上述の駆動装置では、電圧センサにより検出されたシステム電圧に誤差が含まれると、矩形波制御モードでの制御手法によっては、インバータの制御方式をパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとの間で切り替えたときに、モータに流れる電流が乱れ、モータからのトルクが変動する場合が生じる。このため、電圧センサに検出誤差がある異常を判定することが望まれている。
本発明の駆動装置および車両は、モータを良好に駆動するのに必要な電圧センサに検出誤差がある異常を判定することを主目的とする。
本発明の駆動装置および車両は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
本発明の第1の駆動装置は、
モータと、該モータを駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリからの電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給する昇圧コンバータと、前記駆動電圧系の電圧を検出する電圧センサと、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を用いて前記昇圧コンバータを制御すると共に前記モータのトルク指令に基づいてパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードで前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記矩形波制御モードは、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧と前記モータの回転数とに基づいて電圧位相上限を設定すると共に、該設定した電圧位相上限の範囲内で前記トルク指令に基づいて電圧位相指令を設定して矩形波信号を前記モータに出力する制御モードであり、
前記インバータの制御モードを前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードに切り替える際の該切り替え直前の該パルス幅変調制御モードにおける前記モータの電圧位相が該切り替え直後の該矩形波制御モードで設定すべき前記電圧位相上限より大きい場合には、前記電圧センサに検出誤差がある異常と判定する異常判定手段
を備えることを要旨とする。
この本発明の第1の駆動装置では、電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を用いて昇圧コンバータを制御すると共にモータのトルク指令に基づいてパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードでインバータを制御する。一般に、昇圧コンバータの制御は、電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧がモータのトルク指令とモータの回転数とに基づく目標電圧となるように電圧フィードバック制御によって昇圧コンバータを制御することにより行なわれ、パルス幅変調制御モードにおけるインバータの制御は、モータに流れる電流がモータのトルク指令に基づく電流指令となるように電流フィードバック制御によって正弦波状の電圧指令を設定すると共に設定した電圧指令に基づくパルス幅変調信号をモータに出力することによって行なわれ、矩形波制御モードにおけるインバータの制御は、モータのトルク指令に基づく電圧位相指令に基づく矩形波信号をモータに出力することによって行なわれる。
さらに、この本発明の第1の駆動装置では、矩形波制御モードは、電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧とモータの回転数とに基づいて電圧位相上限を設定すると共に、設定した電圧位相上限の範囲内でトルク指令に基づいて電圧位相指令を設定して矩形波信号をモータに出力する制御モードであり、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替える際の切り替え直前のパルス幅変調制御モードにおけるモータの電圧位相が切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべき電圧位相上限より大きい場合には、電圧センサに検出誤差がある異常と判定する。矩形波制御モードで設定される電圧位相上限は、駆動電圧系の電圧とモータの回転数と電圧位相上限との関係としてインバータおよびモータを良好に制御可能な電圧位相上限が得られるように予め定められた関係などを用いて設定されるから、インバータおよびモータが良好に制御されている通常時には、インバータを制御している最中にパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えたときにモータの電圧位相が電圧位相上限により制限されることはない。したがって、この切り替え直前のモータの電圧位相が切り替え直後の電圧位相上限より大きい場合には、矩形波制御モードで設定される電圧位相上限は異常と判断することができ、さらに、通常時にはモータの回転数として制御上適正な値が取得されると考えられることから、電圧位相上限の設定に用いられる電圧センサに検出誤差がある異常と判定することができる。こうしてモータを良好に駆動するのに必要な電圧センサに検出誤差がある異常を判定することができる。ここで、モータの電圧位相および電圧位相指令は、モータのd軸に対する位相やモータのq軸に対する位相などを用いることができる。また、前記パルス幅変調制御モードは、搬送波電圧の振幅以下の振幅の正弦波状の電圧指令を用いてパルス幅変調信号を出力する正弦波制御モードと搬送波電圧の振幅より大きな振幅の正弦波状の電圧指令を用いてパルス幅変調信号を出力する過変調制御モードとを含む、ものとすることができる。
こうした本発明の第1の駆動装置において、前記制御手段は、前記切り替えが指示されたときに前記異常判定手段により異常と判定されたときには、前記インバータの制御モードを前記矩形波制御モードに切り替えることなく前記パルス幅変調制御モードで該インバータを制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えたときにモータの電圧位相が電圧位相上限により制限されることがないから、例えばモータに流れる電流の急変やモータに流れる電流波形の乱れなど、モータの電圧位相が制限されることによる不都合が生じるのを抑制することができる。
また、本発明の第1の駆動装置において、前記矩形波制御モードは、前記駆動電圧系の電圧と前記モータの回転数と電圧位相上限との予め定められた関係として該モータの回転数が所定の低回転数未満のときには該モータの回転数の低下量に対する該電圧位相上限の低下量の割合が該モータの回転数が該所定の低回転数以上のときに比して大きい所定の関係に基づいて該電圧位相上限を設定すると共に、該設定した電圧位相上限の範囲内で前記トルク指令に基づいて設定される目標電圧位相に対して第1の変化程度による所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定して矩形波信号を前記モータに出力する制御モードであり、前記制御手段は、前記切り替えが指示されたときに前記異常判定手段により異常と判定されたときには、前記インバータの制御モードを前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードに切り替えると共に、該矩形波制御モードで前記目標電圧位相に対して前記第1の変化程度より緩やかに変化させる第2の変化程度による前記所定の緩変化処理を用いて前記インバータを制御する手段である、ものとすることもできる。即ち、この切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに異常判定手段により異常と判定されないときには、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えると共に、矩形波制御モードで目標電圧位相に対して第1の変化程度による所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定してインバータを制御し、この切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに異常判定手段により異常と判定されたときには、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えると共に、矩形波制御モードで目標電圧位相に対して第2の変化程度による所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定してインバータを制御するのである。こうすれば、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えるから、モータからより大きなトルクを出力することができる。
さらに、一般に、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへの切り替え(第2の切り替え)は、モータの回転数の低下やモータのトルク指令の低下によって生じるため、モータのトルク指令の上昇を伴わずにモータの回転数の低下によって矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへの切り替え(第2の切り替え)を行なう際には、矩形波制御モードでモータの回転数が所定の低回転数以上から所定の低回転数未満となりモータの電圧位相上限が小さくなる場合がある。このとき、インバータおよびモータが良好に制御されている通常時でも電圧センサに検出誤差がある異常が生じている場合には電圧位相上限による制限が過大になる場合が生じる。したがって、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替える際の切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに異常と判定されたときに、矩形波制御モードで目標電圧位相に対して比較的緩やかに変化させる第2の変化程度による所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定してインバータを制御するから、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへの切り替え(第2の切り替え)に際して、矩形波制御モードでのモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限される状態となる前にインバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替えやすくすることができる。この結果、インバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替える(第2の切り替えの)際に、モータの電圧位相が電圧位相上限により制限された状態から制限されない状態に移行するのが抑制され、例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などモータの電圧位相が制限された状態から制限されない状態に移行することによる不都合が生じるのを抑制することができる。この場合、前記制御手段は、前記インバータの制御モードを前記矩形波制御モードから前記パルス幅変調制御モードに切り替える第2の切り替えが指示されたときには、前記パルス幅変調制御モードで前記インバータを制御する手段である、ものとすることができる。ここで、所定の緩変化処理としては、レート処理やなまし処理などを用いることができる。また、第1の変化程度としては、矩形波制御モードでインバータおよびモータを良好に制御可能な程度などを用いることができ、第2の変化程度としては、モータの回転数が所定の低回転数未満のときにモータの電圧位相上限の急変を抑制可能な程度などを用いることができる。
