JP5537248B2 - 機械構造用鋼、および、その製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法 - Google Patents

機械構造用鋼、および、その製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、冷間加工性に優れた機械構造用鋼、および、その機械構造用鋼の製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法に関する。
産業機械、自動車など機械構造用部品の多くは、熱間鍛造後、切削加工し、更に、高周波熱処理や浸炭処理などの表面強化処理を行うことによって製造される。このような部品製造工程では、鋼材の歩留まりが悪く、また製造工程において、多くのCOが排出される問題がある。そこで、この熱間鍛造と切削加工の工程を、冷間加工である冷間鍛造に置き換えることが要求されている。更に、機械構造部品の高精度化への要求が高まり、表面強化処理時に発生する熱ひずみを低減するため、鋼の変態温度より低い温度で表面硬さの向上が可能な軟窒化処理が利用されている。
ここで冷間加工とは、積極的に熱を付与しない室温雰囲気における加工方法のことである。この冷間加工は、熱間加工と比較して生産性が高く、しかも寸法精度および鋼材の歩留まりが共に良好な利点がある。しかしながら、JIS規格鋼(従来鋼)を熱間鍛造から冷間鍛造に置き換えても、冷間加工性が劣るため適用することができない。また、従来鋼に球状化処理を実施し、硬さを十分に下げ、冷間加工性を向上させる方法もあるが、熱処理温度が変態温度よりも低い軟窒化処理を実施しても、部品内部の硬さが冷間加工に応じた硬さにしかならず、十分な部品強度を得ることができない(浸炭処理の場合は、変態温度以上に加熱されるので、相変態によって内部硬さを向上させることができる)。このような問題に対して、各種検討がなされており、以下の従来技術がある。
特許文献1では、冷間加工性と短時間の軟窒化処理時間で、優れた硬さ特性を有する軟窒化用鋼が開示されている。本発明では、鋼中のNを極力低減し、Al、Cr、Vのフェライト中への窒化物の析出を抑制し、軟窒化処理時に侵入するNと結合させ、表面硬さを向上させている。特許文献2では、鋼中のCを低減し、大部分を加工性に優れるフェライト相とした組織とし、Nbによって強度を高めている。Nbの添加量を調整し、冷間加工後の硬さが上がり過ぎないように調整している。
特許文献3では、熱間圧延状態(冷間加工前)の強度を低く調整することで、冷間加工性を向上させ、軟窒化時にCuを時効析出させることで表面硬さと内部硬さを両立させる技術が開示されている。特許文献4では、フェライト単相組織にTi、Nb、Moを固溶させ、冷間加工後の窒化処理工程にて、Ti、Moの複合炭化物を微細析出させ、内部硬さを向上させる技術が開示されている。
特開平9−71841号公報 特開2000−212683号公報 特開2002−69571号公報 特開2004−3010号公報
しかし、従来の機械構造用鋼では、以下に示すような問題点が存在している。
特許文献1に記載の発明では、冷鍛性を重視しているため、芯部硬さが低くなるように設計されていることから、部品としての強度特性を満足させることができない。特許文献2に記載の発明では、特許文献1と同様に、冷鍛性を重視しているため、部品としての強度特性を満足することが困難である。
特許文献3に記載の発明では、冷間加工性と軟窒化による強化を両立できるものの、Cu単独では、熱間圧延時に割れが発生しやすく、Niを複合添加する必要があるため、コストアップの弊害がある。特許文献4に記載の発明では、軟窒化処理中に微細析出物を析出させるため、軟窒化処理温度を550〜700℃と高めに設定しなければならない。そのため、熱ひずみの影響が顕著となり、部品の精度を低下させてしまう。
すなわち、従来技術では、冷間加工性を重視すると、内部硬さを確保することができず、一方、冷間加工性と内部硬さを両立するためには、軟窒化中に時効強化が必要であり、コストアップ、あるいは、部品精度の低下が懸念されるという問題が生じる。
本発明は、前記した問題点に鑑み創案したものであり、冷間加工性に優れると共に、加工部品の部品硬さを向上させることができる機械構造用鋼、その製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、冷間加工性と部品強度(内部硬さ)を両立することができ、且つ、軟窒化中に時効強化を必要としない機械構造用鋼、および、その製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法を提供すべく、以下の事項について検討を行った。
機械構造用鋼においては、固溶Nを所定量以上含有することで、加工時に動的ひずみ時効が発生し、転位の増殖が顕著となる。一方、冷間加工後には、冷間加工時に導入された転位が、加工発熱によって動きやすくなった固溶Nによって固着されることで、静的ひずみ時効分の強化が付与され、加工硬化分以上に強度を増加させることができる。ここで、動的ひずみ時効によって変形能が劣化することが考えられたが、フェライト単相であれば、組織全体が同時に硬化するため、硬さの不均一が発生せず、結果として、冷間加工性は損なわれない。
ただし、固溶Nを活用した静的ひずみ時効による強化は、再び熱が加わることによって、固溶Nが転位から離脱し、転位が動きやすくなると強化能が失われてしまう。そのため、固溶Nの拡散を抑制する必要がある。MnはNの活量を低下させ、Nの移動度を低下させる作用があり、一定以上の添加によって雰囲気温度が増加しても、Nは転位から離脱しにくくなる。その結果、温度が増加しても、強度を低下しないことが明らかとなった。すなわち、本鋼材を軟窒化処理(窒化処理)に適用することで、内部硬さと表面硬さを両立した機械構造用部品とすることができる。
