失を低減できる。更に、銅やアルミ或いはそれらを主成分とする合金であっても、これらの非磁性、高導電率の金属材料も効率的ではないが、IHクッキングヒータで誘導加熱されることから明らかなようにコイル損失を低減できる。このように、壁部5が少なくとも導電材料で形成されていればコイル損失を低減できる。そして、壁部5に用いる導電材料がコイル損失を低減するか否かということは、ここで述べたように、壁部5の全部或いは一部を非磁性の絶縁物で形成した場合(或いは壁部5が存在しない場合)と、導電材料で形成した場合とで、インピーダンスアナライザにより抵抗を測定してRa又はコイル損失Lossを求めることにより容易に判別できる。
ここで、本実施の形態の加熱調理器1と、特許文献1に記載された加熱調理器との差異を明確するため、特許文献1に記載された加熱調理器について検討する。特許文献1に記載された加熱調理器のヒータであっても、ヒータに20kHz〜500kHzの高周波電流が誘導されるため、加熱庫の筐体が金属製の場合、相互誘導が生じてコイル損失を低減する効果があるのではないかとも考えられる。しかし、特許文献1に記載された加熱調理器のヒータは、薄いリボン状又は線状のヒータであって、先に述べたようにヒータの電気抵抗が大きく、流れる電流は小さい。このようなヒータでは、仮にヒータと金属製の加熱庫筐体との間で相互誘導があったとしても、加熱庫筐体の壁部の電気抵抗はヒータの電気抵抗に比べ無視できるほどに小さいからその効果は極めて小さく、コイル損失を低減する効果はほとんど皆無である。そして、特許文献1に記載された加熱調理器において、加熱庫の筐体が金属製の場合であっても、コイル損失を低減する効果がないことを調べるには、上述の実験と同様に、特許文献1の誘導コイルと被誘導コイルを対向させて配置したときの、誘導コイルの両端からインピーダンスアナライザによって抵抗を測定してRaやコイル損失Lossを求め、これらを加熱庫の筐体が金属の場合と非磁性絶縁物の場合で比較すればよい。
図10は特許文献1に記載された加熱調理器の原理図である。図10ではコイルの様子を分かりやすくするために特許文献1の表記とは異なり、コイルを巻線で示した。誘導コイル(導線を複数回巻いて形成)50によって発生する磁束φ51は、磁性体52を通り、導線を複数回巻いて形成した被誘導コイル53と鎖交する。このとき、被誘導コイル53に電磁誘導で発生した電圧により、ヒータ54に誘導電流が流れて該ヒータ54が発熱する。
ここで、被誘導コイル53の巻数をNとすると被誘導コイル53はNターン(巻数がN)のコイルであると定義できる。被誘導コイル53は巻数が大きいので、被誘導コイル53の両端に高い電圧が発生し、ヒータ54の電気抵抗が大きくてもヒータ54の消費電力を十分に大きくして調理に必要な熱量を得る。
図示するように、誘導コイル50によって発生する一の磁束φ51は被誘導コイル53とN回鎖交している。図10では磁束を2本示しているが、マクスウェル方程式により磁束φ51は連続であることが要求されるから、2本の磁束φ51は合成されたり分離されたりすることなく、それぞれが単一のループを構成する。つまり、図10のように2本の磁束φ51を考えた場合であっても、2本のうちの任意の1本の磁束、すなわち誘導コイル50によって発生する一の磁束は、Nターンの被誘導コイル53とN回鎖交する。
これに対し、本実施の形態の加熱調理器1は、図5に示したコイル20によって発生する一の磁束は上部ヒータ25又は下部ヒータ26と1回鎖交するだけである。これは、上部ヒータ25、下部ヒータ26が1ターンの閉ループを構成しているためであり、一の磁束と1回しか鎖交しないということは、ヒータ25,26が1ターン(巻数が1)であるということと同義である。なお、コイル20によって発生する磁束と何ら電磁気的作用をしない部分でヒータ25,26が複数ターンになる構造を有していても、これが電磁誘導に何ら影響を与えることはないので、本発明の趣旨からして無視して扱ってよいことは言うまでもない。
