JP2011231414A - 強化繊維用サイジング剤、合成繊維ストランドおよび繊維強化複合材料 - Google Patents

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Abstract

【課題】 本発明の目的は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた接着性を付与できる強化繊維用サイジング剤と、それを用いた合成繊維ストランド、繊維強化複合材料を提供することにある。
【解決手段】 本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、示差走査熱量計(DSC)で測定したときに、ガラス転移点が20℃以上であり、かつ結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しないポリマー成分を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める該ポリマー成分の重量割合が10〜100重量%である、強化繊維用サイジング剤である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤、これを用いた合成繊維ストランドおよび繊維強化複合材料に関する。さらに詳しくは、本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂との優れた接着性を合成繊維ストランドに付与することができる強化繊維用サイジング剤、これを用いた合成繊維ストランドおよび繊維強化複合材料に関する。
自動車用途、航空・宇宙用途、スポーツ・レジャー用途、一般産業用途等に、プラスチック材料(マトリックス樹脂と称される)を各種合成繊維で補強した繊維強化複合材料が幅広く利用されている。これらの複合材料に使用される繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。これら各種合成繊維は通常、フィラメント形状で製造され、その後ホットメルト法やドラムワインディング法等により一方向プリプレグと呼ばれるシート状の中間材料に加工されたり、フィラメントワインディング法による加工や、場合によっては織物またはチョップドファイバー形状に加工されたりする等、各種高次加工工程を経て、強化繊維として使用されている。
上記のマトリックス樹脂のうち、成型が容易でリサイクル面でも有利な為注目されているポリオレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などのいわゆる熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合材料の場合、補強繊維は一般的に1〜15mm長に切断されたチョップドファイバー形状で使用されることが多い。このチョップドファイバーと熱可塑性樹脂とを混練したペレットを製造する際には、チョップドファイバーの集束性が重要で、これが不適切であると、チョップドファイバーの供給量の不安定化、ストランド切れなどが発生し、得られた複合材料の物性が低下することがある。これを防止するため、繊維に適切な集束性を付与する目的で、各種熱可塑性樹脂を主剤とするサイジング剤を付与する技術が多数提案され(特許文献1〜5参照)、工業的に広く利用されている。
さらに上記の熱可塑性マトリックス樹脂の中でも特にポリオレフィン系樹脂は、成型性、耐薬品性などに優れ、かつコスト面に有利なことから、そのポリオレフィン系樹脂をマトリックス樹脂として用いた繊維強化複合材料は注目度が高く、汎用素材として種々用途への適用が期待されている。
しかし、ポリオレフィン系樹脂は基本的に無極性であり、他の部材との濡れ性、接着性が極めて低く、従来技術に記載されたサイジング剤を適用しても、その機械的強度は繊維強化複合材料として満足され得るレベルに達しないという問題があった。
一方、近年においては、補強剤として用いる繊維の引張強度などの特性をより効果的に得るため、長繊維ペレットと呼ばれる形態や、熱硬化性樹脂をマトリックスとする複合材料の様に、繊維を一方向シートやテープ状、織物の状態で熱可塑性樹脂を含浸させて成型するケースも増加している。このような場合には、コンポジット成型時に熱溶融した熱可塑性樹脂が速やかに繊維ストランド内部、具体的に繊維−繊維間に含浸することが、成型工程時間の短縮化、得られた複合材料の物性向上の面で重要である。
しかし、上述のように、基本的に濡れ性に乏しいポリオレフィン系樹脂においては、従来技術に記載されたサイジング剤を適用しても、成型時のマトリックス樹脂と繊維との濡れ性および接着性の悪さをさらに助長する結果となり、複合材料としての機械的特性をさらに低いものとする場合があった。
よって、熱可塑性樹脂、特にポリオレフィン系樹脂をマトリックス樹脂とする繊維強化複合材料の分野において、より繊維とマトリックス樹脂との親和性を高め、強固に接着し得るサイジング剤の開発が望まれている。
特開昭58−126375号公報 特開昭60−88062号公報 特開2003−165849号公報 特開2005−42220号公報 特開2009−1954号公報
かかる従来の技術背景に鑑み、本発明の目的は、熱可塑性マトリックス樹脂、特にポリオレフィン系樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた接着性を付与できる強化繊維用サイジング剤と、それを用いた合成繊維ストランド、繊維強化複合材料を提供することにある。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の特性を有するポリマー成分を含有する強化繊維用サイジング剤であれば、上記課題を解決出来るという知見を得て、本発明に到達した。
すなわち本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、示差走査熱量計(DSC)で測定したときに、ガラス転移点が20℃以上であり、かつ結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しないポリマー成分を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める該ポリマー成分の重量割合が10〜100重量%である、強化繊維用サイジング剤である。
前記ポリマー成分は、芳香族系ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂およびアミン変性芳香族エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の強化繊維用サイジング剤は、さらに変性ポリオレフィン樹脂を含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記ポリマー成分の重量割合が10〜90重量%であり、該変性ポリオレフィン樹脂の重量割合が10〜90重量%であることが好ましい。