この矩形波制御モードでは所定の関係に基づく電圧位相上限の範囲内で設定した目標電圧位相に対して所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定する態様の本発明の第1の駆動装置において、前記制御手段は、前記切り替えが指示されたときに前記異常判定手段により異常と判定されたときには、前記インバータの制御モードを前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードに切り替えると共に、前記モータの回転数が前記所定の低回転数未満のときのみ該矩形波制御モードで前記第2の変化程度による前記所定の緩変化処理を用いて前記インバータを制御する手段である、ものとすることもできる。即ち、この切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに異常判定手段により異常と判定されたときには、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えると共に、モータの回転数が所定の低回転数以上のときには矩形波制御モードで目標電圧位相に対して第1の変化程度による所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定してインバータを制御し、モータの回転数が所定の低回転数未満のときのみ矩形波制御モードで目標電圧位相に対して第2の変化程度による所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定してインバータを制御するのである。こうすれば、矩形波制御モードでモータの回転数が所定の低回転数以上のときには電圧位相指令を比較的迅速に変化させることができ、矩形波制御モードでのモータの出力応答性や制御性を良好にすることができる。
また、矩形波制御モードでは所定の関係に基づく電圧位相上限の範囲内で設定した目標電圧位相に対して所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定する態様の本発明の第1の駆動装置において、前記制御手段は、前記切り替えが指示されたときに前記異常判定手段により異常と判定されたときには、前記インバータの制御モードを前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードに切り替えると共に、該矩形波制御モードで前記モータの回転数が前記所定の低回転数未満のときには前記所定の関係より該モータの回転数の低下量に対する該電圧位相上限の低下量の割合が小さい第2の関係に基づいて該電圧位相上限を設定して前記インバータを制御する手段である、ものとすることもできる。即ち、この切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに異常判定手段により異常と判定されないときには、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えると共に、矩形波制御モードで電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧とモータの回転数と所定の関係とに基づいて電圧位相上限を設定してインバータを制御し、この切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに異常判定手段により異常と判定されたときには、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えると共に、矩形波制御モードで電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧とモータの回転数と第2の関係とに基づいて電圧位相上限を設定してインバータを制御するのである。こうすれば、インバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替える際の切り替え(第2の切り替え)に際して、矩形波制御モードでのモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限されるのを抑制しつつインバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替えることができる。この結果、インバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替える(第2の切り替えの)際に、モータの電圧位相が電圧位相上限により制限された状態から制限されない状態に移行するのが抑制され、例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などモータの電圧位相が制限された状態から制限されない状態に移行することによる不都合が生じるのを抑制することができる。ここで、所定の関係としては、矩形波制御モードでインバータおよびモータを良好に制御可能な電圧位相上限が得られるように予め定められた関係などを用いることができ、第2の関係としては、モータの回転数が所定の低回転数未満のときにはモータの回転数の低下量に対する電圧位相上限の低下量の割合がモータの電圧位相上限の急変を抑制可能な程度に小さい関係などを用いることができる。
あるいは、本発明の第1の駆動装置において、前記バッテリと前記昇圧コンバータとの接続および接続の解除を行なうリレーと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する平滑コンデンサと、前記異常判定手段により異常と判定された後にシステム停止する際、前記リレーをオフとすると共に前記平滑コンデンサに蓄えられた電荷が放電されるよう前記昇圧コンバータと前記インバータとを制御し、該制御後に前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を前記電圧センサの検出誤差を補正するための補正用電圧として設定する補正用電圧設定手段と、を備える、ものとすることもできる。こうすれば、補正用電圧を用いて電圧センサの検出値を検出誤差の影響が解消される方向に補正することができるから、矩形波制御モードでモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限されるのを抑制することができ、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとの間で切り替える際に例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などの不都合が生じるのを抑制することができると共に、モータをより適正に駆動することができる。
また、本発明の第1の駆動装置において、前記制御手段は、前記切り替えが指示されたときに前記異常判定手段により異常と判定されたときには、該切り替えが指示されたときに該異常判定手段により異常と判定されなくなるまで該異常と判定される毎に所定電圧ずつ絶対値が大きくなるように前記電圧センサの検出誤差を補正するための補正用電圧を設定し、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧に代えて該電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を該設定した補正用電圧により補正した電圧を用いて制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、補正用電圧を用いて電圧センサの検出値を検出誤差の影響が解消される方向に段階的に補正することができるから、矩形波制御モードでのモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限されるのを抑制することができ、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとの間で切り替える際に例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などの不都合が生じるのを抑制することができると共に、モータをより適正に駆動することができる。
本発明の第2の駆動装置は、
モータと、該モータを駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリからの電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給する昇圧コンバータと、前記駆動電圧系の電圧を検出する電圧センサと、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を用いて前記昇圧コンバータを制御すると共に前記モータのトルク指令に基づいてパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードで前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記矩形波制御モードは、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧と前記モータの回転数とに基づいて電圧位相上限を設定すると共に、該設定した電圧位相上限の範囲内で前記トルク指令に基づいて電圧位相指令を設定して矩形波信号を前記モータに出力する制御モードであり、
前記制御手段は、前記インバータの制御モードの前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに該切り替え直前の該パルス幅変調制御モードにおける前記モータの電圧位相が該切り替え直後の該矩形波制御モードで設定すべき前記電圧位相上限より大きい場合には、前記インバータの制御モードを前記矩形波制御モードに切り替えることなく前記パルス幅変調制御モードで該インバータを制御する手段である、
ことを要旨とする。
この本発明の第2の駆動装置では、切り替えが指示されたときに異常と判定されたときにはインバータの制御モードを矩形波制御モードに切り替えることなくパルス幅変調制御モードでインバータを制御する態様の本発明の第1の駆動装置と同様に、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えたときにモータの電圧位相が電圧位相上限により制限されることがないから、例えばモータに流れる電流の急変やモータに流れる電流波形の乱れなど、モータの電圧位相が制限されることによる不都合が生じるのを抑制することができる。
本発明の第3の駆動装置は、
モータと、該モータを駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリからの電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給する昇圧コンバータと、前記駆動電圧系の電圧を検出する電圧センサと、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を用いて前記昇圧コンバータを制御すると共に前記モータのトルク指令に基づいてパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードで前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記矩形波制御モードは、前記駆動電圧系の電圧と前記モータの回転数と電圧位相上限との予め定められた関係として該モータの回転数が所定の低回転数未満のときには該モータの回転数の低下量に対する該電圧位相上限の低下量の割合が該モータの回転数が該所定の低回転数以上のときに比して大きい所定の関係に前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧と前記モータの回転数とを適用して該電圧位相上限を設定すると共に、該設定した電圧位相上限の範囲内で前記トルク指令に基づいて設定される目標電圧位相に対して第1の変化程度による所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定して矩形波信号を前記モータに出力する制御モードであり、
前記制御手段は、前記インバータの制御モードの前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに該切り替え直前の該パルス幅変調制御モードにおける前記モータの電圧位相が該切り替え直後の該矩形波制御モードで設定すべき前記電圧位相上限より大きい場合には、前記インバータの制御モードを前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードに切り替えると共に、該矩形波制御モードで前記目標電圧位相に対して前記第1の変化程度より緩やかに変化させる第2の変化程度による前記所定の緩変化処理を用いて前記インバータを制御する手段である、
ことを要旨とする。
この本発明の第3の駆動装置では、矩形波制御モードでは所定の関係に基づく電圧位相上限の範囲内で設定した目標電圧位相に対して所定の緩変化処理を施して電圧位相指令を設定する態様の本発明の第1の駆動装置と同様に、矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードへの切り替えに際して、矩形波制御モードでのモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限される状態となる前にインバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替えやすくすることができる。この結果、インバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替える際に、モータの電圧位相が電圧位相上限により制限された状態から制限されない状態に移行するのが抑制され、例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などモータの電圧位相が制限された状態から制限されない状態に移行することによる不都合が生じるのを抑制することができる。ここで、所定の緩変化処理としては、レート処理やなまし処理などを用いることができる。また、第1の変化程度としては、矩形波制御モードでインバータおよびモータを良好に制御可能な程度などを用いることができ、第2の変化程度としては、モータの回転数が所定の低回転数未満のときにモータの電圧位相上限の急変を抑制可能な程度などを用いることができる。