電磁誘導により上部ヒータ25又は下部ヒータ26に誘起される電圧は低くなるので、ヒータの抵抗が大きいときにはヒータに大きな電流を十分に流すことができず加熱調理に必要な熱量が得られない。すなわち、本実施の形態の加熱調理器1のようにコイル20によって発生する一の磁束と1回しか鎖交しないヒータ25,26では、既に述べたようにヒータ25,26の電気抵抗は一般的なヒータと比較してかなり小さく、必要な熱量を得るために大電流が流れる。これにより、金属で形成された壁部5が誘導加熱されるため、コイル損失Lossを低減できる。
なお、ヒータ25,26の形状を工夫し、コイルによって発生する一の磁束と2回鎖交するようにしても、電流値は小さくなるものの、ヒータ25,26にはやはり高周波の大電流が流れて本実施の形態の加熱調理器1と同様にコイル損失Lossを低減できる。しかし、この場合、ヒータの構造が複雑になるため製造コストが高くなり、取扱いも不便になることを考慮する必要がある。
すなわち、本発明は、コイル20によって発生する一の磁束と1回鎖交する1ターンの電気的な閉ループ(閉回路)で構成されたヒータを用いた加熱調理器に最適である。
以上に述べたように、本発明の加熱装置を採用した加熱調理器においては上部ヒータ25、下部ヒータ26に流れる高周波の大電流により、鉄板などの金属で形成された加熱庫3の壁部5が誘導加熱される。図1、図2に示すように、加熱庫3の壁部5は、内側金属板と外側金属板との間に空気層などの断熱層を有する2枚の金属板で構成されている。或いは、壁部5が1枚の金属板で形成される場合であっても、壁部5の加熱庫3の外側にはセラミックウールなどの断熱材が外装されている。
壁部5が2枚の金属板で形成されている場合には、上部ヒータ25、下部ヒータ26に近い加熱庫3の内側に配置された金属板が、上部ヒータ25、下部ヒータ26に流れる高周波の大電流によって誘導加熱される。したがって、壁部5が誘導加熱されて発熱しても、その熱は加熱庫3の外部には放出されず、加熱庫3の内部の空気を加熱するのに利用されるため、加熱調理器1の加熱効率は低下しない。
厳密に言えば、通常加熱中の加熱庫3の壁部5の温度は、加熱庫3の内部の空気の温度より低くなっており、加熱庫3の壁部5は加熱庫3の内部の高温の空気から熱流入がある。加熱庫3の壁部5が誘導加熱されない場合には、加熱庫3の内部からの高温空気からの熱流入が増加するが、加熱庫3の壁部5が誘導加熱される場合には、壁部5には電力エネルギーとしての流入により壁部5の温度が上昇するため、加熱庫3の内部の高温空気からの熱流入が減少する。壁部5の熱は断熱層や断熱材の熱抵抗を通じて加熱庫3の外部に放熱されるため、加熱庫3の壁部5からの熱流出は断熱層や断熱材の熱抵抗によって決まり、壁部5が導電性部材で誘導加熱される場合であっても、また、壁部5がセラミックス等で誘導加熱されない場合であっても、加熱庫3の熱効率は同じになる。
このように、本実施の形態の加熱調理器1は、コイル20によって発生する一の磁束と1回鎖交する1ターンの電気的な閉ループ(閉回路)で構成されたヒータ25,26に流れる高周波の大電流により、金属で形成された加熱庫3の上壁5a、下壁5b及び側壁5c,5dを誘導加熱するので、加熱調理器1の加熱効率が低下することなく、コイル20の損失を低減できる。なお、本実施の形態では、加熱庫3の上壁5a、下壁5b及び側壁5c,5dを金属で形成したが、加熱庫3を構成する少なくとも1つの壁の一部が金属(導電性部材)で形成されていればよい。
実施の形態2.
