JP2021017619A - 冷間鍛造用鋼材 - Google Patents

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Abstract

【課題】高い冷間鍛造性を有し、かつ、冷間鍛造後に時効硬化処理された場合、高い疲労強度及び高い低温靭性が得られる冷間鍛造用鋼材を提供する。【解決手段】本発明の実施の形態による冷間鍛造用鋼材は、質量%で、C:0.02〜0.13%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.20〜0.70%、P:0.035%以下、S:0.050%以下、Al:0.005〜0.050%、Cr:0.02〜0.30%、V:0.02〜0.45%未満、Ti:0.0005〜0.1000%、及び、N:0.003〜0.030%、を含有し、残部はFe及び不純物からなり、式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する。2.7Ti+6.5N−0.8V−0.9C≧0 (1)[V析出物]/[V含有量]≦0.50 (2)【選択図】図1

Description

本発明は、鋼材に関し、さらに詳しくは、冷間鍛造により成形された後、時効硬化処理されて製造される機械構造用部品の素材として用いられる冷間鍛造用鋼材に関する。
自動車部品、産業機械部品及び建設機械部品等に代表される機械構造用部品の素材として、構造用鋼鋼材が用いられている。構造用鋼鋼材はたとえば、機械構造用炭素鋼鋼材、機械構造用合金鋼鋼材等である。
これらの構造用鋼鋼材を用いて高い疲労強度を有する機械構造用部品を製造する場合、所望の部品形状に加工するまでは構造用鋼鋼材の強度を抑え、所望の部品形状に熱間鍛造した後、時効硬化処理を実施することにより部品の疲労強度を高める方法が採用されている。
熱間鍛造−時効硬化処理法により機械構造用部品を製造するための鋼はたとえば、特開2011−236452号公報(特許文献1)に提案されている。
特許文献1に記載された鋼は、質量%で、C:0.14〜0.35%、Si:0.05〜0.70%、Mn:1.10〜2.30%、S:0.003〜0.120%、Cu:0.01〜0.40%、Ni:0.01〜0.40%、Cr:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.30%、及び、V:0.05〜0.45%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、13[C]+8[Si]+10[Mn]+3[Cu]+3[Ni]+22[Mo]+11[V]≦30、5[C]+[Si]+2[Mn]+3[Cr]+2[Mo]+4[V]≦7.3、2.4≦0.3[C]+1.1[Mn]+0.2[Cu]+0.2[Ni]+1.2[Cr]+1.1[Mo]+0.2[V]≦3.1、2.5≦[C]+[Si]+4[Mo]+9[V]、[C]≧[Mo]/16+[V]/3を満たすことを特徴とするベイナイト鋼である。この鋼はベイナイト鋼であるため、被削性に優れる、と特許文献1には記載されている。特許文献1では、上記の構成を有する鋼に対して熱間鍛造を実施した後、切削加工で部品形状にする。その後、時効硬化処理を行う。これにより、高い強度が得られる、と特許文献1には記載されている。
しかしながら、特許文献1にも記載のとおり、熱間鍛造を実施する場合、熱間鍛造後の鋼材に対して切削加工を実施する。そこで、最近では、生産性の向上を目的として、熱間鍛造工程から冷間鍛造工程への切替が志向されている。熱間鍛造工程に代えて冷間鍛造工程を採用する場合、ニアネットシェイプ(最終形状とほぼ同じ形状)が可能となる。そのため、切削工程における加工量を削減できる。その結果、生産性が向上する。
しかしながら、冷間鍛造は、熱間鍛造と比較して、加工荷重が大きくなりやすい。そのため、冷間鍛造時における鋼材の加工性(以下、冷間鍛造性)を高める必要がある。具体的には、小さな荷重で所望の形状に加工でき、かつ、割れの発生が抑制されることが求められる。したがって、冷間鍛造工程後に時効硬化処理を実施する場合、その対象となる鋼材(以下、冷間鍛造用鋼材)には、優れた冷間鍛造性と、時効硬化処理後の優れた疲労強度とが求められる。
冷間鍛造用鋼材は、特開2017−002360号公報(特許文献2)、特開2012−229456号公報(特許文献3)、特開2000−273580号公報(特許文献4)、特開2008−163410号公報(特許文献5)、特開2009−293120号公報(特許文献6)、特開2013−007091号公報(特許文献7)、及び、国際公開第2010/090238号(特許文献8)に提案されている。
特許文献2の時効硬化用鋼材は、質量%で、C:0.02〜0.13%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.20〜0.70%、P:0.035%以下、S:0.050%以下、Al:0.005〜0.050%、Cr:0.02〜0.80%未満、V:0.02〜0.50%、及び、N:0.003〜0.030%を含有し、残部はFe及び不純物からなる化学組成を有し、[V析出物]/[V含有量]≦0.5を満たす。この時効硬化用鋼材は、上記構成を有することにより、冷間鍛造工程における高い冷間鍛造性を有し、高い疲労強度が得られる、と特許文献2には記載されている。
特許文献3の冷鍛高周波焼き入れ用鋼は、質量%で、C:0.005%以上0.10%未満、Si:0.30%以下、Mn:0.20〜1.20%、P:0.040%以下、S:0.050%以下、Al:0.050%以下、B:0.0002〜0.0050%、Ti:0.010〜0.080%及びN:0.0080%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなり、fn1=Ti−3.4N>0を満たす。この冷鍛高周波焼き入れ用鋼は、優れた冷間鍛造性及び強度特性を有する、と特許文献3には記載されている。
特許文献4の冷間圧造用鋼は、化学成分がmass%で、C:0.06〜0.50%、Si:0.05%以下、Mn:0.5〜1.0%以下、V:0.10〜0.60%を含み、初析フェライトとパーライトとの合計量が面積率で90%以上であり、かつ初析フェライト量が式f=100−125[C]+22.5[V]で示されるf値以上の面積%であり、初析フェライト中にVCが析出している。この冷間圧造用鋼は、圧延のままで冷間加工に供することができる、と特許文献4には記載されている。
特許文献5の高速冷間加工用鋼は、質量%で、C:0.03〜0.15%、Si:0.005〜0.6%、Mn:0.05〜2%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、及び、N:0.04%以下(0%を含まない)、を含有し、残部は鉄及び不可避的不純物からなり、鋼中の固溶窒素量が0.006%以上である。この高速冷間加工用鋼は、冷間加工性に優れる、と特許文献5には記載されている。
特許文献6の機械構造用鋼材は、質量%で、C:0.025%以下(0%を含まない)、Si:0.005〜0.4%、Mn:0.3〜1%、P:0.05%以下(0%を含まない)、S:0.05%以下(0%を含まない)、N:0.008〜0.025%、及び下記(1)式を満たし、残部は鉄及び不可避的不純物からなり、かつ固溶状態としてのN:0.007%以上であると共に、不可避的不純物としてのAlの含有量を0.005%以下(0%を含む)に抑制したものであり、鋼組織がフェライト単相組織であり、そのフェライトの平均結晶粒径が10〜200μmの範囲である。この機械構造用鋼材は、冷間加工性に優れる、と特許文献6には記載されている。
