以下、本発明の実施の形態に係る加熱調理器について、添付図面に従って説明する。以下の各実施の形態では、主としてIHクッキングヒータの加熱庫に好適な加熱調理器の形態を説明するが、オーブンレンジやオーブントースタ等の他の形態を有する加熱調理器にも同様に採用できるほか、例えば工業用の焼成炉や乾燥炉等、工業用の加熱装置にも同様に採用できる。
なお、以下の説明では、方向や位置を表す用語(例えば、「上」、「下」、「右」、「左」等)を便宜上用いるが、これらは発明の理解を容易にするためであり、それらの用語によって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されるべきではない。また、以下の説明では、複数の実施の形態に含まれる同一又は類似の構成には同一の符号を付す。
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る加熱調理器1の正面断面図である。また、図2は図1におけるI−I方向から見た加熱調理器1の横断面図である。実施の形態1に係る加熱調理器1は、鉄板やステンレス板あるいは銅やアルミなどの金属板で形成された箱形の筐体(調理器本体)2を有する。筐体2の左側には加熱庫(オーブン加熱部)3が配置され、筐体2の右側には電源回路4が配置されている。
なお、IHクッキングヒータの場合は図1で示す加熱調理器1の上部に鍋加熱のためのコイルや鍋を載置するトッププレートなどを有するが、本実施の形態では省略する。すなわち図1で示す加熱調理器の上にコイルやトッププレートなどを配置した形態とすればIHクッキングヒータとして利用でき、図1に示すような加熱調理器1をIHクッキングヒータの加熱庫として利用できる。
図3は加熱庫3の分解斜視図である。加熱庫3は、筐体2の前面に開口した箱型形状を有し、例えばセラミックスなどの耐熱性絶縁部材で形成された上壁5a、下壁5b、側壁5c,5d(これらを総称して加熱庫3の「壁部」5と称する。)を備えている。具体的に、壁部5は例えば、セラミックウール、グラスウール、断熱ボード、煉瓦(耐火煉瓦を含む)及び耐熱樹脂等が用いられ、加熱庫3内の温度に応じて適宜に選択される。図示するように、加熱庫3は、鉄、ステンレス、アルミや銅などの金属材料で形成した箱型形状の枠体6の内側に上壁5a、下壁5b、側壁5c,5dを取り付けることにより形成されている。
また、上壁5a、下壁5b、側壁5c,5dを構成する壁部5の外側には、加熱庫3内部の熱が外部に放散するのを抑制する例えば、セラミックウール等の断熱材(図示せず)で外装してもよい。なお、加熱庫3の壁部5を角型の筒状に一体的に形成してもよい。
図1〜図3に示すように、加熱庫3の壁部5の外側には、所定空間をもって防磁壁7a,7b,7c,7d(これらを総称して「防磁壁」7と称する。)が設けられている。防磁壁7は、例えばアルミニウムや銅などの高導電率の金属板で形成されている。加熱庫3の外周部と各防磁壁7a,7b,7c,7dの内側とで形成されている空間は、加熱庫3内の熱が防磁壁7の外側に放散するのを抑制する断熱層として機能し、この空間の代わりにセラミックウール等の断熱材を設けてもよい。
防磁壁7は、加熱調理器1の筐体2が鉄板などの強磁性体の金属で形成されている場合、加熱庫3の内部に配置された上部ヒータ8、下部ヒータ9に高周波の大電流が流れて発生する高周波磁場で、筐体2を誘導加熱することによる無駄な電力消費を抑制するだけでなく、上部ヒータ8、下部ヒータ9に高周波の大電流が流れたときに発生する電磁ノイズを遮蔽する機能を有する。
しかし、筐体2が誘導加熱されにくい非磁性金属材料の場合や、筐体2が強磁性体の金属であっても上部ヒータ8、下部ヒータ9と筐体2の距離が十分に離れている(概ね3cm以上)場合には、防磁壁7は必ずしも必要ではない。防磁壁7を備えない場合には、加熱庫3の壁部5の外側に断熱材を配置することや、図1あるいは図2の防磁壁7に代えて絶縁物の板部材などを設け、加熱庫3の壁部5の外側に断熱層を形成することが望ましい。
加熱庫3の前面には耐熱ガラスや金属などの耐熱性の材料からなる前壁(扉)10が設けられており、前壁10は開閉自在で加熱庫3への食材の出し入れができるようになっている。具体的に説明すると、通常のオーブン加熱部と同様に、加熱庫3内の側壁5c,5dに設けられた一対の引き出しレール11と前壁10とが連結され、焼き網26と脂受け皿27を前壁10の開閉と連動させて出し入れできるようにしてある。なお、前壁10を開閉自在にするための機構は本発明とは直接関係なく、公知のIHクッキングヒータやオーブンレンジなど他の加熱調理器と同様の構造とすることができる。
加熱庫3の後部にはコイルユニット12を備えており、コイルユニット12はセラミックスなどの非磁性の絶縁物からなる耐熱性の耐熱基材13を有し、耐熱基材13が加熱庫3の後壁を形成している。すなわち、上壁5a、下壁5b、側壁5c,5d、前壁10(扉)と耐熱基材13(後壁)により加熱庫3は概略直方体の箱型を形成している。
コイルユニット12について具体的に説明する。耐熱基材13は、上部と下部の中央部をコ状に外側へ折り曲げて、加熱庫3内の水平方向に伸びる上部溝部15、下部溝部16を形成している。耐熱基材13の上部溝部15、下部溝部16を囲うように、断面略コ状の上部断熱材18と下部断熱材19が配置され、上部断熱材18と下部断熱材19の外側にはそれぞれ、導線を平面状に巻いて形成したコイル20が配置されている。コイル20は、一部のコイル束分が上部断熱材18の背後に配置され、別のコイル束分が下部断熱材19の背後に配置されている。さらに、上部断熱材18と下部断熱材19の背後に位置するコイル束分と、上部溝部15と下部溝部16を囲うように、断面コ状の上部磁性体21と下部磁性体22がそれぞれ配置されている。
耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16を囲う上部断熱材18と下部断熱材19は、加熱庫3内の熱がコイル20に伝わり、コイル20が高温になるのを防止する目的で設けられる。上部断熱材18と下部断熱材19の材質は、例えばセラミックウール材やガラスウール等で形成されている。また、上部断熱材18と下部断熱材19に代えて、これらの断熱材18,19が設けられる空隙を空気断熱層として構成してもよいし、その空隙に空気を流通させて断熱効果を高める構造としてもよい。更に、上部断熱材18、下部断熱材19とコイル20との間に空隙を設け、その空隙に空気を流通させることもできる。
コイル20は、例えば直径0.2mmの銅線を樹脂等で被覆したものを複数本(例えば、90本)撚り線にした所謂リッツ線を長円状又は矩形状に(例えば、17回巻回)して形成される。コイル20の導線の端部は、電源回路4に接続され、該電源回路4からコイル20に例えば20kHz〜100kHzの高周波電力が供給されるようにしてある。なお、電源回路4は、一般的なIHクッキングヒータ等で採用されている公知の一石共振型インバータ、ハーフブリッジインバータ又はフルブリッジインバータ等を用いることができるので、詳細な説明は省略する。
なお、上部磁性体21、下部磁性体22の材質は、一般的なIHクッキングヒータのトッププレートの下に配置された加熱コイルに用いられるフェライトコアと同じ材料を用いることができる。
図4及び図5に示すように、上部磁性体21と下部磁性体22はそれぞれ、加熱庫3の幅方向に所定の間隔をもって2個ずつ配置されている。このように上部磁性体21と下部磁性体22を配置すると、上部磁性体21及び下部磁性体22に覆われていない中央部の上下のコイル束分に、後述する空冷ファン24からの冷却風を直接当てることができ、コイルユニット12を効果的に冷却できる。本実施の形態では、上部磁性体21と下部磁性体22を加熱庫3の幅方向に2個ずつ配置しているが、その個数は何ら制限されるものではない。例えば上部磁性体21と下部磁性体22を2個以上ずつ配置してもよいし、上部磁性体21と下部磁性体22を1個ずつ配置してもよい。
コイルユニット12の背後には、コイルユニット12全体を囲うように、断面略コ状の防磁カバー23が配置されている。防磁カバー23の背面には、通風口(図示せず)を介して空冷ファン24が取り付けられている。空冷ファン24は防磁カバー23内のコイル20を冷却するものであり、通電時にコイル20の温度が180℃以下(導線の被服材料の耐熱温度以下)に保持できるように設計されている。
防磁カバー23は、例えば銅やアルミニウム等の非磁性で、且つ高導電率の板部材で形成され、コイルユニット12からの漏洩磁束で筐体2を誘導加熱することによる無駄な電力消費を抑制する目的で設けられる。具体的に、コイルユニット12からの漏洩磁束が防磁カバー23に到達すると、電磁誘導によって防磁カバー23には漏洩磁束を打ち消す方向に誘導電流が流れ、防磁カバー23から外側に漏れる磁束を相殺できる。防磁カバー23は高導電率の金属で形成されているので、漏洩磁束により発生する誘導電流がジュール熱として消費する電力は小さく、漏洩磁束が筐体2に到達して筐体2を誘導加熱するときの消費電力に比べ無駄な消費電力を抑制することができる。なお、防磁カバー23は、コイルユニット12を冷却するための風洞としても機能する。
加熱庫3の内側には、導電体からなる無端状の上部ヒータ(熱源)8と下部ヒータ(熱源)9が配置されており、該上部ヒータ8、下部ヒータ9の一部は耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16に収容されている。また、図2に示すように、上部ヒータ8、下部ヒータ9のその他の一部は側壁5c,5dの内側で、且つ側壁5c,5dの上段位置と下段位置に形成された棚部25により支持されている。
上部ヒータ8と下部ヒータ9は、後述するコイル20から生じる一の高周波磁束と1回鎖交する電気的に閉じた閉回路を構成したものである。具体的に、上部ヒータ8と下部ヒータ9はそれぞれ、導電体を1ターンの閉回路状(ループ状)に形成したものである。上部ヒータ8と下部ヒータ9は例えば、ステンレス鋼、高ニッケル合金(例えば、JIS規格でNCF600やNCF800など)の棒やパイプをループ状に形成して閉回路を構成するものであってよい。また、鉄、銅合金、アルミ合金など他の金属材料やグラファイトなどの炭素材料、あるいは2種類以上の導電材料を組み合わせて作製してもよい。
なお、上部ヒータ8と下部ヒータ9は、棒のみ又はパイプのみで形成してもよいし、例えば棒とパイプとを溶接やロウ付けで接合したものであってもよい。また、上部ヒータ8と下部ヒータ9とは棒やパイプに代えて、例えば金属板を打ち抜き加工して無端状にしてもよいし、また例えば、金属板に対し所定の間隔をおいて複数の切り込み加工を施すことにより該金属板を無端状に形成することもできる。上部ヒータ8、下部ヒータ9の材質についても、ステンレス鋼、高ニッケル合金に代えて、鉄、銅合金、アルミニウム合金等の金属材料やグラファイト等の炭素材料、或いは2種類以上の導電体を組み合わせたものであってもよい。
上部ヒータ8、下部ヒータ9は、動作時における耐食性が優れていることが必要である。つまり、加熱調理器1での調理時、調理に用いている油分、醤油や塩分等が上部ヒータ8又は下部ヒータ9の表面に接触することがある。この時、ヒータ表面は約800℃以上の高温であるため耐食性が劣る材料の場合、塩分等によってヒータ表面に溶融塩が生成し、ヒータの腐食が激しく進行してヒータ機能を喪失するおそれがある。このため、耐食性が劣る材料をヒータに使用するときは、セラミックスやガラス等の耐熱・耐食材料で上部ヒータ8と下部ヒータ9の表面に保護コーティングを施すことや、酸化皮膜を形成するとよい。
棚部25は、例えば側壁5c,5dの成形時に一体的に形成してもよいし、棚部25を別の部材で成形した後、接着や溶着等により側壁5c,5dに取り付けることもできる。
なお、上部ヒータ8、下部ヒータ9の支持方法は上述した形態に限らず他の方法によるものであってもよい。本実施の形態の加熱調理器1は、上部ヒータ8、下部ヒータ9の一部は絶縁部材である耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16に収容され、該上部ヒータ8、下部ヒータ9のその他の一部は絶縁部材である側壁5c,5dの内側に形成された棚部25により支持されている。このように、上部ヒータ8、下部ヒータ9は何ら電気的接点を有さず加熱庫3から着脱自在となるため、使用者は調理後に上部ヒータ25、下部ヒータ26を取り外して加熱庫3内部を容易に清掃できる。
