JP2011224546A - 無機酸化物成形触媒とその製造方法 - Google Patents

無機酸化物成形触媒とその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】
トルエン等のVOC分解活性が高く、しかも成形触媒としての強度が大きく、実用の装置、システムへの利用に適した新しいVOC分解用触媒を提供する。
【解決手段】
揮発性有機化合物(VOC)分解用の無機酸化物成形触媒とし、少なくとも以下の工程を含む方法で製造する。
(A) 無機酸化物原料もしくは無機酸化物の原料と成形結合剤主成分としての金属酸化物の原料との混合物の焼成、
(B) 粘土物質を主成分として含む成形結合剤もしくは成形助剤を用いての押出し成形、
(C) 成形後の焼成。
【選択図】図2

Description

本発明は無機酸化物成形触媒とその製造方法、並びにこれを用いた揮発性有機化合物(VOC)の分解に関するものである。
揮発性有機化合物(VOC)は光化学スモッグや浮遊粒子状物質汚染の原因となり、住民の健康被害を引き起こす。そこで、VOCを水と炭酸ガスまで分解処理するための触媒が注目されている。VOCの燃焼温度を低下させ、しかも触媒本体は半永久的に使用できるので、VOCを処理する技術の一つの手段として触媒を用いることが有効であると考えられている。このようなVOC処理装置用の触媒として従来から白金などの貴金属を用いることが知られているが、これら貴金属は高価であって、資源としてもその利用についての制約が大きい。このため、広く用いられている白金などの貴金属の代わりに安価な材料を用いることは装置の低価格化を促し、装置を普及させるためには重要である。ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、さらにはナフタレンなどの多環芳香族炭化水素であるVOC、特に、有機溶剤や塗料などの広い用途に用いられているトルエン、ベンゼンという芳香族炭化水素については安価な材料を用いた新しい触媒の開発が望まれている。また、白金触媒は水蒸気存在下で活性が低下することが知られており、湿度がある実用的な環境で用いる場合に本来の性能が発揮できないという問題がある。
貴金属に代わり得るVOC分解用の触媒としては安価な無機酸化物が期待される。その事例として特許文献1に示されるように酸化セリウム(CeO2)がトルエンの分解に対して高い活性を示すことが報告されている。
ただ、ハニカム型担体などに担持させる貴金属触媒とは異なり、酸化セリウムなどの無機酸化物触媒は粉末であるために、これらの触媒を実用的な装置に導入する際には圧力損失や大気中への飛び散り、フィルターの目詰まりを防ぐ必要があるので触媒を成形することが必須となる。
一般に、成形触媒の強度が良好なのは打錠成形法であるが、製造コストが高価で、さらには圧力をかけるために細孔がつぶれ、触媒活性に有効な表面積が減少するというデメリットがある。一方、押出し成形法は製造コストが安く、細孔が保たれて活性は高くなるものの、触媒としての強度が低く、実用の装置、システムにおいての支障を生じやすい。
特開2006-015338号公報
本発明は、以上のとおりの背景から、VOC分解用の無機酸化物触媒として報告されている酸化セリウムなど無機酸化物粉末を成形する際の問題点を解消し、トルエン等のVOC分解活性が高く、しかも成形触媒としての強度が大きく、実用条件下での装置、システムへの利用に適した新しいVOC分解用成形触媒を提供することを課題としている。
上記課題を解決するため、本発明では、成形結合剤として用いることで、高表面積でも押出し成形後の成形体の強度が良好で、かつVOC分解性能を高く維持できる揮発性有機化合物(VOC)分解用成形触媒を提供する。
すなわち、本発明は以下のことを特徴としている。
第1:無機酸化物と、粘土物質及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を主成分として含む成形結合剤と、を含む無機酸化物成形触媒。
第2:前記で用いられる無機酸化物はセリウム、マンガン、ニッケル、セレン、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、タングステン、ビスマス、鉄、銅、クロム、チタン、バナジウム、亜鉛、ランタンから選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物である。
