JP2012059470A - 有機elディスプレイ用の反射アノード電極 - Google Patents

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貴之 平野
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裕美 岩成
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Abstract

【課題】仕事関数が、汎用のAg基合金膜と酸化物導電膜との積層構造の仕事関数と同程度に高い、新規なAl基合金反射膜を備えた有機ELディスプレイ用の反射アノード電極を提供する。
【解決手段】基板上に形成された有機ELディスプレイ用の反射アノード電極であって、反射アノード電極は、純Al膜またはAl合金膜6と、Al合金膜上に直接接触する酸化物導電膜7との積層構造であり、酸化物導電膜がAgを0.1〜5原子%含有する。
【選択図】図1

Description

本発明は有機ELディスプレイ(特に、トップエミッション型)において使用される反射アノード電極に関するものである。
自発光型のフラットパネルディスプレイの1つである有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」と記載する)ディスプレイは、ガラス板などの基板上に有機EL素子をマトリックス状に配列して形成した全固体型のフラットパネルディスプレイである。有機ELディスプレイでは、陽極(アノード)と陰極(カソード)とがストライプ状に形成されており、それらが交差する部分が画素(有機EL素子)にあたる。この有機EL素子に外部から数Vの電圧を印加して電流を流すことで、有機分子を励起状態に押し上げ、それが元の基底状態(安定状態)へ戻るときにその余分なエネルギーを光として放出する。この発光色は有機材料に固有のものである。
有機EL素子は、自己発光型および電流駆動型の素子であるが、その駆動方式にはパッシブ型とアクティブ型がある。パッシブ型は構造が簡単であるが、フルカラー化が困難である。一方アクティブ型は大型化が可能であり、フルカラー化にも適しているが、アクティブ型にはTFT基板が必要である。このTFT基板には低温多結晶Si(p−Si)もしくはアモルファスSi(a−Si)などのTFTが使われている。
このアクティブ型の有機ELディスプレイの場合、複数のTFTや配線が障害となって、有機EL画素に使用できる面積が小さくなる。駆動回路が複雑となりTFTが増えてくると、さらにその影響は大きくなる。最近では、ガラス基板から光を取り出すのではなく、上面側から光を取り出す構造(トップエミッション)にすることで、開口率を改善する方法が注目されている。
トップエミッションでは、下面の陽極(アノード)には正孔注入に優れるITO(酸化インジウムスズ)が用いられる。また上面の陰極(カソード)にも透明導電膜を使う必要があるが、ITOは、仕事関数が大きく電子注入には適さない。さらにITOは、スパッタ法やイオンビーム蒸着法で成膜するため、成膜時のプラズマイオンや電子二次電子が電子輸送層(有機EL素子を構成する有機材料)にダメージを与えることが懸念される。そのため薄いMg層や銅フタロシアニン層を電子輸送層上に形成することで、ダメージの回避と電子注入改善が行われる。
このようなアクティブマトリックス型のトップエミッション有機ELディスプレイで用いられるアノード電極は、有機EL素子から放射された光を反射する目的を兼ねて、ITOやIZO(酸化インジウム亜鉛)に代表される透明酸化物導電膜と反射膜との積層構造とされる(反射アノード電極)。この反射アノード電極で用いられる反射膜は、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、アルミニウム(Al)や銀(Ag)などの反射性金属膜であることが多い。例えば、既に量産されているトップエミッション方式の有機ELディスプレイにおける反射アノード電極には、ITOとAg合金膜との積層構造が採用されている。
