以上のような回転ダンパは、液路を備えた堰をハウジングに設けたため、堰によってロータの回転範囲が規制されるという問題がある。また、構造が複雑であり、部品点数が多くなるという問題がある。
本発明は、以上の問題を鑑みてなされたものであって、発生する抵抗力を回転方向に応じて変化させる回転ダンパにおいて、ロータの回転範囲を任意に設定することができるようにすることを課題とする。また、回転ダンパの構造を簡素にすることを課題とする。
上記課題を解決するために、本発明は、粘性流体が封入された液室(10)を有するダンパハウジング(2)と、内端が前記液室内に回転可能に受容される一方、外端が前記ダンパハウジングから突出したロータ軸(21)及び前記ロータ軸の前記液室内に配置された部分に突設されたベーン(22)を備えたロータ(3)とを有する回転ダンパ(1)であって、前記ベーンは、前記ロータ軸から第1の方向(B)に延在し、前記ロータの軸線(A)方向から見て、前記第1の方向と直交する第2の方向(C)に対して傾斜した第3の方向(D)に沿って貫通するスロット(36)を有し、前記スロットには、前記第3の方向に沿ってスライド移動可能に弁体(40)が支持され、前記弁体は、前記ロータが回転する際に前記粘性流体から圧力を受けて前記第3の方向に沿ってスライド移動することによって、前記第1の方向に変位し、前記第1の方向において前記ベーンと前記ダンパハウジングとの間に形成される通路を開閉することを特徴とする。
この構成によれば、ロータの回転方向に応じて開閉動作する弁体がベーンに設けられているため、ロータの回転の障害となる構造体をハウジングに設けなくてよい。そのため、ロータのハウジングに対する回転範囲を任意に設定することができる。また、ベーンにスロットを形成し、スロットに弁体をスライド移動可能に支持するという簡素な構成で、回転方向に応じて抵抗力を変化する回転ダンパを構築することができる。そのため、回転ダンパの部品点数の削減が可能になる。
また、本発明の他の側面は、粘性流体が封入された液室(10)を有するダンパハウジング(2)と、内端が前記液室内に回転可能に受容される一方、外端が前記ダンパハウジングから突出したロータ軸(21)及び前記ロータ軸の前記液室内に配置された部分に突設されたベーン(22)を備えたロータ(3)とを有する回転ダンパ(1)であって、前記ベーンは、前記ロータ軸から第1の方向(B)に延在し、前記ロータの軸線(A)方向から見て、前記第1の方向と直交する第2の方向(C)に対して傾斜した第3の方向(D)に沿って貫通するスロット(36)と、前記第2の方向に貫通する液路(71)とを有し、前記スロットには、前記第3の方向に沿ってスライド移動可能に弁体(40)が支持され、前記弁体は、前記ロータが回転する際に前記粘性流体から圧力を受けて前記第3の方向に沿ってスライド移動することによって、前記液路を開閉することを特徴とする。
この構成によれば、上述した発明と同様に、回転方向に応じて抵抗力を変化する回転ダンパにおいて、ロータのハウジングに対する回転範囲を任意に設定することができるようにすると共に、構造を簡素にすることができる。
本発明の他の側面は、前記弁体は、付勢部材(44)によって、前記第3の方向の一側に付勢されていることを特徴とする。
この構成によれば、粘性流体から弁体に加わる圧力が小さいときに、付勢部材によって弁体を開位置又は閉位置のいずれかに配置することができる。
本発明の他の側面は、前記弁体は、直線状に延在して前記スロットにスライド移動可能に支持されたスライド片(88)と、前記スライド片の一端に設けられ、前記スロットよりも幅が広い閉止片(87)と、前記スライド片の他端に設けられ、前記スロットよりも幅が広い係止片(89)とを有することを特徴とする。
この構成によれば、弁体の構造を簡素にすることができる。
本発明の他の側面は、前記スロットは、前記ベーンの前記ロータ軸の軸線方向における一側の端縁に開口した溝形をなすことを特徴とする
この構成によれば、スロットへの弁体の組み付けが容易になる。
