以下、本発明に係る透明積層フィルムの実施の形態について図を用いて詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る透明積層フィルムの断面図である。図1に示すように、透明積層フィルム10は、機能性多層膜14を積層する基材となる透明高分子フィルム12と、この透明高分子フィルム12上に積層された機能性多層膜14と、この機能性多層膜14の表面を覆って保護する保護層16とを備えている。透明積層フィルム10においては、保護層16中に特定の色素が含まれており、保護層16が色素含有層になっている。
機能性多層膜14には、金属酸化物薄膜および金属薄膜が含まれている。金属酸化物薄膜は、可視光領域において高い光透過性を有するものであり、主として高屈折率層として機能するものである。ここでいう高屈折率とは、633nmの光に対する屈折率が1.7以上の場合である。金属薄膜は、主として熱線(日射)を反射する反射層として機能するものである。また、視認性の観点から、可視光領域においてある程度の光透過性を有することが必要であり、金属薄膜は薄膜状に形成されている。金属薄膜は、高屈折率層として機能する金属酸化物薄膜に対し、低屈折率層として機能する。
機能性多層膜14は、層間の屈折率が異なることによる光の干渉などにより、光透過性と熱線反射性とを両立させることができる。このため、機能性多層膜14を備えることにより、透明積層フィルム10は、高い透明性と高い日射遮蔽性の機能を備えることができる。
機能性多層膜14では、最も効果的な光透過性と熱線反射性との両立のため、金属酸化物薄膜および金属薄膜は交互に配置されることが好ましい。特に、金属薄膜の両側に金属酸化物薄膜が配置され、金属酸化物薄膜が機能性多層膜14の両外側に配置されることが好ましい。
機能性多層膜14においては、金属薄膜の一方面または両面に、金属薄膜の金属が金属酸化物薄膜に拡散するのを抑えるための金属酸化物よりなるバリア薄膜が、金属酸化物薄膜とは別の層として形成されていても良い。金属酸化物薄膜とは別の層としてバリア薄膜を設けた場合には、金属薄膜の金属の拡散による金属酸化物薄膜の劣化が抑えられるため、透明積層フィルム10の耐久性を向上できる。
機能性多層膜14の層数としては、製造コスト等を考慮して、2〜10層の範囲内であることが好ましい。また、機能性多層膜14の構成としては、上述するように、金属薄膜の両側に金属酸化物薄膜が配置され、金属酸化物薄膜が機能性多層膜14の両外側に配置されることが好ましいことから、機能性多層膜14は奇数層であることが好ましい。より具体的には、機能性多層膜14の層数としては、3層、5層、7層などであることが好ましい。また、機能性多層膜14の層数としては、製造工程を少なくでき、製造コストを低減できるなどの観点から、特に3層であることが好ましい。
なお、機能性多層膜14の層数は、基材となる透明高分子フィルム12側から数える。バリア薄膜は金属薄膜に付随する薄膜と考え、バリア薄膜を含めた金属薄膜を1層、金属酸化物薄膜を1層として数える。
ここで、機能性多層膜14では、金属薄膜の厚みの合計が厚いほど日射遮蔽性に優れるものとなる。高い日射遮蔽性を得るには、単純に金属薄膜の厚みを厚くすれば良い。ところが、金属薄膜の厚みを厚くすると、反射色の赤みが強くなる。また、透明性も低下する。視覚的には、赤系色〜黄系色の反射色は暑い印象を与えやすい。視覚的な観点からいえば、涼しい印象を与える青系色の反射色が好まれる。この意匠性を満足させるという要求が、日射遮蔽性を満足させることを難しくしている。
特に、機能性多層膜14が金属層の両側に金属酸化物層を有する3層構造である場合には、日射遮蔽性を確保するために、金属層の厚みを厚くせざるを得ない。すなわち、機能性多層膜14が3層構造である場合には、機能性多層膜14の外観の色目に赤色が強く出る。
このように、透明積層フィルム10では、機能性多層膜14が暑い印象を与えやすい赤系色〜黄系色の特定の反射色を有することを問題としている。透明積層フィルム10は、このような場合において、金属層の厚みを調整することなく透明積層フィルム10の反射色を青系色の反射色に改善するものである。
機能性多層膜14あるいは透明積層フィルム10の反射色は、JIS Z8729に準拠して数値化することができ、色座標により示すことができる。透明積層フィルム10においては、機能性多層膜14の反射色は、a*=2〜15、b*=−10〜15の範囲内である。透明積層フィルム10は、このような機能性多層膜14に対し、特定の色素を含む色素含有層を設けることで、上記問題を解決するものである。中でも、機能性多層膜14の反射色がa*=6〜10、b*=−6〜−2の範囲内の場合、特定の色素を含む色素含有層を設ける効果が高くなる。
特定の色素は、図2に示すように、600〜800nmの範囲内に吸収ピークがあり、700nmでの吸収強度に対する500nmでの吸収強度の比(A500/A700)が0.15未満のものである。特定の色素は、600〜800nmの範囲内に吸収ピークがあるため、赤系色の光を強く吸収する。また、500nmでの吸収強度が相対的に小さいため、可視光透過性への影響が小さい。すなわち、高透明性を維持しつつ、色目の改善を行うことができる。このような色素としては、フェロシアン化第二鉄、フタロシアニン化合物、ジイモニウム化合物などを挙げることができる。中でも、フェロシアン化第二鉄が好ましい。
また、特定の色素は、赤系色の光を強く吸収するため、日射吸収により日射遮蔽性の向上にも寄与することができる。このため、機能性多層膜14の金属層の厚みを薄くして、赤系色の反射色を弱めることができる。すなわち、特定の色素を含む色素含有層を設けることで、色目を改善できるだけでなく、日射遮蔽性も向上できる。例えば金属層の厚みが日射遮蔽性を満足できない厚みの範囲にある場合であっても、特定の色素を含む色素含有層を設けることで、日射遮蔽性を満足できる場合がある。
透明積層フィルム10では、この特定の色素は保護層16中に含まれる。保護層16は、機能性多層膜14の表面を覆って機能性多層膜14に擦傷が生じるのを抑えるなどの機能を有する。保護層16には、特定の色素の他に、バインダー樹脂が含まれる。保護層16のバインダー樹脂は、高透明で耐傷性に優れる樹脂であれば特に限定されるものではないが、さらに耐候性に優れるなどの観点から、アクリル系樹脂が好ましいものとして挙げられる。保護層16には、必要に応じて、添加剤が含まれていても良い。保護層16に含まれる添加剤としては、紫外線吸収剤、易滑剤などを挙げることができる。
保護層16中における特定の色素の量は、透過率を考慮して適宜定めれば良い。透過率は、色素の質量濃度と保護層16の厚みとの積と相関関係を持ち、Lambert−Beerの法則から下記の式(1)が一般的に知られている。すなわち、透過率を支配するのは色素の質量濃度と透明樹脂シートの厚みの積である。この単位は質量%・mmで表される。これを面積濃度とする。このことは、透過率は単位面積あたりの質量濃度が重要であることを示している。例えば色素の濃度が1質量%、透明樹脂シートの厚みが5mmの場合と、色素の濃度が0.5質量%、透明樹脂シートの厚みが10mmの場合では、ともに面積濃度が5質量%・mmであり、透過率が等しいものとなる。特定の色素の量は、面積濃度で例えば0.001〜0.05質量%・mmの範囲内であれば良く、特に好ましい範囲としては、0.01〜0.016質量%・mmである。
(式1)
−Log(T/t)=E×C×B
ただし、
T:色素を添加したときの透明樹脂の透過率
t:透明樹脂のみの透過率
E:吸光係数を透明樹脂の比重で割った値(定数)
C:色素の質量濃度
B:透明樹脂シートの厚み