図2に示すように、実施の形態1の加熱調理器1は加熱庫3の内部の有効スペースを大きくするため、上部ヒータ8と下部ヒータ9とは側面から見た断面形状がそれぞれ異なっている。図示するように上部ヒータ8は側面から見た断面形状において、上部溝部15近傍から斜め上方に折り曲げられ、そこから更に上壁5aと平行となるように折り曲げられている。一方、下部ヒータ9は、側面から見た断面形状において折り曲がった部分を有しない。
具体的に、上部ヒータ8と上壁5aとの最接近距離が約10mm以下に設定され、下部ヒータ9と下壁5bとの距離が約30mm以下に設定されている。このように、上部ヒータ8と下部ヒータ9の形状を異なるものとすることで、使用者が上部ヒータ8、下部ヒータ9を加熱庫3の内部に取り付ける際、取り付け場所の誤認を防止できる。
また、図5に示すように、上部ヒータ8と下部ヒータ9は加熱庫3の奥行き方向及び幅方向に複数回折り曲げられて1ターンの閉回路状に形成している。このようにヒータを加熱庫3の奥行き方向及び幅方向に複数回折り曲げることで加熱庫3内における所望の温度分布が得られる。上部ヒータ8と下部ヒータ9の折り曲げ回数や折り曲げ後の形状は加熱調理する食材によっても適宜に変更可能であり、その形状は図5で示した形状に限らず、1ターンの閉回路状に形成するものであれば任意の形状でよい。
加熱庫3の内部には、上部ヒータ8と下部ヒータ9の間に焼き網26が配置され、下部ヒータ9の下に脂受け皿27が配置される。
また、図示しないが、加熱庫3の後方には、加熱庫3内で加熱調理する際、食材80から発生した煙や蒸気或いは臭い等を外部に排出するための図示しない排気口が設けられている。
次に、実施の形態1の加熱調理器1の動作原理について説明する。図5は加熱調理器1の主要部を示す斜視図である。図5ではコイル20と、上部磁性体21及び下部磁性体22と、上部ヒータ8及び下部ヒータ9と、電源回路4のみを示したが、他の部材が図1や図2に示すように構成されて加熱調理器1が実現される。また、図6はコイルユニット12と、耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16に収容された上部ヒータ8及び下部ヒータ9の断面と、コイル20に高周波電流が流れたときに発生する磁束φ1、φ2、φ3の様子を示した図である。
図5に示すように、コイル20に電源回路4から20kHz〜100kHzの高周波電力が供給されると、コイル20の導線には高周波電流が流れる。この高周波電流によってコイル20の周囲に正逆反転する高周波の磁束(φ1、φ2、φ3)が発生するが、発生した磁束の大部分(φ1、φ2)は磁気抵抗が小さい上部磁性体21と下部磁性体22を通って上部ヒータ8と下部ヒータ9と鎖交する。
電磁誘導によって上部ヒータ8と下部ヒータ9に誘導電流が流れる原理は変圧器と同じ原理であり、コイルの巻数をNの1次巻線とすると、ヒータは巻数1(1ターン)の2次巻線と考えることができ、N:1の変圧器と同様に考えることができる。つまり、巻線比がN:1の変圧器と同じ原理である。このため、コイル20側の電圧をV1、電流をI1としたとき、上部ヒータ8と下部ヒータ9側に発生する電圧V2と電流I2はそれぞれ、V2=V1/N、I2=I1・Nとなる。したがって、2次巻線に相当する上部ヒータ8と下部ヒータ9に低電圧・大電流の電力を印加できる。なお、厳密にはコイル20と上部ヒータ8と下部ヒータ9との結合係数を考慮する必要があるが、説明を簡単にするためここでは理想変圧器として説明した。
ここで例えば、上部ヒータ8、下部ヒータ9をそれぞれ外形φ5mm、肉厚0.8mmの非磁性ステンレスのSUS316の中空材で製作したとすると、20kHz〜100kHzでの表皮深さは肉厚の0.8mmより大きいので表皮効果を考慮しなくてもよいため、各ヒータ8,9の電気抵抗は1mあたり約70mΩである。仮に中空材の肉厚を0.4mmとしても各ヒータ8,9の電気抵抗は1mあたり約120mΩである。各ヒータ8,9の全長が2mとすると、ヒータ全長の電気抵抗は、肉厚0.8mmの中空材を用いた場合は約140mΩ、肉厚0.4mmの中空材を用いた場合は約240mΩとなる。上部ヒータ8、下部ヒータ9に2kWの電力を印加する場合、各ヒータ8,9の消費電力はそれぞれ約1kWであるから、各ヒータ8,9の電気抵抗と消費電力からそれらに流れる誘導電流の大きさを計算すると、肉厚0.8mmの中空材の場合で約85A、肉厚0.4mmの中空材の場合で約65Aの高周波の大電流が上部ヒータ8、下部ヒータ9に流れていることになる。当然のことながら上部ヒータ8と下部ヒータ9に用いる中空材の肉厚をさらに薄くすればヒータの電気抵抗が大きくなり、ヒータに流れる誘導電流は小さくなるが、ヒータの強度が低下して形状を保持できなくなるので実用的ではない。
動作説明に戻り、コイル20に高周波電流が流れると、上部ヒータ8と下部ヒータ9には電磁誘導により誘導電流が流れ、誘導電流の大きさの2乗と上部ヒータ8と下部ヒータ9の電気抵抗に比例したジュール熱が発生し、これにより上部ヒータ8と下部ヒータ9は発熱する。加熱庫3の壁部5が耐熱性絶縁部材で形成されているため、コイル20に印加された高周波電力はコイル20と上部ヒータ8及び下部ヒータ9でのみ消費される。これにより、上部ヒータ8及び下部ヒータ9の昇温速度がより速くなり、上部ヒータ8及び下部ヒータ9の温度がより高温(例えば、約800℃以上)になる。
高周波電力が印加されて上部ヒータ8及び下部ヒータ9から発生した熱は、加熱庫3内の空気(雰囲気)と壁部5を加熱する。そして、加熱庫3内部の食材80は、加熱庫3内の空気(雰囲気)による対流伝熱と各ヒータ8,9からの輻射伝熱によって間接的に加熱される。加熱庫3内の熱は、壁部5と防磁壁7の間の空間(断熱層)や壁部5の外側に図示しないセラミックウール等の断熱材が外装されていることにより外側に放散せず、加熱調理器1の加熱効率は低下しない。
