JP2012067786A - 摩擦伝動ベルト - Google Patents

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Abstract

【課題】高い伝達性能を有し、耐発音性能に優れると共に、耐屈曲疲労性、耐摩耗性に優れた摩擦伝動ベルトを提供する。
【解決手段】摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層1の形成に用いられるゴム組成物にはエチレン含量が50〜65重量%のエチレン−α−オレフィンエラストマーと補強用短繊維4とが配合されている。ゴム組成物中の補強用短繊維4を除くエチレン−α−オレフィンエラストマーの重量分率は45〜60%であると共に、補強用短繊維4はエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して5〜50重量部配合されている。補強用短繊維4は圧縮ゴム層1中にベルト幅方向に配向して含有されていると共に、圧縮ゴム層1を構成するゴム層の補強用短繊維4の配向方向に対して直角な方向における動的粘弾性測定で得られる0〜120℃の損失正接tanδが0.1以上、0.2以下である。
【選択図】図1

Description

本発明は、動力伝動に用いられる摩擦伝動ベルトに関するものである。
近年の自動車用及び2輪用エンジンは、特に省燃費化が重視されている。このため、動力伝動に用いられるVベルトやVリブドベルトなどの摩擦伝動ベルトにおいて高伝達性能の要求が高まっている。
また自動車のエンジンルームの縮小化などに伴って、摩擦伝動ベルトを使用する環境温度が高くなっている。そして摩擦伝動ベルトを構成するゴムとして、従来はクロロプレンゴムが使用されていたが、このような環境温度の高温化に対処するために、最近では耐熱性に優れたエチレン−α−オレフィンエラストマーを用いて摩擦伝動ベルトを作製することが行なわれている。
そして例えば特許文献1の発明では、摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層に、エチレン−α−オレフィンエラストマー、短繊維、カーボンブラック、金属炭酸塩及び/又は金属珪酸塩からなる無機充填剤を含有し、周波数10Hz、温度0℃における引張モードの動的粘弾性測定で得られたtanδが0.080以上としたゴム組成物を用いることが提案されている。
特開2006−64174号公報
上記の特許文献1の発明では、圧縮ゴム層に上記のようなゴム組成物を用いることによって、スティックスリップやミスアライメントによる発音を防止するようにしている。
このように特許文献1の発明はスティックスリップやミスアライメントによる発音を防止する効果を有するものであるが、特許文献1には摩擦伝動ベルトの伝達性能についての言及はなく、摩擦伝動ベルトの伝達性能を高めることが望まれるのが現状である。
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、高い伝達性能を有し、さらに耐発音性能に優れると共に、耐屈曲疲労性、耐摩耗性に優れた摩擦伝動ベルトを提供することを目的とするものである。
本発明に係る摩擦伝動ベルトは、圧縮ゴム層1を有するベルト本体にベルト長手方向に沿って心線2が埋設された摩擦伝動ベルトであって、圧縮ゴム層の形成に用いられるゴム組成物にはエチレン含量が50〜65重量%のエチレン−α−オレフィンエラストマーと補強用短繊維とが配合されており、ゴム組成物中の補強用短繊維を除くエチレン−α−オレフィンエラストマーの重量分率は45〜60%であると共に、補強用短繊維はエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して5〜50重量部配合されており、補強用短繊維は圧縮ゴム層中にベルト幅方向に配向して含有されていると共に、圧縮ゴム層を構成するゴム層の補強用短繊維の配向方向に対して直角な方向における動的粘弾性測定で得られる0〜120℃の損失正接tanδが0.1以上、0.2以下であることを特徴とするものである。
