以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、本発明に係る車両の制御装置を、変速機としてベルト式無段変速機(CVT)を搭載した車両に適用した場合について説明する。
図1は、本実施形態における車両のパワートレインの概略構成を示す図である。
本実施形態に係る車両は、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)型車両であって、走行用動力源であるエンジン(内燃機関:駆動源)1、流体式動力伝達装置としてのトルクコンバータ2、前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4、減速歯車装置5、差動歯車装置6、及び、ECU(Electronic Control Unit)8(図3参照)などが搭載されており、そのECU8及び後述するロックアップ制御回路200(油圧制御回路20の一部)等によってロックアップクラッチ24の制御装置が構成されている。
エンジン1の出力軸であるクランクシャフト11はトルクコンバータ2に連結されており、エンジン1の出力が、トルクコンバータ2から前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4及び減速歯車装置5を介して差動歯車装置6に伝達され、左右の駆動輪7L,7Rへ分配されるようになっている。
これらエンジン1、トルクコンバータ2、前後進切換装置3、ベルト式無段変速機4、及び、ECU8の各部について以下に説明する。
−エンジン−
エンジン1は、例えば多気筒ガソリンエンジンである。このエンジン1に吸入される吸入空気量は電子制御式のスロットルバルブ12により調整される。このスロットルバルブ12は、運転者のアクセルペダル操作とは独立してスロットル開度を電子的に制御することが可能であり、その開度(スロットル開度)はスロットル開度センサ102によって検出される。また、エンジン1の冷却水温は水温センサ103によって検出される。
スロットルバルブ12のスロットル開度はECU8(図3参照)によって駆動制御される。具体的には、エンジン回転数センサ101によって検出されるエンジン回転数Ne、及び、運転者のアクセルペダル踏み込み量(アクセル操作量Acc)等のエンジン1の運転状態に応じた最適な吸入空気量(目標吸気量)が得られるようにスロットルバルブ12のスロットル開度を制御している。より具体的には、スロットル開度センサ102を用いてスロットルバルブ12の実際のスロットル開度を検出し、その実スロットル開度が、上記目標吸気量が得られるスロットル開度(目標スロットル開度)に一致するようにスロットルバルブ12のスロットルモータ13をフィードバック制御している。
−トルクコンバータ−
トルクコンバータ2は、入力側のポンプインペラ21、出力側のタービンランナ22、及び、トルク増幅機能を発現するステータ23などを備えており、ポンプインペラ21とタービンランナ22との間で流体を介して動力伝達を行う。ポンプインペラ21はエンジン1のクランクシャフト11に連結されている。タービンランナ22はタービンシャフト28を介して前後進切換装置3に連結されている。
トルクコンバータ2には、このトルクコンバータ2の入力側と出力側とを直結するロックアップクラッチ(ロックアップクラッチ機構)24が設けられている。このロックアップクラッチ24は、係合側油室25内の油圧と解放側油室26内の油圧との差圧(ロックアップ差圧=係合側油室25内の油圧Pon−解放側油室26内の油圧Poff)を制御することにより、完全係合・半係合(スリップ状態での係合)または解放される。
ロックアップクラッチ24を完全係合させることにより、ポンプインペラ21とタービンランナ22とが一体回転する。また、ロックアップクラッチ24を所定のスリップ状態(半係合状態)で係合させることにより、エンジン駆動力の伝達時には所定のスリップ量でタービンランナ22がポンプインペラ21に追随して回転する。一方、ロックアップ差圧を負または同一に設定することによりロックアップクラッチ24は解放状態となる。尚、トルクコンバータ2にはポンプインペラ21に連結して駆動される機械式のオイルポンプ(油圧発生源)27が設けられている。
−前後進切換装置−
前後進切換装置3は、ダブルピニオン型の遊星歯車機構30、前進用クラッチ(入力クラッチ)C1及び後進用ブレーキB1を備えている。
遊星歯車機構30のサンギヤ31はトルクコンバータ2のタービンシャフト28に一体的に連結されており、キャリア33はベルト式無段変速機4の入力軸40に一体的に連結されている。また、これらキャリア33とサンギヤ31とは前進用クラッチC1を介して選択的に連結され、リングギヤ32は後進用ブレーキB1を介してハウジングに選択的に固定されるようになっている。
前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1は、油圧制御回路20によって係合・解放される油圧式摩擦係合要素であって、前進用クラッチC1が係合され、後進用ブレーキB1が解放されることにより、前後進切換装置3が一体回転状態となって前進用動力伝達経路が成立(達成)し、この状態で、前進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側へ伝達される。
一方、後進用ブレーキB1が係合され、前進用クラッチC1が解放されると、前後進切換装置3によって後進用動力伝達経路が成立(達成)する。この状態で、入力軸40はタービンシャフト28に対して逆方向へ回転し、この後進方向の駆動力がベルト式無段変速機4側へ伝達される。また、前進用クラッチC1及び後進用ブレーキB1がともに解放されると、前後進切換装置3は動力伝達を遮断するニュートラル(遮断状態)になる。
−ベルト式無段変速機−
ベルト式無段変速機4は、入力側のプライマリプーリ41、出力側のセカンダリプーリ42、及び、これらプライマリプーリ41とセカンダリプーリ42とに巻き掛けられた金属製のベルト43などを備えている。
プライマリプーリ41は、有効径が可変な可変プーリであって、入力軸40に固定された固定シーブ411と、入力軸40に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ412とによって構成されている。セカンダリプーリ42も同様に有効径が可変な可変プーリであって、出力軸44に固定された固定シーブ421と、出力軸44に軸方向のみの摺動が可能な状態で配設された可動シーブ422とによって構成されている。
プライマリプーリ41の可動シーブ412側には、固定シーブ411と可動シーブ412との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ413が配置されている。また、セカンダリプーリ42の可動シーブ422側にも同様に、固定シーブ421と可動シーブ422との間のV溝幅を変更するための油圧アクチュエータ423が配置されている。
