JP2010185102A - 機械構造用鋼およびその製造方法ならびに機械構造用部品 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.005〜0.045質量%、Si:0.005〜0.05質量%、Mn:0.4〜1質量%、P:0.05質量%以下、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.01〜0.06質量%、N:0.009〜0.02質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、N固溶量は0.0085質量%以上であり、フェライト相の組織分率が、90%以上であり、全組織中の酸化物系介在物1個あたりの平均面積が2.5μm2以下、且つ、1個あたりの平均面積が0.5μm2以上の酸化物系および硫化物系介在物の個数が、0.25mm2当たり70個以下であることを特徴とする。
【選択図】なし
Description
特許文献1に記載の高硫黄快削鋼では、硫化物系介在物を球状化・微細分散させるため、Sを多量添加させ、且つ、Mn、S、Cr、O量が所定の範囲となるように決定されている。しかし、これらの元素は、介在物形成に使われない分は鋼中に固溶し、鋼材を固溶強化させるため、固溶強化によって冷間加工時の変形抵抗が増大し、冷間加工性が劣化する懸念がある。また、生成するMnSが鋼材の欠陥ともなってしまうため、鋼材の耐食性や、熱間あるいは冷間加工性が劣化するという問題がある。さらに、MnS等の硫化物は軟質であるがゆえに鍛伸方向(圧延方向)に伸張し易く、材料強度に異方性を生じさせる原因にもなる。
冷間加工性(冷間鍛造性)を向上させるためには、変形時の応力集中の起点である硬質相(マルテンサイト、パーライト、ベイナイト等)と軟質相(フェライト)との界面を減らせばよい。しかし、硬質相を減らすと、鋼が軟らかくなって、切り屑が長くつながり易く、すなわち、切り屑分断性が低下し、切り屑処理性が劣化する。このように、冷間加工性と切り屑処理性は相反する性質を持つ。
Cr,Moを添加することにより、機械構造用鋼の冷間加工性および冷間加工後の硬さが向上する。
Ti,Nb,Vを添加することにより、これらの窒素化合物が形成されて機械構造用鋼の冷間加工後の靭性が高くなり、耐割れ性が向上する。
Bを添加することにより、不可避的に含有されるPのフェライト粒界偏析による粒界強度の低下が抑制される。
Cu,Ni,Coを添加することにより、機械構造用鋼のひずみ時効を促進させて冷間加工後の強度が向上する。
これらの元素を添加することにより、機械構造用鋼の冷間加工性および冷間加工後の被削性が向上する。
このような機械構造用部品は、良好な強度および硬度を有するものである。
機械構造用鋼は、所定量のC、Si、Mn、P、S、Al、Nを含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる。さらに必要に応じて、他の成分を含有してもよい。
そして、固溶Nが所定量以上であり、フェライト相の組織分率、全組織中の酸化物系介在物1個あたりの平均面積、および、1個あたりの平均面積が0.5μm2以上の酸化物系および硫化物系介在物の個数を所定に規定したものである。
以下、具体的に説明する。
Cは、フェライト単相とするため、極力低減する必要がある。ただし、Cが極端に少ないと、溶製中の脱酸が困難になる。すなわち、C量が0.005質量%未満では、溶製時にガス欠陥が発生し易くなり、歩留まりが劣化する。したがって、C量は、0.005質量%以上とする。なお、好ましくは、0.01質量%以上、より好ましくは、0.015質量%以上である。また、本発明の機械構造用鋼の場合、C量が0.045質量%までは、実質的にフェライト単相の粒界に微細セメンタイトがわずかに存在する組織となる。しかし、C量が0.045質量%を超えると、セメンタイトがパーライトを形成するようになり、フェライト−パーライトの複相組織となる。パーライトは硬質相であるため、被削性、冷間加工性を劣化させる。また、溶鋼の凝固が完了するまでに、より時間がかかり、介在物が成長してしまう。したがって、C量は、0.045質量%以下とする。なお、好ましくは、0.043質量%以下、より好ましくは、0.04質量%以下である。