耐熱性に優れたエチレン−α−オレフィンエラストマーを用いて圧縮ゴム層1を形成するにあたって、圧縮ゴム層1のゴムの動的粘弾性測定で得られる0〜120℃での損失正接tanδが0.1以上、0.2以下の範囲であることによって、低温域から高温域に至るまで良好な伝達性能を得ることができるものである。そしてエチレン−α−オレフィンエラストマーの重量分率が45〜60%であることによって、損失正接tanδを低温域から高温域に至るまで0.1以上、0.2以下の範囲に保持することができ、伝達性能が低下することを防ぐことができるものである。
また本発明において、エチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量が50〜65重量%の範囲であることによって、耐摩耗性や耐屈曲疲労性に優れた動力伝動用ベルトを得ることができるものである。
さらに本発明において、補強用短繊維がエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して5〜50重量部の範囲で配合されていることによって、伝達性能を維持しつつ耐発音性や耐摩耗性を向上することができるものである。
また本発明において、上記のゴム組成物には、金属炭酸塩と金属珪酸塩の少なくとも一方からなる充填剤を含まないことを特徴とするものである。
ゴム組成物に金属炭酸塩や金属珪酸塩からなる充填剤を含有していると、伝達ロスが大きくなるが、これらの充填剤を配合しないことによって、伝達性能を高く維持することができるものである。
そして本発明は、被水時の耐発音性を保持しつつ、伝達性能を向上したVリブドベルトを得ることができるものである。
また本発明は、伝達性能を向上したVリブドベルトを得ることができるものである。
本発明によれば、耐熱性に優れたエチレン−α−オレフィンエラストマーを用いて圧縮ゴム層1を形成するにあたって、圧縮ゴム層1のゴムの動的粘弾性測定で得られる0〜120℃での損失正接tanδが0.1以上、0.2以下の範囲に設定されるようにしたので、低温域から高温域に至るまで良好な伝達性能を得ることができるものであり、そしてエチレン−α−オレフィンエラストマーの重量分率が45〜60%のゴム組成物を用いるようにしたので、損失正接tanδを低温域から高温域に至るまで0.1以上、0.2以下の範囲に保持することができ、伝達性能が低下することを防ぐことができるものである。
また本発明において、エチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量が50〜65重量%の範囲であることによって、耐摩耗性や耐屈曲疲労性に優れた動力伝動用ベルトを得ることができるものであり、さらに補強用短繊維がエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して5〜50重量部の範囲で配合されていることによって、伝達性能を維持しつつ耐発音性や耐摩耗性を向上することができるものである。
本発明の実施の形態を示すものであり、(a)はVリブドベルトの断面図、(b)はVベルトの断面図である。
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1(a)は摩擦伝動ベルトの一例としてVリブドベルトを示すものであり、接着ゴム層3の内周側に弾性体層である圧縮ゴム層1を積層して環状のベルト本体Aが形成されるものである。接着ゴム層3にはベルト長手方向に沿って高強度で低伸度のコードよりなる心線2が埋設してあり、また圧縮ゴム層1の内周面には断面V字型(逆台形)の複数のリブ部7がベルト長手方向に沿って設けてある。またベルト本体Aの外周面であるベルト背面には、織物、不織布、編物などで形成される補強布5が積層してある。
また図1(b)は、摩擦伝動ベルトの他の一例としてVベルトを示すものであり、心線を埋設した接着ゴム層3の内周側に圧縮ゴム層1を積層して環状のベルト本体Bが形成されるものである。ベルト本体Bは全体の断面形状が略V字形(逆台形)に形成されるものであり、ベルト外周面に補強布5、ベルト内周面に下補強布8がそれぞれ積層してある。
