JP6661896B2 - 時効硬化用鋼材 - Google Patents

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本発明は、時効硬化用鋼材に関し、さらに詳しくは、冷間鍛造(以下冷間鍛造を「冷鍛」と称する場合がある)により成形し、時効硬化処理して機械構造部品に用いられる時効硬化用鋼材に関する。
自動車用部品、産業機械用部品および建設機械用部品など機械構造部品の素材となる構造用鋼鋼材として、機械構造用炭素鋼鋼材および機械構造用合金鋼鋼材が用いられている。
これらの鋼材から部品を製造するために、従来は主として「熱間鍛造−切削」工程が実施されてきた。しかし、近年、生産性の向上を目的に「冷間鍛造」工程への切替えが志向されている。冷間鍛造によりニアネットシェイプが図られ、切削量が低減する。そのため、生産性が向上する。
しかし、冷間鍛造の加工度は一般に大きい。したがって、鋼材の冷間鍛造性を高めること、すなわち冷間鍛造時の荷重が小さく、割れが発生しないことが最も重要な課題である。
一方、冷間鍛造により得られる鍛造部品、すなわち自動車用部品、産業機械用部品および建設機械用部品など機械構造部品には、高い疲労強度が求められる。鍛造後に高い疲労強度を有するためには、冷間鍛造後の硬さを高くすることが有効である。しかし、素材の硬さを高くすれば、冷間鍛造性が低下する。
冷間鍛造部品の疲労強度を高くするために、冷間鍛造後に、Ac3変態点以上の温度に加熱して、焼入れ焼戻しあるいは高周波焼入れの熱処理を行い、全体または表面を硬化することが行われている。しかし、このような方法では、熱処理後に切削して最終の仕上げ加工を行う必要がある。熱処理後の部品の硬度は高いため、被削性が低い。したがって、熱処理後に切削を行う場合、冷間鍛造による生産性向上のメリットが有効に発揮できない。
そこで、切削加工時には硬度を必要以上に高めず、切削加工後の熱処理により硬度を高める、いわゆる時効処理を用いる鋼材(時効硬化用鋼材)が開発されている。
例えば、特許文献1には、質量%で、C:0.005%以上0.10%未満、Si:0.30%以下、Mn:0.20〜1.20%、P:0.040%以下、S:0.050%以下、Al:0.050%以下、B:0.0002〜0.0050%、Ti:0.010〜0.080%およびN:0.0080%以下を含有し、残部はFeおよび不純物からなり、fn1=Ti−3.4N>0を満たすことを特徴とする冷鍛高周波焼き入れ用鋼に関する技術が開示されている。
特許文献2には、質量%で、C:0.14〜0.35%、Si:0.05〜0.70%、Mn:1.10〜2.30%、S:0.003〜0.120%、Cu:0.01〜0.40%、Ni:0.01〜0.40%、Cr:0.01〜0.50%、Mo:0.01〜0.30%、および、V:0.05〜0.45%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなり、13[C]+8[Si]+10[Mn]+3[Cu]+3[Ni]+22[Mo]+11[V]≦30、5[C]+[Si]+2[Mn]+3[Cr]+2[Mo]+4[V]≦7.3、2.4≦0.3[C]+1.1[Mn]+0.2[Cu]+0.2[Ni]+1.2[Cr]+1.1[Mo]+0.2[V]≦3.1、2.5≦[C]+[Si]+4[Mo]+9[V]、[C]≧[Mo]/16+[V]/3を満たすことを特徴とするベイナイト鋼に関する技術が開示されている。
特許文献3には、化学成分がmass%で、C:0.06〜0.50%、Si:0.05%以下、Mn:0.5〜1.0%以下、V:0.10〜0.60%を含み、初析フェライトとパーライトとの合計量が面積率で90%以上であり、かつ初析フェライト量が式f=100−125[C]+22.5[V]で示されるf値以上の面積%であり、初析フェライト中にVCが析出した冷間加工性に優れた冷間圧造用鋼に関する技術が開示されている。
特開2012−229456号公報 特開2011−236452号公報 特開2000−273580号公報
