JP2012199022A - 電子顕微鏡、および回折像観察方法 - Google Patents
電子顕微鏡、および回折像観察方法 Download PDFInfo
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Abstract
【課題】 透過型電子顕微鏡で、微弱な素子内部の磁化分布や電場分布、及びその変化の観察、素子配置の周期性の解析などを実施するために、これらの電磁場から電子線が受ける偏向を高精度で検出し、電子回折像として観察可能とする。
【解決手段】 従来、短焦点距離で使用されてきた試料3直下の第1段目(電子線の進行方向で試料の下流側第1段目)の電子レンズを、長焦点距離対物レンズ51として用いることにより、照射レンズ系41,42により結像された光源の像11を、結像レンズ系61〜64の物面に結像させ、実効的に試料の回折像を拡大し、10−6rad程度の小散乱角電子線の回折像の観察を可能ならしめる。
【選択図】 図5
【解決手段】 従来、短焦点距離で使用されてきた試料3直下の第1段目(電子線の進行方向で試料の下流側第1段目)の電子レンズを、長焦点距離対物レンズ51として用いることにより、照射レンズ系41,42により結像された光源の像11を、結像レンズ系61〜64の物面に結像させ、実効的に試料の回折像を拡大し、10−6rad程度の小散乱角電子線の回折像の観察を可能ならしめる。
【選択図】 図5
Description
本発明は電子顕微鏡、および電子顕微鏡を用いた電子回折技術に関する。
電子回折法の歴史は古く、ダビソンとジャーマーらによる結晶性物質に入射した電子線の回折現象の観察実験(1927年)に端を発する。その後、X線回折法と並んで物質の結晶構造解析手法のための装置として実用化されたが、透過型電子顕微鏡が技術的に発達し、その電子光学系が中間レンズを含む3段構成へと発展して、中間レンズの焦点距離を調整することによって試料の拡大像のみならず電子回折像が得られるようになってからは、電子回折装置は透過型電子顕微鏡の観察手法の1モードとして取り込まれた。現在では、独立した電子回折装置としては、低速電子回折装置(Low Energy Electron Diffraction:LEED)、反射高速電子回折装置(Reflection High Energy Electron Diffraction:RHEED)として、物質の表面構造の観察・解析に特化した装置となっている。
構造解析に用いられる回折装置としては、X線回折装置、中性子線回折装置があるが、その基本構造は、電子線回折装置と共通している。回折装置の基本構造を図1に示す。試料3への入射線21が、試料の構造や磁気的、電気的な相互作用により散乱を受ける。散乱された入射線は試料3を射出後、干渉効果により光軸2に対して特定の方向(図1では角θ)に強度を持つ。試料3からある距離(図1ではL)だけ離れた面8で観察すると、回折像中には試料での散乱角度に応じた回折点82が観察される。図1では回折を受けないで試料3を透過した透過線23が回折点80、試料3で回折を受けた回折線22が回折点82に対応している。X線回折装置、中性子線回折装置においては、試料3と回折像観察面8との間にレンズを含む光学系は存在しない。これらの入射線に対しては有効なレンズが存在しないこともあり、試料3と回折像観察面8までの距離(カメラ長L)がそのまま回折像の倍率になる。微細な回折角を観察・検出するためには、入射線の平行度が高いこと(入射線の開き角が小さいこと)と、カメラ長Lが大きなことが必要である。
カメラ長Lと回折角度θとの関係は、図2に示す結晶における入射線の波長λとブラッグ角θの関係と相似の関係にある。図1と図2の相似関係より、試料の結晶構造を解析する場合には、カメラ長Lが既知であれば、回折像の回折点間の距離Rから直ちに結晶面間隔dを知ることができ、逆に、構造や結晶面間隔dが既知の結晶を試料とすれば、回折装置のカメラ長Lを知ることができる。この関係を数式(1)に示す。また、回折点80、82の広がりから入射線21の開き角、すなわち入射線の平行度を知ることも可能である。
初期のころの電子回折装置でも、上述のX線回折装置と基本構成は同じであり、カメラ長Lが回折像の拡大率を示す重要な装置性能の指標の1つであった。複数の結像レンズを搭載した現在の透過型電子顕微鏡においてもカメラ長Lが回折像の拡大率を示すことは変わらず、電子回折像に関しては、カメラ長Lをその倍率を示すパラメータとして利用している。
なお、透過型電子顕微鏡に関連する特許文献として、特許文献1、2等がある。
原田研 『電子顕微鏡』Vol.35, pp62-63 (2000)
透過型電子顕微鏡を用いた電子回折像観察の利点の1つは、複数の中間レンズを用いてカメラ長Lを任意に変更可能なことである。一般に入射電子線の波長λと観察対象である結晶の面間隔dの関係から、カメラ長Lとして30cmから2m程度の範囲で必要に応じて変更して利用されている。例えば、加速電圧200kVの電子線の場合、電子線の波長は2.5pmであるのに対して、結晶面間隔がおよそ250pm(結晶性材料の一般的な値)の場合には、回折角は10−2rad(〜1°)程度となる。回折像として各回折点を10mm程度に分離して記録しようとすれば、カメラ長Lとして1mが必要となる。(数式(1)参照)
磁性体や誘電体の持つ磁化や分極を、電子線が受ける偏向角により観察する場合には、ブラッグ角よりも1桁から2桁程度小さな偏向角10−3〜10−4radの検出が必要とされる。すなわち、カメラ長を大きくするか、回折像の記録解像度を1桁から2桁向上させなければならない。幸いなことに、電子顕微鏡フィルムでもCCDカメラにおいても、0.1mmの解像度で回折像を観察・記録することは容易なため、上述のカメラ長Lに変更が加えられることは無かった。すなわち、透過型電子顕微鏡を用いた電子回折像観察においては、カメラ長Lはおよそ30cmから2m程度の範囲、検出角度は10−3〜10−4radの程度で利用されているのが現状である。
磁性体や誘電体の持つ磁化や分極を、電子線が受ける偏向角により観察する場合には、ブラッグ角よりも1桁から2桁程度小さな偏向角10−3〜10−4radの検出が必要とされる。すなわち、カメラ長を大きくするか、回折像の記録解像度を1桁から2桁向上させなければならない。幸いなことに、電子顕微鏡フィルムでもCCDカメラにおいても、0.1mmの解像度で回折像を観察・記録することは容易なため、上述のカメラ長Lに変更が加えられることは無かった。すなわち、透過型電子顕微鏡を用いた電子回折像観察においては、カメラ長Lはおよそ30cmから2m程度の範囲、検出角度は10−3〜10−4radの程度で利用されているのが現状である。
しかしながら、近年の磁気メモリ素子などでは、そのサイズの微細化に伴って各素子が持つ全磁束量が減少し、それに伴って電子線に与える偏向作用が減少するため、結果として磁化分布の検出が困難になってきている。さらに、超伝導磁束量子のフーコー法による観察(非特許文献1)など、従来のカメラ長の枠を超えた10−5rad以下の小散乱角の電子回折像観察への必要性が高まってきている。
