JP2013053666A - ウォームギヤ機構及びウォームギヤ機構の製造方法 - Google Patents

ウォームギヤ機構及びウォームギヤ機構の製造方法 Download PDF

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浩壱 藤田
Yosuke Tanaka
陽介 田中
Yasuo Shimizu
康夫 清水
Takashi Miyoshi
尚 三好
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Abstract

【課題】ウォームギヤ機構の噛み合いを良好にすること。
【解決手段】ステアリングホイールの操舵入力に基づいて電動モータ43が発生したトルクを、転舵用車輪に伝達するためのウォームギヤ機構44である。該ウォームギヤ機構は、電動モータに連結される金属製のウォーム70と、該ウォームに噛み合う樹脂製のウォームホイール80とから成る。無負荷状態において、ウォームとウォームホイールとは、ウォームホイールの歯81の歯面がウォームの歯71の歯面に押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、歯面同士が押し付け合うように組み付けられている。
【選択図】図4

Description

本発明はウォームギヤ機構及びウォームギヤ機構の製造方法の改良技術に関する。
ウォームギヤ機構の中には、電動パワーステアリング装置に有しているものがある。電動パワーステアリング装置に有したウォームギヤ機構は、電動モータに連結されたウォームと、負荷に連結されたトルク伝達用のウォームホイールとによって構成されている。電動モータが発生したトルクは、ウォームからウォームホイールを介して負荷に伝達される。このような電動パワーステアリング装置は、特許文献1から知られている。特許文献1で知られている電動パワーステアリング装置のウォームギヤ機構は、電動モータに連結される金属製のウォームと、該ウォームに噛み合う樹脂製のウォームホイールとから成る。
近年は、電動パワーステアリング装置の小型化及び軽量化の要請が高まるとともに、電動モータの高出力化が求められている。電動パワーステアリング装置の小型化を図るには、ウォームギヤ機構の小型化が欠かせない。しかし、電動モータが発生するトルクを下げることなく、ウォームギヤ機構を単に小型にしたのでは、ウォームの歯とウォームホイールの歯とに作用する面圧が増大してしまう。
これに対し、ウォームホイールの歯を弾性変形し易い樹脂材料、例えばガラス繊維の含有量が少ない樹脂材料で構成することによって、歯面同士の面圧を抑制することは可能である。しかし、これでは、ウォームホイールの歯の歯面に発生するクリープが進行しやすくなり、この結果、歯同士の間のバックラッシが増大する要因となり得る。バックラッシが増大すると、歯同士が当たる歯当たり音が発生しやすい。さらに、操舵感覚(操舵フィーリング)も悪化する。これに対処するには、バックラッシを調整するための調整機構を必要とする。このため、ウォームギヤ機構の構成が複雑になってしまう。
特開2007−269065号公報
本発明は、ウォームギヤ機構の噛み合いを良好にすることができる技術を、提供することを課題とする。
請求項1に係る発明では、ステアリングホイールの操舵入力に基づいて電動モータが発生したトルクを、転舵用車輪に伝達するためのウォームギヤ機構において、前記ウォームギヤ機構は、前記電動モータに連結される金属製のウォームと、該ウォームに噛み合う樹脂製のウォームホイールとから成り、前記ウォームと前記ウォームホイールとは、無負荷状態にあるという条件下で、前記ウォームホイールの歯の歯面が前記ウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、前記歯面同士が押し付け合うように組み付けられていることを特徴とする。
ここで、「ウォームとウォームホイールとが無負荷状態にあるという条件下」とは、ウォームによってウォームホイールを回したときに、該ウォームホイールに対して外部から反力が入力しない状態であることをいう。