以上の構造のベルト式無段変速機4において、プライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413の油圧を制御することにより、プライマリプーリ41及びセカンダリプーリ42の各V溝幅が変化してベルト43の掛かり径(有効径)が変更され、変速比γ(変速比γ=入力軸回転数Nin/出力軸回転数Nout)が連続的に変化する。また、セカンダリプーリ42の油圧アクチュエータ423の油圧は、ベルト滑りが生じない所定の挟圧力でベルト43が挟圧されるように制御される。これらの制御はECU8及び油圧制御回路20(図3参照)によって実行される。
上記油圧制御回路20は、リニアソレノイドバルブ及びオンオフソレノイドバルブなどが設けられており、これらソレノイドバルブの励磁・非励磁を制御して油圧回路を切り換えることによって、ベルト式無段変速機4の変速制御やロックアップクラッチ24の係合・解放制御などを行う。油圧制御回路20のリニアソレノイドバルブ及びオンオフソレノイドバルブの励磁・非励磁は、ECU8からのソレノイド制御信号(指示油圧信号)によって制御される。上記ロックアップクラッチ24の係合・解放制御などを行うためのロックアップ制御回路200の具体構成及びその動作について以下に説明する。
−ロックアップ制御回路−
図2は、上記油圧制御回路20のうちロックアップクラッチ24の係合・解放制御を行う上記ロックアップ制御回路200を示す回路図である。
このロックアップ制御回路200は、ロックアップコントロールバルブ201、調圧弁220、ロックアップ差圧制御用のリニアソレノイドバルブ(SLUソレノイドバルブ)230などを備えている。
上記ロックアップコントロールバルブ201には、一対の第1ライン圧ポート202及び第2ライン圧ポート203が設けられており、さらに解放側ポート205、及び、信号圧ポート206が設けられている。第1ライン圧ポート202及び第2ライン圧ポート203には、調圧弁220からの元圧(ロックアップ圧)が供給される。調圧弁220は、油圧制御回路20(図3参照)内の制御圧(ライン圧)を調圧してロックアップコントロールバルブ201及びトルクコンバータ2の係合側油室25に供給するものである。また、ロックアップコントロールバルブ201の解放側ポート205は、トルクコンバータ2の解放側油室26に接続されている。
SLUソレノイドバルブ230は、リニアソレノイドバルブであって、励磁状態のときに制御信号圧PSLUを出力し、非励磁状態のときに制御信号圧PSLUの出力を停止する。このSLUソレノイドバルブ230は、ECU8から出力されるロックアップ差圧指示値PDに従って励磁電流がデューティ制御され、制御信号圧PSLUが連続的に変化する。このSLUソレノイドバルブ230から出力される制御信号圧PSLUはロックアップコントロールバルブ201の信号圧ポート206に供給される。
以上のロックアップ制御回路200において、ECU8から出力されるロックアップ差圧指示値PDに従ってSLUソレノイドバルブ230が励磁状態となり、その制御信号圧PSLUがロックアップコントロールバルブ201の信号圧ポート206に供給されると、このロックアップコントロールバルブ201では、図2の中心線より右側半分に示すように、スプール207が圧縮コイルばね208の付勢力に抗して上方へ移動した状態(ON状態)となる。この状態では、トルクコンバータ2の係合側油室25にロックアップ圧が供給された状態のまま、解放側ポート205がドレーンポート209に連通することにより、解放側油室26内の作動油がドレーンされ、ロックアップクラッチ24が係合(ON)する。
この際、ECU8から出力されるロックアップ差圧指示値PDのDuty比に応じて、ロックアップ差圧PLU、つまりロックアップクラッチ24の係合側油室25内の油圧Ponと解放側油室26内の油圧Poffとの差圧を連続的に制御することが可能となり、そのロックアップ差圧PLUに応じてロックアップクラッチ24の係合力を連続的に変化させることができる。つまり、ロックアップクラッチ24が係合状態にある場合の係合力を制御したり、ロックアップクラッチ24をスリップ状態とする場合のスリップ量を制御したりできる。
一方、SLUソレノイドバルブ230が非励磁状態となり、このSLUソレノイドバルブ230からの制御信号圧PSLUの出力が停止すると、ロックアップコントロールバルブ201は、図2の中心線より左側半分に示すように、圧縮コイルばね208の付勢力によってスプール207が下方へと移動して原位置に移動した状態(OFF状態)となる。
このOFF状態では、第2ライン圧ポート203と解放側ポート205とが連通し、ロックアップ圧が、これらポート203,205を経てロックアップクラッチ24の解放側油室26に供給されることになり、この解放側油室26内の油圧と係合側油室25内の油圧とが均圧されることになってロックアップクラッチ24が解放(OFF)状態となる。
−ECU−
上記ECU8は、図3に示すように、CPU81、ROM82、RAM83及びバックアップRAM84などを備えている。
ROM82には、各種制御プログラムや、それら各種制御プログラムを実行する際に参照されるマップ等が記憶されている。CPU81は、ROM82に記憶された各種制御プログラムやマップに基づいて演算処理を実行する。また、RAM83はCPU81での演算結果や各センサから入力されたデータ等を一時的に記憶するメモリであり、バックアップRAM84はエンジン1の停止時にその保存すべきデータ等を記憶する不揮発性のメモリである。
これらCPU81、ROM82、RAM83、及び、バックアップRAM84はバス87を介して互いに接続されるとともに、入力インターフェース85及び出力インターフェース86に接続されている。
ECU8の入力インターフェース85には、エンジン回転数センサ101、スロットル開度センサ102、水温センサ103、タービン回転数センサ104、入力軸回転数センサ105、車速センサ106、アクセル開度センサ107、CVT油温センサ108、ブレーキペダルセンサ109、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)を検出するレバーポジションセンサ110などが接続されている。そして、この入力インターフェース85によって、各センサの出力信号、つまり、エンジン1の回転数(エンジン回転数)Ne、スロットルバルブ12の開度θth、エンジン1の冷却水温Tw、タービンシャフト28の回転数(タービン回転数)Nt、入力軸40の回転数(入力軸回転数)Nin、車速V、アクセルペダル等のアクセル操作部材の操作量(アクセル開度)Acc、油圧制御回路20の油温(CVT油温Thc)、常用ブレーキであるフットブレーキの操作の有無(ブレーキON・OFF)、及び、シフトレバー9のレバーポジション(操作位置)などを表す信号がECU8に供給される。
出力インターフェース86には、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15及び油圧制御回路20(ロックアップ制御回路200)などが接続されている。