そこで、本発明の目的は、微小な偏向角の電子線を電子回折像として、観察・記録を可能とする電子顕微鏡、および電子回折像観察方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、サイズが微細化してきた磁気メモリ素子や2次元平面に作製された量子ドットなどの、内部の磁化分布の観察やそれぞれの素子配置の周期性、規則性の解析、あるいは、人工超格子の周期性の解析に用いるため、さらにスピントロニクス素子や誘電体素子などの微弱な内部の磁化成分、電場成分やそれらの変化の検出に用いるために、透過型電子顕微鏡を用いて、電子線の10−6rad程度の偏向角を電子回折像として観察・記録を可能とする透過型電子顕微鏡、および電子回折像観察方法を提供することにある。
上記の目的を達成するため、本発明においては、電子線の光源と、光源から放出される電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、対物レンズ系の電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、結像レンズ系による試料の像あるいは試料の回折像を観察する観察面と、試料の像あるいは試料の回折像を記録するための記録装置と、を備え、照射レンズ系により試料よりも電子線の進行方向上流側に光源の像を結像するとともに、対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用することにより、光源の像を結像レンズ系の物面の1つに結像して試料の回折像を観察する、電子顕微鏡を提供する。
また、上記の目的を達成するため、本発明においては、電子線の光源と、光源から放出される電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、対物レンズ系の電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、結像レンズ系による試料の像あるいは試料の回折像を観察する観察面と、試料の像あるいは試料の回折像を記録するための記録装置と、を備え、照射レンズ系により試料よりも電子線の進行方向下流側に光源の像を結像するとともに、対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用し、かつ結像レンズ系に属する電子線の進行方向最上流側の電子レンズにより、電子線の進行方向最上流側の電子レンズよりも下流側に位置する結像レンズ系の物面の1つに光源の像を結像して試料の回折像を観察する、電子顕微鏡を提供する。
更に、上記の目的を達成するため、本発明においては、電子線の光源と、光源から放出される電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、対物レンズ系の電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、結像レンズ系による試料の像あるいは試料の回折像を観察する観察面と、試料の像あるいは試料の回折像を記録するための記録装置と、を備えた電子顕微鏡を構成し、この電子顕微鏡を用いて、照射レンズ系により試料よりも電子線の進行方向上流側に光源の像を結像し、対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用することにより、光源の像を結像レンズ系の物面の1つに結像し、試料の回折像を観察する回折像観察方法を提供する。
また更に、上記の目的を達成するため、本発明においては、電子線の光源と、光源から放出される電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、対物レンズ系の電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、結像レンズ系による試料の像あるいは試料の回折像を観察する観察面と、試料の像あるいは試料の回折像を記録するための記録装置と、を備えた電子顕微鏡を構成し、この電子顕微鏡を用いて、照射レンズ系により試料よりも電子線の進行方向下流側に光源の像を結像するとともに、対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用し、かつ結像レンズ系に属する電子線の進行方向最上流側の電子レンズにより、電子線の進行方向最上流側の電子レンズよりも下流側に位置する結像レンズ系の物面の1つに光源の像を結像し、試料の回折像を観察する回折像観察方法を提供する。
本発明によれば、電子顕微鏡を用いて、小散乱角電子線の回折像を観察・記録することが可能となる。これにより試料内および試料近傍の磁場、電場などによる微小な電子線の偏向角を検出し、解析できる。
本発明の実施形態を説明するにあたり、はじめに現在使用されている透過型電子顕微鏡の電子レンズの構成とその結像光学系、回折光学系について説明し、次いで実施例を順に説明する。
<試料像観察光学系>
現在の一般的な透過型電子顕微鏡の結像光学系を図3に示す。同図の(A)は高倍率観察時(高分解能観察時)、(B)は低倍率観察時のものである。なお、電子源と試料への照射レンズ系については省略し、試料3から下部の対物レンズ系5、51とその後段の結像光学系61、62、63、64について示している。
現在の一般的な透過型電子顕微鏡の結像光学系を図3に示す。同図の(A)は高倍率観察時(高分解能観察時)、(B)は低倍率観察時のものである。なお、電子源と試料への照射レンズ系については省略し、試料3から下部の対物レンズ系5、51とその後段の結像光学系61、62、63、64について示している。
対物レンズ系については、通常の高倍率観察(高分解能観察条件)時の対物レンズ5と、低倍率観察用の対物レンズ51の2段構成を例示している。上段に位置する対物レンズ5(図3の(A)では実線で描かれている)は、球面収差を可能な限り小さくするために精密加工されるとともに、強く励磁され短焦点距離で使用される。一方、低倍率観察用の対物レンズ51(図3の(A)の高倍率光学系では使用されないため破線で描かれている)は、弱く励磁され長焦点距離で使用される。対物レンズ後段の結像レンズ61、62、63、64は、中間レンズが3段61、62、63、投射レンズ64が1段の、合計4段のレンズ構成である。3段の中間レンズ61、62、63は、試料3に対して150万倍程度の十分な拡大率を確保するとともに、磁界レンズによる光軸2を中心とする像の回転を補正するために、励磁の極性や強度を調整して使用される。図3の(A)に示した最高倍率(150万倍程度)の光学系の場合には、各結像レンズは、それぞれのレンズの物面71、72、74に結像された前段レンズによる像をそれぞれのレンズの像面に拡大結像する条件で使用される。中間倍率の場合には、これらレンズのうちのいくつかを弱励磁、もしくはオフとすることにより、倍率を適正に保つ様に調整される。中間倍率の光学系の詳細については図示を省略する。