保護層16の厚みとしては、0.3〜5.0μmの範囲内であることが好ましい。より好ましくは0.5〜1.5μmの範囲内、さらに好ましくは0.5〜1.0μmの範囲内である。
基材となる透明高分子フィルム12は、透明高分子材料により形成されている。好適な透明高分子材料としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーなどを挙げることができる。透明高分子フィルム12を形成する透明高分子材料は、これらのうちの1種のみで構成されていても良いし、2種以上で構成されていても良い。これらのうちでは、透明性、耐久性、加工性に優れるなどの観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、シクロオレフィンポリマーを、より好適なものとして挙げることができる。
基材となる透明高分子フィルム12の厚みは、加工時にしわが入り難い、破断し難いなどの観点から、好ましくは、15μm以上、より好ましくは、25μm以上である。また、巻回容易性、経済性などの観点から、好ましくは、500μm以下、より好ましくは、250μm以下である。
透明積層フィルム10は、透明高分子フィルム12上に機能性多層膜14を形成し、形成した機能性多層膜14上に保護層16を形成することにより製造することができる。機能性多層膜14の形成方法については、後述の機能性多層膜14の詳細において説明する。保護層16は、例えば、材料を適当な溶剤に希釈し、塗工法を用いて機能性多層膜14の上に層状にコーティングした後、必要に応じて、熱や光、水など、材料に応じた適当な硬化手段により硬化させることにより形成することができる。
透明積層フィルム10は、ビル・一般住宅などの建築物や、自動車・鉄道などの車両の窓ガラスなどに貼る機能性フィルムとして好適に用いることができる。以下に、透明積層フィルム10の使用方法について説明する。図3は、透明積層フィルム10の使用方法を説明する模式図である。図3において、30は窓ガラスを示し、窓ガラス30よりも右側Aを室内とし、左側Bを屋外として示す。
図3に示すように、透明積層フィルム10は、粘着剤18を用い、保護層16(色素含有層)が機能性多層膜14よりも屋外側に配置されるように、窓ガラスの内側に貼り付けて使用する。この配置構成により、図4に示すように、屋外から窓ガラス30に太陽光が入射されると、一部の光は機能性多層膜14を透過するが、波長が600〜800nmの赤系色〜黄系色の光の一部は機能性多層膜14で反射する。機能性多層膜14で反射した光は再び保護層16(色素含有層)を通過して屋外に放射される。このとき、保護層16(色素含有層)では、赤系色〜黄系色の光が吸収される。このため、屋外から見ると、反射光の赤系色は弱まり、青系色を呈するようになる。これにより、透明積層フィルム10は、涼しい印象を与えやすい青系色として視認することができる。
このように機能性多層膜14に対し色素含有層を設けたことで、透明積層フィルム10の反射色は、a*=−10〜5、b*=−15〜12の範囲内となる。この際、外観の色目を改善して意匠性を高める効果が高いなどの理由から、透明積層フィルム10の反射色としては、a*=−10〜1.9、b*=−15〜8の範囲内となることがより好ましい。中でも、a*=0.1〜1.9、b*=−15〜8の範囲内となることがより好ましい。
したがって、透明積層フィルム10によれば、機能性多層膜14の金属層の厚みを維持したままで、暑い印象を与えやすい赤系色〜黄系色の反射色から涼しい印象を与えやすい青系色の反射色となって透明積層フィルム10の意匠性を高めることができる。すなわち、本発明に係る透明積層フィルム10によれば、高い透明性、日射遮蔽性を維持しつつ、外観の色目を改善して意匠性を高めることができる。
透明積層フィルム10では、高透明性を示す指標として、可視光透過率は67%以上であることが好ましい。より好ましくは70%以上である。また、高日射遮蔽性を表す指標として、日射遮蔽係数は0.7未満であることが好ましい。より好ましくは0.67以下である。
透明積層フィルム10において、金属薄膜の膜厚は、可視光透過性や熱線(日射)反射性などに影響しやすい。金属薄膜の膜厚の下限値は、熱線(日射)反射性、耐久性などの観点から、好ましくは、3nm以上、より好ましくは、5nm以上、さらに好ましくは、7nm以上であると良い。一方、金属薄膜の膜厚の上限値は、可視光透過性、経済性などの観点から、好ましくは、30nm以下、より好ましくは、20nm以下、さらに好ましくは、15nm以下であると良い。
金属薄膜の膜厚は、機能性多層膜14における金属層の厚みの合計である。例えば、機能性多層膜14が3層構成の場合には、金属薄膜の膜厚は1つの金属薄膜の厚みをいい、機能性多層膜14が5層構成の場合には、金属薄膜の膜厚は2つの金属薄膜の厚みの合計をいい、機能性多層膜14が7層構成の場合には、金属薄膜の膜厚は3つの金属薄膜の厚みの合計をいう。
透明積層フィルム10において、金属酸化物薄膜の膜厚は、可視光透過性や反射色などに影響しやすい。金属酸化物薄膜の膜厚の下限値は、可視光透過性、反射色などの観点から、好ましくは、5nm以上、より好ましくは、10nm以上、さらに好ましくは、20nm以上であると良い。一方、金属酸化物薄膜の膜厚の上限値は、可視光透過性、反射色、膜の密着性などの観点から、好ましくは、80nm以下、より好ましくは、75nm以下、さらに好ましくは、70nm以下であると良い。
透明積層フィルム10において、バリア薄膜の膜厚は、バリア性や可視光透過性などに影響しやすい。バリア薄膜の膜厚の下限値は、バリア性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは、0.5nm以上、より好ましくは、0.8nm以上、さらに好ましくは、1.0nm以上であると良い。一方、バリア薄膜の膜厚の上限値は、可視光透過性などの観点から、好ましくは、10nm以下、より好ましくは、8nm以下、さらに好ましくは、5nm以下であると良い。
そして、本発明に係る透明積層体は、透明積層フィルム10と透明基材とを備え、透明積層フィルム10の色素含有層が機能性多層膜14よりも透明基材側となるように、透明積層フィルム10が透明基材に貼り付けられたものからなる。
透明基材の形状は、板状などの平面状が好ましい。透明基材の厚みは、機械的強度や剛性などを考慮して、適宜定めれば良い。透明基材の厚みは、一般には、1.0〜12.0mmの範囲などである。
透明基材の材料は、透明性に優れ、十分な機械的強度を有するものであれば特に限定されるものではない。具体的には、例えば、半強化ガラス、強化ガラスなどのガラスや、アクリル系樹脂、カーボネート系樹脂などの透明樹脂材料を挙げることができる。
透明積層フィルム10は、例えば粘着剤を用いて透明基材に貼り付けられる。粘着剤としては、アクリル系粘着剤、シリコン系粘着剤、ウレタン系粘着剤、ポリビニルブチラール系粘着剤、エチレン酢酸ビニル系粘着剤などを挙げることができる。粘着剤による粘着層の厚みは、特に限定されるものではないが、一般には5〜100μmの範囲内であれば良い。
本発明に係る透明積層体は、例えば熱線カット機能を有する窓材などに用いることができる。その用途に応じて、透明積層フィルム10の光学特性を損なわない範囲内で、反射防止機能、防眩機能、衝撃吸収機能、耐環境機能などの各種の機能を有する機能性フィルムを組み合わせて用いても良い。
ここで、一実施形態に係る透明積層フィルム10においては、保護層16中に特定の色素が含まれており、保護層16が色素含有層になっているが、本発明の透明積層フィルムは、この構成に特に限定されるものではない。