実施の形態1では、コイル導線を平板状に巻回し、一部のコイル束分と別のコイル束分を上部断熱材と下部断熱材の背後に配置し、上部断熱材と下部断熱材とコイル束分を囲うように断面コ状の上部磁性体、下部磁性体を配置してコイルユニットを形成したが、実施の形態2では、断面コ字状の上部磁性体と下部磁性体のそれぞれの外周部にコイル導線を螺旋状に巻回してコイルユニットを形成したものである。コイルによって発生する一の磁束が1ターンのヒータと1回鎖交する構造であれば、ヒータには高周波の大電流が流れ、実施の形態1と同様にヒータ近傍の導電性部材を誘導加熱するため、実施の形態1に示したのと同様の効果が得られる。
実施の形態2の加熱調理器1におけるコイルユニットについて、図11〜図13を参照して説明する。図11は、実施の形態1とは形状が異なる加熱調理器1のコイルユニット70を示す断面図である。図は実施の形態1に示した図5に対応しており、加熱調理器1のその他の部材は実施の形態1に示したとおりである。図示するように、コイルユニット70は実施の形態1のコイルユニット7と同様に、耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16の背後に配置されている。図では、ヒータ25,26と、これに鎖交する磁束φ10の様子も示している。
実施の形態2のコイルユニット70について具体的に説明すると、耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16の外側を所定の空隙をもって囲うように、断面コ字状の上部磁性体210と下部磁性体220が配置され、上部磁性体210と下部磁性体220の外周部にコイル導線200が螺旋状に巻回されてコイル201,202を形成している。このように、実施の形態2のコイル201,202は、実施の形態1とは異なり、上部磁性体210と下部磁性体220のそれぞれ1個ずつ配置される。ヒータ25,26は、実施の形態1に述べたように金属などの導電体で形成され、閉回路を構成する1ターンのループ状の構造を有する。
図示するように、耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16に上部ヒータ25と下部ヒータ26の一部が収容され(この時、ヒータ25,26の他の一部は加熱庫3の左右の側壁5c,5dに形成された棚部14により支持されている。)、図示しない電源回路からコイルユニット70に高周波電力が供給されると、コイル201,202の内側には、高周波磁束φ10が発生し、発生した磁束φ10が磁気抵抗の低い上部磁性体210と下部磁性体220を通過して上部ヒータ25、下部ヒータ26と鎖交する。
図において磁束φ10を2本示しているが、2本の磁束φ10とも上部ヒータ25、下部ヒータ26と1回だけ鎖交している。このように、実施の形態2の加熱調理器1におけるコイルユニット70においても、実施の形態1の加熱調理器1におけるコイルユニット7と同様に、コイル201,202によって発生する一の磁束が上部ヒータ25、下部ヒータ26と1回だけ鎖交する。
これにより、上部ヒータ25、下部ヒータ26には高周波の大電流が誘導され、実施の形態1で述べたように加熱庫3の壁部5(上壁5a、下壁5b及び側壁5c,5d)を誘導加熱するのでコイル201,202の損失を低減できる。
図11に示したコイル201,202の場合、上部ヒータ25、下部ヒータ26を横切って鎖交する磁束(実施の形態1で示した磁束φ2)は、極僅かの漏洩磁束程度しか発生しないので、上部ヒータ25と下部ヒータ26における耐熱基材8の上部溝部15と下部溝部16に収容されている部分が誘導加熱により加熱されて高温になるのを抑制できる。
なお、上部磁性体210と下部磁性体220はコ字状の断面形状に限るものではなく、図12に示したように、先端部を内側に折り曲げたC状の断面形状を有するものであってもよい。先端部を内側に折り曲げたC状の上部磁性体210、下部磁性体220とすることで、先端部を内側に折り曲げた部分の磁気抵抗が小さくなり、より多くの磁束が上部ヒータ25、下部ヒータ26と鎖交し、上部ヒータ25、下部ヒータ26に印加される高周波電力を増大できる。なお、多くの磁束が上部ヒータ25、下部ヒータ26と鎖交しても、各磁束は上部ヒータ25、下部ヒータ26と1回しか鎖交しないことに変わりはない。
更に、コイル201,202から発生する一の磁束が上部ヒータ25、下部ヒータ26と1回鎖交することができれば、図13に示すように、磁性体を用いず、空芯(コアレス)のコイル201,202を用いることも可能である。このような形態であっても、上部ヒータ25、下部ヒータ26に高周波の大電流が誘導され、実施の形態1と同様に、加熱庫3の壁部5(上壁5a、下壁5b及び側壁5c,5d)を誘導加熱するのでコイル201,202の損失を低減できる。
このように、コイルから発生する一の磁束が上部ヒータ25、下部ヒータ26と1回鎖交するものであれば、どのような構造の加熱調理器であっても本発明の効果を得ることができる。
実施の形態3.