摩擦伝動ベルトにおいて、上記の接着ゴム層3や圧縮ゴム層1はゴム組成物を成形して作製されるが、少なくとも圧縮ゴム層1の成形に用いられるゴム組成物のゴム成分としては、エチレン−α−オレフィンエラストマーが用いられるものである。このエチレン・α−オレフィンゴムとしては、エチレンとα−オレフィン(プロピレン、ブテン、ヘキセン、あるいはオクテンなど)の共重合体、あるいは、エチレンと上記α−オレフィンと非共役ジエンの共重合体などを用いることができる。このジエン成分としては、エチリデンノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1,4−ヘキサジエン、シクロオクタジエン、メチレンノルボルネンなどの炭素原子数5〜15の非共役ジエンが挙げられる。具体的にはエチレン−プロピレンゴム(EPM)、エチレン−プロピレン−ジエン・ターポリマー(EPDM)などが用いられるが、EPDMがより好ましい。
上記の圧縮ゴム層1に用いられるゴム組成物には、エチレン−α−オレフィンエラストマーの架橋用に、硫黄や有機過酸化物を配合することができる。有機過酸化物としては具体的には、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルクミルパーオキサイド、1.1−t−ブチルペロキシ−3.3.5−トリメチルシクロヘキサン、2.5−ジ−メチル−2.5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン、2.5−ジ−メチル−2.5−ジ(t−ブチルペロキシ)ヘキサン−3、ビス(t−ブチルペロキシジ−イソプロピル)ベンゼン、2.5−ジ−メチル−2.5−ジ(ベンゾイルペロキシ)ヘキサン、t−ブチルペロキシベンゾアート、t−ブチルペロキシ−2−エチル−ヘキシルカーボネートなどを挙げることができ、熱分解による1分間の半減期が150〜250℃のものが好ましい。この有機過酸化物の配合量は、単独もしくは混合物として、エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して好ましくは1〜8重量部であり、更に好ましくは1.5〜4重量部である。
また圧縮ゴム層1に用いられるゴム組成物には加硫促進剤を配合しても良い。加硫促進剤としてはチアゾール系、チウラム系、スルフェンアミド系の加硫促進剤を例示することができ、チアゾール系加硫促進剤としては、具体的に2−メルカプトベンゾチアゾール、2−メルカプトチアゾリン、ジベンドチアジル・ジスルフィド、2−メルカプトベンゾチアゾールの亜鉛塩等があり、チウラム系加硫促進剤としては、具体的にテトラメチルチウラム・モノスルフィド、テトラメチルチウラム・ジスルフィド、テトラエチルチウラム・ジスルフィド、N,N’−ジメチル−N,N’−ジフェニルチウラム・ジスルフィド等があり、またスルフェンアミド系加硫促進剤としては、具体的にN−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド、N,N’−シクロヘキシル−2−ベンゾチアジルスルフェンアミド等がある。また、他の加硫促進剤としては、ビスマレイミド、エチレンチオウレアなども使用できる。これら加硫促進剤は単独で使用してもよいし、2種以上の組み合わせで使用してもよい。
さらに、架橋助剤(co−agent)を配合することによって、架橋度を上げて粘着摩耗等の問題を防止することができる。架橋助剤として挙げられるものとしては、TIAC、TAC、1,2ポリブタジエン、不飽和カルボン酸の金属塩、オキシム類、グアニジン、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、N−N’−m−フェニレンビスマレイミド、硫黄など通常パーオキサイド架橋に用いるものである。
また圧縮ゴム層1に用いられるゴム組成物には、さらにカーボンブラック、パラフィンオイル、酸化亜鉛、ステアリン酸などを配合することができる。