請求項2に係る発明では、前記ウォームホイールの歯の歯面が前記ウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をする変形量は、前記ウォームホイールを構成する樹脂の物性に基づき予め求められたクリープ量に従って、設定されていることを特徴とする。
請求項3に係る発明では、前記ウォームホイールの前記歯の歯形は、平歯、又は、はす歯であることを特徴とする。
請求項4に係る発明では、金属製のウォームと、該ウォームに噛み合う樹脂製のウォームホイールと、から成るウォームギヤ機構の製造方法において、前記ウォームと前記ウォームホイールとを準備する工程と、前記ウォームと前記ウォームホイールとが無負荷状態にあるという条件下で、前記ウォームホイールの前記歯の前記歯面が前記ウォームの前記歯の前記歯面に押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、前記歯面同士が押し付け合うように、前記ウォームと前記ウォームホイールとを組み付ける工程と、前記ウォームと前記ウォームホイールとを回転させることにより、前記歯面同士の接触面積を増すように前記ウォームホイールの前記歯面の歯形を矯正する工程と、を含んでいることを特徴とする。
ここで、「ウォームとウォームホイールとが無負荷状態にあるという条件下」とは、ウォームによってウォームホイールを回したときに、該ウォームホイールに対して外部から反力が入力しない状態であることをいう。
請求項1に係る発明では、無負荷状態にあるという条件下で、樹脂製のウォームホイールの歯の歯面は、金属製のウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、歯面同士が押し付け合うようにウォームに組み付けられる。このため、ウォームとウォームホイールとを回転させることにより、樹脂製のウォームホイールの歯は、金属製のウォームの歯の歯面に繰り返し押され、その度、弾性変形を繰り返す。これを繰り返すうちに、樹脂製のウォームホイールの歯の歯面は徐々にクリープする。つまり、ウォームホイールの歯の歯面は、ウォームの歯の歯面に馴染むように、徐々にウォームの歯の歯面に合わせた形状に窪む。この結果、ウォームホイールの歯面の歯形は、歯面同士の接触面積を増すように矯正される。歯面同士の接触面積が増すことによって、歯面に作用する面圧が低減する。従って、各歯面に発生する摩耗や発熱を抑制することができるので、ウォーム及びウォームホイールの耐久性を高めることができる。
さらには、ウォームの歯の歯面に対してウォームホイールの歯の歯面が馴染むことによって、歯同士が滑らかに噛み合うので、噛み合いの良好なウォームギヤ機構を提供することができる。このため、電動パワーステアリング装置による操舵感覚(操舵フィーリング)を高めることができる。
さらには、歯面同士が馴染み、各歯の寸法のバラツキにも対応することができるので、ウォーム及びウォームホイールの製作精度や組み付け精度を緩やかにすることができ、この結果、精度管理が容易である。
請求項2に係る発明では、ウォームホイールの歯の歯面がウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をする変形量は、ウォームホイールを構成する樹脂の物性に基づき予め求められたクリープ量に従って、設定されている。このため、ウォームホイールの歯の歯面がウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をする変形量を、ウォームホイールを構成する樹脂材料に従って、より適切な値に設定することができる。
請求項3に係る発明では、ウォームホイールの歯の歯形は「平歯」又は「はす歯」なので歯面が平らであり、ウォームの歯の歯面に極力馴染んだ、きれいな形状に窪むことができる。しかも、ウォームとウォームホイールとを組み合わせた状態で、最終的に矯正された歯形を生成することができる。
さらには、ウォームホイールの歯の歯形が「平歯」又は「はす歯」なので、ウォームホイールの軸方向(回転中心線の方向)の、ウォームとウォームホイールとの組み付け精度を緩やかにすることができ、この結果、精度管理が容易である。しかも、樹脂製ウォームホイールの成型用金型をシンプルな構成にすることができるので、金型の製造コストを低減することができるとともに、金型の製作精度の管理が容易である。