前述の特許文献1に開示されている技術は、優れた冷間鍛造性および強度特性を有する鋼を提供する。しかし、冷鍛後に高周波焼き入れを実施することを前提としているため、部品形状に合わせた高周波加熱コイルの作製が必要で生産コストが高くなる。また、Tiを添加して固溶Nを抑えているため、V炭窒化物の析出による時効硬化を得ることを考慮したものではない。
特許文献2に開示されている技術は、時効処理を行うことにより高強度化を図ることが可能な鋼を提供する。しかし、特許文献2に開示されている技術は、熱間鍛造と切削加工で部品形状にすることを前提としており、冷間鍛造で部品形状とすることについては何ら意識されたものではない。特許文献2の鋼では、C含有量が高いばかりか、Mn含有量を高めてベイナイト組織としているため、冷間鍛造に用いた場合の鍛造性については課題を有する。
特許文献3に開示されている技術は、圧延のままで冷間加工に供することができる冷間圧造用鋼を提供する。しかし、特許文献3に開示されている技術は、熱間圧延中にVCを析出させ、固溶Cを減少させて冷間鍛造性を高めた鋼を提供するものであり、疲労強度に関して、必ずしも考慮したものではない。また、強度を向上する場合は、調質処理を前提としており、被削性をも確保するという技術ではない。
本発明は上記現状に鑑みてなされたもので、冷間鍛造工程における高い冷鍛性を有し、かつ、冷間鍛造後の硬さを抑え、高い疲労強度が得られる鋼材を提供することを目的とする。
本発明者らは、前記した課題を解決するために種々の検討を実施した。その結果、下記(A)〜(D)の事項が明らかとなった。
(A)冷間鍛造時に高い冷間鍛造性を有するためには、鋼材の硬さを低減し、鍛造荷重を低下させることが肝要である。また、割れを抑えるため、鋼材のC含有量を低減することが効果的である。
(B)冷間鍛造後の鋼材の硬さの上昇を抑え、かつ、高い疲労強度を得るためには、鋼材の耐久比(疲労強度/引張強度)を高めることが肝要である。鋼材の耐久比を高めるためには、V炭窒化物の析出を活用することが効果的である。本明細書では、V炭窒化物(V(C,N))、V炭化物(VC)及びV窒化物(VN)を総称して「V炭窒化物」と称する。鋼材に析出するVは、そのほとんどがV炭窒化物(V(C,N))として析出する。しかしながら、その一部はVN、VCとして析出する可能性がある。VN、VCもV(C,N)と同様の効果を奏すると考えられる。したがって、「V炭窒化物」を上記のとおり定義する。
(C)冷鍛性を保持したままで、V炭窒化物を析出させるためには、冷間鍛造後にAc3変態点以下に昇温することで得られる時効析出を活用することが有効である。
(D)高い冷鍛性を有するためにC含有量を低減し、冷間鍛造後に時効処理を実施しても、鋼材の化学組成が適切であれば、充分な時効析出が得られ、鋼材の耐久比が向上する。
本発明は、上記(A)〜(D)の知見に基づいて完成されたものであり、その要旨は、次のとおりである。
本発明による時効硬化用鋼材は、質量%で、C:0.02〜0.13%、Si:0.01〜0.50%、Mn:0.20〜0.70%、P:0.035%以下、S:0.050%以下、Al:0.005〜0.050%、Cr:0.02〜0.80%未満、V:0.02〜0.50%およびN:0.003〜0.030%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有し、式(1)を満たすことを特徴とする。
[V析出物]/[V含有量]≦0.5 ・・・式(1)
ここで、式(1)中の[V析出物]はV炭窒化物中として析出したVの量であるV析出量(質量%)を示し、[V含有量]は時効硬化用鋼材中のV含有量(質量%)を示す。
残部としての「Feおよび不純物」における「不純物」とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
上記時効硬化用鋼材は、Feの一部に代えて、Cu:0.20%以下、Ni:0.20%以下およびMo:0.20%以下からなる群から選択される1種以上を含有してもよい。
本発明による時効硬化用鋼材は、冷間鍛造性に優れ、かつ、冷間鍛造後の硬さを抑え、高い疲労強度を有する。