本発明においてこの圧縮ゴム層1に用いられるゴム組成物には、補強用短繊維4が配合してある。補強用短繊維4としては、ポリエステル、綿、アラミド、ポリアミドなどの短繊維を用いることができ、なかでも6ナイロン、66ナイロン、610ナイロン等のポリアミド短繊維が好ましい。補強用短繊維4は、図1に示すように、繊維の長手方向がベルト幅方向と平行になるよう、ベルト幅方向に配向して圧縮ゴム層1に含有されるものであり、切断端面である圧縮ゴム層1の側面から補強用短繊維4の端部が露出している。このように圧縮ゴム層1の側面から補強用短繊維4の端部が露出していることによって、摩擦伝動ベルトがプーリとスリップする際に発生する異音を低減することができるものであり、耐発音性のためには、短繊維種として66ナイロンが特に好ましく、被水時の発音を考慮すると綿を併用するのが好ましい。勿論、短繊維種としてこれらに限定されるものではない。補強用短繊維4の繊維長は、特に限定されるものではないが、1〜8mm程度の範囲のものが好ましく、またその太さは5〜10デニール程度のものが好ましい。
補強用短繊維4のゴム組成物中の配合量は、エチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して5〜50重量部の範囲に設定されるものである。補強用短繊維4の配合量が5重量部未満であると、耐発音性が低下すると共に圧縮ゴム層1の表面の耐摩耗性も低下するおそれがある。逆に補強用短繊維4の配合量が50重量部を超えると、圧縮ゴム層1の表面の摩擦係数が低くなり、プーリとの間で滑りが生じ易くなって伝達性能が低下するおそれがある。従って、伝達性能を高く維持しつつ、耐発音性や耐摩耗性を向上するために、補強用短繊維4の配合量は5〜50重量部の範囲に設定されるものである。
そして本発明では、圧縮ゴム層1の動的粘弾性において、圧縮ゴム層1を形成しているゴム層の補強用短繊維の配向方向に対して直角な方向における動的粘弾性測定で得られる0〜120℃での損失正接tanδを、0.1以上、0.2以下の範囲に設定するものである。動的粘弾性の測定は、摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層1から試料を採取し、あるいは、摩擦伝動ベルトの圧縮ゴム層1を成形するゴム組成物のゴムシートを、摩擦伝動ベルトを成形する条件と同じ条件で成形して作製した加硫シートから試料を採取し、予備伸長率を2.0%とし、動歪みを1.0%、周波数10Hzでの引張モードで行なった。
ここで、摩擦伝動ベルトにおいて、圧縮ゴム層1(特にリブ部7)はベルトが屈曲すると補強用短繊維4の配向方向に対して直角な方向(ベルト幅方向に対して直角な方向)に伸張・圧縮することになる。また圧縮ゴム層1は屈曲と同時にプーリの溝内に押し込まれ、圧縮ゴム層1の表面に沿ってズリの応力も加えられ、このズリによっても同様に補強用短繊維4の配向方向に対して直角方向に圧縮ゴム層1は伸張・圧縮されることになる。そしてベルト屈曲やズリに対して圧縮ゴム層1の損失正接tanδが大きいということは、心線2を中心に回転するベルトに対して、圧縮ゴム層1が屈曲やズリ応力によって損失するエネルギーが大きくなり、その結果、プーリに伝達するエネルギーが小さくなることになって、伝達性能が低下することになる。よって圧縮ゴム層1においては補強用短繊維4の配向に対して直角方向の粘弾性が重要な特性となるものであり、本発明では、補強用短繊維4の配向方向に対して直角な方向における損失正接tanδを測定して評価するものである。
摩擦伝動ベルトは、圧縮ゴム層1とプーリの間の摩擦力と、ベルト張力による圧縮ゴム層1のプーリへの押し付け力により伝達を行なうものであるが、本発明ではこの圧縮ゴム層1からプーリへ伝える押し付け力を効率良く伝達することによって、伝達性能を向上するようにしているものであり、このために粘弾性特性で得られる損失正接tanδを上記のように制御するようにしている。
