以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。説明の便宜上、本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構を備えるクラッチを、「本クラッチ」と略して記すことがある。また、本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構を備えるクラッチが搭載された自動二輪車を、「本自動二輪車」と略して記すことがある。さらに、本発明の説明においては、本自動二輪車の「上」「下」「右」「左」「前」「後」のそれぞれの向きは、本自動二輪車に乗った運転者の向きを基準とする。
まず、本自動二輪車1の全体構成を説明する。図1は、本自動二輪車1の構成を、模式的に示した平面図である。図1に示すように、本自動二輪車1は、車体フレーム11と、操舵装置12と、後輪懸架装置13と、エンジンユニット4と、排気装置14と、その他所定の装置や部材とを含む。
車体フレーム11は、ヘッドパイプ111と、左右一対のメインチューブ112と、ボディフレーム113と、ダウンチューブ114とを含む。ヘッドパイプ111は、後傾する管状の部分を有する。左右一対のメインチューブ112は、ヘッドパイプ111の後部から、それぞれ、後方斜め右下と後方斜め左下に向かって伸びる部分を有する。ボディフレーム113は、左右一対のメインチューブ112の後方に設けられる部分である。ダウンチューブ114は、ヘッドパイプ111の後部から左右一対のメインチューブ112の下方に向かって伸びる部分と、この部分の下端から後方に伸びてボディフレーム113に結合する部分とを有する。ボディフレーム113の上部にはシートレール(図1においては隠れて見えない)が設けられる。そして、ボディフレーム113の上側には、着座シート51が、シートレールを介して取り付けられる。
操舵装置12は、ステアリングシャフト(図においては隠れて見えない)と、ハンドル121と、左右一対のフロントフォーク122と、前輪123とを含む。そして、操舵装置12は、車体フレーム11の前部に、車体フレーム11に対して回転可能に配置される。ステアリングシャフトは、ヘッドパイプ111に回転可能に支持される。ハンドル121は、ステアリングシャフトの上端に設けられる。左右一対のフロントフォーク122は、それぞれ、ステアリングシャフトの左右に配置される。前輪123は、左右一対のフロントフォーク122の下端に、回転自在に配置される。
また、ハンドル121は、左右のハンドルグリップ124を有する。右側のハンドルグリップ124には、スロットルグリップと、前輪のブレーキレバーとが設けられる。左側のハンドルグリップ124には、後述する本クラッチ2を操作するためのクラッチレバー125が設けられる。
エンジンユニット4は、車体フレーム11のメインチューブ112とダウンチューブ114とボディフレーム113とにより形成される空間に配置される。エンジンユニット4は、シリンダアセンブリ41と、クランクケースアセンブリ46とを含む。クランクケースアセンブリ46の内部には、エンジンのクランクシャフト461と、変速機469のカウンターシャフト467(本発明の変速主軸に相当する)およびドリブンシャフト468とが配設される。さらにクランクケースアセンブリ46には、本クラッチ2が組み付けられる。クランクケースアセンブリ46の左側後部には、ドリブンシャフト(図1においては隠れて見えない)の左端が突出しており、ドリブンシャフトの左端には、ドライブチェーンスプロケット470(図1においては隠れて見えない)が設けられる。
後輪懸架装置13は、スイングアーム131と、ショックアブソーバ(図においては隠れて見えない)と、後輪132とを含み、車体フレーム11のボディフレーム113の後部に設けられる。スイングアーム131の前端は、ボディフレーム113に対して上下方向に搖動可能に連結される。ショックアブソーバは、スイングアーム131とボディフレーム113との間に設けられ、スイングアーム131からボディフレーム113に伝達する振動や衝撃などを吸収や緩和する。後輪132は、スイングアーム131の後端に配置され、スイングアーム131により回転自在に支持される。後輪132の左側には、ドリブンチェーンスプロケット133が設けられる。後輪132とドリブンチェーンスプロケット133とは一体に回転する。そして、エンジンユニット4のドライブチェーンスプロケット470と、後輪のドリブンチェーンスプロケット133とは、チェーン52により回転動力を伝達可能に連結される。
排気装置14は、消音器141と排気管142とを含む。消音器141は、エンジンユニット4の右側後方であって、後輪132の側方に配置される。排気管の一方の端部は、エンジンユニット4のシリンダアセンブリ41のエグゾーストポート(後述)に接続される。他方の端部は、消音器141の前側に接続される。そして、排気管142は、エンジンユニット4のシリンダアセンブリ41の前側から前方に向かい、シリンダアセンブリ41の前方で後方に向かって湾曲し、シリンダアセンブリ41の側方を通過し、消音器141の前側に到達する。
エンジンユニット4の上方には、燃料タンク53が配置される。さらに、本自動二輪車1の外部には、フロントサイドカバー54やリアサイドカバー55が取り付けられる。
次に、エンジンユニット4の全体構成について説明する。図2は、エンジンユニット4の内部構造を示した断面模式図である。なお、図2は、説明のための模式図であり、現実の特定の切断面で切断した図ではない。
図2に示すように、エンジンユニット4は、シリンダアセンブリ41と、クランクケースアセンブリ46と、本クラッチ2とを含む。
シリンダアセンブリ41は、シリンダブロック411と、シリンダヘッド412と、シリンダヘッドカバー413とを含む。