請求項4に係る発明では、無負荷状態にあるという条件下で、樹脂製のウォームホイールの歯の歯面は、金属製のウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、歯面同士が押し付け合うようにウォームに組み付けられる。その後、ウォームとウォームホイールとを回転させることにより、樹脂製のウォームホイールの歯は、金属製のウォームの歯の歯面に繰り返し押され、その度、弾性変形を繰り返す。これを繰り返すうちに、樹脂製のウォームホイールの歯の歯面は徐々にクリープする。つまり、ウォームホイールの歯の歯面は、ウォームの歯の歯面に馴染んで、徐々にウォームの歯の歯面に合わせた形状に窪むように矯正される。このように、歯面同士が馴染み、各歯の寸法のバラツキにも対応することができるので、ウォーム及びウォームホイールの製作精度や組み付け精度を緩やかにすることができ、この結果、精度管理が容易である。
しかも、ウォームの歯の歯面に対してウォームホイールの歯の歯面が馴染むことによって、歯同士が滑らかに噛み合うので、噛み合いの良好なウォームギヤ機構を提供することができる。このため、請求項4に係るウォームギヤ機構を電動パワーステアリング装置に採用した場合には、該電動パワーステアリング装置による操舵感覚(操舵フィーリング)を高めることができる。
さらには、ウォームホイールの歯面の歯形が矯正されることによって、歯面同士の接触面積が増す。この結果、歯面に作用する面圧が低減する。従って、各歯面に発生する摩耗や発熱を抑制することができるので、ウォーム及びウォームホイールの耐久性を高めることができる。
本発明に係るウォームギヤ機構を備えた電動パワーステアリング装置の模式図である。 図1に示された電動パワーステアリング装置の全体構成図である。 図2の3−3線断面図である。 図2の4−4線断面図である。 図4に示されたウォームギヤ機構を拡大した断面図である。 図5に示されたウォームの歯とウォームホイールの歯の拡大図である。 図6に示されたウォームの歯とウォームホイールの歯とを組み合わせた構成を示す説明図である。 本発明に係るウォームギヤ機構の製造方法の説明図である。 図7に示されたウォームホイールの歯のクリープ後の説明図である。 図8に示されたホイール歯形矯正工程に伴うウォームホイールの歯の歯面のクリ−プ特性を示す特性図である。
本発明を実施するための形態を添付図に基づいて以下に説明する。
実施例に係るウォームギヤ機構を備えた電動パワーステアリング装置及びこれのウォームギヤ機構の製造方法について説明する。
図1に示されるように、電動パワーステアリング装置10は、車両のステアリングホイール21から車両の転舵用車輪29,29(例えば前輪)に至るステアリング系20と、このステアリング系20に補助トルクを加える補助トルク機構40とからなる。
ステアリング系20は、ステアリングホイール21にステアリングシャフト22及び自在軸継手23,23を介してピニオン軸24(回転軸24)を連結し、ピニオン軸24にラックアンドピニオン機構25を介してラック軸26を連結し、ラック軸26の両端に左右のタイロッド27,27及びナックル28,28を介して左右の転舵用車輪29,29を連結したものである。
ラックアンドピニオン機構25は、ピニオン軸24に形成されたピニオン31と、ラック軸26に形成されたラック32とからなる。
ステアリング系20によれば、運転者がステアリングホイール21を操舵することで、操舵トルクによりラックアンドピニオン機構25及び左右のタイロッド27,27を介して、左右の転舵用車輪29,29を操舵することができる。
補助トルク機構40は、運転者がステアリングホイール21に加えたステアリング系20の操舵トルクを操舵トルクセンサ41で検出し、この操舵トルクセンサ41のトルク検出信号に基づき制御部42で制御信号を発生し、この制御信号に基づき操舵トルクに応じた補助トルク(トルク)を電動モータ43で発生し、この補助トルクをウォームギヤ機構44を介してピニオン軸24に伝達し、さらに、補助トルクをピニオン軸24からステアリング系20のラックアンドピニオン機構25に伝達するようにした機構である。
