JP5308922B2 - 機械構造用鋼、および、その製造方法、並びに、機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法 - Google Patents
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Description
特許文献1では、セメンタイトフリーとするため、C含有量がAe1点におけるフェライト相の炭素の固溶限以下とする必要がある。その理由として、固溶限以上のCが存在すると300〜800℃の温間加工時に固溶Cがセメンタイトとして析出し、加工性を劣化させるからである。つまり、特許文献1の鋼材では、過飽和の固溶Cを得ることができず、また、Nは有害不純物として扱うことになり、不可避的混入含有量制限をしなければならなかった。
SiとNの相互作用では、Siが置換型、Nが侵入型の固溶体を形成するため、点在するSiで固溶Nをトラップしなければならなかった。そこで、同じ侵入型の固溶体であれば、より多くの固溶Nをトラップできると考えた。その侵入型固溶体にはCが考えられる。
機械構造用鋼は、冷間加工によってボルト・ナット、ピニオンギヤ、ステアリングシャフト、バルブリフター、コモンレール等を連続操業で製造する時、加工後の加工部品硬さも維持できるので、軽量化、高強度化することができる。
機械構造用鋼の製造方法は、これまで熱間加工によって加工されていたクランクシャフト、コンロッド、トランスミッションギヤ等の部品を冷間加工によって製造することができ、部品製造工程におけるCO2の排出量を削減することができる。
機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法では、連続操業時に雰囲気温度が上昇しても安定して部品を製造することができ、また、加工後の加工部品硬さも室温加工以上とすることができる。
機械構造用鋼は、C:0.025〜0.065質量%、Si:0.005〜0.03質量%、Mn:0.4〜1質量%、P:0.05質量%以下(0%を含まない)、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.005〜0.06質量%、N:0.009〜0.013質量%を必須成分とし、残部はFeおよび不可避的不純物から成る組成、あるいは、その組成に所定の任意成分を加えた組成を有している。そして、機械構造用鋼は、組織中のN固溶量(固溶状態としてのN)が0.008〜0.012質量%であり、組織中のセメンタイト相分率が2%以下(0%を含む)で、残部がフェライト相であり、そのフェライト相の平均結晶粒径が5〜20μmで、且つ、フェライト結晶粒の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が2以上となる構成を備えている。
はじめに機械構造用鋼の必須成分について説明する。
(C:0.025〜0.065質量%)
機械構造用鋼に含有されるCは、フェライト中に過飽和固溶させるため、所定量添加する必要がある。過飽和に固溶したCは、侵入型固溶体として固溶Nと近接した位置に存在し、特に連続操業時の動的ひずみ時効による変形抵抗の顕著な増加を抑制することができる。Cの含有量が0.025質量%未満になると、連続操業時の動的ひずみ時効抑制効果が失われ、変形抵抗の顕著な増加と加工性の劣化を招いてしまう。
なお、Cの好ましい下限量は、0.028質量%であり、また、より好ましくは0.03質量%である。そして、Cの好ましい上限量は、0.06質量%であり、より好ましくは0.05質量%である。
Siは、機械構造用鋼の溶製中の脱酸に有効な元素であり、また、セメンタイトの成長を抑制する働きもあるため、0.005質量%以上添加する必要がある。ただし、Siはフェライト相を固溶強化させるため、添加量の増加に伴い、変形抵抗の増大、変形能の劣化を生じさせる。Siの含有量が0.03質量%を超えると、変形抵抗の増大、変形能の劣化の傾向が顕著に見られはじめ、割れが生じやすくなる。一方、Siの含有量が0.005質量%未満になると、脱酸の効果が発揮されず、溶製時にガス欠陥が発生しやすくなり、そこを起点に割れが生じやすくなる。なお、Siの好ましい下限量は、0.007質量%であり、また、より好ましくは0.01質量%である。そして、Siの好ましい上限量は、0.027質量%であり、また、より好ましくは0.025質量%である。
