JP2011202297A - 炭素繊維の表面処理方法、及び同処理方法により製造する炭素繊維 - Google Patents

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Abstract

【課題】 炭素繊維の単繊維長手方向、及び単繊維間で、繊維表面の力学的物性及び化学的な構造のばらつきを低減し、複合材料としての使用に適した炭素繊維を提供する。
【解決手段】 pHが2〜4で、1モル/L水溶液のpHが1以下の無機酸と、1モル/L水溶液のpHが6〜8の無機塩類とを含む水溶液中で、炭素繊維を電解酸化する。無機塩は、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、または硫酸ナトリウムが好ましく、無機酸は硫酸または硝酸が好ましい。得られる炭素繊維は、表面官能基量O/Cが15〜30%の範囲にあり、かつ比表面積が0.5〜2.0m/gの範囲にある。この炭素繊維のストランドに含まれる単繊維間の物性のばらつきを示す単繊維引張強度のCV値は20%以下である。
【選択図】 なし

Description

本発明は、炭素繊維の表面処理方法、同方法により製造する炭素繊維に関する。本炭素繊維は、樹脂と複合して高強度の樹脂製品を製造する等の用途に好適である。
炭素繊維は、他の繊維と比較して、優れた比強度及び比弾性率を有する。炭素繊維は、その有する軽量性及び優れた機械的特性を利用して、工業的用途に広く利用されている。炭素繊維の多くは、エポキシ樹脂をはじめ、各種の熱硬化性樹脂または熱可塑性樹脂の強化用繊維として利用されている。
近年、炭素繊維強化樹脂材料であるCFRP(炭素繊維強化樹脂)、CFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)は、より大型の構造材料に利用する機会が増加している。特に、航空宇宙分野においては、胴体や翼などの一次構造材料として、従来使用されているアルミニウム合金を、全てポリアクリルニトリル(以下、PANとも表記する)系炭素繊維(以下、単に炭素繊維とも記述する)を強化繊維とするCFRPに置き換える動きが活発化している。
胴体や翼などの一次構造材料は、過酷な環境下(気温、気圧の変動が激しく、強い衝撃を受け易い等の環境下)で使用される。この様な過酷な環境下で大型部材に要求される性能に応え得るため、CFRPには、さらなる高性能化(高剛性かつ高強度、高い耐衝撃性、高い熱安定性)が求められていると共に、CFRPで構成する構造部材の広い面積に渡って、力学的な性能が均一であることが求められている。
樹脂と複合化した炭素繊維の、強化繊維としての強度発現機構については、各種論文等において、様々な仮説や実証研究が議論されているが(非特許文献1及び2参照)、いずれにしても、樹脂と濡れ性の悪い炭素繊維の表面を改質し、炭素繊維と樹脂との接着性を制御することが、非常に大きなファクターになることは明らかである。
この目的で、炭素繊維製造工程においては、酸化繊維を焼成して炭素化する工程の後に表面処理工程を設け、炭素繊維表面に酸性官能基(水酸基、カルボキシル基)を形成させることが一般的に行われている。
近年、特に炭素繊維単繊維の長手方向に沿う異なる箇所同士の間の、及び異なる単繊維同士の間の、繊維表面における力学的物性及び化学的構造のばらつきを低減することに多大な注意が払われている。表面処理工程においては、例えば特許文献1に記載されているように、複数回の電解処理を経て、表面構造のばらつきを低減する方法が提案されている。更に、特許文献2には、電解液の温度変動を抑制し、電解処理の時間的な変動を低減する方法が提案されている。しかし、これらの対策を講じても、炭素繊維の表面構造のばらつきを低減することは非常に困難であり、さらなる改善が求められている。
表面,Vol.28 No.12 (1990) 977−987 Carbon,26,389(1988)
特開2008−248424号公報(特許請求の範囲) 特開2007−224459号公報(特許請求の範囲)
