JP2012229474A - 靭性と耐食性、及び鏡面性に優れたプラスチック成形用金型鋼 - Google Patents
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Abstract
【解決手段】C:0.01〜0.15%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.3〜2.0%、Cr:2.0〜6.0%、Ni:2.0〜5.0%、Al:0.05〜0.5%、B:0.001〜0.01%、MoとWを単独もしくは複合でMo+1/2W:0.4〜1.3%含有し、さらに所望によりV0.3%以下含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ不可避不純物中でCu:0.25%以下、S:0.002%以下、O:0.0015%以下、N:0.01%以下に規制することで、良好な硬度、鏡面性を確保した上で、靱性を顕著に向上させる。
【選択図】図1
Description
また、マルテンサイトもしくはベイナイトの素地に、鋼の製造工程において負荷される熱処理によってNi−Al系金属間化合物及びCuなどを時効析出させ、硬さをロックウェル硬さで40HRC(54HS)程度に調整して出荷されるプリハードンタイプの金型鋼がある。
C:0.01〜0.15%
Cは焼入れ性を向上させる元素であり、また目的の硬さに調整するためにも0.01%以上の含有が必要である。一方、多量に含有した場合にはCrと結合して炭化物を形成し、素地のCr濃度低下に伴って耐食性が低下するとともに、溶接性も劣化することから、その上限を0.15%とする。上記と同様の理由により、より好ましくは、その含有量を下限で0.03%、上限で0.1%とする。
Siは溶製時に脱酸剤として作用するとともに、被削性を向上させる効果も有する。 そのためには、0.5%以上の含有を要する。一方、含有量が多い場合は、成分偏析が生じて鏡面性を劣化させるとともに、過度の靭性低下を招くので、その含有量の上限を2.0%とする。上記と同様の理由により、より好ましくはその上限を1.5%とする。
Mnは焼入れ性向上に効果的な元素であり、添加により良好な機械的性質を得ることができる。その効果を得るためには、0.3%以上の含有が必要である。ただし、過度の含有は靭性の低下を招くので、上限を2.0%とした。上記と同様の理由により、より好ましくは下限を0.3%、上限を1.5%とする。
Crは耐食性向上に最も有効な元素であり、また焼入れ性の向上という作用も同時にもたらす。含有量を増加させるほど耐食性は向上するが、一方で過度の含有は熱伝導率の低下をもたらすことから、含有量を2.0〜6.0%に調整する必要がある。上記と同様の理由により、より好ましくはその含有量を下限で3.0%、上限で5.0%とするのが良い。
NiはMnと同様に焼入れ性を向上させ、良好な強度及び靭性を実現するために有効な元素である。また、Alと結合して、Ni−Al系金属間化合物を形成することで析出硬化をもたらす。その作用を得るためには、2.0%以上の含有が必要である。一方、多量に添加しても含有量の割には上記効果が顕著には現れないことに加えて、熱伝導率が低下してプラスチックの成形時間の長時間化を招くことから、上限を5.0%とする。上記と同様の理由により、より好ましくは下限を2.5%、上限を4.5%とする。
AlはSiと同様に鋼塊溶製時に脱酸剤として用いられ、また、時効処理によりNiと結合して金属間化合物を形成し、析出硬化をもたらすので、これらの作用を得るために0.05%以上の含有を要する。一方で多量の含有は、金属間化合物の過度の増加をもたらして靭性を劣化させることから、その上限を0.5%とする。上記と同様の理由により、より好ましくは下限を0.1%、上限を0.4%とする。
Bは焼入れ性の向上効果を有するに加えて、被削性を付与させる作用もあるため、0.001%以上の含有が必要である。一方で過度に含有した場合は、熱間加工性を阻害することに加えて溶接時の割れ感受性を高めるために、その上限を0.01%とする。また、同様の理由で上限を0.005%にするのが望ましい。
Cuは時効処理によって析出し、素材を硬化させる作用を有するものの、靭性を著しく劣化させる。また、Cu添加鋼を製造した場合、鋼塊製造用の設備がCuで汚染されて、同一設備を使って製造するその後の製品にCuが混入する可能性がある。Cuは熱間加工性の著しい低下をもたらすので、Cu添加鋼を製造した後に、比較的Cu感受性が低い鋼を釜洗いの目的で製造するなどの制約が生じる。したがって、Cu含有量は極力低減させる必要があり、上限を0.25%に規制する。なお、同様の理由でさらに上限を0.2%に規制するのが望ましく、0.1%以下に規制するのが一層望ましい。
SはMn、OはSiやAlなど、NはAlなどと結合して非金属介在物を形成する。これらは、鏡面研磨時に脱落してピンホール欠陥の原因になりうるため、鏡面性を高める上での障害となる。また、腐食環境下での錆の起点ともなりうる。これらの理由から、上記した非金属介在物はできるだけ少なくするのが望ましく、そのためには、S、O、Nの含有量を極力低減させることが必要である。このため、S、O、Nの上限は、それぞれ0、002%、0.0015%、0.01%とする。また、望ましくは、上限をさらにSで0.001%、Oで0.001%、Nで0.008%に規制する。