前記変性ポリオレフィン樹脂は、アミン類で中和されていることが好ましい。前記熱可塑性マトリックス樹脂は、ポリオレフィン系樹脂であることが好ましい。
本発明の強化繊維用サイジング剤は、さらに水を含有し、前記ポリマー成分が水に分散した状態または水に溶解した状態であることが好ましい。
本発明の合成繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、上記記載の強化繊維用サイジング剤をその不揮発分が0.1〜20重量%となるよう付着させ、サイジング処理したものである。
前記合成繊維ストランドの合成繊維は、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維およびポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
本発明の繊維強化複合材料は、熱可塑性マトリックス樹脂と上記の合成繊維ストランドを含むものである。
本発明の強化繊維用サイジング剤は、熱可塑性マトリックス樹脂、特にポリオレフィン系樹脂を補強するために用いられる強化繊維に対して、優れた接着性を付与できる。
本発明の強化繊維用サイジング剤で処理して得られる合成繊維ストランドは、熱可塑性マトリックス樹脂に対して優れた接着性を有する。本発明の合成繊維ストランドを使用することにより、優れた物性を有する繊維強化複合材料が得られる。
本発明は、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用のサイジング剤であり、特定のポリマー成分を特定量必須に含有するものである。以下に詳細に説明する。
[ポリマー成分]
本発明の強化繊維用サイジング剤は、示差走査熱量計(DSC)で測定したときに、ガラス転移点が20℃以上であり、かつ結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しないポリマー成分を必須に含有する。
本発明でいうガラス転移点とは、JIS−K7121に準拠し、後述するDSC測定により得られるDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、階段状変化部分の曲線とが交わる点(単位:℃)として定義される。
本発明でいう吸熱ピークの結晶融解に基づく融解吸熱量とは、JIS−K7121、K7122に準拠し、後述するDSC測定により得られるDSC曲線上に発現する吸熱ピークにおいて、吸熱前後でベースラインから離れる点とベースラインに戻る点とを結んだ直線と、ピーク曲線により囲まれた面積の積分値により計算される値(単位:J/g)として定義される。
ポリマー成分のガラス転移点が20℃以上であることにより、ポリマー分子の運動性が抑えられ、繊維とマトリックス樹脂の間に強靭な界面層を形成し、接着強度が高くなる。ポリマー成分のガラス転移点は、25〜200℃が好ましく、30〜150℃がより好ましい。
また、本発明のポリマー成分は、さらに結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しないことが重要である。すなわち、本発明のポリマー成分は、結晶融解に基づく吸熱ピークを有しないか、有する場合であっても該吸熱ピークに基づく融解吸熱量が3J/g未満であることが重要である。その理由は必ずしも明確ではないが以下の様に考えられる。
一般的な結晶性ポリマーは、温度の上昇と共に、ポリマー鎖が規則正しく配列した結晶領域の分子間力が弱まり、その性状が固体状から液状へと急激に変化する。そしてその性状変化は、DSC測定において、吸熱量が3J/g以上の明確な吸熱ピークとなり確認される。しかし、この急激な性状変化は時として、コンポジット成型の際に、加温溶融されたマトリックス樹脂中にサイジング剤成分が溶出・拡散していく原因となり、サイジング剤が繊維とマトリックス樹脂との接着に全く寄与しなくなる場合がある。
それに対し本発明におけるポリマー成分は、上記の一般的な結晶性ポリマーに比較して、加温時の固体状から液状への性状変化が緩慢な為、コンポジット成型の際にも繊維表面上にサイジング剤成分が十分に残存している為、繊維とマトリックス樹脂との接着性を向上できると考えられる。
本発明のポリマー成分は、結晶融解に基づく融解吸熱量が2J/g以上の吸熱ピークを有しないこと(結晶融解に基づく吸熱ピークを有しないか、有する場合であっても該吸熱ピークに基づく融解吸熱量が2J/g未満)が好ましく、結晶融解に基づく融解吸熱量が1J/g以上の吸熱ピークを有しないこと(結晶融解に基づく吸熱ピークを有しないか、有する場合であっても該吸熱ピークに基づく融解吸熱量が1J/g未満)がより好ましく、吸熱ピークを有しないことがさらに好ましい。
結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しない温度範囲としては、ガラス転移終了時の温度から300℃の範囲であればよい。
さらに、本発明のポリマー成分は、DSC測定において、上述の様に結晶融解に基づく吸熱ピークを有さないことと同義的に、ポリマーの結晶化に基づく発熱ピークも有さない。
本発明のポリマー成分は、上記の特性を有するポリマーであれば特に限定はないが、芳香族系ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂およびアミン変性芳香族エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。本発明のポリマー成分は、これら樹脂の製造において、モノマー成分の種類や比率を制御することによって得ることができる。本発明のポリマー成分は、1種または2種以上を使用してもよい。
[芳香族系ポリエステル樹脂]
芳香族系ポリエステル樹脂とは、ポリカルボン酸またはその無水物と、ポリオールとの共重合体で、前記ポリカルボン酸またはその無水物、およびポリオールの中の少なくとも1種が芳香族化合物を含むポリマーである。なお、本発明のサイジング剤を水エマルジョンで使用する場合に、界面活性剤などの乳化剤成分を添加する必要がなくなるとの観点から、末端を含む分子骨格中に親水基を有し、自己乳化性であることが好ましい。上記親水基としては、例えばポリアルキレンオキサイド基、スルホン酸塩、カルボキシル基、これらの中和塩などが挙げられる。本ポリマーは公知の方法で製造できる。
上記ポリカルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸、3官能以上のポリカルボン酸などが挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、無水フタル酸などが挙げられる。
スルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸としては、スルホテレフタル酸塩、5−スルホイソフタル酸塩などが挙げられる。