つまり、本発明の機械構造用鋼は、C:0.005〜0.06質量%、Si:0.01〜0.1質量%、Mn:1.2〜3.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.005〜0.05質量%、Cr:0.3〜3.0質量%、Al:0.005〜0.1質量%、N:0.008〜0.02質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物から成る組成を有し、N固溶量は0.008〜0.02質量%であり、組織中のセメンタイト相分率が2%以下で、残部がフェライト相であり、前記フェライト相の平均結晶粒径が10〜100μmであることを特徴とする。
かかる構成によれば、Cを所定量含有することで、冷間加工性が向上し、Si、Alを所定量含有することで、これらの脱酸作用により溶製時のガス欠陥の発生が防止され、さらにMnを所定量含有することで、Mnの脱硫作用によりMnがSと結合して、鋼材の変形能が向上するとともに、固溶Nによる時効強化分の熱軟化が抑制される。また、Pを所定量以下に抑制することで、変形能の劣化や変形抵抗の増加が抑制され、Sを所定量含有することで、変形能と被削性のバランスが良好となり、Crを所定量含有することで、軟窒化処理性が向上し、軟窒化処理後の表面硬さが確保される。そして、Nを所定量含有することで、Nが鋼中に固溶して、冷間加工後に所望の部品強度を得るために必要な量の固溶Nとなり、固溶Nの量であるN固溶量(固溶N量)を所定量含有することで、冷間加工後の部品強度が確保される。また、組織中のセメンタイト相分率を所定以下とすることで、冷間加工中の変形抵抗の増加が抑制されると共に、フェライト相とセメンタイトの界面における割れの発生が抑制され、フェライト相の平均結晶粒径を所定範囲とすることで、変形能が劣化することなく変形抵抗が低減する。
また、前記機械構造用鋼において、前記組成がさらに、任意成分として、Mo:1質量%以下を含有してもよく、また、Cu:5質量%以下、およびNi:5質量%以下のうち1種以上を含有してもよく、さらには、Ca:0.02質量%以下、REM:0.02質量%以下、Mg:0.01質量%以下、Li:0.01質量%以下のうち1種以上を含有してもよい。
かかる構成によれば、Moを所定量含有することで、加工後硬さと変形能が向上し、CuおよびNiのうち1種以上を所定量含有することで、鋼材が固溶あるいは析出強化し、加工後の部品強度が向上する。また、Ca、REM、MgおよびLiのうち1種以上を所定量含有することで、MnS等の硫化化合物系介在物が球状化し、鋼の変形能が高まると共に、被削性が向上する。
さらに、本発明の機械構造用鋼の製造方法は、前記記載の機械構造用鋼の製造方法であって、前記組成の鋼を、1000〜1200℃に加熱する加熱工程と、前記加熱した後に800℃以上の温度で熱間圧延または熱間鍛造する熱間加工工程と、前記熱間圧延または熱間鍛造した後に0.5〜3℃/sの冷却速度で600℃以下まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする。
かかる手順によれば、前記した所定成分の鋼を、所定の温度範囲で加熱することでAlNが分解し、所定の温度範囲で熱間圧延または熱間鍛造することでAlNが析出することがない。また、所定の温度範囲まで冷却することでAlNが析出せずにフェライトが十分に成長する。そして、これらにより固溶Nが所定量確保される。
また、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法としては、前記記載の機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法であって、前記組成の鋼を、1000〜1200℃に加熱する加熱工程と、前記加熱した後に800℃以上の温度で熱間圧延または熱間鍛造する熱間加工工程と、前記熱間圧延または熱間鍛造した後に0.5〜3℃/sの冷却速度で600℃以下まで冷却する冷却工程と、前記冷却して形成した機械構造用鋼を、室温で冷間加工する冷間加工工程と、前記冷間加工した後に窒化処理を行う窒化処理工程と、を含むことを特徴とする。
かかる手順によれば、前記した所定成分の鋼を、所定の温度範囲で加熱することでAlNが分解し、所定の温度範囲で熱間圧延または熱間鍛造することでAlNが析出することない。また、所定の温度範囲まで冷却することでAlNが析出せずにフェライトが十分に成長する。そして、これらにより固溶Nが所定量確保される。さらに、室温で冷間加工することで、冷間加工時に導入された転位が、加工発熱によって動きやすくなった固溶Nによって固着され、静的ひずみ時効分の強化が付与される。そして、冷間加工を施した部品を軟窒化処理することで、内部硬さと表面硬さを両立した加工部品が得られる。
本発明の機械構造用鋼、機械構造用鋼の製造方法、および、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法は、以下に示す優れた効果を奏するものである。
機械構造用鋼は、冷間加工によって歯車、プーリー、クランクシャフト、等速ジョイント、コンロッド、トランスミッションギヤ等の部品を製造する時、軟窒化処理前は優れた冷間加工性を有するため、冷間加工時に割れが発生せず、歩留まりが向上し、軟窒化処理後は浸炭処理材と同等以上の強度特性を有するので、部品を軽量化、高強度化することができる。
機械構造用鋼の製造方法では、冷間加工性および強度に優れた機械構造用鋼を製造することができる。
機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法では、これまで熱間加工と切削によって加工されていた歯車、プーリー、クランクシャフト、等速ジョイント、コンロッド、トランスミッションギヤ等の部品を冷間加工によって製造することができ、部品製造工程におけるCOの排出量を削減することができる。さらに、浸炭処理材と同等以上の強度特性を有する加工部品とすることができる。そのため、軽量化、高強度化した加工部品を製造することができる。