実施の形態1及び実施の形態2では、ヒータに誘導される高周波の大電流により、導電性の加熱庫の壁部(上壁、下壁及び側壁)が誘導加熱される場合について説明したが、実施の形態3では、加熱庫の内部に配置された導電性部材を誘導加熱するものである。以下、実施の形態3に係る加熱調理器1について、図14〜図17を参照して説明する。
図14は実施の形態3に示す加熱調理器1の横断面図、図15は正面断面図である。図14、図15の加熱調理器1は図1で示した加熱調理器1とほぼ同一であるが、下側ヒータが異なり、脂受け皿と焼き網が無く、代わりに金属製のオーブン皿30が下側ヒータ260の上部にある点で異なる。図14及び図15に示すように、実施の形態3に係る加熱調理器1の側壁5c,5dの上段位置と下段位置には、上部ヒータ25と下部ヒータ260とを下方から支持する棚部14が加熱庫3の内側へ水平方向に突設して形成されている。更に、下部ヒータ260を支持する棚部14の上方には、オーブン皿30を着脱自在に下方から支持するガイド140が加熱庫3の奥行き方向に伸びるように形成されている。
図示するように、下部ヒータ260は側面から見た断面形状において、耐熱基材8の下部溝部16近傍から斜め下方に折り曲げられ、そこから更に下壁5bと平行となるように折り曲げられている。具体的には、下部ヒータ260に高周波電流が誘導され、オーブン皿30が効果的に誘導加熱される距離となるよう、下部ヒータ260がオーブン皿30の底部に対して所定距離をもって設置してある。これにより、加熱庫3の内部の空間を広く使用できるとともに、より大きな食材60を調理できる。
また、下部ヒータ260は図16に示すように、加熱庫3の奥行き方向及び幅方向に複数回折り曲げられて1ターンの閉ループ(閉回路)を構成している。このように下部ヒータ260を加熱庫3の奥行き方向及び幅方向に複数回折り曲げることでオーブン皿30の温度分布が均一になる。下部ヒータ260の折り曲げ回数や折り曲げ後の形状は加熱調理する食材によっても適宜に変更可能であり、その形状は図16で示した形状に限らず、1ターンの閉ループ(閉回路)を構成するものであれば任意の形状でよい。
下部ヒータ260は、実施の形態1で述べたようにステンレスのパイプで形成してもよいが、銅や銅合金、又はアルミやアルミ合金等の電気抵抗が小さい金属の棒やパイプ、板等で形成してもよい。下部ヒータ260を電気抵抗が小さい金属で形成する場合、強度補強や腐食防止のため、下部ヒータ260の外周を非磁性ステンレスや高ニッケル合金等の非磁性金属で覆ったり、セラミックス等のコーティングを施したりしてもよい。
オーブン皿30は、鉄板や磁性ステンレスなどの磁性金属からなり、ちょうどIHクッキングヒータのトッププレートで調理に使用されるフライパンと同様の構造であり、取手の無い矩形状のフライパンと同様の構造を有するものと考えてよい。なお、オーブン皿30は、その底部を磁性金属で形成し、上部をアルミ等の熱伝導性のよい非磁性金属で形成したものであってもよいし、非磁性金属のみで形成することも可能である。オーブン皿30を非磁性金属で形成する場合、体積抵抗率が大きい非磁性ステンレス等が好適である。更に、金属でなくても炭素などの導電材料でもオーブン皿30を形成できる。
オーブン皿30の上にはハンバーグ等の食材60が載せられる。このため、オーブン皿30の上面(食材60を載せる側)はテフロン加工やフッ素加工等の防汚加工を行うことが好適である。また、オーブン皿30と下部ヒータ260の少なくともいずれか一方に絶縁物のコーティングを施し、オーブン皿30と下部ヒータ260が電気的に絶縁されるようにすれば、オーブン皿30を直接下部ヒータ260上に載置できる。また、図15に示すようにガイド140にオーブン皿30を載せて下側ヒータ260と間隔があくようにしてもよい。
次に、実施の形態3に係る加熱調理器1の動作を説明する。この動作説明では、上部ヒータ25に関する動作は実施の形態1で説明しているので、下部ヒータ260の動作のみ説明する。図16に示すように、電源回路4からコイル20に20kHz〜100kHzの高周波電流が供給されると、電磁誘導により下部ヒータ260に高周波の大電流(ヒータ電流)が誘導される。このヒータ電流は下部ヒータ260の周囲に高周波磁束を発生する。このヒータ電流により発生した高周波磁束がオーブン皿30に到達すると、オーブン皿30に渦電流が発生し、オーブン皿30は渦電流によるジュール熱で一様に加熱される。つまり、下部ヒータ260に流れるヒータ電流によってオーブン皿30は誘導加熱される。
