JP2012176602A - インクジェット記録方法 - Google Patents

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Abstract

【課題】 形成する記録画像の耐擦過性が高く、かつサーマルインクジェット記録方法でも安定にインクを吐出することができるインクジェット記録方法を提供すること。
【解決手段】 熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出して該インクを記録媒体に付与するインク付与工程と、記録媒体に付与したインクを加熱することでインクを記録媒体に定着させるインク定着工程とを有するインクジェット記録方法であって、該インクは、水と自己分散顔料と樹脂粒子とを含有し、該樹脂粒子は、ガラス転移温度が25℃以上であり、平均粒子径が70nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
【選択図】 なし

Description

本発明は、インクジェット記録方法に関する。
インクジェット記録方法で記録媒体に形成する記録画像には、耐マーカー性や擦過性等の堅牢性を向上させることが要求されている。このような要求に対し、インク中に樹脂粒子を添加し、堅牢性を向上させることが知られている。樹脂粒子を添加することで、色材と記録媒体、或いは色材同士の結着性を高め、堅牢性を向上させることができる。特許文献1には、インク中に添加する樹脂粒子の粒径を顔料粒子の粒径に対して1〜1.5倍とすることで、記録装置内におけるインクの目詰まり性等、信頼性を改善したインクが記載されている。
特開2004−238445号公報
しかしながら、特許文献1に記載のインクは、インク中に樹脂粒子を添加することにより、インクの分散安定性が十分でない場合があった。また、熱エネルギーの作用によって記録ヘッドからインクを吐出、飛翔させて記録を行う方式のインクジェット記録方法(サーマルインクジェット記録方法)に用いると、吐出が安定しない場合があった。これは、樹脂粒子を添加することによる粘度上昇や、インクにパルスを印加することにより発生する熱の影響で、記録ヘッド内の薄膜抵抗体上に堆積物ができてしまうことによるものであると考えられる。
即ち、インクをサーマルインクジェット記録方法で安定に吐出するためには、樹脂粒子添加によるインクの粘度上昇を抑制することが求められている。また、インクが記録ヘッド内で所望の体積で発泡し、さらに所望の時間で発泡と消泡を繰り返すことができる性能を有することが求められている。
従って本発明は、形成する記録画像の耐擦過性が高く、かつサーマルインクジェット記録方法でも安定にインクを吐出することができるインクジェット記録方法を提供することを目的とする。
上記課題は、以下の本発明によって解決される。即ち本発明は、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出して該インクを記録媒体に付与するインク付与工程と、記録媒体に付与したインクを加熱することでインクを記録媒体に定着させるインク定着工程とを有するインクジェット記録方法であって、該インクは、水と自己分散顔料と樹脂粒子とを含有し、該樹脂粒子は、ガラス転移温度が25℃以上であり、平均粒子径が70nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット記録方法である。
本発明によれば、形成する記録画像の耐擦過性が高く、かつサーマルインクジェット記録方法でも安定にインクを吐出することができるインクジェット記録方法を提供することができる。
記録ドットの形成方法の一例を示す図。 インクジェット記録装置を示す図。 シリアル型記録ヘッドを示す図。 ライン型記録ヘッドを示す図。
以下、好ましい実施の形態を挙げて、本発明をさらに詳細に説明する。
<インク>
(色材)
本発明のインクジェット記録方法に用いるインクは、色材として自己分散顔料を含有する。本発明では、自己分散顔料を用いるので、耐水性が良好である。また、自己分散顔料を含有していることにより、インクが記録媒体に着弾した後の固液分離がスムーズに進行し、発色性が高まる。さらに、インク中の自己分散顔料と、後述のインクの付与条件とが相乗的に作用することにより、例えば樹脂分散方式の顔料を用いた場合と比較して、スムーズに固液分離し、顔料自体が記録媒体の内部に深く浸透しにくくなり、発色性が非常に良好となる。
自己分散顔料は、基本的には分散剤を必須とせず、顔料表面に直接あるいは他の原子団を介して親水性基を導入し、分散安定化した顔料である。分散安定化する前の顔料としては、例えばWO2009/014242号公報に列挙されているような、従来公知の様々な顔料を用いることができる。このような顔料を原料とした自己分散顔料に導入される親水性基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を顔料表面と親水性基との間に介在させて顔料表面に間接的に結合させてもよい。
表面に直接あるいは原子団を介して酸性官能基が結合した自己分散顔料は、特定のpH下でプロトンが解離して酸性官能基がアニオン性親水性基となることにより、樹脂や界面活性剤等の分散剤を使用しなくともインク中で安定に分散する。アニオン性の親水性基としては、例えば次のようなものが挙げられる。−PO(M)、−COOM、−SOM(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す。)等である。親水性基中の「M」として表したもののうち、アルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては次のようなものが挙げられる。メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム。モノヒドロキシメチル(エチル)アミン、ジヒドロキシメチル(エチル)アミン、トリヒドロキシメチル(エチル)アミン。以上のものが挙げられる。
顔料表面と親水性基との間に介在させる他の原子団の具体例としては、例えば、炭素原子数1〜12の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキレン基、置換もしくは未置換のフェニレン基、置換もしくは未置換のナフチレン基が挙げられる。フェニレン基及びナフチレン基の置換基としては、例えば、炭素数1〜6の直鎖状または分岐鎖状のアルキル基が挙げられる。
本発明のインクが含有する自己分散顔料の具体例としては、例えば特表2009−515007号公報に開示されている、複数のホスホン酸基を有する官能基が顔料表面に修飾している自己分散顔料が挙げられる。また、例えば特開2006−89735号公報に開示されている、親水性基として−COOM(但し、式中のMは、水素原子、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウムを表す)が顔料表面に修飾された自己分散顔料が挙げられる。
本発明のインクが含有する自己分散顔料の平均粒子径は、液中での動的光散乱法により求められたものであり、好ましくは60nm以上であり、より好ましくは70nm以上、さらに好ましくは75nm以上である。また、好ましくは145nm以下であり、より好ましくは140nm以下、さらに好ましくは130nm以下である。ここでいう平均粒子径とは散乱平均粒子径である。平均粒子径は、レーザ−光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA150EX(日機装製、50%の積算値の値とする)等を使用して測定できる。このような自己分散顔料としては、例えばキャボット製の商標「COJ」で表される自己分散顔料もしくは、オリヱント製の商標「CW」で表される自己分散顔料が挙げられる。
自己分散顔料は、必要に応じて2種類以上を組み合わせて同一インク中に用いることができる。インクの自己分散顔料の含有量は、インク全量に対して好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、さらに好ましくは2.0質量%以上である。また、好ましくは15.0質量%以下、より好ましくは10.0質量%以下、さらに好ましくは8.0質量%以下である。
