JP2011196526A - 歯付ベルト - Google Patents
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Abstract
【解決手段】歯付ベルト1は、ゴム層3の短手方向に複数の心線2を並設してなるベルト本体4と、該ベルト本体4の一方の表面に形成されている複数の歯部5と、この歯部5の表面を被覆する歯布6とを備える。歯布6は、ゴム組成物を原帆布に含浸させるとともに、表面層を形成して得られた布基材の一面に接着層用ゴム組成物を付着させ、接着層を形成してなる。ゴム層3は、100℃におけるムーニー粘度が100以上160以下であるHNBRを含むHNBR、及びHNBRにメタクリル酸亜鉛を微分散させたポリマーアロイを含む。前記ゴム層3及びゴム組成物は水素化カルボキシNBRを含むのが好ましい。
【選択図】図1
Description
ゴム層の組成物に水素化ニトリルゴム(HNBR)にメタクリル酸亜鉛を微分散させたポリマーアロイを配合することにより、ゴム層の強度、剛性、耐摩耗性を高めることができることは周知の技術である(例えば特許文献1等)。この場合、補強剤としてのカーボンを含有する必要がなくなるので、ゴム層の淡色化が可能である。
しかしながら、強度等のさらなる向上を図るために、メタクリル酸亜鉛のHNBRに対する配合比率を上げた場合、ゴム層の耐屈曲疲労性、他の材料への接着性、永久歪み特性の悪化、寒冷地及び冬期における始動トルクの増大(耐寒性の低下)、ベルト運転による自己発熱の増加等、主に動的な物性が低下するという問題があった。
しかしながら、淡色化により歯布の導電性が悪化し、ベルト運転時に帯電して放電するという問題点、さらに耐摩耗性を向上させるためにポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の摩擦低減剤を増量した場合、歯布と、ゴム層,心線との接着力が低下するという問題点があった。
心線の高剛性化を図るために、炭素繊維からなるカーボン心線を用いることは既に知られている。
しかしながら、ベルト引っ張り剛性向上による歯飛びトルク、停止精度、及び減衰特性の向上には大きな効果があるが、従来のガラス心線及びアラミド心線と比較した場合、これらの心線と同径ではあまり引っ張り強度が上がらない、耐屈曲疲労性が悪い、耐衝撃性が悪い、接着が困難であるという理由から、伝動能力の向上(ベルトの細幅化、装置のコンパクト化)が困難であるという問題があった。この伝動能力の改善を図るために、炭素繊維からなる芯繊維の周囲に、下撚りされたガラス繊維からなる子縄を複数配置し、芯繊維及び子縄を上撚りした心線が開発されている(特許文献2)。
しかし、この心線においては、ゴム層との接着性が悪いため、ベルトの歯部に強い剪断力がかかった場合に、歯部が早期に欠け、期待する能力が得られないという問題点がある。
図1は本発明の実施の形態に係る歯付ベルト1を示す一部破断斜視図、図2(a)は歯付ベルト1を示す平面図、(b)は歯付ベルト1を示す断面図、(c)は歯付ベルト1を示す一部破断側面図である。
歯付ベルト1は、ゴム層3の短手方向に複数の心線2を並設してなるベルト本体4と、該ベルト本体4の一方の表面に形成されている複数の歯部5と、この歯部5の表面を被覆する歯布6とを備える。歯付ベルト1は、ベルト本体4の表裏両面に歯部5が形成されていてもよい。
歯布6は、表面層用ゴム組成物(請求項1のゴム組成物)を原帆布に含浸させるとともに、原帆布の表面に表面層を形成して得られた布基材61の歯部5側の面に接着層用ゴム組成物を付着させ、接着層62を形成してなる。
前記ベルト本体4を構成するゴム層3は、ゴム成分としてHNBR、HNBRにメタクリル酸亜鉛を微分散させてなるHNBR・メタクリル酸亜鉛ポリマーアロイ(以下、ポリマーアロイという)を含有する。前記ポリマーアロイは、予め調製してある製品を使用してもよく、ゴム層用組成物の調製段階で、HNBRにメタクリル酸亜鉛を微分散させて調製することにしてもよい。前記製品としては、例えば日本ゼオン株式会社製の「Zeoforte(登録商標) ZSC2295N」、「Zeoforte ZSC4195CX」等が挙げられる。
