本発明は、アルカリ金属を含む基体の表面上又は表面層中に、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質の組み合わせを配置して当該基体を保護することにより、基体表面からのアルカリ金属の溶出を防止乃至低減し、また、二酸化炭素等のアルカリ金属反応性物質を基体表面上で除去乃至無害化することができる。したがって、基体表面におけるアルカリ金属化合物の形成を防止乃至低減することができる。したがって、本発明は、基体表面におけるアルカリ金属化合物の形成を回避して基体表面への白色物質の付着を防止又は低減することができる。また、本発明は、基体表面からのアルカリ金属の溶出を防止乃至低減するので、当該基体が電極等と接触した場合であってもアルカリ金属と電子との結合を回避して良好な電子制御性を維持することができる。
更に、本発明は、基体の光透過性を高めて基体の光学特性を向上させることをも可能とする。
本発明の対象となる基体はアルカリ金属を含む限り特に限定されるものではなく、各種の、親水性又は疎水性の無機系基体及び有機系基体、或いは、それらの組み合わせを使用することができる。アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等が挙げられる。
無機系基体としては、例えば、ソーダライムガラス、無アルカリガラス、石英ガラス、耐熱ガラス等の透明若しくは半透明ガラス、又は、インジウムスズ酸化物(ITO)等の金属酸化物からなる基体、及び、シリコン若しくは金属等が挙げられる。また、有機系基体としては、例えば、プラスチックからなる基体が挙げられる。プラスチックをより具体的に例示すると、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ボリカーボネート、アクリル樹脂、PET等のポリエステル、ポリアミド、ABS樹脂、ポリ塩化ビニル等の熱可塑性樹脂、及び、ポリウレタン、メラミン樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。耐熱性の点では無機系基体が好ましく、樹脂、金属又はガラス製の基体が好ましい。特に、基体の少なくとも一部若しくは全部が光透過性であることが好ましい。したがって、基体は少なくとも一部若しくは全部がガラス製であることが好ましい。なお、有機系基体の材質としては熱硬化性樹脂が好ましく、硬化物が光透過性のものが好ましい。
基体の形状は特に限定されるものではなく、立方体、直方体、球形、シート形、繊維状等の任意の形状をとることができる。なお、基体は多孔質であってもよい。基体表面はコロナ放電処理又は紫外線照射処理等によって親水性化されていてもよい。基体表面は平面及び/又は曲面を備えていてもよく、また、エンボス加工されていてもよいが、平滑性を有することが好ましい。
基体の表面は塗装されていてもよく、塗装材としては、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、紫外線硬化樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、含成樹脂エマルジョン等の合成樹脂と着色剤とを含有するいわゆるペンキ塗料を好適に使用することができる。
前記塗装膜の厚みは0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、特に、0.5μm〜10μmが好ましい。また、塗装手段としては、例えば、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等が適用できる。なお、塗装膜の硬度、基体との密着性等の物理的性能を向上させるために、基体及び塗装膜の許容範囲内で加熱することが望ましい。
本発明で使用される正電荷物質は、正電荷を有する物質であれば、特に限定されるものではないが、
(1)陽イオン;
(2)正電荷を有する導電体又は誘電体;並びに
(3)正電荷を有する導電体、及び、誘電体又は半導体、の複合体
からなる群から選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
前記陽イオンとしては、特に限定されるものではないが、カルシウム等のアルカリ土類金属のイオン;アルミニウム、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銅、マンガン、タングステン、ジルコニウム、亜鉛、コバルト等の金属元素のイオンが好ましく、特に銅イオンが好ましい。更に、メチルバイオレット、ビスマルクブラウン、メチレンブルー、マラカイトグリーン等のカチオン性染料、第4級窒素原子含有基により変性されたシリコーン等のカチオン基を備えた有機分子も使用可能である。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1〜4価の陽イオンが使用可能である。
前記金属イオンの供給源として、金属塩を使用することも可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛、炭酸バリウム等の各種の金属塩が挙げられる。更に、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化クロム、水酸化インジウム等の金属水酸化物、ケイタングステン酸等の水酸化物、又は、油脂酸化物等の酸化物も使用可能である。
正電荷を有する導電体又は誘電体としては、上記の陽イオン以外の、正電荷が発生した導電体又は誘電体を挙げることができ、例えば、使用される導電体は耐久性の点から金属が望ましく、アルミニウム、錫、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銅、マンガン、タングステン、ジルコニウム、亜鉛、コバルト等の金属や酸化金属が挙げられる。また、これらの金属の複合体又は合金も使用することができる。導電体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状、薄片状、繊維状等の任意の形状をとることができる。
導電体としては、一部の金属の金属塩も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第2金、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛等の各種の金属塩が例示できる。また、水酸化インジウム、ケイタングステン酸等の水酸化物又は酸化物等も使用可能である。
正電荷を有する誘電体としては、例えば、摩擦により正に帯電した羊毛、ナイロン等の誘電体が挙げられる。
次に、前記複合体によって正電荷を付与する原理を図1に示す。図1は図示を省略する基体の表面上又は表面層中に、導電体−誘電体又は半導体−導電体の組み合わせを配列した概念図である。導電体は、内部に自由に移動できる自由電子が高い濃度で存在することによって、表面に正電荷状態を有することができる。なお、導電体として陽イオンを含む導電性物質を使用することも可能である。
一方、導電体に隣接する誘電体又は半導体は、導電体の表面電荷状態の影響により誘電分極される。この結果、導電体に隣接する側には負電荷が、また、非隣接側には正電荷が誘電体又は半導体に発生する。これらの作用により導電体−誘電体又は半導体−導電体の組み合わせの表面は正電荷を帯びることとなり、基体表面に正電荷が付与される。前記複合体のサイズ(複合体を通過する最長軸の長さをいう)は1nmから100μm、好ましくは1nmから10μm、より好ましくは1nmから1μm、より好ましくは1nmから100nmの範囲とすることができる。