シリンダブロック411の頂部には、燃焼室414が形成される。そして、シリンダブロック411の内部には、ピストン415が往復動可能に配置される。ピストン415と後述するクランクシャフト461とは、コネクションロッド416により連結される。そして、ピストン415の運動は、コネクションロッド416によってクランクシャフト461に伝達される。シリンダブロック411の上側には、シリンダヘッド412が配置される。シリンダヘッド412には、燃焼室414とシリンダブロック411の外部とを連通するインテークポート419およびエグゾーストポート420が形成される。さらに、シリンダヘッド412の内部には、インテークポート419の開閉を制御する吸気バルブ(図略)と、エグゾーストポート420の開閉を制御する排気バルブ(図略)とが配置される。吸気バルブは吸気側カム(図略)により駆動され、排気バルブは排気側カム(図略)により駆動される。シリンダヘッドカバー413は、シリンダヘッド412の蓋となる部材であり、シリンダヘッド412の上側に配設される。
なお、図2には水冷単気筒エンジンを示すが、本自動二輪車1に適用されるエンジンの種類は限定されるものではない。本自動二輪車1には、水冷式エンジンが適用される構成であってもよく、空冷式エンジンが適用される構成であってもよい。また、単気筒エンジンが適用される構成であってもよく、多気筒エンジンが適用される構成であってもよい。なお、水冷式エンジンが適用される場合には、本自動二輪車1は、冷却水を冷却するラジエータと、冷却水を循環させるポンプとを備える。
クランクケースアセンブリ46は、クランクケースの右半体と左半体とを含む。そして、クランクケースの右半体と左半体とが結合して、クランクケースアセンブリ46の筐体を構成する。クランクケースアセンブリ46の内部には、前側にクランク室462が形成され、後側にミッション室463が形成される。クランク室462の内部には、クランクシャフト461が回転可能に配置される。ミッション室463の内部には、カウンターシャフト467(本発明の変速主軸に相当する)とドリブンシャフト468とが回転可能に配置され、変速機469が構成される。
クランクケースアセンブリ46の右側面には、クラッチカバー305が取り付けられる。そして、クラッチカバー305の内側には、本クラッチ2が配置される。クランクケースアセンブリ46の左側面には、マグネトカバー465が取り付けられる。マグネトカバー465の内側には、発電機であるマグネト466が配置される。さらに、クランクケースアセンブリ46の左側には、エンジンを始動させる始動装置(図2においては省略)が配置される。
次いで、本クラッチ2の構成を説明する。図3は、本クラッチ2の内部構造を示した断面図であり、図2の部分拡大図である。なお、図3は、説明のための模式図であり、現実の特定の切断面で切断した図ではない。
本クラッチ2は、多板式クラッチである。そして、本クラッチ2は、本自動二輪車1のエンジンユニット4に設けられ、エンジンのクランクシャフト461と変速機469の回転軸(=変速主軸)としてのカウンターシャフト467との間で回転動力の伝達を断続することができる。さらに、本クラッチ2は、バックトルク低減機構3を備えており、変速機469のカウンターシャフト467からエンジンのクランクシャフト461へのバックトルクを低減することができる。なお、本クラッチ2、バックトルク低減機構3およびこれらを構成する各部材の「軸線方向」、「半径方向」、「円周方向」とは、それぞれ、カウンターシャフト467の軸線方向、半径方向、円周方向(=回転方向)を基準とする。また、カウンターシャフト467の軸線方向のうち、本クラッチ2が設けられる側(=一端側)を「A側」と称し、その反対側(=他端側)を「B側」と称するものとする。
図3に示すように、本クラッチ2は、変速機469のカウンターシャフト467のA側端部の近傍に設けられる。本クラッチ2は、プライマリドリブンギア21と、クラッチハウジング22と、ドライブプレート23と、クラッチスリーブハブ24と、ドリブンプレート25と、プッシュロッド26と、押圧部材27と、その他所定の部材とを含む。さらに、本クラッチ2は、バックトルク低減機構3を有する。
プライマリドリブンギア21は、本クラッチ2の外部(本発明の実施形態においてはクランクシャフト461)から回転が伝達される歯車である。プライマリドリブンギア21は、エンジンのクランクシャフト461に設けられるプライマリドライブギア418と噛み合っており、エンジンのクランクシャフト461の回転動力が伝達されて回転する。
クラッチハウジング22は、プライマリドリブンギア21と同軸に配置されており、ダンパ機構を介して、プライマリドリブンギア21と結合している。そして、クラッチハウジング22は、プライマリドリブンギア21の回転が伝達されることにより回転する。すなわち、クラッチハウジング22は、プライマリドリブンギア21を介して外部から回転動力が伝達される。クラッチハウジング22は、略カップ状の部材であり、内部が略空洞で軸線方向の一方が開口する構成を有する。そして、カップの底面に相当する側が、プライマリドリブンギア21の側に向けられて配設される。
クラッチハウジング22の内側(=内周側)には、クラッチプレートの一部としての複数のドライブプレート23が設けられる。ドライブプレート23は、略リング状の板状の部材である。そして、複数のドライブプレート23が、軸線方向に沿って所定の間隔をおいて配設される。ドライブプレート23は、クラッチハウジング22に取り付けられており、クラッチハウジング22と一体に回転可能で、かつクラッチハウジングに対して軸線方向の変位可能である。
プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とを結合するダンパ機構は、所定の数の圧縮コイルばねを有している。そして、圧縮コイルばねが、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22との間にまたがって架設される。圧縮コイルばねは、プライマリドリブンギア21およびクラッチハウジング22の円周方向に沿って弾性圧縮変形できる向きに配設される。このため、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、基本的には一体に回転するが、圧縮コイルばねが圧縮変形することにより、回転方向に相対的に変位可能である。また、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、ベアリング201を介してカウンターシャフト467に支持されている。このため、プライマリドリブンギア21とクラッチハウジング22とは、カウンターシャフト467に対して相対的に回転することができる。
クラッチスリーブハブ24は、クラッチハウジング22から伝達された回転動力を、カウンターシャフト467に伝達する。クラッチスリーブハブ24とカウンターシャフト467の間には、本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構3が設けられる。換言すると、クラッチスリーブハブ24とカウンターシャフト467とは、バックトルク低減機構によって連結される。バックトルク低減機構3の詳細については後述する。
クラッチスリーブハブ24は、略円筒状の部材である。そして、クラッチスリーブハブ24は、カウンターシャフト467のA側端部の近傍であって、クラッチハウジング22の内側に設けられる。クラッチスリーブハブ24は、インナー241を有する。インナー241は、クラッチスリーブハブ24のB側の端部に取り付けられる。また、インナー241は、第一のカム31の軸受部313(後述)に、ベアリング301を介して取り付けられる。
クラッチスリーブハブ24のインナー241は、軸受部とフランジ部とを有する。軸受部は、軸線方向の貫通孔が形成される略円筒状の部分である。フランジ部は、軸受部の一方の端部から外側に向かって延出するフランジ状の部分である。そして、軸受部の外周面には、軸線方向に沿ってスプラインが形成される。このスプラインは、後述する第二のカム32の軸孔324に形成されるスプラインと係合可能である。フランジ部には、軸線方向に貫通する貫通孔が形成される。この貫通孔は、ピン部材281を挿通可能な貫通孔である。そして、インナー241は、クラッチスリーブハブ24に、ネジなどによって固定される。このため、インナー241とクラッチスリーブハブ24とは、一体に回転する。
クラッチスリーブハブ24の外側には、クラッチプレートの他の一部としての複数のドリブンプレート25が、軸線方向に沿って所定の間隔をおいて設けられる。ドリブンプレート25は、略リング状で板状の部材である。ドリブンプレート25は、クラッチスリーブハブ24と一体に回転可能であり、かつクラッチスリーブハブ24に対して軸線方向に変位可能である。
そして、クラッチハウジング22に設けられる複数のドライブプレート23と、クラッチスリーブハブ24に設けられる複数のドリブンプレート25とが、交互に重なり合う態様で(換言すると、軸線方向に交互に入り組んだ態様で)配列される。
クラッチハウジングのA側端部には、クラッチハウジング22の開口部を塞ぐような態様で、プレッシャーディスク28が設けられる。プレッシャーディスク28は、略円板状の部材である。プレッシャーディスク28は、ドライブプレート23とドリブンプレート25とを軸線方向に付勢して接触させる部材である。プレッシャーディスク28とクラッチスリーブハブ24との間には、第一の付勢部材202が設けられる。第一の付勢部材202には、たとえばコイルバネが適用される。そして、この第一の付勢部材202が、プレッシャーディスク28に対して、ドライブプレート23とドリブンプレート25とを軸線方向に付勢して接触させるための付勢力を与える。このため、プレッシャーディスク28は、第一の付勢部材202の付勢力によって、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート23と、クラッチスリーブハブ24に設けられるドリブンプレート25とを、軸線方向に互いに圧力がかかった状態で接触させる。具体的には、プレッシャーディスク28は、クラッチスリーブハブ24に設けられるドリブンプレート25をB側に向かって付勢する。
プレッシャーディスク28には、ピン部材281(「リフトピン」とも称する)が設けられる。ピン部材281は、B側に向かって突出する棒状の部材である。そして、ピン部材281の先端部(=B側の端部)は、クラッチスリーブハブ24およびインナー241のフランジ部に形成される貫通孔を貫通してインナー241のフランジ部のB側に突出する。このため、ピン部材281のB側の端部は、第二のカム32のA側の端面に対向する。ピン部材281のA側寄りにはネジが形成されている。また、プレッシャーディスク28には、軸線方向に貫通するネジ孔が形成される。そして、ピン部材281のネジがプレッシャーディスク28のネジ孔に係合する。このため、ピン部材281を回転させることにより、ピン部材281のB側の端部の位置(ここでは軸線方向位置)を変更できる。換言すると、プレッシャーディスク28には、軸線方向のB側に突出し、B側の端部の位置を変更可能なピン部材281が設けられる。
カウンターシャフト467は中空軸であり、その内部には、プッシュロッド26が配設される。プッシュロッド26は、カウンターシャフト467の内部を、軸線方向に往復動できる。カウンターシャフト467およびプッシュロッド26のA側の端部近傍には、押圧部材27が設けられる。押圧部材27は、軸線方向のA側に移動してプレッシャーディスク28を押圧することができる。