脂肪族ジカルボン酸または脂環式ジカルボン酸としては、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、無水コハク酸、無水マレイン酸などが挙げられる。
3官能以上のポリカルボン酸としては、トリメリット酸、ピロメリット酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸などが挙げられる。
上記ポリオールとしては、ジオール、3官能以上のポリオールなどが挙げられる。
ジオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、レゾルシン、ハイドロキノン、ビスフェノールAまたはそのアルキレンオキサイド付加物などが挙げられる。
3官能以上のポリオールとしては、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトールなどが挙げられる。
示差走査熱量計(DSC)で測定したときに、ガラス転移点が20℃以上であり、かつ結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しない本発明の芳香族系ポリエステル樹脂を製造するにあたり、前記ポリカルボン酸またはその無水物(全ポリカルボン酸成分ということがある)、およびポリオールの中の少なくとも1種が芳香族化合物を含めばよいが、その中でも、全ポリカルボン酸成分の40〜99モル%が芳香族ジカルボン酸であることが好ましく、80〜99モル%であることがさらに好ましい。また、共重合ポリエステル樹脂を水溶液とする場合の乳化安定性の観点から、全ポリカルボン酸成分の1〜10モル%がスルホン酸塩含有芳香族ジカルボン酸であることが好ましい。よって、上記に例示したポリカルボン酸およびポリオールの中でも、ポリカルボン酸としては、フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェノキシエタンジカルボン酸、無水フタル酸、スルホテレフタル酸塩、5−スルホイソフタル酸塩が好ましく、ポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、ネオペンチルグリコールが好ましい。
共重合ポリエステル樹脂の重量平均分子量としては、3,000〜100,000が好ましく、10,000〜30,000がより好ましい。重量平均分子量が3,000未満であると、耐熱性に劣り、また、100,000を超えると、水溶液とする場合の乳化安定性が劣るため好ましくない。
[芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂]
芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂とは、芳香族ポリエステルポリオールとポリイソシアネートとの重付加反応等により得られるポリマーである。なお、本発明のサイジング剤を水エマルジョンで使用する場合に、界面活性剤などの乳化剤成分を添加する必要がなくなるとの観点から、末端を含む分子骨格中に親水基を有し、自己乳化性であることが好ましい。上記親水基としては、例えばポリアルキレンオキサイド基、スルホン酸塩、カルボキシル基、これらの中和塩などが挙げられる。本ポリマーは公知の方法で製造できる。
芳香族ポリエステルポリオールは、ポリカルボン酸またはその無水物と、ポリオールとの共重合体で、前記ポリカルボン酸またはその無水物、およびポリオールの中の少なくとも1種が芳香族化合物を含む。ポリカルボン酸またはその無水物、およびポリオールについては、前述の芳香族系ポリエステル樹脂において例示した化合物が挙げられる。
ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートなどが挙げられる。
示差走査熱量計(DSC)で測定したときに、ガラス転移点が20℃以上であり、かつ結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しない本発明の芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂を製造するにあたり、前記ポリカルボン酸またはその無水物、およびポリオールの中の少なくとも1種が芳香族化合物を含めばよいが、その中でも、ポリカルボン酸またはその無水物の40〜100モル%が芳香族ジカルボン酸であることが好ましく、80〜100モル%であることがさらに好ましい。好ましいポリカルボン酸およびポリオールの組み合わせとしては、前述の芳香族ポリエステル樹脂において記載したものと同様である。ポリイソシアネートとしては、2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネートが好ましい。
芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂の重量平均分子量としては、3,000〜100,000が好ましく、10,000〜50,000がより好ましい。重量平均分子量が3,000未満であると、耐熱性に劣り、また、10,0000を超えると、水溶液とする場合の乳化安定性が劣るため好ましくない。
[アミン変性芳香族エポキシ樹脂]
アミン変性芳香族エポキシ樹脂とは、分子骨格中に芳香環を有し、かつエポキシ基を1個以上有する芳香族エポキシ化合物と、水酸基含有アミン化合物との反応生成物である。アミン変性芳香族エポキシ樹脂は水溶性である。
芳香族エポキシ化合物としては、ハイドロキノン、レゾルシン、ピロカテコールなどの単核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物;ジヒドロキシナフタレン、ビフェノール、ビスフェノールF、ビスフェノールA、フェノールノボラック、オルソクレゾールノボラック、レゾルシンノボラック、ビスフェノールFノボラック、ビスフェノールAノボラック、ジシクロペンタジエン変性フェノールなどの多核多価フェノール化合物のポリグリシジルエーテル化合物などが挙げられる。芳香族エポキシ化合物のエポキシ当量と重量平均分子量については、得られるアミン変性芳香族エポキシ樹脂のガラス転移点の制御および水溶性の観点から、エポキシ当量として150〜2500g/eq(好ましくは300〜1500g/eq、さらに好ましくは400〜800g/eq)、重量平均分子量として300〜5000(好ましくは500〜3000、さらに好ましくは800〜1500)の範囲が好ましい。
水酸基含有アミン化合物としては、分子中に水酸基を有する一級または二級アミンが好ましく、モノエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジエタノールアミン、メチルエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジプロパノールアミンなどが挙げられる。
