シリコン半導体や化合物半導体の製造工程には、CVD、MOCVD、エッチング、クリーニング、アッシングなどの各工程で、フッ素や塩素等のハロゲン系ガスのプラズマを発生させてシリコンまたはガリウムヒ素またはサファイアなどのウエハー(基板)表面の処理を行う各種のプラズマ処理工程がある。プラズマは極めて反応性が高いため、それらプラズマ処理装置のチャンバーや処理用治具等の装置部材には、耐プラズマ性に優れた材料が求められ、厳選して使用される。加えて、シリコンおよび化合物半導体の製造工程では、不純物金属等による汚染およびパーティクル汚染を回避することも極めて重要である。このため、上記プラズマ処理装置においては、優れた耐プラズマ性に加えて、汚染防止性に優れていることも強く要求される。さらには、これら装置部材には、高機械的強度、高耐熱性、高衝撃性、高放熱性、高誘電性など使用部位によってはおのおのに特有の性能(特性)が要求される。当然のことながら、加えて低価格であることも重要な選択要素となっている。
上記のようにプラズマ処理装置の構成部材には耐プラズマ性に優れた材料が求められるが、従来の材料としては、石英ガラス表面に耐プラズマ性に優れたイットリア(酸化イットリウム:Y2O3)をイオン化して成膜したり、真空蒸着したりしている。あるいは、耐プラズマ性に優れたアルミナ(Al2O3)の焼結体を用いたりしているが、いずれも耐プラズマ性を始めとする諸要求特性を十分満たしているとは言えない。
ところで、フッ素系または塩素系の所謂ハロゲン系ガスのプラズマに対する耐性を付与するには、一般的には同じハロゲン系元素(フッ素、塩素、臭素、ヨウ素など)を含む化合物が化学的に安定で有利であると推定される。それに加えて上記のプラズマ耐性以外の要求特性を加味すると、フッ化カルシウム(CaF2)などがこの装置部材の新しい材料の候補と目される。
そのCaF2は、天然鉱物としては蛍石と称されており、理化学辞典によると融点1418℃、沸点2500℃、密度3.18g/cm3、モース硬度4の立方晶系に属する蛍石構造と称される無色の結晶である。このため、高純度の単結晶体は光透過性に極めて優れ、従来からプリズム、レンズ等の光学部材として用いられてきた。最近ではさらに高純度化、結晶構造の改良などにより真空紫外域における透過率が飛躍的に高められ、真空紫外光を光源とする光学部材として、具体的には波長193nmのArFエキシマレーザーを光源とする縮小投影露光機用レンズ等の高級な光学部品に使用されるようになってきている。
その一方で、CaF2は耐プラズマ性に優れた材料であることも知られている。例えば、特許第3017528号公報(下記特許文献1)には、プラズマに曝されるAlまたはステンレス鋼を含む材料から成る電極表面に、イオンプレーティング法と蒸着法の併用によってCaF2のコーティング膜を形成し、耐プラズマ性を向上させ、電極が汚染源と成らないようにすることで、優れたプラズマ処理装置が得られることが開示されている。しかしながら、例えば、プラズマ処理装置のチャンバー内張り材のように表面積の大きい部材、とくに凹凸の多い複雑な形状の部材や大型品等に、CaF2を均一にコーティングすることは困難である。仮に、コーティング出来た場合であっても、その膜は剥離し易いという課題を有するものであった。
そこで、CaF2自体を耐プラズマ性部材として利用するため、光学部材に用いられている高純度のCaF2単結晶体をそのまま耐プラズマ性部材に研削加工することが考えられる。しかしながら、この場合、つぎのような種々の課題を有する。まずは、高純度の単結晶体を製造するには、高度な技術を馳駆し、多大な処理工数を要する原料の高純度化と、数ヶ月に及ぶ高温炉内での単結晶成長をさせねばならず、その結果、膨大な製造費を要し、著しく高価な材料となる。さらに、この材料は、単結晶なるが故に脆性であり、わずかな機械的衝撃でもキズが発生し易く、比較的軽度の衝撃でも割れを生ずる場合がある。また熱的衝撃には極めて弱く割れを生じ易くなるなど、取扱いには高度な知識と熟練の技能を要する。その結果、加工にも高度な技術と多大な工数を要し、著しく高価な加工となる。そのため、本用途への実用化には適さないものであった。
光学部材に用いられている高純度のCaF2単結晶体をそのまま耐プラズマ性部材に用いるには、数々の問題点があることは上記した通りである。これを改良しようとしたのが、例えば特開2003−300777号公報(下記特許文献2)に開示され、光学部材用CaF2単結晶の切り出し屑など高純度のCaF2単結晶片を粉砕して得られた粉末を出発原料としてホットプレスによる加熱加圧法で緻密な焼結体とするものが示されている。
しかしながら、この製造方法では以下に示す種々の問題が生ずる。まず、元材料である光学部材用CaF2単結晶の切り出し屑の粉砕工程で不純物汚染の問題が生ずる。高純度の元材料を不純物汚染を生じさせずに粉砕して高純度のまま焼結用の出発材料とすることは不可能である。焼結用の出発材料とするにはかなり細かな粉状まで微粉砕することが必要であり、まずこの微粉砕の際の容器、粉砕用治具の構成材料が摩耗して出発材料に混入する汚染と、粉砕工程でのハンドリングに起因する環境起因の汚染が考えられる。
さらには、その微粉砕した微粉を焼結用の出発材料にするには、一般的には粒度調整工程が必要であり、空気分級とか篩いを用いて粗めの粒子と微細な粒子を除去し、緻密な焼結体に焼結し易い粒度分布に粒度を調整する必要がある。この工程でのハンドリングに起因する環境起因の汚染は避けられない。いずれのハンドリング工程も工程を経れば経るほど不純物汚染は進む。
また、特開2003−300777号公報(下記特許文献2)の明細書中で、この出来上がった焼結体は粉末X線回折法の解析結果から元材料の単結晶と同等のX線回折ピーク強度およびピーク広がりを持っていると説明されており、単結晶性が高いものである。単結晶体は脆性材料であり、もろく成りやすい。また、ホットプレスによる加熱加圧法ではモールドが必要であり、このモールドと焼結体との熱膨張係数の差異に起因して加熱加圧後の冷却過程で焼結体内部に歪みが発生しやすい。さらに、単結晶体は本来耐衝撃性に劣り、時として割れを生ずることがある。また、ホットプレスによる加熱加圧法はバッチ処理となるため、生産性に劣り、高コストとなりがちである。
また、特開2004−83362号公報(下記特許文献3)には、Mgを含有する低純度の出発原料に、フッ化水素酸を用いてMg以外の不純物を除去する処理を施し、この後、高純度CaF2を沈殿させ、これを熱処理し、造粒し、その後成形し、焼結させてMgF2を含有するCaF2の焼結体を製造する方法とその焼結体の発明が開示されている。
しかしながらこの発明では、まず出発原料が低純度であり、したがって通常、不純物の種類、濃度が一定しない。そのためその都度分析を行い、その出発原料に合わせてフッ化水素酸を用いた純化処理の条件をその都度変える必要がある。さらには、不純物の種類・その濃度など出発原料中の不純物の状況によっては沈殿処理法では純化が十分行えない場合も生じる。このため、純化処理後の中間生成物は、純度をはじめ物性が不安定となる。この製造方法では、純度を高められる可能性があるのはこの純化処理工程に限られ、結果的に、最終製品である焼結体の物性も不安定なものとなる。言い換えれば、良好な特性を有する焼結体を安定的に得ることは困難な方法と言わざるを得ない。
さらに、この製造方法では、焼結温度が常圧焼結工程、加圧焼結工程ともに高々800℃と低温であり、後述するようにCaF2−MgF2二元系状態図に示すように、固相間反応による固相焼結となる。しかもこの製造方法では、高々800℃とかなり低温であるため、固相間反応の速度が遅く、粒子同士の結合力が弱く、また粒成長も不十分となり、強度の弱い焼結体となるといった課題がある。
上記したように、従来のCaF2単一成分の単結晶体、あるいはCaF2を主成分とする焼結体を耐プラズマ性部材に用いるには種々の問題または解決すべき課題がある。
そこで、本発明者らは、既に、特願2009−142911号(平成21年6月16日出願:以下、先願Iと称す)で上記課題を解決すべくCaF2−MgF2二元系の耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法を発明し、出願している。
先願I記載の製造方法では、いずれも固溶体を生ずる高い温度域で加熱・焼結するため、粒成長速度が速く、且つ粒子間の結合強度が大きい焼結体となる。しかしながら、先願Iで開示した高い温度域での焼結は、以下に示すようなマイナス面が出て来る場合もあると考えられた。
第1に、原料がフッ化物のため高温度に加熱するほど気化(蒸発、とも言う)する割合が増加し、焼結体になる割合、すなわち歩留(=(焼結体質量)×100÷(原料質量))の低下を招く。また、この気化した物質はフッ素ガスであり、猛毒で強い腐食性をもつ刺激物であり、化学作用が極めて強く、すべての金属元素と直接反応するので、排ガスの十分な処理が必要になる。