操舵トルクセンサ41は、ピニオン軸24に加えられたトルクを検出し、トルク検出信号として出力するものであり、例えば磁歪式トルクセンサによって構成される。
電動パワーステアリング装置10によれば、運転者の操舵トルクに電動モータ43の補助トルクを加えた複合トルクにより、ラック軸26で転舵用車輪29,29を操舵することができる。つまり、電動パワーステアリング装置10は、ステアリングホイール21の操舵入力に基づいて電動モータ43が発生したトルクを、ウォームギヤ機構44を介して左右の転舵用車輪29,29に伝達することで車両の転舵を行う。
図2に示されるように、ハウジング51は車幅方向(図左右方向)に延びており、ラック軸26を軸方向にスライド可能に収容している。ラック軸26は、ハウジング51から突出した長手方向両端にボールジョイント52,52を介してタイロッド27,27を連結している。
ハウジング51は車幅方向両端にストッパ35,35を備えている。ボールジョイント52,52は、ストッパ35,35に対向する面にラックエンド52a,52a(当接端面)を有する。ラック軸26は、ラックエンド52a,52aがストッパ35,35に当たるまでの範囲で軸長手方向にスライド可能である。
図3に示されるように、電動パワーステアリング装置10は、ピニオン軸24、ラックアンドピニオン機構25、操舵トルクセンサ41及びウォームギヤ機構44をハウジング51に収納し、ハウジング51の上部開口を上部カバー部53で塞いだものである。操舵トルクセンサ41は、上部カバー部53に取付けたものである。
ハウジング51は、上下に延びるピニオン軸24の上部24u、長手中央部24m及び下端24dを3個の軸受(上から下方へ順に第1軸受55、第2軸受56、第3軸受57)を介して回転可能に支持したものであり、さらに電動モータ43を取付けるとともに、ラックガイド60を備えている。
ラックガイド60は、ラック32とは反対側からラック軸26に当てるガイド部61と、このガイド部61を圧縮ばね62を介して押す調整ボルト63とからなる、押圧手段である。
図4に示されるように、電動モータ43は、横向きのモータ軸43aを備えるとともに、ハウジング51に取付けたものである。モータ軸43aはハウジング51内に延びて、カップリング45によりウォーム軸46に連結されている。ハウジング51は、水平に延びるウォーム軸46の両端部を、軸受47,48を介して回転可能に支承している。
図3及び図4に示されるように、ウォームギヤ機構44は、電動モータ43で発生した補助トルクをピニオン軸24に伝達する補助トルク伝達機構、すなわち倍力機構である。詳しく述べると、ウォームギヤ機構44は、電動モータ43に連結されるウォーム70と、このウォーム70に噛み合うウォームホイール80とからなる。ウォームホイール80のことを、以下「ホイール80」と略称する。
ウォーム70は、ウォーム軸46に一体に形成されている。ホイール80は、ピニオン軸24(回転軸24)に対して、軸方向への相対移動が規制されるとともに相対回転が規制されて、取り付けられている。駆動側のウォーム70に負荷側のホイール80を噛合わせることによって、ウォーム70からホイール80を介して負荷にトルクを伝達することができる。
図4及び図5に示されるように、ウォーム70は金属製品、例えば機械構造用炭素鋼鋼材(JIS−G−4051)等の鉄鋼製品である。ホイール80は、ナイロン樹脂等の樹脂製品である。金属製のウォーム70に樹脂製のホイール80を噛合わせるようにしたので、噛合いを比較的円滑にすることができるとともに、騒音をより低減させることができる。さらには、ウォーム70は金属製品であるから剛性が大きく弾性変形し難い。これに対して、ホイール80は樹脂製品であるから比較的剛性が小さく、ウォーム70よりも弾性変形し易い。
次に、ウォーム70とホイール80の噛み合い構成について説明する。図6は、図5に示されたウォーム70の歯71とホイール80の歯81とを拡大して表している。図7(a)は、図5に示されたウォーム70の歯71とホイール80の歯81との噛み合い構成を表している。図7(b)は、図7(a)に示されたホイール80の歯81を表している。