単体のHNBRは結合アクリロニトリル量が15〜50%、ヨウ素価が60mg/100mg以下であるのが好ましい。そして、ムーニー粘度(1+4)100℃が100以上160以下である高分子量HNBRを含む。前記ムーニー粘度は110以上150以下であるのが好ましく、120以上140以下であるのがより好ましい。前記高分子量HNBRを含むことにより、前記ポリマーアロイを含むことと相まってゴム層3は高強度及び高剛性を有し、しかも良好な屈曲疲労性を有することができる。すなわち、前記ポリマーアロイの含有量を多くすることなく、ゴム層3は高強度及び高剛性を有することができるので、前記ポリマーアロイの含有量を多くすることによる耐屈曲疲労性の悪化等の上述した弊害が生じない。前記高分子量HNBRの添加によりゴム層の強度、剛性、及び動的性質が改善されるのは、ポリマーの分子自身及び分子間結合力が向上し、これにより永久歪みの低下、自己発熱の低下等が奏されるためであると考えられる。上述の効果の良好な発現及びコストの観点から、前記高分子量HNBRはゴム層3全量(ゴム層用組成物)に対し5質量%以上20質量%以下含むのが好ましく、7質量%以上18質量%以下含むのがより好ましく、10質量%以上15質量%以下含むのがさらに好ましい。
前記水素化カルボキシNBRは、ムーニー粘度(1+4)100℃が60以上100以下、結合アクリロニトリル量が50質量%以下、ヨウ素価が60mg/100mg以下であるのが好ましい。そして、上述の効果の良好な発現及びコストの観点から、前記水素化カルボキシNBRをゴム層3全量(ゴム層用組成物)に対し1質量%以上30質量%以下含むのが好ましく、2質量%以上10質量%以下含むのがより好ましく、2.5質量%以上5質量%以下含むのがさらに好ましい。
また、ゴム成分中の結合アクリロニトリル量が35質量%以上50質量%以下である高又は中高結合アクリロニトリル量HNBRと低結合アクリロニトリル量HNBRとの質量比は15:85乃至80:20であるのが好ましく、30:70乃至70:30であるのがより好ましく、50:50乃至65:35であるのがさらに好ましい。
老化防止剤としては、アミン系老化防止剤、及び2−メルカプトベンツイミダゾールの亜鉛塩等が挙げられる。
顔料及び着色剤としては、酸化チタン、カーボン、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、カーミンレッド等が挙げられる。
可塑剤としては、アジピン酸系ポリエステル、トリメリット酸エステル、脂肪族二塩基酸エステル系等の可塑剤が挙げられる。
歯布6の原帆布としては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46、アラミド繊維、及びポリパラフェニレンベンズオキサゾール繊維等が挙げられる。これらは単独で用いても、これらの混織糸で構成してもよい。
ゴム成分として、さらに水素化カルボキシNBRを含むのが好ましい。水素化カルボキシNBRとして、ムーニー粘度(1+4)100℃が60以上100以下であり、結合アクリロニトリル量が50%以下であり、ヨウ素価が60mg/100mg以下であるものが挙げられる。水素化カルボキシNBRを含むことにより、歯布6と心線2及びゴム層3との接着性が良好になる。また、RFL処理が不要であり、レゾルシンとホルマリンとの縮合物を含まないので、耐摩耗性が良好である。水素化カルボキシNBRは、接着層用ゴム組成物にのみ配合した場合でも上述の効果を奏する。カルボキシル基の導入により他材料との接着性が良好になるのは、各材料に合った極性の付与と他材料の接着剤への一次結合量の増加とによると考えられる。上述の効果の良好な発現、加工性、及びコストの観点から、水素化カルボキシNBRは、表面層用ゴム組成物又は接着層用ゴム組成物に対して1質量%以上30質量%以下含むのが好ましく、2質量%以上15質量%以下含むのがより好ましく、2.5質量%以上10質量%以下含むのがさらに好ましい。
前記表面層用ゴム組成物には、さらにPTFEを配合する。水素化カルボキシNBRにより接着力が向上しているので、PTFEを多量に含むことができ、歯布2とのの耐摩耗性をさらに向上させることができる。PTFEの配合量は表面層用ゴム組成物に対し30質量%以上90質量%以下であるのが好ましく、40質量%以上80質量%以下であるのがより好ましく、50質量%以上60質量%以下であるのがさらに好ましい。PTFEは歯布6の表面層のみでなく、布基材61内にも含まれているので、歯布6が摩耗した場合においても自己潤滑性が維持される。