図1は、鋼材中のV含有量に対するV析出量の比fnと、冷間鍛造荷重/耐久比との関係を示す図である。
以下、本発明の各要件について詳しく説明する。なお、以下の説明における各元素の含有量の「%」表示は「質量%」を意味する。
<化学組成について>
本発明による時効硬化用鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.02〜0.13%
炭素(C)は、機械構造部品としての鋼材の強度を高める。しかしながら、C含有量が高すぎれば、冷間鍛造時に割れが発生する、すなわち冷間鍛造性が不十分となる。このため、C含有量は0.13%以下である。またC含有量が0.02%未満では最終製品の強度が不足する。したがって、C含有量は0.02〜0.13%である。Cの含有量の好ましい下限は、0.03%である。C含有量の好ましい上限は、0.10%未満である。
Si:0.01〜0.50%
珪素(Si)は、溶製時の脱酸用として必要な元素である。Si含有量が0.01%未満では、この効果が得られない。一方、Siはフェライトを固溶強化するため、Si含有量が高すぎれば、鋼材の冷間鍛造性を低下させてしまう。したがって、Si含有量は0.01〜0.50%である。Si含有量の好ましい下限は0.02%である。Si含有量の好ましい上限は0.45%である。
Mn::0.20〜0.70%
マンガン(Mn)は、機械構造部品としての鋼材の強度を高める。Mn含有量が0.2%未満であれば、最終製品の強度が不足する。一方、Mn含有量が0.7%を超えれば、鋼材の冷間鍛造性が低下する。したがって、Mn含有量は0.20〜0.70%である。Mn含有量の好ましい下限は、0.25%である。Mn含有量の好ましい上限は0.65%である。
P:0.035%以下
燐(P)は、鋼中に不可避的に含有される。Pは鋼中で偏析しやすく、局所的な延性低下の原因となる。特に、P含有量が0.035%を超えれば、局所的な延性低下が著しくなる。したがって、P含有量は0.035%以下である。P含有量の好ましい上限は、0.030%である。Pの下限値は特に限定はないが、現実的には0.002%以上である。
S:0.050%以下
硫黄(S)は、鋼中に不可避的に含有される。Sは鋼材の被削性を向上する。しかしながら、S含有量が0.050%を超えれば、鋼中に粗大な硫化物が生成し、冷間鍛造時の割れ発生の原因となる。したがって、S含有量は0.050%以下である。S含有量の好ましい上限は、0.045%である。被削性向上効果をより有効に得るためのS含有量の好ましい下限は0.010%である。
V:0.02%〜0.50%
バナジウム(V)は、冷間鍛造後の時効処理(熱処理)により、炭窒化物として析出して鋼材の耐久比を高める。V含有量が0.02%未満であれば、この効果が得られない。一方、V含有量が高すぎれば、その効果も大きくなるが、時効処理前の硬さが高くなりすぎて冷鍛性が低下する。また、V含有量が高すぎれば、製造コストが高くなる。したがって、V含有量は0.02〜0.50%である。V含有量の好ましい下限は、0.03%である。V含有量の好ましい上限は0.45%である。
Al:0.005〜0.050%
アルミニウム(Al)は脱酸剤として有効である。Al含有量が0.005%未満であれば、その効果が得られない。一方、Al含有量が0.050%を超えれば、鋼中に粗大なAl系介在物が生成し、冷間鍛造時の割れ発生の原因となる。したがって、Al含有量は0.005〜0.050%である。Al含有量の好ましい上限は、0.045%である。
Cr:0.02〜0.80%未満
クロム(Cr)は、固溶強化元素として鍛造後の鋼材の疲労強度を高める。Cr含有量が0.02%未満であれば、この効果が得られない。一方、Crは炭化物生成元素であるから、Cr含有量が0.8%以上であれば、鋼中に安定なCr炭化物が生成し、V炭窒化物の析出を阻害する場合がある。したがって、Cr含有量は0.02〜0.80%未満である。Cr含有量の好ましい下限は、0.03%である。Cr含有量の好ましい上限は0.75%未満であり、より好ましくは、0.50%未満である。