本発明の目的は、従来と比較して、炭素繊維単繊維の長手方向に沿って異なる箇所同士の間、及び異なる単繊維同士の間において生じる、繊維の力学的物性のばらつき及び繊維表面構造のばらつきを低減させ、複合材料としての使用に適した炭素繊維を提供することにある。また、本発明の他の目的は上記炭素繊維の製造方法を提供することにある。
本発明者は、上記課題を解決するために種々検討した結果、炭素繊維の電解酸化による表面処理工程において、電解液の酸性度をpH2〜4に調整する場合、炭素繊維の強度を十分に高くでき、かつ過不足のない量の表面処理及び官能基の形成を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
上記目的を達成する本発明は、以下に記載するものである。
〔1〕 pHが2〜4で、1モル/L水溶液のpHが1以下の無機酸と、1モル/L水溶液のpHが6〜8の無機塩類とを含む水溶液中で、炭素繊維を電解酸化することを特徴とする炭素繊維の表面処理方法。
〔2〕 無機塩が、強酸と弱塩基の塩、または強酸と強塩基の塩である、〔1〕に記載の炭素繊維の表面処理方法。
〔3〕 無機塩が、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、または硫酸ナトリウムである〔1〕に記載の炭素繊維の表面処理方法。
〔4〕 無機酸が硫酸または硝酸である〔1〕に記載の表面処理方法。
〔5〕 電解酸化する電気量が10〜150C/gである〔1〕に記載の表面処理方法。
〔6〕 〔1〕に記載の炭素繊維の表面処理方法を用いて製造され、X線光電子分光器により測定される表面官能基量O/Cが15〜30%で、かつ比表面積が0.5〜2.0m/gである炭素繊維。
〔7〕 単繊維間の物性のばらつきを示す単繊維引張強度のCV値が20%以下である〔7〕に記載の炭素繊維。
〔8〕 〔7〕または〔8〕に記載の炭素繊維を1000〜50000本収束してなる炭素繊維ストランド。
本発明においては、所定の電解液を用いて表面処理することにより、官能基形成反応を適正に制御でき、炭素繊維表面に、偏りなく均一に官能基を形成させることが可能になる。その結果、電解液の多少の濃度や温度の変動に拠らず、炭素繊維単繊維長手方向に沿う異なる箇所間、及び異なる単繊維間における炭素繊維表面の力学的物性のばらつき及び化学的構造のばらつきが低減された炭素繊維を得ることができる。
従って、この表面処理方法によって製造される炭素繊維は、炭素繊維と樹脂との接着強さが、広範囲に渡って均一である。その結果、本炭素繊維を用いて製造する複合材料は局所的な応力集中を回避することができるので、応力を受けた場合に破壊し難くなり、複合材料用の炭素繊維ストランドとして優れた性質が発揮される。
本表面処理方法によって製造される炭素繊維は、レーヨン系、ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系炭素繊維等何れの原料を用いて製造したものであっても良い。しかし、特に好ましい炭素繊維は、ポリアクリロニトリル系炭素繊維である。
ポリアクリロニトリル系炭素繊維は通常、次の各工程等を経ることによって製造される。すなわち、前駆体繊維であるPAN系繊維単繊維を1000〜50000本程度束ねた前駆体繊維ストランドは、耐炎化工程において耐炎化処理がなされて、耐炎化繊維ストランドが製造される。次に、低温炭素化、高温炭素化の2段階以上の炭素化工程で耐炎化繊維ストランドが炭素化されて、焼成炭素繊維ストランドが得られる。その後、焼成炭素繊維ストランドに表面処理、サイジング処理がなされて、製品の炭素繊維ストランドが得られる。本発明は、かかる各工程のうち表面処理を電解処理法で行う際の特定の表面処理方法に関するものである。
なお、前駆体であるPAN系繊維の紡糸、耐炎化、炭素化、及びサイジング処理の各工程は従来公知の方法を採用出来る。また、各工程間に他の公知の工程が介在することを妨げない。しかし、表面処理の後、後処理として特別な薬品を用いる処理を行う場合や、活性雰囲気下で高温を与える処理を行う場合は、本発明の目的達成は困難になる場合がある。