このように、加熱庫3に収容された食材80は、各ヒータ8,9からの輻射熱及び加熱庫3内の高温空気により加熱されて調理される。加熱により食材80から生じる脂は、脂受け皿27で受けられる。
ここで、本実施の形態の加熱調理器1と特許文献1に記載された加熱調理器を比較する。特許文献1の加熱調理器はオーブン皿の脚部に埋め込まれた被誘導コイルとリボン状あるいは線状のヒータが接続されている。被誘導コイルは導線を複数回巻いたものであるため被誘導コイルが大型化している。また、2次側である被誘導コイルの巻数が大きいので2次側に発生する電圧は大きくなり、リボン状や線状の電気抵抗が大きいヒータであっても電流を流すことができる。したがって、リボン状や線状のヒータの両端に印加される電圧は高いが、ヒータに流れる電流は小さくなる。しかし、本実施の形態の加熱調理器1では、原理的には同じ電磁誘導を利用したものであるが、上部ヒータ8、下部ヒータ9には特許文献1のような被誘導コイルは存在せず、極めて簡単な構造により着脱自在なヒータを実現している。
さらに、図6を参照して動作原理を詳しく説明する。コイル20に高周波電流を流すと、磁気抵抗が小さい上部磁性体21と下部磁性体22を通ってコイル20の周囲に高周波で正逆反転する磁束φ1、φ2、φ3が発生する。コ字状断面の上部磁性体21、下部磁性体22の凹部の幅はほぼ一定であるため、この凹部内の磁束密度はほぼ一定となる。
図示するように、磁束φ1は、耐熱基材13の上部溝部15に収容されている上部ヒータ8の断面と、下部溝部16に収容されている下部ヒータ9との断面を横切らずに上部ヒータ8、下部ヒータ9と鎖交する磁束である。この磁束φ1が上部ヒータ8と下部ヒータ9全体に誘導電流を流すのに最も有効に作用する。
磁束φ2は上部ヒータ8、下部ヒータ9の断面を横切って上部ヒータ8、下部ヒータ9と鎖交する磁束であって、上部ヒータ8、下部ヒータ9に誘導電流を流すのに有効に作用するが、磁束φ2が横切った上部ヒータ8、下部ヒータ9の断面に渦電流を生じ、この部分を誘導加熱する。
このため、上部ヒータ8、下部ヒータ9の中で耐熱基材13の上部溝部15、下部溝部16に収容された部分は、ヒータ全体を流れる誘導電流と磁束φ2によって発生する渦電流により加熱されるので、他の部分よりも高温になり易い。したがって、例えば上部ヒータ8、下部ヒータ9のうち、上部溝部15と下部溝部16に収容される部分を中実材で形成し、その他の部分を中空材で形成し、それらを溶接又はロウ付け等により接合して上部ヒータ8と下部ヒータ9を製作することが好ましい。このようにすれば、給電部(中実材)の電気抵抗をヒータ部(中空材)の電気抵抗よりも小さくでき、給電部の温度上昇を抑制してヒータ部でより多くの熱を発生できる。
磁束φ3は、上部ヒータ8、下部ヒータ9と鎖交しない磁束である。この磁束φ3は単にコイル20のインダクタンスに磁気エネルギーとして蓄える磁束であり、上部ヒータ8と下部ヒータ9全体に誘導電流を流すのに何ら作用しない。
図7は、本発明に係る加熱調理器の等価回路である。本発明に係る加熱調理器は相互誘導回路で表すことができる。図7において、Rcはコイルユニット12の抵抗、Lcはコイルユニット12のインダクタンスであり、コイルユニット12において電磁気的作用をするものは、コイル20と、上部磁性体21と下部磁性体22のみであるから、図7の等価回路においては図4に示すコイルユニット12のうちコイル20と上部磁性体21、下部磁性体22のみが表現されている。なお、図7の等価回路では簡単にするために、上部磁性体21、下部磁性体22及び上部ヒータ8、下部ヒータ9の区別はせず、一体として扱った。図7においてRhは上部ヒータ8、下部ヒータ9の抵抗である。また、Lh1は上部ヒータ8、下部ヒータ9のうち、耐熱基材13の上部溝部15、下部溝部16に収容されている部分(以下、「給電部」と称する。)のインダクタンスであり、Lh2は残りの部分(以下、「ヒータ部」と称する。)のインダクタンスである。M1はコイルユニット12と上部ヒータ8、下部ヒータ9の給電部との相互インダクタンスであり、k1はコイルユニット12と上部ヒータ8、下部ヒータ9の給電部との結合係数である。
また、図8は本発明と比較するため、加熱庫3の壁部5が金属部材で形成されている場合の等価回路を示した図である。コイル20に高周波電流を印加すると、上述のように上部ヒータ8、下部ヒータ9には高周波の大電流が流れるから、加熱庫3の壁部5が金属部材で形成されている場合、上部ヒータ8、下部ヒータ9と金属製の壁部5との間で相互誘導が生じる。図8において、図7と同符号を示したものは上述したとおりである。Rfは加熱庫3の壁部5の抵抗であり、Lfは加熱庫3の壁部5のインダクタンスである。M2は上部ヒータ8、下部ヒータ9のヒータ部と加熱庫3の壁部5との相互インダクタンスであり、k2は上部ヒータ8、下部ヒータ9のヒータ部と加熱庫3の壁部5との結合係数である。
図9は、本実験用に製作した加熱調理器1のコイルユニット12のみの抵抗、加熱庫3の壁部5が絶縁物の場合の抵抗と、加熱庫3の壁部5が金属部材の場合の抵抗とをインピーダンスアナライザで測定した結果である。いずれの測定結果もコイル20の両端をインピーダンスアナライザに接続して測定した。
コイルユニット12のみの抵抗は、加熱調理器1からコイルユニット12のみを取り出して単体で測定した結果である。加熱庫3の壁部5が絶縁部材の場合の抵抗は、図1、図2に示したように壁部5をセラミックスからなる耐熱性絶縁部材で製作し、耐熱基材13の上部溝部15、下部溝部16に上部ヒータ8、下部ヒータ9を収容した状態でコイル20の両端にインピーダンスアナライザを接続して測定した。
加熱庫3の壁部5が金属の場合の抵抗は、図1、図2に示す加熱調理器1で加熱庫3の壁部5に鉄板を使用し、耐熱基材13の上部溝部15、下部溝部16に上部ヒータ8、下部ヒータ9を収容してコイル20の両端にインピーダンスアナライザを接続して測定した。