特許文献7の冷間加工用機械構造用鋼は、質量%で、C:0.05〜0.3%未満、Si:0.005〜0.5%、Mn:0.2〜1.1%、P:0.03%以下(0%を含まない)、S:0.001〜0.03%、Al:0.01〜0.1%、及びN:0.015%以下(0%を含まない)をそれぞれ含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなり、鋼の金属組織が、パーライトとフェライトを有し、全組織に対するパーライトとフェライトの合計面積率が95面積%以上であると共に、フェライトの面積率Aが、下記(1)式で表されるAe値との関係でA>Aeを満足し、かつ隣り合う2つの結晶粒の方位差が15°よりも大きい大角粒界で囲まれたbcc−Fe結晶粒の平均円相当直径が5μm以上、15μm未満である。この冷間加工用機械構造用鋼は、硬さばらつきを小さくできる、と特許文献7には記載されている。
特許文献8の時効硬化性鋼は、質量%で、C:0.025〜0.25%、Si:0.05〜0.50%、Mn:0.50〜1.8%、P:0.05%以下、S:0.10%以下、Cr:0.05〜0.6%、Al:0.06%以下、Ti:0.005〜0.20%、V:0.10〜0.60%及びN:0.012%以下を含有し、残部はFe及び不純物からなり、かつ、C/V≧0.20及びN/Ti≦0.60を満足する化学組成を有し、ベイナイトの面積率が50%以上の組織を有する。この時効硬化性鋼は、時効処理後に340MPa以上の疲労強度が得られる、と特許文献8には記載されている。
特開2011−236452号公報 特開2017−002360号公報 特開2012−229456号公報 特開2000−273580号公報 特開2008−163410号公報 特開2009−293120号公報 特開2013−007091号公報 国際公開第2010/090238号
ところで、機械構造用部品は、寒冷地で用いられる場合がある。そのため、機械構造用部品には、時効硬化処理後に高い疲労強度が得られることだけでなく、低温靭性に優れることも求められる。したがって、冷間鍛造用鋼材には、冷間鍛造工程における高い冷間鍛造性と、時効硬化処理後の高い疲労強度とだけでなく、低温靱性に優れることも求められる。
しかしながら、特許文献2〜特許文献8では、低温靭性について検討されていない。
本発明の目的は、高い冷間鍛造性を有し、かつ、冷間鍛造後に時効硬化処理された場合、高い疲労強度及び高い低温靭性が得られる冷間鍛造用鋼材を提供することである。
本発明の実施の形態による冷間鍛造用鋼材は、
質量%で、
C:0.02〜0.13%、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.20〜0.70%、
P:0.035%以下、
S:0.050%以下、
Al:0.005〜0.050%、
Cr:0.02〜0.30%、
V:0.02〜0.45%未満、
Ti:0.0005〜0.1000%、及び、
N:0.003〜0.030%、を含有し、
残部はFe及び不純物からなり、
式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する。
2.7Ti+6.5N−0.8V−0.9C≧0 (1)
[V析出物]/[V含有量]≦0.50 (2)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入され、式(2)中の[V析出物]はV析出物として析出したV含有量(質量%)を示し、[V含有量]は冷間鍛造用鋼材中のV含有量(質量%)を示す。
本発明の実施の形態による冷間鍛造用鋼材は、高い冷間鍛造性を有し、かつ、冷間鍛造後に時効硬化処理された場合、高い疲労強度及び高い低温靭性が得られる。
図1は、冷間鍛造用鋼材中のV含有量に対するV析出量の比fn2と、冷間鍛造荷重/耐久比との関係を示す図である。
本発明者らは、上述の課題を解決するために、種々の検討を行い、次の知見を得た。
冷間鍛造時に高い冷間鍛造性を有するためには、鋼材の硬さを低減し、鍛造荷重を低下させることが有効である。また、割れを抑えるため、鋼材のC含有量を低減することが効果的である。
冷間鍛造用鋼材の疲労強度を高めるためには、鋼材の耐久比(疲労強度/引張強度)を高めることが有効である。鋼材の耐久比を高めるためには、V析出物の析出を活用することが効果的である。本明細書では、V炭窒化物(V(C,N))、V炭化物(VC)及びV窒化物(VN)を総称して「V析出物」と定義する。鋼材に析出するV析出物のほとんどはV炭窒化物(V(C,N))である。しかしながら、V析出物の一部がVN、VCとして析出する場合もあり得る。VN、VCもV(C,N)と同様の効果を奏すると考えられる。したがって、本明細書では、「V析出物」は、V(C,N)、VC及びVNを含む。
冷間鍛造後に時効硬化処理される冷間鍛造用鋼材において、鋼材中のV析出物の析出を抑えて鋼材の冷間鍛造性を維持し、冷間鍛造後の時効硬化処理によりV析出物を析出させて疲労強度を高める。冷間鍛造性を保持したまま、V析出物を析出させるためには、冷間鍛造後にAc3変態点以下に昇温することで、時効析出させることが有効である。
高い冷間鍛造性を得るためにC含有量を低減し、冷間鍛造後に時効硬化処理を実施しても、鋼材の化学組成が適切であれば、充分な時効析出が得られ、鋼材の耐久比が高まる。
さらに、上述のとおり、冷間鍛造用鋼材には低温靱性も求められる。
冷間鍛造用鋼材の低温靭性を高めるために、本発明者らはまず、Cr含有量を高めることを考えた。Cr含有量を高めることは、常温靭性を高める場合には周知の技術である。Crはパーライトのラメラー間隔を小さくして、常温靭性を高める。しかしながら、本発明の実施の形態のCr以外の化学組成を満たす冷間鍛造用鋼材においては、Crを0.30%を超えて含有させた場合、低温靭性が低下する場合があった。本発明者らは、本発明の実施の形態のCr以外の化学組成を満たす冷間鍛造用鋼材において、Crを0.30%を超えて含有させた場合、低温靭性が低下する理由を次のとおりと考えた。
Crを0.30%を超えて含有させれば、常温でのシャルピー衝撃値を高めることができる。一方で、Crはセメンタイトに固溶しやすく、Cr含有量が0.30%を超えれば、Crを固溶したセメンタイト((Fe,Cr)xC)の生成が促進される。この場合、ミクロ組織において、パーライト量及びベイナイト量が増大する。その結果、パーライト及び/又はベイナイト組織が粗大化する場合がある。パーライト及び/又はベイナイト組織が粗大化すれば、フェライトがパーライト及び/又はベイナイト組織の周りを取り囲み、ネットワークフェライトを形成する。ネットワークフェライトは低温靭性を低下させる。したがって、Cr含有量を高める方法を、低温靭性を高める方法に単純に採用することはできないことがわかった。
そこで本発明者らは次に、冷間鍛造用鋼材の低温靭性を高めるために、Cr含有量を高める方法に代えて、冷間鍛造用鋼材のミクロ組織において、旧オーステナイト粒を微細化することを考えた。旧オーステナイト粒を微細化すれば、上記のパーライト及び/又はベイナイト組織の粗大化を抑制できるからである。旧オーステナイト粒を微細化する技術として、ピン止め粒子を分散させる技術がある。ピン止め粒子は、熱間加工中の素材の段階で析出し、旧オーステナイト粒の粒成長を抑制する。ピン止め粒子はたとえば、Alを含有する炭窒化物等の析出物である。ただし、本明細書において、ピン止め粒子はV析出物を除く。ピン止め粒子を分散させれば、冷間鍛造用鋼材の低温靭性を高めることができる。
しかしながら、ピン止め粒子を分散させると、冷間鍛造用鋼材の低温靭性は高まるものの、疲労強度が低下する場合があった。ピン止め粒子を分散させると、冷間鍛造後に時効硬化処理しても疲労強度が低下する原因について、本発明者らが調査したところ、以下のことが分かった。上記のとおり、ピン止め粒子は炭窒化物等の析出物である。ピン止め粒子が析出物として生成すると、C及びNがピン止め粒子として用いられる。C及びNがピン止め粒子として用いられれば、時効硬化処理時にV析出物として活用されるべきC及びNが低減する。そのため、時効硬化処理時においてV析出物が十分に析出しない。その結果、冷間鍛造用鋼材の低温靭性は高まるものの、疲労強度が低下する。