反射率を考慮すれば、AgまたはAgを主体として含むAg基合金は反射率が高いため、有用である。なお、Ag基合金は、耐食性に劣るという特有の課題を抱えているが、その上に積層されるITO膜で当該Ag基合金膜を被覆することにより、上記課題を解消することができる。しかし、Agは材料コストが高いうえ、成膜に必要なスパッタリングターゲットの大型化が難しいという問題があるため、Ag基合金膜を、大型テレビ向けにアクティブマトリックス型のトップエミッション有機ELディスプレイ反射膜に適用するのは困難である。
一方、反射率のみを考慮すれば、Alも反射膜として良好である。例えば特許文献1は、反射膜としてAl膜またはAl−Nd膜を開示しており、Al−Nd膜は反射効率が優秀で望ましい旨を記載している。
しかし、Al反射膜をITOやIZOなどの酸化物導電膜と直接接触させた場合は、接触抵抗(コンタクト抵抗)が高く、有機EL素子への正孔注入に充分な電流を供給することができない。それを回避するために、反射膜に、AlではなくMoやCrなどの高融点金属を採用したり、Al反射膜と酸化物導電膜との間にMoやCrなどの高融点金属をバリアメタルとして設けると、反射率が大幅に劣化し、ディスプレイ特性である発光輝度の低下を招いてしまう。
そこで特許文献2は、バリアメタルを省略できる反射電極(反射膜)として、Niを0.1〜2原子%含有するAl−Ni合金膜を提案している。これによれば、純Al並みの高い反射率を有し、且つ、Al反射膜をITOやIZOなどの酸化物導電膜と直接接触させても低い接触抵抗を実現できる。
特開2005−259695号公報 特開2008−122941号公報
ところで、トップエミッションの有機ELディスプレイでは、陽極(アノード)から上層となる有機層への正孔注入を考えるとき、正孔は陽極材料の最高被占分子軌道(HOMO)から有機層のHOMOへと移動するため、これらの軌道のエネルギー差が注入障壁となる。現在、エネルギー障壁の低いITOが量産に使われているが、仮にITOの下地層の影響などによって、ITOの仕事関数が小さくなってしまうと、このエネルギー障壁が高くなってしまう。例えば、トップエミッション方式有機ELディスプレイ用反射アノード電極において、ITOなどの酸化物導電膜(以下、ITOで代表させる場合がある。)とAl反射膜(またはAl合金反射膜)との積層構造(上層=ITO/下層=Al合金)におけるITO膜表面の仕事関数は、現在量産されている積層構造(上層=ITO/下層=Ag基合金)に比べ、0.1〜0.2eV程度低くなるという問題がある。この原因は詳細には不明であるが、ITO膜表面の仕事関数が0.1〜0.2eV程度低くなると、このITO膜の上層に形成される有機発光層における発光開始電圧(閾値)が約数V程度高電圧側にシフトし、同じ発光強度を維持する場合、消費電力が高くなってしまうという問題がある。
また、反射膜の成膜過程では、レジスト剥離等によってアルカリ溶液に曝されることがあり、腐食(アルカリ腐食)が生じ易いという問題があり、好ましくは、耐アルカリ腐食性に優れた反射膜の提供も望まれている。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、Al反射膜と酸化物導電膜との積層構造(上層=酸化物導電膜/下層=Al基合金)としたとき、上層酸化物導電膜表面の仕事関数が、汎用のAg基合金膜と酸化物導電膜との積層構造(酸化物導電膜/Ag基合金)の仕事関数と同程度に高い、新規な有機ELディスプレイ用の反射アノード電極を提供することにある。好ましくは、Al反射膜をITOやIZOなどの酸化物導電膜と直接接触させた場合に接触抵抗や反射率にも優れた、有機ELディスプレイ用の反射アノード電極を提供することである。より好ましくは、アルカリ溶液処理に対する耐食性にも優れた、有機ELディスプレイ用の反射アノード電極を提供することにある。
上記課題を解決し得た本発明は、基板上に形成された有機ELディスプレイ用の反射アノード電極であって、前記反射アノード電極は、純Al膜またはAl合金膜のAl基合金膜と、前記Al基合金膜上に直接接触する酸化物導電膜との積層構造であり、前記酸化物導電膜がAgを0.1〜5原子%(酸化物導電膜に含まれる金属元素に対する割合の意味)含有することを特徴とする有機ELディスプレイ用の反射アノード電極である。