こうした本発明の第3の駆動装置において、前記制御手段は、前記切り替えが指示されたときに該切り替え直前の該パルス幅変調制御モードにおける前記モータの電圧位相が該切り替え直後の該矩形波制御モードで設定すべき前記電圧位相上限より大きい場合には、前記インバータの制御モードを前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードに切り替えると共に、前記モータの回転数が前記所定の低回転数未満のときのみ該矩形波制御モードで前記第2の変化程度による前記所定の緩変化処理を用いて前記インバータを制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、矩形波制御モードでモータの回転数が所定の低回転数以上のときには電圧位相指令を比較的迅速に変化させることができ、矩形波制御モードでのモータの出力応答性や制御性を良好にすることができる。
また、本発明の第3の駆動装置において、前記制御手段は、前記切り替えが指示されたときに該切り替え直前の該パルス幅変調制御モードにおける前記モータの電圧位相が該切り替え直後の該矩形波制御モードで設定すべき前記電圧位相上限より大きい場合には、前記インバータの制御モードを前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードに切り替えると共に、該矩形波制御モードで前記モータの回転数が前記所定の低回転数未満のときには前記所定の関係より該モータの回転数の低下量に対する前記電圧位相上限の低下量の割合が小さい第2の関係に基づいて該電圧位相上限を設定して前記インバータを制御する手段である、ものとすることもできる。こうすれば、インバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替える際の切り替えに際して、矩形波制御モードでのモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限されるのを抑制しつつインバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替えることができる。この結果、インバータの制御モードを矩形波制御モードからパルス幅変調制御モードに切り替える際に、モータの電圧位相が電圧位相上限により制限された状態から制限されない状態に移行するのが抑制され、例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などモータの電圧位相が制限された状態から制限されない状態に移行することによる不都合が生じるのを抑制することができる。ここで、所定の関係としては、矩形波制御モードでインバータおよびモータを良好に制御可能な電圧位相上限が得られるように予め定められた関係などを用いることができ、第2の関係としては、モータの回転数が所定の低回転数未満のときにはモータの回転数の低下量に対する電圧位相上限の低下量の割合がモータの電圧位相上限の急変を抑制可能な程度に小さい関係などを用いることができる。
本発明の第4の駆動装置は、
モータと、該モータを駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリからの電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給する昇圧コンバータと、前記バッテリと前記昇圧コンバータとの接続および接続の解除を行なうリレーと、前記駆動電圧系の電圧を平滑する平滑コンデンサと、前記駆動電圧系の電圧を検出する電圧センサと、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を用いて前記昇圧コンバータを制御すると共に前記モータのトルク指令に基づいてパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードで前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記矩形波制御モードは、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧と前記モータの回転数とに基づいて電圧位相上限を設定すると共に、該設定した電圧位相上限の範囲内で前記トルク指令に基づいて電圧位相指令を設定して矩形波信号を前記モータに出力する制御モードであり、
前記インバータの制御モードの前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに該切り替え直前の該パルス幅変調制御モードにおける前記モータの電圧位相が該切り替え直後の該矩形波制御モードで設定すべき前記電圧位相上限より大きい場合にシステム停止する際、前記リレーをオフとすると共に前記平滑コンデンサに蓄えられた電荷が放電されるよう前記昇圧コンバータと前記インバータとを制御し、該制御後に前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を前記電圧センサの検出誤差を補正するための補正用電圧として設定する補正用電圧設定手段
を備えることを要旨とする。
この本発明の第4の駆動装置では、昇圧コンバータとインバータとを制御した後に補正用電圧を設定する態様の本発明の第1の駆動装置と同様に、補正用電圧を用いて電圧センサの検出値を検出誤差の影響が解消される方向に補正することができるから、矩形波制御モードでモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限されるのを抑制することができ、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとの間で切り替える際に例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などの不都合が生じるのを抑制することができると共に、モータをより適正に駆動することができる。
本発明の第5の駆動装置は、
モータと、該モータを駆動するインバータと、バッテリと、該バッテリからの電力を昇圧して前記インバータが接続された駆動電圧系に供給する昇圧コンバータと、前記駆動電圧系の電圧を検出する電圧センサと、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を用いて前記昇圧コンバータを制御すると共に前記モータのトルク指令に基づいてパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードで前記インバータを制御する制御手段と、を備える駆動装置であって、
前記矩形波制御モードは、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧と前記モータの回転数とに基づいて電圧位相上限を設定すると共に、該設定した電圧位相上限の範囲内で前記トルク指令に基づいて電圧位相指令を設定して矩形波信号を前記モータに出力する制御モードであり、
前記制御手段は、前記インバータの制御モードの前記パルス幅変調制御モードから前記矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに該切り替え直前の該パルス幅変調制御モードにおける前記モータの電圧位相が該切り替え直後の該矩形波制御モードで設定すべき前記電圧位相上限より大きい所定状態である場合には、該切り替えが指示されたときに該所定状態でなくなるまで該所定状態となる毎に所定電圧ずつ絶対値が大きくなるように前記電圧センサの検出誤差を補正するための補正用電圧を設定し、前記電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧に代えて該電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を該設定した補正用電圧により補正した電圧を用いて制御する手段である、
ことを要旨とする。
この本発明の第5の駆動装置では、切り替えが指示されたときに異常と判定されたときには異常と判定される毎に所定電圧ずつ絶対値が大きくなるように補正用電圧を設定して制御する態様の本発明の第1の駆動装置と同様に、補正用電圧を用いて電圧センサの検出値を検出誤差の影響が解消される方向に段階的に補正することができるから、矩形波制御モードでのモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサからの電圧に基づく電圧位相上限により過大に制限されるのを抑制することができ、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとの間で切り替える際に例えばモータに流れる電流波形の乱れやモータに流れる電流の急変などの不都合が生じるのを抑制することができると共に、モータをより適正に駆動することができる。
本発明の車両は、上述のいずれかの態様の本発明の第1ないし第5のいずれかの駆動装置を搭載し、前記モータからのトルクを用いて走行する、ことを要旨とする。
この本発明の車両は、上述のいずれかの態様の本発明の第1ないし第5のいずれかの駆動装置を備えるから、本発明の各駆動装置の奏する効果、例えば、モータを良好に駆動するのに必要な電圧センサに検出誤差がある異常を判定することができる効果などと同様の効果を奏することができる。
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
図1は、本発明の第1実施例としての電気自動車20の構成の概略を示す構成図である。実施例の電気自動車20は、図示するように、例えば永久磁石が埋め込まれたロータと三相コイルが巻回されたステータとを有する同期発電電動機として構成されて駆動輪26a,26bにデファレンシャルギヤ24を介して接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、モータ32を駆動するインバータ34と、例えばリチウムイオン電池などの二次電池として構成されたバッテリ36と、インバータ34が接続された電力ライン(以下、駆動電圧系電力ラインという)42とバッテリ36がシステムメインリレー38を介して接続された電力ライン(以下、電池電圧系電力ラインという)44とに接続されて電池電圧系電力ライン44の電力を昇圧して駆動電圧系電力ライン42に供給可能な昇圧コンバータ40と、車両全体をコントロールする電子制御ユニット50と、を備える。なお、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ46が接続されており、電池電圧系電力ライン44の正極母線と負極母線とには平滑用のコンデンサ48が接続されている。
インバータ34は、6つのスイッチング素子としてのトランジスタT11〜T16と、トランジスタT11〜T16に逆方向に並列接続された6つのダイオードD11〜D16と、により構成されている。トランジスタT11〜T16は、駆動電圧系電力ライン42の正極母線と負極母線とに対してソース側とシンク側となるよう2個ずつペアで配置されており、対となるトランジスタ同士の接続点の各々にモータ32の三相コイル(U相,V相,W相)の各々が接続されている。したがって、インバータ34に電圧が作用している状態でトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を制御することにより、三相コイルに回転磁界を形成でき、モータ32を回転駆動することができる。