図9に示すように加熱庫3の壁部5を耐熱性絶縁部材から金属部材に変更すると、コイル20の両端から測定した抵抗が大きくなる。すなわち、これは図7及び図8の等価回路が示すように上部ヒータ8、下部ヒータ9と加熱庫3の壁部5との相互誘導によるものである。このように、加熱庫3の壁部5を金属部材で形成した場合、壁部5でも電力が消費されるため、例えば使用電力が決まっている場合、各ヒータ8,9で消費される電力が減少することになる。
図9の抵抗測定結果を検証するため、図7及び図8の等価回路を回路シミュレータで解析した。図10は、図7及び図8の等価回路をもとに回路シミュレータで図9と同様の各状態の抵抗を計算したものである。計算において、Rc=90mΩ、Lc=170μHとした。
これは図9の測定に用いたコイルユニット12の30kHzの値である。図9に示すように、リッツ線を用いて製作したコイル20によるRcは表皮効果や近接効果により周波数が高くなるに従い、大きくなる特性を示すが、回路シミュレータでの解析では簡単にするためにコイルの抵抗Rcは周波数によらず一定とした。
試作したヒータのインダクタンスは正確には分からないが、Lh1=0.1μH、Lh2=0.9μHとした。また、各ヒータ8,9の抵抗は製作したヒータ材料の体積抵抗率から概算し、Rh=100mΩとした。
加熱庫3の壁部5の抵抗とインダクタンスは全く不明であるが、各ヒータ8,9と同程度と仮定し、Rf=100mΩ、Lf=1μHとした。さらに、コイルユニットLcと各ヒータ8,9の給電部Lh1との結合係数をk1=0.9、各ヒータ8,9のヒータ部Lh2と壁部Lfとの結合係数をk2=0.5とした。
図10は以上の条件で回路シミュレータによりコイル両端から見た抵抗を示したものである。図9と図10を比較すると、傾向がほぼ一致しており、上述のように仮定した抵抗、インダクタンス及び結合係数が妥当なものであると考えられる。
回路シミュレータのよる計算結果によれば、コイル(Rc)、ヒータ(Rh)、加熱庫の壁部(Rf)が消費する電力を計算することができる。図11はコイル20の両端に100%の電力を入力したときに、各ヒータ8,9と加熱庫3の壁部5が消費する電力の割合の計算結果を示したものである。本発明に係る加熱調理器1は図11の実線で示した場合であり、加熱庫3の壁部5が耐熱性絶縁部材で形成されているため、コイル20の両端に入力された電力はコイル20と各ヒータ8,9でのみ消費される。すなわち、図11から解るようにコイル20に流れる高周波電流の周波数が20kHz〜100kHzの場合には90%以上の電力が各ヒータ8,9で消費され、残りの10%以下がコイル20で消費される。
なお、図11ではコイルで消費される電力は省略して示してある。例えば、コイルの両端に2kWの電力を入力すれば、各ヒータ8,9では1.8kW以上の電力が消費される。一方、図11の破線で示したものは、本発明と比較するため加熱庫3の壁部5が金属部材で形成された加熱調理器である。加熱庫3の壁部5が金属部材で形成されている場合、各ヒータ8,9に流れる高周波の大電流により、加熱庫3の壁部5が誘導加熱されるため、壁部5も電力を消費する。加熱庫3の壁部5が鉄板などの磁性金属部材で形成されている場合は誘導加熱されやすいが、非磁性の金属部材や導電性を有するグラファイトなどの炭素素材からなる導電材料であっても誘導加熱されるので、ここに示す比較例と同じである。
図11に示すように加熱庫3の壁部5が金属部材の場合には、20kHz〜100kHzの周波数で加熱庫3の壁部5が10〜18%の電力を消費するため、各ヒータ8,9で消費する電力の割合は低下し約80%程度となっている。例えば、コイル20の両端に2kWの電力を入力する場合、各ヒータ8,9で消費される電力は約1.6kWとなり、加熱庫3の壁部5が耐熱性絶縁部材の場合と比較して200W以上小さくなることが図10から理解できる。壁部5で消費される電力も加熱庫3の壁部5の外側に断熱材などを外装し、加熱庫3の外部へ放散する熱を抑制することにより熱損失を防ぐことができる。
しかし、加熱庫3の壁部5が金属である場合には、電力消費により各ヒータ8,9と加熱庫3の壁部5の2つの部材が加熱されることになるので、本発明の加熱庫3の壁部5が耐熱性絶縁部材で形成される場合に比べ熱容量が大きくなり、加熱庫3の昇温に時間がかかる。また、各ヒータ8,9で消費される電力だけを比較しても、図11の場合、本発明の加熱庫3の壁部5を耐熱性絶縁部材で形成した加熱調理器1の方が各ヒータ8,9で消費される電力を10ポイント以上大きくすることができるので、各ヒータ8,9の温度上昇をより速くし、また各ヒータ8,9の温度を高温にすることができる。例えば、焼き魚などのグリル調理では加熱庫3内の温度上昇をできるだけ速くすることが望まれる。これは加熱の早い段階に食材の表面をパリッと焼き上げることにより、食材80の中の旨み成分を閉じ込めるためである。また各ヒータ8,9からの輻射熱を利用した加熱による調理が美味とされるが、輻射による伝熱を大きくするためには、各ヒータ8,9の温度が高い方がよい。
すなわち、本発明による加熱庫3の壁部5を耐熱性絶縁部材で形成した加熱調理器1は、加熱庫3内の温度上昇を速くすることができ、また各ヒータ8,9からの輻射を大きくすることができるので、特にグリル調理に最適である。グリル調理に限らず、オーブン調理や、調理以外の焼成や乾燥など他の用途においても加熱庫3の温度上昇が速いと所望の温度に達する時間が速くなるので、調理や焼成、乾燥などに要する時間と電力を低減できる。
ここで、本実施の形態の加熱調理器1と、特許文献1に記載された加熱調理器との差異を明確するため、特許文献1に記載された加熱調理器について検討する。特許文献1に記載された加熱調理器のヒータであっても、ヒータに20kHz〜500kHzの高周波電流が印加されるため、加熱庫の壁部が金属部材で形成されている場合、加熱庫の壁部が誘導加熱されるので本発明と同様、加熱庫の壁部を絶縁物部材で形成した方がよいのではないかと考えることもできる。しかし、特許文献1に記載された加熱調理器のヒータは、薄いリボン状又は線状のヒータであって、先に述べたようにヒータの電気抵抗が大きく、流れる電流は小さい。このようなヒータでは、仮にヒータと金属製の加熱庫の壁部との相互誘導があったとしても、加熱庫の壁部の電気抵抗はヒータの電気抵抗に比べ無視できるほどに小さいからその効果は極めて小さくなる。