Siは、溶製中の脱酸元素として有効な元素である。ただし、Si量が0.005質量%未満では、脱酸の効果が発揮されず、溶製時にガス欠陥が発生し易くなり、そこを起点に割れが発生し易くなる。したがって、Si量は、0.005質量%以上とする。なお、好ましくは、0.007質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上である。一方、Siは、フェライト相を固溶強化させるため、変形抵抗の増大、冷間加工性の低下を生じさせる。Si量が0.05質量%を超えると、その傾向が顕著に見られはじめる。したがって、Si量は、0.05質量%以下とする。なお、好ましくは、0.04質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。
Mnは、溶製中の脱酸、脱硫元素として有効な元素である。また、Sと結合することで機械構造用鋼の変形能を向上させることができ、フェライト相を固溶強化させる効果を有している。ただし、Mn量が0.4質量%未満では、脱酸、脱硫の効果が十分に発揮できず、冷間加工性が低下しはじめる。したがって、Mn量は、0.4質量%以上とする。なお、好ましくは、0.42質量%以上、より好ましくは、0.45質量%以上である。一方、Mn量が1質量%を超えると、固溶強化による変形抵抗が顕著に増大するため、冷間加工性を低下させる。したがって、Mn量は、1質量%以下とする。なお、好ましくは、0.98質量%以下、より好ましくは、0.95質量%以下である。
Pは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、Pは、フェライト粒界に偏析し、冷間加工性を劣化させる。また、Pはフェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。従って、冷間加工性の観点からは極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招く。また、0質量%とすることは製造上困難である。したがって、P量は、0.05質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.04質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、Feと結合すると、FeSとして粒界上に膜状に析出するため、冷間加工性を劣化させる。従って、全量をMnと結合させ、MnSとして析出させる必要がある。ただし、S量が0.005質量%未満では、被削性が劣化する。したがって、S量は、0.005質量%以上とする。なお、好ましくは、0.007質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上である。一方、S量が0.05質量%を超えると、MnSの析出量が増えるため、被削性は向上するが、冷間加工性が劣化する。したがって、S量は、0.05質量%以下とする。なお、好ましくは、0.04質量%以下、より好ましくは、0.03質量%以下である。このようにして、冷間加工性と被削性のバランスを考慮して、Sの上下限量を定めた。
Alは、溶製中の脱酸元素として有効な元素である。ただし、Al量が0.01質量%未満では、溶製中の脱酸が不十分となり、ガス欠陥が生じ易くなる。したがって、Al量は、0.01質量%以上とする。なお、好ましくは、0.015質量%以上、より好ましくは、0.02質量%以上である。一方、Al量が0.06質量%を超えると、溶製中にAl2O3が生成し易くなり、被削性が劣化する。また、Nと結合してAlNを形成するため、N固溶量を減少させ、冷間加工後の部品強度を低下させる。したがって、Al量は、0.06質量%以下とする。なお、好ましくは、0.055質量%以下、より好ましくは、0.05質量%以下である。
本発明に係る機械構造用鋼において、N(窒素)は鋼中に固溶して、後記するように機械構造用鋼を冷間加工(冷間鍛造)した後の強度を向上させる。ただし、N量が0.009質量%未満では、このN固溶量を十分に得られない。したがって、N量は、0.009質量%以上とする。なお、好ましくは、0.0095質量%以上、より好ましくは、0.01質量%以上である。一方、N量が0.02質量%を超えると、N固溶量が過剰になって冷間加工性を劣化させる。したがって、N量は、0.02質量%以下とする。なお、好ましくは、0.018質量%以下、より好ましくは、0.016質量%以下とする。なお、Nは鋼の溶融工程で大気中から不可避的に混入するため、精錬工程で調整してN含有量を制御することができる。また、成分として含有される金属元素(例えばMn)の窒素化合物を添加してもよい。
<Cr:2質量%以下、およびMo:2質量%以下のうち1種以上>