Mnは、機械構造用鋼の溶製中の脱酸、脱硫に有効な元素であり、また、連続操業時の動的ひずみ時効による変形能の劣化を抑制する働きがある。さらに、Sと結合することで鋼材の変形能を向上させることにも有効であるため、0.4質量%以上添加する必要がある。ただし、Mnの含有量が1質量%を超えると、固溶強化による変形抵抗が顕著に増大するため、逆に変形能を劣化させ、割れが生じやすくなる。一方、Mnの含有量が0.4質量%未満になると、変形能が劣化し、割れが生じやすくなる。なお、Mnの好ましい下限量は、0.42質量%であり、また、より好ましくは0.45質量%である。そして、Mnの好ましい上限量は、0.98質量%であり、また、より好ましくは0.95質量%である。
Pは不可避的に不純物として含有する元素であるが、含有量が0.05質量%を超えると、Pはフェライト粒界に偏析し、変形能を劣化させ、割れを生じやすくさせる。また、Pはフェライトを固溶強化させ、変形抵抗を増大させる。従って、変形能の観点からは極力低減することが望ましいが、極端な低減は製鋼コストの増加を招く。したがって、Pの下限量は、特に定めないが、低いほど良い。ただし、0質量%とすることは製造上困難である。そして、Pの好ましい上限量は、0.04質量%であり、また、より好ましくは0.03質量%である。
Sは、不可避的に不純物として含有する元素であるが、Feと結合すると、FeSとして粒界上に膜状に析出し、変形能を劣化させる。従って、全量をMnと結合させ、MnSとして析出させる必要がある。ただし、Sの含有量が0.05質量%を超えると、MnSの析出量が増え、MnSの析出量が増えると、変形能が劣化し、割れが生じやすくなる。一方、Sの極端な低減は被削性を劣化させるので、0.005質量%以上が推奨される。変形能と被削性のバランスを考慮した好ましい上下限量は以下のとおりである。すなわち、Sの好ましい下限量は、0.007質量%であり、また、より好ましくは0.01質量%である。そして、Sの好ましい上限量は、0.04質量%であり、また、より好ましくは0.03%である。
Alは、機械構造用鋼の溶製中の脱酸に有効な元素であり、0.005質量%以上添加する必要がある。また、熱間圧延(鍛造)および冷却時に、固溶Nと結合し、AlNとして析出することで、フェライト粒の整粒化にも有効である。ただし、Alの含有量が0.06質量%を超えると、熱間圧延(鍛造)中あるいは、その後の冷却中に固溶Nと結合しやすくなり固溶N量を減少させるので、加工後に所望の部品強度を得ることができなくなる。また、AlNによる結晶粒微細化効果および整粒化効果が顕著に現れることによって、フェライト相の平均結晶粒径、アスペクト比が小さくなる。一方、Alの含有量が0.005質量%未満になると、溶製中の脱酸が不十分となり、ガス欠陥が生じやすくなり、そこを起点に割れが生じやすくなる。なお、Alの好ましい下限量は、0.007質量%であり、また、より好ましくは0.01質量%である。そして、Alの好ましい上限量は、0.05質量%であり、また、より好ましくは0.04質量%である。
本発明に係る機械構造用鋼において、N(窒素)は鋼中に固溶して、後記するように機械構造用鋼を室温〜250℃における雰囲気温度で加工を行った後の部品強度を向上させる効果を有する。ただし、Nの含有量が0.009質量%未満になると、このN固溶量を十分に得られない。一方、Nの含有量が0.013質量%を超えると、N固溶量(固溶N量)が過剰になって、変形能を劣化させる。なお、Nの好ましい下限量は、0.0095質量%であり、また、より好ましくは0.01質量%である。そして、Nの好ましい上限量は、0.0125質量%であり、また、より好ましくは0.012質量%である。