加熱庫3の下壁5bが金属で形成されている場合、下部ヒータ260のヒータ電流によって下壁5bも誘導加熱されるが、図14に示したように下部ヒータ260とオーブン皿30の底部との距離が近接している場合には、オーブン皿30の方がより一層誘導加熱される。実施の形態1で述べたように、下壁5bが誘導加熱されても加熱庫3の内部の空気(雰囲気)を加熱するのに作用するので熱損失にはならない。
このように、オーブン皿30は、下部ヒータ260の発熱によって加熱された加熱庫3内部の高温空気からの対流伝熱と、下部ヒータ260からの輻射伝熱による加熱に加え、誘導加熱されたオーブン皿30自身の発熱により所定温度に昇温する。その結果、オーブン皿30の上に載せられた食材60は効率良く加熱調理される。なお、当然ながら上部ヒータ25の発熱によっても食材60は加熱される。
また、例えば下部ヒータ260を電気抵抗が小さい金属で形成した場合、より大きなヒータ電流が流れるため、オーブン皿30がより一層誘導加熱される。このような場合には、下部ヒータ260に印加された電力のうちの大部分がオーブン皿30や下壁5bなど、下部ヒータ7の周囲に配置された導電性部材(金属部材)によって消費される。下部ヒータ260も自身の電気抵抗によるジュール熱で発熱するがその割合は小さくなる。しかし、下部ヒータ260自身の発熱によって発生した熱も加熱庫3の内部の空気(雰囲気)やオーブン皿30の加熱に作用するので損失にはならない。
このように、実施の形態3の加熱調理器1では、下部ヒータ260に流れるヒータ電流を利用してオーブン皿30上の食材60をフライパン調理するとともに、上部ヒータ25からの輻射熱により食材60の表面に焦げ目を付けることができる。上部ヒータ25と下部ヒータ260は着脱自在であるため、調理の目的に応じて例えば、実施の形態1に示した下部ヒータ26を用いることも可能である。この場合、図15に示すように目的に応じて適切な場所にヒータやオーブン皿などを配置できるように複数の棚部14を加熱庫3に備えておくと便利である。
図14、図15に示した実施の形態3では、下部ヒータ260に流れる高周波のヒータ電流によりオーブン皿30を誘導加熱したが、オーブン皿30に代えてオーブン容器を誘導加熱してもよい。図17は他の形態の加熱調理器1を示す横断面図である。図17に示すように、オーブン容器31は箱型の形状を有し、内部に食材を収容する容器本体31aと容器本体31aに対して取り外し可能な上蓋31bとを有する。容器本体31aと上蓋31bは鉄板等の磁性金属で形成されている。オーブン容器31は内部に食材の出し入れが自由にできるようになっている。
図示するように、上部ヒータ25と下部ヒータ260は図14、図15で示した加熱調理器1と同一のヒータが用いられる。このような形態の加熱調理器1においても、上部ヒータ25と下部ヒータ260に流れる高周波のヒータ電流によりオーブン容器31が誘導加熱され、誘導加熱されたオーブン容器31自身の発熱により内部の食材60が効率良く加熱調理される。なお、図17に示した加熱調理器1も図14、図15に示した加熱調理器1と同様に、上部ヒータ25及び下部ヒータ260とオーブン容器31の両方を電気抵抗の小さい銅や銅合金又はアルミやアルミ合金等の導電性材料で形成してもよい。また、ヒータ25,260の表面に強度補強や腐食防止のために加工を施してもよいことは図14および図15に示した加熱調理器1と同様である。
このように、実施の形態3で示した加熱調理器1であっても、上部ヒータ25と下部ヒータ260に流れる高周波の大電流がオーブン皿30やオーブン容器31を誘導加熱するので、実施の形態1に示した加熱調理器1と同様にコイル損失を低減できる。オーブン皿30とオーブン容器31を使い分けることによって様々な調理に対応できる加熱調理器1を得ることができる。当然のことながら、オーブン皿30とオーブン容器31のいずれも用いず、実施の形態1の図1に示すように焼き網12と脂受け皿13を用いた加熱調理器1として使用することもできる。
実施の形態4.