プッシュロッド26のB側の端部近傍には、プッシュロッド26を軸線方向に移動させるための機構が設けられる(図略)。たとえば、プッシュロッド26のB側の端部近傍には、レリーズレバーとカムとが設けられるレリーズロッドが、回転可能に設けられる。そして、レリーズロッドが回転することにより、カムがレリーズロッドと一体に回転してプッシュロッド26のB側の端部をA側に向かって押圧することができる。押されたプッシュロッド26は、カウンターシャフト467の内部をA側に向かってに移動する。レリーズロッドには、レリーズレバーが設けられており、このレリーズレバーとクラッチレバー125(図1参照)とが、クラッチケーブによって連結される。そして、クラッチレバー125が操作されると、クラッチケーブルによってレリーズレバーが操作され、レリーズロッドが回転し、プッシュロッド26がA側に移動する。
このような構成を有する本クラッチ2の基本的な動作は、次のとおりである。クラッチレバー125が操作されていない状態では、プレッシャーディスク28が、第一の付勢部材202の付勢力によって、クラッチスリーブハブ24をB側に向かって付勢する(図中においては左側に向かって付勢する)。このため、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート23と、クラッチスリーブハブ24に設けられるドリブンプレート25とが、軸線方向に互いに圧力がかかった状態で接触する。したがって、プライマリドリブンギア21からクラッチハウジング22に伝達された回転動力は、ドライブプレート23と、ドリブンプレート25と、クラッチスリーブハブ24と、バックトルク低減機構3とを介して、カウンターシャフト467に伝達される。すなわち、いわゆる「クラッチがつながった」状態となる。
一方、クラッチレバー125が操作されると、レリーズロッドに設けられるカムがプッシュロッド26を押圧し、プッシュロッド26がA側に移動する(図2と図3においては、右側に移動する)。そして、押圧部材27がプッシュロッド26に押されてA側に向かってに移動し、プレッシャーディスク28を押圧する。押圧されたプレッシャーディスク28は、第一の付勢部材202の付勢力に抗してA側に移動する。そして、ドリブンプレート25への付勢力がなくなる。この結果、クラッチハウジング22に設けられるドライブプレート23と、クラッチスリーブハブ24に設けられるドリブンプレート25との接触の圧力がなくなる。そうすると、クラッチハウジング22のドライブプレート23と、クラッチスリーブハブ24に設けられるドリブンプレート25との間で、回転動力が伝達されなくなる。すなわち、いわゆる「クラッチが切れた」状態となる。
このように本クラッチ2は、プレッシャーディスク28がドライブプレート23とドリブンプレート25に付勢力を与える状態と与えない状態との間を交互に移行することによって、カウンターシャフト467へ伝達する回転動力を断続することができる。
なお、前記構成は本クラッチ2の一例であり、本クラッチ2の具体的な構成は前記構成に限定されるものではない。要は、プレッシャーディスク28がカウンターシャフト467の軸線方向に移動することによって、「クラッチがつながった」状態と「クラッチが切れた」状態とを切り替えることができる構成であればよい。
次いで、本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構3について説明する。図3に示すように、本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構3は、第一のカム(ドライブカム)31と第二のカム(ドリブンカム)32とを含むカム機構と、規制部材としてのガバナープレート33と、鋼球34と、第二の付勢部材36と、第三の付勢部材35(図3においては省略)とを備える。本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構3は、カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上である場合には、変速機469のカウンターシャフト467の側からエンジンのクランクシャフト461の側へのバックトルクを低減すること、またはなくすことができる。一方、変速機469のカウンターシャフト467の回転数が所定の値未満である場合には、バックトルクを低減しない。
図4は、カム機構に含まれる第一のカム31の構成を模式的に示した外観斜視図である。図4の上側がA側であり、下側がB側である。第一のカム31は、カウンターシャフト467にバックトルクが掛かった場合に、鋼球34を介して第二のカム32を押圧して変位させる部材である。第一のカム31は、略円筒状に形成される軸受部313と、軸受部313の軸線方向のA側端部近傍から半径方向外側に向かって突起する所定の数の突起部314とを有する。所定の数の突起部314は、円周方向に沿って所定の間隔で形成される。そして、突起部314の円周方向の一方の端部には、カム面311が形成される。カム面311は、軸線に直角な面および軸線に対して所定の角度をもって傾斜する傾斜面であり、A側を向く面である。このように、第一のカム31には、所定の数のカム面311が形成される。一方、突起部314の円周方向の他方の端部は、係合面312が形成される。係合面312は、軸線方向に略平行な略平面である。軸受部313には、変速機469のカウンターシャフト467を挿通可能な軸孔315が形成される。軸孔315は、軸線方向に貫通する貫通孔であり、その内周面には軸線方向に延伸するスプラインが形成される。そして、第一のカム31は、カウンターシャフト467に結合され、一体に回転する。
図5は、カム機構に含まれる第二のカム32の構成を模式的に示した外観斜視図である。図5の上側がB側であり、下側がA側である。第二のカム32は、鋼球34を介して第一のカム31に押圧されて変位させられた場合に、プレッシャーディスク28のピン部材281を軸線方向のA側に向かって押圧する部材である。具体的には、第二のカム32は、プレッシャーディスク28によるドライブプレート23とドリブンプレート25とを付勢して接触する力を解除する向きに押圧する部材である(詳細は後述)。第二のカム32は、略円環状の部材である。第二のカム32の軸線方向のB側の端面には、B側に向かって突起する所定の数の突起部323が、円周方向に沿って所定の間隔で形成される。そして、突起部323の円周方向の一方の端部には、カム面321が形成される。カム面321は、軸線方向に直角な面および軸線に対して所定の角度をもって傾斜する傾斜面であり、B側を向く面である。また、突起部323の円周方向の他方の端部には、係合面322が形成される。係合面322は、軸線方向に略平行な略平面である。このように、第二のカム32のB側の端面には、所定の数のカム面321が形成される。