Cr、Moは、冷間加工後の部品強度と冷間加工性を向上させる効果を有するので、所定量に限って選択的に添加することが可能である。ただし、Cr、Mo量は、それぞれ2質量%を超えると、変形抵抗が増大し、かえって冷間加工性が劣化する。したがって、Cr、Mo量は、それぞれ2質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、1.5質量%以下、より好ましくは、1質量%以下である。一方、Cr、Mo添加の効果を得るため、Cr量は、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。また、Mo量は、0.04質量%以上が好ましく、0.12質量%以上がより好ましい。
Ti、Nb、Vは、Nと結合することでN化合物を形成して結晶粒を微細化させ、冷間加工後に得られる部品の靭性を高め、耐割れ性を向上させるために有効な元素である。ただし、これらの元素は、Nとの親和力が強いため、それぞれ0.2質量%を超えると、N化合物が過剰に形成され、N固溶量が低減してしまう。したがって、Ti、Nb、V量は、それぞれ0.2質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.15質量%以下、より好ましくは、0.1質量%以下である。一方、Ti、Nb、V添加の効果を得るため、Ti、Nb、V量は、それぞれ、0.001質量%以上が好ましく、0.002質量%以上がより好ましく、0.003質量%以上がさらに好ましい。
Bは、フェライト粒界に集まる傾向があり、Pのフェライト粒界偏析による粒界強度の低下を抑制するのに有効である。ただし、Bは、Nとの親和力が強いため、0.005質量%を超えると、BNを形成し、N固溶量が低減すると共に、フェライト粒界に過剰に偏析したBNは粒界強度を低減させる。したがって、B量は、0.005質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.0035質量%以下、より好ましくは、0.002質量%以下である。一方、B添加の効果を得るため、B量は、0.0002質量%以上が好ましく、0.0004質量%以上がより好ましく、0.0006質量%以上がさらに好ましい。
Cu、Ni、Coは、いずれも機械構造用鋼をひずみ時効させ、冷間加工後の部品強度を向上させるのに有効である。ただし、Cu、Ni、Co量は、それぞれ5質量%を超えると、効果が飽和し、また、冷間加工後の割れも促進される。なお、好ましくは、4質量%以下、より好ましくは、3質量%以下である。一方、Cu、Ni、Co添加の効果を得るため、Cu、Ni、Co量は、それぞれ、0.1質量%以上が好ましく、0.2質量%以上がより好ましく、0.3質量%以上がさらに好ましい。
Ca、REM(希土類金属元素)、Mg、Liは、MnS等の硫化物系介在物を球状化させ、鋼の冷間加工性を高めると共に、被削性向上に寄与する元素である。ただし、Ca、REMは、0.05質量%を超えて、Mg、Liは、0.02質量%を超えて過剰に添加しても、その効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できず経済的に不利である。したがって、Ca、REM量は、それぞれ、0.05質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.03質量%以下、より好ましくは、0.01質量%以下である。また、Mg、Li量は、それぞれ、0.02質量%以下(0質量%を含まない)とする。なお、好ましくは、0.01質量%以下、好ましくは、0.005質量%以下である。なお、希土類金属元素として具体的に、Ce,La,Nd等の元素が挙げられ、本明細書におけるREMの含有量とは、これらのすべての希土類金属元素の含有量の合計を指す。
機械構造用鋼中に固溶したN(固溶N)は、冷間加工時に発生する動的ひずみ時効により多くの転位を導入させる。そして冷間加工後には、この導入された転位が加工発熱によって動き易くなった固溶Nによって固着されることで、静的ひずみ時効分の強化が付与され、加工硬化分以上に強度を増加させる。また、切り屑処理性向上にも有効である。N固溶量が0.0085質量%未満では、静的ひずみ時効による強度増加の効果を十分に得ることができない。また、切り屑がつながりやすくなるため、切り屑処理性が低下しやすい。したがって、N固溶量は、0.0085質量%以上とする。なお、好ましくは、0.009質量%以上、より好ましくは、0.0095質量%以上である。一方、N固溶量が過剰になると、静的ひずみ時効よりも動的ひずみ時効の影響が顕著になり、変形抵抗が増大すると共に冷間加工性が劣化する。N固溶量は前記組成におけるN含有量以下となるので、N固溶量の上限値は前記N含有量の上限値すなわち0.02質量%に収束される。このようなN固溶量は、前記のN含有量およびAl含有量のそれぞれの制限を満足し、かつ後記するように製造時の熱間加工(圧延、鍛造)温度、および冷却工程での冷却速度を制御することにより、制御される。