ところが、本発明者らが種々調査及び検討を重ねた結果、ピン止め粒子がTi析出物である場合は、冷間鍛造後に時効硬化処理されたときに、冷間鍛造用鋼材の低温靭性が高まり、かつ、冷間鍛造後に時効硬化処理された場合に、冷間鍛造用鋼材の疲労強度が高まることがわかった。この理由は定かではないが、次の理由が考えられる。Ti析出物は、ピン止め粒子として旧オーステナイト粒を微細化する効果だけでなく、V析出物と同様に、時効硬化処理後の耐久比を高める効果を有すると考えられる。一方で、Ti析出物以外のピン止め粒子は、時効硬化処理後の耐久比を高める効果を有しないと考えられる。ここで、本明細書において、Ti析出物とは、Ti炭窒化物(Ti(C,N))、Ti炭化物(TiC)及びTi窒化物(TiN)である。
Ti析出物の中でも、Ti窒化物(TiN)をピン止め粒子として活用した方がV析出物の時効効果能を妨げないことがわかった。そこで本発明者らは、Ti炭化物(TiC)よりもTi窒化物(TiN)を多く析出させる条件について検討した。その結果、式(1)を見出した。本発明の実施の形態による化学組成において、式(1)を満たせば、VによるNの消費、及び、CによるTiの消費を抑制して、Ti窒化物(TiN)を多く析出させることができる。その結果、旧オーステナイト粒が微細化され、鋼材の低温靭性が高まる。
2.7Ti+6.5N−0.8V−0.9C≧0 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
以上の知見に基づいて完成した本発明の実施の形態による冷間鍛造用鋼材の要旨は次のとおりである。
[1]の冷間鍛造用鋼材は、
質量%で、
C:0.02〜0.13%、
Si:0.01〜0.50%、
Mn:0.20〜0.70%、
P:0.035%以下、
S:0.050%以下、
Al:0.005〜0.050%、
Cr:0.02〜0.30%、
V:0.02〜0.45%未満、
Ti:0.0005〜0.1000%、及び、
N:0.003〜0.030%、を含有し、
残部はFe及び不純物からなり、
式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する。
2.7Ti+6.5N−0.8V−0.9C≧0 (1)
[V析出物]/[V含有量]≦0.50 (2)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入され、式(2)中の[V析出物]はV析出物として析出したV含有量(質量%)を示し、[V含有量]は冷間鍛造用鋼材中のV含有量(質量%)を示す。
[2]の冷間鍛造用鋼材は、
[1]に記載の冷間鍛造用鋼材であって、
前記化学組成は、さらに、
Cu:0.20%以下、
Ni:0.20%以下、及び、
Mo:0.20%以下、
からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。
[3]の冷間鍛造用鋼材は、さらに、
[1]又は[2]に記載の冷間鍛造用鋼材であって、
前記化学組成は、
Ca:0.005%以下、
Bi:0.10%以下、及び、
Pb:0.09%以下、
からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する。
[4]の冷間鍛造用鋼材は、さらに、
[1]〜[3]のいずれか1項に記載の冷間鍛造用鋼材であって、
前記化学組成は、
Nb:0.10%以下、及び、
B:0.005%以下、
からなる群から選択される1種以上を含有する。
本発明の実施の形態による冷間鍛造用鋼材は、高い冷間鍛造性を有し、かつ、冷間鍛造後に時効硬化処理された場合、高い疲労強度及び高い低温靭性が得られる。本発明の実施の形態による冷間鍛造用鋼材において、高い低温靭性とはたとえば、JIS3号Uノッチシャルピー試験片を用いた、JIS Z2242(2005)に準拠した0℃でのシャルピー衝撃試験において、150J/cm2以上の値を得ることである。
以下、本発明の冷間鍛造用鋼材について詳しく説明する。なお、以下の説明で、各元素の含有量の「%」は、特に断りがない限り、「質量%」を意味する。
[化学組成]
本発明の冷間鍛造用鋼材は、次の元素を含有する化学組成を有する。
C:0.02〜0.13%
炭素(C)は、機械構造部品としての鋼材の強度を高める。C含有量が0.02%未満であれば、時効硬化処理後の鋼材において、十分な疲労強度が得られない。つまり最終製品の強度が不足する。一方、C含有量が0.13%を超えれば、冷間鍛造時に割れが発生する。つまり鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、C含有量は0.02〜0.13%である。Cの含有量の好ましい下限は、0.03%である。C含有量の好ましい上限は、0.10%未満である。
Si:0.01〜0.50%
珪素(Si)は、鋼を脱酸する。Si含有量が0.01%未満であれば、この効果が得られない。一方、Siは鋼材中のフェライトを固溶強化する。そのため、Si含有量が0.50%を超えれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Si含有量は0.01〜0.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.02%である。Si含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%である。
Mn:0.20〜0.70%
マンガン(Mn)は、機械構造部品としての鋼材の強度を高める。Mn含有量が0.20%未満であれば、最終製品の強度が不足する。一方、Mn含有量が0.70%を超えれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Mn含有量は0.20〜0.70%である。Mn含有量の好ましい下限は、0.25%である。Mn含有量の好ましい上限は0.65%である。
P:0.035%以下
燐(P)は、不純物であり、鋼材中に不可避的に含有される。つまり、P含有量の下限は0%超である。Pは鋼中で偏析しやすく、局所的な延性低下の原因となる。P含有量が0.035%を超えれば、局所的な延性低下が発生する。したがって、P含有量は0.035%以下である。P含有量はなるべく低い方が好ましい。したがって、P含有量の下限は特に限定されない。しかしながら、P含有量が0.002%であれば、上記の局所的な靭性低下は発生しにくい。さらに、実際の操業において、P含有量を0.002%未満に低下するには製造コストが過剰に高くなる。したがって、P含有量の好ましい下限は0.002%である。
S:0.050%以下
硫黄(S)は、鋼中に不可避的に含有される。つまり、S含有量の下限は0%超である。Sは鋼材の被削性を高める。しかしながら、S含有量が0.050%を超えれば、鋼中に粗大な硫化物が生成する。粗大な硫化物は、冷間鍛造時の割れ発生の原因となる。粗大な硫化物はさらに低温靱性を低下させる。したがって、S含有量は0.050%以下である。S含有量の好ましい上限は、0.045%である。冷間鍛造用鋼材の被削性を有効に高める場合、S含有量の好ましい下限は0.010%である。
Al:0.005〜0.050%
アルミニウム(Al)は鋼を脱酸する。Al含有量が0.005%未満であれば、その効果が得られない。一方、Al含有量が0.050%を超えれば、鋼中に粗大なAl系介在物が生成し、冷間鍛造時の割れ発生の原因となる。したがって、Al含有量は0.005〜0.050%である。Al含有量の好ましい下限は、0.006%である。Al含有量の好ましい上限は、0.045%である。なお、本発明の実施の形態におけるAl含有量とは、鋼中の全Alの含有量を意味する。
Cr:0.02〜0.30%
クロム(Cr)は、固溶強化元素として時効硬化処理時に鋼材の軟化を抑制する。その結果、時効処理後の鋼材の疲労強度が高まる。Cr含有量が0.02%未満であれば、この効果が得られない。一方、Crは炭化物生成元素であるから、Cr含有量が0.30%を超えると、鋼中に安定なCr炭化物が生成する。Cr炭化物は、V炭窒化物及びTi炭窒化物の析出を阻害する。その結果、鋼材の低温靭性が低下する。したがって、Cr含有量は0.02〜0.30%である。Cr含有量の好ましい下限は、0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。Cr含有量の好ましい上限は0.28%未満であり、さらに好ましくは、0.25%である。
V:0.02%〜0.45%未満