以下、本発明の好適な焼成炭素繊維の表面処理方法に付き説明する。
〈原料繊維〉
アクリロニトリルを単独重合し、またはアクリロニトリルを90質量%以上、好ましくは95質量%以上含有する単量体組成物を共重合して得られる紡糸溶液を、湿式又は乾湿式紡糸法において紡糸した後、水洗・乾燥・延伸して得られるPAN系繊維を原料繊維として用いることができる。共重合する単量体としては、アクリル酸メチル、イタコン酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸等の極性を有する単量体が好ましい。
耐炎化繊維製造用の前駆体繊維であるPAN系繊維は、束ねられて前駆体繊維ストランドが形成される。前駆体繊維ストランドの単繊維数は、製造効率の面では1000〜40000本が好ましく、12000〜20000本がより好ましい。
なお、原料繊維としては、PAN系繊維以外に、レーヨン系繊維、ピッチ系繊維等の公知の繊維が使用できる。しかし、PAN系繊維を用いて製造する炭素繊維が最も良い物性を示すので、以下、PAN系繊維を例として、本発明を説明する。PAN系繊維以外の繊維もPAN系繊維と同様に取扱うことができる。
〈耐炎化〉
上記PAN系繊維を前駆体繊維とし、この繊維を加熱空気中で200〜300℃、10〜100分間酸化させることにより、耐炎化繊維が得られる。この耐炎化処理により、PAN系繊維の分子内環化反応が起き、更に酸素結合量が増加し、耐炎化繊維が生成する。この耐炎化処理工程においては、PAN系繊維は延伸倍率0.90〜1.20の範囲で延伸することが好ましい。
〈炭素化〉
上記耐炎化処理工程を経て製造された耐炎化繊維は、次いで炭素化処理工程に送られ、不活性雰囲気中で加熱されることにより炭素化されて、焼成炭素繊維が製造される。
より高性能な炭素繊維を得るためには、300℃〜1000℃で低温炭素化した後、1000〜2000℃で高温炭素化する二段階の炭素化処理工程を採用することが好ましい。多段階の炭素化処理工程を採用することにより、より緻密な内部構造を持つ焼成炭素繊維を得ることができる。炭素繊維に、より高い弾性率が求められる場合には、三段階以上の炭素化工程を採用し、最高温度が2000〜3000℃の高温で炭素化処理をすることもできる。
〈表面処理〉
上記炭素化処理工程によって炭素化処理することにより、製造される焼成炭素繊維は、その後表面処理工程を経由することにより焼成炭素繊維表面に表面処理が施される。
表面処理工程においては、電解液を用いて、焼成炭素繊維表面に電解酸化処理が施される。
電解液としては、1規定の水溶液のpHの値が中性の範囲(pH6〜8)を示す無機塩類水溶液に、強酸性の無機酸を添加して、pHの値を2〜4に調節した電解液を使用する。
無機塩類としては、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム等の、1モル/L水溶液のpHの値が4〜6の弱酸性を呈する、強酸のアンモニウム塩類、
硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム等の、1モル/L水溶液のpHの値が6〜8の中性を呈する、強酸のアルカリ金属塩類、
硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硝酸カルシウム、硝酸バリウム等の、1モル/L水溶液のpHの値が6〜8の中性を呈する強酸のアルカリ土類金属塩類等の、強酸と強塩基の塩類を用いることができる。
無機塩類の電解液中の濃度は、0.1モル/L以上が好ましく、0.5〜1.0モル/Lがより好ましい。濃度が0.1モル/L未満の場合は、十分に電解できない。濃度が高くなることは発明の効果を発揮する上で問題ないが、飽和水溶液に近くなる場合は、浴温度の変動により、塩が固体で析出するがあることがあるため、浴温の管理、異物除去に、十分に注意を払う必要がある。