電子制御ユニット50は、CPU52を中心とするマイクロプロセッサとして構成されており、CPU52の他に処理プログラムを記憶するROM54と、データを一時的に記憶するRAM56と、図示しない入出力ポートと、を備える。電子制御ユニット50には、モータ32のロータの回転位置を検出する回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmや、インバータ34からモータ32への電力ラインに取り付けられた電流センサ32U,32Vからの相電流Iu,Iv,バッテリ36の端子間に設置された図示しない電圧センサからの端子間電圧,バッテリ36の出力端子に接続された電力ラインに取り付けられた図示しない電流センサからの充放電電流,バッテリ36に取り付けられた図示しない温度センサからの電池温度,コンデンサ46の端子間に取り付けられた電圧センサ46aからのコンデンサ46の電圧(駆動電圧系電力ライン42の電圧)VHやコンデンサ48の端子間に取り付けられた電圧センサ48aからのコンデンサ48の電圧(電池電圧系電力ライン44の電圧)VL,イグニッションスイッチ60からのイグニッション信号,シフトレバー61の操作位置を検出するシフトポジションセンサ62からのシフトポジションSP,アクセルペダル63の踏み込み量を検出するアクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Acc,ブレーキペダル65の踏み込み量を検出するブレーキペダルポジションセンサ66からのブレーキペダルポジションBP,車速センサ68からの車速Vなどが入力ポートを介して入力されている。電子制御ユニット50からは、システムメインリレー38をオンオフする駆動信号やインバータ34のトランジスタT11〜T16へのスイッチング制御信号,昇圧コンバータ40のスイッチング素子へのスイッチング制御信号などが出力ポートを介して出力されている。なお、電子制御ユニット50は、回転位置検出センサ32aからのモータ32のロータの回転位置θmに基づいてモータ32の電気角θeや回転数Nmも演算している。
次に、こうして構成された第1実施例の電気自動車20の動作について説明する。図2は、電子制御ユニット50により実行される駆動制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎(例えば、数msec毎)に繰り返し実行される。なお、電子制御ユニット50は、このルーチンと並行して、モータ32から出力すべきトルクとしてのトルク指令Tm*とモータ32の回転数Nmとからなる目標駆動点でモータ32を駆動できる電圧を駆動電圧系電力ライン42の目標電圧VH*に設定すると共に駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが目標電圧VH*となるよう電圧フィードバック制御によって昇圧コンバータ40のスイッチング素子をスイッチング制御する。
図2の駆動制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、アクセルペダルポジションセンサ64からのアクセル開度Accや車速センサ68からの車速V,モータ32の回転数Nm,電気角θe,電流センサ32U,32Vからの相電流Iu,Ivなど制御に必要なデータを入力する処理を実行する(ステップS100)。ここで、モータ32の回転数Nmや電気角θeは、回転位置検出センサ32aにより検出されたモータ32のロータの回転位置θmに基づいて演算されてRAM56に書き込まれたものを読み込むことによりそれぞれ入力するものとした。
こうしてデータを入力すると、入力したアクセル開度Accと車速Vとに基づいて車両に要求されるトルクとして駆動軸22に出力すべき要求トルクTd*を設定すると共に(ステップS110)、設定した要求トルクTd*をモータ32のトルク指令Tm*に設定する(ステップS120)。ここで、要求トルクTd*は、実施例では、アクセル開度Accと車速Vと要求トルクTd*との関係を予め定めて要求トルク設定用マップとしてROM54に記憶しておき、アクセル開度Accと車速Vとが与えられると記憶したマップから対応する要求トルクTd*を導出して設定するものとした。図3に要求トルク設定用マップの一例を示す。
続いて、設定したモータ32のトルク指令Tm*と回転数Nmとに基づいてインバータ34の制御モードCmを設定する(ステップS130)。ここで、インバータ34の制御モードCmは、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*および回転数Nmと駆動電圧系電力ライン42の電圧VHと制御モードCmとの関係を予め定めて制御モード設定用マップとしてROM54に記憶しておき、モータ32のトルク指令Tm*および回転数Nmと駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとが与えられると記憶したマップから対応する制御モードCmを導出して設定するものとした。図4に制御モード設定用マップの一例を示す。インバータ34の制御モードは、モータ32の電圧指令と三角波(搬送波)電圧との比較によってトランジスタT11〜T16のオン時間の割合を調節するパルス幅変調(PWM)制御において三角波電圧の振幅以下の振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる擬似的三相交流電圧をモータ32に印加する正弦波制御モード,パルス幅変調制御において三角波電圧の振幅より大きな振幅の正弦波状の電圧指令を変換して得られる過変調電圧をモータ32に印加する過変調制御モード,矩形波電圧をモータ32に印加する矩形波制御モードがあり、駆動電圧系電力ライン42の電圧VH毎に、モータ32のトルク指令Tm*や回転数Nmが小さい側から順に正弦波制御モード,過変調制御モード,矩形波制御モードが定められていると共に、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが高いほど正弦波制御モードと過変調制御モードとの境界,過変調制御モードと矩形波制御モードとの境界が高回転高トルク側に定められている。モータ32やインバータ34の特性として、矩形波制御モード,過変調制御モード,正弦波制御モードの順で、モータ32の出力応答性や制御性がよくなり、出力可能なトルクが小さくなり、インバータ34のスイッチング損失などが大きくなることが分かっているから、低回転数低トルクの領域では、正弦波制御モードでインバータ34を制御することによってモータ32の出力応答性や制御性を良くすることができ、高回転数高トルク領域では、矩形波制御モードを用いてインバータ34を制御することによって大きなトルクを出力可能とすると共にインバータ34のスイッチング損失などを低減することができる。なお、正弦波制御モードと過変調制御モードとは、いずれもPWM制御を行なうための制御モードであるため、以下では、両者をまとめてPWM制御モードともいう。
次に、モータ32の三相コイルのU相,V相,W相に流れる相電流Iu,Iv,Iwの総和を値0として電気角θeを用いて相電流Iu,Ivをd軸,q軸の電流Id,Iqに次式(1)により座標変換(3相−2相変換)し(ステップS140)、インバータ34の制御モードCmを調べる(ステップS150)。ここで、d軸はモータ32のロータに埋め込まれた永久磁石によって形成される磁束の方向であり、q軸はd軸に対してモータ32の正回転方向にπ/2だけ電気角θeが進角した方向である。
インバータ34の制御モードCmが正弦波制御モードや過変調制御モードのときには、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の目標電流Id*,Iq*を設定する(ステップS160)。ここで、d軸,q軸の目標電流Id*,Iq*は、実施例では、モータ32のトルク指令Tm*とd軸,q軸の目標電流Id*,Iq*との関係(例えば、目標電流Id*の二乗と目標電流Iq*の二乗との和の平方根(以下、目標電流大きさIreという)を比較的小さくしてモータ32のトルク指令Tm*に対応するトルクをモータ32から出力できる関係)を予め定めて電流指令設定用マップとしてROM54に記憶しておき、モータ32のトルク指令Tm*が与えられると記憶したマップから対応するd軸,q軸の目標電流Id*,Iq*を導出して設定するものとした。目標電流設定用マップの一例を図5に示す。図5の例では、モータ32のトルク指令Tm*がトルクT3のときにこのトルク指令Tm*に対応するd軸,q軸の目標電流Id*,Iq*を設定する際の様子を示している。なお、図5には、モータ32のトルク指令Tm*や目標電流Id*,Iq*の他に、目標電流大きさIreと、三相コイルに通電される電流によってステータに形成される磁界の方向(ステータ磁界の方向)のq軸に対する角度としての目標電流角度θreと、についても図示した。
続いて、d軸,q軸の電流Id,Iqと目標電流Id*,Iq*とを用いて次式(2)および式(3)によりd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算し(ステップS170)、計算したd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*に基づくPWM信号を用いてインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御して(ステップS180)、駆動制御ルーチンを終了する。ここで、d軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*に基づくPWM信号は、実施例では、電気角θeを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*をモータ32の三相コイルのU相,V相,W相に印加すべき電圧指令Vu*,Vv*,Vw*に次式(4)および式(5)により座標変換(2相−3相変換)し、座標変換した電圧指令Vu*,Vv*,Vw*をインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチングするためのPWM信号に変換して出力するものとした。式(2)および式(3)は、d軸,q軸の電流Id,Iqを目標電流Id*,Iq*とするためのフィードバック制御における関係式であり、式(2)および式(3)中、右辺第1項の「kd1」および「kq1」は比例項のゲインであり、右辺第2項の「kd2」および「kq2」は積分項のゲインである。こうした制御により、インバータ34の制御モードCmを正弦波制御モードや過変調制御モードとしてモータ32から駆動軸22に要求トルクTr*に相当するトルクを出力して走行することができる。
ステップS150でインバータ34の制御モードCmが矩形波制御モードのときには、座標変換によって得られたモータ32のd軸,q軸の電流Id,Iqに基づいてモータ32から出力されていると推定される推定出力トルクTmestを設定し(ステップS190)、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の回転数Nmとに基づいてモータ32のq軸に対する電圧位相を制限するための電圧位相上限θlimを設定する(ステップS200)。ここで、推定出力トルクTmestは、実施例では、d軸,q軸の電流Id,Iqと推定出力トルクTmestとの関係として予め実験や解析などにより定められてROM54に記憶したマップにd軸,q軸の電流Id,Iqを適用することによって導出されたものを設定するものとした。また、電圧位相上限θlimは、実施例では、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の回転数Nmと電圧位相上限θlimとの関係を予め実験や解析などにより定めて電圧位相上限設定用マップとしてROM54に記憶しておき、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の回転数Nmとが与えられると記憶したマップから対応する電圧位相上限θlimを導出して設定するものとした。電圧位相上限設定用マップの一例を図6に示す。実施例の電圧位相上限設定用マップでは、電圧位相上限θlimは、矩形波制御モードでインバータ34およびモータ32を良好に(適正に)制御可能な電圧位相上限θlimが得られるように、即ちモータ32の電圧位相が過度に進むことによるインバータ34の制御破綻が抑制されるように且つモータ32に流れる相電流が乱れる(例えば電流振幅が一時的に突出する)ことのないように、予め実験や解析などにより定められている。図6の例では、電圧位相上限θlimは、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHが大きいほど小さくなると共に、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満では回転数Nmが大きいほど比較的急峻に大きくなり且つモータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref以上では回転数Nmが大きくなっても比較的緩やかに変化する。モータ32の回転数Nmと電圧位相上限θlimとの関係は、言い換えると、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときにはモータ32の回転数Nmの低下量に対する電圧位相上限θlimの低下量(制限が厳しくなる方向への変化量)の割合がモータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref以上のときに比して大きい関係ということができる。