第2に、焼結速度が速いため焼結体の部位による緻密化の進行のバラツキが生じ易く、外周に近いほど緻密化が進み、それが過度な場合は外周部の一部が溶けて崩れる虞がある。一方、内部は外周部の緻密化が速過ぎると、内部の気泡や空隙内のガスが外部へ拡散し難くなり、脱泡が進み難くなるため内部側に気泡が残り易くなることがある。気泡が多く残ると緻密化が十分ではなくなり、強度や耐プラズマ性が低下するなどの課題が発現し、耐プラズマ性部材として使用しづらいものとなるなどの課題が残った。
そこで、さらに本発明者らは、既に、特願2009−254436号(平成21年11月5日出願:以下、先願IIと称す)で上記課題を解決すべくCaF2−MgF2二元系の耐プラズマ性フッ化物焼結体とその製造方法を発明し、出願している。
この先願IIの特徴は、まず第1に焼結温度の低温化により焼結速度が抑制され、焼結体部位毎の焼結進行度の差を低減出来、その結果、その部位毎の脱泡速度の不均一を緩和し、焼結体全体を緻密化することが容易になるところにある。具体的な現象としては、焼結体の外周部はその内部と比べて加熱されやすく焼結速度が速くなり、焼結速度の遅い内部はその内側ほど脱泡が遅くなる。そのため、内側ほど気泡が残留しやすく、低密度となりやすいが、先願IIでは、その内部の低密度化を焼結温度の低温化により低減することが可能となり、焼結体の嵩密度が実用上取扱いに支障のない範囲である3.00g/cm3以上を確保出来るようになった。
第2に、この焼結体の物理的特性は、優れた耐プラズマ性、誘電特性、熱伝導性などを有し、また良好な機械的強度、耐衝撃性を有するものであり、耐プラズマ性部材のうち機械的強度、耐衝撃性を著しく必要としない部材として使用出来るものであることが分かった。しかしながら先願IIでは、致命的欠陥ではないものの、焼結体の機械的強度のうちで曲げ強度が十分には得られず、そのため耐衝撃性も十分ではなく、耐プラズマ性部材の中での用途を選定する必要があった。
このように、従来の耐プラズマ性部材にはいずれも種々の問題または解決すべき課題がある。
課題を解決するための手段及びその効果
本発明は上記課題に鑑みなされたものであって、シリコン半導体又は化合物半導体の製造工程におけるハロゲン系ガスのプラズマを発生させてウエハー表面の処理を行う各種のプラズマ処理工程に適する高い耐プラズマ性を有し、汚染防止性、耐熱性、放熱性、誘電性などに優れ、なお且つ成形体の大型化と共に高嵩密度化を図ることができると共に、機械的強度、耐衝撃性をより一層向上させることができ、しかも、高純度の単結晶体のような高価格品とはならないCaF2−MgF2二元系焼結体、及び耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法を提供することを目的としている。
上記目的を達成するために本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体(1)は、MgF2を1.5〜10wt.%含有するCaF2−MgF2焼結体からなり、該焼結体の嵩密度が3.00g/cm3以上であることを特徴としている。
また、本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体(2)は、上記CaF2−MgF2二元系焼結体(1)において、前記焼結体に対するプラズマ波によるエッチング速度が、シリコンウエハー、アルミナ焼結体、及び石英基板にイットリアを成膜したものに対するいずれのエッチング速度より小さいものであることを特徴としている。
本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体によれば、前記焼結体に対するプラズマ波によるエッチング速度が、シリコンウエハー、アルミナ焼結体、及び石英基板にイットリアを成膜したものに対するいずれのエッチング速度より小さく、優れた耐プラズマ性を有している。
また、本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体(3)は、上記CaF2−MgF2二元系焼結体(1)又は(2)において、曲げ強度が60MPa以上、ビッカース硬度が300程度、ヤング率が100GPa程度、剛性率が40GPa程度、及び/又はポアソン比が0.3程度の機械的強度を有するものであることを特徴としている。
なお、表2に示すように、後述する実施例1及び6のサンプル各10個、合計20個について曲げ強度を測定したところ、最小値70MPa、最大値120MPa、平均値90MPaであった。また、同実施例のサンプル各10個、合計20個についてビッカース硬度(kg/mm2)を測定したところ、最小値230、最大値410、平均値313であった。
また、同実施例のサンプル各10個、合計20個についてヤング率、剛性率、ポアソン比を測定したところ、各平均値がヤング率(GPa)は103、剛性率(GPa)は40、ポアソン比は0.29であり、優れた機械的強度を有している。
また“ガラス工学ハンドブック”(山根正之ほか、(1999年)株式会社朝倉書店発行、83頁)の表1.4と本文中に「実用ガラスの大部分のヤング率は50〜90、ポアソン比は0.16〜0.28の範囲にある。」と記載されており、さらに同書の493頁の表5.1には透明石英ガラスのヤング率は72(室温)、剛性率は31(同)、ポアソン比は0.17と記載されており、これらの数値を比較すると、本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体は、実用ガラス及び溶融石英ガラスと比べて弾性的であると言える。
また、本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体(4)は、上記CaF2−MgF2二元系焼結体(1)〜(3)のいずれかにおいて、熱膨張係数が2.3×10−5以下(温度域は20〜300℃)、熱伝導率が0.04W/(cm・K)以上、及び/又は比熱が0.8J/(g・K)以上の熱的特性を有するものであることを特徴としている。
本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体によれば、熱膨張係数が2.3×10−5以下(温度域は20〜300℃)、熱伝導率が0.04W/(cm・K)以上、及び/又は比熱が0.8J/(g・K)以上の優れた熱的特性を有しており、熱による膨張・収縮が少ない熱的に安定なものであり、放熱作用も大きいと言える。
また、本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体(5)は、上記CaF2−MgF2二元系焼結体(1)〜(4)のいずれかにおいて、誘電率が6.5〜8.5(at 1MHz、300K)、及び/又は誘電損失が6.5〜8.5×10−3(at 1MHz、20℃)の誘電特性を有するものであることを特徴としている。
本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体によれば、誘電率が6.5〜8.5(at 1MHz、300K)、及び/又は誘電損失が6.5〜8.5×10−3(at 1MHz、20℃)の優れた誘電特性を有しており、誘電率が小さく自己発熱が抑制され、耐プラズマ性材料として使用し易いものであると言える。
また、本発明に係る耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法(1)は、緻密な構造のCaF2−MgF2二元系焼結体からなる耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法であって、高純度CaF2粉末に高純度MgF2粉末を1.5〜10wt.%混合し、さらに焼結助剤を0.1〜1wt.%添加して混合する工程、冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧2MPa以上で成形する工程、その成形体を大気雰囲気中で600〜700℃程度で所定時間加熱して仮焼結を行う工程、大気中または不活性ガス雰囲気中で仮焼結体の発泡を抑制し得る第1の温度域で比較的長い所定時間加熱したあと同雰囲気中で固溶体が生成し始める第2の温度域で比較的短い所定時間加熱して緻密な構造のCaF2−MgF2二元系焼結体を形成する工程、を含むことを特徴としている。
また、本発明に係る耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法(2)は、上記耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法(1)において、前記CaF2−MgF2二元系焼結体を形成する工程における前記第1の温度域が800〜860℃の温度範囲に設定され、前記比較的長い所定時間が4〜16時間に設定されると共に、前記第2の温度域が900〜1100℃の温度範囲に設定され、前記比較的短い所定時間が0.5〜3時間に設定されていることを特徴としている。