本発明において使用される複合体を構成する導電体は耐久性の点から金属が望ましく、アルミニウム、錫、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、銅、マンガン、白金、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属が挙げられる。また、これらの金属の酸化物や複合体又は合金も使用することができる。導電体の形状は特に限定されるものではなく、粒子状、薄片状、繊維状等の任意の形状をとることができる。
導電体としては、一部の金属の金属塩も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第1及び第2錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第1及び第2アンチモン、塩化第1及び第2鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第1セリウム、四塩化セレン、塩化第2銅、塩化マンガン、塩化第2白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第2金、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛、リン酸鉄リチウム等の各種の金属塩が例示できる。また、水酸化アルミニウム、水酸化鉄、水酸化クロム等の上記導電体金属の水酸化物、並びに、酸化亜鉛等の上記導電体金属の酸化物も使用可能である。
導電体としては、ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリチオフェンビニロン、ポリイソチアナフテン、ポリアセチレン、ポリアルキルピロール、ポリアルキルチオフェン、ポリ−p−フェニレン、ポリフェニレンビニロン、ポリメトキシフェニレン、ポリフェニレンスルファイド、ポリフェニレンオキシド、ポリアントラセン、ポリナフタレン、ポリピレン、ポリアズレン等の導電性高分子も使用可能である。
半導体としては、例えば、C、Si、Ge、Sn、GaAs、Inp、GeN、ZnSe、PbSnTe等があり、半導体酸化金属や光半導体金属、光半導体酸化金属も使用可能である。好ましくは、酸化チタン(TiO2)の他に、ZnO、SrTiOP3、CdS、CdO、CaP、InP、In2O3、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe2O3、Ta2O3、WO3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS3、InSb、RuO2、CeO2等が使用されるが、電荷物質等の組合せで光触媒能を不活性化したものが望ましい。
誘電体としては、強誘電体であるチタン酸バリウム(PZT)いわゆるSBT、BLTや次に挙げる PZT、PLZT―(Pb、La)(Zr、Ti)O3、SBT、SBTN―SrBi2(Ta、Nb)2O9、BST―(Ba、Sr)TiO3、LSCO―(La、Sr)CoO3、BLT、BIT―(Bi、La)4Ti3O12、BSO―Bi2SiO5等の複合金属が使用可能である。また、有機ケイ素化合物であるシラン化合物、シリコーン化合物、いわゆる有機変性シリカ化合物、また、有機ポリマー絶縁膜アリレンエーテル系ポリマー、ベンゾシクロブテン、フッ素系ポリマーパリレンN、またはF、フッ素化アモルファス炭素等の各種低誘電材料も使用可能である。
本発明で使用される負電荷物質は、負電荷を有する物質であれば、特に限定されるものではないが、
(4)陰イオン;
(5)負電荷を有する導電体又は誘電体;
(6)負電荷を有する導電体、及び、誘電体又は半導体、の複合体;
(7)光触媒機能を有する物質
からなる群から選択される1種又は2種であることが好ましい。
前記陰イオンとしては、特に限定されるものではないが、フッ化物イオン、塩化物イオン、ヨウ化物イオン等のハロゲン化物イオン;水酸化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン等の無機系イオン;酢酸イオン等の有機系イオンが挙げられる。イオンの価数も特に限定されるものではなく、例えば、1〜4価の陰イオンが使用可能である。
負電荷を有する導電体又は誘電体としては、上記の陰イオン以外の、負電荷が発生した導電体又は誘電体を挙げることができ、例えば、金、銀、白金、スズ、セリウム等の金属;石墨、硫黄、セレン、テルル等の元素;硫化ヒ素、硫化アンチモン、硫化水銀等の硫化物;粘土、ガラス粉、石英粉、石綿、澱粉、木綿、絹、羊毛等;コンジョウ、インジゴ、アニリンブルー、エオシン、ナフトールイエロー等の染料のコロイドが挙げられる。これらの中でも金、銀、白金、スズ等の金属のコロイドが好ましく、特に銀コロイドがより好ましい。この他に、既述した各種の導電体からなる電池の負電極、並びに、負に帯電したテフロン(登録商標)、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリエステル等の誘電体が挙げられる。
半導体としては既述したものを使用することができる。
光触媒機能を有する物質としては、特定の金属化合物を含んでおり、光励起により当該層表面の有機及び/又は無機化合物を酸化分解する機能を有するものを使用することができる。光触媒の原理は、特定の金属化合物が光励起により、空気中の水又は酸素からOH−やO2 −のラジカル種を発生させ、このラジカル種が有機及び/又は無機化合物を酸化還元分解することであると一般的に理解されている。
前記金属化合物としては、代表的な酸化チタン(TiO2)の他、ZnO、SrTiOP3、CdS、CdO、CaP、InP、In2O3、CaAs、BaTiO3、K2NbO3、Fe2O3、Ta2O5、WO3、NiO、Cu2O、SiC、SiO2、MoS3、InSb、RuO2、CeO2等が知られている。
光触媒機能を有する物質は光触媒性能が向上する金属(Ag、Pt)を含んでいてもよい。また、金属塩等の各種物質を、光触媒機能を失活させない程度の範囲で含むことできる。前記金属塩としては、例えば、アルミニウム、錫、クロム、ニッケル、アンチモン、鉄、銀、セシウム、インジウム、セリウム、セレン、銅、マンガン、カルシウム、白金、タングステン、ジルコニウム、亜鉛等の金属塩があり、それ以外にも一部の金属或いは非金属等については水酸化物又は酸化物も使用可能である。具体的には、塩化アルミニウム、塩化第一及び第二錫、塩化クロム、塩化ニッケル、塩化第一及び第二アンチモン、塩化第一及び第二鉄、硝酸銀、塩化セシウム、三塩化インジウム、塩化第一セリウム、四塩化セレン、塩化第二銅、塩化マンガン、塩化カルシウム、塩化第二白金、四塩化タングステン、オキシ二塩化タングステン、タングステン酸カリウム、塩化第二金、オキシ塩化ジルコニウム、塩化亜鉛等の各種金属塩が例示できる。また、金属塩以外の化合物としては、水酸化インジウム、ケイタングステン酸、シリカゾル、水酸化カルシウム等が例示できる。
前記の光触媒機能を有する物質は、励起状態においてはその物質表面の物理的吸着水や酸素からOH−(水酸化ラジカル)、O2 −(酸素化ラジカル)を吸着させて、その表面は陰イオンの特性を有しているが、そこに正電荷物質を共存させると、その濃度比に合せて、いわゆる光触媒活性は低下もしくは喪失する。しかし、本発明では、光触媒機能を有する物質が汚染物質に対して酸化分解作用をする必要はないので、負電荷物質として使用できる。