他の実施形態の透明積層フィルムとしては、基材となる透明高分子フィルム12中に特定の色素が含まれており、透明高分子フィルム12が色素含有層になっている形態を挙げることができる。
透明高分子フィルム12には、耐擦傷性に優れる材料としてポリエチレンテレフタレートなどの官能基を有する高分子材料が用いられることが多い。このため、透明高分子フィルム12は赤外線を吸収しやすい。したがって、例えば冬場の寒い時期において、室内で発生させた暖房熱が吸収されにくいようにして断熱効果を高めるためには、透明高分子フィルム12は機能性多層膜14よりも屋外側に配置されることが望ましい。そうすると、図5に示すように、他の実施形態の透明積層フィルム20は、粘着剤18を用い、透明高分子フィルム12が機能性多層膜14よりも屋外側に配置されるように、窓ガラス30の内側に貼り付けて使用することが望ましい。
他の実施形態の透明積層フィルム20では、断熱効果が期待できる配置構成を利用して、使用時には機能性多層膜14よりも屋外側に配置される透明高分子フィルム12を色素含有層とするものである。したがって、この実施形態の透明積層フィルム20によれば、高い透明性、日射遮蔽性を維持しつつ、外観の色目を改善して意匠性を高めることに加えて、優れた断熱性も期待できる。この際、断熱性を表す指標となる熱貫流率は、5.0W/m2K以下であることが好ましい。より好ましくは4.5W/m2K以下である。
また、さらに別の実施形態の透明積層フィルムとしては、透明高分子フィルム12、機能性多層膜14、保護層16に加えて、粘着剤により形成される粘着層18を備えた構成のものを挙げることができる。粘着層18は、図3に示すように、保護層16の上に形成されていても良いし、また、透明高分子フィルム12の上に形成されていても良い。粘着層18は、使用時に機能性多層膜14よりも屋外側に配置される層の上に形成されていれば良い。この際、使用前の取り扱い性などの観点から、粘着層18の上には、カバーフィルムなどが設けられていても良い。
透明積層フィルムを窓ガラスの内側に貼り付ける場合には、機能性多層膜14よりも屋外側に保護層16が配置されるときと、機能性多層膜14よりも屋外側に透明高分子フィルム12が配置されるときのいずれのときにおいても、粘着層18は必ず機能性多層膜14よりも屋外側に配置される。この点に着目し、別の実施形態の透明積層フィルムは、粘着層18を色素含有層とするものである。
また、透明積層フィルム10では、透明高分子フィルム12の片面に機能性多層膜14を設けた構成となっているが、本発明に係る透明積層フィルムでは、透明高分子フィルム12の両面に機能性多層膜14を設けた構成とすることもできる。
なお、以下に、透明積層フィルムの機能性多層膜14を構成する金属酸化物薄膜、金属薄膜、バリア薄膜についてより詳細に説明する。
<金属酸化物薄膜>
金属酸化物薄膜の金属酸化物としては、具体的には、例えば、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、マグネシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ニオブの酸化物、セリウムの酸化物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、これら金属酸化物は、2種以上の金属酸化物が複合した複酸化物であっても良い。
上記金属酸化物としては、とりわけ、可視光に対する屈折率が比較的大きいなどの観点から、酸化チタン(TiO2)、ITO、酸化亜鉛(ZnO)、酸化スズ(SnO2)などを好適なものとして例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
金属酸化物薄膜は、主として上述した金属酸化物より構成されているが、金属酸化物以外にも、有機分を含有していても良い。有機分を含有することで、透明積層フィルムの柔軟性をより向上させることができるためである。この種の有機分としては、具体的には、例えば、ゾル−ゲル法の出発原料に由来する成分等、金属酸化物薄膜の形成材料に由来する成分などを例示することができる。
上記有機分としては、より具体的には、例えば、上述した金属酸化物を構成する金属の金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレートなどといった有機金属化合物(その分解物なども含む)や、上記有機金属化合物と反応して紫外線吸収性のキレートを形成する有機化合物(後述する)等の各種添加剤などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
金属酸化物薄膜中に含まれる有機分の含有量の下限値は、柔軟性を付与しやすいなどの観点から、好ましくは、3質量%以上、より好ましくは、5質量%以上、さらに好ましくは、7質量%以上であると良い。一方、金属酸化物薄膜中に含まれる有機分の含有量の上限値は、高屈折率を確保しやすくなる、耐溶剤性を確保しやすくなるなどの観点から、好ましくは、30質量%以下、より好ましくは、25質量%以下、さらに好ましくは、20質量%以下であると良い。
なお、上記有機分の含有量は、X線光電子分光法(XPS)などを用いて調べることができる。また、上記有機分の種類は、赤外分光法(IR)(赤外吸収分析)などを用いて調べることができる。
金属酸化物薄膜は、気相法、液相法の何れでも形成することができる。液相法は、気相法と比較して、真空引きしたり、大電力を使用したりする必要がない。そのため、その分、コスト的に有利であり、生産性にも優れているので好適である。液相法としては、有機分を残存させやすいなどの観点から、ゾル−ゲル法を好適に利用することができる。
ゾル−ゲル法としては、より具体的には、例えば、金属酸化物を構成する金属の有機金属化合物を含有するコーティング液を薄膜状にコーティングし、これを必要に応じて乾燥させ、金属酸化物薄膜の前駆体薄膜を形成した後、この前駆体薄膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させ、有機金属化合物を構成する金属の酸化物を合成するなどの方法を例示することができる。これによれば、金属酸化物を主成分として含み、有機分を含有する金属酸化物薄膜を形成することができる。以下、上記方法について詳細に説明する。
上記コーティング液は、上記有機金属化合物を適当な溶媒に溶解して調製することができる。この際、有機金属化合物としては、具体的には、例えば、チタン、亜鉛、インジウム、スズ、マグネシウム、アルミニウム、ジルコニウム、ニオブ、セリウム、シリコン、ハフニウム、鉛などの金属の有機化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記有機金属化合物としては、具体的には、例えば、上記金属の金属アルコキシド、金属アシレート、金属キレートなどを例示することができる。好ましくは、空気中での安定性などの観点から、金属キレートであると良い。
上記有機金属化合物としては、とりわけ、高屈折率を有する金属酸化物になり得る金属の有機化合物を好適に用いることができる。このような有機金属化合物としては、例えば、有機チタン化合物などを例示することができる。
上記有機チタン化合物としては、具体的には、例えば、テトラ−n−ブトキシチタン、テトラエトキシチタン、テトラ−i−プロポキシチタン、テトラメトキシチタンなどのM−O−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアルコキシドや、イソプロポキシチタンステアレートなどのM−O−CO−R結合(Rはアルキル基を示し、Mはチタン原子を示す)を有するチタンのアシレートや、ジイソプロポキシチタンビスアセチルアセトナート、ジヒドロキシビスラクタトチタン、ジイソプロポキシビストリエタノールアミナトチタン、ジイソプロポキシビスエチルアセトアセタトチタンなどのチタンのキレートなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。また、これらは単量体、多量体の何れであっても良い。
