以下、適宜図面を参照しつつ本発明の実施の形態を詳説する。なお、当該塗工板紙は、以下の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲内で、その構成を適宜変更できることはいうまでもない。
当該塗工板紙は、表層、3層の中層及び裏層の合計5層からなる紙素材を備え、裏層の外面に裏層用塗工液を、表層の外面に表層用塗工液をそれぞれ塗工することで形成されている。この裏層用塗工液及び/又は表層用塗工液は、上記紙素材に完全に含浸されてもよく、裏層及び/又は表層の外面に造膜して裏面側塗工層及び/又は表面側塗工層が形成されてもよい。
<裏面側塗工液>
裏面側塗工液は、裏層の外面に塗工する水性組成物である。この裏面側塗工液は、主成分として架橋剤、PVA及び澱粉を含有し、副成分として後述のラテックスやポリアクリルアミド系樹脂(PAM)、カゼイン等を含有してもよい。このように、裏面側塗工液にPVAと澱粉とを組み合わせて含有することで、裏面側塗工液の裏層への優れた浸透性が発揮され、かつ、裏層の繊維間結合強度が向上するため、裏層からの微細異物の脱落を防止することができる。その結果、当該塗工板紙は、高い圧縮強度、耐罫線割れ性を有し、特に印刷適性に優れることとなる。また、当該塗工板紙は、裏面側塗工液にPVA及び澱粉に加えて架橋剤を含有することで、PVAと澱粉の架橋構造並びに澱粉等と繊維の架橋構造を効率的に形成することができ、その結果、より一層の繊維間結合強度が実現され、上述の圧縮強度及び耐罫線割れ性を飛躍的に向上させることができるという相乗効果が奏される。また、上述のPVA、澱粉及び架橋剤による裏層の繊維間結合強度の飛躍的向上により、裏層を構成する繊維量が少なくて済むこととなり、その結果、坪量の低下を実現でき、当該塗工板紙の軽量化を容易に図ることができる。
(澱粉)
澱粉としては、例えば、グラフト化澱粉、リン酸エステル化澱粉、カチオン化澱粉、ヒドロキシプロピル澱粉、カルボキシル澱粉、酢酸澱粉等の各種加工澱粉などを用いることができる。かかる澱粉は、PVA及び架橋剤、好ましくは更に後述のラテックスと組み合わせて用いることで、当該塗工板紙は、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する印刷トラブルを解消できることに加え、印刷面の耐白抜け性が良好な印刷適性を発揮することができる。
特に、澱粉の中でも、酢酸ビニル等の樹脂をグラフト重合し被膜強度を上げた低粘度のグラフト化澱粉を好適に使用することができる。かかるグラフト化澱粉によると、酢酸ビニル等の官能基を主鎖にグラフト重合させることで、塗工液の粘度を低くでき、PVA及び架橋剤と均一に混合でき、PVA及び架橋剤との組合せによる相乗効果を得やすくなるほか、塗工ムラが抑えられる、また、このグラフト化澱粉を用いることで、紙素材に微細繊維・微細異物を強固に結合させて裏層からの微細繊維・微細異物の脱落を防止し、紙素材の印刷適性(印刷白抜けの防止等)を向上させることができる。
裏面側塗工液中の澱粉の配合量の上限としては、固形分換算で、75質量%であり、55質量%が好ましい。一方、この澱粉の配合量の下限としては、固形分換算で、25質量%であり、35質量%が好ましい。澱粉の配合量が上記下限未満であると、裏層からの微細繊維・微細異物の脱落を抑えることができず、紙粉が発生し易くなる。逆に、この澱粉の配合量が上記上限を超えると、過剰品質となりコストアップの問題につながると共に、出来上がった塗工板紙を化粧箱やギフトケース等に加工する際に、裏層が硬すぎて罫線割れが発生し易く、加工適性が低下する。
(PVA)
PVAとしては、その重合度やケン化度等は特に限定されるものではないが、重合度1,000以上2,500以下及びケン化度98%以上の完全ケン化PVAや、末端基を変性(珪素変性等)させた変性PVA等を好適に使用できる。これらのPVAは、裏層外面への造膜性及びその被膜面の強度を高くできると共に、裏層の繊維間結合強度を高め、澱粉や架橋剤と組み合わせて用いる相乗効果によって、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する印刷トラブルを解消できることから、印刷面の耐白抜け性が良好な印刷適性を有する当該塗工板紙を得る上で好ましい。
上記完全ケン化PVAは、その強固な結合力により著しい造膜性を発現する結果、紙素材の表面部分に卓越したバリヤー性を付与することができるため、上記水性組成物中に含まれる澱粉や架橋剤、更にはラテックスとの組み合わせによる相乗効果により、裏層外面への造膜性、その被膜面の強度及び裏層の繊維間結合強度を高めることができる。なお、完全ケン化PVAとしては、例えば日本酢ビポバール株式会社製のJF−17等を用いることができる。
裏面側塗工液中のPVAの配合量の上限としては、固形分換算で、48質量%が好ましく、35質量%がより好ましい。一方、PVAの配合量の下限としては、固形分換算で、10質量%が好ましく、23質量%がより好ましい。このPVAの配合量が上記下限未満であると、裏層の微細繊維や微細異物を強固に固めることができず、微細繊維や微細異物が脱落し易くなる。逆に、このPVAの配合量が上記上限を超えると、裏層又は形成される裏面側塗工層が硬くなり過ぎるため、罫線割れが発生し易くなり、加工適性が低下する上、裏面側塗工液の粘度が上昇して操業性の低下、裏面側塗工液のコストアップを招来する。
(架橋剤)
架橋剤としては、例えば、ジルコニウム塩、ホウ素化合物、エポキシ化合物、グリシジル化合物、アルミニウム塩、クロム化合物等を用いることができる。かかる架橋剤を用いることにより、裏層に浸透する裏面側塗工液中の澱粉及びPVA等と裏層のパルプ繊維とが強固に結合するようになる。より詳細には、上記澱粉等と裏層のパルプ繊維との架橋構造を効率的に形成することができ、その結果、裏層の繊維間結合強度を高めると共に、裏層からの毛羽立ちを防止できる。また、裏層外面への造膜性及びその裏面側塗工層の剛性も確保できることに加え、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する印刷トラブルを解消し、印刷面の耐白抜け性が良好な印刷適性を得ることができる。しかも、この架橋剤は、後述するスチレン−ブタジエン共重合体系ラテックスやグラフト化澱粉に含まれるカルボキシル基、アミド基、水酸基等の親水性官能基と反応し、パルプ繊維、グラフト化澱粉、PVA及びラテックスを架橋、高分子化(三次元網目構造)又は疎水化するため、当該塗工板紙の圧縮強度、耐折強度、耐罫線割れ等の紙質強度向上を図ることができる。さらには、紙素材におけるパルプ繊維の使用量を低減させ、その結果、当該塗工板紙の低坪量化・軽量化を図ることができる。加えて、このような低坪量化・軽量化を図っても、裏面側塗工層は適度な柔軟性を有するため、耐罫線割れ性等の加工適性に優れる。
但し、上記架橋剤の中でも、澱粉及びPVAとの架橋反応の容易性という点で、ジルコニウム塩が好適である。ジルコニウム塩によると、裏層外面への造膜性が良好で、その造膜される被膜がより硬いものとなるので、裏層の繊維が強固に結合され、耐罫線割れ性等の加工適性も向上する。なお、この架橋剤として用いるジルコニウム塩の種類は、特に限定されるものではないが、炭酸ジルコニウムアンモニウムを含有するベイコート20(日本軽金属株式会社製)やカルタボンド(クラリアント株式会社製)を使用することが、裏層の微細繊維や微細異物がより強固に結合するという点で好ましい。
裏面側塗工液における架橋剤の配合量の上限としては、固形分換算で、5質量%が好ましく、4質量%がより好ましい。一方、この架橋剤の配合量の下限としては、固形分換算で、0.1質量%が好ましく、0.5質量%がより好ましい。この架橋剤の配合量が上記下限未満であると、上述した澱粉、PVA、パルプ繊維等の架橋が不足するため、裏層外面への造膜性及びその被膜強度が十分に得られなくなり、また、ブロッキング発生の原因となる。逆に、この架橋剤の配合量が上記上限を超えると、裏面側塗工液を塗工する前から架橋が始まり、裏面側塗工液がゲル化するため、塗工液を均一に塗工することが困難となるおそれがある。
本発明者等の知見では、澱粉、PVA及び架橋剤を上述の種類や配合量の範囲等で用いることにより、当該塗工板紙は、澱粉、PVA及び架橋剤をそれぞれ単独で用いる場合と比べ、裏層の繊維間結合強度をより強固にすると共に、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する白抜けや紙紛トラブル等を解消できることに加え、印刷適性に優れると共に、軽量化を図ることができる。
(ラテックス)
上述の澱粉、PVA及び架橋剤の組み合わせは、裏層の繊維間強度をさらに高めると共に、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する印刷トラブルを解消し、印刷面の耐白抜け性が良好な印刷適性を促進するという相乗効果を奏するが、これに加え、裏面側塗工層の造膜性や剛性、裏面側塗工液の紙素材への浸透性、更には微細繊維や微細異物の隠蔽性を向上させる上で、裏面側塗工液が更にラテックスを含有することが好ましい。
ラテックスとしては、例えば、スチレン−ブタジエン共重合体(SBR)、メチルメタクリレート−ブタジエン共重合体等の共役ジエン系重合体ラテックス、アクリル酸エステル及び/又はメタクリル酸エステルの重合体又は共重合体等のアクリル酸系重合体ラテックス、酢酸ビニル系共重合体等のビニル系重合体ラテックス、あるいはこれらの各種重合体ラテックスをカルボキシル基等の官能基含有単量体で変性したアルカリ溶解性あるいは非アルカリ溶解性の重合体ラテックス等の重合体ラテックスの一種以上を適宜選択して用いることができる。但し、これらの中でも、変性したものを含むスチレン−ブタジエン共重合体系ラテックス(以下、「SBR系ラテックス」という)が、裏層の繊維間強度を高めると共に、裏層に微細繊維・微細異物を強固に結合させる点で好適である。
裏面側塗工液中のラテックスの配合量の上限としては、固形分換算で、45質量%が好ましく、28質量%が特に好ましい。一方、このラテックスの配合量の下限としては、固形分換算で、3質量%が好ましく、22質量%が特に好ましい。このラテックスの配合量が上記下限未満であると、裏層の微細繊維・微細異物を強固に固めることができず、上述の裏層外面への造膜性、膜強度、裏層への浸透性、隠蔽性等の向上効果が小さくなる。逆に、このラテックスの配合量が上記上限を超えると、裏層(造膜される場合は裏面側塗工層を含む)ひいては当該塗工板紙が硬くなり過ぎて、罫線割れが発生し易くなり、加工適性が低下する上、裏面側塗工液のコストアップにつながる。
本発明者らの知見では、上述の澱粉、PVA及び架橋剤に加え、上記ラテックスを更に組み合わせて用いることで、繊維間結合を高めると共に、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する白抜けや紙紛トラブル等を解消できることに加え、印刷適性に優れ、軽量化を図ることができる。つまり、裏面側塗工液に澱粉、PVA及び架橋剤に加えてラテックスを配合することで、上述の澱粉、PVA及び架橋剤の組合せによる相乗効果を格段に高めることができる。
上記裏面側塗工液の濃度(水等の溶媒以外の全成分の濃度)としては、4質量%以上20質量%以下が好ましい。この裏面側塗工液の濃度が上記下限未満であると、裏層外面への造膜性及び造膜した場合の裏面側塗工層の膜厚が薄くなり、裏層のカバーリングが十分に出来ないため、裏層の微細繊維や微細異物が脱落してしまい、紙粉等を防止することができなくなるおそれがある。逆に、この塗工液の濃度が上記上限を超えると、裏面側塗工液の粘性が高くなりすぎる傾向があるため、塗工液の裏層への浸透が悪化し、さらに操業性が低下することに加え、裏面側塗工層の表面が硬くなる傾向にあり、耐罫線割れ性等の加工適性を満足することが難しくなる。