第3:前記で用いられる粘土物質は、カオリン、ベントナイト白土、けいそう土から選ばれる少なくとも1種である。
第4:前記で用いられる金属酸化物は、コバルト酸化物、銅酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物及び亜鉛酸化物から選ばれる少なくとも1種である。
第5:前記で用いられるコバルト酸化物は、四酸化三コバルトである。
第6:BET比表面積70m2g-1以上であり、強度が0.1Nmm-2以上である
第7:前記無機酸化物成形触媒の製造方法であって、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする無機酸化物成形触媒の製造方法。
(A) 前記の無機酸化物の原料もしくは無機酸化物の原料と成形結合剤主成分としての金属酸化物の原料との混合物の焼成、
(B) 粘土物質を主成分として含む成形結合剤もしくは成形助剤を用いての押出し成形、
(C) 成形後の焼成。
第8:前記無機酸化物成形触媒の製造方法であって、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする無機酸化物成形触媒の製造方法。
(A) 前記の無機酸化物の原料と成形結合剤主成分としての金属酸化物の原料との混合物を焼成する工程、
(B) 前記焼成物を押出し成形する工程、
(C) 成形後の焼成する工程。
第9:工程(A)での無機酸化物の原料は炭酸塩である。
第10:工程(A)での金属酸化物の原料は炭酸塩である。
第11:工程(B)での成形助剤はセルロース物質である。
第12:工程(A)での焼成は、空気中300℃〜600℃の範囲での焼成である。
第13:工程(C)での焼成は、空気中300℃〜600℃の範囲での焼成である。
第14:前記の成形触媒を揮発性有機化合物(VOC)を含む気相に加熱接触させて前記揮発性有機化合物を酸化分解することを特徴とする揮発性有機化合物(VOC)の分解方法。
金属酸化物や粘土物質を種々の無機酸化物の成形結合剤として使用するという特徴により強度が強く保たれるとともに高い触媒活性が保持され、安価で簡便な押し出し成形法、低温での焼成、等によりVOC処理装置の低価格化に貢献でき、装置の普及によって環境改善に貢献できると期待される。
Ce-Co (1:1)酸化物触媒(実線)と白金触媒(破線)のトルエン分解に対する活性を反応温度に対するトルエンとCO2の転化率を示したものである。反応温度200℃における5%水蒸気存在下での触媒活性も同時に示してある。 銅元素の割合に対する銅酸化物とコバルト酸化物の複合成形触媒のトルエン転化率を示す。比較として市販CeO2を用いた成形触媒のトルエン転化率を図中に点線で示してある。 銅元素の割合に対する銅酸化物とコバルト酸化物の複合成形触媒の表面積と成形触媒の強度を示す図である。 (a)は円柱状の成形触媒を示す写真であり、(b)はハニカム状の成形触媒を示す写真である。 (a)は作製したハニカム状成形触媒で処理する前と処理した後の悪臭ガスの臭気レベルを示しており、(b)は、市販のハニカム型白金触媒で処理する前と処理した後の悪臭ガスの臭気レベルを示している。(c)は悪臭ガスの成分を示している。 (a)CuO-Co3O4-CeO2粉末と(b)Pt(0.08wt%)/ゼオライト触媒の酢酸エチル分解に対する活性を反応温度に対するCO2の転化率を示したものである。 (a)CuO-Co3O4-CeO2粉末と(b)CuO-Co3O4粉末の加熱時間に対する比表面積の変化を示す図である。
本発明の無機酸化物成形触媒は、その形状において不均一な粉体や粒子体ではなく、円柱状、ハニカム状など三次元の所定の形状を有している。
本発明の無機酸化物成形触媒は、その組成において以下の成分を含むことを必須としている。
(A)無機酸化物、例えば前記のとおりの各種の金属元素の酸化物の1種以上である。
(B)成形結合剤、すなわち粘土物質と金属酸化物のうちの1種以上を含むものである。ここで、金属酸化物としては、例えば前記のとおりのコバルト酸化物、銅酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物、亜鉛酸化物が好適なものとして挙げられる。