図2は、基体表面又は基体表面層中に正電荷及び負電荷の両方を付与する一つの態様を示す概念図であり、誘電体又は半導体−負電荷を有する導電体−誘電体又は半導体−正電荷を有する導電体の組み合わせを基体表面に設けた例である。図2に示す負電荷を有する導電体及び正電荷を有する導電体としては、既述したものを使用することができる。
図2に示すように、負電荷を有する導電体に隣接する誘電体又は半導体は、導電体の表面電荷状態の影響により誘電分極される。この結果、負電荷を有する導電体に隣接する側には正電荷が、また、正電荷を有する導電体に隣接する側には負電荷が誘電体又は半導体に発生する。これらの作用により図2に示す誘電体又は半導体−導電体−誘電体又は半導体−導電体の組み合わせの表面は正電荷又は負電荷を帯びることとなる。前記導電体と誘電体又は半導体との複合体のサイズ(複合体を通過する最長軸の長さをいう)は1nmから100μm、好ましくは1nmから10μm、より好ましくは1nmから1μm、より好ましくは1nmから100nmの範囲とすることができる。また、正もしくは正負電荷表面を形成する導電体及び誘電体、又は、半導体を含む複合体の場合の組成材比率は微細粒子又は容積比として1:1〜1:20が望ましい。
図3は、基体表面又は基体表面層中に正電荷及び負電荷を付与する他の態様を示す概念図である。
図3では、負電荷を有する導電体と正電荷を有する導電体とが隣接し、正電荷及び負電荷が接触消滅等して少ない状態である。なお、負電荷を有する導電体及び正電荷を有する導電体としては、既述したものを使用することができる。
本発明では、基体がアルカリ金属を含むが、基体表面上又は基体表面層中に正電荷物質が存在するので、正電荷同士の静電的な反発により、アルカリ金属が基体表面から溶出することを回避することができる。したがって、空気中又は水中の二酸化炭素、塩素等とアルカリ金属が反応して、Na2CO3、NaHCO3、NaCl等のアルカリ金属化合物が基体表面で形成することを防止乃至低減することができる。
ところで、二酸化炭素、並びに、酸素、オゾン、ハロゲン等は、負電荷を有するか、或いは、負の電気を帯びることがある。例えば、二酸化炭素はそれ自体が負に帯電可能であるが、更に、炭酸イオン(CO3 −)として存在でき、当該イオンは負電荷を有する。以下、これらの負電荷を有する分子又は負に帯電可能な分子を「負性分子」と称する。
本発明では、基体表面上又は基体表面層中に正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質の組み合わせを配置することによって、これらの負性分子を基体に吸着させる工程を経て除去又は無害化する。これにより、基体表面においてアルカリ金属と負性分子が反応することを回避することができる。
例として、負性分子である二酸化炭素が正電荷を帯びる基体に吸着されて除去される機構を図4に示す。
図4に示す態様では、基体表面に既述した正電荷物質を配置することにより、基体表面に正電荷を付与する(図4−(1))。
負性分子である二酸化炭素は負の電気を帯びているので、基体表面上の正電荷によって静電的に引きつけられて、基体表面上に吸着される(図4−(2)及び図4−(3))。
風雨等の物理的な流体の作用により、二酸化炭素は基体表面から離脱する(図4−(3))。ここでの流体とは、剪断力の大きさに応じて連続的に変形する物質を意味しており、気体又は液体が流体にあたる。典型的には、流体は、水又は空気であるが、必要に応じて、他の液体又は気体、或いは、水と他の液体との混合物、又は、空気と他の気体との混合物を基体表面に吹付けてもよい。
次に、負性分子である二酸化炭素が正電荷及び負電荷を帯びる基体に吸着されて除去される機構を図5に示す。
図5に示す態様では、基体表面に既述した正電荷物質及び負電荷物質を配置することにより、基体表面に正電荷及び負電荷を付与する(図5−(1))。
負性分子である二酸化炭素は負の電気を帯びているので、基体表面上の正電荷によって静電的に引きつけられて、基体表面上に吸着される(図5−(2)及び図5−(3))。一方、基体表面上の負電荷部分には二酸化炭素は吸着されない。したがって、基体表面の二酸化炭素吸着量の点では、基体表面上に正電荷のみが存在する方が好ましいと思われるが、実際には、正電荷のみより正と負の両方の電荷を有する場合の方が二酸化炭素の吸着量が多いという現象がある。
図4の場合と同じく、風雨等の物理的な流体の作用により、二酸化炭素は基体表面から離脱する(図5−(3))。ここでの流体とは、上記のとおりである。
これらの方法により、基体表面から離脱した二酸化炭素は例えば水に溶解した状態で土壌、河川、海等に吸収される。これらの方法では、基体表面に吸着された二酸化炭素は速やかに基体上から除去されるので、基体表面におけるアルカリ金属との反応が防止乃至低減される。
基体表面からの二酸化炭素等の離脱を効率的に行うために、基体表面は水平面に対して傾斜していることが好ましい。この場合の傾斜角は大きい方が好ましいが、流水を雨水に頼る場合は、基体表面が傾斜することでより効率的な雨水の被水により吸着物の離脱効果が大きいため、基体表面が水平・垂直に対し1/100以上、望ましくは1/50さらには1/20以上の傾き勾配を持って設置されることが望ましい。
次に、酸素、オゾン、ハロゲン、フッ素化合物、塩素化合物、窒素酸化物、硫黄酸化物、又は、これらのイオン等の有害な負性分子が正電荷を帯びる基体に吸着されて無害化される機構を図6に示す。
まず、基体表面に既述した正電荷物質を配置することにより、基体表面に正電荷を付与する(図6−(1))。
既述した負性分子は負の電気を帯びているので、基体表面上の正電荷によって静電的に引きつけられて、基体表面上に吸着される(図6−(2))。なお、ここでは、有害な負性分子としてスーパーオキシドアニオンラジカル(O2 −)を図示する。
吸着された負性分子は、基体表面の正電荷の作用により、基体に電子を放出して中性又は安定な分子となる(図6−(3))。
前記中性又は安定な気体分子は、基体表面から離脱する(図6−(4))。なお、前記中性又は安定な分子と基体表面の正電荷との間に静電的な作用は最早存在しないので、前記中性又は安定な分子は自然に前記基体から離脱することができるが、離脱効率を高めるために、流体を基体表面に吹付けてもよい。なお、風雨等の自然の作用により、前記中性又は安定な分子は基体表面から容易に離脱することもできる。
なお、有害な負性分子が、正電荷及び負電荷の両方を帯びる基体に吸着されて除去される機構については、基本的には、図6と同様であるので説明を省略する。ただし、基体表面の正電荷密度が高い方が、前記有害な負性分子は電子を放出しやすいので、無害化効率の点では、基体表面上に正電荷のみが存在する方が好ましい。
ところで、本発明による負性分子体の吸着・離脱をより効果的に実施するには常に基体が清浄化されている必要があるが、本発明の基体は、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質を基体表面上又は基体表面層中に有するので、基体表面の汚染を長期に亘って回避又は低減することができる。
基体表面の退色乃至変色の原因の一つである汚染物質は、大気中に浮遊しているカーボン等の無機物質及び/又は油等の有機物質が基体表面に徐々に堆積することによって基体表面に付着していく。
主に屋外の大気中に浮遊している汚染物質、特に油分は、太陽光をはじめとして各種の電磁波により、いわゆる光酸化反応を受け、「酸化」された状態にあるといわれている。