上記裏面側塗工液の塗工量の上限としては、固形分換算で、4g/m2が好ましく、2g/m2がより好ましい。一方、この塗工量の下限としては、固形分換算で、0.3g/m2が好ましく、0.5g/m2がより好ましい。この裏面側塗工液の塗工量を上記範囲とすることで、裏面側塗工液を裏層外面に未塗工部分を生じさせないで被覆可能となり、裏層表面部分に裏面側塗工液を全体的かつ満遍なく固着させることができるため、上述の当該塗工板紙の圧縮強度、耐折強度、耐罫線割れを効果的に発現することができる。加えて、当該塗工板紙を、従来の塗工板紙と比べて10%〜15%程度低米坪化・軽量化したとしても、段ボール箱や紙器に加工する際に必要な加工適性を維持することができると共に、裏層からの紙粉や微細異物等の発生を防止することができ、印刷トラブルを防止することがより容易となる。より詳細には、この塗工液の塗工量が上記下限未満であると、裏層の微細繊維の毛羽立ちを被い隠すことが難しくなる。逆に、この塗工液の塗工量が上記上限を超えると、裏層側の剛性は満足することができるが、裏層や裏面側塗工層の柔軟性がなくなり、硬くなる傾向にあるため、耐罫線割れ性等の加工適性を満足させることが難しくなる。
このような裏面側塗工液を裏層外面に塗工して裏面側塗工層を形成する場合、裏面側塗工層の外面のワックスピックとしては、10A以上20A以下にすることが好ましく、12A以上16A以下にすることがより好ましい。この裏面側塗工層外面のワックスピックが上記下限未満であると、裏面側塗工層の剛性が弱くなる傾向にあり、このような状態で低米坪化・軽量化を図ると、加工適性が低下するおそれがある。逆に、このワックスピックが上記上限を超えると、裏面側塗工層の剛性が強くなりすぎる傾向にあり、柔軟性がなくなり、硬くなるため、耐罫線割れ性等の加工適性が低下するおそれがある。
裏面側塗工層を形成するための裏面側塗工液の塗工方法としては、特に限定されず、シングル塗工でも、ダブル塗工以上の多段塗工でもよい。また、塗工装置としても、特に限定されず、例えばバーコーター、ブレードコーター、エアーナイフコーター、ロッドブレードコーター、ゲートロールコーター、サイズプレス等のロールコーター、ビルブレードコーター、ベルバパコーター、カレンダーロールコーターなどを用いることができる。
但し、これらの塗工装置のなかでも、高線圧下での塗工が可能なカレンダーロールコーターを用いた塗工方式が好ましい。また、このカレンダーロールとしてはチルドロールがより好ましい。さらに、塗工後の裏面側塗工層の表面の平坦化処理は、例えば、オンマシンカレンダーやソフトカレンダー、グロスカレンダーなどにより行うことができる。
<表面側塗工液>
次に、表面側塗工液について説明する。この表面側塗工液は、紙素材の表層外面に塗工するものであり、樹脂粒子、無機顔料及びバインダーを主成分として含有する水性組成物である。この表面側塗工液の塗工により造膜し、表層外面に表面側塗工層が形成されるとよく、この表面側塗工層がいわゆるインク受容層として機能する。
(樹脂粒子)
樹脂粒子は、無機顔料と比べると硬度が低いものの、粒子に弾力性と剛性があり光沢もあるので、この樹脂粒子を表面側塗工液に含有させることで、当該塗工板紙の印刷適性、耐罫線割れ性及び圧縮強度をバランス良く促進することができる。また、この樹脂粒子を表面側塗工液に含有させると、表面側塗工層の形成性及び形成される表面側塗工層の厚みが増すことから、表層を被い隠し易くなる。そのため、表面側塗工層の形成のための表面側塗工液に樹脂粒子が無機顔料よりも好適に使用することができる。要するに、表面側塗工液に樹脂粒子を含有させることにより、表面側塗工層の形成性、形成される表面側塗工層の厚みや柔軟性及び剛性を確保することができる。
樹脂粒子としては、真球状又は中空状のプラスチックピグメントが好ましい。また、このプラスチックピグメントとしては、例えば、共役ジエン単量体、イタコン酸、アクリル酸、これらと共重合可能なその他の単量体からなる単量体混合物を乳化共重合して得られるもの等が挙げられる。
上記表面側塗工液中の樹脂粒子の配合量の上限としては、全顔料(樹脂粒子及び無機顔料の合計)に対し、固形分換算で、30質量%が好ましく、17質量%がより好ましい。一方、この樹脂粒子の配合量の下限としては、固形分換算で、2質量%が好ましく、4質量%がより好ましい。この樹脂粒子の配合量が上記下限未満であると、表面側塗工層が十分に厚くならないので、表層の微細繊維を覆い隠すことができなくなるおそれにある。逆に、この樹脂粒子の配合量が上記上限を超えると、表面側塗工層の厚みが大きくなりすぎるため、かえって罫線割れが発生し易くなるほか、表面側塗工液のコストアップにつながる。
(バインダー)
表面側塗工液は、上記樹脂粒子の他、バインダー成分として、適度な造膜性及び剛性があり、かつ、インク着肉性も良好であるSBR系ラテックスが配合されていることが好ましい。このように、表面側塗工液に樹脂粒子とSBR系ラテックスとを含有することにより、塗工板紙としての耐罫線割れ性、インク着肉性を維持することはもちろんのこと、当該塗工板紙を低米坪・軽量化しても圧縮強度を維持する作用を有するため、当該塗工板紙の加工適性をより向上させることができる。
SBR系ラテックスの配合量の上限としては、全含量(樹脂粒子及び無機顔料の合計)に対し、固形分換算で、6質量%以上15質量%以下が好ましい。このSBR系ラテックスの配合量が上記下限未満であると、上述の造膜性、剛性、インク着肉性等が得られないおそれがあり、また表層の微細繊維・微細異物を強固に固めることができず、紙粉等が発生し易くなる。また、このSBR系ラテックスの配合量が上記上限を超えると、形成される表面側塗工層及びこの表面側塗工層を有する塗工板紙が硬くなり過ぎて、罫線割れが発生し易くなり、加工適性が低下する上、表面側塗工液のコストアップにつながるおそれがある。
なお、バインダーとなる樹脂成分としては、上記SBRの他、アクリルアミド系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、PVA等のポリビニル系樹脂、澱粉等の公知の種々のものを用いることもできる。当該塗工板紙においては、上述のSBR系ラテックスのようなスチレン系の樹脂が特に好ましい。
(無機顔料)
無機顔料としては、例えば、クレー、炭酸カルシウム、シリカ等が挙げられる。中でも耐罫線割れ性を向上し、良好な印刷適性を得られることから、クレー及び炭酸カルシウムを用いることが好ましい。
表面側塗工液の塗工量の上限としては、固形分換算で、18g/m2が好ましく、15g/m2がより好ましい。一方、表面側塗工液の塗工量の下限としては、固形分換算で、5g/m2が好ましく、6g/m2がより好ましい。このように、表面側塗工液の塗工量を上記範囲とすることで、表層外面に未塗工部分を生じさせないで全体的かつ満遍なく被覆・固着させることができるため、当該塗工板紙の圧縮強度、耐折強度、耐罫線割れを保持することができる。また、当該塗工板紙を、従来の塗工板紙と比べて10%〜15%程度低坪量化・軽量化したとしても、段ボール箱や紙器に加工する際に必要な加工適性を維持することができる。なお、この塗工液の塗工量が上記下限未満であると、表層を被い隠すことが難しくなる。逆に、この塗工液の塗工量が上記上限を超えると、表面側塗工層の剛性は満足することができるものの柔軟性がなくなり、表面側塗工層が硬くなる傾向にあるため、耐罫線割れ性等の加工適性を満足させることが難しくなる。
この表面側塗工層を形成するための塗工液の塗工方法としては、特に限定されず、上述の裏層側塗工層の場合と同様の方法を用いることができる。また、紙素材の表層上に表面側塗工液を塗布する前(表面側塗工層を形成する前)に、表面側塗工液を均一に塗工し、表面側塗工層を平滑にするために、裏層側塗工層の場合と同様にカレンダーパートで紙素材に表面処理を施すことが好ましい。
表層側外面(表面側塗工層外面)のベック平滑度としては、30秒以上が好ましい。このように、表層側外面のベック平滑度を30秒以上とすることで、表面の良好な平滑性を示し、その結果、インクの着肉性や発色性が向上し、印刷適性が良好となる。
<紙素材>
次に、当該塗工板紙の紙素材について説明する。
上述したように当該紙素材は、表層、3層の中層及び裏層の合計5層から構成されている。この3層の中層は、表層側から順に、表下層、中央層及び裏下層という。
(表層)
表層は、針葉樹パルプ(NKP)及び広葉樹パルプ(LKP)を主たる原料パルプとして形成するのが好ましい。かかる針葉樹パルプの配合量の上限としては、固形分換算で、90質量%が好ましく、70質量%がより好ましい。また、この針葉樹パルプの配合量の下限としては、固形分換算で、10質量%が好ましく、40質量%がより好ましい。このように、表層を構成する主たる原料パルプを針葉樹パルプ及び広葉樹パルプとし、針葉樹パルプの配合量を上記範囲とすることで、当該塗工板紙は、表層のパルプ繊維の結合を強くすることができ、表層における罫線割れを効果的に防止することに加え、良好な印刷特性をも発揮することができる。より詳細には、この針葉樹パルプの配合量が上記下限未満では、長繊維パルプの配合量が少なくなるため、当該塗工板紙の罫線割れが発生し易くなる。逆に、この針葉樹パルプの配合量が上記上限を超えると、長繊維パルプの配合量が多すぎることとなるため、表層を均一な地合いで平坦にすることができず、印刷不良の原因になることに加え、当該塗工板紙の低坪量化・軽量化を図るにあたり、紙がしまりにくくなり、剛性を確保することが難しくなるおそれがある。
一方、表層の原料パルプが上述のように主に針葉樹パルプ及び広葉樹パルプであり、この針葉樹パルプの配合量が上記範囲である場合において、他方の広葉樹パルプの種類は特に限定されるものではなく、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、広葉樹未晒クラフトパルプ(LUKP)、広葉樹亜硫酸パルプ等の木材繊維を主原料として化学的に処理されたパルプ等の公知の種々のものを用いることができる。
また、表層の原料パルプとしては、上述の針葉樹パルプ(NKP)及び広葉樹パルプ(LKP)のほか、木材以外の繊維原料であるケナフ、麻、葦等の非木材繊維パルプも用いることができる。但し、非木材繊維パルプはパルプ強度が弱く、パルプ自体の単価が高いため、クラフトパルプを用いることが好ましい。
また、上記針葉樹パルプは、繊維が柔らかく、カレンダー処理を施す際に繊維が潰れ易いため、上述の表面側塗工層を表層外面に形成する前に、紙素材にカレンダー処理を施すことで、紙素材の表面がより平坦となり、表面側塗工液を表層外面に均一に塗工することが可能となる。
また、表層の原料パルプとしては、機械パルプの使用も可能である。この機械パルプの種類については、特に制限がなく、機械的に砕木される砕木パルプ(GP)、リファイナー砕木パルプ(RGP)、サーモメカニカルパルプ(TMP)、ケミサーモメカニカルパルプ(CTMP)、ケミグランドパルプ(CGP)、セミケミカルパルプ(SCP)等を用いることができる。なお、この機械パルプの漂白方法についても特に制限はなく、公知の手段を用いることができる。
その他に、表層の原料パルプとしては、古紙パルプなどを配合することもできる。このように原料パルプに古紙パルプを配合する場合、その配合量は、例えば、固形分換算で、10質量%以上45質量%以下、好適には40質量%未満とすることができる。
表層の坪量としては、25g/m2以上50g/m2以下が好ましい。この表層の坪量が上記下限未満では、中層の隠蔽が不十分となるため見栄えが低下することに加え、針葉樹パルプ及び広葉樹パルプの使用量が少なくなり、当該塗工板紙の圧縮強度の低下や、罫線割れが発生し易くなるおそれがある。逆に、この表層の坪量が上記上限を超えると、当該塗工板紙の圧縮強度は上がるが、抄紙時に1層目パルプシートの乾燥負荷が上がり、抄紙速度の低下、水切れ低下による地合不良等の問題が生じるおそれがあることに加え、高価な針葉樹パルプ及び広葉樹パルプを多く使用するためコスト増になるおそれがある。
表層の原料パルプのスラリーに添加する添加剤としては、公知の添加剤を用いることができる。具体的には、例えば、紙力増強剤として澱粉類、植物性ガム、水性セルロース誘導体等を、サイズ剤としてロジン、澱粉、CMC(カルボキシルメチルセルロース)、PVA、アルキルケテンダイマー、ASA(アルケニル無水こはく酸)、中性ロジン等を、歩留り向上剤としてポリアクリルアミド及び共重合体等を用いることができる。さらに、必要に応じて、染料、顔料等の色料を添加することもできる。