以下、本発明に係る機械構造用鋼、および、その製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法について説明する。
≪機械構造用鋼≫
機械構造用鋼は、所定量のC、Si、Mn、P、S、Cr、Al、Nを必須成分として含有し、残部がFe及び不可避的不純物から成る組成を有する。さらに必要に応じて、任意成分として他の成分を含有してもよい。そして、N固溶量が所定量であり、組織中のセメンタイト相分率が2%以下で、残部がフェライト相であり、前記フェライト相の平均結晶粒径が10〜100μmである構成を備えている。
以下、機械構造用鋼の構成における成分と組織について説明する。
はじめに機械構造用鋼の必須成分について説明する。
(C:0.005〜0.06質量%)
Cは、冷間加工時の変形抵抗および変形能に大きな影響を及ぼす元素である。C量は低ければ低いほど冷間加工性が向上するが、0.005質量%未満となると、溶製時にガスが発生し、欠陥が増えるため、冷間加工性が逆に劣化する。一方、Cが0.06質量%を超える場合、パーライトを形成しやすくなり、変形抵抗の増加および変形能の劣化を招く。なお、Cの好ましい下限量は、0.01質量%であり、また、より好ましくは0.015質量%である。そして、Cの好ましい上限量は、0.055質量%であり、より好ましくは0.050質量%である。
(Si:0.01〜0.1質量%)
Siは、溶製中の脱酸元素として有効であるため、0.01質量%以上添加する必要がある。ただし、Siはフェライト相を固溶強化させるため、添加量の増加に伴い、変形抵抗の増大、変形能の低下を生じさせる。Si量が0.1質量%を超えると、Siによる固溶強化の影響が顕著に現れ始め、冷間加工時に割れが発生しやすくなる。一方、Si量が0.01質量%未満になると、脱酸の効果が十分に発揮されず、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなる。なお、Siの好ましい下限量は、0.012質量%であり、また、より好ましくは0.015質量%である。そして、Siの好ましい上限量は、0.08質量%であり、また、より好ましくは0.06質量%である。
(Mn:1.0超〜3.0質量%)
Mnは、溶製中の脱酸、脱硫元素として有効であり、また、Sと結合することで鋼材の変形能を向上させるのに有効である。また、固溶Nによる時効強化分の熱軟化を抑制するため、1.0質量%を超えて添加する必要がある。ただし、Mn量が3.0質量%を超えると、固溶強化の影響が顕著に増大するため、変形抵抗の増大、変形能の劣化を招く。一方、Mn量が1.0質量%以下になると、軟窒化処理後の内部硬さが低下しやすくなるため、部品強度の劣化を招く。なお、Mnの好ましい下限量は、1.1質量%であり、また、より好ましくは1.2質量%である。そして、Mnの好ましい上限量は、2.8質量%であり、また、より好ましくは2.5質量%である。
(P:0.05質量%以下(0質量%を含まない))
Pは不可避的に不純物として含有する元素であるが、P量が0.05質量%を超えると、Pがフェライト粒界に偏析し、変形能を劣化させる。また、Pはフェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。従って、変形能の観点からは極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招く。したがって、Pの下限量は、特に定めないが、低いほど良い。ただし、0質量%とすることは製造上困難である。そして、Pの好ましい上限量は、0.04質量%であり、また、より好ましくは0.03質量%である。
(S:0.005〜0.05質量%)
Sは不可避的に不純物として含有する元素であるが、Feと結合すると、FeSとして粒界上に膜状に析出するため、変形能を劣化させる。従って、全量をMnと結合させ、MnSとして析出させる必要がある。ただし、S量が0.05質量%を超えると、MnSの析出量が増え、変形能が劣化する。一方、Sの極端な低減は被削性を劣化させるので、0.005質量%以上が必要である。変形能と被削性のバランスを考慮した好ましい上下限量は以下のとおりである。すなわち、Sの好ましい下限量は、0.007質量%であり、また、より好ましくは0.01質量%である。そして、Sの好ましい上限量は、0.04質量%であり、また、より好ましくは0.03質量%である。
(Cr:0.3〜3.0質量%)
Crは軟窒化処理性を高める作用を有しており、軟窒化処理後の表面硬さを確保するためには、0.3質量%以上含有させる必要がある。ただし、3.0質量%を超えると、Crによる固溶強化の影響が顕著になり、変形抵抗を増大させるだけで、軟窒化硬化層への効果が飽和する。一方、Cr量が0.3質量%未満になると、軟窒化処理後の表面硬さが確保できず、また鋼中への窒素の侵入が不十分となり、窒化層深さが十分ではなくなる。なお、Crの好ましい下限量は、0.4質量%であり、また、より好ましくは0.5質量%である。そして、Crの好ましい上限量は、2.8質量%であり、また、より好ましくは2.5質量%である。
(Al:0.005〜0.1質量%)
Alは、溶製中の脱酸元素として有効であり、0.005質量%以上添加する必要がある。ただし、Al量が0.1質量%を超えると、熱間加工中に固溶Nと結合しやすくなり固溶N量を減少させるため、冷間加工後に所望の強度が得られなくなる。一方、Al量が0.005質量%未満になると、溶製中の脱酸が不十分となり、ガス欠陥が生じやすくなるだけではなく、AlNによる結晶粒の整粒効果が失われるため、結晶粒が粗大化しやすくなる。そのため、割れが生じやすくなる。なお、Alの好ましい下限量は、0.008質量%であり、また、より好ましくは0.01質量%である。そして、Alの好ましい上限量は、0.08質量%であり、また、より好ましくは0.06質量%である。
(N:0.008〜0.02質量%)