図3の(B)は、低倍率観察時の代表的な電子光学系である。図3の(A)で用いた強励磁短焦点対物レンズ5を使用せず、弱励磁長焦点対物レンズ51を使用していることを、それぞれの対物レンズを破線、実線で描くことで示している。また、弱励磁長焦点対物レンズ51と第1中間レンズ61、および第2、第3中間レンズ62、63と投射レンズ64をそれぞれ組レンズとして使用し、鏡体内では2回の結像のみで低倍率結像を実現している。これらの結像手法はあくまでも一例であり、複数のレンズ光学系として様々な構成が実用化されている。この弱励磁長焦点対物レンズ51と強励磁短焦点対物レンズ5とを併設する構成(特許文献1参照)は、低倍率での試料像観察に有効な方法として開発されたものである。
<回折像観察光学系>
図4に透過型電子顕微鏡の従来の回折像観察光学系の模式図を示す。同図の(A)は制限視野回折像観察時、(B)は小角回折像観察時のものである。図4の(A)は、最も一般的な回折像観察光学系であり、強励磁短焦点対物レンズ5は、高倍率観察光学系と同条件(高分解能観察条件)で使用される。強励磁短焦点対物レンズ5の後側焦点位置に対物絞り55が設置され、試料3によって回折された電子線のうち、結像に用いる電子線を選択するために用いられる。強励磁短焦点対物レンズ5による試料の像面位置91には、制限視野絞り56が設置される。試料の像面位置91は試料3に対してフォーカスの合った面であるため、制限視野絞り56の利用によって回折像を観察する試料3の領域を選択できる。そのため、以上の使用法は、制限視野回折法と呼ばれ、最も一般的な回折像観察法であり、カメラ長は30cmから2m程度に対応している。
図4に透過型電子顕微鏡の従来の回折像観察光学系の模式図を示す。同図の(A)は制限視野回折像観察時、(B)は小角回折像観察時のものである。図4の(A)は、最も一般的な回折像観察光学系であり、強励磁短焦点対物レンズ5は、高倍率観察光学系と同条件(高分解能観察条件)で使用される。強励磁短焦点対物レンズ5の後側焦点位置に対物絞り55が設置され、試料3によって回折された電子線のうち、結像に用いる電子線を選択するために用いられる。強励磁短焦点対物レンズ5による試料の像面位置91には、制限視野絞り56が設置される。試料の像面位置91は試料3に対してフォーカスの合った面であるため、制限視野絞り56の利用によって回折像を観察する試料3の領域を選択できる。そのため、以上の使用法は、制限視野回折法と呼ばれ、最も一般的な回折像観察法であり、カメラ長は30cmから2m程度に対応している。
電子光学系の構成としては、強励磁短焦点対物レンズ5の後側焦点位置(第1中間レンズ61の物面71に該当)に形成されている試料3の回折像を、第1中間レンズ61で第2中間レンズ62の物面72に縮小結像し、その縮小結像された回折像を第2中間レンズ62と投射レンズ64で拡大結像する。弱励磁長焦点対物レンズ51と第3中間レンズ63はオフである。
図4の(B)は試料3による散乱角が小さく、20m程度までの大カメラ長が必要なときに用いられる回折光学系である。使用される頻度は少ない。図4の(A)の制限視野回折時のような対物絞り55や制限視野絞り56による回折電子線の制限や視野選択は実施できない。
電子光学系の構成としては、強励磁短焦点対物レンズ5も弱励磁短焦点対物レンズ51も使用されず、試料3よりも上方の光源の像11を第1中間レンズ61により直接縮小結像する。その後は、制限視野回折時(図4A)と同様に第2中間レンズ62と投射レンズ64で拡大結像する。試料3から縮小結像に用いられる第1中間レンズ61までは、電子線が長い距離を伝播するため、伝播経路中の絞りによって高角度の回折電子線は排除される。
以下、本発明を実施するための好適な形態を図面に従い説明する。
図5に第1の実施例の透過型電子顕微鏡の回折像観察光学系の模式図を示す。本実施例は、照射レンズ系により試料よりも電子線の進行方向上流側に光源の像を結像するとともに、対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用することにより、光源の像を結像レンズ系の物面の1つに結像することにより試料の回折像を観察する電子顕微鏡の実施例である。
図5に示すように、光源1から放出され、所定の電圧で加速された電子線を、少なくとも2段の電子レンズ41、42より構成される照射レンズ系により、光源の像11として試料3の上方に結像する。この光源の像11が試料3を照射する直接の光源に該当する。試料3への入射電子線の平行度、すなわち開き角はこの試料上方の光源の像11の大きさと位置によって決まる。一般的に、光源の像11の縮小率が高い場合、そして光源位置が試料位置と離れる場合に開き角が小さくなり入射電子線の平行度が高まる。試料3への入射電子線の開き角の大きさは、回折像の各回折点80、82の大きさに反映される。そのため、大きなカメラ長による電子回折像の観察には各回折点は小さくする必要があり、電界放出電子線など開き角の小さな入射電子線であるほど本実施例の目的には適している。
図5に示す実施例1の光学系では、試料上方の光源の像11を弱励磁長焦点対物レンズ51により結像レンズ系最上段の物面71(第1中間レンズの物面)に結像する。ここで結像されているのは直接的には光源の像11であるが、試料3を透過後の像であるため、試料による散乱を反映しており、試料の回折像となっている。本実施例で、「弱励磁長焦点対物レンズ」と述べているのは、対物レンズ系に属する電子レンズの内のいずれか、あるいは組み合わせレンズとして対物レンズ系全体で弱励磁長焦点距離のレンズとして作用させたレンズのことを意味している。以後の記述においても、弱励磁長焦点対物レンズの用語を用いるときは、特に断らない限り本実施例と同様のレンズ、あるいはレンズ条件を意味する。
図4に示した従来の回折像観察光学系と比較すると、試料3直下で試料上方の光源の像11の結像に用いる対物レンズ系の電子レンズの焦点距離が長いため、試料上方の光源の像11が縮小される割合は小さい。むしろ、焦点距離と光源像の位置関係によっては、拡大して結像することも可能である。さらに4段の結像レンズ系61、62、63、64を全て拡大光学系として使用することが可能となるため、弱励磁長焦点対物レンズ51の像面、すなわち結像レンズ系最上段の物面71に結像された試料の回折像は、この電子光学系の構成においては、最も大きく拡大することが可能となり、結果的にカメラ長を最も大きくできる。