上記コーティング液中に占める有機金属化合物の含有量は、塗膜の膜厚均一性や一回に塗工できる膜厚などの観点から、好ましくは、1〜20質量%、より好ましくは、3〜15質量%、さらに好ましくは、5〜10質量%の範囲内にあると良い。
また、上記有機金属化合物を溶解させる溶媒としては、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ヘプタノール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、酢酸エチルなどの有機酸エステル、アセトニトリル、アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのシクロエーテル類、ホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミドなどの酸アミド類、ヘキサンなどの炭化水素類、トルエンなどの芳香族類などを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
この際、上記溶媒量は、上記有機金属化合物の固形分重量に対して、塗膜の膜厚均一性や一回に塗工できる膜厚などの観点から、好ましくは、5〜100倍量、より好ましくは、7〜30倍量、さらに好ましくは、10〜20倍量の範囲内であると良い。
上記溶媒量が100倍量より多くなると、一回のコーティングで形成できる膜厚が薄くなり、所望の膜厚を得るために多数回のコーティングが必要となる傾向が見られる。一方、5倍量より少なくなると、膜厚が厚くなり過ぎ、有機金属化合物の加水分解・縮合反応が十分に進行し難くなる傾向が見られる。したがって、上記溶媒量は、これらを考慮して選択すると良い。
上記コーティング液の調製は、例えば、所定割合となるように秤量した有機金属化合物と、適当な量の溶媒と、必要に応じて添加される他の成分とを、攪拌機などの撹拌手段により所定時間撹拌・混合するなどの方法により調製することができる。この場合、各成分の混合は、1度に混合しても良いし、複数回に分けて混合しても良い。
また、上記コーティング液のコーティング法としては、均一なコーティングが行いやすいなどの観点から、マイクログラビア法、グラビア法、リバースロールコート法、ダイコート法、ナイフコート法、ディップコート法、スピンコート法、バーコート法など、各種のウェットコーティング法を好適なものとして例示することができる。これらは適宜選択して用いることができ、1種または2種以上併用しても良い。
また、コーティングされたコーティング液を乾燥する場合、公知の乾燥装置などを用いて乾燥させれば良く、この際、乾燥条件としては、具体的には、例えば、80℃〜120℃の温度範囲、0.5分〜5分の乾燥時間などを例示することができる。
また、前駆体薄膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させる手段としては、具体的には、例えば、紫外線、電子線、X線等の光エネルギーの照射、加熱など、各種の手段を例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。これらのうち、好ましくは、光エネルギーの照射、とりわけ、紫外線照射を好適に用いることができる。他の手段と比較した場合、低温、短時間で金属酸化物を生成できるし、熱劣化など、熱による負荷を透明高分子フィルム12に与え難いからである(とりわけ、紫外線照射の場合は、比較的簡易な設備で済む利点がある。)。また、有機分として、有機金属化合物(その分解物なども含む)などを残存させやすい利点もあるからである。
さらには、ゾルゲル硬化時に光エネルギーを用いるゾル−ゲル法を採用した場合には、スパッタ等により形成した金属酸化物薄膜に比べ、粗な金属酸化物薄膜とすることができる。そのため、建築物の窓ガラスに透明積層フィルムを水貼り施工した場合に、窓ガラスとの間に水が残ったときでも、良好な水抜け性が得られ、水貼り施工性を向上させることができるなどの利点があるからである。
この際、用いる紫外線照射機としては、具体的には、例えば、水銀ランプ、キセノンランプ、重水素ランプ、エキシマランプ、メタルハライドランプなどを例示することができる。これらは1種または2種以上組み合わせて用いても良い。
また、照射する光エネルギーの光量は、前駆体薄膜を主に形成している有機金属化合物の種類、前駆体薄膜の厚みなどを考慮して種々調節することができる。もっとも、照射する光エネルギーの光量が過度に小さすぎると、金属酸化物薄膜の高屈折率化を図り難くなる。一方、照射する光エネルギーの光量が過度に大きすぎると、光エネルギーの照射の際に生じる熱により透明高分子フィルム12が変形することがある。したがって、これらに留意すると良い。
照射する光エネルギーが紫外線である場合、その光量は、金属酸化物薄膜の屈折率、透明高分子フィルム12が受けるダメージなどの観点から、測定波長300〜390nmのとき、好ましくは、300〜8000mJ/cm2、より好ましくは、500〜5000mJ/cm2の範囲内であると良い。
なお、前駆体薄膜中の有機金属化合物を加水分解・縮合反応させる手段として、光エネルギーの照射を用いる場合、上述したコーティング液中に、有機金属化合物と反応して光吸収性(例えば、紫外線吸収性)のキレートを形成する有機化合物等の添加剤を添加しておくと良い。出発溶液であるコーティング液中に上記添加剤が添加されている場合には、予め光吸収性キレートが形成されたところに光エネルギーの照射がなされるので、比較的低温下において金属酸化物薄膜の高屈折率化を図り得やすくなるからである。
上記添加剤としては、具体的には、例えば、βジケトン類、アルコキシアルコール類、アルカノールアミン類などの添加剤を例示することができる。より具体的には、上記βジケトン類としては、例えば、アセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、アセト酢酸エチル、アセト酢酸メチル、マロン酸ジエチルなどを例示することができる。上記アルコキシアルコール類としては、例えば、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、2−メトキシ−2−プロパノールなどを例示することができる。上記アルカノールアミン類としては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上混合されていても良い。
これらのうち、とりわけ、βジケトン類が好ましく、中でもアセチルアセトンを最も好適に用いることができる。
また、上記添加剤の配合割合としては、屈折率の上がりやすさ、塗膜状態での安定性などの観点から、上記有機金属化合物における金属原子1モルに対して、好ましくは、0.1〜2倍モル、より好ましくは、0.5〜1.5倍モルの範囲内にあると良い。
<金属薄膜>
金属薄膜の金属としては、具体的には、例えば、銀、金、白金、銅、アルミニウム、クロム、チタン、亜鉛、スズ、ニッケル、コバルト、ニオブ、タンタル、タングステン、ジルコニウム、鉛、パラジウム、インジウムなどの金属や、これら金属の合金などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。