実施の形態3では、上部ヒータと下部ヒータに流れる高周波の大電流により加熱庫内に配置された別体のオーブン皿やオーブン容器を誘導加熱したが、実施の形態4では、上部ヒータ、下部ヒータをオーブン皿やオーブン容器内部に収容し、それらを誘導加熱するものである。
図18は本実施の形態4の加熱調理器1を示す横断面図である。図18に示すように、実施の形態4の加熱調理器1は、下部ヒータ261がオーブン皿300に収容されている。具体的に説明すると、下部ヒータ261は側面から見た断面形状において、耐熱基材8の下部溝部16近傍から斜め下方に折り曲げられ、そこから更に下壁5bと平行となるように折り曲げられている。図示するように、下部ヒータ261における下壁5bと平行に形成されている部分は平板状に形成されている。オーブン皿300は、外郭の内部に空間を有する薄い箱型状(内部空間を有した板状)に形成されている。そして、下部ヒータ261の平板状に形成された部分がオーブン皿300の内部空間に収容されている。
オーブン皿300の下部ヒータ261を収容する内部空間には、例えばセラミックス等の耐熱性絶縁部材が充填され、下部ヒータ261とオーブン皿300の外郭との絶縁が確保されている。下側ヒータ261は1ターンの閉回路を構成するステンレスや銅或いはアルミなどの金属で形成されている。下側ヒータ261は全て金属板や金属棒、金属パイプなど任意の形態で作製してもよい。オーブン皿300の材質は、非磁性金属でもよいが、通電の際、下部ヒータ261の周囲に発生する高周波磁束がオーブン皿300の外側に漏洩することを防ぎ、オーブン皿300を加熱するための電力が効率的に消費されるため、鉄等の強磁性金属が好ましい。なお、下側ヒータ261とオーブン皿300以外は実施の形態3に示した図14と同一であるので説明を省略する。
このように構成された加熱調理器1において、図示しない電源回路からコイル20に20kHz〜100kHzの高周波電流が供給されると、下部ヒータ261に高周波の大電流(ヒータ電流)が誘導される(上部ヒータ25に関する動作は省略。)。このヒータ電流は下部ヒータ261の周囲に高周波磁束を発生する。この下部ヒータ261に流れる高周波の大電流によってオーブン皿300の外郭は誘導加熱され発熱するので、オーブン皿300の上に載せた食材60が加熱調理される。下部ヒータ261も自身の電気抵抗によって発生するジュール熱により発熱するが、この熱もオーブン皿300を加熱するのに役立つ。下部ヒータ261は強磁性金属のオーブン皿300に収容されているため、オーブン皿300の外側に高周波磁束が漏洩せず、オーブン皿300を加熱するための電力が効率的に消費される(つまり、上壁5a、下壁5b及び側壁5c,5dが誘導加熱されるのを防いでいる。)。加熱庫3の壁部5が誘導加熱されても、その熱は加熱庫3の内部の空気(雰囲気)を加熱し、間接的にオーブン皿300や食材60を加熱するが、オーブン皿300の外部に磁束が漏れるのを抑制した方が、より効率的にオーブン皿300を加熱するための電力が消費されるので効率良く加熱調理が行われる。
図18に示した実施の形態4では、オーブン皿300に下部ヒータ261を収容した加熱調理器1を説明したが、図19に示すように、オーブン容器310に上部ヒータ251と下部ヒータ261とを収容した加熱調理器1であってもよい。具体的に説明すると、上部ヒータ251は側面から見た断面形状において、耐熱基材8の上部溝部15近傍から斜め上方に折り曲げられ、そこから更に上壁5aと平行となるように折り曲げられている。図示するように、上部ヒータ251における上壁5aと平行に形成されている部分は平板状に形成されている。下部ヒータ261は、図18に示した加熱調理器1と同一形状である。
オーブン容器310は箱型の形状を有し、内部に食材60を収容する容器本体310aと容器本体310aに対して取り外し可能な上蓋310bとを有する。容器本体310aの底板311の上側には、食材60を戴置する戴置板312が所定の空隙を介して配置されている。また、上蓋310bの天板313の下側には、内板314が所定の空隙を介して配置されている。オーブン容器310は図18で示したオーブン皿300と同様に鉄板等の強磁性金属で形成されている。