光酸化反応とは、太陽光をはじめとした電磁波の作用により、有機物又は無機物表面の水分(H2O)、酸素(O2)からヒドロキシルラジカル(・OH)や一重項酸素(1O2)が生成される際に当該有機物又は無機物から電子(e−)が引き抜かれて酸化される現象をいう。この酸化により、有機物では分子構造が変化し、劣化と称される変色又は脆化現象がみられ、無機物、特に金属では錆が発生する。これら「酸化」された有機物又は無機物の表面は、電子(e−)の引き抜きにより、正に帯電する。
本発明では、基体表面上又は基体表面層中に正電荷が存在するので、前記有機物又は無機物を、静電反発力を利用して基体表面から自然に離脱させることができる。すなわち、本発明では、基体がもたらす静電的な反発作用によって、これらの汚染物質を基体から除去し、又は、これらの汚染物質の基体への付着を回避乃至低減することが可能である。
正電荷を帯びる基体表面から汚染物質が除去される機構を図7に示す。
図7に示す態様では、基体表面上又は基体表面層中に既述した正電荷物質を配置することにより、基体表面に正電荷を付与する(図7−(1))。
基体表面に汚染物質が堆積し、太陽光等の電磁波の作用により光酸化される。こうして汚染物質にも正電荷が付与される(図7−(2))。
基体表面と汚染物質との間に正電荷同士の静電反発が発生し、反発離脱力が汚染物質に発生する。これにより、基体表面への汚染物質の固着力が低減される(図7−(3))。
風雨等の物理的な作用により、汚染物質は基体表面から容易に除去される(図7−(4))。これにより、基体はセルフクリーニングされる。
上記のように正電荷を基体表面に付与することによって、正電荷を帯びた汚染物質の基体表面への付着を回避することができる。しかし、その一方で、汚染物質の中には水道水中の塩化物イオン等のように負電荷を帯びたもの、或いは、花粉や藻菌類等のように正電荷を当初有していたが他物体との相互作用(摩擦等)により負電荷を帯びるに至ったもの等が存在する。このような負電荷を帯びた汚染物質は正電荷のみを帯びた基体表面に容易に吸着される。そこで、基体表面は、正電荷及び負電荷を共に有していてもよい。これにより、負電荷を有する汚染物質が基体表面に付着することを防止することができる。
また、正電荷又は負電荷の帯電量が比較的少ない絶縁物(例えばシリコーンオイル)からなる汚染物質は、当該物質の種類によっては、基体表面に強い正電荷又は負電荷のみが存在すると、その汚染物質の表面電荷が反転してしまい、結果的に当該基体表面に当該汚染物質が吸着する恐れがあるので、正電荷及び負電荷の両者を共存させることによって、そのような吸着を回避することができる。
正電荷及び負電荷を帯びる基体表面から汚染物質が除去される機構を図8に示す。
図8に示す態様では、基体表面上又は基体表面層中に既述した正電荷物質及び負電荷物質を配置することにより、正電荷及び負電荷を付与する(図8−(1))。
基体表面に汚染物質が堆積し、太陽光等の電磁波の作用により継続的に光酸化される。こうして汚染物質にも正電荷が付与される(図8−(2))。
基体表面と汚染物質との間に正電荷同士の静電反発が発生し、反発離脱力が汚染物質に発生する。これにより、基体表面への汚染物質の固着力が低減される(図8−(3))。
風雨等の物理的な作用により、汚染物質は基体表面から容易に除去される(図8−(4))。これにより、基体はセルフクリーニングされる。
そして、基体表面には負電荷も存在するために、カリオン粘土微粉末、塩化物イオン等のような負電荷を有する汚染物質又は汚染誘引物質も同様に反発されて基体表面への固着力が低減される。
基体表面又は基体表面層中に、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質を配置する方法としては特に限定されるものではないが、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質を層状に配置できる方法が好ましく、特に、金属ドープ酸化チタンの層を基体表面に形成することが好ましい。
前記金属としては、金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄及び亜鉛からなる群から選択された金属元素の少なくとも1つが好ましく、少なくとも2つがより好ましく、特に、銀又は錫、並びに、銅又は鉄が好ましい。酸化チタンとしてはTiO2、TiO3、TiO、TiO3/nH2O等の各種の酸化物、過酸化物が使用可能である。特に、ペルオキソ基を有する過酸化チタンが好ましい。酸化チタンはアモルファス型、アナターゼ型、ブルッカイト型、ルチル型のいずれでもよく、これらが混在していてもよいが、アモルファス型酸化チタンが好ましい。
アモルファス型酸化チタンは光触媒機能を有さない。一方、アナターゼ型、ブルッカイト型及びルチル型の酸化チタンは光触媒機能を有するが、銅、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛を一定濃度以上に複合させると光触媒機能を喪失する。したがって、前記金属ドープチタン酸化物は光触媒機能を有さないものである。なお、アモルファス型酸化チタンは太陽光加熱等により経時的にアナターゼ型酸化チタンに変換されるが、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛と複合させるとアナターゼ型酸化チタンは光触媒機能を失うので、結局のところ、前記金属ドープチタン酸化物は経時的に光触媒機能を示さないものである。一方、金、銀、白金をドープしたチタン酸化物は、酸化チタンがアモルファス型からアナターゼ型に変換した場合は光触媒性能を有するようになるが、正電荷物質が一定濃度以上共存する場合は光触媒性能を示さないため、前記金属ドープチタン酸化物を使用した場合にも経時的に光触媒機能を有さないものである。
正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質を含む層を形成する前記金属ドープチタン酸化物の製造方法としては、一般的な二酸化チタン粉末の製造方法である塩酸法又は硫酸法をベースとする製造方法を採用してもよいし、各種の液体分散チタニア溶液の製造方法を採用してもよい。そして、上記金属は、製造段階の如何を問わずチタン酸化物と複合化することができる。
第1の製造方法
まず、四塩化チタン等の四価チタンの化合物とアンモニア等の塩基とを反応させて、水酸化チタンを形成する。次に、この水酸化チタンを酸化剤でペルオキソ化し、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。この反応は好ましくは水性媒体中で行なわれる。さらに、任意に加熱処理することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させることも可能である。上記の各工程のいずれかにおいて、正電荷又は負電荷を有する金属元素として、例えば、金、銀、白金、錫、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。
ペルオキソ化用酸化剤は特に限定されるものではなく、チタンのペルオキソ化物、すなわち過酸化チタンが形成できるものであれば各種のものが使用できるが、過酸化水素が好ましい。酸化剤として過酸化水素水を使用する場合は、過酸化水素の濃度は特に制限されることはないが、30〜40%のものが好適である。ペルオキソ化前には水酸化チタンを冷却することが好ましい。その際の冷却温度は1〜5℃が好ましい。