また、上述の添加剤を表層の原料パルプに定着させるために、公知の凝集剤、凝結剤、硫酸バンドを表層の原料パルプのスラリーに添加することができる。さらに、白色度や見た目の白さを向上させるため、公知の蛍光染料や着色染料、着色顔料についても任意に表層の原料パルプのスラリーに添加することができる。
(裏層)
裏層の原料パルプとしては、表層の原料パルプと同様のものを使用することができるが、中でも古紙パルプを、固形分換算で、50質量%以上100質量%以下の範囲で配合させることが好ましい。また、この古紙パルプの原料古紙としては、特に限定されず、例えば、新聞古紙、地券古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、OA古紙等を用いることができる。なお、上述の表層の場合と同様の添加剤、凝集剤、凝結剤、硫酸バンド、蛍光染料、着色染料、着色顔料等を裏層の原料パルプのスラリーに使用することができる。
上記裏層をJIS−P8220(1998)に準じて離解パルプ(以下単に「離解パルプ」と言う。)とした場合、この離解パルプの重量平均繊維長の上限としては、0.6mmが好ましく、0.5mmがより好ましい。一方、この裏層の離解パルプの重量平均繊維長の下限としては、0.2mmが好ましく、0.3mmがより好ましい。この重量平均繊維長が上記下限未満であると、後述の抄紙工程においてワイヤーの目詰まりが発生しやすくなる。逆に、この重量平均繊維長が上記上限を超えると、裏層の繊維と裏面側塗工層における上述のPVA及び澱粉等とがバランスよく結合しにくくなるおそれがある。
上記裏層において、JIS−P8252(525℃)に準じて測定した灰分の上限としては、20質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。一方、この灰分の下限としては、5質量%が好ましく、6質量%がより好ましい。この灰分を上記下限未満とすると、裏層の原料パルプ中から灰分成分を除去することが必要となり、設備改造や洗浄強化など製造コストが高くなるおそれがある。逆に、この灰分が上記上限を超えると、耐罫線割れ性等の加工適性を満足することが難しくなるおそれがある。
また、上述の裏層における灰分範囲において、裏層の密度を0.5g/cm3以上0.9g/cm3以下に調整すると、裏面側塗工液の裏層への吸収バランスが極めて良くなり、当該塗工板紙を従来の塗工板紙と比べて10%〜15%低坪量化・軽量化することができ、さらに、このように低坪量化・軽量化したとしても、当該塗工板紙の圧縮強度を維持し、加工適性を維持することができるため好ましい。
上述の裏層における灰分は、裏層の原料パルプのスラリーに対して填料を内添又は外添することで調整することができる。この裏層の灰分の調整に使用する填料としては、特に限定されるものではないが、炭酸カルシウム、クレー、タルク、二酸化チタン、後述の再生粒子を用いることができる。特に、上記再生粒子は、「金魚のランチュウの肉瘤状に似た不定形な大小の略球状粒子の凝集体(略球状3次元フラクタル形状)」であり、繊維間の結合を阻害しにくく、嵩高であり好ましい。
上記裏層をJIS−P8220に規定されたパルプ離解方法に準拠して標準離解機で離解し、JIS−P8121(1995)に規定される方法に従い測定したフリーネス(以下「離解フリーネス」と言う。)を、好ましくは250cc以上350cc以下、より好ましくは260cc以上320cc以下となるように裏層に使用する原料パルプの種類、配合量等を調整することが好ましい。これにより、繊維同士の絡み合いはもちろんのこと、裏層に対する裏面側塗工液の浸透性を向上させることができる。なお、裏層の離解フリーネスが上記下限未満であると、上述のワイヤーパートでの脱水性が低下する傾向にあり、地合潰れが発生し易くなる。逆に、裏層の離解フリーネスが上記上限を超えると、上述のワイヤーパートでの脱水が早くなり、紙素材を多層構造とするために積層する湿紙の繊維の絡みが悪化する傾向にあり、抄き合わせが困難になる。
(中層)
中層は、上述の通り、表下層、中央層及び裏下層の3層から形成される。このように、中層が3層構造を有することで、当該塗工板紙は、高い圧縮強度を確実に実現することができる。この中層を形成する原料パルプとしては、特に限定されるものではないが、古紙パルプを用いることが好ましく、また、この古紙パルプの原料古紙としては、新聞古紙、上白古紙、ケント古紙、模造古紙、OA古紙等を用いることができる。但し、上白古紙とコート紙の白損からなる中白古紙等とを適宜配合したものが好適に用いられる。
上述の表層、裏層及び中層を構成する各原料パルプを主原料とする原料スラリーを用い、公知の抄紙工程、例えば、ワイヤーパート、プレスパート、ドライヤーパート、サイズプレスパート、カレンダーパートなどを経て、表層、表下層、中央層、裏下層及び裏層の合計5層を有する積層構造とされた紙素材を製造することができる。
この紙素材の抄紙方法は、特に限定されるものではなく、酸性抄紙法、中性抄紙法、アルカリ性抄紙法のいずれであってもよい。また、抄紙機も特に限定されるものではなく、例えば、長網抄紙機、ツインワイヤー抄紙機、円網抄紙機、円網短網コンビネーション抄紙機等の公知の種々の抄紙機を使用することができる。
また、上述の通り5層の積層構造とされた紙素材は、各層の繊維配向性(ジェットワイヤー比)を、表層が100〜96、表下層が100〜96、中央層が106〜102、裏下層が106〜102、裏層が106〜100の範囲で、かつ、表層<表下層<裏下層<裏層≦中層の関係を有するように調整することが好ましい。これにより、当該塗工板紙の低米坪化・軽量化を図ることができ、かつ剛性を維持できる表層及び裏層を形成することができる。また、上述のように紙素材の裏層の灰分範囲及び層別の繊維配向性を規定することで、表層及び裏層の剛性を高めることができるので、当該塗工板紙を従来の板紙と比べて10%〜15%低坪量化・軽量化することができ、さらには、このような低坪量化・軽量化を図っても、加工適性を満足させることができる。
以上で詳述したように、複数層(計5層)からなる紙素材を備え、上記範囲の坪量の表層の外面に、樹脂粒子、無機顔料及びバインダーを上記範囲で配合した表面側塗工液を塗工して表面側塗工層を形成し、かつ上記範囲の密度の裏層の外面に、PVA、グラフト化澱粉、架橋剤、好ましくは更にラテックスを上記範囲の配合量で配合した裏面側塗工液を塗工することで、裏層の古紙配合率が高い場合であっても、当該塗工板紙は、繊維結合強度が高く、高い圧縮強度、耐罫線割れ性を有することに加え、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落がないことから、当該塗工板紙の巻取り時に表面側塗工層上に微細繊維や微細異物が付着し難くなり、オフセット印刷をしても、ブランケット及び刷版への繊維・異物の付着がほとんどなく、この付着を原因とする印面の白抜けも生じ難くなる。さらに、当該塗工板紙の坪量を従来の塗工板紙と比べて10%〜15%低減させ、低坪量化・軽量化を図っても、当該塗工板紙は、段ボール箱や紙器用途に適した加工適性を満足させる品質を有する。
当該塗工板紙の坪量の上限としては、500g/m2が好ましく、400g/m2がより好ましい。一方、この塗工板紙の坪量の下限としては、100g/m2が好ましく、200g/m2がより好ましい。塗工板紙の坪量が上記下限未満であると、段ボール箱用途とする場合に、段ボール箱の圧縮強度が低くなるといった不都合がある。逆に、この坪量が上記上限を超えると、紙素材の紙厚も厚くなるため、当該塗工板紙を折り曲げた際に、表面の応力が強くなりすぎ、表面側塗工層及び表層にひび割れが発生するおそれがある。
<再生粒子>
当該塗工板紙は、後述する再生粒子を紙素材の填料として使用することができ、加えて裏面側塗工液中に再生粒子を配合することができる。このように裏面側塗工液中に再生粒子を配合する場合、塗工液における再生粒子の配合量としては、固形分換算で、5質量%以下が好ましい。かかる再生粒子の配合量を上記範囲とすることで、裏層外面への造膜性及び裏面側塗工層の塗膜強度の向上と、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する白抜けや紙紛トラブル等の低減とを図ることができる。
このように裏面側塗工液に再生粒子を配合させることで、裏面側塗工層の塗膜強度向上と、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する白抜けや紙紛トラブル等の低減とを図れる理由については定かではないが、微小の再生粒子が、澱粉、架橋剤及びPVAを主成分とし、より好適にはラテックスを含有する水性組成物との組合せにおいて、相互に連携しあった多次元的な構造を形成し、裏面側塗工層構造のみならず紙素材への含浸も含めて、塗膜強度向上と、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する白抜けや紙紛トラブル等の低減効果とを図ることができると推定される。なお、この再生粒子の配合量が5質量%を超えると、上述の水性組成物の物性が再生粒子の存在に阻害され、結果として裏面側塗工層の均一性が阻害され、本来の裏面側塗工層の強度が低下し、塗膜強度向上と、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する白抜けや紙紛トラブル等の低減効果とが期待できなくなるおそれがある。
上記「再生粒子」とは、主原料として製紙スラッジを、好ましくは古紙処理設備の脱墨工程においてパルプ繊維から分離される填料又は顔料を含んだ脱墨フロスを主原料に用いて、この主原料を脱水、乾燥、燃焼及び粉砕工程を経て再資源化したものであり、特に燃焼工程が少なくとも3段階であることが好ましい。また、上記「製紙スラッジ」とは、抄紙工程でワイヤーを通過して流出した固形分、パルプ化工程での洗浄過程で発生する排水から回収した固形分、排水処理工程において沈殿・浮上作用等を利用して固形分分離装置により分離若しくは回収した固形分、又は、古紙処理工程で除去された固形分等が混在したものである。
上記再生粒子に含まれるシリカの割合は、再生粒子の体積平均粒子径及びその元素構成に依存するが、上限としては、酸化物換算で35質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。一方、上記下限としては、9質量%が好ましい。また、同様に、上記再生粒子に含まれるカルシウムの割合の上限としては、酸化物換算で82質量%が好ましく、一方、上記下限としては、30質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、60質量%がさらに好ましい。また、同様に上記シリカ複合再生粒子に含まれるアルミニウムの割合の上限としては、酸化物換算で35質量%が好ましく、30質量%がより好ましく、20質量%がさらに好ましい。上記各成分は、堀場製作所製のX線マイクロアナライザー(型番:E−MAX・S−2150)を用いて、15KVの加速電圧にて元素分析を行うことで算出することができる。
再生粒子に含まれるシリカ、カルシウム及びアルミニウムの質量割合を上記割合に調整する方法としては、例えば、脱墨フロスの原料構成を調整する方法や、後述する第1熱処理工程、第2熱処理工程及び第3熱処理工程において、出所が明確な塗工フロスや調整工程フロスをスプレー等で添加する方法、又は焼却炉スクラバー石灰を添加する方法等が挙げられる。具体的に、再生粒子に含まれるシリカの量を調整するには、例えば、不透明度向上剤としてホワイトカーボン等が多量に配合されている新聞用紙製造系の排水スラッジを用いればよく、同様にカルシウムの量を調整するには、例えば、中性抄紙系の排水スラッジ又は塗工紙製造工程の排水スラッジを用いればよく、また同様にアルミニウムの量を調整するには、例えば、酸性抄紙系等の硫酸バンドが使用されている抄紙系の排水スラッジや、タルクの多い上質紙抄造工程における排水スラッジを適宜用いればよい。