また、本発明に係る耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法(3)は、上記耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法(1)又は(2)において、前記CaF2−MgF2二元系焼結体形成工程において、前記不活性ガスとして、窒素、ヘリウム、アルゴン、ネオンの各ガスの内の1種類または複数の種類を混合したものを使用することを特徴としている。
まず、本発明者らは、第1の課題である耐プラズマ性を有する物質(化合物)の選定に関する基本的な考察を行った。すなわち、シリコンおよび化合物半導体の製造工程で使用されるプラズマは、主としてフッ素(F)ガスまたは塩素(Cl)ガスをプラズマ化している。これらのプラズマに高い耐性を有する化合物としては、同じハロゲン系元素を含む化合物であるフッ化カルシウウム(CaF2)やフッ化マグネシウム(MgF2)などのフッ化物または塩化カルシウム(CaCl2)や塩化マグネシウム(MgCl2)などの塩化物を想定した。しかしながら、塩化物は加熱時に溶融塩(液相)を造り易く、固相と液相とが混在する固溶体の生成を利用する焼結反応には成りにくく、仮に焼結体が出来たとしても化学的に活性となり安定性を欠く恐れが高い。それに比してフッ化物の焼結体は比較的化学的に安定であるため、フッ化物の方が優位性が見込めるとして選定した。
また、耐プラズマ性以外の要求特性のうち、汚染防止性については、ハンドリング時の損傷やプラズマ波によるプラズマ衝撃、熱衝撃などによる粉塵発生を防止できることが肝要であり、機械的強度、耐熱性、耐衝撃性に優れたものであること、なかでも機械的強度に優れたものが要求されている。
焼結体の機械的強度は、粒子間の結合部のミクロ強度と、気泡の大きさ、形状、分布、数などの脱泡状態、換言すると、結合部および元の粒子の結合体(母体)の太さ、長さなどの形状(このことを一般的には焼結体の緻密さと言う)と、さらにはその母体の結晶構造(多結晶または単結晶または非晶質など)とに起因する脆性度によって決まってくる。耐熱性、耐衝撃性、放熱性および誘電性は、上記のように焼結体の緻密さとその母体の結晶構造などによって定まるものと考えられる。
本発明における基本的な技術的思想は、1)出発原料を二種類混合することによる焼結条件の緩和、すなわち、一種類単味(原料処理技術領域では、単独、と同意語)と比して低温焼結を可能とすること、2)この焼結を、固相間反応による粒成長、またはそれに加えて溶融反応による溶融焼結とを併用し、焼結体を強固な粒子間結合力を有するものとすること、3)このフッ化物系原料は高温で加熱すると、原料の一部が気化する(後述するように、気化し始める温度は約870℃であり、約1000℃からはかなり活発に気化する)。気化によりフッ素ガスが発生し、焼結体中に微細な気泡が生成する。このため比較的低温の加熱で焼結し、この微細気泡の発生(すなわち、発泡)を可能な限り避けて緻密な焼結体とすること、4)前記2)、3)の併用により、耐プラズマ性装置の部材として必要な耐プラズマ性以外の要求特性である機械的強度(形状維持出来る強度を有し、耐衝撃性が良好であること)、熱的特性(耐熱性、放熱性が良好であること)、誘電特性(誘電性が小さいこと)などに優れた特性を有する耐プラズマ性フッ化物焼結体を製造すること、である。
本発明に係るCaF2−MgF2二元系焼結体によれば、MgF2を1.5〜10wt.%含有するCaF2−MgF2焼結体からなり、該焼結体の嵩密度が3.00g/cm3以上の緻密な多結晶構造となっているので、焼結体の組織構造が内外の部位による差が小さく、かつ固溶体生成量を抑制することによる結晶成長を抑え脆性部分の発生を減少させ、焼結体の強度を高めることができ、上記した先願IIを上まわる機械的強度が得られ、これにより高耐プラズマ性、高機械的強度、高耐衝撃性など耐プラズマ性材料に要求される全ての特性に優れている。
また、本発明に係る耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法によれば、高純度CaF2粉末に高純度MgF2粉末を1.5〜10wt.%混合し、さらに焼結助剤を0.1〜1wt.%添加して混合した原料を、冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧2MPa以上で成形するので、配合した微粉状の原料を等方に加圧して原料の充填密度をより等方に高めることができる。
次に、その成形体を大気雰囲気中で600〜700℃程度で所定時間(4〜10時間)加熱してゆっくりと仮焼結を行い、引き続いて、大気中または不活性ガス雰囲気中で仮焼結体の発泡を抑制し得る第1の温度域(後述する発泡開始温度である870℃直下の温度域である800〜860℃)で、比較的長い所定時間(4〜16時間)ゆっくりと加熱して焼結をより均一に進行させたあと、同雰囲気中で固溶体が生成し始める第2の温度域(図1に示すCaF2−MgF2二元系状態図における固溶体を生じ始める温度である980℃の前後の温度域である900〜1100℃)で比較的短い所定時間(0.5〜3時間)加熱して焼結を促進させる。
なお、本発明者らは、仮焼結後の焼結条件を選定するにあたり、上記と同じ配合原料を用いた成形体を大気雰囲気中で600℃で6時間加熱処理した仮焼結体を粉砕したものを示差熱分析計の供試試料とし、加温しつつ試料の重量変化と吸発熱量の変化とを調査した。その結果、おおよそ750〜800℃くらいから極わずかに試料の重量減少が認められた。これは結合性の弱い、例えば仮焼結体の母材に付着したフッ素や母材中に溶解したフッ素がまず先に解離、分解することによる重量減少と考えられた。さらに加温して行くと、870℃あたりで重量減少曲線の変曲点となり、その後、重量減少が活発になる現象を発見した。この現象から、870℃以上の温度域で加熱すると、MgF2またはCaF2中の結合したフッ素の一部が分解し始め、フッ素ガスが発生して微細な気泡が生成する原因になる、と想定した。なお、本願では、上記変曲点の温度である約870℃を発泡開始温度と称することにした。
上記した焼結法によって生成した焼結体は強固な粒子間の結合力を有し、結合部の機械的強度(ミクロ強度)はかなり高いものとなり、課題であった曲げ強度、耐衝撃性は著しく向上し、耐プラズマ性部材として実用上問題なく使用出来るものとなった。また、本発明に係る製造方法によれば、焼結体は、CaF2−MgF2の配合比、加熱雰囲気、加熱温度パターンなどの選定により、緻密度の高いものとなり、且つ成形体の大型化と共に高嵩密度化を図ることができた。また、本発明に係る製造方法によれば、母体は焼結体であるため、その結晶構造は多結晶となり、単結晶と比較して脆性度は著しく向上する。
以下、本発明に係る耐プラズマ性フッ化物焼結体、より具体的には緻密な構造のCaF2−MgF2二元系焼結体、及びその製造方法の実施の形態を図面に基づいて説明する。
本発明に係る耐プラズマ性フッ化物焼結体の製造方法は、高純度(純度99wt.%以上)のCaF2粉末に高純度(純度99wt.%以上)のMgF2粉末を1.5〜10wt.%の割合(内掛け)で混合し、さらに焼結助剤としてたとえばカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液を前記混合物100に対し、0.1〜1wt.%添加(外掛け)、混練したものを出発原料とし、冷間等方加圧成形(CIP)機を用いて成形圧2MPa以上で成形し、その成形体を大気雰囲気中で600〜700℃程度の温度範囲に加熱して仮焼結を行い、その仮焼結体を大気中または不活性ガス雰囲気中で発泡開始温度(示差熱分析計での測定で定めた温度約870℃)の直下の第1の温度域、具体的には800〜860℃の温度範囲で4〜16時間加熱し、焼結をより均一に進行させたあと、固溶体が生成し始める第2の温度域(図1に示すCaF2−MgF2二元系状態図における固溶体が生成し始める温度である980℃近傍の温度域)、すなわち900〜1100℃の温度範囲で0.5〜3時間加熱し、その後冷却して緻密な構造のCaF2−MgF2二元系焼結体を製造する。
主原料のCaF2粉末への副原料であるMgF2粉末の混合の目的のひとつは、図1に示すように、CaF2単味では融点(図中では、1410℃と表記)が高く、且つ固溶体生成の温度領域が一部点線表記で不明瞭となっているのを、MgF2粉末を混合することによって、図1に示す状態図上の固溶体生成領域がより明瞭な範囲での焼結反応とすることにある。
Caとは元素の周期律表の族が同じで周期が隣接し、特性が似通っていると推測されるMgのフッ素化合物であるMgF2を適量混合することによって、融点の低温化と固溶体の生成温度条件をより明確化することができ(MgF2の配合により、図1中の固溶体生成開始の温度領域表示線の右端部の点線領域から、左方に位置する中間配合比域の実線領域に近づける)、その結果、焼結温度条件の適正化が容易になる。なお、この混合物としては、Mgのフッ素化合物MgF2のほかにLiがあり、そのフッ素化合物であるLiFを適量混合することによって、同様の効果が得られる。
焼結助剤の選定は、前記のCMCとステアリン酸カルシウムとの2種類を選定し、それぞれの添加割合を変えて、これら焼結助剤の効果について試験を実施した。対比のため、焼結助剤を使わない試験も合わせて行った。