N:0.003〜0.030%
窒素(N)は、冷間鍛造後の熱処理によりVと結合してV炭窒化物として析出し、鋼材の耐久比を向上させる。N含有量が0.003%未満であれば、この効果が得られない。一方、N含有量が0.030%を超えれば、冷鍛性低下の原因となる。したがって、N含有量は0.003〜0.030%である。N含有量の好ましい上限は、0.025%である。
本発明の時効硬化用鋼材の化学組成の残部はFeおよび不純物からなる。既に述べたように、不純物とは、鉄鋼材料を工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境などから混入するものを指す。
時効硬化用鋼材の化学組成はさらに、Feの一部に代えて、Cu、Ni、およびMoからなる群から選択される1種以上を含有してもよい。これらの元素はいずれも、鋼材の疲労強度を高める。以下、任意元素である上記Cu、Ni、およびMoの作用効果と、含有量の限定理由について説明する。
Cu:0.20%以下
銅(Cu)は鋼材の疲労強度を高める。この効果を得るためにCuを含有させてもよい。しかしながら、Cu含有量が0.20%を超えれば、冷間鍛造性が低下する。したがって、含有させる場合のCu含有量は、0.20%以下である。Cu含有量の好ましい上限は0.15%である。Cu含有量の好ましい下限は0.02%である。
Ni:0.20%以下
ニッケル(Ni)は鋼の疲労強度を高める。この効果を得るためにNiを含有させてもよい。しかしながら、Ni含有量が0.20%を超えれば、冷間鍛造性が低下する。。したがって、含有させる場合のNi含有量は0.20%以下である。Ni含有量の好ましい上限は0.15%である。Ni含有量の好ましい下限は0.02%である。
Mo:0.20%以下
モリブデン(Mo)は鋼の疲労強度を高める。この効果を得るためにMoを含有させてもよい。しかしながら、Mo含有量が0.20%を超えれば、冷間鍛造性が低下する。したがって、含有させる場合のMo含有量は0.20%以下である。Mo含有量の好ましい上限は0.15%である。Mo含有量の好ましい下限は0.02%である。
<式(1)について>
前項で述べた化学組成を有する本発明の時効硬化用鋼材は、式(1)を満たす。
[V析出物]/[V含有量]≦0.5 ・・・式(1)
ここで、[V析出物]はV炭窒化物として析出したVの量であるV析出量(質量%)を示し、[V含有量]は時効硬化用鋼材中のV含有量(質量%)を示す。
本明細書にいうV析出量とは、時効硬化用鋼材に含有されるVのうち、V炭窒化物として析出したVの量(質量%)を意味する。
V析出量は、次の抽出残渣分析法により求められる。10mm×10mm×10mmの試料を、鋼材の半径×0.5の位置から切り出し、抽出残渣分析用試料とする。10%AA系(テトラメチルアンモニウムクロライド、アセチルアセトン、メタノールを1:10:100で混合した液体)溶液中で、試料を定電流電気分解する。
より具体的には、試料の表面の付着物を除去するため、先ず、電流:1000mA、時間:28分、室温の条件で、試料に対して予備電気分解を行う。その後、試料表面の付着物をアルコール中で超音波洗浄して試料から除去する。付着物を除去された試料の質量(電気分解前の試料の質量)を測定する。
次いで、電流:173mA、時間:142分、室温の条件で試料を電気分解する。電気分解した試料を取り出し、試料表面の付着物(残渣)をアルコール中で超音波洗浄して試料から除去する。その後、電気分解後の溶液および超音波洗浄に用いた溶液を、メッシュサイズ0.2μmのフィルターで吸引ろ過して残渣を採取する。
付着物(残渣)を除去された試料の質量(電気分解後の試料の質量)を測定する。そして電気分解前後の試料の質量の測定値の差から、「電気分解された試料の質量」を求める。
上記のフィルター上に採取された残渣を、シャーレに移して乾燥させ、質量を測定する。その後、JIS G1258(2014)に準拠して、ICP発光分析装置(高周波誘導結合プラズマ発光分光分析装置)により残渣を分析して、「残渣中のVの質量」を求める。