バナジウム(V)は、冷間鍛造後の鋼材に対して時効硬化処理を実施することにより、炭窒化物として析出する。その結果、鋼材の耐久比が高まる。V含有量が0.02%未満であれば、この効果が得られない。一方、V含有量が0.45%以上では、冷間鍛造前の鋼材の強度が高くなりすぎて、鋼材の冷間鍛造性が低下する。V含有量が0.45%以上ではさらに、低温靱性が低下する。したがって、V含有量は0.02〜0.45%未満である。V含有量の好ましい下限は、0.03%である。V含有量の好ましい上限は0.40%である。
Ti:0.0005〜0.1000%
チタン(Ti)は、鋼材の低温靱性を高める。Ti含有量が0.0005%未満であれば、この効果が得られない。一方、Ti含有量が0.1000%を超えれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Ti含有量は0.0005〜0.1000%である。Ti含有量の好ましい下限は0.0050%であり、さらに好ましくは0.0080%である。Ti含有量の好ましい上限は、0.0600%である。
N:0.003〜0.030%
窒素(N)は、時効硬化処理によりVと結合してV炭窒化物を析出する。その結果、鋼材の耐久比が高まる。N含有量が0.003%未満であれば、この効果が得られない。一方、N含有量が0.030%を超えれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、N含有量は0.003〜0.030%である。N含有量の好ましい下限は0.003%超であり、さらに好ましくは0.005%である。N含有量の好ましい上限は、0.025%である。
本発明による冷間鍛造用鋼材の化学組成の残部はFe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、本発明の冷間鍛造用鋼材を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は製造環境などから混入されるものであって、本発明の冷間鍛造用鋼材の冷間鍛造性及び疲労強度に顕著な悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
[式(1)について]
上記の化学組成を有する本発明の冷間鍛造用鋼材はさらに、式(1)を満たす。
2.7Ti+6.5N−0.8V−0.9C≧0 (1)
ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
fn1=2.7Ti+6.5N−0.8V−0.9Cと定義する。fn1は、鋼材の疲労強度と低温靭性との関係を示す指標である。fn1が正の値であれば、疲労強度を低下させることなく、低温靭性を高めることができる。
Ti析出物をピン止め粒子として用いれば、冷間鍛造用鋼材の疲労強度を低下させることなく、冷間鍛造用鋼材の低温靭性を高めることができる。ピン止め粒子は、旧オーステナイト粒の粒成長を抑制する。旧オーステナイト粒を微細化すれば、上記のパーライト及び/又はベイナイト組織の粗大化を抑制できる。その結果、鋼材の低温靭性が高まる。
Ti析出物以外のピン止め粒子が析出物として生成すると、V析出物として活用されるべきC及びNが低減する。そのため、時効硬化処理時においてV析出物が十分に析出しない。その結果、冷間鍛造用鋼材の低温靭性は高まるものの、疲労強度が低下する。
しかしながら、ピン止め粒子がTi析出物である場合、冷間鍛造用鋼材の疲労強度を低下させることなく、冷間鍛造用鋼材の低温靭性を高めることができる。この理由は定かではないが、次の理由が考えられる。Ti析出物は、ピン止め粒子として旧オーステナイト粒を微細化する効果だけでなく、V析出物と同様に、時効硬化処理後の耐久比を高める効果を有すると考えられる。一方で、Ti析出物以外のピン止め粒子は、時効硬化処理後の耐久比を高める効果を有しないと考えられる。
本明細書において、Ti析出物とは、Ti炭窒化物(Ti(C,N))、Ti炭化物(TiC)及びTi窒化物(TiN)である。Ti析出物の中でも、Ti窒化物(TiN)が最もV析出物の時効効果能を妨げない。本発明の実施の形態の化学組成において、fn1が式(1)を満たせば、VによるNの消費、及び、CによるTiの消費を抑制して、V析出物の析出を妨げることなくTi窒化物(TiN)を多く析出させることができる。その結果、旧オーステナイト粒が微細化され、鋼材の低温靭性が高まる。
fn1が負の値であれば、Ti析出物、特にTi窒化物(TiN)が十分に析出せず、低温靭性が低下する。fn1の好ましい下限は0.02であり、さらに好ましくは0.10であり、さらに好ましくは0.15である。fn2の好ましい上限は1.20であり、さらに好ましくは1.00である。
[式(2)について]
上記の化学組成を有する本発明の冷間鍛造用鋼材はさらに、式(2)を満たす。
[V析出物]/[V含有量]≦0.50 (2)
ここで、式(2)中の[V析出物]は、冷間鍛造後時効硬化処理鋼材において、V析出物として析出したV含有量(鋼材の化学組成を100%としたときの質量%)を示す。[V含有量]は、冷間鍛造用鋼材の化学組成におけるV含有量(質量%)(つまり、鋼材全体でのV含有量)を示す。本明細書において、V析出物として析出したV含有量(鋼材の化学組成を100%としたときの質量%)を「V析出量」ともいう。
V析出量は、次の抽出残渣分析法により求められる。10mm×10mm×10mmの試料を、鋼材の中心から半径×0.5の位置(R/2位置)から切り出し、抽出残渣分析用試料とする。10%AA系(テトラメチルアンモニウムクロライド、アセチルアセトン、メタノールを1:10:100で混合した液体)溶液中で、試料を定電流電気分解する。
より具体的には、まず、抽出残渣用試料に対して予備電気分解を行う。これにより、抽出残渣用試料の表面の付着物を除去する。予備電気分解の条件は、電流:1000mA、時間:28分、室温(25℃)とする。その後、抽出残渣用試料に対してアルコール中で超音波洗浄を実施する。これにより、抽出残渣用試料の表面の付着物を除去する。付着物を除去された抽出残渣用試料の質量(電気分解前の試料の質量)を測定する。
次に、抽出残渣用試料に対して電気分解を実施する。電気分解の条件は、電流:173mA、時間:142分、室温(25℃)とする。電気分解された抽出残渣用試料を取り出す。取り出された抽出残渣用試料に対して、アルコール中で超音波洗浄を実施する。これにより、抽出残渣用試料の表面の付着物(残渣)を除去する。電気分解後の溶液、及び、超音波洗浄に用いた溶液を、フィルターで吸引ろ過する。フィルターのメッシュサイズは0.2μmとする。これにより、残渣を採取する。
付着物(残渣)を除去された抽出残渣用試料の質量(電気分解後の抽出残渣用試料の質量)を測定する。そして電気分解前後の抽出残渣用試料の質量の測定値の差から、「電気分解された抽出残渣用試料の質量」を求める。
上記のフィルター上に採取された残渣を、シャーレに移して乾燥させる。乾燥した残渣の質量を測定する。その後、JIS G1258(2014)に準拠して、ICP発光分析装置(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置)により残渣を分析して、「残渣中のVの質量」を求める。
求めた「残渣中のVの質量」を「電気分解された抽出残渣用試料の質量」で除して、百分率表示したものを、「V析出量」(質量%)と定義する。
式(2)の根拠を説明する。fn2を次のとおり定義する。
fn2=[V析出物]/[V含有量]
要するに、fn2は式(2)の左辺である。図1は、fn2と、冷間鍛造荷重/耐久比との関係を示す図である。図1は次の試験により得られた。