以上の構成によれば、発生する抵抗力を回転方向に応じて変化させる回転ダンパにおいて、ロータの回転範囲を任意に設定することができる。
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
図1〜3に示すように、第1実施形態に係る回転ダンパ1は、円筒形状のハウジング2と、ハウジング2内に一部が受容されたロータ3とを備えている。ハウジング2及びロータ3の軸線は、それぞれ同軸上に配置されており、回転ダンパ1の回転軸となる軸線Aと一致する。以下、軸線Aに沿った方向を軸線方向という。
ハウジング2は、円筒状の側周壁6の軸線方向における一端が底板7によって閉塞される一方、他端が開口した有底円筒形状のハウジングベース8と、ハウジングベース8の開口端を閉塞する円板状のハウジング蓋9とから構成されている。ハウジングベース8及びハウジング蓋9は樹脂から形成されている。ハウジングベース8の側周壁6の開口端には、軸線方向に突出した嵌合凸部12が全周にわたって延設されており、ハウジング蓋9の周縁部には嵌合凸部12が嵌合可能な嵌合溝13が円環状に凹設されている。ハウジングベース8とハウジング蓋9とは、嵌合凸部12が嵌合溝13に嵌合した状態で、振動溶着によって互いに接合される。これにより、ハウジング2の内部に液室10が画成される。ハウジングベース8とハウジング蓋9との結合は、振動溶着に限らず、接着剤を使用する等、公知の手法を代替してもよい。なお、ハウジングベース8とハウジング蓋9との接合は、後述するロータ3を内部に受容し、シリコーンオイル等の粘性流体が充填された後に行われる。
ハウジングベース8の側周壁6及び底板7の内面には、側周壁6の内面から径方向に沿って中心側へと延在する隔壁11が設けられている。隔壁11は、液室10を区画して、粘性流体の流れを規制する目的で配置されている。隔壁11は、他の実施形態では省略してもよい。
ハウジングベース8の底板7の外面には、軸線方向に突出するキー14が直径方向に延設されている(図3参照)。キー14は、回転ダンパ1が組み込まれる扉等の装置に対して軸線A回りに回転不能にハウジングベース8を結合する。なお、キー14に代えて、ボルト締結に使用されるフランジを底板7の周縁部に突設してもよい。
ロータ3は、樹脂を成形したものであり、円柱状のロータ軸21と、ロータ軸21に突設されたベーン22とを有している。ロータ軸21の一端である内端24は、外形が段違いに縮径されており、他端である外端25は、端面との角部が切除されて扁平形状のキーを形成している。ロータ軸21の内端24は、ハウジングベース8の底板7の中央部に形成された断面円形状の有底孔である軸受孔27に軸線A回りに回転可能に嵌合している。ロータ軸21の外端25は、ハウジング蓋9の中央部に形成された断面円形状の貫通孔である軸受孔28に軸線A回りに回転可能に支持されると共に、その先端はハウジング蓋9の外方に突出している。このようにして、ロータ軸21は、ハウジング2に対して回転可能に支持されている。ロータ軸21の外端25には、回転を減衰すべきギヤ等の回転部材が回転不能に結合される。
図3に示すように、ハウジング蓋9の軸受孔28の内端側には、段違いに拡径された孔であるOリング収容部29が形成されている。ロータ軸21のOリング収容部29に対応する部分の外周面には、Oリング31が嵌め付けられており、Oリング収容部29とロータ軸21との間がシールされている。
ベーン22は、略四角形の板状に形成され、ロータ軸21の径方向に沿って延在している。このベーン22のロータ軸21の径方向に沿う延在方向を第1の方向Bとする。また、ベーン22は、軸線A方向にも延在している。ベーン22の主面となる正面33と背面34とは、第1の方向Bと軸線A方向とに直交する第2の方向Cに対して直交している。図2に示すように、ベーン22の第1の方向Bにおける突出端とハウジングベース8の側周壁6の内面との間には空隙が形成されている。この空隙は、粘性流体が通過可能な通路32となる。