求めた「残渣中のVの質量」を「電気分解された試料の質量」で除して、百分率表示したものを、「V析出量」(質量%)と定義する。
式(1)の根拠を説明する。fnを次のとおり定義する。
fn=[V析出物]/[V含有量]
要するに、fnは式(1)の左辺である。図1は、fnと、冷間鍛造荷重/耐久比との関係を示す図である。図1は次の試験により得られた。C:0.05〜0.12%、Si:0.05%、Mn:0.45%、V:0.09〜0.25%を含有し、残部はFeを主とする複数の鋼材に対して、Ac3変態点以下で30〜60分保持する熱処理(時効処理)を実施して、様々なV析出量を有する供試材を製造した。上記方法により、各供試材のV析出量を求めた。更に、各供試材からφ14×21mmの円柱状試験片を採取した。円柱状試験片を用いて、冷間鍛造荷重を測定した。さらに、各供試材を用いて、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験、及び、JIS Z2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ試験を実施して、各供試材の耐久比を求めた。
得られたV析出量及び各供試材のV含有量に基づいて、fnを求めた。さらに、得られた冷間鍛造荷重及び耐久比に基づいて、冷間鍛造荷重/耐久比を求め、図1を作成した。
図1を参照して、fnが0.5よりも高い場合、fnが低下しても、冷間鍛造荷重/耐久比は略35tonで一定である。一方、fnが0.5となったとき、冷間鍛造荷重/耐久比は30ton以下に非連続に低下する。そして、fnが0.5以下となったとき、fnが低下しても、冷間鍛造荷重/耐久比はほぼ一定である。
以上のとおり、fnが低下すると、0.5を境に、冷間鍛造荷重/耐久比が急速に(非連続に)低下する。したがって、fnが式(1)を満たせば、冷間鍛造荷重の上昇を抑えることができ、優れた冷鍛性が得られる。
fnが0.5を超えると、冷間鍛造後に時効硬化するために十分な固溶Vが得られない。つまり、冷間鍛造前にV炭窒化物が既に析出していることを意味し、十分な冷間鍛造性が得られない。一方、fnは0.5より小さくてもよく、0で有っても構わない。しかしながら、工業的な限界に基づけば、fnは0.2以上である。また、好ましいfnは0.45以下である。
<ミクロ組織>
本発明の時効硬化用鋼材のミクロ組織は、好ましくは、フェライト、又はフェライトおよびパーライトの混合組織である。より具体的には、ミクロ組織において、フェライト及びパーライトの好ましい総面積率は95%以上である。ベイナイトおよびマルテンサイトは、フェライトおよびパーライトと比較して冷間変形能に劣り、冷間鍛造時の割れの発生原因となりうる。したがって、上記ミクロ組織において、ベイナイトおよびマルテンサイトの総面積率は、好ましくは5%以下である。
<製造方法>
本発明の時効硬化用鋼材の製造方法の一例は次のとおりである。
上述の化学組成及び溶鋼を準備する。溶鋼を用いて造塊法によりインゴットを製造する。又は、溶鋼を用いて連続鋳造方により鋳片を製造する。インゴット又は鋳片を、熱間圧延(分塊圧延等)してビレットを製造してもよい。
素材(インゴット、鋳片又はビレット)を熱間圧延して、時効硬化用鋼材を製造する。熱間圧延はたとえば、連続式熱間圧延方法である。
鋼中のV析出量が式(1)を満たすようにするために、熱間圧延の最終圧延での圧延温度(最終圧延を実施するスタンドの入側での鋼材温度)を900℃以上にする。上記ミクロ組織を得るために、好ましくは、熱間圧延後の鋼材を放冷する。この場合、冷却中にマルテンサイト及びベイナイトが発生しにくく、ミクロ組織中のマルテンサイト及びベイナイトの面積率を5%以下に抑えることができる。
<冷間鍛造後の疲労強度について>