上記金属としては、積層時の可視光透過性、熱線(日射)反射性等に優れるなどの観点から、銀または銀合金が好ましい。より好ましくは、熱、光、水蒸気などの環境に対する耐久性が向上するなどの観点から、銀を主成分とし、銅、ビスマス、金、パラジウム、白金、チタンなどの金属元素を少なくとも1種以上含んだ銀合金であると良い。さらに好ましくは、銅を含む銀合金(Ag−Cu系合金)、ビスマスを含む銀合金(Ag−Bi系合金)、チタンを含む銀合金(Ag−Ti系合金)等であると良い。銀の拡散抑制効果が大きい、コスト的に有利であるなどの利点があるからである。
銅を含む銀合金を用いる場合、銀、銅以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Bi、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pbなど、Ag−Cu系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
銅を含む銀合金を用いる場合、銅の含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、1原子%以上、より好ましくは、2原子%以上、さらに好ましくは、3原子%以上であると良い。一方、銅の含有量の上限値は、高透明性を確保しやすくなる、スパッタターゲットが作製しやすい等の製造性などの観点から、好ましくは、20原子%以下、より好ましくは、10原子%以下、さらに好ましくは、5原子%以下であると良い。
また、ビスマスを含む銀合金を用いる場合、銀、ビスマス以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pbなど、Ag−Bi系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Ti、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
ビスマスを含む銀合金を用いる場合、ビスマスの含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、0.01原子%以上、より好ましくは、0.05原子%以上、さらに好ましくは、0.1原子%以上であると良い。一方、ビスマスの含有量の上限値は、スパッタターゲットが作製しやすい等の製造性などの観点から、好ましくは、5原子%以下、より好ましくは、2原子%以下、さらに好ましくは、1原子%以下であると良い。
また、チタンを含む銀合金を用いる場合、銀、チタン以外にも、例えば、銀の凝集・拡散抑制効果に悪影響を与えない範囲内であれば、他の元素、不可避不純物を含有していても良い。
上記他の元素としては、具体的には、例えば、Mg、Pd、Pt、Au、Zn、Al、Ga、In、Sn、Sb、Li、Cd、Hg、AsなどのAgに固溶可能な元素;Be、Ru、Rh、Os、Ir、Cu、Ge、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Co、Ni、Si、Tl、Pb、Biなど、Ag−Ti系合金中に単相として析出可能な元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Gd、Tb、Dy、Zr、Hf、Na、Ca、Sr、Ba、Sc、Pr、Eu、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、S、Se、TeなどのAgとの金属間化合物を析出可能な元素などを例示することができる。これらは1種または2種以上含有されていても良い。
チタンを含む銀合金を用いる場合、チタンの含有量の下限値は、添加効果を得る観点から、好ましくは、0.01原子%以上、より好ましくは、0.05原子%以上、さらに好ましくは、0.1原子%以上であると良い。一方、チタンの含有量の上限値は、膜にした場合、完全な固溶体が得られやすくなるなどの観点から、好ましくは、2原子%以下、より好ましくは、1.75原子%以下、さらに好ましくは、1.5原子%以下であると良い。
なお、上記銅、ビスマス、チタン等の副元素割合は、ICP分析法を用いて測定することができる。また、上記金属薄膜を構成する金属(合金含む)は、部分的に酸化されていても良い。
ここで、金属薄膜を形成する方法としては、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどといった物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相成長法(CVD)などの気相法などを例示することができる。金属薄膜は、これらのうち何れか1つの方法を用いて形成されていても良いし、あるいは、2つ以上の方法を用いて形成されていても良い。これら方法のうち、緻密な膜質が得られる、膜厚制御が比較的容易であるなどの観点から、好ましくは、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法を好適に用いることができる。
なお、金属薄膜は、後述する後酸化等を受けて、本願における金属薄膜の機能を損なわない範囲内で酸化されていても良い。
<バリア膜>
バリア薄膜の金属酸化物としては、具体的には、例えば、チタンの酸化物、亜鉛の酸化物、インジウムの酸化物、スズの酸化物、インジウムとスズとの酸化物、マグネシウムの酸化物、アルミニウムの酸化物、ジルコニウムの酸化物、ニオブの酸化物、セリウムの酸化物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていても良い。また、これら金属酸化物は、2種以上の金属酸化物が複合した複酸化物であっても良い。なお、バリア薄膜は、上記金属酸化物以外に不可避不純物などを含んでいても良い。
バリア薄膜としては、金属薄膜を構成する金属の拡散抑制効果に優れる、密着性に優れるなどの観点から、金属酸化物薄膜中に含まれる金属の酸化物より主に構成されていると良い。
より具体的には、例えば、金属酸化物薄膜としてTiO2薄膜を選択した場合、バリア薄膜は、TiO2薄膜中に含まれる金属であるTiの酸化物より主に構成されるチタン酸化物薄膜であると良い。
また、バリア薄膜がチタン酸化物薄膜である場合、当該バリア薄膜は、当初からチタン酸化物として形成された薄膜であっても良いし、金属Ti薄膜が後酸化されて形成された薄膜、または、部分酸化されたチタン酸化物薄膜が後酸化されて形成された薄膜等であっても良い。
バリア薄膜は、金属酸化物薄膜と同じように主に金属酸化物から構成されるが、金属酸化物薄膜よりも膜厚が薄く設定される。これは、金属薄膜を構成する金属の拡散は、原子レベルで生じるので、屈折率を十分確保するのに必要な膜厚まで厚くする必要性が低いからである。また、薄く形成することで、その分、成膜コストが安価になり、透明積層フィルムの製造コストの低減にも寄与することができる。
バリア薄膜が主にチタン酸化物より構成される場合、チタン酸化物における酸素に対するチタンの原子モル比Ti/Oの下限値は、バリア性などの観点から、1.0/4.0以上、より好ましくは、1.0/3.8以上、さらに好ましくは、1.0/3.5以上、さらにより好ましくは、1.0/3.0以上、最も好ましくは、1.0/2.8以上であると良い。
バリア薄膜が主にチタン酸化物より構成される場合、チタン酸化物における酸素に対するチタンの原子モル比Ti/Oの上限値は、可視光透過性などの観点から、好ましくは、1.0/0.5以下、より好ましくは、1.0/0.7以下、さらに好ましくは、1.0/1.0以下、さらにより好ましくは、1.0/1.2以下、最も好ましくは、1.0/1.5以下であると良い。