ベーン22には、正面33から背面34へと貫通するスロット36が形成されている。スロット36は、軸線A方向から見て(平面視で)、第2の方向Cと所定の角度θをなす第3の方向Dに沿って延在している。角度θは、0°より大きく、かつ90°より小さく設定され、30°〜80°であることが好ましく、40°〜60°であることがより好ましい。また、スロット36は、軸線A方向に沿って延在し、ベーン22のロータ軸21の外端25側に対応する端部に開口している。換言すると、スロット36は、ベーン22のロータ軸21の外端25側に対応する端部から軸線A方向に凹設された溝といえる。
スロット36には、弁体40が支持されている。弁体40は、スロット36を第3の方向Dに沿って貫通するように配置された板状のスライド片41を備えている。スライド片41のベーン22の正面33側に突出した端部には板状の受圧板42が設けられ、スライド片41のベーン22の背面34側に突出した端部には閉止板43が設けられている。受圧板42及び閉止板43は、互いに平行かつ正面33及び背面34と平行となるように、スライド片41の延在方向、すなわち第3の方向Dに対して傾斜してスライド片41に結合されている。
スライド片41が第3の方向Dに沿ってスロット36内を正面33側に変位する際には、受圧板42及び閉止板43は第2の方向Cにおいて正面33側に変位すると共に、第1の方向Bにおいてロータ軸21側に変位する。閉止板43はスロット36よりも大きいため、スライド片41の第3の方向Dに沿った正面33側への変位は、閉止板43がベーン22の背面34に当接することによって規制される。一方、スライド片41が第3の方向Dに沿ってスロット36内を背面34側に変位する際には、受圧板42及び閉止板43は第2の方向Cにおいて背面34側に変位すると共に、第1の方向Bにおいてベーン22の径方向における外端側に変位する。受圧板42はスロット36よりも大きいため、スライド片41の第3の方向Dに沿った背面34側への変位は、受圧板42がベーン22の正面33に当接することによって規制される。以上のようにして、弁体40は、脱離しないように、スロット36にスライド移動可能に支持されている。
ロータ軸21とベーン22の正面33との境界部分には、正面33と所定の角度αをなして突出する薄片状の付勢板44が突設されている。付勢板44は、可撓性を有して板ばねとして機能するように、薄く形成されている。角度αは、例えば30°〜60°である。付勢板44は、その突出端が受圧板42のベーン22の正面33と対向する面に当接し、弁体40をスロット36から正面33側に突出する方向へと付勢している。そのため、ロータ3が回転しておらず静止している初期状態においては、弁体40は閉止板43がベーン22の背面34に接触した状態に維持されている(図2参照)。
以上のように構成した回転ダンパ1の作用及び効果について以下に説明する。図2に示すように、ロータ3が回転していない初期状態においては、弁体40は、付勢板44によって付勢され、閉止板43がベーン22の背面34に接触している。初期状態では、閉止板43の第1の方向Bに沿った側周壁6側の側縁部46は、側周壁6に接触しておらず、ベーン22の外端と側周壁6の内面との間の通路32は開放されている。
図2に示すように、ロータ3が軸線A回りの反時計回りの正転方向(図中の白色矢印51の方向)に回転する際には、閉止板43は粘性流体にベーン22の背面34側へと押圧され、初期状態における弁体40のベーン22に対する相対位置を維持する。そのため、通路32は開放された状態に維持され、粘性流体は通路32を通過して流動することができる。
