つぎに、この発明の実施例を図面に基づいて説明する。まず、この発明を適用できる車両のパワートレーン、およびその車両の制御系統を、図3に示す。図3に示す車両Veにおいては、動力源1と車輪2との間の動力伝達経路に、流体伝動装置3、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、無段変速機6などが設けられている。動力源1としては、例えば、内燃機関または電動機の少なくとも一方を用いることができ、好ましくは電子スロットルバルブ7を備えた内燃機関などの出力を電気的に制御できる機構を備えた内燃機関が使用される。電動機としては、電気エネルギを運動エネルギに変換する力行機能と、運動エネルギを電気エネルギに変換する回生機能とを有するモータ・ジェネレータを用いることが可能である。この実施例では、動力源1として、電子スロットルバルブ7を備えたガソリンエンジンやディーゼルエンジンあるいは天然ガスエンジンなどのエンジン1が用いられている場合について説明する。
また、流体伝動装置3およびロックアップクラッチ4は、エンジン1と前後進切り換え機構5との間の動力伝達経路に設けられており、流体伝動装置3とロックアップクラッチ4とは相互に並列に配置されている。流体伝動装置3は、流体の運動エネルギにより動力を伝達する装置であり、例えば従来のトルクコンバータと同様の構成であって、エンジン1によって回転させられるポンプインペラとこれに対向させて配置したタービンランナと、これらの間に配置したステータとを有し、ポンプインペラで発生させたフルードの螺旋流をタービンランナに供給することよりタービンランナを回転させ、トルクを伝達するように構成されている。
このような流体を介したトルクの伝達では、ポンプインペラとタービンランナとの間に不可避的な滑りが生じ、これが動力伝達効率の低下要因となる。そのため、ポンプインペラなどの入力側の部材とタービンランナーなどの出力側の部材とを直接連結するロックアップクラッチ4が設けられている。このロックアップクラッチ4は、油圧によって制御するように構成され、完全係合状態および完全解放状態、ならびにこれらの中間の状態であるスリップ係合状態に制御され、さらにそのスリップ回転数を適宜に制御できるようになっている。また、前後進切り換え機構5は、入力されたトルクを選択的に反転して出力する装置であって、例えば遊星歯車機構を主体として構成されている。
無段変速機6は、要は、変速比を連続的に変化させることのできる機構であって、ベルト式あるいはトロイダル型の無段変速機を使用することができる。図3にはベルト式のものが示されており、この無段変速機6は、前後進切り換え機構5と車輪2との間の動力伝達経路に設けられている。無段変速機6についてより具体的に説明すると、相互に平行に配置されたプライマリシャフト8およびセカンダリシャフト9が設けられている。このプライマリシャフト8にはプライマリプーリ10が設けられており、セカンダリシャフト9にはセカンダリプーリ11が設けられている。プライマリプーリ10は、プライマリシャフト8に固定された固定シーブ12と、プライマリシャフト8の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ13とを有している。そして、固定シーブ12と可動シーブ13との間にV字形状の溝M1が形成されている。
また、この可動シーブ13をプライマリシャフト8の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ13と固定シーブ12とを接近・離隔させる油圧サーボ機構14が設けられている。この油圧サーボ機構14は、油圧室15と、油圧室15のオイル量または油圧に応じてプライマリシャフト8の軸線方向に動作しかつ可動シーブ13に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、セカンダリプーリ11は、セカンダリシャフト9に固定された固定シーブ16と、セカンダリシャフト9の軸線方向に移動できるように構成された可動シーブ17とを有している。そして、固定シーブ16と可動シーブ17との間にはV字形状の溝M2が形成されている。そして、これらの溝M1,M2に挟持された状態でベルト18が各プーリ10,11に巻き掛けられている。
また、この可動シーブ17をセカンダリシャフト9の軸線方向に動作させることにより、可動シーブ17と固定シーブ16とを接近・離隔させる油圧サーボ機構19が設けられている。この油圧サーボ機構19は、油圧室20と、油圧室20の油圧またはオイル量に応じてセカンダリシャフト9の軸線方向に動作しかつ可動シーブ17に接続されたピストン(図示せず)とを備えている。