鋼中の全N量の算出は、不活性ガス融解法−熱伝導度法を用いる。すなわち、供試鋼素材からサンプルを切り出し、サンプルをるつぼに入れ、不活性ガス気流中で融解してNを抽出し、熱伝導度セルに搬送して熱伝導度の変化を測定する。
上記の方法によって求めた鋼中の全N量から全N化合物における窒素量を差し引くことで鋼中の固溶N量を算出する。
(Cr:2質量%以下、およびMo:2質量%以下(共に0質量%を含まない)のうち1種以上)
Cr、Moは、ともに加工後硬さと変形能を向上させる効果を有するので、所定量に限って選択的に添加することが可能である。Cr、Moの含有量が2質量%を超えると、変形抵抗が増大し、かえって変形能が劣化する。Cr、Moの添加の効果を得るための下限量は、Crが0.1質量%、Moが0.04質量%である。なお、Cr好ましい下限量は、0.2質量%であり、また、より好ましくは0.3質量%である。そして、Crの好ましい上限量は、1.5質量%であり、また、より好ましくは1質量%である。さらに、Moの好ましい下限量は、0.04質量%であり、また、より好ましくは0.12質量%である。そして、Moの好ましい上限量は、1.5質量%であり、また、より好ましくは1質量%である。
Ti、Nb、Vは、Nと結合することでN化合物を形成して結晶粒を整粒化し、変形能を向上させるのに有効な元素である。そこで、必要に応じて、Tiを0.001質量%以上、Nbを0.001質量%以上、Vを0.001質量%以上添加することが推奨される。一方、これらの元素は、Nとの親和力が強いため、Ti、Nb、Vを、それぞれ0.2質量%を超えて添加すると、N化合物が過剰に形成され、固溶N量が低減してしまう。なお、Tiの好ましい下限量は、0.002質量%であり、また、より好ましくは0.003質量%である。そして、Tiの好ましい上限量は、0.15質量%であり、また、より好ましくは0.1質量%である。さらに、Nbの好ましい下限量は、0.002質量%であり、また、より好ましくは0.003質量%である。そして、Nbの好ましい上限量は、0.15質量%であり、また、より好ましくは0.1質量%である。さらに、Vの好ましい下限量は、0.002質量%であり、また、より好ましくは0.003質量%である。そして、Vの好ましい上限量は、0.15質量%であり、また、より好ましくは0.1質量%である。
Bは、フェライト粒界に集まる傾向があり、Pのフェライト粒界偏析による粒界強度の低下を抑制するのに有効な元素である。Bは、必要に応じて、0.0002質量%以上添加することが推奨される。一方、Bは、Nとの親和力が強いため、添加量が0.005質量%を超えると、BNを形成し、固溶N量が低減すると共に、フェライト粒界に過剰に偏析したBNは粒界強度を低減させるので、変形能が劣化する。なお、Bの好ましい下限量は、0.0004質量%であり、また、より好ましくは0.0006質量%である。そして、Bの好ましい上限量は、0.0035質量%であり、また、より好ましくは0.002質量%である。
Cu、Ni、Coは、いずれも鋼材をひずみ時効させ、加工後の部品強度を向上させるのに有効な元素である。必要に応じて、Cuを0.1質量%以上、Niを0.1質量%以上、Coを0.1質量%以上添加することが推奨される。一方、Cu、Ni、Coの添加量がそれぞれ5質量%を超えると、効果が飽和し、また割れも促進される。なお、Cu、Ni、Coにおいて、前記した範囲よりさらに好ましい上限量および下限量は以下の通りである。
Niは、その下限量が好ましくは0.2質量%であり、より好ましくは0.3質量%である。そして、Niは、その上限量が好ましくは4質量%であり、より好ましくは3質量%である。
Coは、その下限量が好ましくは0.2質量%であり、より好ましくは0.3質量%である。そして、Coは、その上限量が好ましくは4質量%であり、より好ましくは3質量%である。
Ca、REM、Mg、Liは、MnS等の硫化化合物系介在物を球状化させ、鋼材の変形能を高めると共に、被削性向上に寄与する元素である。Ca、REMは、0.0005質量%以上、Mg、Liは、0.0001質量%以上添加することが推奨される。しかしながら、過剰に添加してもその効果が飽和し、添加量に見合う効果が期待できず経済的に不利である。そのため、Ca、REMの上限量は、0.05質量%、Mg、Liの上限量は、0.02質量%とした。