鋼中の全N量の算出は、不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いる。すなわち、供試鋼素材からサンプルを切り出し、サンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定する。
上記の方法によって求めた鋼中の全N量から全N化合物における窒素量を差し引くことで鋼中のN固溶量を算出する。
本発明に係る機械構造用鋼は、冷間加工性を付与するために軟質のフェライト相を主組織とする(実質的にフェライト単相)。フェライト単相とすることで、機械構造用鋼を冷間加工して機械構造用部品を製造する際に、組織全体が同時にかつ均一に変形・硬化するので、全体として変形抵抗の上昇が抑えられ、冷間加工性が劣化しない。また、検討の結果、必ずしも完全なフェライト単相組織でなくてもよく、全組織中のフェライト相の面積率(フェライト組織分率)が全組織に対して90%以上であればよい。一部粒界にセメンタイトが析出していても、それが球状化していれば冷間加工性を劣化させないためである。フェライト相の面積率が90%未満になると、フェライトとセメンタイトとの界面が割れの起点となり易く、冷間加工性が劣化する。したがって、フェライト組織分率は、90%以上とする。なお、好ましくは、93%以上、より好ましくは、95%以上である。
酸化物系介在物1個あたりの平均面積が2.5μm2を超えると、切削抵抗の変動が大きくなり、切り屑分断性が劣化する。したがって、当該平均面積は、2.5μm2以下とする。なお、好ましくは、2.2μm2以下、好ましくは、2.0μm2以下である。
1個あたりの平均面積が0.5μm2以上の酸化物系および硫化物系介在物の個数が、0.25mm2当たり70個を超えると、切り屑分断性が劣化し、切削抵抗が増大しはじめる。したがって、当該個数は、70個以下とする。なお、好ましくは、65個以下、より好ましくは、60個以下である。
熱間加工後のサンプルを円柱形の軸に沿って切断して樹脂に埋め込み、円柱形の直径Dの1/4位置かつ軸方向中央近傍を観察できるように切断面をエメリー紙およびダイヤモンドバフで鏡面に研磨する。次に、D/4位置を自動EPMA分析し、これにより、介在物の組成、位置、個数、介在物1個当たりの面積等を求める。
機械構造用鋼の製造方法は、溶解工程と、鋳造工程と、熱間加工工程と、冷却工程と、を含むものである。
以下、各工程について説明する。
溶解工程は、前記記載の組成を有する合金を溶解する工程である。
合金を溶解する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、真空誘導炉を用いることができる。
鋳造工程は、前記溶解工程で溶解された溶解物を鋳造する工程である。
溶解物を鋳造する方法は、特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いればよい。例えば、連続鋳造法や、半連続鋳造法を用いることができる。
熱間加工工程は、前記鋳造工程で鋳造された鋳塊を、1000〜1200℃で圧延または鍛造することで熱間加工する工程である。
熱間加工時にAlNが生成すると、N固溶量が低下し、所望の特性が得られなくなる。そこで、熱間加工時の温度を1000〜1200℃とすることで、溶製時に結合したAlとNを分離することができる。熱間加工時の温度が、1000℃未満では、AlNを十分に分解することができない。したがって、熱間加工時の温度は、1000℃以上とする。なお、好ましくは、1020℃以上、より好ましくは、1050℃以上である。一方、1200℃を超えると、AlNを分解するのには十分であるが、その効果が飽和して製造コストが増大する。したがって、熱間加工時の温度は、1200℃以下とする。なお、好ましくは、1180℃以下、より好ましくは、1150℃以下である。
なお、保持時間は、前記温度に達すればAlNは分解することができるので、製造条件に合わせて決定すればよい。
冷却工程は、前記熱間加工工程で熱間加工された熱間加工材を、200〜1000℃の温度域において、2.5℃/s以上の冷却速度で冷却する工程である。