C:0.05〜0.12%、Si:0.05%、Mn:0.45%、P:0.010%、S:0.010%、Al:0.030%、Cr:0.15%、V:0.09〜0.25%、Ti:0.015%及びN:0.005%を含有し、残部はFeを主とする複数の鋼材を用意した。用意した鋼材に対して、熱間鍛造を実施して、様々なV析出量を有する供試材を製造した。各供試材について、上記方法により、V析出量を求めた。熱間鍛造後の供試材に対して、冷間鍛造を実施した。冷間鍛造後の各供試材からφ14×21mmの円柱状試験片を採取した。円柱状試験片を用いて、冷間鍛造荷重を測定した。冷間鍛造荷重は、冷間鍛造において、加工率が50%の時(50%加工時)の鍛造荷重(ton)とした。冷間鍛造後の各供試材に対して、時効硬化処理を実施した。時効硬化処理の条件は、Ac3変態点以下で30〜60分保持とした。各供試材を用いて、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験、及び、JIS Z2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ試験を実施した。得られた引張強度及び疲労強度から、各供試材の耐久比を求めた。
得られたV析出量及び各供試材のV含有量に基づいて、fn2を求めた。さらに、得られた冷間鍛造荷重及び耐久比に基づいて、冷間鍛造荷重/耐久比を求め、図1を作成した。
図1を参照して、fn2が0.50を超えれば、冷間鍛造荷重/耐久比は30.0ton以上である。一方、fn2が0.50以下であれば、冷間鍛造荷重/耐久比は30.0ton未満に低下する。
以上のとおり、fn2=0.50を境に、冷間鍛造荷重/耐久比が低下する。したがって、fnが式(2)を満たせば、冷間鍛造荷重の上昇を抑えることができ、優れた冷間鍛造性が得られる。
fn2が0.50を超えると、冷間鍛造後に時効硬化するために十分な固溶Vが得られない。つまり、冷間鍛造前にV析出物が既に析出していることを意味する。この場合、十分な冷間鍛造性が得られない。一方、fn2は0.50より小さくてもよく、0であってもよい。しかしながら、工業的な限界に基づけば、fn2の下限は0.20である。また、fnの好ましい上限は0.45である。
[任意元素について]
上記冷間鍛造用鋼材の化学組成はさらに、Cu、Ni及びMoからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。Cu、Ni及びMoは任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Cu、Ni及びMo含有量はそれぞれ、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下、及び、Mo:0.20%以下である。
Cu:0.20%以下
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0%であってもよい。Cuが含有される場合、つまり、Cu含有量が0%超の場合、Cuは鋼材の疲労強度を高める。しかしながら、Cu含有量が高すぎれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Cuが含有されない場合、Cu含有量は0%である。Cuが含有される場合、Cu含有量は0.20%以下、つまり0超〜0.20%である。言い換えれば、Cu含有量は、0〜0.20%である。Cu含有量の好ましい下限は0.02%である。Cu含有量の好ましい上限は0.15%である。
Ni:0.20%以下
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0%であってもよい。Niが含有される場合、つまり、Ni含有量が0%超の場合、Niは鋼材の疲労強度を高める。しかしながら、Ni含有量が高すぎれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Niが含有されない場合、Ni含有量は0%である。Niが含有される場合、Ni含有量は0.20%以下、つまり0超〜0.20%である。言い換えれば、Ni含有量は、0〜0.20%である。Ni含有量の好ましい下限は0.02%である。Ni含有量の好ましい上限は0.15%である。
Mo:0.20%以下
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0%であってもよい。Moが含有される場合、つまり、Mo含有量が0%超の場合、Moは鋼材の疲労強度を高める。しかしながら、Mo含有量が高すぎれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Moが含有されない場合、Mo含有量は0%である。Moが含有される場合、Mo含有量は0.20%以下、つまり0超〜0.20%である。言い換えれば、Mo含有量は、0〜0.20%である。Mo含有量の好ましい下限は0.02%である。Mo含有量の好ましい上限は0.15%である。
上記冷間鍛造用鋼材の化学組成はさらに、Ca、Bi及びPbからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。Ca、Bi及びPbは任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Ca、Bi及びPb含有量はそれぞれ、Ca:0.005%以下、Bi:0.10%以下、及び、Pb:0.09%以下である。
Ca:0.005%以下
カルシウム(Ca)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ca含有量は0%であってもよい。Caが含有される場合、つまり、Ca含有量が0%超の場合、Caは鋼材の被削性を高める。しかしながら、Ca含有量が高すぎれば、粗大な析出物により鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Caが含有されない場合、Ca含有量は0%である。Caが含有される場合、Ca含有量は0.005%以下、つまり0超〜0.005%である。言い換えれば、Ca含有量は、0〜0.005%である。Ca含有量の好ましい下限は0.001%であり、さらに好ましくは0.002%である。Ca含有量の好ましい上限は0.0045%であり、さらに好ましくは0.004%である。
Bi:0.10%以下
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0%であってもよい。Biが含有される場合、つまり、Bi含有量が0%超の場合、Biは鋼材の被削性を高める。しかしながら、Bi含有量が高すぎれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Biが含有されない場合、Bi含有量は0%である。Biが含有される場合、Bi含有量は0.10%以下、つまり0超〜0.10%である。言い換えれば、Bi含有量は、0〜0.10%である。Bi含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Bi含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.06%である。
Pb:0.09%以下
鉛(Pb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Pb含有量は0%であってもよい。Pbが含有される場合、つまり、Pb含有量が0%超の場合、Pbは鋼材の被削性を高める。しかしながら、Pb含有量が高すぎれば、鋼材の耐久比が低下する。したがって、Pbが含有されない場合、Pb含有量は0%である。Pbが含有される場合、Pb含有量は0.09%以下、つまり0超〜0.09%である。言い換えれば、Pb含有量は、0〜0.09%である。Pb含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.04%である。Pb含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.06%である。
上記冷間鍛造用鋼材の化学組成はさらに、Nb及びBからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。Nb及びBは任意元素であり、含有されなくてもよい。含有される場合、Nb及びB含有量はそれぞれ、Nb:0.10%以下、及び、B:0.005%以下である。
Nb:0.10%以下
