JP2013036055A - 溶銑の脱炭処理方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】溶銑脱燐処理を行った溶銑を対象として、その溶銑を転炉を用いてスピッティングやダストの発生量を抑制しつつ、高能率かつ高効率で脱炭処理する方法を提供する。
【解決手段】上底吹き型の転炉を用いて、溶銑脱燐処理を施された溶銑に該溶銑トン当たり4.0〜5.5Nm/minの速度で上吹き酸素を吹き付けて脱炭処理を行う。その際に、上吹き酸素の吹付け時間が全吹付け時間の1/5経過するまでに取鍋スラグを転炉内に投入すると共に、上吹き酸素の吹付け終了時点での転炉内スラグ中Al質量%とCaO質量%との比が0.05〜0.09の範囲になるように調整する。さらに、上吹き酸素吹付けによるL/Lを、上吹き酸素の全吹付け時間の1/4が経過する時点までは0.03〜0.10に、その後その上吹き酸素の吹付け終了までは0.20〜0.35に制御する。
【選択図】図3

Description

本発明は、溶銑脱燐処理を行った溶銑を、転炉を用いて高能率かつ高効率で脱炭処理する方法に関する。
近年、製鋼プロセス全体が著しく高能率化かつ高効率化しており、溶銑の脱炭処理においても高能率化かつ高効率化が強く求められている。この求めに応えるためには、脱炭反応は溶銑中の炭素を酸化してCOガスとする反応であるから、炭素を酸化するための酸素源の供給を速くしなければならない。しかし、酸素供給速度を上げるとスピッティング(酸素ガス吹付けによる溶鋼の飛散)やダストの発生が著しく多くなることにより、出鋼歩留の低下、炉口などへの地金付着による操業阻害が発生し高効率化を阻害する。
スピッティングやダストの低減には滓化したCaOの増量が有効であるとされているが、短時間でCaO源を十分滓化させることは一般に困難である。蛍石を滓化促進剤として用いればCaOの滓化は容易になるが、近年は環境面からの要請により、蛍石は実質的に使用できなくなっている。
そこで、ランスノズルの改善によるスピッティングの低減方法が多数試みられている。具体的には、ガス噴射ノズルの多孔化、ガス噴射ノズルの大径化、ガス噴射ノズルの傾斜角度の増加といった内容が代表的である。例えば、特許文献1には、ノズル径とノズル傾斜角度の異なる2種類のノズル孔を有するランスを使用し、かつ炉内生成スラグの塩基度を制御する方法が示されている。しかし、この方法を用いればスピッティング低減が可能となるものの、やはり酸素供給速度の増加とともにスピッティングは増加する。そして、酸素供給速度が溶銑トン当たり3.4Nm/minを超えるとスピッティング過多となって操業困難となるため、近年の高能率化、高効率化から求められる酸素供給速度が4.0〜5.5Nm/minでの安定的な操業は困難である。
また、粉状の脱燐剤を上吹きして溶銑脱燐を行う際のスピッティング低減方法として、特許文献2に、CaO含有脱燐剤を溶銑に上置きして酸素を上吹きした後、Fe、Alのどちらかもしくは両方を含有するCaO含有粉状脱燐剤を上吹きする方法が示されている。しかし、溶銑脱燐処理と脱燐処理後の溶銑の脱炭処理とでは、処理開始時の溶銑中Si濃度や酸素供給速度が大きく異なるため、この方法をそのまま脱燐処理後の溶銑の脱炭処理に応用することはできない。また、特許文献2にそのような応用を実施するための具体的知見は記載されていない。
他にも、特許文献3には、排ガス空塔速度(炉口から炉外へ出る際の速度)を適切な範囲に制御することにより、炉口への地金付着を低減する方法が記載されている。しかし、空塔速度は転炉形状と酸素供給速度によって決まるため、酸素供給速度が転炉形状によって制約されてしまうので、大幅な酸素供給速度の上昇操作を行うことは困難である。
特開2000−256724号公報 特開2001−64713号公報 特開2007−77492号公報