また、Pb、Biは被削性向上元素であり、0.01質量%以上添加することが推奨される。しかしながら、Pb、Biの含有量が0.5質量%を超えると、圧延疵等の製造上の問題を生じる。そのため、Pb、Biの上限は0.5質量%とした。なお、Ca、REM、Mg、Li、Pb、Biにおいて、前記した範囲よりさらに好ましい範囲は、以下の通りである。
REMは、その下限量が好ましくは0.001質量%であり、より好ましくは0.0015質量%である。そして、REMは、その上限量が好ましくは0.03質量%であり、より好ましくは0.01質量%である。
Mgは、その下限量が好ましくは0.0003質量%であり、より好ましくは0.0005質量%である。そして、Mgは、その上限量が好しくは0.01質量%であり、より好ましくは0.005質量%である。
Liは、その下限量が好ましくは0.0003質量%であり、より好ましくは0.0005質量%である。そして、Liは、その上限量が好ましくは0.01質量%であり、より好ましくは0.005質量%である。
Pbは、その下限量が好ましくは0.03質量%であり、より好ましくは0.05質量%である。そして、Pbは、その上限量が好ましくは0.4質量%であり、より好ましくは0.3質量%である。
Biは、その下限量が好ましくは0.03質量%であり、より好ましくは0.05質量%である。そして、Biは、その上限量が好ましくは0.4質量%であり、より好ましくは0.3質量%である。
(セメンタイト相分率が2%以下(0%を含む)で、残部がフェライト相)
機械構造用鋼は、連続操業中の雰囲気温度の上昇によって顕著になる動的ひずみ時効による変形抵抗の増加と加工性の劣化を抑制するためには、Cを過飽和固溶させる必要がある。固溶Cの測定方法としては、例えば、内部摩擦法が挙げられるが、セメンタイトの析出量からも、Cの固溶の有無が判断できる。通常、Cを0.025〜0.065質量%含有すると、セメンタイトが2〜6%程度生成するが、それよりもセメンタイトの相分率が低いと、その分のCが固溶していることになる。そこで、ここでは、セメンタイトの相分率によって、固溶Cの有無を判断することとした。
なお、このようなセメンタイト相分率は、Cの含有量により制御する。
機械構造用鋼では、セメンタイトの生成を抑制し、固溶Cを確保するため、フェライト相の結晶粒径を規定する必要がある。固溶Cは、結晶粒界に集まりやすい傾向がある。そのため、フェライト相の結晶粒径が20μmを超えると、数少ない粒界三重点に固溶Cが凝集し、セメンタイトを形成しやすくなる。一方、5μm未満になると、加工時の変形抵抗が増加し、変形能が劣化しはじめる。なお、フェライト相の結晶粒径の好ましい上限値は、18μm以下であり、また、より好ましくは16μm以下である。そして、フェライト相の結晶粒径の好ましい下限値は、8μmであり、また、より好ましくは10μmである。
機械構造用鋼は、連続操業にともなう雰囲気温度の上昇時において加工性を向上させるためには、フェライト結晶粒を細長く成長させ、方向性を持たせることが有効であり、長軸/短軸≧2(アスペクト比≧2)とする必要がある。細長いフェライトとは、主に粒内フェライトである。機械構造用鋼においてフェライトが細長く層状に存在することで、層間でひずみが緩和されるので、加工性が向上する。長軸と短軸の比(アスペクト比)が2未満になると、層間でひずみが緩和されず、加工性が向上する効果が得られない。一方、長軸と短軸の比(アスペクト比)があまりにも高すぎると、結晶粒微細化と同様の効果が働き、変形抵抗が増加するので、10以下とすることが推奨される。なお、アスペクト比の好ましい下限値は、2.3であり、また、より好ましくは2.5である。そして、アスペクト比の好ましい上限値は、10であり、より好ましくは5である。
前記結晶粒測定に用いたサンプルを使用し、前記の組織の判別と同じ位置の複数視野を観察位置として、組織の判別と同様にナイタール液で腐食させた切断面を光学顕微鏡にて400倍程度で観察することにより行う。次に、撮影した写真に対して、水平線、垂直線を引き、線と交差した結晶粒の最大直径(長軸)とそれに垂直な直径(短軸)を求め、長軸/短軸の比を算出し、複数視野の平均値をこのサンプルのアスペクト比(平均アスペクト比)とする。