図6に本実施例の効果を説明する実験結果を示した。図6の(A)は実験に用いた人工超格子(カーボングレーティング)の電子顕微鏡像と図6Bはその回折像である。このとき、カメラ長700mであり、従来の約700倍である。電子顕微鏡の加速電圧は200kV(波長λ=2.5pm)、該人工超格子の格子間隔は500nmであった。図6の(B)では間隔500nmの格子による回折像(ブラッグ角5×10−6rad)が高次の回折点まで含めて記録されている。これは電子光学系による回折像に対する拡大が十分に成されていることを示している。なお、この回折像から試料への入射電子線の開き角を測定すると、1×10−6rad程度であり、該人工超格子の回折点を十分に分離、観察できる照射条件であることがわかる。
図7に、本実施例の結像レンズ系に属する第3中間レンズ63の励磁電流IInt3を変更したときのカメラ長Lの変化の様子を示す。励磁電流IInt3の増加に伴って第3中間レンズ63の焦点距離が短くなり、焦点位置が第2中間レンズ62の像面73と一致するところ(励磁電流2.9A)で、回折像を結ばなくなること、この励磁電流を境としてカメラ長が減少から増加に転ずることがわかる。この変化は、第3中間レンズ63の光源に対する作用が、虚像結像系から実像結像系へ変化したことを意味している。いずれにしても、カメラ長0mから3000mまで容易かつ連続的に変更可能であることがわかる。なお、図7中右下の白丸は、実施例2の光学系でのカメラ長の実例の1つである。詳細は後述する。
弱励磁長焦点対物レンズとしては、前述の強励磁短焦点(高分解能用)対物レンズと併設された弱励磁レンズを用いても良いし、磁気シールドレンズの様に焦点距離の長い対物レンズを用いてもよい。また、試料と対物レンズの距離を、高倍率観察時よりも大きくする方がカメラ長を大きくできる効果が高いが、この方法としては、弱励磁レンズを強励磁短焦点対物レンズの下方に併設しても良いし、磁気シールドレンズの利用や磁場印加装置における試料位置の様に積極的に試料を対物レンズ磁路よりも上方に設置する、などの複数の方法が考えられる。
図8は、第2の実施例の透過型電子顕微鏡の回折像観察光学系の模式図である。第1の実施例と同じく、照射レンズ系は少なくとも2段の電子レンズ41、42より構成されるが、光源1の実像11は試料3の下方に結像する場合を記載している。すなわち、本実施例は、照射レンズ系により試料よりも電子線の進行方向下流側に光源の像を結像するとともに、対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用し、かつ結像レンズ系に属する電子線の進行方向最上流側の電子レンズにより、電子線の進行方向最上流側の電子レンズよりも下流側に位置する結像レンズ系の物面の1つに光源の像を結像することにより試料の回折像を観察する電子顕微鏡の実施例である。
図8ではこの照射レンズ系による光源の実像11が、弱励磁長焦点対物レンズ51の焦点距離よりもレンズ側に結像されるため、弱励磁長焦点対物レンズ51は光源の実像を結ぶことができない。そこで、弱励磁長焦点対物レンズ51が作る光原の虚像13を、第1中間レンズ61が第2中間レンズ62の物面72に結像する光学系である。試料を透過後の光源の像が、試料の回折像となる点は第1の実施例と同様である。また、第2中間レンズ62より後段の結像レンズ系の使用条件は、第1の実施例と同様に拡大光学系として構成されている。第2の実施例においては、弱励磁長焦点対物レンズ51が作る虚像13は拡大像であるが、第1中間レンズ61による結像は縮小となるため、一般的には第1の実施例よりも回折像への倍率は減少し、カメラ長も小さくなる。図7中の白丸がその一例である。
試料3への入射電子線の開き角についての取り扱いは第1の実施例と同様であり、光源の像11の縮小率が高い場合、そして光源位置が試料位置と離れる場合(試料の上方か下方かは問わない)に開き角が小さくなり入射電子線の平行度が高まる。一般的には、同じ照射光学系を用いた場合には、試料上方へ光源の像を結ぶ場合の方が光源の縮小率が高いので、第1の実施例の方が開き角は小さくできる。
第2の実施例で用いる弱励磁長焦点対物レンズとしては、前述の強励磁短焦点対物レンズと併設された弱励磁レンズでも良いし、磁気シールドレンズの様に焦点距離の長い対物レンズを用いてもよい。また、試料と対物レンズの距離を、高倍率観察時よりも大きくする方がカメラ長を大きくできる効果が高いが、この方法としては、弱励磁長焦点対物レンズを強励磁短焦点対物レンズの下方に併設しても良いし、磁気シールドレンズの利用や磁場印加装置における試料位置の利用、または、積極的に試料を対物レンズ磁路よりも上方に設置する、などの複数の方法が考えられる点も第1の実施例と同様である。
次に、第3の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、試料へ磁場印加を可能とする磁場印加装置について説明する。
図9は試料ホルダーである試料保持装置37にマウントされた試料3とその試料3の両側に光軸2に垂直、かつ試料ホルダー37の長軸25方向に磁場を印加するための、コイルの軸を同じくする1対のコイルペア31Bを設置した例である。両コイルに同方向に磁場が発生するように電源39から電流導入線38を介して電流を流すと、試料位置では光軸2に垂直で、かつ試料ホルダー37の長軸25の方向に平行な磁場を発生させられる。
図は省略するが、1対のコイルペアをそのコイルペアの軸が試料に対して様々な方向に傾斜して設置すれば、そのコイルペアの軸の方向に磁場印加が可能となる。また、例えば3対のコイルペアを、それぞれ直交する3方向(X、Y、Z)に設置し、それぞれのコイルペアが発生する磁場が合成される位置を試料位置と一致させれば、3対のコイルペアが発生させるそれぞれの磁場のベクトル和が試料への印加磁場となり、その強度や印加方位を任意に制御できる(特許文献2参照)。このとき、光軸と一致する方位に磁場印加装置が重なる場合には、電子線を通過させるための工夫(例えば空芯コイルとして電子線を支障なく通過させる)が備えられていることは言うまでもない。
なお、この磁場印加装置は、図9の様に試料ホルダー37に設置されても良いし、試料ホルダー37とは独立に、例えば、試料ホルダー37の外側から磁場を印加する構造としてもよい。また、試料ホルダー37は該試料ホルダーの長軸25を軸として回転させることができる。
第4の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、電子線が印加された磁場により受けた偏向を補正する(振り戻す)方法について説明する。
実施例3で説明した試料3への印加磁場は電子線を偏向させ、電子線の伝播方向を光軸2からずらしてしまう。そのため、磁場印加装置に、印加磁場による電子線の偏向を補正し(振り戻し)、磁場印加装置から射出後の電子線を、光軸2上を光軸方向に伝播させるための偏向機構を備えることが重要である。図10は3段の磁場印加コイル31B、32B、33Bから構成された磁場印加装置の構成を示す模式図である。同図中の26が伝播する電子軌道を示している。