すなわち、低温域ではゴム組成物中の配合剤、特に補強剤の摩擦により熱エネルギーの損失が発生し、つまり損失粘性率(E”)は高くなることになり、これにより、圧縮ゴム層1によるプーリに伝達するべき押し付け力は損失することとなる。よって低温域においては損失粘性率(E”)が低くなるように弾性率を高く保持するのが好ましく、この結果、損失正接tanδは低いことが好ましい。
逆に高温域では弾性率が低下するために、同時に粘性率も低下する傾向にあり、この結果、損失正接tanδは低下する。しかし、高温域においても良好な伝達性能を得るためにベルト張力が必要であって、弾性率の低下は小さいことが好ましいものであり、つまりは常温域からの損失正接tanδの変化は小さい方が好ましい。
このように低温域から高温域の0〜120℃において、損失正接tanδが0.1以上、0.2以下の範囲に収まるように、損失正接tanδの変化の小さい特性に圧縮ゴム層1を形成したものである。低温域で損失正接tanδが0.2を超えると、圧縮ゴム層1によるプーリへの押し付け力が損失し、また高温域で損失正接tanδが0.1未満であると、ベルト張力が不足し、いずれも伝達性能を向上させることができない。従って、高伝達性能を有する摩擦伝動ベルトを得るためには、圧縮ゴム層1の動的粘弾性測定で得られる0〜120℃での損失正接tanδが0.1以上、0.2以下の範囲であることが必要である。
ここで本発明では、圧縮ゴム層1の形成に用いられる上記のゴム組成物において、補強用短繊維4を除くゴム組成物中のエチレン−α−オレフィンエラストマーの重量分率(ポリマー重量分率)は45〜60%の範囲に設定されるものである。このようにエチレン−α−オレフィンエラストマーの重量分率を規定することによって、損失正接tanδの温度依存性の影響を少なくすることができるものである。すなわち、エチレン−α−オレフィンエラストマーのポリマー重量分率が45%未満であると、低温域の損失正接tanδが大きくなる傾向にあり、伝達性能が損なわれることになる。逆にエチレン−α−オレフィンエラストマーのポリマー重量分率が60%を超えると、高温域の損失正接tanδが小さくなる傾向にあり、つまり弾性率が低下して伝達性能に悪影響を及ぼすことになる。
また上記のエチレン−α−オレフィンエラストマーとしては、エチレン含量が50〜65重量%であるものを用いるものである。ポリマー重量分率を上記のように設定するにあたって、圧縮ゴム層1の耐摩耗性と耐屈曲疲労性(耐久性)の両方の特性を得るために、エチレン含量は50〜65重量%の範囲に設定されるものであり、55〜62重量%の範囲がより好ましい。エチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量がこの範囲未満であると、耐摩耗性が低下するおそれがあり、逆にエチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量がこの範囲を超えて多いと、耐屈曲疲労性が低下し、特に耐久性の低温特性の低下が確認されるものであり、また加工性にも問題が生じるおそれがある。
ここで、エチレン−α−オレフィンエラストマーはエチレン含量が70重量%以上では結晶化が顕著となり、弾性率は高く、つまり損失正接tanδは低くなるが、加工性及び低温特性が低下する。本発明ではこれらを加味してエチレン含量を50〜65重量%として結晶化を抑制しつつも、低温域0℃以上では弾性率を高く保持するようにしているものである。しかし40℃以上になると結晶質は溶融して加硫ゴムの強度は低下し、弾性率は低下する傾向が表れ、その傾向は高温域120℃まで示されるので、低温域0℃から高温域120℃における弾性率は高く保持することが好ましく、つまり損失正接は低く且つ変化の小さいことが望ましいことが理解される。