<再生粒子の製造方法>
ここで、上述した再生粒子の製造方法を図1及び図2を参照しつつ以下に詳述する。図1の再生粒子の製造設備は主に、貯槽21、乾燥装置22、第1熱処理炉(外熱キルン炉)24、第2熱処理炉(外熱キルン炉)25、及び第3熱処理炉(内熱キルン炉)27を備えている。この再生粒子の製造方法は、乾燥工程及び少なくとも3段階の熱処理工程を有する。原料20となる製紙スラッジは貯槽21からバーナー36A及び熱風発生炉36を備える乾燥装置22へ送られ、装入機23を経て供給口24Aから第1熱処理炉24へ送られる。バーナー37A及び熱風発生炉37を備える第1熱処理炉24で熱処理された原料20は排出口24Bから排出され、続く第2熱処理炉25へ供給口25Aから投入される。バーナー38A及び熱風発生炉38を備える第2熱処理炉25で熱処理された原料20は排出口25Bから排出され、続いて第3熱処理炉27へ供給口27Aから投入される。バーナー39A及び熱風発生炉39を備える第3熱処理炉27で熱処理された原料20は排出口27Bから排出され、冷却機28、粒径選別機29を経てサイロ30に貯められる。また、第2熱処理炉25の排出口25Bから排出される燃焼ガスは再燃焼室31、予冷器32、熱交換器33、誘引ファン34を経て煙突35から排出される。なお、必要に応じて乾燥工程の前に、後述する脱水工程、解し(ほぐし)工程を有してもよいし、第3熱処理工程の後に後述する粉砕・選別工程を有していてもよい。図1中、実線は原料20の流れを示し、点線は熱風又は燃焼ガス等の気体の流れを示す。
以下に詳述する再生粒子の製造方法は、乾燥工程、第1熱処理工程、第2熱処理工程、第3熱処理工程の順に熱処理温度が高くなるように設定し、好ましくは、脱水後の原料20を熱気流に同伴させて乾燥することで、品質が均一化した再生粒子を安定的に製造することができる。また、乾燥工程と3段階の熱処理工程とをそれぞれ分けて行うことで、目的に応じた熱処理温度を確実に区別し制御することができる。
(再生粒子の原料)
再生粒子の原料20は、主原料として製紙スラッジを、好ましくは古紙処理設備の脱墨工程においてパルプ繊維から分離される填料又は顔料を含んだ脱墨フロスを主原料に用いることが好ましい。この製紙スラッジは由来となる古紙パルプ製造工程等において、古紙パルプの選定又は選別が行われている品質の安定したものを使用することが好ましい。これにより、未燃率の変動要因となるビニールやフィルム等のプラスチック類の混入を防ぐことができ、上記古紙パルプ製造工程に由来する無機物等の種類、比率、及び量等が一定となり、再生粒子の製造に好適な原料20を得ることができる。
また、この原料20に鉄分が含まれていると、得られる再生粒子の白色度低下の原因となるため、鉄分はあらかじめ選択的に取り除くことが好ましい。具体的には、各工程に用いる装置を鉄以外の素材で設計又はライニングし、摩滅等によって鉄分が系内に混入するのを防止したり、各装置内等に磁石等の高磁性体を設置することで選択的に鉄分を除去すること等が挙げられる。
[脱水工程]
上記原料20は、一般的に95質量%〜98質量%の水分を含有しているため、公知の脱水装置を用いて脱水処理を行うことが好ましい。脱水処理は原料20を、例えば、スクリーン等によって水分率65質量%以上90質量%以下まで脱水し、次いで、スクリュープレス等によって水分率の上限として60質量%、好ましくは50質量%、より好ましくは45質量%、また水分率の下限として30質量%、好ましくは35質量%まで脱水することが挙げられる。ここで水分率とは、公知の定温乾燥機を用いて原料20を乾燥させ、質量変動を認めなくなった時点の質量を乾燥後質量とし、下記式(1)にて算出した値である。
水分率(質量%)=[(乾燥前質量−乾燥後質量)÷乾燥前質量]×100 (1)
このように上記脱水工程を行うことにより、無機物の流出を抑制し、後の乾燥工程や熱処理工程におけるエネルギーロスを抑え、乾燥ムラを防止し、原料20のフロックが硬くなり過ぎて解し難くなることを抑制することができる。脱水工程においては、原料20を凝集させる凝集剤等の助剤を添加して脱水効率の向上を図ることもできるが、助剤としては鉄分を含まないものを使用することに留意する。助剤に鉄分が含まれていると、得られる再生粒子の白色度が低下するおそれがあるからである。
[解し(ほぐし)工程]
脱水工程後の原料20は貯槽21から切り出して解し(ほぐし)工程に付してもよい。解し工程は、例えば、撹拌機や機械式ロール等の公知の装置を用いて原料20を解せばよい。解し工程後の原料20は、粒子径50mm以上の割合の上限として70質量%が好ましい。一方、粒子径50mm以上の割合の下限としては30質量%が好ましく、40質量%がより好ましく、50質量%がさらに好ましい。「粒子径50mm以上の割合」とは、原料20全体における目穴50mmの篩を通過しなかった原料20の質量割合を意味し、JIS−Z8801−2(2000)「試験用ふるい−第2部:金属製板ふるい」に基づく値である。このように解し工程を行うことにより、後の乾燥工程に適した粒子径の原料20を得ることができる。
[乾燥工程]
脱水工程後の原料20は、上記の解し工程を適宜経た後、乾燥工程に付される。乾燥工程で用いる乾燥装置22としては、原料20を熱気流に同伴させて乾燥することができる気流乾燥装置を用いることが好ましい。この気流乾燥装置は、原料20を乾燥すると同時に、熱気流の大きな分散力によって原料20を均一に解すことができ、また、水分が蒸発した次の瞬間には乾燥装置22から原料20が排出されるため意図しない有機物の熱分解・燃焼等が生じるおそれがないためである。このような乾燥装置22としては、例えば、新日本海重工業社製の商品名「クダケラ」等の公知の装置の他、これらを改良した気流乾燥装置等が挙げられる。本実施形態における乾燥工程では、貯槽21から脱水後の原料20を乾燥装置22に供給すると共に、バーナー36Aを備える熱風発生炉36から熱風が吹き込まれ、この熱風によって生じる熱気流に同伴させることで原料20を乾燥させている。この脱水工程における熱風の温度、流量、流速等を調節して熱気流を制御することにより、原料20の乾燥状態や解れ状態を調節することができる。
上記乾燥工程後は、粒子径50mm以上の原料20が存在せずに、かつ平均粒子径の上限としては7mmが好ましく、5mmがより好ましく、3mmがさらに好ましい。一方、平均粒子径の上記下限としては1mmが好ましい。「平均粒子径」とは、JIS−Z8801−2(2000)「試験用ふるい−第2部:金属製板ふるい」に基づいて、目穴の異なる篩で篩い分けを行い、各篩い分けを行った原料の質量を測定して、測定値の合計値が全体の50質量%に相当する段階における篩の目穴の大きさであり、「粒子径50mm以上の割合」は前述したとおりである。原料20の平均粒子径が1mm未満であると、第1熱処理炉において過剰な熱処理が生じ易くなる。また、原料20の平均粒子径が7mmを超え、あるいは粒子径50mm以上の原料20が存在すると、原料10を表面部から芯部まで均一に熱処理するのが困難になる。
乾燥工程における上記熱気流の温度は、特に限定されるものではなく、例えば、熱風発生炉36からの熱風温度の上限として600℃、好ましくは500℃、より好ましくは400℃とし、熱風温度の下限として200℃、好ましくは300℃とすることが挙げられる。また、乾燥装置22からの排ガスの温度は500℃以下が好ましく、400℃以下がより好ましく、300℃以下がさらに好ましい。乾燥工程における熱気流及び排ガスの温度を上記範囲とすることにより、わずか1〜3秒で再生粒子の製造に好適な水分率を均一に有する原料20を得ることができる。
上記乾燥工程後の原料20の水分率の上限としては5%が好ましく、3%がより好ましく、1%がさらに好ましい。一方、水分率の上記下限としては0%が好ましい。乾燥工程後の原料20の水分率を上記範囲とすることにより、続く熱処理工程(特に第1熱処理工程)での熱処理がより効果的にムラなく行われ、均一な品質を有する再生粒子を安定して得ることができる。また、上記乾燥工程と以下の第1熱処理工程とを分けて行うことにより、目的に応じた熱処理温度を確実に区別して制御することができる。
[熱処理工程]
[第1熱処理工程]
第1熱処理工程では、上記乾燥工程を経た原料20が装入機23によって第1熱処理炉24に装入される。この第1熱処理炉24としては、公知の熱処理炉を適宜使用することができ、例えば、流動床炉、ストーカー炉、サイクロン炉、半乾留・負圧燃焼式炉等が挙げられる。本実施形態では、第1熱処理炉24として、炉本体が横置きで中心軸周りに回転する外熱キルン炉を採用しているが、外熱キルン炉に変えて内熱キルン炉や、内熱及び外熱の併用キルン炉を用いることも可能である。本実施形態においては、第1熱処理工程に先立って原料20を乾燥し水分を予め除去しているため、熱処理温度を確実に制御できる点で外熱キルン炉の方が好適である。また、キルン炉は、原料20の燃焼度合いの調整が容易で、原料20の歩留まり性に優れ、充分に撹拌ができる点で有機物の熱処理にバラツキが発生せず、得られる再生粒子が均一で白色度が優れる点においても好適である。
本実施形態では、第1熱処理炉24は、搬送方向に向かって非常に緩やかな下り勾配を有し、この下り勾配と炉本体の回転作用及び重力作用によって原料20が搬送方向へ徐々に移送される構造を有している。本実施形態における第1熱処理炉24の外表面上には、電気ヒーター等からなる外熱ジャケット24Cが設けられており、この外熱ジャケット24Cにより炉本体の内表面上に堆積した原料20が間接的に加熱される(外熱方式)。また、外熱ジャケット24Cは、炉本体の軸方向に沿って数個に分割されており、分割された外熱ジャケットを個別に加熱することで、熱処理温度を細やかに制御することができ、原料20の性質及び状態に応じた的確な熱処理を行うことができる。
第1熱処理炉24の炉本体内表面温度の上限としては、450℃が好ましく、400℃がより好ましい。一方、上記炉本体内表面温度の下限としては260℃が好ましく、280℃がより好ましく、300℃がさらに好ましい。また、炉本体内の温度の上限としては350℃が好ましく、上記炉本体の温度の下限としては240℃が好ましく、270℃がより好ましく、280℃がさらに好ましい。炉本体外表面の温度が260℃を下回ると、原料20中のアクリル系有機物及びセルロースを十分に熱処理(熱分解等)することができなくなるおそれがある。また、炉本体外表面の温度が450℃を上回ると、原料20の過剰な熱処理が行われてしまうおそれがある。なお、上記炉本体内表面温度は炉本体内表面に設置した熱電対にて実測した値であり、炉本体内の温度は炉本体内に設置した熱電対にて実測した値である。
また、上記第1熱処理炉24は上記のような外熱方式以外に、例えば、酸素を含有する熱風を適宜供給する内熱方式とすることもできる。内熱方式の場合、熱風はバーナー37Aを備える熱風発生炉37から供給口24Aを通して炉本体内に供給すればよく、当該熱風によって供給口24Aから入り炉本体の回転に伴って排出口24Bへ順次移送される原料20の熱処理が行われる(並流方式)。この際、第1熱処理炉24内のガスは排出口24Bを通して排ガスとして排出される。このような内熱方式では、第1熱処理炉24に供給された原料20を直ちにアクリル系有機物やセルロース等の熱分解に好適な温度まで昇温することができる。しかも、排出口24B側に向かう程低温化する温度勾配が生じるため、原料20の過剰な熱処理を防止することができる。なお、このような温度勾配の設定は上記外熱方式でも可能である。第1熱処理炉24は外熱方式と内熱方式を併用することも可能であり、併用する場合は、例えば、バーナー37Aを用いずに熱風発生炉37のみを用いて第1熱処理炉24内に酸素含有ガスを吹き込むことができる。
