JP2013007091A - 冷間加工用機械構造用鋼およびその製造方法、並びに機械構造用部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】所定の化学成分組成を有し、鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が95面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、所定の式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、且つ隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が5μm以上、15μm未満である。
【選択図】なし
Description
Ae=(1.0−Ceq1)×96.75 …(1)
但し、Ceq1=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
パーライトとフェライトは鋼の変形抵抗を低減させて冷間加工性向上に寄与する金属組織である。しかしながら、単に球状化したセメンタイトとフェライトを含む金属組織とするだけでは、所望の軟質化を図ることができないことから、以下で詳述する様に、この金属組織の面積率、フェライト面積率A、bcc−Fe結晶粒の平均粒径等も適切に制御する必要がある。
組織(前組織)にベイナイトやマルテンサイト等の微細な組織を含む場合には、一般的な球状化焼鈍を行っても、球状化焼鈍後はベイナイトやマルテンサイトの影響によって組織が微細となり、軟質化が不十分となる。こうした観点から、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率は95面積%以上とする必要がある。フェライトは軟質相であるため、組織の軟質化に重要である。パーライトは硬質であるセメンタイトがラメラ状に配置された組織であり、球状化焼鈍処理中にセメンタイトが分解し、わずかに残存したセメンタイトを核として、球状セメンタイトとして粗大化する。パーライトのように、ある程度の大きさのセメンタイト同士が初期から近接することで球状セメンタイトを形成しやすくする。
上記趣旨から明らかなように、前組織中のフェライトAの面積率をできるだけ多くする必要がある。フェライトはCを殆ど固溶しないため、パーライト部分にセメンタイトを凝集させると共に、セメンタイト同士の距離を近接させることができる。但し、鋼材中のC含有量によって、フェライト面積率は変化するため、C含有量に応じたフェライト面積率を計算する必要がある。
Ae=(1.0−Ceq1)×96.75 …(1)
但し、Ceq1=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
迅速球状化する場合、球状化焼鈍処理後に再生パーライトや棒状セメンタイトが発生すると、球状化焼鈍後の軟質化、および硬さばらつきの低減を阻害する。こうした状態を防止するために、前組織におけるbcc(体心立方格子)−Fe結晶粒の平均円相当直径(以下、単に「フェライト平均粒径」と呼ぶことがある)を15μm未満に制御する。また、Cの拡散は結晶粒内よりも粒界ほど促進され、球状セメンタイトは結晶粒界が多いほど成長しやすいので、前組織を微細にすることは球状セメンタイトの成長による硬度低下に有効である。しかしながら、前組織を微細にし過ぎた場合には、球状化焼鈍処理後のフェライト平均粒径が微細になり、フェライト粒微細化によって硬度が上昇するため、前組織のフェライト平均粒径は5μm以上とする必要がある。フェライト平均粒径の好ましい下限は6μm以上であり、より好ましくは7μm以上である。フェライト平均粒径の好ましい上限は14μm以下であり、より好ましくは13μm以下である。
Cは、鋼の強度(最終製品の強度)を確保する上で有用な元素である。また、C含有量を比較的少なくすることによって、軟質化促進による硬さのばらつき(線材または棒鋼としたときの長手方向の硬さのばらつき)を小さくすることができる。C含有量が0.3%以上となると、硬さのばらつきが大きくなりやすくなり、変形抵抗の増加、抵抗能の低下を招く。一方、C含有量が0.05%よりも少なくなると、鋼材の強度が低下し、部品特性を満足することが困難になる。C含有量の好ましい下限は0.08%以上(より好ましくは0.10%以上)であり、好ましい上限は0.28%以下(より好ましくは0.25%以下)である。