粘土物質としては、例えば、カオリン、ベントナイト白土、けいそう土が好適なものとして挙げられる。
成分(A)の無機酸化物は、揮発性有機化合物(VOC)の分解活性を有するもの、あるいは、成分(B)の成形結合剤との組合わせにおいてこの分解活性を発現するものとしてある。成分(B)は、成形強度を向上させる効果を有するものであるが、それ自身が前記分解活性を有しているか、あるいは前記のような組合わせとして分解活性を発現するものであってもよい。成形強度とともに触媒活性をも両立させることのできる本発明の触媒は技術的価値の高いものと言える。
無機酸化物成形触媒は、その組成においては成分(A)及び成分(B)はそれぞれ分離可能な混合状態であるか、各々分離困難な状態として一体化されている、複合体の状態であってもよい。また、成分(A)である無機酸化物としての金属元素の酸化物と、成分(B)である成形結合剤に含まれる金属酸化物とが各々分離困難な状態として一体化されている、複合体の状態であってもよい。
成形結合剤の金属酸化物が、コバルト酸化物、銅酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物及び亜鉛酸化物から選ばれる少なくとも1種である場合、これら金属酸化物は成形強度向上の効果が良好であるため、成形結合剤に粘土物質を含まなくても、所期の効果を有する無機酸化物成形触媒を得ることができる。もちろん成形結合剤は上記した金属酸化物と粘土物質とを含むものであってもよく、この場合には無機酸化物成形触媒の製造においてその成形性がより良好となる。また、最終的に得られる無機酸化物成形触媒の強度もより良好となる。
成形性、無機酸化物成形触媒の強度、比表面積及び触媒活性などを総合的に勘案すると、上記した金属酸化物のうちコバルト酸化物が好ましいものとして挙げることができる。特にコバルト酸化物が四酸化三コバルトである場合には、得られる無機酸化物成形触媒の強度をある程度維持しつつ、比表面積を高く保つことができ、触媒活性をより向上させることができるので好ましい。
本発明の無機酸化物成形触媒の好ましい態様として、無機酸化物が銅酸化物及びセリウム酸化物である成分(A)と、成形結合剤がコバルト酸化物を含む成分(B)との組合わせを挙げることができる。この組合わせの無機酸化物成形触媒(例えばCuO-Co3O4-CeO2等のCu-Co-Ce酸化物触媒)は、比表面積が大きく良好な触媒活性が期待され、機械的強度も良好である。また、シンタリングが抑制されるという効果も有する。無機酸化物成形触媒の製造において粉末触媒の焼成時間を長くすると、通常、粒子が凝集して比表面積が低下する傾向にあるが、成分(A)にセリウム酸化物が含まれる場合には、シンタリングが抑制され、経時での比表面積の低下の程度が小さくなる。後述するが、無機酸化物が銅酸化物である成分(A)と、成形結合剤がコバルト酸化物を含む成分(B)との組合わせの無機酸化物成形触媒(例えばCuO-Co3O4等のCu-Co酸化物触媒)との比較からも、Cu-Co-Ce酸化物触媒は比表面積が大きく、またその粉末触媒の焼成時間に対する比表面積の経時変化も小さい。
本発明の無機酸化物成形触媒については、BET比表面積70m2g-1以上であり、強度が0.1Nmm-2以上、そして、その組成においては、コバルトとの複合酸化物における銅元素の割合が3〜20mol%の範囲、セリウム元素との割合が50%であることがより好ましいものとして例示される。BET比表面積の上限値は特に制限はないが例えば150m2g-1とすることができる。また、強度の上限値についても特に制限はないが例えば5Nmm-2とすることができる。ここで強度は圧縮応力を指す。
無機酸化物成形触媒において成分(B)としての成形結合剤に金属酸化物が含まれる場合、成分(A)である無機酸化物と成分(B)の金属酸化物との混合体もしくは複合体において成分(B)の金族酸化物の金族元素に対する成分(A)の無機酸化物の金属元素のモル比は、金族元素の種類によって異なるが、所期の効果を奏するためには、例えば50mol%以下であるとすることができ、好ましくは3〜50mol%、さらに好ましくは3〜20mol%である。成分(A)として銅酸化物、及び成分(B)としてコバルト酸化物を含む無機酸化物成形触媒を例に挙げると、コバルトとの複合酸化物における銅元素の割合が3〜20mol%の範囲であることがより好ましいものとして例示される。成分(A)としてセリウム酸化物、及び成分(B)としてコバルト酸化物を含む無機酸化物成形触媒の例では、コバルトとの複合酸化物におけるセリウム元素の割合が50mol%程度であることがより好ましいものとして例示される。