Nは、冷間加工後に所望の部品強度を得るために必要な固溶Nを確保するため、所定量添加する必要がある。冷間加工時に変形抵抗をあまり増加させずに部品強度を大きく増加させ、所望の部品強度を得るための固溶N量(N固溶量)は0.008質量%以上である。N量が0.02質量%を超えると、動的ひずみ時効の影響が顕著となり、変形能が劣化し始めるため、冷間加工後に割れが生じやすくなる。また、N量が0.008質量%未満となると、必要とされる部品強度を得るための固溶N量を確保することができない。なお、Nの好ましい下限量は、0.0085質量%であり、また、より好ましくは0.009質量%である。そして、Nの好ましい上限量は、0.018質量%であり、また、より好ましくは0.016質量%である。
(N固溶量:0.008〜0.02質量%)
固溶Nは冷間加工後の部品強度を確保するために重要な元素である。固溶N量が0.008質量%未満では、加工直後に十分な部品強度を確保することができない。一方、固溶N量が0.02質量%を超えると、動的ひずみ時効の影響が顕著となり、変形能を劣化させ、割れが生じやすくなる。
固溶N量の値は、JIS G 1228に準拠し、鋼中の全N量から全N化合物における窒素量(すなわち、化合物N量)を差し引くことで算出する。
鋼中の全N量の算出は、不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いる。すなわち、供試鋼素材からサンプルを切り出し、サンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定する。
鋼中の全N化合物における窒素量の算出は、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法を用いる。すなわち、供試鋼素材からサンプルを切り出し、10%AA系電解液(鋼表面に不働態皮膜を生成させない非水溶媒系の電解液であり、具体的には10%アセチルアセトン、10%塩化テトラメチルアンモニウム、残部:メタノール)中で、定電流電解を行なう。次に、約0.5gサンプルを溶解させ、不溶解残渣(N化合物)を穴サイズが0.1μmのポリカーボネート製のフィルタでろ過する。不溶解残渣を硫酸、硫酸カリウムおよび純Cuチップ中で加熱して分解し、ろ液に合わせる。この溶液を水酸化ナトリウムでアルカリ性にした後、水蒸気蒸留を行い、留出したアンモニアを希硫酸に吸収させる。そして、フェノール、次亜塩素酸ナトリウムおよびペンタシアノニトロシル鉄(III)酸ナトリウムを加えて青色錯体を生成させ、光度計を用いて、その吸光度を測定する。
上記の方法によって求めた鋼中の全N量から全N化合物における窒素量を差し引くことで鋼中の固溶N量を算出する。
つぎに、機械構造用鋼の任意成分について説明する。
(Mo:1質量%以下(0質量%を含まない))
Moは、加工後硬さと変形能を向上させる効果を有するので、所定量に限って選択的に添加することが可能である。Mo量が1質量%を超えると、変形抵抗が増大し、かえって変形能が低下する。Mo添加の効果を得るための下限は、0.05質量%である。なお、Moの好ましい下限量は、0.1質量%であり、また、より好ましくは0.15質量%である。そして、Moの好ましい上限量は、0.8質量%であり、また、より好ましくは0.5質量%である。
(Cu:5質量%以下、およびNi:5質量%以下(共に0質量%を含まない)のうち1種以上)
Cu、Niはいずれも鋼材を固溶あるいは析出強化させ、加工後の部品強度を向上させるのに有効である。必要に応じて、Cuを0.1質量%以上、Niを0.1質量%以上添加することが推奨される。一方、Cu、Niの添加量がそれぞれ5質量%を超えると効果が飽和し、また冷間加工時の割れも促進される。
なお、Cu、Niにおいて、前記した範囲よりさらに好ましい範囲は、以下の通りである。
Cuの好ましい下限量は、0.2質量%であり、また、より好ましくは0.3質量%である。そして、Cuの好ましい上限量は、4質量%であり、また、より好ましくは2質量%である。
Niの好ましい下限量は、0.2質量%であり、また、より好ましくは0.3質量%である。そして、Niの好ましい上限量は、4質量%であり、また、より好ましくは2質量%である。
(Ca:0.02質量%以下、REM:0.02質量%以下、Mg:0.01質量%以下、Li:0.01質量%以下(全て0質量%を含まない)のうち1種以上)
Ca、REM、Mg、Liは、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼の変形能を高めると共に、被削性向上に寄与する元素である。Ca、REMは0.0005質量%以上、Mg、Liは0.0001質量%以上含有させることが推奨される。しかしながら、過剰に添加してもその効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できず経済的に不利である。そのため、Ca、REMの上限は0.02質量%、Mg、Liの上限は0.01質量%とした。なお、希土類金属元素(REM)として具体的に、Ce,La,Nd等の元素が挙げられ、本明細書におけるREMの含有量とは、これらのすべての希土類金属元素の含有量の合計を指す。
また、Ca、REM、Mg、Liにおいて、前記した範囲よりさらに好ましい範囲は、以下の通りである。
Caの好ましい下限量は、0.001質量%であり、また、より好ましくは0.0015質量%である。そして、Caの好ましい上限量は、0.01質量%であり、また、より好ましくは0.008質量%である。
REMの好ましい下限量は、0.001質量%であり、また、より好ましくは0.0015質量%である。そして、REMの好ましい上限量は、0.01質量%であり、また、より好ましくは0.008質量%である。
Mgの好ましい下限量は、0.0003質量%であり、また、より好ましくは0.0005質量%である。そして、Mgの好ましい上限量は、0.005質量%であり、また、より好ましくは0.003質量%である。
Liの好ましい下限量は、0.0003質量%であり、また、より好ましくは0.0005質量%である。そして、Liの好ましい上限量は、0.005質量%であり、また、より好ましくは0.003質量%である。