本発明が解決しようとする課題は、溶銑脱燐処理を行った溶銑を対象として、その溶銑を、転炉を用いてスピッティングやダストの発生量を抑制しつつ、高能率かつ高効率で脱炭処理する方法を提供することである。
スピッティングやダストの発生量を抑制しつつ酸素供給速度の増加を実現するためには、添加するCaO源の滓化を促進させるための対策が必要となる。そこで、本発明者らは、取鍋スラグを添加しつつ、対象溶銑トン当たりの酸素供給速度を4.0Nm/min以上とする試験を上底吹き型の転炉を用いて行って、取鍋スラグの添加条件および上吹き酸素の供給条件と、転炉内生成スラグの滓化状況やスピッティング・ダストの発生状況、スロッピング(炉口からスラグがあふれる現象)発生状況との関係を調べた結果、以下に列記する事項を知見して、本発明を完成するに至った。
i)脱炭処理時間(上吹き酸素の吹付け時間)中の早い段階で取鍋スラグを転炉内へ投入し、その取鍋スラグを滓化させて溶銑上にカバースラグを生成させる時期(以後、カバースラグ形成期と記載。)に上吹き酸素の溶銑への吹付けをソフトに行う(以後、ソフトブローと記載。)ことによって、カバースラグを早期に形成させることができ、処理時間全期にわたってスピッティングの発生を抑制することができる。ただし、過剰にソフトブローとすると、スロッピングの発生や、上吹き酸素ガスの反応効率低下による処理時間延長を招くため、適度なソフトブローとする必要がある。
ii)取鍋スラグの投入量によって炉内生成スラグのAl質量%とCaO質量%との比(Al質量%/CaO質量%)を適切な範囲にコントロールし、併せてカバースラグ形成期後の上吹き酸素の溶銑への吹付けをハードに行う(以後、ハードブローと記載。)ことで、スロッピングの発生を抑制することができる。
iii)取鍋スラグの投入量には、カバースラグの生成効果と脱炭処理時のスラグ生成量及びその組成の調整容易性とを勘案して、好適な使用範囲が存在する。
すなわち、本発明の技術的特徴は、以下の(1)および(2)のように纏めて記載することができる。
(1)上底吹き型の転炉を用いて、溶銑脱燐処理を施された溶銑に該溶銑トン当たり4.0〜5.5Nm/minの速度で上吹き酸素を吹き付けて脱炭処理する方法であって、前記上吹き酸素の吹付け時間が、その吹付け開始からその全吹付け時間の1/5が経過するまでに、取鍋スラグを前記転炉内に投入すること、および、前記上吹き酸素の吹付け終了時点での転炉内スラグ中Al質量%とCaO質量%との比(Al質量%/CaO質量%)を0.05〜0.09に調整すること、並びに、前記上吹き酸素の吹付けを以下の(A)及び(B)に従って行うことを特徴とする、溶銑の脱炭処理方法。
(A)上吹き酸素の吹付け開始から、その全吹付け時間の1/4が経過する時点まで
0.03 ≦ L/L ≦ 0.10 ・・・・・(1)
(B)上吹き酸素の全吹付け時間の1/4が経過した時点から、その上吹き酸素の吹付け終了まで
0.20 ≦ L/L ≦ 0.35 ・・・・・(2)
但し、上記(A)及び(B)において、
d・v・cosθ = 1.24 × (L+h)・L1/2 ・・・・・(3)
L:上吹き酸素吹付けにより形成される鋼浴表面の凹み深さ(mm)、L:鋼浴深さ(mm)
d:上吹き酸素吹付けランスの先端に設置された酸素噴射ノズル孔の直径(mm)
:酸素噴射ノズル孔の出口における酸素ガスの速度(m/s)、
θ:上吹き酸素吹付けランスの軸方向と酸素噴射ノズル孔の軸方向とのなす角度(rad)、
h:上吹き酸素吹付けランスの先端から鋼浴表面までの距離(mm)である。
(2)前記上吹き酸素の吹付け時間がその吹付け開始からその全吹付け時間の1/5経過するまでに前記転炉内に投入する取鍋スラグの質量を、前記溶銑トン当たり5〜8kgとし、かつ、前記上吹き酸素の吹付け終了時点までに前記転炉内に投入するAl源とCaO源との合計質量を、前記取鍋スラグの投入質量を含めて前記溶銑トン当たり20〜30kgとすることを特徴とする、(1)に記載された溶銑の脱炭処理方法。