図5及び図6に示されるように、ウォーム70は、ねじ山71(つまり、歯71)が例えば1条で設定されるとともに、ねじ山71のピッチが一定に設定されている。ウォーム70の歯71の歯形は、例えば「ほぼ台形」または「インボリュート」である。ホイール80の歯81は「平歯」または「はす歯」であり、この歯81の歯形は例えば「インボリュート」である。ウォーム70の歯71の圧力角に対して、ホイール80の歯81の圧力角は同じである。
図7(a)に示されるように、ウォーム70とホイール80とは、無負荷状態であるという条件下で、ホイール80の歯81の歯面81aがウォーム70の歯71の歯面71aに押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、歯面71a,81a同士が押し付け合うように組み付けられている。つまり、ウォーム70とホイール80とは、図5に示されるように、歯71a,81a間にバックラッシ(隙間)が無く、しかも歯71a,81a同士が押し付け合うように組み付けられている。そのためには、図4に示されるように、ピニオン軸24の中心CLとウォーム軸46の中心線WLとの間の軸間距離PPを小さく設定する。
ここで、「ウォーム70とホイール80とが無負荷状態にあるという条件下」とは、ウォーム70によってホイール80を回したときに、ホイール80に対して外部から反力が入力しない、いわゆるフリー状態であることをいう。無負荷状態にあるという条件を満足するためには、例えば、次の2つの方法のいずれかを採用すればよい。第1の方法は、転舵用車輪29,29(図1参照)を接地していない状態にすることである。第2の方法は、図2に示されるように、ラック軸26に転舵用車輪29,29(図1参照)が組み付けられていない状態にすることである。無負荷状態においては、電動モータ43によりウォームギヤ機構44を介して転舵用車輪29,29を転舵させるのに必要なトルクは、各部の摩擦抵抗の総和(メカニカルロス)をやや上回るだけの、極めて小さい値である。
次に、ウォームギヤ機構44の製造方法について、図8を参照しつつ説明する。
先ず、図3に示されるピニオン軸24とラック軸26とウォーム70とホイール80とを準備する(ステップS11;準備工程)。
次に、ハウジング51にラック軸26及びピニオン軸24を組み込む(ステップS12;軸組込み工程)。
次に、ピニオン軸24にホイール80を組み付けるとともに、ハウジング51の中にウォーム70を挿入して、ホイール80に組み合わせ、且つハウジング51に回転可能に組み付ける(ステップS13;ウォームギヤ組立工程)。このウォームギヤ組立工程では、図5に示されるように、ホイール80の歯81の歯面81aがウォーム70の歯71の歯面71aに押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、歯面71a,81a同士が押し付け合うように、ウォーム70とホイール80とを組み付ける。
次に、図4に示されるように、ハウジング51に電動モータ43を組付けるとともに、モータ軸43aをウォーム軸46に連結する(ステップS14;モータ組付け工程)。
次に、図3に示されるように、操舵トルクセンサ41が組み込まれている上部カバー部53によってハウジング51の上部開口を塞ぐ(ステップS15;カバー閉鎖工程)。
次に、ハウジング51にラックガイド60を組付ける(ステップS16;ラックガイド組付け工程)。
次に、図2に示されるように、ラック軸26の両端にタイロッド27,27を組付ける(ステップS17;ラック軸端末処理工程)。
次に、図1に示されるように、タイロッド27,27の両端にナックル28,28を介して左右の転舵用車輪29,29を連結する(ステップS18;車輪連結工程)。
このように、電動モータ43及びウォームギヤ機構44をピニオン軸24に連結するとともに、このピニオン軸24にラックアンドピニオン機構25を介してラック軸26を連結し、ラック軸26の両端に左右のタイロッド27,27及びナックル28,28を介して左右の転舵用車輪29,29を連結した上で、次のホイール歯形矯正工程を実行する。
つまり、図3に示されるように、ウォーム70とホイール80とを回転させることにより、歯面71a,81a同士(図5参照)の接触面積を増すようにホイール80の歯81の歯面81aの歯形を矯正して(ステップS19;ホイール歯形矯正工程)、組立、矯正作業を完了する。このホイール歯形矯正工程は、転舵用車輪29,29(図1参照)を接地した状態、つまり、ウォーム70とホイール80とが「負荷状態にある」という条件下で実行される。