Siは、脱酸元素として、および固溶体硬化による最終製品の強度を増加させることを目的として含有させるが、0.005%未満ではこうした効果が有効に発揮されず、また0.5%を超えて過剰に含有されると変形抵抗の増加や変形能の低下を生じさせるため、冷間加工性を劣化させる。尚、Si含有量の好ましい下限は0.008%以上(より好ましくは0.01%以上)であり、好ましい上限は0.40%以下(より好ましくは0.30%以下)である。
Mnは、溶製中の鋼の脱酸、脱硫元素として有効であり、また鋼材への熱間加工時の加工性劣化を抑制する効果を発揮する。更に、Sと結合することで、鋼材の変形能を向上させるのにも有効な元素である。Mn含有量が、0.2%未満ではこれらの効果が発揮されず、1.1%を超えて過剰に含有されると、固溶強化による変形抵抗が増加して冷間加工性を劣化させるため、0.2〜1.1%とした。尚、Mn含有量の好ましい下限は0.3%以上(より好ましくは0.4%以上)であり、好ましい上限は1.0%以下(より好ましくは0.9%以下)である。
Pは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、フェライト粒界に偏析し、変形能を劣化させる。またPは、フェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。従って、変形抵抗や変形能の観点からは、Pは極力低減することが好ましいが、極端な低減は製鋼コストの増大を招き、0%とすることは製造上困難であるので、0.03%以下(0%を含まない)と定めた。P含有量の好ましい上限は0.028%以下(より好ましくは0.025%以下)である。
SもPと同様に鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中でFeと結合すると、FeSとして粒界上に膜状に析出するため、変形能を劣化させる。従って、Sは全量をMnと結合させ、MnSとして無害に析出させる必要がある。但し、このMnSの析出量が増加すると、変形能が低下するので、S含有量は0.03%以下とする必要がある。その一方で、Sは被削性を向上させる作用を発揮させるので、0.001%以上含有させることは有用である。S含有量の好ましい下限は0.003%以上(より好ましくは0.005%以上)であり、好ましい上限は0.028%以下(より好ましくは0.025%以下)である。
Alは、脱酸元素として有用であると共に、鋼中に存在する固溶NをAlNとして固定し、変形抵抗の低下、変形能の向上に有用である。こうした効果を有効に発揮させるためには、Al含有量は0.01%以上とする必要がある。しかしながら、Al含有量が過剰になって0.1%を超えると、Al2O3が過剰に生成し、変形能を劣化させる。尚、Al含有量の好ましい下限は0.013%以上(より好ましくは0.015%以上)であり、好ましい上限は0.08%以下(より好ましくは0.06%以下)である。
Nは、鋼中に不可避的に含まれる元素であるが、鋼中に固溶Nが含まれると、動的歪み時効による変形抵抗の増加や、変形の局在化を招くため、冷間加工性を劣化させやすい。従って、変形抵抗、変形能の観点から、Nは極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招き、0%とすることは製造上困難であるので、0.015%以下(0%を含まない)と定めた。N含有量の好ましい上限は0.013%以下であり、より好ましい上限は0.010%以下である。
Cr、Cu、Ni、MoおよびBは、いずれも鋼材の焼入れ性を向上させることによって最終製品の強度を増加させるのに有効な元素であり、必要によって単独でまたは2種以上で含有される。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、強度が高くなり過ぎ、冷間加工性を劣化させるので、上記のように夫々の好ましい上限を定めた。より好ましくはCrで0.45%以下(更に好ましくは0.40%以下)、Cu,NiおよびMoで0.22%以下(更に好ましくは0.20%以下)、およびBで0.007%以下(更に好ましくは0.005%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、それらの効果を有効に発揮させるための好ましい下限は、Crで0.015%以上(より好ましくは0.020%以上)、Cu,NiおよびMoで0.02%以上(より好ましくは0.05%以上)、およびBで0.0003%以上(より好ましくは0.0005%以上)である。