無機酸としては、1規定の水溶液がpH1以下の値を示す強酸を用いることができる。無機酸は、分解電圧が水の分解電圧よりも高いもの、例えば硫酸、硝酸などが好ましい。分解電圧が水の分解電圧よりも低いもの、例えば塩酸などを用いる場合は、表面処理時に電解により酸が分解し、有害なガスが出る場合があり、安全上好ましくない。また、ホウ酸、炭酸等の、pH4〜6の弱酸を加えることも、発明の効果を得る上で特に問題ない。
その他の成分として、電解液のpHの安定性向上を目的として、pH変動に対して緩衝作用を示すような他の酸及び塩類等をさらに加えても良い。ただし、生成する表面官能基の種類の選択、電解液廃棄時の都合等を考え、陰イオンが共通であるものを用いることが好ましい。
本発明においては、上記電解液を用いることを特徴としている。上記電解液を用いて上記製造した焼成炭素繊維の表面を電解酸化することにより、表面処理工程を適正化できる。即ち、炭素繊維の単繊維の長手方向に沿う異なる箇所間の、及び異なる単繊維間の、表面の力学的物性のばらつき、及び化学的構造のばらつきを低減させることができる。
電解処理において、上記電解液の有する性能を最大限に発揮させるためには、以下に記載の電流、電圧条件が好ましい。
電解電圧は、5〜40Vが好ましい。電圧が高い場合は、製造工程において、安全性を考慮する必要がある。従って、より低い電圧の5〜20Vがより好ましい。
電解処理において供給する電気量(供給する焼成炭素繊維の単位質量に対する電流の総量)としては、10〜300C/gが好ましい。製造効率の面からは、より単時間に、より大量に処理することが望まれる。しかし、電気量を増やすことは、やはり安全性を考慮する必要がある。そのため、両者のバランスから、電気量が10〜150C/gになるように、好ましくは30〜100C/gになるように処理電流と時間とを設定することがより好ましい。処理時間は、電流値により相違するが、通常0.1 〜 1000 秒間である。
電解液の温度は、高いほど電気伝導性が高くなるので、電解処理速度は向上する。一方、電解液の温度を40℃以上の高温にする場合は、水分が蒸発しやすくなり、電解液の濃度の変動等が起き易い。電解液の温度を40℃以上の高温にする場合は、電解液の時間経過に対する変動が無い、均一な電解液の条件を維持することが難しくなる。従って、電解液温度は15〜30℃に管理することが好ましい。
上述した好ましい範囲の電流、電圧、温度の条件で電解処理することで、発明の効果は特に良く発揮されるが、それ以外の電解条件で電解処理する場合でも、上記電解液を用いることで発明の効果は良好に発揮される。
表面処理に用いる酸性電解液としては、本電解液以外に、無機酸、無機塩類、または有機酸を用いることができるが、本発明においては、上記のように、所定の無機酸及び無機塩類の水溶液が用いられる。その理由は、これらの水溶液は電気伝導性が良好である点、更に、有機酸等に比べて二重結合を含む酸性基が炭素繊維表面に導入されることを避けられる点にある。炭素繊維は、主にエポキシ樹脂を主成分とする樹脂と複合して使用されるため、電解酸化処理においては、炭素繊維表面にエポキシ基と親和性の高い水酸基が選択的に形成されることが好ましい。二重結合を含む酸性基は、形成されないことが理想的である。
さらに、pHを尺度として電解液の酸性度を調整することで、酸化の駆動力となる電解液の電気伝導性や、酸化攻撃種となる電極界面のイオン濃度を任意に調整することができる。また更に、pH変動を管理し、一定に保つことで、時間の経過に伴う表面処理状態の変動を最低限に抑えることができる。その結果、単繊維の表面に均一に官能基を形成することが可能になる。
さらに、上述したpH2〜4の電解液を表面処理工程において用いることで、炭素繊維の各単繊維間の物性のばらつきも低減される。なぜなら、表面処理工程においては、炭素繊維表面の官能基形成の役割に加えて、繊維表面の脆い部分を除き、応力集中要因となる弱い欠陥の割合を低減させることで、炭素繊維そのものの局所的な強度のばらつきを低減させる役割もあるためである。表面処理工程においては、炭素繊維表面に官能基形成のための酸化攻撃が起きる際に、炭素繊維表面に存在するアモルファス部分は特に強く攻撃される。このアモルファス部分は、繊維の中でも局所的に脆い部分である。従って、このアモルファス部分を除き、かつ表面に水酸基を形成する工程が、本表面処理工程であると言える。