本発明によれば、上底吹き型の転炉を用いて、溶銑脱燐処理を施された溶銑に該溶銑トン当たり4.0〜5.5Nm/minの速度で上吹き酸素を吹き付けて脱炭処理し、酸素供給時間が6.0〜8.0分間という短い時間で、スピッティングやダストの発生およびスロッピングの発生を連続操業に支障が生じないレベルに抑制しつつ、安定して溶鋼を製造することができる。
図1は、上吹き酸素吹付けにより形成される、鋼浴表面の凹み状況の模式図である。 図2は、上吹き酸素の吹付け条件をL/L=0.10〜0.20の範囲として、脱炭処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比がスピッティングとスロッピングの発生に及ぼす影響を調査した結果を説明するグラフである。 図3は、脱炭処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比が0.05〜0.09の範囲内になるように調整した上で、処理初期のL/Lがその処理初期におけるスピッティング・スロッピングに及ぼす影響を調査した結果を説明するグラフである。 図4は、図3に示した調査に続き、処理中期以降のL/Lを0.15〜0.40の範囲の一定値に制御して、その数値がその処理中期以降におけるスピッティング・スロッピングに及ぼす影響を調査した結果を説明するグラフである。
(1)上吹き酸素の供給速度
本発明は、溶銑脱燐処理を施された溶銑の高能率かつ高効率な脱炭処理方法に関し、より具体的には、溶銑脱燐後の溶銑を転炉を用いてスピッティングやダストの発生量を抑制しつつ、6.0〜8.0分間で溶鋼を製造する方法である。脱燐処理後の溶銑は、一般的には溶銑中P濃度が0.03質量%以下に低減されていて、脱炭処理時の脱燐処理負担が軽減されている。したがって、転炉吹錬時に脱燐能力を担保するためのCaO源の溶融滓化時間を気にすることなく、単位時間当たりの酸素供給流量を増やすことによって、原理的には脱炭処理時間を短縮することが可能と言える。
しかし、単位時間当たりの酸素供給流量を増やすと供給酸素の運動量が高まって、酸素が溶銑浴面と衝突した際の溶銑の反発が激しくなり、スピッティングが発生し易くなる。このスピッティング発生量は、転炉内に適切なスラグが存在すると低減されることが分かっているが、脱燐処理された溶銑にはSiが実質的に含まれていないため酸素供給に伴うSiOの生成が無く、そのままでは溶融スラグの形成が遅れがちになる。
したがって、脱燐処理された溶銑を高能率かつ高効率で脱炭処理するためには、スピッティング抑制の観点から酸素供給条件と溶融スラグ生成条件との関係を適切に把握して調整することが重要になる。
本発明では、上吹きランスから酸素を溶銑トン当たり4.0Nm/min以上5.5Nm/min以下の流量で溶銑に吹き付ける。本発明では、上吹き酸素の吹付け時間を8分間以下という短時間で行うことを目的としているので、少なくとも溶銑トン当たり4.0Nm/min以上で安定して操業することができないと、この目標を達成することができないからである。しかし、それが5.5Nm/minを超えると、後述するように本発明をもってしてもスピッティングやスロッピングの発生の増大をきたして、安定操業を行うことができなくなる。
(2)副原料の使用方法
本発明では、処理時間の早い段階で溶銑上にカバースラグを生成させ、かつ別途供給する炉内スラグ生成用副原料の溶融滓化を促進するために、早期スラグ生成用副原料(スラグ生成促進剤)として取鍋スラグを投入する。この取鍋スラグは、連続鋳造終了後に取鍋内に残存したスラグであり、概ね表1に示す範囲の組成を有するものである。これらの組成の内、特にAl濃度は取鍋スラグ自身の融点を下げてその溶融性を高め、かつ、脱炭処理中の転炉内スラグの融点を低く維持するために重要であって、取鍋スラグのAl質量濃度は10%以上であることが好ましい。なお、取鍋スラグとしての特性上、Al質量濃度は25%以下が普通である。また、本発明の目的の達成を容易にするためには、取鍋スラグの最大粒径を30mm以下にして早期滓化を容易にすることが好ましい。さらに、取鍋スラグを転炉内に投入する際の飛散ロスを低減するために、その最少粒径が5mm以上になるように予め篩っておくことが一層好ましい。