複数色のインクを用いてカラー画像を形成する際の、インクのセットとしては、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローが基本となるが、必要に応じて、レッド、ブルー、グリーン、グレー、淡シアン、淡マゼンタ等を追加することができる。これらのインクが含有する色材も、自己分散顔料であることが好ましい。
(樹脂粒子)
本発明のインクジェット記録方法に用いるインクは、樹脂粒子を含有する。本発明で用いる樹脂粒子は、ガラス転移温度が25℃以上であり、平均粒子径が70nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。
本発明で用いる樹脂粒子の具体例としては、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ウレタン系樹脂、アクリルアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、エステル系樹脂等が挙げられる。これらの樹脂はコポリマーとして使用することが好ましい。構造としては、単相構造或いは複相構造(コアシェル型)の何れでもよい。
本発明で用いる樹脂粒子は、不飽和単量体(モノマー)の乳化重合やソープフリー重合によって得られた樹脂粒子のエマルションの形態でインク中に存在することが好ましい。このようなエマルションとは、例えばアクリルエマルション等である。これは、樹脂粒子の乾燥粉末をインク中に添加した場合、樹脂粒子の分散が不十分となる場合があるためである。また、エマルションとしては、インクの保存安定性の観点から、ビニルモノマーの重合により形成されるエマルションが好ましい。
樹脂粒子のエマルションは、公知の乳化重合法により得ることができる。例えばスチレン、α−メチルスチレン、メチルメタアクリレート等の疎水性モノマーと、スチレンスルホン酸、ビニルトルエンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、アクリロトリル、アクリルアミド、4−ビニルピリジン、N,N−ジメチルアミノエチルメタクリレート、マレイン酸のN,N−ジメチルアミノエチルメタクリレートモノエステル等の親水性モノマーを、過硫酸カリウム等を開始剤として、ソープフリー乳化重合法により得る方法が挙げられる。
この他に、重合開始剤を存在させた水中において、モノマーを乳化重合することによって得ることができる。モノマーの具体例としては、以下のようなものが挙げられる。カルボン酸モノマーの例としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸等が挙げられる。スルホン酸モノマーの例としては、3−スルホプロピル(メタ)アクリレート、ビニルスチレンスルホン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。アクリル酸エステルモノマーの例としては、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n−ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、n−アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n−へキシルアクリレート、2−エチルへキシルアクリレート、オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、オクタデシルアクリレート、シクロへキシルアクリレート、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート、グリシジルアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート等のアクリル酸エステル類が挙げられる。メタクリル酸エステルモノマーの例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、n−アミルメタクリレート、イソアミルメタクリレート、n−ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、オクタデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールメタクリレート等が挙げられる。重合可能な二重結合を2つ以上有する架橋性モノマーの例としては、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3−ブチレングリコールジアクリレート、1,4−ブチレングリコールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、1,9−ノナンジオールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレート、2,2’−ビス(4−アクリロキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2’−ビス(4−アクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、N,N’−メチレンビスアクリルアミド等のジアクリレート化合物、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物、ジトリメチロールテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のテトラアクリレート化合物、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等のヘキサアクリレート化合物、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、1,3−ブチレングリコールジメタクリレート、1,4−ブチレングリコールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレート、ポリブチレングリコールジメタクリレート、2,2’−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン等のジメタクリレート化合物、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物、メチレンビスアクリルアミド、ジビニルベンゼン等が挙げられる。
また、上記モノマーと共重合可能なモノマーの具体例としては、以下のようなものが挙げられる。スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、4−t−ブチルスチレン、クロルスチレン、ビニルアニソール、ビニルナフタレン等の芳香族ビニルモノマー類。エチレン、プロピレン等のオレフィン類。ブタジエン、クロロプレン等のジエン類。ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー類。アクリルアミド、メタクリルアミド、N,N’−ジメチルアクリルアミド等のアクリルアミド類。2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等の水酸基含有モノマー類等が挙げられる。
重合開始剤としては、ラジカル重合で一般的に使用されるものと同様のものを用いることができる。例えば、過硫酸カリウムや2,2’−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられる。重合開始剤の他に、界面活性剤、連鎖移動剤、さらには中和剤等も常法に準じて使用してよい。中和剤としては、アンモニア、無機アルカリの水酸化物、例えば、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等が好ましい。界面活性剤としては、例えば、ラウリル硫酸ナトリウムの他、一般にアニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤又は両性界面活性剤として用いられているもの等が挙げられる。また、重合反応で用いられる連鎖移動剤としては、例えば、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、n−オクチルメルカプタン、キサントゲン類であるジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソブチルキサントゲンジスルフィド、ジペンテン、インデン、1,4−シクロヘキサジエン、ジヒドロフラン、キサンテン等が挙げられる。