上記Ti/O比は、当該薄膜の組成から算出することができる。当該薄膜の組成分析方法としては、極めて薄い薄膜の組成を比較的正確に分析することが可能な観点から、エネルギー分散型蛍光X線分析(EDX)を好適に用いることができる。
具体的な組成分析方法について説明すると、先ず、超薄切片法(ミクロトーム)などを用いて、分析対象となる当該薄膜を含む積層構造の断面方向の厚みが100nm以下の試験片を作製する。次いで、断面方向から積層構造と当該薄膜の位置を、透過型電子顕微鏡(TEM)により確認する。次いで、EDX装置の電子銃から電子線を放出させ、分析対象となる当該薄膜の膜厚中央部近傍に入射させる。試験片表面から入射した電子は、ある深さまで入り込み、各種の電子線やX線を発生させる。この際の特性X線を検出して分析することで、当該薄膜の構成元素分析を行うことができる。
透明積層フィルムにおいて、バリア薄膜は、緻密な膜を形成できる、数nm〜数十nm程度の薄膜を均一な膜厚で形成できるなどの観点から、気相法を好適に利用することができる。
上記気相法としては、具体的には、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法、レーザーアブレーションなどといった物理的気相成長法(PVD)、熱CVD法、プラズマCVD法などといった化学的気相成長法(CVD)などを例示することができる。上記気相法としては、真空蒸着法などと比較して膜界面の密着性に優れる、膜厚制御が容易であるなどの観点から、DCマグネトロンスパッタリング法、RFマグネトロンスパッタリング法などのスパッタリング法を好適に用いることができる。
なお、上記積層構造中に含まれうる各バリア層は、これら気相法のうち何れか1つの方法を利用して形成されていても良いし、あるいは、2つ以上の方法を利用して形成されていても良い。
また、上記バリア薄膜は、上述した気相法を利用し、当初から金属酸化物薄膜として成膜しても良いし、あるいは、一旦、金属薄膜や部分酸化された金属酸化物層を成膜した後、これを事後的に酸化して形成することも可能である。なお、部分酸化された金属酸化物薄膜とは、さらに酸化される余地がある金属酸化物薄膜を指す。
当初から金属酸化物薄膜として成膜する場合、具体的には、例えば、スパッタリングガスとしてのアルゴン、ネオンなどの不活性ガスに、さらに反応性ガスとして酸素を含むガスを混合し、金属と酸素とを反応させながら薄膜を形成すれば良い(反応性スパッタリング法)。反応性スパッタリング法を用いて、例えば、上記Ti/O比を有するチタン酸化物薄膜を得る場合、雰囲気中の酸素濃度(不活性ガスに対する酸素を含むガスの体積割合)は、上述した膜厚範囲を考慮して最適な割合を適宜選択すれば良い。
一方、金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を成膜した後、これを事後的に後酸化する場合、具体的には、機能性多層膜14付フィルムを形成した後、応力緩和層、保護層16を形成する前または後に、機能性多層膜14中の金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜を後酸化させる等すれば良い。なお、金属薄膜の成膜には、スパッタリング法等を、部分酸化された金属酸化物薄膜の成膜には、上述した反応性スパッタリング法等を用いれば良い。
また、後酸化手法としては、加熱処理、加圧処理、化学処理、自然酸化等を例示することができる。これら後酸化手法のうち、比較的簡単かつ確実に後酸化を行うことができるなどの観点から、加熱処理が好ましい。上記加熱処理としては、例えば、透明積層フィルムを加熱炉等の加熱雰囲気中に存在させる方法、温水中に浸漬する方法、マイクロ波加熱する方法や、機能性多層膜14中の金属薄膜や部分酸化された金属酸化物薄膜等を通電加熱する方法などを例示することができる。これらは1または2以上組み合わせて行っても良い。
上記加熱処理時の加熱条件としては、具体的には、例えば、好ましくは、30℃〜60℃、より好ましくは、32℃〜57℃、さらに好ましくは、35℃〜55℃の加熱温度、加熱雰囲気中に存在させる場合、好ましくは、5日間以上、より好ましくは、10日間以上、さらに好ましくは、15日間以上の加熱時間から選択すると良い。上記加熱条件の範囲内であれば、後酸化効果が良好だからである。
また、上記加熱処理時の加熱雰囲気は、大気中、高酸素雰囲気中、高湿度雰囲気中など酸素や水分の存在する雰囲気が好ましい。特に好ましくは、製造性、低コスト化等の観点から、大気中であると良い。
機能性多層膜14中に上述した後酸化薄膜を含んでいる場合には、後酸化時に、金属酸化物層中に含まれていた水分や酸素が消費されているため、太陽光が当たっても金属酸化物薄膜が化学反応し難くなる。具体的には、例えば、金属酸化物薄膜がゾル−ゲル法により形成されている場合、後酸化時に、金属酸化物薄膜中に含まれていた水分や酸素が消費されているため、金属酸化物薄膜中に残存していたゾル−ゲル法による出発原料(金属アルコキシド等)と水分(吸着水等)・酸素等とが、太陽光によってゾルゲル硬化反応し難くなる。そのため、機能性多層膜14の形成時における硬化収縮等の体積変化によって生じる内部応力を緩和することが可能となり、機能性多層膜14と透明高分子フィルム12との間の界面剥離等を抑制しやすくなる等、太陽光に対する耐久性を向上させやすくなる。
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。
<実施例1>
実施例1に係る透明積層フィルムとして、概略以下の3層積層構造からなる機能性多層膜と、この機能性多層膜に接して積層された保護層とを有する透明積層フィルムを作製した。
すなわち、実施例1に係る透明積層フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に、ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(1層目)│チタン酸化物薄膜/Ag−Cu合金薄膜/チタン酸化物薄膜(2層目)│ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(3層目)が順に積層されてなる機能性多層膜を有している。
なお、チタン酸化物薄膜は、金属Ti薄膜が熱酸化されて形成されたものであり、これがバリア薄膜に該当する。このチタン酸化物薄膜は、Ag−Cu合金薄膜に付随する薄膜として、Ag−Cu合金薄膜に含めて積層数を数えている。
以下、具体的な作製手順を示す。
(コーティング液の調製)
先ず、ゾル−ゲル法によるTiO2薄膜の形成に使用するコーティング液を調製した。すなわち、チタンアルコキシドとして、テトラ−n−ブトキシチタン4量体(日本曹達(株)製、「B4」)と、紫外線吸収性のキレートを形成する添加剤として、アセチルアセトンとを、n−ブタノールとイソプロピルアルコールとの混合溶媒に配合し、これを攪拌機を用いて10分間混合することにより、コーティング液を調製した。この際、テトラ−n−ブトキシチタン4量体/アセチルアセトン/n−ブタノール/イソプロピルアルコールの配合は、それぞれ6.75質量%/3.38質量%/59.87質量%/30.00質量%とした。
(機能性多層膜の形成)
透明高分子フィルムとして、易接着層が片面に形成された厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4100」)(以下、「PETフィルム」という。)を用い、このPETフィルムの易接着層面側とは反対側の面(PET面)側に、1層目として、TiO2薄膜を以下の手順により成膜した。