また、既述のように引用文献1の発明では、圧縮ゴム層1を形成するゴム組成物に、炭酸カルシウムなどの金属炭酸塩や、クレーなどの金属珪酸塩からなる無機充填剤が含有されている。しかしこのように金属炭酸塩や金属珪酸塩からなる無機充填剤を圧縮ゴム層1中に含有していると、これらはカーボンブラックと比べて補強性が乏しいために、損失正接tanδが0.2を超えることになり、伝達ロスが大きく発生する。このために本発明では、圧縮ゴム層1中に金属炭酸塩や金属珪酸塩からなる無機充填剤が含有されないようにして、損失正接tanδが高くなることを防ぎ、伝達性能が低下しないようにしている。
次に、接着ゴム層3を作製するゴム組成物としては、任意のものを用いることができるが、上記の圧縮ゴム層4のゴム組成物と同種のものを使用することもできる。この接着ゴム層3には上記のような補強用短繊維4を混入していても、混入していなくてもいずれでもよいが、接着性を考慮すると補強用短繊維4は混入しないほうが望ましい。
また、接着ゴム層3に埋入される心線2としては、ポリアリレート繊維、ポリブチレンテレフタレート(PBT)繊維、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維などのポリエステル繊維、アラミド繊維、ガラス繊維などの高強度・低伸度のコードを用いることができる。心線2にはゴムとの接着性を向上させる目的で接着処理を施すのが好ましい。このような接着処理としては、心線2をレゾルシン−ホルムアルデヒド−ラテックス液(RFL液)などの処理液に浸漬して加熱乾燥することによって行なうことができる。
さらに補強布5や下補強布8としては、綿、ポリエステル繊維、アラミド繊維、ナイロン繊維等を平織り、綾織り、朱子織りなどした布を用いることができるものであり、補強布5や下補強布8は、RFL処理を行なった後に、ゴム組成物をコーティングしたゴム付き帆布として使用するのが好ましい。
次に、図1(a)に示すようなVリブドベルトを製造する方法の一例を説明する。まず円筒状のドラムの外周に補強布5を巻き付け、この上に接着ゴム層3用のゴム組成物をシート状に成形した未加硫のゴムシートを巻き付けた後、この上に心線2を螺旋状に巻き付ける。さらにこの上に圧縮ゴム層1用のゴム組成物をシート状に成形した未加硫のゴムシートを巻き付ける。次にこの円筒状ドラムを加硫ドラムに入れて加硫を行なうことによって各ゴムシートを加硫させ、筒状の加硫スリーブを得る。この後に、加硫スリーブを駆動ロールと従動ロールの間に懸架して走行回転させながら、加硫スリーブの外周の圧縮ゴム層1に切削ホイールを接触させてV溝を切削・研磨加工することによって、リブ部7を形成する。そしてこの加硫スリーブを輪切りするように所定幅寸法で切断すると共に、内周と外周を裏返すことによって、図1(a)に示すようなVリブドベルトとして仕上げることができるものである。
次に、本発明を実施例によって具体的に説明する。
(実施例1〜4、比較例1〜5)
エチレン・α−オレフィンエラストマーとして、EPDM(ダウケミカル社製「Nordel IP 3640」:エチレン含量55重量%)を用い、表1の配合量で各材料を配合し、これをバンバリーミキサーにより混練することによって、実施例1〜4及び比較例1〜5の圧縮ゴム層1用のゴム組成物を得た。そしてこのゴム組成物をカレンダーロールで圧延することによって、圧縮ゴム層1形成用の未加硫ゴムシートを得た。
また、短繊維を配合せず、心線との接着を強固とするためにシリカを配合するようにした他は、基本的に表1の実施例1と同じ配合量で各材料を配合し、これをバンバリーミキサーにより混練することによって、接着ゴム層3用のゴム組成物を得た。そしてこのゴム組成物をカレンダーロールで圧延することによって、接着ゴム層3形成用の未加硫ゴムシートを得た。
Figure 2012067786