本発明で用いる樹脂粒子のガラス転移温度は、25℃以上である。好ましくは35℃以上である。また、好ましくは120℃以下である。25℃とは、室内環境の平均温度として想定しており、この温度以上のガラス転移温度を有する樹脂は、室温環境下ではガラス状態を示す。本発明のインクジェット記録方法では、記録媒体に付与したインクを加熱する。この加熱により、室温環境下では造膜しない高いガラス転移温度を有する樹脂粒子を造膜させることができる。造膜した樹脂粒子は、自己分散顔料と記録媒体とを十分に結着させ、形成する記録画像の耐擦過性が高くなる。ガラス転移温度が25℃より低いと、加熱して形成する記録画像の強度が弱く、十分な耐擦過性が得られない場合がある。また、ガラス転移温度が25℃より低いと、インクが記録媒体内部に浸透しにくく、記録画像が樹脂の粘着性を保持する場合がある。ガラス転移温度が120℃より高いと、記録媒体に付与したインクを加熱する際に高い熱エネルギーを要したり、十分に造膜しなかったりする場合がある。尚、本発明においてガラス転移温度(Tg)は、通常の方法、例えば示差走査熱量計(DSC)等の熱分析装置を用いて測定することができる。
本発明で用いる樹脂粒子の平均粒子径は、70nm以上220nm以下である。好ましくは80nm以上、より好ましくは100nm以上である。また、好ましくは210nm以下、より好ましくは200nm以下である。平均粒子径は、レーザ−光の散乱を利用した、FPAR−1000(大塚電子製、キュムラント法解析)、ナノトラックUPA150EX(日機装製、体積平均粒径の50%の積算値を採用)等を使用して測定する。本発明における樹脂粒子の平均粒子径とは、体積分布基準の50%粒子径(D50)である。
本発明で用いる樹脂粒子の酸価は、25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下である。より好ましくは、140mgKOH/g以下である。酸価とは、1gの樹脂を中和するのに必要となるKOHの量(mg)で表わされる。尚、酸価は、樹脂粒子を構成する各モノマーの組成比から計算により求めることもできるが、具体的な酸価の測定方法としては、電位差滴定により酸価を求める、Titrino(Metrohm製)等を使用して測定する。
本発明のインクジェット記録方法は、加熱によりインクを記録媒体に定着させる記録方法である。樹脂粒子のガラス転移温度、平均粒子径及び酸価が本発明の範囲である場合に、記録画像の耐擦過性を高め、サーマルインクジェット記録方法での吐出安定性を高めることができる。これは、樹脂粒子のガラス転移温度、平均粒子径及び酸価が、相乗的に寄与し合うことによって発現するものであると考えられる。耐擦過性には、樹脂粒子により形成される樹脂膜の膜強度が大きく寄与する。本発明では、強度の高い樹脂膜を形成するには、ガラス転移温度が25℃以上の樹脂粒子を造膜させる。ガラス転移温度が25℃以上の樹脂粒子を造膜させることにより、自己分散顔料と記録媒体とを結着させ、記録画像の耐擦過性を向上させることができる。
樹脂粒子の造膜性は、樹脂粒子の最低造膜温度(MFT)に依存する。最低造膜温度は一般に樹脂粒子のガラス転移温度と粒子径に依存し、樹脂粒子の粒子径が小さい程、造膜しやすい傾向にある。従って、本発明のように樹脂粒子のガラス転移温度が高い場合には樹脂粒子の粒子径は小さいことが望まれるが、樹脂粒子の平均粒子径が小さいとサーマルインクジェット記録方法における吐出安定性が低下する傾向にある。この樹脂粒子の造膜性とサーマルインクジェット記録方法での吐出安定性における相反する現象に対して、本発明者らは、樹脂粒子の平均粒子径を70nm以上220nm以下、かつ酸価を25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下とすることにより、高い造膜性及び吐出安定性を両立できることを見出した。また、樹脂粒子の平均粒子径を大きくすることにより、樹脂粒子が記録媒体の表面に残りやすくなり、バインダー機能をより効果的に発現し、耐擦過性が高まることを見出した。
樹脂粒子の平均粒子径は、単に大きくすれば良いものではなく、造膜に不利に働いて耐擦過性が十分に向上しないことや、分散安定性が低下する場合がある。本発明者らは、これらの複数の課題を解決し得る一つの条件として、樹脂粒子の平均粒子径を70nm以上220nm以下とすることを見出した。また、樹脂粒子の酸価も複数の課題に寄与している。酸価が低過ぎる場合には、樹脂粒子の分散安定性を損なう場合があり、サーマルインクジェット記録方法での吐出安定性を低下させる場合があった。一方、酸価が高過ぎる場合には、樹脂粒子の分散安定性は良好なもののインクの粘度が上昇し、吐出安定性が低下する場合があった。本発明者らは、これらの複数の課題を解決し得る一つの条件として、樹脂粒子の酸価を25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下とすることを見出した。さらに、樹脂粒子を25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下とすることで、造膜した際に樹脂粒子のイオン性官能基と対イオンとがイオンクラスタを形成してより強固に造膜し、耐擦過性が高まることを見出した。
以上のように、本発明者らは、樹脂粒子のガラス転移温度、平均粒子径及び酸価が、造膜性及び吐出安定性に相乗的に作用することを見出し、これらの最適な数値範囲を見出した。
本発明で用いる樹脂粒子の重量平均分子量(Mw)は、吐出安定性、耐擦過性の観点から、50,000以上50,000,000以下であることが好ましい。より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは200,000以上である。また、より好ましくは25,000,000以下、さらに好ましくは10,000,000以下である。樹脂粒子の重量平均分子量が50,000より小さいと、耐擦過性が十分に向上しない場合がある。50,000,000より大きいと、サーマルインクジェット記録方法においては、吐出安定性が低下してしまう場合がある。尚、本発明における重量平均分子量は、分子の排除体積を分離の原理として利用したGPC(Gel Permeation Chromatography)により測定した値である。
本発明の樹脂粒子は、樹脂粒子を乾燥粉末としてインクの他の成分と混合してもよい。樹脂粒子の分散安定性の点から、樹脂粒子を水媒体に分散させてエマルション(ポリマーエマルション)の形態とした後、インクの他の成分と混合することが好ましい。
本発明のインクは、自己分散顔料と樹脂粒子とを含有し、樹脂粒子による自己分散顔料と記録媒体との結着により、耐擦過性を高めたものである。そのため、インクの樹脂粒子の含有量は、自己分散顔料の含有量に対して10.0質量%以上であることが好ましく、20.0質量%以上であることがより好ましい。自己分散顔料の含有量に対し樹脂粒子の含有量が10.0質量%未満となると、耐擦過性の機能発現が損なわれる場合がある。また、本発明のインクの樹脂粒子の含有量は、インク全量に対して30.0質量%以下であることが好ましく、20.0質量%以下であることがより好ましい。30.0質量%を超えると、粘性が大きくなり過ぎて吐出が困難となることがある。
本発明のインクは、ガラス転移温度が25℃未満の樹脂粒子をさらに含有してもよい。この場合、本発明の効果発現の観点から、さらに含有するガラス転移温度が25℃未満の樹脂粒子の含有量は、本発明のガラス転移温度が25℃以上の樹脂粒子の含有量に対して、質量基準で1/10以下であることが好ましい。ガラス転移温度が25℃未満の樹脂粒子の平均粒子径は、サーマルインクジェット記録方法での吐出安定性の観点から、80nm以上220nmであることが好ましい。より好ましくは100nm以上、さらに好ましくは120nm以上である。また、より好ましくは210nm以下、さらに好ましくは200nm以下である。ガラス転移温度が25℃未満の樹脂粒子の酸価は、サーマルインクジェット記録方法での吐出安定性の観点から、25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、140mgKOH/g以下である。
(樹脂粒子の製造例)