主原料のCaF2と副原料のMgF2との混合は、その混合比を0〜12.5wt.%の範囲で配合比を種々変化させて行った。ボールミルで半日混練したあと、焼結助剤二種類をおのおの0〜2wt.%の配合比で添加し、ポットミルを用いて一昼夜混練して配合原料とした。使用したボールミルは、内径280mm、長さ400mm、ボールは、φ5:1800g、φ10:1700g、φ20:3000g、φ30:2800gのアルミナ製ボールを使用した。ポットミルはアルミナ製で内径200mm、長さ250mmのものを使用した。その配合原料を、外径265mm、内径140mm、高さ80mmの内容積のCIP機に充填し、室温で加圧条件を種々変化させて冷間等方加圧成形(CIP)を行った。また、後述する実施例の一部では大型化した外径370mm、内径250mm、高さ60mmの内容積のCIP機も使用した。
この成形体を大気雰囲気中で加熱温度500〜750℃、加熱時間3〜18時間の範囲で加熱条件を種々変化させて仮焼結を実施し、この仮焼結体の外観などを観察した後、事前の予備試験で良好な焼結条件と見込まれた窒素ガス雰囲気中で、室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持し、引き続き1000℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、その後100℃までの冷却に20時間を掛けた。取り出した焼結体の外観、内部の緻密化状況などを観察し、適正な原料配合、原料処理条件と仮焼結条件を調査した。
その結果、主原料CaF2への副原料MgF2の混合比は、1.5wt.%未満では焼結温度の低温化の影響のためか、焼結体の緻密化が不十分となりやすく、一方、10.1wt.%以上では焼結速度が速過ぎるためか、焼結体の外周部と比べて内部の方に大きい気泡が多く残り緻密化が不十分であった。焼結体の内部と外周部との緻密化の差が小さくなるのは、主原料CaF2への副原料MgF2の混合比が1.5〜10wt.%の場合であり、焼結体の内部と外周部との緻密化の差がさらに小さく優れた均質度となるための望ましい混合比は3〜8wt.%であった。これらのことから、MgF2の混合比の適正範囲は1.5〜10wt.%、望ましくは3〜8wt.%とした。
焼結助剤二種類の効果に大差は無かったが、助剤無しでは成形体の形状維持性能が劣ること、また、配合比が1.1wt.%を超えると仮焼結体あるいは焼結体にその助剤の残留物とみられる着色が認められることがあった。これらのことから、焼結助剤の配合比の適正範囲は0.1〜1wt.%とした。
CIP機の成形圧が2MPa未満ではハンドリング時に成形体が崩れて壊れ易く、成形圧を2MPaから徐々に増加すると成形体の嵩密度も徐々に増加し、仮焼結体や焼結体の嵩密度もわずかではあるが増加する傾向が認められた。そこで、成形圧を徐々に増やし150MPaまで行ったが、成形圧20MPa以上の場合の仮焼結体、焼結体の性能に顕著な差が認められなかった。これらのことから、成形圧の適正値は2MPa以上、望ましくは20MPa以上とした。
成形体の大気雰囲気中の仮焼結条件の調査は図2に示すように、加熱温度が600℃未満では成形体の寸法と比して収縮がわずかであり、701℃以上ではその収縮速度が早く、収縮の制御が困難になることから、仮焼結温度の適正範囲は600〜700℃とした。その加熱時間の適正値は図2に示すように、600℃では収縮速度の評価から8〜9時間が最適であり、4〜11時間が適正であった。650℃では6〜8時間が最適であり、4〜10時間が適正であった。一方、700℃では5〜6時間が最適であり、4〜10時間が適正であった。この結果から、仮焼結の好ましい加熱条件は、大気雰囲気中で600〜700℃で4〜10時間加熱とした。
上記した調査、試験などで焼結工程直前までの適正条件が明らかになった。次の焼結工程は、耐プラズマ性フッ化物焼結体を製造するうえで最後の工程であり、しかも焼結体の性能に最も影響を与える工程である。ここで、耐プラズマ性フッ化物焼結体として望ましいとみられる焼結工程およびその焼結機構について整理してみる。
まず、焼結工程の進行度を表現する用語である「一次凝集過程」、「二次凝集過程」について定義する。「一次凝集過程」とは、焼結の前半段階であり、その初期段階では粒子と粒子の間隔が徐々に狭まり、粒子同士の間の空隙も狭まってくる。さらには、粒子同士の接触部分が太くなり、その間の空隙は更に小さくなる。ただし、その空隙の大多数は開気孔で周りの雰囲気と通じている。この様な段階までを「一次凝集過程」と称する。
一方、一次凝集過程を終え更に焼結が進むと、開気孔が徐々に減り閉気孔化して行く。大まかには、この閉気孔化の段階と更にその後の脱泡、緻密化の段階を総称して「二次凝集過程」と称する。
本発明では、仮焼結工程までの原料混合、粒度調整、混練、成形、仮焼結などで、仮焼結体の粒子間の空隙は小さく、且つ、その空隙は集合せずにほぼ均一に分散しているとみられる(一次凝集過程の前半段階)。次の焼結工程の昇温過程で徐々に加熱温度が上昇し、仮焼結温度域(600〜700℃)あたりから粒子同士の集合がはじまり、それに引き続き、固溶体が生成し始める980℃よりもかなり低い温度域(一般的には、その温度から10%程度またはそれ以上低い温度域から始まると言われている)から固相間反応が始まり、それに伴い粒子同士の凝集が進行し、粒子間距離は短くなり空隙は小さくなる。ただし、想定している仮焼結程度の比較的低い温度(600〜700℃)で短時間の加熱では、大半の空隙は依然として開気孔状態のままである(一次凝集過程の後半段階)。ここで、注意すべきことは、後述するように約870℃以上の温度域で、原料の一部分が気化して発生する微細な気泡(発泡気泡)の挙動である。中でも、約1000℃以上の加熱をする場合には、この発泡気泡の発生は顕著になるため可能な限り短時間の加熱にすることが重要となる。
つぎに、原料粒子のミクロな挙動について付記する。副原料であるMgF2粒子は主原料のCaF2粒子の周囲に在って、CaF2粒子との界面反応を進めて行くと推定される。加熱温度が固溶体を生じ始める980℃を超えたあたりからは、MgF2粒子が存在する粒子界面付近から溶融し始め、CaF2−MgF2二元系化合物の固溶体が生成し始める。この固溶体が粒子間の空隙を埋めて行き、一部では毛細管現象により微細な空隙も埋まると思われる。一方、加熱温度が980℃未満であっても、前述のように約800℃以上に比較的長時間加熱保持すると、固相間反応が進み易く、時間経過とともに空隙は徐々に減少し、閉気孔化し、それと並行して閉気孔内のガス成分が焼結体のバルク(母体)内に拡散して脱泡が進み、気泡の少ない緻密な焼結体となる(二次凝集過程)。
ここでも、前述のように、約870℃以上の加熱による原料の気化によって発生する微細な気泡(発泡気泡)の存在に注意が必要である。なぜならば、発泡気泡はフッ素ガスが内包されていると想定され、このガスは比較的重い元素であり焼結体のバルク内には拡散しにくいと考えられるからである。この対策としては、気化する温度域での加熱を可能な限り避ける、または極短時間の加熱にとどめることが肝要である。
なお上記発泡気泡と、焼結工程で閉気孔化し脱泡出来ずに残った気泡(以下、残留気泡と称す)とでは、外観上の差異を有する。すなわち、通常の比較的短時間の加熱で発生した発泡気泡は、サイズがおおよそ直径数〜10数μm、形状がほぼ真球状であり、一方、残留気泡は、真球状ではなく不定形で、サイズも大中小まちまちであるため、形状の差異からこれらを見分けることが可能である。ただし、1100℃をはるかに超える高温の加熱や1100℃を超えて長時間加熱を行った場合には、発泡気泡同士、或は残留気泡と発泡気泡とが集合して大きな不定形の気泡が生成することがあり、この場合は気泡の由来の判別は困難となる。
上記二次凝集過程の進行に伴い粒子間の空隙は小さくなり、空隙の全部または大半は粒子または焼結体のブリッジ部分などに囲まれ、閉気孔(気泡)となるか、条件によっては空隙(開気孔)を通じて脱ガスし、あるいは粒子や焼結体のブリッジ部分などのバルク(母体)内に気泡内のガスが浸透して脱ガスし、気泡とはならない場合(脱泡現象、と称す)とに分かれる。この粒子間の空隙が閉気孔、すなわち気泡になるか、あるいは脱ガスして気泡が生じないかは、焼結体の緻密化の達成度、ひいては焼結体の特性を決める大きな要素となる。とくに不活性ガスの中でHe、Neなどの軽元素ガス雰囲気での焼結では、軽元素ほど細孔内とか焼結体のバルク内を拡散し易く毛細管現象と脱泡現象とが促進され、気泡が残り難く、緻密化が容易になるとみられる。この様に全体を緻密化させるためには、前記の一次凝集過程と二次凝集過程とを各々の過程ごとに全体でほぼ同時にほぼ均一に進めることが重要である。