導電性酸化亜鉛、導電性カーボン等の導電性材料は、後述するように歯布6の表面(歯付ベルト1の表面)に対する露出度を制御することができる。これにより、歯布6は良好な導電性を有し、歯付ベルト1の運転時に帯電するのが防止される。前記露出度は、前記表面全面に対し0%以上30%以下であるのが好ましい。
前記表面層用ゴム組成物及び接着層用ゴム組成物は有機溶剤に溶解して使用する。
以下に、歯付ベルト1の製造方法について説明する。
図3は、歯付ベルト1の製造方法を説明するための模式的断面図である。
まず、例えばナイロン66製の原帆布60を、前記表面層用ゴム組成物を有機溶剤に溶解したものに浸漬して乾燥させる(図3(a))。
これにより、原帆布60の布目60aに表面層用ゴム組成物(図中、・・で示す)が浸透し、表面に表面層用ゴム組成物による表面層が形成された布基材61が得られる(図3(b))。表面層は乾燥後の固形分として、原帆布60の1m2 当たり50〜200g形成されている。
そして、歯部形成用溝を有する円筒状金型の外表面に、架橋皮膜が円筒状金型側に形成されるように歯布6を巻き付け、その上に心線2を一定張力でスパイラル状に巻き、さらにその上に、ゴム層用ゴム組成物からなる未加硫(未架橋)ゴムシートを巻き付けた後、加硫缶に入れて外周側から加圧し、蒸気で加熱する。成形温度は100℃以上130℃以下、成形圧は6MPa以上10MPa以下である。歯付ベルト1は、この加圧・加熱によりゴムが軟化して歯部5が形成されるとともに、歯布6が歯部表面側に接着され、ゴムが加硫されてゴム層3が形成される。これにより歯付ベルト1が製造される(図3(d))。
(1)ゴム層用組成物
[配合例1]
下記の表1の配合(質量部で示す)に従って、HNBR(1)(日本ゼオン株式会社製「Zetpol(登録商標)2010H」)、HNBR・メタクリル酸亜鉛ポリマーアロイ(ポリマーアロイ)(1)(日本ゼオン株式会社製「Zeoforte ZSC2295N」)、酸化チタン(堺化学工業株式会社製「酸化チタンR−62N」、白色顔料)、可塑剤(株式会社ADEKA製「アデカサイザーC9N」、アジピン酸系ポリエステル)、架橋剤[化薬アクゾ株式会社製「パーカドックス14/40C」、1,3−ビス(t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン(40%)+炭酸カルシウム]、共架橋剤(大内新興化学工業株式会社製「バルノックPM」、フェニレンジマレイミド)、老化防止剤[白石カルシウム株式会社製「ナウガード445」(アミン系老化防止剤)、大内新興化学工業株式会社製「ノクラックMBZ」(2−メルカプトベンツイミダゾールの亜鉛塩)、及びSRFカーボン(旭カーボン株式会社製、着色剤)を配合し、配合例1のゴム層用組成物を得た。
「Zetpol2010H」の物性は、結合アクリロニトリル量36.2質量%、ヨウ素価(中心値)11mg/100mg、ムーニー粘度120以上である。「ZSC2295N」のベースポリマーは「Zetpol2020」[物性:結合アクリロニトリル量36.2%、ヨウ素価(中心値)28mg/100mg、ムーニー粘度78]であり、「ZSC2295N」の物性は、ムーニー粘度85、硬度JIS(shoreD)が95(60)である。
ポリマーアロイ(1)に代えて、ポリマーアロイ(2)(日本ゼオン株式会社製「ZSC4195CX」)を配合したこと以外は配合例1と同様にして配合例2のゴム層用組成物を得た。「ZSC4195CX」のベースポリマーは「Zetpol4310」[物性:結合アクリロニトリル量18.6質量%、ヨウ素価(中心値)15mg/100mg、ムーニー粘度80]であり、「ZSC4195CX」の物性は、ムーニー粘度75、硬度JIS(shoreD)が95(60)である。
HNBR(1)の配合量を15.0質量部から10.0質量部に代え、水素化カルボキシNBR(ランクセス社製「テルバンXT」)を5質量部配合したこと以外は配合例2と同様にして配合例3のゴム層用組成物を得た。
HNBR(1)に代えて、HNBR(2)(日本ゼオン株式会社製「Zetpol2020」)を配合したこと以外は配合例1と同様にして配合例4のゴム層用組成物を得た。