最上段のコイルペア31Bで図中X軸の正方向へ磁場が印加され、中段、下段のコイルペア32B、33Bでそれぞれ図中X軸の負方向へ、そしてX軸の正方向へと磁場を印加する。図10では上段の磁場(+B)中S1に試料3を設置し、中段の磁場は上段の磁場と逆方向に2倍の大きさ(−2B)で印加され、下段では上段と同方向に同強度の磁場(+B)を印加する例を示しているが、この例の構成に限るものではない。例えば、中段の磁場を(−2B)とする代わりに(−B)として光軸方向に2倍の長さの磁場領域をとる構成や、4段の振り戻し機構を備えた全5段の磁場印加装置とする構成(特許文献2)、なども考えられる。また、試料3を設置する位置は、試料保持機構の構成により、図10中S1、S2、S3のどの位置でもよい。それぞれの位置に応じて磁場印加手法にはそれぞれ特徴があるが、ここでは省略する。
図11に各実施例に係わる透過型電子顕微鏡の構成を模式的に示す。一例として3段の機構から成る磁場印加装置34Bが照射レンズ系の下方に配置され、試料3は上記磁場印加装置の下段の磁場中(図10の試料位置S3)にマウントされている。弱励磁長焦点対物レンズ51が用いられ、回折像を構成する試料の領域は対物絞り55が制限する。この点に関しては、実施例8の図17、図18にて詳述する。弱励磁長焦点対物レンズ51による回折像は、結像レンズ系61、62、63、64を経て所定の倍率に調整され、電子回折像88として観察記録面8で画像観察・記録媒体79(例えばTVカメラやCCDカメラ)により記録される。その後、演算処理装置77により、例えばフーリエ変換などにより実空間像に戻したり、フーリエ反復位相回復法により実像に戻すなどの処理が施され、モニタ76などに表示される。
なお、図11は、従来型の加速電圧100kVから300kVの電子顕微鏡を想定して描いているが、図11中の電子顕微鏡光学系の構成要素はこの図に限るものではない。さらに、実際の装置ではこの図11に示した構成要素以外に、電子線の進行方向を変化させるために、本発明の偏向系とは別なる偏向系、電子線の照射領域を制限する本発明の絞り装置とは別なる絞り装置などが存在する。しかし、本発明には直接的な関係が無い構成要素は、この図では省略している。さらに、電子光学系は真空容器18中に組み立てられ真空ポンプにて継続的に排気されているが、真空排気系についても本発明とは直接の関係が無いため図示・説明を省略する。
第5の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、試料への電場印加を可能とする電場印加装置について説明する。
図12は試料保持装置37(試料ホルダー)にマウントされた試料3とその試料の両側に光軸2に垂直、かつ試料ホルダー37の長軸25の方向に電場を印加するための電極平面の法線を同じくする1対の平行平板電極31Eを設置した例である。対を成す平行平板電極31Eのどちらかの電極に電位を印加することによって、試料位置では光軸2に垂直で、かつ試料ホルダー37の長軸25の方向に平行な電場Eを発生させられる。電場と磁場が異なるだけで、基本的な構成は、実施例3で説明した磁場印加装置と同様である。
図は省略するが、1対の平行平板電極をその平行平板電極の共通の法線が試料に対して様々な方向を取る様に傾斜して設置すれば、その平行平板電極の共通の法線の方向に電場印加が可能となる。もしくは、例えば3対の平行平板電極を、それぞれ直交する3方向(X、Y、Z)に設置し、それぞれの平行平板電極が発生する電場が合成される位置を試料位置と一致させれば、3対のコイルペアが発生させるそれぞれの電場のベクトル和が試料への印加電場となり、その強度や印加方位を任意に制御できる。このとき、光軸と電極板が重なる場合には、電子線を通過させるための工夫(例えば、電極板に孔を設ける)が備えられていることは言うまでもない。
なお、この電場印加装置は、図12の様に試料ホルダー37に設置されても良いし、試料ホルダー37とは独立に、例えば、試料ホルダー37の外側から電場を印加する構造としてもよい。また、試料ホルダー37は該試料ホルダーの長軸25を軸として回転させることができる。
第6の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、電子線が印加された電場により受けた偏向を補正する(振り戻す)方法について説明する。
実施例5で説明した試料3への印加電場は電子線を偏向させ、電子線の伝播方向を光軸2からずらしてしまう。そのため、電場印加装置に、印加電場による電子線の偏向を補正し(振り戻し)、電場印加装置から射出後の電子線を、光軸2上を光軸方向に伝播させる(図12の電子軌道26参照)ための偏向機構を備えることが重要である。
図13は、本実施例に係わる、3段の平行平板電極対31E、32E、33Eから構成された電場印加装置の模式図である。電場と磁場が異なるだけで、基本的な構成は、実施例4で説明した磁場印加装置と同様である。上段の電場(E)中S1に試料を設置し、中段の電場は上段の電場と逆方向に2倍の大きさ(−2E)で印加され、下段では上段と同方向に同強度の電場(E)を印加する例を示しているが、この例の構成に限るものではない。例えば、中段の電場を(−2E)とする代わりに(−E)として光軸方向に2倍の長さの電場領域をとる構成や、4段の振り戻し機構を備えた全5段の電場印加装置とする構成、なども考えられる。また、試料を配置する位置は、試料保持装置の構成により、図13中S1、S2、S3のどの位置でもよいことも、実施例4の磁場印加装置と同様である。それぞれの位置に応じて電場印加手法にはそれぞれ特徴があるが、ここでは省略する。
図14は、試料3への電場印加装置であるが、各段については磁場印加機構と電場印加機構の混在した装置を示している。印加電場による電子線の偏向を補正する(電子線を振り戻す)ことが、電子顕微鏡にとっては重要であるが、その手段は電場によるものであっても磁場によるものであってもかまわない。そのため、例えば最上段に位置する平行平板電極対31Eにより試料3に対して電場を印加し、電子線を光軸2に振り戻すために、電場よりもより偏向効果が大きい磁場を用いる例である。図示は省略するが、磁場印加装置に対しても同様に、例えば図10の磁場印加装置の振り戻しに用いる機構のいずれか1段または2段を平行平板電極対を用いた電場印加機構に変更してもよい。電場と磁場は、電子線に与える偏向効果が異なるので、例えば図14に例示したごとく、偏向機構間の距離は等間隔である必要はない。
さらに図14では、試料を電場中のS1に配置したときには電場印加装置として、試料を磁場中のS3に配置したときには磁場印加装置として、電場と磁場の両印加装置として利用可能である。
図15は、電場と磁場が電子線に与える作用が独立していることを利用した電磁場印加装置の例である。例えば電場を試料に印加する際に発生する電子線の偏向作用を、磁場による偏向作用で相殺する機構である。もしくは、その逆に磁場を試料に印加する際に発生する電子線の偏向を、電場により相殺する機構である。つまり、電場と磁場の両方を同時に試料に印加する装置である。この機構の場合には、うまく釣り合いが取れれば(ウィーン条件:後述)、試料に印加する電場、もしくは磁場による電子線の偏向はそもそも発生しない。