図9に上記第1の製造方法の一例を示す。図示される製造方法では、四塩化チタン水溶液とアンモニア水とを、金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛の化合物の少なくとも1つの存在下で混合し、当該金属の水酸化物及びチタンの水酸化物の混合物を生成させる。その際の反応混合液の濃度及び温度については、特に限定されるわけではないが、希薄且つ常温とすることが好ましい。この反応は中和反応であり、反応混合液のpHは最終的に7前後に調整されることが好ましい。
このようにして得られた金属及びチタンの水酸化物は純水で洗浄した後、5℃前後に冷却され、次に、過酸化水素水でペルオキソ化される。これにより、金属がドープされた、アモルファス型のペルオキソ基を有するチタン酸化物微細粒子を含有する水性分散液、すなわち金属ドープチタン酸化物を含有する水性分散液を製造することができる。
第2の製造方法
四塩化チタン等の四価チタンの化合物を酸化剤でペルオキソ化し、これとアンモニア等の塩基とを反応させて超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。この反応は好ましくは水性媒体中で行なわれる。さらに、任意に加熱処埋することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させることも可能である。上記の各工程のいずれかにおいて、正電荷又は負電荷を有する金属元素として、例えば、金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。
第3の製造方法
四塩化チタン等の四価チタンの化合物を、酸化剤及び塩基と同時に反応させて、水酸化チタン形成とそのペルオキソ化とを同時に行い、超微細粒子のアモルファス型過酸化チタンを形成する。この反応は好ましくは水性媒体中で行なわれる。さらに、任意に加熱処埋することによりアナターゼ型過酸化チタンに転移させることも可能である。上記の各工程のいずれかにおいて、正電荷又は負電荷を有する金属元素として、例えば、金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。
なお、第1乃至第3の製造方法において、アモルファス型過酸化チタンと、これを加熱して得られるアナターゼ型過酸化チタンとの混合物を金属ドープチタン酸化物として使用できることは言うまでもない。
ゾル−ゲル法による製造方法
チタンアルコキシドに、水、アルコール等の溶媒、酸又は塩基触媒を混合撹拌し、チタンアルコキシドを加水分解させ、超微粒子のチタン酸化物のゾル溶液を生成する。この加水分解の前後のいずれかに、正電荷又は負電荷を有する金属元素として、例えば、金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄、亜鉛又はそれらの化合物の少なくともいずれか1つが混合される。なお、このようにして得られるチタン酸化物は、ペルオキソ基を有するアモルファス型である。
上記チタンアルコキシドとしては、一般式:Ti(OR´)4(ただし、R´はアルキル基)で表示される化合物、又は上記一般式中の1つ或いは2つのアルコキシド基(OR´)がカルボキシル基或いはβ−ジカルボニル基で置換された化合物、或いは、それらの混合物が好ましい。
上記チタンアルコキシドの具体例としては、Ti(O−isoC3H7)4、Ti(O−nC4H9)4、Ti(O−CH2CH(C2H5)C4H9)4、Ti(O−C17H35)4、Ti(O−isoC3H7)2[CO(CH3)CHCOCH3]2、Ti(O−nC4H9)2[OC2H4N(C2H4OH)2]2、Ti(OH)2[OCH(CH3)COOH]2、Ti(OCH2CH(C2H5)CH(OH)C3H7)4、Ti(O−nC4H9)2(OCOC17H35)等が挙げられる。
四価チタンの化合物
金属ドープチタン酸化物の製造に使用する四価チタンの化合物としては、塩基と反応させた際に、オルトチタン酸(H4TiO4)とも呼称される水酸化チタンを形成できるものであれば各種のチタン化合物が使用でき、例えば四塩化チタン、硫酸チタン、硝酸チタン、燐酸チタン等のチタンの水溶性無機酸塩がある。それ以外にも蓚酸チタン等のチタンの水溶性有機酸塩も使用できる。なお、これらの各種チタン化合物の中では、水溶性に特に優れ、かつ金属ドープチタン酸化物の分散液中にチタン以外の成分が残留しない点で、四塩化チタンが好ましい。
また、四価チタンの化合物の溶液を使用する場合は、当該溶液の濃度は、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液が好ましい。具体的には、四価チタンの化合物の溶液濃度は、5〜0.01wt%が好ましく、0.9〜0.3wt%がより好ましい。
塩基
上記四価チタンの化合物と反応させる塩基は、四価チタンの化合物と反応して水酸化チタンを形成できるものであれば、各種のものが使用可能であり、それにはアンモニア、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、苛性カリ等が例示できるが、アンモニアが好ましい。
また、上記の塩基の溶液を使用する場合は、当該溶液の濃度は、水酸化チタンのゲルが形成できる範囲であれば特に制限されるものではないが、比較的希薄な溶液が好ましい。具体的には、塩基溶液の濃度は、10〜0.01wt%が好ましく、1.0〜0.1wt%がより好ましい。特に、塩基溶液としてアンモニア水を使用した場合のアンモニアの濃度は、10〜0.01wt%が好ましく、1.0〜0.1wt%がより好ましい。
金属化合物
金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛の化合物としては、それぞれ以下のものが例示できる。
Au化合物:AuCl、AuCl3、AuOH、Au(OH)2、Au2O、Au2O3
Ag化合物:AgNO3、AgF、AgClO3、AgOH、Ag(NH3)OH、Ag2SO4
Pt化合物:PtCl2、PtO、Pt(NH3)Cl2、PtO2、PtCl4、〔Pt(OH)6〕2−
Ni化合物:Ni(OH)2、NiCl2
Co化合物:Co(OH)NO3、Co(OH)2、CoSO4、CoCl2
Cu化合物:Cu(OH)2、Cu(NO3)2、CuSO4、CuCl2、Cu(CH3COO)2
Zr化合物:Zr(OH)3、ZrCl2、ZrCl4
Sn化合物:SnCl2、SnCl4、[Sn(OH)]+
Mn化合物:MnNO3、MnSO4、MnCl2
Fe化合物:Fe(OH)2、Fe(OH)3、FeCl3
Zn化合物:Zn(NO3)2、ZnSO4、ZnCl2
第1乃至第3の製造方法で得られる水性分散液中の過酸化チタン濃度(共存する金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛を含む合計量)は、0.01〜90重量%が好ましく、0.1〜50重量%がより好ましく、1〜20重量%が更により好ましい。また、正電荷又は負電荷を有する金属元素、例えば、金、銀、白金、銅、ジルコニウム、錫、マンガン、ニッケル、コバルト、鉄又は亜鉛の配合量については、チタンと金属成分とのモル比で1:1が本来的には望ましいが、水性分散液の安定性の点では1:0.01〜1:0.5が好ましく、1:0.03〜1:0.1がより好ましい。
本発明では、上記の製造方法で得られる溶液、懸濁液若しくはエマルジョンの形態の金属ドープ(過)酸化チタン含有組成物中に基体を浸漬してディップコーティングを行い、或いは、当該組成物を基体上にスプレー、ロール、刷毛、スポンジ等で塗布した後に、非加熱乾燥又は加熱乾燥して溶媒乃至媒体を揮散させる工程を少なくとも1回行うことによって金属ドープ酸化チタンの層を基体表面に形成することができる。