ここで、ECU8に供給される信号のうち、タービン回転数Ntは、前後進切換装置3の前進用クラッチC1が係合する前進走行時には入力軸回転数Ninと一致し、車速Vはベルト式無段変速機4の出力軸44の回転数(出力軸回転数)Noutに対応する。またアクセル操作量Accは運転者の出力要求量を表している。
また、シフトレバー9は、駐車のためのパーキング位置「P」、後進走行のためのリバース位置「R」、動力伝達を遮断するニュートラル位置「N」、前進走行のためのドライブ位置「D」、前進走行時にベルト式無段変速機4の変速比γを手動操作で増減できるマニュアル位置「M」などの各位置に選択的に操作されるようになっている。
マニュアル位置「M」には、変速比γを増減するためのダウンシフト位置やアップシフト位置、あるいは、変速範囲の上限(変速比γが小さい側)が異なる複数の変速レンジを選択できる複数のレンジ位置等が備えられている。
レバーポジションセンサ110は、例えば、パーキング位置「P」、リバース位置「R」、ニュートラル位置「N」、ドライブ位置「D」、マニュアル位置「M」やアップシフト位置、ダウンシフト位置、あるいはレンジ位置等へシフトレバー9が操作されたことを検出する複数のON・OFFスイッチ等を備えている。なお、変速比γを手動操作で変更するために、シフトレバー9とは別にステアリングホイール等にダウンシフトスイッチやアップシフトスイッチ(所謂、パドルスイッチ)、あるいはレバー等を設けることも可能である。
そして、ECU8は、上記した各種のセンサの出力信号などに基づいて、エンジン1の出力制御、ベルト式無段変速機4の変速制御、ベルト挟圧力制御、及び、ロックアップクラッチ24の係合・解放制御を実行する。さらに、ECU8は、減速時ロックアップ制御、ロックアップスムーズ係合制御(ロックアップクラッチ24を係合する際のショックを回避する油圧制御)、ロックアップスムーズOFF制御(ロックアップクラッチ24を解放する際のショックを回避する油圧制御)などを実行する。上記ロックアップスムーズ係合制御、ロックアップスムーズOFF制御については既に公知であるため、ここでの説明は省略する。尚、上記減速時ロックアップ制御の詳細については後述する。
エンジン1の出力制御は、スロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15及びECU8などによって行われ、ベルト式無段変速機4の変速制御、ベルト挟圧力制御、及びロックアップクラッチ24の係合・解放制御は、いずれも油圧制御回路20(ロックアップ制御回路200)によって行われる。これらスロットルモータ13、燃料噴射装置14、点火装置15、及び、油圧制御回路20はECU8によって制御される。
ベルト式無段変速機4の変速制御は、例えば図4に示すように、運転者の出力要求量を表すアクセル操作量Acc及び車速Vをパラメータとして予め設定された変速マップから入力側の目標回転数(目標回転速度)Nintを算出し、実際の入力軸回転数Ninが目標回転数Nintと一致するように、それらの偏差に応じてベルト式無段変速機4の変速制御、すなわちプライマリプーリ41の油圧アクチュエータ413に対する作動油の供給・排出によって変速圧Pinが制御され、変速比γが連続的に変化する。
図4のマップは変速条件に相当するもので、車速Vが小さくアクセル操作量Accが大きい程、大きな変速比γになる目標回転数Nintが設定されるようになっている。また、車速Vは出力軸回転数Noutに対応するため、入力軸回転数Ninの目標値である目標回転数Nintは目標変速比に対応し、ベルト式無段変速機4の最小変速比γminと最大変速比γmaxの範囲内で設定されている。
−ロックアップクラッチ作動マップ−
上述したロックアップクラッチ24の完全係合状態、半係合状態、解放状態の切り換え動作は、例えば図5や図6に示すロックアップクラッチ作動マップに従って行われる。このロックアップクラッチ作動マップは、車速V及びアクセル開度Accをパラメータとし、それら車速V及びアクセル開度Accに応じて、ロックアップクラッチ24を、完全係合状態(完全ロックアップ状態)、半係合状態(フレックスロックアップ状態やスリップ状態と呼ばれる)、解放状態(トルコン状態)の間で切り換えるためのマップであって、上記ROM82内に記憶されている。
また、このロックアップクラッチ作動マップには、アクセルON運転領域とアクセルOFF運転領域とが設定されている。アクセルON運転領域は、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作が行われている場合に、上記車速センサ106によって検出される車速V及びアクセル開度センサ107によって検出されるアクセル開度Accに応じてロックアップクラッチ24の係合状態(制御状態)を切り換える運転領域である。一方、アクセルOFF運転領域は、運転状態によるアクセルペダルの踏み込み操作が行われていない(アクセル開度が「0」である)場合に、車速Vに応じてロックアップクラッチ24の係合状態を切り換える運転領域である。
つまり、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作が行われているアクセルON運転領域では、車速V及びアクセル開度Accに基づいて、完全係合領域(完全ロックアップ作動領域)、スリップ領域(フレックスロックアップ作動領域)、解放領域(トルコン作動領域)のいずれの領域に属するかを判定し、その判定された領域の作動となるように上記ロックアップコントロールバルブ201を制御してロックアップクラッチ24を完全係合、半係合或いは解放のいずれかの状態とする制御を実行する。尚、上記アクセル開度Accに代えてスロットル開度θthに応じたロックアップクラッチ作動マップ(車速Vとスロットル開度θthとに応じてロックアップクラッチ24を制御するためのマップ)によりロックアップクラッチ24の状態を切り換えるようにしてもよい。
上記フレックスロックアップ作動領域では、運転性を損なうことなく燃費を可及的に良くすることを目的としてエンジン1の回転変動を吸収しつつトルクコンバータ2の動力伝達損失を可及的に抑制するために、ロックアップクラッチ24のスリップ制御を実行する。ロックアップクラッチ24のスリップ制御については、タービン回転速度(タービン回転数)Ntとエンジン回転速度(エンジン回転数)Neとの回転速度差(スリップ量)NSLP(=Ne−Nt)を目標回転速度差(目標スリップ量:例えば50rpm)に制御するために、ロックアップクラッチ24を制御する上記ロックアップコントロールバルブ201に対して駆動信号を出力する。
一方、運転者によるアクセルペダルの踏み込み操作が行われていないアクセルOFF運転領域では、燃料カットの継続期間を長くして燃料消費率の改善を図るために、ロックアップクラッチ24を完全係合状態に維持する減速時ロックアップ制御やロックアップクラッチ24を半係合状態に維持する減速時スリップ制御が車速Vに応じて行われる。