ニオブ(Nb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Nb含有量は0%であってもよい。Nbが含有される場合、つまり、Nb含有量が0%超の場合、Nbは鋼材の疲労強度を高める。しかしながら、Nb含有量が高すぎれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Nbが含有されない場合、Nb含有量は0%である。Nbが含有される場合、Nb含有量は0.10%以下、つまり0超〜0.10%である。言い換えれば、Nb含有量は、0〜0.10%である。Nb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。Nb含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.06%であり、さらに好ましくは0.05%である。
B:0.005%以下
ボロン(B)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、B含有量は0%であってもよい。Bが含有される場合、つまり、B含有量が0%超の場合、Bは鋼材の疲労強度を高める。しかしながら、B含有量が高すぎても、その効果が飽和する。したがって、Bが含有されない場合、B含有量は0%である。Bが含有される場合、B含有量は0.005%以下、つまり0超〜0.005%である。言い換えれば、B含有量は、0〜0.005%である。B含有量の好ましい下限は0.001%である。B含有量の好ましい上限は0.004%であり、さらに好ましくは0.003%である。
[ミクロ組織]
本発明の冷間鍛造用鋼材の組織は、好ましくはフェライト、パーライト及び/又はベイナイトを含有する。
より具体的には、ミクロ組織において、フェライト及びパーライトの総面積率は95%以上であるのが好ましい。フェライト及びパーライトの総面積率が95%以上であれば、鋼材の冷間鍛造性が高まる。ベイナイト及びマルテンサイトは、フェライト及びパーライトと比較して冷間変形能が低い。そのため、ミクロ組織において、ベイナイト及びマルテンサイトの総面積率は5%以下であるのが好ましい。ベイナイト及びマルテンサイトの総面積率が5%以下であれば、冷間鍛造時の割れの発生を抑制できる。
[組織の特定及び面積率の測定方法]
組織中のフェライト面積率、パーライト面積率、及びベイナイト面積率は次の方法で測定する。冷間鍛造用鋼材の中心部からサンプルを採取する。鋼材が棒鋼又は線材の場合、中心軸を含む部分から試料を採取する。採取された試料表面のうち、鋼材の圧延方向に垂直な面を観察面とする。
採取されたサンプルの観察面を、コロイダルシリカ研磨剤で30〜60分研磨する。研磨された観察面をEBSD−OIM(商標)(Electron Back Scatter Diffraction Pattern−Orientation Image
Microscopy)を用いて解析し、冷間鍛造用鋼材の横断面の中央部を中心とする200μm(軸方向)×500μm(径方向)の観察視野における初析フェライトの面積率(%)を求める。EBSD−OIMの観察倍率は400倍とする。測定ステップは0.3μmとする。
得られた方位測定結果を解析し、隣り合う測定点の方位差が15°を超えた位置を結晶粒界とする15°大角粒界マップを作成する。ここで、15°は大角粒界(high angle grain boundary)の閾値であり、一般的に結晶粒界として認識されている。作成した15°大角粒界マップに基づき、結晶粒界に囲まれた領域を結晶粒として、結晶粒内にフェライト粒として方位の特定ができない領域、すなわちセメンタイトの領域が認められる粒を、セメンタイトの形状が層状であればパーライト粒と定義する。セメンタイトの形状が粒状であればベイナイト又はマルテンサイト粒と定義する。さらに、セメンタイトの形状が粒状である粒について、微細なラス状のフェライトから構成されている粒をマルテンサイト粒と定義し、それ以外をベイナイト粒と定義する。一方、粒内がすべてフェライトとして方位の特定がなされた粒をフェライト粒と定義する。上記定義に基づき、個々の結晶粒の面積をそれぞれ求める。観察視野全体に対する個々の結晶粒の面積の割合を、それぞれの面積率とする。
[製造方法]
本発明の冷間鍛造用鋼材の製造方法の一例を説明する。本例では、冷間鍛造用鋼材として、棒鋼又は線材(以下、棒線という)を製造する例を説明する。なお、本発明の冷間鍛造用鋼材は、下記製造方法に限定されない。
本冷間鍛造用鋼材の製造方法は、素材を準備する工程(準備工程)と、素材を熱間加工する工程(熱間加工工程)とを備える。以下、各工程について詳述する。
[準備工程]
上記の化学組成を有する溶鋼を製造する。溶鋼を用いて素材を準備する。たとえば、上述の化学組成を有する溶鋼を、転炉及び電気炉等を用いて製造する。溶鋼を用いて連続鋳造法により鋳片を製造する。又は、溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。
[熱間加工工程]
準備された素材に対して熱間加工を実施して、冷間鍛造用鋼材を製造する。
熱間加工として、熱間圧延を実施する場合、たとえば、次の方法がある。熱間圧延では、素材を粗圧延してビレットにする粗圧延工程と、ビレットを仕上げ圧延して冷間鍛造用鋼材とする仕上げ圧延工程とを含む。粗圧延工程はたとえば、次の工程を実施する。素材(鋳片、インゴット)を加熱後、分塊圧延機を用いて分塊圧延する。必要に応じて、分塊圧延後に連続圧延機でさらに圧延して、ビレットを製造する。連続圧延機では、水平ロールスタンド、垂直ロールスタンドが交互に一列に配列されており、各スタンドの圧延ロールに形成された孔型を用いて素材を圧延して、ビレットにする。なお、連続鋳造法により直接ビレットを製造してもよい。
仕上げ圧延工程はたとえば、次の工程を実施する。粗圧延工程にて製造されたビレットを加熱炉に装入して加熱する。加熱されたビレットを用いて、仕上げ圧延機列で仕上げ圧延(熱間圧延)を実施して所定の径の棒線にする。仕上げ圧延機列は、一列に配列された複数のスタンドを含む。各スタンドは、パスライン周りに配置された複数のロールを含む。各スタンドの圧延ロールに形成された孔型を用いてビレットを圧延して、鋼材(棒線)を製造する。
なお、熱間加工工程は熱間圧延に限定されない。熱間加工工程では、上述の熱間圧延に代えて、熱間鍛造を実施してもよいし、熱間押出を実施してもよい。
[加熱温度について]
熱間加工工程において、最終の熱間加工を実施する直前の鋼材の加熱温度は特に限定されない。加熱温度はたとえば、1000〜1300℃である。たとえば、熱間圧延工程が粗圧延工程と仕上げ圧延工程とを含む場合、粗圧延工程後であって仕上げ圧延工程前の加熱温度が1000〜1300℃である。
[最終圧延温度について]
熱間加工工程において、最後の圧下時の鋼材温度を最終圧延温度(℃)と定義する。熱間圧延工程が粗圧延工程と仕上げ圧延工程とを含む場合、最終圧延温度は、仕上げ圧延工程での仕上げ圧延機列で最後に圧下をするスタンドの入側での鋼材温度(鋼材の表面温度)を意味する。最終圧延温度は900℃以上である。仕上げ温度の好ましい上限は1080℃であり、さらに好ましくは1050℃である。
最終圧延温度を900℃以上とすることにより、熱間加工中においてV析出物を十分に固溶することができる。そのため、その他の条件を満たすことを前提として、式(2)が満たされる。
熱間加工工程の加熱時間は、V析出物を十分に固溶するためには長いほど好ましい。しかしながら、熱間加工工程の加熱時間が長すぎると、Ti析出物の粗大化、オーステナイト粒が粗大化する。オーステナイト粒が粗大化すれば、冷却後のネットワークフェライトが生成し、低温靱性が低下する。そのため、加熱時間の好ましい下限は、15分であることが好ましい。加熱時間が15分以上であれば、V析出物を十分に固溶させることができる。加熱時間の好ましい上限は、3時間である。加熱時間が3時間以下であれば、低温靱性の低下を抑制できる。
[冷却速度について]
熱間加工工程において、熱間加工後の冷却は好ましくは放冷である。熱間加工後の冷却速度は、たとえば0.5〜10.0℃/sである。ここで、熱間加工後の冷却速度は、次のとおり定義される。熱間加工完了後において、鋼材温度が、仕上げ温度から200℃に至るまでの平均の冷却速度を、熱間加工後の冷却速度(℃/s)と定義する。