こうして推定出力トルクTmestと電圧位相上限θlimとを設定すると、前回本ルーチンを実行したときに設定されたインバータ34の制御モードCm(前回Cm)を調べ(ステップS210)、前回Cmが過変調制御モードのときには、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたと判断し、駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを検出する電圧センサ46aに検出誤差がある異常(以下、センサ異常という)が生じている状態を判定するための異常判定処理を実行すると共に(ステップS220)、異常判定処理の実行結果を調べる(ステップS230)。電圧センサ46aの異常判定処理は、実施例では、図7のフローチャートにより例示する異常判定処理により実行される。ここで、図2の駆動制御ルーチンの説明を一旦中断し、図7の異常判定処理について説明する。
図7の異常判定処理では、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え直前の過変調制御モードにおける電圧指令Vd*,Vq*に基づいてモータ32のq軸に対する電圧位相θovmを設定する(ステップS300)。ここで、電圧位相θovmは、実施例では、過変調制御モードにおける電圧指令Vd*,Vq*とモータ32のq軸に対する電圧位相θovmとの関係として予め定められてROM54に記憶されたマップに前回図2の駆動制御ルーチンを実行したときに過変調制御モードで設定された電圧指令Vd*,Vq*を適用することによって導出されたものを設定するものとした。
続いて、設定した電圧位相θovmと図2の駆動制御ルーチンのステップS200で設定した電圧位相上限θlimとを比較し(ステップS310)、電圧位相θovmが電圧位相上限θlim以下の場合には、センサ異常が生じているとはいえないと判断して、センサ異常フラグF1に値0を設定し(ステップS320)、電圧位相θovmが電圧位相上限θlimより大きい場合には、センサ異常が生じていると判断して、センサ異常フラグF1に値1を設定して(ステップS330)、異常判定処理を終了する。ここで、ステップS310での比較に用いる電圧位相上限θlimは、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときのその切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべき電圧位相上限θlimであるから、ステップS310の処理は、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替える際のその切り替え直前の過変調制御モードにおけるモータ32のθovmとその切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべき電圧位相上限θlimとを比較する処理ということができる。
図8にインバータ34の制御モードCmとモータ32の電圧位相との時間変化の様子の一例を示す。図示するように、時刻t1で過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えられると、電圧位相が急峻に小さくなる場合がある。この場合は、切り替え前の過変調制御モードでは電圧センサ46aからの電圧VHを用いずに電流フィードバック制御によって電圧指令Vd*,Vq*を設定してPWM信号を出力するのに対し、例えば図6の回転数N1に対して本来の制限値θ1より小さな制限値θ2が設定されるときのように、切り替え後の矩形波制御モードでは検出誤差(実施例では、正側への誤差)がある異常時の電圧センサ46aからの電圧VHに基づく電圧位相上限θlimによって、電圧センサ46aが正常であれば制限されないにも拘わらず仮電圧位相指令θtmpが小さい値に制限されることにより生じる。矩形波制御モードにおける電圧位相上限θlimは、インバータ34およびモータ32を良好に制御可能に定められているから、インバータ34およびモータ32が良好に制御されている通常時には、インバータ34を制御している最中に過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えることによりモータ32の電圧位相が電圧位相上限θlimにより制限されることはない。したがって、この切り替え前後の2つの制御モードにおけるモータ32のq軸に対する電圧位相の位相差がある場合には、矩形波制御モードで設定される電圧位相指令θ*は異常と判断することができる。さらに、通常時には、モータ32の種々の制御で用いられる回転位置検出センサ32aからの回転位置θmに基づく回転数Nmは制御上適正な値が取得されることから、電圧位相上限θlimの設定に用いられる電圧VHと回転数Nmとのうち電圧センサ46aからの電圧VHが異常な値であり、この電圧センサ46aに検出誤差がある異常が生じていると判定することができる。以上、電圧センサ46aの異常判定処理について説明した。図2の駆動制御ルーチンの説明に戻る。
こうした電圧センサ46aの異常判定処理の実行結果としてセンサ異常が生じていると判定されたとき(センサ異常フラグF1が値1のとき)には、過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えることなく過変調制御モードを継続すると判断し、制御モードCmに過変調制御モードを再設定し(ステップS240)、モータ32のトルク指令Tm*に基づいてd軸,q軸の目標電流Id*,Iq*を設定し(ステップS160)、d軸,q軸の電流Id、Iqと目標電流Id*,Iq*とを用いてd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*を計算し(ステップS170)、計算したd軸,q軸の電圧指令Vd*,Vq*に基づくPWM信号を用いてインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御して(ステップS180)、駆動制御ルーチンを終了する。
ステップS210で前回Cmが矩形波制御モードのときには、矩形波制御モードを継続すると判断し、また、ステップS230で電圧センサ46aの異常判定処理の実行結果としてセンサ異常が生じているとは判定されないとき(センサ異常フラグF1が値0のとき)のときには、過変調制御モードから矩形波制御モードへ切り替えると判断し、モータ32のトルク指令Tm*と推定出力トルクTmestとを用いて次式(6)によりモータ32のq軸に対する電圧位相指令の仮の値である仮電圧位相指令θtmpを計算すると共に(ステップS250)、計算した仮電圧位相指令θtmpを式(7)により電圧位相上限θlimで制限して電圧位相指令θ*を設定し(ステップS260)、設定した電圧位相指令θ*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号でインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御して(ステップS270)、駆動制御ルーチンを終了する。
θtmp=k3・(Tm*-Tmest)+k4・Σ(Tm*-Tmest) (6)
θ*=min(θtmp,θlim) (7)
このように、第1実施例の電気自動車20では、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えるよう指示されたときに異常判定処理により電圧センサ46aに検出誤差がある異常と判定されたときには、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えることなく矩形波制御モードでインバータ34を制御する。これにより、モータ32からのトルクがトルク指令Tm*に対して不足する場合が生じ得るものの、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えることによりモータ32の電圧位相が電圧位相上限θlimにより制限されることがないから、例えばモータ32に流れる相電流の急変やモータ32に流れる電流の乱れなど、モータ32の電圧位相が制限されることによる不都合が生じるのを抑制することができる。なお、第1実施例の電気自動車20では、図7の異常判定処理の実行結果としてセンサ異常フラグF1に値1が設定された以降は、イグニッションオフされるまではステップS220で異常判定処理を再度実行することなく値1のセンサ異常フラグF1を保持することにより、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えるよう指示されたときに制御モードCmに過変調制御モードを再設定して過変調制御モードでのインバータ34の制御を継続するものとしてもよい。
以上説明した第1実施例の電気自動車20によれば、電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを用いて昇圧コンバータ40を制御すると共にモータ32のトルク指令Tm*に基づいて正弦波制御モードや過変調制御モードのPWM制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードでインバータ34を制御するものにおいて、矩形波制御モードは、電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の回転数Nmとに基づいて電圧位相上限θlimを設定すると共に、設定した電圧位相上限θlimの範囲内でトルク指令Tm*に基づいて電圧位相指令θ*を設定して矩形波信号をモータ32に出力する制御モードであり、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替える際の切り替え直前の過変調制御モードにおけるモータ32の電圧位相θovmが切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべき電圧位相上限θlimより大きい場合には、電圧センサ46aに検出誤差があるセンサ異常と判定する。これにより、モータ32を良好に駆動するのに必要な電圧センサ46aに検出誤差がある異常を判定することができる。
さらに、第1実施例の電気自動車20では、インバータ34の制御モードCmの過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときにセンサ異常と判定されたときには、インバータ34の制御モードCmを矩形波制御モードに切り替えることなく過変調制御モードでインバータ34を制御する。これにより、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えることによりモータ32の電圧位相が電圧位相上限θlimにより制限されることがないから、例えばモータ32に流れる電流の急変やモータ32に流れる電流波形の乱れなど、モータ32の電圧位相が制限されることによる不都合が生じるのを抑制することができる。
第2実施例の電気自動車20Bは、図1に例示した第1実施例の電気自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複した説明を回避するため、第2実施例の電気自動車20Bのハード構成については、第1実施例の電気自動車20のハード構成と同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
第2実施例の電気自動車20Bでは、電子制御ユニット50により、図2の駆動制御ルーチンに代えて図9の駆動制御ルーチンが実行される。図9の駆動制御ルーチンは、ステップS230〜S270の処理に代えてステップS400〜S480の処理を実行する点を除いて図2の駆動制御ルーチンと同一である。したがって、同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な説明は省略する。
図9の駆動制御ルーチンでは、電子制御ユニット50のCPU52は、ステップS210,S220で過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに電圧センサ46aの異常判定処理を実行すると、異常判定処理の実行結果を調べ(ステップS400)、センサ異常フラグF1が値0のときには、モータ32のq軸に対する電圧位相指令θ*をレート処理によって設定するための実行レートΔθとして値θ1を設定する(ステップS450)。ここで、値θ1は、実施例では、矩形波制御モードでインバータ34およびモータ32を良好に(適正に)制御可能な比較的大きな値、例えばモータ32が比較的迅速に応答する値などとして予め実験や解析などにより定められたものを用いるものとした。