本発明では、主として一次凝集過程の前半段階に当たる仮焼結工程と、主として一次凝集過程の後半と二次凝集過程に当たる焼結工程とを分けて行うこととし、二つの凝集過程が焼結体全体をほぼ均一に進みやすくしている。しかしながら、このように仮焼結、焼結と工程を分けたからと言って加熱条件が適正でなければ、例えば、仮焼結工程で適正域を超えた高温で加熱したり、焼結工程の昇温段階で急速に加熱をしたり、同工程の保持温度が適正域を超えた高温であったりすると、焼結体の外周部と内部とで緻密化の程度に著しく差を生じる。このような状態になると、焼結体内部の緻密化過程で脱ガスが困難となり、とくに内部の緻密化が不十分となる。そこで、サイズに即した焼結工程の加熱温度パターンの適正化が重要となる。
前述のとおり、焼結工程直前までの適正条件が明らかになっており、この焼結工程に供される仮焼結体はその全体が既に一次凝集の前半段階まで進んだ状態になっている。ここで重要なことは、仮焼結体の全体が既にほぼ均一に一次凝集の途中まで進んでいることである。
本発明者らは、仮焼結後のより適切な焼結条件を見出すため、種々の実験、調査検討を行った。主原料CaF2にMgF2を3wt.%混合し、焼結助剤としてCMCを0.2wt.%添加した配合原料を、前述の所定の適正な処理をし、600℃で6時間仮焼結処理をした仮焼結体を用い、いずれも加熱時間を一定の6時間にして焼結温度を600℃から1300℃まで50℃毎にそれぞれ変更した場合の各焼結体の嵩密度を調査した。その結果、おおよそ800℃から1100℃の範囲の場合は3.00g/cm3を超える高密度となるが、750℃以下の焼結温度の場合と1150℃以上の焼結温度の場合はいずれも嵩密度が3.00g/cm3を下回った。これらの焼結体の断面を観察すると、750℃以下で焼結したものは、わずかではあるが開気孔が認められ、焼結部分のブリッジ幅が細く焼結の進行が不足していた。1150℃以上で焼結したものは内部に気泡同士が集合したような大きな気泡が残り、また、焼結体全体に直径数〜10数μmのほぼ真球状の微細な気泡、すなわち発泡気泡が多数認められた。
一方で、本発明者らの調査によると、このCaF2−MgF2二元系の配合原料を示差熱分析計にかけ昇温して行く過程で、温度870℃くらいから重量が明確に減少し始め、1000℃くらいからは急激に減少することが分かった。これは、870℃くらいからMgF2またはCaF2が分解・気化しフッ素が発生する昇華現象が始まることを意味している。この昇華による焼結体への影響としては、前述したように発泡現象を生じ焼結体全体に微細な気泡が発生することが挙げられる。この発泡により発生した微細な気泡(発泡気泡)は、焼結工程の進行度や、焼結体のどの部位にあるのかにより、脱泡するか、気泡として残るかなどの挙動が決まる。具体的には、例えば一次凝集過程では、焼結体全体がまだ主として開気孔であるため、大半の発泡気泡が開気孔を通じて脱泡出来、気泡として残るものは少ないが、二次凝集過程では、主として閉気孔であるため多くの発泡気泡が脱泡出来ず、気泡として残ると考えられる。したがって、二次凝集過程での焼結を速やかに完了することが気泡を少なくすることにつながる。
このことから、一次凝集過程から二次凝集過程への移行は焼結体全体で可能な限り時間差を少なく推移することが望ましい。しかしながら、一次凝集過程から二次凝集過程への移行を焼結体全体で時間差を少なく行うことは容易ではない。
そこで本発明者らは、発泡開始温度(約870℃)直下の低めの温度域で加熱を比較的長い時間行って、一次凝集過程と二次凝集過程前半とを完了させ、その後、固溶体が生成し始める温度(980℃)域近傍で比較的短時間加熱して二次凝集過程後半を完了させることによって、焼結体全体で焼結進行度を合わせることが可能となり、しかも発泡気泡の生成も少ない優れた焼結方法であることを見出した。
次に、焼結条件の適正範囲について記すことにする。ここで、仮焼結としては大気中で600℃に6時間保持した。その仮焼結体のサイズは、おおよそ外径255〜265mm、内径135〜140mm、厚さ20〜21mmのリング形状である。
加熱雰囲気は窒素ガスとし、加熱パターンのうち、まず昇温、降温条件はおのおの所要時間を4、6、8時間の3ケースで予備試験を行った結果、4時間では焼結体に小さな亀裂が発生し、その他は良好であったので6時間に設定した。
引き続き、加熱雰囲気は窒素ガスとし、まず加熱温度を700〜1250℃の範囲で変化させ、保持時間を3、4、5、6、8、10、12、14、16、18時間の10ケースで実施した。結果は図3に示すように、800℃未満の場合、保持時間に依らず緻密化が不十分であり、また、保持時間4時間以下の場合、加熱温度に依らず緻密化が不十分であった。一方1150℃以上の場合、保持時間に依らず焼結速度が速過ぎるためか気泡が多く発生し、保持時間18時間以上では焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れるものが有った。
図3の結果を詳細に見てみると、800℃の加熱の場合、保持時間が10、12時間のときに焼結状態が良好であり、6、8時間ではやや焼結不足、14時間以上では良否判定不能であった。830℃の場合、10、12時間が良好であった。850℃の場合、8、10、12時間が良好であり、5時間ではやや焼結不足であり、14時間以上では良否判定不能であった。900℃の場合、5〜12時間が良好で、4時間ではやや焼結不足、14時間以上では良否判定不能であった。1000℃の場合、5〜12時間が良好で、4時間ではやや焼結不足、14時間以上では発泡が多く、1050℃の場合、5〜10時間が良好で、4時間ではやや焼結不足、12時間以上では発泡が多く、1100℃の場合、5〜8時間が良好で、4時間以下ではやや焼結不足、10時間以上では発泡が多く見られた。1150℃ではいずれも焼結不足か、良否判定不能か、溶け過ぎなどの不良な結果であった。ここで、800〜850℃の比較的低めの加熱温度の場合、保持時間5〜6時間ではやや焼結不足気味であったが、本願の方法では次の加熱焼結工程があるため、この工程での評価は良好と位置付けることにする。
つぎに、加熱温度と焼結体の嵩密度、歩留に相当する焼結体の質量減TGとの関係を調べるために、上記と同じ仮焼結体を使用して加熱温度を600〜1300℃の範囲で変更(保持時間は6時間一定とし)した。結果は図4に示すように、加熱温度が800℃で嵩密度はおおよそ3.00g/cm3となり、これ以上の嵩密度の焼結体は図3の結果と同様に後工程での取扱いで崩れる様なトラブルは無く緻密化は十分と判断した。一方、加熱温度が1150℃以上では質量減TGは−0.8%以上となり歩留低下が著しい状態となり、またこの温度以上になると焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れたりするトラブルが発生することがあった。
よって、図3、図4の結果から、焼結工程をひとつの加熱工程とした場合の加熱温度は800〜1100℃、保持時間5〜12時間が適正条件であると判断した。ただし、これらの検討中に明らかになったことは、例えば900℃で14時間以上、1000℃で14時間以上、1100℃で10時間以上の比較的長時間加熱をした場合、発泡気泡が多くなり、その一部が集合して大きな気泡に成長し、この様な焼結体は、次の工程である機械加工工程での加工時に大きな気泡部分から亀裂が発生したり、割れの原因になるなどの欠陥を内包するものとなった。
この様な状況から、本願では、焼結工程の基本的な方針として、発泡を極力抑制し、尚且つ焼結反応は十分に進行させ、その後の機械加工工程で良好な加工性を有する焼結体を製造するために、まず、焼結工程の最初の段階では発泡を極力生じさせず、ゆっくりと焼結を進行させ、焼結体内部とその外周部との焼結の進行度に極力差を生じさせないことを基本方針とした。そこで、焼結工程をひとつの加熱工程とした場合の加熱温度域としては上記のとおり800〜1100℃の範囲内とし、焼結工程の最初の段階の加熱温度は、発泡開始温度が約870℃のため、それを下回る860℃以下、すなわち800〜860℃とし、保持時間は5〜12時間を適正とした。
次の焼結体の焼結反応を高める段階の加熱は、上記の適正条件の内で、固溶体が生成し始める温度980℃前後の温度域、すなわち900〜1100℃、保持時間については、焼結反応を高めて、且つ発泡を抑えるため極力短時間にすることを目標としており、図3、図4の結果と後述する実施例、比較例の事例などを判断材料にして、0.5時間未満では焼結反応の高まりが乏しく、4時間以上では発泡が多くなり過ぎることから0.5〜3時間の保持が適正とした。
つぎに、雰囲気ガスをヘリウムに変えた結果は窒素ガスと同じであり、800℃未満では保持時間に依らず緻密化が不十分であり、また、保持時間4時間以下では加熱温度に依らず緻密化が不十分であった。1110℃以上の場合、窒素ガス中と同様に保持時間に依らず焼結速度が速過ぎて気泡が多く発生し、保持時間16時間以上では発泡して外観形状が崩れることがあった。
つぎに、加熱温度と焼結体の嵩密度、歩留に相当する焼結体の質量減TGとの関係を調べるために、上記と同じ仮焼結体を使用して加熱温度を600〜1300℃の範囲で変更(保持時間は6時間一定とし)した。結果は窒素ガスの場合と同じように、加熱温度800℃で嵩密度はおおよそ3.00g/cm3となり、これ以上の嵩密度の焼結体は窒素ガスの場合の結果と同様に後工程での取扱いで崩れる様なこともなく緻密化は十分と判断した。一方、加熱温度が1110℃以上では質量減TGは−0.8%以上となり歩留低下が著しい状態となり、また、焼結体外周の一部が発泡して外観形状が崩れたりするトラブルが発生したりした。