第二のカム32には、軸線方向に貫通する軸孔324が形成される。この軸孔324の内周面には、軸線方向に延伸するスプラインが形成される。このスプラインは、クラッチスリーブハブ24のインナー241に形成されるスプラインに係合可能な構成を有する。
なお、第一のカム31および第二のカム32に形成されるカム面311,321の数(すなわち突起部314,323の数)や、突起部314,323の間隔や、カム面311,321の傾斜の角度は、特に限定されるものではない。要は、第一のカム31と第二のカム32とが同軸に配置された状態において、第一のカム31に形成される突起部314と、第二のカム32に形成される突起部323とが互いに入り組むことができる構成であればよい。そして、その状態で、第一のカム31のカム面311と第二のカム32のカム面とが対向し、第一のカム31の係合面312と第二のカム32の係合面322とが対向する構成であればよい。すなわち、第一のカム31と第二のカム32に形成されるカム面311,321どうしが対向するとともに、係合面312,322どうしが対向する構成であればよい。
規制部材としてのガバナープレート33は、第二のカム32の軸線方向の変位(特に、A側への変位)を規制することができる部材である。第三の付勢部材35は、ガバナープレート33を付勢する部材である。図6は、ガバナープレート33および第三の付勢部材35の構成を模式的に示した外観斜視図である。図6に示すように、ガバナープレート33は、短冊状の部材であり、長手方向の一方の端部には厚さ方向(=軸線方向)に貫通する係止孔331が形成される。なお、ガバナープレート33の形状や寸法は特に限定されるものではない。第三の付勢部材35は、ガバナープレート33とクラッチスリーブハブ24との間にまたがって配設される部材である。そして、ガバナープレート33の長手方向の他方の端部(=係止孔331が形成されない側の端部)を、半径方向の内側に向かって付勢する。
図3を参照して説明する。第二の付勢部材36は、第二のカム32をB側に付勢することにより、第一のカム31と第二のカム32とを互いに近接させる部材である。第二の付勢部材36には、たとえば皿バネが適用される。ただし、第二の付勢部材36は、皿バネ以外の付勢部材であってもよい。たとえば、コイルバネや板バネなどの各種バネや、ゴムなどの弾性体であってもよい。
本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構3の組み付け構成は、次のとおりである。図3を参照して説明する。
カウンターシャフト467のA側の端部近傍に、第一のカム31が取り付けられる。カウンターシャフト467と第一のカム31とは、スプラインにより係合している。このため、第一のカム31はカウンターシャフト467と一体に回転する。
第一のカム31の軸受部313の外側に、第二のカム32が配設される。第二のカム32が配置されると、第一のカム31に形成される突起部314と、第二のカム32に形成される突起部323とが互いに入り組む。そして、第一のカム31のカム面311と第二のカムのカム面321とが対向する。第一のカム31のカム面311と、第二のカム32のカム面321との間には、鋼球34が配置される。また、第一のカム31の係合面312と第二のカム32の係合面322とが対向する。
クラッチスリーブハブ24のB側の端面には、ガバナープレート33と第三の付勢部材35とが取り付けられる。図3に示すように、ガバナープレート33の一方の端部が、ピン302などによって、クラッチスリーブハブ24に対して搖動可能に取り付けられる。このため、ガバナープレート33は、長手方向の一方の端部に形成される係止孔331を中心として、軸線方向に直角な面内を搖動することができる。すなわち、ガバナープレート33は、それらの長手方向の他方の端部(=係止孔331が形成されない側の端部)が半径方向に往復動する態様で変位できる。
ガバナープレート33とクラッチスリーブハブ24との間に、第三の付勢部材35が設けられる。第三の付勢部材35は、ガバナープレート33を半径方向の内側に向かって付勢する。このため、ガバナープレート33に、第三の付勢部材35の付勢力以外の力が作用していない状態においては、ガバナープレート33の長手方向の他方の端部が、搖動可能な範囲の最も内側(=半径方向の内側)に位置する。なお、第三の付勢部材35の構成は、特に限定されるものではない。コイルバネ、板バネなどの公知の各種の付勢部材が適用できる。要は、ガバナープレート33の他方の端部を半径方向内側に向かって付勢できる構成であればよい。
ガバナープレート33と第三の付勢部材35とが取り付けられたクラッチスリーブハブ24は、カウンターシャフト467に取り付けられた第一のカム31に、ベアリング301を介して支持される。そして、カウンターシャフト467の端部にナット303が締結される。このため、第一のカム31とクラッチスリーブハブ24とは、軸線方向に相対的に変位できない。一方、第二のカム31が無いとすれば、カウンターシャフト467および第一のカム31とクラッチスリーブハブ24とは、円周方向に相対的に変位できる。さらに、クラッチスリーブハブ24がドライブギア31の軸受部313に取り付けられた状態においては、クラッチスリーブハブ24のインナー241に形成されるスプラインと、第二のカム32の軸孔324に形成されるスプラインとが係合する。このため、第二のカム32とクラッチスリーブハブ24とは一体に回転する。そして、第二のカム32はクラッチスリーブハブ24に対して軸線方向に往復動できる。第二のカム32は、第二の付勢部材36によって、第一のカム31のA側の端面に向かって付勢される。第二の付勢部材36には、たとえば皿バネが適用できる。