なお、前記したような平均結晶粒径、アスペクト比は、成分組成(Al、N等)、加熱温度、熱間圧延(鍛造)温度、冷却速度等により制御する。
機械構造用鋼の製造方法は、前記した組成の鋼を、1100〜1250℃に加熱する工程と、前記加熱した後に800〜950℃の温度範囲まで冷却する工程と、前記冷却した温度で熱間圧延または熱間鍛造した後、5℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する工程と、を含む手順で行っている。
機械構造用鋼では、熱間圧延(鍛造)前に所定の温度域まで加熱することによって、AlNとセメンタイトを分解させる必要がある。未溶解AlNとセメンタイトが残存する場合、次工程で、そのAlNとセメンタイトが核となり、AlNやセメンタイトが析出しやすく、固溶Nと固溶Cが低減してしまう。セメンタイトの分解はA1点温度以上、AlNの分解は、温度が高いほど進行しやすいが、1250℃を超えると、それらの分解に対する効果が飽和するだけでなく、ビレットの端部が変形してしまう問題が生じる。また、1100℃未満になると、AlNを十分に分解することができない。なお、加熱温度は、1100〜1250℃の範囲としているが、好ましい範囲の加熱温度の下限値は、1125℃であり、また、より好ましくは1150℃である。そして、好ましい加熱温度の上限値は、1225℃であり、また、より好ましくは1200℃である。
加熱・保持後は、速やかに次工程の温度まで冷却した後、次工程を実施する。その際の冷却速度は、再びAlNが析出しないようにする必要があり、1℃/s以上の冷却速度が推奨される。冷却方法は、放冷、空冷、風冷、障壁風冷、水冷等一般的な冷却方法が用いられる。冷却速度の上限は特に規定しないが、製造条件に合わせて適宜決定すればよい。
製造工程において、1100〜1250℃の加熱から直接5℃/s以上で冷却すると、固溶Cおよび固溶Nは確保できるものの、フェライト相が細かくなりすぎてしまうので、800〜950℃まで一旦冷却してから、5℃/s以上の冷却速度で冷却する必要がある。その際、圧延(鍛造)工程で、AlNの生成による固溶Nの減少を防止するため、熱間圧延(鍛造)を実施する必要があり、800〜950℃の熱間圧延(鍛造)で、AlNの生成を防止し、結晶粒を適したサイズに制御することができる。熱間圧延(鍛造)温度が950℃を超えると、その後の冷却過程で組織が細かくなりすぎてしまうので、部品加工時の変形抵抗が増加してしまう。一方、800℃未満になると、フェライト変態が進行しすぎてしまい、結晶粒が粗大化してしまうため、セメンタイトが成長しやすく、固溶Cを確保することが困難になる。そのため、加工発熱によって100℃を超える雰囲気温度下では、動的ひずみ時効による変形抵抗の増大と変形能の劣化を抑制することができない。また、フェライト結晶粒のアスペクト比が小さくなる。なお、熱間圧延(鍛造)温度は、800〜950℃の範囲としているが、好ましい範囲の温度の下限値は、825℃であり、また、より好ましくは850℃である。そして、好ましい加熱温度の上限値は、925℃であり、また、より好ましくは900℃である。
加工部品製造方法は、前記した組成の鋼を、1100〜1250℃に加熱する工程と、前記加熱した後に800〜950℃の温度範囲まで冷却する工程と、前記冷却した温度で熱間圧延または熱間鍛造した後、5℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する工程と、前記冷却して形成した機械構造用鋼を、室温〜250℃で加工する工程と、を含む手順で行っている。
Hhot≧(DRhot+200)/2.5 ・・・(2)
Hhot≧HRT ・・・(3)
HRT:室温加工開始時の部品硬さ(Hv)
Hhot:室温での連続操業時の部品硬さ(Hv)
DRRT:室温加工開始時の最大変形抵抗(MPa)
DRhot:室温での連続操業時の最大変形抵抗(MPa)