第7の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、試料へ電流を導入するまたは試料へ電圧を印加する方法について説明する。
図16は、光軸2を挟んで試料3の両側がそれぞれ別の電極パッド36に接する構造を持つ試料ホルダー37の試料設置部を示した模式図である。試料ホルダー37と電気的に絶縁された電極パッド36が、試料ホルダー外部で電源39と接続配線されている。試料3が導電性のとき、試料3が電極パッド36と電気的に接触していれば試料内の所定の部位に電流を通電することが可能となり、試料3が絶縁部を持ち電流が流れない構成の場合には、試料内の所定の部位に電圧を印加できる。そして、それぞれの所定の通電部、所定の電圧印加部の電子回折像、あるいは電子顕微鏡像を観察できる。
図16中の2つの電極パッド36は1つでも良いし、いずれか一方を試料ホルダー37と電気的に接続させ、実効上1つの電極パッドとしてもよい。あるいは、複数の電極パッド36を配置し、多端子法などの電気計測を実施することもできる。このとき、パッド数に応じて図16中の導入線38や電源39、あるいは図中には記載しない計測器が付加されることは言うまでもない。これら電気計測を行いながら、所定の通電部、電圧印加部の電子回折像、あるいは電子顕微鏡像を観察してもよい。
これら、電極パッド36の大きさ、形状、光軸2に対する配置方位は、この図の限りではない。なお、試料ホルダー37は該試料ホルダーの長軸25を軸として回転させることができる。
これら、電極パッド36の大きさ、形状、光軸2に対する配置方位は、この図の限りではない。なお、試料ホルダー37は該試料ホルダーの長軸25を軸として回転させることができる。
第8の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、回折像を得る試料の範囲を制限する方法について説明する。
図17は第1の実施例と同じ光学系の構成を示している。さらに本光学系では、従来の透過型電子顕微鏡における対物絞り55が、他の電子光学装置を介さず試料直下に配置されるため、実効上、該対物絞り55は制限視野絞りとして利用することが可能となっている。試料3と対物絞り55の距離が近いことが最も重要であるが、照射レンズ系による光源の像11が試料3と空間的に離れ、試料3を照射する電子線の開き角が小さくなるほど試料3と該対物絞り55との距離の影響は小さくなる。
図18は第2の実施例で示した光学系に、対物絞り55を制限視野絞りとして利用する場合の光学系を示したものである。試料3から該対物絞り55に向かって電子線が収束していくため、図17の場合と同じ口径の絞り孔を用いた場合には、試料上の実効的な視野領域は図18の場合の方が広くなる。
第9の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、試料内部の磁化、もしくは試料外部の磁場の観察方法について説明する。
図19は磁場による電子線の偏向の様子を示した模式図である。均一場近似として端部での分布の乱れを無視できる電子線の進行方向の長さtの領域に局在した磁場Bが、紙面の垂直上向きに均一に分布している場合を描いている。観察対象として考えられる局在磁場としては、磁性材料や磁気素子中の磁化、もしくは磁気ヘッドなどから空間に漏れ出した磁場などが挙げられる。空間に分布を持つ電磁場に対して均一場近似はかなり単純化したモデルではあるが、磁場印加装置の設計などにおいては実績がある。
磁場中に入射した電子線は軌道26が示すように、磁場Bからローレンツ力を受けて半径rの回転運動を行い、角度βだけ偏向を受けて磁場領域を射出する。磁場の大きさBと電子線の回転半径rの積は、加速電圧が定まると一意に定まる(Br=一定)ことが知られている。例えば、200kVの電子線の場合、Br=1.65(Web/m2)である。電子の電荷をe、電子の質量をm、加速電圧V0で加速された電子の速度をvとすると、その関係は数式(2)で表わされる。
図20は、反転磁区構造を持つ磁性材料での電子線の偏向の様子を示している。試料の厚さが均一の場合、磁化の強さによって図中左右に同じ角度だけ偏向をうける。磁性材料のみの場合は、回折像では2つの回折点となる。ローレンツ顕微鏡法のうちのフーコー法で用いられる回折像に対応する。ただし、磁性材料の結晶構造は無視している。
磁性材料である場合、例えば加速電圧が200kVの電子線で容易に透過可能な50nmの厚さの磁性材料(磁化1T(テスラ))の場合、偏向角度はおよそ3×10−5radとなり、結晶によるブラッグ回折角よりも2桁以上も小さな角度となる。このため、カメラ長も2桁以上の拡大が必要である。スピントロニクス素子などにおいて素子の有する磁化(全磁束量)がさらに小さくなれば、カメラ長はさらに大きくしなければならない。
また、電子線が磁性材料以外の部分も透過する場合には、光軸2上を伝播する透過波の回折点とその対称位置に2つの偏向を受けた透過波の回折点が構成される。すなわち、都合3つの回折点を持つ回折像となる。
図21は、200kV電子顕微鏡による磁性材料の電子回折像観察の実例である。同図の(A)、(B)、(C)はそれぞれ、一辺が1μm、厚さ30nmの正方形のパーマロイ薄膜(アモルファス)とその周囲のアモルファス支持膜の透過型電子顕微鏡像、ローレンツ(フレネル法)顕微鏡像、電子回折像である。実施例2に記載の光学系を用い、対物絞りを観察視野の制限(実施例8参照)のために用いた。但し、ここでは絞り孔の図示は省略する。
図21の(B)のフレネル法のローレンツ像では、磁区85の境界である磁壁86が正方形の対角線状に観察され、正方形の膜内を面内右回りに周回する磁化となっていることがわかる。つまり4つの磁区から構成される磁性素子である。図21の(C)の電子回折像は、それぞれの4方向へ偏向された電子線による回折点(4点)と磁壁部とパーマロイ薄膜周辺部を透過した電子線による回折点(中央の1点)から構成されている。回折像記録時のカメラ長は100mであった。カメラ長が大きいため、4回対称の各回折点の矢頭状の形状がパーマロイ薄膜の磁区の形状(直角二等辺三角形)を反映している。すなわち図21の(C)では磁化情報だけでなく、磁区構造の情報を観察できていることがわかる。図示は省略するが、三角形、五角形、六角形、七角形、九角形などでも、図21と同様の実験を実施し、電子回折像中に磁性情報と磁区構造の両方が観察されることを確認している。