無機酸化物成形触媒において成分(B)としての成形結合剤に粘土物質が含まれる場合、無機酸化物成形触媒単位質量あたりの触媒量を確保し、かつ、成形触媒の成形強度を維持する観点から、無機酸化物成形触媒における粘土物質の割合は、50wt%以下、好ましくは5〜40wt%、さらに好ましくは8〜30wt%であることが望ましい。
以上の無機酸化物成形触媒は揮発性有機化合物(VOC)の分解に活性を有する。本発明の無機酸化物成形触媒が適用されるVOCとしては、例えば、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素、ナフタレンなどの多環芳香族炭化水素、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどの酢酸のエステル類、アセトアルデヒドなどのアルデヒド、などが例示される。
そして本発明の無機酸化物成形触媒は水蒸気存在下でも活性の低下が抑制され、水蒸気被毒に強いという利点を有する。さらに安価であるという利点も有する。無機酸化物成形触媒がCo-Ce酸化物触媒の場合には、トルエンの完全分解、特に酢酸エチルの完全分解に対して優れた活性を示し、長時間反応してもシンタリングが起こりにくい。また水蒸気存在下、例えば5vol%水蒸気存在下の反応においても活性はほとんど低下しない。さらにCo酸化物が成形強度保持に貢献し、成形が容易である。
本発明の無機酸化物成形触媒については、無機酸化物の原料と、成形結合剤、例えば金属酸化物の原料とを混合して焼成することによっても製造可能であるが、より、好ましくは、少なくとも以下の工程を含む方法で製造可能とされる。
(A-1) 無機酸化物の原料もしくは無機酸化物の原料と成形結合剤主成分としての金属酸化物の原料との混合物の焼成、
(B-1) 粘土物質を主成分として含む成形結合剤もしくは成形助剤を用いての押出し成形、
(C-1) 成形後の焼成。
成分(B)に含まれる金属酸化物がコバルト酸化物、銅酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物及び亜鉛酸化物から選ばれる少なくとも1種である場合の無機酸化物成形触媒については、少なくとも以下の工程を含む方法で製造することもできる。
(A-2) 無機酸化物の原料と成形結合剤主成分としての金属酸化物の原料との混合物を焼成する工程(ここで、金属酸化物は、コバルト酸化物、銅酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物及び亜鉛酸化物から選ばれる少なくとも1種である。)、
(B-2) 前記焼成物を押出し成形する工程、
(C-2) 成形後の焼成する工程。
工程(A-1)は、成分(A)の無機酸化物の原料を焼成するか、又は成分(A)の無機酸化物の原料と成分(B)の金属酸化物の原料との混合物を焼成する工程であり、工程(A-2)は、成分(A)の無機酸化物の原料と成分(B)の金属酸化物の原料との混合物を焼成する工程である。より好ましくは、工程(A-1)及び工程(A-2)では、無機酸化物の原料として炭酸塩を、また、金属酸化物の原料として炭酸塩を用いることが考慮される。好ましくはその焼成は、空気中300℃〜400℃の比較的低温範囲での焼成であるが空気中300℃〜600℃とすることもできる。もちろん酸素含有気体を用いての酸化焼成であってもよい。
焼成温度が600℃を超えると粒子が凝集して活性が低下するという傾向にあり、逆に300℃未満では炭酸塩の熱分解が不完全になりやすいという問題が生じやすい。
工程(A-1)及び工程(A-2)の焼成物は通常は粉末状のものとして得られる。