[配合例I]
下記の表2の配合(質量部で示す)に従って、前記HNBR(2)(「Zetpol2020」)、前記ポリマーアロイ(1)(「ZSC2295N」)、前記水素化カルボキシNBR(「テルバンXT」)、前記酸化チタン(「酸化チタンR−62N」)、前記架橋剤(「パーカドックス14/40C」)、前記架橋助剤(「バルノックPM」)、チタン酸カリウムホイスカー(大塚化学株式会社製「ティスモD101」)、フェノール樹脂(住友ベークライト株式会社製「スミライトレジンPR7031A」、HNBR接着剤)、導電性酸化亜鉛(ハクスイテック株式会社製「酸化亜鉛23−K」)、前記可塑剤(「アデカサイザーC9N」)、及びPTFE(デュポン社製「ゾニールMP1100」)を配合し、配合例Iの表面層用ゴム組成物を得た。
HNBR(2)の配合量を70.0質量部から80.0質量部に代え、水素化カルボキシNBR及び導電性酸化亜鉛を配合しなかったこと以外は配合例Iと同様にして配合例IIの表面層用ゴム組成物を得た。
可塑剤の配合量を4.0質量部から8.0質量部に代え、PTFEは配合せず、導電性カーボンを配合したこと以外は配合例IIと同様にして配合例Aの接着層用ゴム組成物を得た。
HNBR(2)の配合量を80.0質量部から70.0質量部に代え、前記水素化カルボキシNBR(「テルバンXT」)を配合したこと以外は配合例Aと同様にして配合例Bの接着層用ゴム組成物を得た。
可塑剤の配合量を8.0質量部から4.0質量部に代え、導電性カーボンを配合しなかったこと以外は配合例Aと同様にして配合例Cの接着層用ゴム組成物を得た。
下記の表3の組み合わせに従って、前記配合例I又は配合例IIの表面層用ゴム組成物を原帆布に含浸させるとともに、表面に表面層を形成して布基材を得、前記配合例A〜配合例Cのいずれかの接着層用ゴム組成物により布基材の一面に接着層を形成して歯布を得た。原帆布として、ナイロン66製で、「2/2の綾」で構成されたものを用いた。
実施例に用いた心線を下記の表4に示す。
心線2は、従来の、炭素繊維を下撚りし、それらを複数本束ねて上撚りすることにより一体化した心線であり、RFL処理が施された、日本板硝子株式会社製のものを用いた。
心線3は、従来の、K−ガラス繊維を下撚りし、それらを複数本束ねて上撚りすることにより一体化した心線であり、RFL処理が施された、日本板硝子株式会社製のものを用いた。
(5)歯付ベルト
[実施例1]
下記の表5に示すように、ベルト本体のゴム層として表1の配合例1のゴム層用組成物を用い、歯布として表3の歯布2を用い、心線として表4の心線1を用いて実施例1の歯付ベルトを作製した。
[実施例2]、[実施例3]、[比較例1]
下記の表5のゴム層、歯布、及び心線の組み合わせに従って実施例2及び3、比較例1の歯付ベルトを作製した。
下記の表6のゴム層、歯布、及び心線の組み合わせに従って実施例4〜11の歯付ベルトを作製した。
以下に、性能評価をした結果について説明する。
(a)ゴム層の強度及び剛性の評価
表1の各配合例のゴム層用組成物を160℃で25分架橋させて、ゴム層材料(シート)を作製し、ゴム破断強度(JIS K 6251 (ダンベル3号))、100%モジュラス(JIS K 6254 (短冊状1号形))、ゴム硬度(JIS K 6253(デュロメータ硬さ「タイプA」))を測定した。その結果を下記の表7に示す。
上述の実施例1〜3及び比較例1の歯付ベルトにつき、ベルト本体のゴム層の背部に微小クラックが発生した時間を測定した。
図4は、ゴム層の耐屈曲疲労性を評価するための装置を示す模式図である。
4つのプーリ11,11,11,11に各歯付ベルトの歯部を架け渡し、4つのアイドラ12,12,12,12によりベルト本体の背部を支持した状態で荷重を掛ける。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ1000mm、幅20mm
・プーリ 20T(直径51mm)×4個
・アイドラ径 直径40mm
・回転速度 5500r/min
・荷重 197N
図5より、ムーニー粘度が高い(分子量が高い)高分子量HNBRを配合してゴム層を得た実施例1〜3の歯付ベルトは、高分子量HNBRを配合せずにゴム層を得た比較例1の歯付ベルトより耐屈曲疲労性が高くなっていることが分かる。