図22の(A)、(B)はそれぞれ、図21に示した周回磁化を持つ一辺が1μmの正方形パーマロイ薄膜を2μm間隔で正方格子上に配列した試料のローレンツ(フレネル法)顕微鏡像と電子回折像である。図22の(A)の観察領域(円形)を制限しているのは先述の対物絞りの孔によるものである。この例では、直径約18μmの領域内に制限した回折像が観察された。その結果、磁化情報と磁区構造の形状の情報が観察されているだけでなく、さらに中央部の小散乱角の領域に2次元格子の周期性の情報も観察された。図22の(B)の中央部の回折点が正方形の形状をしていることが2次元正方格子を反映している。図示は省略するが、試料への照射電子線の開き角を十分に小さくするとともに、カメラ長を2000m程度まで拡大することにより、図6の(B)と同様の正方格子配列に由来する回折像が得られることを確認している。一般に回折像では周期性が強調され、単一の欠陥や汚れなどに依存した散乱は回折像全体に広がり弱められるため、欠陥や汚れなどがノイズとして観察像に与える影響は小さくなる。
以上の様に、観察・記録されるカメラ長が大きくできると、従来不可能であった小散乱角の電子回折像が観察可能となり、磁区構造や素子の配列構造などに関する新たな情報が得られることを示している。
第10の実施例として、電子回折像を観察する透過型電子顕微鏡において、試料内部の電位、もしくは試料外部の電場の観察方法について説明する。
図23は電場による電子線の偏向の様子を示した模式図である。実施例9と同様に均一場近似を用いて検討を行うが、その妥当性についても実施例9と同様である。電場中に入射した電子線は軌道26が示すように、電場Eから静電力を受けて放物線運動をする。そして、角度γだけ偏向を受けて電場を射出する。電場の大きさEと電子線の偏向角γの関係は、実施例9の磁場での場合と同様に、電子の電荷をe、電子の質量をm、加速電圧V0で加速された電子の速度をvとすると、数式(4)で表わされる。電場Eが平行平板電極(間隔:dE、電子線の軌道方向の長さ:t、印加電圧:VE)により作られる場合を、数式(4)の右辺に合わせて示す。
実施例6の図15に示した、磁場Bによるローレンツ力と電場Eによる静電力の相殺による電子線の偏向補正は、電場Eによる偏向角γと磁場Bによる偏向角βが同じとなるとき(γ=β)であり、これはウィーン条件として知られている。電子線の軌道方向に磁場と電場の領域の長さtが同じ場合には、ウイーン条件は数式(5)で与えられる。
この関係は加速電圧V0が高くなり、電子の速度vが大きくなるほど、磁場Bと釣り合うためには大きな電場Eが必要となることを示している。言い換えると、電場の方が電子線に与える偏向角が小さい。すなわち、静電場の観察や誘電材料の観察では、磁性材料の観察以上に偏向角度への検出感度を上げ、カメラ長を大きくしなければならない。
図24は、分極構造を持つ誘電材料での電子線の偏向の様子を示している。ただし、誘電材料の結晶構造は無視している。試料の厚さが均一の場合、分極の強さによって図中左右に同じ角度だけ偏向を受ける点は、先述の磁性材料の観察と同じである。また、電子線が誘電材料以外の部分も透過する場合には、光軸2上を伝播する透過波の回折点とその対称位置に2つの偏向を受けた透過波の回折点(都合3つの回折点)が構成される点も、先述の磁性材料の観察と同じである。
さらに周期構造を持った誘電分極構造では、磁性材料での図22に対応する回折像が得られる。このとき、回折像では周期性が強調され、単一の欠陥や汚れなどに依存した散乱は回折像全体に広がるため、欠陥や汚れなどがノイズとして観察像に与える影響は小さくなる点も磁性材料での観察と同じである。
以上詳細に説明した本発明の種々の実施例の様に、観察・記録されるカメラ長が大きくできると、従来不可能であった小散乱角の電子回折像が観察可能となり、誘電材料素子において分極構造や分極構造の周期性などに関する新たな情報が得られる。
なお、本発明の幾つかの実施例について説明してきたが、これらの実施例は、本発明を分かりやすく説明するために説明したのであり、本発明を実現するための一具体例に過ぎず、また、本発明は必ずしも上述した実施例の全ての構成を備えるものに限定されるものではない。
本発明は電子顕微鏡、および電子顕微鏡を用いた電子回折技術として極めて有用である。
1…電子源、11…照射レンズ系直下の光源の像、13…対物レンズによる光源の虚像、18…真空容器、19…電子源の制御ユニット、2…光軸、21…入射線、22…試料透過後の透過線、23…回折線、25…試料ホルダーの長軸(回転軸)、26…電子線の軌道、27…波面、3…試料、31B…上段のコイルペア、32B…中段のコイルペア、33B…下段のコイルペア、31E…上段の平行平板電極対、32E…中段の平行平板電極対、33E…下段の平行平板電極対、34B…磁場印加装置、35…試料の制御ユニット、36…電極パッド、37…試料ホルダー、38…導入線、39…電源、40…加速管、41…第1照射レンズ、42…第2照射レンズ、47…第2照射レンズの制御ユニット、48…第1照射レンズの制御ユニット、49…加速管の制御ユニット、5…強励磁短焦点対物レンズ、51…弱励磁長焦点対物レンズ、52…制御系コンピュータ、53…制御系コンピュータのモニタ、54…制御系コンピュータのインターフェース、55…対物絞り、56…制限視野絞り、59…対物レンズの制御ユニット、61…第1中間レンズ、62…第2中間レンズ、63…第3中間レンズ、64…投射レンズ、66…投射レンズの制御ユニット、67…第3中間レンズの制御ユニット、68…第2中間レンズの制御ユニット、69…第1中間レンズの制御ユニット、71…第1中間レンズの物面、72…第2中間レンズの物面、73…第3中間レンズの物面、74…投射レンズの物面、76…画像表示装置、77…画像記録・演算処理装置、78…画像観察・記録媒体の制御ユニット、79…画像観察・記録媒体、8…回折像観察面、80…透過電子線による回折点、82…回折電子線による回折点、85…磁区、86…磁壁、88…回折像、91…対物レンズ系の像面、92…第1中間レンズの像面、93…第2中間レンズの像面、94…第3中間レンズの像面、95…投射レンズの像面、96…磁場印加装置の制御ユニット。
Claims (10)
- 電子顕微鏡であって、
電子線の光源と、
前記光源から放出される前記電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、
前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、
前記試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、
前記対物レンズ系の前記電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、
前記結像レンズ系による前記試料の像あるいは前記試料の回折像を観察する観察面と、
前記試料の像あるいは前記試料の回折像を記録するための記録装置と、
を備え、
前記照射レンズ系により前記試料よりも前記電子線の進行方向上流側に前記光源の像を結像するとともに、