Figure 2013036055
スラグ生成促進剤としての取鍋スラグの投入は、早期に溶銑上にカバースラグを生成させることが目的であるから、上吹き酸素の吹付け時間がその吹付け全時間の1/5経過する時までに済ませなければならない。その投入方法は、スクラップシュートを用いて上吹き酸素の吹付けを開始する前に転炉内に一括して投入してもよいし、転炉の上に設置されたバンカーから上吹き酸素の吹付け中に転炉内に適宜分割投入してもよい。
さらに、本発明では、上記したスラグ生成促進剤としての取鍋スラグの投入に加えて、炉内スラグ生成用副原料としてCaO源とAl源とを用いて、脱炭処理終了時のスラグ量とスラグ組成を調整する。本発明では、脱炭処理の早期に溶銑上にカバースラグを生成させ、それに加えて炉内に適切な組成のスラグを適切量存在させることにより、上吹き酸素の供給方法の適切化と組み合わせてスピッティングの発生やダストの生成、並びにスロッピングの発生を抑制し、高能率かつ高効率の脱炭処理を実現する。したがって、スラグ生成促進剤としての取鍋スラグの投入に加えて、炉内スラグ生成用副原料としてCaO源とAl源とを適切に用いて、脱炭処理終了時のスラグ量とスラグ組成とを調整することが重要である。
スピッティングの発生やダストの生成抑制のためには、溶銑上に溶融スラグを溶銑トン当たり20kg程度以上存在させることが効果的とされている。しかし、その溶融スラグ量が多過ぎたりスラグ組成が不適当であったりすると、スロッピングが発生し易くなってしまう。そのほか、本発明においてはスラグに脱燐能力を持たせる必要性が低いために、脱燐目的でのスラグ生成を必要としないので、スラグ生成用の副原料使用量を少なくすることが好ましい。これらの観点から、脱炭処理終了時点での炉内スラグ量を溶銑トン当たり30kg程度以下とすることが好ましい。そのためには、早期スラグ生成用副原料と炉内スラグ生成用副原料とを合計した副原料総使用量を、溶銑トン当たり20〜30kg程度にしておくことが適当といえる。
そうすると、早期スラグ生成用副原料として取鍋スラグを使用するに際しては、そのカバースラグ生成によるスピッティング抑制効果とその後の脱炭処理終了時の炉内スラグの組成調整の容易性とを考えて、処理対象溶銑トン当たり5〜8kg程度を用いることが好ましい。カバースラグ生成によるスピッティング抑制効果を効果的に発揮させるためには、溶銑トン当たり5kg程度以上とすることが好ましく、一方、本発明では脱炭処理後のスラグ組成の調整を、早期スラグ生成用副原料を含めて溶銑トン当たり20〜30kg程度以下とする限られた量の副原料総使用量で行う必要があるために、早期スラグ生成用副原料としての取鍋スラグ使用量は溶銑トン当たり8kg程度以下に制限しておく方が、スラグ組成の調整が容易になるからである。
なお、炉内スラグ生成用副原料としてのAl源には、早期スラグ生成用副原料と同じ取鍋スラグが好適であるが、Al含有濃度が10質量%以上のものであれば使用して構わない。また、そのCaO源には生石灰や石灰石などの天然鉱物を用いる方が実際上スラグ組成の調整が容易となるので好ましいが、CaO含有濃度が50質量%以上のものであれば、転炉スラグ等を用いることもできる。
(3)脱炭処理後の転炉内スラグ組成の調整範囲
1)共通する調査条件