Ti、NbおよびVは、Nと化合物を形成し、固溶Nを低減することで、変形抵抗低減の効果を発揮するため、必要によって単独でまたは2種以上を含有させることができる。しかしながら、これらの元素の含有量が過剰になると、形成される化合物が変形抵抗の上昇を招き、却って冷間加工性を低下させるので、TiおよびNbで0.2%以下、Vで0.5%以下とするのが良い。より好ましくはTiおよびNbで0.15%以下(更に好ましくは0.10%以下)、およびVで0.40%以下(更に好ましくは0.30%以下)である。尚、これらの元素による効果はその含有量が増加するにつれて大きくなるが、その効果を有効に発揮させるためには好ましい下限は、いずれも0.01%以上(より好ましくは0.03%以上)である。
大角粒界で囲まれた結晶粒の平均粒径(フェライト平均粒径)を5μm以上、15μm未満に制御するためには、仕上げ加工温度(熱間仕上げ加工温度)を750〜950℃に制御する必要がある。仕上げ加工温度が950℃を超えると、結晶粒が大きくなり過ぎ、フェライト平均粒径を15μm未満にすることが困難となる。また、仕上げ加工温度が750℃未満であると、逆に動的再結晶が促進されるため組織が微細になりやすく、フェライト平均粒径を5μm以上にすることが困難となる。
600〜660℃の温度範囲(冷却停止温度)までの冷却速度が遅くなると、上記の圧延条件で作り込んだ前組織の平均粒径を維持したまま、組織サイズが変化しにくいAr1変態点以下まで冷却することができる。このときの平均冷却速度が5℃/秒未満であると、特に前組織の平均粒径が15μm付近の場合、所定の組織とすることができなくなる。こうした観点から、平均冷却速度は5℃/秒以上とする必要がある。この平均冷却速度は、好ましくは7.5℃/秒以上であり、より好ましくは10℃/秒以上である。このときの平均冷却速度の上限については、特に限定されないが、現実的な範囲として200℃/秒以下である。尚、このときの冷却については、5℃/秒以上となる平均冷却速度の範囲内であれば、冷却速度を変えるような冷却形態であっても良い。
フェライト平均粒径の粗大化と、フェライト面積率Aが少なくなることを防止するためには、上記のような冷却(即ち、5℃/秒以上の平均冷却速度で600〜660℃の温度範囲まで冷却)の代わりに、20℃/秒以上の平均冷却速度で660〜750℃の温度範囲(第1冷却停止温度)まで一旦冷却し、その後、0.1〜0.5℃/秒の平均冷却速度で600〜660℃の温度範囲(第2冷却停止温度)まで冷却するようにしても良い。即ち、660〜750℃の温度範囲までを、平均冷却速度を20℃/秒以上の急冷とし、その温度範囲から600〜660℃の温度範囲までを、0.1〜0.5℃/秒の平均冷却速度で冷却するようにしても良い。
600〜660℃の温度範囲から1℃/秒以下の平均冷却速度で徐冷することによって、上記フェライト平均粒径を5μm以上、15μm未満に制御しつつ(制御した状態で)、フェライト面積率Aを大きくすることができる。このときの平均冷却速度は遅ければ遅いほどフェライト面積率Aが増加しやすいため有効であるが、製造性を考慮すれば0.01℃/秒以上とすることが好ましい。また平均冷却速度が1℃/秒を超えると、ベイナイトやマルテンサイト等の硬質組織が生じやすくなり、フェライトとパーライトの合計面積率を所定以上にすることができなくなる。この平均冷却速度の好ましい上限は0.8℃/秒以下であり、より好ましくは0.5℃/秒以下である。
前組織粒径の測定は、EBSP解析装置およびFE−SEM(電解放出型走査電子顕微鏡)を用いて測定した。結晶方位差(斜角)が15°を超える境界(大角粒界)を結晶粒界として「結晶粒」を定義し、フェライトにおける結晶粒の平均粒径(8個のサンプルの平均値)を決定した。このときの測定領域は400μm×400μm、測定ステップは0.7μm間隔とし、測定方位の信頼性を示すコンフィデンス・インデックス(Confidence Index)が0.1以下の測定点は解析対象から削除した。
パーライト+フェライトの合計面積率(P+Fの割合)、フェライト面積率A(F面積率A)の測定においては、ナイタールエッチングによって組織を現出させ、光学顕微鏡にて組織観察を行い、倍率400倍にて5視野を撮影した。それらの写真を元に、画像解析によって、パーライト+フェライトの割合(合計面積率)、フェライト部の面積率Aを測定し、平均値(8個のサンプルの平均値)を算出した。
球状化焼鈍後の硬さの測定は、ビッカース硬度計を用いて、荷重1kgfで測定し、8個のサンプルの夫々で、5点ずつ測定し(合計40点)、その平均値(Hv)を求めた。また、各サンプルの5点の平均値を1つのサンプルの硬さの値として、8個のサンプルのうちの硬さの最大値Hv(max)と最小値Hv(min)を決定した。硬さの基準は、平均値で下記(2)式を満足し、且つ硬さの最大値Hv(max)と最小値Hv(min)の差△Hv[Hv(max)−Hv(min)]が5Hv以下のものを硬さのばらつき(長さ方向のばらつき)が抑制されていると判断した。