その他の元素として、Ti、Nb、V、B、Zrは、Nと結合して、窒化化合物を形成し、結晶粒を整粒化することで冷間加工性を向上させることに寄与することができる。ただし、窒化化合物を形成することで、固溶N量を低下させ、冷間加工後に十分な部品強度を確保できなくなる。そのため、Ti、Nb、V、B、Zrを積極的に添加する場合、あるいは、不純物元素として制御しなければならない上限は、それぞれ以下のとおりである。
Tiの好ましい上限量は、0.01質量%であり、また、より好ましくは0.005質量%である。Nbの好ましい上限量は、0.01質量%であり、また、より好ましくは0.005質量%である。Vの好ましい上限量は、0.01質量%であり、また、より好ましくは0.005質量%である。Bの好ましい上限量は、0.005質量%であり、また、より好ましくは0.002質量%である。Zrの好ましい上限量は、0.005質量%であり、また、より好ましくは0.002質量%である。
前記のような窒化物を形成する元素以外の元素で不純物元素として混入する元素にOがある。Oは、鋼中に酸化物系介在物を増加させ、疲労特性を低下させる元素である。そのため、Oは、0.0025質量%以下に規制することが好ましい。更に好ましい上限量は、0.0020質量%である。
つぎに機械構造用鋼の組織の構成について説明する。
(セメンタイト相分率が2%以下(0%を含む)で、残部がフェライト相)
セメンタイト(パーライト)は、冷間加工中の変形抵抗を増加させやすく、また、フェライト相とセメンタイトの界面において、割れを生じさせる。セメンタイトは極力低減することが有効である。
セメンタイト相分率を2%以下とすることで、冷間加工中の変形抵抗の増加を抑制し、また、割れの発生を防止することができる。機械構造用鋼におけるセメンタイトの相分率は、好ましくは1.5%以下であり、また、より好ましくは1%以下である。なお、残部のフェライト相は、ポリゴナルフェライト、ベイニティックフェライト、その混在組織等の形態があげられる。
組織を判別する方法としては、光学顕微鏡での観察が一例として挙げられる。また、組織を観察する位置としては、機械構造用鋼の表面から加工部品(機械構造用部品)を製造する際の冷間加工方向(圧縮方向)の長さ(縮径して円柱形状に加工した場合は当該円柱の直径)の1/4の深さの位置が好ましく、その近傍の複数視野(例えば5視野)を観察して、得られた面積率の平均で判定することができる。具体的には、機械構造用鋼を、前記観察位置を切断面に含むように切り出して、切断面を鏡面に研磨した後、ナイタール液(3%硝酸エタノール溶液)で腐食させ、腐食面を光学顕微鏡にて400倍程度で観察し、白く見える領域がフェライト相、黒く見える領域がセメンタイト相である。組織分率を求めるには、例えば、光学顕微鏡写真上からランダムに複数点(例えば100点)を選び、各点の組織を判別して、セメンタイト相の点数の全点数に対する百分率を算出すればよい。あるいは、光学顕微鏡写真を市販の画像解析ソフトで処理して白い領域および黒い領域の面積率を求め、複数視野の平均値をセメンタイト相の面積率とし、100%からセメンタイト相の面積率を引くことによってフェライト相の面積率を算出してもよい。なお、セメンタイト相の面積率がセメンタイト相分率である。
なお、このようなセメンタイト相分率は、Cの含有量により制御する。
(フェライト相の平均結晶粒径が10〜100μm)
フェライト相の結晶粒径は、変形抵抗と変形能に影響を及ぼす。フェライト粒径を10μm以上とすることで変形能を劣化させずに変形抵抗を低減することができる。その効果は、フェライト粒径が100μmまで有効である。一方、フェライト粒径が100μmを超えると、変形能が低下し、粒界付近で割れが生じやすくなる。また、フェライト粒径が10μm未満の場合は、冷間加工中に転位が増殖しやすくなり、固溶Nによる動的ひずみ時効の影響が顕著となり、変形抵抗が増加しやすい。なお、フェライト相の結晶粒径の好ましい上限値は、90μmであり、また、より好ましくは80μmである。そして、フェライト相の結晶粒径の好ましい下限値は、15μmであり、また、より好ましくは20μmである。
フェライトの結晶粒は、前記の組織の判別と同じ位置の複数視野を観察位置として、組織の判別と同様にナイタール液で腐食させた切断面を光学顕微鏡にて400倍程度で観察することによって検出することができる。結晶粒径を求めるには、例えば、光学顕微鏡写真に直線を引き、この直線と交差する結晶粒界の数をカウントし、この結晶粒界の数で直線の長さを割れば、当該光学顕微鏡写真上の結晶粒の平均粒径を算出できる。
なお、前記したような平均結晶粒径は、成分組成(Al、N等)、加熱温度、熱間圧延(鍛造)温度、冷却速度等により制御する。
≪機械構造用鋼の製造方法≫
つぎに、本発明の機械構造用鋼の製造方法について説明する。
機械構造用鋼の製造方法は、前記記載の機械構造用鋼の製造方法であって、加熱工程と、熱間加工工程と、冷却工程と、を含むものである。
以下、各工程について説明する。
<加熱工程>
加熱工程は、前記組成の鋼を、1000〜1200℃に加熱する工程である。
まず、1000℃以上の温度に加熱することでAlNを分解して、固溶N量を確保する。加熱温度が1000℃未満の場合には、AlNを十分分解することができず、その後の熱処理工程によっても固溶N量を確保することができない。一方、温度が高ければ高いほど、AlNの分解が促進されるが、1200℃を超えると、AlNの分解に対する効果が飽和するだけでなく、ビレットの端部が熱変形してしまう問題が生じることがある。したがって、加熱温度は1200℃を上限とした。
<熱間加工工程>
熱間加工工程は、前記加熱した後に800℃以上の温度で熱間圧延または熱間鍛造する工程である。
すなわち、AlNが析出しないように800℃以上で熱間圧延または熱間鍛造による熱間加工を行う。熱間加工の温度が800℃未満となると、AlNが再び析出し始め、固溶Nを所定範囲とすることが困難になる。一方、熱間加工の温度が高すぎると、加熱工程と同様にビレットの熱変形の問題が生じるため、1200℃未満とすることが好ましい。