図示するように、上部ヒータ251の平板状に形成されている部分が上蓋310bの天板313と内板314との空隙内に収容され、下部ヒータ261の平板状に形成されている部分が容器本体310aの底板311と戴置板312との空隙内に収容されている。容器本体310aの下部ヒータ261を収容する空隙内と、上蓋310bの上部ヒータ251を収容する空隙内には、例えばセラミックス等の耐熱性絶縁部材が充填され、上部ヒータ251、下部ヒータ261とオーブン容器310との絶縁が確保されている。
このように、実施の形態4で示した加熱調理器1であっても、下部ヒータ261、又は上部ヒータ251と下部ヒータ261に流れる高周波の大電流がオーブン皿300やオーブン容器310を誘導加熱するので、実施の形態1に示した加熱調理器1と同様にコイル損失を低減できる。また、オーブン皿300、オーブン容器310に下部ヒータ261、上部ヒータ251と下部ヒータ261を収容して一体化したので、使用者が取扱う部品数が減少するので取扱いが容易になるという効果を有する。
実施の形態5.
実施の形態5の加熱調理器1は、上部ヒータ252と下部ヒータ262に特徴を有する。図20に示すように、上部ヒータ252における上壁5aと平行に形成されている加熱領域40の外周部と、下部ヒータ262における加熱領域41(焼き網12の下方)の外周部には、2層構造の膜が形成されている。具体的に説明すると、図21に示すように、上部ヒータ252(下部ヒータ262)の外周部には、内側から順に絶縁層42とクラッド層43が形成されている。絶縁層42には、セラミックス等の耐熱性の非磁性絶縁物やヒータの外側に施される酸化被膜等が用いられる。クラッド層43には、磁性ステンレスや鉄等の磁性金属が用いられる。なお、本実施の形態の上部ヒータ252と下部ヒータ262は、棒で形成しているが、パイプで形成することも可能である。それ以外の構成については、実施の形態1の図1、図2に示した加熱調理器1と同一であるので説明を省略する。
このように構成された加熱調理器1において、図示しない電源回路からコイル20に20kHz〜100kHzの高周波電流が供給されると、上部ヒータ252と下部ヒータ262に高周波の大電流(ヒータ電流)が誘導される。このヒータ電流は上部ヒータ252と下部ヒータ262の周囲に高周波磁束を発生する。高周波磁束は、磁性金属からなるクラッド層43を磁気回路として通るため、クラッド層43には渦電流が発生し、クラッド層43が誘導加熱される。クラッド層43は磁性金属であるため、クラッド層43の外側へ漏洩磁束が発生せず、加熱庫3の壁部5(上壁5a、下壁5b及び側壁5c,5d)が誘導加熱されない。したがって、上部ヒータ252と下部ヒータ262に印加された電力の大部分が上部ヒータ252、下部ヒータ262及びクラッド層43で消費されるため、クラッド層43の表面温度(ヒータ温度)を高温にして輻射を大きくできる。
なお、磁性ステンレスや鉄は腐食しやすいため、クラッド層43の外側にセラミックスや酸化膜からなる保護層を形成してもよく、非磁性ステンレスや高ニッケル合金など耐食性のある金属でクラッド層43を覆った第2のクラッド層を形成してもよい。
このように、実施の形態5の加熱調理器1に示した上部ヒータ252(下部ヒータ262)であっても、上部ヒータ252(下部ヒータ262)に流れる高周波の大電流によりクラッド層43が誘導加熱されるので、クラッド層43が形成されていないヒータに比べてコイル損失を低減できる。
以上、本発明の複数の実施の形態を個別に説明したが、これら複数の実施の形態は、特に問題がない限り、組み合わせることが可能である。
今回、開示した実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は、上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲での全ての変更を含む。