Hv≦88.4×Ceq2+86.0 …(2)
但し、Ceq2=[C]+0.2×[Si]+0.2×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。
上記表1に示した化学成分組成の鋼種のうち、鋼種A(本発明で規定する成分組成を満足する鋼)を用い、仕上げ加工温度、平均冷却速度を下記表2のように変化させて、前組織の異なるサンプルを夫々作製した(試験No.1〜18)。尚、表2の製造条件において、「冷却1」は第1段階の冷却(600〜660℃の温度範囲までの冷却、または660〜750℃までの冷却)を示し、「冷却2」は「冷却1」で660〜750℃までの冷却を行った後、600〜660℃の温度範囲までの冷却を示し、「冷却3」は最終段階の冷却を示している。
上記表1に示した鋼種B〜Tを用い、仕上げ加工温度、平均冷却速度を下記表4のように変化させて、前組織の異なるサンプルを夫々作製し(試験No.19〜43)、実施例1と同様に評価した。尚、球状化焼鈍は、サンプルを夫々真空封入し、大気炉にて、740℃×6時間保持(均熱)後、冷却速度10℃/時で650℃まで冷却し、放冷(15時間+昇温時間)する熱処理(通常の球状化処理)を行った。
Claims (6)
- C:0.05〜0.3%未満(質量%の意味。以下、化学成分組成について同じ。)、
Si:0.005〜0.5%、
Mn:0.2〜1.1%、
P :0.03%以下(0%を含まない)、
S :0.001〜0.03%、
Al:0.01〜0.1%、および
N :0.015%以下(0%を含まない)を夫々含有し、
残部が鉄および不可避不純物からなり、
鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が95面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、
且つ隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が5μm以上、15μm未満であることを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼。
Ae=(1.0−Ceq1)×96.75 …(1)
但し、Ceq1=[C]+0.1×[Si]+0.06×[Mn]であり、[C],[Si]および[Mn]は、夫々C,SiおよびMnの含有量(質量%)を示す。 - 更に他の元素として、
Cr:0.5%以下(0%を含まない)、
Cu:0.25%以下(0%を含まない)、
Ni:0.25%以下(0%を含まない)、
Mo:0.25%以下(0%を含まない)、および
B :0.01%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1に記載の冷間加工用機械構造用鋼。 - 更に他の元素として、
Ti:0.2%以下(0%を含まない)、
Nb:0.2%以下(0%を含まない)、および
V:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される1種以上を含有するものである請求項1または2に記載の冷間加工用機械構造用鋼。 - 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、750〜950℃の温度で仕上げ加工した後、5℃/秒以上の平均冷却速度で600〜660℃の温度範囲まで冷却し、その後、1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を製造するに当たり、750〜950℃の温度で仕上げ加工した後、20℃/秒以上の平均冷却速度で660〜750℃の温度範囲まで冷却し、その後、0.1〜0.5℃/秒の平均冷却速度で600〜660℃の温度範囲まで冷却し、更に1℃/秒以下の平均冷却速度で20秒以上冷却することを特徴とする冷間加工用機械構造用鋼の製造方法。
- 請求項1〜3のいずれかに記載の冷間加工用機械構造用鋼を用いて、線材または棒鋼を経て得られる機械構造用部品であり、長手方向における硬さのばらつき(最大値と最小値の差)が5Hv以下であることを特徴とする冷間加工用機械構造用部品。
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