前記対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用することにより、前記光源の像を前記結像レンズ系の物面の1つに結像して前記試料の回折像を観察する、
ことを特徴とする電子顕微鏡。 - 電子顕微鏡であって、
電子線の光源と、
前記光源から放出される前記電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、
前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、
前記試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、
前記対物レンズ系の前記電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、
前記結像レンズ系による前記試料の像あるいは前記試料の回折像を観察する観察面と、
前記試料の像あるいは前記試料の回折像を記録するための記録装置と、
を備え、
前記照射レンズ系により前記試料よりも前記電子線の進行方向下流側に前記光源の像を結像するとともに、
前記対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用し、かつ前記結像レンズ系に属する前記電子線の進行方向最上流側の電子レンズにより、前記電子線の進行方向最上流側の電子レンズよりも下流側に位置する前記結像レンズ系の物面の1つに前記光源の像を結像して前記試料の回折像を観察する、
ことを特徴とする電子顕微鏡。 - 前記試料保持装置に、もしくは前記試料保持装置と前記電子顕微鏡の光軸上の同じ位置に、前記試料へ磁場および/もしくは電場を印加する装置を備える、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の電子顕微鏡。 - 前記磁場および/もしくは電場を印加する装置が、印加された磁場および/もしくは電場による電子線の偏向を補正する機構を備える、
ことを特徴とする請求項3に記載の電子顕微鏡。 - 前記試料保持装置が前記試料と接する電極を備えることにより、前記試料へ電圧を印加する、あるいは前記試料へ電流を導入する、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の電子顕微鏡。 - 前記試料の前記電子線の進行方向下流側で、かつ前記対物レンズ系の前記電子線の進行方向上流側に配される絞り装置が、前記回折像を構成する前記試料の領域を制限する、
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の電子顕微鏡。 - 電子顕微鏡における回折像観察方法であって、
前記電子顕微鏡は、
電子線の光源と、
前記光源から放出される前記電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、
前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、
前記試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、
前記対物レンズ系の前記電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、
前記結像レンズ系による前記試料の像あるいは前記試料の回折像を観察する観察面と、
前記試料の像あるいは前記試料の回折像を記録するための記録装置と、
を備え、
前記照射レンズ系により前記試料よりも前記電子線の進行方向上流側に前記光源の像を結像するとともに、
前記対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用することにより、前記光源の像を前記結像レンズ系の物面の1つに結像し、前記試料の回折像を観察する、
ことを特徴とする回折像観察方法。 - 電子顕微鏡における回折像観察方法であって、
前記電子顕微鏡は、
電子線の光源と、
前記光源から放出される前記電子線を試料に照射するための少なくとも2つの電子レンズから構成される照射レンズ系と、
前記電子線が照射する試料を保持するための試料保持装置と、
前記試料の像を結像するための少なくとも1つの電子レンズから構成される対物レンズ系と、
前記対物レンズ系の前記電子線の進行方向下流側に配される複数の電子レンズから構成される結像レンズ系と、
前記結像レンズ系による前記試料の像あるいは前記試料の回折像を観察する観察面と、
前記試料の像あるいは前記試料の回折像を記録するための記録装置と、
を備え、
前記照射レンズ系により前記試料よりも前記電子線の進行方向下流側に前記光源の像を結像するとともに、
前記対物レンズ系に属する電子レンズを長焦点距離で使用し、かつ前記結像レンズ系に属する前記電子線の進行方向最上流側の電子レンズにより、前記電子線の進行方向最上流側の電子レンズよりも下流側に位置する前記結像レンズ系の物面の1つに前記光源の像を結像し、前記試料の回折像を観察する、
ことを特徴とする回折像観察方法。 - 前記試料の回折像が、前記試料の内部の磁場分布あるいは前記試料の外部の磁場分布を反映しているものである、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の回折像観察方法。 - 前記試料の回折像が、前記試料の内部の電場分布あるいは前記試料の外部の電場分布を反映しているものである、
ことを特徴とする請求項7または8に記載の回折像観察方法。
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JP2011061352A JP2012199022A (ja) | 2011-03-18 | 2011-03-18 | 電子顕微鏡、および回折像観察方法 |
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JP2011061352A JP2012199022A (ja) | 2011-03-18 | 2011-03-18 | 電子顕微鏡、および回折像観察方法 |
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JP2011061352A Withdrawn JP2012199022A (ja) | 2011-03-18 | 2011-03-18 | 電子顕微鏡、および回折像観察方法 |
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2011
- 2011-03-18 JP JP2011061352A patent/JP2012199022A/ja not_active Withdrawn
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