つまり、これら減速時ロックアップ制御や減速時スリップ制御では、エンジン1を、駆動輪7L,7R側の動力で回転駆動する被駆動状態にし、車速が所定車速(ロックアップ解放車速)に低下するまで燃料カット状態を継続すると共に、ロックアップクラッチの係合状態またはスリップ状態を継続する。このように減速時にロックアップクラッチ24が完全係合状態またはスリップ状態になると、エンジン回転速度Neがタービン回転速度Nt付近まで引き上げられるため、エンジン1に対する燃料供給量を抑制する制御状態(フューエルカット状態)が長い期間維持され、これにより燃料消費率の改善を図ることができる。そして、車速がロックアップ解放車速まで低下した時点で、ロックアップクラッチ24を解放状態にすると共にエンジン1の燃料噴射を開始してエンジン1の駆動を再開させ、エンジンストールを防止するようになっている。
次に、上記アクセルOFF運転領域(減速走行時:以下、コースト走行時と呼ぶ場合もある)における車速Vとロックアップクラッチ24の係合状態(完全係合状態、スリップ状態、解放状態)について説明する。
上記コースト走行時にロックアップクラッチ24をスリップ状態にする上記減速時スリップ制御については、エンジン1の運転状態に応じて実施可能な(実施を許可する)状況と実施不可能な(実施を禁止する)状況とがある。例えば、上記水温センサ103によって検出されるエンジン1の冷却水温Twや、CVT油温センサ108によって検出されるCVT油温Thcが所定の範囲内(例えば50℃〜80℃の範囲内)にあり、ロックアップ差圧指示値PDに対する実際のロックアップ差圧のずれ量が所定の範囲内にある場合にはスリップ量のずれ量も少ないため、減速時スリップ制御の実行を許容する。これに対し、冷却水温TwやCVT油温Thcが所定の範囲外にある場合には、ロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧のずれ量が大きくなりスリップ量のずれ量も大きくなるため、減速時スリップ制御の実行を禁止する。
図5は、減速時スリップ制御の実行が許容されるエンジン運転状態にある場合に参照されるロックアップクラッチ作動マップを示している。一方、図6は、減速時スリップ制御の実行が禁止されるエンジン運転状態にある場合に参照されるロックアップクラッチ作動マップを示している。
図5に示すロックアップクラッチ作動マップでは、コースト走行時において、車速Vが低下していくに従って、ロックアップクラッチ24を、完全係合状態、スリップ状態、解放状態の順で切り換えていく。つまり、車速Vが図5中に破線で示すV1(例えば50km/h)よりも高い状態でコースト走行が開始された場合、車速Vが図5中のV1まで低下した時点で完全係合状態からスリップ状態に切り換える。即ち、ロックアップクラッチ24に対するロックアップ差圧指示値PDを完全係合状態とする指示値からスリップ状態とする指示値に変更する。そして、このスリップ状態となっている状況で、車速Vが図5中に破線で示すV2(ロックアップ解放車速)まで低下した時点でスリップ状態から解放状態に切り換える。即ち、ロックアップクラッチ24に対するロックアップ差圧指示値PDをスリップ状態とする指示値から解放状態とする指示値に変更する。そして、このようにロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることに伴いフューエルカット状態を解除する。つまり、燃料噴射装置14からの燃料噴射を開始してエンジン1の駆動を再開させ、エンジンストールを防止する。
一方、図6に示すロックアップクラッチ作動マップでは、上述した如く減速時スリップ制御の実行が禁止されているため、車速Vが図6中に破線で示すV3よりも高い状態でコースト走行が開始された場合、車速Vが図6中のV3(ロックアップ解放車速)まで低下した時点で完全係合状態から解放状態に切り換える。即ち、ロックアップクラッチ24に対するロックアップ差圧指示値PDを完全係合状態とする指示値から解放状態とする指示値に変更する。そして、このようにロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることに伴いフューエルカット状態を解除する。つまり、燃料噴射装置14からの燃料噴射を開始してエンジン1の駆動を再開させ、エンジンストールを防止する。
尚、上記減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態でのロックアップ解放車速(図5における車速V2)と、減速時スリップ制御が禁止されるエンジン運転状態でのロックアップ解放車速(図6における車速V3)とは異なる値である。その理由について以下に述べる。
減速時スリップ制御が許可されている場合、ロックアップクラッチ24に対して解放指令信号が発信されると(車速がロックアップ解放車速に達して解放指令信号が発信されると)、ロックアップクラッチ24はスリップ状態から解放状態に切り換えられるため、比較的短時間で解放状態にすることができる。つまり、ロックアップ解放車速を比較的低い値に設定したとしても、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態にすることが可能である。このため、減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態ではロックアップ解放車速(図5における車速V2)を比較的低い値(後述するロックアップ解放車速の変更動作によって低く設定されるロックアップ解放車速V2’よりは高い値となっている)に設定し、燃料消費率の改善が図れるようにしている。
これに対し、減速時スリップ制御が禁止されている場合、ロックアップクラッチ24に対して解放指令信号が発信されると(車速がロックアップ解放車速に達して解放指令信号が発信されると)、ロックアップクラッチ24は完全係合状態から解放状態に切り換えられることになるため、解放状態に至るまでの時間は上記減速時スリップ制御が許可されている場合(スリップ状態から解放状態に切り換えられる場合)よりも長くなる。つまり、この減速時スリップ制御が禁止されている場合に、ロックアップ解放車速を、上記減速時スリップ制御が許可されている場合と同様の値に設定すると、ロックアップクラッチ24を解放状態にするタイミングよりも先にエンジン回転数がストール回転数に達してしまいエンジンストールに至る可能性がある。このため、減速時スリップ制御が禁止されるエンジン運転状態でのロックアップ解放車速(図6における車速V3)は、減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態でのロックアップ解放車速(図5における車速V2)よりも高く設定し、エンジン回転数がストール回転数に達するまでの時間を長く確保して、ストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えられるようにしている。