しかし、この酸化攻撃が強すぎる場合は、脆い部分から炭素繊維表面が大きく削りとられ、かえって繊維の強度低下を起こすような欠陥形成に至る。そのため、表面酸化の程度は、脆弱部分の除去を限度とするように、過不足ない酸化能力を与える必要がある。本発明において使用する電解液は、この能力が適正な範囲に調整されている。従って、本発明によれば、電解酸化処理は、炭素繊維の表面の官能基の生成に限られず、単繊維強度などの繊維物性のばらつき低減にも有効である。
電解液のpHの値が2未満の場合は、電解液の酸化作用が強すぎ、繊維表面の官能基の形成や、脆い部分の除去が過剰に起こるため好ましくない。pHが4を超える場合は、電解液の酸化作用が弱すぎ、繊維表面の官能基の形成や脆いアモルファス部分の除去が不十分となるため好ましくない。
本発明において、炭素繊維表面の官能基の形成量は、X線光電子分光器により測定される炭素繊維表面の炭素原子に対する酸素原子の存在比を意味する表面酸素濃度(O/C)で評価される。O/C値は15〜30%の範囲にあることが好ましく、20〜25%がより好ましい。O/C値が15%未満の場合は、炭素繊維とマトリックス樹脂との接着性が劣り、得られる複合材料の物性低下の原因になる。一方、O/C値が30%を超える場合は、炭素繊維とマトリクス樹脂との接着性が強すぎるため、かえって炭素繊維に応力集中が生じ、耐衝撃性などのコンポジット特性が低下するため好ましくない。
本発明において、繊維表面の脆い部分の除去の程度(エッチング量)は炭素繊維ストランドの比表面積で評価される。炭素繊維ストランドの比表面積値は、クリプトンの吸着を利用するBET法で測定される。比表面積値は、0.5〜2.0m/gが好ましく、0.6〜2.0m/gがより好ましい。
比表面積値は、具体的には、表面処理工程において炭素繊維が受けるエッチング作用の程度を示す。即ち、炭素繊維の比表面積値は、表面処理工程におけるエッチング作用により生じ、比表面積値が増加するにつれ、炭素繊維の表面積が増加し、また炭素繊維の表面に存在する凹凸差が増加する。また、表面処理工程に受けるエッチング作用は、前記表面酸素濃度の値にも影響する。比表面積が0.5m/gに満たない場合には、繊維表面の脆い部分の除去が不十分で、この炭素繊維を用いて複合材料を製造する場合、十分な強度が得られない。比表面積が2.0m/gを超える場合には、表面処理工程における酸化攻撃が強すぎ、繊維表面が大きく削り取られている。その結果、炭素繊維ストランド自体の強度が低下している。
<水洗>
上記電解酸化処理による表面処理工程を経た炭素繊維は、その後、炭素繊維に付着している電解液成分を除くために、十分に水洗する。特に、電解液に金属成分を含む無機塩類を使用している場合は、水洗工程で金属成分を充分に洗浄して除去する必要がある。金属成分が残存する場合は、得られる製品炭素繊維の繊維欠陥を形成する可能性がある。
〈サイジング処理〉
上記水洗処理後の炭素繊維は、必要に応じてサイジング処理が施される。サイジング方法は、従来の公知の方法で行うことができる。サイジング剤は、用途に即して適宜組成を変更できる。サイジング剤には、その製品形態に応じて水や溶媒が含まれている。従って、サイジング剤を炭素繊維に均一付着させた後、これらの水や溶媒を乾燥、除去することが好ましい。
本発明における製品炭素繊維の物性のばらつきは、単繊維引張強度のCV値で評価される。単繊維引張強度のCV値は低いほど繊維物性のばらつきが少ないことを示しており、20%以下であることが好ましい。単繊維強度のCV値が20%を超える場合は、表面処理が不均一に行われており、繊維表面のアモルファス部分の除去が不十分もしくは不均一である。そのため、得られる炭素繊維ストランド自体の強度が低下しており、CFRPとした時に十分な性能が得られないため好ましくない。