樹脂粒子の製造例を示す。まず、300mlの4つ口フラスコに、所定量のモノマーと溶媒である蒸留水100gを計り取る。このフラスコに、攪拌シール、攪拌棒、還流冷却管、セプタムラバー、窒素導入管を取り付けて、70℃の恒温槽中にて300rpmで攪拌しながら1時間窒素置換を行う。次いで、蒸留水100gに溶解させておいた開始剤をシリンジにてフラスコ内に注入して、重合を開始する。重合状況をゲルパーミッションクロマトグラフィー及びNMRでモニターし、所望の重合反応物を得る。生成した樹脂粒子を遠心分離し、蒸留水中に再分散させる工程を繰り返すことで、樹脂粒子を水分散体の状態で精製する。精製された樹脂粒子は必要に応じて濃縮するが、濃縮はエバポレーターや限外ろ過等によって行う。
(塩)
本発明のインクは、無機酸塩または有機酸塩の少なくとも一方を含有することが好ましい。有機酸塩もしくは無機酸塩を含有することで、本発明の効果をさらに高めることができる。具体的には、画像濃度の向上、耐水性、耐擦過性の向上、これらに加え、小文字印刷時の文字品位の向上が挙げられる。この理由は、以下のように考えられる。有機酸塩もしくは無機酸塩を含有したインクは、記録媒体へ打ち込まれた後、有機酸塩もしくは無機酸塩が顔料及び樹脂粒子の析出を促進、即ち顔料及び樹脂粒子と、水性媒体との間での固液分離を促進する。この結果、顔料と樹脂粒子とを記録媒体表層に選択的に留めることができるため、樹脂粒子を効率的に顔料と融着させることができ、記録画像の高発色化だけでなく、耐水性、耐擦過性の発現に効果的に寄与する。また、インクが記録媒体へ到着してから定着するまでの時間が短くなるため、にじみを抑制することができ、小文字印刷時の文字品位向上に寄与する。これらの効果の発現には、インク中で無機酸塩もしくは有機酸塩が解離していることが好ましい。このため、添加する無機酸塩もしくは有機酸塩の酸解離定数(pKa)は、インクのpHより低いことが好ましい。
このような無機酸塩を構成する無機酸としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸等が好ましい。有機酸塩を構成する有機酸としては、例えば、クエン酸、コハク酸、安息香酸、酢酸、プロピオン酸、フタル酸、シュウ酸、酒石酸、グルコン酸、タルトロン酸、マレイン酸、マロン酸、アジピン酸等の有機カルボン酸等が好ましい。中でも酢酸、フタル酸、安息香酸等が好ましい。塩となる対イオンとしては、自己分散顔料の対イオンの場合と同様に、アルカリ金属、アンモニウムまたは有機アンモニウム等が挙げられる。対イオンとしてのアルカリ金属の具体例としては、例えば、Li、Na、K、Rb及びCs等が挙げられる。また、有機アンモニウムの具体例としては、次のものが挙げられる。例えば、メチルアンモニウム、ジメチルアンモニウム、トリメチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、モノヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、ジヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリヒドロキシメチル(エチル)アンモニウム、トリエタノールアンモニウム等である。
本発明のインクの無機酸塩及び/または有機酸塩の含有量は、インク全量に対して合計で0.1質量%以上、5.0質量%以下であることが好ましい。より好ましくは0.2質量%以上である。また、3.0質量%以下である。0.1質量%未満だと、インクが記録媒体に着弾した後に生じる顔料及び樹脂粒子の析出効果が損なわれる場合がある。5.0質量%を超えるとインク中で固液分離が生じる場合があり、インクの分散安定性が低下する場合がある。
(その他)
本発明のインクは、水を含有する。インクの水の含有量は、インク全量に対して30質量%以上95質量%以下であることが好ましい。さらに、水に加えて、水溶性化合物を含有していることが好ましい。この水溶性化合物とは、20質量%濃度の水との混合液で水と相分離せずに混ざり合う、親水性の高いものである。さらに固液分離や目詰まり防止への点から蒸発しやすいものは好ましくなく、20℃での蒸気圧が0.04mmHg以下の化合物が好ましい。
さらに、本発明のインクは、下記式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を含有することが好ましい。さらに紙種によっては、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物と0.37以上の水溶性化合物を併有するインクが好ましい。この場合、親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上含有する形態とするとより好ましいことがある。
式中の水分活性値とは、「水分活性値=(水溶液の水蒸気圧)/(純水の水蒸気圧)」で示されるものである。水分活性値の測定方法は、様々な方法があり、いずれの方法にも特定されないが、中でもチルドミラー露点測定法は、本発明で使用する材料測定に好適である。本明細書での値は、この測定法によるアクアラブCX−3TE(DECAGON製)を用いて、各水溶性化合物の20%水溶液を25℃で測定したものである。
ラウールの法則に従えば、希薄溶液の蒸気圧の降下率は溶質のモル分率に等しく、溶媒及び溶質の種類に無関係であるので、水溶液中の水のモル分率と水分活性値は等しくなる。しかし、各種水溶性化合物の水溶液の水分活性値を測定すると、水分活性値は、水のモル分率と一致しないものも多い。水溶液の水分活性値が水のモル分率より低い場合は、水溶液の水蒸気圧が理論計算値より小さいこととなり、水の蒸発が溶質の存在によって抑制されている。このことから、溶質は水和力の大きい物質であることがわかる。逆に、水溶液の水分活性値が水のモル分率より高い場合は、溶質が水和力の小さい物質と考えられる。
本発明者らは、インクが含有する水溶性化合物の親水性、あるいは疎水性の程度が、自己分散顔料と水性媒体との固液分離の推進、さらに、各種インク性能に及ぼす影響が大きいものと着眼した。このことから、式(A)に示す親疎水度係数という係数を定義した。水分活性値は、20質量%の一律の濃度で、各種水溶性化合物の水溶液を測定しているが、式(A)に換算することによって、溶質の分子量が異なって水のモル分率が違っても、各種溶質の親水性、あるいは疎水性の程度の相対比較が可能である。また水溶液の水分活性値が1を越えることはないので、親疎水度係数の最大値は1である。インクジェット用インクに用いられる水溶性化合物の、式(A)によって得られた親疎水度係数を表1に示す。ただし、本発明の水溶性化合物は、これらにのみ限定されるものではない。
水溶性化合物は、インクとしての適性を有する各種の水溶性化合物の中から、目的とする親疎水度係数を有する水溶性化合物を選択して用いることができる。本発明者らは、親疎水度係数の異なる水溶性化合物がインク中に含まれた場合の、水溶性化合物と各種インク性能との関係を検討した結果、以下の知見を得た。2色間のブリーディングや文字の太りといった小文字の印字特性は、インク中に親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を用いると、極めて良好となった。中でも、グリコール構造における親水基に置換された炭素数以上に親水基に置換されていない炭素数を有するグリコール構造の類は、特に好ましいものであった。これらの水溶性化合物は、インクが記録媒体に着弾した後、水や自己分散顔料やセルロース繊維との親和力が比較的小さく、自己分散顔料との固液分離を強力に推進する役割があるためと考えられる。従って、本発明のインクは、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を少なくとも1種以上含有することが好ましい。また、この中でも、式(A)で定義される親疎水度係数が0.26以上0.37未満の水溶性化合物としては、トリメチロールプロパンが特に好ましい。また0.37以上の水溶性化合物としては、炭素数4〜7の炭化水素のグリコール構造を有するものが好ましく、中でも、1,2−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオールが好ましい。また親疎水度係数が0.37以上の水溶性化合物を2種類以上用いる場合は、水溶性化合物の親疎水度係数に0.1以上の差(最大値と最小値の差)があることが好ましい。
本発明のインクの水溶性化合物の含有量は、インク全量に対して合計で好ましくは5.0質量%以上、より好ましくは6.0質量%以上、さらに好ましくは7.0質量%以上である。また、好ましくは40.0質量%以下、より好ましくは35.0質量%以下、さらに好ましくは30.0質量%以下である。