そして、表面が平滑な円筒状の成形モールドに、補強布5としてゴム付き綿帆布を巻き付け、その上に接着ゴム層3形成用の未加硫ゴムシートを巻き付けた後、その上にポリエステル繊維のロープからなる心線2(PET心線)をスピニングした。更にその上に圧縮ゴム層1形成用の未加硫ゴムシートを巻き付けた。次に成形モールドを加硫缶内に入れて加硫した。次にこのように加硫して得られた筒状の加硫スリーブを成形モールドから取り出し、加硫スリーブの圧縮ゴム層1をグラインダーにより研削して複数のリブ部7を形成した後、カッターで輪切りするように所定幅で切断することによって、図1に示すようなVリブドベルトに仕上げた。ここで、圧縮ゴム層1形成用の未加硫ゴムシートにおいて、補強用短繊維4はカレンダーロールに通す方向に沿って配向しており、この未加硫ゴムシートを補強用短繊維4の配向方向が成形モールドの円周方向と直交するように巻き付け、この状態で加硫成形するようにした。この結果、圧縮ゴム層1に含まれる補強用短繊維4はベルト幅方向に配向していた。
上記のように作製したVリブドベルトについて、圧縮ゴム層1の動的粘弾性を測定した。ここで測定装置は、(株)上島製作所製動的粘弾性測定機「VR−7121」を用い、測定条件を、温度:−50〜150℃、予備伸張率:2%、動的歪:1%、周波数:10Hz(正弦波)、モード:引張りモードに設定して行なった。そして測定試料を、研削する前の加硫スリーブの圧縮ゴム層から2mmの厚みのシート状に採取し、このシートをダンベル(縦×横=40mm×4mm)を用いて、補強用短繊維の配向方向が試料の横手方向に並ぶよう打ち抜いて作製することによって、補強用短繊維の配向方向に対して直角な方向の動的粘弾性を測定した。結果を表2に示す。
また上記のように作製したVリブドベルトについて、伝達ロス試験を行なった。伝達ロス試験は、直径55mmの駆動プーリと従動プーリの間にVリブドベルトを懸架し、張力110N/リブ、回転数2000rpmの条件でベルトを走行駆動させたときの、駆動プーリと従動プーリのそれぞれのトルクを測定することによって行ない、駆動プーリと従動プーリのトルク値の差を伝達ロスとして求めた。但し、軸受による伝達ロス値は予め金属ベルトで測定した値を補正値として補正した。結果を表2に示す。
また上記のように作製したVリブドベルトについて、ミスアライメント発音の試験を行なった。すなわち、直径125mmの駆動プーリ、直径125mmの従動プーリ、直径60mmのテンションプーリを配置し、駆動プーリと従動プーリの軸離を212mmに設定すると共に、駆動プーリと従動プーリを所定角度のミスアライメントに調節した。そして各プーリ間にVリブドベルトを懸架し、室温条件下で、ベルト張力が6kgf(59N)/リブになるように駆動プーリに荷重を付加し、駆動プーリの回転数を1000rpmに設定して走行駆動した。そしてこのようにミスアライメントで走行させた際に、発音が発生するときの角度(発音限界角度)を求めた。結果を表2に示す。
Figure 2012067786
表2にみられるように、エチレン−α−オレフィンエラストマーのポリマー重量分率が45〜60%の範囲にある各実施例のものは、圧縮ゴム層の0〜120℃での損失正接tanδが0.1以上、0.2以下の範囲であり、伝達ロスを狙いとする0.45N/m以下に抑えることができ、伝達性能を高く得ることができることが確認される。またミスアライメント発音評価において、各実施例のものは、発音限界角度が1.7°以上を示すものであり、良好な結果を得ることができるものであった。
一方、比較例1はエチレン−α−オレフィンエラストマーのポリマー重量分率が60%を超えるため、高温120℃での損失正接tanδが0.1を下回るものであった。これは、温度依存によって弾性率が低下したためであり、この結果、十分に圧縮ゴム層1が動力をプーリに伝達できなくなって伝達ロスが大きく発生するものであった。また比較例2はエチレン−α−オレフィンエラストマーのポリマー重量分率が45%未満と低いため、損失正接tanδは0.2を上回るものであり、伝達ロスも高く発生するものであった。さらに比較例2は補強用短繊維4の量が少ないため、発音性が劣る結果となった。逆に比較例3では、補強用短繊維4の配合量が過多であるため、摩擦係数が低下し、このために伝達ロスも大きくなり、伝達性能が低下するものであった。さらに、比較例4,5にみられるように、炭酸カルシウムやクレーなどの無機充填剤を配合することによって、損失正接tanδは0.2を超えて高くなり、伝達ロスも高くなるものであった。
(実施例5〜7、比較例6〜7)