上記内熱方式の場合、供給する熱風に含まれる酸素濃度の上限としては、20.0容量%が好ましく、18.0容量%がより好ましい。一方、上記酸素濃度の下限としては、5.0容量%が好ましく、6.0容量%がより好ましく、7.0容量%がさらに好ましい。また、排ガスの酸素濃度の上限としては、20.0容量%が好ましく、17.0容量%がより好ましく、15.0容量%がさらに好ましい。一方、上記排ガスの酸素濃度の下限としては、0.1容量%が好ましく、1.0容量%がより好ましく、3.0容量%がさらに好ましい。上記酸素濃度は、自動酸素濃度測定装置(型番:ENDA‐5250、堀場製作所製)にて測定した値である。原料20の過剰な熱処理の防止という観点から、低酸素濃度であるのが好ましく、熱風の酸素濃度を20.0%以下に調節し、かつ排ガスの酸素濃度も20.0%以下となるように管理するのがより好ましい。また、熱風の酸素濃度が5.0%未満、あるいは排ガスの酸素濃度が0.1%未満であると、アクリル系有機物やセルロース等の熱処理が充分に進まず、発熱量の減少率を所定の範囲に調整することが困難となるおそれや、熱分解ガスの発火(燃焼)が生じているおそれがある。また、熱風に含まれる酸素濃度及び排ガスの酸素濃度を上記範囲とすることにより、炉本体内における酸素濃度の上限としては通常20.0容量%、好ましくは17.0容量%、より好ましくは15.0容量%に調節され、一方、下限としては通常0.1容量%、好ましくは1.0容量%、より好ましくは4.0容量%に調節される。上記酸素濃度は、外熱方式の場合も同様であり、外熱方式及び内熱方式を併用した場合も同様である。
また、上記内熱方式の場合、第1熱処理炉24に供給する熱風の温度の上限としては、420℃が好ましく、410℃がより好ましく、400℃がさらに好ましい。一方、上記下限としては、300℃が好ましく、350℃がより好ましく、360℃がさらに好ましい。また、排ガスの温度の上限としては370℃が好ましく、360℃がより好ましく、350℃がさらに好ましい。一方、上記下限としては250℃が好ましく、300℃がより好ましく、310℃がさらに好ましい。ここで熱風の温度は熱風発生炉37の熱電対にて実測した値であり、排ガスの温度は、排ガスの煙道に設置した熱電対にて実測した値である。熱風の温度が300℃以上で、かつ排ガスの温度が250℃以上であると、原料20中のアクリル系有機物及びセルロースの熱分解・揮発が確実に行われる。また、アクリル系有機物及びセルロースの熱分解・揮発が確実に行われることで、第2熱処理炉25及び第3熱処理炉27における熱処理制御が容易となり、白色度低下の原因となる炭化物の生成や、過燃焼による硬質物質の生成を抑制することができる。さらに、アクリル系有機物及びセルロースの熱分解・揮発が確実に行われることで、第2熱処理炉25や第3熱処理炉27において、スチレン系有機物や残カーボン等の有機物を緩やかに熱処理することができ残カーボンの生成を抑制することができる。もっとも、熱風の温度が420℃を超え、あるいは排ガスの温度が370℃を超えると、熱分解ガスが発火するおそれがあり、また、第2熱処理炉25における熱処理エネルギーが増加し、さらに、難燃性カーボンが生成し易くなり、製紙用の添料や顔料等として必要な特性を備えた再生粒子を安定して得ることができなくなるおそれがある。また、熱風及び排ガスの温度を上記範囲とすることにより、炉本体内における温度の上限としては通常370℃、好ましくは360℃、より好ましくは350℃に調節され、一方、下限としては、通常250℃、好ましくは300℃、より好ましくは310℃に調節される。なお、炉本体内の温度は、炉本体内に設置した熱電対にて実測した値であり、原料20の温度も炉本体内の温度と実質的に同一になるものと推定される。なお、上記炉本体内の温度は、供給口24Aから排出口24Bに向けて温度勾配があり一様ではないため、熱風の温度調節及び排ガスの温度管理により制御することが好ましい。
第1熱処理炉24においては、原料20の発熱量が20%〜90%減少するように、好ましくは50%〜80%減少するように、より好ましくは50%〜70%減少するように熱処理することが好ましい。発熱量の減少率が90%以下であると、過剰な熱処理が抑えられ、硬質物質の生成が好ましくは1.5質量%以下に抑制される。この点、90%を超える発熱量の減少は、原料20中のスチレン系有機物までもが熱分解していることを意味し、したがって炉本体内がセルロース等の熱分解ガスが発火しうる状態(つまり、高温状態)になっていることを意味する。また、発熱量の減少率が20%未満であると、原料20中の高発熱量成分であるアクリル系有機物が残留し、第2熱処理炉25における熱処理温度の変動が大きなものとなるおそれがある。なお、発熱量の減少率は、第1熱処理炉24に供給される原料20の発熱量と、第1熱処理炉24から排出される原料20の発熱量とを比較した値であり、この発熱量は、熱量計(燃研式デジタル熱量計、吉田製作所製)を用いて測定した値である。特に、第1熱処理炉24において、アクリル系有機物及びセルロースを除去して上記発熱量を20%〜90%減少すると共に、発熱量が1000cal/g未満、好ましくは300cal/g以上400cal/g以下となるように熱処理することにより、第2熱処理炉25における炉本体内温度の変動幅を10℃以上40℃以下の範囲に抑制し易くなり得られる再生粒子を均質化することができる。第2熱処理炉25における炉本体内温度の変動幅を上記範囲とすることにより、得られる再生粒子の硬度及び白色度のバラツキを防止することができる。
第1熱処理炉24における原料20の未燃率の上限としては、30質量%が好ましく、26質量%が好ましく、23質量%がより好ましい。一方、上記未燃率の下限としては、13質量%が好ましく、14質量%が好ましく、15質量%がより好ましい。ここで、未燃率とは、約600℃に温度調整した電気炉で2時間燃焼した際の減量割合を測定した値である。未燃率が30質量%以下となるように熱処理を行うことにより、第2熱処理炉25における熱処理を緩慢に行うことができるようになる。もっとも、未燃率が13質量%未満となるまで熱処理を行うと第1熱処理炉24におけるエネルギーコストが高くなる。
第1熱処理炉24における原料20の滞留時間の上限としては、120分が好ましく、105分がより好ましく、90分がさらに好ましい。一方、滞留時間の下限としては、30分が好ましく、45分がより好ましく、60分がさらに好ましい。滞留時間を30分以上とすることにより、原料20に含まれるアクリル系有機物、セルロースが緩慢に熱分解され、残カーボンの生成が抑制される。この点、滞留時間を30分未満とすると、十分な熱処理が行われず残カーボンの割合が多くなる。また、滞留時間が120分を超えると、過剰な熱処理によって難燃性カーボンが生成され、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬質物質が増加するおそれがある。なお、滞留時間は、原料20と色が異なることにより識別できる金属片を供給口24Aから炉本体内に投入し、排出口24Bから排出されるまでの実測時間である。
上記第1熱処理工程によって、220℃近傍に発熱量のピークを有するアクリル系有機物及び320℃近傍に発熱量のピークを有するセルロース等の製紙スラッジ由来の高発熱量成分を原料中から熱処理除去することができる。その結果、続く第2熱処理工程での過燃焼を抑制し、再生粒子として不適切なゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)やアノーサイト(CaAl2Si2O8)等の硬質物質の生成を抑制することができる。
[第2熱処理工程]
上記第1熱処理炉24において熱処理された原料20は、第2熱処理工程に送られ熱分解や燃焼等の熱処理に付される。
原料20は、この第2熱処理工程に送るに先立って、平均粒子径を1mm以上7mm以下、好ましくは1mm以上5mm以下、より好ましくは1mm以上3mm以下に調節しておくことが好適である。
第2熱処理工程において、原料20は第2熱処理炉25に装入される。この第2熱処理炉25としては、公知の熱処理炉を使用することができ、例えば、流動床炉、ストーカー炉、サイクロン炉、半乾留・負圧燃焼式炉等が挙げられる。本実施形態では、第2熱処理炉25として、炉本体が横置きで中心軸周りに回転する外熱キルン炉を採用しているが、外熱キルン炉に変えて内熱キルン炉や、内熱及び外熱の併用キルン炉を用いることも可能である。本実施形態の第2熱処理炉25は、第1熱処理炉24と同形状のものを採用しているが、例えば、第1熱処理炉24と軸方向の長さが異なるキルン炉を用いて、原料20の滞留時間を異なるものとしてもよい。本発明の第2熱処理炉25の外表面上には、第1熱処理炉24と同様に電気ヒーター等からなる外熱ジャケット25Cが設けられており、この外熱ジャケット25Cにより炉本体の内表面上に堆積した原料20が間接的に加熱される(外熱方式)。また、外熱ジャケット25Cは、炉本体の軸方向に沿って数個に分割されており、分割された外熱ジャケットを個別に加熱することで熱処理温度を細やかに制御することができ、原料20の性質及び状態に応じた的確な熱処理を行うことができる。
第2熱処理炉25の炉本体内表面温度の上限としては、550℃が好ましく、500℃がより好ましい。一方、上記炉本体内表面温度の下限としては360℃が好ましく、380℃がより好ましく、400℃がさらに好ましい。また、炉本体内の温度の上限としては400℃が好ましく、上記炉本体の温度の下限としては360℃が好ましい。炉本体外表面の温度が360℃を下回ると、原料20中のスチレン系有機物を十分に熱処理(熱分解等)することができなくなるおそれがある。また、炉本体外表面の温度が550℃を上回ると、原料20の過剰な熱処理が行われてしまうおそれがある。原料20の温度は、炉本体内の温度と実質的に同一になるものと推定される。なお、上記炉本体内表面温度の測定方法は第1熱処理炉24と同様である。
また、上記第2熱処理炉25は第1熱処理炉24と同様に、内熱方式とすることもできる。内熱方式の場合、熱風はバーナー38Aを備える熱風発生炉38から供給口25Aを通して炉本体内に供給すればよく、当該熱風によって供給口25Aから入り炉本体の回転に伴って排出口25Bへ順次移送される原料20の熱処理が行われる(並流方式)。この際、第2熱処理炉25内のガスは排出口25Bを通して排ガスとして排出される。このような内熱方式では、第2熱処理炉25に供給された原料20を直ちにスチレン系有機物等の熱分解に好適な温度まで昇温することができる。しかも、排出口25B側に向かう程低温化する温度勾配が生じるため原料20の過剰な熱処理を防止することができる。なお、このような温度勾配の設定は第1熱処理炉24と同様に上記外熱方式でも可能である。第1熱処理炉24は外熱方式と内熱方式を併用することも可能であり、併用する場合は、例えば、バーナー38Aを用いずに熱風発生炉38のみを用いて第2熱処理炉25内に酸素含有ガスを吹き込むことができる。
また、上記第1熱処理炉24が並流方式の場合等においては、第2熱処理炉25において、排出口25Bから炉本体内に熱風を吹き込み、排ガスを供給口25Aを通して排出する向流方式としてもよい。これにより第1熱処理炉24からの排ガスを通す配管と、第2熱処理炉25からの排ガスを通す配管とを、例えば1つにまとめることができ配管処理が容易となる。さらに、第1熱処理炉24と第2熱処理炉25とを連接し、熱風発生炉37からの熱風を、第1熱処理炉24を介した後、供給口25Aを通して第2熱処理炉25内に供給すると共に、バーナー38Aが備わる熱風発生炉38からの酸素を含有する熱風を供給口25Aを通して第2熱処理炉25内に供給してもよい(並流方式)。