本発明のアミン変性芳香族エポキシ樹脂を得るにあたり、これらの中でも、芳香族エポキシ化合物としてビスフェノールAジグリシジルエーテル、水酸基含有アミン化合物としてジエタノールアミンを使用することが好ましい。
アミン変性芳香族エポキシ樹脂の製造方法としては、芳香族エポキシ化合物を軟化点以上の温度まで加温して液状とし、攪拌下で水酸基含有アミン化合物を滴下して反応させ、その後水を徐々に添加して溶解し、最終的に水溶化物とすることにより得られる。加温により液状とした芳香族エポキシ化合物の粘度が高い場合には、必要によりアルコール系、セロソルブ系、ケトン系などの溶剤を添加することも好ましい。また、水酸基含有アミン化合物の反応によっても水溶性が不足する場合は、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、乳酸などのカルボン酸などを併用し、塩を形成させることにより水溶性を向上させることも好ましい。
芳香族エポキシ化合物に対する水酸基含有アミン化合物の反応比率については、芳香族エポキシ化合物のエポキシ基に対してモル比で0.5〜2.5当量が好ましく、0.5〜2.0当量がより好ましく、1.0〜2.0当量がさらに好ましい。モル比が0.5当量を下回ると十分な水溶性が得られ難くなる場合があり、2.0当量を上回ると未反応の水酸基含有アミン化合物の割合が大きくなり、接着性が低くなる場合がある。
[変性ポリオレフィン樹脂]
本発明の強化繊維用サイジング剤は、さらに、変性ポリオレフィン樹脂を含有することが好ましい。変性ポリオレフィン樹脂は、特にマトリックス樹脂がポリオレフィン系樹脂である場合に、本発明におけるサイジング剤の必須成分である上記のポリマー成分とマトリックス樹脂との相溶性を高め、さらに接着性を向上させる成分である。
変性ポリオレフィン樹脂とは、エチレン、プロピレンなどのオレフィン系モノマーと、不飽和カルボン酸などのオレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合体であり、公知の方法で製造できる。オレフィンと不飽和カルボン酸とを共重合させたランダム共重合体でもよいし、オレフィンに不飽和カルボン酸をグラフトしたグラフト共重合体でもよい。
オレフィン系モノマーとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテンなどが挙げられる。これらは単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和カルボン酸などが挙げられる。これらは単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用することもできる。
上記のオレフィン系モノマーと、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマーとの共重合比率としては、共重合の合計重量を100重量%として、オレフィン系モノマー80〜99.5重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー0.5〜20重量%であることが好ましく、オレフィン系モノマー90〜99重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー1〜10重量%であることがさらに好ましく、オレフィン系モノマー95〜98重量%、オレフィン系モノマーと共重合可能なモノマー2〜5重量%であることが特に好ましい。オレフィン系モノマーの重量%が80重量%未満であると、マトリックス樹脂との相溶性が低下することがある。オレフィン系モノマーの重量%が99.5重量%を超えると、繊維とマトリックス樹脂との接着性を阻害する場合がある。また、サイジング剤を水溶液とする場合に水分散性が低下し、繊維への均一付与が困難となることがある。
なお、本発明の変性ポリオレフィン樹脂は、共重合により導入したカルボキシル基などの変性基が、塩基性化合物で中和されていることが好ましい。塩基性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどの金属塩;アンモニア;ラウリルアミン、エチレンジアミン、トリメチルアミン、ジメチルエタノールアミン、ジブチルエタノールアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノプロパノールアミン、ジプロパノールアミン、モノブタノールアミンなどのアミン類が挙げられる。これらの中でもアミン類がさらに好ましく、ジエタノールアミンが特に好ましい。
また、本発明の変性ポリオレフィン樹脂の重量平均分子量としては、5000〜200000が好ましく、50000〜150000がより好ましい。重量平均分子量が5000未満であると、耐熱性に劣り、また、200000を超えると、水溶液とする場合に水分散性が低下することがある。
上記の変性ポリオレフィン樹脂は、通常、明確な結晶融解点を示すことが多く、つまりDSC測定で、結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しており、加温時にその性状が固体状から液状へと急激に変化する。そのため、上記変性ポリオレフィン樹脂を単独でサイジング剤として繊維上に付与しても、コンポジット成型の際にマトリックス樹脂内に急速に溶出・拡散してしまい、繊維とマトリックス樹脂との接着に寄与しないことが多い。
加温時の固体状から液状への性状変化が緩慢な、本発明のサイジング剤の必須成分である上記ポリマー成分と変性ポリオレフィン樹脂とが繊維上に共存することによりはじめて、コンポジット成型の際に必要以上に変性ポリオレフィン樹脂を含めたサイジング剤成分が溶出・拡散することなく繊維表面近傍に存在し、繊維とマトリックス樹脂との接着に寄与することができるのである。
[サイジング剤]
本発明の熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤において、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記ポリマー成分の重量割合は10〜100重量%である。重量割合が10重量%未満の場合、コンポジット成型の際にサイジング剤成分が加温溶融されたマトリックス樹脂中に溶出・拡散してしまい、サイジング剤が繊維とマトリックス樹脂との接着に全く寄与しなくなる。