すなわち、PETフィルムのPET面側に、マイクログラビアコーターを用いて、所定の溝容積のグラビアロールで上記コーティング液を連続的に塗工した。次いで、インラインの乾燥炉を用いて、塗工膜を100℃で80秒間乾燥させ、TiO2薄膜の前駆体膜を形成した。次いで、インラインの紫外線照射機〔高圧水銀ランプ(160W/cm)〕を用いて、上記塗工時と同線速で、上記前駆体膜に対して連続的に紫外線を1.5秒間照射した。これによりPETフィルム上に、ゾルゲル硬化時に紫外線エネルギーを用いるゾル−ゲル法(以下、「(ゾルゲル+UV)」と省略することがある。)によるTiO2薄膜(1層目)を成膜した。
次に、1層目の上に、2層目を構成する各薄膜を成膜した。すなわち、DCマグネトロンスパッタ装置を用い、1層目のTiO2薄膜上に、下側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、この下側の金属Ti薄膜上に、Ag−Cu合金薄膜をスパッタリングにより成膜した。次いで、このAg−Cu合金薄膜上に、上側の金属Ti薄膜をスパッタリングにより成膜した。
この際、上側および下側の金属Ti薄膜の成膜条件は、Tiターゲット(純度4N)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.5(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
また、Ag−Cu合金薄膜の成膜条件は、Ag−Cu合金ターゲット(Cu含有量:4原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.5(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
次に、3層目として、2層目の上に、(ゾルゲル+UV)によるTiO2薄膜を成膜した。ここでは、1層目に準じた成膜手順を2回行うことにより、所定の膜厚とした。
次に、得られた機能性多層膜付きフィルムを、加熱炉内にて、大気中、40℃で300時間加熱処理することにより、積層構造中に含まれる金属Ti薄膜を熱酸化させ、チタン酸化物薄膜とした。
(保護層の形成)
色素<1>(フェロシアン化第二鉄、大日精化工業社製「NBB−2A」)1.25質量部を熱可塑性のアクリル樹脂(ローム・アンド・ハース社製、「パラロイドB−44(100%)樹脂」100質量部に混合し、アクリル樹脂の濃度が20%となるようにMEKで希釈することにより、塗液を調製した。次に、上記機能性多層膜付きフィルムの機能性多層膜の表面に調製した塗液を塗工し、100℃で2分間乾燥し、さらに400mJ/cm2の紫外線を照射した。これにより、機能性多層膜の表面に、色素<1>を含むアクリル樹脂(硬化物)よりなる保護層を形成した。
以上により、実施例1に係る透明積層フィルムを作製した。なお、表1に、機能性多層膜の詳細な層構成を示す。
TiO2薄膜の屈折率(測定波長は633nm)を、FilmTek3000(Scientific Computing International社製)により測定した。
また、TiO2薄膜中に含まれる有機分の含有量を、X線光電子分光法(XPS)により測定した。
また、金属Ti薄膜を熱酸化させて形成したチタン酸化物薄膜についてEDX分析を行い、Ti/O比を次のようにして求めた。
すなわち、機能性多層膜付きフィルムをミクロトーム(LKB(株)製、「ウルトロームV2088」)により切り出し、分析対象となるチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)を含む積層構造の断面方向の厚みが100nm以下の試験片を作製した。作製した試験片の断面を、電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(日本電子(株)製、「JEM2001F」)により確認した。そして、EDX装置(分解能133eV以下)(日本電子(株)製、「JED−2300T」)を用い、この装置の電子銃から電子線を放出させ、分析対象となるチタン酸化物薄膜(バリア薄膜)の膜厚中央部近傍に入射させ、発生した特性X線を検出して分析することにより、チタン酸化物薄膜(バリア薄膜)の構成元素分析を行った。
また、合金薄膜中の副元素(Cu)含有量を次のようにして求めた。すなわち、各成膜条件において、別途、ガラス基板上にAg−Cu合金薄膜を形成した試験片を作製し、この試験片を6%HNO3溶液に浸漬し、20分間超音波による溶出を行った後、得られた試料液を用いて、ICP分析法の濃縮法により測定した。
また、各薄膜の膜厚を、上記電界放出型電子顕微鏡(HRTEM)(日本電子(株)製、「JEM2001F」)による試験片の断面観察から測定した。
<実施例2〜3>
色素<1>の配合量を変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2〜3に係る透明積層フィルムを作製した。
<参考例1>
概略以下の5層積層構造からなる機能性多層膜と、この機能性多層膜に接して積層された保護層とを有する透明積層フィルムを作製した。
すなわち、参考例1に係る透明積層フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に、ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(1層目)│チタン酸化物薄膜/Ag−Cu合金薄膜/チタン酸化物薄膜(2層目)│ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(3層目)│チタン酸化物薄膜/Ag−Cu合金薄膜/チタン酸化物薄膜(4層目)│ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(5層目)が順に積層されてなる機能性多層膜を有している。
機能性多層膜の3層目までは、実施例1と同様にして成膜した。以下、4層目以降の層についての成膜手順を説明する。
4層目として、3層目の上に、4層目を構成する各薄膜を成膜した。ここでは、2層目に準じた成膜手順を行った。但し、Ag−Cu合金薄膜の成膜条件は、Ag−Cu合金ターゲット(Cu含有量:4原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.8(kW)、成膜時間:1.1秒とした。5層目として、4層目の上に、3層目と同様にして(ゾルゲル+UV)によるTiO2薄膜を成膜した。
次に、得られた機能性多層膜付きフィルムを、加熱炉内にて、大気中、40℃で300時間加熱処理することにより、積層構造中に含まれる金属Ti薄膜を熱酸化させ、チタン酸化物薄膜とした。
(保護層の形成)
色素<1>を配合しなかった点以外は実施例1と同様にして、機能性多層膜の表面に、色素<1>を含まないアクリル樹脂(硬化物)よりなる保護層を形成した。
以上により、参考例1に係る透明積層フィルムを作製した。なお、表2に、参考例1の機能性多層膜の詳細な層構成を示す。
<参考例2>
概略以下の7層積層構造からなる機能性多層膜と、この機能性多層膜に接して積層された保護層とを有する透明積層フィルムを作製した。
すなわち、参考例2に係る透明積層フィルムは、透明高分子フィルムの一方面に、ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(1層目)│チタン酸化物薄膜/Ag−Cu合金薄膜/チタン酸化物薄膜(2層目)│ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(3層目)│チタン酸化物薄膜/Ag−Cu合金薄膜/チタン酸化物薄膜(4層目)│ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(5層目)│チタン酸化物薄膜/Ag−Cu合金薄膜/チタン酸化物薄膜(6層目)│ゾル−ゲル法及びUV照射によるTiO2薄膜(7層目)が順に積層されてなる機能性多層膜を有している。