MoとWは、溶体化処理後の冷却時あるいは時効処理時に微細な炭化物を形成し、硬さ向上の役割を果たすが、過剰に添加すると靭性の低下をもたらすことから、上限及び下限を定めることが必要である。ここでWは、Moに対して質量%でほぼ倍の量で同様の効果が認められることから、Mo+1/2Wの計算式で、下限を0.4%、上限を1.5%に規制する。なお、MoはCrと同様に耐食性向上効果も有することから、その下限を0.3%にするのが望ましい。
Vは焼戻し軟化抵抗性を高めると共に、硬質の炭化物を微細に形成して耐摩耗性を向上させる効果があるので所望により含有させる。ただし、多すぎると金型加工時の工具の摩耗を増加させるとともに、多量の炭化物の析出による靭性低下を招くので、0.3%以下とする。なお、上記効果を得るために、0.05%以上含有するのが望ましい。
好適には、エレクトロスラグ再溶解法により溶製された鋳塊は、必要に応じて鍛造などの加工を施し、さらに熱処理を行う。鍛造、熱処理は常法により行うことができるが、本発明としては特に処理条件を限定するものではない。
上記した熱処理によりプリハードンされた金型鋼は、良好な鏡面研磨性や耐食性、そして靭性を示す。
表1には、供試材として用意した本発明の成分範囲になる発明鋼と、本発明の成分範囲を外れた比較鋼の化学成分(残部Feおよびその他の不可避不純物)を示す。
上記で説明したように極低S化を実現するため、比較鋼No.18以外については、鋳塊製造過程において工レクトロスラグ再溶解法を用いた。鋳塊溶製後、鍛造により所定寸法への加工を行い、焼ならし、溶体化、時効処理を行い、硬さを約40HRCに調整した。
本実施例では、最もバランスが悪化する可能性がある金型中心部における硬さと靭性のバランスを把握するために、溶体化処理の冷却速度は、厚さが350mmの金型鋼を油冷した場合の厚さ方向の中心を想定した速度とした。
まず、靭性については、JIS Z 2242で規定されているノッチ深さ2mmのUノッチ試験片を用い、シャルピー衝撃試験を室温にて実施して衝撃値を求めた。
次に耐食性については、200℃の塩素ガス雰囲気中にて8時間曝露した試験片を、光学顕微鏡を用いて50倍にて10視野観察し、認められたピットの総数を1視野当たりの平均値として表した。
また、鏡面研磨性については、50mm四方の試験片に対して#8000までの磨きを行い、目視で確認できるピンホール数を測定した。
本発明の供試材は靭性、鏡面性、耐食性の全てにおいて優れた特性を示すのに対し、比較鋼ではこれら特性のいずれかが劣っていることが確認された。
まず、比較鋼No.9、10、11、12、14、15、16、17では、C、Si、Mn、Cu、Al、V、Mo+l/2Wのいずれか、あるいは複数が前記した規制値上限を上回ったため、シャルピー衝撃値が低下した。このうち、比較鋼No.9は前述した従来の耐食性向上型の析出硬化タイプ相当鋼であり、Al量及びCu量が、ともに規制値上限を上回っている。また、比較鋼No.14はCu量が規制値を上回っており、Cu量が比較的高い場合には、Al量を規制範囲内に収まるように比較的低くしても、靱性が向上しないことがわかる。
次に、比較鋼No.10及び比較鋼No.13では、塩素ガス曝露後のピット数が多く、耐食性が不良であった。比較鋼No.10ではCが本発明範囲の上限を超えて含有されているため、前述したように、CがCrと結びついて炭化物を形成した結果、素地中のCr濃度が低下したためと推察される。
比較鋼No.13は、前述した従来の靭性向上型の析出硬化タイプ相当鋼であるが、Crが本発明範囲の下限を下回っているため、耐食性が不良であったと考えられる。さらに、比較鋼No.18においては、Sが本発明の規制値上限を上回ったために粗大なMnS数が増加し、研磨時にこれらが脱落して多くのピンホールが現出したために鏡面性が低下した。加えて、これらは腐食環境下において錆の起点となるため、ビット数が増加して耐食性が劣化した。
Claims (3)
- 質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.5〜2.0%、Mn:0.3〜2.0%、Cr:2.0〜6.0%、Ni:2.0〜5.0%、Al:0.05〜0.5%、B:0.001〜0.01%、MoとWを単独もしくは複合でMo+1/2W:0.4〜1.3%含有し、残部がFeおよび不可避不純物からなり、かつ不可避不純物中でCu:0.25%以下、S:0.002%以下、O:0.0015%以下、N:0.01%以下に規制したことを特徴とする靭性と耐食性、及び鏡面性に優れたプラスチック成形用金型鋼。
- 質量%で、さらにVを0.3%以下含有することを特徴とする請求項1に記載の靭性と耐食性、及び鏡面性に優れたプラスチック成形用金型鋼。
- 硬さが37HRC以上で、かつ室温におけるUノッチ試験片のシャルピー衝撃値が40J/cm2以上であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の靭性と耐食性、及び鏡面性に優れたプラスチック成形用金型鋼。
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