一方、無段変速機6の油圧サーボ機構14,19およびロックアップクラッチ4、および前後進切り換え機構5を制御する機能を有する油圧制御装置21が設けられている。さらに、エンジン1、ロックアップクラッチ4、前後進切り換え機構5、無段変速機6、油圧制御装置21を制御するコントローラとしての電子制御装置22が設けられている。この電子制御装置22は、演算処理装置(CPUまたはMPU)および記憶装置(RAMおよびROM)ならびに入出力インターフェースを主体とするマイクロコンピュータにより構成され、入力されたデータおよび予め記憶しているデータに基づいて所定のプログラムに従って演算をおこない、ロックアップクラッチ4の係合・解放ならびにスリップ回転数、前進や後進あるいはニュートラルなどの各種の状態、および要求される挟圧力の設定、ならびに変速比の設定などの制御を実行するように構成されている。
図3に示す無段変速機6の変速比を車両Veの走行状態、すなわちアクセル開度や車速などに基づいて制御する自動変速制御と、手動操作に基づいて変速を実行する手動変速制御(マニュアルシフト制御)とを実行できるように構成されている。シフト装置23は、その自動変速制御とマニュアルシフト制御とを選択するように構成されている。その一例を説明すると、シフトレバー24をガイドするガイド溝が図3に模式的に示すように変形したH字形に形成され、一方の直線部分にパーキングポジション(P)、リバースポジション、ニュートラルポジション、ドライブポジション(D)、ブレーキポジション(B)が割り付けられ、かつドライブポジションから分岐した他方の直線部分の中央部がマニュアルポジション(M)に割り付けられ、このマニュアルポジションを挟んでアップシフトポジション(+)とダウンシフトポジション(−)とが設けられている。そして、各ポジションを検出するスイッチなどのセンサ(図示せず)が設けられており、そのセンサの出力信号が前記電子制御装置22に入力されている。また、シフトレバーの移動を前記油圧制御装置21に伝達するためのケーブルなどのリンゲージ(図示せず)が設けられている。
上記の電子制御装置22に入力されている信号を例示すると、エンジン回転数、アクセルペダルの操作状態、ブレーキペダルの操作状態、スロットルバルブの開度、シフトポジション、プライマリシャフト8の回転数、セカンダリシャフト9の回転数、油圧制御装置21のソレノイドバルブのフェールの有無、エンジン1の吸入空気量、登坂路か否かなどを検知するセンサの信号、シフト装置23で選択されているシフトポジションを示す信号、前記アップシフトポジションに設けられたセンサからのアップシフト信号、前記ダウンシフトポジションに設けられているセンサからのダウンシフト信号などが入力されている。また、電子制御装置22には各種のデータが記憶されており、電子制御装置22に入力される信号、および記憶されているデータに基づいて、電子制御装置22から、エンジン1を制御する信号、無段変速機6を制御する信号、前後進切り換え機構5を制御する信号、ロックアップクラッチ4を制御する信号、油圧制御装置21を制御する信号などが出力される。
電子制御装置22に記憶されているデータとしては、エンジントルク制御マップ、変速機制御マップ、ロックアップクラッチ制御マップなどが挙げられる。エンジントルク制御マップは、例えば電子スロットルバルブ7の制御量の一時的な増大量を設定したマップである。また、変速機制御マップには、変速比の制御マップ、トルク容量の制御マップなどが含まれる。変速比制御マップは、車速、アクセル開度、減速度もしくはブレーキの操作状態などに基づいて、無段変速機6の変速比もしくはエンジン1の目標回転数を設定するマップである。上記の説明のように動力源1としてエンジン1が用いられている場合は、無段変速機6の変速比の制御により、エンジン回転数を最適燃費曲線に近づけるように制御できる。なお、この回転数制御は、主として目標回転数と実回転数との偏差に基づくフィードバック制御によっておこなわれ、必要に応じてフィードフォワード制御が実行もしくは併用される。トルク容量制御マップは、変速比、伝達するべきトルクなどに基づいて、無段変速機6のトルク容量を制御する場合に用いるマップである。また、ロックアップクラッチ制御マップは、車速、アクセル開度などに基づいて、ロックアップクラッチ4のトルク容量を設定するマップである。
上述したように、無段変速機6はエンジン1の回転数を燃費が最適になる回転数に制御するように機能させることができる。この自動変速制御におけるいわゆる通常制御では、一例として、アクセル開度などで代表される駆動要求量と車速とに基づいて適宜のマップから要求駆動力を求め、その要求駆動力と車速とから動力源の目標出力を算出する。その目標出力を最適燃費で出力することのできる目標回転数をいわゆる最適燃費線と目標出力線との交点での回転数としてマップなどから求め、その目標回転数と実際の動力源回転数との差を制御偏差として無段変速機6の変速比がフィードバック制御される。一方、目標出力とその時点の車速などに基づいて目標トルクが算出され、その目標トルクを達成するように電子スロットルバルブ7などによってエンジン1の出力トルクが制御される。