また、ガバナープレート33の長手方向の一方の端部(=係止孔331が形成される側の端部)は、軸線方向から見て、第二のカムの半径方向の外側に配置される(図7(b)、図9(b)参照)。
このような組み付け構造であると、図3に示すように、第一のカム31と第二のカム32とを含むカム機構は、クラッチスリーブハブ24を挟んで、プレッシャーディスク28の反対側に設けられる。すなわち、クラッチスリーブハブ24のA側にプレッシャーディスク28が設けられ、B側に第一のカム31と第二のカム32とを含むカム機構が設けられる。そして、第二のカム32は、第一のカム31とクラッチスリーブハブ24との間に配置される。
プレッシャーディスク28に設けられるピン部材281の先端部(=B側の端部)と第二のカムの軸線方向のA側の端面とが近接する。すなわち、図3に示すように、ピン部材281のB側の端部は、インナー241のフランジ部に形成される貫通孔242を通じてインナー241からB側に突出する。そして、この突出している部分が、第二のカム32のA側の端面に近接する。なお、ピン部材281のB側の端部と、第二のカム32のA側の端面との距離は、ピン部材281に設けられるネジとプレッシャーディスク28に設けられるネジ孔とにより調整できる。
なお、第一のカム31と第二のカム32に形成されるカム面311,312と係合面312,322と、カウンターシャフト467の回転の向きとの関係は、次のとおりである。カウンターシャフト467が正転(本自動二輪車1が前進する場合の回転の向きをいう)する場合に、第一のカム31のカム面311および係合面312が、第二のカム32のカム面321および係合面322に対して回転方向の前方に位置する。そして、カウンターシャフト467が正転している場合において、第一のカム31の側から第二のカム32の側にトルクが掛かった場合には、第一のカム31が第二のカム32に対して位相遅れの態様で相対的に変位する。このため、第一のカム31と第二のカム32とは、互いに対向する係合面312,322どうしが接近(換言すると接触)する向きに相対的に変位する。一方、第一のカム31の側から第二のカム32の側にトルクが掛かった場合には(すなわち、バックトルクが掛かった場合には)、第一のカム31が第二のカム32に対して位相進みの態様で相対的に変位しようとする。このため、第一のカム31と第二のカム32とは、互いに対向するカム面311,321どうしが接近する向きに相対的に変位する。
次に、本発明の実施形態にかかるバックトルク低減機構3の動作を説明する。
カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上である場合の動作は、次のとおりである。図7は、カウンターシャフト467およびクラッチスリーブハブ24の回転数が所定の値以上である場合の動作を示した図である。それぞれ、図7(a)は、クラッチスリーブハブ24をB側から見た斜視図であり、図7(b)は第一のカム31と第二のカム32とガバナープレート33とを軸線方向のB側から見た平面図である。カウンターシャフト467の回転数の「所定の値」とは、ガバナープレート33の長手方向の他端側が、遠心力(=慣性力)によって、第三の付勢部材35の付勢力に抗して、半径方向外側に移動する回転数である。換言すると、「所定の値」は、ガバナープレート33にかかる遠心力(換言すると、ガバナープレート33の慣性力)が、第三の付勢部材35の付勢力よりも大きくなる回転数である。すなわち、カウンターシャフト467とクラッチスリーブハブ24が回転すると、ガバナープレート33に遠心力が加わる。そして、ガバナープレートにかかる遠心力が、第三の付勢部材35による付勢力よりも大きくなると、ガバナープレート33の長手方向の他端側が、第三の付勢部材35の付勢力に抗して半径方向外側に変位する。
図7に示すように、カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上である場合には、ガバナープレート33の長手方向の他端側が、遠心力によって、第三の付勢部材35の付勢力に抗して、半径方向外側に移動する。そうすると、特に図7(b)に示すように、ガバナープレート33は、第二のカム32の半径方向外側に位置する。換言すると、ガバナープレート33は第二のカム32の軸線方向のA側端面に重畳しない。
図8は、カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上である場合に、本クラッチのバックトルク低減機構3にバックトルクが掛かった状態を示した図である。具体的には、図8(a)は、本クラッチ2の一部を示した断面図であり、図8(b)は、第一のカム31と第二のカム32の動作を模式的に示した断面図である。本クラッチ2のバックトルク低減機構3にバックトルクが掛かると、第一のカム31が第二のカム31およびクラッチスリーブハブ24に対して回転方向の前方に変位しようとする。このため、第一のカム31のカム面311と第二のカム32のカム面321が接近しようとする。したがって、第一のカム31のカム面311が、鋼球34を介して、第二のカム32のカム面321を押圧する。第二のカム32は、クラッチスリーブハブ24に対して円周方向には相対的に変位できないが、軸線方向には相対的に変位できる。そして、第一のカム31および第二のカム32のカム面311,321は、軸線および軸線に直角な面に対して所定の角度をもって傾斜する傾斜面である。このため、第一のカム31のカム面311が、鋼球34を介して、第二のカム32のカム面321を押圧すると、第二のカム32には、軸線方向のA側に向かって押圧される力が作用する。
カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上であると、ガバナープレート33は第二のカムのA側の端面に重畳しない状態となる。このため、ガバナープレート33は、第二のカム32のA側への移動を規制しない。したがって、第二のカム32をA側に向けて押圧する力が、第二の付勢部材36の付勢力よりも大きいと、第二のカム32は、ガバナープレート33に妨げられることなく、A側へ向かって移動する。このように、クラッチスリーブハブ24の回転数が所定の値以上であると、第二のカム32のA側への移動が許容される。
第二のカム32がA側へ移動すると、ピン部材281をA側に向かって押圧する。そうすると、プレッシャーディスク28には、A側へ向かって押圧される力がかかる。このため、クラッチハウジング22のドライブプレート23とクラッチスリーブハブ24のドリブンプレート25とを押圧して接触させる付勢力が小さくなるか、または付勢力が無くなる。すなわち、カム機構の第二のカム32は、ピン部材281の先端部を押圧することにより、プレッシャーディスク28を、ドライブプレート23とドリブンプレート25との付勢力を解除する向きに押圧する。この結果、本クラッチ2は、いわゆる「半クラッチ」の状態、または「クラッチが切れた」状態となる。このように、カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上であると、本クラッチ2のバックトルク低減機構3は、カウンターシャフト467からエンジン側に伝達されるバックトルクを低減するか、またはエンジン側にバックトルクを伝達しない。
このように、ガバナープレート33は、カウンターシャフト467とクラッチスリーブハブ24の回転数が所定の値以上である場合には、第三の付勢部材35の付勢力に抗して、長手方向の他方の端部が半径方向の外側に変位する。すなわち、ガバナープレート33は、カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上である場合には、第二のカム32の軸線方向の変位を許容する状態に維持される。
なお、本クラッチ2のバックトルク低減機構3によるバックトルクの低減の程度は、第二のカム32とピン部材281との間の距離(すなわち、ピン部材281の先端部の軸線方向位置)を変更することによって適宜設定できる。具体的には、第二のカム32とピン部材281との間の距離が小さくなると、第二のカムがピン部材281の押圧を開始するバックトルクが小さくなる。一方、第二のカム32とピン部材281との間の距離が大きくなると、第二のカムがピン部材281を開始するバックトルクが大きくなる。このように、同じ大きさのバックトルクがかかった場合であっても、第二のカム32とピン部材281との間の距離が異なると、第二のカムがピン部材281を押圧する力が変化する。したがって、第二のカム32とピン部材281との間の距離を調整することによって、バックトルクの低減の程度を設定できる。なお、前記のとおり、ピン部材281はネジによってクラッチスリーブハブ24に係合している。このため、第二のカム32とピン部材281との間の距離は、ピン部材281を回転させることによって容易に調整できる。
カウンターシャフト467の回転数が所定の値未満である場合の動作は、次のとおりである。図9は、カウンターシャフト467の回転数が所定の値未満である場合(回転していない場合も含む。以下同じ)の動作を示した図である。それぞれ、図9(a)は、クラッチスリーブハブ24をB側から見た斜視図であり、図9(b)は第一のカム31と第二のカム32とガバナープレート33とを軸線方向から見た平面図である。図9に示すように、カウンターシャフト467の回転数が所定の値未満である場合には、ガバナープレート33は、第三の付勢部材35によって、長手方向の他方の端部が半径方向の最も内側に移動している状態に維持される。この状態においては、特に図9(b)に示すように、ガバナープレート33が、第二のカム32のA側に重畳する。
図10は、カウンターシャフト467の回転数が所定の値未満である場合に、本クラッチ2のバックトルク低減機構3にバックトルクが掛かった状態を示した図である。それぞれ、図10(a)は、本クラッチ2の一部を示した断面図であり、図10(b)は、第一のカム31と第二のカム32の動作を模式的に示した断面図である。本クラッチ2にバックトルクが掛かった場合における第一のカム31および第二のカム32に作用する力は、カウンターシャフト467の回転数が所定の値以上である場合と同じである。しかしながら、カウンターシャフト467の回転数が所定の値未満であると、ガバナープレート33が第二のカム32の軸線方向の一方の端面に重畳している状態にある。このため、ガバナープレート33が、第二のカム32のA側への移動を規制する。したがって、第二のカム32は、A側に移動できないからピン部材281を押圧できない。このように、ガバナープレート33の長手方向の他方の端部が、半径方向の内側に位置すると、第二のカム32の変位を規制する状態となる。
このため、プレッシャーディスク28には、A側に押圧する力が作用しない。したがって、プレッシャーディスク28は、クラッチハウジング22のドライブプレート23とクラッチスリーブハブ24のドリブンプレート25とを、互いに付勢して接触する状態に維持する。このため、本クラッチ2は、いわゆる「クラッチが繋がった」状態を維持する。したがって、カウンターシャフト467にかかったバックトルクは、低減されることなく、クラッチスリーブハブ24に伝達される。
このように、ガバナープレート33は、カウンターシャフト467とクラッチスリーブハブ24の回転数が所定の値未満である場合には、第三の付勢部材35の付勢力によって、長手方向の他方の端部が半径方向の内側に位置した状態に維持される。すなわち、ガバナープレート33は、カウンターシャフト467の回転数が所定の値未満である場合には、第二のカム32の軸線方向の変位を規制する状態に維持される。