よって、雰囲気ガスをヘリウムに変えた場合であっても、加熱温度は800〜1100℃、保持時間5〜12時間が適正条件であると判断した。さらに、加熱温度が830〜1050℃、保持時間6〜10時間の場合、機械加工に供す場合に割れ等の欠陥が生じ難く、機械加工性も良好であったことから望ましい加熱温度、保持時間は830〜1050℃、6〜10時間であると判断した。よって、ヘリウムガス雰囲気中での本願発明の焼結工程の適正な加熱条件は、前述の窒素ガス雰囲気の場合と同じく、焼結工程の最初の加熱は800〜860℃、5〜12時間の保持時間、次の工程の加熱は900〜1100℃、0.5〜3時間の保持時間が適正条件である。
不活性ガスとしては窒素、ヘリウムに限らず、アルゴンでもネオンでも同様の効果が得られる。さらに、ネオンに関しては、本願特許では触れないが、ヘリウムと同様にこの焼結体の母材への溶解度とか拡散性が高いと見込まれるため脱泡現象をより促進し、ヘリウム同等ないしは更なる改善が期待される。
この焼結工程の加熱条件が適正範囲の場合、焼結体の出来上がり状態は常に全体が緻密であり、一般的なセラミックス焼結体などで局部的に見られる大きい空隙とか亀裂などの明らかな欠陥部位は、この焼結体には見られなかった。
以下、本発明を実施例に基づきさらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって制限されるものではない。まず、実施例の中で代表的な焼結体について行う特性評価試験の方法を説明する。
耐プラズマ性は、シリコン半導体製造装置である8インチサイズのエッチング装置を使用し、炉内のシリコン基板置き台上にサンプル(寸法:20mm×20mm×t3mm)を置き、CF4−Ar−O2混合ガスを流量85cc/分で流しながら10時間プラズマを発生させサンプル厚さの減量(μm/10hr)、すなわち“エッチング速度”を測定した。
上記の耐プラズマ性試験の比較材としては、シリコンウエハー(Si基板)、アルミナ焼結体、イットリア成膜材(石英ガラス基板表面にイットリアを成膜したもの)を用いた。エッチング速度(μm/10hr)の結果は、表1に示すように、シリコンウエハーは同93〜110、アルミナ焼結体は同42〜52、イットリア成膜材は同21〜30であり、同21未満であればこのいずれの比較材よりも優れた耐プラズマ性であると言える。また、この耐プラズマ性は、本発明の緻密な構造のCaF2−MgF2二元系焼結体では嵩密度が3.00g/cm3以上のものであれば得られることが分かった。
言い替えれば、このエッチング速度、すなわち耐プラズマ性を得るには、本発明の緻密な構造のCaF2−MgF2二元系焼結体では嵩密度が3.00g/cm3以上必要であることが分かった。
機械的強度としては、曲げ強度、ビッカース硬度およびヤング率の調査を行った。曲げ強度は、試料準備はJIS C2141に準拠して試料寸法4mm×46mm×t3mmで上下面光学研磨とし、3点曲げ試験JIS R1601に準拠して行った。ビッカース硬度は、島津製作所製の商品名“Micro Hardness Tester”を使用し荷重100g、荷重時間5秒で圧子を押しつけ、圧痕の対角長を測定し次の硬度換算を行った。
硬度 = 0.18909×P/d2
ここで、P:荷重(N)、d:圧痕対角線長さ(mm)
ヤング率(E)、剛性率(G)、ポアソン比(ν)は、非破壊検査製の商品名“超音波減衰音速測定装置”を使用し、測定試料、寸法W30mm×L30mm×t20mmを使い、発信機で発生させた振動波をプローブから試料に伝え試料裏面からの戻り波の時間差を測定する方法で行った。
熱的特性としては、線膨張係数、熱拡散係数、熱伝導率および比熱の調査を行った。線膨張係数の測定は、マックサイエンス社製“TD−5000S”を使用し、測定試料は、寸法W6.5mm×t3.4mm×L15.0mm(蒲鉾形)で行った。測定温度範囲は室温〜300℃とした。熱拡散係数、熱伝導率および比熱の測定は、アルバック理工社製“TC−7000H”を使用し行った。測定試料は、φ10mm×t3mm、上下両面光学研磨とした。
電気的特性としては、誘電率、誘電損失の調査を行った。測定装置は、日本ヒューレット・パッカード社製“RFインピーダンス/マテリアルアナライザHP4291”を使用し、測定試料は寸法φ28mm×t3mmで行った。
高純度のCaF2粉末(主原料:平均粒径2μm、純度99wt.%以上)に同MgF2粉末(平均粒径2μm、純度99wt.%以上)を1.5wt.%混合し、ボールミルで12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてカルボキシメチルセルロース(CMC)溶液を前記混合物100に対し、0.2wt.%の割合で添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、冷間等方加圧成形(CIP)機と外径265mm、内径140mm、高さ80mmのリング形状の金型を用いて等方加圧で成形圧20MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で650℃、6時間仮焼結を行い、外径263mm、内径134mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から850℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持したあと、1000℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持し、この後取り出し温度と設定した100℃までの間加熱を停止してそのまま約20時間自然冷却(炉冷)し、取り出した。焼結体の概略寸法は、外観の形状と重さから、外径255mm、内径130mm、厚さ19mm、嵩密度3.11g/cm3であり、焼結状態は、はがれ、ひび割れ等の外観上の異常もなく、手に持ったところ適度な重みがあり、内部に粗大な空隙や気泡は極めて少ないと推測される状態であり、良好であった。
ここで言う“嵩密度”は、焼結体の外観がリング形状であるため、計測したそのリングの内外径と厚さから嵩体積を計算で求め、別に計測した重さを前記嵩体積で除して求める方法を採った。以下、同様に行うこととした。
この焼結体から採取した試料を用いて耐プラズマ性などの特性評価試験を行った結果を表1に示す。以下、実施例、比較例ともに同様とした。なお、耐プラズマ性は、比較材であるシリコンウエハーは93〜110μm/10Hr、アルミナ焼結体は同42〜52、イットリア成膜材は同21〜30であり、比較材中最小のイットリア成膜材より小さいためには同21未満であることが必要であり、この実施例1の結果である同10.5は優れた耐プラズマ性である。
また、表2には、この焼結体及び後述する[実施例6]の焼結体から採取した試料を用いて各種の特性評価試験を行った結果を示す。この結果から、機械的強度、熱的特性、誘電特性はともに問題ない良好なものであった。
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を7.5wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてステアリン酸カルシウムを0.7wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、冷間等方圧力成形(CIP)機と外径370mm、内径250mm、高さ60mmのリング形状の金型を用いて成形圧10MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で630℃、8時間仮焼結を行い、外径361mm、内径240mm、厚さ18mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から810℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持したあと、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温し、同温度に2時間保持し、この後取り出し温度の100℃まで炉冷し、取り出した。焼結体の概略寸法は、外径356mm、内径230mm、厚さ19mm、嵩密度3.07g/cm3であり、焼結状態は良好であった。
耐プラズマ性などの特性評価結果は、表1に示すようにいずれも良好であった。