このような自動変速制御における通常制御は、車速や流体伝動装置3のタービン回転数などとアクセル開度などの駆動要求量とで定まる走行状態に基づいて無段変速機6の変速比を無段階に(連続的に)制御するものであって、いわば自動無段変速制御と称することのできる変速制御である。一方、無段変速機6の変速比の制御としては、手動操作に基づく制御も可能である。その制御は、シフト装置23のアップシフトポジションあるいはダウンシフトポジションに設けられているスイッチもしくはセンサを、シフトレバーによってON動作させて信号を出力させ、その信号に基づいて、エンジン1の目標回転数もしくは無段変速機6の変速比をステップ的に変化させ、あるいは信号を出力し続けている間、目標回転数もしくは変速比を連続的に変化させる制御である。このような変速制御が、手動変速制御いわゆるマニュアルシフト制御である。
したがって、上記のような手動変速制御(マニュアルシフト制御)が、無段変速機6の変速比をステップ的に変化させるいわゆるステップ変速である。なお、上記のシフトレバーによってON動作させた信号を出力し続けている間、無段変速機6の変速比を連続的に変化させる制御も、結果的には変速比をステップ的に変化させることになるため、このステップ変速に含まれる。
手動変速操作は、車両の機敏な動作を期待して実行するから、変速速度(変速比変化率)が速くなるように無段変速機6が制御される。例えば、減速時にマニュアルダウンシフト操作した場合には、変速比を通常より速い速度で増大させる。また反対に加速中にマニュアルアップシフト操作した場合には、通常より速い速度で変速比を減少させる。このような変速制御は、通常のマニュアルシフト制御として実行される。
また、このようなマニュアルシフトの場合、変速速度が速いので、ショックを緩和もしくは防止するために、エンジン1のトルクの制御すなわちエンジントルクアップ・トルクダウン制御が併せて実行される。具体的には、減速時のマニュアルダウンシフトの場合には、エンジントルクを迅速に増大させる制御すなわちエンジントルクアップ制御が実行される。これは、図3に示す車両では、電子スロットルバルブ7の開度を増大させ、その後、徐々に復帰させる制御である。このエンジントルクアップ制御がマニュアルシフト時の変速制御と協調して実行されると、変速比の増大に伴ういわゆるエンジンブレーキ力を、エンジントルクアップ制御によって小さくし、変速比が急激に増大することによる駆動トルクの変化を抑制してショックが防止もしくは緩和される。また、マニュアルアップシフトの場合、変速比が急激に小さくなることによってエンジン1やこれに関連する回転部材の回転数が減少して慣性トルク(イナーシャトルク)が発生し、これがショックの原因となるので、その慣性トルク(イナーシャトルク)を相殺するようにエンジン1のトルクを低下させる制御すなわちエンジントルクダウン制御が実行される。このようなエンジントルクアップ・トルクダウン制御も、通常のマニュアルシフト制御に含まれる。
さらに、前述の自動変速制御が実行可能に設定される場合において、上述のいわゆる自動無段変速制御に対して、車速やアクセル開度などの駆動要求量とで定まる変速比制御マップに基づいて、無段変速機6の変速比をステップ的に変化させるいわば模擬自動変速制御もしくはAT模擬変速などと称することのできる変速制御を選択的に設定して実行することも可能である。このいわゆる模擬自動変速制御は、例えば、シフト装置23のシフトレバー24がドライブポジション(D)に設定されている際に、模擬自動変速制御モード切り替えスイッチ(図示せず)がONにされることによって実行可能に設定される。
このいわゆる模擬自動変速制御により変速制御が実行される場合も、いわゆる自動無段変速制御と比較して変速速度が速くなる場合があるので、その場合は、上記のマニュアルシフト制御の場合と同様に、エンジントルクアップ・トルクダウン制御が併せて実行される。したがって、このような模擬自動変速制御も、無段変速機6の変速比をステップ的に変化させるいわゆるステップ変速に含まれる。
上記のマニュアルシフト制御あるいは模擬自動変速制御、すなわちステップ変速制御と、それに伴うエンジントルクアップ・トルクダウン制御とがタイミングのズレを生じることなく協調して実行されると、それぞれの制御による駆動トルクの変動要因が相互に作用してショックが防止もしくは抑制される。しかしながら、車両の走行中は、前述の流体伝動装置3に備えられたロックアップクラッチ4が、車速や駆動要求量などの変化に応じて完全係合状態と、スリップ係合状態と、完全解放状態とに適宜変更されるように制御されていて、このロックアップクラッチ4の係合・解放状態の変化を考慮せずに上記のステップ変速制御とそれに伴うエンジントルクアップ・トルクダウン制御とが実行されると、前述のようにそれらの制御が適切におこなわれなくなる可能性がある。そこでこの発明の制御装置は、以下の制御を実行するように構成されている。