本発明においては、前記Al合金膜が、Ni、Co、およびAgよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で、0.1〜6原子%含有するものであることも好ましい実施態様である。
また前記Al合金膜が、更に希土類元素、Ge、およびCuよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で、0.1〜2原子%含有していることも好ましい実施態様である。
更に前記酸化物導電膜が酸化インジウム錫(ITO)であることも好ましい実施態様である。
本発明では、前記酸化物導電膜の膜厚が5〜30nmであることも好ましい実施態様である。
また前記Al基合金膜がスパッタリング法または真空蒸着法で形成されたものであることも好ましい実施態様である。
更に前記Al基合金膜が、前記基板上に形成された薄膜トランジスタのソース・ドレイン電極に電気的に接続されていることも好ましい実施態様である。
本発明では、上記記載の反射アノード電極を備えた薄膜トランジスタ基板も好ましい実施態様であり、またこのような薄膜トランジスタ基板を備えた有機ELディスプレイも好ましい実施態様である。
また本発明は、酸化物導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、Agを0.1〜5原子%含有すると共に、残部がIn、Sn、及び不可避不純物であることを特徴とするスパッタリングターゲットも好ましい実施態様である。
本発明によれば、所定量のAgを含有する酸化物導電膜を用いているため、Al基合金膜との積層構造(上層=酸化物導電膜/下層=Al基合金)とした際の上層の酸化物導電膜表面の仕事関数が、汎用のAg基合金膜との積層構造(上層=酸化物導電膜/下層=Ag基合金)における上層の酸化物導電膜表面の仕事関数と同程度に高い反射アノード電極を提供することができた。更にAl基合金反射膜として、所定量のNi、Co、Agよりなる群(以下、X群で代表させる場合がある。)から選ばれる1種以上を含有するAl合金膜を用いれば、ITOやIZOなどの酸化物導電膜と直接接触させても低い接触抵抗を確保でき、特にAl−Ag合金膜を用いれば高い反射率も確保できる。本発明の反射アノード電極を用いれば、有機発光層に効率よく正孔を注入でき、更に有機発光層から放射された光を反射膜で効率よく反射できるので、発光輝度特性に優れた有機ELディスプレイを実現できる。
更に本発明によれば、Al基合金反射膜として、上記のX群と;希土類(特にLa、Ce、Nd、Y、Sm、Gd、Dy)、GeおよびCuよりなる群(以下、Y群で代表させる場合がある。)から選択される少なくとも1種の元素を所定量含むAl−X群−Y群合金膜を用いることにより、耐アルカリ腐食性や耐熱性も高められた有機ELディスプレイ用の反射アノード電極を提供することができた。
図1は、本発明の反射アノード電極を備えた有機ELディスプレイを示す概略図である。
まず図1を用いて、本発明の反射アノード電極を備えた有機ELディスプレイの概略を説明する。なお、本発明に用いられる純Al、またはAl合金を、まとめて「Al基合金」で代表させる。
基板1上にTFT2およびパシベーション膜3が形成され、さらにその上に平坦化層4が形成される。TFT2上にはコンタクトホール5が形成され、コンタクトホール5を介してTFT2のソース・ドレイン電極(図示せず)とAl基合金膜6とが電気的に接続されている。
Al基合金膜6は、好ましくはスパッタ法によって成膜することが好ましい。スパッタ法の好ましい成膜条件は以下の通りである。
基板温度:25℃以上、200℃以下(より好ましくは150℃以下)
Al基合金膜6の膜厚:50nm以上(より好ましくは100nm以上)、300nm以下(より好ましくは200nm以下)
Al基合金膜6の直上に酸化物導電膜7が形成される。このAl基合金膜6および酸化物導電膜7が、本発明の反射アノード電極を構成する。これを反射アノード電極と呼ぶこととしたのは、Al基合金膜6および酸化物導電膜7が有機EL素子の反射電極として作用し、且つ、TFT2のソース・ドレイン電極に電気的に接続されているためにアノード電極として働くためである。