そして、モータ32のトルク指令Tm*と推定出力トルクTmestとを用いて次式(8)によりモータ32のq軸に対する目標電圧位相の仮の値である仮目標電圧位相θttmpを計算すると共に(ステップS450)、計算した仮目標電圧位相θttmpを式(9)により電圧位相上限θlimで制限して目標電圧位相θtagを設定し(ステップS460)、設定した目標電圧位相θtagに対して式(10)により実行レートΔθによるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定し(ステップS470)、設定した電圧位相指令θ*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号でインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御して(ステップS480)、駆動制御ルーチンを終了する。式(10)中、「前回θ*」は、前回本ルーチンを実行したときに設定された電圧位相指令θ*である。なお、実施例では、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え直後で前回θ*が設定されていないときには、目標電圧位相θtagをそのまま電圧位相指令θ*として設定するものとした。こうした制御により、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えると共に矩形波制御モードでのインバータ34の制御を開始するから、過変調制御モードで制御する場合に比して、モータ32からより大きなトルクを出力することができる。
θttmp=k5・(Tm*-Tmest)+k6・Σ(Tm*-Tmest) (8)
θtag=min(θttmp,θlim) (9)
θ*=min(max(θtag,前回θ*-Δθ),前回θ*+Δθ) (10)
こうして矩形波制御モードでインバータ34の制御を開始した後は、ステップS210で前回Cmが矩形波制御モードであると判定されると共に、センサ異常フラグF1が値0と判定されるから(ステップS400)、モータ32のトルク指令Tm*と推定出力トルクTmestとに基づく仮目標電圧位相θttmpを電圧位相上限θlimにより制限して得られる目標電圧位相θtagに値θ1の実行レートΔθによるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定し(ステップS410,S450〜S470)、設定した電圧位相指令θ*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号でインバータ34のトランジスタT11〜T16をスイッチング制御して(ステップS480)、駆動制御ルーチンを終了する。こうした制御により、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに電圧センサ46aの異常判定処理の実行結果としてセンサ異常フラグF1が値0のときには、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替えると共に、インバータ34やモータ32を良好に制御可能な比較的大きな値θ1の実行レートΔθによるレート処理を用いて電圧位相指令θ*を設定してインバータ34を制御するから、矩形波制御モードでのモータ32の出力応答性や制御性を良好にすることができる。
ステップS210,S220で過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに電圧センサ46aの異常判定処理の実行結果としてセンサ異常フラグF1が値1のときや、ステップS210で前回Cmが矩形波制御モードであると判定されたときにセンサ異常フラグF1が値1のときには(ステップS400)、モータ32の回転数Nmが図6に示した所定の低回転数Nref未満か否かを判定し(ステップS420)、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref以上のときには、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際にセンサ異常のために電圧位相指令θ*が過大に制限される可能性はないと判断し、モータ32のトルク指令Tm*と推定出力トルクTmestとに基づく仮目標電圧位相θttmpを電圧位相上限θlimにより制限して得られる目標電圧位相θtagに値θ1の実行レートΔθによるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定し(ステップS410,S450〜S470)、設定した電圧位相指令θ*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号でインバータ34をスイッチング制御して(ステップS480)、駆動制御ルーチンを終了する。
モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときには、矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際にセンサ異常のために電圧位相指令θ*が過大に制限される可能性があると判断し、図6のマップとは異なる電圧位相上限設定用マップに駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の回転数Nmとを適用して電圧位相上限θlimを再設定すると共に(ステップS430)、値θ1より小さい値θ2を実行レートΔθに設定し(ステップS440)、モータ32のトルク指令Tm*と推定出力トルクTmestとに基づく仮目標電圧位相θttmpを再設定した電圧位相上限θlimにより制限して得られる目標電圧位相θtagに値θ2の実行レートΔθによるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定し(ステップSS450〜S470)、設定した電圧位相指令θ*に基づく矩形波電圧がモータ32に印加されるよう矩形波信号でインバータ34をスイッチング制御して(ステップS480)、駆動制御ルーチンを終了する。図10に、図6のマップとは異なる電圧位相上限設定用マップの一例を示す。図中、一点鎖線は、比較のために図6のマップにおける電圧位相上限θlimを示したものである。図示するように、図10の電圧位相上限θlimは、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref以上では図6のマップと同じ値が定めらており、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数範Nref未満ではモータ32の回転数Nmの低下量に対する電圧位相上限θlimの低下量(制限が厳しくなる方向への変化量)の割合が図6の電圧位相上限θlimに比して小さくなっている。この割合は、実施例では、インバータ34の制御モードCmを矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際にモータ32の電圧位相上限θlimの急変を抑制可能な程度に小さい割合となるように予め実験や解析などにより定めるものとした。また、値θ2は、実施例では、矩形波制御モードでモータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときでも電圧位相上限θlimの急変を抑制可能な程度に小さい値として、予め実験や解析などにより定められたものを用いるものとした。
一般に、矩形波制御モードから過変調制御モードへの切り替えは、図4の制御モード設定用マップからも分かるように、モータ32の回転数Nmの低下やトルク指令Tm*の低下によって生じるため、モータ32のトルク指令Tm*の上昇を伴わずにモータ32の回転数Nmの低下によってこの切り替えを行なう際には、矩形波制御モードでモータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref以上からから所定の低回転数Nref未満に入りモータ32の電圧位相上限θlimが小さくなる場合がある。このとき、インバータ34およびモータ32が良好に制御されている通常時でも電圧センサ46aに検出誤差(実施例では、正側への誤差)がある異常が生じてる場合には電圧位相上限θlimによる制限が過大になる場合がある。これに対し、第2実施例の電気自動車20Bでは、インバータ34の制御モードCmの過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに電圧センサ46aに検出誤差があるセンサ異常と判定されたときに、矩形波制御モードに切り替えると共に、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときには、矩形波制御モードで目標電圧位相θtagに対して比較的緩やかに変化させる値θ2によるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定してインバータ34を制御するから、その後、矩形波制御モードから過変調制御モードへの切り替え(第2の切り替え)に際して、矩形波制御モードでのモータ32の電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧VHに基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限される状態となる前に、インバータ34の制御モードCmを矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替えやすくすることができる。また、第1の切り替えが指示されたときにセンサ異常と判定されたときに、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref以上のときには、矩形波制御モードで目標電圧位相θtagに対して比較的大きな値θ1によるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定してインバータ34を制御するから、目標電圧位相θtagを比較的迅速に変化させることができ、矩形波制御モードでのモータ32の出力応答性や制御性を良好にすることができる。
さらに、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替える際の切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに電圧センサ46aに検出誤差があるセンサ異常と判定されたときに、矩形波制御モードで、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときにはモータ32の回転数Nmの低下量に対する電圧位相上限θlimの低下量の割合が比較的小さい図10のマップを用いて電圧位相上限θlimを再設定してインバータ34を制御するから、インバータ34の制御モードCmを矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替える際の切り替え(第2の切り替え)に際して、矩形波制御モードでのモータ32の電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧VHに基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限されるのを抑制しつつ、インバータ34の制御モードCmを矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替えることができる。なお、矩形波制御モードで図10のマップを用いて電圧位相上限θlimを設定すると、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときにインバータ34やモータ32を良好に制御することができなくなる場合が生じ得るが、第2実施例では、こうした場合よりも矩形波制御モードから過変調制御モードへの切り替えに際して生じ得る不都合に対処することを優先するものとした。
以上説明した第2実施例の電気自動車20Bによれば、インバータ34の制御モードCmの過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え(第1の切り替え)が指示されたときに電圧センサ46aに検出誤差があるセンサ異常と判定されたときに、過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替え、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときには、モータ32の回転数Nmの低下量に対する電圧位相上限θlimの低下量の割合が比較的小さい図10のマップを用いて電圧位相上限θlimを再設定すると共に、矩形波制御モードで仮目標電圧位相θttmpを電圧位相上限θlimで制限した目標電圧位相θtagに対して比較的緩やかに変化させる値θ2によるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定してインバータ34を制御する。これにより、矩形波制御モードから過変調制御モードへの切り替え(第2の切り替え)に際して、矩形波制御モードでのモータ32の電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧VHに基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限されるのを抑制しつつインバータ34の制御モードCmを矩形波制御モードから過変調制御モードに切り替えることができると共に、矩形波制御モードでのモータ32の電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧VHに基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限される状態となる前に過変調制御モードに切り替えやすくすることができる。