図1はその制御の一例を説明するためのフローチャートであって、このフローチャートで示されるルーチンは、所定の短時間毎に繰り返し実行される。図1において、先ず、無段変速機6の変速制御モードが、模擬自動変速制御モード(AT模擬変速モード)に設定されているか否かが判断される(ステップS1)。この判断は、例えば、前述したシフト装置23のシフトレバー24がドライブポジション(D)に設定されている際に、模擬自動変速制御モード(AT模擬変速モード)切り替えスイッチ(図示せず)がON信号を出力したか否かによって判断することができる。
無段変速機6の変速制御モードが模擬自動変速制御モードに設定されていないことによって、このステップS1で否定的に判断された場合は、ステップS2へ進み、マニュアルシフト制御モードであるか否か、すなわちマニュアルシフト操作時か否かが判断される。この判断は、前述したシフト装置23におけるアップシフトポジションもしくはダウンシフトポジションのセンサが信号を出力したか否かによって判断することができる。
無段変速機6の変速制御モードがマニュアルシフト制御モードでないこと、すなわち無段変速機6の変速制御モードが模擬自動変速制御モードにもマニュアルシフト制御モードにも設定されていないこと、言い換えると、無段変速機6がステップ変速される変速制御モードでないことによって、このステップS2で否定的に判断された場合は、以降の制御はおこなわずにこのルーチンを一旦終了する。
また、無段変速機6の変速制御モードが模擬自動変速制御モード(AT模擬変速モード)に設定されていることによって、上記のステップS1で肯定的に判断された場合、もしくは無段変速機6の変速制御モードがマニュアルシフト制御モードに設定されていることによって、ステップS2で肯定的に判断された場合、言い換えると、無段変速機6がステップ変速される場合には、ステップS3へ進み、エンジントルクアップ・トルクダウン制御が併用される高応答変速であるか否かが判断される。高応答変速とは、前述したように、ステップ変速(マニュアルシフト制御あるいは模擬自動変速制御)の際に、機敏な変速動作を実現させるため変速速度を高め、変速指令の出力に対する実際の変速比の変化の応答性を向上させた変速制御のことである。したがって、ステップ変速(マニュアルシフト制御あるいは模擬自動変速制御)による変速制御が実行される場合における変速速度の大小によって高応答変速であるか否かを判断することができる。
エンジントルクアップ・トルクダウン制御が併用される高応答変速でないことによって、このステップS3で否定的に判断された場合は、以降の制御はおこなわずにこのルーチンを一旦終了する。一方、高応答変速であることによって、ステップS3で肯定的に判断された場合には、ステップS4へ進み、ステップ変速による変速が開始されるか否かが判断される。ステップ変速による変速の開始が検出されたことによって、このステップS4で肯定的に判断された場合は、ステップS5へ進み、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が、ロックアップ・完全オフの状態であるか否かが判断される。ロックアップ・完全オフの状態とは、ロックアップクラッチ4の伝達トルク容量が零である完全解放状態のことである。
ロックアップクラッチ4がロックアップ・完全オフすなわち完全解放状態であることによって、このステップS5で肯定的に判断された場合は、ステップS6へ進み、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態がロックアップ・オンの状態に変更されることが禁止され、言い換えると、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が完全解放状態に維持されて、その後、このルーチンを一旦終了する。このロックアップクラッチ4の完全解放状態の維持は、後述するように、このステップ変速による変速が完了するまで継続される。また、ここで、ロックアップ・オンの状態とは、ロックアップクラッチ4の伝達トルク容量が最大となる完全係合状態、あるいは完全係合状態と完全解放状態との中間の状態であるスリップ係合状態(半係合状態)のことである。
一方、ロックアップクラッチ4がロックアップ・完全オフすなわち完全解放状態でないことによって、前述のステップS5で肯定的に判断された場合には、ステップS7へ進み、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が、ロックアップ・完全オンの状態であるか否かが判断される。ロックアップ・完全オンの状態とは、ロックアップクラッチ4の伝達トルク容量が最大となる完全係合状態のことである。