酸化物導電膜7は、好ましくはスパッタ法によって成膜することが好ましい。スパッタ法の好ましい成膜条件は以下の通りである。
基板温度:25℃以上、150℃以下(より好ましくは100℃以下)
酸化物導電膜の膜厚:5nm以上(より好ましくは10nm以上)、30nm以下(より好ましくは20nm以下)
酸化物導電膜7の上に有機発光層8が形成され、さらにその上にカソード電極9が形成される。このような有機ELディスプレイでは、有機発光層8から放射された光が本発明の反射アノード電極で効率よく反射されるので、優れた発光輝度を実現できる。なお反射率は高いほどよく、一般的には85%以上、好ましくは87%以上の反射率が求められる。
ここで、反射膜であるAl基合金膜上に酸化物導電膜を直接接触させるに当たっては、下記(ア)〜(エ)のパターンが好ましく用いられる。
(ア)Al基合金膜→酸化物導電膜を順次成膜する。
(イ)Al基合金膜→真空または不活性ガス(例えば窒素)雰囲気下、150℃以上の温度で熱処理→酸化物導電膜を成膜する。本明細書では、酸化物導電膜の成膜前にAl基合金膜を熱処理することを「プレアニール」と呼ぶ場合がある。なお、プレアニール後であって酸化物導電膜の成膜前に、Al基合金膜をアルカリ溶液と接触させても良い。
(ウ)Al基合金膜→酸化物導電膜を順次成膜した後に、真空または不活性ガス(例えば窒素)雰囲気下、150℃以上の温度で熱処理する。本明細書では、酸化物導電膜形成後に、反射アノード電極(Al基合金膜+酸化物導電膜)を熱処理することを「ポストアニール」と呼ぶ場合がある。
(エ)Al基合金膜→上記の「プレアニール」→酸化物導電膜→上記の「ポストアニール」を行なう。ここでも、上記(イ)と同様に、プレアニール後であって酸化物導電膜の成膜前に、Al基合金膜をアルカリ溶液と接触させても良い。
すなわち、本発明には、上記(ア)のように「プレアニール」も「ポストアニール」も行なわない(すなわち、所定の熱処理なし)態様も包含されるし、上記(イ)〜(エ)のように所定の熱処理を行なう態様も包含される。プレアニールとポストアニールは、単独で行なっても良いし、両方を行っても良い。また、プレアニールの後に、アルカリ溶液との接触を行なっても良い。
次に、本発明の反射アノード電極に用いられる酸化物導電膜について説明する。
上記のとおり、陽極から有機層への正孔注入においては、陽極材料の仕事関数と有機材料のイオン化ポテンシャルとの差が注入障壁となっており、特にアノード電極をAl基合金膜と酸化物導電膜との積層構造とした場合に、酸化物導電膜表面(有機層側)の仕事関数がAg基合金膜と酸化物導電膜との積層構造とした場合よりも低くなり、注入障壁が高くなるという問題があった。そこで本発明者らは、上記Al基合金膜を用いた積層構造とした場合でもAg基合金膜を用いた場合と同程度の仕事関数とすべく、鋭意研究を重ねた結果、酸化物導電膜にAgを含有させることによって、Al基合金膜を使用した場合であっても、Ag基合金膜を使用した場合と同程度の仕事関数が得られることを見出し、本発明に至った。
本発明者らはAg以外にMg、Si、Au、Pd、W、Crなどについても検討を行ったが、Agは他の元素と比べて、酸化物導電膜に含有させても導電性に与える影響が小さく、またAgは酸化自由エネルギーが小さいために酸素と結合しにくく、したがって酸化物に含有させても元素としての性質が変化し難いため仕事関数が安定していることが分かった。
本発明に用いられる酸化物導電膜は、Agを0.1〜5原子%(酸化物導電膜に含まれる金属元素に対する割合の意味)含有するところに特徴がある。なお、酸化物導電膜に含まれる金属元素とは、例えばAgを含有する酸化物導電膜がITOの場合、In、Sn、Agが酸化物導電膜に含まれる金属元素に該当する。
Al基合金膜と酸化物導電膜との積層構造とした時の酸化物導電膜表面の仕事関数を、汎用のAg基合金と酸化物導電膜との積層構造とした時の仕事関数と同程度に高くするためには、酸化物導電膜にAgを0.1原子%以上添加する必要がある。ただし、5原子%を超えてAgを添加すると、反射率が低下する。Ag量は好ましくは1原子%以上、3原子%以下である。