さらに変性ポリオレフィン樹脂を含有する場合、マトリックス樹脂との相溶性向上効果および接着性向上効果をより発揮させる点から、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記ポリマー成分の重量割合が10〜90重量%、前記変性ポリオレフィン樹脂の重量割合が10〜90重量%が好ましく、ポリマー成分の重量割合が25〜75重量%、変性ポリオレフィン樹脂の重量割合が25〜75重量%がより好ましく、ポリマー成分の重量割合が40〜60重量%、変性ポリオレフィン樹脂の重量割合が40〜60重量%がさらに好ましい。ポリマー成分と変性ポリオレフィン樹脂が上記重量割合であると、コンポジット成型の際にサイジング剤成分が加温溶融されたマトリックス樹脂中に溶出・拡散することなく、繊維とマトリックス樹脂の間に、マトリックス樹脂との接着性に優れかつ強靭な界面層を形成するため、高い接着性を得ることができる。なお、本発明における不揮発分とは、サイジング剤を105℃で熱処理して溶媒等を除去し、恒量に達した時の絶乾成分をいう。
本発明のサイジング剤は、アセトン、メチルエチルケトン等の有機溶剤に分散させた状態や溶解させた状態のものも使用できるが、取扱い時の人体への安全性や、火災等の災害防止、自然環境の汚染防止等の観点から、さらに水を含有し、前記ポリマー成分や前記変性ポリオレフィン樹脂が水に分散した状態(水分散体)または水に溶解した状態(水溶液)であることが好ましい。
本発明のサイジング剤を水分散体または水溶液として製造する方法については、特に限定はなく、公知の手法が採用できる。たとえば、サイジング剤を構成する各成分を攪拌下の温水中に投入して乳化分散または溶解する方法や、サイジング剤を構成する各成分を混合し、得られた混合物を軟化点以上に加温後、ホモジナイザー、ホモミキサー、ボールミル等を用いて機械せん断力を加えつつ、水を徐々に投入して転相乳化する方法等が挙げられる。
なお、上記水分散体や水溶液には、製造時の操作性や水分散体の経日安定性を向上させる目的で、上記水分散体や水溶液の利点を損なわない範囲で有機溶剤等の水以外の溶媒を含有することができる。
有機溶剤としては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコールまたはグリコールエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類が例示できる。その含有量としては、溶媒の種類にもよるが、水分散体や水溶液の利点を損なわないために、サイジング剤の不揮発分に対して100重量%以下が好ましく、50重量%以下がさらに好ましい。
本発明のサイジング剤が水分散体又は水溶液の場合、その不揮発分の濃度については、特に限定はなく、そのサイジング剤の不揮発分組成により、水分散体としての安定性や、製品として取り扱いやすい粘度等を考慮して適宜選択されるものであるが、製品の輸送コスト等を考慮すれば10重量%以上が好ましく、20〜60重量%がさらに好ましく、30〜50重量%が特に好ましい。
本発明のサイジング剤を構成する上記で説明した以外の成分としては、たとえば、各種界面活性剤や、各種平滑剤、酸化防止剤、難燃剤、抗菌剤、結晶核剤、消泡剤等を挙げることができ、1種または2種以上を組み合わせて用いてもよい。
特に、界面活性剤は、本発明のサイジング剤中に水不溶性または難溶性である樹脂成分を有する場合に、乳化剤として使用することによって、水系乳化を効率よく実施することができる。よって、サイジング剤を水分散体にすることができる。界面活性剤を使用するときの不揮発分全体に占める重量割合は、5〜40重量%が好ましく、10〜30重量%がより好ましく、15〜25重量%がさらに好ましい。
界面活性剤としては、特に限定されず、非イオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤および両性界面活性剤から、公知のものを適宜選択して使用することができる。界面活性剤は、1種または2種以上を併用してもよい。
非イオン系界面活性剤としては、たとえば、アルキレンオキサイド付加非イオン系界面活性剤(高級アルコール、高級脂肪酸、アルキルフェノール、スチレン化フェノール、ベンジルフェノール、ソルビタン、ソルビタンエステル、ヒマシ油、硬化ヒマシ油等にエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のアルキレンオキサイド(2種以上の併用可)を付加させたもの)、ポリアルキレングリコールに高級脂肪酸等を付加させたもの、エチレンオキサイド/プロピレンオキサイド共重合体等を挙げることができる。
アニオン系界面活性剤としては、たとえば、カルボン酸(塩)、高級アルコール・高級アルコールエーテルの硫酸エステル塩、スルホン酸塩、高級アルコール・高級アルコールエーテルの燐酸エステル塩等を挙げることができる。
カチオン系界面活性剤としては、たとえば、第4級アンモニウム塩型カチオン系界面活性剤(ラウリルトリメチルアンモニウムクロライド、オレイルメチルエチルアンモニウムエトサルフェート等)、アミン塩型カチオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンラウリルアミン乳酸塩等)等を挙げることができる。
両性界面活性剤としては、たとえば、アミノ酸型両性界面活性剤(ラウリルアミノプロピオン酸ナトリウム等)、ベタイン型両性界面活性剤(ステアリルジメチルベタイン、ラウリルジヒドロキシエチルベタイン等)等を挙げることができる。
〔合成繊維ストランド〕
本発明の合成繊維ストランドは、原料合成繊維ストランドに対して、上記の強化繊維用サイジング剤をその不揮発分が0.1〜20重量%となるよう付着させ、サイジング処理したものであり、熱可塑性マトリックス樹脂を補強するための強化繊維である。
本発明の合成繊維ストランドの製造方法は、前述したサイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させ、得られた付着物を乾燥するサイジング処理工程を含む製造方法である。
サイジング剤を原料合成繊維ストランドに付着させて付着物を得る方法については、特に限定はないが、サイジング剤をキスローラー法、ローラー浸漬法、スプレー法その他公知の方法で、原料合成繊維ストランドに付着させる方法であればよい。これらの方法のうちでも、ローラー浸漬法が、サイジング剤を原料合成繊維ストランドに均一付着できるので好ましい。
得られた付着物の乾燥方法については、特に限定はなく、例えば、加熱ローラー、熱風、熱板等で加熱乾燥することができる。
なお、本発明のサイジング剤の原料合成繊維ストランドへの付着にあたっては、サイジング剤の構成成分全てを混合後に付着させてもよいし、構成成分を別々に二段階以上に分けて付着させてもよい。また、本発明の効果を阻害しない範囲で、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂および/または本発明のポリマー成分以外のウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ナイロン樹脂、アクリル系樹脂などの熱可塑性樹脂を原料合成繊維ストランドに付着させてもよい。
本発明の合成繊維ストランドは、各種熱可塑性樹脂をマトリックス樹脂とする複合材料の強化繊維として使用され、使用させる形態としては、連続繊維の状態でも、所定の長さに切断された状態でもよい。