また、工程(B-1)での成形結合剤は粘土物質から、また成形助剤はセルロース物質から選択された1種または2種以上であることが好ましい。より好ましくは粘土物質としてはカオリンが、セルロース物質としてはメチルセルロースが挙げられる。この他には、たとえば、粘土物質としてベントナイト白土、けいそう土などが、セルロース物質として酢酸セルロースやエチルセルロースも例示される。工程(A-1)において成形結合剤として金属酸化物の原料を用いない場合には、工程(B-1)において粘土物質を含む成形結合剤を用い、さらに必要に応じて成形助剤を用いて押出し成形することができる。また、工程(B-2)においては、必要に応じて成形助剤を用いて押出し成形することができる。このような成形助剤は、例えば、成形触媒材料中、1〜10wt%、好ましくは3〜5wt%の割合で添加される。
工程(B-1)及び工程(B-2)においては、工程(A-1)及び工程(A-2)の焼成物に水を加えて練り、その混練物を押出し成形することができる。水の添加量は、特に限定されるものではなく、その混練物が押出し成形後も三次元の所定の形状を維持できる程度に適宜設定される。例えば、焼成物100gに対して水を10ml〜100mlの割合で添加することができる。
押出し成形は、単軸もしくは2軸押出し機など、公知の押出し機を用いて行うことができる。例えば、単軸押出し機に混合された成形触媒材料を供給し、ダイス(金型)を通して所定の形状に成形することができる。2軸押出し機など押出し機の種類によっては、供給された成形触媒材料をその装置内で混合した後に連続的に押出し成形することもできる。
押出成形条件は押出し機の種類、スクリュー形状、ダイス構造などに応じて適宜設定される。押出し機などの成形器具に供給される成形触媒材料に水が含まれる場合には成形触媒材料の水分の蒸発を抑えるために例えば温度5℃〜10℃の冷水を成形器具の周りに流して成形器具の温度を低く保つことが考慮される。押出し成形においては真空脱気を行ってよいし行わなくてもよい。真空脱気を行わない場合にはポーラス状の成形体を得ることができ、活性向上が期待できる。
工程(C-1)及び工程(C-2)での焼成は、前記同様に、酸素含有気体を用いての酸化焼成も可能であるが、空気中300℃〜400℃の比較的低温範囲での焼成であることが好ましいが空気中300℃〜600℃とすることもできる。
ここでの焼成は、通常は乾燥(風乾)後に行うことが好ましい。焼成温度が600℃を超えると粒子が凝集して活性が低下する傾向となり、300℃未満では成形助剤が完全に燃焼しきれないという問題が生じやすい。
本発明の触媒を用いてのVOC分解については、その操作条件として、たとえば以下のことが考慮される。
空間速度(SV)5000〜35000h-1
加熱温度 100〜300℃
被処理エアー中のVOC濃度 1000ppm以下
VOCの種類によっては被処理エアー中のVOC濃度を1500ppm以下とすることもできる。
そこで、以下に実施例を示し、さらに詳しく説明する。もちろん以下の例によって本発明が限定されることはない。
無機酸化物がセリウム酸化物(CeO2)であり、成形結合剤の金属酸化物がコバルト酸化物(Co3O4)である成形触媒の例である。
<1-1>触媒の合成
CoとCeの炭酸塩である2CoCO33Co(OH)24H2O とCe2(CO3)38H2O粉末(市販品)を混合し、空気中で300℃で5時間焼成した。
<1-2>成形触媒の活性評価
合成した触媒を含む成形触媒材料を用いて押出し成形法により作製した成形触媒1 gをパイレックス(登録商標)ガラス製の反応容器に詰めた。反応管の周りに設置したヒーターで反応管を加熱した。反応管にVOC(トルエン)が210ppm、酸素濃度が13%になるように調製したHe、N2、O2の混合ガスを毎分304 ml流し、反応管を通した後のガスの成分をガスクロマトグラフ用いて分析し、トルエンとCO2の転化率を求めた。空間速度(SV)は16600 h-1に設定した。
<1-3>結果
図1にまとめて示した。図1はCe-Co (1:1(モル比))酸化物触媒と白金触媒のトルエン分解に対する活性を反応温度に対するトルエンとCO2の転化率で示したものである。トルエンは酸素と反応して、途中で種々の炭素化合物を経て、最終的にCO2と水になる。開発したCe-Co酸化物触媒は白金触媒よりも低温で完全分解を達成できた。さらにトルエンが分解される最初の段階は50℃〜160℃の低温で達成され、白金触媒を大きく上回った。さらに反応温度200℃における5%水蒸気存在下での触媒活性も図1に示してある。活性が半分以下に低下する白金触媒に対し、Ce-Co (1:1(モル比))酸化物触媒の活性低下はほとんどなかった。