本発明では、前記したように早期スラグ生成用副原料として取鍋スラグを使用して上吹き酸素の吹付け開始後の早期からカバースラグを溶銑上に生成させ、かつ、炉内スラグ生成用副原料としてCaO源とAl源の必要量を炉内に添加して、脱炭処理終了時点での炉内スラグ組成を適切な範囲に調整する。但し、スピッティングやスロッピングの発生を抑制しつつ、6.0分間以上8.0分間以下と短い時間で脱炭処理を行うためには、副原料使用条件と上吹き酸素の供給条件との関係が及ぼす影響を適切に把握し、その関係を適切に制御できるようにしておく必要がある。そのために実験調査を行ったので、先ずその共通的調査条件について説明する。
転炉にて脱燐処理を行った溶銑約290トンを上底吹き型転炉に装入した。スクラップの装入は行わなかった。その溶銑成分は、質量%で、C:3.2〜3.8%、Si:0.02%以下、Mn:0.15〜0.25%、P:0.010〜0.020%、S:0.003〜0.01%であった。
溶銑を装入後に底吹きガスとしてNを溶銑トン当たり0.15〜0.25Nm/minの範囲で流しつつ転炉を正立させ、直ちに転炉内に上吹きランスを挿入して、上吹き酸素を溶銑トン当たり4.0〜5.5Nm/minで溶銑への吹付けを開始した。この酸素流量は、この調査ではそれぞれの処理中において一定とした。
この調査においては、早期スラグ生成用副原料として表1に示す組成を有する取鍋スラグを粒径5〜30mmに調整して使用し、上吹き酸素の吹付け時間が、その吹付け開始からその全吹付け時間の1/5が経過するまでに、溶銑トン当たりで5〜8kgを転炉内に投入した。さらに、炉内スラグ生成用副原料として、その取鍋スラグをAl源として必要に応じて追加すると共に、粒径5〜30mmの生石灰をそのCaO源として使用して、早期スラグ生成用副原料と炉内スラグ生成用副原料とを合計した副原料総使用量を溶銑トン当たりで20〜30kg/tとした範囲内で、脱炭処理後の転炉内スラグ量と組成を調整した。
これらの投入量は、溶銑を含めた各使用原料の成分および使用量から、その直近数日間における実績値を参考にして、脱炭処理終了時点のスラグ中Al質量%とCaO質量%との比(Al質量%/CaO質量%)が所定の範囲内になるように、計算により決めた。
2)脱炭処理後のスラグ組成がスピッティング・スロッピングに及ぼす影響
先ず、前記した共通条件の下で、上吹き酸素の供給条件をL/L=0.10〜0.20の範囲で、酸素供給中にはL/Lを変更しない条件として、脱炭処理後のスラグ組成がスピッティング発生に及ぼす影響を調査した。
ここで、Lは上吹き酸素の吹付けによって形成される鋼浴表面の凹み深さ(mm)であり、Lは鋼浴の深さ(mm)である。本発明の実施においては脱炭の進行に伴って対象溶銑が溶鋼に変化していくため、表記上は「鋼浴」としているが、実際上は「溶銑浴から溶鋼浴まで」を意味している。
上吹き酸素吹付け中の鋼浴表面は、図1に模式的に示すようになっていると考えられるが、そのL(鋼浴表面の凹み深さ)は実測により求めることができない。そこで、次の(3)式により計算して求め、本発明において用いる上吹き酸素の吹付け条件であるL/Lを所定数値に制御する。
d・v・cosθ = 1.24 × (L+h)・L1/2 ・・・・・(3)
L:上吹き酸素吹付けにより形成される鋼浴表面の凹み深さ(mm)、L:鋼浴深さ(mm)
d:上吹き酸素吹付けランスの先端に設置された酸素噴射ノズル孔の直径(mm)
:酸素噴射ノズル孔の出口における酸素ガスの速度(m/s)
θ:上吹き酸素吹付けランスの軸方向と酸素噴射ノズル孔の軸方向とのなす角度(rad)
h:上吹き酸素吹付けランスの先端から鋼浴表面までの距離(mm)