各ロックアップ解放車速V2,V3の具体的な一例を挙げると、上記減速時スリップ制御が禁止されるエンジン運転状態でのロックアップ解放車速(図6における車速V3)は20km/hに設定されているのに対し、減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態でのロックアップ解放車速(図5における車速V2)は12km/hに設定されている。これら値はこれに限定されるものではなく、実験やシミュレーション等によって適宜設定される。
ところで、上述の如くロックアップクラッチ24を有するトルクコンバータ2を搭載した車両において、その燃料消費率の更なる改善を図るためには、上記ロックアップ解放車速を更に低く設定したり、ロックアップクラッチ24が完全係合状態またはスリップ状態にある場合の定常走行中(アクセルペダルの操作量が一定である状態での走行中)におけるエンジン回転数を低く設定する必要がある。
しかしながら、単にロックアップ解放車速を低く設定したり、定常走行中におけるエンジン回転数を低く設定したのでは、車両の急制動要求が生じた場合(運転者によってブレーキペダルが大きく踏み込まれた場合)に、ロックアップクラッチ24が係合状態またはスリップ状態にあることに起因し、車両の急制動による駆動輪7L,7Rの回転速度の急速な低下に伴ってエンジン回転数も急速に低下することになる。このような状況では、ロックアップクラッチ24が解放状態となるタイミング(車速がロックアップ解放車速に達してロックアップクラッチ24の解放動作を開始し、その後にロックアップクラッチ24が解放状態となるタイミング)よりも先にエンジン回転数がストール回転数に達してしまって、エンジンストールを招いてしまう可能性がある。
そこで、本実施形態では、後述するロックアップクラッチ24の油圧学習の完了の有無(学習完了か未完了かの別)、及び、ロックアップクラッチ24の制御状態(完全係合状態かスリップ状態かの別)に応じて、ロックアップ解放車速及び定常走行時のエンジン回転数を適切に設定するようにしている。以下、このロックアップ解放車速及び定常時のエンジン回転数の設定動作について説明する。
−ロックアップ解放車速及び定常走行時のエンジン回転数の設定動作−
本実施形態におけるロックアップ解放車速の設定動作では、ロックアップクラッチ24が完全係合状態から解放状態に切り換えられる場合(減速時スリップ制御が禁止されるエンジン運転状態にあって、車速がロックアップ解放車速に達してロックアップクラッチ24が完全係合状態から解放状態に切り換えられる場合)、及び、ロックアップクラッチ24がスリップ状態から解放状態に切り換えられる場合(減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態にあって、車速がロックアップ解放車速に達してロックアップクラッチ24がスリップ状態から解放状態に切り換えられる場合)の何れにおいても、ロックアップクラッチ24の油圧学習が未完了である状況で設定されるロックアップ解放車速に対して、ロックアップクラッチ24の油圧学習が完了している状況で設定されるロックアップ解放車速を低く設定するようにしている。
また、本実施形態における定常走行時のエンジン回転数の設定動作では、ロックアップクラッチ24が完全係合状態にある場合、及び、ロックアップクラッチ24がスリップ状態にある場合の何れにおいても、ロックアップクラッチ24の油圧学習が未完了である状況で設定される定常走行時のエンジン回転数に対して、ロックアップクラッチ24の油圧学習が完了している状況で設定される定常走行時のエンジン回転数を低く設定するようにしている。以下、具体的に説明する。
図7は、本実施形態におけるロックアップ解放車速及び定常走行時のエンジン回転数を設定するための制御動作の手順を示すフローチャート図である。このフローチャートは、エンジン1の始動後、数msec毎またはクランクシャフトの所定回転角度毎に実行される。
先ず、ステップST1において、ロックアップクラッチ24の係合状態を判定する。つまり、現在のロックアップクラッチ24の状態が、完全係合状態、スリップ状態、解放状態の何れにあるのかを判定する。
この判定動作として具体的には、先ず、上記水温センサ103によって検出されるエンジン1の冷却水温Twや、CVT油温センサ108によって検出されるCVT油温Thc等に基づき、ロックアップクラッチ24の減速時スリップ制御の実行が許可されるエンジン運転状態にあるのか禁止されるエンジン運転状態にあるのかを判断する。つまり、ロックアップクラッチ24の係合状態の制御が、図5に示したロックアップクラッチ作動マップに従って行われる状況にあるのか、図6に示したロックアップクラッチ作動マップに従って行われる状況にあるのかを判断する。その上で、現在の運転状態がアクセルON運転領域にある場合には、車速センサ106によって検出される車速V及びアクセル開度センサ107によって検出されるアクセル開度Accに基づき現在のロックアップクラッチ24の状態が、完全係合状態、スリップ状態、解放状態の何れにあるのかを判定する。また、現在の運転状態がアクセルOFF運転領域にある場合には、車速センサ106によって検出される車速Vに基づき現在のロックアップクラッチ24の状態が、完全係合状態、スリップ状態、解放状態の何れにあるのかを判定する。
尚、ロックアップクラッチ24の係合状態を判定する動作としてはこれに限定されるものではない。例えば、上記タービン回転数センサ104によって検出されるタービン回転数Ntとエンジン回転数センサ101によって検出されるエンジン回転数Neとの偏差に基づいてロックアップクラッチ24の係合状態を判定するようにしてもよい。
次に、ステップST2に移り、上記判定されたロックアップクラッチ24の状態は、完全係合状態であるか否かを判定する。ロックアップクラッチ24が完全係合状態にあり、ステップST2でYES判定された場合にはステップST3に移り、ロックアップクラッチの油圧学習(ロックアップ差圧学習)が完了しているか否かを判定する。このロックアップクラッチの油圧学習が完了しているか否かを判定するための具体的な動作については後述する。
ロックアップクラッチの油圧学習が未だ完了しておらず(未完了であって)ステップST3でNO判定された場合にはステップST4に移り、ロックアップ解放車速を上記V3に設定すると共に、定常時のエンジン回転数をNe3に設定する。具体的な一例としては、ロックアップ解放車速V3は上述した如く20km/hに設定され、定常時のエンジン回転数Ne3は1200rpmに設定される。
このように各値が設定された場合、例えば、上記減速時スリップ制御が禁止されるエンジン運転状態(図6に示すロックアップクラッチ作動マップに従ってロックアップクラッチ24が制御される運転状態)にある場合には、例えば車両の急制動時などにおいて車速VがV3(20km/h)まで低下した時点でロックアップクラッチ24の解放指令信号が発信されロックアップクラッチ24が完全係合状態から解放状態に切り換えられることになる。このロックアップ解放車速V3は比較的高く設定された値であるため、エンジン回転数がストール回転数(例えば500rpm)に達するまでの時間が長く確保され、上記油圧学習が完了しておらず仮にロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧のずれ量が大きくなっていたとしても(ロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧が大きくなっていたとしても:完全係合状態における係合力が高くなっていたとしても)エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。