<冷却工程>
冷却工程は、前記熱間圧延または熱間鍛造した後に0.5〜3℃/sの冷却速度で600℃以下まで冷却する工程である。
AlNが析出せず、フェライトが十分成長でき、固溶Nが所定量確保できるように600℃まで0.5〜3℃/sの冷却速度で冷却する。
圧延後の冷却速度が0.5℃/s未満となると、冷却中にAlNが再び析出し始め、固溶N量を所定範囲とすることが困難になる。一方、3℃/sを超えると、フェライトが微細化しやすくなるため、変形抵抗が増加しやすくなる。600℃より低い温度まで、この条件で冷却してもよいが、600℃まで冷却速度を制御すれば、それ未満の温度域での冷却速度がどのような条件でも、組織変化およびAlNの析出は生じないため、600℃未満の温度域での冷却速度は、生産工程に合わせて適宜調整することができる。
このようにして製造された機械構造用鋼は、軟窒化処理前は冷間加工性に優れ、軟窒化処理後は浸炭処理材と同等以上の強度特性を有する加工部品となる高強度軟窒化用鋼である。
≪機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法≫
つぎに、本発明の機械構造用鋼を用いた加工部品(機械構造用部品)製造方法(以下、加工部品製造方法という)について説明する。
加工部品製造方法は、前記記載の機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法であって、加熱工程と、熱間加工工程と、冷却工程と、冷間加工工程と、窒化処理工程と、を含むものである。また、冷間加工工程の後、窒化処理工程の前に、機械加工工程を含んでもよい。
以下、各工程について説明する。なお、加熱工程、熱間加工工程、および、冷却工程については、前記機械構造用鋼の製造方法での各工程と同様であるため、ここでは説明を省略し、冷間加工工程、機械加工工程、窒化処理工程について説明する。
<冷間加工工程>
冷間加工工程は、前記冷却して形成した機械構造用鋼を、室温で冷間加工する工程である。
室温で冷間加工することで、冷間加工時に導入された転位が、加工発熱によって動きやすくなった固溶Nによって固着され、静的ひずみ時効分の強化が付与される。これにより加工硬化分以上に強度を増加させることができる。
冷間加工は、例えば、室温で、ひずみ速度10/secの冷間鍛造により機械構造用鋼の軸方向に80%まで圧縮することにより行うことができる。なお、加工ひずみ速度は、加工中(塑性変形中)のひずみ速度の平均値とする。なお、圧縮率は、機械構造用鋼の圧縮方向長をH0、圧縮後(機械構造用部品)の圧縮方向長をHとして表したとき、(H0−H)/H0×100で算出される。
<機械加工工程>
機械加工工程は、前記冷間加工した後、機械加工を施す工程である。
機械加工により、冷間加工を施した機械構造用鋼の形状を整えたり、所定の寸法にしたりすることで、所定の部品の形状とする。ただし、冷間加工ままで部品形状を成す場合は、この機械加工工程を省略することができる。機械加工の方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法で行えばよい。
<窒化処理工程>
窒化処理工程は、前記冷間加工した後(前記機械加工した場合は機械加工した後)に窒化処理(軟窒化処理)を行う工程である。
窒化処理としては、例えばプラズマ軟窒化処理を挙げることができる。
プラズマ軟窒化処理の条件の一例としては、加熱温度が500〜600℃、保持時間が1〜10hr、雰囲気として、N:20〜80体積%、H:20〜80体積%、C:0.1〜3体積%、加圧条件が100〜500Pa、冷却条件として、Nガスによる復圧冷却とする窒化処理が挙げられる。
このようにして製造された加工部品(機械構造用部品)は、本発明の機械構造用鋼を用いているため、浸炭処理材と同等以上の強度特性を有し、内部硬さと表面硬さを両立したものとなる。
本発明に係る機械構造用鋼の製造方法および加工部品製造方法は、以上説明したとおりであるが、本発明を行うにあたり、前記各工程に悪影響を与えない範囲において、前記各工程の間あるいは前後に、例えば、加熱工程の前に行う鍛造工程や、鋳塊や熱間加工材等を切断する切断工程や、ごみ等の不要物を除去する不要物除去工程等、他の工程を含めてもよい。
以上説明したように、本発明の冷間加工性に優れた機械構造用鋼は、(1)Cを所定量以下としていること、(2)フェライトの結晶粒径を規定していること、(3)固溶Nを所定量の範囲で含有させていること、(4)Mn、Crの添加量を所定範囲としていること、を特徴としている。
すなわち、(1)、(2)によって、変形抵抗および冷間加工性に影響を及ぼすパーライトの生成を抑制し、固溶Nによって動的ひずみ時効が発生しても、十分な変形能を確保することができる。一方、(3)によって、冷間加工後の部品強度を高めることができる。更に(4)によって、軟窒化後の表面硬さを高めることができ、且つ、固溶Nによる強化分を時効軟化させないので、軟窒化処理後も内部硬さが低下することがない。したがって、本鋼材は、冷間加工性に優れ、且つ、表面硬さと内部硬さを所定以上に高めた、機械構造用部品とすることができる。
また、従来は内部硬さを高めるため、軟窒化処理中に時効強化させていたが、本発明では、冷間加工中に時効強化させた鋼材に軟窒化処理を実施するため、従来技術とは思想が異なっている。軟窒化処理中に時効強化させる場合には、最適硬さを得るための処理温度、時間を最適に制御しなければならないが、本鋼材のように、予め内部硬さを確保しておけば、軟窒化処理条件を自由に選択することができる。
以下、本発明の実施例について、比較例と比較して具体的に説明する。
表1〜3に記載の成分組成からなる供試材No.1〜81の供試鋼を調製し、この供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解して、上面:φ245mm、下面:φ210mm×長さ480mmのインゴットに鋳造した。このインゴットを、1000〜1200℃で3hrのソーキングをした後、155mm角の四角材に熱間鍛造して、長さ600mm程度に切断し、155mm角×600mm長さのビレットとした。