また、本発明のインクは、よりバランスのよい吐出安定性を得るために、インク中に界面活性剤を含有することが好ましい。中でもノニオン界面活性剤を含有することが好ましい。ノニオン界面活性剤の中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が特に好ましい。これらのノニオン系界面活性剤のHLB値(Hydrophile−Lipophile Balance)は、10以上である。こうして併用される界面活性剤の含有量は、インク全量に対して0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.2質量%以上、さらに好ましくは0.3質量%以上である。また、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは4.0質量%以下、さらに好ましくは3.0質量%以下である。
本発明のインクは、所望の物性値を有するインクとするために、上記した成分の他に必要に応じて、添加剤として、pH調整剤、粘度調整剤、消泡剤、防腐剤、防カビ剤、酸化防止剤、浸透剤等を添加することができる。
(表面張力)
本発明のインクは、表面張力が34mN/m以下であることが好ましい。32mN/m以下であることがより好ましく、30mN/m以下であることがさらに好ましい。インクジェット専用紙である光沢紙やマット紙は、普通紙と異なり、多孔質のインク受容層が紙表面に形成されているため、インクの表面張力の影響をほとんど受けずに、速やかにインクの浸透が進行する。しかし、普通紙や印刷紙の中には、撥水効果のあるサイズ剤が内添及び/または外添されているため、インクの浸透が阻害される場合が多い。即ち、普通紙や印刷紙は、インクにより速やかに表面を濡らすことができるかどうかの指標である臨界表面張力が、インクジェット専用紙よりも低い。インクの表面張力が34mN/mより高い場合は、紙の臨界表面張力より高いこととなるので、インクが紙に着弾してもすぐには濡れず、速やかに浸透しない場合がある。さらに、表面張力が高い場合は、紙との濡れ性を多少向上させて、インクと紙との接触角を低減させたとしても、高速には定着しにくい場合があり、定着性が劣化する場合がある。インクの表面張力34mN/m以下の場合は、ポア吸収が主体となり、34mN/mより高いとファイバー吸収が主体となる。これら2タイプの吸収によるインクの紙への吸収速度は、ポア吸収の方が圧倒的に速い。そこで本発明では、好適にはポア吸収が主体となるインクとすることで、高速定着を実現することもできる。ポア吸収が主体となるインクは、異色の2種類のインクを隣接させて記録した場合のブリーディングを抑制する点でも有利である。これは、紙表面で2種類のインクが同時に滞留することが抑制されるためである。一方、インクの操作性という別の観点から、本発明に使用するインクの表面張力は20mN/m以上、好ましくは23mN/m以上、より好ましくは26mN/m以上であることが好ましい。表面張力が20mN/m以上であれば、ノズル内でメニスカスを維持することができる。よって、インクが吐出口の外に出てしまい、ノズル内からインクが抜けてしまう「インク落ち」を抑制することができる。尚、上記表面張力は、垂直平板法によって測定された値であり、具体的な測定装置としては、CBVP−Z(協和界面科学製)等が挙げられる。
<凝集液>
本発明のインクは、以下に示す凝集液と共に用いることができる。凝集液とは、インク中の色材を凝集する凝集剤を含む液体を指す。凝集液はインクによって形成される画像の色調に影響を与えないものであることが好ましい。そのため、凝集液は色材を含まないことが好ましい。凝集剤としては、金属イオンを生成する金属塩や、水素イオン濃度(pH)を変化させる酸性化合物が好ましい。
金属塩としては、例えば次のような多価の金属イオンを生成するものが用いられる。例えばCa2+、Cu2+、Ni2+、Mg2+及びZn2+等の二価の金属イオンや、Fe3+及びAl3+等の三価の金属イオン等が挙げられる。そして、これらの金属塩を含有する液体を塗布する場合には、金属塩水溶液として塗布することが好ましい。金属塩の陰イオンとしては、Cl、NO 、SO 2−、I、Br、ClO 、RCOO(Rは1価の有機基)等が挙げられる。
酸性化合物としては、インクの凝集性能の観点から、pH緩衝能を有することが好ましく、酸解離定数(pKa)が4.5以下であることが好ましい。酸性化合物の例としては、有機カルボン酸、有機スルホン酸等が挙げられる。より具体的には、ポリアクリル酸、酢酸、メタンスルホン酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、乳酸、スルホン酸、オルトリン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、若しくはこれらの化合物の誘導体、またはこれらの塩等が挙げられる。
上記の金属塩や酸性化合物は、1種類で使用しても、2種類以上を併用してもよい。凝集液の凝集剤の含有量は、凝集液の全質量に対して0.01質量%以上90質量%以下であることが好ましい。1質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることがさらに好ましい。また、80質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることがさらに好ましい。
<記録方法>
本発明のインクジェット記録方法は、熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出して該インクを記録媒体に付与するインク付与工程と、記録媒体に付与したインクを加熱することでインクを記録媒体に定着させるインク定着工程とを有する。
インク定着工程において、インクの加熱はインクが含有する樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度で行うことが好ましい。具体的な温度としては、40℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。40℃より低いとインクを十分に加熱しにくくなり、着色粒子を良好に造膜することが困難となる。また、インクの加熱温度は200℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましい。200℃より高い温度であると、エネルギー負荷がかなり大きくなる。加熱手段としては、熱風加熱、放射加熱、伝導加熱等が挙げられる。これらは併用してもよい。本発明において、インクと共に凝集液を用いる場合、凝集液を付与する凝集液付与工程は、インク付与工程の前、インク付与工程の後且つインク定着工程の前、インク定着工程の後のいずれのタイミングで行っても良い。
本発明のインクジェット記録方法においては、1回に付与するインク滴量を、0.5pl以上、6.0pl以下の定量とすることが好ましい。より好ましくは1.0pl以上であり、さらに好ましくは1.5pl以上である。また、より好ましくは5.0pl以下であり、さらに好ましくは4.5pl以下である。0.5pl未満の場合は、気流の影響を受けやすく、インク滴の着弾位置の精度が落ちる場合があるので好ましくない。6.0plを越えると、2ポイント(1ポイント≒0.35mm)から5ポイント程度の小さな文字を印刷した場合に、文字太りによって文字がつぶれる場合がある。インクの吐出体積は、インクの裏抜けに大きく影響することから、両面印刷への適用の点でも重要である。普通紙や一部の印刷紙、特に非塗工の印刷紙には、一般的に0.5μmから5.0μmを中心として0.1μmから100μmの大きさの細孔が分布している。これら記録媒体への水性インクの浸透現象としては、セルロース繊維自身にインクが直接吸収されて浸透するファイバー吸収と、セルロース繊維間に形成される細孔(ポア)に吸収されて浸透するポア吸収に大きく分けられる。本発明で用いられるインクはポア吸収が主体となるインクであることが好ましい。このため、本発明で好ましく用いられるインクが記録媒体に付与され、記録媒体表面に存在する10μm程度以上の大きめな細孔にインクの一部が接触した場合、Lucas−Washburnの式にしたがって、インクは大きめな細孔に集中して吸収され、浸透する。結果、この部分は特に深くインクが浸透することになるので、高発色の発現において極めて不利となる。一方、インク滴が小さくなるほど、一滴のインク当りの大きめな細孔への接触確率は低くなるので、大きめな細孔へ集中して吸収されにくい。さらに、たとえ大きめな細孔へ接触しても、インクが小さければ、深く浸透するインクは少量で済むことになる。この結果、記録媒体上で得られる画像は高発色となる。