図12及び図13は、特許文献1に記載された加熱調理器の場合について回路シミュレータを用いて、図10及び図11と同様の計算をした結果である。図12及び図13を計算するための等価回路は図7及び図8に示したものである。回路定数は、被誘導コイルのインダクタンスLh1を誘導コイルのインダクタンスLcと同じLh1=170μHとし、ヒータの抵抗Rhを20Ωとした以外は、図10及び図11の計算のための回路定数と同じにした。図12の加熱庫の壁部が絶縁部材の場合の抵抗(実線)と加熱庫の壁部が金属部材の場合の抵抗(破線)を比較すると、ほとんど同じでありほぼ重なっていることが解る。
図13は、図11と縦軸のスケールが異なっており、図13は違いを分かりやすくするために5ポイントの範囲で拡大して示している。図13を参照すると、加熱庫の壁部が絶縁部材の場合と金属部材の場合で、ヒータで消費される電力の割合は約0.1ポイントしか違わず、これはコイルの両端に2kWの電力を入力したとき、2Wしか違わないことを意味する。
また、加熱庫の壁部が金属部材の場合、壁部で消費される電力の割合も約0.1%であり極めて小さい。特許文献1に記載された加熱調理器の回路定数は記載が無いので分からないから、ここで述べた回路シミュレーションによる計算に用いた回路定数と異なるものであろうことは予想されるが、図12や図13に示すように特許文献1の加熱調理器において加熱庫の壁部を金属部材とした場合であっても絶縁部材とした場合であっても、その違いはほとんど分からず、したがって、特許文献1には何ら記載が無いものと考えられる。すなわち本発明に示すように加熱庫の壁部を絶縁部材にすることが望ましいというのは、本発明に示す加熱調理器の形態において初めて明らかになったものであると言える。
図14は特許文献1に記載された加熱調理器の主要部を示す図である。図14ではコイルの様子を分かりやすくするために特許文献1の表記とは異なり、コイルを巻線で示した。誘導コイル(導線を複数回巻いて形成)50によって発生する磁束φ51は、磁性体52を通って、被誘導コイル(導線を複数回巻いて形成)53と鎖交する。このとき、被誘導コイル53に電磁誘導により発生した電圧により、ヒータ54に誘導電流が流れてヒータ54が発熱する。
ここで、被誘導コイル53の導線の巻数をNとすると被誘導コイル53はNターンのコイルであると定義できる。被誘導コイル53は巻数が大きいので、被誘導コイル53の両端に高い電圧が発生し、ヒータ54の電気抵抗が大きくてもヒータ54の消費電力を十分に大きくして調理に必要な熱量を得る。
図示するように、誘導コイル50によって発生する一の磁束φ51は被誘導コイル53とN回鎖交している。図14では磁束を2本示しているが、マクスウェル方程式により磁束φ51は連続であることが要求されるから、2本の磁束φ51は合成されたり分離されたりすることなく、それぞれが単一のループを構成する。つまり、図14のように2本の磁束φ51を考えた場合であっても、2本のうちの任意の1本の磁束、すなわち誘導コイル50によって発生する1の磁束は、Nターンの被誘導コイル53とN回鎖交する。
これに対して、本実施の形態の加熱調理器1は、図6に示すようにコイル20によって発生する一の磁束は、上部ヒータ8又は下部ヒータ9と1回鎖交するだけである。これは、上部ヒータ8、下部ヒータ9が1ターンの閉回路を構成するように形成しているためであり、一の磁束と1回しか鎖交しないということは、各ヒータ8,9が1ターン(巻数が1)であるということと同義でもある。なお、コイル20によって発生する磁束と何ら電磁気的作用をしない部分で各ヒータ8,9が複数ターンになる構造を有していても、これが電磁誘導に何ら影響を与えることはないので、本発明の趣旨からして無視して扱ってよいということは言うまでもない。
電磁誘導により上部ヒータ8又は下部ヒータ9に誘起される電圧は低くなるので、各ヒータ8,9の抵抗が大きいときには各ヒータ8,9に十分に大きな電流を流すことができず加熱調理に必要な熱量が得られない。すなわち、本実施の形態の加熱調理器1のようにコイル20によって発生する一の磁束と1回しか鎖交しないヒータ8,9では、既に述べたように各ヒータ8,9の電気抵抗は一般的なヒータに比較してかなり小さいものになり、必要な熱量を得るために大電流が流れる。
したがって、このような高周波の大電流が各ヒータ8,9に流れるため、加熱庫3の壁部5が金属部材である場合には壁部5が誘導加熱されて、各ヒータ8,9で消費される電力が減少していたが、本実施の形態で説明したように、加熱庫3の壁部5が絶縁部材である方が金属である場合に比べてヒータで消費される電力を大きくすることができる。
なお、各ヒータ8,9の形状を工夫して、コイル20によって発生する一の磁束と2回鎖交するようにしても、本実施の形態の加熱調理器1に比べて電流は小さくはなるが各ヒータ8,9には高周波の大電流が流れるので、ヒータで消費される電力を大きくできる。しかし、この場合、ヒータの構造が複雑になるため製造コストが高くなり、取扱いも不便になることを考慮する必要がある。
すなわち、本発明は、コイル20によって発生する一の磁束と1回鎖交する1ターンの電気的な閉ループ(閉回路)で構成されたヒータを用いた加熱調理器に最適である。
以上に述べたように本発明にあっては、加熱庫3の壁部5が絶縁部材で形成されているため、上部ヒータ8、下部ヒータ9に流れる高周波の大電流により加熱庫3の壁部5が誘導加熱されない。その結果、コイル20に印加された高周波電力はコイル20と上部ヒータ8及び下部ヒータ9でのみ消費される。これにより、上部ヒータ8及び下部ヒータ9の昇温速度がより速くなり、上部ヒータ8及び下部ヒータ9の温度がより高温になる。なお、本実施の形態では、壁部5を構成する上壁5aの全部、下壁5bの全部、側壁5c,5dの全部を絶縁部材で形成した例を説明したが、これに限らず、例えば上壁5aの一部、下壁5bの一部、側壁5c,5dの一部を絶縁部材で形成してもよい。
実施の形態2.