原料合成繊維ストランドへのサイジング剤の不揮発分の付着量は適宜選択でき、合成繊維ストランドが所望の機能を有するための必要量とすればよいが、連続繊維の状態の合成繊維ストランドにおいては、その付着量は原料合成繊維ストランドに対して0.1〜10重量%であることが好ましく、0.5〜5重量%がより好ましい。また、所定の長さに切断された状態のストランドにおいては0.5〜20重量%であることが好ましく、1〜10重量%がより好ましい。
サイジング剤の付着量が少ないと、樹脂含浸性、接着性に関する本発明の効果が得られにくく、また、合成繊維ストランドの集束性が不足し、取扱い性が悪くなることがある。また、サイジング剤の付着量が多過ぎると、合成繊維ストランドが剛直になり過ぎて、かえって取扱い性が悪くなったり、コンポジット成型の際に樹脂含浸性が悪くなったりすることがあり好ましくない。
本発明のサイジング剤を適用し得る(原料)合成繊維ストランドの合成繊維としては、炭素繊維、ガラス繊維、セラミック繊維などの各種無機繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維、ポリケトン繊維などの各種有機繊維が挙げられる。得られる繊維強化複合材料としての物性の観点から、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維およびポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
〔繊維強化複合材料〕
本発明の繊維強化複合材料は、熱可塑性マトリックス樹脂と前述の強化繊維としての合成繊維ストランドを含むものである。合成繊維ストランドは本発明のサイジング剤により処理されているので、合成繊維ストランドおよび熱可塑性マトリックス樹脂との親和性が良好となり、接着性に優れた繊維強化複合材料となる。
ここで、本発明の熱可塑性マトリックス樹脂とは、熱可塑性樹脂からなるマトリックス樹脂をいい、1種または2種以上含んでいてもよい。熱可塑性マトリックス樹脂としては特に制限はなく、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ABS樹脂、フェノキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリフェニレンサルフィド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルケトン樹脂等が挙げられるが、中でも本発明のサイジング剤による接着性向上効果がより高いポリオレフィン系樹脂が好ましい。これら熱可塑性マトリックス樹脂は、合成繊維ストランドとの接着性をさらに向上させるなどの目的で、その一部または全部が変性したものであっても差し支えない。
繊維強化複合材料の製造方法としては、特に限定はなく、チョップドファイバー、長繊維ペレットなどによるコンパウンド射出成型、UDシート、織物シートなどによるプレス成型、その他フィラメントワインディング成型など公知の方法を採用できる。
繊維強化複合材料中の合成繊維ストランドの含有量についても特に限定はなく、繊維の種類、形態、熱可塑性マトリックス樹脂の種類などにより適宜選択すればよいが、得られる繊維強化複合材料に対して、5〜70重量%が好ましく、20〜60重量%がより好ましい。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、ここに記載した実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例に示されるパーセント(%)は特に限定しない限り、「重量%」を示す。各特性値の測定は以下に示す方法に基づいて行った。
<ガラス転移点>
JIS−K7121に準拠し、示差走査熱量計(DSC)(パーキンエルマー・インスツルメント社製JADE DSC LAB SYSTEM)により、試料重量約10mg、昇温速度10℃/分の条件下で測定した。具体的には、10±1mgで精秤した試料を示差走査熱量計にセットし、予備測定にて確認した試料溶融温度Tm+30℃まで昇温する。次に、予備測定にて確認したガラス転移点Tg−50℃まで降温した後、昇温速度10℃/分で300℃まで昇温する。得られたDSC曲線の階段状変化を示す部分において、各ベースラインの延長した直線から縦軸方向に等距離にある直線と、階段状変化部分の曲線とが交わる点をガラス転移点Tg(単位:℃)とした。
<融解吸熱量>
JIS−K7121、K7122に準拠し、上記ガラス転移点測定により得られるDSC曲線上に発現する吸熱ピークにおいて、吸熱前後でベースラインから離れる点とベースラインに戻る点とを結んだ直線と、ピーク曲線により囲まれた面積の積分値により計算される値(単位:J/g)を融解吸熱量とした。
<接着性>
複合材料界面特性評価装置HM410(東栄産業株式会社製)を使用し、マイクロドロップレット法により接着性を評価した。
実施例および比較例で製造した炭素繊維ストランドより、炭素繊維フィラメントを取り出し、複合材料界面特性評価装置にセッティングする。装置上で溶融したポリプロピレン樹脂混合物J−900GP(出光石油化学社製)/ユーメックス1010(三洋化成工業社製)=90/10のドロップを炭素繊維フィラメント上に形成させ、室温で十分に冷却し、測定用の試料を得た。再度測定試料を装置にセッティングし、ドロップを装置ブレードで挟み、炭素繊維フィラメントを装置上で0.06mm/分の速度で走行させ、炭素繊維フィラメントからドロップを引き抜く際の最大引き抜き荷重Fを測定した。
次式により界面剪断強度τを算出し、炭素繊維フィラメントとポリプロピレン樹脂との接着性を評価した。
界面剪断強度τ(単位:MPa)=F/πdl
(F:最大引き抜き荷重 d:炭素繊維フィラメント直径 l:ドロップの引き抜き方向の粒子径)
<マトリックス樹脂濡れ性>
上述の接着性評価における測定用試料について、引き抜き方向のドロップ径が100〜120μmの範囲にあるドロップを20個選定し、炭素繊維フィラメントに対する接触角を測定、その平均値を得た。サイジング剤未処理炭素繊維ストランドより取り出した炭素繊維フィラメントを用いて同様にして得た接触角と比較して、下記基準に従いマトリックス樹脂濡れ性を評価した。
○:サイジング剤未処理炭素繊維の接触角に比較して1°以上接触角が小さい。
△:サイジング剤未処理炭素繊維の接触角とほぼ同等(接触角の差が±1°未満)
×:サイジング剤未処理炭素繊維の接触角に比較して1°以上接触角が大きい。
〔製造例1〕
反応器中に窒素ガスを封入下、ジメチルイソフタレート950部、ジエチレングリコール1000部、酢酸亜鉛0.5部および三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140〜220℃で3時間エステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30部を添加し、220〜260℃で1時間エステル化反応を行った後、240〜270℃で減圧下2時間重縮合反応を行った。得られた芳香族系ポリエステル樹脂のNMRによる組成分析結果は以下の通りであった。