このホイール歯形矯正工程では、例えば電動モータ43の正転と逆転とを交互に繰り返し行うことによって、ウォームギヤ機構44の正逆転を繰り返す、いわゆる、ウォームギヤ機構44の空回し運動(慣らし運転)を、予め設定された所定時間にわたって続行する。この場合、電動モータ43は、ステアリングホイール21の操舵とは無関係に回転する。電動モータ43の回転条件(正転条件及び逆転条件)は、予め設定されている。
例えば、電動モータ43が正逆転する回転速度、正転時間及び逆転時間は、電動パワーステアリング装置10の種類毎に最適条件に設定される。ウォーム70の回転速度は予め設定された一定値である。回転速度が変わると、歯面71a,81a同士(図5参照)の接触によって発熱する熱量が変わってしまうからである。電動モータ43の正転時間及び逆転時間は、ラック軸26のスライド可能範囲、つまり図2に示されるラックエンド52a,52aがストッパ35,35に当たるまでの範囲を勘案して設定される。
この結果、図5に示されるように、ウォーム70とホイール80との歯面71a,81a同士の慣らし運転をすることができる。この慣らし運転を所定の条件(例えば、予め設定された一定の回転速度)で、予め設定された所定時間にわたって続行することにより、歯面71a,81a同士の接触面積を増すようにホイール80の歯81の歯面81aの歯形が矯正される。
図6には、ウォームギヤ組立工程を実行する前のウォーム70の歯71の歯形とホイール80の歯81の歯形とが示されている。その後、ウォームギヤ組立工程において、図7(a)に示されるように、歯面71a,81a同士が押し付け合うように、ウォーム70とホイール80とが組み付けられる。この結果、ウォーム70の歯71の歯面71aは、ホイール80の歯81の歯面81aに押し付けられて食い込む。つまり、ホイール80の歯81の歯面81aは、ウォーム70の歯71の歯面71aに押し付けられることによって、組み付け前の想像線によって示される歯形から、実線によって示される歯形に弾性変形をする。
その後、この状態で所定時間にわたって、ウォーム70とホイール80との歯面71a,81a同士の慣らし運転を実施する。すると、ホイール80の歯81の歯面81aには、応力によって時間依存性の歪みが発生する現象(徐々に塑性変形を起こす現象)、いわゆるクリープ(creep)が発生する。ホイール80の歯81の歯面81aは、クリープの発生によって、図7(b)に示されるように、組み付け前の想像線によって示される歯形から、実線によって示される歯形に矯正される。つまり、ホイール80の歯81の歯面81aは、図9(a)に示される組み付け前の歯形から、図9(b)に示される矯正後の歯形に矯正される。この結果、矯正後のホイール80の歯81の歯面81aには、ウォーム70の歯71の歯面71aに押し付けられた若干の窪み面81bが発生する。この窪み面81bは、図7(b)の実線によって示された歯形に相当する。
ホイール80の歯81の歯面81aがウォーム70の歯71の歯面71aに押し付けられて弾性変形をする変形量δ、つまりクリープ量δは、ホイール80を構成する樹脂の物性に基づき予め求められたクリープ量に従って、設定されている。図9(b)に示される窪み面81bの深さは、クリープ量δに従って異なる。このため、ホイール80の歯81の歯面81aがウォーム70の歯71の歯面71aに押し付けられて弾性変形をする変形量δを、ホイール80を構成する樹脂材料に従って、より適切な値に設定することができる。
図10は、ホイール歯形矯正工程に伴うホイール80の歯81の歯面81aのクリ−プ特性を示す特性図であり、横軸を矯正を続けている経過時間とし、縦軸を歯面81aのクリープ量として、経過時間に応じたクリープ量の変化特性を示している。
この特性図は、電動モータ43によってウォーム70を予め設定された一定の回転速度で正逆転を繰り返す(慣らし運転を行う)という条件下の、ホイール80の歯81の歯面81aのクリープ量の変化特性である。なお、電動モータ43によるウォーム70の回転条件が変わっても、大きく変わるのはホイール80の歯面81aにクリープが発生するまでの時間であり、クリープ量にはそれほど大きい変化がない。