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を9.8wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を1wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、成形圧3MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で600℃、8時間仮焼結を行い、外径363mm、内径242mm、厚さ18.5mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から820℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持したあと、910℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2.5時間保持し、この後取り出し温度の100℃まで炉冷し、取り出した。焼結体の概略寸法は、外径355mm、内径234mm、厚さ17.5mm、嵩密度3.01g/cm3であり、焼結状態は良好であった。
耐プラズマ性などの特性評価結果は、表1に示すようにいずれも良好であった。
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を3wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を0.6wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧16MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で650℃、6時間仮焼結を行い、外径258mm、内径135mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から860℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持したあと、1090℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.5時間保持し、この後取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径249mm、130mm、厚さ19mm、嵩密度3.08g/cm3であり、焼結状態は良好であった。
耐プラズマ性などの特性評価結果は、表1に示すようにいずれも良好であった。
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を1.6wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてステアリン酸カルシウムを1.0wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧25MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で700℃、6時間仮焼結を行い、外径254mm、133mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から890℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持したあと、1090℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.75時間保持し、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径249mm、内径130mm、厚さ18.5mm、嵩密度3.10g/cm3であり、焼結状態は良好であった。
耐プラズマ性などの特性評価結果は、表1に示すようにいずれも良好であった。
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を3wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を0.5wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧60MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で660℃、8時間仮焼結を行い、外径252mm、内径132mm、厚さ20.5mmの仮焼結体とした。それをヘルウムガス雰囲気中で室温から830℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持したあと、1080℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.6時間保持し、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径248mm、130mm、厚さ19mm、嵩密度3.12g/cm3であり、焼結状態は良好であった。
耐プラズマ性および各種特性評価結果は、表1及び表2に示すようにいずれも良好であった。
上記実施例1と同じ条件で成形体を作製し、その成形体を大気雰囲気中で640℃、6時間仮焼結を行い、外径253mm、内径133mm、厚さ21.5mmの仮焼結体とした。それをヘリウムガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持したあと、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外観の形状と重さから、外径251mm、130mm、厚さ20mm、嵩密度は3.02g/cm3でありやや軽めであるが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。
耐プラズマ性などの特性評価結果は、表1に示すようにいずれも良好であった。
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を7.5wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてステアリン酸カルシウムを0.7wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧20MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で610℃、7時間仮焼結を行い、外径256mm、134mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それをヘリウムガス雰囲気中で室温から820℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持したあと、970℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径249mm、内径130mm、厚さ19mm、嵩密度は3.07g/cm3であり幾分軽めであるが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。
耐プラズマ性などの特性評価結果は、表1に示すようにいずれも良好であった。
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を9.8wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を1wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧20MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で600℃、5時間仮焼結を行い、外径259mm、内径133mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それをヘリウムガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に8時間保持したあと、920℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に1時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径253mm、内径131mm、厚さ19mm、嵩密度は3.04g/cm3であり幾分軽めであるが、外観上焼結状態に異常は見られなかった。
耐プラズマ性などの特性評価結果は、表1に示すようにいずれも良好であった。
比較例1