また、定常走行時に車両の急制動要求が生じた場合においても、上記エンジン回転数Ne3は比較的高く設定された値であるため、急制動要求の開始からエンジン回転数がストール回転数に達するまでの時間が長く確保され、上記油圧学習が完了しておらず仮にロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧のずれ量が大きくなっていたとしても(ロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧が大きくなっていたとしても:完全係合状態における係合力が高くなっていたとしても)エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。
上記ステップST3において、ロックアップクラッチの油圧学習が完了しておりYES判定された場合にはステップST5に移り、ロックアップ解放車速を、上記油圧学習が未完了の場合に設定されたロックアップ解放車速V3よりも低いV3’(図6に実線で示すロックアップ解放車速を参照)に設定すると共に、定常時のエンジン回転数を、上記油圧学習が未完了の場合に設定された定常時のエンジン回転数Ne3よりも低いNe3’に設定する。具体的な一例としては、ロックアップ解放車速V3’は15km/hに設定され、定常時のエンジン回転数Ne3’は1100rpmに設定される。このようにエンジン回転数Neを低く設定する場合、現在の車速Vを維持するためにベルト式無段変速機4の変速比γを小さくする。例えば、車速V、エンジン回転数Ne、変速比γの関係を規定するマップを上記ROM82に記憶させておき、現在の車速Vを維持しながらエンジン回転数Neを低く設定する(上記Ne3’まで低くする)ための変速比γを求め、この変速比γが得られるようにベルト式無段変速機4を制御する。
このように各値が設定された場合、例えば、上記減速時スリップ制御が禁止されるエンジン運転状態(図6に示すロックアップクラッチ作動マップに従ってロックアップクラッチ24が制御される運転状態)にある場合には、例えば車両の急制動時などにおいて車速VがV3’(15km/h)まで低下した時点でロックアップクラッチ24の解放指令信号が発信されロックアップクラッチ24が完全係合状態から解放状態に切り換えられることになる。このロックアップ解放車速V3’は比較的低く設定された値であるが、既に油圧学習が完了しており、ロックアップ差圧指示値PDに対する実際のロックアップ差圧のずれ量は小さいため、車速Vがロックアップ解放車速V3’まで低下したとしても、この時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。つまり、エンジンストールを招くことなしにロックアップ解放車速を低く設定することが可能であり、燃料消費率の大幅な改善を図ることができる。尚、上記ロックアップ解放車速V3’は、上述した如く、車速Vが、このロックアップ解放車速V3’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値として実験やシミュレーション等によって求められたものである。また、このロックアップ解放車速V3’は、必ずしも一定の値である必要はなく、上記条件が満たされる値(車速Vが、このロックアップ解放車速V3’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値)であればよく、エンジン運転状態からマップや演算に基づいて設定するようにしてもよい。
また、定常走行時に車両の急制動要求が生じた場合においても、既に油圧学習が完了しており、ロックアップ差圧指示値PDに対する実際のロックアップ差圧のずれ量は小さいため、エンジン回転数NeがNe3’まで低下した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。つまり、エンジンストールを招くことなしに定常時のエンジン回転数を低く設定することが可能であり、燃料消費率の大幅な改善を図ることができる。尚、上記エンジン回転数Ne3’も、上述した如く、エンジン回転数Neが、このエンジン回転数Ne3’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値として実験やシミュレーション等によって求められたものである。また、このエンジン回転数Ne3’も、必ずしも一定の値である必要はなく、上記条件が満たされる値(エンジン回転数Neが、このエンジン回転数Ne3’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値)であればよく、エンジン運転状態からマップや演算に基づいて設定するようにしてもよい。
上記ステップST2において、ロックアップクラッチ24が完全係合状態になくNO判定された場合にはステップST6に移り、上記判定されたロックアップクラッチ24の状態は、スリップ状態であるか否かを判定する。ロックアップクラッチ24がスリップ状態にあり、ステップST6でYES判定された場合にはステップST7に移り、ロックアップクラッチの油圧学習が完了しているか否かを判定する。
ロックアップクラッチの油圧学習が未だ完了しておらず(未完了であって)ステップST7でNO判定された場合にはステップST8に移り、ロックアップ解放車速を上記V2に設定すると共に、定常時のエンジン回転数をNe2に設定する。具体的な一例としては、ロックアップ解放車速V2は12km/hに設定され、定常時のエンジン回転数Ne2は1000rpmに設定される。
このように各値が設定された場合、例えば、上記減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態(図5に示すロックアップクラッチ作動マップに従ってロックアップクラッチ24が制御される運転状態)にある場合には、例えば車両の急制動時などにおいて車速VがV2(12km/h)まで低下した時点でロックアップクラッチ24の解放指令信号が発信されロックアップクラッチ24がスリップ状態から解放状態に切り換えられることになる。このロックアップ解放車速V2は比較的高く設定された値であるため、エンジン回転数がストール回転数(例えば500rpm)に達するまでの時間が長く確保され、上記油圧学習が完了しておらず仮にロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧のずれ量が大きくなっていたとしても(ロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧が大きくなっていたとしても:スリップ状態におけるスリップ量が少ない状態であったとしても)エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。