この特性図において、破線によって示されたクリープ特性線Q1は、比較例のホイールの歯の歯面のクリープ量の変化特性を示している。比較例のウォームギヤ機構は、ウォームの歯とホイールの歯との間にバックラッシ+δ1を有している一般的な構成である。このため、慣らし運転を実施した場合には、慣らし運転の時間の経過に従い、歯面のクリープ量が増すことによって、バックラッシが大きくなってしまう。
一方、実線によって示されたクリープ特性線Q2は、本発明のホイール80の歯81の歯面81aのクリープ量の変化特性を示している。本発明のウォームギヤ機構44は、ウォーム70の歯71とホイール80の歯81との間にバックラッシが無く、しかも歯71,81同士が押し付け合うように組み付けられた構成である。
つまり、ウォームギヤ機構44は、慣らし運転によるホイール80の歯81の歯面81aのクリープ量を想定して、歯71,81間のバックラッシの初期値が負の値−δ2になるように(無負荷状態でホイール80の歯81が、変形量−δ2だけ弾性変形するように)、組み付けられている。このため、慣らし運転を実施した場合には、慣らし運転の時間の経過に従い、歯面のクリープ量が増しても、バックラッシの初期値が負の値である。従って、実際の使用状態でのバックラッシは、比較例よりも大幅に小さくてすむ。
なお、図8に示されるウォームギヤ機構44の製造方法において、ホイール歯形矯正工程(ステップS19)は、転舵用車輪29,29を接地していない状態、いわゆるウォーム70とホイール80とが無負荷状態で実行することが可能である。また、ホイール歯形矯正工程(ステップS19)は、車輪連結工程(ステップS18)よりも前の段階、例えばラックガイド組付け工程(ステップS16)の直後に、またはラック軸端末処理工程(ステップS17)の直後に、いわゆるウォーム70とホイール80とが無負荷状態で実行することが可能である。
このように、ウォーム70とホイール80とを無負荷状態にして、ホイール歯形矯正工程を実行した場合には、負荷状態の条件下に比べて、ホイール80の歯81の歯面81aにクリープが発生するまでの時間は、長時間になる。しかし、実行時間はかかるものの、負荷状態の条件下であっても、ホイール80の歯81の歯面81aの歯形を矯正することは可能である。
また、車輪連結工程(ステップS18)よりも前の段階で、ホイール歯形矯正工程(ステップS19)を実行する場合には、ウォーム70とホイール80とを積極的に負荷状態にして、ホイール歯形矯正工程を実行することが、より好ましい。積極的に負荷状態にすることによって、ホイール80の歯81の歯面81aにクリープが発生するまでの時間を短縮できるからである。具体的には、例えばラック軸26に対して、予め設定された負荷をかけるための負荷装置を連結する。
以上の説明をまとめると、次の通りである。
転舵用車輪29,29(図1参照)が接地していない、若しくはラック軸26に転舵用車輪29,29自体が組み付けられていない(図2参照)という無負荷状態の条件下で、図7に示されるように、樹脂製のホイール80の歯81の歯面81aは、金属製のウォーム70の歯71の歯面71aに押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、歯面71a,81a同士が押し付け合うようにウォーム70に組み付けられる。その後、ウォーム70とホイール80とを回転させることにより、樹脂製のホイール80の歯81の歯面81aは、金属製のウォーム70の歯71の歯面71aに繰り返し押され、その度、弾性変形を繰り返す。これを繰り返すうちに、樹脂製のホイール80の歯81の歯面81aは徐々にクリープする。つまり、ホイール80の歯81の歯面81aは、ウォーム70の歯71の歯面71aに馴染んで、徐々にウォーム70の歯71の歯面71aに合わせた形状に窪むように矯正される。このように、歯面71a,81a同士が馴染み、各歯71,81の寸法のバラツキにも対応することができるので、ウォーム70及びホイール80の製作精度や組み付け精度を緩やかにすることができ、この結果、精度管理が容易である。