その調査結果を、図2にグラフで示す。図2は、上吹き酸素の吹付け条件をL/L=0.10〜0.20の範囲として、脱炭処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比(Al質量%/CaO質量%)がスピッティングとスロッピングの発生に及ぼす影響を調査した結果であって、縦軸の数値はスピッティングおよびスロッピングが発生した度合いを、発生の少ない、または弱いものから順次0〜4の5段階で評価して指数化したものである。その指数が1以下であれば「連続操業に支障が生じないレベル」であり、指数が2になると「連続操業は可能であるものの、鉄歩留り低下や転炉炉口部の付着地金除去の手間が無視できないレベル」であり、指数が3になると「操業は可能であるが、連続操業には適さないと感じられるレベル」であり、指数が4では「そのままの条件では、その処理の継続が困難と感じられるレベル」にそれぞれ相当している。
L/L=0.10〜0.20の範囲の一定条件下において、脱炭処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比(図2の横軸でA/Cと表記。)が小さい条件では、スピッティングが激しく発生する場合があった。その激しいスピッティングの発生比率は、図示したように、脱炭処理終了時のスラグのAl質量%とCaO質量%との比を0.02〜0.03とした場合には、そのまま脱炭処理を継続することが困難と感じられる程のレベルであった。しかし、そのような激しいスピッティングの発生はスラグのAl質量%とCaO質量%との比を上昇させるにつれて減少し、その比が0.05を超える条件とした場合には、激しいスピッティングは発生しなくなった。その比が0.05以下の条件では、スラグの融点が高過ぎて溶融不十分になり、カバースラグの生成効果が不十分となってスピッティングが発生し易くなったものと考えられる。
但し、スラグのAl質量%とCaO質量%との比を0.05超にした条件でも歩留りロス等の点で好ましくないレベルのスピッティングが発生する場合があったので、その比の調整に加えて、後述するランス先端と鋼浴表面との距離の調整を組み合わせて脱炭処理する必要があることが分かった。
一方、処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比をさらに大きくした調査では、脱炭処理の中期以降に激しいスロッピングが発生する場合があった。このスロッピングは、スラグのAl質量%とCaO質量%との比を0.11〜0.13にまで高めた条件では、脱炭処理をそのまま継続することが困難と感じられるレベルで発生したが、それを0.09以下としたの条件ではそのように激しいスロッピングの発生は見られなかった。その比が0.09を超えた条件ではスラグの流動性が低く、脱炭に伴って発生したCOガスのスラグ層からの離脱が遅れがちになったためにスラグがフォーミングし、激しいスロッピングに至ったものと考えられる。但し、その比が0.09以下の条件でも、歩留まりロス等で好ましくないレベルのスロッピングが発生する場合はあったので、次に示すように、スピッティング対策の改善と合わせて上吹き酸素の供給条件の調整をさらに検討した。
また、スピッティングは一回の脱炭処理中の時間変化を考えると、処理進行に従い弱まる傾向があった。また、スロッピングは処理初期にはほとんど発生せず、中期以降の発生がほとんどであった。このことから、同一処理中であっても、適切な酸素供給条件は変化していることが考えられた。
(4)上吹き酸素吹付け条件の制御
次に、前記した上吹き酸素の吹付け条件をL/L=0.10〜0.20の範囲として、脱炭処理後のスラグ組成がスピッティング・スロッピングに及ぼす影響を調査した結果を踏まえ、前記した共通条件の下で、その脱炭処理後のスラグ組成をスラグのAl質量%とCaO質量%との比が0.05〜0.09の範囲内になるように調整して、上吹き酸素のL/Lがスピッティング、スロッピングに及ぼす影響を調査した。
図3は、酸素供給開始から全酸素供給時間の1/4が経過する時点までの期間を「処理初期」として、その処理初期の間のL/Lを0.02〜0.12の範囲の一定値にランス高さを制御し、その数値がその処理初期におけるスピッティング・スロッピングに及ぼす影響を調査した結果を示す。