加熱する場合の温度は特に限定されるものではなく、例えば、30℃以上の任意の温度に加熱することができる。なお、加熱により、前記組成物中の過酸化チタンは酸化チタン(二酸化チタン)に変化する。このとき、更に、アモルファス型酸化チタンはアナターゼ型酸化チタンに転移する(一般に、アモルファス型酸化チタンは、100℃以上に加熱することによりアナターゼ型に転移する)。したがって、前記組成物中にアモルファス型過酸化チタンが含まれる場合は、100℃以上に加熱することが好ましい。この場合、アモルファス型過酸化チタン→アモルファス型酸化チタン→アナターゼ型酸化チタンのプロセスにより得られたアナターゼ型酸化チタンが基体表面上に存在する。更に、前記組成物中にアナターゼ型過酸化チタンが既に含まれている場合は、加熱により、そのままアナターゼ型酸化チタンに変化する。
前記組成物は、有機ケイ素化合物及び/又は無機ケイ素化合物を更に含むことが好ましい。
前記有機ケイ素化合物としては、例えば、各種の有機シラン化合物、並びに、シリコーンオイル、シリコーンゴム及びシリコーンレジン等のシリコーンが挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、混合物であってもよい。シリコーンとしては、分子中にアルキルシリケート構造若しくはポリエーテル構造を有するもの、又は、アルキルシリケート構造及びポリエーテル構造の両方を有するものが好ましい。ここで、アルキルシリケート構造とは、シロキサン骨格のケイ素原子にアルキル基が結合した構造をさす。一方、ポリエーテル構造とは、エーテル結合を有する構造をさし、これらに限定されるものではないが、具体的には、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、ポリテトラメチレンオキサイド、ポリエチレンオキサイド―ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体、ポリエチレンポリテトラメチレングリコール共重合体、ポリテトラメチレングリコール―ポリプロピレンオキサイド共重合体等の分子構造が挙げられる。そのなかでも、ポリエチレンオキサイド―ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体は、そのブロック度及び分子量により、基体表面における濡れ性を制御できる観点から好適である。
有機ケイ素化合物としては、分子中にアルキルシリケート構造及びポリエーテル構造の双方を有するシリコーンが特に好ましい。具体的には、ポリエーテル変性ポリジメチルシロキサン等のポリエーテル変性シリコーンが好適である。これは公知の方法で製造することができ、例えば、特開平4―242499号公報の合成例1,2,3,4や、特開平9−165318号公報の参考例記載の方法等により製造することができる。特に、両末端メタリルポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体とジヒドロポリジメチルシロキサンとを反応させて得られるポリエチレンオキサイド−ポリプロピレンオキサイドブロック共重合体変性ポリジメチルシロキサンが好適である。具体的には、TSF4445、TSF4446(GE東芝シリコーン(株))、KPシリーズ(信越化学工業(株))、並びに、SH 200、SH3746M、DC3PA、ST869A(東レ・ダウコーニング(株))等を用いることができる。
前記組成物中の有機ケイ素化合物の濃度は、基体の表面処理の程度に応じて適宜変更することができるが、典型的には0.01〜5.0重量%であり、好ましくは0.05〜2.0重量%であり、より好ましくは0.1〜1.0重量%である。
無機ケイ素化合物としては、シリカ(二酸化ケイ素)、窒化ケイ素、炭化ケイ素、シラン等が挙げられるが、シリカが好ましい。シリカとしては、ヒュームドシリカ、コロイダルシリカ、沈降シリカ等を使用することができるがコロイダルシリカが好ましい。市販のコロイダルシリカとしては、例えば、PL−1,PL−3(扶桑化学工業(株))、ポリシリケートとして、WM−12(多摩化学工業(株)製)、シリカゾル51(コルコート(株)製)等を用いることができる。
前記組成物中の無機ケイ素化合物の濃度は、基体の表面処理の程度に応じて適宜変更することができるが、典型的には0.01〜98重量%であり、好ましくは0.1〜90重量%であり、より好ましくは10.0〜80重量%である。
前記組成物は、水の他に、アルコール等の親水性媒体、或いは、有機溶媒等の非水性媒体を含むことができる。これらの媒体の濃度は典型的には10〜99.99重量%であり、好ましくは50〜99.9重量%であり、より好ましくは80〜99重量%である。
前記組成物が有機ケイ素化合物及び/又は無機ケイ素化合物を含む場合は、当該組成物が基体の表面に塗布されて、非加熱又は加熱での乾燥処理を受けて、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質、好ましくは金属ドープ酸化チタン、と共に有機ケイ素化合物及び/又は無機ケイ素化合物を含む層が基体表面に形成されることによって、基体の反射率が低減し、光透過性部位を有する基体であればその光透過性が増大する。特に、可視光線の透過量が増大する。なお、ここで「加熱」とは常温(20℃〜30℃、好ましくは25℃)を超える温度で処理することを意味する。また、なお、「光」とは、紫外線、可視光線、赤外線等の電磁波を意味しており、ここで「可視光線」とは380nmから780nmの波長を有する電磁波を意味する。
本発明の基体の表面は、その少なくとも一部に微細な凹凸を有してもよい。表面に微細な凹凸が存在する場合は、基体表面上での光の反射が更に低減されるので、光透過性部位を有する基体であれば当該基体を透過する光を更に増大させることができる。
前記微細な凹凸は、例えば、既述の正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質、好ましくは金属ドープ酸化チタン、そして既述の有機ケイ素化合物及び/又は無機ケイ素化合物を含み、炭素及び/又は熱分解性有機化合物を更に含む組成物を基体の表面に塗布し、加熱することによって形成することができる。
本発明において「炭素」とは、炭素の単体を意味しており、例えば、カーボンブラック、グラファイト、フラーレン、カーボンナノチューブ、又は、墨汁の形態をとることができる。使用性の点では、墨汁等の液状媒体に分散されたものが好ましい。なお、墨汁とは、膠によって分散された炭素粒子のコロイド分散液であり、そのまま使用することができる。墨汁中の炭素濃度は適宜設定することができる。本発明で使用される「炭素」は、その製造の際に使用された金属触媒等の不純物を含んでもよいが、そのような不純物が少ないものが好ましい。
本発明における熱分解性有機化合物は、加熱により分解する有機化合物であれば特に限定されないが、加熱により分解してガスを放出するものが好ましい。ガスが発生する温度は任意であるが、400℃以上が好ましく、450℃以上がより好ましく、500℃以上が更により好ましい。熱分解性有機化合物としては、例えば、コラーゲン、ゼラチン、膠等のタンパク質、糖又は糖アルコール、水溶性有機高分子、及び、これらの混合物が挙げられるが、糖又は糖アルコールが好ましく、糖が更に好ましい。