上記内熱方式の場合、供給する熱風に含まれる酸素濃度の上限としては20.0容量%が好ましく、18.0容量%がより好ましい。一方、上記酸素濃度の下限としては、5.0容量%が好ましく、6.0容量%がより好ましく、7.0容量%がさらに好ましい。また、排ガスの酸素濃度の上限としては、20.0容量%が好ましく、17.0容量%がより好ましく、15.0容量%がさらに好ましい。一方、上記酸素濃度の下限としては、0.1容量%が好ましく、1.0容量%がより好ましく、3.0容量%がさらに好ましい。上記酸素濃度は自動酸素濃度測定装置(型番:ENDA‐5250、堀場製作所製)にて測定した値である。熱風の酸素濃度が5.0%未満、あるいは排ガスの酸素濃度が0.1%未満であると、スチレン系有機物等の熱処理が充分に進まず、発熱量の減少率を所定の範囲に調整するのが困難で白色化が進まないおそれがあり、また、熱分解ガスの発火(燃焼)が生じているおそれがある。また、熱風(酸素含有ガス)や排ガスの酸素濃度が高すぎると、圧縮空気及びその付加設備が必要になると共に、エネルギーコストが上昇し、また、原料20の燃焼や硬質化が進むおそれがある。また、熱風に含まれる酸素濃度及び排ガスの酸素濃度を上記範囲とすることにより、炉本体内における酸素濃度の上限としては通常20.0容量%、好ましくは17.0容量%、より好ましくは15.0容量%に調節され、一方、下限としては通常0.1容量%、好ましくは1.0容量%、より好ましくは4.0容量%に調節される。
また、内熱方式の場合、第2熱処理炉25に供給する熱風の温度の上限としては、550℃が好ましく、530℃がより好ましく、500℃がさらに好ましい。一方、上記下限としては350℃が好ましく、380℃がより好ましく、400℃がさらに好ましい。また、排ガスの温度の上限としては、500℃が好ましく、470℃がより好ましく、450℃がさらに好ましい。一方、上記下限としては300℃が好ましく、330℃がより好ましく、350℃がさらに好ましい。ここで熱風の温度は熱風発生炉38の熱電対にて実測した値であり、排ガスの温度は排ガスの煙道に設置した熱電対にて実測した値である。熱風の温度が350℃以上で、かつ排ガスの温度が300℃以上であると、原料20中のスチレン系有機物の熱分解・揮発が確実に行われる。また、スチレン系有機物の熱分解・揮発が確実に行われることで、第3熱処理炉27における熱処理制御が容易となり、白色度低下の原因となる炭化物の生成や、過燃焼による硬質物質の生成を抑制することができる。さらに、スチレン系有機物の熱分解・揮発が確実に行われることで、第3熱処理炉27において、残カーボン等の有機物を緩やかに燃焼することができ、残カーボンの生成を抑制することができる。また、熱風の温度が550℃以下で、かつ排ガスの温度が500℃以下であると、本工程における残カーボンの生成を抑制することができるほか、有機物の熱処理が緩慢に行われ、原料20の微粉化が抑制され、また、凝集体を形成し、あるいは硬い・柔らかい等のさまざまな性質を有する原料20の熱処理度合いや粒揃えを容易にかつ安定的に制御することができる。この点、熱風の温度が550℃を超え、あるいは排ガスの温度が500℃を超えると、原料20の粒揃えが進行するよりも早くに燃焼が局部的に進むため、粒子表面と芯部との未燃率の差を少なく均一にすることが困難になる。また、熱風及び排ガスの温度を上記範囲とすることにより、炉本体内における温度の上限としては通常500℃、好ましくは470℃、より好ましくは450℃に調節され、一方、下限としては、通常300℃、好ましくは330℃、より好ましくは350℃に調節される。なお、炉本体内の温度は、炉本体内に設置した熱電対にて実測した値であり、原料20の温度も炉本体内の温度と実質的に同一になるものと推定される。なお、上記炉本体内の温度は、第1熱処理炉24と同様に供給口25Aから排出口25Bに向けて温度勾配があり一様ではないため、熱風の温度調節及び排ガスの温度管理により制御することが好ましい。
第2熱処理炉25から排出された排ガスは、再燃焼室31においてバーナー等により再燃焼し、予冷器32において予冷した後、熱交換器33を通して誘引ファン34によって煙突35から排出することができる。ここで、熱交換器33は、外気を昇温し、この昇温した外気を、例えば、第1熱処理炉24に吹き込まれる熱風の用に供し、排ガスの熱回収を図ることもできる。このような排ガスの処理は排ガス中に含まれる有害物質の除去にも有効である。
第2熱処理炉25における原料20の滞留時間の上限としては、120分が好ましく、100分がより好ましく、80分がさらに好ましい。一方、滞留時間の下限としては、30分が好ましく、40分がより好ましい。滞留時間を30分以上とすることにより、原料20に含まれるスチレン等由来の有機物が緩慢に熱処理され、残カーボンの生成が抑制される。この点、滞留時間を30分未満とすると、十分な熱処理が行われず、残カーボンの割合が多くなる。また、滞留時間が120分を超えると、過剰な熱処理によって難燃性カーボンが生成され、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬質物質が増加するおそれがある。
第2熱処理炉25における原料20の未燃率の上限としては、20質量%が好ましく、17質量%が好ましく、12質量%がより好ましい。一方、上記未燃率の下限としては、2質量%が好ましく、5質量%が好ましく、7質量%がより好ましい。ここで、未燃率とは約600℃に温度調整した電気炉で2時間燃焼した際の減量割合を測定した値である。原料20の未燃率が20質量%以下となるように熱処理を行うことで、第3熱処理炉27における熱処理(燃焼)を短時間で効率よく行うことができるようになり、得られる再生粒子の白色度を70%以上、好ましくは80%以上の高白色度とすることができる。もっとも、未燃率が2質量%未満となるまで熱処理を行うと、第2熱処理炉25におけるエネルギーコストが高くなり、また、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬度が高くなるなど、再生粒子の品質低下につながるおそれがある。
上記第2熱処理工程によって、製紙スラッジ由来の420℃近傍に発熱量のピークを有するスチレン系有機物を熱分解ガス化させ、除去することができる。その結果、続く第3熱処理工程での過燃焼を抑制し、再生粒子として不適切なゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)やアノーサイト(CaAl2Si2O8)等の硬質物質の生成を抑制することができ、均一かつ安定的に白色度の優れた再生粒子を得ることができる。
[第3熱処理工程]
第2熱処理炉25において熱処理された原料20は、第3熱処理工程に送られ熱分解や燃焼等の熱処理に付される。
原料20は、この第3熱処理工程に送るに先立って、平均粒子径を5mm以下、好ましくは1mm以上4mm以下、より好ましくは1mm以上3mm以下に調節しておくことが好ましい。平均粒子径が1mm未満であると、第3熱処理炉27において原料20が過燃焼するおそれがある。また、平均粒子径が5mmを超えると、残カーボンの熱処理(燃焼)が困難となり、芯部まで燃焼が進まず、得られる再生粒子の白色度が低下するおそれがある。
また、第3熱処理工程に供給する原料20の粒揃えは、粒子径1mm以上5mm以下の割合が、70質量%以上となるように、好ましくは75質量%以上95質量%以下となるように、より好ましくは80質量%以上95質量%以下とすることが好ましい。
第3熱処理工程において、原料20は装入機26から第3熱処理炉27に装入される。この第3熱処理炉27としては、公知の熱処理炉を使用することができ、例えば、流動床炉、ストーカー炉、サイクロン炉、半乾留・負圧燃焼式炉等が挙げられる。本実施形態では、第3熱処理炉27として、炉本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉を熱処理効率が外熱キルン炉よりも優れる点で採用しているが、第1熱処理炉24や第2熱処理炉25と同様に、外熱ジャケットを有する外熱キルン炉を使用することもできる。外熱ジャケットは、長手方向(搬送方向、炉本体の軸方向)の温度制御が容易な電気ヒーター形式とすると好ましく、このように、長手方向に温度制御が容易であると任意に温度勾配を設けることが可能となり、原料20を所定の時間、所定の温度に保持することができ、原料20に含まれる残留有機分や、残カーボンを限りなくゼロに近づけ除去できる点で好ましい。第3熱処理炉27に外熱キルン炉を採用する場合は、原料20を所定の滞留時間をもって熱処理することができ、原料20に間接的に均一な熱が加わることで燃焼が均一なものとなり、炉内表面の回転による摩擦によって原料20が緩やかに撹拌されるため微粉化を生じ難く、品質及び性状が安定した再生粒子を得ることができる。
第3熱処理炉27においては、炉本体の内壁に設けた各種リフターによって原料20の搬送速度を制御し、原料20を緩慢に熱処理することで、得られる再生粒子の均質化を図ることができる。この炉本体の内壁に設ける各種リフターは特に限定されず、例えば、第3熱処理炉27内の内壁に、原料20の供給口27A側から排出口27B側に向けて図3(a)及び(b)に示すような螺旋状リフター50及び/又は軸心と平行な複数の平行リフター51をこの順に設けること等が挙げられる。
本実施形態では、この第3熱処理炉27は、回転駆動手段(図示せず)にて回転駆動可能に構成されると共に、一端部に供給口27Aが、他端部に排出口27Bが設けられ、他端又は両端には外筺52内に燃焼ガスを導入する燃焼バーナー(図示せず)が配設されている。外筺52の供給口27A側における耐火壁53の内面には、外筺52の軸心に対して45°以上70°以下の傾斜角を有する複数条の螺旋状リフター50が取付ブラケット54を介して等間隔に突設されており、この他端側には、外筺52の軸心に対して平行な平行リフター51が周方向に取付ブラケット55を介して突設されている。
なお、耐火壁53は、耐火キャスタブル又は耐火レンガ等で構成することが好ましく、また、螺旋状リフター50と平行リフター51を、例えば、耐熱性を有するステンレス鋼板等の金属製とすることで高価な耐熱材料を用いなくても十分に耐久性と強度を確保できる。また、これらのリフターは耐火物製のリフターなどに比して伝熱効率が高いので、一層熱効率を向上することができる。特に、螺旋状リフター50と平行リフター51とは、上記のとおり、供給口27Aから排出口27Bに向けてこの順で配設するのが望ましい。
上記のように構成された第3熱処理炉27によれば、供給口27Aから投入された内容物が、まず螺旋状リフター50にて他端側に向けて適正量ずつ送り込まれながら持ち上げられて落下する間に、原料20に起因する有機成分がガス化し発生する燃焼ガス(可燃焼ガス)と効率的に接触することができる。さらに、引き続いて平行リフター51にて持ち上げられて落下する動作を繰り返すことで燃焼ガス(可燃焼ガス)と効率的に接触するため、熱交換効率よく内容物を燃焼させることができる。特に、螺旋状リフター50にて平行リフター51に送り込まれる内容物の量がコントロールされることで、平行リフター51部分における内容物の持ち上げ・落下が適正に行われ、内容物の燃焼を均一かつ効率的に行うことができる。また、耐火物の損傷のおそれがないことから、焼成物の純度の低下がなく、その生産能力も向上できる。
なお、上記の実施形態では、螺旋状リフター50と平行リフター51とを並設したが、必要に応じ、いずれか一方のみを設けることでもよい。また、これらのリフターは、第1熱処理炉及び第2熱処理炉にも適宜適用することができる。
上記第3熱処理炉27が内熱方式の場合、熱風はバーナー39Aを備える熱風発生炉39から供給口27Aを通して炉本体内に供給すればよく、当該熱風によって供給口27Aから入り炉本体の回転に伴って排出口27Bへ順次移送される原料20の熱処理が行われる(並流方式)。この際、第3熱処理炉27内のガスは、例えば、排出口27Bを通して排ガスとして排出される。また、熱風を原料20の排出口27Bを通して吹き込み、第3熱処理炉27内のガス(排ガス)を、供給口27Aを通して排出する向流方式としてもよい。このように向流方式とすると、排ガス中の煤塵が原料20中に混入することを防止でき、得られる再生粒子の品質の低下を防止することができる。すなわち、原料20に含まれる残カーボンが直ちに燃焼され、この残カーボンの燃焼に伴い発生する煤塵が供給口27A側から排ガスと共に速やかに炉本体外に排出されるため、排出口27Bから排出される原料20に混入することを防止することができる。また、第3熱処理炉27を外熱方式とする場合は、例えば、バーナー39Aを用いずに熱風発生炉39のみを用いて第3熱処理炉27内に酸素含有ガスを吹き込めばよい。