熱間加工後の冷却の際、再びAlNが析出するのを抑制するためには、200〜1000℃の温度域、すなわち、1000℃の状態から200℃の状態まで冷却する際に、2.5℃/s以上の冷却速度で冷却する必要がある。AlNは、200〜1000℃の間でゆっくり冷却したり、保持したりすると、多く生成する。そのため、2.5℃/s未満の冷却速度では、AlNが析出し、N固溶量が低下してしまう。したがって、冷却速度は、2.5℃/s以上とする。なお、好ましくは、3℃/s以上、より好ましくは、3.5℃/s以上である。一方、上限は特に規定しないが、製造条件に合わせて適宜決定すればよい。なお、好ましくは、15℃/s以下、より好ましくは、10℃/s以下である。
本発明に係る機械構造用部品は、前記機械構造用鋼を開始温度200℃未満で冷間加工(冷間鍛造)して製造される。開始温度が200℃以上で加工されると、強化が不十分になるからである。冷間加工後は、切削等、公知の方法で所望の形状に仕上げる。
H≧(DR+200)/2.5 ・・・(1)
式(1)において、H:冷間加工後の部品強度(Hv)、DR:冷間加工時の最大変形抵抗(MPa)である。
一般に、冷間加工後の部品強度を高めようとすると、冷間加工時の変形抵抗も高くなる。従来品においては、例えば、冷間加工後の部品強度が250Hv程度のものでは、最大変形抵抗は、約500〜550MPa程度であり、部品強度が300Hv程度のものでは、最大変形抵抗は、低くても650MPa程度であり、部品強度が350Hv程度のものでは、最大変形抵抗は、低くても750MPa程度である。本発明においては、このような従来品に比べ、変形抵抗を抑制しつつ、部品強度を高める、すなわち、従来品よりも、冷間加工後の部品強度と冷間加工時の変形抵抗とのバランスに優れた機械構造用部品を得ることを目的とする。そこで、実験的なデータに基づき、部品強度と変形抵抗の関係について検討を重ねた結果、機械構造用鋼の成分組成や組織等を所定に規定し、この機械構造用鋼から得られる機械構造用部品が式(1)を満足することで、従来品よりも、冷間加工後の部品強度と冷間加工時の変形抵抗とのバランスに優れた機械構造用部品となることから、このような関係式とした。
[第1実施例]
表1に記載の成分組成からなる供試材No.1〜33の供試鋼を調製し、この供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解して、上面:φ245mm、下面:φ210mm×長さ480mmのインゴットに鋳造した。このインゴットを、1150〜1250℃で3hrのソーキングの後、155mm角の四角材に熱間鍛造して、長さ600mm程度に切断し、155mm角×600mm長さのビレットとした。次に、このビレットを、155mm角×200mm長さと、155mm角×400mm長さに切断して鋼片とし、それぞれをダミービレットに溶接した。
<N固溶量>
試験片から切り出したサンプルで、前記JIS G 1228に準拠する不活性ガス融解法−熱伝導度法およびアンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法にてN固溶量を測定した。
試験片の表面から円柱の直径Dの1/4の深さの位置(以下、D/4位置)かつ軸方向中央近傍を観察できるように、供試材を円柱の軸に沿って(半円柱形状に)切断して樹脂に埋め込み、切断面をエメリー紙およびダイヤモンドバフで鏡面に研磨し、ナイタール液(3%硝酸エタノール溶液)で腐食させた。腐食面を光学顕微鏡で観察して構成組織および結晶粒を判別した。組織解析は、100倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、これらの写真に対して、画像解析ソフト(Image Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて画像を2値化して、白色の領域をフェライト相として各写真の面積率を算出し、5視野の平均値をフェライト組織分率とした。
試験片の表面から円柱のD/4位置かつ軸方向中央近傍を観察できるように、供試材を円柱の軸に沿って(半円柱形状に)切断して樹脂に埋め込み、切断面をエメリー紙およびダイヤモンドバフで鏡面に研磨した。次に、D/4位置について、自動EPMA分析(測定元素:N,Na,Mg,Al,Si,S,K,Ca,Ti,V,Cr,Mn,Fe)を行った。これにより、介在物の組成、位置、個数、介在物1個当たりの面積を、それぞれ求めた。表1には、全組織中の酸化物系介在物1個あたりの平均面積(表中、酸化物系介在物の平均面積と記す)、および、1個あたりの平均面積が0.5μm2以上の酸化物系および硫化物系介在物の個数(表中、単位面積当たりの介在物の個数と記す)を示す。