次に、表1〜3に示す供試材No.1〜71については、このビレットを、ダミービレット(155mm角×9〜10m長さ)に溶接し、ダミービレットごと、表1〜3に示す温度域まで加熱した後、表1〜3に示す熱間加工温度(熱間圧延温度)に冷却し、φ80mmの丸棒に熱間圧延した。その後、表1〜3に示す冷却速度で所定温度(冷却制御温度)まで冷却し、熱間圧延材を作製した。
また、表3に示す供試材No.72〜81については、このビレットを、表3に示す温度域まで加熱した後、表3に示す熱間加工温度(熱間鍛造温度)に冷却し、φ80mmの丸棒に熱間鍛造した。その後、表3に示す冷却速度で所定温度(冷却制御温度)まで冷却し、熱間鍛造材を作製した。
さらに、N固溶量、セメンタイト相分率、フェライト相の平均結晶粒径等について、以下の方法により測定した。これらの結果を表1〜3に示す。なお、表中、成分を含有しないものについては「−」で示し、本発明の範囲を満たさないものについては、数値に下線を引いて示す。また、表中、REMは、ここではCeである。
<N固溶量>
供試材から切り出したサンプルで、前記JIS G 1228に準拠する不活性ガス融解法−熱伝導度法で算出した全N量から、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法で算出した全N化合物における窒素量を差し引いてN固溶量を測定した。
<セメンタイト相分率、および、フェライト結晶粒径>
前記それぞれの丸棒材(熱間圧延材、熱間鍛造材)の表面から円柱の直径の1/4の深さの位置かつ軸方向中央近傍を観察できるように、供試材を円柱の軸に沿って(半円柱形状に)切断して樹脂に埋め込み、切断面をエメリー紙およびダイヤモンドバフで鏡面に研磨し、ナイタール液(3%硝酸エタノール溶液)で腐食させた。腐食面を光学顕微鏡で観察して構成組織および結晶粒を判別した。組織解析は、400倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、これらの写真に対して、画像解析ソフト(Image Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて画像を2値化して、白色の領域をフェライト相、黒色の領域をセメンタイト相とし、黒色の領域の面積率における5視野の平均値をセメンタイト相の面積率とした。そして、100%からセメンタイト相の面積率を引くことによってフェライト相の面積率を算出した。フェライト相の結晶粒径の測定は、400倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、写真に直線を引き、この直線と交差する結晶粒界の数をカウントして結晶粒径の平均値を算出し、さらに5視野の平均値を平均粒径とした。
Figure 0005537248
Figure 0005537248
Figure 0005537248
これらの供試材(熱間圧延材および熱間鍛造材)について、最大変形抵抗(MPa)を測定すると共に、冷間加工性について評価を行った。
<冷間加工性の評価、および、最大変形抵抗>
表1〜3に示す供試材No.1〜81の中心部から、φ40mm×60mmの試験片を切り出した。この試験片を、1600tプレスを用い、端面を拘束した状態で、室温で、ひずみ速度10/secの冷間鍛造により試験片の軸方向に80%まで圧縮して、機械構造用部品の加工試験品(冷間鍛造材)を作製した。なお、加工ひずみ速度は、加工中(塑性変形中)のひずみ速度の平均値とした。なお、圧縮率は、機械構造用鋼の圧縮方向長をH0、圧縮後(機械構造用部品)の圧縮方向長をHとして表したとき、(H0−H)/H0×100で算出される。そして、冷間鍛造時に、1600tプレスに付属のロードセルと変位計を用いて、変位抵抗−変位曲線を記録し、この曲線における変形抵抗の最大値を最大変形抵抗とした。また、割れのない冷間鍛造材を冷間加工性に優れるものとして「○」、冷間鍛造により割れの発生した冷間鍛造材を冷間加工性に劣るものとして「×」と評価した。
次に、冷間鍛造後の加工試験品(冷間鍛造材)を使用し、表4に示す条件で窒化処理(プラズマ軟窒化処理)を実施した。
Figure 0005537248
なお、窒化処理条件は、代表的な条件を示したものであり、加熱・保持温度条件は600℃までであれば、内部硬さを低下させることなく、表面硬さ、硬化層深さを向上させることができる。600℃を超える場合、長時間窒化処理を施すと静的ひずみ時効の効果が劣化してくるため、15分以内の短時間処理に限られる。
次に、窒化処理後の加工試験品について、窒化後特性として、部品硬さ(内部硬さおよび表面硬さ)と、硬化層深さを調べた。
<内部硬さ>
得られた各加工試験品について、窒化処理後の強度(内部硬さ)として、冷間鍛造材のビッカース硬さを測定した。冷間鍛造材の円柱形の軸(冷間鍛造試験片の軸)に沿って切断して樹脂に埋め込んで試料として調整し、荷重を1000gとして、冷間鍛造材の円柱形の軸方向中央における直径の1/4位置の左右3点ずつ計6点のビッカース硬さ(Hv)を測定した。そしてこれらの平均値を内部硬さとした。
<表面硬さおよび硬化層深さ>
同様にJIS G 0562、JIS G 0563に準拠して、それぞれ表面硬さ(ビッカース硬さ(Hv))、硬化層深さ(mm)を調べた。
内部硬さが270(Hv)以上、表面硬さが700(Hv)以上、硬化層深さが0.1(mm)以上のいずれも満たすものを窒化後特性に優れたものとして「○」、いずれか1つ以上を満たさないものを窒化後特性に劣るものとして「×」と評価した。
これらの試験結果において、冷間加工性、窒化後特性のいずれも優れたものを、総合判定を「○」と表示した。一方、冷間加工性、窒化後特性のいずれか一方でも劣ったものを、総合判定を「×」と表示した。これらの結果を表5、6に示す。
Figure 0005537248
Figure 0005537248