第2実施例の電気自動車20Bでは、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときにセンサ異常と判定されたときに、過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替え、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときには、モータ32の回転数Nmの低下量に対する電圧位相上限θlimの低下量の割合が図6のマップより小さい図10のマップを用いて電圧位相上限θlimを再設定するものとしたが、これに代えて、モータ32の回転数Nmに拘わらずに(即ち、ステップS400でセンサ異常フラグF1が値1のときにはモータ32の回転数Nmを判定することなく)図10のマップを用いて電圧位相上限θlimを再設定するものとしてもよいし、電圧位相上限θlimの再設定は行なわずに図6のマップを用いて設定した電圧位相上限θlimをそのまま目標電圧位相θtagの設定に用いるものとしてもよい。
第2実施例の電気自動車20Bでは、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときにセンサ異常と判定されたときに、過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替え、モータ32の回転数Nmが所定の低回転数Nref未満のときには、モータ32の回転数Nmの低下量に対する電圧位相上限θlimの低下量の割合が図6のマップより小さい図10のマップを用いて電圧位相上限θlimを再設定すると共に、矩形波制御モードで仮目標電圧位相θttmpを電圧位相上限θlimで制限した目標電圧位相θtagに対して値θ1より小さい値θ2によるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定してインバータ34を制御するものとしたが、これに代えて、モータ32の回転数Nmに拘わらずに(即ち、ステップS400でセンサ異常フラグF1が値1のときにはモータ32の回転数Nmを判定することなく)図10のマップを用いて電圧位相上限θlimを再設定すると共に値θ2によるレート処理を用いて電圧位相指令θ*を設定するものとしてもよい。
第2実施例の電気自動車20Bでは、矩形波制御モードで仮目標電圧位相θttmpを電圧位相上限θlimで制限した目標電圧位相θtagに対して値θ1またはこの値θ1より小さい値θ2によるレート処理を施して電圧位相指令θ*を設定してインバータ34を制御するものとしたが、矩形波制御モードで仮目標電圧位相θttmpを電圧位相上限θlimで制限した目標電圧位相θtagに対して第1の時定数またはこの第1の時定数より緩やかに変化させる第2の時定数によるなまし処理を施して電圧位相指令θ*を設定してインバータ34を制御するものとしてもよい。
第3実施例の電気自動車20Cは、図1に例示した第1実施例の電気自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複した説明を回避するため、第3実施例の電気自動車20Cのハード構成については、第1実施例の電気自動車20のハード構成と同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
第3実施例の電気自動車20Cでは、電子制御ユニット50により、図2の駆動制御ルーチンと図7の異常判定処理とに加えて図11の停止時制御ルーチンが実行される。図11の停止時制御ルーチンは、電圧センサ46aに検出誤差がある異常と判定されてセンサ異常フラグF1が値1のときに、モータ32の回転が停止した状態で車両のイグニションオフなどによりシステム停止が指示されたときに実行される。
図11の停止時制御ルーチンが実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、まず、システムメインリレー38をオンからオフとすると共に(ステップS500)、昇圧コンバータ40の2つのトランジスタをオフとして昇圧コンバータ30を駆動停止した状態とし(ステップS510)、モータ32にd軸電流を流すことによって駆動電圧系電力ライン42のコンデンサ46に蓄えられた電荷が放電されるようインバータ34のトランジスタT11〜T16のスイッチング制御を行なう(ステップS520)。このインバータ34の制御は、実施例では、コンデンサ46の電荷を放電するのに十分な時間として予め定められた所定時間に亘って行なうものとした。即ち、この昇圧コンバータ40とインバータ34との制御(以下、放電制御ともいう)によって、モータ32のコイルに通電して発熱させてコンデンサ46の電荷を放電するものとした。このとき、モータ32は回転しておらず、モータ32からトルクは出力されない。
こうして駆動電圧系電力ライン42の電圧を平滑するコンデンサ46の電荷が放電されると、電圧センサ46aから駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを入力し(ステップS530)、入力した電圧VHを電圧センサ46aの検出誤差を補正するための補正用電圧VHosとして設定すると共に設定した補正用電圧VHosを図示しないフラッシュメモリの所定領域に記憶し(ステップS540)、車両全体をシステム停止する処理を行なって(ステップS550)、停止時制御ルーチンを終了する。こうして本ルーチンを終了すると、次に車両のイグニッションオンによりシステム起動して駆動制御を実行する際に、電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHに代えて、この電圧VHからフラッシュメモリに記憶された補正用電圧VHosを減じたものを電圧VHに代わる制御用電圧として用いて、昇圧コンバータ40を制御すると共に矩形波制御モードで電圧位相上限θlimを設定したりして、モータ32からトルク指令Tm*に相当するトルクが出力されるようインバータ34を制御する。このように、電圧センサ46aの検出誤差の影響が解消される方向に電圧VHを補正することにより、矩形波制御モードでモータ32の電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧VHに基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限されるのを抑制することができる。
以上説明した第3実施例の電気自動車20Cによれば、電圧センサ46aに検出誤差がある異常と判定された後にシステム停止する際に、システムメインリレー38をオフとすると共に駆動電圧系電力ライン42の平滑用のコンデンサ46に蓄えられた電荷が放電されるよう昇圧コンバータ40とインバータ34とを制御し、その制御後に電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを電圧センサ46aの検出誤差を補正するための補正用電圧VHosとして設定するから、電圧センサ46aの検出誤差の影響が解消される方向に電圧VHを補正することができ、矩形波制御モードでのモータ32の電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧に基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限されるのを抑制することができる。この結果、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードと矩形波制御モードとの間で切り替える際に例えばモータ32に流れる電流波形の乱れやモータ32に流れる電流の急変などの不都合が生じるのを抑制することができると共に、モータ32をより適正に駆動することができる。
第3実施例の電気自動車20Cでは、コンデンサ46の放電制御として昇圧コンバータ40を駆動停止すると共にモータ32にd軸電流が流れるようにインバータ34のスイッチング制御を行なうものとしたが、インバータ34をゲート遮断すると共に昇圧コンバータ40の2つのトランジスタを共にオンとしたりオフとしたりしてコンデンサ46の電荷を放電するものとしてもよい。
第3実施例の電気自動車20Cでは、第1実施例で説明した図2の駆動制御ルーチンに加えて図11の停止時制御ルーチンを実行するものとしたが、第2実施例で説明した図9の駆動制御ルーチンや第2実施例の変形例を図9の駆動制御ルーチンに適用したものに加えて図11の停止時制御ルーチンを実行するものとしてもよい。
第4実施例の電気自動車20Dは、図1に例示した第1実施例の電気自動車20と同一のハード構成をしている。したがって、重複した説明を回避するため、第4実施例の電気自動車20Dのハード構成については、第1実施例の電気自動車20のハード構成と同一の符号を付し、その詳細な説明は省略する。
第4実施例の電気自動車20Dでは、電子制御ユニット50により、図2の駆動制御ルーチンに加えて、図7の異常判定処理に代わる図12の異常判定処理が実行される。図12の異常判定処理は、ステップS300〜S330の処理に加えてステップS600の処理を実行する点を除いて図7の異常判定処理と同一である。したがって、同一の処理については同一のステップ番号を付し、その詳細な説明は省略する。
図12の異常判定処理が実行されると、電子制御ユニット50のCPU52は、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え直前の過変調制御モードにおけるモータ32のq軸に対する電圧位相θovmを設定すると共に(ステップS300)、設定した電圧位相θovmとこの切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべきモータ32のq軸に対する電圧位相を制限するための電圧位相上限θlimとを比較し(ステップS310)、電圧位相θovmが電圧位相上限θlim以下の場合には、センサ異常が生じているとはいえないと判断して、センサ異常フラグF1に値0を設定する(ステップS320)。一方、電圧位相θovmが電圧位相上限θlimより大きい場合には、センサ異常が生じていると判断して、センサ異常フラグF1に値1を設定し(ステップS330)、図示しないフラッシュメモリの所定領域に記憶された電圧センサ46aの検出誤差を補正するための補正用電圧VHos(初期値は値0)に所定電圧ΔVを加えたものを新たに補正用電圧VHosとして設定してフラッシュメモリの所定領域に記憶し(ステップS600)、異常判定処理を終了する。ここで、所定電圧ΔVは、電圧センサ46aの検出誤差を段階的に補正するための比較的小さな電圧(正の値)として予め定められたものである。
こうして本ルーチンを終了すると、その後に駆動制御を実行する際に、電子制御ユニット50は、電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHに代えて、この電圧VHからフラッシュメモリに記憶された補正用電圧VHosを減じたものを電圧VHに代わる制御用電圧として用いて、昇圧コンバータ40を制御すると共に矩形波制御モードで電圧位相上限θlimを設定したりして、モータ32からトルク指令Tm*に相当するトルクが出力されるようインバータ34を制御する。具体的には、図2の駆動制御ルーチンのステップS100では電圧VHに代えて制御用電圧が入力され、ステップS200では電圧VHに代えて制御用電圧に基づいて電圧位相上限θlimが設定され、図7の異常判定処理でも電圧VHに代えて制御用電圧に基づいて設定された電圧位相上限θlimを用いた判定結果に応じてセンサ異常フラグF1の設定が行なわれる。したがって、図2の駆動制御ルーチンでは、ステップS210で過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときにステップS230でセンサ異常フラグF1が値1のときには、次回以降にステップS210で切り替えが指示されたときにステップS230でセンサ異常フラグF1が値0と判定されるまで、図12の異常判定処理のステップS600で補正用電圧VHosが所定電圧ΔVずつ段階的に大きくなる値として設定されると共に、電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHから補正用電圧VHosを減じたもの(電圧センサ46aの検出誤差に基づく電圧位相上限θlimによる過大な制限が解消される方向に電圧VHを補正したもの)を電圧VHに代わる制御用電圧として用いて駆動制御が行なわれることになる。このように、電圧センサ46aの検出誤差の影響が解消される方向に電圧VHを段階的に補正するから、矩形波制御モードでモータ32の電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧に基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限されるのを抑制することができる。