イソフタル酸 49モル%
ジエチレングリコール 50モル%
5−ナトリウムスルホイソフタル酸 1モル%
続いて得られた芳香族系ポリエステル樹脂200部とエチレングリコールモノブチルエーテル100部を乳化器に仕込み、150〜170℃で撹拌し、均一化した。続いて撹拌下で水700を徐々に加え、不揮発分20重量%の水エマルジョンである芳香族系ポリエステル樹脂PE−1を得た。
〔製造例2〕
反応器中に窒素ガスを封入下、ジメチルテレフタレート760部、ジメチルイソフタレート190部、エチレングリコール750部、ジエチレングリコール250部、酢酸亜鉛0.5部および三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140〜220℃で3時間エステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸30部を添加し、220〜260℃で1時間エステル化反応を行った後、240〜270℃で減圧下2時間重縮合反応を行った。得られた芳香族系ポリエステル樹脂のNMRによる組成分析結果は以下の通りであった。
テレフタル酸 39モル%
イソフタル酸 10モル%
エチレングリコール 40モル%
ジエチレングリコール 10モル%
5−ナトリウムスルホイソフタル酸 1モル%
続いて得られた芳香族系ポリエステル樹脂200部とエチレングリコールモノブチルエーテル100部を乳化器に仕込み、150〜170℃で撹拌し、均一化した。続いて撹拌下で水700を徐々に加え、不揮発分20重量%の水エマルジョンである芳香族系ポリエステル樹脂PE−2を得た。
〔製造例3〕
反応器中に窒素ガスを封入下、ジメチルテレフタレート650部、エチレングリコール110部、テトラメチレングリコール1160部、酢酸亜鉛0.5部および三酸化アンチモン0.5部を仕込み、140〜220℃で3時間エステル交換反応を行った。次に、5−ナトリウムスルホイソフタル酸60部およびアジピン酸340部を添加し、220〜260℃で1時間エステル化反応を行った後、240〜270℃で減圧下2時間重縮合反応を行った。得られた芳香族系ポリエステル樹脂のNMRによる組成分析結果は以下の通りであった。
テレフタル酸 28.5モル%
アジピン酸 19.5モル%
エチレングリコール 6モル%
テトラメチレングリコール 44モル%
5−ナトリウムスルホイソフタル酸 2モル%
続いて得られた芳香族系ポリエステル樹脂200部とエチレングリコールモノブチルエーテル100部を乳化器に仕込み、150〜170℃で撹拌し、均一化した。続いて撹拌下で水700を徐々に加え、不揮発分20重量%の水エマルジョンである芳香族系ポリエステル樹脂PE−3を得た。
〔製造例4〕
反応器中に窒素ガスを封入下、テレフタル酸498部、イソフタル酸332部、エチレングリコール248部、ジエチレングリコール106部、テトラメチレングリコール45部およびジブチル錫オキサイド0.2部を仕込み、190〜240℃で10時間エステル化反応を行い、芳香族ポリエステルポリオールを得た。次に、得られた芳香族ポリエステルポリオール1000部を120℃で減圧により脱水し、80℃まで冷却後、メチルエチルケトン680部を仕込み撹拌溶解した。引き続きイソホロンジイソシアネート218部および鎖伸張化剤として2,2−ジメチロールプロピオン酸67部を仕込み、70℃で12時間ウレタン化反応を行った。反応終了後、40℃まで冷却し、13.6%アンモニア水97部を加えて中和反応後、水2950部を加え水エマルジョンとした。得られた水エマルジョンを65℃で減圧処理してメチルエチルケトンを留去し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の水エマルジョンである芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂PU−1を得た。
〔製造例5〕
反応器中に窒素ガスを封入下、テレフタル酸332部、イソフタル酸332部、アジピン酸146部、エチレングリコール258部、ジエチレングリコール106部、ネオペンチルグリコール52部およびジブチル錫オキサイド0.2部を仕込み、190〜240℃で10時間エステル化反応を行い、芳香族ポリエステルポリオールを得た。次に、得られた芳香族ポリエステルポリオール1000部を120℃で減圧により脱水し、80℃まで冷却後、メチルエチルケトン680部を仕込み撹拌溶解した。引き続きヘキサメチレンジイソシアネート160部および鎖伸張化剤として2,2−ジメチロールプロピオン酸67部を仕込み、70℃で12時間ウレタン化反応を行った。反応終了後、40℃まで冷却し、13.6%アンモニア水97部を加えて中和反応後、水2870部を加え水エマルジョンとした。得られた水エマルジョンを65℃で減圧処理してメチルエチルケトンを留去し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の水エマルジョンである芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂PU−2を得た。
〔製造例6〕
反応器中に窒素ガスを封入下、アジピン酸730部、テトラメチレングリコール495部およびジブチル錫オキサイド0.2部を仕込み、190〜240℃で10時間エステル化反応を行い、脂肪族ポリエステルポリオールを得た。次に、得られた脂肪族ポリエステルポリオール1000部を120℃で減圧により脱水し、80℃まで冷却後、メチルエチルケトン680部を仕込み撹拌溶解した。引き続き分子量600のポリエチレングリコール60部、ヘキサメチレンジイソシアネート180部および鎖伸張化剤として2,2−ジメチロールプロピオン酸67部を仕込み、70℃で12時間ウレタン化反応を行った。反応終了後、40℃まで冷却し、13.6%アンモニア水97部を加えて中和反応後、水2870部を加え水エマルジョンとした。得られた水エマルジョンを65℃で減圧処理してメチルエチルケトンを留去し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の水エマルジョンである芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂PU−3を得た。
〔製造例7〕
反応器中にビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製“JER(登録商標)1002”234部およびエチレングリコールモノイソプロピルエーテル60部を仕込み、90〜110℃で溶融、撹拌均一化した。次にジエタノールアミン41部を撹拌下で添加し、90〜110℃で2時間反応し、アミン付加を行った。続いて酢酸22部を徐々に添加し中和反応を行った後、70〜80℃に冷却して水643部を徐々に添加して水溶化、不揮発分30重量%の水エマルジョンであるアミン変性芳香族エポキシ樹脂EP−1を得た。