上述の実施例1〜3及び比較例1の歯付ベルトにつき、上述のゴム層の耐屈曲疲労性の測定装置と同一の装置を用い、同一の測定条件で、1000時間経過時のベルト本体のゴム層の厚み(ベルト本体の背面と心線の中心軸との間隔)を測定した。
図6は、各歯付ベルトの1000時間経過時のベルト本体のゴム層の厚みの変化量を示したグラフである。比較例1の前記変化量を100%としている。
図6より、ムーニー粘度が高い(分子量が高い)高分子量HNBRを配合してゴム層を得た実施例1〜3の歯付ベルトは、高分子量HNBRを配合せずにゴム層を得た比較例1の歯付ベルトより変化量が小さく、耐摩耗性が高くなっていることが分かる。さらに、水素化カルボキシニトリルゴムを配合した実施例3の歯付ベルトが最も耐摩耗性が高くなっている。
以上の(a)〜(c)より、ゴム層用組成物としてポリマーアロイに加えて高分子量HNBRを配合し、さらに水素化カルボキシNBRを配合することにより、歯付ベルトは高強度及び高剛性を有するとともに、良好な耐屈曲疲労性及び耐摩耗性を有することが確認された。
上述の実施例1〜3及び比較例1の歯付ベルト、並びにクロロプレンゴムベルトにつき、耐寒性と耐油性とを評価した。
図7は、耐寒性を評価するための装置を示す模式図である。
超低温フリーザ13内において、2つのプーリ14,14に歯付ベルト15を架け渡し、モータ16によりプーリ14を回転させて、下記のサイクル数とベルト本体の背部(背ゴム)のクラック数との関係を調べた。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ1000mm、幅20mm
・プーリ 24T×24T
・無負荷
・回転速度 750r/min
・1サイクル 1分間運転−10分間停止の間欠運転
・超低温フリーザ内温度 −35℃
上述の配合例1〜4、及びクロロプレンゴムのゴム層用組成物を、160℃で25分架橋(加硫)させて、ゴム層材料(シート)を作製した。
そして、JISNo.3オイルをオイルバスに流入し、60℃で保温して各シートを所定の大きさに切り出したものをオイルに浸漬し、浸漬時間と体積変化率との関係を調べた。
図9は、浸漬時間と体積変化率との関係を調べた結果を示したグラフである。歯付ベルトを構成した場合の耐寒性が良好である配合例2及び3のゴム層材料は、配合例1及び4のゴム層材料より耐油性が若干劣るが、クロロプレンからなるゴム層材料よりは耐油性が大きく向上していることが分かる。
以上より、ベースポリマーが低結合アクリロニトリル量HNBRであるポリマーアロイ(2)をゴム層に含むことにより、歯付ベルトの耐寒性が向上し、高又は中高結合アクリロニトリル量HNBRと低結合アクリロニトリル量HNBRとの質量比を15:85乃至80:20の範囲内にすることにより、歯付ベルトが耐寒性と耐油性とをバランス良く有するようにすることができることが分かる。
上述の配合例1〜4のゴム層用組成物と歯布2とを合わせてそれぞれ160℃で25分架橋(加硫)させて、ゴム・布の加硫シートを作製した。
まず、各ゴム層材料の上述の歯布2との接着性を評価した。
図10は、各ゴム層材料と歯布との接着性の評価方法を説明するための図である。
ゴム・布の加硫シートをあて板19に固着し、歯布17(前記歯布2)のゴム層18に接着されていない部分を引っ張り試験機により引っ張って接着強度を求めた。
図11は、配合例4のゴム層材料の接着強度を100%としたときの各配合例のゴム層材料の接着強度を示したグラフである。水素化カルボキシNBRを含む配合例3のゴム層材料は、著しく歯布2との接着性が向上していることが分かる。
図12は、各ゴム層材料と心線との接着性の評価方法を説明するための図である。
ゴム・心線の加硫シートをローラ21に巻き付け、心線22を引っ張り試験機により鉛直方向に引っ張って接着強度を求めた。
図14は、心線2を用いた場合の各ゴム層材料の接着強度を求めた結果を示したグラフである。配合例4のゴム層材料の接着強度を100%としている。
図15は、心線3を用いた場合の各ゴム層材料の接着強度を求めた結果を示したグラフである。配合例4のゴム層材料の接着強度を100%としている。
図13〜図15より、水素化カルボキシNBRを含む配合例3のゴム層材料は、著しく心線との接着性が向上していることが分かる。そして、心線1、心線3、心線2の順に接着強度が高くなっていることが分かる。