本発明に用いられる酸化物導電膜の他の組成は特に限定されず、例えば酸化インジウム(In)中に酸化錫(SnO)を10質量%程度含む酸化インジウム錫(ITO)や、酸化インジウムに酸化亜鉛を10質量%程度含む酸化インジウム亜鉛(IZO)などの通常用いられる酸化物導電膜から形成されているが、好ましくは酸化インジウム錫である。
上記酸化物導電膜の好ましい膜厚は、5〜30nmである。上記酸化物導電膜の膜厚が5nm未満では、ITO膜にピンホールが発生し、ダークスポットの原因となることがあり、一方、上記酸化物導電膜の膜厚が30nmを超えると、反射率が低下する。上記酸化物導電膜のより好ましい膜厚は、10nm以上、20nm以下である。
以上、本発明に用いられる酸化物導電膜について説明した。
次に、本発明の反射アノード電極に用いられるAl基合金膜について説明する。
本発明では純Al膜またはAl合金膜を用いることができる。
また本発明に用いられるAl合金膜は、Ni、Co、及びAgよりなる群(X群)から選択される少なくとも1種の元素を0.1〜6原子%含有してもよい。これら元素は、酸化物導電膜とのコンタクト抵抗を低減させるのに有用であり、そのような効果を得るには、これら元素の含有量(単独で含む場合は単独の量であり、2種以上を含む場合は合計量)を0.1原子%以上とすることが好ましい。しかし、これら元素の含有量が過剰になると、Al合金膜の反射率が低下する。そこで本発明では、Al合金に含まれるこれら元素の合計量を、6原子%以下とすることが好ましい。これら元素は単独で含んでもよいし、任意の組み合わせで2種以上を含んでいてもよい。特にAgを含有させると、酸化物導電膜とAl合金膜の積層構造としたときの酸化物導電膜表面の仕事関数を一層高くすることができるので望ましい。なお、Al合金膜にAgを多量に添加すると、NiやCoに比べて反射率が低下することがあるので、Al合金に含まれるAg含有量の上限を4原子%とすることが望ましい。
上記Al合金膜は、更に、希土類元素、Ge、およびCuよりなる群(Y群)から選択される少なくとも1種の元素を合計で、0.1〜2原子%含有しても良く、これにより、Al合金膜の耐熱性が向上してヒロックの形成も有効に防止されるだけでなく、アルカリ溶液に対する耐食性も向上する。Y群に属する元素は、単独で添加しても良いし、二種以上を併用しても良い。
Y群に属する元素の含有量(単独の場合は単独の含有量であり、二種以上を併用する場合は合計量である。)が0.1原子%未満の場合、耐熱性向上作用および耐アルカリ腐食性向上作用の両方を、有効に発揮することができない。これらの特性を向上するという観点のみからすれば、Y群に属する元素の含有量は多い程良いが、その量が2原子%を超えると、Al合金膜自体の電気抵抗率が上昇してしまう。そこで、Y群に属する元素の含有量は、好ましくは0.1原子%以上(より好ましくは0.2原子%以上)であり、好ましくは2原子%以下(より好ましくは0.8原子%以下)である。
Y群に属する元素のうち、耐熱性向上作用に一層優れているのは、La、Ce、Gd、Nd、Y、Sm、Dyであり;一方、耐アルカリ腐食性に一層優れているのは、Ge、Cuである。これらの元素を二種以上組合わせることが好ましく、例えば、Al−Ag―Cu―Nd合金やAl−Ag−Ge−Nd合金などがより好ましい。
また、Y群に属する元素による上記作用を有効に発揮させるためには、当該元素の合計量が1原子%以上のとき、上記元素は析出物として存在していることが好ましい。例えば前述したプレアニールおよび/またはポストアニールにより、上記元素は容易に析出物として存在する。なお、Y群に属する元素の合計量が1原子%未満のときは、このような熱処理を行わなくても、良好な耐熱性や耐アルカリ腐食性を発揮することができる。このような析出物の有無は、電子顕微鏡(SEM)で観察できる。
本発明のAl合金膜は、好ましくは上記元素を含み、残部:Alおよび不可避不純物である。
以上、本発明に用いられるAl基合金膜について説明した。