〔製造例8〕
反応器中にビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製“JER(登録商標)1001”223部およびエチレングリコールモノイソプロピルエーテル35部を仕込み、90〜110℃で溶融、撹拌均一化した。次にジエタノールアミン52部を撹拌下で添加し、90〜110℃で2時間反応し、アミン付加を行った。続いて酢酸28部を徐々に添加し中和反応を行った後、70〜80℃に冷却して水662部を徐々に添加して水溶化、不揮発分30重量%の水エマルジョンであるアミン変性芳香族エポキシ樹脂EP−2を得た。
〔製造例9〕
撹拌装置を備えたオートクレーブ中に、無水マレイン酸変性ポリプロピレン樹脂(プロピレン/無水マレイン酸グラフト共重合比率(重量%):95/5、重量平均分子量:30000)222部、ポリオキシエチレン8モル付加オレイルエーテル52部、およびジエタノールアミン26部を仕込み、窒素ガス還流、撹拌下で170〜180℃まで昇温した。ついで撹拌下水700部を徐々に投入、170〜180℃で2時間撹拌し、内容物を均一溶解した。その後常温まで冷却し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の水エマルジョンである変性ポリオレフィン樹脂PP−1を得た。
〔製造例10〕
撹拌装置を備えたオートクレーブ中に、無水マレイン酸変性ポリエチレン樹脂(エチレン/無水マレイン酸グラフト共重合比率(重量%):97.5/2.5、重量平均分子量:10000)200部、ポリオキシエチレン15モル付加オレイルエーテル93部、および水酸化カリウム8部を仕込み、窒素ガス還流、撹拌下で170〜180℃まで昇温した。ついで撹拌下水699部を徐々に投入、170〜180℃で2時間撹拌し、内容物を均一溶解した。その後常温まで冷却し、水分調整を行い、不揮発分30重量%の水エマルジョンである変性ポリオレフィン樹脂PP−2を得た。
〔製造例11〕
乳化器中にビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製“JER(登録商標)1001”153部、液状ビスフェノールA型エポキシ樹脂(ジャパンエポキシレジン社製“JER(登録商標)828”102部、およびポリオキシエチレン40モル付加トリスチレン化フェニルエーテル45部を仕込み、90〜110℃で溶融、撹拌均一化した。その後70〜80℃まで冷却し、ホモミキサーによる撹拌下で、水700部を徐々に投入し、不揮発分30重量%の水エマルジョンであるエポキシ樹脂乳化物EPEM−1を得た。
上記製造例1〜11における水エマルジョンを105℃で熱処理、溶媒等を除去して得られた絶乾物について、DSC測定によりガラス転移点、融解吸熱量を測定した。その結果を表1に示した。
Figure 2011231414
〔実施例1〕
上記製造例1の芳香族系ポリエステル樹脂PE−1を水で希釈して、不揮発分濃度15重量%のサイジング剤エマルジョンを調製し、サイジング剤未処理炭素繊維ストランド(繊度800tex、フィラメント数12000本)を浸漬・含浸させた後、105℃で15分間熱風乾燥させて、理論付着量が5%であるサイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。本ストランドについて、前述の方法によりマトリックス樹脂濡れ性、接着性を評価した。その結果を表2に示した。
〔実施例2〜15、比較例1〜6〕
実施例1において、表2〜4に示すサイジング剤不揮発分組成になるように、不揮発分濃度15重量%のサイジング剤エマルジョンを調製した以外は実施例1と同様にして、サイジング剤処理炭素繊維ストランドを得た。各特性値の評価結果を表2〜4に示した。
Figure 2011231414
Figure 2011231414
Figure 2011231414
表1〜4から明らかなように、比較例と比較して実施例ではいずれもマトリックス樹脂濡れ性および接着性に関し良好な結果が得られた。

Claims (9)

  1. 熱可塑性マトリックス樹脂を補強するために用いられる強化繊維用サイジング剤であって、
    示差走査熱量計(DSC)で測定したときに、ガラス転移点が20℃以上であり、かつ結晶融解に基づく融解吸熱量が3J/g以上の吸熱ピークを有しないポリマー成分を必須に含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める該ポリマー成分の重量割合が10〜100重量%である、強化繊維用サイジング剤。
  2. 前記ポリマー成分が、芳香族系ポリエステル樹脂、芳香族ポリエステル系ウレタン樹脂およびアミン変性芳香族エポキシ樹脂から選ばれる少なくとも1種である、請求項1に記載の強化繊維用サイジング剤。
  3. さらに変性ポリオレフィン樹脂を含有し、サイジング剤の不揮発分全体に占める前記ポリマー成分の重量割合が10〜90重量%であり、該変性ポリオレフィン樹脂の重量割合が10〜90重量%である、請求項1または2に記載の強化繊維用サイジング剤。
  4. 前記変性ポリオレフィン樹脂が、アミン類で中和されている、請求項3に記載の強化繊維用サイジング剤。
  5. 前記熱可塑性マトリックス樹脂が、ポリオレフィン系樹脂である、請求項1〜4のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤。
  6. さらに水を含有し、前記ポリマー成分が水に分散した状態または水に溶解した状態である、請求項1〜5のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤。
  7. 原料合成繊維ストランドに対して、請求項1〜6のいずれかに記載の強化繊維用サイジング剤をその不揮発分が0.1〜20重量%となるよう付着させ、サイジング処理した、合成繊維ストランド。
  8. 前記合成繊維が、炭素繊維、アラミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリエチレンテレフタレート繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、ポリエチレンナフタレート繊維、ポリアリレート繊維、ポリアセタール繊維、PBO繊維、ポリフェニレンサルフィド繊維およびポリケトン繊維から選ばれる少なくとも1種である、請求項7に記載の合成繊維ストランド。
  9. 熱可塑性マトリックス樹脂と請求項7または8に記載の合成繊維ストランドを含む、繊維強化複合材料。
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