また、定常走行時に車両の急制動要求が生じた場合においても、上記エンジン回転数Ne2は比較的高く設定された値であるため、急制動要求の開始からエンジン回転数がストール回転数に達するまでの時間が長く確保され、上記油圧学習が完了しておらず仮にロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧のずれ量が大きくなっていたとしても(ロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧が大きくなっていたとしても:スリップ状態におけるスリップ量が少ない状態であったとしても)エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。
上記ステップST7において、ロックアップクラッチの油圧学習が完了しておりYES判定された場合にはステップST9に移り、ロックアップ解放車速を、上記油圧学習が未完了の場合に設定されたロックアップ解放車速V2よりも低いV2’(図5に実線で示すロックアップ解放車速を参照)に設定すると共に、定常時のエンジン回転数を、上記油圧学習が未完了の場合に設定された定常時のエンジン回転数Ne2よりも低いNe2’に設定する。具体的な一例としては、ロックアップ解放車速V2’は10km/hに設定され、定常時のエンジン回転数Ne2’は900rpmに設定される。このようにエンジン回転数Neを低く設定する場合にも、現在の車速Vを維持するためにベルト式無段変速機4の変速比γを小さくする。例えば、上述した如く、車速V、エンジン回転数Ne、変速比γの関係を規定するマップを上記ROM82に記憶させておき、現在の車速Vを維持しながらエンジン回転数Neを低く設定する(上記Ne2’まで低くする)ための変速比γを求め、この変速比γが得られるようにベルト式無段変速機4を制御する。
このように各値が設定された場合、例えば、上記減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態(図5に示すロックアップクラッチ作動マップに従ってロックアップクラッチ24が制御される運転状態)にある場合には、例えば車両の急制動時などにおいて車速VがV2’(10km/h)まで低下した時点でロックアップクラッチ24の解放指令信号が発信されロックアップクラッチ24がスリップ状態から解放状態に切り換えられることになる。このロックアップ解放車速V2’は比較的低く設定された値であるが、既に油圧学習が完了しており、ロックアップ差圧指示値PDに対する実際のロックアップ差圧のずれ量は小さいため、車速Vがロックアップ解放車速V2’まで低下したとしても、この時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。つまり、エンジンストールを招くことなしにロックアップ解放車速を低く設定することが可能であり、燃料消費率の大幅な改善を図ることができる。尚、上記ロックアップ解放車速V2’は、上述した如く、車速Vが、このロックアップ解放車速V2’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値として実験やシミュレーション等によって求められたものである。また、このロックアップ解放車速V2’は、必ずしも一定の値である必要はなく、上記条件が満たされる値(車速Vが、このロックアップ解放車速V2’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値)であればよく、エンジン運転状態からマップや演算に基づいて設定するようにしてもよい。
また、定常走行時に車両の急制動要求が生じた場合においても、既に油圧学習が完了しており、ロックアップ差圧指示値PDに対する実際のロックアップ差圧のずれ量は小さいため、エンジン回転数NeがNe2’まで低下した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能である。つまり、エンジンストールを招くことなしに定常時のエンジン回転数を低く設定することが可能であり、燃料消費率の大幅な改善を図ることができる。尚、上記エンジン回転数Ne2’も、上述した如く、エンジン回転数Neが、このエンジン回転数Ne2’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値として実験やシミュレーション等によって求められたものである。また、このエンジン回転数Ne2’も、必ずしも一定の値である必要はなく、上記条件が満たされる値(エンジン回転数Neが、このエンジン回転数Ne2’に達した時点からロックアップクラッチ24の解放動作を開始すれば、エンジン回転数がストール回転数に達する前にロックアップクラッチ24を解放状態に切り換えることが可能となる値)であればよく、エンジン運転状態からマップや演算に基づいて設定するようにしてもよい。
図8は、上記手順により、ロックアップクラッチ係合状態及びロックアップ差圧学習状態に応じて設定されるロックアップ解放車速及び定常時のエンジン回転数の一例を示している。
このように、ロックアップクラッチ24の油圧学習が未完了である状況で設定されるロックアップ解放車速及び定常時のエンジン回転数に対して、ロックアップクラッチの油圧学習が完了している状況で設定されるロックアップ解放車速及び定常時のエンジン回転数は低く設定されるようになっている。
−ロックアップ差圧学習完了判定動作−
次に、ロックアップ差圧学習完了判定の動作手順について説明する。先ず、ロックアップ差圧学習(ロックアップクラッチの油圧学習)の概略について説明する。
このロックアップ差圧学習は、ロックアップクラッチ24がスリップ状態にある場合に実行される。つまり、上記減速時スリップ制御が許可されるエンジン運転状態にあって、且つ車速Vが図5におけるV1以下となっている定常走行時に(エンジン負荷の大きな変動がない状況で)実行される。尚、このロックアップ差圧学習の実行条件につては周知であるため、ここでの説明は省略する。以下、このロックアップ差圧学習の概略について説明する。
従来の一般的なロックアップ差圧学習は、車両の減速時においてロックアップクラッチ24の完全係合状態から解放指令信号が発信された際に、その信号発信時点からロックアップクラッチ24が解放されるまで(タービン回転数Ntとエンジン回転数Neとの回転差が所定に達するまで)に要する時間(解放時間)が目標とする時間(解放目標時間)に略一致するようにロックアップ差圧を学習していた。つまり、上記解放時間が所定範囲内となった際(解放目標時間に対して所定範囲内の偏差となった際)にロックアップ差圧学習が完了したと判断するようにしていた。