本発明において、定量のインクとは、記録ヘッドを構成するノズルの構造を各ノズル間で異ならせず、また、付与する駆動エネルギーを変化させる設定をしていない状態で吐出されたインクを意味する。即ち、このような状態であれば、装置の製造誤差等による僅かな吐出のばらつきがあっても、付与されるインクは定量である。付与されるインクを定量とすることにより、インクの浸透が比較的容易な普通紙や非塗工紙等の記録媒体への印字においては、インクの浸透深さが安定し、記録画像の画像濃度が高く、画像の均一性が良好となる。逆に、付与されるインクの量を変化させることを前提としたシステムによると、インクは定量ではなく、異なった体積のインクが混在するため、インクの浸透深さのばらつきが大きくなる。特に記録画像の高濃度部では、浸透深さのばらつきのため、記録画像の画像濃度が低い箇所が存在するなどし、画像の均一性が良好でなくなる。
インクの浸透が比較的困難な塗工紙等の記録媒体への印字においては、付与されるインクの吐出体積は、記録媒体上に形成されるドット径の大きさを大きく変化させるため、画像の均一性に影響を及ぼす。微塗工紙や塗工紙等の印刷紙は、美感や平滑性を高めるために、表面に塗料が塗工されており、インクが浸透しにくい。そのため、前述の印刷紙の場合、インクの吐出体積が異なると、印刷紙上に形成されるドット径の大きさが異なり、特に、低デューティー部の印字において、色濃度ムラが発生する。付与されるインクを定量とすることにより、形成されるドット径が均一となり、低デューティー部の画像の均一性も向上する。
熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出するサーマルインクジェット記録方法は、インクの定量化に適したものである。これにより、インクの浸透深さのばらつきと形成されるドット径のばらつきとを抑え、記録画像の均一性が良好となる。さらに、サーマルインクジェット方式は、圧電素子を用いてインクを付与する方式に比べて多ノズル化と高密度化に適しており、高速記録にも好適である。
本発明のインクジェット記録方法は、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上となる部分を有する画像を形成する場合に効果を発現しやすい。デューティーを算出する部分は、最小で50μm×50μmである。80%デューティー以上の部分を有する画像とは、デューティーを算出する部分のマトリクス中の格子のうち、80%以上の格子にインクが付与されて形成される部分を有する画像である。格子の大きさは、基本マトリクスの解像度によって決定される。例えば、基本マトリクスの解像度が1200dpi×1200dpiの場合、1つの格子の大きさは、1/1200inch×1/1200inchである。基本マトリクス中の80%デューティー以上となる部分を有する画像とは、基本マトリクス中に1色のインクで80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。即ち、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの4色のインクを用いる場合では、これらの少なくとも1色により、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有する画像のことである。一方、基本マトリクス中に80%デューティー以上となる部分を有していない画像は、着弾したインク間の重なりが比較的少なく、印字プロセスの工夫をしなくとも、文字のつぶれやブリーディング等の問題が生じない場合も多い。本発明で用いる基本マトリクスは、記録装置等により自由に設定できる。基本マトリクスの解像度としては、600dpi以上が好ましく、1200dpi以上がより好ましい。また、4800dpi以下が好ましい。解像度は、この範囲内にあれば、縦と横が同一であっても異なっていてもよい。
本発明のインクジェット記録方法は、画像を形成するための基本マトリクス中に、インクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する場合に効果を発現しやすい。また、本発明のさらなる課題は、画像を形成するための基本マトリクス中に、インクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する場合に要求されるものである。本発明では、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を2以上の分割回数に分割することが好ましい。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量は、0.7μl/cm以下、好ましくは0.6μl/cm以下、より好ましくは0.5μl/cm以下である。分割されたそれぞれの回の、画像へのインクの付与量が0.7μl/cmを越えると、裏抜けや文字のつぶれ、ブリーディングが発生する場合がある。
本発明において、画像を形成する際にインクの付与を分割しない場合と分割する場合では性能差があり、分割を行うことが好ましい。分割回数は少なくとも2回以上であるが、3回以上であると、記録画像はより高濃度となり、発色性が良好である。また、好ましくは8回以下、より好ましくは4回以下である。分割回数が8回を越えると、ブリーディングの抑制や、小文字の良好な印字には効果的だが、普通紙や非塗工紙表面でのインクの隠蔽率が低下し、発色性が劣化する傾向となる。インクの付与を2以上の分割回数に分割する手法としては、シリアル型とライン型の記録装置に大別される。シリアル型の記録装置を例にすると、例えばベタ印字を通常2分割で印字する場合、記録媒体に対して記録ヘッドが2回通過(2パス)する事となる。分割付与に際して、1回当りの付与量は等量のインクを付与する事となる場合が多いが、本発明はこれに限るものではない。2パスで印字する際に、1パス目に記録媒体に対し50%相当のインクを、2パス目に残部の記録媒体部位に残りの50%相当のインクを付与し100%ベタ印字をする場合のドット着弾位置の配列例を図1に示す。以上のシリアル型の分割付与方法に加えて、本発明では1パスで図1と同様の位置へのドット付与を2分割で印字するライン型にも対応している。例えば1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様として、図3に例示した記録ヘッドを用いる例が挙げられる。カラーのヘッド構成例を述べると、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出する態様となる。この例は、ブラックインクを2ノズル列に分割して、実質的に1パスで付与する場合のヘッドの構成例である。同様にしてヘッドのノズル列数やインクの搭載数の構成を変えることで、様々なインクを実質上の1パスで2以上の分割回数に分割印字する事が可能である。同一ヘッドにおいて、同一インクの最初のインク付与開始から最後のインク付与終了までの時間が1msec以上200msec未満であると本発明のインクであることの効果がより顕著に発現できるため好ましい。
本発明のインクは、記録媒体に付与する。記録媒体としては、例えば印刷紙が挙げられる。印刷紙とは、プリンタや複写機等で大量に使用されている市販の上、中質紙、PPC用紙等のコピー用紙やボンド紙等の普通紙、平滑性の要求によるカレンダ処理により記録媒体の主構成要素であるセルロース繊維がコピー用紙と比べて圧縮されていた非塗工紙、美感や平滑性を高めるために表面に塗料が塗工され微塗工紙や塗工紙が挙げられる。
<インクジェット記録装置>
次に、本発明のインクジェット記録方法を行うインクジェット記録装置を説明する。本発明に用いる記録装置としては、インクを熱エネルギーの作用により付与する記録ヘッドを搭載した装置である。