本発明の時効硬化用鋼材を用いて、冷間鍛造後の硬さを抑えながら、高い疲労強度を有する冷間鍛造部品を得るための製造方法の一例は次のとおりである。本発明の時効硬化用鋼材に対して、所望の部品形状を得るための冷間鍛造を実施して中間品を製造する。中間品に対して時効処理を実施する。時効処理は周知の方法で実施される。好ましくは、時効処理において、中間品を200℃〜Ac3点以下の熱処理温度に加熱して、この熱処理温度で30分以上保持する。熱処理温度が200℃以上であれば、さらに高い耐久比が得られるだけの十分なV炭窒化物が析出する。さらに、熱処理温度がAc3点以下であれば、V炭窒化物の粗大化が抑制されるため、さらに高い耐久比が得られる。さらに、オーステナイト変態が起きないため、熱ひずみが発生しない。保持時間が30min以上であれば、V炭窒化物が十分に析出してさらに高い耐久比が得られる。一方、保持時間が長すぎれば、同様の効果は得られるが、製造コストが高くなる。したがって、好ましい保持時間は180分以下である。
以上のとおり、本発明による時効硬化用鋼材は、冷間鍛造性に優れ、さらに、本時効硬化用鋼材に対して冷間鍛造及び時効処理を実施して製造された冷間鍛造品は、焼入れ焼戻しや高周波焼入れの熱処理を行うことなく優れた疲労強度を有する。
以下、実施例により本発明をさらに詳しく説明する。
<丸棒鍛伸材の作製>
表1に示す化学組成を有する鋼A〜Lを真空溶解にて150kg溶製し、インゴットを製造した。
Figure 0006661896
表1を参照して、鋼A〜Iの化学組成は本発明の範囲内であった。一方、鋼J〜Lの化学組成は本発明の範囲から外れた。
製造されたインゴットに対して、熱間圧延を模擬した熱間鍛造を実施して、直径42mm(φ42)の丸棒鍛伸材を製造した。熱間鍛造における加熱温度(℃)及び仕上げ温度(℃)は、表2に示すとおりであった。
Figure 0006661896
<冷鍛性評価試験>
各試験番号の丸棒鍛伸材から、直径14mm、高さ(長さ)21mm(φ14×21)の円柱状試験片を切りだした。円柱状試験片を用いて、室温での圧縮試験(冷間鍛造)による冷間鍛造性評価を実施した。
具体的には、圧縮試験において、加工率(=(1−加工後の試験片高さ/加工前の試験片高さ)×100)が50%時点(以下、50%加工という)での鍛造荷重(ton)を測定した。さらに、加工率が70%の時点(以下、70%加工という)で、試験片のき裂の有無を観察した。観察は、目視にて(肉眼、又は、簡単な拡大鏡を用いて)、微細な割れ(長さ0.5〜1.0mm)の有無を観察した。
各試験番号において、5本ずつ上記圧縮試験(冷間鍛造)を実施した。5本ともの割れが確認されないことを目標とした。さらに、鍛造荷重については、20ton以下を目標とした。
<ミクロ組織観察及び硬さ試験>
前記の丸棒鍛伸材を、軸方向に対して垂直な方向で切断(横断)してサンプルを採取した。サンプルを樹脂に埋め込んだ後、上記切断された面(観察面)を研磨した。研磨後の観察面に対してナイタル腐食を実施してミクロ組織(フェライト、パーライト、ベイナイト等)を特定した。さらに、観察面において、フェライト及びパーライトの面積率を求めた。
さらに、観察面に対して、JIS Z2244(2013)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力は9.8Nとした。測定箇所は、丸棒鍛伸材の中心付近の任意の3点とした。測定された3点の値の平均を、その試験番号の硬さ(Hv)とした。
表2中の「熱間鍛造後」欄の「ミクロ組織」中の「F/P」は、観察したミクロ組織において、フェライト及びパーライトの面積率が95%以上であったことを意味する。「B」は、観察したミクロ組織において、フェライト及びパーライトの面積率が95%未満であり、残部がベイナイトであったことを意味する。
<V析出量測定>
丸棒鍛伸材から10mm立方の抽出残渣試験片を採取した。抽出残渣試験片を用いて、上述の方法により、抽出残渣によるV析出量(質量%)を求めた。
<時効硬化熱処理及び時効硬化熱処理後の試験>
各試験番号の丸棒鍛伸材に対してピーリング加工を実施して、直径36mm(φ36)の丸棒を製造した。丸棒に対して、加工率75%の冷間鍛造を模擬した引抜加工を実施して、直径18mm(φ18)の丸棒試験片を製造した。