なお、クラッチスリーブハブ24からカウンターシャフト467に向かって動力が伝達されている状態においては、第二のカム32が第一のカム31に対して位相進みとなる態様で変位しようとする。すなわち、第一のカム31の係合面312と第二のカム32の係合面322とが接近して接触する。このため、クラッチスリーブハブ24の回転は、第二のカム32を介して第一のカム31に伝達される。このように、クラッチスリーブハブ24の側からの回転動力は、そのままカウンターシャフト467に伝達される。
このように、ガバナープレート33は、長手方向の他方の端部が半径方向の内側に位置すると、第二のカム32の軸線方向の変位を規制する状態となる。一方、長手方向の他方の端部が半径方向の外側に位置すると、第二のカム32の軸線方向の変位を許容する状態となる。このように、ガバナープレート33は、長手方向の他方の端部が半径方向に往復動することによって(換言すると、一方の端部を中心に搖動することによって)、第二のカム32の軸線方向の変位を許容する状態と、規制する状態とを交互に移行できる。
そして、第三の付勢部材35は、ガバナープレート33の他方の端部を半径方向内側に向かって付勢する。したがって、第三の付勢部材35は、ガバナープレート33を、第二のカム32の軸線方向の変位を規制する状態に付勢する。そして、ガバナープレート33は、回転によって発生する遠心力(=慣性力)によって、第三の付勢部材35の付勢力に抗して、長手方向の他端側が半径方向外側に変位する。すなわち、ガバナープレート33は、回転によって発生する遠心力によって、第二のカム32の軸線方向の変位を規制する状態から許容する状態に移行する。
本発明の実施形態にかかるクラッチのバックトルク低減機構3は、次のような作用効果を奏することができる。
変速機469のカウンターシャフト467の回転数が所定の値以上であると、本クラッチ2のバックトルク低減機構3は、バックトルクを低減する。このため、走行中においては、後輪132からエンジンのクランクシャフト461に伝達されるバックトルクが低減されるか、またはエンジンのクランクシャフト461にバックトルクが掛からないようにできる。例えば、走行中において、急激なシフトダウンなどが行われると、衝撃的にエンジンブレーキが作用し、大きなバックトルクが瞬間的に発生する。この場合に、本発明の実施形態にかかるクラッチ2のバックトルク低減機構3が、エンジンのクランクシャフト461に伝達されるバックトルクを低減するか、またはエンジンのクランクシャフト461にバックトルクが掛からないようにできる。このため、クランクシャフト461に過大なバックトルクが掛かることを防止できる。この結果、たとえば、エンジンブレーキが衝撃的にかかることを防止して、減速時における本自動二輪車1の挙動を安定させることができる。
一方、変速機469のカウンターシャフト467の回転数が所定の値未満であると、本クラッチ2のバックトルク低減機構3は、変速機469のカウンターシャフト467からエンジンのクランクシャフトへ461のバックトルクを低減しない。したがって、いわゆる「押しがけ」などによってエンジンを始動させることができる。
このように、本発明の実施形態にかかるクラッチ2のバックトルク低減機構3は、走行中には、バックトルクを低減して本自動二輪車1の挙動を安定させることができる。一方、「押しがけ」をする場合には、バックトルクをエンジンのクランクシャフト461に伝達してエンジンを始動させることができる。
特に、カウンターシャフト467の回転数の「所定の値」として、エンジンがアイドリング回転をしている場合の回転数が適用されると、「押しがけ」をする際には、バックトルクを低減しないからエンジンを始動させることができる。そして、エンジンが始動した後は(アイドリング回転している状態および走行している状態となれば)、バックトルクを低減することができる。
なお、カウンターシャフト467の回転数の「所定の値」具体的な値は、特に限定されるものではない。「押しがけ」をする際に必要なカウンターシャフト467の回転数と、アイドリング回転中または走行中のカウンターシャフト467の回転数に応じて適宜設定される。そして、「この所定の値」は、ガバナープレート33の質量と第三の付勢部材35の付勢力の一方または両方を設定することにより、適宜設定できる。
ガバナープレート33の長手方向の一方の端部が、第二のカム32の半径方向外側に配置される構成であると、第二の付勢部材36とガバナープレート33との干渉を防止することができる。このため、第二の付勢部材36の近傍のスペース(特に、第二の付勢部材36のA側のスペース)の有効利用を図ることができる。さらに、このような構成によれば、クラッチスリーブハブ24の回転中心とガバナープレート33との距離を大きくできる。換言すると、ガバナープレート33の回転半径を大きくできる。このため、ガバナープレート33に生じる遠心力を大きくできる。したがって、ガバナープレート33の動作を確実に行うことができる。
プレッシャーディスク28に設けられるピン部材281の先端部の位置が変更可能であると、第二のカム32の変位量とプレッシャーディスク28の変位量との関係を変更することができる。すなわち、バックトルクの大きさと、ドライブプレート23とドリブンプレート25とを付勢さて接触させる力(=付勢力)との関係を変更することができる。したがって、伝達されるバックトルクの大きさを容易に調整することができる。
また、本発明の実施形態においては、第一のカム31と第二のカム32のカム面311,321どうしの間に鋼球34が介在する構成を示したが、鋼球34が介在しない構成であってもよい。すなわち、第一のカム31と第二のカム32のカム面311,321どうしが直接的に接触してバックトルクを伝達する構成であってもよい。このような構成であっても、前記実施形態と同様の動作をすることができ、同様の作用効果を奏することができる。