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を12wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を0.2wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧5MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で700℃、8時間仮焼結を行い、外径251mm、内径131mm、厚さ19.5mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から860℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に6時間保持したあと、1100℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に2時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径248mm、内径129mm、厚さはおおよそ19.5mmであったが、嵩密度は2.97g/cm3と軽いものであった。焼結体の内部を観察すると、直径0.1mm以上の大きい気泡が無数に存在していた。この大きい気泡は、融点の低いMgF2粉末を12wt.%と多く混合したため焼結工程で発泡し易くなり、微細な発泡した気泡(発泡気泡)同士、あるいは同発泡気泡と残留気泡とが集合したものと考えられる。
耐プラズマ性、各種特性評価のうち例えば機械的強度の曲げ強度などに不十分なレベルのものが散見された。
比較例2
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を5wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を0.2wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧9MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で700℃、10時間仮焼結を行い、外径252mm、内径131mm、厚さ19mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に10時間保持したあと、1160℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3.5時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径246〜249mm、内径125〜129mm、厚さはおおよそ18mm、外周部の一部にはがれたところがあった。このはがれは、発泡した気泡とか残留気泡などが外周部に集合し、外周部の一部が気泡の内圧でひび割れを生じたものと思われる。なお、嵩密度は形状が前述のとおり崩れたところがあり、計測出来ない状態であった。
比較例3
上記の実施例1と同じ主原料粉末に、MgF2粉末を5wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を0.2wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧8MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で600℃、4時間仮焼結を行い、外径257mm、内径135mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に5時間保持したあと880℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.5時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径251mm、内径131mm、厚さはおおよそ19mmであった。嵩密度は2.96g/cm3であり軽めである。
耐プラズマ性、各種特性評価のうち例えば機械的強度の曲げ強度などに不十分なレベルのものが見られた。
比較例4
上記の実施例1と同じ原料粉末を用い、MgF2粉末を5wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を0.2wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧7MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で600℃、3時間仮焼結を行い、外径259mm、内径136mm、厚さ20mmの仮焼結体としたが、周辺部の一部、とくに外周のエッジ部分が崩れやすく、外観から仮焼結による収縮が不十分であると判断出来る状態であった。それを窒素ガス雰囲気中で室温から780℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持したあと、930℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.5時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径256mm、内径134mm、厚さ19.5mmで、一部外周エッジ部に欠けがあるため嵩密度は概算値となるが、約2.90g/cm3であった。なお、この焼結体をインク液を少量入れ着色した純水に約1時間浸し、引き上げてからその破断面を観察したところ外周部が全体的にこのインク液の色に着色していた。これは、焼結不足で開気孔が多く残っていたものと考えられる。
耐プラズマ性、各種特性評価のうち例えば機械的強度の曲げ強度などに不十分なレベルのものが認められた。
比較例5
上記の比較例1と同じ成形体を使用し、大気雰囲気中で600℃、4時間仮焼結を行い、外径258mm、内径135mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それをヘリウムガス雰囲気中で室温から800℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持したあと、890℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.3時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の寸法は、外径255mm、内径134mm、厚さ19.5mm、嵩密度は2.89g/cm3とかなり軽いものであった。焼結体内部を観察すると、大きさが中程度の気泡と小さい気泡が無数にあり、また母体の結合部が細めであったこと、また比較例4と同様に破断面の外周部全体にインク液の着色が見られたことから、焼結不足、恐らくは焼結過程の二次凝集が十分には進んでいなかったと推測される。
耐プラズマ性、各種特性評価のうち例えば機械的強度の曲げ強度などに不十分なレベルのものが認められた。
比較例6
上記の実施例1と同じ主原料にMgF2粉末を1.3wt.%混合し、ボールミルで同じく12時間混練した。そのあと、さらに焼結助剤としてCMC溶液を0.2wt.%添加し、ポットミルで12時間混合したものを出発原料とし、実施例1と同じように成形圧20MPaでCIP成形し、成形体とした。その成形体を大気雰囲気中で700℃、10時間仮焼結を行い、外径254mm、内径131mm、厚さ19.5mmの仮焼結体とした。それを窒素ガス雰囲気中で室温から850℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に9時間保持したあと、1120℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に3時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。焼結体の概略寸法は、外径251mm、内径129mm、厚さはおおよそ19mmであったが、嵩密度は2.97g/cm3とやや軽いものであった。焼結体の内部を観察すると、直径10μm程度の微細なほぼ真球状の気泡が無数に存在していた。この微細な気泡は、焼結温度の二段階目が発泡開始温度よりもはるかに高い1120℃であったため発泡し易くなり、微細な発泡気泡が多数発生したものと考えられる。
耐プラズマ性、各種特性評価のうち例えば機械的強度の曲げ強度などに不十分なレベルのものが散見された。
比較例7
上記の比較例6と同じ成形体を使用し、大気雰囲気中で600℃、4時間仮焼結を行い、外径256mm、内径135mm、厚さ20mmの仮焼結体とした。それをヘリウムガス雰囲気中で室温から600℃まで6時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に4時間保持したあと、940℃まで2時間掛けて一定速度で昇温させ、同温度に0.5時間保持したあと、取り出し温度の100℃まで炉冷し取り出した。 焼結体の概略寸法は、外径252mm、内径132mm、厚さ19mmであり、嵩密度は2.93g/cm3とかなり軽いものであった。焼結体内部を観察すると、真球状の微細な気泡は認めらなかったが、母体の結合部が細めであったこと、また比較例4と同様に破断面の外周部全体にインク液の着色が見られたことから、焼結不足、恐らくは焼結過程の二次凝集が十分には進んでいなかったと推測される。
耐プラズマ性、各種特性評価のうち例えば機械的強度の曲げ強度などに不十分なレベルのものが認められた。