機能性多層膜の3層目までは、実施例1と同様にして成膜した。以下、4層目以降の層についての成膜手順を説明する。
4層目として、3層目の上に、4層目を構成する各薄膜を成膜した。ここでは、2層目に準じた成膜手順を行った。但し、Ag−Cu合金薄膜の成膜条件は、Ag−Cu合金ターゲット(Cu含有量:4原子%)、真空到達圧:5×10−6(Torr)、不活性ガス:Ar、ガス圧:2.5×10−3(Torr)、投入電力:1.8(kW)、成膜時間:1.1秒とした。
5層目として、4層目の上に、3層目と同様にして(ゾルゲル+UV)によるTiO2薄膜を成膜した。6層目として、5層目の上に、2層目と同様にして各薄膜を成膜した。7層目として、6層目の上に、(ゾルゲル+UV)によるTiO2薄膜を成膜した。ここでは、1層目に準じた成膜手順を1回行うことにより、所定の膜厚とした。
次に、得られた機能性多層膜付きフィルムを、加熱炉内にて、大気中、40℃で300時間加熱処理することにより、積層構造中に含まれる金属Ti薄膜を熱酸化させ、チタン酸化物薄膜とした。
(保護層の形成)
色素<1>を配合しなかった点以外は実施例1と同様にして、機能性多層膜の表面に、色素<1>を含まないアクリル樹脂(硬化物)よりなる保護層を形成した。
以上により、参考例2に係る透明積層フィルムを作製した。なお、表3に、参考例2の機能性多層膜の詳細な層構成を示す。
<比較例1>
機能性多層膜の形成において、金属薄膜の厚みを10.2nmとし、保護層の形成において、色素<1>を配合しなかった点以外は実施例1と同様にして、比較例1に係る透明積層フィルムを作製した。
<比較例2〜3>
保護層の形成において、色素<1>に代えて色素<2>あるいは色素<3>を配合した以外は実施例1と同様にして、比較例2〜3に係る透明積層フィルムを作製した。
実施例および比較例で用いた色素について、下記の測定方法にしたがって、吸収率を求めた。求めた吸収率については、グラフ(図6)に示した。また、この測定結果から、700nmでの吸収強度に対する500nmでの吸収強度の比(A500/A700)も併せて算出した。その結果を表4に示す。
(色素の吸収率)
実施例および比較例で用いた色素2.5質量部を、保護層の形成において用いた紫外線硬化性のアクリル樹脂100質量部に混合し、アクリル樹脂の濃度が20%となるようにMEKで希釈することにより塗液を調製した。得られた塗液を、厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡績(株)製、「コスモシャイン(登録商標)A4100」)に塗工後、100℃で2分間乾燥し、さらに400mJ/cm2の紫外線を照射して、ポリエチレンテレフタレートフィルムの表面に、色素を含むアクリル樹脂(硬化物)よりなる塗膜を作製した。塗膜を形成したフィルムを分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて、波長300〜1500nmの透過・反射スペクトルを測定し、吸収率=100−透過率−反射率の式から色素の吸収率を求めた。
グラフ(図6)から、色素<1>は、600〜800nmの範囲内に吸収ピークがあり、700nmでの吸収強度に対する500nmでの吸収強度の比(A500/A700)が0.15未満である。これに対し、色素<2>あるいは色素<3>は、550〜650nmの範囲内に吸収ピークがあり、700nmにはピークトップがない。また、700nmでの吸収強度に対する500nmでの吸収強度の比(A500/A700)が0.15以上である。
また、実施例および比較例で用いた機能性多層膜について、保護層を形成する前の状態で、JIS Z8729に準拠し、分光光度計(島津製作所製「UV3100」)を用いて波長380〜780nmの反射スペクトルを測定し、計算により、機能性多層膜の反射色(a*,b*)を求めた。この結果を表4に示す。
また、作製した透明積層フィルムについて、以下の特性を測定した。この際、図3に示すように、保護層の表面に厚さ25μmのアクリル粘着シート(積水化学工業(株)製、「♯5402」)を貼り付け、この粘着シートの粘着層を介して、厚さ3mmのフロートガラスの片面に貼り付けた。なお、測定光は、透明積層フィルムを貼り付けていないガラス面側から入射させた。
(可視光透過率)
JIS A5759に準拠し、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用いて、波長300〜1000nmの透過スペクトルを測定し、可視光透過率を計算することにより求めた。
(日射遮蔽係数)
JIS A5759に準拠し、分光光度計(島津製作所(株)製、「UV3100」)を用い、波長300〜2500nmの透過スペクトル、反射スペクトルを測定することにより日射透過率、日射反射率を計算し、日射透過率、日射反射率、修正放射率から日射遮蔽係数を計算することにより求めた。修正放射率は、JIS R3106に準拠して透明積層フィルム全体の垂直放射率を求め、JIS A5759に記載されている係数で補正して算出した。
(反射色a*,b*)
JIS Z8729に準拠し、分光光度計(島津製作所製「UV3100」)を用いて波長380〜780nmの反射スペクトルを測定し、計算により求めた。
(外観の色目)
フロートガラス側から太陽光を照らし、そのときに反射する光を目視にて確認した。
表4に、各透明積層フィルムの概略構成と評価結果をまとめて示す。
比較例1によれば、機能性多層膜が3層構成である場合には、金属層の厚みが、日射遮蔽性が十分でない薄さの厚みであっても、外観の色目が赤色になることがわかった。そして、比較例1の透明積層フィルムには色素含有層が設けられていないため、意匠性に劣っている。
これに対し、実施例1〜3では、機能性多層膜が3層構成である場合において、機能性多層膜よりも屋外側に色素含有層を設けたことにより、透明積層フィルムの外観の色目が青〜紫となった。すなわち、色素含有層を設けたことにより、外観の色目が改善されて意匠性が高められたことが確認された。また、色素による日射吸収により、日射遮蔽係数も低減した。したがって、実施例の構成の透明積層フィルムによれば、高い透明性、日射遮蔽性を維持しつつ、外観の色目を改善して意匠性を高めることができる。
一方、比較例2,3では、実施例1〜3と同様に、機能性多層膜が3層構成である場合において、実施例1〜3とは異なる色素を含む色素含有層を、機能性多層膜よりも屋外側に設けている。比較例2,3によれば、透明積層フィルムの外観の色目は青〜紫あるいは青〜緑となったものの、これにより可視光透過率が満足されなかった。
なお、参考例1,2によれば、機能性多層膜を5層構成あるいは7層構成にすれば、透明積層フィルムの外観の色目を改善して意匠性を高めることができる場合があるが、製造コストの面で劣っている。
上記実施例では、機能性多層膜が3層構成である場合について示しているが、機能性多層膜が3層を超える構成、例えば5層構成や7層構成の場合においても、機能性多層膜の外観の色目が赤系色であれば、実施例と同様に色素含有層を適用することで同様の効果が得られることは容易に推測することができる。
以上、本発明の実施形態・実施例について説明したが、本発明は上記実施形態・実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。