図4に示すように、ロータ3が軸線A回りの時計回りの負転方向(図中の白色矢印52の方向)に回転する際には、受圧板42が、粘性流体にベーン22の正面33側へと押圧され、付勢板44の付勢力に抗して受圧板42が正面33側に変位する。これにより、弁体40は、第3の方向Dに沿って背面34側に突出する方向に変位する。閉止板43は、第3の方向Dに沿って背面34から離間する方向に変位することによって、第1の方向Bにおいてハウジングベース8の側周壁6側へと変位し、側縁部46が側周壁6の内面に接触する。これにより、通路32は閉止板43(弁体40)に閉塞されて、粘性流体の通路32を通過する流動が阻害される。そのため、ロータ3の負転時(図4参照)には、正転時(図2参照)よりも、粘性流体が流動し難く、ロータ3の回転抵抗が増大する。すなわち、回転ダンパ1が生じる抵抗力が増大する。
本実施形態に係る回転ダンパ1は、ベーン22に形成したスロット36に弁体40を摺動可能に支持させることによって構成したため、構造が簡素である。また、隔壁11を省略することで、ロータ3は正転及び負転方向において360°以上の回転が可能である。
次に、図5を参照して第2実施形態に係る回転ダンパ70について説明する。回転ダンパ70は、第1実施形態に係る回転ダンパ1と比較して、付勢板44が省略された点と、ベーン22に液路71を形成した点が異なる。回転ダンパ70において、回転ダンパ1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
回転ダンパ70のベーン22には、正面33と背面34とを連通するように貫通する液路71が形成されている。すなわち、液路71は第2の方向Cにベーン22を貫通している。液路71は、ロータ3が正転方向(図中の白色矢印51の方向)に回転し、粘性流体に押圧されて閉止板43がベーン22の背面34に当接した状態(図5中に実線で示す状態)において、開放されている。すなわち、液路71は弁体40に閉塞されない。一方、液路71は、ロータ3が負転方向(図中の白色矢印52の方向)に回転し、粘性流体に押圧されて受圧板42がベーン22の正面33に当接した状態(図5中に破線で示す状態)において、受圧板42(弁体40)によって閉塞される。このように、ロータ3の回転方向に応じて液路71が開閉されるため、粘性流体の流動態様が変化し、ロータ3に加わる抵抗力、すなわち回転ダンパ70が発生する抵抗力が変化する。
次に、第3実施形態に係る回転ダンパについて説明する。第3実施形態に係る回転ダンパは、第1実施形態に係る回転ダンパ1と比較して、ベーン22に形成されたスロット81の形状と、ベーン22に追加された液路82と、弁体83の形状とが異なる。第3実施形態に係る回転ダンパにおいて、回転ダンパ1と同様の構成については、同一の符号を付して説明を省略する。
図6に第3実施形態に係るロータ3及び弁体83の斜視図を示す。第3実施形態に係るロータ3は、ベーン22に正面33と背面34とを連通するスロット81を有している。また、ベーン22には、スロット81に近接して正面33と背面34とを連通する液路85が形成されている。
弁体83は、板状の閉止板87と、閉止板87の中央部から閉止板87と直交する方向に突設された柱状体88とを有している。柱状体88の先端には、可撓性を有する突片である係止爪89が形成されている。係止爪89の突出長さは、スロット81の幅よりも大きく形成されている。柱状体88は、係止爪89を撓わせつつスロット81に挿入され、挿入が完了した後には、係止爪89がスロット81の孔縁に引っ掛かることによってスロット81に抜去不能に支持される。柱状体88はスロット81の長さに比べて長く、柱状体88はスロット81に延在方向(第2の方向C)に変位可能に支持されている。これにより、弁体83の閉止板87はスロット81の延在方向に変位し、液路85の正面33側の端部を開閉する。弁体83は、回転ダンパ1、70と同様に、ロータ3の回転に応じて閉止板87が粘性流体から圧力を受けることによって変位する。
以上で具体的実施形態の説明を終えるが、本発明は上記実施形態に限定されることなく幅広く変形実施することができる。上記の実施形態で示した弁体及びスロットの形状は例示であり、様々な形状を適用し得る。また、付勢板44は、ロータ軸21と一体である必要はなく、独立した板ばねをベーン22と弁体40との間に介装するようにしてもよい。