以上説明した第4実施例の電気自動車20Dによれば、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに電圧センサ46aに検出誤差があるセンサ異常と判定されたときには、その切り替えが指示されたときにセンサ異常と判定されなくなるまでセンサ異常と判定される毎に所定電圧ΔVずつ大きくなるように電圧センサ46aの検出誤差を補正するための補正用電圧VHosを設定し、電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHに代えてこの電圧VHを補正用電圧VHosにより補正した制御用電圧を用いて昇圧コンバータ40やインバータ34を制御する。これにより、補正用電圧VHosを用いて電圧センサ46aの検出値を検出誤差の影響が解消される方向に段階的に補正することができるから、矩形波制御モードでのモータの電圧位相が検出誤差のある電圧センサ46aからの電圧VHに基づく電圧位相上限θlimにより過大に制限されるのを抑制することができる。この結果、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードと矩形波制御モードとの間で切り替える際に例えばモータ32に流れる電流波形の乱れやモータ32に流れる電流の急変などの不都合が生じるのを抑制することができると共に、モータ32をより適正に駆動することができる。
第4実施例の電気自動車20Dでは、第1実施例で説明した図2の駆動制御ルーチンに加えて、図7の異常判定処理に代わる図12の異常判定処理を実行するものとしたが、第2実施例で説明した図9の駆動制御ルーチンや第2実施例の変形例を図9の駆動制御ルーチンに適用したものに加えて、図7の異常判定処理に代わる図12の異常判定処理を実行するものとしてもよい。
第1〜第4実施例の電気自動車20〜20Dでは、インバータ34の制御モードCmの過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え直前の過変調制御モードにおけるモータ32のq軸に対する電圧位相θovmが切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべきモータ32のq軸に対する電圧位相を制限するための電圧位相上限θlimより大きい場合には電圧センサ46aに検出誤差があるセンサ異常と判定するものとしたが、モータ32の制御に用いられる電気的な軸であればq軸に限られず、インバータ34の制御モードCmの過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え直前の過変調制御モードにおけるモータ32のd軸に対する電圧位相が切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべきd軸に対する電圧位相を制限するための電圧位相上限θlimより大きい場合には電圧センサ46aに検出誤差があるセンサ異常と判定するものとしてもよい。
第1〜第4実施例の電気自動車20〜20Dでは、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替え前後の2つの制御モードにおける電圧位相θovmと電圧位相上限θlimとを比較して電圧センサ46aのセンサ異常を判定すると共に、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに電圧センサ46aのセンサ異常と判定されたときには過変調制御モードでインバータ34を制御するものとしたが、正弦波制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが生じ得る装置では、正弦波制御モードから矩形波制御モードへの切り替え前後の2つの制御モードにおける電圧位相と電圧位相上限とを比較して電圧センサ46aのセンサ異常を判定すると共に、正弦波制御モードから矩形波制御モードへの切り替えが指示されたときに電圧センサ46aのセンサ異常と判定されたときには正弦波制御モードや過変調制御モードでインバータ34を制御するものとしてもよい。
第1〜第4実施例の電気自動車20〜20Dでは、モータ32のトルク指令Tm*や回転数Nmに基づいてインバータ34の制御モードCmを設定するものとしたが、例えば、モータ32の変調率(電圧利用率)Rに基づいて制御モードCmを切り替えるなどとしてもよい。この場合、過変調制御モードから矩形波制御モードへの切り替えは、d軸の電圧指令Vd*の二乗とq軸の電圧指令Vq*の二乗との和の平方根(モータ電流の実効値)を駆動電圧系電力ライン42の電圧VHで除して得られる変調率(電圧利用率)Rが値Rref(約0.78)になったときに行なうなどとすることができる。この場合、電圧VHに検出誤差が含まれているときでもモータ電流の実効値にも誤差が影響する結果として制御モードCmの切り替えは適正に行なわれることが分かっている。
第1〜第4実施例では、駆動輪26a,26bに接続された駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32とモータ32を駆動するインバータ34とバッテリ36とバッテリ36からの電力を昇圧してインバータ34側に供給する昇圧コンバータ40とを備える電気自動車20に適用するものしたが、モータとこのモータを駆動するインバータとバッテリとこのバッテリからの電力を昇圧してインバータが接続された駆動電圧系に供給する昇圧コンバータとを備えるものであればよいから、例えば、図13の変形例のハイブリッド自動車120に例示するように、遊星歯車機構126を介して駆動軸22に接続されたエンジン122およびモータ124と、駆動軸22に動力を入出力可能なモータ32と、を備えるハイブリッド自動車120に適用するものとしてもよいし、図14の変形例のハイブリッド自動車220に例示するように、駆動軸22にモータ32を取り付けると共に、モータ32の回転軸にクラッチ229を介してエンジン122を接続する構成とし、エンジン122からの動力をモータ32の回転軸を介して駆動軸22に出力すると共にモータ32からの動力を駆動軸22に出力するハイブリッド自動車220に適用するものとしてもよい。
また、こうした電気自動車やハイブリッド自動車に適用するものに限定されるものではなく、自動車以外の列車などの車両に適用するものとしてもよいし、車両以外の移動体や移動しない設備などに組み込まれた駆動装置の形態としても構わない。
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、モータ32が「モータ」に相当し、インバータ34が「インバータ」に相当し、バッテリ36が「バッテリ」に相当し、昇圧コンバータ40が「昇圧コンバータ」に相当し、電圧センサ46aが「電圧センサ」に相当し、電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHとモータ32の回転数Nmとに基づく電圧位相上限θlimの範囲内でモータ32のトルク指令Tm*に基づいて電圧位相指令θ*を設定して矩形波信号をモータ32に出力する矩形波制御モードや電流フィードバック制御によってPWM信号をモータ32に出力するPWM制御モード(正弦波制御モード,過変調制御モード)でインバータ34を制御する図2または図9の駆動制御ルーチンを実行したり電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを用いて昇圧コンバータ40を制御したりする電子制御ユニット50が「制御手段」に相当し、インバータ34の制御モードCmを過変調制御モードから矩形波制御モードに切り替える際のその切り替え直前の過変調制御モードにおけるモータ32の電圧位相θovmが切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべき電圧位相上限θlimより大きい場合にはセンサ異常フラグF1に値1を設定する図7または図12の異常判定処理を実行する電子制御ユニット50が「異常判定手段」に相当する。また、システムメインリレー38が「リレー」に相当し、コンデンサ46が「平滑コンデンサ」に相当し、センサ異常フラグF1が値1とされた後にシステム停止する際にシステムメインリレー38をオフとすると共に駆動電圧系電力ライン42の平滑用のコンデンサ46に蓄えられた電荷が放電されるよう昇圧コンバータ40とインバータ34とを制御し該制御後に電圧センサ46aにより検出された駆動電圧系電力ライン42の電圧VHを電圧センサ46aの検出誤差を補正するための補正用電圧VHosとして設定する図11の停止時制御ルーチンを実行する電子制御ユニット50が「補正用電圧設定手段」に相当する。
ここで、「モータ」としては、同期発電電動機として構成されたモータ32に限定されるものではなく、PWM制御モードや矩形波制御モードで制御可能なものであれば如何なるタイプのモータであっても構わない。「インバータ」としては、インバータ34に限定されるものではなく、モータを駆動するものであれば如何なるタイプのインバータであっても構わない。「バッテリ」としては、リチウムイオン二次電池として構成されたバッテリ36に限定されるものではなく、ニッケル水素二次電池やニッケルカドミウム二次電池,鉛蓄電池など、如何なるタイプのバッテリであっても構わない。「昇圧コンバータ」としては、昇圧コンバータ40に限定されるものではなく、バッテリからの電力を昇圧してインバータが接続された駆動電圧系に供給するものであれば如何なるものとしても構わない。「電圧センサ」としては、電圧センサ46aに限定されるものではなく、駆動電圧系の電圧を検出するものであれば如何なるものとしても構わない。「制御手段」としては、矩形波制御モードやPWM制御モードでインバータ34を制御する図2または図9の駆動制御ルーチンを実行したり電圧VHを用いて昇圧コンバータ40を制御したりする電子制御ユニット50に限定されるものではなく、電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を用いて昇圧コンバータを制御すると共にモータのトルク指令に基づいてパルス幅変調制御モードと矩形波制御モードとのうちいずれかの制御モードでインバータを制御するものであって矩形波制御モードは電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧とモータの回転数とに基づいて電圧位相上限を設定すると共に設定した電圧位相上限の範囲内でトルク指令に基づいて電圧位相指令を設定して矩形波信号をモータに出力する制御モードであるものであれば如何なるものとしても構わない。「異常判定手段」としては、モータ32の電圧位相θovmが電圧位相上限θlimより大きい場合にはセンサ異常フラグF1に値1を設定する図7または図12の異常判定処理を実行する電子制御ユニット50に限定されるものではなく、インバータの制御モードをパルス幅変調制御モードから矩形波制御モードに切り替える際の切り替え直前のパルス幅変調制御モードにおけるモータの電圧位相が切り替え直後の矩形波制御モードで設定すべき電圧位相上限より大きい場合には電圧センサに検出誤差がある異常と判定するものであれば如何なるものとしても構わない。
また、「リレー」としては、システムメインリレー38に限定されるものではなく、バッテリと昇圧コンバータとの接続および接続の解除を行なうものであれば如何なるものとしても構わない。「平滑コンデンサ」としては、コンデンサ46に限定されるものではなく、駆動電圧系の電圧を平滑するものであれば如何なるものとしても構わない。「補正用電圧設定手段」としては、図11の停止時制御ルーチンを実行する電子制御ユニット50に限定されるものではなく、異常判定手段により異常と判定された後にシステム停止する際、リレーをオフとすると共に平滑コンデンサに蓄えられた電荷が放電されるよう昇圧コンバータとインバータとを制御し、制御後に電圧センサにより検出された駆動電圧系の電圧を電圧センサの検出誤差を補正するための補正用電圧として設定するものであれば如何なるものとしても構わない。
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。