表5、6に示すように、供試材No.1〜49、72〜81は、本発明の範囲を満たすため、あるいは、参考例のため、総合判定が「○」であった。一方、供試材No.50〜71は、本発明の範囲を満たさないため、総合判定が「×」であった。具体的には、以下のとおりである。
No.50は、熱間加工温度が下限値未満のため、N固溶量が下限値未満となり、内部硬さが低下した。No.51は、冷却速度が下限値未満のため、N固溶量が下限値未満となり、内部硬さが低下した。No.52は、冷却速度が上限値を超えるため、フェライト相の平均結晶粒径が下限値未満となり、割れが発生した。No.53は、冷却制御温度が上限値を超えるため、N固溶量が下限値未満となり、内部硬さが低下した。
No.54は、C含有量が下限値未満のため、割れが発生した。No.55は、C含有量が上限値を超えるため、セメンタイト相分率が上限値を超え、割れが発生した。No.56は、Si含有量が下限値未満のため、割れが発生した。No.57は、Si含有量が上限値を超えるため、割れが発生した。
No.58は、Mn含有量が下限値未満のため、内部硬さが低下した。No.59は、Mn含有量が上限値を超えるため、割れが発生した。No.60は、P含有量が上限値を超えるため、割れが発生した。No.61は、S含有量が上限値を超えるため、割れが発生した。No.62は、Cr含有量が下限値未満のため、表面硬さが低下し、窒化層深さが不十分であった。No.63は、Cr含有量が上限値を超えるため、割れが発生した。
No.64は、Al含有量が下限値未満のため、フェライト相の平均結晶粒径が上限値を超え、割れが発生した。No.65は、Al含有量が上限値を超えるため、N固溶量が下限値未満となり、内部硬さが低下した。No.66は、N含有量が下限値未満のため、N固溶量が下限値未満となり、内部硬さが低下した。No.67は、N含有量が上限値を超えるため、割れが発生した。
No.68は、Si含有量が下限値未満であり、N含有量、N固溶量が上限値を超えるため、割れが発生した。No.69は、C含有量、Si含有量、セメンタイト相分率が上限値を超えるため、割れが発生した。また、Al含有量が上限値を超え、Mn含有量、N含有量、N固溶量が下限値未満のため、内部硬さが低下した。No.70は、Mn含有量、N含有量、N固溶量が下限値未満のため、内部硬さが低下した。No.71は、成分はNo.2と同じものであるが、加熱温度が1000℃未満であったため、N固溶量が下限値未満となり、内部硬さが低下した。
なお、No.69、70の機械構造用鋼は、それぞれ、特許文献1、特許文献2に記載された従来の機械構造用鋼を想定したものである。本実施例で示すように、これら従来の機械構造用鋼は、前記の評価において一定の水準を満たさないものである。従って、本実施例によって、本発明に係る機械構造用鋼が従来の機械構造用鋼と比較して、優れていることが客観的に明らかとなった。
以上、本発明に係る機械構造用鋼、および、その製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法について実施の形態および実施例を示して詳細に説明したが、本発明の趣旨は前記した内容に限定されるものではない。なお、本発明の内容は、前記した記載に基づいて広く改変・変更等することができることはいうまでもない。

Claims (6)

  1. C:0.005〜0.06質量%、Si:0.01〜0.1質量%、Mn:1.2〜3.0質量%、P:0.05質量%以下、S:0.005〜0.05質量%、Cr:0.3〜3.0質量%、Al:0.005〜0.1質量%、N:0.008〜0.02質量%を含有し、残部がFe及び不可避的不純物から成る組成を有し、
    N固溶量は0.008〜0.02質量%であり、
    組織中のセメンタイト相分率が2%以下で、残部がフェライト相であり、
    前記フェライト相の平均結晶粒径が10〜100μmであることを特徴とする機械構造用鋼。
  2. 前記組成がさらに、Mo:1質量%以下を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼。
  3. 前記組成がさらに、Cu:5質量%以下、およびNi:5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機械構造用鋼。
  4. 前記組成がさらに、Ca:0.02質量%以下、REM:0.02質量%以下、Mg:0.01質量%以下、Li:0.01質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
  5. 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機械構造用鋼の製造方法であって、
    前記組成の鋼を、1000〜1200℃に加熱する加熱工程と、前記加熱した後に800℃以上の温度で熱間圧延または熱間鍛造する熱間加工工程と、前記熱間圧延または熱間鍛造した後に0.5〜3℃/sの冷却速度で600℃以下まで冷却する冷却工程と、を含むことを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。
  6. 請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法であって、
    前記組成の鋼を、1000〜1200℃に加熱する加熱工程と、前記加熱した後に800℃以上の温度で熱間圧延または熱間鍛造する熱間加工工程と、前記熱間圧延または熱間鍛造した後に0.5〜3℃/sの冷却速度で600℃以下まで冷却する冷却工程と、前記冷却して形成した機械構造用鋼を、室温で冷間加工する冷間加工工程と、前記冷間加工した後に窒化処理を行う窒化処理工程と、を含むことを特徴とする機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法。
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