熱間加工後の冷却速度が0.5℃/s以上であれば、V析出物の析出を抑制して、式(2)を満たしやすくなる。
一方、熱間加工後の冷却速度が10.0℃/s以下であれば、組織中にパーライト、ベイナイト、マルテンサイトといった硬質組織が生成するのを抑制することができる。また、組織中のマルテンサイト率が5%を超える。熱間加工後の冷却速度が0.5〜10.0℃/sであれば、フェライト面積率を95%としやすく、さらに、式(2)を満たしやすくなる。
以上の製造方法により冷間鍛造用鋼材を製造する。上記のとおり、冷間鍛造用鋼材の製造方法はこの例に限定されず、他の製造方法により本発明の冷間鍛造用鋼材を製造してもよい。
[冷間鍛造部品の製造方法]
上記の冷間鍛造用鋼材を用いた冷間鍛造部品の製造方法の一例を説明する。冷間鍛造部品の製造方法は、冷間鍛造工程、時効硬化処理工程、及び、切削加工工程を含む。以下、それぞれの工程について説明する。
[冷間鍛造工程]
冷間鍛造用鋼材を用いて、周知の方法で冷間鍛造を実施して、中間品を製造する。冷間鍛造用鋼材が棒線の場合、冷間鍛造工程前に、伸線加工工程を実施してもよい。伸線加工は、一次伸線のみであってもよいし、二次伸線等、複数回の伸線加工を実施してもよい。
[時効硬化処理工程]
中間品に対して、時効硬化処理を実施する。時効硬化処理での処理温度(℃)、処理温度での保持時間(分)は次のとおりである。
処理温度:200℃〜Ac3
Ac3点(℃)は、式(3)で定義される。
Ac3=−230×√C+44.7×Si+104×V+31.5×Mo+910 (2)
ここで、式(3)中の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入される。
時効硬化処理温度が200℃以上であれば、十分なV析出物が析出する。その結果、さらに高い耐久比が得られる。時効硬化処理温度がAc3点以下であれば、V析出物の粗大化が抑制される。その結果、さらに高い耐久比が得られる。したがって、時効硬化処理温度は200℃〜Ac3点であるのが好ましい。
保持時間:30分以上
上記処理温度での保持時間を30分以上とする。保持時間が30分以上であれば、V析出物が十分に析出する。その結果、さらに高い耐久比が得られる。一方、保持時間が長くても時効硬化は生じるものの、製造コストが高くなる。したがって、保持時間の好ましい上限は180分である。
[切削加工工程]
時効硬化処理工程後の中間品に対して、切削加工を実施して、冷間鍛造部品を製造する。製造された冷間鍛造部品は、時効硬化処理により高い引張強度、疲労強度、及び、耐久比を有する。本発明による冷間鍛造用鋼材を利用することにより、従来の製造工程(熱間鍛造工程−切削加工工程)に代えて、上記の製造工程(冷間鍛造工程−時効硬化処理工程−切削加工工程)を実施できる。そのため、生産性を高めることができる。
以上のとおり、本発明による冷間鍛造用鋼材は、高い冷間鍛造性を有し、かつ、冷間鍛造後に時効硬化処理された場合、高い疲労強度及び高い耐久比だけでなく、高い低温靭性も得られる。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
種々の冷間鍛造用鋼材を製造して、冷間鍛造性と、時効硬化処理後の耐久比とを評価した。
表1に示す化学組成を有する試験番号1〜試験番号46の溶鋼を真空溶解により製造した。溶鋼を用いて150kgのインゴットを製造した。
Figure 2021017619
製造されたインゴットに対して、熱間加工を模擬した熱間鍛造を実施して、直径22mm(φ22)の丸棒鍛伸材を製造した。熱間鍛造における加熱温度(℃)及び仕上げ温度(℃)は、表2に示すとおりであった。
Figure 2021017619
[ビッカース硬さ試験]
各試験番号の丸棒鍛伸材の中心部から試験片を採取した。採取された試験片を用いて、JIS Z2244(2013)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力は9.8Nとした。測定箇所は、丸棒鍛伸材の中心付近の任意の3点とした。測定された3点の値の平均値を、その試験番号の硬さ(Hv)とした。得られたビッカース硬さ(Hv)を表2に示す。
[冷間鍛造用鋼材の評価試験]
[ミクロ組織観察]
各試験番号の丸棒鍛伸材の中心部から試験片を採取した。試験片を樹脂埋めした後、試験片の面のうち、丸棒鍛伸材の軸方向に対して垂直な面を観察面として、機械研磨を実施した。機械研磨された観察面をナイタルで腐食してミクロ組織を観察し、ミクロ組織(フェライト、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト等)を特定した。さらに、上述の方法で、ベイナイト及びマルテンサイトの総面積率(%)を求めた。得られたベイナイト及びマルテンサイトの総面積率(%)を表2に合わせて示す。
表2中の「ミクロ組織」中の「F」はフェライト、「P」はパーライト、及び、「B」はベイナイトを示す。表2中の「ミクロ組織」中の「B%」は、観察したミクロ組織におけるベイナイト及びパーライトの総面積率(%)を意味する。
[V析出量測定]
丸棒鍛伸材から10mm立方の抽出残渣試験片を採取した。抽出残渣試験片を用いて、上記の方法により、抽出残渣によるV析出量(質量%)を求めた。
[冷間鍛造性評価試験]
各試験番号の丸棒鍛伸材から、直径14mm、高さ(長さ)21mm(φ14×21)の円柱状試験片を複数採取した。円柱試験片の中心軸は、丸棒の中心軸と同軸であった。円柱状試験片を用いて、室温(25℃)での圧縮試験(冷間鍛造)による冷間鍛造性評価を実施した。
具体的には、式(4)で定義される加工率が70%(70%加工時)となるまで圧縮試験を実施して、試験後の円柱試験片のき裂の有無を目視で確認した。
加工率=(1−(加工後の円柱試験片の長さ/加工前の円柱試験片の長さ))×100
(4)
70%加工時のき裂の有無の確認を次のとおり実施した。各試験番号において5本の円柱試験片に対して5倍の拡大鏡を用いてき裂の有無を観察した。5本の円柱試験片いずれにおいても、微細な割れ(長さ0.5〜1.0mm)が観察されなかった場合、き裂が発生しなかったと判断した。結果を表3に示す。
Figure 2021017619
さらに、圧縮試験中、加工率が50%の時(50%加工時)の鍛造荷重(ton)を測定した。50%加工時の鍛造荷重(ton)を、以下、冷間鍛造荷重ともいう。結果を表3に示す。き裂が観察されず、かつ、荷重が30ton以下である場合、冷間鍛造性が高いと判断した。き裂が観察されるか、又は、荷重が30tonを超える場合、冷間鍛造性が低いと判断した。
[時効硬化処理模擬品を用いた評価試験]
各試験番号の丸棒鍛伸材を用いて、次の製造工程により、時効硬化処理模擬品を製造した。丸棒を直径20mmになるまでピーリング加工した。ピーリング加工後の丸棒に対して加工率20%の冷間鍛造を模擬した冷間引抜加工を実施して、直径18mmの丸棒を製造した。
直径18mmの丸棒に対して、時効硬化処理を実施した。いずれの試験番号においても、時効硬化処理温度を650℃とし、保持時間を60分とした。以上の工程により、時効硬化処理模擬品を製造した。
[耐久比測定試験]
[引張試験]
各試験番号の時効硬化処理模擬品の中心位置から、JIS Z2241(2011)に規定される14A号試験片を採取した。試験片の長手方向は時効硬化処理模擬品の長手方向であり、平行部の直径は6mm、標点距離は10mmであった。採取した試験片に対して、室温(25℃)で引張試験を実施して、引張強度(MPa)を求めた。得られた引張強度を表3に示す。
[小野式回転曲げ疲労試験]
各試験番号の時効硬化処理模擬品から、JIS Z2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ疲労試験片を複数採取した。小野式回転曲げ疲労試験片の中心軸は、時効硬化処理模擬品の中心軸と同軸であった。上記の小野式回転曲げ疲労試験片を用いて、室温、大気雰囲気中にて、JIS Z2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ疲労試験を実施した。回転数を3000rpmとし、応力負荷繰返し回数が107サイクル後において破断しなかった最大応力を疲労強度(MPa)とした。