図示したように、スラグのAl質量%とCaO質量%との比を0.05〜0.09に調整した条件であっても、処理初期のL/Lが大きいとスピッティングが激しく発生する場合があった。このL/Lを0.12に設定した条件では、連続操業には適さないと考えられるレベルのスピッティングが発生したが、L/Lを0.10以下にした条件では、そのようなレベルのスピッティグが発生することは無かった。
上吹き酸素の吹付け時間がその吹付け開始からその全吹付け時間の1/5経過するまでに投入した取鍋スラグが、上吹き酸素吹付けのソフトブロー化と脱炭処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比を適正範囲に調整した効果とによって転炉内で早期に溶融滓化し、併せて上吹き酸素が溶銑浴面に衝突する際の衝撃が緩和された効果と相俟って、高速送酸条件下でもスピッティング発生を抑制できたものと考える。
但し、この処理初期のL/Lを小さくし過ぎると、図示したように脱炭処理の初期においてもスロッピングが発生するので注意を要する。スピッティングを防止しようとして上吹き酸素の衝撃をソフトにし過ぎた結果、FeOがスラグ中に過度に蓄積されてスラグフォーミングを助長し、スロッピングに至ったものと考える。したがって、取鍋スラグを早期に投入し、脱炭処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比を適正範囲である0.05〜0.09に調整した本調査の条件であっても、さらに処理初期のL/Lを0.03〜0.10の範囲内で制御することが、処理初期のスピッティング・スロッピングを防止するために必要と分かった。
さらに、前記した共通条件の下で、その脱炭処理後スラグのAl質量%とCaO質量%との比が0.05〜0.09の範囲内になるように調整し、加えて前記した処理初期のL/Lを0.03〜0.10の範囲内で制御した後の条件で、その後のL/Lがスピッティング・スロッピングに及ぼす影響を調査した。
図4は、上吹き酸素の全吹付け時間の1/4が経過した時点からその上吹き酸素の吹付け終了までの期間を「処理中期以降」として、その処理中期以降のL/Lを0.15〜0.40の範囲の一定値にランス高さを制御し、その数値がその処理中期以降におけるスピッティング・スロッピングに及ぼす影響を調査した結果を示すものである。
図示したように、この条件下においても、処理中期以降のL/Lが大き過ぎるとスピッティングが激しく発生する場合があった。したがって、スピッティングを抑制するために、処理中期以降のL/Lは0.35以下にしておかなくてはならない。一方、この場合にも、L/Lが小さ過ぎるとスロッピングが激しい場合があった。したがって、スロッピングを抑制するために、処理中期以降のL/Lは0.20以上にしておく必要がある。
転炉にて脱燐処理を行った溶銑約290トンを上底吹き型転炉に装入した。スクラップの装入は行わなかった。その溶銑成分は、質量%で、C:3.2〜3.8%、Si:0.02%以下、Mn:0.15〜0.25%、P:0.010〜0.020%、S:0.003〜0.01%であった。
溶銑を装入後に底吹きガスとしてNを溶銑トン当たり0.15〜0.25Nm/minの範囲で流しつつ転炉を正立させ、直ちに転炉内に上吹きランスを挿入して、上吹き酸素を溶銑トン当たり4.0〜5.5Nm/minで溶銑への吹付けを開始した。
上吹き酸素の吹付け開始と前後して、遅くとも上吹き酸素の供給開始から20秒以内に、早期スラグ生成用副原料として表1に示した取鍋スラグを粒径5〜30mmに調整したものを溶銑トン当たりで5〜8kg転炉内に投入した。さらに、上吹き酸素の供給開始から60〜90秒の間に、炉内スラグ生成用副原料として、その取鍋スラグと同じものをAl源とし、粒径5〜30mmの生石灰をCaO源として使用して、それらの取鍋スラグと生石灰とを合計した副原料総使用量を溶銑トン当たりで20〜30kg/tとした範囲内で、脱炭処理後の転炉内スラグ組成をスラグのAl質量%とCaO質量%との比が0.05〜0.09になるように調整した。