実施の形態1では、コイル導線を平板状に巻回し、一部のコイル束分と別のコイル束分を上部断熱材と下部断熱材の背後に配置し、上部断熱材と下部断熱材とコイル束分を囲うように断面コ状の上部磁性体、下部磁性体を配置してコイルユニットを形成したが、実施の形態2では、断面コ状の上部磁性体と下部磁性体のそれぞれの外周部にコイル導線を螺旋状に巻回してコイルユニットを形成したものである。コイルによって発生する一の高周波磁束と1回鎖交する電気的に閉じた閉回路を構成するものであれば、ヒータには高周波の大電流が流れる。このため、加熱庫の壁部を金属部材で形成するとヒータで消費される電力が減少するが、加熱庫の壁部を絶縁部材で形成していることによりヒータで消費される電力が大きくなり、実施の形態1で示した加熱調理器1と同様の効果が得られる。
実施の形態2の加熱調理器1におけるコイルユニットについて、図15〜図17を参照して説明する。図15は、実施の形態1とは形状が異なる加熱調理器1のコイルユニット120を示す断面図である。図は実施の形態1に示した図6に対応しており、加熱調理器1のその他の部材は実施の形態1に示したとおりである。図示するように、コイルユニット120は実施の形態1のコイルユニット12と同様に、耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16の背後に配置されている。図では、ヒータ8,9と、これに鎖交する磁束φ10の様子も示している。
実施の形態2のコイルユニット120について具体的に説明すると、耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16の外側を所定の空隙をもって囲うように、断面コ状の上部磁性体210と下部磁性体220が配置され、上部磁性体210と下部磁性体220の外周部にコイル導線200が螺旋状に巻回されてコイル201,202を形成している。このように、実施の形態2のコイル201,202は、実施の形態1とは異なり、上部磁性体210と下部磁性体220のそれぞれ1個ずつ配置される。ヒータ8,9は、実施の形態1に述べたように金属などの導電体で形成され、閉回路を構成する1ターンのループ状の構造を有する。
図示するように、耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16に上部ヒータ8と下部ヒータ9の一部が収容され(この時、各ヒータ8,9の他の一部は加熱庫の左右の側壁5c,5dに形成されている棚部25に支持されている。)、図示しない電源回路からコイルユニット120に高周波電力が供給されると、コイル201,202の内側には、高周波磁束φ10が発生し、発生した磁束φ10が磁気抵抗の低い上部磁性体210と下部磁性体220を通過して上部ヒータ8、下部ヒータ9と鎖交する。
図において磁束φ10を2本示しているが、2本の磁束φ10とも上部ヒータ8、下部ヒータ9と1回だけ鎖交している。このように、実施の形態2の加熱調理器1におけるコイルユニット120においても、実施の形態1の加熱調理器1におけるコイルユニット12と同様に、コイル201,202によって発生する一の磁束が上部ヒータ8、下部ヒータ9と1回だけ鎖交する。
これにより、上部ヒータ8、下部ヒータ9には高周波の大電流が誘導される。既に説明しているように、加熱庫3の壁部5を絶縁部材で形成していることにより実施の形態1で示した加熱調理器1と同様に、各ヒータ8,9で消費される電力を大きくできる。
図15に示したコイル201,202の場合、上部ヒータ8、下部ヒータ9を横切って鎖交する磁束(実施の形態1で示した磁束φ2)は、極僅かの漏洩磁束程度しか発生しないので、上部ヒータ8と下部ヒータ9における耐熱基材13の上部溝部15と下部溝部16に収容されている部分が誘導加熱により加熱されて高温になるのを抑制できる。
なお、上部磁性体210と下部磁性体220はコの字状の断面形状に限るものではなく、図16に示したように、先端部を内側に折り曲げたC状の断面形状を有するものであってもよい。先端部を内側に折り曲げたC状の上部磁性体210、下部磁性体220とすることで、先端部を内側に折り曲げた部分の磁気抵抗が小さくなり、より多くの磁束が上部ヒータ8、下部ヒータ9と鎖交し、上部ヒータ8、下部ヒータ9に印加される高周波電力を増大できる。なお、多くの磁束が上部ヒータ8、下部ヒータ9と鎖交しても、各磁束は上部ヒータ8、下部ヒータ9と1回しか鎖交しないことに変わりはない。
更に、コイル201,202から発生する一の磁束が上部ヒータ8、下部ヒータ9と1回鎖交することができれば、図17に示すように、磁性体を用いず、空芯(コアレス)のコイル201,202を用いることも可能である。このような形態であっても、上部ヒータ8、下部ヒータ9に高周波の大電流が誘導され、実施の形態1と同様に、加熱庫3の壁部5を絶縁部材で形成していることにより各ヒータ8,9で消費される電力を大きくできる。
このように、磁性体の有無やコイル又は磁性体の形状は、本実施の形態で説明したものに何ら制限されるものではなく、コイル20(201,202)から発生する一の磁束が上部ヒータ8、下部ヒータ9と1回鎖交するものであれば、どのような構造の加熱調理器であっても本発明の効果を得ることができる。
実施の形態3.