インクに熱エネルギーを作用させて付与させる記録ヘッドの代表的な構成や原理については、例えば、米国特許第4723129号、米国特許第4740796号に開示されている基本的な原理を用いて行うものが好ましい。この方式はいわゆるオンデマンド型、コンティニュアス型のいずれにも適用可能である。これらの中ではオンデマンド型のものが有利である。すなわち、オンデマンド型の場合には、インクが保持されているシートや液路に対応して配置されている電気熱変換体に、記録情報に対応していて核沸騰を越える急速な温度上昇を与える少なくとも1つの駆動信号が印加される。この印加によって、電気熱変換体に熱エネルギーが発生させ、記録ヘッドの熱作用面に膜沸騰を生じさせて、結果的にこの駆動信号に1対1で対応したインク内の気泡を形成することができる。この気泡の成長、収縮により吐出用開口を介してインクを吐出させて、少なくとも1つの滴を形成する。この駆動信号をパルス形状とすると、即時適切に気泡の成長収縮が行われるのでインクが定量であり、応答性にも優れたインクの吐出が達成でき、より好ましい。
図2は、本発明に係るインクジェット記録装置の一実施態様の概略図である。キャリッジ20には、インクジェット方式の複数の記録ヘッド211〜215が搭載されている。また、記録ヘッド211〜215にはインクを吐出するためのインク吐出口が複数配列されている。1パスでブラックインクを2分割付与する構成の一態様では、211、212、213、214及び215は、夫々、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)及びブラック(K)のインクを吐出するための本発明の記録ヘッド例である。インクカートリッジ221〜225は、記録ヘッド211〜215、及びこれらにインクと供給するためのインクタンクとから構成されている。40は、濃度センサである。濃度センサ40は反射型の濃度センサであり、キャリッジ20の側面に設置された状態で、記録媒体に記録されたテストパターンの濃度を検出できる構成となっている。記録ヘッド211〜215への制御信号等は、フレキシブルケーブル23を介して転送される。記録媒体24は、不図示の搬送ローラを経て排紙ローラ25に挟持され、搬送モータ26の駆動に伴い矢印方向(副走査方向)に搬送される。ガイドシャフト27、及びリニアエンコーダ28により、キャリッジ20は案内支持されている。キャリッジ20は、キャリッジモータ30の駆動により、駆動ベルト29を介して、ガイドシャフト27に沿って主走査方向に往復運動される。記録ヘッド211〜215のインク吐出口の内部(液路)には、インク吐出用の熱エネルギーを発生する発熱素子(電気・熱エネルギ変換体)が設けられている。リニアエンコーダ28の読みとりタイミングに伴い、上記発熱素子を記録信号に基づいて駆動し、記録媒体上にインク滴を吐出し、付着させることで画像を形成する。記録領域外に配置されたキャリッジ20のホームポジションには、キャップ部311〜315を持つ回復ユニット32が設置されている。記録を行わないときには、キャリッジ20をホームポジションに移動させて、記録ヘッド211〜215のインク吐出口面をそれぞれが対応するキャップ311〜315によって密閉する。これにより、インク溶剤の蒸発に起因するインクの固着あるいは塵埃等の異物の付着等による目詰まりを防止することができる。また、キャップ部のキャッピング機能は、記録頻度の低いインク吐出口の吐出不良や目詰まりを解消するために利用される。具体的には、キャップ部は、インク吐出口から離れた状態にあるキャップ部へインクを吐出させる吐出不良防止のための空吐出に利用される。さらに、キャップ部は、キャップした状態で不図示のポンプによりインク吐出口からインクを吸引して吐出不良を起こした吐出口の吐出回復に利用される。インク受け部33は、記録ヘッド211〜215が記録動作直前に上部を通過する時に、予備的に吐出されたインク滴を受容する役割を果たす。また、キャップ部に隣接した位置に不図示のブレード、拭き部材を配置することにより、記録ヘッド211〜215のインク吐出口形成面をクリーニングすることが可能となっている。加熱素子411は、排紙ローラ25によって搬送された記録媒体24上のインクを加熱乾燥するためのものである。
以上説明したように、記録装置の構成に、記録ヘッドに対する回復手段、予備的な手段等を付加することは、記録動作を一層安定にできるので好ましい。これらを具体的に挙げれば、記録ヘッドに対してのキャッピング手段、クリーニング手段、加圧あるいは吸引手段等がある。また、記録とは別の吐出を行う予備吐出モードを備えることも安定した記録を行うために有効である。加えて、上記の実施形態で説明した記録ヘッド自体に一体的にインクタンクが設けられたカートリッジタイプの記録ヘッドを用いてもよい。さらに、装置本体に装着されることで、装置本体との電気的な接続や装置本体からのインクの供給が可能になる交換自在のチップタイプの記録ヘッドを用いてもよい。
図3の記録ヘッドは、記録ヘッドを走査して記録を行うシリアルタイプであるが、記録媒体の幅に対応した長さを有する記録ヘッドを用いたフルラインタイプであっても良い。フルラインタイプの記録ヘッドとしては、図4に示すように、シリアルタイプの記録ヘッドを千鳥状や並列に配列させて、長尺化し、目的の長さとする構成がある。あるいは、当初より長尺化したノズル列を有するように、一体的に形成された1個の記録ヘッドとした構成でもよい。
上記のシリアルタイプやラインタイプの記録ヘッドを有する記録装置は、4色インク(Y,M,C,K)のうちブラックインクをブラックインク記録ヘッド211と215から吐出する5吐出口列(またはノズル列)構成の記録ヘッドを搭載した例である。また4吐出口列数(またはノズル列数)を用いて分割付与を行う好適な態様として、4色インク(Y,M,C,K)の少なくとも1種については、同色のインクを複数の吐出口列(またはノズル列)に重複して搭載する形式も好ましい。例えば、4吐出口列数(またはノズル列)のヘッドを2個ないし3個重ねてつなげた8吐出口列(またはノズル列)構成や12吐出口列(またはノズル列)構成等が挙げられる。
本発明では、画像を形成するための基本マトリクス中に、80%デューティー以上で且つインクの総付与量が5.0μl/cm以下となる部分を有する画像を形成する際に、インクの付与を複数回の分割回数に分割して行うことが好ましい。また、分割されたそれぞれの回のインクの付与量を0.7μl/cm以下とすることが好ましい。インクジェット記録装置は、かかる分割付与を行うための制御機構を有する。この制御機構により、インクジェット記録ヘッドの動作と、記録媒体の紙送り動作のタイミングを制御し、かかる分割付与を行う。
次に実施例、比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明する。なお、以下の記載で「部」とあるものは、特に断りのない限り質量基準である。また、平均粒子径(D50)は、ナノトラックUPA150EX(日機装製、体積平均粒径の50%の積算値を採用)で測定した。酸価は、樹脂粒子の水分散体の状態でTitrino電位差滴定装置(Metrohm製)により求めた。ガラス転移温度は、DSC822(METTLER TOLEDO製)で測定した。重量平均分子量は、HLC−8220GPC(東ソー製)で測定した。
(自己分散顔料)
ブラックインクの自己分散顔料として、CAB−O−JET400(キャボット製)、CAB−O−JET300(キャボット製)、BONJET BLACK CW−2(オリヱント製)を用いた。カラーインクの自己分散顔料として、イエローインクではCAB−O−JET470Y(キャボット製)を用いた。マゼンタインクではCAB−O−JET465M(キャボット製)を、シアンインクでは、CAB−O−JET450C(キャボット製)を用いた。
(樹脂粒子1)
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマーとしてスチレン/アクリル酸を9.0/1.5(質量比)と、ドデシル硫酸ナトリウムを0.35(質量比)用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子1を含有する分散液を得た。分散液のpHは8.5に調整した。樹脂粒子1の平均粒子径(D50)は76nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)は106℃、重量平均分子量(Mw)は730,000であった。
(樹脂粒子2)