無機酸化物が銅酸化物(CuO)であり、成形結合剤の金属酸化物がコバルト酸化物(Co3O4)である成形触媒の例である。
<2-1>触媒の合成
CoとCuの炭酸塩である2CoCO33Co(OH)24H2O とCuCO3Cu(OH)2粉末(市販品)を混合し、空気中で300℃で5時間焼成した。
<2-2>触媒の成形
得られる成形触媒材料に対し、さらに10wt%のバインダー(粘土物質)、3wt%のメチルセルロース4000を添加し、混合したのち、適当な量の水を加え、よく練った。その後、押し出し成型器で押し出して乾燥させた後、300℃で5時間空気中で焼成した。
<2-3>成形触媒の活性評価
作製した成形触媒(直径約1mm,長さ約5mmの円柱状)7cm3をパイレックス(登録商標)ガラス製の反応容器に詰めた。反応管の周りに設置したヒーターで反応管を加熱した。温度測定は反応管の内側と外側の2か所で行い、平均温度が220℃になるように設定した。反応管にVOC(トルエン)が100ppm含まれた乾燥エアーを毎分6L程度流し、反応管を通した後のガスの成分をマイクロGC用いて分析し、トルエンの転化率を求めた。空間速度(SV)は133000h-1に設定されており、成形体の強度と圧力損失も検証する目的もあって一般的な装置のSVである30000h-1よりもかなり大きく設定した。
<2-4>結果
図2にはCu-Co酸化物中のCoに対するCu元素のモル量の比率に対するトルエンの転化率を示している。Coに対してCuが約10mol%複合されたときに活性が一番良かった。
実施例2で作製した成形触媒の強度とBET表面積を調べた。強度は圧縮応力として求めた。結果は図3に示されるようにCu-Co酸化物中のCo元素に対するCu元素の割合がおおよそ3-20mol%の領域で表面積は増加した。強度はCu元素の割合が増加するほど減少した。
また、市販活性炭の強度(圧縮応力)と、市販CeO2(カオリン10 wt%)を用いた成形触媒の強度(圧縮応力)も調べたところ、市販活性炭の強度は6.7 N/mm2であり、市販CeO2(カオリン10 wt%)を用いた成形触媒の強度は約0.2N/mm2であった。
これら結果から、Co3O4を用いることで、強度をある程度維持しつつ、かつ表面積を高く保つことが可能であることが分かる。
無機酸化物が銅酸化物(CuO)及びセリウム酸化物(CeO2)であり、成形結合剤の金属酸化物がコバルト酸化物(Co3O4)、粘土物質がカオリンである成形触媒の例である。
<4-1>成形触媒の製造
Cu、Ce及びCoの炭酸塩であるCuCO3Cu(OH)2、Ce2(CO3)38H2O、2CoCO33Co(OH)24H2O粉末を混合し、空気中で300℃で5時間焼成し、CuO-Co3O4-CeO2(Cu:Co:Ce=10:45:45mol%)粉末を作製した。この粉末に適量の水と粘土物質であるカオリン粉末(10 wt%)を混ぜて練り、その混練物を円柱状に押出し成形した後に乾燥、空気中550℃での焼成を行うことで図4(a)に示す円柱状の成形触媒(CuO-Co3O4-CeO2(Cu:Co:Ce=10:45:45mol%))を作製した。
また、同様の方法で混練物をハニカム状に押出し成形し、次いで乾燥して空気中550℃での焼成を行うことで図4(b)に示すハニカム状の成形触媒(CuO-Co3O4-CeO2(Cu:Co:Ce=10:45:45mol%))も作製した。
作製した各成形触媒のBET比表面積を調べたところ、100m2g-1程度であり、高表面積を維持していることが確認できた。強度はセラミック担体には劣るが、実用的に使用可能なレベルであった。
<4-2>触媒の活性評価1
作製したハニカム状の成形触媒を用いて悪臭処理性能を評価した。被処理ガスとなる悪臭ガスの詳細は下記のとおりである。
実機の1/100スケールで実際に塗料を塗った塗装品を乾燥させて塗装工場現場とほぼ同じ悪臭ガスを発生させた。発がん性が懸念されるホルムアルデヒドなどの成分が乾燥過程で発生しており、これら成分が合わさって悪臭(焦げ臭)となっている。
実験条件は下記のとおりである。
SV(空間速度):16600h-1
LV(線速度):0.33m/s
ガス流量:乾燥空気50L/min
成形触媒量:188ml
反応入口温度:287℃