ロックアップクラッチ4がロックアップ・完全オンすなわち完全係合状態であることによって、このステップS7で肯定的に判断された場合は、ステップS8へ進み、その時点のステップ変速による変速がダウンシフトであるか否かが判断される。ステップ変速による変速がダウンシフトでない、すなわちアップシフトであることによって、このステップS8で否定的に判断された場合は、ステップS9へ進み、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態がロックアップ・オフの状態に変更されることが禁止され、言い換えると、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が完全係合状態に維持されて、その後、このルーチンを一旦終了する。このロックアップクラッチ4の完全係合状態の維持は、後述するように、このステップ変速による変速が完了するまで継続される。また、ここで、ロックアップ・オフの状態とは、ロックアップクラッチ4の完全解放状態、あるいはスリップ係合状態(半係合状態)のことである。
一方、前述のステップS8において、ステップ変速による変速がダウンシフトであることによって肯定的に判断された場合には、ステップS10へ進み、その時点のエンジン1の制御状態がアイドル・オフの状態であるか否か、もしくはその時点の車速が予め定められた所定値αよりも大きいか否かが判断される。そして、その時点のエンジン1の制御状態がアイドル・オフの状態であること、もしくはその時点の車速が所定値αよりも大きいことによって、このステップS10で肯定的に判断された場合は、前述のステップS9へ進み、同様に、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が完全係合状態に維持されて、その後、このルーチンを一旦終了する。
これに対して、その時点のエンジン1の制御状態がアイドル・オンの状態であり、かつその時点の車速が所定値α以下であることによって、ステップS10で否定的に判断された場合には、ステップS11へ進み、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態がロックアップ・オフの状態すなわち完全解放状態あるいはスリップ係合状態(半係合状態)に変更されることの禁止が解除されて、言い換えると、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が完全解放状態もしくはスリップ係合状態(半係合状態)に変更されることが許可されて、その後、このルーチンを一旦終了する。
無段変速機6の変速比がステップ変速により制御される際に、その変速がダウンシフトであって、その時点エンジン1の制御状態がアイドル・オンの状態であり、かつその時点の車速が所定値α以下の低車速である場合に、ロックアップクラッチ4が完全係合状態にされると、エンジン1の発生トルクに対して被駆動軸のトルクが上回ってエンジン回転数が落ち込み、エンジン1がストールしてしまう場合がある。そこで、上述のステップS8,S10,S11において、ステップ変速によるダウンシフト時に、エンジン1がアイドリング状態にあり車速が所定値α以下の低車速である場合には、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態がロックアップ・オフの状態に変更されることの禁止が解除されることにより、すなわち、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が完全係合状態に維持されることが解除されることにより、言い換えると、ロックアップ・オフの状態すなわち完全解放状態もしくはスリップ係合状態(半係合状態)にされることが許可されることにより、その場合のエンジン1のストールを回避することができる。
また、前述のステップS7において、ロックアップクラッチ4がロックアップ・完全オンすなわち完全係合状態でないことによって否定的に判断された場合、すなわちロックアップクラッチ4が完全係合状態でなくかつ完全解放状態でない場合、言い換えると、ロックアップクラッチ4が完全係合状態と完全解放状態との間の過渡状態であるスリップ係合状態(半係合状態)である場合は、ステップS12へ進み、その時点のロックアップクラッチ4の係合・解放状態を制御する油圧の保持が開始される。すなわち、ロックアップクラッチ4が係合・解放の過渡状態すなわちスリップ係合状態である場合には、その状態を維持するように油圧の保持が開始される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
このロックアップクラッチ4のスリップ係合状態を維持するための油圧の保持は、後述するように、このステップ変速による変速が完了するまで継続される。また、トルクアップ・トルクダウン制御のトルク要求量は、例えば図2に示すような、ステップ変速の各変速毎に予め定められたマップに基づいて制御される。したがって、例えば上記のようなロックアップクラッチ4のスリップ係合状態を維持している時のトルク要求量は、その変速におけるロックアップクラッチ4が完全係合状態の場合のマップと、ロックアップクラッチ4が完全解放状態の場合のマップとから演算(例えば比例計算)することによって求められる値に基づいて実行される。