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマーとしてスチレン/アクリル酸を9.0/1.5(質量比)と、ドデシル硫酸ナトリウムを0.25(質量比)用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子2を含有する分散液を得た。分散液のpHは8.5に調整した。樹脂粒子2の平均粒子径(D50)は89nmで、酸価は100mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)は112℃、重量平均分子量(Mw)は520,000であった。
(樹脂粒子3)
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマーとして、スチレン/アクリル酸を9.0/1.5(質量比)と、ドデシル硫酸ナトリウムを0.10(質量比)用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子3を含有する分散液を得た。分散液のpHは8.5に調整した。樹脂粒子3の平均粒子径(D50)は107nmで、酸価は104mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)は111℃、重量平均分子量(Mw)は280,000であった。
(樹脂粒子4)
上記樹脂粒子の製造例に従い、所定のモノマーとしてスチレン/n−ブチルアクリレート/アクリル酸を6.0/3.0/1.5(質量比)と、ドデシル硫酸ナトリウムを0.25(質量比)用いて重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子4を含有する分散液を得た。分散液のpHは8.5に調整した。樹脂粒子4の平均粒子径(D50)は93nmで、酸価は101mgKOH/g、ガラス転移温度(Tg)は49℃、重量平均分子量(Mw)は460,000であった。
(樹脂粒子5〜18)
上記樹脂粒子1〜4の製造例と同様にして、表2に記載のモノマー構成で重合を行った。重合後、精製・濃縮することで、固形分濃度10質量%の樹脂粒子5〜18を含有する分散液を得た。それぞれの樹脂粒子の平均粒子径(D50)、酸価、ガラス転移温度(Tg)、重量平均分子量(Mw)を表2に示す。尚、表中にSt、MMA、nBA、EHA、AA、MAAとあるのは、それぞれスチレン、メチルメタクリレート、n−ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、アクリル酸、メタクリル酸である。
(インクの調製)
次に、本発明の実施例及び比較例に用いるインクの調製について説明する。インクの調製は、表3(ブラックインク)、表4(カラーインク)に従ってインクを構成する全成分(合計で100部)を混合した後、1時間攪拌し、孔径2.5μmのフィルターを用いて、ろ過することを基本とした。尚、表中の水はイオン交換水である。自己分散顔料及び樹脂粒子1〜18の値は、固形分の質量部である。またアセチレノールEH(川研ファインケミカル製)は、アセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物である。インクの表面張力は、CBVP−Z(協和界面科学製)で測定した。
<実施例1〜24及び比較例1〜12>
(分散安定性)
上記表3及び表4に示す実施例1〜24及び比較例1〜12のインクを、室温で10日間静置し、樹脂粒子の凝集状態を下記の評価基準にて目視で評価した。
a.凝集は認められない。
b.凝集が僅かに認められる。
c.凝集がはっきりと認められ、一部沈殿が生じている。
次に、実施例1〜24及び比較例1〜12のインクを用いて記録媒体に記録画像を形成した。具体的には、表3に記載のブラックインクをインクジェット記録装置のブラックインクヘッド部とシアンヘッド部にそれぞれ搭載して、各インクヘッド部から50%dutyずつ付与することにより、記録画像として100%dutyのベタ画像を6列形成した。また、表4に記載のカラーインクは、ブラックインクヘッド部に搭載して、100%duty吐出し、記録画像として100%dutyのベタ画像を6列形成した。インクジェット記録装置は、BJ F900(キヤノン製。記録ヘッド;6吐出口列、各512ノズル。インク量4.0pl(定量)、解像度最高1200dpi(横)×1200dpi(縦))の排紙トレイ部に加熱定着装置として赤外ランプを取り付けたものを使用した。加熱温度は90℃とし、熱電対により温度コントロールを行った。記録媒体は、非塗工紙;OK prince(王子製紙製)及び塗工紙;OKトップコート+(王子製紙製)とした。
実施例1〜24及び比較例1〜12のインクに関して、吐出安定性及び形成した記録画像の画像濃度(O.D.)、画像均一性、定着性に関して、以下の基準で評価を行った。
(吐出安定性)
非塗工紙に形成した記録画像の状態を、以下の基準で目視にて評価した。
aa.いずれのベタ画像においても、印字が行われていない部分(記録画像のかすれ)は見受けられない。
a.2列目以降のベタ画像においては、印字が行われていない部分は見受けられないが、1列目のベタ画像においては、印字が行われていない部分がわずかに見受けられる。
b.2列目以降のベタ画像においても、印字が行われていない部分がやや見受けられる。
c.いずれのベタ画像においても、印字が行われていない部分が多く見受けられる。
d.いずれのベタ画像においても、ほとんど印字ができていない。
(画像濃度)
ブラックインクを用いて非塗工紙に形成した記録画像に関して、記録画像のベタ部のO.D.を濃度計(マクベスRD915:マクベス製)にて測定した。
A:1.20以上であった
B:1.10以上、1.20未満であった
C:1.10未満であった。
―:印字ができていないため評価できない。
(非塗工紙に対する画像均一性)
非塗工紙に形成した記録画像のベタ部を下記の評価基準にて目視で評価した。
A:均一でムラは認められない。
B:ムラが僅かに認められる。
C:ムラがはっきりと認められる。
―:印字ができていないため評価できない。
(塗工紙に対する画像均一性)
上記のインクジェット記録装置を用いて3cm×3cmの10%デューティーの記録画像を塗工紙(OKトップコート+、王子製紙製)に形成し、記録画像の均一性について下記の評価基準にて目視で評価した。
A:均一でムラは認められない。
B:ムラが僅かに認められる。
C:ムラがはっきりと認められる。
―:印字ができていないため評価できない。
(耐擦過性)
塗工紙に印字した記録画像のベタ部にシルボン紙を押し付け、シルボン紙へのインクの転写度合いを下記の評価基準にて目視で評価した。
A:転写は認められない。
B:転写が僅かに認められる。
C:転写がはっきりと認められる。
以上の評価結果について、ブラックインクの評価結果(実施例1〜12、比較例1〜6)を表5に、カラーインクの評価結果(実施例13〜24、比較例7〜12)を表6に示す。
表5から、実施例1〜12のインクは、比較例1〜6のインクに対し、分散安定性、吐出安定性、画像濃度、画像の均一性、耐擦過性に優れていることが分かる。また、表6から、実施例13〜24のインクは、比較例7〜12のインクに対し、分散安定性、吐出安定性、画像の均一性、耐擦過性に優れていることが分かる。これらは、実施例のインクが含有する樹脂が、ガラス転移温度が25℃以上であり、平均粒子径が70nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であるためであると考えられる。

Claims (4)

  1. 熱エネルギーの作用により記録ヘッドからインクを吐出して該インクを記録媒体に付与するインク付与工程と、記録媒体に付与したインクを加熱することでインクを記録媒体に定着させるインク定着工程とを有するインクジェット記録方法であって、
    該インクは、水と自己分散顔料と樹脂粒子とを含有し、該樹脂粒子は、ガラス転移温度が25℃以上であり、平均粒子径が70nm以上220nm以下であり、酸価が25mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であることを特徴とするインクジェット記録方法。
  2. 前記インクは、無機酸塩または有機酸塩の少なくとも一方を含有する請求項1に記載のインクジェット記録方法。
  3. 前記インクは、下記式(A)で表される親疎水度係数が0.26以上の水溶性化合物を含有する請求項1または2に記載のインクジェット記録方法。
  4. 前記インク定着工程におけるインクの加熱を前記樹脂粒子のガラス転移温度以上の温度で行う請求項1〜3のいずれかに記載のインクジェット記録方法。
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