上記酸化物導電膜やAl基合金膜は、スパッタリング法または真空蒸着法で形成することが好ましく、真空蒸着法としては電子ビーム蒸着法など公知の成膜方法を採用できる。本発明では特にスパッタリング法にてスパッタリングターゲット(以下「ターゲット」ということがある)を用いて形成することがより好ましい。スパッタリング法によれば、イオンプレーティング法や電子ビーム蒸着法で形成された薄膜よりも、成分や膜厚の膜面内均一性に優れた薄膜を容易に形成できるからである。
上記スパッタリング法で上記酸化物導電膜を形成するには、上記ターゲットとして、好ましくは0.1〜5原子%のAgを含むと共に、残部がインジウムと錫、及び不可避不純物のスパッタリングターゲット(例えばIn23:SnO2が約90質量%:10質量%程度である場合、この合計に対してAgが0.08〜3.9原子%)、或いは0.1〜5原子%のAgを含むと共にインジウムと亜鉛、及び不可避不純物のスパッタリングターゲット(例えばIn23:ZnOが約90質量%:10質量%程度である場合、この合計に対してAgが0.08〜3.9原子%)を用いれば、組成のズレのおそれがなく、所望の成分組成の透明導電膜を形成することができるので望ましい。
また上記スパッタリング法で上記Al基合金膜を形成するには、上記ターゲットとして、好ましくは前述したX群の元素(更に好ましくはY群の元素)を含むものであって、所望のAl基合金膜と同一組成のAl基合金スパッタリングターゲットを用いれば、組成ズレの恐れがなく、所望の成分組成のAl基合金膜を形成することができるのでよい。
上記ターゲットの形状は、スパッタリング装置の形状や構造に応じて任意の形状(角型プレート状、円形プレート状、ドーナツプレート状など)に加工したものが含まれる。
上記ターゲットの製造方法としては、溶解鋳造法や粉末焼結法、スプレイフォーミング法で、インゴットを製造して得る方法や、プリフォーム(最終的な緻密体を得る前の中間体)を製造した後、該プリフォームを緻密化手段により緻密化して得られる方法が挙げられる。
本発明の有機ELディスプレイ用反射アノード電極は、Al基合金膜と酸化物導電膜との積層構造としたときの上層酸化物導電膜の仕事関数も、汎用のAg基合金を用いたときと同程度に制御されていることに加えて、更には反射率および接触抵抗にも優れているため、これを薄膜トランジスタ基板、さらには表示デバイスに適用することが好ましい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例によって制限されず、上記・下記の趣旨に適合し得る範囲で変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
実施例1
本実施例では、表1記載の各種Al基合金膜を用い、ITO膜中のAg量を変化させたときにおける仕事関数、および反射率に及ぼす影響を検討した。
具体的にはまず、無アルカリ硝子板(板厚:0.7mm)を基板として、その表面にパシベーション膜であるSiN膜(膜厚:300nm)をプラズマCVD装置によって成膜した。その成膜条件は、基板温度:280℃、ガス比:SiH4/NH3/N2=125/6/185、圧力:137Pa、RFパワー:100Wである。さらにその表面に、反射膜であるAl基合金膜(膜厚:約100nm)をスパッタ法によって成膜した。Al基合金膜の組成は表1に示すとおりである。また、成膜条件は、基板温度:25℃、圧力:2mTorr、DCパワー:260Wである。反射膜の組成は、ICP発光分析で同定した。なお、Al合金の残部はAl及び不可避不純物である。
上記のようにして成膜した各反射膜に、引き続き、Ag添加量を変化させたITO膜を成膜した。
ここで、ITO膜の成膜に当たっては、大気開放せずに真空一貫にてスパッタ法により膜厚10nmのITO膜を成膜し、反射アノード電極(反射膜+酸化物導電膜)を形成した。その成膜条件は、基板温度:25℃、圧力:0.8mTorr、DCパワー:150Wである。
上記のように作製した各反射アノード電極について、(1)ITO膜表面の仕事関数、および(2)反射率を、以下のようにして測定して評価した。
(1)ITO膜表面の仕事関数