しかも、ウォーム70の歯71の歯面71aに対してホイール80の歯81の歯面81aが馴染むことによって、歯71,81同士が滑らかに噛み合うので、噛み合いの良好なウォームギヤ機構44を提供することができる。このため、電動パワーステアリング装置10(図1参照)による操舵感覚、つまり操舵フィーリングを高めることができる。
さらには、ホイール80の歯81の歯面81aの歯形が矯正されることによって、歯面71a,81a同士の接触面積が増す。この結果、歯面71a,81aに作用する面圧が低減する。従って、各歯面71a,81aに発生する摩耗や発熱を抑制することができるので、ウォーム70及びホイール80の耐久性を高めることができる。
なお、本発明では、電動パワーステアリング装置10は、ステアリングホイール21の操舵入力に基づいて電動モータ43が発生したトルクを、ウォームギヤ機構44を介して転舵用車輪29,29に伝達することで車両の転舵を行う構成であればよい。例えば、本発明のウォームギヤ機構44及びそれの製造方法は、いわゆる、ステア・バイ・ワイヤ式(steer-by-wire、略称「SBW」)の電動パワーステアリング装置にも適用できる。このステア・バイ・ワイヤ式電動パワーステアリング装置とは、ステアリングハンドル21からピニオン軸24を機械的に分離し、操舵入力に基づいて電動モータ43が発生した転舵用トルクを、ウォームギヤ機構44を介してピニオン軸24へ伝えることにより、転舵用車輪29,29を転舵させる方式の構成である。
本発明のウォームギヤ機構44は、ステアリングホイール21で発生した操舵トルクを操舵トルクセンサ41によって検出し、この操舵トルクセンサ41の検出信号に応じて電動モータ43が補助トルクを発生し、この補助トルクをウォームギヤ機構44を介してステアリング系20に伝える車両用電動パワーステアリング装置10に好適である。
10…電動パワーステアリング装置、21…ステアリングホイール、29…転舵用車輪、43…電動モータ、44…ウォームギヤ機構、70…ウォーム、71…ウォームの歯、71a…ウォームの歯の歯面、80…ウォームホイール、81…ウォームホイールの歯、81a…ウォームホイールの歯の歯面、81b…窪み面。

Claims (4)

  1. ステアリングホイールの操舵入力に基づいて電動モータが発生したトルクを、転舵用車輪に伝達するためのウォームギヤ機構において、
    前記ウォームギヤ機構は、前記電動モータに連結される金属製のウォームと、該ウォームに噛み合う樹脂製のウォームホイールとから成り、
    前記ウォームと前記ウォームホイールとは、無負荷状態にあるという条件下で、前記ウォームホイールの歯の歯面が前記ウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、前記歯面同士が押し付け合うように組み付けられていることを特徴とするウォームギヤ機構。
  2. 前記ウォームホイールの歯の歯面が前記ウォームの歯の歯面に押し付けられて弾性変形をする変形量は、前記ウォームホイールを構成する樹脂の物性に基づき予め求められたクリープ量に従って、設定されていることを特徴とする請求項1記載のウォームギヤ機構。
  3. 前記ウォームホイールの前記歯の歯形は、平歯、又は、はす歯であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載のウォームギヤ機構を備えたウォームギヤ機構。
  4. 金属製のウォームと、該ウォームに噛み合う樹脂製のウォームホイールと、から成るウォームギヤ機構の製造方法において、
    前記ウォームと前記ウォームホイールとを準備する工程と、
    前記ウォームと前記ウォームホイールとが無負荷状態にあるという条件下で、前記ウォームホイールの前記歯の前記歯面が前記ウォームの前記歯の前記歯面に押し付けられて弾性変形をすることが可能な範囲で、前記歯面同士が押し付け合うように、前記ウォームと前記ウォームホイールとを組み付ける工程と、
    前記ウォームと前記ウォームホイールとを回転させることにより、前記歯面同士の接触面積を増すように前記ウォームホイールの前記歯面の歯形を矯正する工程と、を含んでいることを特徴とするウォームギヤ機構の製造方法。
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