表1、2に記載の成分組成からなる供試材No.1〜61の供試鋼を調製し、この供試鋼150kgを真空誘導炉で溶解して、上面:φ245mm、下面:φ210mm×長さ480mmのインゴットに鋳造した。このインゴットを、1200℃で3hrのソーキングをした後、155mm角の四角材に熱間鍛造して、長さ600mm程度に切断し、155mm角×600mm長さのビレットとした。
供試材から切り出したサンプルで、前記JIS G 1228に準拠する不活性ガス融解法−熱伝導度法で算出した全N量から、アンモニア蒸留分離インドフェノール青吸光光度法で算出した全N化合物における窒素量を差し引いてN固溶量を測定した。
前記それぞれの丸棒材(熱間圧延材、熱間鍛造材)の表面から円柱の直径の1/4の深さの位置かつ軸方向中央近傍を観察できるように、供試材を円柱の軸に沿って(半円柱形状に)切断して樹脂に埋め込み、切断面をエメリー紙およびダイヤモンドバフで鏡面に研磨し、ナイタール液(3%硝酸エタノール溶液)で腐食させた。腐食面を光学顕微鏡で観察して構成組織および結晶粒を判別した。組織解析は、400倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、これらの写真に対して、画像解析ソフト(Image Pro Plus、Media Cybernetics社製)を用いて画像を2値化して、白色の領域をフェライト相、黒色の領域をセメンタイト相とし、5視野の平均値をセメンタイト相の面積率とした。そして、100%からセメンタイト相の面積率を引くことによってフェライト相の面積率を算出した。フェライト相の結晶粒径の測定は、400倍で5箇所(5視野)の写真を撮影し、写真に直線を引き、この直線と交差する結晶粒界の数をカウントして結晶粒径の平均値を算出し、さらに5視野の平均値を平均粒径とした。
前記結晶粒測定に用いた丸棒材を使用し、前記の組織の判別と同じ位置の5視野を観察位置として、組織の判別と同様にナイタール液で腐食させた切断面を光学顕微鏡にて400倍程度で観察した。次に、撮影した写真に対して、水平線、垂直線を引き、線と交差した結晶粒の最大直径(長軸)とそれに垂直な直径(短軸)を求め、長軸/短軸の比を算出した。5視野の平均値を平均アスペクト比とし、ここでのアスペクト比とした。
表1、2に示す供試材No.1〜61の中心部から、φ10mm×15mmの試験片を切り出した。この試験片を、1600tプレスを用い、端面を拘束した状態で、表3、4に示す室温加工開始時の温度または連続操業時の雰囲気温度を想定した加工温度で、ひずみ速度10/secの冷間鍛造により試験片の軸方向に80%まで圧縮して、機械構造用部品の加工試験品(冷間鍛造材)を作製した。なお、加工ひずみ速度は、加工中(塑性変形中)のひずみ速度の平均値とした。なお、圧縮率は、機械構造用鋼の圧縮方向長をH0、圧縮後(機械構造用部品)の圧縮方向長をHとして表したとき、(H0−H)/H0×100で算出される。そして、冷間鍛造時に、1600tプレスに付属のロードセルと変位計を用いて、変位抵抗−変位曲線を記録し、この曲線における変形抵抗の最大値を最大変形抵抗とした。また、冷間鍛造により割れの発生した冷間鍛造材を「×」、割れのない冷間鍛造材を「○」として、評価した。
得られた各加工試験品について、冷間加工後の強度(部品硬さ)として、冷間鍛造材のビッカース硬さを測定した。冷間鍛造材の円柱形の軸(冷間鍛造試験片の軸)に沿って切断して樹脂に埋め込んで試料として調整し、荷重を1000gとして、冷間鍛造材の円柱形の軸方向中央における直径の1/4位置の左右3点ずつ計6点のビッカース硬さ(Hv)を測定した。
No.45は、熱間加工温度が下限値未満のため、セメンタイト相分率、フェライト相の平均結晶粒径が上限値を超え、アスペクト比が下限値未満となり、連続操業を想定した温度域での加工によって、割れが発生し、また、式(2)、(3)の条件を逸脱した。
No.47、48は、冷却速度が下限値未満のため、セメンタイト相分率、フェライト相の平均結晶粒径が上限値を超え、アスペクト比が下限値未満となり、割れが発生し、また、式(2)、(3)の条件を逸脱した。