悪臭ガスを成形触媒に通過させる前(処理前)のガスの臭気レベルと、悪臭ガスを成形触媒に通過させた後(処理後)のガスの臭気レベルを半導体式VOC臭気計を用いて測定した。その結果を図5(a)に示す。作製したハニカム状の成形触媒の代わりに市販のハニカム型白金触媒(0.3wt%Pt/Al2O3担持セラミックハニカム状触媒)を同条件で評価した結果も図5(b)に示す。また、被処理ガスである悪臭ガスの成分を図5(c)に示す。
図5(a)(b)に示すように、処理前は臭気レベルが高い値を示してかなり強い焦げ臭が確認されたが、処理後は臭気レベルが低い値を示してほぼ無臭であった。臭いを感じる閾値はガスの種類によっても異なるが、今回の場合にはおおよそ臭気レベルが20-30の間であり、ほぼ無臭であった。
これらの結果から、作製したハニカム状の成形触媒は、市販のハニカム型白金触媒と同程度の悪臭処理性能を有することが確認できた。
<4-3>触媒の活性評価2
CuO-Co3O4-CeO2(Cu:Co:Ce=10:45:45mol%)粉末1gを用いて酢酸エチル(濃度1200ppm)に対する活性を評価した。活性評価方法及び操作条件は実施例1と同じである。また実施例1において対照実験として用いたPt(0.08wt%)/ゼオライト触媒の酢酸エチル分解に対する活性も評価した。市販白金触媒は通常アルミナ上に0.3wt%つけられており、それに合わせるためにPt(0.08wt%)/ゼオライト触媒を4倍量の4g用いた。
結果を図6に示す。図6はCuO-Co3O4-CeO2粉末とPt(0.08wt%)/ゼオライト触媒の酢酸エチル分解に対する活性を反応温度に対するCO2の転化率で示したものである。図中、(a)がCuO-Co3O4-CeO2粉末の結果であり、(b)がPt(0.08wt%)/ゼオライト触媒の結果である。酢酸エチルは酸素と反応して、途中で種々の炭素化合物を経て、最終的にCO2と水になる。CuO-Co3O4-CeO2粉末はPt(0.08wt%)/ゼオライト触媒よりも低温で完全分解を達成できることが確認できた。このことからCuO-Co3O4-CeO2粉末を用いて作製した成形触媒についても酢酸エチル分解をPt(0.08wt%)/ゼオライト触媒よりも低温で完全分解できると予想される。
各種粉末触媒と粘土物質を水適量と混ぜ合わせ、良く練り合わせた後に押出し成形し、乾燥、300℃で5時間焼成して成形触媒を作製した。粘土物質は表1に示す割合でカオリン粉末を用いた。各種粉末触媒とその成形触媒のBET比表面積について調べた。その結果を表1に示す。
表1において「酸化セリウム(市販)」は、粉末触媒が市販の酸化セリウムであることを示しており、「酸化セリウム(合成)」は、市販のCe2(CO3)38H2O粉末を空気中300℃で5時間焼成して作製した酸化セリウムであることを示している。また、表1において「Co-Ce酸化物」は、実施例1の<1-1>において作製した触媒であり、「Co-Cu酸化物」は、実施例2の<2-1>において作製した触媒である。
また、成形触媒の強度を調べたところ、Co-Cu酸化物の圧縮応力が最も良好であり成形状態が最も良好であった。
酸化セリウム(市販)を用いた成形触媒について実施例2の<2-3>の方法で触媒活性を評価したところ、トルエン転化率は7%であった。酸化セリウム(合成)を用いた成形触媒(バインダー量(カオリン)50wt%)について同様に触媒活性を評価したところ、トルエン転化率は10%であった。
<参考例1>
各種金属酸化物粉末と粘土物質を水適量と混ぜ合わせ、良く練り合わせた後に押出し成形し、乾燥、300℃で5時間焼成し、その成形強度を調べた。粘土物質にはカオリン粉末を用い、その重量は金属酸化物の重量の10wt%であった。その結果を表1に示す。
成形状態が良好なものを「◎」、実験可能レベルを「○」、崩れたものを「×」で示した。
また表2には、実施例2で作製したCuO-Co3O4(Cu:Co=10:90mol%)の成形触媒、及び実施例4で作製したCuO-Co3O4-CeO2(Cu:Co:Ce=10:45:45mol%)の成形触媒それぞれの成形強度の結果も示してある。