製造された丸棒試験片に対して、時効処理を実施した。時効処理での熱処理温度はいずれも600℃であり、保持時間はいずれも60分であった。時効処理後の丸棒試験片を用いて、JIS Z2241(2011)に準拠した引張試験、及びJIS Z2274(2011)に準拠した小野式回転曲げ試験を実施して、引張強度(MPa)及び疲労強度(MPa)を求め、さらに、耐久比(=疲労強度/引張強度)を求めた。耐久比は0.55以上を目標とした。
さらに、時効処理後の丸棒試験片の中心軸付近の任意の3点で、JIS Z2244(2013)に準拠したビッカース硬さ試験を実施した。試験力は9.8Nとし、測定された3点の値の平均を、その試験番号の硬さ(Hv)とした。
<試験結果>
表2に試験結果を示す。表2を参照して、試験番号1〜9の化学組成は本発明の範囲内であり、さらに、fnが0.5以下であり、式(1)を満たした。その結果、熱間鍛造後の圧縮試験(冷間鍛造)において、70%加工において割れが確認されず、50%加工において鍛造荷重が20ton以下であり、優れた冷間鍛造性が得られた。さらに、時効処理後の耐久比はいずれも0.55以上であり、高い疲労強度が得られた。
さらに、時効処理後の硬さは、時効処理前(熱間鍛造後)の硬さと比較して顕著に高くなった。したがって、時効処理により鋼材の硬さが上昇した。
これに対して、試験番号10〜13では、所望の冷間鍛造性又は疲労強度が得られなかった。
すなわち試験番号10の場合、C含有量が本発明で規定するC含有量の上限を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が22.4tonと高く、70%加工において、き裂が確認され、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。
試験番号11の場合、V含有量が本発明で規定するV含有量の下限未満であった。そのため、目標とする冷間鍛造性は得られたものの、耐久比が0.529と低く、目標とする疲労強度が得られなかった。
試験番号12の場合、Cr含有量が本発明で規定するCr含有量の上限を超えた。そのため、目標とする冷間鍛造性は得られたものの、耐久比が0.490と低く、目標とする疲労強度が得られなかった。
試験番号13の場合、化学組成は本発明の範囲内であるものの、fn値が0.5を超えた。そのため、冷間鍛造時の50%加工での冷間鍛造荷重が21.3tonと高く、目標とする冷間鍛造性が得られなかった。
以上のとおり、本発明の時効硬化用鋼材は、高い疲労強度を有し、冷間鍛造性に優れる。そのため、これまで「熱間鍛造−切削」工程で製造していた自動車用部品、産業機械用部品、建設機械用部品など機械構造部品の素材として広く適用可能であり、部品のニアネットシェイプ化に貢献できる。
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。

Claims (2)

  1. 質量%で、
    C:0.02〜0.13%、
    Si:0.01〜0.50%、
    Mn:0.20〜0.70%、
    P:0.035%以下、
    S:0.050%以下、
    Al:0.005〜0.050%、
    Cr:0.02〜0.69%、
    V:0.02〜0.50%、および、
    N:0.003〜0.030%を含有し、残部はFeおよび不純物からなる化学組成を有し、
    式(1)を満たし、
    ビッカース硬さが175(Hv)以下であることを特徴とする時効硬化用鋼材。
    [V析出物]/[V含有量]≦0.5 ・・・式(1)
    ここで、[V析出物]はV炭窒化物として析出したVの量であるV析出量(質量%)を示し、[V含有量]は前記時効硬化用鋼材中のV含有量(質量%)を示す。
  2. 請求項1に記載の時効硬化用鋼材であって、
    前記化学組成は、Feの一部に代えて、
    Cu:0.20%以下、
    Ni:0.20%以下、および、
    Mo:0.20%以下からなる群から選択される1種以上を含有することを特徴とする時効硬化用鋼材。
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