No.50は、C含有量が上限値を超えるため、セメンタイト相分率が上限値を超え、フェライト相の平均結晶粒径が下限値未満となり、割れが発生し、また、式(1)、(2)、(3)の条件を逸脱した。
No.51は、C含有量が下限値未満のため、割れが発生し、また、式(2)、(3)の条件を逸脱した。
No.53は、Si含有量が上限値を超えるため、割れが発生し、また、式(1)、(2)、(3)の条件を逸脱した。
No.54は、Mn含有量が下限値未満のため、割れが発生した。
No.55は、Mn含有量が上限値を超えるため、割れが発生し、また、式(1)、(2)の条件を逸脱した。
No.57は、S含有量が上限値を超えるため、割れが発生した。
No.58は、Al含有量が下限値未満のため、割れが発生した。
No.59は、Al含有量が上限値を超えるため、N固溶量、フェライト相の平均結晶粒径、アスペクト比が下限値未満となり、割れが発生し、また、式(1)、(2)、(3)の条件を逸脱した。
No.61は、N含有量が上限値を超えるため、N固溶量が上限値を超え、割れが発生し、また、式(2)、(3)の条件を逸脱した。
Claims (8)
- C:0.025〜0.065質量%、Si:0.005〜0.03質量%、Mn:0.4〜1質量%、P:0.05質量%以下、S:0.005〜0.05質量%、Al:0.005〜0.06質量%、N:0.009〜0.013質量%を含有し、残部がFeおよび不可避的不純物から成る組成を有し、
N固溶量は0.008〜0.012質量%であり、
組織中のセメンタイト相分率が2%以下で、残部がフェライト相であり、
前記フェライト相の平均結晶粒径が5〜20μmで、且つ、フェライト結晶粒の長軸と短軸の比(長軸/短軸)が2以上であることを特徴とする機械構造用鋼。 - 前記組成がさらに、Cr:2質量%以下、およびMo:2質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Ti:0.2質量%以下、Nb:0.2質量%以下、およびV:0.2質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、B:0.005質量%以下を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Cu:5質量%以下、Ni:5質量%以下、およびCo:5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 前記組成がさらに、Ca:0.05質量%以下、REM:0.05質量%以下、Mg:0.02質量%以下、Li:0.02質量%以下、Pb:0.5質量%以下、Bi:0.5質量%以下のうち1種以上を含有することを特徴とする請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の機械構造用鋼。
- 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の機械構造用鋼の製造方法であって、
前記組成の鋼を、1100〜1250℃に加熱する工程と、前記加熱した後に800〜950℃の温度範囲まで冷却する工程と、前記冷却した温度で熱間圧延または熱間鍛造した後、5℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する工程と、を含むことを特徴とする機械構造用鋼の製造方法。 - 請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法であって、
前記組成の鋼を、1100〜1250℃に加熱する工程と、前記加熱した後に800〜950℃の温度範囲まで冷却する工程と、前記冷却した温度で熱間圧延または熱間鍛造した後、5℃/s以上の冷却速度で200℃以下まで冷却する工程と、前記冷却して形成した機械構造用鋼を、室温〜250℃で加工する工程と、を含むことを特徴とする機械構造用鋼を用いた加工部品製造方法。
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