上記第3熱処理炉27が内熱方式の場合、供給する熱風に含まれる酸素濃度の上限としては、20.0容量%が好ましく、18.0容量%がより好ましい。一方、上記酸素濃度の下限としては、5.0容量%が好ましく、6.0容量%がより好ましく、7.0容量%がさらに好ましい。また、排ガスの酸素濃度の上限としては20.0容量%が好ましく、17.0容量%がより好ましく、15.0容量%がさらに好ましい。一方、上記排ガスの酸素濃度の下限としては、0.1容量%が好ましく、1.0容量%がより好ましく、3.0容量%がさらに好ましい。上記酸素濃度は、自動酸素濃度測定装置(型番:ENDA‐5250、堀場製作所製)にて測定した値である。熱風に含まれる酸素濃度は、原料20の過剰な熱処理の防止という観点から、低酸素濃度であるのが好ましく、熱風(酸素含有ガス)及び排ガスの酸素濃度が低くなるように管理するのがより好ましい。もっとも、熱風(酸素含有ガス)や排ガスの酸素濃度が低すぎると、残カーボンや残留有機物の熱処理が充分に進まず、また、白色化が進まないおそれがある。また、熱風(酸素含有ガス)や排ガスの酸素濃度が高すぎると、圧縮空気及びその付加設備が必要になると共に、エネルギーコストが上昇し、また、原料20の燃焼や硬質化が進むおそれがある。また、排ガスの酸素濃度を高くするためには、過剰の空気を炉本体内に吹き込む必要があり、炉内温度の低下や炉内温度制御が困難になる等の問題を生じるおそれがある。また、熱風に含まれる酸素濃度及び排ガスの酸素濃度を上記範囲とすることにより、炉本体内における酸素濃度の上限としては通常20.0容量%、好ましくは17.0容量%、より好ましくは15.0容量%に調節され、一方、下限としては、通常0.1容量%、好ましくは1.0容量%、より好ましくは4.0容量%に調節される。
また、第3熱処理炉27が内熱方式の場合、供給する熱風の温度の上限としては、780℃が好ましく、750℃がより好ましく、720℃がさらに好ましい。一方、上記下限としては550℃が好ましく、600℃がより好ましく、650℃がさらに好ましい。また、排ガスの温度の上限としては、780℃が好ましく、750℃がより好ましく、720℃がさらに好ましい。一方、上記下限としては550℃が好ましく、600℃がより好ましく、650℃がさらに好ましい。ここで、熱風の温度は熱風発生炉39の熱電対にて実測した値であり、排ガスの温度は、排ガスの煙道に設置した熱電対にて実測した値である。熱風の温度が550℃以上で、かつ排ガスの温度も550℃以上であると、原料20中の残カーボンや残留有機物の熱処理が確実に行われる。また、熱風の温度が780℃以下で、かつ排ガスの温度も780℃以下であると、残カーボンの生成を抑制することができるほか、有機物の熱処理が緩慢に行われ、原料20の微粉化が抑制され、また、凝集体を形成し、あるいは硬い・柔らかい等のさまざまな性質を有する原料20の熱処理度合いや粒揃えを容易に、かつ安定的に制御することができる。この点、熱風の温度が780℃を超え、あるいは排ガスの温度が780℃を超えると、原料20の粒揃えが進行するよりも早くに燃焼が局部的に進むため、粒子表面と芯部との未燃率の差を少なく均一にすることが困難になる。しかも、得られた再生粒子をスラリー化したときに、固まるおそれがある。熱風及び排ガスの温度を上記範囲とすることにより、炉本体内における温度の上限としては通常780℃、好ましくは750℃、より好ましくは720℃に調節され、一方、下限としては、通常550℃、好ましくは600℃、より好ましくは650℃に調節される。なお、炉本体内の温度は、炉本体内に設置した熱電対にて実測した値であるが、上記炉本体内の温度は、第1熱処理炉24及び第2熱処理炉25と同様に供給口27Aから排出口27Bに向けて温度勾配があり一様ではないため、熱風の温度調節及び排ガスの温度管理により制御することが好ましい。
一方、第3熱処理炉27が外熱方式の場合は、炉本体外表面の温度の上限が780℃、好ましくは750℃、より好ましくは720℃となるように、一方、上記下限として550℃、好ましくは600℃、より好ましくは650℃となるように外熱ジャケット等の温度を制御することが好ましい。炉本体外表面の温度が550℃以上であると、残カーボンや、第2熱処理炉25で燃焼しきれなかったスチレン‐アクリルやスチレン等の残留有機物を確実に燃焼することができる。なお、炉本体内表面の温度は、炉本体外表面の温度と連動しているため、炉本体外表面の温度と実質的に同一の温度となり、炉本体内の温度や原料20の温度は、上記炉本体外表面の温度制御を行うことにより、炉本体外表面や内表面の温度と実質的に同一の温度になると推定される。
第3熱処理炉27における原料20の滞留時間の上限としては、240分が好ましく、150分がより好ましい。一方、滞留時間の下限としては、60分が好ましく、90分がより好ましく、120分がさらに好ましい。滞留時間を60分以上とすることにより、原料20に含まれる残留有機物や残カーボンが確実に燃焼され、また、再生粒子を安定して生産することができるようになる。また、滞留時間が240分を超えると、過燃焼によって難燃性カーボンが生成され、得られる再生粒子の白色度が低下し、あるいは硬質物質が増加するおそれがある。
上記第3熱処理工程によって、原料10に含まれる残カーボン等の有機物を効率よく熱処理除去することができる。また、第3熱処理工程では過燃焼を抑制することができるため、再生粒子として不適切なゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)やアノーサイト(CaAl2Si2O8)等の硬質物質の生成を抑制することができ、均一かつ安定的に白色度、不透明度の優れた再生粒子を得ることができる。なお、上記の製造方法によって製造された本形態の再生粒子は、硬質物質であるゲーレナイト及びアノーサイトの合計含有量が1.5質量%以下、好ましくは1質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下とされている。
上記第1〜第3熱処理工程において熱処理炉として用いられる内熱又は外熱キルン炉は内壁を構成する耐火物を円周状(円筒状)、六角形状及び八角形状等に構成することができるが、簡便に原料20を撹拌するためには、耐火物等を円筒状として前述したようなリフターを設ける構成を採用することが好ましい。熱処理炉をこのような構成とすることにより、原料20を滑らすことなく持ち上げて充分に撹拌することができる。
なお、「硬質物質」とは、硬度が高く、微量の存在で製紙用具の摩耗・毀損や抄紙系内の汚れが生じ、塗工用顔料として使用した場合にはドクター等の塗工設備の摩耗・毀損、ストリークの発生要因となる物質のことで、具体的には、ゲーレナイト(Ca2Al2SiO7)やアノーサイト(CaAl2Si2O8)等が挙げられる。これは、原料20の主成分となる製紙スラッジは、炭酸カルシウム、カオリン、タルク、抄紙助剤としての硫酸アルミニウム等の無機物を多く含んでいる。この中でも、例えば、炭酸カルシウム(CaCO3)は、熱処理の際に600℃以上750℃以下の温度で質量が減少し、硬質で水溶性の酸化カルシウム(CaO)に変化し、また、クレー(Al2Si2O5(OH)4)は、500℃前後で脱水により質量減少し、メタカオリンとなり、1000℃前後の高温では硬質なムライト(Al2Si2O13)に変化する。また、タルク(Mg3Si4O10(OH)2)は、900℃前後で質量減少し、エンスタタイト(MgSiO3)に変化する。これらの変化は示差熱熱重量分析(TG/DTA6200)とX線回折(RAD2X)とによる燃焼物の分析によって確認できる。また、X線回折(RAD2X)によって、熱処理後の燃焼物中にはゲーレナイトやアノーサイトが存在することが確認できる。これらのゲーレナイトやアノーサイトは、熱処理温度が500℃前後でも生じ、熱処理温度の上昇に応じて生成量が増大する。また、製紙スラッジ中の酸化物換算によるカルシウムの含有量が増えると、アノーサイトは減少し、ゲーレナイトは増える傾向を示す。アノーサイトは、炭酸カルシウムの過燃焼により生じる酸化カルシウムとカオリンとの混合燃焼により生成され易く、したがって、上述の各種熱処理工程においては、25℃〜800℃における示差熱熱重量分析において、重量減量割合が5%(TG)以上となるように熱処理を行い、酸化カルシウムの生成自体を可及的に抑制するのが好ましい。また、水酸化カルシウムは、酸化カルシウムよりも一段とアノーサイトを生成し易いため、原料20の脱水率(水分率)や、各種熱処理における酸素濃度は、厳格に調節するのが好ましい。また、シリカにはゲーレナイトやアノーサイトの生成を助長する作用があるため、原料20に含まれるシリカを可能な限り低減しておくのが好ましく、その為には、例えば、新聞古紙や新聞抄紙系白水の使用を抑えることで、比較的低融点のゲーレナイトやアノーサイトの生成を抑制したり、得られた再生粒子をシリカで被覆することが挙げられる。
[粉砕・選別工程]
第3熱処理炉27から排出された原料20は、平均粒子径15μm以下、好ましくは1μm以上10μm以下となるように、粉砕等して平均粒子径を調節することが好ましい。粒子径が1μmよりも小さいと歩留りが悪く抄紙機の系内において異物化しやすくなるおそれがあり、15μmよりも大きいと地合が悪化したり、強度(引張強度や引裂強度)が低下するおそれがあり好ましくない。粉砕後の平均粒子径は、レーザー回折方式の粒度分布径(型番:SA−LD−2200、島津製作所製)を用いて測定した体積平均粒子径(D50)である。粉砕方法は特に限定されず、例えば、ジェットミルや高速回転式ミル等の乾式粉砕機、アトライター、サンドグラインダー、ボールミル等の湿式粉砕機等が挙げられる。
粉砕後の原料20は、好適には凝集体であり、冷却機28において冷却後、振動篩機等の粒径選別機29により選別し、再生粒子としてサイロ30に貯留される。
以上のように乾燥工程及び少なくとも3段階の熱処理工程を経て得られた再生粒子は、白色度が75〜85%、好ましくは80〜85%と高く、また白色度の変動が少なく、再生粒子中の硬質物質の含有量が少ないため、塗工層用塗工組成物中に好適に含有させることができると共に、填料として紙中に含有させることもできる。
なお、本発明の塗工板紙は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、紙素材としては、上記5層構造のものに限定されず、少なくとも表層及び裏層を有する2層以上の構造でよい。
以下、実施例に基づき本発明を詳述するが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるものではない。なお、以下に示す「質量%」単位の数値は、特に説明がない場合は全て乾燥状態における固形分換算の数値である。
<再生粒子の製造例>
まず、本実施例で使用した再生粒子について説明する。古紙パルプを製造する古紙処理工程由来の製紙スラッジを主原料として用い、脱水工程終了後の水分率が35質量%となるように原料を脱水した後、粒子径50mm以上の割合が50質量%となるように原料を解し、更に平均粒子径が3mmとなるように乾燥装置(新日本海重工業(株)製、「クダケラ」)を用いて気流乾燥させ、続いて、第1熱処理工程(炉本体内温度280℃、炉本体内酸素濃度12容量%)、第2熱処理工程(炉本体内温度380℃、炉本体内酸素濃度12容量%)及び第3熱処理工程(供給熱風温度700℃、炉本体内酸素濃度12容量%)を経た後、湿式粉砕処理を施して体積平均粒子径2.0μmの再生粒子凝集体を得た。
なお、上記第1及び第2熱処理工程において用いた外熱キルン炉は、内部に平行リフター及び螺旋状リフターを有する外熱電気方式のキルン炉を採用し、また、上記第3熱処理工程では、本体が横置きで中心軸周りに回転する内熱キルン炉を用い、この内熱キルン炉一端の原料供給口から脱墨フロス等の原料を供給すると共に熱風を吹き込む並流方式を採用した。
[実施例1]
以下の原料を用いて、下記の製造方法に従い、表層、3層の中層(表下層、中央層及び裏下層)、裏層の合計5層からなる紙素材を作製し、この紙素材を用いて塗工板紙を製造した。