表2の結果から、Co3O4成形物はCuO-Co3O4(Cu:Co=10:90mol%)の成形触媒と同様に高い機械的強度を示した。本発明者が東京都立産業技術研究センター研究報告,第5号,2010年,48-51ページで報告しているように、Co3O4はVOCの完全分解に高い活性を示す。よってCo3O4はVOC分解に対する高い触媒活性を持つと同時に成形強度を維持できる物質であり、成形結合剤として有効に用いることができる。また、CuO、Cr2O3、WO3、ZnOの各成形物も比較的高い機械的強度を示した。このため、CuO、Cr2O3、WO3、ZnOについても成形強度を比較的維持できる物質であり、成形結合剤として用いることができる。
<参考例2>
実施例2の<2-1>において作製したCuO-Co3O4粉末、及び実施例4において作製したCuO-Co3O4-CeO2粉末それぞれを、連続的に空気中300℃条件下で長時間加熱してBET比表面積を調べた。図7は加熱時間に対する粉末触媒の比表面積の測定結果を示す。(a)はCuO-Co3O4-CeO2粉末であり、(b)はCuO-Co3O4粉末である。(b)のCuO-Co3O4粉末は時間とともに比表面積が急速に低下したが、(a)のCuO-Co3O4-CeO2粉末ではシンタリングが抑制された。CeO2はシンタリングの抑制に効果があることがわかる。

Claims (14)

  1. 無機酸化物と、粘土物質及び金属酸化物のうちの少なくとも1種を主成分として含む成形結合剤と、を含むことを特徴とする無機酸化物成形触媒。
  2. 無機酸化物が、セリウム、マンガン、ニッケル、セレン、ジルコニウム、イットリウム、タンタル、タングステン、ビスマス、鉄、銅、クロム、チタン、バナジウム、亜鉛及びランタンから選ばれる少なくとも1種の金属元素の酸化物である請求項1に記載の無機酸化物成形触媒。
  3. 粘土物質が、カオリン、ベントナイト白土及びけいそう土から選ばれる少なくとも1種の粘土物質である請求項1又は2に記載の無機酸化物成形触媒。
  4. 金属酸化物が、コバルト酸化物、銅酸化物、クロム酸化物、タングステン酸化物及び亜鉛酸化物から選ばれる少なくとも1種の金属酸化物である請求項1から3のいずれか一項に記載の無機酸化物成形触媒。
  5. コバルト酸化物が、四酸化三コバルトであることを特徴とする請求項4に記載の無機酸化物成形触媒。
  6. BET比表面積70m2g-1以上であり、強度が0.1Nmm-2以上である請求項1から5のいずれか一項に記載の無機酸化物成形触媒。
  7. 請求項1から6のいずれかに記載の無機酸化物成形触媒の製造方法であって、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする無機酸化物成形触媒の製造方法。
    (A) 無機酸化物の原料もしくは無機酸化物の原料と成形結合剤主成分としての金属酸化物の原料との混合物を焼成する工程、
    (B) 粘土物質を主成分として含む成形結合剤もしくは成形助剤を用いての押出し成形する工程、
    (C) 成形後の焼成する工程。
  8. 請求項4に記載の無機酸化物成形触媒の製造方法であって、少なくとも以下の工程を含むことを特徴とする無機酸化物成形触媒の製造方法。
    (A) 無機酸化物の原料と成形結合剤主成分としての請求項4に記載の金属酸化物の原料との混合物を焼成する工程、
    (B) 前記焼成物を押出し成形する工程、
    (C) 成形後の焼成する工程。
  9. 工程(A)での無機酸化物の原料は炭酸塩であることを特徴とする請求項7又は8に記載の製造方法。
  10. 工程(A)での金属酸化物の原料は炭酸塩であることを特徴とする請求項7又は8に記載の製造方法。
  11. 工程(B)での成形助剤はセルロース物質であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
  12. 工程(A)での焼成は、空気中300℃〜600℃の範囲での焼成であることを特徴とする請求項7から11のいずれか一項に記載の製造方法。
  13. 工程(C)での焼成は、空気中300℃〜600℃の範囲での焼成であることを特徴とする請求項7から12のいずれか一項に記載の製造方法。
  14. 請求項1から6いずれかに記載の触媒を、揮発性有機化合物を含む気相に加熱接触させて前記揮発性有機化合物を酸化分解することを特徴とする揮発性有機化合物の分解方法。
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