ところが、ロックアップクラッチ24がスリップ状態にある際に上述したロックアップ差圧学習を行った場合、この学習動作では、ロックアップ差圧指示値PDと実ロックアップ差圧との偏差を小さくするようにフィードバック制御が行われることから、上記解放時間と解放目標時間との間に差が生じず(フィードバック制御されることで実ロックアップ差圧がノミナル品に略一致した状態で学習動作が行われるため解放時間と解放目標時間との間に差が生じない)、この時間差に基づくロックアップ差圧学習の完了の有無の判断が行えないことになる。
このため、本実施形態では以下に述べるようなロックアップ差圧学習完了判断を行うようにしている。以下では、ロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧が高い側にずれている場合(フィードバック値が減圧側の値として求められる場合)を代表して説明する。
先ず、ロックアップクラッチ24の完全係合状態から所定の減圧補正量(例えば減圧方向に10kPa)だけ低い油圧値に向けてロックアップ差圧指示値PDを低くしていく。そして、この所定の減圧補正量までロックアップ差圧指示値PDを低く設定してもタービン回転速度(タービン回転数)Ntとエンジン回転速度(エンジン回転数)Neとの回転速度差(スリップ量)NSLP(=Ne−Nt)が所定値(例えば10rpm)に達しない場合には、ロックアップ差圧指示値PDに対して実際のロックアップ差圧は高い側にずれていると判断し、所定の学習値(例えば5kPa)だけロックアップ差圧指示値PDを減圧側に学習補正(ロックアップ差圧指示値PDを低くするように補正)し、今回の学習動作を終了する。
次の学習動作においては、上記学習値を反映させた上で、上記と同様に、ロックアップクラッチ24の完全係合状態から上記所定の減圧補正量(10kPa)だけ低い油圧値に向けてロックアップ差圧指示値PDを低くしていく。そして、この所定の減圧補正量までロックアップ差圧指示値PDを低く設定しても未だスリップ量NSLPが所定値(10rpm)に達しない場合には、更に所定の学習値(5kPa)だけロックアップ差圧指示値PDを減圧側に学習補正し、今回の学習動作を終了する。
このように、ロックアップ差圧学習では、ロックアップクラッチ24のスリップ量(スリップ回転数)を所定のスリップ量(上記の場合には10rpm)とするようにロックアップ差圧指示値PDを変更していき、ロックアップクラッチ24のスリップ量が上記所定のスリップ量(10rpm)に達しない場合にロックアップ差圧指示値PDの学習(学習値5kPa)を行うようにしている。
以上の動作を、上記所定の減圧補正量(10kPa)だけ低い油圧値に到達するまでにスリップ量NSLPとして所定値(10rpm)が得られるまで繰り返す。このような動作において、上記スリップ量NSLPが所定値(10rpm)に達するまでに実行される減圧側への補正量(このスリップ量NSLPが得られない場合には上記減圧補正量(10kPa))をフィードバック値とする。つまり、このフィードバック値は、所定の減圧補正量までロックアップ差圧指示値PDを低く設定してもスリップ量NSLPが所定値(10rpm)に達しない場合には「10kPa」となり、減圧補正量が「10kPa」に到達するまでにスリップ量NSLPが所定値(10rpm)に達した場合には10kPa以下の値となる。また、この学習動作おけるスリップ量が実スリップ回転数となる。つまり、この実スリップ回転数は、所定の減圧補正量までロックアップ差圧指示値PDを低く設定してもスリップ量NSLPが所定値(10rpm)に達しない場合には10rpm未満となり、減圧補正量が「10kPa」に到達するまでにスリップ量NSLPが所定値(10rpm)に達した場合には10rpmとなる。
図9は、ロックアップ差圧学習完了判定の動作手順を示すフローチャートである。先ず、ステップST11では、上述したロックアップ差圧学習によるフィードバック値PFB及び実スリップ回転数NSLを取得する。
その後、ステップST12に移り、上記フィードバック値PFBが所定値PFB1以下(上述の場合には10kPa以下)となっているか否かを判定する。このフィードバック値が所定値PFB1以下となっており、ステップST12でYES判定された場合には、ステップST13に移り、上記実スリップ回転数NSLが所定値NSL1(上述の場合には10rpm)となっているか否かを判定する。この実スリップ回転数NSLが所定値NSL1となっており、ステップST13でYES判定された場合には、ステップST14に移ってロックアップ差圧学習が完了したと判断する。つまり、上記減圧補正量が「10kPa」に到達するまでにスリップ量NSLPが所定値(10rpm)に達したことで、上記フィードバック値PFBが所定値PFB1(10kPa)以下となっており且つ実スリップ回転数NSLが所定値NSL1(10rpm)となっていることを条件にロックアップ差圧学習が完了したと判断する。つまり、上記ロックアップクラッチ24のスリップ量(スリップ回転数)を所定のスリップ量(10rpm)とするためのフィードバック値が所定値PFB1(10kPa)以下にある状態でロックアップクラッチ24のスリップ量が上記所定のスリップ量(10rpm)に達した場合にロックアップクラッチ24の差圧学習が完了したと判断する。
この判断により、上記図7で示したフローチャートにおけるステップST3及びステップST7ではYES判定されることになる。一方、上記ステップST12またはステップST13でNO判定された場合には、ロックアップ差圧学習は完了していない(未完了)と判断する。この判断により、上記図7で示したフローチャートにおけるステップST3及びステップST7ではNO判定されることになる。
以上説明してきたように、本実施形態では、ロックアップクラッチ24が完全係合状態またはスリップ状態にある際、ロックアップクラッチ24の差圧学習が完了している場合には、ロックアップ解放車速の値を低く設定し、且つ定常走行中でのエンジン1の回転数の値を低く設定するようにしている。このため、エンジン1のストールを招くことなしにロックアップ解放車速を低く設定することが可能であり、且つ定常走行中でのエンジン1の回転数の値を低く設定することが可能であり、燃料消費率の大幅な改善を図ることができる。
−他の実施形態−
以上説明した実施形態は、変速機としてベルト式無段変速機(CVT)4を搭載した車両に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、遊星歯車式変速機を搭載した車両に対しても適用可能である。
また、上記実施形態では、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)車両に対して本発明を適用した場合について説明したが、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)車両や4輪駆動車に対しても本発明は適用可能である。
また、上記実施形態では、ガソリンエンジン1を搭載した自動車に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、ディーゼルエンジンを搭載した自動車にも適用可能である。また、気筒数やエンジン形式(V型や水平対向型等)についても特に限定されるものではない。