<紙素材の製造>
(表層)
針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)60質量%と、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)40質量%とを配合した後に、ダブルディスクレファイナーにより、カナディアンスタンダードフリーネス(CSF)を400ccに調整し、表層用の原料パルプスラリーを得た。
(中層)
上白古紙と中白古紙とを1:1の質量比で配合したものを主成分とした中層用の原料パルプスラリーを得た。
(裏層)
LKP10質量%と、古紙パルプ(地券古紙)90質量%とを配合して裏層用の原料パルプスラリーを得た。なお、この裏層用の原料パルプスラリーに上述の再生粒子を添加することで、裏層を構成する原料パルプからの持込灰分も含めて、裏層の灰分が8%になるように調整した。
これらの表層用、中層用及び裏層用の原料パルプスラリーを用い、円網抄紙機にて、表層、表下層、中央層、裏下層及び裏層の紙層を抄き合わせることで紙素材を得た。なお、表層の坪量は35g/m2、裏層の密度は0.8g/cm3であった。
<表面側塗工液の調整>
全顔料(樹脂粒子及び無機顔料の合計)を配合基準として、樹脂粒子としてプラスチックピグメント(日本ゼオン株式会社製、商品名「V1004」)9質量%、無機顔料としてクレー(CADAM社製株式会社製、商品名「アマゾンプラスJPG」)40質量%及び炭酸カルシウム(オミヤ社製株式会社製、商品名「ハイドロカーブ90」、湿式重質炭酸カルシウム)51質量%を配合し、さらにバインダーとしてSBR系ラテックス(日本A&L株式会社製、商品名「スマーテックスPA−6082」)10質量%を配合し、表面側塗工液を調整した。
<裏面側塗工液の調整>
固形分換算の含有量が、PVA(日本酢ビポバール株式会社製、商品名「JF−17」)30.5質量%、グラフト化澱粉(三井化学株式会社製、商品名「ペトロコートC18」)40.7質量%、SBR系ラテックス(日本A&L株式会社製、商品名「スマーテックPA−6082」)24.4質量%、炭酸ジルコニウムアンモニウムを含有するジルコニウム系架橋剤(日本軽金属株式会社製、商品名「ベイコート20(50%品)」)1.4質量%、及び再生粒子3.0質量%となるように配合し、裏面側塗工液を調整した。
<塗工板紙の製造>
上記表面側塗工液を、バーコーターにて紙素材の表層外面に11g/m2の塗工量で塗工して表面側塗工層を形成した。次いで、上記裏面側塗工液を、バーコーターにて紙素材の裏層外面に1.8g/m2の塗工量で塗工し、塗工板紙を得た。なお、この塗工板紙の全体の坪量は250g/m2であった。
[実施例2〜9]
裏面側塗工液におけるグラフト化澱粉、PVA、の配合量および裏面側塗工液の塗工量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例2〜9の塗工板紙を得た。
[実施例10〜11]
表層の坪量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例10〜11の塗工板紙を得た。
[実施例12〜15]
表面側塗工液のプラスチックピグメント、クレー及び炭酸カルシウムの配合量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例12〜15の塗工板紙を得た。
[実施例16〜17]
表面側塗工液のSBR系ラテックスの配合量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例16〜17の塗工板紙を得た。
[実施例18〜21]
表面側塗工液の表層外面に対する塗工量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例18〜21の塗工板紙を得た。
[実施例22〜24]
裏面側塗工液のジルコニウム系架橋剤、PVA、グラフト化澱粉の配合量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例22〜24の塗工板紙を得た。
[実施例25〜28]
表層におけるNBKP及びLBKPの配合量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例25〜28の塗工板紙を得た。
[実施例29〜35]
裏層におけるLKP及び古紙パルプ(地券古紙)の配合量、離解後フリーネス、ひいては裏層の密度を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例29〜35の塗工板紙を得た。
[実施例36]
裏面側塗工液の澱粉をカチオン澱粉(日本食品加工株式会社製、商品名「ネオタック53」)とした以外は、実施例1と同様にして実施例36の塗工板紙を得た。
[実施例37]
裏面側塗工液の架橋剤をエポキシ系架橋剤(日本PMC株式会社製、商品名「WS4024(25%品))とした以外は、実施例1と同様にして実施例37の塗工板紙を得た。
[実施例38〜39]
裏面側塗工液のSBR系ラテックス、PVA、グラフト化澱粉の配合量および裏面側塗工液の塗工量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例38〜39の塗工板紙を得た。
[実施例40〜42]
裏面側塗工液の再生粒子、PVA、グラフト化澱粉の配合量および裏面側塗工液の塗工量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例40〜46の塗工板紙を得た。
[実施例43〜46]
裏面側塗工液の再生粒子、PVA、グラフト化澱粉、架橋剤、SBR系ラテックスの配合量および裏面側塗工液の塗工量を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例40〜46の塗工板紙を得た。
[実施例47〜50]
裏層の灰分を表1のように調整した以外は、実施例1と同様にして実施例47〜50の塗工板紙を得た。
[比較例1]
裏面側塗工液にPVAを配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例1の塗工板紙を得た。
[比較例2]
裏面側塗工液に澱粉を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例2の塗工板紙を得た。
[比較例3]
裏面側塗工液に架橋剤を配合しなかった以外は、実施例1と同様にして比較例3の塗工板紙を得た。
[参考例1〜2]
参考例として、市販品の塗工板紙を用意した。
<測定・評価方法>
上記塗工板紙について、以下の評価を行った。測定及び評価の方法は、下記の通りである。その結果を表1に示す。なお、評価試験は、JIS−P8111に準拠して温度23±2℃、湿度50±2%の環境条件で行った。
(裏層の重量平均繊維長)
上記紙素材を10cm×10cm大にカットしたサンプルを作成し、このサンプルを水温20℃の水に3分間浸漬させ、その後上記サンプルを手揉みしながら裏層を剥離した。次いで、剥離した裏層の重量平均繊維長(mm)を、JIS−P8220(1998)に記載の「パルプ−離解方法」に準拠して離解し、得られた離解パルプを基に、JAPAN−TAPPI−紙パルプ試験方法−No.52「パルプ及び紙−繊維長試験方法−光学的自動計測法」に準拠して、繊維長測定試験機(メッツォ社製、型番:FiberLab P4230371 V2.0)を用いて測定した。
(裏層の離解後フリーネス)
上記紙素材を10cm×10cm大にカットしたサンプルを作成し、このサンプルを水温20℃の水に3分間浸漬させ、その後上記サンプルを手揉みしながら裏層を剥離した。次いで、剥離した裏層の離解後フリーネス(cc)を、JIS−P8220(1998)に準じて離解した後、JIS−P8121(1995)に記載の「パルプのろ水度試験方法」に準じて測定した。
(坪量)
JIS−P8124(1998)に記載の「坪量測定方法」に準拠して測定した。
(裏層の密度)
裏層の密度は、JIS−P8118(1998)に記載の「紙及び板紙−厚さ及び密度の試験方法」に準拠して測定した。この裏層の密度は、上記製造方法により得られた紙素材の表層、中層、裏層を剥離し、厚さ(mm)及び坪量(g/m2)を求めることで算出した。このように剥離した各層の厚さは剥離によって毛羽立っており、実際の厚さより厚いため、以下の式(2)で補正ファクター値を算出して、剥離後の各層の厚さ値を補正して、裏層の密度を算出した。
補正ファクター値=剥離前の全層厚さ÷剥離後の各層厚さの合計値 (2)
(灰分)
裏層の灰分(%)は、JIS−P8251(2003)に記載の「紙、板紙及びパルプ−灰分試験方法−525℃燃焼方法」に準じて測定した。
(ベック平滑度)
表層外面のベック平滑度(秒)は、JIS−P8119(1998)に記載の「紙及び板紙−ベック平滑度試験機による平滑度試験方法」に準拠して測定した。
(ワックスピック強度)
裏層のワックスピック強度(A)は、J.TAPPI−No.1(2000)に記載の「紙及び板紙−ワックスによる表面強さ試験方法」に準拠して測定した。
(RIピック)
JIS−P8129(1998)に規定されているIGT印刷適性試験機に用いる標準タックグレードインクを、KRK万能印刷適性試験機(熊谷理機工業株式会社製)を用いて上記塗工板紙の表面側塗工層の外面上に印刷した後、RI印刷適性試験により評価した。なお、評価基準は下記の通りとした。
◎:表面の毛羽立ち又は紙むけが認められない。
○:0.5mm以上の毛羽立ち又は紙むけが2箇所以下である。
△:0.5mm以上の毛羽立ち又は紙むけが3個所〜5箇所である。
×:0.5mm以上の毛羽立ち又は紙むけが6箇所以上である。
(インク抜け)
グラビア印刷機として、グラビアインクNT−2000(サカタインクス株式会社製)を使用し、100線、50μ深度のグラビアロールを用いて、上記塗工板紙の表面側塗工層外面上にベタ印刷を行った後、A4サイズの大きさの上記塗工板紙の裏面側塗工層の外面上に発生した直径0.3mm以上のピンホールの数を肉眼で確認し、評価したものである。なお、その評価基準は下記の通りとした。
◎:ピンホールの数が5個以下である。
○:ピンホールの数が6個〜10個である。
△:ピンホールの数が11個〜20個である。
×:ピンホールの数が21個以上である。
(インキ着肉性)
RI印刷機にて、印刷インキ(大日本インキ化学工業社製、商品名「Values−G墨 Sタイプ、)を0.1cc使用し、上記塗工板紙の表面側塗工層の外面上に印刷を行い、かかるインキ転写面を肉眼で観察し、転写したインキ濃度と、濃度の均一性とから、上記塗工板紙のインキ着肉性を4段階評価した。
◎:インキ着肉性が特に優れる。
○:インキ着肉性が優れる。
△:インキ着肉性がやや劣る。
×:インキ着肉性が劣る。
(圧縮強度)
上記塗工板紙の圧縮強度(横方向)は、JIS−P8126(2005)に記載の「紙及び板紙−圧縮強さ試験方法−リングクラッシュ法」に準拠して測定した。
(耐折強度)
上記塗工板紙の耐折強度(横方向)は、JIS−P8115(2001)に記載の「紙及び板紙−耐折強さ試験方法−MIT試験機法」に準じ、耐折回数として測定した。
(耐罫線割れ性)
上記塗工板紙をA4サイズ(縦目)に断裁し、長辺に対して2つ折りにし、プレス圧2.0kg/cm2で5分間プレス後、折り目部分のひび割れを肉眼で確認し、評価した。なお、その評価基準は下記の通りとした。
◎:ひび割れが発生していない。
○:折り目長さに対して、総全長が15%未満であるひび割れが発生する。
△:折り目長さに対して、総全長が15%以上30%未満であるひび割れが発生する。
×:折り目長さに対して、総全長が30%以上であるひび割れが発生する。
表1の結果から、実施例1〜50は、比較例1〜4と比べ、高い圧縮強度、耐罫線割れ性を有し、裏層からの微細繊維や微細異物の脱落に起因する白抜けや紙粉トラブル等が改善され、良好な印刷適性を有することがわかる。また、実施例1〜50は、参考例1〜2と比べ、10%〜15%程度の低米坪・軽量化を実現できることがわかる。