以下、本発明を実施例及び比較例により具体的に説明する。各実施例、比較例における繊維の物性の評価方法は、以下の方法によった。
[1] 炭素繊維の物性
ストランド強度、弾性率
JIS R 7608に準じて、硬化エポキシ樹脂含浸ストランドの引張強度および引張弾性率を測定した。
単繊維引張強度
オリエンテック社製テンシロン万能試験機RTC−1150Aを使用した。単繊維の試験長10mm、速度1mm/minにて引張試験を行い、破断最大荷重と単繊維直径から、強度を算出した。ストランドを構成する単繊維の総数の0.2%の単繊維について測定した単繊維引張強度について、標準偏差を平均で除し、CV値(%)を求めた。このCV値(%)を、単繊維間の物性のばらつきの尺度とした。
[2] 表面状態の評価
表面官能基量O/C
炭素繊維の表面酸素濃度(O/C)は、次の手順に従ってXPS(ESCA)によって求めた。測定には、JEOL社製ESCA JPS−9000MXを使用した。
炭素繊維をカットしてステンレス製の試料支持台上に拡げて並べた。X線源としてMgKαを用い、光電子脱出角度を90度に設定し、試料チャンバー内を1×10−6Paの真空度に保った。測定時の帯電に伴うピークの補正として、まずC1sの主ピークの結合エネルギー値B.E.を284.6eVに合わせた。O1sピーク面積は、528〜540eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。C1sピーク面積は、282〜292eVの範囲で直線のベースラインを引くことにより求めた。炭素繊維表面の表面酸素濃度O/Cは、上記O1sピーク面積とC1sピーク面積の比として算出した。
比表面積
Quantachrome社製ガス吸着装置AUTOSORB−1を使用し、クリプトンガス吸着によるBET法により表面積を測定した。すなわち、長さ1m程度に切り出した炭素繊維を試料とし、BET理論に従ってBETプロットの約0.1〜0.25の相対圧域を解析し比表面積を算出した。測定は下記条件により行った。
吸着ガス:Kr
死容積:He
吸着温度:77K(液体窒素温度)
測定範囲:相対圧(P/Po)= 0.05−0.3
ここで、Pは測定圧、PoはKrの飽和蒸気圧である。
(実施例1〜6、比較例1〜9)
前駆体であるPAN繊維ストランド(単繊維繊度0.7dtex、単繊維数24000)を、250〜270℃の大気中で、繊維比重1.34〜1.36になるまで耐炎化処理を行った。次いで窒素ガス雰囲気下、300〜650℃で低温炭素化させた。その後、窒素雰囲気下1500℃で高温炭素化させて製造した焼成炭素繊維を、表1〜5に記載の電解酸化条件で表面処理した。得られた表面処理された炭素繊維の物性を表6〜8に示す。
Figure 2011202297
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Claims (7)

  1. pHが2〜4で、1モル/L水溶液のpHが1以下の無機酸と、1モル/L水溶液のpHが6〜8の無機塩類とを含む水溶液中で、炭素繊維を電解酸化することを特徴とする炭素繊維の表面処理方法。
  2. 無機塩が、強酸と弱塩基の塩、または強酸と強塩基の塩である、請求項1に記載の炭素繊維の表面処理方法。
  3. 無機酸が硫酸または硝酸である請求項1または2に記載の表面処理方法。
  4. 電解酸化する電気量が10〜150C/gである請求項1〜3のいずれか1項に記載の表面処理方法。
  5. 請求項1〜4のいずれか1項に記載の炭素繊維の表面処理方法を用いて製造され、X線光電子分光器により測定される表面官能基量O/Cが15〜30%であり、かつ比表面積が0.5〜2.0m/gである炭素繊維。
  6. 単繊維間の物性のばらつきを示す単繊維引張強度のCV値が20%以下である請求項6に記載の炭素繊維。
  7. 請求項5または6に記載の炭素繊維を1000〜50000本収束してなる炭素繊維ストランド。
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