上述の実施例4〜9の歯付ベルトにつき、導電性を評価した。
図16は、導電性を評価するための装置を示す模式図である。
2つのプーリ24,24に歯付ベルト25を架け渡し、静電気センサ26により歯付ベルト25に発生した静電気を測定した。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ1000mm、幅25mm
・プーリ(鉄製) 30T×30T
・回転速度 1000r/min
・無負荷
図17は、発生した静電気量を示したグラフである。布基材61の表面に導電性材料を露出させた。実施例4、5、6、7、8、9の歯付ベルト表面の電位(kV)は、それぞれ0、0、−23、−0.1、−0.1、−27である。
図18は、発生した静電気量を示すグラフである。布基材61の表面に導電性材料は露出させていない。実施例4、5、6、7、8、9の歯付ベルト表面の電位(kV)はそれぞれ、−0.1、−0.1、−25、−0.3、−0.3、−29である。
図19(a)は上述の図3(c)の状態に対応する。
この状態から歯部5を成形するときに圧力及び温度を調整することにより、接着層62が布基材61の表面に露出せず、すなわち導電性材料(導電性カーボン)が露出せず、布基材61の内部に存在するようにする(図19(b))。また、圧力及び温度を調整することにより、接着層62が布基材61の表面に露出するようにすることもできる。
図19(b)のように接着層62が表面に露出していない場合においても、初期運転時の歯布とプーリとのなじみ、及び初期ベルトテンション又は運転時の負荷張力等により接着層62が一時的に布目より微量露出して導電性材料が露出し、帯電した電気が接着層62を通りプーリにアースされる(図19(c))。
そして、図17と図18とを比較することにより、歯付ベルトの表面に導電性材料が露出している方が導電性が高いが、歯付ベルトの表面に導電性材料が露出していない場合においても図19に示したように一時的に導電性材料が露出して良好な導電性が得られることが分かる。
上述の配合例3のゴム層用組成物と歯布1〜6とを合わせてそれぞれ160℃で25分架橋(加硫)させて、ゴム・布の加硫シートを作製した。
図10と同様に、ゴム・布の加硫シートをあて板19に固着し、歯布17(前記歯布1〜6)のゴム層18に接着されていない部分を引っ張り試験機により引っ張って接着強度を求めた。
配合例3のゴム層用組成物、歯布1〜6、心線1〜3とを合わせてそれぞれ160℃で25分架橋(加硫)させて、ゴム・心線・布の加硫シートを作製した。
ゴム・心線・布の加硫シートをあて板19に固着し、歯布17の心線20に接着されていない部分を引っ張り試験機により引っ張って接着強度を求めた。ゴム層18の表面には心線20が密に並設されている。
上述の実施例4〜9の歯付ベルトにつき、図4のゴム層の耐屈曲疲労性の測定装置と同一の装置を用い、下記の測定条件で、1000時間経過時のベルト本体のゴム層の心線の中心軸と歯布の表面(歯部が形成されていないベルト本体平面を歯布で覆った部分の表面)との間隔PLD(Pitch Line Differential)の変化量を測定した。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ1000mm、幅20mm
・プーリ 20T(直径51mm)×4個
・アイドラ径 直径40mm
・回転速度 5500r/min
・荷重 197N
上述の実施例1、3、9〜11、及び比較例1の歯付ベルトについて、耐衝撃性を評価した。
図24は、耐衝撃性を評価するための装置を示す模式図である。
2つのプーリ27,27に歯付ベルト28を架け渡し、一方のプーリ27と同軸上にフライホイール30を配置し、駆動モータ29によりプーリ27を正逆回転で急発進・急停止させ、歯付ベルト28に衝撃を与えてベルト故障までの時間を求め、耐衝撃性を評価した。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ1000mm、幅15mm
・プーリ 30T×30T
・ピークトルク 160N・m