また、上吹き酸素の吹付けは、次の(A)及び(B)に従って行った。
(A)上吹き酸素の吹付け開始から、その全吹付け時間の1/4が経過する時点まで
0.03 ≦ L/L ≦ 0.10 ・・・・・(1)
(B)上吹き酸素の全吹付け時間の1/4が経過した時点から、その上吹き酸素の吹付け終了まで
0.20 ≦ L/L ≦ 0.35 ・・・・・(2)
但し、上記(A)及び(B)において、
d・v・cosθ = 1.24 × (L+h)・L1/2 ・・・・・(3)
L:上吹き酸素吹付けにより形成される鋼浴表面の凹み深さ(mm)、L:鋼浴深さ(mm)
d:上吹き酸素吹付けランスの先端に設置された酸素噴射ノズル孔の直径(mm)
:酸素噴射ノズル孔の出口における酸素ガスの速度(m/s)、
θ:上吹き酸素吹付けランスの軸方向と酸素噴射ノズル孔の軸方向とのなす角度(rad)、
h:上吹き酸素吹付けランスの先端から鋼浴表面までの距離(mm)である。
その結果、脱炭処理時間(上吹き酸素吹付け時間)が6〜8分間で、C:0.05〜0.07%、Si:0.02%以下、Mn:0.08〜0.14%、P:0.005〜0.010%、S:0.003〜0.01%の溶鋼を、連続操業に支障が生じるようなスピッティングやスロッピングが発生することなく安定して製造することができた。
1 上吹きランス
2 鋼浴
3 酸素噴流

Claims (2)

  1. 上底吹き型の転炉を用いて、溶銑脱燐処理を施された溶銑に該溶銑トン当たり4.0〜5.5Nm/minの速度で上吹き酸素を吹き付けて脱炭処理する方法であって、
    前記上吹き酸素の吹付け時間が、その吹付け開始からその全吹付け時間の1/5が経過するまでに、取鍋スラグを前記転炉内に投入すること、
    および、前記上吹き酸素の吹付け終了時点での転炉内スラグ中Al質量%とCaO質量%との比(Al質量%/CaO質量%)を0.05〜0.09に調整すること、
    並びに、前記上吹き酸素の吹付けを以下の(A)及び(B)に従って行うことを特徴とする、溶銑の脱炭処理方法。
    (A)上吹き酸素の吹付け開始から、その全吹付け時間の1/4が経過する時点まで
    0.03 ≦ L/L ≦ 0.10 ・・・・・(1)
    (B)上吹き酸素の全吹付け時間の1/4が経過した時点から、その上吹き酸素の吹付け終了まで
    0.20 ≦ L/L ≦ 0.35 ・・・・・(2)
    但し、上記(A)及び(B)において、
    d・v・cosθ = 1.24 × (L+h)・L1/2 ・・・・・(3)
    L:上吹き酸素吹付けにより形成される鋼浴表面の凹み深さ(mm)、L:鋼浴深さ(mm)
    d:上吹き酸素吹付けランスの先端に設置された酸素噴射ノズル孔の直径(mm)
    :酸素噴射ノズル孔の出口における酸素ガスの速度(m/s)、
    θ:上吹き酸素吹付けランスの軸方向と酸素噴射ノズル孔の軸方向とのなす角度(rad)、
    h:上吹き酸素吹付けランスの先端から鋼浴表面までの距離(mm)である。
  2. 前記上吹き酸素の吹付け時間がその吹付け開始からその全吹付け時間の1/5経過するまでに前記転炉内に投入する取鍋スラグの質量を、前記溶銑トン当たり5〜8kgとし、かつ、前記上吹き酸素の吹付け終了時点までに前記転炉内に投入するAl源とCaO源との合計質量を、前記取鍋スラグの投入質量を含めて前記溶銑トン当たり20〜30kgとすることを特徴とする、請求項1に記載された溶銑の脱炭処理方法。
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