EPDMとして、実施例5では住友化学工業(株)製「エスプレン501A」(エチレン含量52重量%)、実施例6ではJSR社製「EP−43」(エチレン含量56重量%)、実施例7ではLANXESS社製「Buna EPT6250」(エチレン含量62重量%)、比較例6ではLANXESS社製「Buna EPG3440」(エチレン含量48重量%)、比較例7ではLANXESS社製「Buna EPT6470」(エチレン含量68重量%)を用い、表3の配合量で各材料を配合し、上記実施例1と同様にして圧縮ゴム層1形成用の未加硫ゴムシートを得た。
そしてこの圧縮ゴム層1形成用の未加硫ゴムシートを用いて、上記実施例1と同様にしてVリブドベルトを作製した。
上記のように作製したVリブドベルトについて、6%スリップ摩耗試験を行なった。すなわち、直径80mmの駆動プーリ、直径80mmの従動プーリ、直径120mmのテンションプーリを配置し、各プーリにVリブドベルトを懸架した。そしてベルトのテンションプーリへの巻き付け角度を90°とし、室温条件下で、駆動プーリの回転数を3300rpm、従動プーリのトルクを0.7kg・m(6.9N・m)に設定し、ベルトスリップ率が6%になるようにベルト張力を自動調整しながら24時間走行させた。このときの、走行試験前後のベルト重量を測定し、ベルト重量減(走行試験前ベルト重量−走行試験後ベルト重量)を摩耗量として算出して、耐摩耗性を評価した。尚、配合によって比重が異なるので、表3では(ベルト重量減/比重)により体積換算して摩耗量を示す。
また上記のように作製したVリブドベルトについて、ゲーマンねじり試験を行なった。ゲーマンねじり試験はJIS K6261に準拠して行なった。結果を表3に示す。
Figure 2012067786
表3にみられるように、実施例5〜6ではエチレン含量が50〜65重量%の範囲のエチレン−α−オレフィンエラストマーを用いるので、摩耗量は0.80cmの狙い以下の数値であって、高い耐摩耗性を得ることができるものであり、またゲーマンねじり試験で低い温度特性を示し、低温での耐屈曲疲労性も高いものであった。
一方、比較例6ではエチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量が50重量%未満と低いため、耐摩耗性が低い結果を示すものであった。また比較例7ではエチレン−α−オレフィンエラストマーのエチレン含量が65重量%を超えて高いため、耐摩耗性は良好であるものの、低温での耐屈曲疲労性が低く、耐寒性が劣る結果を示すものであった。
1 圧縮ゴム層
2 心線
4 補強用短繊維
A Vリブドベルトのベルト本体
B Vベルトのベルト本体

Claims (4)

  1. 圧縮ゴム層を有するベルト本体にベルト長手方向に沿って心線が埋設された摩擦伝動ベルトであって、圧縮ゴム層の形成に用いられるゴム組成物にはエチレン含量が50〜65重量%のエチレン−α−オレフィンエラストマーと補強用短繊維とが配合されており、ゴム組成物中の補強用短繊維を除くエチレン−α−オレフィンエラストマーの重量分率は45〜60%であると共に、補強用短繊維はエチレン−α−オレフィンエラストマー100重量部に対して5〜50重量部配合されており、補強用短繊維は圧縮ゴム層中にベルト幅方向に配向して含有されていると共に、圧縮ゴム層を構成するゴム層の補強用短繊維の配向方向に対して直角な方向における動的粘弾性測定で得られる0〜120℃の損失正接tanδが0.1以上、0.2以下であることを特徴とする摩擦伝動ベルト。
  2. 上記のゴム組成物には、金属炭酸塩と金属珪酸塩の少なくとも一方からなる充填剤を含まないことを特徴とする請求項1に記載の摩擦伝動ベルト。
  3. Vリブドベルトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦伝動ベルト。
  4. Vベルトであることを特徴とする請求項1又は2に記載の摩擦伝動ベルト。
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