実施の形態1では加熱庫の壁部(上壁、下壁及び側壁)が全て絶縁部材で形成された加熱調理器1について説明したが、実施の形態3の加熱調理器1では加熱庫の壁部を構成する少なくとも1つの壁を絶縁部材で形成したものである。このような形態の加熱調理器1であっても実施の形態1で説明した加熱調理器1と同様の効果を奏する。以下、実施の形態3に係る加熱調理器1について、図18〜図20を参照して説明する。図18は、実施の形態3に係る加熱調理器1の正面断面図である。また、図19は図18におけるII−II方向から見た加熱調理器1の横断面図である。
実施の形態3の加熱調理器1は、上壁5aが例えばセラミックスなどの耐熱性絶縁部材で形成され、下壁50b、側壁50c,50dは例えば、鉄板などの金属部材で形成されている。加熱調理器1の筐体2が鉄板などの強磁性金属部材で形成される場合、実施の形態1の図1、図2で示した加熱調理器1と同様に、上壁5aの外側(上方)には、所定空間をもって防磁壁7aが配置されている。一方、下壁50b、側壁50c,50dの外側には防磁壁が配置されていない。そして、実施の形態1に示した加熱調理器1と同様に、上壁5aと防磁壁7aの内側とで形成されている空間は、加熱庫3内の熱が防磁壁7aの外側に放散するのを抑制する断熱層として機能している。
図18、図19に示すように、鉄板などの金属部材で形成されている下壁50b、側壁50c,50dは、2枚の金属板で構成され、2枚の金属板の間に空間を設けて空間内の空気を断熱層として機能させてある。また、内側と外側の2枚の金属板との間に断熱材を充填してもよい。なお、下壁50b、側壁50c、50dを1枚の金属板で形成し、その外側に熱伝導率の低い断熱材で外装して加熱庫3の内部の熱が外部に放熱されるのを抑制してもよい。その他の構成は実施の形態1に示した加熱調理器1と同様である。
このように構成された実施の形態3の加熱調理器1において、電源回路4からコイル20に20kHz〜100kHzの高周波電流が供給されると、電磁誘導により上部ヒータ8、下部ヒータ9に高周波の大電流(ヒータ電流)が誘導される。上部ヒータ8、下部ヒータ9に流れる高周波のヒータ電流は、金属部材で形成された加熱庫3の下壁50b、側壁50c、50dと相互誘導を生じ、下壁50b、側壁50c,50dを誘導加熱するため各ヒータ8,9で消費される電力が減少する。しかし、上壁5aが耐熱性絶縁部材で形成されているため、上壁5aとは相互誘導を生じない。その結果、上壁5aが金属部材で形成された加熱調理器よりも、各ヒータ8,9で消費される電力の減少を小さくできる。
加熱庫3の内部の上方と下方に上部ヒータ8、下部ヒータ9をそれぞれ配置する場合、図18及び図19に示すように、下部ヒータ9の下側には脂受け皿27などが配置されるため、下部ヒータ9と下壁50bとの間隔は大きくなるが、上部ヒータ8の上側には何も配置されないので、加熱庫3の有効容積を大きくするために上部ヒータ8は上壁5aに接近させて配置するのが望ましい。
そのため、実施の形態3の加熱調理器1では、図示するように上部ヒータ8は側面から見た断面形状において、耐熱基材13の上部溝部15近傍から斜め上方に折り曲げられ、そこから更に上壁5aと平行となるように折り曲げることにより加熱庫3の内部の有効容積を大きくしている。したがって、上部ヒータ8と上壁5aとの距離が近くなるので、上壁5aが金属部材である場合には相互誘導が大きくなるため、上壁5aのみを絶縁部材で形成することで効果的に本発明の効果を得ることができる。
なお、加熱庫3の内部に配置される各ヒータ8,9の形状や各ヒータ8,9が配置される位置は、本実施の形態で説明したものに何ら制限されるものではない。例えば、側壁50c,50dが金属部材で形成されている場合であって、各ヒータ8,9と側壁50c,50dとの相互誘導が最も大きく作用する各ヒータ8,9の配置であるならば、側壁50c,50dを金属部材から絶縁部材に変更することで、側壁50c,50dが誘導加熱されて各ヒータ8,9での電力消費が減少するのを最も効果的に抑制できる。
図20は、図9で説明した実験と同様に、本実験用に製作した加熱調理器1のコイルユニット12のみの抵抗と、加熱調理器1の加熱庫3の全ての壁部5が絶縁部材の場合の抵抗と、上壁5aのみを絶縁部材とし、下壁50bと両側壁50c,50dが金属部材とした場合の抵抗と、全ての壁部5が金属部材の場合の抵抗とをインピーダンスアナライザで測定した結果である。いずれの測定結果もコイル20の両端をインピーダンスアナライザに接続して測定したものである。上壁5aのみが絶縁部材とし、下壁50bと両側壁50c,50dが金属部材とした場合の抵抗以外は図9に示したものと同じである。
図20を参照すれば明らかなように、上壁5aのみを絶縁部材にすることにより、全ての壁部5が金属部材の場合に比べ抵抗が小さくなっていることが分かる。これはすなわち、コイル20に入力する電力が一定の場合、各ヒータ8,9で消費する電力が増加することを示唆している。実施の形態1のように全ての壁部5を絶縁部材で形成すると、ヒータで消費する電力を最も大きくできるが、全ての壁部5を例えばセラミックスなどの絶縁部材で形成するよりも、壁部5を構成する少なくとも一部の壁を鉄板などの金属部材で形成する方が加熱調理器1を安価に製作できる。
このような場合、本実施の形態で示したように、壁部5を構成する少なくとも一部の壁を絶縁部材で形成し、他の壁を金属部材で形成した場合であっても、壁部5の全てを金属で形成する場合に比べてヒータでの消費電力を大きくでき、実施の形態1で述べたように上部ヒータ8及び下部ヒータ9の昇温速度(加熱庫3の内部の温度上昇)がより速くなり、上部ヒータ8及び下部ヒータ9の温度をより高温にできる。また、壁部5を構成するどの壁を絶縁部材にするのが最も効果的であるかは、本明細書で開示したようにインピーダンスアナライザにより抵抗を測定すれば容易に判別できる。なお、本実施の形態では、壁部5を構成する少なくとも一部の壁を絶縁部材で形成した例を説明したが、これに限らず、該当する1つの壁の一部が絶縁部材で形成されていればよい。
以上、本発明の複数の実施の形態を個別に説明したが、これら複数の実施の形態は、特に問題がない限り、組み合わせることが可能である。
今回、開示した実施の形態は例示であってこれに制限されるものではない。本発明は、上記で説明した範囲ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲での全ての変更を含む。