図25で実施例3、10、及び11を比較することにより、心線1、3、2の順に耐衝撃性が良いことが分かる。実施例1、3、及び比較例1を比較することにより、ゴム層用組成物の配合例3、1、4の順に耐衝撃性が良いことが分かる。すなわち、ゴム層が高分子量HNBRを含むことにより耐摩衝撃性が向上し、水素化カルボキシNBRを含むことにより耐衝撃性がさらに向上する。実施例3と9とを比較することにより、歯布の表面層及び接着層に水素化カルボキシNBRを含む場合、前記表面層及び接着層に水素化カルボキシNBRを含まない場合より耐衝撃性が向上していることが分かる。
上述の実施例1、3、9〜11、及び比較例1の歯付ベルトについて、図4と同様の装置を用い、1000時間経過時の歯付ベルトの残留強度を測定した。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ1000mm、幅20mm
・プーリ 20T(直径51mm)×4個
・アイドラ径 直径40mm
・回転速度 5500r/min
・荷重 197N
図26で実施例3、10、及び11を比較することにより、心線1、3、2の順に残留強度が良いことが分かる。実施例3及び比較例1を比較することにより、ゴム層が水素化カルボキシNBRを含むことにより残留強度が向上し、実施例3と9とを比較することにより、歯布の表面層及び接着層に水素化カルボキシNBRを含む場合、前記表面層及び接着層に水素化カルボキシNBRを含まない場合より残留強度が向上していることが分かる。
上述の実施例1、3、9〜11、及び比較例1の歯付ベルトについて、負荷耐久性を評価した。
図27は、負荷耐久性を評価するための装置を示す模式図である。
2つのプーリ31,31に歯付ベルト32を架け渡し、駆動モータ33によりプーリ31を回転させ、動力計34により負荷トルクを確認しつつ連続運転し、故障するまでの時間を求めた。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ1000mm、幅15mm
・プーリ 30T×30T
・負荷トルク 68N・m
・回転速度 3000r/min
図28で実施例3、10、及び11を比較することにより、心線1、2、3の順に負荷耐久性が良いことが分かる。実施例1、3、及び比較例1を比較することにより、ゴム層用組成物の配合例3、1、4の順に負荷耐久性が良いことが分かる。すなわち、ゴム層が高分子量HNBRを含むことにより負荷耐久性が向上し、水素化カルボキシNBRを含むことにより負荷耐久性がさらに向上する。実施例3と9とを比較することにより、歯布の表面層及び接着層に水素化カルボキシNBRを含む場合、前記表面層及び接着層に水素化カルボキシNBRを含まない場合より負荷耐久性が向上していることが分かる。
上述の実施例3、11、及び比較例1について、ベルト減衰特性を評価した。
図29は、ベルト減衰特性を評価するための装置を示す模式図である。
2つのプーリ35,35に歯付ベルト36を架け渡し、駆動モータ37により駆動側のプーリ35を1回転させ、急停止したときに、レーザ変位計38で従動側のプーリ35の振れを計測した。
測定条件は以下の通りである。
・ベルト 歯ピッチ8mm、長さ2800mm、幅20mm
・プーリ 30T×30T
・加速時間 0.1秒間で回転速度を0から200r/minまで上げる。
図30で実施例3と比較例1とを比較することにより、ゴム層に高分子量HNBRを含み、剛性が高い場合、良好な減衰特性を有することが分かる。そして、実施例3と実施例11とを比較することにより、心線1を用いることにより良好な減衰特性が得られることが分かる。
ゴム層用組成物にポリマーアロイに加えて高分子量HNBRを配合することにより、静的性質及び耐屈曲疲労性等の動的性質が改善され、高強度及び高剛性が実現される。得られる歯付ベルトは、高剛性及び高弾性化により細幅化が実現され、コンパクトレイアウトが実現される。
さらに、ゴム層用組成物に水素化カルボキシNBRを配合することにより、高分子量HNBRにより高硬度化されていることと相まって、高耐摩耗性が実現される。水素化カルボキシNBRは親和性が良好であり、ゴム層の他材料との濡れ性及び接着性を改善することもできる。
ゴム層の強度、剛性、耐摩耗性、耐屈曲疲労性、他の材料への接着性が向上することにより、歯付ベルトの伝動能力、停止精度、減衰特性が向上する。