得られた引張強度及び疲労強度から、耐久比(=疲労強度/引張強度)を求めた。得られた耐久比を表3に示す。耐久比は0.55以上を合格とした。
[ビッカース硬さ試験]
時効硬化処理後の丸棒試験片の中心軸付近の任意の3点で、JIS Z2244(2013)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力は9.8Nとした。測定点は3点とし、その平均値を、対応する試験番号の時効硬化処理模擬品のビッカース硬さ(Hv)と定義した。得られたビッカース硬さを表3に示す。
[シャルピー衝撃試験]
各試験番号の時効硬化処理模擬品から、JIS3号Uノッチシャルピー試験片を作製した。試験片を用いて、JIS Z2242(2005)に準拠したシャルピー衝撃試験を実施した。シャルピー衝撃試験温度は0℃とし、吸収エネルギー(J)を求め、シャルピー衝撃値(J/cm2)を算出した。得られたシャルピー衝撃値を表3に示す。
[試験結果]
表3に試験結果を示す。表1〜表3を参照して、試験番号1〜3、6、7、9、10、12、13、15〜18、21〜24、27〜32及び35〜42の化学組成は本発明の範囲内であり、さらに、fn1が0以上であり、fn2が0.50以下であり、式(1)及び式(2)を満たした。その結果、冷間鍛造性評価試験において、70%加工時にき裂が観察されず、50%加工時の荷重も30ton以下であり、優れた冷間鍛造性を示した。さらに、時効硬化処理後の時効硬化処理模擬品において、耐久比はいずれも0.55以上と高く、疲労強度が高かった。さらに、シャルピー衝撃値はいずれも150J/cm2以上と高く、低温靱性が高かった。
さらに、時効硬化処理後の硬さは、時効硬化処理前(熱間鍛造後)の硬さと比較して顕著に高くなった。したがって、時効硬化処理により鋼材の硬さが上昇した。
一方、試験番号4、5、8、11、14、19、20、25、26、33、34及び43〜46では、所望の冷間鍛造性、疲労強度、又は低温靭性が得られなかった。
試験番号4では、C含有量が本発明で規定するC含有量の上限を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が31tonと高く、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。さらに、低温靭性が低かった。
試験番号5では、C含有量が本発明で規定するC含有量の下限未満であった。そのため、目標とする冷間鍛造性は得られたものの、耐久比が0.50と低く、目標とする疲労強度が得られなかった。
試験番号8では、Si含有量が本発明で規定するSi含有量の上限を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が31tonと高く、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。
試験番号11では、Mn含有量が本発明で規定するMn含有量の上限を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が32tonと高く、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。
試験番号14では、S含有量が本発明で規定するS含有量の上限を超えた。そのため、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。さらに、低温靭性が低かった。
試験番号19では、V含有量が本発明で規定するV含有量の上限を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が33tonと高く、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。さらに、低温靭性が低かった。
試験番号20では、V含有量が本発明で規定するV含有量の下限未満であった。そのため、目標とする冷間鍛造性は得られたものの、耐久比が0.49と低く、目標とする疲労強度が得られなかった。
試験番号25では、Cr含有量が本発明で規定するCr含有量の下限未満であった。そのため、目標とする冷間鍛造性は得られたものの、耐久比が0.53と低く、目標とする疲労強度が得られなかった。
試験番号26では、Cr含有量が本発明で規定するCr含有量の上限を超えた。そのため、低温靭性が低かった。
試験番号33では、Ti含有量が本発明で規定するTi含有量の上限を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が33tonと高く、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。
試験番号34では、Ti含有量が本発明で規定するTi含有量の下限未満であった。そのため、低温靭性が低かった。
試験番号43及び試験番号44では、fn1値が負の値であった。そのため、耐久比が低く、目標とする疲労強度が得られなかった。
試験番号45及び試験番号46では、化学組成は本発明の範囲内であるものの、fn2値が0.50を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が34tonと高く、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。熱間鍛造の最終圧延温度が低かったためと考えられる。さらに耐久比が低かった。
以上のとおり、本発明による冷間鍛造用鋼材は、冷間鍛造性に優れ、さらに高い疲労強度を有する。そのため、これまで「熱間鍛造−切削」工程で製造していた自動車用部品、産業機械用部品、建設機械用部品など機械構造用部品の素材として広く適用可能であり、部品のニアネットシェイプ化に貢献できる。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (4)

  1. 質量%で、
    C:0.02〜0.13%、
    Si:0.01〜0.50%、
    Mn:0.20〜0.70%、
    P:0.035%以下、
    S:0.050%以下、
    Al:0.005〜0.050%、
    Cr:0.02〜0.30%、
    V:0.02〜0.45%未満、
    Ti:0.0005〜0.1000%、及び、
    N:0.003〜0.030%、を含有し、
    残部はFe及び不純物からなり、
    式(1)及び式(2)を満たす化学組成を有する、冷間鍛造用鋼材。
    2.7Ti+6.5N−0.8V−0.9C≧0 (1)
    [V析出物]/[V含有量]≦0.50 (2)
    ここで、式(1)の各元素記号には、対応する元素の含有量(質量%)が代入され、式(2)中の[V析出物]はV析出物として析出したV含有量(質量%)を示し、[V含有量]は冷間鍛造用鋼材中のV含有量(質量%)を示す。
  2. 請求項1に記載の冷間鍛造用鋼材であって、
    前記化学組成は、さらに、
    Cu:0.20%以下、
    Ni:0.20%以下、及び、
    Mo:0.20%以下、
    からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、冷間鍛造用鋼材。
  3. 請求項1又は請求項2に記載の冷間鍛造用鋼材であって、
    前記化学組成は、さらに、
    Ca:0.005%以下、
    Bi:0.10%以下、及び、
    Pb:0.09%以下、
    からなる群から選択される1種又は2種以上を含有する、冷間鍛造用鋼材。
  4. 請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の冷間鍛造用鋼材であって、
    前記化学組成は、さらに、
    Nb:0.10%以下、及び、
    B:0.005%以下、
    からなる群から選択される1種以上を含有する、冷間鍛造用鋼材。
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