ITO膜表面の仕事関数は、理研計器製AC−2を用いて測定した。なお、表面の仕事関数はその表面状態(大気中の有機物汚染など)に敏感であるため、AC−2で測定する直前にUVオゾン照射を行った。比較のため、量産されている代表的なAg基合金であるAg−0.7原子%Pd−1原子%Cuを用い、同様に仕事関数を測定した。
仕事関数の評価は、ITO/上記Ag基合金の測定値(4.9〜5.0eV)を基準とし、以下のように行なった。
○:4.9eV以上
×:4.9eV未満
(2)反射率
反射率は、日本分光株式会社製の可視・紫外分光光度計「V−570」を用い、測定波長:1000〜250nmの範囲における分光反射率を測定した。具体的には、基準ミラーの反射光強度に対して、試料の反射光強度を測定した値を「反射率」とした。
本実施例では、λ=550nmにおける反射率を基準として以下のように評価し、○または△を合格と判定した。
○:87%以上
△:80%以上87%未満
×:80%未満
これらの結果を表1に示す。
Figure 2012059470
本発明の要件を満足する所定量のAgを添加したITO膜を用いたときは、Al基合金膜の組成にかかわらず、仕事関数、および反射率において、良好な結果が得られた。なお、表1のNo.1、6、11、16、21、26は、ITO膜にAgを添加していないため、仕事関数が基準値を下回った。またNo.5、10、15、20、25、30は、ITO膜に添加するAg量が多すぎる例であり、反射率が低下した。
なお、Ndを1%以上含有するNo.21〜30のAl基合金膜を電子顕微鏡で観察したところ、Nd析出物が観察された。
また上記実施例では、希土類元素の代表例としてLa、Ndを添加した例を開示したが、La、Nd以外の希土類元素(Ce、Y、Sm、Gd、Dy)についても同様の効果が得られることを実験により確認している。
1 基板
2 TFT
3 パシベーション膜
4 平坦化層
5 コンタクトホール
6 Al基合金膜(反射膜)
7 酸化物導電膜
8 有機発光層
9 カソード電極

Claims (10)

  1. 基板上に形成された有機ELディスプレイ用の反射アノード電極であって、
    前記反射アノード電極は、純Al膜またはAl合金膜のAl基合金膜と、前記Al基合金膜上に直接接触する酸化物導電膜との積層構造であり、前記酸化物導電膜がAgを0.1〜5原子%(酸化物導電膜に含まれる金属元素に対する割合の意味)含有することを特徴とする有機ELディスプレイ用の反射アノード電極。
  2. 前記Al合金膜が、Ni、Co、およびAgよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で、0.1〜6原子%含有するものである請求項1に記載の反射アノード電極。
  3. 前記Al合金膜が、更に希土類元素、Ge、およびCuよりなる群から選択される少なくとも1種の元素を合計で、0.1〜2原子%含有している請求項1または2に記載の反射アノード電極。
  4. 前記酸化物導電膜が酸化インジウム錫(ITO)である請求項1〜3のいずれかに記載の反射アノード電極。
  5. 前記酸化物導電膜の膜厚が5〜30nmである請求項1〜4のいずれかに記載の反射アノード電極。
  6. 前記Al基合金膜がスパッタリング法または真空蒸着法で形成されたものである請求項1〜5のいずれかに記載の反射アノード電極。
  7. 前記Al基合金膜が、前記基板上に形成された薄膜トランジスタのソース・ドレイン電極に電気的に接続されている請求項1〜6のいずれかに記載の反射アノード電極。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の反射アノード電極を備えた薄膜トランジスタ基板。
  9. 請求項8に記載の薄膜トランジスタ基板を備えた有機ELディスプレイ。
  10. 請求項1〜7のいずれかに記載の酸化物導電膜を形成するためのスパッタリングターゲットであって、Agを0.1〜5原子%含有すると共に、残部がIn、Sn、及び不可避不純物であることを特徴とするスパッタリングターゲット。
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