ここで、「糖」とは、多数のヒドロキシ基とカルボニル基を有する炭水化物であり、単糖類、二糖類、オリゴ糖類、多糖類等が挙げられる。単糖類としては、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、リボース、エリトロース等が挙げられる。二糖類としては、マルトース、ラクトース、スクロース(ショ糖)等が挙げられる。オリゴ糖類としては、フルクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖等が挙げられる。多糖類としては、デンプン、セルロース、ペクチン等が挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、混合物であってもよい。使用性の観点からは、糖としては高水溶性のものが好ましい。したがって、本発明においては、単糖類及び二糖類からなる群から選択される1つ又は2種以上の混合物が好適に使用される。
「糖アルコール」とは、糖のカルボニル基が還元されたものである。糖アルコールとしては、具体的には、エリスリトール、トレイトール、アラビニトール、キシリトール、リビトール、マンニトール、ソルビトール、マルチトイノシトール等が挙げられる。これらは単独で使用されてもよく、また、二種類以上の混合物として使用されてもよい。
「水溶性有機高分子」としては、水溶性である限り任意の熱分解性有機高分子を使用することができるが、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体等のポリエーテル;ポリビニルアルコール;ポリアクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリアクリル酸−ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)共重合体;ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン等を挙げることができる。
前記水溶性有機高分子は、糖又は糖アルコールの溶解助剤として機能することができるので、糖又は糖アルコールと共に配合することが好ましい。これにより糖又は糖アルコールを組成物に良好に溶解させることができる。
前記組成物中の炭素及び/又は熱分解性有機化合物の濃度は、基体の表面処理の程度に応じて適宜変更することができるが、典型的には0.01〜15重量%であり、好ましくは0.05〜10重量%であり、より好ましくは1.0〜5.0重量%である。
前記加熱は、炭素が炭酸ガスとして噴出し、若しくは、熱分解性有機化合物が分解する温度以上であれば特に限定されるものではないが、熱分解性有機化合物が糖又は糖アルコール、或いは、水溶性有機高分子の場合は、水蒸気、炭酸ガス等の分解ガスが発生する温度以上が好ましく、400℃以上がより好ましく、450℃以上が更により好ましく、500℃以上が更により好ましい。加熱温度の上限については特に限定されるものではないが、基体の各種特性への影響の点からは、1000℃以下とすることが好ましく、850℃以下がより好ましく、800℃以下が更により好ましい。加熱時間も熱分解性有機化合物の炭化を十分に行える限り特に限定されるものではないが、1分から3時間が好ましく、1分から1時間がより好ましく、1分から30分が更により好ましい。
加熱処理された基体の表面には、炭素の炭酸ガスとしての噴出、若しくは、熱分解性有機化合物由来の分解物(水蒸気、炭酸ガス等)の噴出により、多数の微細な凹凸を表面に有する多孔質層が形成される。この微細な凹凸により、基体表面の反射率が低減され、結果的に、基体の光透過率が向上する。前記多孔質層の平均層厚は基体の透過率が向上する限り特に限定されるものではないが、0.05から0.3μm(50〜300nm)が好ましく、80〜250nmがより好ましく、100〜250nmが更により好ましく、120〜200nmが特に好ましい。
前記多孔質層の表面は、最大高さ(Rmax)50nm以下の表面粗さを有することが好ましく、最大高さは、より好ましくは30nm以下である。但し、多孔質層は、基板面から形成されており、孔の深さは層厚さ分、又は、表層厚さのものもある。このような多数の微細な凹凸の存在により、基体の表面における反射率が低減し、その結果、当該基体の光透過率が向上する。多孔質層に含まれる酸化チタンの粒径は、1nm〜100nmが好ましく、1nm〜50nmがより好ましく、1nm〜20nmが更により好ましい。
ここでは、基体自体の表面にエッチング処理等によって微細な凹凸を形成するのではなく、その表面に薄い多孔質層を形成することによって基体表面に微細な凹凸を形成するので、基体自体への微細加工が不要であり、凹凸形成が容易である。また、多孔質層の前駆体である前記組成物は塗布により基体表面に適用されるので、広範囲に亘って基体表面を処理することができ、更に、レンズのように曲面を有する基体であっても容易に凹凸を形成することができる。
したがって、この本発明の態様では、基体の材質及び形状に係わらず適用可能な簡易な方法により反射率を低減させることが可能であり、これにより、透過率が増大して光学特性が向上した低反射性を合せ持つ基体を提供することができる。また、基体表面の表面積が増大するので、負性分子の吸着量を増加させることもできる。なお、基体表面に電極が形成される場合は、基体表面に凹凸を形成すること望ましくない。したがって、凹凸の有無は基体の用途によって適宜選択される。
本発明においては、基体と、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質の層との間には、中間層が設けられていてもよく、また、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質の層の表面には被覆層が設けられていてもよい。
前記中間層及び被覆層は、例えば、基体に親水性若しくは疎水性、撥水性若しくは撥油性、及び/又は、電気絶縁性を付与することのできる各種の有機又は無機物質からなることができる。前記中間層及び被覆層の厚みは特に限定されるものではないが、0.01〜100μmが好ましく、0.1〜50μmがより好ましく、特に、0.5μm〜10μmが好ましい。
親水性の有機物質としては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールブロック共重合体等のポリエーテル;ポリビニルアルコール;ポリアクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)、ポリアクリル酸−ポリメタクリル酸(アルカリ金属塩、アンモニウム塩等の塩を含む)共重合体;ポリアクリルアミド;ポリビニルピロリドン;カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)等の親水性セルロース類;多糖類等の天然親水性高分子化合物等が挙げられる。これらの高分子材料にガラス繊維、炭素繊維、シリカ等の無機系誘電体を配合して複合化したものも使用可能である。また、上記の高分子材料として塗料を使用することも可能である。
親水性の無機材料としては、例えば、SiO2又はその他のケイ素化合物が挙げられる。特に、電気絶縁性の点ではSiO2が好ましい。SiO2からなる中間層又は被覆層は、例えば、メチルシリケートを塗布後に加熱処理することによって形成することができる。
撥水性の有機物質としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン等のポリオレフィン;ポリアクリレート、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS)等のアクリル樹脂;ポリアクリロニトリル;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のポリハロゲン化ビニル;ポリテトラフルオロエチレン、フルオロエチレン・プロピレン共重合体、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、フッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体等のフッ素樹脂;ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボネート等のポリエステル;フェノール樹脂;ユリア樹脂;メラミン樹脂;ポリイミド樹脂;ナイロン等のポリアミド樹脂;エポキシ樹脂;ポリウレタン等が挙げられる。