そして、ゴム層用組成物として、低結合アクリロニトリル量HNBRと高又は中高結合アクリロニトリル量HNBRとを所定の範囲で混合することにより、歯付ベルトは耐寒性と耐油性とをバランス良く有することができる。
歯布の耐摩耗性、ゴム層,心線への接着性が向上することにより、歯付ベルトの伝動能力が向上する。
表面層用ゴム組成物,接着層用ゴム組成物に導電性酸化亜鉛,導電性カーボンを配合することにより、歯付ベルトの成形時に圧力及び温度を調整して布基材の布目より接着層を露出させ、導電性材料を露出させる。又は成形時に接着層が露出していない場合においても、初期運転時の歯布とプーリとのなじみ、及び初期ベルトテンション又は運転時の負荷張力等により接着層が一時的に布目より微量露出して導電性材料が露出し、帯電した電気が接着層を通りプーリにアースされる。これにより、歯付ベルトの表面の帯電が防止される。
2 心線
3 ゴム層
4 ベルト本体
5 歯部
6 歯布
60 原帆布
61 布基材
62 接着層
Claims (14)
- 水素化ニトリルゴム、及び該水素化ニトリルゴムと同一又は異なる水素化ニトリルゴムにメタクリル酸亜鉛を微分散させてなるポリマーアロイを含むゴム層からなり、心線が複数埋設されたベルト本体と、該ベルト本体の少なくとも一面に形成された複数の歯部と、帆布に水素化ニトリルゴムを含むゴム組成物を含浸してなる布基材の一面に接着層を形成してあり、前記歯部を覆うように前記ベルト本体と接着された歯布とを備える歯付ベルトにおいて、
前記ゴム層は、100℃におけるムーニー粘度が100以上160以下である水素化ニトリルゴムを含むことを特徴とする歯付ベルト。 - 前記ゴム層は、前記水素化ニトリルゴムを前記ゴム層全量に対し5質量%以上20質量%以下含むことを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
- 前記ゴム層は、ゴム硬度Hsが95以上、加硫ゴム試験における100%モジュラスが18MPa以上、ゴム破断強度が36MPa以上であることを特徴とする請求項1に記載の歯付ベルト。
- 前記ゴム層は、水素化カルボキシニトリルゴムをさらに含むことを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の歯付ベルト。
- 前記水素化カルボキシニトリルゴムを前記ゴム層全量に対し1質量%以上30質量%以下含むことを特徴とする請求項4に記載の歯付ベルト。
- 前記ゴム層は、結合アクリロニトリル量が15質量%以上25質量%以下である低結合アクリロニトリル量水素化ニトリルゴムを含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の歯付ベルト。
- 前記ゴム層は、該ゴム層のゴム成分全量に対し前記低結合アクリロニトリル量水素化ニトリルゴムを10質量%以上70質量%以下含むことを特徴とする請求項6に記載の歯付ベルト。
- 結合アクリロニトリル量が35質量%以上50質量%以下である水素化ニトリルゴムを含み、該水素化ニトリルゴムと、前記低結合アクリロニトリル量水素化ニトリルゴムとの質量比が15:85乃至80:20であることを特徴とする請求項6に記載の歯付ベルト。
- 前記歯布の前記ゴム組成物は、水素化カルボキシニトリルゴムを含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の歯付ベルト。
- 前記歯布の前記接着層は、水素化カルボキシニトリルゴムを含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の歯付ベルト。
- 前記ゴム組成物は、ポリテトラフルオロエチレンを含むことを特徴とする請求項9又は10に記載の歯付ベルト。
- 前記ゴム組成物は、導電性酸化亜鉛を含むことを特徴とする請求項1乃至11のいずれかに記載の歯付ベルト。
- 前記接着層は、導電性カーボンを含むことを特徴とする請求項1乃至12のいずれかに記載の歯付ベルト。
- 前記心線は、炭素繊維からなる芯繊維の周囲に、下撚りされたガラス繊維からなる子縄を複数配置し、前記芯繊維及び子縄を上撚りしたものであることを特徴とする請求項1乃至13のいずれかに記載の歯付ベルト。
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