上記に示した各ステップによる制御が順次実行される間に、前述のステップS4で、ステップ変速による変速の開始が検出されないことによって否定的に判断された場合には、ステップS13へ進み、ステップ変速による変速が終了されたか否かが判断される。ステップ変速による変速の終了が未だ検出されないことによって、このステップS13で否定的に判断された場合は、このルーチンを一旦終了する。すなわち、ステップ変速による変速が終了するまで、上記に示した各ステップによる制御が繰り返し実行される。
一方、ステップ変速による変速の終了が検出されたことによって、ステップS13で肯定的に判断された場合には、ステップS14へ進み、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態が、ロックアップ・オンの状態すなわち完全係合状態あるいはスリップ係合状態(半係合状態)に変更されることの禁止、すなわち完全解放状態に維持されることと、ロックアップ・オフの状態すなわち完全解放状態あるいはスリップ係合状態(半係合状態)に変更されることの禁止、すなわち完全係合状態に維持されることとが解除されるとともに、ロックアップクラッチ4のスリップ係合状態を維持するための油圧の保持が終了される。言い換えると、ロックアップクラッチ4の係合・解放状態を維持させることが終了される。そしてその後、このルーチンを一旦終了する。
したがって、このルーチンでは、無段変速機6でのステップ変速による変速の開始が検出された場合、そのステップ変速による変速の終了が検出されるまで、ステップ変速による変速の開始が検出された時点のロックアップクラッチ4の係合・解放状態が維持される。
以上のように制御が実行されることによって、無段変速機6のステップ変速が行われる際に、そのステップ変速に伴うエンジン1の慣性トルク(イナーシャトルク)の変化に伴う変速ショックを抑制するためにエンジン1のトルクアップ・トルクダウン制御をおこなう場合、ステップ変速が開始された時点のロックアップクラッチ4の係合・解放状態が検出され、その係合・解放状態がステップ変速が終了されるまで維持される。また、その場合に、ステップ変速が開始された時点で検出されたロックアップクラッチ4の係合・解放状態が係合・解放の過渡状態であるスリップ係合状態であっても、そのステップ変速が開始された時点のスリップ係合状態が、ステップ変速が終了されるまで維持される。そのため、ロックアップクラッチ4の係合・解放制御と、ステップ変速に伴うショックを低下するためのエンジン1のトルクアップ・トルクダウン制御とが不適合状態となることを回避し、無段変速機6のステップ変速に伴う変速ショックを防止もしくは抑制することができる。
さらに、ステップ変速が行われる際にエンジン1のトルクアップ・トルクダウン制御をおこなう場合に、ステップ変速が開始された時点で検出されたロックアップクラッチ4の係合・解放状態が完全係合状態であった場合に、エンジン1がアイドル状態であり、かつ車速が所定値α以下である場合には、その完全係合状態が維持されない。そのため、エンジン1がアイドル状態であり、かつ車速が所定値α以下の低車速である場合に、ロックアップクラッチ4が完全係合状態にされることにより、エンジン1の発生トルクに対して被駆動側のトルクが上回ってエンジン1の回転数が低下し、その結果エンジン1がストールしてしまうことを回避することができる。
ここで、上述した具体例とこの発明との関係を簡単に説明すると、上述したステップS1ないしS4、およびステップS13,S14の機能的手段が、この発明のステップ変速検出手段に相当し、ステップS5,S7の機能的手段が、この発明のロックアップ状態検出手段に相当する。また、ステップS6,S9、S12の機能的手段が、この発明のロックアップ状態維持手段に相当し、このうち、ステップS12の機能的手段が、この発明の請求項2におけるロックアップ状態維持手段に相当する。そして、ステップS8,S10,S11の機能的手段が、この発明の請求項1におけるロックアップクラッチの係合状態の維持を禁止する手段に相当する。
なお、この発明は、上記の具体例に限定されないのであって、無段変速機はベルト式以外にトロイダル型のものであってもよい。また、動力源の出力トルクを変化させる手段は上記の電子スロットルバルブが一般的であるが、この発明ではこれに限らず、点火時期制御やハイブリッド車では電動機によるトルク制御などを単独で使用し、もしくは電子スロットルバルブの制御と併用してもよい。
また、上記の具体例では、ロックアップクラッチの係合・解放状態を検出している例を示しているが、ロックアップクラッチの伝達トルク容量、係合圧、あるいは係合油圧を検出してロックアップクラッチの係合・解法状態を判断してもよい。