各試験片(試験片1)を、1600tプレスを用い、端面を拘束した状態で、表3に示す開始温度で、ひずみ速度10/secの冷間鍛造により試験片の軸方向に80%まで圧縮して、機械構造用部品の加工試験品(冷間鍛造材)を作製した。なお、加工ひずみ速度は、加工中(塑性変形中)のひずみ速度の平均値とした。なお、圧縮率は、機械構造用鋼の圧縮方向長をH0、圧縮後(機械構造用部品)の圧縮方向長をHとして表したとき、(H0−H)/H0×100で算出される。そして、冷間鍛造時に、1600tプレスに付属のロードセルと変位計を用いて、変位抵抗−変位曲線を記録し、この曲線における変形抵抗の最大値を最大変形抵抗とした。また、冷間鍛造により割れの発生した冷間鍛造材を「×」、割れのない冷間鍛造材を「○」として、評価した。
各試験片(試験片2)を、ドリル切削試験に供することで、切り屑処理性を評価した。
試験条件は、下記のとおりとした。
切削速度:10、15m/min
送り:0.1、0.2mm/rev
切削油:なし(乾式)
穴深さ:22(mm)未貫通穴
表4に記載の成分組成からなる供試材No.34〜48の供試鋼を調製し、この供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解して、上面:φ245mm×下面:φ210mm×長さ:480mmのインゴットに鋳造した。次に、それぞれのインゴットを鍛造(ソーキング:1250℃×3hr程度、鍛造加熱:1000℃×1hr程度)および切断し、150mm角×680mm長さの鋼片とした。この鋼片を、表4に示す温度で加熱して、φ80mmの丸棒に鍛造(熱間加工)した。さらに、この丸棒を350mm長さ程度毎に切断し、供試材とした。D/4位置からφ10mm×15mmの試験片を、また前記供試材の一部について、さらに中心部(円柱形の軸近傍)からφ20mm×30mm、φ30mm×45mmの試験片をそれぞれ切り出した。
なお、N固溶量は、前記第1実施例と同様の方法で測定した。
すなわち、供試材No.44は、N含有量が少なく、N固溶量が少ない例であり、式(1)の条件を逸脱しビッカース硬さに対して大きい変形抵抗を示している。
Claims (8)
- C:0.005〜0.045質量%、Si:0.005〜0.05質量%、Mn:0.4〜1質量%、P:0.05質量%以下、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.01〜0.06質量%、N:0.009〜0.02質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成を有し、
N固溶量は0.0085質量%以上であり、
フェライト相の組織分率が、90%以上であり、
全組織中の酸化物系介在物1個あたりの平均面積が2.5μm2以下、且つ、
1個あたりの平均面積が0.5μm2以上の酸化物系および硫化物系介在物の個数が、0.25mm2当たり70個以下であることを特徴とする機械構造用鋼。 - 前記組成がさらに、Cr:2質量%以下、およびMo:2質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下、およびV:0.2質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、B:0.005質量%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Cu:5質量%以下、Ni:5質量%以下、およびCo:5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Ca:0.05質量%以下、REM:0.05質量%以下、Mg:0.02質量%以下、Li:0.02質量%以下、Pb:0.5質量%以下、およびBi:0.5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の組成を有する合金を溶解する溶解工程と、
前記溶解工程で溶解された溶解物を鋳造する鋳造工程と、
前記鋳造工程で鋳造された鋳塊を、1000〜1200℃で圧延または鍛造することで熱間加工する熱間加工工程と、
前記熱間加工工程で熱間加工された熱間加工材を、200〜1000℃の温度域において、2.5℃/s以上の冷却速度で冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の機械構造用鋼を、開始温度200℃未満で冷間加工して製造されたことを特徴とする機械構造用部品。
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