撥水性の有機物質としてはフッ素樹脂が好ましく、特に、強誘電性と撥水性を有するフッ化ビニリデン・トリフルオロエチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライドのβ型結晶体及びそれを含有するものが好ましい。フッ素樹脂としては市販のものを使用することが可能であり、市販品としては、例えば、NTT−AT(株)製のHIREC1550等が挙げられる。
更に、フッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体、フッ素原子を含有するオレフィンと炭化水素モノマーとの共重合体、およびフッ素原子を含有するオレフィンの2種以上からなる共重合体と熱可塑性アクリル樹脂との混合物からなる群より選ばれた少なくとも1種のフッ素樹脂と界面活性剤からなるフッ素樹脂エマルジョン、並びに硬化剤(特開平5−124880号公報、特開平5−117578号公報、特開平5−179191号公報参照)および/又は上記シリコーン樹脂系撥水剤からなる組成物(特開2000−121543号公報、特開2003−26461号公報参照)も使用することができる。このフッ素樹脂エマルジョンとしては、市販されているものを使用することができ、ダイキン工業(株)よりゼッフルシリーズとして、旭硝子(株)よりルミフロンシリーズとして購入可能である。上記硬化剤としては、メラミン系硬化剤、アミン系硬化剤、多価イソシアネート系硬化剤、及びブロック多価イソシアネート系硬化剤が好ましく使用される。
撥水性の無機系材料としては、例えば、シラン系、シリコネート系、シリコーン系及びシラン複合系、又は、フッ素系の撥水剤或いは吸水防止剤等が挙げられる。特に、フッ素系撥水剤が好ましく、例としては、パーフルロロアルキル基含有化合物などの含フッ素化合物又は含フッ素化合物含有組成物が挙げられる。なお、基材表面への吸着性が高い含フッ素化合物を中間層に含む場合は、基材表面に適用した後、撥水剤又は吸水防止剤の化学成分が基材と反応して化学結合を生じたり、又は化学成分どうしが架橋したりする必要はかならずしもない。
このようなフッ素系撥水剤として用いることができる含フッ素化合物は、分子中にパーフルオロアルキル基を含有する分子量1,000〜20,000のものが好ましく、具体的には、パーフルオロスルホン酸塩、パーフルオロスルホン酸アンモニウム塩、パーフルオロカルボン酸塩、パーフルオロアルキルベタイン、パーフルオロアルキルエチレンオキサイド付加物、パーフルオロアルキルアミンオキシド、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩などが挙げられる。中でも、基材表面への吸着性に優れることから、パーフルオロアルキルリン酸エステル、及びパーフルオロアルキルトリメチルアンモニウム塩が好ましい。このような材料としては、サーフロンS−112、及びサーフロンS−121(共に商品名、セイミケミカル(株)製)などが市販されている。
なお、吸水性の高い基体の場合では、シラン化合物を含む中間層を予め基体上に形成することが好ましい。この中間層は、Si―O結合を大量に含有する為、正電荷物質、又は、正電荷物質及び負電荷物質の層の強度や基体との密着性を向上することが可能になる。また、前記中間層は、基体への水分の浸入を防止する機能をも有している。
前記シラン化合物としては、加水分解性シラン、その加水分解物及びこれらの混合物が挙げられる。加水分解性シランとしては各種のアルコキシシランが使用でき、具体的には、テトラアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、ジアルキルジアルコキシシラン、トリアルキルアルコキシシランが挙げられる。これらの内、1種類の加水分解性シランを単独で使用してもよく、必要に応じて2種類以上の加水分解性シランを混合して使用してもよい。またこれらのシラン化合物に、各種のオルガノポリシロキサンを配合してもよい。このようなシラン化合物を含有する中間層の構成材料としては、例えば、ドライシールS(東レ・ダウコーニング(株)製)がある。
また、中間層の構成材料としては、メチルシリコーン樹脂及びメチルフェニルシリコーン樹脂等の室温硬化型シリコーン樹脂を使用してもよい。このような室温硬化型シリコーン樹脂としては、例えば、AY42−170、SR2510、SR2406、SR2410、SR2405、SR2411(東レ・ダウコーニング(株)製)がある。
中間層又は被覆層は塗装膜であってもよい。塗装膜を構成する塗装材料としては、アルキド樹脂、アクリル樹脂、アミノ樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、アクリルシリコン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、紫外線硬化樹脂、フェノール樹脂、塩化ビニル樹脂、含成樹脂エマルジョン等の合成樹脂と着色剤とを含有するいわゆるペンキ塗料を好適に使用することができる。
塗装手段としては、例えば、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、フローコーティング法、スピンコーティング法、ロールコーティング法、刷毛塗り、スポンジ塗り等が適用できる。なお、塗装膜の硬度、基体との密着性等の物理的性能を向上させるために、基体及び塗装膜の許容範囲内で加熱することが望ましい。
従来、優れた撥水性・撥油性又は親水性・疎水性を有する有機又は無機物質で基体表面を被覆することにより基体表面を保護することも行われていたが、当該有機又は無機物質は一般に負電荷を有しているために、経時的に汚染物質が付着し、その保護特性が著しく喪失するという問題があった。しかしながら、本発明では、このように基体表面に正電荷を付与するのでそのような問題がない。また、基体表面の化学的特性が損なわれることがないので、当該有機又は無機物質の特性を維持したままセルフクリーニング特性を付与することができる。
すなわち、本発明では、基体表面に付与される正電荷を利用して、アルカリ金属(イオン)の溶出の防止又は低減、並びに、負性気体の除去及び安定化の機能を発揮させるが、これと同時に基体表面の他の汚染をも継続的に防止乃至低減することができるので、長期間に亘って「防汚・防曇機能」を発揮できる、審美性に優れた製品が可能となる。この技術は、あらゆる基体に応用できるが、特に、少なくとも一部がガラス等の光透過性物質からなる基体への応用が好ましい。これにより、「汚れない透明基体」からなる各種製品を製造することが可能となる。
また、本発明では、基体表面にアルカリ金属が溶出又は析出することがないので、電極等の導電体又は半導体製部品と直接接触させても、当該部品の電子とアルカリ金属が結合して電子制御性が低下することがない。したがって、基体の材質として高価な無アルカリガラス、石英ガラス等を使用する必要がない。したがって、本発明は、例えば、液晶表示装置、タッチパネル等のディスプレイ向けの透明基板として好適に使用可能な基体を低コストで提供することができる。